(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】光学スキャナおよび光学プログラム
(51)【国際特許分類】
H01Q 3/36 20060101AFI20240702BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
H01Q3/36
H01Q21/06
(21)【出願番号】P 2021036405
(22)【出願日】2021-03-08
【審査請求日】2023-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 光
(72)【発明者】
【氏名】大山 浩市
(72)【発明者】
【氏名】別府 太郎
【審査官】白井 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-064059(JP,A)
【文献】特開2021-018182(JP,A)
【文献】特開2005-201910(JP,A)
【文献】特開平08-222934(JP,A)
【文献】特開2009-071395(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0031192(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 3/36
H01Q 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(12)と、
前記基板に搭載され、光源(20)から供給される光を複数のアンテナエレメントから照射するアンテナアレイ(36)を有し、前記アンテナエレメントから照射される光の位相に応じた方向に前記アンテナアレイから光を照射するように構成された光フェーズドアレイ(30、70)と、
前記基板に搭載されて前記基板の歪み量を検出するように構成された形状センサ(40)と、
前記基板に搭載されており、前記形状センサが検出する前記歪み量から前記アンテナエレメントの位置のずれ量を算出し、算出した前記位置のずれ量に基づいて前記アンテナエレメントから照射される光の位相のずれ量を算出するように構成されたずれ量算出部(50、S430~S434、S460~S464)と、
前記基板に搭載されており、前記ずれ量算出部が算出する前記位相のずれ量に基づいて前記アンテナエレメントから照射される光の位相を補正し、前記アンテナアレイが目標方向に光を照射するように前記アンテナエレメントの位相を制御するように構成された制御部(60、S400、S402、S414~S424、S436~S440、S450、S452、S466、S468)と、
を備える光学スキャナ。
【請求項2】
請求項1に記載の光学スキャナであって、
前記形状センサは、前記基板の中央部に少なくとも1個搭載され、前記基板の周縁に少なくとも1個搭載されている、
光学スキャナ。
【請求項3】
請求項2に記載の光学スキャナであって、
前記形状センサは、前記基板の中央部に2個と前記基板の周縁に2個との合計4個搭載されており、4個の前記形状センサはブリッジ回路(42)を構成している、
光学スキャナ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の光学スキャナであって、
前記アンテナエレメントから照射される光の実位相を検出するように構成された位相モニタ(38)をさらに備え、
前記制御部(S416、S422、S424、S438)は、前記位相のずれ量に基づいて目標位相を設定し、前記位相モニタが検出する前記実位相と前記目標位相との差に基づいて前記アンテナエレメントから照射される光の位相を補正するように構成されている、
光学スキャナ。
【請求項5】
請求項4に記載の光学スキャナであって、
前記制御部(S416、S422、S424、S438、S440)は、さらに、前記位相のずれ量に基づいて前記アンテナエレメントから照射される光の位相を補正し、補正された前記アンテナエレメントの前記実位相と前記目標位相との差に基づいて前記アンテナエレメントから照射される光の位相を補正するように構成されている、
光学スキャナ。
【請求項6】
基板(12)に搭載され、光源(20)から供給される光を複数のアンテナエレメントから照射するアンテナアレイ(36)を有し、前記アンテナエレメントから照射される光の位相に応じた方向に前記アンテナアレイから光を照射する光フェーズドアレイ(30、70)を制御する光学プログラムであって、
前記基板に搭載されており、前記基板に搭載された形状センサが検出する前記基板の歪み量から前記アンテナエレメントの位置のずれ量を算出し、算出した前記位置のずれ量に基づいて前記アンテナエレメントから照射される光の位相のずれ量を算出するように構成されたずれ量算出部(50、S430~S434、S460~S464)と、
前記基板に搭載されており、前記ずれ量算出部が算出する前記位相のずれ量に基づいて前記アンテナエレメントから照射される光の位相を補正し、前記アンテナアレイが目標方向に光を照射するように前記アンテナエレメントの位相を制御する
