(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】通信機器
(51)【国際特許分類】
H03H 7/09 20060101AFI20240702BHJP
H04B 15/00 20060101ALI20240702BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
H03H7/09 A
H04B15/00
H05K9/00 K
(21)【出願番号】P 2022508241
(86)(22)【出願日】2021-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2021009292
(87)【国際公開番号】W WO2021187241
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2020049720
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】310021766
【氏名又は名称】株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント
(74)【代理人】
【識別番号】100122275
【氏名又は名称】竹居 信利
(72)【発明者】
【氏名】野澤 鉄文
(72)【発明者】
【氏名】辻川 隆俊
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-008354(JP,A)
【文献】特開2018-085554(JP,A)
【文献】特開2009-135760(JP,A)
【文献】特開平08-115820(JP,A)
【文献】特開2012-10175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H1/00-7/13
H04B1/10-15/06
H04L25/00-25/66
H05K9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信コネクタと、
前記通信コネクタを経由する通信を制御する通信制御回路と、
前記通信制御回路及び前記通信コネクタのそれぞれと接続され、前記通信を中継するコモンモードフィルタと、
を備え、
前記通信制御回路が送出する電気信号が前記コモンモードフィルタによって反射される反射波によって共振を生じさせる信号経路の電気長であって、前記通信制御回路のパッケージと前記コモンモードフィルタを接続する信号線と、前記通信制御回路のパッケージ内部の信号線と、を含む全体の信号経路の電気長が、
前記通信制御回路が前記信号線を介したデータの送信のために生成して出力するクロック信号の最大のクロック周波数に対応する波長をλとして、
(3/4)λより大きく(5/4)λより小さい
ことを特徴とする通信機器。
【請求項2】
請求項
1に記載の通信機器において、
前記通信制御回路と前記コモンモードフィルタとを接続する信号線は、プリント基板の表面に配置され、
前記コモンモードフィルタと前記通信コネクタとを接続する信号線は、前記プリント基板の層間を移動する経路を含む
ことを特徴とする通信機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信コネクタとその制御回路が搭載されたプリント基板を内蔵する通信機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、HDMI(登録商標)2.1などのように、外部の通信機器との間のデータ通信を非常に高速なクロック周波数で行う有線接続の通信規格が登場している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述したように高速なクロック周波数で通信を行う通信機器においては、通信に伴うノイズ(不要電磁放射)の発生が問題となる。ノイズ対策の一環として、通信信号を送受信する集積回路(通信制御回路)と通信コネクタとの間にコモンモードフィルタを配置することがある。しかしながら、コモンモードフィルタをどのように配置すべきかについてはこれまで十分検討されていなかった。
【0004】
