(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】皮膚がんを治療するためのPD-1阻害剤の病変内投与
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240702BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240702BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20240702BHJP
【FI】
A61K39/395 T
A61P35/00
C07K16/28 ZNA
(21)【出願番号】P 2021526256
(86)(22)【出願日】2019-11-13
(86)【国際出願番号】 US2019061212
(87)【国際公開番号】W WO2020102375
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-10-27
(32)【優先日】2018-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】マシュー・ジー・フュリー
(72)【発明者】
【氏名】イザレル・ロウィ
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-527952(JP,A)
【文献】国際公開第2017/123981(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/197263(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/106862(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0243413(US,A1)
【文献】LUUK VAN HOOREN; ET AL,LOCAL CHECKPOINT INHIBITION OF CTLA-4 AS A MONOTHERAPY OR IN COMBINATION WITH ANTI-PD1 以下備考,EUROPEAN JOURNAL OF IMMUNOLOGY,2017年02月,VOL:47, NR:2,PAGE(S):385-393,http://dx.doi.org/10.1002/eji.201646583,PREVENTS THE GROWTH OF MURINE BLADDER CANCER
【文献】The New England Journal of Medicine,2018年07月,Vol.379,pp.341-351
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P、C07K
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍の増殖を治療または阻害する方法で使用するための
、治療有効量の
、プログラム死1(PD-1
)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合性フラグメントを含む医薬組成物であって、該方法は:
(a)皮膚がんの患者を選択すること;および
(b)1またはそれ以上の用量の医薬組成物を患者の腫瘍に病変内投与すること
を
含み、
該抗体またはその抗原結合性フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)の3つの相補性決定領域(CDRs)(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)ならびに軽鎖可変領域(LCVR)の3つのCDRs(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)を含み、HCDR1は配列番号3のアミノ酸配列を有し;HCDR2は配列番号4のアミノ酸配列を有し;HCDR3は配列番号5のアミノ酸配列を有し;LCDR1は配列番号6のアミノ酸配列を有し;LCDR2は配列番号7のアミノ酸配列を有し;LCDR3は配列番号8のアミノ酸配列を有する、前記医薬組成物。
【請求項2】
皮膚がんは、皮膚扁平上皮癌(CSCC)、基底細胞癌(BCC)、メルケル細胞癌または黒色腫である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
皮膚がんはCSCCである、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
皮膚がんは再発性の切除可能なCSCCである、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
患者はがんの以前の治療を受けたことがある、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
以前の治療は、手術、放射線、化学療法、PD-1阻害剤による治療および/または他の抗腫瘍療法を含む、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
患者は再発の危険性がある、請求項1~6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
患者は手術後の再発の前歴がある、請求項1~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
患者は臓器または組織移植を以前に受けたことがある、請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
抗体またはその抗原結合性フラグメントの各用量は、腫瘍への医薬組成物の1つまたはそれ以上の病変内注射を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
少なくとも2つの病変内注射は腫瘍の異なる位置に投与される、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
2~5回の病変内注射が腫瘍の2つ~5つの位置に投与される、請求項10または11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
少なくとも1つの病変内注射は腫瘍の上部半分に投与される、請求項10~12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
少なくとも1つの病変内注射は腫瘍を覆う皮膚へ投与される、請求項10~13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
少なくとも1つの病変内注射は、正常に見える皮膚との境界面に隣接する腫瘍の上部周辺部に投与される、請求項10~14のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
腫瘍は少なくとも1cmの表面直径を有する、請求項1~15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
腫瘍は2cm以下の表面直径を有する、請求項1~16のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
各用量は、1日1回、2日に1回、3日に1回、4日に1回、5日に1回、6日に1回、週に1回、または週に2回投与される、請求項1~17のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
各用量は
、抗体またはその抗原結合性フラグメント5mg~200mgを含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
各用量は
、抗体またはその抗原結合性フラグメント5mg、15mgまたは44mgを含む、請求項1~19のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
抗体またはその抗原結合性フラグメントの投与は、患者において、腫瘍退縮を促進する、腫瘍細胞負荷を低減させる、腫瘍量を低減させる、および/または腫瘍再発を防止する、請求項1~20のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項22】
抗体またはその抗原結合性フラグメントの病変内投与は
、該抗体またはその抗原結合性フラグメントの静脈内投与よりも少なくとも約10%多くの腫瘍退縮を促進する、請求項1~21のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項23】
抗体またはその抗原結合性フラグメントの病変内投与は
、該抗体またはその抗原結合性
フラグメントの静脈内投与よりも、有害事象の低い発生率、有害事象の低い重症度、および/または低い毒性をもたらす、請求項1~22のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項24】
方法は、工程(b)の後に腫瘍を手術的に除去することをさらに含む、請求項1~23のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項25】
方法は、手術、放射線、化学療法、コルチコステロイド、抗炎症薬およ
びこれらの組み合わせから選択される第2の治療剤または療法を施すことをさらに含む、請求項1~24のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項26】
抗体またはその抗原結合性フラグメントは
、第2の治療剤または療法の前に投与される、請求項25に記載の医薬組成物。
【請求項27】
抗体またはその抗原結合性フラグメントは
、第2の治療剤または療法の後に投与される、請求項25に記載の医薬組成物。
【請求項28】
抗体またはその抗原結合性フラグメントは
、配列番号
1のアミノ酸配列を含むHCVR
および配列番号2のアミノ酸配列を含むLCVR配
列を含む、請求項
1~27のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項29】
抗体は重鎖および軽鎖を含み、該重鎖は配列番号9のアミノ酸配列を有する、請求項
1~28のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項30】
抗体は重鎖および軽鎖を含み、該軽鎖は配列番号10のアミノ酸配列を有する、請求項
1~28のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項31】
抗体は重鎖および軽鎖を含み、該重鎖は配列番号9のアミノ酸配列を有し、該軽鎖は配列番号10のアミノ酸配列を有する、請求項
1~28のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項32】
抗体またはその抗原結合性フラグメントはセミプリマ
ブである、請求項1~
31のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項33】
治療有効量の、プログラム死1(PD-1
)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合性フラグメントおよび医薬的に許容可能な担体または希釈剤を
含み、
該抗体またはその抗原結合性フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)の3つの相補性決定領域(CDRs)(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)ならびに軽鎖可変領域(LCVR)の3つのCDRs(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)を含み、HCDR1は配列番号3のアミノ酸配列を有し;HCDR2は配列番号4のアミノ酸配列を有し;HCDR3は配列番号5のアミノ酸配列を有し;LCDR1は配列番号6のアミノ酸配列を有し;LCDR2は配列番号7のアミノ酸配列を有し;LCDR3は配列番号8のアミノ酸配列を有する、
皮膚がんの
患者において腫瘍の増殖を治療または阻害するための病変内注射液。
【請求項34】
抗体またはその抗原結合性フラグメントは
、配列番号
1のアミノ酸配列を含むHCVR
および配列番号2のアミノ酸配列を含むLCV
Rを含む、請求項
33に記載の病変内注射液。
【請求項35】
抗体またはその抗原結合性フラグメント5mg~200mgを含む、請求項
33または34に記載の病変内注射液。
【請求項36】
抗体またはその抗原結合性フラグメント5mg、15mgまたは44mgを含む、請求項
33~35のいずれか1項に記載の病変内注射液。
【請求項37】
皮膚がんは
、皮膚扁平上皮癌(CSCC)、基底細胞癌(BCC)、メルケル細胞癌または黒色腫である、請求項
33~36のいずれか1項に記載の病変内注射液。
【請求項38】
抗体またはその抗原結合性フラグメントは175mg/mLの濃度で存在する、請求項
33~37のいずれか1項に記載の病変内注射液。
【請求項39】
抗体またはその抗原結合性フラグメントは60mg/mLの濃度で存在する、請求項
33~37のいずれか1項に記載の病変内注射液。
【請求項40】
抗体またはその抗原結合性フラグメントは20mg/mLの濃度で存在する、請求項
33~37のいずれか1項に記載の病変内注射液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、皮膚がんの患者を選択すること、および治療有効量のプログラム死1(PD-1)阻害剤を患者の腫瘍に病変内投与することを含む、腫瘍の増殖を治療または阻害するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚がんは米国で最も一般的ながんである(非特許文献1)。基底細胞癌および扁平上皮癌を含めた非黒色腫皮膚がんの推定540万の症例が、2012年に米国で診断された(非特許文献2)。皮膚扁平上皮癌(CSCC)は、基底細胞癌(BCC)についで、米国で2番目に一般的な悪性病変である(非特許文献3)。長期にわたる日光暴露が非黒色腫皮膚がんの優性危険因子である。
【0003】
CSCCは、真皮の浸潤をともなう上皮角化細胞の悪性増殖であり、日光角化症などの非侵襲性前駆病変と区別される(非特許文献4)。世界的発生率は大きく変動し、オーストラリアが最高の発生率であり、アフリカの一部が最低の発生率である(非特許文献5)。CSCCの正確な発生率は、大抵のがん登録に含まれていないので、不明である。しかし、非侵襲性前駆病変のみを有する患者を含まない推定によれば、CSCCの発生率は最近数十年で高まっている(非特許文献5)(非特許文献6)(非特許文献7)。
