(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】レンズユニット、レンズの接着方法、レンズユニットの製造方法およびカメラモジュール
(51)【国際特許分類】
G02B 7/02 20210101AFI20240702BHJP
G03B 11/00 20210101ALI20240702BHJP
C09J 123/22 20060101ALI20240702BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20240702BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240702BHJP
G03B 30/00 20210101ALI20240702BHJP
【FI】
G02B7/02 D
G02B7/02 B
G03B11/00
C09J123/22
C09D5/00 D
C09D201/00
G03B30/00
(21)【出願番号】P 2020195964
(22)【出願日】2020-11-26
【審査請求日】2023-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【氏名又は名称】栗林 和輝
(74)【代理人】
【識別番号】100217755
【氏名又は名称】三浦 淳史
(72)【発明者】
【氏名】馬場 雄輔
【審査官】岡田 弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/175536(WO,A1)
【文献】特開2015-011078(JP,A)
【文献】特開平06-109903(JP,A)
【文献】特開2010-285507(JP,A)
【文献】特開2000-230091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02-7/16
G03B 11/00-11/06
C09J 1/00-5/10
C09J 9/00-201/10
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光軸に沿って並べられた複数のレンズと、これら複数のレンズを収容保持する鏡筒とを備えたレンズユニットであって、
複数のレンズのうち、最も物体側に位置する第1レンズと、当該第1レンズに像側で隣接する第2レンズとの対向面どうしが前記第1レンズと前記第2レンズとの間のレンズ間空間内が外部に対して密閉されるようにイソブチレン系接着剤によって接着され、
前記第1レンズの前記対向面にアミンを含む墨材からなる遮光層が形成され、
前記第2レンズの前記対向面に前記イソブチレン系接着剤による接着層が形成され、
前記遮光層と前記接着層との間に親水コーティング層が介在されていることを特徴とするレンズユニット。
【請求項2】
前記イソブチレン系接着剤は、触媒存在下、加熱によりSiH基含有硬化剤と付加重合して架橋することによって硬化していることを特徴とする請求項1に記載のレンズユニット。
【請求項3】
複数のレンズが光軸に沿って並べられた複数のレンズと、これら複数のレンズを収容保持する鏡筒と備え、
前記複数のレンズのうち、最も物体側に位置する第1レンズと、当該第1レンズに像側で隣接する第2レンズとの対向面どうしを前記第1レンズと前記第2レンズとの間のレンズ間空間内が外部に対して密閉されるようにイソブチレン系接着剤によって接着するに際し、
前記第1レンズの前記対向面にアミンを含む墨材からなる遮光層を形成する遮光層形成工程と、
前記遮光層の前記第1レンズと逆側を向く表面に親水コーティング層を形成する親水コーティング層形成工程と、
前記第2レンズの前記対向面と前記親水コーティング層の前記遮光層と逆側を向く表面との間に、当該表面および前記第2レンズの前記対向面とに接着する接着層を形成する接着層形成工程とを含むことを特徴とするレンズの接着方法。
【請求項4】
前記イソブチレン系接着剤は、触媒存在下、加熱によりSiH基含有硬化剤と付加重合して架橋することによって硬化することを特徴とする請求項3に記載のレンズの接着方法。
【請求項5】
光軸に沿って並べられた複数のレンズと、これら複数のレンズを収容保持する鏡筒とを備えたレンズユニットの製造方法であって、
