(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】ケイ素系活物質粒体ならびにケイ素系活物質前駆体粒体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20240702BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20240702BHJP
C01B 33/113 20060101ALI20240702BHJP
C23C 14/10 20060101ALI20240702BHJP
C23C 14/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/48
C01B33/113 A
C23C14/10
C23C14/00 A
(21)【出願番号】P 2022524898
(86)(22)【出願日】2021-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2021010112
(87)【国際公開番号】W WO2021235057
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2022-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2020088789
(32)【優先日】2020-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】397064944
【氏名又は名称】株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】竹下 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】柏谷 悠介
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-110798(JP,A)
【文献】特開2008-293872(JP,A)
【文献】特開2010-147005(JP,A)
【文献】特開2012-033280(JP,A)
【文献】特表2019-511982(JP,A)
【文献】特開平05-290833(JP,A)
【文献】国際公開第2020/045333(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
C01B 33/113
C23C 14/10
C23C 14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層構造を有し、
前記層構造を構成する全ての層がケイ素系物質から構成されて
おり、
前記ケイ素系物質は、酸化ケイ素または金属元素含有酸化ケイ素であり、
前記層構造の各層の厚みが0.2μm以下である
ケイ素系活物質粒体。
【請求項2】
前記層構造を構成する全ての層が同一のケイ素系物質から構成されている
請求項1に記載のケイ素系活物質粒体。
【請求項3】
層構造を有し、
前記層構造を構成する全ての層がケイ素系物質から構成されて
おり、
前記ケイ素系物質は、酸化ケイ素または金属元素含有酸化ケイ素であり、
前記層構造の各層の厚みが0.2μm以下である
ケイ素系活物質前駆体粒体。
【請求項4】
前記層構造を構成する全ての層が同一のケイ素系物質から構成されている
請求項
3に記載のケイ素系活物質前駆体粒体。
【請求項5】
基体に対してケイ素系活物質形成物質を蒸着させる蒸着工程を繰り返し行って前記基体上にケイ素系活物質の積層膜を形成する積層膜形成工程と、
前記ケイ素系活物質の積層膜を掻き取る掻取工程と
を備
え、
前記ケイ素系物質は、酸化ケイ素または金属元素含有酸化ケイ素である
層構造を有するケイ素系活物質前駆体粒体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素系活物質粒体に関する。また、本発明は、ケイ素系活物質前駆体粒体およびその製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池の負極形成に利用される酸化ケイ素系の活物質粒子が過去に種々提案されている(例えば、特開2019-67644号公報等参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、活物質粒子に対してリチウムイオン等のイオンの取り込み能力の向上が求められている。
