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特許7513560廃棄物処分場の安定化システムおよび安定化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】廃棄物処分場の安定化システムおよび安定化方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/30 20220101AFI20240702BHJP
   C02F 1/461 20230101ALI20240702BHJP
   C02F 1/469 20230101ALI20240702BHJP
   C02F 1/66 20230101ALI20240702BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20240702BHJP
   B01D 61/42 20060101ALI20240702BHJP
   B09B 101/30 20220101ALN20240702BHJP
【FI】
B09B3/30
C02F1/461 A
C02F1/469
C02F1/66 510K
C02F1/66 522Z
C02F1/66 530L
C02F1/66 540E
C02F1/44 A
B01D61/42
B09B101:30
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021056849
(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公開番号】P2022154025
(43)【公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】間宮 尚
(72)【発明者】
【氏名】篠原 智志
(72)【発明者】
【氏名】古野間 達
(72)【発明者】
【氏名】大和 天
(72)【発明者】
【氏名】田中 真弓
(72)【発明者】
【氏名】小澤 一喜
【審査官】東 勝之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-099878(JP,A)
【文献】特開昭55-100220(JP,A)
【文献】特表2009-535198(JP,A)
【文献】特開2001-353492(JP,A)
【文献】特開2000-237735(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0065854(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/30
C02F 1/461
C02F 1/469
C02F 1/66
C02F 1/44
B01D 61/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物処分場の安定化システムであって、
アルカリ性水を生成するアルカリ性水生成部と、
前記アルカリ性水生成部で生成されたアルカリ性水を廃棄物層に供給する供給部と、
廃棄物層を透過した浸出水を集水する集水部と、
を具備することを特徴とする廃棄物処分場の安定化システム。
【請求項2】
前記アルカリ性水生成部は、水電気分解設備であり、
隔膜で区分された多層式水電解槽のカソードで生成されたアルカリ性水が使用されることを特徴とする請求項1記載の廃棄物処分場の安定化システム。
【請求項3】
前記アルカリ性水生成部は、水電気透析設備であり、
イオン交換膜で区分された多層式水透析槽で生成されたアルカリ性水が使用されることを特徴とする請求項1記載の廃棄物処分場の安定化システム。
【請求項4】
前記アルカリ性水生成部で生成される副生成物である酸性水を前記集水部に供給する酸性水供給部を有し、前記酸性水供給部は、前記集水部において酸性水と浸出水とを混合することが可能であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の廃棄物処分場の安定化システム。
【請求項5】
前記集水部には、浸出水のpHを測定可能なpH計測部が配置され、前記pH計測部による浸出水のpHが所定値を超えた場合に、前記酸性水供給部から、酸性水を前記集水部に供給することを特徴とする請求項4記載の廃棄物処分場の安定化システム。