複数のレンズのうち、最も物体側に位置する第1レンズと、当該第1レンズに像側で隣接する第2レンズとの対向面どうしを前記第1レンズと前記第2レンズとの間のレンズ間空間内が外部に対して密閉されるようにイソブチレン系接着剤によって接着する接着工程を含み、
前記接着工程は、前記第1レンズの前記対向面にアミンを含む墨材からなる遮光層を形成する遮光層形成工程と、
前記遮光層の前記第1レンズと逆側を向く表面に親水コーティング層を形成する親水コーティング層形成工程と、
前記第2レンズの前記対向面と前記親水コーティング層の前記遮光層と逆側を向く表面との間に、当該表面および前記第2レンズの前記対向面とに接着する接着層を形成する接着層形成工程とを含むことを特徴とするレンズユニットの製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載のレンズユニットを備えることを特徴とするカメラモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両に搭載される車載カメラを構成し得るレンズユニット、レンズの接着方法、レンズユニットの製造方法およびカメラモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車に車載カメラを搭載し、駐車をサポートしたり、画像認識により衝突防止を図ったりすることが行なわれており、さらにそれを自動運転に応用する試みもなされている。また、このような車載カメラ等のカメラモジュールは、一般に、複数のレンズが光軸に沿って並べられて成るレンズ群と、このレンズ群を収容保持する鏡筒(バレル)と、レンズ群の少なくとも一個所のレンズ間に配置される絞り部材とを有するレンズユニットを備える(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、特に車載カメラ用のレンズユニットでは、少なくとも一部が車外に設置される場合、防水および防塵のため、
図5に示すように、鏡筒102の内側収容空間S内にレンズ群Lが組み込まれて収容保持された状態で、レンズ群Lの最も物体側に位置する第1レンズ100と鏡筒102との間にOリング104が介挿され、鏡筒102の内側のレンズ群L内に水や塵埃が侵入しないようにしている。この場合、例えば、第1レンズ100の外周側面に、該レンズ100の像側部分で径が小さくなった段差状の縮径部100bが設けられ、この縮径部100bにOリング104が装着されて、第1レンズ100の外周側面と鏡筒102の内周面との間でOリング104が径方向で圧縮されることにより、鏡筒102の物体側端部が封止された状態となっている。
【0004】
さらに、鏡筒102は、その内側収容空間S内にレンズ群Lが組み込まれて収容保持された状態で、その物体側の端部(
図5において上端部)のカシメ部123が径方向内側にカシメられることにより、第1レンズ100をこのカシメ部123で鏡筒102の物体側端部に固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したようにOリング104によって防水対策を行なっても、湿気(水蒸気)は様々な経路を通じてレンズユニット内に侵入し得る。そのため、外気温とレンズユニット内の温度との間の差が大きくなると、レンズユニット内の水蒸気が凝縮してレンズ表面に結露が生じる。特に、外部との温度差の影響が最も大きい第1レンズ100とこれに像側で隣接する第2レンズ101との間のレンズ間空間S1内で、とりわけ第1レンズ100の裏面100cに結露が生じ易い。
【0007】
レンズユニット内への水蒸気の侵入を許容する経路としては、例えば、鏡筒102のカシメ部123と第1レンズ100との間の隙間からOリング104の周囲の一部並びに第1レンズ100と鏡筒102および/または第2レンズ101との間の隙間を通じてレンズ間空間S1等へと至る経路、あるいは、鏡筒102やレンズを形成する透湿性の樹脂などを挙げることができる。
【0008】
そこで、最も物体側に位置する第1レンズと当該第1レンズに像側で隣接する第2レンズとの間のレンズ間空間内への水蒸気の侵入を抑制するために、第1レンズおよび第2レンズの対向面どうしを、第1レンズと第2レンズとの間のレンズ間空間内が外部に対して密閉されるように接着剤によって接着することが考えられる。