本発明は上記実情を考慮してなされたものであって、その目的の一つは、通信コネクタを経由して外部の通信機器と有線接続で通信を行う場合に、効果的にノイズの発生を抑えることのできる通信機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る通信機器は、通信コネクタと、前記通信コネクタを経由する通信を制御する通信制御回路と、前記通信制御回路及び前記通信コネクタのそれぞれと接続され、前記通信を中継するコモンモードフィルタと、を備え、前記通信制御回路が送出する電気信号が前記コモンモードフィルタによって反射される反射波によって共振を生じさせる信号経路の電気長が、当該電気信号のクロック周波数に対応する波長をλとして、λ/2の奇数倍よりも偶数倍に近いことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本発明の実施の形態に係る通信機器に内蔵されるプリント基板の部分平面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る通信機器に内蔵されるプリント基板の部分断面図である。
【
図3】コモンモードフィルタの位置によるノイズへの影響を示すグラフである。
【
図4】コモンモードフィルタの位置と電気長との関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。
【0008】
図1は、本発明の一実施形態に係る通信機器1に内蔵されるプリント基板10の模式的な部分平面図である。また、
図2はプリント基板10の模式的な部分断面図である。通信機器1は、例えば家庭用ゲーム機等の電子機器であって、
図1に示すように、プリント基板(プリント配線板)10と、プリント基板10に搭載される通信制御回路11と、通信コネクタ12と、コモンモードフィルタ(CMF)13と、を含んで構成されている。また、
図2に示すように、プリント基板10の表面には通信制御回路11を覆うようにシールド部材20が配置されている。なお、
図1においてはシールド部材20の図示は省略されている。
【0009】
プリント基板10には、本実施形態に係る通信機器の動作に必要な各種の回路素子が搭載される。本実施形態では、プリント基板10はその表面だけでなく内側にも信号層(内層)を有する多層基板であるものとする。プリント基板10の表面には、プリント基板10上の電子回路の基準電位となるグラウンドパターンGが形成されている。
図1においては、グラウンドパターンGはハッチングによって示されている。
【0010】
通信制御回路11は、集積回路であって、通信コネクタ12を経由して外部の通信機器との間で行われるデータ通信を制御する。具体的に通信制御回路11は、通信コネクタ12を経由して外部の通信機器に送出すべき電気信号を生成して出力する。通信制御回路11は、所定の通信規格に従って所定のクロック周波数で電気信号を送信する。ここでは具体例として、通信制御回路11はHDMI2.0、及びHDMI2.1の規格に従って、外部の通信機器に対して映像データや音声データ等を符号化した電気信号を送信することとする。また、通信制御回路11は最大8GHzのクロック周波数で電気信号を送信するものとする。なお、本実施形態において通信制御回路11は、主としてデータの送信を行うこととしているが、外部の通信機器から送信されるデータの受信を併せて実行してもよい。ただし、平均して通信制御回路11が外部の通信機器に対して送信するデータ量は、外部から受信するデータ量よりも大きいものとする。
【0011】
通信コネクタ12は、プリント基板10の外縁に配置され、その通信規格に対応した通信ケーブルが接続される。この通信ケーブルを介して、通信機器1は外部の通信機器との間で有線接続され、データ通信を行う。
【0012】
コモンモードフィルタ13は、通信制御回路11と通信コネクタ12との間に配置され、通信制御回路11と通信コネクタ12との間の通信を中継する。すなわち、通信制御回路11と通信コネクタ12とは直接プリント配線によって接続されておらず、それぞれ信号線を介してコモンモードフィルタ13と接続されている。コモンモードフィルタ13は、中継する電気信号に含まれる特定周波数のコモンモードノイズを低減する。ただし、コモンモードフィルタ13は、通信制御回路11が送信する全てのクロック周波数の信号を対象としてコモンモードノイズを低減する必要はなく、一部のクロック周波数の信号だけを対象としてもよい。本実施形態では、コモンモードフィルタ13はHDMI2.0規格による通信を対象とし、HDMI2.1規格による高速のクロック周波数の電気信号を対象としたノイズ除去は行わないものとする。
【0013】
通信制御回路11とコモンモードフィルタ13は、プリント基板10の表面に形成された信号線14によって接続されている。また、通信コネクタ12とコモンモードフィルタ13は、信号線15によって接続されている。なお、本実施形態では4本の信号線を経由して外部の通信機器との間のデータ通信が行われることとし、信号線14及び信号線15はいずれも並進する4本の信号線によって構成されている。
【0014】
