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特許7513647防炎材及びその製造方法、並びに電池モジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】防炎材及びその製造方法、並びに電池モジュール
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/26 20060101AFI20240702BHJP
   D04H 1/4209 20120101ALI20240702BHJP
   H01M 10/658 20140101ALI20240702BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20240702BHJP
   H01M 10/6555 20140101ALI20240702BHJP
   H01M 10/6554 20140101ALI20240702BHJP
   H01M 50/204 20210101ALI20240702BHJP
【FI】
B32B5/26
D04H1/4209
H01M10/658
H01M10/625
H01M10/6555
H01M10/6554
H01M50/204 401F
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022045973
(22)【出願日】2022-03-22
(65)【公開番号】P2023140104
(43)【公開日】2023-10-04
【審査請求日】2023-08-23
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】古賀 祥啓
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/188276(WO,A1)
【文献】特表2021-524404(JP,A)
【文献】特表2021-507483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
D04H 1/00-18/04
H01M 10/00-10/667
50/204
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維又は不融化繊維と、有機繊維を含む断熱材と、無機繊維クロスとを含み、
前記有機繊維の含有量は、前記断熱材の全質量に対して12質量%以下であり、
前記断熱材と、前記無機繊維クロスとが、物理的手段により一体化しており、
前記断熱材は、互いに平均粒子径が異なる第1の無機粒子及び第2の無機粒子を含むことを特徴とする、防炎材。
【請求項2】
前記物理的手段は、ニードリング、樹脂製ステープル、樹脂製タグピン、糸縫いのうち少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載の防炎材。
【請求項3】
前記断熱材の前記無機繊維又は前記不融化繊維と、前記無機繊維クロスの無機繊維とが交絡して一体化していることを特徴とする請求項1に記載の防炎材。
【請求項4】
前記物理的手段は、ニードリングであることを特徴とする請求項3に記載の防炎材。
【請求項5】
無機繊維又は不融化繊維と、有機バインダを含む断熱材と、無機繊維クロスとを含み、
前記有機バインダの含有量は、前記断熱材の全質量に対して20質量%以下であり、
前記断熱材と、前記無機繊維クロスとが、物理的手段により一体化しており、
前記断熱材は、互いに平均粒子径が異なる第1の無機粒子及び第2の無機粒子を含むことを特徴とする、防炎材。
【請求項6】
前記断熱材の前記無機繊維は、平均繊維径、形状及びガラス転移点から選択された少なくとも1種の性状が互いに異なる第1の無機繊維及び第2の無機繊維を有する請求項1~のいずれか1項に記載の防炎材。
【請求項7】
前記第1の無機繊維の平均繊維径が、前記第2の無機繊維の平均繊維径よりも大きく、
前記第1の無機繊維が線状又は針状であり、前記第2の無機繊維が樹枝状又は縮れ状であることを特徴とする請求項に記載の防炎材。
【請求項8】
前記第1の無機繊維は非晶質の繊維であり、
前記第2の無機繊維は、前記第1の無機繊維よりガラス転移点が高い非晶質の繊維、及び、結晶質の繊維から選択される少なくとも1種の繊維であり、
前記第1の無機繊維の平均繊維径が、前記第2の無機繊維の平均繊維径よりも大きいことを特徴とする請求項又はに記載の防炎材。
【請求項9】
前記不融化繊維は、炭素含有量が55~95質量%であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の防炎材。
【請求項10】
前記不融化繊維は、短繊維からなることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の防炎材。
【請求項11】
前記不融化繊維は、繊維径が1~30μmであることを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の防炎材。
【請求項12】
前記第1の無機粒子は、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子及び無機水和物粒子から選択される少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載の防炎材。
【請求項13】
前記第1の無機粒子は、ナノ粒子、中空粒子及び多孔質粒子から選択される少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1~12のいずれか1項に記載の防炎材。
【請求項14】
前記第1の無機粒子は、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子及び無機水和物粒子から選択される少なくとも1種からなる請求項1~13のいずれか1項に記載の防炎材。
【請求項15】
前記第2の無機粒子は、金属酸化物粒子であることを特徴とする請求項1~14のいずれか1項に記載の防炎材。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載の防炎材の製造方法であって、
前記断熱材と、前記無機繊維クロスとを、物理的手段を用いて接合する、防炎材の製造方法。
【請求項17】
前記物理的手段は、ニードリング、樹脂製ステープル、糸縫いのうち少なくとも1つであることを特徴とする請求項16に記載の防炎材の製造方法。
【請求項18】