【0009】
接着剤としては、
図3(a)に模式的に示すように、第1レンズ13と第2レンズ14との対向面13a,14aどうしを接着防水するために、例えば低透湿性のイソブチレン系接着剤が使用されて接着層41が形成される。イソブチレン系接着剤は、触媒存在下、加熱によりSiH基含有硬化剤と付加重合して架橋することによって硬化し、これによって、第1レンズ13と第2レンズ14との対向面13a,14aどうしを強固に接着している。
【0010】
一方、第1レンズ13に対しては、レンズユニット設計上想定しない光線がレンズユニットの像側に配置された撮像センサに入射することによるゴーストの発生を抑制するために、第1レンズ13の有効径の外側にある平坦面(第2レンズ側を向く対向面)13aに墨材を塗布して遮光部(遮光層)40を形成することが行われている。
ところが、墨材の一成分であるアミンが触媒毒となってイソブチレン系接着剤が硬化不良(未硬化)を起こすことがある。
すなわち、イソブチレン系接着剤は、両末端にアリル基(CH2=CHCH2-)を有するイソブチレン主鎖のテレケリックポリマー(反応性基をもつ線状オリゴマー)を主成分として、触媒存在下、加熱によりSiH基含有硬化剤と付加重合・架橋して硬化するが、墨材の一成分であるアミンを含む化合物は、触媒の活性を失わせる触媒毒となって、イソブチレン系接着剤の硬化阻害を起こす。
【0011】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、墨材からなる遮光層が形成された第1レンズと第2レンズとを、硬化不良(未硬化)を起こすことなく、イソブチレン系接着剤によって確実に接着できるレンズユニット、レンズの接着方法、レンズユニットの製造方法およびカメラモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明レンズユニットは、光軸に沿って並べられた複数のレンズと、これら複数のレンズを収容保持する鏡筒とを備えたレンズユニットであって、
複数のレンズのうち、最も物体側に位置する第1レンズと、当該第1レンズに像側で隣接する第2レンズとの対向面どうしが前記第1レンズと前記第2レンズとの間のレンズ間空間内が外部に対して密閉されるようにイソブチレン系接着剤によって接着され、
前記第1レンズの前記対向面にアミンを含む墨材からなる遮光層が形成され、
前記第2レンズの前記対向面に前記イソブチレン系接着剤による接着層が形成され、
前記遮光層と前記接着層との間に親水コーティング層が介在されていることを特徴とする。
【0013】
ここで、本発明における親水コーティング層は、水に対する接触角が30°以下でかつ厚さが10μm以下の薄い層(膜)とし、例えばTiO2やSiO2系の無機系の親水コートによって形成されるが、アクリル系の有機系親水コートによって形成されてもよい。
【0014】
本発明においては、アミンを含む墨材からなる遮光層と、イソブチレン系接着剤による接着層との間に、親水コーティング層が介在されているので、墨材の一成分であるアミンがイソブチレン系接着剤に直接接触しない。このため、アミンが、触媒の活性を失わせる触媒毒とならないので、イソブチレン系接着剤が硬化不良(未硬化)を起こすことがない。したがって、第1レンズと第2レンズとをイソブチレン系接着剤によって確実に接着できる。
【0015】
また、本発明の前記構成において、前記イソブチレン系接着剤は、触媒存在下、加熱によりSiH基含有硬化剤と付加重合して架橋することによって硬化していてもよい。
【0016】
このような構成によれば、イソブチレン系接着剤が、触媒存在下、加熱によりSiH基含有硬化剤と付加重合して架橋することによって硬化するので、イソブチレン系接着剤を強固に硬化させることができる。
【0017】
また、本発明のレンズの接着方法は、複数のレンズが光軸に沿って並べられた複数のレンズと、これら複数のレンズを収容保持する鏡筒と備え、
前記複数のレンズのうち、最も物体側に位置する第1レンズと、当該第1レンズに像側で隣接する第2レンズとの対向面どうしを前記第1レンズと前記第2レンズとの間のレンズ間空間内が外部に対して密閉されるようにイソブチレン系接着剤によって接着するに際し、