【0004】
CSCCの危険因子としては、UV曝露、高齢、および免疫抑制が挙げられる(非特許文献8;非特許文献9)。CSCCまたはBCCと診断された個体の大多数は非常に良好な予後を有するが、CSCCは、BCCに比べて、侵攻性の再発の傾向がある。さらに、CSCCと診断された個体は、BCCと診断されたものと異なり、同年齢の対照と比較して死亡率が高い(非特許文献10)。
【0005】
手術的切除はCSCCまたはBCCの臨床的対応の最重要項目である。第1の目標はがんの完全な切除であり、許容される美容的転帰が第2の目標である。CSCCの予後不良に関連する因子としては、腫瘍サイズ>2cm、腫瘍深度>2mm、神経周囲浸潤、宿主免疫抑制および再発性病変が挙げられる。しかし、局所進行性と転移性の両方のCSCC包含する進行性CSCCを発生する患者の中には手術の候補ではないものもいる。そのような患者の中には、手術後の放射線療法または化学療法を施すことができるものもいるが、これらは、安全性および忍容性の懸念のために、魅力的な選択肢でない可能性がある。
【0006】
UV曝露部位における複数のがん性病変と定義される広域発がんは、多くのCSCC患者の特徴である。さらに、再発性CSCCはその後の再発の危険性を高める。212人の患者の単一機関後ろ向き研究では、再発性CSCCは、一次CSCCと比較して、切除手術後に再び再発する可能性が2倍であった(非特許文献11)。経時的な複数の手術は、外観を損傷させる可能性があり、手術後の疲労、すなわち、連続的な手術行為に起因する身体的および情緒的衰弱につながる可能性がある。さらに、頭頸部の副部位、例えば、耳、こめかみ、および唇のCSCCは、さらに悪い臨床転帰に関連していた(非特許文献12;非特許文献11;非特許文献13)。
【0007】
BCCの最も一般的な臨床サブタイプは結節状BCCである。まれな臨床サブタイプは表在性、モルフェア型(morphoeic)(線維化)および線維上皮性である。大抵の患者は手術によって治癒するが、ごく一部の患者は、再発性病変を経験するか、または切除不可能な局所進行性もしくは転移性疾患を発生する。BCCにおけるGタンパク質受容体Smoothened(SMO)の発がん的役割の認識は、一般にヘッジホッグ阻害剤(HHI)と称される、SMOの経口投与可能な阻害剤であるビスモデギブおよびソニデギブの開発につながった。HHIの有害な副作用に加えて、HHI(ビスモデギブ)で進行する患者に対して、別のHHI(ソニデギブ)によるその後の治療は腫瘍阻害をもたらさないことが見出された(非特許文献14)。
【0008】
したがって、皮膚がん、例えば、CSCCおよびBCC、特に、以前の手術にもかかわらず再発した皮膚がんに対する安全かつ有効な療法を提供する必要性が依然として存在する。
【0009】
さらに、ほんのわずかのCSCC患者は、非特許文献15を使用するがん進行度分類、免疫状態、リンパ管浸潤、リンパ節転移の程度、被膜外浸潤の存在および治療歴を含めたいくつかの因子を使用して評価した場合に、危険性が高いCSCCを有することが考えられる。危険性が高い症例の場合、手術後の放射線療法が推奨される(非特許文献16)(非特許文献17)。しかし、危険性が高い患者は、局所領域的再発または遠隔転移をともなって再燃する可能性がある(非特許文献18)。したがって、特に危険性が高い患者において、CSCC再発の危険性を低減させるための未だ対処されていない必要性が存在する。
【0010】
さらに、移植受容者は、任意の他の腫瘍タイプよりもCSCCにより危険性が高いと知られている(非特許文献19)。CSCCはまた、免疫適格性CSCC患者と比較して、移植患者でより侵攻性の臨床経過を有する(非特許文献20)。移植患者におけるPD-1阻害剤の全身投与は、同種移植片拒絶または傷害の高い危険性をもたらす(非特許文献21;非特許文献22;非特許文献23)。したがって、移植患者において皮膚がん、例えばCSCCを効果的に治療し、同時にそれに関連する危険性を回避するかまたは低減させるための未だ対処されていない必要性が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】Guyら、Am.J.Prev.Med.48:183~87、2015
【文献】Rogersら、JAMA Dermatol.、151(10):1081~86、2015
【文献】Kariaら、J.Am.Acad.Dermatol.68:957~66、2013
【文献】Fernandezら、Immunol Allergy Clin North Am 37(2):315~27、2017
【文献】Lomasら、Br J Dermatol、166(5):1069~80、2012
【文献】Queら、J Am Acad Dermatol、78(2):237~47、2018
【文献】Rogersら、Arch Dermatol、146(3):283~87、2010
【文献】Alamら、New Engl.J.Med.344:975~83、2001
【文献】Madan、Lancet 375:673~85、2010
【文献】Reesら、Int.J.Cancer 137:878~84、2015
【文献】Harrisら、Otolaryngol Head Neck Surg、156(5):863~69、2017
【文献】Brantschら、Lancet Oncol 9(8):713~20、2008
【文献】Thompsonら、JAMA Dermatol 2016;152(4):419~28、2016
【文献】Danialら、Clin.Cancer Res.22:1325~29、2016
【文献】American Joint Committee on Cancer、第8版(AJCC、2017)
【文献】Bichakjianら、J Natl Compr Canc Netw、16(6):742~74、2018
【文献】Stratigos、Eur J Cancer、51(14):1989~2007、2015
【文献】Porcedduら、J Clin Oncol、36(13):1275~83、2018
【文献】Euvardら、New Engl.J.Med.、348(17):1681~91、2003
【文献】Manyamら、Cancer、123(11):2054~60、2017
【文献】Lipsonら、New Engl.J.Med.、374(9):896~98、2016
【文献】Aguirreら、The Oncologist、24:394~401、2018年11月9日
【文献】Starkeら、Kidney Int.、78(1):38~47、2010
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
一態様では、開示される技術は、腫瘍の増殖を治療または阻害する方法であって:皮膚がんの患者を選択すること;および治療有効量のプログラム死1(PD-1)阻害剤を含む1またはそれ以上の用量の医薬組成物を患者の腫瘍に病変内投与することを含む方法に関する。一実施形態では、皮膚がんは、皮膚扁平上皮癌(CSCC)、基底細胞癌(BCC)、メルケル細胞癌または黒色腫である。別の実施形態では、皮膚がんはCSCCである。別の実施形態では、皮膚がんは再発性の切除可能なCSCCである。別の実施形態では、患者はがんの以前の治療を受けたことがある。別の実施形態では、以前の治療は、手術、放射線、化学療法、PD-1阻害剤による治療および/または他の抗腫瘍療法を含む。別の実施形態では、患者は再発の危険性がある。別の実施形態では、患者は手術後の再発の前歴がある。別の実施形態では、皮膚がん患者は、臓器または組織移植を以前に受けたことがある。
【0013】
別の実施形態では、PD-1阻害剤の各用量は、腫瘍への医薬組成物の1つまたはそれ以上の病変内注射を含む。別の実施形態では、少なくとも2つの病変内注射が腫瘍の異なる位置に投与される。別の実施形態では、2~5回の病変内注射が腫瘍の2つ~5つの位置に投与される。別の実施形態では、少なくとも1つの病変内注射が腫瘍の上部半分に投与される。別の実施形態では、少なくとも1つの病変内注射が腫瘍を覆う皮膚へ投与される。別の実施形態では、少なくとも1つの病変内注射が正常に見える皮膚との境界面に隣接する腫瘍の上部周辺部に投与される。別の実施形態では、腫瘍は少なくとも1cmの表面直径を有する。別の実施形態では、腫瘍は約2cmの表面直径を有する。
【0014】
別の実施形態では、各用量は、1日1回、2日に1回、3日に1回、4日に1回、5日に1回、6日に1回、週に1回、または週に2回投与される。別の実施形態では、各用量はPD-1阻害剤5mg~200mgを含む。別の実施形態では、各用量はPD-1阻害剤5mg、15mgまたは44mgを含む。
【0015】
別の実施形態では、PD-1阻害剤の投与は、患者において、腫瘍退縮を促進する、腫瘍細胞負荷を低減させる、腫瘍量を低減させる、および/または腫瘍再発を防止する。一実施形態では、PD-1阻害剤の投与は、手術の必要性を低減させるか、または排除する。別の実施形態では、PD-1阻害剤の病変内投与は、PD-1阻害剤の静脈内投与よりも少なくとも約10%多くの腫瘍退縮を促進する。別の実施形態では、PD-1阻害剤の病変内投与は、PD-1阻害剤の静脈内投与よりも、有害事象の低い発生率、有害事象の低い重症度、および/または低い毒性をもたらす。
【0016】
別の実施形態では、方法は、工程(b)の後に腫瘍を手術的に除去することをさらに含む。別の実施形態では、方法は、手術、放射線、化学療法、コルチコステロイド、抗炎症薬および/またはこれらの組み合わせから選択される第2の治療剤または療法を施すことをさらに含む。一実施形態では、PD-1阻害剤は第2の治療剤または療法の前に投与される。一実施形態では、PD-1阻害剤は第2の治療剤または療法の後に投与される。
【0017】
別の実施形態では、PD-1阻害剤は、抗PD-1抗体またはその抗原結合性フラグメント、抗PD-L1抗体もしくはその抗原結合性フラグメント、または抗PD-L2抗体もしくはその抗原結合性フラグメントを含む。別の実施形態では、PD-1阻害剤は、配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)および配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む抗PD-1抗体またはその抗原結合性フラグメントである。別の実施形態では、HCVRは3つの重鎖相補性決定領域(CDR)(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)を含み、LCVRは3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)を含み:HCDR1は配列番号3のアミノ酸配列を有し;HCDR2は配列番号4のアミノ酸配列を有し;HCDR3は配列番号5のアミノ酸配列を有し;LCDR1は配列番号6のアミノ酸配列を有し;LCDR2は配列番号7のアミノ酸配列を有し;LCDR3は配列番号8のアミノ酸配列を有する。別の実施形態では、抗PD-1抗体またはその抗原結合性フラグメントは配列番号1/2のHCVR/LCVR配列対を含む。別の実施形態では、抗PD-1抗体は重鎖および軽鎖を含み、重鎖は配列番号9のアミノ酸配列を有する。別の実施形態では、抗PD-1抗体は重鎖および軽鎖を含み、軽鎖は配列番号10のアミノ酸配列を有する。別の実施形態では、抗PD-1抗体は重鎖および軽鎖を含み、重鎖は配列番号9のアミノ酸配列を有し、軽鎖は配列番号10のアミノ酸配列を有する。
【0018】
別の実施形態では、PD-1阻害剤は、セミプリマブまたはその生物学的同等物である。別の実施形態では、PD-1阻害剤は、セミプリマブ、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、ピディリズマブ、MEDI0608、BI 754091、PF-0680159、スパルタリズマブ、カムレリズマブ、JNJ-63723283およびMCLA-134からなる群から選択される抗PD-1抗体である。別の実施形態では、PD-1阻害剤は、H2M8314N、アベルマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、MDX-1105、LY3300054、FAZ053、STI-1014、CX-072、KN035およびCK-301からなる群から選択される抗PD-L1抗体である。
【0019】
別の態様では、開示される技術は、治療有効量のプログラム死1(PD-1)阻害剤、医薬的に許容可能な担体または希釈剤を含む、皮膚がんの対象において腫瘍の増殖を治療または阻害するための病変内注射液に関する。一実施形態では、PD-1阻害剤は、配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)および配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む抗PD-1抗体またはその抗原結合性フラグメントである。別の実施形態では、HCVRは3つの重鎖相補性決定領域(CDR)(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)を含み、LCVRは3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)を含み:HCDR1は配列番号3のアミノ酸配列を有し;HCDR2は配列番号4のアミノ酸配列を有し;HCDR3は配列番号5のアミノ酸配列を有し;LCDR1は配列番号6のアミノ酸配列を有し;LCDR2は配列番号7のアミノ酸配列を有し;LCDR3は配列番号8のアミノ酸配列を有する。別の実施形態では、抗PD-1抗体またはその抗原結合性フラグメントは配列番号1/2のHCVR/LCVR配列対を含む。一実施形態では、PD-1阻害剤は、病変内注射液中に20mg/mLの濃度で存在する。一実施形態では、PD-1阻害剤は、病変内注射液中に60mg/mLの濃度で存在する。一実施形態では、PD-1阻害剤は、病変内注射液中に175mg/mLの濃度で存在する。
【0020】
別の実施形態では、病変内注射液はPD-1阻害剤5mg~200mgを含む。別の実施形態では、病変内注射液はPD-1阻害剤5mg、15mgまたは44mgを含む。別の実施形態では、皮膚がんはCSCCである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例1に記載される研究を概説する図である。
【
図2】
図2AはベースラインでのCSCCを有する第1の例示的患者の写真であり;