【請求項6】
前記アルカリ性水生成部で生成されたアルカリ性水に対して、二酸化炭素を吸収させる二酸化炭素吸収部を有し、二酸化炭素が吸収されたアルカリ性水が前記供給部から廃棄物層に供給されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の廃棄物処分場の安定化システム。
【請求項7】
廃棄物処分場の安定化方法であって、
アルカリ性水を生成する工程aと、
アルカリ性水に二酸化炭素を吸収させるとともに、廃棄物層に供給する工程bと、
廃棄物層を透過した浸出水を集水する工程cと、
を具備することを特徴とする廃棄物処分場の安定化方法。
【請求項8】
前記工程aは、電気分解または電気透析によってアルカリ性水を生成し、
前記工程cでは、前記工程aで生成された副生成物である酸性水を浸出水に混合することを特徴とする請求項7記載の廃棄物処分場の安定化方法。
【請求項9】
前記工程bでは、アルカリ性水に二酸化炭素を吸収させるため、アルカリ性水を廃棄物へ供給する前の所定時間、二酸化炭素を含む気体と接触する時間を確保することが可能な二酸化炭素吸収工程を有することを特徴とする請求項7または請求項8記載の廃棄物処分場の安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物処分場の安定化システムおよび安定化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最終処分場は、廃棄物の投棄が終わった後、廃棄物から発生する浸出水が排水基準を満たして2年経過すると閉鎖することができる。そこで、廃棄物の早期安定化に向けて排水基準で規制された指標物質等を洗い流す方針で人工散水が行われている(例えば、特許文献1参照)。固形物重量に対する散水計画量の液固比は2~3程度であり、この液固比で早期に排水基準を満たせる施策が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-99878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年では最終処分場に投棄される廃棄物に占める焼却灰や焼却飛灰の固化物の割合が高く、浸出水に塩類が多く含まれる。塩類は排水基準の指標物質ではないが、主たる塩類のうちCaClは長期間に亘り緩やかに溶脱する。特に、細かい水みちでは微量の水によってCaClに含まれるカルシウムが少しずつ溶出するためカルシウムの溶出が長期化し、このことが廃棄物からの指標物質の溶出に大きく関係すると考えられる。またCaClに含まれるカルシウムは、pH、二酸化炭素の存在、温度等の条件が揃うとCaCOとして析出するが、この反応が集水管や水処理施設で起こるとスケールとなり浸出水処理の阻害の一因となる。
【0005】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とすることは、排水基準の指標物質の長期に亘る溶出を抑制すると同時に集水部でのスケール発生を抑制できる廃棄物処分場の安定化システムおよび安定化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した目的を達成するために第1の発明は、廃棄物処分場の安定化システムであって、アルカリ性水を生成するアルカリ性水生成部と、前記アルカリ性水生成部で生成されたアルカリ性水を廃棄物層に供給する供給部と、廃棄物層を透過した浸出水を集水する集水部と、を具備することを特徴とする廃棄物処分場の安定化システムである。
【0007】
第1の発明では、二酸化炭素を吸収しやすいアルカリ性水を廃棄物層に供給するので、廃棄物中のカルシウムと二酸化炭素とがアルカリ性の環境下で反応して廃棄物層内でCaCOが生成される。このように廃棄物層内でCaCOが生成されることにより、廃棄物層内の特に細かい水みちをCaCOで塞いで排水基準の指標物質の長期に亘る溶出を抑制し、廃棄物処分場を早期に安定化させることができる。また、浸出水中のカルシウム濃度を低下させ、集水部でのスケールの発生を抑制することができる。
【0008】
前記アルカリ性水生成部は、例えば水電気分解設備であり、隔膜で区分された多層式水電解槽のカソードで生成されたアルカリ性水が使用される。また、前記アルカリ性水生成部は、水電気透析設備であり、イオン交換膜で区分された多層式水透析槽で生成されたアルカリ性水が使用されてもよい。
