(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】電動巻き上げ装置及び魚釣用電動リール
(51)【国際特許分類】
B66D 1/12 20060101AFI20240702BHJP
A01K 89/017 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B66D1/12
A01K89/017
(21)【出願番号】P 2021111899
(22)【出願日】2021-07-06
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】阿部 佑太郎
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-000085(JP,A)
【文献】中国実用新案第211226131(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66D 1/00- 5/34
A01K 89/00-89/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻き上げ対象物を牽引するための牽引部材が巻回される回転体と、電動モータとを有し、前記電動モータの回転駆動によって前記回転体を回転させて前記回転体に対する牽引部材の巻き取り行なう電動巻き上げ装置であって、
前記電動モータは、そのロータの回転軸と同軸的に延在する貫通孔を有する中空形態を成し、前記貫通孔には、前記電動巻き上げ装置を構成する部材が
前記ロータと一体回転することなく挿通配置されていることを特徴とする電動巻き上げ装置。
【請求項2】
前記貫通孔は、前記電動巻き上げ装置を構成して前記電動モータの一方側に位置される構成要素と前記電動巻き上げ装置を構成して前記電動モータの他方側に位置される構成要素及び/又は前記電動モータとの間で機械的な力又は電気信号を伝達する伝達経路を構成することを特徴とする請求項1に記載の電動巻き上げ装置。
【請求項3】
前記電動巻き上げ装置を構成する前記部材は、前記電動巻き上げ装置を構成して前記電動モータの一方側に位置される構成要素と前記電動巻き上げ装置を構成して前記電動モータの他方側に位置される構成要素及び/又は前記電動モータとを接続する接続要素を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の電動巻き上げ装置。
【請求項4】
前記回転体が前記接続要素に対して回転可能に支持されることを特徴とする請求項3に記載の電動巻き上げ装置。
【請求項5】
前記貫通孔が前記ロータによって形成されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の電動巻き上げ装置。
【請求項6】
前記回転体は、その回転軸と同軸的に貫通して延在する通孔を有し、該通孔が前記電動モータの前記貫通孔と同軸的に配置されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の電動巻き上げ装置。
【請求項7】
前記回転体には、前記電動モータと前記回転体との間に軸方向で並設された減速機構を介して電動モータから回転駆動力が伝達され、前記回転体がその回転軸と同軸的に貫通して延在する通孔を有し、前記減速機構は、前記回転体の前記通孔と前記電動モータの前記貫通孔とを同軸的に連通させる連通孔を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の電動巻き上げ装置。
【請求項8】
前記電動巻き上げ装置を構成する前記部材は、
前記電動モータの動力を前記回転体に伝えることができる動力伝達状態と、前記電動モータから前記回転体への動力伝達が遮断される動力遮断状態とを切り換えるためのクラッチ機構、
前記回転体の回転に制動力を付与するドラグ機構、
前記回転体及び前記電動モータの動作状態を検出する検出手段、
前記電動モータ及び/又は前記検出手段に電力を供給する給電手段、
前記電動モータ以外の他の駆動源から回転駆動力を前記回転体に伝達するための駆動力伝達機構、及び、
前記電動モータの一方向の回転を許容して他方向の回転を阻止する回転規制手段、
のうちのいずれか1つを少なくとも含むことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の電動巻き上げ装置。
【請求項9】
前記電動巻き上げ装置を構成する前記部材は、前記電動モータからの回転を前記回転体に減速して伝える減速機構を含むことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の電動巻き上げ装置。
【請求項10】
釣糸が巻回されるスプールと、電動モータとを有し、前記電動モータの回転駆動によって前記スプールを回転させて前記スプールに対する釣糸の巻き取り行なう魚釣用電動リールであって、
前記電動モータは、そのロータの回転軸と同軸的に延在する貫通孔を有する中空形態を成し、前記貫通孔には、前記電動リールを構成する部材が前記ロータと一体回転することなく挿通配置されていることを特徴とする魚釣用電動リール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータの回転駆動によって回転体を回転させて回転体に対する牽引部材の巻き取りを行なう電動巻き上げ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータの駆動力を利用して寝具、梱包類、仮設足場、建造物、漁労具等の対象物を所定位置まで巻き上げたり、降ろしたりする電動巻き上げ装置は、工業用のウインチも含めて、従来から一般的に知られている。
【0003】
