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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】把持装置及び産業用ロボット
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/08 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
B25J15/08 S
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021067339
(22)【出願日】2021-04-12
(65)【公開番号】P2022162465
(43)【公開日】2022-10-24
【審査請求日】2023-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】波多野 至
(72)【発明者】
【氏名】松本 篤史
(72)【発明者】
【氏名】岩田 俊介
【審査官】牧 初
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-200877(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110936368(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを掴んで把持する把持装置であって、
弾性変形可能な仕切膜と、
前記仕切膜を弾性変形させる変形手段と、
前記仕切膜の周縁から一体に延出し、前記変形手段による前記仕切膜の弾性変形に伴って中心軸方向に向かって弾性変形して前記ワークを包み込む筒状の把持部と
を備える把持装置。
【請求項2】
筒状のケーシングと、前記ケーシング内を上下に仕切る前記仕切膜とで構成されており、上部に開口部を有する把持部材と、
前記把持部材の前記開口部を閉塞するケース部材と
をさらに備え、
前記変形手段は、前記ケース部材、前記ケーシング、及び前記仕切膜によって画成された密閉空間と接続し、前記密閉空間を真空引きする請求項1に記載の把持装置。
【請求項3】
前記ケーシングのうち、前記仕切膜によって仕切られた下側部分が前記把持部を構成し、前記仕切膜によって仕切られた上側部分が前記把持部材を前記ケース部材に接続する接続部を構成しており、
前記接続部のうち、前記把持部との境界部分に、前記把持部の弾性変形の起点となる変形部を形成した請求項2に記載の把持装置。
【請求項4】
前記変形部は、上下方向の複数のスリットを周方向に沿って形成することによって構成される請求項3に記載の把持装置。
【請求項5】
前記変形部は、周方向に沿って形成された上下方向の複数のスリットと、周方向の複数の溝を上下方向に配列した多段溝とで構成される請求項3に記載の把持装置。
【請求項6】
前記仕切膜を前記ケーシングと一体且つ動径方向に形成される平面と同一平面上に形成した請求項2~5のいずれか1項に記載の把持装置。
【請求項7】
前記把持部に複数の薄肉部を周方向に形成した請求項1~6のいずれか1項に記載の把持装置。
【請求項8】
前記仕切膜の下面周縁と前記把持部の内周面との間に複数のリブを周方向に沿って一体に形成した請求項1~7のいずれか1項に記載の把持装置。
【請求項9】
前記仕切膜は、初期状態において中央部が下方に向かって膨出する円弧曲面状を成している請求項1~8のいずれか1項に記載の把持装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の把持装置を備える産業用ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを掴んで把持する把持装置及び産業用ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
各種産業界においては自動化による省力化が進んでおり、そのための産業用ロボットが種々提案されて実用に供されている。このような産業用ロボットには、把持装置を備えているものもあり、把持装置によってワークを把持して所定の場所へと移送することが行われている。
【0003】