ように構成された制御部(60、S400、S402、S414~S424、S436~S440、S450、S452、S466、S468)と、
としてコンピュータを機能させる光学プログラム。
【請求項7】
請求項6に記載の光学プログラムであって、
前記光フェーズドアレイは、前記アンテナアレイから照射される光の実位相を検出するように構成された位相モニタ(38)をさらに備え、
前記制御部(S416、S422、S424、S438)は、前記位相のずれ量に基づいて目標位相を設定し、前記位相モニタが検出する前記実位相と前記目標位相との差に基づいて前記アンテナエレメントから照射される光の位相を補正するように構成されている、
光学プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光フェーズドアレイを用いる光学スキャナに関する。
【背景技術】
【0002】
光フェーズドアレイを用いた光学スキャナにより、モータ等の機械的な駆動部を使用せず、光を照射して走査する技術が知られている。光フェーズドアレイでは、光を照射する複数のアンテナエレメントを有するアンテナアレイを用い、各アンテナエレメントから照射される光の位相を制御して、目標方向に光を照射する。
【0003】
各アンテナエレメントから照射される光の位相は、アンテナエレメントの位置および光の波長によって決定される。しかし、光源から各アンテナエレメントに到る導波路の特性が、温度変化、または導波路を構成する素子のばらつき等によって変化すると、各アンテナエレメントから照射される光の位相に誤差が発生する。その結果、アンテナアレイから目標方向に光を照射できないおそれがある。
【0004】
下記の特許文献1には、各アンテナエレメントから照射される光の位相、または複数のアンテナエレメントから照射されて干渉する光の位相を、検出器により検出する技術が記載されている。
【0005】
この技術によれば、例えば、検出器により検出された光の実位相と目標位相との位相のずれ量を検出することができる。位相のずれ量を検出できれば、アンテナエレメントに指示する位相を補正できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許出願公開第2019/260123号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者の詳細な検討の結果、以下のような課題が見出された。
光フェーズドアレイを搭載する基板は、周囲の温度環境等により生じる応力の変化によって歪むことがある。基板が歪むとアンテナエレメントの位置がずれるので、アンテナエレメントから照射される光の位相がずれることがある。照射光の位相がずれると、アンテナアレイから目標方向に光を照射することができなくなる。
【0008】
しかし、上記の特許文献1に記載の技術は、アンテナエレメントの位置が一定であることを前提とした技術であるため、基板の歪みによりアンテナエレメントの位置がずれ、照射光の位相がずれることが考慮されていない。その結果、基板の歪みにより照射光の方向がずれることに対処できない。
【0009】
本開示の1つの局面は、アンテナエレメントの位置がずれることにより生じる照射光の位相のずれを補正する技術を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の1つの態様による光学スキャナは、基板(12)と、光フェーズドアレイ(30、70)と、形状センサ(40)と、ずれ量算出部(50、S430~S434、S460~S464)と、制御部(60、S400、S402、S414~S424、S436~S440、S450、S452、S466、S468)と、を備える。
【0011】
光フェーズドアレイは、基板に搭載され、光源(20)から供給される光を複数のアンテナエレメントから照射するアンテナアレイを有し、アンテナエレメントから照射される光の位相に応じた方向にアンテナアレイから光を照射する。形状センサは、基板に搭載されて基板の歪み量を検出する。
【0012】
ずれ量算出部は、基板に搭載されており、形状センサが検出する歪み量からアンテナエレメントの位置のずれ量を算出し、算出した位置のずれ量に基づいてアンテナエレメントから照射される光の位相のずれ量を算出する。
【0013】
制御部は、基板に搭載されており、ずれ量算出部が算出する位相のずれ量に基づいてアンテナエレメントから照射される光の位相を補正し、前記アンテナアレイが目標方向に光を照射するようにアンテナエレメントの位相を制御する。
【0014】
本開示の他の態様による光学プログラムは、基板(12)に搭載され、光源(20)から供給される光を複数のアンテナエレメントから照射するアンテナアレイを有し、アンテナエレメントから照射される光の位相に応じた方向にアンテナアレイから光を照射する光フェーズドアレイ(30、70)を制御する光学プログラムであって、ずれ量算出部(50、S430~S434、S460~S464)と、制御部(60、S400、S402、S414~S424、S436~S440、S450、S452、S466、S468)と、としてコンピュータを機能させる。