また、魚釣用リールの技術分野でも、船釣り、特に深場の釣りにおいては、電動巻き上げ装置として電動リールが多く使用されている現状にある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このような様々なタイプの電動巻き上げ装置は、少なくとも、電動モータの正回転によって牽引部材を回転体(例えば、ドラムやスプール)に巻き取ることができ、また、用途によっては、電動モータの逆回転によって牽引部材を回転体から繰り出すこともできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような電動巻き上げ装置では、前述した特許文献1にも開示されるように、一般に、中実形態を成す電動モータの動力が例えば減速機などを介して回転体に伝達されるようになっている。そして、電動モータは、牽引対象物を牽引する牽引部材を巻き取るべく回転体を回転駆動させるのに十分なパワーを要し、したがって、そのようなパワーを出力するのに十分な大きさを有することから、必然的に装置内でも大きな設置スペースを占めることとなる。
【0007】
しかしながら、このような電動モータが中実形態を成して装置内で大きな設置スペースを占めると、特に電動モータの両側に位置される装置の構成要素同士を機械的又は電気的に接続する際に、その接続経路が電動モータによって分断される場合がある。そのような場合、接続経路は電動モータを大きく迂回することを余儀なくされ、そのような迂回経路のスペースを確保する分、装置全体も大型化する。これは、特に、接続経路が電動モータとの接続も伴う場合には、接続経路の配置形態が複雑となることから、更に顕著となる。
【0008】
また、このような中実形態の電動モータは、その配置態様によっては、構成要素自体の分断をももたらす場合がある。例えば、前述した特許文献1では、中実形態の電動モータがスプールの回転軸を分断するように配置されており、このため、スプールの軸支(軸受支持)が電動モータを避けるように電動モータの外径よりも大きな外径寸法位置で行なわれている。このような構造では、軸受の径が大きくなってしまい、体積増やトルク損失増加といった不具合をもたらし得る。
【0009】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、電動モータによる接続経路の分断を回避して装置全体の小型化及び機能の最適化を実現できる電動巻き上げ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するために、本発明は、巻き上げ対象物を牽引するための牽引部材が巻回される回転体と、電動モータとを有し、前記電動モータの回転駆動によって前記回転体を回転させて前記回転体に対する牽引部材の巻き取り行なう電動巻き上げ装置であって、前記電動モータは、そのロータの回転軸と同軸的に延在する貫通孔を有する中空形態を成し、前記貫通孔には、前記電動巻き上げ装置を構成する部材が挿通配置されていることを特徴とする。
【0011】
上記した電動巻き上げ装置によれば、巻き上げ対象物(牽引対象物)を牽引する牽引部材を巻き取るべく回転体を回転駆動させるのに十分なパワーを要して装置内で大きな設置スペースを占め得る電動モータに、そのロータの回転軸と同軸的に延在する貫通孔を設けるとともに、この貫通孔内に電動巻き上げ装置を構成する部材を挿通配置するようにしているため、例えば、電動モータの両側に位置される装置の構成要素同士を機械的又は電気的に接続する際にも、その接続を果たす接続要素を前記部材として貫通孔に配置することにより、接続経路が電動モータによって分断されるような事態を回避できる。これにより、接続経路が電動モータを大きく迂回せずに済むため、そのような迂回経路のスペースを確保する必要もなく、それに伴う装置の大型化も防止できる。また、貫通孔を効率的且つ有効に利用することにより、装置の小型化も可能となる。
【0012】
また、このように電動モータに貫通孔を設けてその貫通孔を部材配置スペースとして利用できれば、装置の構成要素自体が電動モータによって分断されるような事態も回避でき、そのため、例えば軸受支持位置等も機能的及び構造的に有利に設定でき、体積増やトルク損失増加などといった不具合を生じさせずに済む(構造的及び機能的に最適化できる)。
なお、上記構成において、「構成要素」とは、電動巻き上げ装置を構成するもののうち、電動モータの一方側または他方側に位置されて電動モータの貫通孔に挿通されないものを指し、「部材」とは、電動巻き上げ装置を構成するもののうち、電動モータの貫通孔に挿通されるもの(例えば、前述した接続要素など)を指す。
【0013】
また、上記構成では、特に、電動モータの貫通孔が、電動モータの一方側に位置される構成要素と他方側に位置される構成要素及び/又は電動モータとの間で機械的な力(特に、駆動力)又は電気信号を伝達する伝達経路を成すことにより、効率的な無駄のない力伝達及び信号伝達が可能となり、装置を機能的及び構造的に最適化できるようになるとともに、装置の小型化にも寄与し得る。
【0014】