蓄電池を電池ケースに収容し、かつ、前記電池ケースの天蓋、側壁、底壁、並びに前記蓄電池の間の少なくとも1つに請求項1~15のいずれか1項に記載の防炎材を配設した、電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防炎材及びその製造方法、並びに防炎材を備える電池パッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全のために、電気自動車などにリチウムイオン2次電池が用いられている。しかし、リチウムイオン2次電池は、有機電解液を使用しているために、熱暴走時に着火すると火炎が発生してバッテリーパックを損傷するおそれがある。
【0003】
その対策として、無機繊維や無機粒子などを含む断熱材や、複数種の層を積層して断熱効果や防炎効果を高めた防炎材が使用されている。例えば特許文献1では、第1の被覆層と第2の被覆層との間に、少なくとも1つの耐熱繊維層や、アルミニウム箔などの中間層を含む中間材を設けて積層した多層断熱要素を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2021-507483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の多層断熱要素では、被覆層及び中間材は接着により結合されており、接着剤を別途必要とし、接着層の塗布工程も必要である。そのため、被覆層や中間材との接着に適した接着剤を選定したり、接着剤の塗布不足、繰り返し行われる充放電に伴う接着剤の劣化などにより接着強度が低下するおそれがある。また、曲げや捻じれなどの外力を受けた際に、接着剤が剥離するおそれもある。
【0006】
そこで本発明は、多層構造にして断熱効果や防炎効果により優れることに加えて、接着剤を用いることなく各層の積層状態を良好に保った信頼性に優れる防炎材及びその製造方法、並びに電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、防炎材に係る下記[1]の構成により達成される。
【0008】
[1] 無機繊維又は不融化繊維を含む断熱材と、無機繊維クロスとを含み、
前記断熱材と、前記無機繊維クロスとが、物理的手段により一体化している、防炎材。
【0009】
また、防炎材に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[17]に関する。
【0010】
[2] 前記物理的手段は、ニードリング、樹脂製ステープル、樹脂製タグピン、糸縫いのうち少なくとも1つであることを特徴とする[1]に記載の防炎材。
[3] 前記断熱材の前記無機繊維又は前記不融化繊維と、前記無機繊維クロスの無機繊維とが交絡して一体化していることを特徴とする[1]に記載の防炎材。
[4] 前記物理的手段は、ニードリングであることを特徴とする[3]に記載の防炎材。
[5] 前記断熱材の前記無機繊維は、平均繊維径、形状及びガラス転移点から選択された少なくとも1種の性状が互いに異なる第1の無機繊維及び第2の無機繊維を有する[1]~[4]のいずれか1項に記載の防炎材。
[6] 前記第1の無機繊維の平均繊維径が、前記第2の無機繊維の平均繊維径よりも大きく、
前記第1の無機繊維が線状又は針状であり、前記第2の無機繊維が樹枝状又は縮れ状であることを特徴とする[5]に記載の防炎材。
[7] 前記第1の無機繊維は非晶質の繊維であり、
前記第2の無機繊維は、前記第1の無機繊維よりガラス転移点が高い非晶質の繊維、及び、結晶質の繊維から選択される少なくとも1種の繊維であり、
前記第1の無機繊維の平均繊維径が、前記第2の無機繊維の平均繊維径よりも大きいことを特徴とする[5]又は[6]に記載の防炎材。
[8] 前記不融化繊維は、炭素含有量が55~95質量%であることを特徴とする[1]~[7]のいずれか1項に記載の防炎材。
[9] 前記不融化繊維は、短繊維からなることを特徴とする[1]~[8]のいずれか1項に記載の防炎材。
[10] 前記不融化繊維は、繊維径が1~30μmであることを特徴とする[1]~[9]のいずれか1項に記載の防炎材。
[11] 前記断熱材は、有機繊維を含むことを特徴とする[1]~[10]のいずれか1項に記載の防炎材。
[12] 前記断熱材は、無機粒子を含むことを特徴とする[1]~[11]のいずれか1項に記載の防炎材。
[13] 前記無機粒子は、互いに平均粒子径が異なる第1の無機粒子及び第2の無機粒子を含むことを特徴とする[12]に記載の防炎材。
[14] 前記第1の無機粒子は、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子及び無機水和物粒子から選択される少なくとも1種からなることを特徴とする[13]に記載の防炎材。
[15] 前記第1の無機粒子は、ナノ粒子、中空粒子及び多孔質粒子から選択される少なくとも1種からなることを特徴とする[13]又は[14]に記載の防炎材。
[16] 前記第1の無機粒子は、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子及び無機水和物粒子から選択される少なくとも1種からなる[13]~[15]のいずれか1項に記載の防炎材。
[17] 前記第2の無機粒子は、金属酸化物粒子であることを特徴とする[13]~[16]のいずれか1項に記載の防炎材。
【0011】
また、本発明の上記目的は、防炎材の製造方法に係る下記[18]の構成により達成される。
【0012】
[18] [1]~[17]のいずれか1項に記載の防炎材の製造方法であって、
前記断熱材と、前記無機繊維クロスとを、物理的手段を用いて接合する、防炎材の製造方法。
【0013】
また、防炎材の製造方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[19]に関する。
【0014】
[19] 前記物理的手段は、ニードリング、樹脂製ステープル、糸縫いのうち少なくとも1つであることを特徴とする[18]に記載の防炎材の製造方法。
【0015】
さらに、本発明の上記目的は、電池モジュールに係る下記[20]の構成により達成される。
【0016】
[20] 蓄電池を電池ケースに収容し、かつ、前記電池ケースの天蓋、側壁、底壁、並びに前記蓄電池の間の少なくとも1つに[1]~[17]のいずれか1項に記載の防炎材を配設した、電池モジュール。
【発明の効果】
【0017】
本発明の防炎材によれば、無機繊維又は不融化繊維を含む断熱材により優れた断熱効果や防炎効果が得られる。そのため、本発明の防炎材を電池モジュールに適用した場合、蓄電池が熱暴走を起こした際に他の蓄電池や電池ケースの防炎に寄与する。また、蓄電池の熱暴走時には、断熱材に飛散物が衝突して断熱材を損傷させるが、無機繊維クロスにより飛散物の断熱材への直接的な衝突を防止する。
【0018】
さらには、無機繊維又は不融化繊維を含む断熱材と、無機繊維クロスとが、接着剤を用いることなく、ニードリングや樹脂製ステープル、樹脂製タグピン、糸縫いなどの物理的手段により接合されている。そのため、接着剤の選択や塗布工程が不要で製造が容易であり、接着強度の低下のおそれもない。また、防炎材が曲げや捻じれなどの外力を受けた際に接着剤の剥離のおそれもなく、追従性も良好になる。