【0015】
ずれ量算出部は、基板に搭載されており、基板に搭載された形状センサが検出する基板の歪み量からアンテナエレメントの位置のずれ量を算出し、算出した位置のずれ量に基づいてアンテナエレメントから照射される光の位相のずれ量を算出する。
【0016】
制御部は、基板に搭載されており、ずれ量算出部が算出する位相のずれ量に基づいてアンテナエレメントから照射される光の位相を補正し、アンテナアレイが目標方向に光を照射するようにアンテナエレメントの位相を制御する。
【0017】
これら本開示の態様の構成によれば、温度変化等による応力の変化により基板が歪んでアンテナエレメントの位置がずれても、基板の歪み量から算出されるアンテナエレメントの位置のずれ量に基づいて、アンテナエレメントから照射される光の位相を補正する補正量を算出できる。これにより、アンテナアレイから目標方向に光を照射できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態の光学スキャナの構成を示すブロック図。
【
図2】光フェーズドアレイの構成を示すブロック図。
【
図4】アンテナエレメントの位相と照射方向とを示す模式図。
【
図6】温度および歪みによる位相補正処理を示すフローチャート。
【
図7】第2実施形態の光フェーズドアレイの構成を示すブロック図。
【
図8】歪みによる位相補正処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
図1に示す第1実施形態の光学スキャナ10は、基板12と、光源20と、光フェーズドアレイ30と、形状センサ40と、ずれ量算出部50と、制御部60と、を備える。以下、光フェーズドアレイをOPAとも言う。OPAは、Optical Phased Arrayの略である。
【0020】
ずれ量算出部50と制御部60とは、CPUと、例えば、ROMとDRAM等の半導体メモリと、を有する少なくとも一つのマイクロコンピュータを備える。光源20と、OPA30と、形状センサ40と、ずれ量算出部50と、制御部60と、は基板12に搭載されている。
【0021】
例えば、光学スキャナ10は、車両に搭載される。図示しない測距部は、光学スキャナ10から照射される光と、照射光に対する反射光との時間差に基づいて、車両の周囲の物体と車両との距離を検出する。基板12には、例えばシリコンフォトニクス基板が使用される。
【0022】
光源20は、レーザ光を発生させるデバイスである。OPA30は、光の回折および干渉を利用して、光の照射方向を制御するデバイスである。
図2に示すように、OPA30は、スプリッタ32と、位相シフタ34と、アンテナアレイ36と、位相モニタ38と、を備える。
【0023】
スプリッタ32は、光源20からの入射光を複数の導波路で構成された導波路アレイに分配する。位相シフタ34は、導波路アレイを構成する複数の導波路のそれぞれに設けられ、制御部60からの指示に従い、電気光学効果や熱光学効果等を利用して導波路の屈折率を電流値に応じて変化させることで、導波路からアンテナアレイを構成するアンテナエレメントに供給される光の位相を変化させる。
【0024】
アンテナアレイ36は、例えば、一定間隔で設置された数百~数千程度のアンテナエレメントを有する。1個または複数のアンテナエレメントは、アンテナグループを構成している。
【0025】
位相モニタ38は、各アンテナグループから照射される光の一部を入射し、照射される光の位相を電圧値として出力する。アンテナグループが複数のアンテナエレメントで構成される場合、アンテナグループから照射される光は、各アンテナエレメントから照射される光が混合した混合光である。
【0026】
形状センサ40には、歪みゲージまたはピエゾ抵抗素子等が使用される。
図3に示すように、形状センサ40は、基板12の中央部に2個と、基板12の対角線上の周縁に2個との合計4個搭載されている。4個の形状センサ40でブリッジ回路42が構成されている。このブリッジ回路42から基板12の歪み量に応じた電圧が出力される。
【0027】
ずれ量算出部50は、形状センサ40で構成されるブリッジ回路42から出力される電圧値に基づいて、基板12の歪み量を算出する。さらに、ずれ量算出部50は、算出した歪み量に基づいて、アンテナエレメントの3次元的な位置のずれ量を算出する。
【0028】
さらに、ずれ量算出部50は、アンテナエレメントの位置のずれ量に基づいて、基板12が歪んでいない場合にアンテナエレメントが属するアンテナグループから照射される光の位相に対し、基板12が歪んだ状態で照射される光の位相のずれ量を算出する。
【0029】
制御部60は、アンテナアレイ36から照射される光の目標方向と、この目標方向を実現するために、アンテナグループから照射される光の目標位相とのマップを記憶している。さらに、制御部60は、アンテナグループから照射される光の位相と、アンテナグループから目標位相の光が照射されるために位相シフタ34に出力する、アンテナグループに属するアンテナエレメントに対する電流値とのマップを記憶している。