図2Bは抗PD-1抗体セミプリマブの病変内投与後の第1の例示的患者の写真である。
【
図3】
図3AはベースラインでのCSCCを有する第2の例示的患者の写真であり;
図3Bは抗PD-1抗体セミプリマブの病変内投与後の第2の例示的患者の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本開示は、記載される特定の方法および実験条件に制限されず、これは、そのような方法および条件が変動し得るからであることを理解されたい。本明細書で使用される術語は特定の実施形態のみを説明することを目的とし、制限を意図したものではないこと、および本開示の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ制限されることも理解されたい。
【0023】
別段規定されない限り、本明細書で使用するすべての技術用語および科学用語は、開示される発明が属する当業者が通常理解するものと同じ意味を有する。本明細書で使用する場合、用語「約」は、特定の列挙された数値と関連して使用される場合、値が列挙される値から1%以下変動する可能性があることを意味する。例えば、本明細書で使用する場合、表現「約100」は、99および101ならびにその間のすべての値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4など)を含む。
【0024】
本明細書に記載のものと同様または均等ないかなる方法および材料も本開示の実施で使用することができるが、好ましい方法および材料を次に記載する。
【0025】
腫瘍の増殖を治療または阻害する方法
本開示は、皮膚がんの増殖を治療または阻害するための方法であって、治療有効量のPD-1阻害剤(例えば、PD-1、PD-L1および/もしくはPD-L2に特異的に結合する抗体もしくはその抗原結合性フラグメント、または本明細書に記載の任意の他の「PD-1阻害剤」)を、それらを必要とする対象の皮膚がんの腫瘍病変に病変内投与することを含む方法を含む。本開示では、特に抗PD-1抗体への言及は、代表的なPD-1阻害剤を例示するために提供され、本開示の範囲を制限しない。いくつかの実施形態では、方法は、それらを必要とする対象の皮膚がんの腫瘍病変にPD-1阻害剤を病変内投与することを含み、対象は、場合により移植受容者でもよい。
【0026】
本明細書で開示される場合、病変内投与は、皮膚がんの治療においていくつかの利点を提供する。例えば、病変内投与は、PD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)を対象の腫瘍病変に直接導入し、したがって、特に投与部位でより高い濃度の阻害剤の効率的な投与を可能にする、改善された局在的治療を提供する。そのような局在的治療は、PD-1阻害剤への全身的暴露およびそれに関連する任意の毒性または副作用から治療される対象を保護することによって、さらなる利点を提供する。さらに、PD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)の病変内投与は、有利なことに、治療される対象において腫瘍病変の再発の危険性を低減させる免疫記憶応答を誘導する。換言すれば、抗PD-1抗体を投与した後に、抗PD-1抗体のその後の用量が、対象により速くかつより有効な応答をもたらし、免疫学的記憶と称されることが多い、長期持続性の抗原特異的な防御免疫の利益をもたらす。PD-1阻害剤の病変内投与のさらに別の利点は、繰り返しの手術(これはさらに外観の損傷を引き起こす)がさもないと必要とされるであろう場合に特に、有痛性であり外観を損傷させる手順であることが多い手術の必要性の排除である。
【0027】
さらに、PD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)の病変内投与は、全身投与(例えば、静脈内注入)に関連する有害事象が回避されると思われるので、臓器または組織移植受容者でもある患者において皮膚がんを治療するためのさらなる利益を提供する。これは、臓器移植後の継続的な免疫抑制により臓器および組織移植受容者は皮膚がんの危険性がより大きいので、特に重要な利点である。したがって、この患者集団における同種移植片拒絶または傷害などの有害事象の発生率は、抗PD-1抗体などのPD-1阻害剤の(全身的ではなく)病変内の投与によって、有意に低減する。
【0028】
本明細書で使用する場合、表現「病変内投与」は、皮膚がんの腫瘍病変へのPD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)の経皮的直接送達を指し、皮膚がんの腫瘍病変を覆う皮膚へのPD-1阻害剤の皮内直接送達も含む。多くの実施形態では、用語「病変内投与」および「病変内注射」は互換的に使用される。
【0029】
本明細書で使用する場合、用語「治療する(treating)」、「治療する(treat)」などは、一時的もしくは永続的に症状の原因を排除するために、腫瘍増殖を遅延させるかもしくは阻害するために、腫瘍細胞負荷もしくは腫瘍量を低減させるために、腫瘍退縮を促進するために、腫瘍の縮小、壊死および/もしくは消失を引き起こすために、腫瘍再発を防止するために、転移を防止もしくは阻害するために、転移性腫瘍増殖を阻害するために、手術の必要性を排除するために、ならびに/または対象の生存期間を延ばすために、少なくとも1つの症状または徴候の重症度を軽減するかまたは低減させることを意味する。多くの実施形態では、用語「腫瘍」、「病変」、「腫瘍病変」、「がん」および「悪性病変」は互換的に使用され、1つまたはそれ以上の増殖物を指す。
【0030】
いくつかの実施形態では、皮膚がんは、皮膚扁平上皮癌(CSCC)、基底細胞癌(BCC)、メルケル細胞癌または黒色腫である。いくつかの実施形態では、皮膚がんは頭頸部の扁平上皮癌である。いくつかの実施形態では、皮膚がんは、転移性、切除可能、切除不可能、再発性、または局所進行性である。いくつかの実施形態では、皮膚がんは、限定されないが、転移性CSCC、局所進行性CSCC、切除可能なCSCC、切除不可能なCSCCまたは再発性CSCCを含めた、CSCCである。一実施形態では、皮膚がんは、切除可能な再発性のCSCCである。一実施形態では、皮膚がんは進行性CSCCである。
【0031】
本明細書で使用する場合、用語「再発性」は、患者の皮膚がん(例えば、CSCC)の頻繁なもしくは繰り返される診断、または個々の腫瘍病変、例えば、原発腫瘍病変および/もしくは以前の腫瘍病変の再発を示し得る新しい腫瘍病変の頻繁なもしくは繰り返される発生を指す。ある種の実施形態では、PD-1阻害剤の病変内投与はCSCCの患者の腫瘍病変の再発を阻害する。
【0032】
本明細書で使用する場合、用語「再発」は、局所的、領域的または遠隔の1つまたはそれ以上の新しい皮膚がん(例えば、CSCC)病変の出現と定義される。多くの場合、長期にわたるUV媒介性皮膚損傷からの広域発がんによる、皮膚の新しい病変は新しい原発腫瘍である(Christensen、F1000Res、7、2018)。CSCCに関して、局所的または領域的(局所領域的)再発は、疾患再発の以下の部位のいずれかによって定義される:(a)HN CSCCについて、鎖骨より上の結節組織または軟部組織の再発;(b)非HN CSCCについて、切除された腫瘍の最初の排出リンパ節流域(draining nodal basin)内(または最初の排出リンパ節流域内の関連する軟部組織)内の再発;(c)原発病変から>2cmであるが領域的リンパ節流域を越えない、皮膚または皮下の転移と定義される、イントランジット転移。遠隔再発は、疾患再発の以下の部位のいずれかによって定義される:(a)HN CSCCについて、鎖骨より下のリンパ節再発;(d)非HN CSCCについて、切除された腫瘍床の最初の排出リンパ節流域を越えた再発。2つのリンパ節流域における再発は、たとえ近接していても遠隔再発と見なされる(すなわち、2つの縦隔リンパ節流域、2つの骨盤リンパ節流域);(e)非リンパ節組織(限定されないが、肺、肝臓、骨、脳を含む)における再発;(f)上皮の関与がない真皮の遠隔病変と定義される、表皮向性転移。
【0033】
本明細書で使用する場合、表現「それらを必要とする対象」は、皮膚がんの1つもしくはそれ以上の症状もしくは徴候を示す、および/または固形腫瘍を含めた皮膚がんと診断されており、皮膚がんの治療を必要とする、ヒトまたはヒト以外の哺乳動物を意味する。多くの実施形態では、用語「対象」および「患者」は互換的に使用される。本表現は、原発性、定着、または再発性腫瘍病変を有する対象を含む。特定の実施形態では、本表現は、固形腫瘍を有する、および/または固形腫瘍の治療を必要とするヒト対象を含む。本表現は、原発性または転移性腫瘍(進行性悪性腫瘍)を有する対象も含む。ある種の実施形態では、本表現は、以前の療法(例えば、手術、もしくはカルボプラチンもしくはドセタキセルなどの抗がん剤による治療)に抵抗性もしくは不応性であるか、または以前の療法によって不適切に制御されている固形腫瘍を有する患者を含む。ある種の実施形態では、本表現は、以前の療法の1つまたはそれ以上のラインで治療された(例えば、手術的に除去された)が、その後に再発した腫瘍病変を有する患者を含む。ある種の実施形態では、本表現は、治癒的手術もしくは治癒的放射線の候補ではないか、または例えば、毒性副作用が理由で従来の抗がん療法が得策ではない、皮膚がんの腫瘍病変を有する対象を含む。他の実施形態では、本表現は、手術的除去が計画される皮膚がんの腫瘍病変を有する対象を含む。他の実施形態では、本表現は、手術後の再発の前歴が理由で再発の危険性が高い対象を含む。
【0034】
ある種の実施形態では、本開示の方法は固形腫瘍を有する対象で使用される。本明細書で使用する場合、用語「固形腫瘍」は、嚢胞または液体領域を通常含まない組織の異常な腫瘤を指す。固形腫瘍は、良性(がんではない)または悪性(がん)であり得る。本開示において、用語「固形腫瘍」は、悪性固形腫瘍を意味する。本用語は、それを形成する細胞型に名前が由来する異なるタイプの固形腫瘍、すなわち、肉腫、癌腫およびリンパ腫を含む。ある種の実施形態では、用語「固形腫瘍」は、治療を必要としている対象において、互いに離れて位置する1個を超える腫瘍病変、例えば、2個以上、5個以上、10個以上、15個以上、20個以上、25個以上の病変を含む。ある種の実施形態では、1個を超える病変が互いに遠位に位置する。
【0035】
ある種の実施形態では、開示される方法は、抗腫瘍療法と組み合わせて治療有効量のPD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)を投与することを含む。本明細書で使用する場合、表現「と組み合わせて」は、抗腫瘍療法の前、抗腫瘍療法の後、または抗腫瘍療法と同時にPD-1阻害剤が投与されることを意味する。抗腫瘍療法としては、限定されないが、従来の抗腫瘍療法、例えば、化学療法、放射線、手術、または本明細書の他の個所に記載されるものが挙げられる。一実施形態では、抗腫瘍療法は手術を含む。
【0036】
ある種の実施形態では、本開示は、皮膚がんを治療するための方法であって、皮膚がんの腫瘍病変を有する対象を選択すること、および1またはそれ以上の用量のPD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)を病変の1つまたはそれ以上の位置に病変内投与することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、PD-1阻害剤は、単一の皮膚がん病変の2、3、4、5、6または7つの位置に病変内投与される。いくつかの実施形態では、病変の2つ~5つの位置にPD-1阻害剤を病変内投与することができる。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの位置は病変の上部(頭側)半分である。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの位置は腫瘍病変の上部半分の最も高密度の部分内である。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの位置は腫瘍病変を覆う皮膚である。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの位置は正常に見える皮膚との境界面の近くまたは該境界面に隣接する、腫瘍の上部(頭側)周辺部である。
【0037】
ある種の実施形態では、1またはそれ以上の用量のPD-1阻害剤が少なくとも1cmの表面直径を有する腫瘍病変に病変内投与される。ある種の実施形態では、病変は2cm以下の表面直径を有する。一実施形態では、腫瘍病変は1.0cm~2.0cmの表面直径を有する。他の実施形態では、腫瘍病変は病変の最も長い垂直表面直径のそれぞれで少なくとも1cmである。他の実施形態では、腫瘍病変は病変の最も長い垂直表面直径のそれぞれで2cm以下である。別の実施形態では、腫瘍病変は病変の最も長い垂直表面直径のそれぞれで1.0cm~2.0cmである。
【0038】
いくつかの実施形態では、開示される方法は、対象において腫瘍病変の再発の危険性を低減させる免疫記憶応答を誘導する。一実施形態では、治療有効量のPD-1阻害剤を、それらを必要とする対象に病変内投与することは、腫瘍退縮をもたらし、手術の必要性を排除する。
【0039】
ある種の実施形態では、本開示の方法は、治療有効量のPD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)をCSCCなどの進行性固形腫瘍を有する対象に病変内投与することを含む。ある種の実施形態では、進行性固形腫瘍は無痛性または侵攻性である。ある種の実施形態では、対象は以前の療法もしくは手術に応答性でないか、または以前の療法もしくは手術の後に再燃している(例えば、再発性病変を経験している)。
【0040】
