(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】高安全性高容量リン酸マンガン鉄リチウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 25/45 20060101AFI20240702BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240702BHJP
【FI】
C01B25/45 Z
H01M4/58
(21)【出願番号】P 2022174121
(22)【出願日】2022-10-31
【審査請求日】2022-10-31
(31)【優先権主張番号】202210935979.6
(32)【優先日】2022-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202210579213.9
(32)【優先日】2022-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522228241
【氏名又は名称】湖北融通高科先進材料集団股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100230086
【氏名又は名称】譚 粟元
(72)【発明者】
【氏名】楊 吉
(72)【発明者】
【氏名】魏 義華
(72)【発明者】
【氏名】孫 傑
(72)【発明者】
【氏名】何 中林
(72)【発明者】
【氏名】何 健豪
(72)【発明者】
【氏名】林 碩
(72)【発明者】
【氏名】徐 成
(72)【発明者】
【氏名】林 平均
(72)【発明者】
【氏名】劉 超
(72)【発明者】
【氏名】余 孟華
(72)【発明者】
【氏名】祁 洪福
(72)【発明者】
【氏名】王 雄
(72)【発明者】
【氏名】程 正▲チン▼
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-089888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/45
H01M 4/58
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸マンガン鉄リチウムの製造方法であって、
(1)鉄源、リン源、酸化防止剤を溶液に混合し、酸化防止のための保護ガスとして窒素ガスを溶液に通し、リン酸第一鉄前駆体を共沈法により合成し、無水リン酸第一鉄前駆体が得られるように、得られたリン酸第一鉄前駆体を焼結し、全結晶水を除去するステップと、
(2)マンガン源、リン源、酸化防止剤を溶液に混合し、酸化防止のための保護ガスとして窒素ガスを溶液に通し、リン酸第一マンガン前駆体を共沈法により合成し、無水リン酸第一マンガン前駆体が得られるように、得られたリン酸第一マンガン前駆体を焼結し、全結晶水を除去するステップと、
(3)スラリーAが得られるように、ステップ(1)で得られた無水リン酸第一鉄前駆体にリン酸リチウム及び脱イオン水を添加し、ボールミリング及び湿式サンドミルを経るステップと、
(4)スラリーBが得られるように、ステップ(2)で得られた無水リン酸第一マンガン前駆体にリン酸リチウム、有機炭素源、分散剤、ドーパント及び脱イオン水を添加し、ボールミリング及び湿式サンドミルを経るステップと、
(5)前記リン酸マンガン鉄リチウムが得られるように、ステップ(3)及びステップ(4)で得られたスラリーAとスラリーBとを混合し、ボールミリング、噴霧乾燥、焼結及び気流粉砕を行うステップと、を含み、
湿式サンドミルにおいて、スラリーAの粒度D50=0.30-0.60μm、スラリーBの粒度D50=0.20-0.50μmになるように制御し、かつ、スラリーAの粒度がスラリーBの粒度より大きくする、
ことを特徴とするリン酸マンガン鉄リチウムの製造方法。
【請求項2】