なお、上記構成において、「電気信号」とは、電流、電圧、電力といった電気的エネルギー、電気的な検出信号を含め、全ての電気的流れを含む広い概念を意味する。また、上記構成において、回転体に対する電動モータの配置形態は任意に設定できる。例えば、電動モータが回転体内に配置されてもよいが、本発明は、電動モータが回転体と軸方向で並設される場合に、装置小型化に関して特に有益となり得る。また、上記構成において、貫通孔は、電動モータの構造形態に応じてその形成態様が異なり得るが、貫通孔がロータによって形成されると、貫通孔を介して回転駆動力を出力できるという点で有利である。また、上記構成において、回転体がその回転軸と同軸的に貫通して延在する通孔を有する場合には、該通孔が電動モータの貫通孔と同軸的に配置されることが好ましく、また、これに加え、電動モータと回転体との間に軸方向で並設された減速機構を介して電動モータから回転体に回転駆動力が伝達される場合には、減速機構が、回転体の通孔と電動モータの貫通孔とを同軸的に連通させる連通孔を有することが好ましい。このように、互いに軸方向で並設される孔同士が連通して同軸的に配置されれば、これらの孔を通じた部材(例えば、前述した接続要素)の挿通配置と相俟って、各構成要素の同心度を容易に確保できるとともに、構成要素同士の位置関係も高精度に確保できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電動モータによる接続経路の分断を回避して装置全体の小型化及び機能の最適化を実現できる電動巻き上げ装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る電動巻き上げ装置の要部構成を示す断面図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態に係る電動巻き上げ装置の外観を示す斜視図である。
【
図3】本発明の第2の実施形態に係る電動巻き上げ装置の要部構成を示す断面図である。
【
図4】本発明の第3の実施形態に係る電動巻き上げ装置の要部構成を示す断面図である。
【
図5】本発明の第4の実施形態に係る電動巻き上げ装置の要部構成を示す断面図である。
【
図6】本発明の第5の実施形態に係る電動巻き上げ装置の要部構成を示す断面図である。
【
図7】本発明の第6の実施形態に係る電動巻き上げ装置の要部構成を示す断面図である。
【
図8】
図7の構成の利点を説明するための模式図である。
【
図9】本発明の第7の実施形態に係る電動巻き上げ装置の要部構成を示す断面図である。
【
図10】本発明の第8の実施形態に係る電動巻き上げ装置の要部構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る電動巻き上げ装置について魚釣用電動リールを例にとって説明するが、本発明は、魚釣用電動リールに限定されず、工業用のウインチも含め、電動モータの駆動力を利用して寝具、梱包類、仮設足場、建造物、漁労具等の対象物を所定位置まで巻き上げたり、降ろしたりする全ての電動巻き上げ装置に適用できることは言うまでもない。また、複数の図において共通する構成要素にはこれらの複数の図にわたって同一の参照符号を付すことにより、既に説明した構成要素についてその説明を省略するものとする。
【0018】
図1には、本発明の第1の実施形態に係る電動巻き上げ装置としての魚釣用電動リール(以下、単に電動リールと称する)10の要部構成が示されている。図中、参照符号1はフレームであり、参照符号2は、フレーム1の開口部を塞ぐようにフレーム1の一方側に取り付けられるサイドプレートであり、これらのフレーム1及びサイドプレート2は電動リール1の外装を形成する。サイドプレート2は、後述する電動モータ3及びスプール4の位置決めを行なう役割を果たす。
【0019】
図示のように、電動リール10は、牽引部材としての釣糸が巻回される回転体としてのスプール4と、電動モータ3とを有し、電動モータ3の回転駆動によってスプール4を回転させてスプール4に対する釣糸の巻き取り行なうようになっている。このように巻き取り駆動に電動モータ3が関与する場合、電動モータ3は、魚や仕掛け等の巻き取り対象物(牽引対象物)を巻き取るべく回転するスプール3を駆動させるのに十分なパワーを要することから、そのようなパワーを出力するのに十分な大きさを有し、したがって、
図1に示されるように電動リール10内で大きな設置スペース(本実施形態では電動リール10全体のほぼ半分の軸方向スペース)を占めている。なお、電動モータ3は、任意の構造形態を成してもよいが、本実施形態では、例えば実用新案登録第3228782号に開示されるモータと同一の構造形態を成す。
【0020】
具体的には、電動モータ3は、サイドプレート2によってスプール4と同軸となるように支持される軟磁性材から成るステータ3aを有し、ステータ3aは、スプール4側に向けて軸方向に延びるとともに同心的な2つの環状体を形成するように配置される複数の支持体3aa,3abを有する。これらの支持体3aa,3abのうち、内側の環状体を形成する内側支持体3aaのそれぞれには、対応する環状の第1のコイル3bが支持されるとともに、外側の環状体を形成する外側支持体3abのそれぞれには対応する環状の第2のコイル3cが支持されている。この場合、各コイル3b,3cは、ステータ3aを励磁する役割を果たし、その内周面が対応する支持体3aa,3abの外周面に嵌合する状態で支持されている。
【0021】
また、電動モータ3は、ステータ3aに回転自在に支持されるロータ3dを有し、ロータ3dは、ステータ3aの外側支持体3abにより形成される外側環状体とステータ3aの内側支持体3aaにより形成される内側環状体との間の環状空間に入り込むように軸方向に延びる外側環状部3daと、ステータ3aの内側支持体3aaの内側で軸方向に延びてボールベアリング3g,3hを介してステータ3aに回転自在に支持される内側環状部3dbとを有する。この場合、外側環状部3daは磁石3e,3fを支持固定し、また、内側環状部3dbは、ロータ3dの回転軸Oと同軸的に延在する電動モータ3の貫通孔9を形成する。すなわち、本実施形態において、電動モータ3は、そのロータ3dの回転軸Oと同軸的に延在する貫通孔9を有する中空形態を成している。
【0022】
なお、電動モータ3は、貫通孔9を有する中空形態でありさえすれば、他の構造形態を成していてもよく、例えば、ブラシモータやステッピングモータの構造形態を成していても構わない。
【0023】