【0019】
このように本発明の防炎材は、断熱効果や防炎効果に優れ、蓄電池の熱暴走にも十分良好に対応でき、製造も容易でコスト増を招くことも無い。
【0020】
また、本発明の電池モジュールは、本発明の防炎材が電池ケースや蓄電池間に配設されているため、熱暴走が起こったとしても、外部への延焼をより確実に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、物理的手段としてニードリングを行うニードリング装置の一例を示す図である。
図2図2(A)は、ニードリングにより接合ざれた防炎材を示す断面模式図である。また、図2(B)は、図2(A)におけるA部の拡大図である。
図3図3は、物理的手段として樹脂製ステープルにより接合された防炎材を示す断面模式図である。
図4図4は、物理的手段として樹脂製タグピンにより接合された防炎材を示す断面模式図である。
図5図5は、物理的手段として糸縫いにより接合された防炎材を示す断面模式図である。
図6図6は、本発明の電池モジュールの実施の形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に関して図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0023】
[防炎材]
本実施形態の防炎材は、無機繊維又は不融化繊維を含む断熱材と、無機繊維クロスとが、接着剤を用いることなく、ニードリングや樹脂製ステープル、糸縫いなどの物理的手段により接合されている。無機繊維又は不融化繊維を含む断熱材により、優れた断熱効果や防炎効果が得られる。そのため、電池モジュールに適用した場合、蓄電池が熱暴走を起こした際に他の蓄電池や電池ケースの防炎に寄与する。蓄電池の熱暴走時には、断熱材に飛散物が衝突して無機繊維又は不融化繊維を含む断熱材を損傷させるが、無機繊維クロスにより飛散物の断熱材への直接的な衝突を防止する。
【0024】
以下に、無機繊維又は不融化繊維を含む断熱材及び無機繊維クロスの形成材料について詳述する。
【0025】
<断熱材>
(無機繊維)
断熱材となる無機繊維には、断熱材に通常使用される無機繊維を用いることができるが、平均繊維径、形状及びガラス転移点から選択された少なくとも1種の性状が互いに異なる第1の無機繊維及び第2の無機繊維を有することが好ましい。性状が互いに異なる2種の無機繊維を含有することにより、断熱材の機械的強度、並びに後述されるように無機粒子を含有する場合の無機粒子の保持性を向上させることができる。
【0026】
(平均繊維径及び繊維形状が異なる2種の無機繊維)
2種の無機繊維を含有する場合に、第1の無機繊維の平均繊維径が、第2の無機繊維の平均繊維径よりも大きく、第1の無機繊維が線状又は針状であり、第2の無機繊維が樹枝状又は縮れ状であることが好ましい。平均繊維径が大きい(太径の)第1の無機繊維は、断熱材の機械的強度や形状保持性を向上させる効果を有する。2種の無機繊維のうち一方、例えば、第1の無機繊維を第2の無機繊維よりも太径にすることにより、上記効果を得ることができる。防炎材には、外部からの衝撃が作用することがあるため、断熱材に第1の無機繊維が含まれることにより、耐衝撃性が高まる。外部からの衝撃としては、例えば電池セルの膨張による押圧力や、電池セルの発火による風圧などである。
【0027】
また、断熱材の機械的強度や形状保持性を向上させるためには、第1の無機繊維が線状又は針状であることが特に好ましい。なお、線状又は針状の繊維とは、後述の捲縮度が例えば10%未満、好ましくは5%以下である繊維をいう。
【0028】
より具体的には、第1の無機繊維の平均繊維径は1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。第1の無機繊維が太すぎると、成形性や加工性が低下するおそれがあるため、第1の無機繊維の平均繊維径は20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。
【0029】
なお、第1の無機繊維は長すぎても成形性や加工性が低下するおそれがあるため、繊維長を100mm以下とすることが好ましい。さらに、第1の無機繊維は短すぎても形状保持性や機械的強度が低下するため、繊維長を0.1mm以上とすることが好ましい。
【0030】
一方、平均繊維径が細い(細径の)第2の無機繊維は、有機繊維や無機粒子を配合する場合、これらの保持性を向上させるとともに、断熱材の柔軟性を高める効果を有する。したがって、第2の無機繊維を第1の無機繊維よりも細径にすることが好ましい。
【0031】
より具体的に、有機繊維や無機粒子の保持性を向上させるためには、第2の無機繊維は変形が容易で、柔軟性を有することが好ましい。したがって、細径である第2の無機繊維は、平均繊維径が1μm未満であることが好ましく、0.1μm以下であることがより好ましい。ただし、細すぎると破断しやすく、有機繊維や無機粒子の保持能力が低下する。また、有機繊維や無機粒子を保持せずに、繊維が絡み合ったままで断熱材中に存在する割合が多くなり、有機繊維や無機粒子の保持能力の低下に加えて、成形性や形状保持性にも劣るようになる。そのため、第2の無機繊維の平均繊維径は1nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましい。
【0032】
なお、第2の無機繊維は、長くなりすぎると成形性や形状保持性が低下するため、第2の無機繊維の繊維長は0.1mm以下であることが好ましい。
【0033】
また、第2の無機繊維は、樹枝状又は縮れ状であることが好ましい。第2の無機繊維がこのような形状であると、有機繊維や無機粒子と良好に絡み合い、有機繊維や無機粒子の保持能力が向上する。また、断熱材が押圧力や風圧を受けた際に、第2の無機繊維が滑って移動することが抑制され、このことにより、特に外部からの押圧力や衝撃に抗する機械的強度が向上する。
【0034】
なお、樹枝状とは、2次元的又は3次元的に枝分かれした構造であり、例えば羽毛状、テトラポット形状、放射線状、立体網目状である。
【0035】
第2の無機繊維が樹枝状である場合に、その平均繊維径は、SEMによって幹部及び枝部の径を数点測定し、これらの平均値を算出することにより得ることができる。
【0036】
また、縮れ状とは、繊維が様々な方向に屈曲した構造である。縮れ形態を定量化する方法の一つとして、電子顕微鏡写真からその捲縮度を算出することが知られており、例えば下記式から算出することができる。
捲縮度(%)=(繊維長さ-繊維末端間距離)/(繊維長さ)×100