特許文献1には、産業用ロボットに備えられた把持装置として、掌部と、掌部の周囲に一体に突設された複数(例えば、5本)の指部とを備えた把持装置が知られている。特許文献1に係る把持装置は、掌部の上方に形成される密閉空間を減圧して掌部を厚さ方向に弾性変形させ、この掌部の弾性変形によって複数の指部が掌部の中心に向かって倒れることによって、複数の指部でワークを掴んで把持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-062038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に係る把持装置は、指部とワークとの接触点に作用する摩擦力によってワークを把持するものであるため、ワークの種類によっては、ワークを確実に把持することができない場合がある。例えば、錐体状、錐台状、半球状などの傾斜面を有するワークは、把持装置で掴んで把持することが難しい。また、表面が滑り易い(摩擦係数が小さい)ワークも把持装置で掴んで把持することが難しい。
【0006】
本発明は、掴みにくい形状のワークや表面が滑り易いワークを確実に掴んで把持することができる把持装置及び産業用ロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る把持装置は、ワークを掴んで把持する把持装置であって、弾性変形可能な仕切膜と、前記仕切膜を弾性変形させる変形手段と、前記仕切膜の周縁から一体に延出し、前記変形手段による前記仕切膜の弾性変形に伴って中心軸方向に向かって弾性変形して前記ワークを包み込む筒状の把持部とを備える。
【0008】
本発明に係る産業用ロボットは、上記把持装置を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、仕切膜が弾性変形することにより、把持部が中心軸方向に弾性変形(収縮)し、把持部がワークの外周面に全周に亘って均一に当接してワークを包み込む。このとき、ワークの外周面と把持部との接触点には、把持部からワークに対して押圧力が作用する。この結果、ワークの外周面と把持部との間には、押圧力に比例する摩擦力が作用する。
【0010】
また、把持部がワークの外周面に全周に亘って均一に当接してワークを包み込むことにより、ワークと把持部と仕切膜との間に密閉空間が形成される。密閉空間の容積が仕切膜の弾性変形によって増大するため、密閉空間には負圧が発生する。この密閉空間に発生する負圧により、ワークが吸引される。
【0011】
したがって、ワークの外周面と把持部との間に作用する摩擦力と、ワークと把持部と仕切膜との間に形成される密閉空間に発生する負圧による吸引力とにより、掴みにくい形状のワークや表面が滑り易いワークを確実に掴んで把持することができる把持装置及び産業用ロボットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態に係る産業用ロボットの正面図である。
図2】第1実施形態に係る把持装置の破断正面図である。
図3】第1実施形態に係る把持装置の把持部材を示す図であって、(a)は把持部材を斜め上方から見た斜視図、(b)は把持部材を斜め下方から見た斜視図である。
図4】第1実施形態に係る把持装置の把持部材を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は底面図である。
図5図4(b)のA-A線断面図である。
図6】(a)~(c)は第1実施形態に係る把持装置の作用を示す半裁断面図である。
図7】第2実施形態に係る把持装置の把持部材を斜め上方から見た斜視図である。
図8】第2実施形態に係る把持装置の把持部材を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図である。
図9図8(b)のB-B線断面図である。
図10】第3実施形態に係る把持装置の把持部材を示す図であって、(a)は把持部材を斜め上方から見た斜視図、(b)は把持部材を斜め下方から見た斜視図である。
図11】第3実施形態に係る把持装置の把持部材を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は底面図である。
図12図11(b)のC-C線断面図である。
図13】第4実施形態に係る把持装置の把持部材を斜め上方から見た斜視図である。
図14】第4実施形態に係る把持装置の把持部材を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は底面図である。
図15図14(c)のD-D線断面図である。