ステップ(1)において、前記鉄源は、硫酸第一鉄であり、リン源は、リン酸、リン酸二水素アンモニウム及びリン酸水素二アンモニウムから選ばれる一つ又は複数であり、酸化防止剤は、アスコルビン酸であり、リン酸第一鉄前駆体の化学式は、Fe
3(PO
4)
2・8H
2Oであり、前記焼結は、箱型炉で行い、焼結温度は、350~600℃であり、焼結時間は、1~5hであり、焼結雰囲気は、窒素ガスである、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ステップ(2)において、前記マンガン源は、硫酸第一マンガンであり、リン源は、リン酸、リン酸二水素アンモニウム及びリン酸水素二アンモニウムから選ばれる一つ又は複数であり、酸化防止剤は、アスコルビン酸であり、リン酸第一マンガン前駆体の化学式は、Mn
3(PO
4)
2・7H
2Oであり、前記焼結は、箱型炉で行い、焼結温度は、350~600℃であり、焼結時間は、1~5hであり、焼結雰囲気は、窒素ガスである、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
ステップ(3)において、前記スラリーAにおけるモル比Fe/P=0.958~0.998であり、モル比Li/Fe=1.025~1.055である、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
ステップ(4)において、前記スラリーBにおけるモル比Mn/P=0.958~0.998であり、モル比Li/Mn=1.025~1.055である、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
ステップ(4)において、前記有機炭素源は、グルコースとポリエチレングリコールとの混合物であり、グルコースの添加量は、無水リン酸第一マンガン前駆体質量の5~10wt%であり、ポリエチレングリコールの添加量は、無水リン酸第一マンガン前駆体質量の1~5wt%であり、前記ドーパントは、二酸化チタン、メタバナジン酸アンモニウム、五酸化ニオブから選ばれる一つ又は複数であり、添加量は、無水リン酸第一マンガン前駆体質量の0~2.5wt%であり、前記分散剤は、アニオン性ポリアクリレート分散剤TC108、ノニオン型ポリマーTC311及びノニオン型ポリマーTC28から選ばれる一つ又は複数であり、添加量は、グルコース添加量の5~10wt%である、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
ステップ(5)において、前記ボールミリングは、ボールミルで行い、ボールミリング時間は、30~60分であり、前記噴霧乾燥は、窒素雰囲気下で行い、吸気温度が180~240℃となり、排気温度が80~120℃となるように制御し、前記焼結は、箱型炉で行い、焼結温度は、600~800℃であり、焼結時間は、8~20hであり、焼結雰囲気は、窒素ガスであり、前記気流粉砕において、最終粉砕により得られるリン酸マンガン鉄リチウム粒径D10≧0.30um、D50=0.8~1.8um、D90≦18umとなるように制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム電池用正極材料の技術分野に属し、特に、高安全性高容量リン酸マンガン鉄リチウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、新しいリチウム電池用正極材料は、高電圧プラットフォームとマンガン系材料を中心に展開しており、その分岐システムの中で最初に商業化されたのはリン酸マンガン鉄リチウムである。リン酸鉄リチウムと比較して、マンガン高電圧特性により、リン酸マンガン鉄リチウムは、より高い電圧プラットフォームを有するため、同じ容量の場合よりも高いエネルギー密度を有し、同じ条件下でエネルギー密度がリン酸鉄リチウムよりも10~20%高くなる。
【0003】