本開示の方法は、ある種の実施形態によれば、さらなる治療剤または治療レジメンまたは手順と組み合わせて治療有効量のPD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)を対象に病変内投与することを含む。さらなる治療剤または治療レジメンまたは手順は、抗腫瘍効能を高めるために、1つもしくはそれ以上の療法の毒性作用を低減させるために、および/または1つもしくはそれ以上の療法の投薬量を低減させるために、施すことができる。様々な実施形態では、さらなる治療剤または治療レジメンまたは手順は、以下の1つまたはそれ以上を含むことができる:化学療法、シクロホスファミド、手術、がんワクチン、プログラム死リガンド1(PD-L1)阻害剤(例えば、抗PD-L1抗体)、リンパ球活性化遺伝子3(LAG3)阻害剤(例えば、抗LAG3抗体)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)阻害剤(例えば、イピリムマブ)、グルココルチコイド誘導性腫瘍壊死因子受容体(GITR)アゴニスト(例えば、抗GITR抗体)、T細胞免疫グロブリンおよびムチン含有-3(TIM3)阻害剤、BおよびTリンパ球アテニュエーター(B-and T-lymphocyte attenuator)(BTLA)阻害剤、IgおよびITIMドメインを有するT細胞免疫受容体(T-cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains)(TIGIT)阻害剤、CD47阻害剤、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)阻害剤、血管内皮増殖因子(VEGF)アンタゴニスト、アンジオポエチン-2(Ang2)阻害剤、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)阻害剤、上皮増殖因子受容体(EGFR)阻害剤、腫瘍特異的抗原[例えば、CA9、CA125、黒色腫関連抗原3(MAGE3)、がん胎児抗原(CEA)、ビメンチン、腫瘍-M2-PK、前立腺特異的抗原(PSA)、ムチン-1、MART-1およびCA19-9]に対する抗体、抗CD3/抗CD20二重特異性抗体、ワクチン(例えば、カルメット-ゲラン桿菌)、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子、細胞毒、化学療法剤、IL-6R阻害剤、IL-4R阻害剤、IL-10阻害剤、サイトカイン、例えば、IL-2、IL-7、IL-21およびIL-15、抗炎症薬、例えば、コルチコステロイド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、ならびに栄養補助食品、例えば抗酸化剤。ある種の実施形態では、PD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)は、化学療法剤および/または手術を含めた療法と組み合わせて投与することができる。
【0041】
ある種の実施形態では、治療有効量のPD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)を、皮膚がん病変を有し、それらを必要とする対象に病変内投与することは、治療される対象において腫瘍増殖の阻害の増大、例えばより大きな腫瘍退縮につながる。ある種の実施形態では、PD-1阻害剤の病変内投与は、治療されない対象または病変内以外の投与経路(例えば、静脈内注入などの全身的投与経路)によってPD-1阻害剤で治療される対象と比較して、治療される対象において、少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%または約80%多く腫瘍退縮を促進する。
【0042】
ある種の実施形態では、治療有効量のPD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)を、皮膚がん病変を有し、それらを必要とする対象に病変内投与することは、増大した腫瘍退縮、腫瘍縮小および/または消失につながる。一実施形態では、病変内投与は、腫瘍退縮または腫瘍縮小につながり、その結果、手術の必要性が低減されるかまたは排除される。
【0043】
ある種の実施形態では、PD-1阻害剤の病変内投与は、腫瘍の増殖および発生の遅延につながり、例えば、治療されない対象または病変内以外の投与経路(例えば、静脈内注入などの全身的投与経路)によってPD-1阻害剤で治療される対象と比較して、治療される対象において、約3日、3日を超えて、約7日、7日を超えて、15日を超えて、1か月を超えて、3か月を超えて、6か月を超えて、1年を超えて、2年を超えて、または3年を超えて、腫瘍増殖を遅延させることができる。
【0044】
ある種の実施形態では、治療有効量のPD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)を、皮膚がん病変を有し、それらを必要とする対象に病変内投与することは、治療されない対象または病変内以外の投与経路(例えば、静脈内注入などの全身的投与経路)によってPD-1阻害剤で治療される対象と比較して、治療される対象において、有害事象の発生率の低減、有害事象の重症度の低減、および/または毒性の低減につながる。
【0045】
ある種の実施形態では、治療有効量のPD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)を、皮膚がん病変を有し、それらを必要とする対象に病変内投与することは、治療されない対象または病変内以外の投与経路によって(例えば、静脈内注入によって)抗PD-1抗体で治療される対象と比較して、腫瘍再発を防止する、および/または対象の生存期間を延ばす、例えば、15日を超えて、1か月を超えて、3か月を超えて、6か月を超えて、12か月を超えて、18か月を超えて、24か月を超えて、36か月を超えて、もしくは48か月を超えて、生存期間を延ばす。
【0046】
ある種の実施形態では、治療有効量のPD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)を、皮膚がん病変を有し、それらを必要とする対象に病変内投与することは、腫瘍細胞のすべてのエビデンスの完全な消失(「完全奏効」)につながり、腫瘍細胞または腫瘍サイズの少なくとも30%以上の減少(「部分奏効」)につながり、または腫瘍細胞/新しい測定可能な病変を含めた病変の完全もしくは部分的な消失につながる。腫瘍の低減は当技術分野で既知の任意の方法、例えば、X線、陽電子放出断層撮影法(PET)、コンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴画像(MRI)、細胞診断、組織診断または分子遺伝学的分析によって、測定することができる。
【0047】
ある種の実施形態では、治療有効量のPD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)を、皮膚がん病変を有し、それらを必要とする対象に病変内投与することは、「標準ケア」(SOC)療法(例えば、化学療法、手術または放射線)が施される対象と比較して、対象の全生存(OS)または無増悪生存(PFS)の延長につながる。ある種の実施形態では、PFSは、任意の1つまたはそれ以上のSOC療法が施される対象と比較して、少なくとも1か月、少なくとも2か月、少なくとも3か月、少なくとも4か月、少なくとも5か月、少なくとも6か月、少なくとも7か月、少なくとも8か月、少なくとも9か月、少なくとも10か月、少なくとも11か月、少なくとも1年、少なくとも2年または少なくとも3年増加する。ある種の実施形態では、OSは、任意の1つまたはそれ以上のSOC療法が施される対象と比較して、少なくとも1か月、少なくとも2か月、少なくとも3か月、少なくとも4か月、少なくとも5か月、少なくとも6か月、少なくとも7か月、少なくとも8か月、少なくとも9か月、少なくとも10か月、少なくとも11か月、少なくとも1年、少なくとも2年または少なくとも3年増加する。
【0048】
ある種の実施形態では、移植、例えば固形臓器または組織移植を受けたことがある、皮膚がんの対象への治療有効量のPD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)の病変内投与は、有利なことに、移植受容者へのPD-1阻害剤の全身投与に関連する有害事象を回避する。そのような実施形態では、移植受容対象への病変内投与は、別の経路、例えば、静脈内注入などの全身的投与経路を介してPD-1阻害剤が与えられる移植受容対象と比較して、少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%または約90%低い有害事象の発生率につながる。この患者集団でこのようにして回避することができる有害事象の非限定例としては、同種移植片拒絶および傷害が挙げられる。
【0049】
PD-1阻害剤
本明細書に開示される方法は、治療有効量のPD-1阻害剤を投与することを含む。本明細書で使用する場合、「PD-1阻害剤」は、PD-1の活性または発現を阻害する、遮断する、抑止するまたは妨げることができる任意の分子を指す。いくつかの実施形態では、PD-1阻害剤は、抗体、小分子化合物、核酸、ポリペプチド、またはそれらの機能的フラグメントもしくは変異体であり得る。適切なPD-1阻害剤抗体の非限定例としては、抗PD-1抗体およびその抗原結合性フラグメント、抗PD-L1抗体およびその抗原結合性フラグメントならびに抗PD-L2抗体およびその抗原結合性フラグメントが挙げられる。適切なPD-1阻害剤の他の非限定例としては、RNAi分子、例えば、抗PD-1 RNAi分子、抗PD-L1 RNAiおよび抗PD-L2 RNAi、アンチセンス分子、例えば、抗PD-1アンチセンスRNA、抗PD-L1アンチセンスRNAおよび抗PD-L2アンチセンスRNA、ならびにドミナントネガティブタンパク質、例えば、ドミナントネガティブPD-1タンパク質、ドミナントネガティブPD-L1タンパク質およびドミナントネガティブPD-L2タンパク質が挙げられる。前述のPD-1阻害剤のいくつかの例は、例えば、US9308236、US10011656およびUS20170290808に記載されており、PD-1阻害剤を特定するその部分は、参照によって本明細書に組み入れる。
【0050】
本明細書で使用する場合、用語「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互接続した4つのポリペプチド鎖、すなわち、2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子ならびにその多量体(例えば、IgM)を指す。典型的な抗体では、各重鎖は、重鎖可変領域(HCVRまたはVHと本明細書で省略される)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、すなわち、CH1、CH2およびCH3を含む。各軽鎖は軽鎖可変領域(LCVRまたはVLと本明細書で省略される)および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域が散在している、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域にさらに細分することができる。各VHおよびVLは、3つのCDRおよび4つのFRから構成され、アミノ末端からカルボキシ末端に以下の順序で配置されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。本発明の異なる実施形態では、抗IL-4R抗体(またはその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列と同一でもよく、または天然にもしくは人工的に改変されていてもよい。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRのサイドバイサイド分析に基づいて定義することができる。本明細書で使用する場合、用語「抗体」は完全な抗体分子の抗原結合性フラグメントも含む。
【0051】
本明細書で使用する場合、抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合性フラグメント」などの用語は任意の天然に存在する、酵素的に得られる、合成のまたは遺伝子操作された、抗原に特異的に結合して複合体を形成するポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合性フラグメントは、任意の適切な標準的な技法、例えば、タンパク質消化または抗体の可変および場合により定常ドメインをコードするDNAの操作および発現を含む組換え遺伝子工学技法を使用して、例えば完全な抗体分子から生じ得る。そのようなDNAは既知であり、および/または例えば、商業的供給元、DNAライブラリー(例えば、ファージ抗体ライブラリーを含める)から容易に入手可能であり、もしくは合成することができる。DNAはシークエンスすることができ、化学的に、または分子生物学的技法を使用することによって操作して、例えば、1つもしくはそれ以上の可変および/もしくは定常ドメインを適切な構成に配置すること、またはコドンを導入する、システイン残基を作出する、アミノ酸を修飾する、付加する、もしくは欠失させることなどができる。
【0052】
抗原結合性フラグメントの非限定例としては以下が挙げられる:(i)Fabフラグメント;(ii)F(ab’)2フラグメント;(iii)Fdフラグメント;(iv)Fvフラグメント;(v)単鎖Fv(scFv)分子;(vi)dAbフラグメント;および(vii)抗体の超可変領域を模倣するアミノ酸残基からなる最小認識単位(例えば、単離された相補性決定領域(CDR)、例えばCDR3ペプチド)、または拘束されたFR3-CDR3-FR4ペプチド。他の操作された分子、例えば、ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDRグラフト化抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(例えば、一価ナノボディ、二価ナノボディなど)、小モジュラー免疫医薬品(small modular immunopharmaceuticals)(SMIP)、およびサメ可変IgNARドメインも、本明細書で使用する場合、表現「抗原結合性フラグメント」内に包含される。
【0053】
抗体の抗原結合性フラグメントは、典型的には、少なくとも1つの可変ドメインを含む。可変ドメインは任意のサイズまたはアミノ酸組成のものでもよく、1つまたはそれ以上のフレームワーク配列に隣接するか、または該フレームワーク配列とインフレームである、少なくとも1つのCDRを一般に含む。VLドメインと結合しているVHドメインを有する抗原結合性フラグメントでは、VHおよびVLドメインは、任意の適切な配置で互いに対して位置し得る。例えば、可変領域は二量体であり得、VH-VH、VH-VLまたはVL-VL二量体を含み得る。あるいは、抗体の抗原結合性フラグメントは、単量体のVHまたはVLドメインを含み得る。
【0054】