図16】(a)~(f)は変形例に係る把持装置の把持部材の種々の形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。以下に示す実施形態は、本発明の一例であり、本発明はこれに限られるものではない。各実施形態に関する以下の説明において、同様の構成については同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0014】
<第1実施形態>
[産業用ロボット]
図1は第1実施形態に係る産業用ロボット100の正面図である。産業用ロボット100は、後述する把持装置1によって基台50上のワークWを把持し、把持装置1を図1のX軸方向(左右方向)、Y軸方向(図1の紙面垂直方向)、及びZ軸方向(上下方向)に沿って移動することによって、ワークWを所定の場所へと移送するための直交ロボットである。ワークWは、図1では円錐台状に形成されている。なお、産業用ロボットとしては、直交ロボットに限られず、スカラロボット、垂直多関節ロボットなどでもよい。
【0015】
産業用ロボット100は、基台50に対し水平に設置されたレール101に沿ってX軸方向に移動可能な移動体102と、移動体102の下部に固定されたエアシリンダ103と、エアシリンダ103から下方に延びる伸縮(上下動)可能なピストンロッド103bの下端に固定された把持装置1とを備えている。本実施形態では把持装置1をエアシリンダ103に設ける場合について説明するが、本発明はこれに限らず、把持装置1は油圧シリンダに設けても良い。
【0016】
レール101は、図1のY軸方向に移動可能である。このため、把持装置1は、移動体102が移動することによりX軸方向へ移動し、レール101が移動することによりY軸方向へ移動し、エアシリンダ103のピストンロッド103bが上下動することによってZ軸方向へ移動する。
【0017】
エアシリンダ103は、シリンダ103aと、シリンダ103a内に伸縮(上下動)可能に設けられたピストン(図示なし)と、ピストンと接続したピストンロッド103bとを備えている。ピストンロッド103bの下端には、把持装置1を装着するためのアダプタプレート106が取り付けられている。シリンダ103a内は、ピストンによって上下に配置された上部室及び下部室(何れも図示なし)に区画されている。上部室はエア配管104と接続し、下部室はエア配管105と接続している。エア供給源の圧縮エアがエア配管104から上部室へ供給されるとともに、下部室内のエアがエア配管105から排出されると、ピストンロッド103bとこれに取り付けられた把持装置1がZ軸方向に沿って下動する。また、エア供給源の圧縮エアがエア配管105から下部室へ供給されるとともに、上部室内のエアがエア配管104から排出されると、ピストンロッド103bとこれに取り付けられた把持装置1がZ軸方向に沿って上動する。
【0018】
[把持装置]
図2は第1実施形態に係る把持装置1の破断正面図である。把持装置1は、上部に設けられた脱着部2をアダプタプレート106(図1参照)に装着することによって、ピストンロッド103bの下端にワンタッチで簡単に装着される。
【0019】
把持装置1においては、脱着部2の下部に把持部材10が着脱可能に取り付けられている。把持部材10は、筒状の部材であり、本実施形態では円筒状である。把持部材10は、筒状のケーシング11と、ケーシング11内を上下に仕切る弾性変形可能な薄い仕切膜12とで構成されており、上部に開口部14を有している。把持部材10の開口部14は、有底円筒状のケース部材4によって閉塞されている。より詳細には、ケース部材4は、その円筒部4Aが把持部材10の開口部14に上方から嵌め込まれ、把持部材10の上部の外周面に巻き付けられたバンド5によって把持部材10の上部に挿入嵌着されている。
【0020】
ケース部材4の円板部4Bの中心にはプラグ状の継手6が螺着されており、この継手6が脱着部2に下方から装着されることによって、把持部材10が脱着部2にワンタッチで簡単に取り付けられる。
【0021】
把持装置1は、脱着部2の外周、ケース部材4の表面及び把持部材10の上部外周を覆う円筒状のカバー部3をさらに備えている。カバー部3は、例えば、樹脂やゴムなどの弾性材料、発泡材などのクッション性に優れた材料で形成される。把持装置1は、脱着部2、ケース部材4及び把持部材10がカバー部3によって覆われているので、脱着部2やバンド5が露出せず、また、脱着部2とケース部材4との接続部分、ケース部材4と把持部材10との接続部分も露出しない。したがって、把持装置1は、カバー部3を備えていることにより、脱着部2やバンド5の凹凸部分、脱着部2とケース部材4との接続部分、ケース部材4と把持部材10との接続部分などに異物が溜まることが防止されている。なお、本実施形態ではカバー部3を用いているが、これに限られず、カバー部3を用いなくても良い。