リン酸マンガン鉄リチウム自体にも性能欠陥が存在する。現在、リン酸鉄リチウムプロセスは成熟しており、安全性と安定性がより優れている。現在、リン酸マンガン鉄リチウムプロセスは、性能が悪く、反応プロセスが複雑であり、製造プロセスにおいて、二価マンガンと二価鉄に酸化還元の可能性が存在しており、最終的に生成されるリン酸マンガン鉄リチウムの完成品は、相均一性が悪い。構造には連続的な共角八面体ネットワークがないため、一次元チャネルにおけるリチウムイオンの移動が制限され、材料の導電性が低下することになる。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、従来技術に存在する欠点を解決するために、高安全性高容量リン酸マンガン鉄リチウム材料を提供することを目的とする。前記高安全性高容量リン酸マンガン鉄リチウム材料は、相がより均一であり、スラリーの安定性がより強く、材料の容量と圧縮性がさらに向上することになる。
【0005】
上記目的を実現するために、本発明によれば、高安全性高容量リン酸マンガン鉄リチウムの製造方法であって、
(1)鉄源、リン源、酸化防止剤を溶液に混合し、酸化防止のための保護ガスとして窒素ガスを溶液に通し、リン酸第一鉄前駆体を共沈法により合成し、無水リン酸第一鉄前駆体が得られるように、得られたリン酸第一鉄前駆体を焼結し、全結晶水を除去するステップと、
(2)マンガン源、リン源、酸化防止剤を溶液に混合し、酸化防止のための保護ガスとして窒素ガスを溶液に通し、リン酸第一マンガン前駆体を共沈法により合成し、無水リン酸第一マンガン前駆体が得られるように、得られたリン酸第一マンガン前駆体を焼結し、全結晶水を除去するステップと、
(3)スラリーAが得られるように、ステップ(1)で得られた無水リン酸第一鉄前駆体にリン酸リチウム及び脱イオン水を添加し、ボールミリング及び湿式サンドミルを経るステップと、
(4)スラリーBが得られるように、ステップ(2)で得られた無水リン酸第一マンガン前駆体にリン酸リチウム、有機炭素源、分散剤、ドーパント及び脱イオン水を添加し、ボールミリング及び湿式サンドミルを経るステップと、
(5)前記高安全性高容量リン酸マンガン鉄リチウムが得られるように、ステップ(3)及びステップ(4)で得られたスラリーAとスラリーBとを混合し、ボールミリング、噴霧乾燥、焼結及び気流粉砕を行うステップと、を含む高安全性高容量リン酸マンガン鉄リチウムの製造方法という技術的手段が採られる。
【0006】
ステップ(1)において、前記鉄源は、硫酸第一鉄であり、リン源は、リン酸、リン酸二水素アンモニウム及びリン酸水素二アンモニウムから選ばれる一つ又は複数であり、酸化防止剤は、アスコルビン酸であり、リン酸第一鉄前駆体の化学式は、Fe3(PO4)2・8H2Oであり、前記焼結は、箱型炉で行い、焼結温度は、350~600℃であり、焼結時間は、1~5hであり、焼結雰囲気は、窒素ガスであることが好ましい。
【0007】
ステップ(2)において、前記マンガン源は、硫酸第一マンガンであり、リン源は、リン酸、リン酸二水素アンモニウム及びリン酸水素二アンモニウムから選ばれる一つ又は複数であり、酸化防止剤は、アスコルビン酸であり、リン酸第一マンガン前駆体の化学式は、Mn3(PO4)2・7H2Oであり、前記焼結は、箱型炉で行い、焼結温度は、350~600℃であり、焼結時間は、1~5hであり、焼結雰囲気は、窒素ガスであることが好ましい。
【0008】
ステップ(3)において、前記スラリーAにおけるモル比Fe/P=0.958~0.998であり、モル比Li/Fe=1.025~1.055であり、前記湿式サンドミルにおいて、スラリーAの粒度D50=0.30~0.60umとなるように制御することが好ましい。
【0009】
ステップ(4)において、前記スラリーBにおけるモル比Mn/P=0.958~0.998であり、モル比Li/Mn=1.025~1.055であり、前記湿式サンドミルにおいて、スラリーBの粒度D50=0.20~0.50umとなるように制御することが好ましい。
【0010】