前記第1レンズの前記対向面にアミンを含む墨材からなる遮光層を形成する遮光層形成工程と、
前記遮光層の前記第1レンズと逆側を向く表面に親水コーティング層を形成する親水コーティング層形成工程と、
前記第2レンズの前記対向面と前記親水コーティング層の前記遮光層と逆側を向く表面との間に、当該表面および前記第2レンズの前記対向面に接着する接着層を形成する接着層形成工程とを含むことを特徴とする。
【0018】
また、本発明のレンズユニットの製造方法は、光軸に沿って並べられた複数のレンズと、これら複数のレンズを収容保持する鏡筒とを備えたレンズユニットの製造方法であって、
複数のレンズのうち、最も物体側に位置する第1レンズと、当該第1レンズに像側で隣接する第2レンズとの対向面どうしを前記第1レンズと前記第2レンズとの間のレンズ間空間内が外部に対して密閉されるようにイソブチレン系接着剤によって接着する接着工程を含み、
前記接着工程は、前記第1レンズの前記対向面にアミンを含む墨材からなる遮光層を形成する遮光層形成工程と、
前記遮光層の前記第1レンズと逆側を向く表面に親水コーティング層を形成する親水コーティング層形成工程と、
前記第2レンズの前記対向面と前記親水コーティング層の前記遮光層と逆側を向く表面との間に、当該表面および前記第2レンズの前記対向面とに接着する接着層を形成する接着層形成工程とを含むことを特徴とする。
【0019】
本発明(レンズの接着方法およびレンズユニットの製造方法)においては、遮光層形成工程によって、第1レンズの対向面にアミンを含む墨材からなる遮光層を形成し、親水コーティング層形成工程によって、前記遮光層の前記第1レンズと逆側を向く表面に親水コーティング層を形成し、接着層形成工程によって、前記第2レンズの前記対向面と前記親水コーティング層の前記遮光層と逆側を向く表面との間に、当該表面および前記第2レンズの前記対向面に接着する接着層を形成するので、墨材の一成分であるアミンがイソブチレン系接着剤に直接接触しない。このため、アミンが、触媒の活性を失わせる触媒毒とならないので、イソブチレン系接着剤が硬化不良(未硬化)を起こすことがない。したがって、第1レンズと第2レンズとをイソブチレン系接着剤によって確実に接着できる。
【0020】
また、本発明の前記構成において、前記イソブチレン系接着剤は、触媒存在下、加熱によりSiH基含有硬化剤と付加重合して架橋することによって硬化することを特徴とする。
【0021】
このような構成によれば、イソブチレン系接着剤が、触媒存在下、加熱によりSiH基含有硬化剤と付加重合して架橋することによって硬化するので、イソブチレン系接着剤を強固に硬化させることができる。
【0022】
本発明に係るカメラモジュールは、前記レンズユニットを備えることを特徴とする。
このような構成によれば、上述のレンズユニットの作用効果をカメラモジュールで得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、墨材からなる遮光層が形成された第1レンズと第2レンズとを、硬化不良(未硬化)を起こすことなく、イソブチレン系接着剤によって確実に接着できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態に係るレンズユニットの概略断面図である。
【
図2】
図1に示すレンズユニットを有するカメラモジュールの概略断面図である。
【
図3】レンズの対向面どうしの接着状態を模式的に示す断面図であり、(a)は従来の接着状態を示す断面図、(b)本実施形態における接着状態を示す断面図である。
【
図4】イソブチレン系の接着剤の化学構造式である。
【
図5】従来のレンズユニットの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
なお、以下で説明される本実施形態のレンズユニットは、特に車載カメラ等のカメラモジュール用のものであり、例えば、自動車の外表面側に固定して設置され、配線は自動車内に引き込まれてディスプレイやその他の装置に接続される。また、上述した
図5、
図1および
図2においてレンズについてはハッチングを省略している。
【0026】