水電気分解設備や水電気透析設備を用いることにより、不要な金属イオンがほとんど含まれないアルカリ性水を容易に生成することができる。
【0009】
前記アルカリ性水生成部で生成される副生成物である酸性水を前記集水部に供給する酸性水供給部を有し、前記酸性水供給部は、前記集水部において酸性水と浸出水とを混合することが可能であってもよい。このとき、前記集水部には、浸出水のpHを測定可能なpH計測部が配置され、前記pH計測部による浸出水のpHが所定値を超えた場合に、前記酸性水供給部から、酸性水を前記集水部に供給することが望ましい。
集水部において酸性水と浸出水とを混合すれば、浸出水のpHが低下するので集水部でのスケールの発生をより確実に抑制することができる。また、pH計測部を配置すれば、計測値に基づいて酸性水の供給のタイミングを簡単に決定することができる。
【0010】
前記アルカリ性水生成部で生成されたアルカリ性水に対して、二酸化炭素を吸収させる二酸化炭素吸収部を有し、二酸化炭素が吸収されたアルカリ性水が前記供給部から廃棄物層に供給されてもよい。
これにより、二酸化炭素をアルカリ性水に効率よく吸収させることができる。
【0011】
第2の発明は、廃棄物処分場の安定化方法であって、アルカリ性水を生成する工程aと、アルカリ性水に二酸化炭素を吸収させるとともに、廃棄物層に供給する工程bと、廃棄物層を透過した浸出水を集水する工程cと、を具備することを特徴とする廃棄物処分場の安定化方法である。
【0012】
第2の発明では、二酸化炭素を吸収させたアルカリ性水を廃棄物層に供給することにより、廃棄物中のカルシウムと二酸化炭素とをアルカリ性の環境下で反応させて廃棄物層内でCaCOを生成する。このように廃棄物層内でCaCOを生成することにより、廃棄物層内の細かい水みちをCaCOで塞いで排水基準の指標物質の長期に亘る溶出を抑制し、廃棄物処分場を早期に安定化させることができる。また、浸出水中のカルシウム濃度を低下させ、集水部でのスケールの発生を抑制することができる。
【0013】
前記工程aは、電気分解または電気透析によってアルカリ性水を生成し、前記工程cでは、前記工程aで生成された副生成物である酸性水を浸出水に混合することが望ましい。
電気分解または電気透析を用いればアルカリ性水を容易に生成することができる。また、酸性水を混合することで浸出水のpHが低下するので集水部でのスケールの発生をより確実に抑制することができる。
【0014】
前記工程bでは、アルカリ性水に二酸化炭素を吸収させるため、アルカリ性水を廃棄物へ供給する前の所定時間、二酸化炭素を含む気体と接触する時間を確保することが可能な二酸化炭素吸収工程を有することが望ましい。
これにより、廃棄物層に供給する前にアルカリ性水に二酸化炭素を確実に吸収させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、排水基準の指標物質の長期に亘る溶出を抑制すると同時に集水部でのスケール発生を抑制できる廃棄物処分場の安定化システムおよび安定化方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】安定化システム3を示す図。
図2】アルカリ性水生成部7付近の拡大図。
図3】二酸化炭素濃度およびアルカリ性水51のpHの経時変化を示す図。
図4】廃棄物処分場5の安定化方法を示すフローチャート。
図5】他の二酸化炭素吸収部29aを示す図。
図6】二酸化炭素濃度の経時変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は安定化システム3を示す図、図2はアルカリ性水生成部7付近の拡大図である。
【0018】
安定化システム3は、廃棄物処分場5の安定化処理のためのシステムである。廃棄物処分場5は、地盤1を掘削して構築される。廃棄物処分場5は複数の廃棄物層33からなり、廃棄物層33の間には中間覆土が設けられてもよい。廃棄物処分場5には、廃棄物層33から発生するガスを空中に逃すためのガス抜き管31が設けられる。
【0019】
安定化システム3は、アルカリ性水生成部7、供給部9、集水部15、回収管21、酸性水供給部25、水処理施設27、二酸化炭素吸収部29等からなる。
【0020】