このような電動モータ3とサイドプレート2によって同軸的に配置される回転体としてのスプール4は、ボールベアリング5,6を介して、フレーム1と、サイドプレート2にネジ固定されるベアリング保持部材7とに対して回転可能に支持される。また、スプール4は、その回転軸Oと同軸的に貫通して延在する通孔4aを有し、この通孔4aは、電動モータ3の貫通孔9と連通状態で同軸的に位置されている。
【0024】
そして、このような構造形態において、本実施形態では、電動リール10を構成する部材が電動リール3の貫通孔9内に挿通配置されている。以下、これについて詳しく説明する。
【0025】
本実施形態において、貫通孔9は、電動リール10を構成して電動モータ3の一方側に位置される構成要素であるスプール4と電動リール10を構成して電動モータ3の他方側に位置される構成要素である手動操作レバー32及び電動モータ3との間で機械的な力を伝達する伝達経路を構成するようになっており、そのために、貫通孔9には、電動リール10を構成する部材として、スプール4と手動操作レバー32及び電動モータ3とを接続する接続要素、具体的には、電動モータ3の動力をスプール4に伝えることができる動力伝達状態と、電動モータ3からスプール4への動力伝達が遮断される動力遮断状態とを切り換えるためのクラッチ機構が挿通配置されている。
【0026】
クラッチ機構は、スプール4に固定されたスプール側係合部材28と、電動モータ3に固定されてロータ3dと同期して回転するモータ側係合部材29と、モータ側係合部材29に形成されたすり割り形状の係合穴29aと軸方向に移動可能にすり割り嵌合されるクラッチ連結部材30と、サイドプレート2に固定されてクラッチ連結部材30を軸方向に移動させるための移動手段31(例えば、特開2008-125430号に開示されたクラッチ連結部材の軸方向の移動手段と同様の構造を成す)と、移動手段31の移動機構を操作する手動操作レバーであるクラッチレバー32とを有し、クラッチレバー32を回動操作することによって移動手段31の移動機構を介してクラッチ連結部材30を軸方向に移動させると、クラッチ連結部材30とスプール側係合部材28とが係合状態と非係合状態との間で切り換わり、電動モータ3の動力をスプール4に伝えることができる動力伝達状態と、電動モータ3からスプール4への動力伝達が遮断される動力遮断状態とを切り換えることができるようになっている。
【0027】
以上説明したように、本実施形態によれば、巻き上げ対象物と共に釣糸を巻き取るべくスプール4を回転駆動させるのに十分なパワーを要して電動リール10内で大きな設置スペースを占める電動モータ3に、そのロータ3dの回転軸Oと同軸的に延在する貫通孔9を設けるとともに、この貫通孔9内に電動リール10を構成する部材を挿通配置するようにしているため、本実施形態のように電動モータ3の一方側に位置されるスプール4と電動モータ3の他方側に位置されるクラッチレバー32及び電動モータ3とを機械的に接続する際にも、その接続を果たす複数の接続要素29,30,31を前記部材として貫通孔9に配置することにより、接続経路が電動モータ3によって分断されるような事態を回避できる。これにより、接続経路が電動モータ3を大きく迂回せずに済むため、そのような迂回経路のスペースを確保する必要もなく、それに伴う電動リール10の大型化も防止できる。また、貫通孔9を効率的且つ有効に利用することにより、電動リール10の小型化も可能となる。
【0028】
また、このように電動モータ3に貫通孔9を設けてその貫通孔9を部材配置スペースとして利用できれば、電動リール10の構成要素自体が電動モータによって分断されるような事態も回避でき、そのため、例えば軸受支持位置等も機能的及び構造的に有利に設定でき、体積増やトルク損失増加などといった不具合を生じさせずに済む(構造的及び機能的に最適化できる)。
【0029】
また、本実施形態では、電動モータ3の貫通孔9が、スプール4とクラッチレバー32及び電動モータ3との間で機械的な力を伝達する伝達経路を成すことにより、効率的な無駄のない力伝達が可能となり、電動リール10を機能的及び構造的に最適化できるようになるとともに、電動リール10の小型化にも寄与し得る。
【0030】
また、本実施形態では、電動モータ3の貫通孔9がロータ3dによって形成されているため、前述したように貫通孔9を介して回転駆動力を出力できるようになる。
【0031】
なお、前述した特許文献1のように電動モータが中実形態を成す場合、本実施形態のようなクラッチ機構を設けようとすれば、スプール4と電動モータ3との間、電動モータ3とは反対側に位置するスプール4の側(
図1ではスプール4の左側)、或いは、スプール4の通孔4a内の3か所のいずれかにクラッチ機構を配置することが考えられるが、スプール4と電動モータ3との間や、電動モータ3とは反対側に位置するスプール4の側にクラッチ機構を配置してしまうと、電動リール10の軸方向寸法が増大するといった不具合が生じ、一方、スプール4の通孔4a内にクラッチ機構を配置してしまうと、スプール4の外径を大きくせざるを得なくなる。スプール4の外径が大きくなると、スプール4に巻回される釣糸の張力が同じでもトルクが大きくなり、電動モータ3の負荷が増大する。負荷の増大は電動モータ3の大型化を迫る要因である。以上により、本実施形態のように電動モータ3に貫通孔9を設けてこの貫通孔9を部材設置スペースとして利用することが有益であることが分かる。
【0032】
なお、本実施形態では、クラッチ機構により電動モータ3とスプール4との間で動力伝達を実現しているが、例えば特開2011-205912号公報に開示されるように摩擦力に応じたドラグ力によって電動モータ3からスプール4へ動力を伝達するようにしてもよい。この場合も、摩擦ドラグ機構の少なくとも一部が貫通孔9内に配置される。
【0033】
図2及び
図3は、本発明の第2の実施形態に係る電動巻き上げ装置としての電動リール10Aを示している。この場合、