信号線15は、プリント基板10の表面に形成されてコモンモードフィルタ13に連結されている信号線15aと、プリント基板10内層に形成された信号線15bと、プリント基板10の表面に形成されて通信コネクタ12に連結されている信号線15cとを含んで構成されている。信号線15aと信号線15bとは、プリント基板10に形成されたビア16aを介して電気的に接続されている。また、信号線15bと信号線15cとは、プリント基板10に形成されたビア16bを介して電気的に接続されている。
【0015】
この通信制御回路11によって通信コネクタ12を経由して高速なクロック周波数の通信が行われると、周辺にノイズが放射される。本願発明者らは、シミュレーションや実測によって調査した結果、通信制御回路11から送信される電気信号(進行波)がコモンモードフィルタ13で反射することによって生じる反射波が、全体のノイズに対して大きな影響を及ぼしていることを見出した。そこで、このようなコモンモードフィルタ13による反射波の影響を低減するようにコモンモードフィルタ13を配置することによって、ノイズの発生を抑えることができる。
【0016】
具体的に、通信制御回路11とコモンモードフィルタ13の間の距離を、ノイズを発生させるクロック周波数の大きさに応じて決まる距離とすることで、ノイズの発生を抑えることができる。逆に、コモンモードフィルタ13から通信コネクタ12までの距離は、ノイズの発生に与える影響が相対的に小さく、回路設計上の都合などを考慮して比較的自由に決定することができる。
【0017】
特に、コモンモードフィルタ13による反射波が共振を生じさせる電気長Leを、ノイズ対策が必要なクロック周波数に対応する波長λの整数倍(すなわち、λ/2の偶数倍)とすることで、進行波と反射波が互いに打ち消し合うような共振を発生させ、外部へのノイズ放射を抑えることができる。ここで電気長Leは、反射波の共振に寄与する物理的な信号経路の距離をDとし、プリント基板10を構成する誘電体の比誘電率をεとした場合に、√ε・Dで表される。そのため、距離Dが
D=(1/√ε)n・λ
に近い値となる場合に、放射ノイズを抑えることができる。ここでnは1以上の整数である。
【0018】
図3は、通信制御回路11からコモンモードフィルタ13までの信号線
14の長さL1を変化させた場合のシミュレーション結果を示している。この図のグラフは、クロック周波数が6GHzの場合、及び8GHzの場合のシミュレーション結果を示しており、横軸が通信制御回路11とコモンモードフィルタ13との間の信号線
14の長さL1、縦軸が遠方界における電界強度の大きさを示している。電界強度が大きいほど、通信制御回路11の通信によって生じるノイズの大きさが大きいことになる。この図に示されるように、長さL1の変化に応じてノイズの大きさは周期関数的に変化しており、その周期はそれぞれのクロック周波数の波長λに対応している。より具体的に、電気長がλ/2の奇数倍に対応する位置においてノイズのピークが現れている。
【0019】
図3のシミュレーション結果を示すグラフでは、長さL1が0に近い位置で遠方界電界強度が極小値を取ることが示されている。しかしながら本願発明者らは、実機ではシミュレーション結果と異なり、ノイズの大きさが小さくなる位置は長さL1が0になる位置ではなく、より離れた位置であることを確認した。これは、通信制御回路11とコモンモードフィルタ13との間の共振には、通信制御回路11外部のコモンモードフィルタ13までの信号線14だけでなく、上述のシミュレーションでは考慮されていない通信制御回路11のパッケージ内部の構造も寄与すると想定されるためである。
【0020】
通信制御回路11内部のダイは、ワイヤーボンディング等の配線(ワイヤー)により通信制御回路11外側の接続端子と接続されている。このダイ、及びワイヤーが進行波と反射波の共振に寄与すると考えられる。しかし、通信制御回路11内部のダイの大きさや配線の長さを特定することは困難である。そのため、通信制御回路11の物理的なサイズに基づいて想定される通信制御回路11内の配線の長さを考慮して、コモンモードフィルタ13の位置を決定することとする。
【0021】
具体的に、コモンモードフィルタ13からの反射波が共振を生じさせる距離Dは、信号線14の長さL1と通信制御回路11内部の信号経路の長さL2の和になり、電気長Leはその√ε倍になる。
Le=√ε(L1+L2)
この電気長Leが、λ/2の奇数倍の長さよりも波長λ/2の偶数倍の長さに近い場合に、ノイズの発生を抑えることができる。すなわち、nを1以上の整数として、以下の関係式を満たす場合に、それ以外の場合よりも放射されるノイズが小さくなる。
n・λ-λ/4<√ε(L1+L2)<n・λ+λ/4
この関係式は、電気長Leとλ/2の偶数倍の長さとの間の差がλ/4未満であることを表している。
【0022】
より好ましくは、以下の関係式を満たすことで放射されるノイズが小さくなる。
n・λ-λ/8<√ε(L1+L2)<n・λ+λ/8
この関係式は、電気長Leとλ/2の偶数倍の長さとの間の差がλ/8未満であることを表している。