ここで、繊維長さ、繊維末端間距離ともに電子顕微鏡写真上での測定値である。すなわち、2次元平面上へ投影された繊維長、繊維末端間距離であり、現実の値よりも短くなっている。この式に基づき、第2の無機繊維の捲縮度は10%以上が好ましく、30%以上がより好ましい。捲縮度が小さいと、有機繊維や無機粒子の保持能力が低下し、第2の無機繊維同士、第1の無機繊維と第2の無機繊維との絡み合い(ネットワーク)が形成されにくくなる。
【0037】
(ガラス転移点が互いに異なる2種の無機繊維)
2種の無機繊維を含有する場合に、第1の無機繊維は非晶質の繊維であり、第2の無機繊維は、第1の無機繊維よりガラス転移点が高い非晶質の繊維、及び結晶質の繊維から選択される少なくとも1種の繊維であることが好ましい。
【0038】
結晶質の無機繊維の融点は、通常非晶質の無機繊維のガラス転移点より高い。そのため、第1の無機繊維は、高温に晒されると、その表面が第2の無機繊維より先に軟化して、有機繊維や無機粒子を結着する。したがって、第1の無機繊維を含有させることにより、断熱材の機械的強度を向上させることができる。
【0039】
第1の無機繊維としては、具体的には、融点が700℃未満である無機繊維が好ましく、多くの非晶質の無機繊維を用いることができる。中でも、SiOを含む繊維であることが好ましく、安価で、入手も容易で、取扱い性等に優れることから、ガラス繊維であることがより好ましい。
【0040】
第2の無機繊維は、上述のとおり、第1の無機繊維よりガラス転移点が高い非晶質の繊維、及び結晶質の繊維から選択される少なくとも1種からなる繊維である。第2の無機繊維としては、多くの結晶性の無機繊維を用いることができる。
【0041】
第2の無機繊維が結晶質の繊維からなるものであるか、又は第1の無機繊維よりもガラス転移点が高いものであると、高温にさらされたときに、第1の無機繊維が軟化しても、第2の無機繊維は溶融又は軟化しない。したがって、例えば電池モジュールに適用した場合、熱暴走が起こっても形状を維持する。
【0042】
また、第2の無機繊維が溶融又は軟化しないと、粒子間、粒子と繊維との間、及び各繊維間における微小な空間が維持されるため、空気による断熱効果が発揮される。
【0043】
第2の無機繊維が結晶質である場合に、具体的には、シリカ繊維、アルミナ繊維、アルミナシリケート繊維、ジルコニア繊維、カーボンファイバ、ソルブルファイバ、リフラクトリーセラミックファイバ、エアロゲル複合材、マグネシウムシリケート繊維、アルカリアースシリケート繊維、チタン酸カリウム繊維等のセラミックス系繊維、ガラス繊維、グラスウール等のガラス系繊維、ロックウール、バサルトファイバ、ウォラストナイト等の鉱物系繊維等を使用することができる。
【0044】
また、融点が1000℃を超えるものであると、電池セルの熱暴走が発生しても、第2の無機繊維は溶融又は軟化せず、その形状を維持することができるため、好適に使用することができる。上記第2の無機繊維として挙げられた繊維のうち、例えば、シリカ繊維、アルミナ繊維及びアルミナシリケート繊維等のセラミックス系繊維、並びに鉱物系繊維を使用することがより好ましく、この中でも融点が1000℃を超えるものを使用することが更に好ましい。
【0045】
また、第2の無機繊維が非晶質である場合であっても、第1の無機繊維よりもガラス転移点が高い繊維であれば、使用することができる。例えば、第1の無機繊維よりガラス転移点が高いガラス繊維を第2の無機繊維として用いてもよい。
【0046】
なお、第2の無機繊維としては、例示した種々の無機繊維を単独で使用してもよいし、2種以上を混合使用してもよい。
【0047】
上記のとおり、第1の無機繊維は第2の無機繊維よりもガラス転移点が低く、高温にさらされたときに、第1の無機繊維が先に軟化するため、第1の無機繊維で有機繊維や無機粒子を結着することができる。しかし、例えば、第2の無機繊維が非晶質であって、その繊維径が第1の無機繊維の繊維径よりも細い場合に、第1の無機繊維と第2の無機繊維とのガラス転移点が接近していると、第2の無機繊維が先に軟化するおそれがある。したがって、第2の無機繊維が非晶質の繊維である場合に、第2の無機繊維のガラス転移点は、第1の無機繊維のガラス転移点よりも100℃以上高いことが好ましく、300℃以上高いことがより好ましい。
【0048】
なお、第1の無機繊維の繊維長は、100mm以下であることが好ましく、0.1mm以上とすることが好ましい。第2の無機繊維の繊維長は、0.1mm以下であることが好ましい。これらの理由については、上記したとおりである。
【0049】
(ガラス転移点及び平均繊維径が互いに異なる2種の無機繊維)
2種の無機繊維を含有する場合に、第1の無機繊維は非晶質の繊維であり、第2の無機繊維は、第1の無機繊維よりガラス転移点が高い非晶質の繊維、及び、結晶質の繊維から選択される少なくとも1種の繊維であり、第1の無機繊維の平均繊維径が、第2の無機繊維の平均繊維径よりも大きいことが好ましい。
【0050】
上述のとおり、第1の無機繊維の平均繊維径が、第2の無機繊維よりも大きいことが好ましい。また、太径の第1の無機繊維が非晶質の繊維であり、細径の第2の無機繊維が、第1の無機繊維よりガラス転移点が高い非晶質の繊維、及び結晶質の繊維から選択される少なくとも1種からなる繊維であることが好ましい。これにより、第1の無機繊維のガラス転移点が低く、早く軟化するため、温度の上昇に伴って膜状となって硬くなる。一方、細径である第2の無機繊維が、第1の無機繊維よりガラス転移点が高い非晶質の繊維、及び結晶質の繊維から選択される少なくとも1種からなる繊維であると、温度が上昇しても細径の第2の無機繊維が繊維の形状で残存するため、断熱材の構造を保持し、粉落ちを防止することができる。
【0051】
なお、この場合であっても、第1の無機繊維の繊維長は、100mm以下であることが好ましく、0.1mm以上とすることが好ましい。第2の無機繊維の繊維長は、0.1mm以下であることが好ましい。これらの理由については、上記したとおりである。
【0052】
(第1の無機繊維及び第2の無機繊維の各含有量)
2種の無機繊維を含有する場合に、第1の無機繊維の含有量は、断熱材の全質量に対して3質量%以上30質量%以下であることが好ましく、第2の無機繊維の含有量は、断熱材の全質量に対して3質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0053】
また、第1の無機繊維の含有量は、断熱材の全質量に対して、5質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、第2の無機繊維の含有量は、断熱材の全質量に対して、5質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。このような含有量にすることにより、第1の無機繊維による形状保持性や押圧力耐性、抗風圧性、及び第2の無機繊維による無機粒子の保持能力がバランスよく発現される。