【0022】
把持部材10の構成の詳細を図3図5に基づいて以下に説明する。
【0023】
図3(a)は第1実施形態に係る把持装置1の把持部材10を斜め上方から見た斜視図である。図3(b)は把持部材10を斜め下方から見た斜視図である。図4(a)は把持部材10を示す平面図である。図4(b)は把持部材10を示す正面図である。図4(c)は把持部材10を示す底面図である。図5図4(b)のA-A線断面図である。
【0024】
把持部材10は、上述したようにケーシング11と仕切膜12とで構成されている。ケーシング11のうち、仕切膜12によって仕切られたスカート状の下側部分は、仕切膜12の周縁から下方に一体に延出する把持部11Aを構成している。把持部11Aは、仕切膜12が弾性変形すると、この仕切膜12の弾性変形に伴って中心軸CL方向(図5参照)に向かって弾性変形(縮径)してワークWをその周囲から包み込むように把持する。把持部11Aは、下方に向かって肉厚が薄くなるように先細状に成形されている。すなわち、把持部11Aの下半部外周面は、下方に向かって縮径するように凸状の円弧曲面11aを成している。
【0025】
ケーシング11のうち、仕切膜12によって仕切られた筒状の上側部分は、把持部材10をケース部材4に接続する接続部11Bを構成している。接続部11Bは、ケース部材4の円筒部4Aの外周にバンド5によって加締められる加締部11B1と、加締部11B1と把持部11Aとの間の境界部分に形成される変形部11B2とを備えている。すなわち、接続部11Bのうち、把持部11Aとの境界部分に変形部11B2が形成されている。変形部11B2の肉厚は、加締部11B1の肉厚よりも厚く設定されている。把持部11Aの肉厚は、変形部11B2の肉厚よりも厚く設定されている。
【0026】
変形部11B2は、把持部11Aの弾性変形の起点となるものである。変形部11B2は、本実施形態では、図3(a)、図4(a)及び図5に示すように、周方向に沿って等角度ピッチ(30°ピッチ)で形成された上下方向の複数(図示例では、12)のスリット11b1と、周方向に沿って形成された複数(図示例では、3)の溝11b2を上下方向に配列(3段配置)した多段溝とで構成されている。溝11b2はV字状に形成されている。なお、本実施形態では、変形部11B2を構成するスリット11b1の数を12、多段溝を構成する溝11b2の段数を3としたが、これらの数は必要に応じて任意に設定することができる。
【0027】
本実施形態では、ケーシング11と仕切膜12とは、弾性変形可能な柔軟な材質、例えば、ウレタン、ナイロン、シリコーン樹脂などによって一体に構成されている。なお、ケーシング11と仕切膜12とは必ずしも同一材質である必要はなく、例えば、硬さの異なる異種の材料でケーシング11と仕切膜12とを一体に構成しても良い。また、ケーシング11と仕切膜12とは、必ずしも一体である必要はなく、両者が接合一体化されていれば、それぞれを別体に構成しても良い。
【0028】
仕切膜12は、図5に示すように、下方に向かって膨出する凹曲面として構成されている。仕切膜12の中央部の平坦面12aは、動径方向に形成される平面と同一平面上に形成されている。すなわち、本実施形態では、仕切膜12をケーシング11と一体且つ動径方向に形成される平面と同一平面上に形成した。
【0029】
把持装置1においては、図2に示すように、把持部材10の上部に、ケース部材4、ケーシング11、及び仕切膜12によって画成された密閉空間S1が形成されている。脱着部2の上部外周には給排気口2aが形成されている。給排気口2aは、脱着部2の内部と継手6を介して密閉空間S1に連通している。給排気口2aには、配管7の一端が接続されている。配管7の他端には、仕切膜12を弾性変形させる変形手段としての真空ポンプ8が接続されている。配管7の途中には電動式の三方弁9が接続されている。三方弁9と真空ポンプ8は、制御手段であるコントローラ20に電気的に接続されている。
【0030】
三方弁9は、その切り替えによって密閉空間S1を真空ポンプ8に接続し、或いは密閉空間S1を大気中に開放する。三方弁9の切り替えは、コントローラ20によって制御される。また、真空ポンプ8の駆動もコントローラ20によって制御される。
【0031】