ステップ(4)において、前記有機炭素源は、グルコースとポリエチレングリコールとの混合物であり、グルコースの添加量は、無水リン酸第一マンガン前駆体質量の5~10wt%であり、ポリエチレングリコールの添加量は、無水リン酸第一マンガン前駆体質量の1~5wt%であり、前記ドーパントは、二酸化チタン、メタバナジン酸アンモニウム、五酸化ニオブから選ばれる一つ又は複数であり、添加量は、無水リン酸第一マンガン前駆体質量の0~2.5wt%であり、前記分散剤は、アニオン性ポリアクリレート分散剤TC108、ノニオン型ポリマーTC311及びノニオン型ポリマーTC28から選ばれる一つ又は複数であり、添加量は、グルコース添加量の5~10wt%であることが好ましい。
【0011】
ステップ(5)において、前記ボールミリングは、ボールミルで行い、ボールミリング時間は、30~60分であり、前記噴霧乾燥は、窒素雰囲気下で行い、吸気温度が180~240℃となり、排気温度が80~120℃となるように制御し、前記焼結は、箱型炉で行い、焼結温度は、600~800℃であり、焼結時間は、8~20hであり、焼結雰囲気は、窒素ガスであり、前記気流粉砕において、最終粉砕により得られる高安全性高容量リン酸マンガン鉄リチウム粒径D10≧0.30um、D50=0.8~1.8um、D90≦18umとなるように制御することが好ましい。
【0012】
本発明は、前記方法により製造される高安全性高容量リン酸マンガン鉄リチウム材料についても保護を要求する。
【0013】
本発明は、リチウム電池用正極材料における前記高安全性高容量リン酸マンガン鉄リチウムの用途についても保護を要求する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、従来技術と比較して、以下の有益な効果を有する。
1、本発明に係るリン酸第一鉄前駆体及びリン酸第一マンガン前駆体により、焼結プロセスにおいて三価鉄及び三価マンガンを二価鉄及び二価マンガンに還元するプロセスが低減され、相反応不純物の生成が回避される。焼結及び噴霧乾燥は、窒素雰囲気下で行うことで、二価鉄及び二価マンガンの酸化がさらに防止される。
【0015】
2、本発明によれば、製造プロセスにおいて分散剤を使用することで、鉄とマンガンが酸化されないように保証されると同時に、完成品の相が純粋になり、凝集しなくなる。高温炭化の過程では、有機低分子物質が生成されるように分解し、炭素源と相乗的に作用し、正極材料の孔形成に有利であり、結晶粒の形状が制御され、結晶粒の成長が抑制され、凝集が緩和することになる。
【0016】
3、本発明によれば、グルコースとポリエチレングリコールを主炭素源とした上で、無機粒子表面を湿潤させる分散剤を添加することにより、良好な分散性が得られるようにスラリー粘度が低下し、材料の固形分含有量及びスラリーの安定性の向上に有利である。
【0017】
4、本発明によれば、前駆体の異なるサンドミル粒度を制御することにより、粒度の大きいリン酸第一鉄前駆体と粒度の小さいリン酸第一マンガン前駆体とを均一に混合させ、サンドミル時間が低減され、サンドミル効率が向上するだけではなく、材料の混合が保証され、容量と圧縮性がさらに向上することになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1において製造される試料のSEM図である。
【
図2】実施例2において製造される試料のSEM図である。
【
図3】実施例3において製造される試料のSEM図である。
【
図4】実施例4において製造される試料のSEM図である。
【
図5】比較例1において製造される試料のSEM図である。
【
図6】比較例2において製造される試料のSEM図である。
【
図7】実施例1において製造される試料のXRD図である。
【
図8】比較例1において製造される試料のXRD図である。
【
図9】実施例1において製造される試料のボタン電池の充放電グラフである。
【
図10】実施例2において製造される試料のボタン電池の充放電グラフである。
【
図11】実施例3において製造される試料のボタン電池の充放電グラフである。