【0054】
(その他の配合材料)
断熱材には、上記第1の無機繊維及び第2の無機繊維の他に、異なる無機繊維が含まれていてもよい。また、有機バインダや有機繊維、無機粒子を含んでもよい。
【0055】
(樹脂バインダ)
上記無機繊維は、樹脂バインダにより結着することもできる。樹脂バインダとしては、後述する有機繊維のガラス転移点よりも低いガラス転移点を有するものであれば、特に限定されない。例えば、スチレン-ブタジエン樹脂、アクリル樹脂、シリコン-アクリル樹脂及びスチレン樹脂から選択された少なくとも1種を含む樹脂バインダ9を使用することができる。
【0056】
樹脂バインダのガラス転移点は特に規定しないが、-10℃以上であることが好ましい。なお、樹脂バインダ9のガラス転移点が室温以上であると、樹脂バインダを有する断熱材が室温で使用された場合に、断熱材の強度をより一層向上させることができる。したがって、樹脂バインダのガラス転移点は、例えば20℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることがさらに好ましく、50℃以上であることがさらにより好ましく、60℃以上であることが特に好ましい。
【0057】
樹脂バインダの含有量は、断熱材の全質量に対して0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。また、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0058】
(有機繊維)
上記無機繊維の他に、有機繊維を含有してもよい。有機繊維としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)繊維、ポリエチレン繊維、ナイロン繊維、ポリウレタン繊維及びエチレン-ビニルアルコール共重合体繊維から選択された少なくとも1種を使用することができる。
【0059】
なお、断熱材の製造は抄造法にて行うことができるが、その際に加熱温度を250℃よりも高くすることは困難であるため、有機繊維のガラス転移点は、250℃以下とすることが好ましく、200℃以下とすることがより好ましい。
【0060】
有機繊維のガラス転移点の下限値も特に限定されないが、上記樹脂バインダのガラス転移点との差が10℃以上であれば、製造時の冷却工程において、半溶融状態であった有機繊維が完全に固化した後に、樹脂バインダが固化するため、樹脂バインダによる骨格の補強効果を十分に得ることができる。したがって、樹脂バインダのガラス転移点と、有機繊維のガラス転移点との差は、10℃以上であることが好ましく、30℃以上であることがより好ましい。
【0061】
一方、両者のガラス転移点の差が130℃以下であると、有機繊維が完全に固化してから、樹脂バインダが固化し始めるまでの時間を適切に調整することができ、樹脂バインダが良好な分散状態のまま固化するため、より一層骨格の補強効果を得ることができる。したがって、樹脂バインダのガラス転移点と、有機繊維のガラス転移点との差は、130℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがより好ましく、100℃以下であることがさらに好ましく、80℃以下であることがさらにより好ましく、70℃以下であることが特に好ましい。
【0062】
また、2種類以上の有機繊維を含むこともできるが、その場合に、少なくとも1種の有機繊維が骨格として作用する有機繊維、すなわち、樹脂バインダのガラス転移点よりも高いガラス転移点を有する有機繊維であればよい。なお、樹脂バインダのガラス転移点と、少なくとも1種の有機繊維のガラス転移点との差は、上記と同様に、10℃以上であることが好ましく、30℃以上であることがより好ましく、130℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがより好ましく、100℃以下であることがさらに好ましく、80℃以下であることがさらにより好ましく、70℃以下であることが特に好ましい。
【0063】
有機繊維及び樹脂バインダの含有量が適切に制御されていると、有機繊維による骨格としての機能を十分に得ることができるとともに、樹脂バインダによる骨格の補強効果を十分に得ることができる。有機繊維の含有量は、断熱材の全質量に対して0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。また、12質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましい。なお、樹脂バインダのガラス転移点よりも高いガラス転移点を有する複数の有機繊維を含む場合に、これら複数の有機繊維の合計量が、上記有機繊維の含有量の範囲内であることが好ましい。
【0064】
上述のとおり、2種類以上の有機繊維を含む場合に、少なくとも1種の有機繊維が、樹脂バインダのガラス転移点よりも高いガラス転移点を有するものであればよいが、その他の有機繊維として、ガラス転移点を有さない結晶状態の有機繊維を含有することがより好ましい。
【0065】
ガラス転移点を有さない結晶状態の有機繊維を含有することもできるが、この結晶状態の有機繊維は軟化点を持たないため、骨格となる有機繊維が軟化するような高温に晒された場合であっても、断熱材全体の強度を維持することができる。また、結晶状態の有機繊維を含有することにより、常温において、この有機繊維も断熱材の骨格として作用する。
したがって、断熱材の柔軟性や取り扱い性を向上させることができる。
【0066】
なお、結晶状態の有機繊維としては、ポリエステル(PET)繊維が挙げられる。
【0067】
また、断熱材の製造において抄造法を行う際に、分散液として水を使用することが好ましいが、有機繊維は水への溶解度が低いことが好ましい。水への溶解度を示す指標として「水中溶解温度」を使用できるが、有機繊維の水中溶解温度は60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることがさらに好ましい。
【0068】
有機繊維の繊維長についても特に限定されないが、成形性や加工性を確保する観点から、平均繊維長は10mm以下とすることが好ましい。一方、有機繊維を骨格として機能させ、断熱材の圧縮強度を確保する観点から、平均繊維長は0.5mm以上とすることが好ましい。
【0069】
(無機粒子)
さらに、無機粒子を含有することもできる。無機粒子の平均二次粒子径が0.01μm以上であると、入手しやすく、製造コストの上昇を抑制することができる。また、200μm以下であると、所望の断熱効果を得ることができる。したがって、無機粒子の平均二次粒子径は、0.01μm以上200μm以下であることが好ましく、0.05μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0070】