三方弁9の切り替えにより真空ポンプ8が密閉空間S1に接続されるとともに、真空ポンプ8が駆動されることにより、密閉空間S1が真空引きされ、密閉空間S1が減圧され、仕切膜12が弾性変形する。なお、本実施形態では変形手段として真空ポンプ8を用いているが、これに限られず、変形手段としては真空ポンプ8とは異なる真空発生装置、例えば真空エジェクタや真空ブロワなどを用いても良い。また、変形手段として、シリンジと、このシリンジ内を軸方向に移動可能なプランジャとを有する注射筒を用いても良い。真空発生装置を密閉空間S1と接続し、密閉空間S1を真空引きすることにより、密閉空間S1が減圧され、仕切膜12が弾性変形する。
【0032】
次に、以上のように構成された把持装置1の作用を図6に基づいて以下に説明する。
【0033】
図6(a)~(c)は把持装置1の作用を示す半裁断面図である。以下、掴みにくい円錐台状のワークWを把持装置1で把持する場合について説明する。
【0034】
図1に示す産業用ロボット100の移動体102をワークWの上方へと移動させた後、エアシリンダ103を駆動してピストンロッド103bを把持装置1とともに下げ、図6(a)に示すように、把持装置1の把持部11AをワークWの周囲に位置させる。
【0035】
図6(a)に示す状態から、コントローラ20からの指令によって三方弁9が切り替えられて変形手段としての真空ポンプ8が密閉空間S1に接続されるとともに、真空ポンプ8が駆動されると、密閉空間S1が真空引きされ、密閉空間S1が減圧される。このように密閉空間S1が減圧されると、図6(b)に示すように、仕切膜12が上方へと引かれて弾性変形(膨張)する。真空ポンプ8は、仕切膜12を弾性変形させる変形手段として機能する。仕切膜12の弾性変形に伴って円筒状の把持部11Aが変形部11B2を起点として中心軸CL方向に弾性変形して縮径し、把持部11Aの先端部の内面がワークWの外周面に接触する。この結果、ワークWと把持部11Aと仕切膜12との間に密閉空間S2が形成される。このとき、密閉空間S2の内圧は大気圧に保持されている。把持部11Aの先端部の内面とワークWの外周面とが接触した点を接触点Qとする。
【0036】
図6(b)に示す状態から、密閉空間S2が真空ポンプ8によってさらに減圧されると、図6(c)に示すように、仕切膜12がさらに大きく弾性変形(膨張)し、これに伴って把持部11Aがさらに中心軸CL方向に弾性変形(縮径)しようとするため、接触点Qにおいて把持部11AからワークWに対して押圧力N(Nは総力であって、各押圧力を周方向に積分した値)が作用する。このため、接触点Qには、図示矢印方向の摩擦力Fが作用する。
【0037】
仕切膜12が図6(b)に示す状態から図6(c)に示す状態となるまでさらに弾性変形(膨張)すると、密閉空間S2の容積が増える。
【0038】
したがって、図6(c)に示す状態では、密閉空間S2の内圧は負圧となり、ワークWの上下に圧力の差(差圧)が生じ、当該ワークWには差圧に基づく上向きの吸引力が作用する。
【0039】
以上のように、第1実施形態に係る把持装置1は、弾性変形可能な仕切膜12と、仕切膜12を弾性変形させる変形手段としての真空ポンプ8と、仕切膜12の周縁から一体に延出し、真空ポンプ8による仕切膜12の弾性変形に伴って中心軸方向に向かって弾性変形してワークWを包み込む筒状の把持部11Aとを備えている。把持装置1によれば、仕切膜12が弾性変形することにより、把持部11Aが中心軸CL方向に弾性変形(収縮)してワークWの外周面に全周に亘って均一に当接する。これにより、把持部11Aは、ワークWをその周囲から包み込む。このとき、把持部11AとワークWとの接触点Qには把持部11AからワークWに対して押圧力Nが作用し、把持部11AとワークWとの間には押圧力Nに比例する摩擦力Fが作用する。
【0040】
また、把持部11AがワークWの外周面に全周に亘って均一に当接することにより、ワークWと把持部11Aと仕切膜12との間には密閉空間S2が形成される。この密閉空間S2の容積が仕切膜12の弾性変形によって増大するため、密閉空間S2には負圧が発生する。密閉空間S2に負圧が発生することで、ワークWの上下に圧力の差(差圧)が生じる。このため、ワークWは、密閉空間S2に発生する負圧による吸引力で吸引される。
【0041】
したがって、ワークWは、その外周面と把持部11Aとの接触点Qに作用する摩擦力Fの垂直成分と、密閉空間S2に発生する負圧による吸引力との双方によって把持される。このため、把持装置1は、掴みにくい円錐台状のワークWを確実に掴んで把持することができる。
【0042】