【0005】
本発明の課題は、イオン取り込み能力に優れる活物質粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1局面に係るケイ素系活物質粒体は、層構造を有する。また、同層構造を構成する全ての層がケイ素系物質から構成されている。この場合において、同層構造を構成する全ての層が同一のケイ素系物質から構成されていることが好ましい。なお、ここにいう「ケイ素系活物質粒体」は、例えば、リチウムイオン二次電池の負極形成用の活物質粒体である。リチウムイオン二次電池の負極形成用の活物質粒体としては、例えば、ケイ素(Si)や、酸化ケイ素(SiOx)、リチウム(Li)等のアルカリ金属元素やマグネシウム(Mg)等のアルカリ土類金属元素を含む金属元素含有酸化ケイ素、ケイ素合金等、いわゆるSi系活物質が挙げられる。また、このケイ素系活物質粒体において層構造の各層の厚みは1μm以下であることが好ましく、0.2μm以下であることがより好ましい。なお、初期効率および容量の過小化を防ぐ観点から、層構造の各層の厚みは0.01μm以上であることが好ましい。
【0007】
上述の通り、このケイ素系活物質粒体は層構造を有する。このケイ素系活物質粒体において層状に酸素が濃化している。酸化ケイ素(SiOx)の酸素元素(O)は、充電によりリチウム(Li)と反応してケイ酸リチウムを生じるが、ケイ酸リチウムはリチウム伝導性が高い。このため、このケイ素系活物質粒体では、層状にリチウム伝導性の高い領域が存在することになり、リチウムがスムーズに移動することができる。この結果、このケイ素系活物質粒体を負極活物質として用いた場合、このケイ素系活物質粒体は、従前の層構造を有しないケイ素系活物質粒体に比べてイオン取り込み能力に優れることになり、延いてはリチウム二次電池等の電池の出力特性の向上をはかることができる。
【0008】
本発明の第2局面に係るケイ素系活物質前駆体粒体は、層構造を有する。また、同層構造を構成する全ての層が同一のケイ素系物質から構成されている。この場合において、同層構造を構成する全ての層が同一のケイ素系物質から構成されていることが好ましい。なお、ここにいう「ケイ素系活物質前駆体粒体」は、粉砕されることによってケイ素系活物質粒体となるものであって、例えば、リチウムイオン二次電池の負極形成用のケイ素系活物質前駆体粒体である。リチウムイオン二次電池の負極形成用のケイ素系活物質粒体としては、例えば、ケイ素(Si)や、酸化ケイ素(SiOx)、リチウム(Li)等のアルカリ金属元素やマグネシウム(Mg)等のアルカリ土類金属元素を含む金属元素含有酸化ケイ素、ケイ素合金等、いわゆるSi系活物質が挙げられる。また、このケイ素系活物質前駆体粒体において層構造の各層の厚みは1μm以下であることが好ましく、0.2μm以下であることがより好ましい。なお、ここで、層構造の各層の厚みは0.01μm以上であることが好ましい。
【0009】
上述の通り、このケイ素系活物質前駆体粒体は層構造を有する。このため、このケイ素系活物質前駆体粒体を粉砕する際、層の面を起点とした破壊が起きやすくなる。したがって、このケイ素系活物質前駆体粒体は、層構造を有しないケイ素系活物質前駆体粒体に比べて少ないエネルギーでケイ素系活物質粒体を生成することができる。また、上述の通りにして得られたケイ素系活物質粒体が層構造を有する場合、そのケイ素系活物質粒体は、第1局面に係るケイ素系活物質粒体と同様の効果を奏することができる。
【0010】
本発明の第2局面に係る層構造を有するケイ素系活物質前駆体粒体の製造方法は、積層膜形成工程および掻取工程を備える。積層膜形成工程では、基体に対してケイ素系活物質形成物質が蒸着される蒸着工程が繰り返し行われて基体上にケイ素系活物質の積層膜が形成される。なお、かかる場合におけるケイ素系物質は、酸化ケイ素または金属元素含有酸化ケイ素であることが好ましい。また、基体は、水平方向に沿った軸を有する回転体や、ケイ素系活物質形成物質の供給経路に対して相対移動可能な板体であることが好ましい。掻取工程では、ケイ素系活物質の積層膜が掻き取られる。
【0011】