【
図12】実施例4において製造される試料のボタン電池の充放電グラフである。
【
図13】比較例1において製造される試料のボタン電池の充放電グラフである。
【
図14】比較例2において製造される試料のボタン電池の充放電グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の目的、技術的手段及び利点をより明確にするために、以下、実施例と組み合わせて、本発明をさらに詳細に説明する。もちろん、本明細書に記載される具体的な実施例は、本発明を説明するためのみであり、本発明を限定するものではない。
【0020】
本発明におけるステップは、符号で並べたが、ステップの順序を限定するものではなく、ステップの順序又は、あるステップの実行に他のステップを基礎として必要とすることを明確に示さない限り、ステップの相対順序を調整することができる。本明細書で使用される「及び/又は」という用語は、関連するリストされた項目の一つ又は一つ以上の任意及びすべての可能な組み合わせに係り、かつカバーすることは理解できる。
【0021】
特に断りのない限り、本発明における化学試薬及び材料は、いずれも市場経路を介して購入され、又は市場経路を介して購入された原料から合成されるものであり、前記分散剤であるアニオンポリアクリレート分散剤TC108、ノニオン型ポリマーTC311及びノニオン型ポリマーTC28は、クラリアント社で調達される。
【0022】
(実施例1)
高安全性高容量リン酸マンガン鉄リチウムの製造方法は、
(1)硫酸第一鉄778g、リン酸二水素アンモニウム190g、リン酸10g、アスコルビン酸10gを溶液に混合し、酸化防止のための保護ガスとして窒素ガスを溶液に通し、リン酸第一鉄前駆体を共沈法により合成し、無水リン酸第一鉄前駆体400gが得られるように、得られたリン酸第一鉄前駆体を箱型炉に置いて窒素雰囲気下で焼結温度400℃、焼結時間5hで焼結し、全結晶水を除去するステップと、
(2)硫酸第一マンガン1060g、リン酸270g、アスコルビン酸10gを溶液に混合し、酸化防止のための保護ガスとして窒素ガスを溶液に通し、リン酸第一マンガン前駆体を共沈法により合成し、無水リン酸第一マンガン前駆体545gが得られるように、得られたリン酸第一マンガン前駆体を箱型炉に置いて窒素雰囲気下で焼結温度400℃、焼結時間5hで焼結し、全結晶水を除去するステップと、
(3)粒度D50=0.55umのスラリーAが得られるように、ステップ(1)で得られた無水リン酸第一鉄前駆体500gにリン酸リチウム123.6g及び脱イオン水1100gを添加し、ボールミリング及び湿式サンドミルを経るステップと、
(4)粒度D50=0.35umのスラリーBが得られるように、ステップ(2)で得られた無水リン酸第一マンガン前駆体545gにリン酸リチウム185.4g、グルコース60g、ポリエチレングリコール50g、アニオンポリアクリレート分散剤TC108質量8g、メタバナジン酸アンモニウム7.71g及び脱イオン水1100gを添加し、ボールミリング及び湿式サンドミルを経るステップと、
(5)高安全性高容量リン酸マンガン鉄リチウムが得られるように、ステップ(3)及びステップ(4)で得られたスラリーAとスラリーBとを混合し、ボールミルを用いて30分間ボールミリングし、窒素雰囲気下で噴霧乾燥を行い、吸気温度220℃となり、排気温度100℃なるように制御し、箱型炉に置いて750℃の窒素雰囲気下で15時間焼結し、炉内圧力を50Paにし、昇温前に窒素ガスを3時間以上通し、昇温速度を2℃/minに制御し、焼結後、炉とともに50℃まで自然降温し、気流粉砕を行い、粒径D10=0.40um、D50=1.0um、D90=10umとなるように制御するステップと、を含む。
【0023】
(実施例2)
高安全性高容量リン酸マンガン鉄リチウムの製造方法は、