【0023】
これらの関係式におけるλは、通信制御回路11が送出する電気信号のクロック周波数のうち、ノイズの抑制が必要となるクロック周波数に対応する波長である。特にこのλは、通信制御回路11が送出する電気信号の最大のクロック周波数(本実施形態では8GHz)に対応する波長であってよい。また、これより低いクロック周波数(例えば6GHz)についてもノイズ対策が必要な場合、そのクロック周波数に対応する第2の波長についても上述の関係式を満たすようにコモンモードフィルタ13の位置を決定することで、どちらのクロック周波数で通信を行う場合にもノイズを抑制することができる。
【0024】
ここでL2は、通信制御回路11内部の信号経路の長さであるが、通信制御回路11の内部構造が不明な場合、近似的に以下のような長さをL2とみなしてもよい。具体的に、通信制御回路11の中心位置から信号線
14が接続される辺までの距離L2aと、中心位置から信号線
14と逆側で最も遠い接続端子までの距離L2bとの合計値を長さL2とみなして、電気長Leを算出する。
図4は、この場合における長さL2、及び共振を生じさせる距離Dを説明する図である。
【0025】
シールド部材20は、金属板等の導電性を有する板状の部材によって形成されており、プリント基板10と対向し、プリント基板10表面に配置される回路素子を覆うように配置されている。シールド部材20の外縁は、プリント基板10表面に形成されたグラウンドパターンGと電気的に接続される。これによりシールド部材20は、その内部で発生したノイズが外部に伝搬しないようにする。
【0026】
これまで説明したように、通信制御回路11とコモンモードフィルタ13とは信号線14によって接続されており、この信号線14はプリント基板10表面に配置されている。そのため、通信制御回路11とコモンモードフィルタ13との間ではプリント基板10の層間を移動する信号線路は存在しないことになる。
【0027】
一方、コモンモードフィルタ13と通信コネクタ12との間の信号線15は、その途中にプリント基板10内層に形成された信号線15bを含んでいる。そのため、信号線15は、信号線15bの両端においてプリント基板10に形成されたビアを介して層間を接続している。このような層間を接続する信号経路が存在する場合、その部分からノイズが漏洩しやすいことを本願発明者らは見出した。そのため、ノイズの主要な放射源であるコモンモードフィルタ13と通信制御回路11との間の通信経路内では層間を接続する箇所を設けず、コモンモードフィルタ13と通信コネクタ12との間の通信経路内にこのような層間を接続する箇所を設けることとしている。
【0028】
シールド部材20の外縁は、平面視においてこの内層を通過する信号線15bと交差している。これにより、通信制御回路11と通信コネクタ12との間の信号経路によってプリント基板10表面のグラウンドパターンGを途切れさせることなく、シールド部材20の外縁をグラウンドパターンGと接触させることができる。これにより、シールド部材20は通信制御回路11,コモンモードフィルタ13、及びこれらを結ぶ信号線14をその内側に収容し、これらの素子から放射されるノイズが外部に伝搬しないようにすることができる。
【0029】
以上説明したように、本実施形態に係る通信機器1によれば、通信制御回路11からコモンモードフィルタ13に向けて送出される電気信号の反射波によって生じるノイズを効果的に抑制し、通信制御回路11が高速クロックで通信を行う場合に大きなノイズが放射されないようにすることができる。
【0030】
なお、本発明の実施の形態は、以上説明したものに限られない。例えば以上の説明では、通信制御回路11はHDMI規格に従って通信を行うこととしたが、これに限らず各種の通信規格に従って通信を行う回路であってよい。また、以上の説明では通信制御回路11と通信コネクタ12との間で送受信される信号の最大クロック周波数は8GHzであることとしたが、これに限らず、通信制御回路11は各種のクロック周波数で通信を行うこととしてもよい。この場合、ノイズ対策が必要なクロック周波数(特に、その通信制御回路11が信号の送受信に使用する最大のクロック周波数)に対応する波長λの整数倍に近い電気長を持つように、コモンモードフィルタ13の位置を決定すればよい。
【0031】
また、以上の説明では、通信機器1は家庭用ゲーム機であることとしたが、本発明の実施の形態に係る通信機器1はこれに限らず、例えばパーソナルコンピュータや携帯型ゲーム機、スマートフォンなど、有線で通信を行うための通信制御回路11、及び通信コネクタ12を備える各種の機器であってよい。
【符号の説明】
【0032】
1 通信機器、10 プリント基板、11 通信制御回路、12 通信コネクタ、13 コモンモードフィルタ、14,15 信号線、16 ビア、20 シールド部材。