ある種の実施形態では、抗体の抗原結合性フラグメントは、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合している少なくとも1つの可変ドメインを含み得る。本開示の抗体の抗原結合性フラグメント内に見出すことができる可変ドメインおよび定常ドメインの非限定的な例示的構成としては、以下が挙げられる:(i)VH-CH1;(ii)VH-CH2;(iii)VH-CH3;(iv)VH-CH1-CH2;(v)VH-CH1-CH2-CH3;(vi)VH-CH2-CH3;(vii)VH-CL;(viii)VL-CH1;(ix)VL-CH2;(x)VL-CH3;(xi)VL-CH1-CH2;(xii)VL-CH1-CH2-CH3;(xiii)VL-CH2-CH3;および(xiv)VL-CL。上に列挙した例示的構成のうちのいずれかを含めた、可変ドメインおよび定常ドメインの任意の構成では、可変ドメインおよび定常ドメインは、互いに直接連結していてもよく、または完全もしくは部分的なヒンジもしくはリンカー領域によって連結していてもよい。ヒンジ領域は、単一ポリペプチド分子中の隣接する可変および/または定常ドメインの間に可撓性または半可撓性結合をもたらす、少なくとも2個(例えば、5、10、15、20、40、60個以上)のアミノ酸からなり得る。さらに、本開示の抗体の抗原結合性フラグメントは、互いとのおよび/または1つもしくはそれ以上の単量体VHもしくはVLドメインとの非共有会合(例えば、ジスルフィド結合による)で、上に列挙した可変ドメインおよび定常ドメイン構成のうちのいずれかのホモ二量体またはヘテロ二量体(または他の多量体)を含むことができる。
【0055】
本明細書に開示される方法で使用される抗体はヒト抗体でもよい。本明細書で使用する場合、用語「ヒト抗体」は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を指す。それにもかかわらず、本開示のヒト抗体は、例えばCDR、特にCDR3に、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列にコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロのランダムもしくは部位特異的突然変異誘発によって、またはインビボの体細胞突然変異によって導入された突然変異)を含むことができる。しかし、本明細書で使用する場合、用語「ヒト抗体」は、別の哺乳類種、例えばマウスの生殖系列に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列に移植された抗体を含むことは意図されない。
【0056】
本明細書に開示される方法で使用される抗体は組換えヒト抗体でもよい。本明細書で使用する場合、用語「組換えヒト抗体」は、組換え手段によって調製される、発現される、作出される、もしくは単離されるすべてのヒト抗体、例えば、宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現される抗体(以下でさらに記載される)、組換えのコンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離される抗体(以下でさらに記載される)、ヒト免疫グロブリン遺伝子についてトランスジェニックである動物(例えば、マウス)から単離される抗体[例えば、Taylorら(1992)Nucl.Acids Res.20:6287~6295を参照されたい]、または他のDNA配列へのヒト免疫グロブリン遺伝子配列のスプライシングを含む任意の他の手段によって調製される、発現される、作出される、もしくは単離される抗体を含む。そのような組換えヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する。しかし、ある種の実施形態では、そのような組換えヒト抗体は、インビトロ突然変異誘発(または、ヒトIg配列についてトランスジェニックである動物が使用される場合、インビボ体細胞突然変異誘発)にかけられ、したがって、組換え抗体のVHおよびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列VHおよびVL配列に由来し、該配列に関係しているが、インビボでヒト抗体生殖系列レパートリー内に天然に存在比ない可能性がある配列である。
【0057】
抗PD-1抗体およびその抗原結合性フラグメント
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される方法で使用されるPD-1阻害剤は、PD-1に特異的に結合する抗体またはその抗原結合性フラグメントである。用語「特異的に結合する」などは、抗体またはその抗原結合性フラグメントが、生理的条件下で比較安定な複合体を抗原と形成することを意味する。抗体が抗原に特異的に結合するかどうかを決定するための方法は当技術分野で周知であり、例えば、平衡透析、表面プラスモン共鳴などが挙げられる。例えば、本開示において使用される場合、PD-1に「特異的に結合する」抗体は、表面プラスモン共鳴アッセイで測定した場合に、約500nM未満、約300nM未満、約200nM未満、約100nM未満、約90nM未満、約80nM未満、約70nM未満、約60nM未満、約50nM未満、約40nM未満、約30nM未満、約20nM未満、約10nM未満、約5nM未満、約4nM未満、約3nM未満、約2nM未満、約1nM未満または約0.5nM未満のKDでPD-1またはその一部に結合する抗体を含む。しかし、ヒトPD-1に特異的に結合する単離抗体は、他の抗原、例えば、他の(非ヒト)種からのPD-1分子への交差反応性を有する可能性がある。
【0058】
ある種の例示的実施形態によれば、抗PD-1抗体またはその抗原結合性フラグメントは、その内容全体を参照によって本明細書に組み入れる米国特許第9,987,500号に記載される抗PD-1抗体のうちのいずれかのアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)、軽鎖可変領域(LCVR)および/または相補性決定領域(CDR)を含む。ある種の例示的実施形態では、本開示において使用することができる抗PD-1抗体またはその抗原結合性フラグメントは、配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)の重鎖相補性決定領域(HCDR)および配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)の軽鎖相補性決定領域(LCDR)を含む。ある種の実施形態によれば、抗PD-1抗体またはその抗原結合性フラグメントは、3つのHCDR(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)ならびに3つのLCDR(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)を含み、HCDR1は配列番号3のアミノ酸配列を含み;HCDR2は配列番号4のアミノ酸配列を含み;HCDR3は配列番号5のアミノ酸配列を含み;LCDR1は配列番号6のアミノ酸配列を含み;LCDR2は配列番号7のアミノ酸配列を含み;LCDR3は配列番号8のアミノ酸配列を含む。さらに他の実施形態では、抗PD-1抗体またはその抗原結合性フラグメントは、配列番号1を含むHCVRおよび配列番号2を含むLCVRを含む。ある種の実施形態では、本開示の方法は、抗PD-1抗体の使用を含み、抗体は配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖を含む。いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は配列番号10のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む。配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖および配列番号10のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む例示的抗体は、セミプリマブ(REGN2810としても知られる)として知られる完全ヒト抗PD-1抗体である。
【0059】
ある種の例示的実施形態によれば、本開示の方法は、REGN2810またはその生物学的同等物の使用を含む。本明細書で使用する場合、用語「生物学的同等物」は、単回投与または多回投与で、同様の実験条件下で同じモル用量で投与される場合に、吸収の速度および/または程度が参照抗体(例えば、REGN2810)のものと有意差を示さない医薬的同等物または医薬的代替物である、抗PD-1抗体またはPD-1結合タンパク質またはそれらのフラグメントを指す。本開示において、用語「生物学的同等物」は、PD-1に結合し、安全性、純度および/または効力についてREGN2810と臨床的に意味のある違いを有さない抗原結合タンパク質を含む。
【0060】
本開示のある種の実施形態によれば、抗ヒトPD-1またはその抗原結合性フラグメントは、配列番号1に対して90%、95%、98%または99%の配列同一性を有するHCVRを含む。
【0061】
本開示のある種の実施形態によれば、抗ヒトPD-1またはその抗原結合性フラグメントは、配列番号2に対して90%、95%、98%または99%の配列同一性を有するLCVRを含む。
【0062】
本開示のある種の実施形態によれば、抗ヒトPD-1またはその抗原結合性フラグメントは、5つ以下のアミノ酸置換を有する、配列番号1のアミノ酸配列を含むHCVRを含む。本開示のある種の実施形態によれば、抗ヒトPD-1またはその抗原結合性フラグメントは、2つ以下のアミノ酸置換を有する、配列番号2のアミノ酸配列を含むLCVRを含む。
【0063】
配列同一性は、当技術分野で既知の方法(例えば、GAP、BESTFITおよびBLAST)によって測定することができる。
【0064】
本開示は、皮膚がんを治療するための方法における抗PD-1抗体の使用も含み、抗PD-1抗体は、1つまたはそれ以上の保存的アミノ酸置換を有する、本明細書に開示されるHCVR、LCVRおよび/またはCDRアミノ酸配列のうちのいずれかの変異体を含む。例えば、本開示は、本明細書に開示されるHCVR、LCVRおよび/またはCDRアミノ酸配列のうちのいずれかに対して、例えば、10個以下、8個以下、6個以下、4個以下などの保存的アミノ酸置換を有するHCVR、LCVRおよび/またはCDRアミノ酸配列を有する抗PD-1抗体の使用を含む。
【0065】
本開示の方法において使用することができる他の抗PD-1抗体としては、例えば、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、MEDI0608、ピディリズマブ、BI 754091、スパルタリズマブ(PDR001としても知られる)、カムレリズマブ(SHR-1210としても知られる)、JNJ-63723283、MCLA-134と当技術分野で称され、既知である抗体、または米国特許第6808710号、第7488802号、第8008449号、第8168757号、第8354509号、第8609089号、第8686119号、第8779105号、第8900587号および第9987500号に、ならびに特許公報WO2006/121168、WO2009/114335に記載されている抗PD-1抗体のうちのいずれかが挙げられる。抗PD-1抗体を特定する前述の刊行物のすべての諸部分、参照によって本明細書に組み入れる。
【0066】
本開示の方法において使用される抗PD-1抗体は、pH依存的結合特性を有し得る。例えば、本開示の方法で使用するための抗PD-1抗体は、中性pHと比較して、酸性pHでPD-1への結合の低減を示し得る。あるいは、本発明の抗PD-1抗体は、中性pHと比較して、酸性pHでその抗原への結合の増強を示し得る。表現「酸性pH」は、約6.2未満、例えば、約6.0、5.95、5.9、5.85、5.8、5.75、5.7、5.65、5.6、5.55、5.5、5.45、5.4、5.35、5.3、5.25、5.2、5.15、5.1、5.05、5.0またはそれ以下のpH値を含む。本明細書で使用する場合、表現「中性pH」は約7.0~約7.4のpHを意味する。表現「中性pH」は、約7.0、7.05、7.1、7.15、7.2、7.25、7.3、7.35および7.4のpH値を含む。
【0067】
特定の場合では、「中性pHと比較して、酸性pHでPD-1への結合の低減」は、酸性pHでのPD-1への抗体結合のKD値対中性pHでのPD-1への抗体結合のKD値(または逆)の比の点から表される。例えば、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、抗体またはその抗原結合性フラグメントが約3.0以上の酸性/中性のKD比を示す場合、本開示において「中性pHと比較して、酸性pHでPD-1への結合の低減」を示すと見なすことができる。ある種の例示的実施形態では、本開示の抗体または抗原結合性フラグメントに対する酸性/中性のKD比は、約3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0、10.5、11.0、11.5、12.0、12.5、13.0、13.5、14.0、14.5、15.0、20.0、25.0、30.0、40.0、50.0、60.0、70.0、100.0またはそれ以上であり得る。
【0068】
pH依存的結合特性を有する抗体は、例えば、中性pHと比較して、酸性pHでの特定の抗原への低減した(または増強した)結合について抗体の集団をスクリーニングすることによって、得ることができる。さらに、アミノ酸レベルでの抗原結合ドメインの改変は、pH依存的特性を有する抗体をもたらすことができる。例えば、抗原結合ドメイン(例えば、CDR内)の1つまたはそれ以上のアミノ酸をヒスチジン残基と置換することによって、中性pHと比べて、酸性pHで抗原結合が低減した抗体を得ることができる。本明細書で使用する場合、表現「酸性pH」は6.0以下のpHを意味する。
【0069】
抗PD-L1抗体およびその抗原結合性フラグメント
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される方法で使用されるPD-1阻害剤は、PD-L1に特異的に結合する抗体またはその抗原結合性フラグメントである。例えば、本開示において使用される場合、PD-L1に「特異的に結合する」抗体は、約1×10-8M以下のKD(例えば、KDが小さいほどより堅固な結合を示す)でPD-L1またはその一部に結合する抗体を含む。「高親和性」抗PD-L1抗体は、表面プラスモン共鳴、例えば、BIACORE(商標)または溶液親和性ELISAによって測定した場合に、少なくとも10-8M、好ましくは10-9M、より好ましくは10-10M、さらにより好ましくは10-11M、さらにより好ましくは10-12MのKDとして表される、PD-L1への結合親和性を有するmAbを指す。しかし、ヒトPD-L1に特異的に結合する単離抗体は、他の抗原、例えば、他の(非ヒト)種からのPD-L1分子への交差反応性を有する可能性がある。