そして、このような把持装置1を備えた図1に示す産業用ロボット100によれば、掴みにくい円錐台状のワークWを確実に掴んで把持して所定の場所へと移送することができる。
【0043】
すなわち、図2に示すコントローラ20は、把持装置1によってワークWが把持されたこと示す信号を不図示のセンサなどから受信すると、図1に示すエアシリンダ103のシリンダ103a内の下部室にエア配管105から圧縮エアを供給するとともに、上部室内のエアをエア配管104から排出する。エアシリンダ103のピストンロッド103bが把持装置1とともに上動し、ワークWが把持装置1に把持された状態で所定高さ位置まで持ち上げられる。コントローラ20は、不図示の駆動装置を駆動して移動体102をレール101に沿ってX軸方向に移動させるとともに、レール101をY軸方向に移動させ、把持装置1に把持されたワークWをX-Y平面内の所定位置へと移送する。
【0044】
コントローラ20は、ワークWが所定位置へと移送されたことを示す信号を不図示のセンサなどから受信すると、エアシリンダ103のシリンダ103a内の上部室にエア配管104から圧縮エアを供給するとともに、下部室内のエアをエア配管105から排出する。エアシリンダ103のピストンロッド103bが把持装置1とこれに把持されたワークWとともに下動し、ワークWを所定位置に載置する。
【0045】
コントローラ20は、ワークWが所定位置に載置されたことを示す信号を不図示のセンサなどから受信すると、三方弁9を切り替えて密閉空間S1を大気に開放する。配管7から密閉空間S1内に外気が導入され、密閉空間S1の内圧が大気圧に等しくなる。
【0046】
密閉空間S1の内圧が大気圧に等しくなると、把持装置1の把持部材10においては、仕切膜12が自身の弾性復元力によって図5に示す初期状態に復帰し、これに伴って把持部11Aも図5に示す元の状態に戻り、図6(a)に示すように、ワークWが把持部11Aから離れて所定の位置に正確に位置決めされて載置される。
【0047】
産業用ロボット100によって以上の一連の動作が連続的に繰り返されることによって、複数のワークWが把持装置1によって把持されて所定の位置へと自動的に移送され、人手による作業が省略されて省力化と高効率化が図られる。
【0048】
本実施形態では、掴みにくい円錐台状のワークWを把持装置1で把持する場合を例として説明したが、把持装置1は、錐体や半球状の掴みにくいワーク、或いは表面が滑り易いワークを確実に掴んで把持することができる。
【0049】
把持装置1は、真空引きされる密閉空間S1とワークWとが仕切膜12によって仕切られているため、例えば、ワークWが食品である場合などにおいて食品の一部が配管7に吸い込まれ、配管7に詰まりが発生したり、詰まった食品が腐敗するなどの問題が発生することがない。
【0050】
把持装置1は、仕切膜12の弾性変形量、つまりは密閉空間S1の減圧度(真空度)の調節のみで、把持力の調整を簡単に行うことができるため、ワークWを常に確実に把持することができる。
【0051】
仕切膜12は、図5に示す初期状態(密閉空間S1が真空引きされていない状態)では、その中央部が下方に向かって膨出する円弧曲面状を成している。このため、把持装置1は、密閉空間S1が減圧された場合の仕切膜12の弾性変形量(膨張量)が大きくなり、この仕切膜12の弾性変形に伴う把持部11Aの弾性変形量と密閉空間S2に発生する負圧の値が大きくなって、把持部11AによってワークWを一層効果的に把持することができる。
【0052】
仕切膜12が弾性変形し易いように、仕切膜12を蛇腹状としたり、段付き状としても良い。或いは、仕切膜12に弾性変形のガイドとなるような治具(例えば、傘の骨のような治具)を取り付けても良い。
【0053】
把持部11AのワークWとの接触部に、ワークWとのシール性を高めるためのシール機構(例えば、柔軟なOリングやベローズなど)を設けても良い。
【0054】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係る把持装置の把持部材の構成を図7図9に基づいて以下に説明する。第2実施形態に係る把持装置は、第1実施形態に係る把持装置1の把持部材10の代わりに、把持部材10Aを備えるものである。
【0055】
図7は第2実施形態に係る把持装置の把持部材10Aを斜め上方から見た斜視図である。図8(a)は把持部材10Aを示す平面図である。図8(b)は把持部材10Aを示す正面図である。図9図8(b)のB-B線断面図である。これらの図においては、図2図5において示したものと同一要素には同一符号を付しており、以下、それらについての再度の説明は省略する。