図2は、本実施形態に係る電動リール10Aの外観を示す斜視図であり、
図3は、本実施形態に係る電動リール10Aの要部構成を示す断面図である。
【0034】
図示のように、本実施形態において、スプール4には、電動モータ3とスプール4との間に軸方向で並設された減速機構44を介して電動モータ3から回転駆動力が伝達されるようになっており、それ以外の構成は、貫通孔9内に配置される後述するドラグ機構(スプール4の回転に制動力を付与する機構)を除き、前述した第1の実施形態と同じである。
【0035】
減速機構44は、例えば特開2018-189237号公報に開示されるような中空形態の公知のサイクロイド減速機であり、スプール4の通孔4aと電動モータ3の貫通孔9とを同軸的に連通させる連通孔44aを有するとともに、電動モータ3から入力された回転を出力部材45に減速して出力するようになっている。
【0036】
また、
図3に明確に示されるように、本実施形態において、回転体としてのスプール4を回転可能に支持する前述したボールベアリング5,6は、内輪側が後述する伝達棒(接続要素)36に嵌合支持されるように構成が変更されている(回転体が接続要素に対して回転可能に支持される)。
【0037】
図3中、参照符号33は、スプール4に固定されたスプール側摩擦板であり、参照符号34は、スプール側摩擦板33と対向して位置されるとともに、スプール側摩擦板33との間に発生する回転方向の摩擦力によって電動モータ3の回転をスプール4に伝達する駆動側摩擦板であり、また、参照符号35は、後述する伝達棒36に螺合されるとともに、スプール側摩擦板33と駆動側摩擦板34との間に発生する回転方向の摩擦力の調整を行なうドラグ力調整つまみである(以下、摩擦力をドラグ力という)。
【0038】
また、電動モータ3の貫通孔9内、減速機構44の連通孔44a内、及び、スプール4の通孔4a内には、ドラグ機構を構成する伝達棒36が挿通配置されており、この伝達棒36は、フレーム1及びサイドプレート2により軸支されるとともに、伝達棒36に挿入されて側面がフレーム2に嵌合されるピン37によって回転方向の移動が規制されている。これにより、伝達棒36に螺合されるドラグ力調整つまみ35の締め込み度合いを変化させると、それに応じて伝達棒36が軸方向に移動することになる。
【0039】
伝達棒36には伝達ピン38が圧入固定されており、この伝達ピン38は、伝達棒36の軸方向移動により、伝達棒36と同軸的に配置される弾性部材39を介して、スプール4を回転可能に支持するボールベアリング5の内輪側を軸方向に押圧できるようになっている。これにより、伝達棒36の位置に応じた押し力がスプール4に付加され、この押し力は、スプール4に固定されたスプール側摩擦板33と電動モータ3により駆動される駆動側摩擦板34との間の押付力となる。
【0040】
伝達棒36の外周には支持棒49が同軸的に嵌合配置されている。この支持棒49は、駆動側摩擦板34と回転同期するようになっており、スプール側摩擦板33から駆動側摩擦板34へ向かって付加される軸方向の押付力に対して同等の反力を発生させるようになっている。この場合、支持棒49の一端側は、支持棒49を回転可能に支持するボールベアリング40の内輪側を軸方向に押圧するようになっており、スプール4側からの軸方向の押付力はボールベアリング40を介してサイドプレート2で支持される。
【0041】
サイドプレート2にはレバー部材41が回動可能に嵌合支持されており、このレバー部材41は、スプール側摩擦板33と駆動側摩擦板34とを接触状態と非接触状態とに切り換えるようになっている。レバー部材41にはカム部材42が固定され、このカム部材42には、これと対向するカム相手部材43との接触部に、図示しない斜面が形成されている。この斜面は、レバー部材41の回動方向の移動量をカム相手部材43の軸方向の動きに変換するようになっており、したがって、レバー部材41の回動に応じてカム相手部材43が軸方向に移動するようになる。また、カム相手部材43はドラグ力調整つまみ35と接しており、カム相手部材43の軸方向の移動量がそのままドラグ力調整つまみ35の移動量となる。前述したように、ドラグ力調整つまみ35は、伝達棒36、伝達ピン38、及び、弾性部材39を介してスプール4側と連結されていることから、レバー部材41の回動操作によりスプール4が軸方向に移動し、そのため、レバー部材41によってスプール側摩擦板33と駆動側摩擦板34とを接触状態と非接触状態とに切り換えることができる。
【0042】
また、本実施形態において、駆動側摩擦板34は減速機構44の出力部材45と一体回転するようになっており、そのため、レバー部材41の回動操作は、電動モータ3の動力をスプール4に伝えることができる動力伝達状態と、電動モータ3からスプール4への動力伝達が遮断される動力遮断状態とを切り換えることができるようにし、また、ドラグ力調整つまみ35の調整操作は、動力伝達状態におけるドラグ力を調節できるようにする。つまり、レバー部材41、カム相手部材43、カム部材42、ドラグ力調整つまみ35で構成される調整機構により発生したスプール軸方向の力は、伝達棒36、スプール4、駆動側摩擦板34、支持棒36、サイドプレート2の順で伝わることになる。このような部品群はサイドプレートユニットを構成する部品群であり、押付力の伝達経路はユニット内で完結するように最適化されている。これにより、他のユニットを構成する部品への押付力の影響がなくなり、信頼性の向上が望めるようになる。また、構成の最適化によりリール全体の小型化も望める。
【0043】