(1) 硫酸第一鉄972g、リン酸水素二アンモニウム240g、リン酸20g、アスコルビン酸10gを溶液に混合し、酸化防止のための保護ガスとして窒素ガスを溶液に通し、リン酸第一鉄前駆体を共沈法により合成し、無水リン酸第一鉄前駆体500gが得られるように、得られたリン酸第一鉄前駆体を箱型炉に置いて窒素雰囲気下で焼結温度450℃、焼結時間4hで焼結し、全結晶水を除去するステップと、
(2)硫酸第一マンガン888g、リン酸240g、アスコルビン酸10gを溶液に混合し、酸化防止のための保護ガスとして窒素ガスを溶液に通し、リン酸第一マンガン前駆体を共沈法により合成し、無水リン酸第一マンガン前駆体455gが得られるように、得られたリン酸第一マンガン前駆体を箱型炉に置いて窒素雰囲気下で焼結温度450℃、焼結時間4hで焼結し、全結晶水を除去するステップと、
(3)粒度D50=0.35umのスラリーAが得られるように、ステップ(1)で得られた無水リン酸第一鉄前駆体500gにリン酸リチウム154.5g及び脱イオン水1100gを添加し、ボールミリング及び湿式サンドミルを経るステップと、
(4)粒度D50=0.25umのスラリーBが得られるように、ステップ(2)で得られた無水リン酸第一マンガン前駆体455gにリン酸リチウム154.5g、グルコース60g、ポリエチレングリコール50g、ノニオン型ポリマーTC311質量6g、二酸化チタン6g及び脱イオン水1100gを添加し、ボールミリング及び湿式サンドミルを経るステップと、
(5)高安全性高容量リン酸マンガン鉄リチウムが得られるように、ステップ(3)及びステップ(4)で得られたスラリーAとスラリーBとを混合し、ボールミルを用いて40分間ボールミリングし、窒素雰囲気下で噴霧乾燥を行い、吸気温度220℃となり、排気温度100℃なるように制御し、箱型炉に置いて760℃の窒素雰囲気下で12時間焼結し、炉内圧力を60Paにし、昇温前に窒素ガスを3時間以上通し、昇温速度を2℃/minに制御し、焼結後、炉とともに50℃まで自然降温し、気流粉砕を行い、粒径D10=0.40um、D50=1.2um、D90=10umとなるように制御するステップと、を含む。
【0024】
(実施例3)
高安全性高容量リン酸マンガン鉄リチウムの製造方法は、
(1)硫酸第一鉄972g、リン酸水素二アンモニウム220g、リン酸40g、アスコルビン酸10gを溶液に混合し、酸化防止のための保護ガスとして窒素ガスを溶液に通し、リン酸第一鉄前駆体を共沈法により合成し、無水リン酸第一鉄前駆体500gが得られるように、得られたリン酸第一鉄前駆体を箱型炉に置いて窒素雰囲気下で焼結温度500℃、焼結時間3hで焼結し、全結晶水を除去するステップと、
(2)硫酸第一マンガン585g、リン酸160g、アスコルビン酸10gを溶液に混合し、酸化防止のための保護ガスとして窒素ガスを溶液に通し、リン酸第一マンガン前駆体を共沈法により合成し、無水リン酸第一マンガン前駆体300gが得られるように、得られたリン酸第一マンガン前駆体を箱型炉に置いて窒素雰囲気下で焼結温度500℃、焼結時間3hで焼結し、全結晶水を除去するステップと、
(3)粒度D50=0.55umのスラリーAが得られるように、ステップ(1)で得られた無水リン酸第一鉄前駆体500gにリン酸リチウム154.2g及び脱イオン水1100gを添加し、ボールミリング及び湿式サンドミルを経るステップと、
(4)粒度D50=0.35umのスラリーBが得られるように、ステップ(2)で得られた無水リン酸第一マンガン前駆体300gにリン酸リチウム102.8g、グルコース60g、ポリエチレングリコール50g、ノニオン型ポリマーTC28質量8g、五酸化ニオブ6.5g及び脱イオン水1100gを添加し、ボールミリング及び湿式サンドミルを経るステップと、
(5)高安全性高容量リン酸マンガン鉄リチウムが得られるように、ステップ(3)及びステップ(4)で得られたスラリーAとスラリーBとを混合し、ボールミルを用いて50分間ボールミリングし、窒素雰囲気下で噴霧乾燥を行い、吸気温度200℃となり、排気温度100℃なるように制御し、箱型炉に置いて780℃の窒素雰囲気下で10時間焼結し、炉内圧力を70Paにし、昇温前に窒素ガスを3時間以上通し、昇温速度を2℃/minに制御し、焼結後、炉とともに50℃まで自然降温し、気流粉砕を行い、粒径D10=0.40um、D50=0.9um、D90=10umとなるように制御するステップと、を含む。