【0056】
第2実施形態に係る把持部材10Aにおいては、図7図8(a)及び図9に示すように、周方向に等角度ピッチ(30°ピッチ)で形成された上下方向の複数(図示例では、12)のスリット11b1によって変形部11B2が構成されており、その他の構成は第1実施形態に係る把持部材10の構成と同じである。
【0057】
把持部材10Aを備える第2実施形態に係る把持装置においても、仕切膜12の弾性変形に伴って把持部11Aが変形部11B2を起点として弾性変形してワークWをその周囲から包むときに当該ワークWの外周面と把持部11Aとの接触点に作用する摩擦力と、把持部11Aの弾性変形に伴うワークWの上下に作用する圧力の差(差圧)による吸引力とによって、ワークWを確実に掴んで把持するという、第1実施形態に係る把持装置1と同様の効果が得られる。
【0058】
第2実施形態に係る把持装置を備えた産業用ロボットにおいても、掴みにくい円錐台状のワークWを確実に掴んで把持して所定の場所へと移送することができるという、第1実施形態に係る把持装置1を備えた産業用ロボット100と同様の効果が得られる。
【0059】
なお、第2実施形態では、変形部11B2を構成するスリット11b1の数を12としたが、その数は必要に応じて任意に設定することができる。
【0060】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態に係る把持装置の把持部材の構成を図10図12に基づいて以下に説明する。第3実施形態に係る把持装置は、第1実施形態に係る把持装置1の把持部材10の代わりに、把持部材10Bを備えるものである。
【0061】
図10(a)は第3実施形態に係る把持装置の把持部材10Bを斜め上方から見た斜視図である。図10(b)は把持部材10Bを斜め下方から見た斜視図である。図11(a)は把持部材10Bを示す平面図である。図11(b)は把持部材10Bを示す正面図である。図11(c)は把持部材10Bを示す底面図である。図12は、図11(b)のC-C線断面図である。これらの図においても、図2図5において示したものと同一要素には同一符号を付しており、以下、それらについての再度の説明は省略する。
【0062】
第3実施形態に係る把持部材10Bにおいては、図10(b)、図11(c)及び図12に示すように、仕切膜12の下面周縁と把持部11Aの内周面との間に側面視三角状の複数(図示例では、12)のリブ13を周方向に沿って等角度ピッチ(30°ピッチ)で一体に形成しており、他の構成は第1実施形態に係る把持部材10の構成と同じである。
【0063】
把持部材10Bを備える第3実施形態に係る把持装置においても、仕切膜12の弾性変形に伴って把持部11Aが変形部11B2を起点として弾性変形してワークWをその周囲から包むときに当該ワークWの外周面と把持部11Aとの接触点に作用する摩擦力と、把持部11Aの弾性変形に伴うワークWの上下に作用する圧力の差(差圧)による吸引力とによって、ワークWを確実に掴んで把持するという、第1実施形態に係る把持装置1と同様の効果が得られる。
【0064】
第3実施形態では、仕切膜12の下面周縁と把持部11Aの内周面との間に側面視三角状の複数(図示例では、12)のリブ13を周方向に沿って等角度ピッチ(30°ピッチ)で一体に形成したため、仕切膜12の弾性変形に伴って発生する力が複数のリブ13を介して把持部11Aに対して周方向に均一に作用し、この力が把持部11AのワークWを掴む方向(中心軸CL方向)の弾性変形(縮径)を補助する。このため、ワークWが把持部11Aによって一層確実に把持されるという効果が得られる。
【0065】
第3実施形態に係る把持装置を備えた産業用ロボットにおいても、掴みにくい円錐台状のワークWを確実に掴んで把持して所定の場所へと移送することができるという、第1実施形態に係る把持装置1を備えた産業用ロボット100と同様の効果が得られる。
【0066】
なお、第3実施形態では、リブ13の数を12としたが、この数は必要に応じて任意に設定することができる。
【0067】
<第4実施形態>
次に、第4実施形態に係る把持装置の把持部材の構成を図13図15に基づいて以下に説明する。第4実施形態に係る把持装置は、第1実施形態に係る把持装置1の把持部材10の代わりに、把持部材10Cを備えるものである。
【0068】