図1は、本発明の実施形態に係るレンズユニット11を示している。図示のように、本実施の形態のレンズユニット11は、例えば樹脂製(金属製であっても構わない)の円筒状の鏡筒(バレル)12と、鏡筒12の段付きの内側収容空間S内に配置される複数のレンズ、例えば、物体側から、第1レンズ13、第2レンズ14、第3レンズ15、第4レンズ16、第5レンズ17および第6レンズ18から成る6つのレンズと、2つの絞り部材22a,22bとを備えている。
【0027】
絞り部材22a,22bは、本実施形態では、第2レンズ14と第のレンズ15との間、および、第4レンズ16と第5レンズ17との間に介挿されており、透過光量を制限し、明るさの指標となるF値を決定する「開口絞り」またはゴーストの原因となる光線や収差の原因となる光線を遮光する「遮光絞り」である。このようなレンズユニット11を備える車載カメラは、レンズユニット11と、図示しないイメージセンサを有する基板と、当該基板を自動車等の車両に設置する図示しない設置部材とを備えるものである。
【0028】
鏡筒12の内側収容空間S内に組み込まれて収容保持される複数のレンズ13,14,15,16,17,18は、それぞれの光軸を一致させた状態で積み重ねられて配置されており、1つの光軸Oに沿って各レンズ13,14,15,16,17,18が並べられた状態となって、撮像に用いられる一群のレンズ群Lを構成している。この場合、レンズ群Lを構成する最も物体側に位置される第1レンズ13は、物体側に凸面を有するとともに像側凹面を有する球面ガラスレンズであり、その他のレンズ14,15,16,17,18は樹脂レンズであるが、これに限定されない。また、これらのレンズ13,14,15,16,17,18の表面(物体側の表面および/または像側の表面)には、必要に応じて、反射防止膜、親水膜、撥水膜等が設けられる。
【0029】
また、本実施形態において、像側に位置される2つの第5および第6レンズ17,18は接合レンズ(貼り合わせレンズ)30を構成している。このような接合レンズ30を構成する第5および第6レンズ17,18は、図示のように、物体側に位置される第5レンズ17の像側に面する表面の環状凸部17aが像側に位置される第6レンズ18の物体側に面する表面の対応する環状凹部18aと嵌合されることにより組み付けられて、接着剤等によって一体的に固定される。
【0030】
また、本実施形態において、最も物体側に位置される第1レンズ13と鏡筒12との間にはシール部材としてのOリング26が介挿され、鏡筒12の内側のレンズ群L内に水や塵埃が侵入しないようにしている。この場合、第1レンズ13の外周側面13cに、該レンズ13の像側部分で径が小さくなった段差状の縮径部13dが設けられ、この縮径部13dにOリング26が装着されて、第1レンズ13の外周側面13cと鏡筒12の内周面との間でOリング26が径方向で圧縮されることにより、鏡筒12の物体側端部が封止された状態となっている。
【0031】
また、鏡筒12は、その内側収容空間S内にレンズ群Lが組み込まれて収容保持された状態で、その物体側の端部(
図1において上端部)のカシメ部23が径方向内側にカシメられることにより、レンズ群Lの最も物体側に位置される第1レンズ13をこのカシメ部23で鏡筒12の物体側端部に固定する。なお、第1レンズ13の固定は、カシメ部23に限ることなく、鏡筒12にレンズ13,14,15,16,17,18を収容した後に鏡筒12の物体側の端部に取り付けられる固定キャップによって行なわれてもよい。
【0032】
また、鏡筒12の像側の端部(
図1において下端部)には、第6レンズ18よりも径の小さい開口部を有する内側フランジ部24が設けられている。この内側フランジ部24とカシメ部23とにより、鏡筒12内にレンズ群Lを構成する複数のレンズ13,14,15,16,17,18と絞り部材22a,22bとが光軸方向で保持固定されている。
なお、鏡筒12の外周面には、鏡筒12を車載カメラに設置する際に用いられる外側フランジ部25が鏡筒12の外周面に鍔状に設けられている。
【0033】
また、本実施の形態において、レンズの数、レンズおよび鏡筒の素材等については用途等に応じて任意に設定できる。また、本実施形態において、像側に位置する2つの第5および第6レンズ17,18は貼り合わせレンズ30であるが、そうである必要はない。なお、これらのレンズ13,14,15,16,17,18の表面には、必要に応じて、反射防止膜、親水膜、撥水膜等が設けられる。