アルカリ性水生成部7は、図2に示すように水電気分解設備である。水電気分解設備では、隔膜43で区分された水電解槽41に直流電流を流すと、カソード45側で水素と水酸化物イオンが発生し、アノード47側で酸素と水素イオンが発生する。これにより、アルカリ性水生成部7のカソード45側ではアルカリ性水51が生成され、アノード47側では副生成物として酸性水53が生成される。
【0021】
二酸化炭素吸収部29は、密閉構造の水電解槽41のカソード45側につながっている供給部9に接続される。なお、切り替え弁等の図示は省略する。二酸化炭素吸収部29は、供給部9、供給管11との間でアルカリ性水51を循環させ、二酸化炭素を高濃度で含む空気との接触によってアルカリ性水51に二酸化炭素を吸収させる。例えば、二酸化炭素吸収部29ではアルカリ性水51中に空気をバブリングさせるように注入し、アルカリ性水51の表面から出た空気を循環してバブリングに用いる。二酸化炭素吸収部29と供給管11との間にはポンプ、流量計、pH計、二酸化炭素濃度計を設置して供給管11のアルカリ性水の性状と動きを把握し、水電解槽41のカソード45側ではアルカリ性水51のpHを常時測定する。なお、水電解槽41は、図示を省略した生成ガス回収部に接続されており、一定の時間ごと又は連続して、水電解槽41で発生する酸素と水素は完全に独立して系外に排出される。例えば、発生したガスを回収した後に、二酸化炭素のバブリング等を行い、可能な限り、水素のない状況でアルカリ性水に二酸化炭素を吸わせてもよい。ただし、二酸化炭素はpHが高い方がよく吸収されるので、水電解槽41と供給管11・二酸化炭素吸収部29の双方でpHを監視することが重要である。
【0022】
図3は、二酸化炭素濃度およびアルカリ性水51のpHの経時変化を示す図である。図3に示す実験では、図2に示す二酸化炭素吸収部29として二酸化炭素濃度の初期濃度が約2000ppmの空気が入ったアルミ製バッグを用い、水電解槽41のカソード45側との間で前述の方法で空気を循環させた。すると循環開始から60分間で、空気の二酸化炭素濃度は約2000ppmから0ppmまで低下し、アルカリ性水51のpHは12.5以上に保たれた。このことから、二酸化炭素吸収部29を用いた場合、二酸化炭素量に対して十分な量のアルカリ性水51があれば二酸化炭素が吸収されることがわかる。二酸化炭素の吸収速度はpHに依存し、pHが高いほど速く吸収が進む。このためpH11.5以上、好ましくは12.0以上を維持することが望まれる。
【0023】
供給部9は、アルカリ性水生成部7に接続された供給管11、供給管11に設けられた散水部13等からなる。供給部9は、アルカリ性水生成部7で生成されて二酸化炭素を吸収したアルカリ性水51を廃棄物層33に供給する。
【0024】
集水部15は、廃棄物処分場5の底部に配置された集水管17、集水管17に接続された集水ピット19、pH計測部23等からなる。集水部15は、廃棄物層33を透過した浸出水55を集水する。pH計測部23は、例えば集水管17と集水ピット19との接続部付近に設けられ、浸出水55のpHを計測する。
【0025】
回収管21は、一端が集水ピット19に接続され、他端が水処理施設27に接続される。回収管21は、浸出水55を水処理施設27に回収する。水処理施設27は水供給管39を介してアルカリ性水生成部7に接続される。水処理施設27は、浸出水55を水処理してアルカリ性水生成部7に水を供給する。図示しないが、水処理施設27で処理された浸出水55が、外部に排出されることもある。
【0026】
酸性水供給部25は、アルカリ性水生成部7のアノード47側に接続される。酸性水供給部25は、例えば廃棄物処分場5の底部に延伸し、アルカリ性水生成部7のアノード47側で生成される酸性水53を集水部15に供給し、集水部15において酸性水53と浸出水55とを混合する。
【0027】
図4は、廃棄物処分場5の安定化方法を示すフローチャートである。廃棄物処分場5の安定化システム3では、まずアルカリ性水生成部7で電気分解によってアルカリ性水51を生成する(S101)。そして、二酸化炭素吸収部29を用いてアルカリ性水51に二酸化炭素を吸収させる(S102)。S102では、アルカリ性水51を廃棄物層33へ供給する前の所定時間、二酸化炭素を含む気体と接触する時間を確保する。
【0028】