【0070】
ある種の例示的実施形態によれば、抗PD-L1抗体またはその抗原結合性フラグメントは、その内容全体を参照によって本明細書に組み入れる米国特許第9,938,345号に記載される抗PD-L1抗体のうちのいずれかのアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)、軽鎖可変領域(LCVR)および/または相補性決定領域(CDR)を含む。ある種の例示的実施形態では、本開示において使用することができる抗PD-L1抗体またはその抗原結合性フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)の重鎖相補性決定領域(HCDR)および軽鎖可変領域(LCVR)の軽鎖相補性決定領域(LCDR)を含み、HCVRおよびLCVRは、米国特許第9,938,345号でH2M8314Nと指定された抗PD-L1抗体のアミノ酸配列を含む。ある種の実施形態によれば、抗PD-L1抗体またはその抗原結合性フラグメントは、3つのHCDR(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)ならびに3つのLCDR(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)を含み、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3は、米国特許第9,938,345号でH2M8314Nと指定された抗PD-L1抗体のアミノ酸配列を含む。さらに他の実施形態では、抗PD-L1抗体またはその抗原結合性フラグメントは、米国特許第9,938,345号でH2M8314Nと指定された抗PD-L1抗体のアミノ酸配列を含む、HCVRおよびLCVRを含む。
【0071】
ある種の実施形態では、本開示の方法は抗PD-L1抗体の使用を含み、抗体は、米国特許第9,938,345号でH2M8314Nと指定された抗PD-L1抗体の重鎖アミノ酸配列を含む重鎖を含む。いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、米国特許第9,938,345号でH2M8314Nと指定された抗PD-L1抗体の軽鎖アミノ酸配列を含む軽鎖を含む。
【0072】
本開示のある種の実施形態によれば、抗ヒトPD-L1またはその抗原結合性フラグメントは、米国特許第9,938,345号でH2M8314Nと指定された抗PD-L1抗体のLCVRアミノ酸配列に対して90%、95%、98%または99%の配列同一性を有するLCVRを含む。
【0073】
本開示のある種の実施形態によれば、抗ヒトPD-L1またはその抗原結合性フラグメントは、5つ以下のアミノ酸置換を有する、米国特許第9,938,345号でH2M8314Nと指定された抗PD-L1抗体のアミノ酸配列を含むHCVRを含む。本開示のある種の実施形態によれば、抗ヒトPD-L1またはその抗原結合性フラグメントは、2つ以下のアミノ酸置換を有する、米国特許第9,938,345号でH2M8314Nと指定された抗PD-L1抗体のアミノ酸配列を含むLCVRを含む。
【0074】
配列同一性は、当技術分野で既知の方法(例えば、GAP、BESTFITおよびBLAST)によって測定することができる。
【0075】
本開示は、皮膚がんを治療するための方法における抗PD-L1抗体の使用も含み、抗PD-L1抗体は、1つまたはそれ以上の保存的アミノ酸置換を有する、本明細書に開示されるHCVR、LCVRおよび/またはCDRアミノ酸配列のうちのいずれかの変異体を含む。例えば、本開示は、本明細書に開示されるHCVR、LCVRおよび/またはCDRアミノ酸配列のうちのいずれかに対して、例えば、10個以下、8個以下、6個以下、4個以下などの保存的アミノ酸置換を有するHCVR、LCVRおよび/またはCDRアミノ酸配列を有する抗PD-L1抗体の使用を含む。
【0076】
本開示の方法において使用することができる他の抗PD-L1抗体としては、例えば、MDX-1105、アテゾリズマブ(TECENTRIQ(商標))、デュルバルマブ(IMFINZI(商標))、アベルマブ(BAVENCIO(商標))、LY3300054、FAZ053、STI-1014、CX-072、KN035(Zhangら、Cell Discovery、3、170004(2017年3月))、CK-301(Gorelikら、American Association for Cancer Research Annual Meeting(AACR)、2016-04-04 Abstract 4606)と当技術分野で称され、既知である抗体、または特許公報US7943743、US8217149、US9402899、US9624298、US9938345、WO2007/005874、WO2010/077634、WO2013/181452、WO2013/181634、WO2016/149201、WO2017/034916もしくはEP3177649に記載される他の抗PD-L1抗体のうちのいずれかが挙げられる。抗PD-L1抗体を特定する前述の刊行物のすべての諸部分、参照によって本明細書に組み入れる。
【0077】
医薬組成物および投与
本明細書に開示されるPD-1阻害剤を、適切な担体、賦形剤、緩衝液、および適切な移行、送達、忍容性などを提供する他の薬剤とともに製剤化することができる医薬組成物内に含めることができる。すべての薬剤師に知られている処方集:Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、Easton、PAに多数の適切な製剤を見出すことができる。これらの製剤は、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ゼリー、ワックス、油、脂質、脂質(陽イオン性または陰イオン性)含有ベシクル(例えばLIPOFECTIN(商標))、DNAコンジュゲート、無水吸収ペースト、水中油型および油中水型エマルジョン、エマルジョンカーボワックス(様々な分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、およびカーボワックス含有半固体混合物を含む。Powellら、「Compendium of excipients for parenteral formulations」PDA、J Pharm Sci Technol 52:238~311(1998)も参照されたい。
【0078】
様々な送達システムが知られており、本発明の医薬組成物を投与するために使用することができ、例えば、リポソーム中のカプセル化、マイクロ粒子、マイクロカプセル、突然変異ウイルスを発現することができる組換え細胞、受容体媒介性エンドサイトーシスである。例えば、Wuら、J.Biol.Chem.262:4429~32(1987)を参照されたい。
【0079】
本明細書に開示されるPD-1阻害剤を含む医薬組成物は、皮膚がん病変中への直接投与および皮膚がん病変を覆う皮膚中への投与を含む病変内投与に適している。医薬組成物は、標準的な針およびシリンジを用いる皮下注射によって送達することができる。
【0080】
医薬組成物の注射用製剤は、既知の方法によって調製することができる。例えば、注射用製剤は、例えば、注射のために従来から使用されている滅菌した水性媒体または油性媒体中に上記の抗体またはその塩を溶解すること、懸濁させること、または乳化することによって調製することができる。注射のための水性媒体として、例えば、生理食塩水、グルコースおよび他の補助剤を含む等張液などがあり、これらは、適切な可溶化剤、例えば、アルコール(例えば、エタノール)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO-50(硬化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50モル)付加物)]などと組み合わせて使用することができる。油性媒体として、例えば、ゴマ油、ダイズ油などが用いられ、これらは、可溶化剤、例えば、ベンジル安息香酸、ベンジルアルコールなどと組み合わせて使用することができる。このように調製された注射用製剤は、好ましくは、適切な注射アンプル中に充填される。いくつかの実施形態では、注射用製剤は、PD-1阻害剤の濃縮物および1種またはそれ以上の溶媒(例えば、蒸留水、食塩水など)を含む、病変内注射液の形態でもよい。
【0081】
ある種の実施形態では、本開示は、治療量のPD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)および医薬的に許容可能な担体を含む、医薬組成物または製剤を提供する。ある種の実施形態では、本開示は、病変内注射による投与のための医薬組成物中に製剤化されたPD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)を提供する。
【0082】
本開示において使用することができる抗PD-1抗体を含む例示的医薬組成物は、例えば、US2019/0040137に開示されている。
【0083】
投与レジメン
ある種の実施形態では、本明細書に開示される方法は、例えば、特定の治療的投与レジメンの一部として、治療有効量のPD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)を、それらを必要とする対象の腫瘍に複数回用量で病変内投与することを含む。例えば、上記の治療的投与レジメンは、治療応答が達成される限り、約1日1回、2日ごとに1回、3日ごとに1回、4日ごとに1回、5日ごとに1回、6日ごとに1回、週に1回、2週ごとに1回、3週ごとに1回、4週ごとに1回、5週ごとに1回、6週ごとに1回、8週ごとに1回、12週ごとに1回、月に1回、2か月ごとに1回、3か月ごとに1回、4か月ごとに1回、1日2回、2日ごとに2回、3日ごとに2回、4日ごとに2回、5日ごとに2回、6日ごとに2回、週に2回、2週ごとに2回、3週ごとに2回、4週ごとに2回、5週ごとに2回、6週ごとに2回、8週ごとに2回、12週ごとに2回、月2回、2か月ごとに2回、3か月ごとに2回、4か月ごとに2回、1日3回、2日ごとに3回、3日ごとに3回、4日ごとに3回、5日ごとに3回、6日ごとに3回、週に3回、2週ごとに3回、3週ごとに3回、4週ごとに3回、5週ごとに3回、6週ごとに3回、8週ごとに3回、12週ごとに3回、月に3回、2か月ごとに3回、3か月ごとに3回、4か月ごとに3回の頻度で、またはより低頻度に、または必要に応じに応じて、1またはそれ以上の用量のPD-1阻害剤を対象に投与すること含むことができる。一実施形態では、1またはそれ以上の用量の抗PD-1抗体が週に1回投与される。
【0084】
ある種の実施形態では、1またはそれ以上の用量が少なくとも1つの治療サイクルで投与される。本態様による方法は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10以上の用量のPD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)の投与を含む少なくとも1つの治療サイクルを、それらを必要とする対象に施すことを含む。一実施形態では、治療サイクルは3用量のPD-1阻害剤を含む。一実施形態では、治療サイクルは12用量のPD-1阻害剤を含む。一実施形態では、治療サイクルは24用量のPD-1阻害剤を含む。一実施形態では、治療サイクルは3用量のPD-1阻害剤を含み、各用量は直前の用量の2週後に投与される。一実施形態では、治療サイクルは10用量のPD-1阻害剤を含み、各用量は直前の用量の1週後に投与される。一実施形態では、治療サイクルは12用量のPD-1阻害剤を含み、各用量は直前の用量の1週後に投与される。
【0085】
一実施形態では、治療サイクルで投与されるすべての用量は、同じ量のPD-1阻害剤を含む。別の実施形態では、治療サイクルは、異なる量のPD-1阻害剤を含む少なくとも2用量の投与を含む。一実施形態では、治療サイクルの第1の用量は、治療サイクルのその後の用量より大量のPD-1阻害剤を含む。一実施形態では、治療サイクルの第1の用量は、治療サイクルのその後の用量よりも少量のPD-1阻害剤を含む。
【0086】
一実施形態では、治療サイクルは反復される。いくつかの実施形態では、治療サイクルは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12またはそれ以上の回数が反復される。
【0087】
ある種の実施形態では、ある用量のPD-1阻害剤は、単一のセッションまたは患者の来院で対象に投与される。ある種の実施形態では、ある用量の投与は、腫瘍病変の1つまたはそれ以上の位置へPD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)の1回またはそれ以上の注射を病変内投与することを含む。腫瘍病変の位置のいくつかまたはすべては、互いに同じでもよいし、異なっていてもよい。一実施形態では、ある用量の投与は、PD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10回以上の注射を腫瘍病変の1、2、3、4、5、6または7つの位置に投与することを含む。一実施形態では、PD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)の2~5回の注射が対象の腫瘍病変の2つ~5つの位置に投与される。いくつかの実施形態では、腫瘍病変の位置としては、限定されないが、病変の上部(頭側)半分、病変の上部半分の最も高密度の部分、腫瘍病変を覆う皮膚、および/または正常に見える皮膚との境界面の近くまたは該境界面に隣接する、腫瘍の上部(頭側)周辺部が挙げられる。
【0088】
いくつかの実施形態では、PD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10回以上の注射の病変内投与を含むある用量の投与は、その用量に含まれる最初に投与される注射の開始からその用量に含まれる最後に投与される注射の終了まで測定した場合に、10分未満、例えば、1~6分、2~5分または2~3分で終了する。例えば、非限定的な例示的一実施形態では、最初の投与の開始から最後の投与の終了まで測定した、PD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)を病変内投与するための合計時間は、約2~5分である。ある種の実施形態では、PD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)の1回またはそれ以上の注射は、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10分の期間にわたって、それらを必要とする対象に病変内投与される。