以上説明したように、本実施形態では、電動モータ3の貫通孔9内及び減速機構44の連通孔44a内に、ドラグ力を発生させるための押付力を伝える伝達棒36と、押付力を受ける支持棒49とが挿通配置されている。すなわち、本実施形態において、貫通孔9は、電動リール10Aを構成して電動モータ3の一方側に位置される構成要素であるスプール4と電動リール10Aを構成して電動モータ3の他方側に位置される構成要素であるレバー部材41との間で機械的な力を伝達する伝達経路を構成するようになっており、そのために、貫通孔9には、電動リール10Aを構成する部材として、スプール4とレバー部材41とを接続する接続要素、具体的には、ドラグ機構を構成する伝達棒36及び支持棒49が挿通配置されている。これにより、前述した第1の実施形態と同様、電動モータ3による接続経路の分断を回避して電動リール10A全体の小型化及び機能の最適化を実現できる。
【0044】
図4は、本発明の第3の実施形態に係る電動巻き上げ装置としての電動リール10Bを示している。
図4中、参照符号59は、電動リール10Bを構成する部材であるとともに電動リール10Bの構成要素同士を接続する接続要素でもある回転支持部材であり、この回転支持部材59は、電動モータ3の貫通孔9内及びスプール4の通孔4a内に配置されてフレーム1とサイドプレート2とにより支持される(電動モータ3の一方側のフレーム1と他方側のサイドプレート2とを接続している)。また、参照符号11は、ボールベアリングであり、その内輪側が回転支持部材59の外周に嵌合支持されて、スプール4を回転可能に支持する。また、ボールベアリング5は、
図1に示される第1の実施形態では内輪側がフレーム1に嵌合されていたが、本実施形態では内輪側が回転支持部材59に嵌合支持されている。なお、それ以外の構成は、前述した第1の実施形態と同様である。
【0045】
前述した特許文献1では、スプールの回転軸上に中実形態の電動モータが配置されており、スプールを軸支するための部材がリールを横断して配置不可能であった。このため、スプールを支持する2つのボールベアリングはそれぞれ異なる部材に内輪側が嵌合される構成となっている。したがって、2つのボールベアリングの位置精度が出しづらいという欠点があった。また、2つのボールベアリングのうち、電動モータ側に配置されるボールベアリングは電動モータの外形や出力軸を避ける必要があった。そのため、電動モータ側でスプールを支持するボールベアリングは、その内径を出力軸又は電動モータよりも大きくする必要があった。前述したように、ベアリングは、その径が大きいほど、トルク損失、体積、コストが増加する傾向にある。
【0046】
そこで、本実施形態では、スプール4を回転可能に支持する回転支持部材59を電動モータ3の貫通孔9内に配置することにより、スプール4を軸支するボールベアリング11を
図1におけるボールベアリング6よりも小径化することが可能となり、トルク損失の減少、体積減少、及び、コストダウンが望めるようになる。また、本実施形態において、スプール4を支持する2つのボールベアリング5,11はいずれも、その内輪側が回転支持部材59の外周に嵌合されており、そのため、前述した特許文献1と比べて互いの位置関係をより高精度に決めることが可能となる。
【0047】
図5は、本発明の第4の実施形態に係る電動巻き上げ装置としての電動リール10Cを示している。
図5中、参照符号12,13は、電動モータ3に電力を供給する給電手段である。具体的に、参照符号13は電池等の電源装置であり、また、参照符号12は、電源装置13と電動モータ3とを繋ぐ給電ケーブルであり、電動モータ3の貫通孔9内に配置されている。
【0048】
また、
図5中、参照符号14は、ボールベアリング3g,3hを支持するベアリング支持円筒であり、電動モータ3の貫通孔9側からコイル3b,3cが配置される空間内へ給電ケーブル12を通すための給電窓14aを有している。なお、それ以外の構成は、前述した第1の実施形態と同様である。
【0049】
従来において使用される中実形態の電動モータでは、給電ケーブルが電動モータの外装体の側面又は電動モータの出力軸と反対側の底面などに配置されることがほとんどである。また、給電ケーブルは、絶縁性の被覆体で覆われており、被覆体を痛めて性能を損なわないように最小曲げ半径が設定されている。つまり、従来において使用される中実形態のモータは、否応なくその外形から給電ケーブルが飛び出してしまう。そのため、従来においては、給電ケーブルの最小曲げ半径を加味して電動モータの占有スペースを設定しなければならないという欠点があった。
【0050】
これに対し、本実施形態では、給電ケーブル12と電源装置13とから成る給電手段のうち、給電ケーブル12を電動モータ3の貫通孔9内に配置することにより、前述した欠点を解消して電動リール10Cの小型化を可能としている。すなわち、本実施形態において、貫通孔9は、電動リール10Cを構成して電動モータ3の一方側に位置される構成要素である電源装置13と電動モータ3との間で電気信号(電力)を伝達する伝達経路を構成するようになっており、そのために、貫通孔9には、電動リール10Cを構成する部材として、電源装置13と電動モータ3とを接続する接続要素、具体的には、給電ケーブル12が挿通配置されている。これにより、前述した第1の実施形態と同様、電動モータ10Cによる接続経路の分断を回避して電動リール全体の小型化及び機能の最適化を実現できる。なお、本実施形態では、給電ケーブル12と電源装置13とからなる給電手段のうち、給電ケーブル12のみが貫通孔9内に配置される構成になっているが、給電ケーブル12及び電源装置13の両方を貫通孔9内に配置しても構わない。
【0051】
図6は、本発明の第5の実施形態に係る電動巻き上げ装置としての電動リール10Dを示している。
図6中、参照符号27は、電動モータ3からの回転をスプール4に減速して伝える減速機構であり、公知の遊星歯車減速機、サイクロイド減速機、波動歯車装置などによって構成される。減速機構27の出力軸27aは、連結部材25を介してスプール4に連結されており、連結部材25は、出力軸27aの回転をそのままスプール4に伝達するようになっている。なお、それ以外の構成は、前述した第1の実施形態と同様である。