無機粒子として、単一の無機粒子を使用してもよいし、2種以上の無機粒子(第1の無機粒子及び第2の無機粒子)を組み合わせて使用してもよい。第1の無機粒子及び第2の無機粒子としては、熱伝達抑制効果の観点から、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子及び無機水和物粒子から選択される少なくとも1種の無機材料からなる粒子を使用することが好ましく、酸化物粒子を使用することがより好ましい。また、第1の無機粒子及び第2の無機粒子の形状についても特に限定されないが、ナノ粒子、中空粒子及び多孔質粒子から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、具体的には、シリカナノ粒子、金属酸化物粒子、マイクロポーラス粒子や中空シリカ粒子等の無機バルーン、熱膨張性無機材料からなる粒子、含水多孔質体からなる粒子等を使用することもできる。
【0071】
なお、2種以上の熱伝達抑制効果が互いに異なる無機粒子を併用すると、多段に冷却することができ、吸熱作用をより広い温度範囲で発現できる。具体的には、大径粒子と小径粒子とを混合使用することが好ましい。例えば、一方の無機粒子として、ナノ粒子を使用する場合に、他方の無機粒子として、金属酸化物からなる無機粒子を含むことが好ましい。以下、小径の無機粒子を第1の無機粒子、大径の無機粒子を第2の無機粒子として、無機粒子についてさらに詳細に説明する。
【0072】
(第1の無機粒子)
(酸化物粒子)
第1の無機粒子として、酸化物粒子が好ましい。酸化物粒子は屈折率が高く、光を乱反射させる効果が強いため、特に異常発熱などの高温度領域において輻射伝熱を抑制することができる。酸化物粒子としては、シリカ、チタニア、ジルコニア、ジルコン、チタン酸バリウム、酸化亜鉛及びアルミナから選択された少なくとも1種の粒子を使用することができる。特に、シリカは断熱性が高い成分であり、チタニアは他の金属酸化物と比較して屈折率が高い成分であって、500℃以上の高温度領域において光を乱反射させ輻射熱を遮る効果が高いため、酸化物粒子としてシリカ及びチタニアを用いることが最も好ましい。
【0073】
酸化物粒子の粒子径は、輻射熱を反射する効果に影響を与えることがあるため、平均一次粒子径を所定の範囲に限定すると、より一層高い断熱性を得ることができる。すなわち、酸化物粒子の平均一次粒子径が0.001μm以上であると、加熱に寄与する光の波長よりも十分に大きく、光を効率よく乱反射させるため、500℃以上の高温度領域において熱伝達抑制シート内における熱の輻射伝熱が抑制され、より一層断熱性を向上させることができる。一方、酸化物粒子の平均一次粒子径が50μm以下であると、圧縮されても粒子間の接点や数が増えず、伝導伝熱のパスを形成しにくいため、特に伝導伝熱が支配的な通常温度域の断熱性への影響を小さくすることができる。
【0074】
なお、本実施形態において平均一次粒子径は、顕微鏡で粒子を観察し、標準スケールと比較し、任意の粒子10個の平均をとることにより求めることができる。
【0075】
(ナノ粒子)
第1の無機粒子としてナノ粒子が好ましく、ナノ粒子は低密度であるため伝導伝熱を抑制し、更に空隙が細かく分散するため、対流伝熱を抑制する優れた断熱性を得ることができる。このため、通常の常温域の電池使用時において、隣接するナノ粒子間の熱の伝導を抑制することができる点で、ナノ粒子を使用することが好ましい。
【0076】
なお、ナノ粒子とは、球形又は球形に近い平均一次粒子径が1μm未満のナノメートルオーダーの粒子を表す。
【0077】
また、酸化物粒子として、平均一次粒子径が小さいナノ粒子を使用すると、電池セルの熱暴走に伴う膨張によって断熱材の内部密度が上がった場合であっても、断熱材の伝導伝熱の上昇を抑制することができる。これは、ナノ粒子が静電気による反発力で粒子間に細かな空隙ができやすく、かさ密度が低いため、クッション性があるように粒子が充填されるからであると考えられる。
【0078】
なお、第1の無機粒子としてナノ粒子を使用する場合に、上記ナノ粒子の定義に沿ったものであれば、材質について特に限定されない。例えば、シリカナノ粒子は、断熱性が高い材料であることに加えて、粒子同士の接点が小さいため、シリカナノ粒子により伝導される熱量は、粒子径が大きいシリカ粒子を使用した場合と比較して小さくなる。また、一般的に入手されるシリカナノ粒子は、かさ密度が0.1(g/cm)程度であるため、例えば、断熱材に対して大きな圧縮応力が加わった場合であっても、シリカナノ粒子同士の接点の大きさ(面積)や数が著しく大きくなることはなく、断熱性を維持することができる。したがって、ナノ粒子としてはシリカナノ粒子を使用することが好ましい。シリカナノ粒子としては、湿式シリカ、乾式シリカ及びエアロゲル等を使用することができる。
【0079】
ナノ粒子の平均一次粒子径を所定の範囲に限定すると、より一層高い断熱性を得ることができる。すなわち、ナノ粒子の平均一次粒子径を1nm以上100nm以下とすると、特に500℃未満の温度領域において、断熱材内における熱の対流伝熱及び伝導伝熱を抑制することができ、断熱性をより一層向上させることができる。また、圧縮応力が印加された場合であっても、ナノ粒子間に残った空隙と、多くの粒子間の接点が伝導伝熱を抑制し、断熱性を維持することができる。また、ナノ粒子の平均一次粒子径は、2nm以上であることがより好ましく、3nm以上であることが更に好ましい。一方、ナノ粒子の平均一次粒子径は、50nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることが更に好ましい。
【0080】
(無機水和物粒子)
無機水和物粒子は、発熱体からの熱を受けて熱分解開始温度以上になると熱分解し、自身が持つ結晶水を放出して発熱体及びその周囲の温度を下げる、所謂「吸熱作用」を発現する。また、結晶水を放出した後は多孔質体となり、無数の空気孔により断熱作用を発現する。
【0081】
無機水和物の具体例として、水酸化アルミニウム(Al(OH))、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化亜鉛(Zn(OH))、水酸化鉄(Fe(OH))、水酸化マンガン(Mn(OH))、水酸化ジルコニウム(Zr(OH))、水酸化ガリウム(Ga(OH))等が挙げられる。
【0082】
例えば、水酸化アルミニウムは約35%の結晶水を有しており、下記式に示すように、熱分解して結晶水を放出して吸熱作用を発現する。そして、結晶水を放出した後は多孔質体であるアルミナ(Al)となり、断熱材として機能する。
2Al(OH)→Al+3H
【0083】
なお、熱暴走を起こした電池セルでは、200℃を超える温度に急上昇し、700℃付近まで温度上昇を続ける。したがって、無機粒子としては熱分解開始温度が200℃以上である無機水和物からなることが好ましい。