このため、このケイ素系活物質前駆体粒体の製造方法では、基体の温度等を調節することによってケイ素系活物質の積層膜の層間の結合力等を調整することができる。したがって、この方法では、得られるケイ素系活物質前駆体粒体の粉砕性を調整することができると共に、そのケイ素系活物質前駆体粒体から層構造を有するケイ素系活物質粒体が得られる場合においてそのケイ素系活物質粒体のイオン取り込み能力を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係るケイ素系活物質前駆体粒体の製造装置の概略図である。
【
図2】実施例1に係る負極の2,000倍のSEM像である。
【
図3】実施例1に係る負極の5,000倍のSEM像である。
【
図4】実施例1に係る負極の20,000倍のSEM像である。
【
図5】実施例1に係る負極の50,000倍のSEM像である。
【
図6】比較例1に係る負極の2,000倍のSEM像である。
【
図7】比較例1に係る負極の5,000倍のSEM像である。
【
図8】比較例1に係る負極の20,000倍のSEM像である。
【
図9】比較例1に係る負極の50,000倍のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態に係るケイ素系活物質前駆体粒体は、粉砕されてケイ素系活物質粒子となるものであって、層構造(多層構造)を有する。このようなケイ素系活物質前駆体粒子としては、例えば、リチウムイオン二次電池の負極の活物質として用いられるケイ素(Si)や、酸化ケイ素(SiOx)、リチウム(Li)等のアルカリ金属元素やマグネシウム(Mg)等のアルカリ土類金属元素を含む金属元素含有酸化ケイ素、ケイ素合金等の前駆体粒子である。また、本実施の形態に係るケイ素系活物質前駆体粒体は、規定粒径に至るまで粉砕されることによって電極(特に負極)形成用のケイ素系活物質粒子とされる。なお、ケイ素系活物質粒体において層の厚みは1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましく、0.2μm以下であることがさらに好ましく、0.1μm以下であることがさらに好ましく、0.05μm以下であることがさらに好ましく、0.02μm以下であることが特に好ましい。また、電池の初期効率および容量の過小化を防ぐ観点から、層の厚みは0.01μm以上であることが好ましい。
【0014】
ところで、このようなケイ素系活物質前駆体粒子は、例えば、基体に積層膜を形成した後、その積層膜を基体から掻き取ることによって得ることができるが、製造費用抑制等の観点から
図1に示されるような蒸着装置100を用いて製造されることが好ましい。以下、
図1に示される蒸着装置100について詳述する。
【0015】
蒸着装置100は、
図1に示されるように、主に、ルツボ110、ヒータ120、蒸着ドラム130、スクレーパ141、粒体ガイド143、チャンバ150、原料供給ホッパ160、原料導入管170、回収容器180、第1バルブVL1および第2バルブVL2から構成されている。
【0016】
ルツボ110は、
図1に示されるように天壁の中央部分が開口する耐熱容器であって、チャンバ150に設置されている。また、このルツボ110の天壁の周囲部の一箇所に貫通孔(図示せず)が形成されており、この貫通孔には原料導入管170が挿通されている。すなわち、原料供給ホッパ160内の原料は、原料導入管170を通ってルツボ110に供給されている。また、このルツボ110の天壁の上側には、ガスガイドGgが配設されている。このガスガイドGgは、ルツボ110で発生する原料ガスを蒸着ドラム130に導く部材であって、
図1に示される通り、天壁の中央部分を囲むように天壁の上面に設置されている。
【0017】
ヒータ120は、ルツボ110を高温加熱するためのものであって、ルツボ110の外周を取り込むように配設されている。
【0018】
蒸着ドラム130は、例えば、円筒形状の水平ドラムであって、