【0025】
(実施例4)
高安全性高容量リン酸マンガン鉄リチウムの製造方法は、
(1)硫酸第一鉄778g、リン酸二水素アンモニウム180g、リン酸20g、アスコルビン酸10gを溶液に混合し、酸化防止のための保護ガスとして窒素ガスを溶液に通し、リン酸第一鉄前駆体を共沈法により合成し、無水リン酸第一鉄前駆体400gが得られるように、得られたリン酸第一鉄前駆体を箱型炉に置いて窒素雰囲気下で焼結温度550℃、焼結時間2hで焼結し、全結晶水を除去するステップと、
(2)硫酸第一マンガン1060g、リン酸270g、アスコルビン酸10gを溶液に混合し、酸化防止のための保護ガスとして窒素ガスを溶液に通し、リン酸第一マンガン前駆体を共沈法により合成し、無水リン酸第一マンガン前駆体545gが得られるように、得られたリン酸第一マンガン前駆体を箱型炉に置いて窒素雰囲気下で焼結温度550℃、焼結時間2hで焼結し、全結晶水を除去するステップと、
(3)粒度D50=0.60umのスラリーAが得られるように、ステップ(1)で得られた無水リン酸第一鉄前駆体400gにリン酸リチウム123.6g及び脱イオン水1100gを添加し、ボールミリング及び湿式サンドミルを経るステップと、
(4)粒度D50=0.50umのスラリーBが得られるように、ステップ(2)で得られた無水リン酸第一マンガン前駆体545gにリン酸リチウム185.4g、グルコース60g、ポリエチレングリコール50g、ノニオン型ポリマーTC28質量8g、メタバナジン酸アンモニウム6g及び脱イオン水1100gを添加し、ボールミリング及び湿式サンドミルを経るステップと、
(5)高安全性高容量リン酸マンガン鉄リチウムが得られるように、ステップ(3)及びステップ(4)で得られたスラリーAとスラリーBとを混合し、ボールミルを用いて60分間ボールミリングし、窒素雰囲気下で噴霧乾燥を行い、吸気温度220℃となり、排気温度90℃なるように制御し、箱型炉に置いて770℃の窒素雰囲気下で10時間焼結し、炉内圧力を70Paにし、昇温前に窒素ガスを3時間以上通し、昇温速度を2℃/minに制御し、焼結後、炉とともに80℃まで自然降温し、気流粉砕を行い、粒径D10=0.40um、D50=1.5um、D90=10umとなるように制御するステップと、を含む。
【0026】
(比較例1)
リン酸マンガン鉄リチウムの製造方法は、
(1)粒度D50=0.55umのスラリーAが得られるように、リン酸鉄310g、酸化鉄75g、リン酸リチウム123.6g及び脱イオン水1100gを溶液に混合し、ボールミリング及び湿式サンドミルを経るステップと、
(2)粒度D50=0.35umのスラリーBが得られるように、二酸化マンガンB395g、リン酸300g、リン酸リチウム185.4g、グルコース60g、ポリエチレングリコール50g、アニオンポリアクリレート分散剤TC108質量8g、メタバナジン酸アンモニウム7.71g及び脱イオン水1100gを溶液に混合し、ボールミリング及び湿式サンドミルを経るステップと、
(3)リン酸マンガン鉄リチウムが得られるように、ステップ(1)及びステップ(2)で得られたスラリーAとスラリーBとを混合し、ボールミルを用いて30分間ボールミリングし、窒素雰囲気下で噴霧乾燥を行い、吸気温度220℃となり、排気温度100℃なるように制御し、箱型炉に置いて750℃の窒素雰囲気下で15時間焼結し、炉内圧力を50Paにし、昇温前に窒素ガスを3時間以上通し、昇温速度を2℃/minに制御し、焼結後、炉とともに50℃まで自然降温し、気流粉砕を行い、粒径D10=0.40um、D50=1.0um、D90=10umとなるように制御するステップと、を含む。
【0027】
(比較例2)
リン酸マンガン鉄リチウムの製造方法は、