【0084】
上記に挙げた無機水和物の熱分解開始温度は、水酸化アルミニウムは約200℃、水酸化マグネシウムは約330℃、水酸化カルシウムは約580℃、水酸化亜鉛は約200℃、水酸化鉄は約350℃、水酸化マンガンは約300℃、水酸化ジルコニウムは約300℃、水酸化ガリウムは約300℃であり、いずれも熱暴走を起こした電池セルの急激な昇温の温度範囲とほぼ重なり、温度上昇を効率よく抑えることができることから、好ましい無機水和物であるといえる。
【0085】
また、無機水和物粒子の平均粒子径が大きすぎると、断熱材の中心付近にある無機水和物粒子が、その熱分解温度に達するまでにある程度の時間を要するため、断熱材の中心付近の無機水和物粒子が熱分解しきれない場合がある。このため、無機水和物粒子の平均二次粒子径は、0.01μm以上200μm以下であることが好ましく、0.05μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0086】
(熱膨張性無機材料からなる粒子)
熱膨張性無機材料としては、バーミキュライト、ベントナイト、雲母、パーライト等を挙げることができる。
【0087】
(含水多孔質体からなる粒子)
含水多孔質体の具体例としては、ゼオライト、カオリナイト、モンモリロナイト、酸性白土、珪藻土、湿式シリカ、乾式シリカ、エアロゲル、マイカ、バーミキュライト等が挙げられる。
【0088】
(無機バルーン)
無機バルーンが含まれると、500℃未満の温度領域において、断熱材内における熱の対流伝熱又は伝導伝熱を抑制することができ、断熱材の断熱性をより一層向上させることができる。
【0089】
無機バルーンとしては、シラスバルーン、シリカバルーン、フライアッシュバルーン、バーライトバルーン、及びガラスバルーンから選択された少なくとも1種を用いることができる。
【0090】
無機バルーンの含有量としては、断熱材全質量に対し、60質量%以下が好ましい。
【0091】
また、無機バルーンの平均粒子径としては、1μm以上100μm以下が好ましい。
【0092】
(第2の無機粒子)
第2の無機粒子は、第1の無機粒子と材質や粒子径等が異なっていれば特に限定されない。第2の無機粒子としては、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子、無機水和物粒子、シリカナノ粒子、金属酸化物粒子、マイクロポーラス粒子や中空シリカ粒子等の無機バルーン、熱膨張性無機材料からなる粒子、含水多孔質体からなる粒子等を使用することができ、これらの詳細については、上述のとおりである。
【0093】
なお、ナノ粒子は伝導伝熱が極めて小さいとともに、断熱材に圧縮応力が加わった場合であっても、優れた断熱性を維持することができる。また、チタニア等の金属酸化物粒子は、輻射熱を遮る効果が高い。さらに、大径の無機粒子と小径の無機粒子とを使用すると、大径の無機粒子同士の隙間に小径の無機粒子が入り込むことにより、より緻密な構造となり、熱伝達抑制効果を向上させることができる。したがって、上記第1の無機粒子として、ナノ粒子を使用した場合に、さらに、第2の無機粒子として、第1の無機粒子よりも大径である金属酸化物からなる粒子を、断熱材に含有させることが好ましい。
【0094】
金属酸化物としては、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、チタン酸バリウム、酸化亜鉛、ジルコン、酸化ジルコニウム等を挙げることができる。特に、酸化チタン(チタニア)は他の金属酸化物と比較して屈折率が高い成分であり、500℃以上の高温度領域において光を乱反射させ輻射熱を遮る効果が高いため、チタニアを用いることが最も好ましい。
【0095】
第2の無機粒子の平均一次粒子径は、1μm以上50μm以下であると、500℃以上の高温度領域で効率よく輻射伝熱を抑制することができる。第2の無機粒子の平均一次粒子径は、5μm以上30μm以下であることが更に好ましく、10μm以下であることが最も好ましい。
【0096】
(無機繊維を含む断熱材の製造方法)
無機繊維を含む断熱材の形成材料は上記のとおりであるが、断熱材を製造するには、抄造法を行うことが好ましい。すなわち、断熱材の形成材料である無機繊維や他の配合材料を水に分散させ、その分散液を脱水、成形、乾燥して製造する。
【0097】
(不融化繊維)
断熱材の不融化繊維としては、ポリアクリロニトリル、セルロース、ピッチなどの熱可塑性樹脂を不融化処理した繊維などが挙げられる。なお、不融化繊維とは、例えば不融化処理された繊維であり、不融化処理としては、放射線、電子線などを照射し架橋させる方法、酸素や水蒸気中で高温に曝し、酸素の作用により不融化させる方法などがある。
【0098】
(炭素含有量)
不融化繊維は、炭素含有量が55~95質量%であることが好ましい。炭素含有量が55質量%以上であると、熱分解による重量減少が既に進行しているので、熱分解による収縮は少なく、熱暴走時、火炎に直接さらされても、原形をとどめ、断熱性を維持することができる。炭素含有量が95質量%以下であると、炭素以外の成分を脱離させ炭素だけの構造に変化するために吸熱反応が起こるので、防炎材の裏面に熱が到達する時間を遅らせることができる。
【0099】
好ましい炭素含有量の下限は、60質量%以上である。また、好ましい炭素含有量の上限は90質量%以下、さらに好ましい炭素含有量の上限は85質量%以下である。
【0100】
炭素含有量は、熱処理することにより調整することができる。例えば150~300℃の範囲内の大気中あるいは酸素中での熱処理は、不融化をさらに促進するとともに炭素以外の成分を除去し炭素含有量を高めることができる。例えば300~1000℃の範囲内の熱処理は、縮合多環芳香族構造の形成を進行させるとともに分解ガスを発生し炭素含有量を高めることができる。
【0101】
なお、不融化繊維は、熱可塑性繊維を不融化した繊維に限定されない。上記炭素含有量の範囲であれば、無機繊維であってもよい。
【0102】
(繊維形状)
不融化繊維は短繊維からなり、これらが集成して全体の形態としてマット、抄造体、ブランケットを構成することが好ましい。
【0103】
短繊維であるとは、連続繊維ではないことを示している。連続繊維では、クロス、フィラメントワインディングのように繊維の配向方向が揃って繊維束を形成するのに対し、繊維を用いることにより、繊維がランダムな方向を向いた集合体(マットやブランケット、抄造体)となる。そして、短繊維を用いた断熱材は、導電パスが短いので、炭素化の進んだ繊維や、熱暴走に伴って炭素化が進行しても、導電性を低くすることができる。また、繊維がランダムに配向し、繊維同士が点接触となりやすく、熱伝導を低くすることができる。
【0104】