図1に示されるように、ルツボ110の天壁の開口OPの上方に配設されており、その下部がガスガイドGgに囲まれている。そして、この蒸着ドラム130は、図示されない駆動機構により一方向に回転駆動される。なお、この蒸着ドラム130には、外周面を一定温度に保つための温度調節器(図示せず)が設けられている。この温度調節器は、外部から供給される冷却媒体により、蒸着ドラム130の外周面温度を、蒸着源ガスの蒸着に適した温度に冷却する。また、蒸着ドラム130の外周面温度は、蒸着ドラム上に残った析出物の上に堆積する析出物の結晶性に影響を与え得る。この温度が低すぎると、析出物の組織構造が疎になりすぎるおそれがあり、反対に高すぎると不均化反応による結晶成長が進行するおそれがある。原料ガスがSiOガスである場合、この温度は、900℃以下であることが好ましく、150℃以上800℃以下の範囲内であることがより好ましく、150℃以上700℃以下の範囲内であることが特に好ましい。また、この蒸着ドラム130の回転速度や外周面温度を調節することによってケイ素系活物質前駆体粒体を構成する層の厚みを制御することができる。
【0019】
スクレーパ141は、蒸着ドラム上に形成される積層膜を蒸着ドラム130から掻き取る役目を担う部材であって、
図1に示されるように蒸着ドラム130の近傍に上下移動自在に配設されている。このスクレーパ141は、積層膜形成中、上方で待機状態とされており、積層膜形成完了時に下方に移動されて積層膜を掻き取る。なお、掻き落とされた積層膜片(ケイ素系活物質前駆体粒子)は、粒体ガイド143に落下する。また、このスクレーパ141の材質はケイ素系活物質粒子の不純物汚染に影響する。その影響を抑制する観点から、スクレーパ141の材質はステンレス鋼やセラミックスであることが好ましく、セラミックスであることが特に好ましい。また、このスクレーパ141は、蒸着ドラム130の外周面に接触させないのがよい。回収されるケイ素系活物質前駆体粒子に、蒸着ドラム130とスクレーパ141との直接接触により生じ得る不純物汚染が混入することを防止することができるからである。
【0020】
粒体ガイド143は、例えば、振動式の搬送部材であって、
図1に示されるように、蒸着ドラムの近傍からチャンバ150の回収部152に向かうに従って下方に傾斜するように配設されており、その上方に配設されるスクレーパ141により掻き落とされる積層膜片を受けてチャンバ150の回収部152へと送る。
【0021】
チャンバ150は、
図1に示されるように、主に、チャンバ本体部151、回収部152および排気管153から形成されている。チャンバ本体部151は、
図1に示されるように内部に析出室RMを有する箱状部位であって、ルツボ110、ヒータ120、蒸着ドラム130、スクレーパ141および粒体ガイド143を収容している。回収部152は、
図1に示されるように、チャンバ本体部151の側壁から外方に突出する部位であって、チャンバ本体部151の析出室RMに連通する空間を有している。なお、上述の通り、この回収部152には、粒体ガイド143の先端部位が位置している。
【0022】
原料供給ホッパ160は、原料供給源であって、
図1に示されるように出口が原料導入管170に接続されている。すなわち、原料供給ホッパ160に投入された原料は、適当なタイミングで原料導入管170を介してルツボ110に供給される。なお、ルツボ110に供給された原料は、溶湯Srとなった後に気化して原料ガスとなる。
【0023】
原料導入管170は、原料供給ホッパ160に投入されている固体の原料をルツボ110に供給するための丸孔状のノズルであって、ルツボ110の天板部の中央部分において上方に口を向けるように配設されている。
【0024】
回収容器180は、第1バルブVL1および第2バルブVL2を通過してきた積層膜片を回収するための容器である。
【0025】
第1バルブVL1および第2バルブVL2は、開閉により回収容器180への積層膜片の回収量を調整するためのものであって、チャンバ150の回収部152と回収容器180とを繋ぐ回収管190に設けられている。
【0026】
以下、上述の蒸着装置100を用いて、リチウムイオン二次電池用負極材に利用される酸化ケイ素粉末や金属元素含有酸化ケイ素粉末を製造する場合について説明する。
【0027】