【0030】
図4に示すように、制御部60からの指示により、位相シフタ34がアンテナアレイ36の各アンテナエレメントの位相φkを制御することにより、アンテナアレイ36から照射される光の照射方向θが決定される。尚、
図4では、図を簡単にするため、k=0・・・5で表される6個のアンテナエレメントだけが図示されている。
【0031】
ここで、アンテナエレメントから照射される光の位相は、使用する光の波長とアンテナエレメントの位置とによって決定される。しかし、光源20から各アンテナエレメントに到る導波路の特性が、温度変化、または導波路を構成する素子のばらつき等によって変化すると、アンテナエレメントから照射される光の位相に誤差が発生する。その結果、アンテナグループから照射される光の位相に誤差が生じるので、アンテナアレイ36から目標方向に光を照射できなくなる。
【0032】
そこで、制御部60は、アンテナグループから照射される光の実位相を位相モニタ38から入力し、実位相と目標位相との差に基づいて、位相シフタ34に出力する電流値を補正する。
【0033】
また、
図5に示すように、温度変化等による応力の変化により基板12が歪むと、アンテナエレメントの位置が変化する。すると、アンテナエレメントから照射される光の位相が、アンテナグループの目標位相を実現するために制御部60から指示される位相からずれる。その結果、アンテナアレイ36から目標方向に光が照射されなくなる。
【0034】
基板12の歪みにより生じる位相のずれに対処するため、制御部60は、基板12の歪み量とアンテナエレメントの3次元的な位置のずれ量との関係を表すマップを記憶している。さらに制御部60は、アンテナエレメントの3次元的な位置のずれ量と、アンテナエレメントが属するアンテナグループの位相のずれ量との関係を表すマップを記憶している。
【0035】
さらに、制御部60は、アンテナグループの位相のずれ量と、アンテナアレイ36から目標方向に光を照射するために位相シフタ34からアンテナエレメントに出力する電流値の補正量との関係を表すマップを記憶している。
【0036】
制御部60は、位相のずれ量に対応する電流値の補正量をアンテナエレメントから照射される光の位相の補正量として、電流値の補正量により位相シフタ34に出力する電流値を補正する。これにより、制御部60は、基板12の歪みにより発生する光の位相のずれを補正する。
【0037】
さらに、制御部60は、アンテナグループの位相のずれ量に基づいて、補正された電流値により位相を補正されたアンテナエレメントが属するアンテナグループの目標位相を設定する。そして、制御部60は、アンテナグループの目標位相と位相モニタ38が検出するアンテナグループの実位相との差に基づいて、アンテナエレメントに出力する電流値を補正して、アンテナグループの位相を補正する。
【0038】
[1-2.処理]
次に、
図6のフローチャートに基づいて、照射光の位相補正処理について説明する。例えば、
図6のフローチャートは、所定時間間隔で実行される。
【0039】
S400において制御部60は、アンテナアレイ36から目標の照射方向に光を照射するために、位相シフタ34から各アンテナエレメントに出力する電流値を制御値として、ROM等の不揮発性メモリに記憶されたマップ等から読み出してDRAMに書き込む。
【0040】
さらに、S400において制御部60は、1個または複数のアンテナエレメントをアンテナグループとして、アンテナグループから照射される光の目標位相を不揮発性メモリに記憶されたマップ等から読み出してDRAMに書き込む。S400で書き込まれる目標位相は、基板12に歪みがない場合の値である。
【0041】
S402において制御部60は、DRAMに書き込んだ制御値に応じた制御信号を位相シフタ34に出力する。S404において、位相シフタ34は、制御部60から出力される制御信号により、各アンテナエレメントから照射される光の位相を制御することにより、アンテナグループから照射される光の位相を制御する。
【0042】
S406において、アンテナアレイ36は、アンテナグループから照射される光の位相により決定される方向に光を照射する。
S408において、図示しない測距部は、光学スキャナ10から照射される照射光と、照射光の反射光との時間差に基づき、車両の周囲の物体と車両との距離を検出する。
【0043】
S410、S412において位相モニタ38は、各アンテナグループから照射される光の一部を入力し、光の位相を表す位相情報として電圧値を出力する。
S414において制御部60は、アンテナグループから照射される光の位相情報を位相モニタ38から入力する。アンテナグループが複数のアンテナエレメントで構成される場合、制御部60は、複数のアンテナエレメントの混合光の位相情報を位相モニタ38から入力する。
【0044】
S416において制御部60は、アンテナグループの目標位相と、位相モニタ38から入力する実位相との差が所定値内であるか否かを判定する。S416の判定がNoである、つまり目標位相と実位相との差が所定値よりも大きい場合、制御部60は処理をS422に移行する。