【0089】
本明細書で使用する場合、用語「初回の」、「第2の」、「第3の」などは、投与の時間的順序を指す。したがって、「初回用量」は治療レジメンの初めに投与される用量(「ベースライン用量」とも称される)であり;「第2の用量」は初回用量の後に投与される用量であり;「第3の用量」は、第2の用量の後に投与される用量である。初回、第2および第3の用量はすべて同じ量のPD-1阻害剤(抗PD-1抗体)を含むことができる。しかし、ある種の実施形態では、初回、第2および/または第3の用量に含まれる量は、治療の過程において互いに異なる(例えば、適宜、上または下に調整される)。ある種の実施形態では、1またはそれ以上の(例えば、1、2、3、4または5)用量が治療レジメンの初めに「負荷用量」として投与され、その後に、より低頻度の基準(例えば、「維持量」)で投与されるその後の用量が続く。例えば、抗PD-1抗体は、患者の体重について約1mg/kg~約3mg/kgの負荷用量、続いて、約0.1mg/kg~約20mg/kgの1つまたはそれ以上の維持量でがんの患者に投与することができる。
【0090】
本開示の例示的一実施形態では、各第2および/または第3の用量は、直前の用量の1/2~4週以上(例えば、1/2、1、1と1/2、2、2と1/2、3、3と1/2、4またはそれ以上の週)後に投与される。本明細書で使用する場合、フレーズ「直前の用量」は、複数回投与の順序において、介在用量なしで、その順序の次の用量の投与より前に対象に投与される抗PD-1抗体の用量を意味する。
【0091】
同様に、「初回の治療サイクル」は治療レジメンの初めに施される治療サイクルであり;「第2の治療サイクル」は初回の治療サイクル後に施される治療サイクルであり;「第3の治療サイクル」は第2の治療サイクル後に施される治療サイクルである。本開示において、治療サイクルは互いに同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0092】
投薬量
ある種の実施形態では、PD-1阻害剤の各用量は、患者の体重について0.1、1、0.3、3、4、5、6、7、8、9または10mg/kgを含む。ある種の実施形態では、各用量は、PD-1阻害剤5~500mg、例えば、PD-1阻害剤5、10、15、20、25、40、45、50、60、70、80、90、100mg以上を含む。一実施形態では、PD-1阻害剤はREGN2810(セミプリマブ)である。
【0093】
本明細書に開示される方法に従って病変内対象に投与されるPD-1阻害剤の量は、一般に治療有効量である。本明細書で使用する場合、用語「治療有効量」は、以下の1つまたはそれ以上をもたらすPD-1阻害剤の量を意味する:治療されない対象または病変内以外の投与経路によって(例えば、静脈内注入によって)PD-1阻害剤で治療される対象と比較した場合の、(a)皮膚がん、例えば腫瘍病変の症状もしくは徴候の重症度もしくは継続期間の低減;(b)腫瘍増殖の阻害、もしくは腫瘍壊死、腫瘍縮小および/もしくは腫瘍消失の増大;(c)腫瘍の増殖および発生の遅延;(d)腫瘍転移の阻害;(e)腫瘍増殖の再発の防止;(f)がんを有する対象の生存を延ばす;ならびに/または(g)従来の抗がん療法の使用もしくは必要性の低減(例えば、手術の必要性の排除、もしくは化学療法剤もしくは細胞毒性剤の使用の低減または排除)。
【0094】
PD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)の場合には、治療有効量は、抗体約5mg~約500mg、約10mg~約450mg、約50mg~約400mg、約75mg~約350mg、または約100mg~約300mgであり得る。例えば、様々な実施形態では、PD-1阻害剤の量は、PD-1阻害剤約5mg、約10mg、約15mg、約20mg、約30mg、約40mg、約50mg、約60mg、約70mg、約80mg、約90mg、約100mg、約110mg、約120mg、約130mg、約140mg、約150mg、約160mg、約170mg、約180mg、約190mg、約200mg、約210mg、約220mg、約230mg、約240mg、約250mg、約260mg、約270mg、約280mg、約290mg、約300mg、約310mg、約320mg、約330mg、約340mg、約350mg、約360mg、約370mg、約380mg、約390mg、約400mg、約410mg、約420mg、約430mg、約440mg、約450mg、約460mg、約470mg、約480mg、約490mg、約500mg、約510mg、約520mg、約530mg、約540mg、約550mg、約560mg、約570mg、約580mg、約590mg、または約600mgである。
【0095】
一実施形態では、治療有効量のPD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)5mgが本明細書に開示される方法に従って病変内投与される。別の実施形態では、治療有効量のPD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)15mgが本明細書に開示される方法に従って病変内投与される。別の実施形態では、治療有効量のPD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)44mgが本明細書に開示される方法に従って病変内投与される。
【0096】
個々の用量に含まれるPD-1阻害剤の量は、対象の体重キログラムあたりの抗体ミリグラム(すなわち、mg/kg)を単位として表すことができる。ある種の実施形態では、本明細書に開示される方法で使用されるPD-1阻害剤は、対象の体重について約0.0001~約100mg/kgの用量で対象に投与することができる。ある種の実施形態では、抗PD-1抗体は、患者の体重について約0.1mg/kg~約20mg/kgの用量で投与することができる。ある種の実施形態では、本開示の方法は、患者の体重について約1mg/kg、3mg/kg、5mg/kgまたは10mg/kgの用量のPD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)の投与を含む。
【0097】
ある種の実施形態では、患者に病変内投与されるPD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)の個々の投与量は、治療有効量未満、すなわち、治療量より少ない用量でもよい。例えば、治療有効量のPD-1阻害剤が3mg/kgを含む場合、治療量より少ない用量は、3mg/kg未満の量、例えば、2mg/kg、1.5mg/kg、1mg/kg、0.5mg/kgまたは0.3mg/kgを含む。本明細書で定義される場合、「治療量より少ない用量」はそれ自体で治療効果を引き起こさないPD-1阻害剤の量を指す。しかし、ある種の実施形態では、対象において治療効果を集合的に達成するために、治療量より少ない複数の用量のPD-1阻害剤が投与される。
【0098】
ある種の実施形態では、各用量は、対象の体重について0.1~10mg/kg(例えば、0.3mg/kg、1mg/kg、3mg/kgまたは10mg/kg)を含む。ある種の他の実施形態では、各用量は、PD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体)5~600mg、例えば、PD-1阻害剤5mg、10mg、15mg、20mg、25mg、30mg、40mg、45mg、50mg、100mg、150mg、200mg、250mg、300mg、350mg、400mgまたは500mgを含む。
【実施例】
【0099】
以下の例を用いて、開示される技術を次に記載する。本明細書の任意の場所でのこれらおよび他の例の使用は例示に過ぎず、本発明または任意の例示された形態の範囲および意味を決して制限しない。同様に、本発明は、本明細書に記載の任意の特定の好ましい実施形態に制限されない。実際に、本発明の改変および変形は、本明細書を読めば当業者に明らかになり得、その趣旨および範囲から逸脱することなく行うことができる。したがって、本発明は、特許請求の範囲が権利付与される均等物の全範囲とともに、特許請求の範囲の用語によってのみ制限されるべきである。さらに、使用される数(例えば、量、温度など)について正確性を確実にするように努力したが、いくらかの実験上の誤差および偏差が考慮されるべきである。別段指示がない限り、部は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度摂氏度であり、圧力は大気圧または大気圧付近である。
【実施例1】
【0100】
再発性皮膚扁平上皮癌(CSCC)の患者における、病変内投与される抗PD-1抗体の臨床試験
本研究は、非常に免疫応答性の腫瘍タイプである切除可能なCSCCの患者において、抗PD-1抗体の毎週の病変内注射の安全性、忍容性、薬物動態(PK)および抗腫瘍効能を評価するための、第1相、単一群、非盲検、用量漸増研究(コホート拡大あり)である。
【0101】
本研究で使用される例示的抗PD-1抗体はREGN2810(セミプリマブ、またはUS9987500に開示されているH4H7798Nとしても知られる)であり、これは、配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖および配列番号10のアミノ酸配列を含む軽鎖;配列番号1/2を含むHCVR/LCVRアミノ酸配列対;および配列番号3~8を含む重鎖および軽鎖CDR配列を含む、完全ヒトモノクローナル抗PD-1抗体である。
【0102】
研究目的
研究の第1の目的は、再発性CSCCの患者において、病変内注射されたREGN2810の安全性および忍容性を特徴づけることである。
【0103】
研究の第2の目的は、以下を含む:(1)REGN2810の病変内注射後のCSCCインデックス病変における客観的奏効率(ORR)を説明すること;(2)REGN2810の病変内注射後のCSCCインデックス病変における病理的完全奏効(CR)率を説明すること;(3)REGN2810の病変内注射後のCSCCインデックス病変における主要な病理的奏効率を説明すること;(4)REGN2810の病変内注射後のREGN2810の全身的曝露を評価すること;(5)REGN2810の免疫原性を評価すること;および(6)REGN2810の用量を評価すること。
【0104】
研究継続期間
各患者に対する研究の継続期間はおよそ7か月であり、これには、スクリーニング(28日)、治療期間(12週)、治療来院の終わりの手術的切除(13週目)、および90日の治療後追跡調査期間が含まれる(
図1を参照されたい)。研究は、12週を超える治療が臨床的に適切な場合、個々の患者基準で治療の延長(さらに12週まで)の選択肢を含む。研究の終了は、最後の患者の最後の来院と定義される。
【0105】
本研究では、病変内投与後に、病変内投与から24時間を超えた後にREGN2810の最大血清濃度が出現するであろうことが予想され、完全なPKプロファイルを得るために、1日目以降のサンプリングを必要とする。薬物濃度の分析用のサンプルは、投与前および第1の投与後のいくつかの時点で、すべての患者から収集されるであろう。このサンプリングスケジュールは、(REGN2810の排除を説明するための)追跡調査期間中の最終用量後の濃度-時間プロファイルの決定を容易にするであろう。
【0106】
研究集団
本研究は、手術後の再発の前歴が理由で再発の危険性が高い人は別にして、手術的除去が計画されるCSCCを有する患者において、病変内REGN2810を評価する。病変内REGN2810の利益のうちの1つは、PD-1阻害がCSCCに対して免疫記憶を誘導する能力による、その後の再発の危険性の低減である。
【0107】
研究集団は、再発性CSCCを有し、≧1.0cmかつ≦2.0cmである少なくとも1つの切除可能な病変を有する、同意時に18歳以上の男性および女性の患者を含む。REGN2810が注射される病変は「インデックス病変」と呼ばれる。
【0108】
組み入れ基準:患者は、研究への組み入れの対象となるためには、以下の判断基準を満たさなければならない:(1)以下の条件のいずれかを満たす、再発性の切除可能なCSCCの病歴:(a)同意日前の3年以内に手術的に除去され、本研究のインデックス病変であり、≧1.0cmかつ≦2.0cm(最長直径)である再発性CSCCを頭頸部領域に現在有する、頭頸部の少なくとも1つの以前のCSCC;(b)同意日前の3年以内に手術的に除去され、本研究のインデックス病変(任意の解剖的位置)であり、≧1.0cmかつ≦2.0cm(最長直径)である体幹または四肢の再発性CSCCを現在有する、体幹または四肢の少なくとも2つの以前のCSCC;(2)インデックス病変における測定可能な疾患(すなわち、最長垂直直径の両方が少なくとも1cmである少なくとも1つの病変);(3)米国東海岸がん臨床試験グループ(ECOG)パフォーマンスステータス≦1(Okenら、Am J Clin Oncol 1982;5(6):649~55);(4)≧18歳;(5)肝臓機能:(a)総ビリルビン≦1.5×正常上限(ULN)、(b)アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)≦3×ULN、(c)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)≦3×ULN、(c)アルカリホスファターゼ(ALP)≦2.5×ULN;(6)腎機能:血清クレアチニン≦1.5×ULNまたは推定クレアチニンクリアランス(CrCl)>30mL/分;(7)骨髄機能:(a)ヘモグロビン≧9.0g/dL、(b)好中球絶対数(ANC)≧1.5×109/L、(c)血小板数≧75×109/L;(8)クリニックへの来院および研究関連手順に進んで従うことができること;(9)研究患者によって署名され、日付が記入されたインフォームドコンセントを提供すること。
【0109】