原料供給ホッパ160から原料導入管170を介してルツボ110に原料を投入する。なお、ここで、酸化ケイ素粒体を製造する場合、原料としてSiとSiO2との混合粉末が用いられる。なお、この混合粒体は、所定温度まで加熱されることによって原料ガスであるSiOガスを発生する。また、金属元素含有酸化ケイ素粉末を製造する場合は、原料としてSiとLi2Si2O5等の珪酸塩等との混合粒体や、炭酸リチウム(Li2CO3)等の炭酸塩、二酸化ケイ素(SiO2)およびケイ素(Si)との混合粉体等が用いられる。かかる場合、混合粒体は、所定温度まで加熱されることによって原料ガスであるLi等の金属元素入りのSiOガスを発生する。なお、金属元素としては、Li以外にNa等のアルカリ金属、Mg、Ca等のアルカリ土類金属といった、SiOを還元し酸素を安定化することのできる元素であってもよい。
【0028】
ルツボ110に原料が投入されたら析出室RM内を減圧しながら、ルツボ110をヒータ120によって加熱する。なお、析出室RM内の圧力は、高すぎると原料からSiOガスが発生する反応が起こりにくくなる。このため、析出室RM内の圧力は、100Pa以下であることが好ましく、750Pa以下であることがより好ましく、20Pa以下であることが特に好ましい。また、析出室RM内の温度はSiOの反応速度に影響し、同温度が低すぎると反応速度が遅くなり、同温度が高すぎると原料の融解による副反応進行や、エネルギー効率低下などが懸念される。また、同温度がルツボ110の損傷も懸念される。この観点から、析出室RM内の温度は、1000℃以上1600℃以下の範囲内であることが好ましく、1100℃以上1500℃以下の範囲であることがより好ましく、1100℃以上1400℃以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0029】
上段落に記載の通りに原料を減圧加熱することにより、ルツボ110内の原料から原料ガスが発生し、その原料ガスがガスガイドGgを通って蒸着ドラム130に供給される。そして、この際、蒸着ドラム130が、駆動源によって回転駆動されている。なお、蒸着ドラム130の外周面の温度は、析出室RM内の温度より低く設定されている。より詳しくは、同温度は、原料ガスの凝縮温度より低く設定されている。この設定により、ルツボ110から生じる原料ガスが、回転する蒸着ドラム130の外周面に蒸着し析出して堆積する。そして、ここでは、スクレーパ141を上方で待機状態とさせたまま、蒸着ドラム130を複数回回転させて蒸着ドラム130上に積層膜を形成する。その後、蒸着ドラム130の回転数が規定数まで達したら、スクレーパ141を下方に移動させて、スクレーパ141により蒸着ドラム130から積層膜を掻き取る。なお、掻き取られた積層膜の欠片は蒸着ドラム130の外周面に沿って粒体ガイド143に落下していく。
【0030】
本実施の形態の蒸着装置100では、上述のようにして高品質なケイ素系活物質前駆体粒体が製造される。
【0031】
以下、本発明をより詳細に説明するために実施例および比較例を示すが、本発明がこの実施例には限定されることはない。
【実施例1】
【0032】
1.ケイ素系活物質粉末の調製
図1に示す蒸着装置100のるつぼ110に一酸化ケイ素(SiO)ガス発生原料としてケイ素(Si)の粉末および二酸化ケイ素(SiO
2)の粉末の混合粉末(Si:O=1:1となるようにケイ素の粉末と二酸化ケイ素の粉末とを混合したもの)を装填し、析出室RMを1Paに減圧すると共にるつぼ110を1300℃に加熱して、一酸化ケイ素ガスを発生させた。一方、蒸着ドラム130の外周面温度が150℃となるように温度管理しながら蒸着ドラム130を回転させて、蒸着ドラム130の外周面で一酸化ケイ素ガスを凝縮・析出させた。このとき、蒸着ドラム130が一回転する間に蒸着ドラム130の外周面に一酸化ケイ素が0.18μmの厚みで堆積するように蒸着ドラム130の回転速度を調節した。そして、蒸着ドラム130を50回回転させた後に、蒸着ドラム130にスクレーパ141を近づけ、蒸着ドラム130の外周面に堆積(積層)した一酸化ケイ素薄膜を削り取って、一酸化ケイ素粉末を得た。その後、この一酸化ケイ素粉末をアルゴン雰囲気下700℃で熱処理し、ケイ素系活物質前駆体粉末を得た。そして、このケイ素系活物質前駆体粉末を粉砕機にかけて細粒化した後、そのケイ素系活物質前駆体粉末を目開き20μmの篩にかけて篩を通過したものをケイ素系活物質粉末とした。
【0033】
2.ケイ素系活物質前駆体粉末の粉砕特性測定