次に、アルカリ性水51を廃棄物層33に供給し(S103)、廃棄物層33からの浸出水55を集水する(S104)。S103では、二酸化炭素を吸収させたアルカリ性水51を供給管11に送って散水部13から廃棄物層33に散水する。廃棄物層33に投棄された焼却灰や焼却飛灰固化物はほぼアルカリ性であるため、アルカリ性水51はpHが大きく低下しないまま廃棄物層33内をゆっくりと透過する。S104では、廃棄物層33の底部から集水管17に浸出した浸出水55を集水ピット19に集水する。
【0029】
ここで、標準的にCaClと呼ばれる塩は多様な水和物構造をとる。カルシウムの溶出・溶脱平衡状態はCaClの濃度および温度で異なるが、廃棄物処分場5ではCaClOHとして存在すると報告されている。CaClのような塩が二酸化炭素を吸着してCaCOとして安定し固定化するかについては化学計算で検討することができ、CaClOHの固体、大気レベルの二酸化炭素、固形物の表面に水分がうっすらと存在する程度の含水率(平均値)を想定して、pHと酸化還元電位を変数として安定な形状を計算すると、温度により若干の差があるが略pH8.5以上でCaCOが安定状態として生成する。すなわち、アルカリ環境下において二酸化炭素が存在すると、CaCl、CaClOHと反応してCaCOの生成が進行する。
【0030】
そのため、S103ではアルカリ性水51がpHが低下しないまま廃棄物層33内を浸透する過程で、CaClが変形したCaClOH37とアルカリ性水51中の炭酸イオンが反応してCaCO35となる。CaCO35は廃棄物層33の固化や安定化を促進するとともに、廃棄物層33中の特に細かい水みちを塞ぐ。なお、大きな水みちに接する部分からの溶脱や溶出は早期に進行して短期間での安定化に寄与するので、S103で大きな水みちまでも塞ぐ必要はなく、細かい水みちを塞ぐことが排水基準の指標物質の長期に亘る溶出の抑制につながる。
【0031】
S104で集水される浸出水55のカルシウム濃度は、廃棄物層33内でCaCO35が生成されることによって従来よりも低下しているが、浸出水55がアルカリ性であると集水部15でCaCOが生成されてスケールが発生する可能性がある。そこで、pH計測部23で浸出水55のpHを計測し(S105)、pHが所定値を超えているかどうかを判断する。pHの所定値は例えばCaCOが安定状態として生成される境界値である8.5とする。
【0032】
S105で計測したpHが8.5を超えていた場合、集水部15でCaCOが生成されてスケールが発生する可能性があると判断し、浸出水55に酸性水53を供給する(S107)。S107では、酸性水53を酸性水供給部25から集水管17に供給し、酸性水53を浸出水55に混合してpHを調整する。そして、酸性水53と混合された浸出水55を集水する(S104)。
【0033】
S105で計測したpHが8.5を超えていなければ、浸出水55のpHが集水部15でスケールが発生しない程度に低下していると判断し、浸出水55を回収し(S106)、水処理を行う(S108)。S106では、図示しないポンプ等を用いて集水ピット19から回収管21を介して水処理施設27に浸出水55を回収する。S108では、水処理施設27で浸出水55を処理する。処理した水は水供給管39を介してアルカリ性水生成部7に供給され、S101で再利用されるか、あるいは、系外に排出されることもある。
【0034】
このように、本実施形態では、二酸化炭素を吸収させたアルカリ性水51を廃棄物層33に供給して廃棄物層33内でCaCOを生成させる。このようにカルシウムを廃棄物層33内で化学的に計画的に固定化することにより、廃棄物層33内の細かい水みちをCaCOで塞いで排水基準の指標物質の長期に亘る溶出を抑制し、廃棄物処分場を早期に安定化させることができる。また、廃棄物層33からの浸出水55に含まれるカルシウムを減らして、集水部15でのスケールの発生を抑制することができる。
【0035】
本実施形態では、アルカリ性水生成部7として水電気分解設備を用いるので、電気分解によって不要な金属イオンが含まれないアルカリ性水51を容易に生成することができる。また、電気分解による副生成物として得た酸性水53を集水部15に供給する酸性水供給部25を有することにより、必要に応じて酸性水53を浸出水55に混合して浸出水55のpHを低下させ、集水部15でのスケールの発生を確実に抑制することができる。さらに、pH計測部23を配置することにより、浸出水55のpH計測値に基づいて酸性水53の供給の開始や停止のタイミングを簡単に決定することができる。