図13は第4実施形態に係る把持装置の把持部材10Cを斜め上方から見た斜視図である。図14(a)は把持部材10Cを示す平面図である。図14(b)は把持部材10Cを示す正面図である。図14(c)は把持部材10Cを示す底面図である。図15図14(c)のD-D線断面図である。これらの図においても、図2図5において示したものと同一要素には同一符号を付しており、以下、それらについての再度の説明は省略する。
【0069】
第4実施形態に係る把持部材10Cにおいては、図13図14(b),(c)及び図15に示すように、把持部11Aの外周に複数(図示例では、12)の薄肉部11bを周方向に等角度ピッチ(30°ピッチ)で形成しており、他の構成は第3実施形態に係る把持部材10Bの構成と同じである。
【0070】
把持部材10Cを備える第4実施形態に係る把持装置においても、仕切膜12の弾性変形に伴って把持部11Aが変形部11B2を起点として弾性変形してワークWをその周囲から包むときに当該ワークWの外周面と把持部11Aとの接触点に作用する摩擦力と、把持部11Aの弾性変形に伴うワークWの上下に作用する圧力の差(差圧)による吸引力によって、ワークWを確実に掴んで把持するという、第1実施形態に係る把持装置1と同様の効果が得られる。
【0071】
第4実施形態では、把持部11Aの外周に複数(図示例では、12)の薄肉部11bを周方向に等角度ピッチ(30°ピッチ)で形成したため、把持部11Aの全体の剛性が複数の薄肉部11bによって下がり、その分だけ把持部11Aが弾性変形し易くなる。この結果、ワークWが把持部11Aによって一層確実に把持されるという効果が得られる。
【0072】
第4実施形態に係る把持装置を備えた産業用ロボットにおいても、掴みにくい円錐台状のワークWを確実に掴んで把持して所定の場所へと移送することができるという、第1実施形態に係る把持装置1を備えた産業用ロボット100と同様の効果が得られる。
【0073】
なお、第4実施形態では、薄肉部11bの数を12としたが、この数は必要に応じて任意に設定することができる。
【0074】
<変形例>
以上の第1~第4実施形態においては、把持部材10,10A,10B,10Cとして円筒状のものを用いたが、把持部材としては、例えば図16(a)~(f)に示すような種々の形状のものを使用することができる。
【0075】
図16(a)~(f)は変形例に係る把持装置の把持部材の種々の形態を示す斜視図である。図16(a)は変形例1に係る把持部材10aを示す斜視図である。把持部材10aは、六角筒状に形成されている。図16(b)は変形例2に係る把持部材10bを示す斜視図である。把持部材10bは、テーパ円筒状に形成されている。図16(c)は変形例3に係る把持部材10cを示す斜視図である。把持部材10cは、円筒と六角筒とを上下に組み合わせた構成を有する。図16(d)は変形例4に係る把持部材10dを示す斜視図である。把持部材10dは、六角筒の外面の一部に突起10d1を突設した構成を有する。突起10d1は、センサなどを取り付けるために用いても良い。図16(e)は変形例5に係る把持部材10eを示す斜視図である。把持部材10eは、大小の六角筒を上下に組み合わせた構成を有する。図16(f)は変形例6に係る把持部材10fを示す斜視図である。把持部材10fは、円筒の高さ方向中間部に凹部10f1が形成された構成を有する。なお、これらは一例であって、把持部材としては他の任意の形状のものを使用することができる。
【0076】
本発明に係る把持装置においては、仕切膜12の弾性変形を抑制するためのリミッタ(例えば、特開2019-188577号公報参照)を設けても良い。
【0077】
以上の実施形態では、仕切膜12を弾性変形させるための変形手段として真空ポンプ8(真空発生装置)を用いて密閉空間S1を減圧する方法を用いたが、変形手段としては、仕切膜12を機械的に変形させる手段を用いても良い。
【0078】
なお、本発明は、以上説明した実施形態及び変形例に適用が限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0079】
1 把持装置
4 ケース部材
7 配管
8 真空ポンプ(変形手段)
9 三方弁
10 把持部材
11 ケーシング
11A 把持部
11B 接続部
11B1 加締部
11B2 変形部
11a 円弧曲面
11b 薄肉部
11b1 スリット
11b2 溝
12 仕切膜
13 リブ
20 コントローラ
100 産業用ロボット
CL 中心軸
F 摩擦力
N 押圧力
Q 接触点
S1,S2 密閉空間
W ワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16