【0034】
図2は、
図1に示すレンズユニット11を有する本実施形態のカメラモジュール300の概略断面図である。図示のように、カメラモジュール300は、フィルタ105が装着されたレンズユニット11を含んで構成されている。
【0035】
カメラモジュール300は、外装部品である上ケース(カメラケース)301と、レンズユニット11を保持するマウント(台座)302とを備えている。また、カメラモジュール300は、シール部材303およびパッケージセンサ(撮像素子)304を備えている。
【0036】
上ケース301は、レンズユニット11の物体側の端部を露出させるとともに他の部分を覆う部材である。マウント302は、上ケース301の内部に配置されており、レンズユニット11の雄ねじ11aと螺合する雌ねじ302aを有する。シール部材303は、上ケース301の内面とレンズユニット11の鏡筒12の外周面との間に介挿された部材であり、上ケース301の内部の気密性を保持するための部材である。
【0037】
パッケージセンサ304は、マウント302の内部に配置されており、かつ、レンズユニット11により形成される物体の像を受光する位置に配置されている。また、パッケージセンサ304は、CCDやCMOS等を備えており、レンズユニット11を通じて集光されて到達する光を電気信号に変換する。変換された電気信号は、カメラにより撮影された画像データの構成要素であるアナログデータやデジタルデータに変換される。
【0038】
以上のような構成を成すレンズユニット11およびカメラモジュール300において、
図1に示すように、最も物体側に位置する第1レンズ13およびこの第1レンズ13とその像側で隣接する第2レンズ14はそれぞれ、光軸方向で互いに対向する対向面13a,14aを有しており、これらの対向面13a,14aどうしは、第1レンズ13と第2レンズ14との間のレンズ間空間S1内が外部に対して密閉されるようにイソブチレン系接着剤によって接着される(接着工程)。
対向面13a,14aとの間には、イソブチレン系接着剤による接着層41が形成されている。
【0039】
すなわちまず、
図3(b)に模式的に示すように、第1レンズ13の対向面13aには遮光層40が形成されている。この遮光層40は、アミンを含む墨材を対向面13aに塗布することによって形成されている。遮光層40の層厚は10~20μm程度に設定されている。
墨材は表1に示すような構成となっている。
【0040】
【0041】
表1に示すように、墨材にはB剤の主成分として、変性脂肪族ポリアミンが含まれているので、後述する親水コーティング層42が無いと、このアミンを含む化合物がイソブチレン系接着剤と接触し、硬化阻害を起こす。
【0042】
また、第2レンズ14の対向面14aにはイソブチレン系接着剤による接着層41が形成されている。この接着層41の層厚は10~20μm程度に設定されている。また、この接着層41は、
図1に示すように、第1レンズ13のレンズ面13bの縁から径方向外側に向けて第2レンズ14aの対向面14aの外周縁より若干径方向外側までの範囲に形成されている。
イソブチレン系接着剤は、
図4に示すように、両末端にアリル基(CH
2=CHCH
2-)を有するイソブチレン主鎖のテレケリックポリマー(反応性基をもつ線状オリゴマー)を主成分として、触媒存在下、加熱によりSiH基含有硬化剤と付加重合・架橋して硬化する。
【0043】
イソブチレン主鎖C-C骨格は、シリコーンのシロキサン鎖と比較すると、分子間の距離が短く、自由体積が小さいため、柔軟でありながら高いガスバリア性、低透湿性を有している。
しかし、墨材の一成分であるアミンを含む化合物は、触媒の活性を失わせる触媒毒となって、イソブチレン系接着剤の硬化阻害を起こす。
【0044】
このため、本実施形態では、遮光層40と接着層41との間に親水コーティング層42が介在されている。親水コーティング層42の層厚は10μm以下に設定されている。