【0045】
S416の判定がYesである、目標位相と実位相との差が所定値内であれば、S418において、制御部60はすべてのアンテナグループについてS416の判定が完了したか否かを判定する。S416の判定がYesである、つまりすべてのアンテナグループについてS416の判定が完了した場合、制御部60は本処理を終了する。
【0046】
S416の判定がNoである、つまりS416の判定が完了していないアンテナグループが存在する場合、S420において制御部60は、次のアンテナグループについて判定をするために処理をS416に移行する。
【0047】
S422、S424において制御部60は、目標位相と実位相との差に基づいて位相の制御値を補正してDRAMに書き込み、処理をS402に戻す。つまり、目標位相と実位相との差に基づいて、位相を制御する制御値がフィードバック制御される。
【0048】
次にS430~S440の処理について説明する。S430~S440の処理は、上記のS400~S422の処理と並行して実行される。
S432においてずれ量算出部50は、S430において形状センサ40が検出した基板12の歪み量を取得し、アンテナエレメントの位置を算出する。さらに、S434においてずれ量算出部50は、S432において算出したアンテナエレメントの位置と、基板12に歪みがない場合のアンテナエレメントの位置との空間的な位置の差に基づいて、アンテナグループの照射光の位相のずれ量を算出する。
【0049】
照射光の位相のずれ量は、アンテナグループとして、各アンテナエレメントから照射される光、あるいは複数のアンテナエレメントから照射される光の混合光について算出される。
【0050】
S436において制御部60は、S434においてずれ量算出部50が算出した位相のずれ量に基づいて、制御値として位相シフタ34に出力する電流値を補正して設定する。制御部60は、位相のずれ量と電流値の補正量との関係を表すマップ等から、電流値の補正量を取得する。これにより、位相シフタ34に制御されるアンテナエレメントの位相が補正される。
【0051】
さらに、S436において制御部60は、アンテナグループの位相のずれ量に基づいて、補正された電流値により位相を補正されたアンテナエレメントが属するアンテナグループの目標位相を設定する。制御部60は、位相のずれ量と目標位相との関係を表すマップ等から目標位相を取得する。
【0052】
S438において制御部60は、S436で設定した目標位相をDRAMに書き込み、処理をS416に移行する。S440において制御部60は、S436で設定した位相の制御値をDRAMに書き込み、処理をS402に移行する。S438、S440においてDRAMに書き込まれた目標位相と制御値とにより、S400においてDRAMに書き込まれた目標位相と制御値とは書き換えられる。
【0053】
したがって、S438で書き込まれた目標位相と、S440で書き込まれた制御値に基づいて制御されたアンテナグループの照射光の実位相とにより、S416の判定は実行される。
【0054】
上記第1実施形態では、S430~S434がずれ量算出部50の処理に対応し、S400、S402、S414~S424、S436~S440が制御部60の処理に対応する。
【0055】
[1-3.効果]
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1a)基板12が歪み、アンテナエレメントの位置がずれても、形状センサ40が検出する基板12の歪み量に基づいて、アンテナエレメントの照射光の位相を補正することにより、アンテナアレイ36から目標方向に光を照射できる。
【0056】
(1b)光源20から各アンテナエレメントに到る導波路の特性は、温度変化、または導波路を構成する素子のばらつき等によって変化し、各アンテナエレメントから照射される光の位相に誤差が発生することがある。
【0057】
しかし、本実施形態では、位相モニタ38がアンテナグループの照射光の実位相を検出することにより、目標位相と実位相の差に基づいて、各アンテナエレメントの位相を補正できる。これにより、アンテナアレイ36から目標方向に光を照射できる。
【0058】
[2.第2実施形態]
[2-1.第1実施形態との相違点]
第2実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、相違点について以下に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0059】
前述した第1実施形態では、位相モニタ38がアンテナエレメントから照射される光の位相をモニタした。これに対し、第2実施形態では、
図7に示すように、OPA70は位相モニタ38を備えておらず、アンテナエレメントから照射される光の位相をモニタしない点で、第1実施形態と相違する。
【0060】
[2-2.処理]
次に、第2実施形態の光学スキャナが、