抄造体は、不融化繊維のミルド繊維やチョップド繊維(繊維長0.01~10mm程度)を水に分散させ、抄造することによって得ることができる。マットやブランケットは、繊維長10~1000mm程度の不融化繊維を積層し、圧縮することによって得ることができる。その際、全体の強度や形状を保持するために、バインダを添加してもよい。なお、バインダとしては、樹脂などの有機バインダ、セラミックス前駆体などの無機バインダなどが利用できる。
【0105】
また、不融化繊維は、繊維径が1~30μmであることが好ましい。不融化繊維の繊維径が1μm以上であると、高温に曝されても空気酸化、昇華の速度を抑制し、防炎の効果を長時間維持することができる。一方、不融化繊維の繊維径が30μm以下であると、高温に曝され炭素化しても一定のしなやかさを保持し、変形、衝撃が生じても破損しにくくすることができる。
【0106】
断熱材は、不融化繊維の他にも、上記と同様の有機繊維や無機粒子を含むことができる。
【0107】
断熱材は上記のように構成されるが、断熱材は繊維、好ましくは短繊維の集合体であるので、湿気や液漏れした電解液などを吸収しやすい。そこで、断熱材10の無機繊維クロス20とは反対側の面、例えば電池モジュールでは蓄電池と対向する面を、被覆層で覆うことが好ましい。
【0108】
被覆層は、樹脂、金属箔、マイカから選択される1以上の層を有することが好ましく、強度や浸透防止性能などに優れるようになる。被覆層との接合方法としては、接着剤を用いたり、樹脂の場合には熱融着することができ、金属箔の場合には蒸着することができる。
【0109】
なお、被覆層は、上記した無機繊維を含む断熱材の被覆にも用いることができる。
【0110】
<無機繊維クロス>
無機繊維クロスの無機繊維には制限はなく、上記した断熱材に使用される無機繊維を用いることもできる。中でも、安価で、取扱性に優れ、高い耐熱性を有することなどから、シリカ繊維やアルミナ繊維、ガラス繊維及び金属繊維が好ましい。
【0111】
無機繊維クロスは、これら無機繊維を布状に織ったものであれば、繊維径など形状的な制限はない。なお、熱暴走時の飛散物の衝突を防止することを考慮すると、目開きは小さい方が好ましい。
【0112】
<接合方法>
断熱材及び無機繊維クロスは上記したとおりであり、両者は、接着剤を用いるのではなく、物理的手段により接合される。そのため、接着剤の選択や塗布工程が不要で製造が容易であり、接着強度の低下のおそれもない。また、防炎材1が曲げや捻じれなどの外力を受けた際に接着剤の剥離のおそれもなく、追従性も良好になる。
【0113】
物理的手段としては、下記に示すニードリング、樹脂製のステープルやタグピン、糸縫いが好適であり、これらを組みわせてもよい。
【0114】
(ニードリング)
ニードリングは、例えば図1に示すニードリング装置200を用いて行う。図示されるニードリング装置200は、防炎材1を構成する上記の断熱材10と無機繊維クロス20とを重ねた状態で載置する支持板210と、図中符号Fで示す突き刺し方向に沿って上下に往復移動可能なピストン212と、支持板210と対向してピストン212に取り付けられたニードル板220とを備える。
【0115】
ニードル板220の支持板210に対向する面には、複数のニードル221が所定の間隔で取り付けられており、剣山状の形状を呈している。ニードル221は、先の尖った針状であり、ニードル221の先端方向に向かって突出した複数の刺状のバーブ(返し)221aが形成されている。
【0116】
このようなニードリング装置200を用い、ニードル221の先端が無機繊維クロス20の厚さの所定深さに達する位置までニードル板220を降下させた後、ニードル221の先端が断熱材10の上方に位置するまでニードル板220を上昇させてニードル221を引き抜くことにより、ニードリングによる断熱材10と無機繊維クロス20との接合が完了する。
【0117】
なお、ニードル221が無機繊維クロス20を完全に貫通する位置までニードル板220を押し下げることもでき、その場合は、支持板210におけるニードル221と対向する箇所に貫通孔を設けておき、ニードル221を、無機繊維クロス20を貫通する位置まで降下させた際に、ニードル221の先端を貫通孔に挿通させるとよい。
【0118】
また、必要に応じて、ニードル221の貫通及び引き抜きを繰り返してもよい。
【0119】
得られる防炎材1の断面を、図2(A)に示す。なお、図中の符号25で示す凹部はニードル跡である。
【0120】
また、ニードル跡25の直下における、断熱材10と無機繊維クロス20との接合部分30では、図2(B)に拡大して示すように、無機繊維クロス20の無機繊維20aと、断熱材10の繊維(すなわち、無機繊維や不融化繊維)10aとが複雑に絡み合い、交絡している。この交絡により、断熱材10と無機繊維クロス20との接合状態が良好に確保、維持される。
【0121】
(樹脂製ステープル)
図3に示すように、樹脂製ステープル40を所定間隔に刺し込み、断熱材10と無機繊維クロス20を接合することもできる。ステープルが樹脂製であるため、電池モジュールに適用した際に、電気絶縁を確保することができる。樹脂としては、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂などが、汎用性が高く、適当である。
【0122】
樹脂製ステープル40は、図示のように同方向に刺し込んでもよく、図示は省略するが、断熱材10側からと、無機繊維クロス20側からとを交互に刺し込んでもよい。
【0123】
(樹脂製タグピン)
図4に示すように、樹脂製ステープル40に代えて、樹脂製タグピン50を用いることもできる。樹脂製タグピン50は、一本の樹脂製の線材に連続して、その両端が2方向外方に広がった略「I」字状を呈している。
【0124】
(糸縫い)
図5に示すように、糸60を用いて断熱材10と無機繊維クロス20とを接合することもできる。糸60の種類には制限はなく、綿などの天然繊維、樹脂繊維、あるいは無機材料との複合化繊維であってもよい。
【0125】
[電池モジュール]
図6に示すように、電池モジュール100は、複数の蓄電池110を、電池ケース120に収容したものである。そして、本実施形態では、上記の防炎材1を、無機繊維クロス20が蓄電池110と対向する面となるように、電池ケース120の天蓋や側壁、底壁の少なくとも1つ(同図ではこれら全面)に配設されている。あるいは、図示は省略するが、蓄電池110の電池間に配設してもよい。
【符号の説明】
【0126】
1 防炎材
10 断熱材
20 無機繊維クロス
25 ニードル跡
30 接合部分
40 樹脂製ステープル
50 樹脂製タグピン
60 糸
100 電池モジュール
110 蓄電池
120 電池ケース
200 ニードリング装置
210 支持板
220 ニードル板
221 ニードル
図1
図2
図3
図4
図5
図6