親水コーティング層42は、水に対する接触角が30°以下でかつ厚さが10μm以下の薄い層(膜)であり、例えばTiO2やSiO2系の無機系の親水コートによって形成されるが、アクリル系の有機系親水コートによって形成されてもよい。
【0045】
このように本実施形態では、アミンを含む墨材からなる遮光層40と、イソブチレン系接着剤による接着層41との間に、親水コーティング層42が介在されているので、墨材の一成分であるアミンがイソブチレン系接着剤に直接接触しない。このため、アミンが、触媒の活性を失わせる触媒毒とならないので、イソブチレン系接着剤は、硬化不良(未硬化)を起こすことなく、触媒存在下、加熱によりSiH基含有硬化剤と付加重合して架橋することによって完全に硬化することになる
【0046】
第1レンズ13の対向面13aに遮光層40を形成する遮光層形成工程では、第1レンズ13を鏡筒12に組み込む前に、対向面13aにアミンを含む墨材からなる墨材を塗布することによって行われる。墨材の塗布は人手によって刷毛によって行ってもよいし、ディップコーティングやスキンコーティングによって行ってもよい。
【0047】
遮光層40の第1レンズ13と逆側を向く表面40aに親水コーティング層42を形成する親水コーティング層形成工程では、遮光層形成工程の後、硬化した遮光層40の表面40aに上述した親水コートを塗布することによって行われる。親水コートの塗布は人手によって刷毛によって行ってもよいし、ディップコーティングやスキンコーティングによって行ってもよい。
【0048】
第2レンズ14の対向面14aと親水コーティング層42の遮光層40と逆側を向く表面42aとの間に、当該表面42aおよび第2レンズ14の対向面14aとに接着する接着層41を形成する接着層形成工程では、第2レンズ14を鏡筒12に組み込む前あるいは後において、対向面14aにイソブチレン系接着剤を塗布したうえで、当該イソブチレン系接着剤を親水コーティング層42の表面42aに接着してもよいし、硬化した親水コーティング層42の表面42aにイソブチレン系接着剤を塗布したうえで、当該イソブチレン系接着剤を第2レンズ14の対向面に接着してもよい。
イソブチレン系接着剤の塗布は人手によって刷毛によって行ってもよいし、ディップコーティングやスキンコーティングによって行ってもよい。
【0049】
その後、第1レンズ13と第2レンズ14が組み込まれてなる(第3レンズ15~第6レンズ18は、第2レンズ14の組み込み前に鏡筒12に組み込まれる。)レンズユニット11をオーブン等の加熱容器に入れて、約125℃で約2時間程度加熱する。これによって、イソブチレン系接着剤が、触媒存在下、加熱によりSiH基含有硬化剤と付加重合して架橋することによって硬化する。これによって、第1レンズ13と第2レンズ1とがソブチレン系接着剤によって強固に接着される。
【0050】
以上のように本実施形態によれば、アミンを含む墨材からなる遮光層40と、イソブチレン系接着剤による接着層41との間に、親水コーティング層42が介在されているので、墨材の一成分であるアミンがイソブチレン系接着剤に直接接触しない。このため、アミンが、触媒の活性を失わせる触媒毒とならないので、イソブチレン系接着剤が硬化不良(未硬化)を起こすことがない。したがって、第1レンズと第2レンズとをイソブチレン系接着剤によって確実に接着できる。
また、イソブチレン系接着剤は、触媒存在下、加熱によりSiH基含有硬化剤と付加重合して架橋することによって硬化するので、イソブチレン系接着剤を強固に硬化させることができる。
【0051】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。例えば、本発明において、レンズ、鏡筒などの形状等は、上述した実施形態に限定されない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、上述した実施形態の一部または全部を組み合わせてもよく、あるいは、上述した実施形態のうちの1つから構成の一部が省かれてもよい。
【符号の説明】
【0052】
11 レンズユニット
12 鏡筒
13 第1レンズ
13a 対向面
14 第2レンズ
14a 対向面
40 遮光層
40a 表面
41 接着層
42 親水コーティング層
42a 表面
300 カメラモジュール
L レンズ群
O 光軸
S 内側収容空間
S1 レンズ間空間