【0036】
本実施形態では、アルカリ性水51を廃棄物層33へ供給する前に、二酸化炭素吸収部29を用いてアルカリ性水51に二酸化炭素を吸収させる。前述したようにアルカリ性水51は二酸化炭素の吸収が極めて速いため、散水時に空気中の二酸化炭素を吸収させることができる。しかし、大気中の二酸化炭素濃度は350~400ppmと希薄であり、より効率よく二酸化炭素をアルカリ性水51に吸収させるためには気液接触表面積を大きくしたり接触時間を長くしたりすることが望ましい。二酸化炭素吸収部29を用いることにより、アルカリ性水51に二酸化炭素を短時間で確実に所望の濃度で吸収させることができる。
【0037】
なお、本実施形態では2層式の水電解槽41を用いたが、他の多層式水電解槽を用いてもよい。また、カソード45側とアノード47側の容積を変えて酸性水53の生成量を減らしてもよい。生成量を減らすとpHの低い酸性水53が得られるので、S107において少量の酸性水53で浸出水55のpHを低下させることが可能になり、S108での浸出水55の処理量も削減できる。
【0038】
また、アルカリ性水生成部7は水電気分解設備に限らず、水電気透析設備であってもよい。水電気透析設備では、バイポーラ膜等のイオン交換膜で区分された多層式水透析槽を用い、水透析槽の両端に配置された電極に電圧を印加して酸とアルカリを生成する。これにより、イオン交換膜の一方の側でアルカリ性水51が生成され、他方の側で酸性水53が生成される。
【0039】
本実施形態では、二酸化炭素吸収部29と供給管11の間でアルカリ性水51を循環させたが、アルカリ性水51に二酸化炭素を吸収させる方法はこれに限らず、図5に示す他の二酸化炭素吸収部29aを用いてもよい。
【0040】
図5に示す二酸化炭素吸収部29aは水槽である。水槽は、アルカリ性水生成部7のカソード45側に一端が接続された供給管11aの他端が上部に配置され、供給管11が下部に接続され、内部に布49が蛇腹状に配置される。また、水槽の内部は高濃度の二酸化炭素を含む空気で満たされる。二酸化炭素吸収部29aでは、アルカリ性水生成部7で生成されたアルカリ性水51をポンプアップして供給管11aから布49に散布し、布49の表面でアルカリ性水51に空気中の二酸化炭素を吸収させる。
【0041】
図6は二酸化炭素濃度の経時変化を示す図である。図6に示す実験では、図5に示す二酸化炭素吸収部29aの内部に二酸化炭素の初期濃度が約1800ppmの空気200Lを入れ、供給管11aと供給管11とを連結してpH約12の水1Lを循環散布した。すると図6に示すように約240分で二酸化炭素濃度が350ppmまで低下した。このことから二酸化炭素吸収部29aを用いた場合も二酸化炭素量に対して十分な量のアルカリ性水51があれば二酸化炭素が吸収されることがわかる。
【0042】
図5の例ではアルカリ性水槽を1段としたが、アルカリ性水槽を水位が異なる2段としてもよい。この場合、布を両端が2つのアルカリ性水槽に接するように設置して毛細管現象とサイホンの原理で布中をアルカリ性水51が移動する際に二酸化炭素を吸収させる。そのためポンプアップの動力が不要となる。
【0043】
また、酸性水供給部25の配置は図1に示すものに限らない。酸性水供給部は酸性水53を集水部15に供給できる構成であればよく、例えば酸性水供給部を地上に配置し、地上からガス抜き管31を介して集水部15に酸性水53を供給してもよい。
【0044】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0045】
1………地盤
3………安定化システム
5………廃棄物処分場
7………アルカリ性水生成部
9………供給部
11、11a………供給管
13………散水部
15………集水部
17………集水管
19………集水ピット
21………回収管
23………pH計測部
25………酸性水供給部
27………水処理施設
29、29a………二酸化炭素吸収部
31………ガス抜き管
33………廃棄物層
35………CaCO
37………CaClOH
39………水供給管
41………水電解槽
43………隔膜
45………カソード
47………アノード
49………布
51………アルカリ性水
53………酸性水
55………浸出水
図1
図2
図3
図4
図5
図6