除外基準:以下の判断基準のうちのいずれかを満たす患者は、研究から除外されるであろう:(1)irAEの危険性を示唆し得る、全身的免疫抑制治療による治療を必要とした著しい自己免疫疾患の進行中または最近(5年以内)のエビデンス(非除外:白斑、解決した小児喘息、1型糖尿病、ホルモン補充のみを必要とした残留甲状腺機能低下症、または全身的治療を必要としない乾癬);(2)PD-1/PD-L1経路を遮断する薬剤による以前の治療;(3)(a)登録日の4週(28日)未満内であった、(b)登録より前の90日以内にグレード≧1であるirAEに関連していた、または(c)免疫モジュレート剤の中止をもたらす毒性に関連していた:他の全身的免疫モジュレート剤による以前の治療;(4)CSCCからの脳転移の既知の病歴;(5)REGN2810の最初の用量より前の4週以内の免疫抑制コルチコステロイ用量(毎日>10mgのプレドニゾンまたは等量)(除外しない:短期コースのステロイドを必要とする患者);(6)過去5年以内の非感染性間質性肺炎の病歴;(7)REGN2810の初回用量の30日以内の、または研究期間中に行われることが計画されている、任意の抗癌治療、研究的または標準的ケア(除外しない:ビスホスホネートまたはデノスマブを受けている患者;REGN2810の計画された初回治療の30日以内の手術);(8)抗体治療に起因する記録されたアレルギー反応または急性過敏症反応の病歴;(9)ヒト免疫不全ウイルス(HIV)(抗ウイルス治療に関係なく、検出可能なウイルス負荷もしくは350未満のCD4数)、B型肝炎(HBsAg+、B型肝炎に対する抗ウイルス療法に関係なく、DNAポリメラーゼ連鎖反応[PCR]によって検出可能なB型肝炎ウイルス血清を有するもの)、またはC型肝炎感染(C型肝炎ウイルス抗体陽性[HCV Ab+]、PCRによって検出可能なHCV RNAを有するもの)による制御されない感染;または他の制御されない感染症;(10)転移または死亡の無視できるほどの危険性しかない腫瘍、例えば、皮膚の適切に治療されたBCC、頸の上皮内癌または乳房の非浸潤性乳管癌、または管理計画が積極的監視である低危険性初期前立腺腺癌(T1-T2aN0M0ならびにグリーソンスコア≦6およびPSA≦10ng/mL)、もしくは管理計画が積極的監視である、記録されたPSA倍加時間が>12か月である生化学的のみの再発をともなう前立腺腺癌(D’Amicoら、JAMA 2005;294(4):440~7)(Phamら、J Urol 2016;196(2):392~8)を除いて、計画されたREGN2810の最初の用量の日から3年以内のCSCC以外の同時発生的悪性病変および/またはCSCC以外の悪性病変の病歴;(11)患者を参加に不適格にする急性または慢性の精神医学的な問題;(12)固形臓器移植の病歴を有する患者;(13)医学的併存症、身体検査の所見、もしくは代謝機能障害、または安全上の高い危険性および/もしくは研究の結果の解釈に影響を及ぼす可能性が理由で患者を臨床試験の参加に不適合にする、臨床検査の異常;(14)M1またはN1、N2(a、bもしくはc)またはN3 CSCC。転移性CSCC(遠隔またはリンパ節)の病歴を有する患者は、無病期間が少なくとも3年でない限り除外される;(15)インデックス病変が乾燥した赤い唇(赤唇)、口腔、鼻粘膜または肛門生殖器部にあると思われる場合に除外される患者;(16)クマジンを常用している患者に対する手術に関連した出血の増大の潜在的危険性が理由で、クマジン(ワルファリン)を常用している患者;(17)スクリーニング期間中に手術的に除去することができない、直径が2.0cmを越えるインデックス病変または非インデックス病変を有する患者;(18)妊娠中または母乳哺育の女性;(19)研究中の初回用量/最初の治療の開始より前に、および最終用量から少なくとも6か月間、非常に有効な避妊を行うことに気が進まない、性的に活発な男性および妊娠可能な女性。
【0110】
研究変数
本研究の主要エンドポイントは以下を含む:もしあれば用量制限毒性(DLT)および第1の用量から28日目までNational Cancer Institute-Common Terminology Criteria for Adverse Events(NCI CTCAE)v5に従って段階分けされた治療下で発現した有害事象(TEAE)の発生率、性質および重症度;治療期間中および最終用量から90日までNCI CTCAE v5に従って段階分けされたTEAEの発生率および重症度;ならびに第1の用量から最終用量の90日後までの注射部位反応(ISR)の発生率および重症度。
【0111】
本研究の副次的エンドポイントは以下を含む:治療の終わり(計画された12週治療コースを終了する患者については85日目)に、修正WHO判断基準(以下に記載)によって決定されるORR;手術時の病理的完全奏効率;手術時(または、手術を断る患者については治療の終わりの生検)の主要な病理的奏効率;第1の用量から最終用量の90日後までの経時的なREGN2810の血清濃度;REGN2810に対する抗薬物抗体(ADA)力価の発生率;ならびに臨床およびPKの知見に基づく、さらなる研究のためのREGN2810の推奨用量の選択。
【0112】
本研究のさらなるエンドポイントは以下を含む:治療の終わり(計画された12週治療コースを終了する患者については85日目)に修正WHO判断基準を使用して決定される、非インデックス病変におけるORR。
【0113】
本研究の効能変数は以下を含む:治療の終わりに治療領域の手術的除去によって評価され、手術的切除由来の組織内に残留悪性病変がないことの組織学的確認と定義される、病理的CR;切除からの10%以下の生存可能な腫瘍細胞の組織学的確認(またはパンチ生検もしくは手術を受けない患者に残留悪性病変がないこと)と定義される、主要な病理的応答;および修正WHO判断基準に従ったデジタル医学写真による病変の2次元測定に基づいて部分奏効(PR)または完全奏効(CR)を有する参加者のパーセンテージと定義される、ORR。
【0114】
本研究のPK変数は、経時的なREGN2810の血清濃度を含む。本研究のADA変数は、ADAステータス、力価、および時点/来院を含む。
【0115】
研究デザイン
本研究では、各患者は、予定される手術の前の12週間、割り当てられた用量レベルでREGN2810の病変内注射250μLを週1回(QW)受ける。3つの用量コホートが3+3用量漸増デザインに従う。
図1は、一般的な研究流れ図を提供する。およそ36人の患者が本研究に登録されることになり、3+3デザインあたりの用量レベルごとに6人の患者を含む。
【0116】
REGN2810の3つの用量コホートは、以下の用量レベルでQW病変内投与される:計画された用量レベル1(開始用量)は1週間あたり5mgであり;計画された用量レベル2は1週間あたり15mgであり;計画された用量レベル3は1週間あたりおよそ44mg(43.75mg)である。注射容量250μLは各用量レベルで一定である。用量レベルは、REGN2810(滅菌した使い捨てのバイアル中に濃度175mg/mLで液体として提供される)を緩衝液に希釈することによって得られる。
【0117】
手順および評価
スクリーニング手順は以下を含む:インフォームドコンセント、組み入れ/除外、病歴、人口統計、ウイルス血清学、凝固、尿検査、CSCCの局所的な病理的確認、ECOG、胸部X線、治療の割り当て。
【0118】
治療手順は病変内REGN2810投与である。
【0119】
効能手順は以下を含む:デジタル医学写真撮影および手術的切除。
【0120】
安全性手順は以下を含む:バイタルサイン、身体検査、心電図(ECG)、有害事象(AE)のモニタリング、併用薬物適用および手順の評価。
【0121】
臨床検査手順は以下を含む:血液学、血液化学、妊娠検査(女性のみ)、甲状腺機検査。
【0122】
PK/薬物濃度:REGN2810の血清濃度の評価ためにPKサンプルを収集することになる。
【0123】
ADA:REGN2810に対する免疫原性の評価のために血清サンプルを収集することになる。
【0124】
併用薬物適用および手順
禁止される薬物適用および手順:研究に参加している間に、患者は、以下に別段の指定がない限り、インフォームドコンセント時から追跡調査期間の終わりまで以下のいずれも受けることができない:(a)以下に列挙される許可された薬物適用を除いて、REGN2810以外の腫瘍の治療のための標準的または研究的薬剤、(b)PD-1/PD-L1経路を遮断する薬剤、(c)緊急でない限り、または承認が得られない限り、非研究関連手術行為、(d)放射線療法。
【0125】
許可された薬物適用および手順:以下の条件下で、以下の薬物適用および手順は許可される:(a)全身的コルチコステロイドを含めた、AEおよび/またはirAEを治療するのに必要とされる任意の薬物適用、(b)生理的補充のための全身的コルチコステロイド(たとえ>10mg/日のプレドニゾン同等物であっても)、(c)非自己免疫性状態の予防または治療のための短期コースのコルチコステロイド、(d)ビスホスホネートおよびデノスマブ、(e)たとえ>10mg/日のプレドニゾン同等物であっても、生理的補充用量の全身的コルチコステロイド、(f)経口避妊薬、ホルモン補充療法または他の維持療法は継続することができる、(g)用量≦2g/日のアセトアミノフェン、(h)臨床的に示された場合、非インデックス病変の手術的切除、(i)他の薬物適用および手順は個々に許可される可能性がある。
【0126】
REGN2810の病変内投与
インデックス病変(注射のために選択された病変は、皮膚表面に少なくとも1cm(最大直径、2.0cm)の表面直径を有するであろう。REGN2810の病変内投与は、直接可視化して行う。放射線ガイダンス(すなわち、超音波)は使用しない。以下の病変タイプは注射のために選択されない:砕けやすいもしくは壊死性の病変、出血性の病変、眼の2.0cm以内の病変、または肛門生殖器の病変。インデックス病変は、アルコールまたはベタジンで清浄化するべきである。計画されたREGN2810注射より少なくとも5分前(ただし30分以内)に、局所用リドカイン軟膏をインデックス病変に塗布することができる。好ましくは30ゲージの針を有する≦1mlのシリンジで、250μLのREGN2810治療を送達することができる。
【0127】
2つ~5つの位置のインデックス病変の上部(頭側)半分に、REGN2810を接線方向に注射する。腫瘍の下部の漏出による病変からの薬物製品の喪失を最小限にするために、インデックス病変の下部半分には注射しない。少なくとも1つの注射は腫瘍を覆う皮膚(または、腫瘍の上部半分の最も高密度の部分内)に皮内投与するべきであり、少なくとも1つの注射は正常に見える皮膚との境界面近くの腫瘍の上部(頭側)周辺部に投与するべきである。すべての注射の合計注射時間は2~3分であるべきである。注射した組織からの研究薬の漏出を回避するために、非常にゆっくりと注射を投与するべきである。研究薬の潜在的な漏出が理由で、腫瘍の緩いまたは砕けやすい領域には注射するべきではない。
【0128】
注射から30±10分後に、ISRの任意の徴候について病変を調べる。注射から30±10分後に生命徴候を記録し、インデックス病変を非密封包帯で覆う。
【0129】
全身的過敏症反応(SHR)の管理
SHRは以下のように定義される:典型的な症状は、発熱、悪寒、硬直、皮膚潮紅、呼吸困難、背部痛、腹痛および悪心を含み得る;反応は、通常、注射の間かまたは翌日の終わりまでのいつでも生じる(別の説明がない場合);生命徴候は、低血圧および/または頻脈が注目に値する可能性がある。
【0130】
グレード1または2のSHR(表1を参照されたい)を経験する患者については、その後のREGN2810注射より少なくとも30分前に、以下の予防的薬物適用が推奨される:ジフェンヒドラミン50mg(もしくは同等物)および/またはアセトアミノフェン/パラセタモール325mg~1000mg。グレード2のSHRを経験する患者については、コルチコステロイド(ヒドロコルチゾン25mgまで、または同等物)を使用することができる。
【0131】
【0132】
注射部位反応(ISR)の管理
ISRは、研究薬が注射された場所の周りの組織の炎症または損傷と定義される。
【0133】
グレード1または2のISR(表2を参照されたい)を経験する患者については、その後のREGN2810注射より少なくとも30分前に、以下の予防的薬物適用が推奨される:ジフェンヒドラミン50mg(もしくは同等物)および/またはアセトアミノフェン/パラセタモール325mg~1000mg。
【0134】
【0135】
修正WHO判断基準
標的病変の外部から目に見える成分は、各腫瘍評価において、最長寸法および垂直の第2の最長寸法の(個々の標的病変の)積の和として、2次元WHO判断基準を使用して測定し、標準化したデジタル写真撮影を使用して記録することになる。病変の形状に実質的な変化がない場合は、その後の来院測定は、同じ軸で行うべきであり、前の来院の注釈が付けられた写真は、その後の評価を行う場合に、測定の軸を特定するための起点として見なされるべきである。
【0136】
外部から目に見える腫瘍に対する臨床応答判断基準は、WHO判断基準に従った2次元測定を必要とし、以下の通りである:(a)外部から目に見える疾患の完全奏効(vCR):少なくとも4週の間維持される、もはや見えない全標的病変、(b)外部から目に見える疾患の部分奏効(vPR):少なくとも4週の間維持される、標的病変の垂直最長寸法の積の和の50%(WHO判断基準)以上の減少、(c)安定な外部から目に見える疾患(vSD):vCR、vPR、または進行性疾患に対する判断基準を満たさない、(d)目に見える疾患の進行(vPD):標的病変の垂直最長寸法の積の和の≧25%(WHO判断基準)の増加。
【0137】
新しい病変:CSCCと一致する新しい皮膚病変は、CSCCと一致しないことが生検で確認されない限り、病変が、両方の最大垂直直径が≧10mmであり、以前に存在しなかった場合、疾患の臨床的進行(cPD)と考えられるであろう。
【0138】
結果
REGN2810の病変内投与は、CSCCの患者において、腫瘍退縮の増強および安全性の増大につながることが期待される。REGN2810の病変内投与で治療されるCSCC患者は、REGN2810の全身的曝露ではなく局在的治療の使用により、有意に低減したもしくは皆無の有害事象および/または毒性の発生率を示すことが期待される。REGN2810の病変内投与は、免疫学的記憶を誘導し、それにより、治療患者において腫瘍病変の再発を低減させるまたは排除することも期待される。さらに、REGN2810の病変内投与は、治療されるCSCC患者において手術の必要性を排除することが期待される。
【0139】
現在までに、患者は、第1の用量レベル(毎週のREGN2810 5mg)で登録されている。すべての患者は、いかなるDLTもなしでDLTモニタリング期間を終了した。結果は、セミプリマブ5mgが病変内投与されたCSCCの患者の腫瘍退縮を示す。
図2および3は、セミプリマブの病変内投与時に腫瘍縮小を示した2人の例示的患者の写真を示す。他の用量レベルの登録は進行中である。
【配列表】