ケイ素系活物質前駆体粉末を、目開き20μmの篩の上に目開き45μmの篩を重ね合わせて形成した二重篩にかけ、目開き45μmの篩を通過したが目開き20μmの篩を通過しなかったもの(すなわち、目開き20μmの篩上に残ったもの)を粉砕特性測定用の粉砕試料とした。そして、1Lの嵩の粉砕試料を日本コークス製乾式アトライターMA1D(乾式アトライター)に充填し、同装置を5分間運転させた。なお、この際、粉砕用のボールとして直径5mmのジルコニア球体を用い、アトライターの回転数を300rpmとした。次いで、アトライターで5分間粉砕した粉砕試料の粒度分布を、Malvern社製のMastersizer2000(レーザー回折式の粒度分布測定装置)を用いて測定し、体積基準のメディアン径D50(以下「平均粒径」という。)を求めた。その測定結果を表1に示す。なお、粒度分布測定時において溶媒としてイソプロピルアルコールを使用した。
【0034】
3.ケイ素系活物質粉末の電極特性測定
(1)負極の作製とSEM観察
ケイ素系活物質粉末(SiO粉末)、ケッチェンブラックおよび非水溶剤系バインダーであるポリイミド前駆体を85:5:10の質量比で混合し、その混合物にN-メチルピロリドンを加えた後にその混合物を混練してスラリーを調製した。そして、そのスラリーを厚さ40μmの銅箔上に塗布し、その塗膜を80℃で15分間予備乾燥した後、その乾燥塗膜付き銅箔を直径11mmに打ち抜いた後、それを減圧下350℃で加熱して負極を作製した。なお、乾燥塗膜付き銅箔を350℃で加熱することによって、乾燥塗膜中のポリイミド前駆体はイミド化している。そして、この負極を走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮像したところ、
図2~
図5に示される像が得られた。これらの像からケイ素系活物質粉末中のケイ素系活物質粒子が層構造を有すること、各層の厚みが0.2μm以下であることが確認された。
【0035】
なお、層の厚みは次の通りして決定した。先ず、1粒のケイ素系活物質粒体の断面の50,000倍のSEM像において縞模様(SEM像における縞状の濃淡部位)として表れている複数の層のうち任意の10層に対してそれらの層を垂直に跨ぐ線分を引き、その線分の長さを10で除したものをそのケイ素系活物質粒体の層の厚みとした。そして、その作業を10個のケイ素系活物質粒体の断面の50,000倍のSEM像について行い、10個のケイ素系活物質粒体における層の厚みを平均したものを最終的なケイ素系活物質粒体の層の厚みとした。
【0036】
(2)コインセル(リチウムイオン二次電池)の作製と電池物性測定
対極としてリチウム箔を用い、電解質として「六フッ化リンチリウム(LiPF6)が1モル/Lの濃度になるように、エチレンカーボネイトおよびジエチルカーボネイトを1:1の体積比で混合した溶液に六フッ化リンチリウムを溶解させた溶液」を用い、セパレータとして厚さ20μmのポリエチレン製多孔質フィルムを用いてコインセルを作製した。
【0037】
そして、株式会社エレクトロフィールド製の二次電池充放電試験装置を用いてこのコインセルの充放電試験を行った。なお、充放電試験における試験条件は表2に示される通りであった。この充放電試験により、初回充電容量、初回放電容量、初回充電容量に対する初回放電容量の比(初回クーロン効率)、初回の放電容量に対する3回目の放電容量の比(出力特性)を求めた。測定結果は表1に示される通りであった。なお、ここにいう「出力特性」とは、「初回の0.1Cで充放電したときの放電容量」に対する「3サイクル目の0.5Cで充放電したときの放電容量」の割合をいう。
【実施例2】
【0038】
一酸化ケイ素の堆積厚みが0.98μmとなるように蒸着ドラム130の回転速度を調節した以外は実施例1と同様にケイ素系活物質粉末を調製すると共に、ケイ素系活物質前駆体粉末の粉砕特性測定およびケイ素系活物質粉末の電極特性測定を実施した。その測定結果は表1に示される通りであった。また、本実施例でも、実施例1と同様にして負極を作製し、その負極を走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮像したが、その像からこのケイ素系活物質粉末中のケイ素系活物質粒子が層構造を有すること、各層の厚みが1μm以下であることが確認された。
【実施例3】
【0039】