図6に示す第1実施形態の位相補正処理に代えて実行する位相補正処理について、
図8のフローチャートを用いて説明する。例えば、
図8のフローチャートは、所定時間間隔で実行される。
【0061】
なお、
図8におけるS452~S464の処理は、第1実施形態の
図6におけるS402~S408の処理、ならびに
図6におけるS430~S434の処理と同様であるため、説明を一部簡略化している。
【0062】
S450において制御部60は、アンテナアレイ36から目標の照射方向に光を照射するために、位相シフタ34から各アンテナエレメントに出力する電流値を制御値として、ROM等の不揮発性メモリに記憶されたマップ等から読み出してDRAMに書き込む。
【0063】
S466において制御部60は、S464においてずれ量算出部50が算出した位相のずれ量に基づいて、制御値として位相シフタ34に出力する電流値を補正して設定する。制御部60は、位相のずれ量と電流値の補正量との関係を表すマップ等から、電流値の補正量を取得する。これにより、位相シフタ34に制御されるアンテナエレメントの位相が補正される。
【0064】
S468において制御部60は、S466で補正した位相の制御値をDRAMに書き込んで本処理を終了する。
上記第2実施形態では、S460~S464がずれ量算出部50の処理に対応し、S450、S452、S466、S468が制御部60の処理に対応する。
【0065】
[2-3.効果]
以上説明した第2実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果(1a)と同様の効果を得ることができる。
【0066】
[3.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0067】
(3a)上記第1実施形態において、
図6のS436から位相のずれ量に基づいてアンテナエレメントの位相を制御する制御値を補正して設定する処理を削除し、さらにS440を削除してもよい。
【0068】
これにより、S416の判定では、アンテナエレメントの位置のずれに起因する位相のずれがない場合に設定した制御値により位相を制御されたアンテナグループの実位相と目標位相との差に基づいて、制御値のフィードバック制御が実行される。
【0069】
(3b)上記第2実施形態では、位相モニタ38を設置しておらず、目標位相と実位相との差に基づく制御値のフィードバック制御は行われていない。
これに対し、第2実施形態において位相モニタ38を設置し、基板12の歪み量から算出した位相のずれ量に基づいて制御値を補正し、補正された制御値に対する目標位相と実位相との差に基づいて、制御値のフィードバック制御を実行してもよい。
【0070】
(3c)上記実施形態では基板12の中央部に2個、基板12の対角線上の周縁に2個の合計4個の形状センサ40を基板12に搭載して基板12の歪み量を検出した。これに対し、形状センサ40は、基板12の中央部に少なくとも1個、基板12の周縁の少なくとも1個搭載されていればよい。
【0071】
(3d)本開示に記載のずれ量算出部50および制御部60とその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された1つまたは複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載のずれ量算出部50および制御部60とその手法は、1つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載のずれ量算出部50および制御部60とその手法は、1つまたは複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリと1つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された1つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されてもよい。ずれ量算出部50および制御部60に含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、1つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
(3e)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加または置換してもよい。
【0072】
(3f)前述した光学スキャナと光学プログラムの他、当該光学スキャナを構成要素とするシステム、光学プログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実体的記録媒体、光学スキャン方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0073】
10:光学スキャナ、12:基板、20:光源、30、70:OPA(光フェーズドアレイ)、40:形状センサ、42:ブリッジ回路、50:ずれ量算出部、60:制御部