(1)硫酸第一鉄778g、リン酸二水素アンモニウム190g、リン酸10g、アスコルビン酸10gを溶液に混合し、酸化防止のための保護ガスとして窒素ガスを溶液に通し、リン酸第一鉄前駆体を共沈法により合成し、無水リン酸第一鉄前駆体400gが得られるように、得られたリン酸第一鉄前駆体を箱型炉に置いて窒素雰囲気下で焼結温度400℃、焼結時間5hで焼結し、全結晶水を除去するステップと、
(2)硫酸第一マンガン1060g、リン酸270g、アスコルビン酸10gを溶液に混合し、酸化防止のための保護ガスとして窒素ガスを溶液に通し、リン酸第一マンガン前駆体を共沈法により合成し、無水リン酸第一マンガン前駆体545gが得られるように、得られたリン酸第一マンガン前駆体を箱型炉に置いて窒素雰囲気下で焼結温度400℃、焼結時間5hで焼結し、全結晶水を除去するステップと、
(3)粒度D50=0.55umのスラリーAが得られるように、ステップ(1)で得られた無水リン酸第一鉄前駆体500gにリン酸リチウム123.6g及び脱イオン水1100gを添加し、ボールミリング及び湿式サンドミルを経るステップと、
(4)粒度D50=0.35umのスラリーBが得られるように、ステップ(2)で得られた無水リン酸第一マンガン前駆体545gにリン酸リチウム185.4g、グルコース60g、ポリエチレングリコール50g、メタバナジン酸アンモニウム7.71g及び脱イオン水1100gを添加し、ボールミリング及び湿式サンドミルを経るステップと、
(5)リン酸マンガン鉄リチウムが得られるように、ステップ(3)及びステップ(4)で得られたスラリーAとスラリーBとを混合し、ボールミルを用いて30分間ボールミリングし、窒素雰囲気下で噴霧乾燥を行い、吸気温度220℃となり、排気温度100℃なるように制御し、箱型炉に置いて750℃の窒素雰囲気下で15時間焼結し、炉内圧力を50Paにし、昇温前に窒素ガスを3時間以上通し、昇温速度を2℃/minに制御し、焼結後、炉とともに50℃まで自然降温し、気流粉砕を行い、粒径D10=0.40um、D50=1.0um、D90=10umとなるように制御するステップと、を含む。
【0028】
実施例1-4及び比較例1-2で製造されたリン酸マンガン鉄リチウム正極材料とSuper-P及びPVDFとを質量比80:10:10でNMPに分散させ、ボールミリングして均一に分散させた後、アルミ箔上に塗布し、真空乾燥し、正極極片である電解液1mol/LのLiPF6を製造した。ここで、溶媒の体積比は、EC:DMC:EMC=1:1:1(体積比)であり、セパレートは、Celgardポリプロピレンフィルムであり、金属リチウム片は負極であり、ボタン電池を形成するために一緒に組み立てられる。テスト電圧範囲は、2.5V~4.5Vであり、定電流定電圧充電方式で4.5Vまで充電し、カットオフ電流は、0.02Cであり、定電流放電方式で2.5Vまで放電する。テスト結果を表1に示す。
【0029】
【0030】
実施例1-4は、本発明により製造された高安全性高容量リン酸マンガン鉄リチウムであり、比較例1-2は、従来の方法により製造されたリン酸マンガン鉄リチウムである。本発明により製造された高安全性高容量リン酸マンガン鉄リチウムは、従来の方法により製造されたリン酸マンガン鉄リチウムよりも初回クーロン効率及び放電グラム容量が高く、導電率及び容量が高いことがデータから得られる。XRD分析図からわかるように、当該プロセスにより製造されたリン酸マンガン鉄リチウムは、純度が高く、不均一相の生成がなく、比較例1では、生成された生成物にFe2P不均一相があり、製品性能の低下をもたらすことになる。実施例の製品と比較例の製品とを走査型電子顕微鏡で分析することで、本発明により製造された高安全性高容量リン酸マンガン鉄リチウムの粒子状物質は、大きさが均一であり、均一性がより良好であることがわかる。
【0031】
当業者は、本発明の如何なる改良、本発明の製品の各原料の等価置換及び補助成分の添加、具体的な形態の選択などは、いずれも本発明の保護範囲及び開示の範囲内に収まるものである。