一酸化ケイ素の堆積厚みが0.48μmとなるように蒸着ドラム130の回転速度を調節した以外は実施例1と同様にケイ素系活物質粉末を調製すると共に、ケイ素系活物質前駆体粉末の粉砕特性測定およびケイ素系活物質粉末の電極特性測定を実施した。その測定結果は表1に示される通りであった。また、本実施例でも、実施例1と同様にして負極を作製し、その負極を走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮像したが、その像からこのケイ素系活物質粉末中のケイ素系活物質粒子が層構造を有すること、各層の厚みが0.5μm以下であることが確認された。
【実施例4】
【0040】
一酸化ケイ素の堆積厚みが0.08μmとなるように蒸着ドラム130の回転速度を調節した以外は実施例1と同様にケイ素系活物質粉末を調製すると共に、ケイ素系活物質前駆体粉末の粉砕特性測定およびケイ素系活物質粉末の電極特性測定を実施した。その測定結果は表1に示される通りであった。また、本実施例でも、実施例1と同様にして負極を作製し、その負極を走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮像したが、その像からこのケイ素系活物質粉末中のケイ素系活物質粒子が層構造を有すること、各層の厚みが0.1μm以下であることが確認された。
【実施例5】
【0041】
一酸化ケイ素の堆積厚みが0.05μm程度となるように蒸着ドラム130の回転速度を調節した以外は実施例1と同様にケイ素系活物質粉末を調製すると共に、ケイ素系活物質前駆体粉末の粉砕特性測定およびケイ素系活物質粉末の電極特性測定を実施した。その測定結果は表1に示される通りであった。また、本実施例でも、実施例1と同様にして負極を作製し、その負極を走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮像したが、その像からこのケイ素系活物質粉末中のケイ素系活物質粒子が層構造を有すること、各層の厚みが0.05μm程度であることが確認された。
【実施例6】
【0042】
一酸化ケイ素の堆積厚みが0.02μm程度となるように蒸着ドラム130の回転速度を調節した以外は実施例1と同様にケイ素系活物質粉末を調製すると共に、ケイ素系活物質前駆体粉末の粉砕特性測定およびケイ素系活物質粉末の電極特性測定を実施した。その測定結果は表1に示される通りであった。また、本実施例でも、実施例1と同様にして負極を作製し、その負極を走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮像したが、その像からこのケイ素系活物質粉末中のケイ素系活物質粒子が層構造を有すること、各層の厚みが0.02μm程度であることが確認された。
【実施例7】
【0043】
一酸化ケイ素の堆積厚みが0.01μm程度となるように蒸着ドラム130の回転速度を調節した以外は実施例1と同様にケイ素系活物質粉末を調製すると共に、ケイ素系活物質前駆体粉末の粉砕特性測定およびケイ素系活物質粉末の電極特性測定を実施した。その測定結果は表1に示される通りであった。また、本実施例でも、実施例1と同様にして負極を作製し、その負極を走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮像したが、その像からこのケイ素系活物質粉末中のケイ素系活物質粒子が層構造を有すること、各層の厚みが0.01μm程度であることが確認された。
【実施例8】
【0044】
一酸化ケイ素(SiO)ガス発生原料としてケイ素(Si)の粉末および二酸化ケイ素(SiO2)の粉末の混合粉末を用いる代わりにケイ素(Si)の粉末およびケイ酸リチウム(SiO2/Li2O=2)を用いた以外は実施例1と同様にケイ素系活物質粉末を調製すると共に、ケイ素系活物質前駆体粉末の粉砕特性測定およびケイ素系活物質粉末の電極特性測定を実施した。その測定結果は表1に示される通りであった。なお、本実施例において得られる一酸化ケイ素薄膜にはリチウムが含有されている。また、本実施例でも、実施例1と同様にして負極を作製し、その負極を走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮像したが、その像からこのケイ素系活物質粉末中のケイ素系活物質粒子が層構造を有すること、各層の厚みが0.2μm以下であることが確認された。
【実施例9】
【0045】