【0052】
中実形態の電動モータを使用する従来の電動リールにおいては、前述した特許文献1に開示されるように、電動モータと減速機とが同軸上に並んで配置され、そのため、軸方向寸法が増大するという不具合があった。これに対し、本実施形態では、電動モータ3の貫通孔9内に減速機構27を配置することにより、そのような不具合を解消して電動リール10Dの小型化を可能としている。すなわち、本実施形態において、貫通孔9は、電動リール10Dを構成して電動モータ3の一方側に位置される構成要素であるスプール4と電動モータ3との間で機械的な力を伝達する伝達経路を構成するようになっており、そのために、貫通孔9には、電動リール10Dを構成する部材として、スプール4と電動モータ3とを接続する接続要素、具体的には、減速機構27が挿通配置されている。これにより、前述した第1の実施形態と同様、電動リール10D全体の小型化及び機能の最適化を実現できる。
【0053】
図7及び
図8は、本発明の第6の実施形態に係る電動巻き上げ装置としての電動リール10Eを示している。
図7中、参照符号14,15,16,17は検出手段を構成する構成要素である。具体的には、参照符号14は、スプール4の回転状態(動作状態)を検出するホール素子又はフォトセンサなどの従来公知の回転検出手段であり、参照符号15は、電動モータ3の発熱を感知する(動作状態を検出する)熱電対などの従来公知の温度検出手段であり、参照符号16は、回転検出手段14と温度検出手段15とから発せられる電気信号を伝達する又は各検出手段14,15の駆動に必要な電力を供給するためのセンサケーブルであり、参照符号17は、各検出手段14,15から発せられる電気信号を受けて処理・蓄積するための処理手段であり、従来公知の電動リールに搭載されるような表示部を合わせ持つ(
図8も参照)。この場合、温度検出手段15及びセンサケーブル16は電動モータ3の貫通孔9内に配置されている。なお、それ以外の構成は、前述した第1の実施形態と同様である。
【0054】
図8に模式的に示されるように、一般に、魚釣用の電動リールでは、ユーザの好みでハンドル位置が選べるように、糸道の右側にハンドルがある『右ハンドルタイプ』と糸道の左側にハンドルがある『左ハンドルタイプ』の2タイプの製品が存在する。
図8中、参照符号19は、電動リール10Eの外装体の外形を表わしている。
図8に示されるように、これらの2タイプの構造は基本的にミラー形状で設計されることになる。しかしながら、開発に手間を要する処理手段17は、左右どちらのリールタイプも共通の構造である場合が多い。このため、検出手段14,15の配置が2パターンあるにも関わらず、処理手段17の構造は1パターンとなることが多い。
【0055】
ここで、本実施形態の構成によれば、
図8の右ハンドルタイプ及び左ハンドルタイプの両構成において、回転検出手段14から出たセンサケーブル16aは、スプール4の通孔4a又は電動モータ3の貫通孔9を通じて左側に向かい、その後は外装体19に沿って処理手段17へと延びて、そのまま処理手段17の左側の端子に接続される。一方、温度検出手段15から出たセンサケーブル16bも、電動モータ3の貫通孔9又はスプール4の通孔4aを通じて右側に向かい、その後は外装体19に沿って処理手段17へと延びて、そのまま処理手段17の右側の端子に接続される。つまり、本実施形態の構成の場合、左右ハンドルタイプでセンサケーブル16(16a,16b)の経路は大きく変わらない。ここで、仮に
図8における電動モータ3が中実形態であるとすると、右ハンドルタイプでは、電動モータ3が中空であった場合と同様のセンサケーブル経路を設定できるが、左ハンドルタイプでは、電動モータ3がセンサケーブル経路を塞ぐため、電動モータ3が中空の場合とは異なる経路を取らざるを得ない。つまり、従来の中実形態の電動モータを使用した電動リールでは、左右のハンドルタイプでセンサケーブルの配置が大きく異なってしまうという欠点を伴う。
【0056】
以上のように、本実施形態において、貫通孔9は、電動リール10Eを構成して電動モータ3の一方側に位置される構成要素である処理手段17と、電動リール10Eを構成して電動モータ3の他方側に位置される構成要素であるスプール4及び電動モータ3との間で電気信号(電力)を伝達する伝達経路を構成するようになっており、そのために、貫通孔9には、電動リール10Eを構成する部材として、処理手段17とスプール4(回転検出手段14)及び電動モータ3(温度検出手段15)とを接続する接続要素、具体的には、温度検出手段15及びセンサケーブル16(16a,16b)が挿通配置されている。これにより、前述した第1の実施形態と同様、電動モータ10Eによる接続経路の分断を回避して電動リール全体の小型化及び機能の最適化を実現できる。なお、本実施形態において、検出手段に関しては、前述したセンサタイプに限らず、他の公知のセンサを用いても構わない。
【0057】
図9は、本発明の第7の実施形態に係る電動巻き上げ装置としての電動リール10Fを示している。
図9中、参照符号24は、電動モータ3以外の他の駆動源から回転駆動力をスプール4に伝達するための駆動力伝達機構、ここでは、手動による回転駆動力をスプール4に伝達するための手動力伝達機構であり、この手動力伝達機構24は、手で握持するためのハンドルノブ24aと、ハンドルアーム24bと、電動モータ3の回転軸Oを中心に回転できるよう電動リール10Fの本体に支持され、ハンドルノブ24a及びハンドルアーム24bを回転自在に支持する支持体24cとから成る。支持体24cは、電動モータ3の貫通孔9内に挿通されて、貫通孔9内に位置される差動遊星歯車機構26に連結されている。この差動遊星歯車機構26は、例えば特開2020-178569号公報に開示される電動リールに設けられているようなハンドル入力とモータ入力との2つの回転入力を受けて出力側に回転を伝達する差動遊星歯車機構と同様の構造形態を成しており、手動力伝達機構24及び電動モータ3により入力された回転を出力軸26aに伝達するようになっている。出力軸26aに伝えられた回転駆動力は、スプール4と出力軸26aとを連結する連結部材25を介してそのままスプール4に伝達される。このような構成により、手動力伝達機構24及び電動モータ3のいずれの駆動手段からでもスプール4を駆動できるようになる。なお、それ以外の構成は、前述した第1の実施形態と同様である。
【0058】
従来の中実形態の電動モータを使用する電動リールでは、電動モータとスプールとを並列配置した場合、これらとハンドルの回転軸とを(電動モータに阻まれて)同軸的に配置できない虞があり、それにより、電動リール全体の大型化も招き得るが、本実施形態のように中空形態の電動モータを使用すると、スプール4、電動モータ3、及び、ハンドルの回転軸(支持体24c)とを容易に同軸配置できるようになる。
【0059】
そして、本実施形態では、手動力伝達機構24の少なくとも一部及び差動遊星歯車機構26を貫通孔9内に配置することにより、前述した欠点を解消して電動リール10Fの小型化を可能としている。すなわち、本実施形態において、貫通孔9は、電動リール10Fを構成して電動モータ3の一方側に位置される構成要素であるスプール4と電動リール10Aを構成して電動モータ3の他方側に位置される構成要素であるハンドルノブ24aとの間で機械的な力(駆動力)を伝達する伝達経路を構成するようになっており、そのために、貫通孔9には、電動リール10Fを構成する部材として、スプール4とハンドルノブ24aとを接続する接続要素、具体的には、手動力伝達機構24の支持体24c及び差動遊星歯車機構26が挿通配置されている。これにより、前述した第1の実施形態と同様、電動モータ3による接続経路の分断を回避して電動リール10F全体の小型化及び機能の最適化を実現できる。
【0060】
なお、本実施形態において、差動遊星歯車機構26は、他の構造形態を成していてもよく、例えば特開2020-153413号に開示されるような公知のサイクロイド減速機であっても構わない。また、本実施形態では、駆動力伝達機構が手動力伝達機構24であったが、駆動力伝達機構としてモータ等の電動駆動手段を用いても構わない。
【0061】
図10は、本発明の第8の実施形態に係る電動巻き上げ装置としての電動リール10Gを示している。図示のように、本実施形態では、電動モータ3の貫通孔9内に、電動モータ3の一方向の回転を許容して他方向の回転を阻止する回転規制手段として一方向クラッチ90が配置されている。この一方向クラッチ90は、サイドプレート2に支持された外輪22と転動体23を有しており、例えば特開2003-265078号公報に開示される公知の一方向クラッチと同様の構造である。この場合、電動モータ3のロータ3dは、外輪22との間で転動体23を挟み込むように一方向クラッチ90内に挿入されて一方向クラッチ90の内輪を形成している。このような構成により、ロータ3dは、外輪22と転動体23とによる回転規制作用(ロータ3dの一方向の回転力が外輪22側(サイドプレート2側)に伝えられて楔作用により阻止される)により、一方向の回転のみが規制されることになる。そのため、電動モータ3が駆動していない状態でもスプール4から繰り出される釣糸の張力を確保することが可能となり、例えば魚釣において仕掛けを一定の水深で維持したい場合に電動モータ3を駆動する必要がなくなる。
【0062】
従来の中実形態の電動モータを使用する電動リールでは、前述した特許文献1のように電動モータと回転規制手段とを回転軸上に並べて配置する必要があり、電動リールの軸方向寸法が増大するといった欠点があった。
【0063】
これに対し、本実施形態では、回転規制手段(一方向クラッチ90)を貫通孔9内に配置することにより、前述した欠点を解消して電動リール10Gの小型化を可能としている。すなわち、本実施形態において、貫通孔9は、電動リール10Gを構成して電動モータ3の一方側に位置される構成要素であるサイドプレート2と電動モータ3との間で機械的な力を伝達する伝達経路を構成するようになっており、そのために、貫通孔9には、電動リール10Gを構成する部材として、サイドプレート2と電動モータ3とを接続する接続要素、具体的には、一方向クラッチ90が挿通配置されている。これにより、前述した第1の実施形態と同様、電動モータ3による接続経路の分断を回避して電動リール10G全体の小型化及び機能の最適化を実現できる。
【0064】
なお、本実施形態において、回転規制手段は、一方向クラッチに限らず、例えば特開平07-115880号公報に開示されるような逆転止歯に逆転爪を係合させることで逆転を防止する、いわゆるラチェット機構であっても構わない。
【0065】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述した実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。例えば、電動モータの貫通孔内に配置される部材としては、前述した様々な実施形態で説明した部材に限らない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、前述した実施の形態の一部または全部を組み合わせてもよく、あるいは、前述した実施の形態のうちの1つから構成の一部が省かれてもよい。
【符号の説明】
【0066】
10,10A,10B,10C,10D,10E,10F,10G 電動リール(電動巻き上げ装置)
3 電動モータ
3d ロータ
4 スプール(回転体)
9 貫通孔