一酸化ケイ素の堆積厚みが0.98μmとなるように蒸着ドラム130の回転速度を調節した以外は実施例8と同様にケイ素系活物質粉末を調製すると共に、実施例1と同様にケイ素系活物質前駆体粉末の粉砕特性測定およびケイ素系活物質粉末の電極特性測定を実施した。その測定結果は表1に示される通りであった。また、本実施例でも、実施例1と同様にして負極を作製し、その負極を走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮像したが、その像からこのケイ素系活物質粉末中のケイ素系活物質粒子が層構造を有すること、各層の厚みが1μm以下であることが確認された。
【実施例10】
【0046】
一酸化ケイ素の堆積厚みが0.48μmとなるように蒸着ドラム130の回転速度を調節した以外は実施例8と同様にケイ素系活物質粉末を調製すると共に、実施例1と同様にケイ素系活物質前駆体粉末の粉砕特性測定およびケイ素系活物質粉末の電極特性測定を実施した。その測定結果は表1に示される通りであった。また、本実施例でも、実施例1と同様にして負極を作製し、その負極を走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮像したが、その像からこのケイ素系活物質粉末中のケイ素系活物質粒子が層構造を有すること、各層の厚みが0.5μm以下であることが確認された。
【実施例11】
【0047】
一酸化ケイ素の堆積厚みが0.08μmとなるように蒸着ドラム130の回転速度を調節した以外は実施例8と同様にケイ素系活物質粉末を調製すると共に、実施例1と同様にケイ素系活物質前駆体粉末の粉砕特性測定およびケイ素系活物質粉末の電極特性測定を実施した。その測定結果は表1に示される通りであった。また、本実施例でも、実施例1と同様にして負極を作製し、その負極を走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮像したが、その像からこのケイ素系活物質粉末中のケイ素系活物質粒子が層構造を有すること、各層の厚みが0.1μm以下であることが確認された。
【実施例12】
【0048】
一酸化ケイ素の堆積厚みが0.05μm程度となるように蒸着ドラム130の回転速度を調節した以外は実施例8と同様にケイ素系活物質粉末を調製すると共に、実施例1と同様にケイ素系活物質前駆体粉末の粉砕特性測定およびケイ素系活物質粉末の電極特性測定を実施した。その測定結果は表1に示される通りであった。また、本実施例でも、実施例1と同様にして負極を作製し、その負極を走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮像したが、その像からこのケイ素系活物質粉末中のケイ素系活物質粒子が層構造を有すること、各層の厚みが0.05μm程度であることが確認された。
【実施例13】
【0049】
一酸化ケイ素の堆積厚みが0.02μm程度となるように蒸着ドラム130の回転速度を調節した以外は実施例8と同様にケイ素系活物質粉末を調製すると共に、実施例1と同様にケイ素系活物質前駆体粉末の粉砕特性測定およびケイ素系活物質粉末の電極特性測定を実施した。その測定結果は表1に示される通りであった。また、本実施例でも、実施例1と同様にして負極を作製し、その負極を走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮像したが、その像からこのケイ素系活物質粉末中のケイ素系活物質粒子が層構造を有すること、各層の厚みが0.02μm程度であることが確認された。
【実施例14】
【0050】
一酸化ケイ素の堆積厚みが0.01μm程度となるように蒸着ドラム130の回転速度を調節した以外は実施例8と同様にケイ素系活物質粉末を調製すると共に、実施例1と同様にケイ素系活物質前駆体粉末の粉砕特性測定およびケイ素系活物質粉末の電極特性測定を実施した。その測定結果は表1に示される通りであった。また、本実施例でも、実施例1と同様にして負極を作製し、その負極を走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮像したが、その像からこのケイ素系活物質粉末中のケイ素系活物質粒子が層構造を有すること、各層の厚みが0.01μm程度であることが確認された。
【0051】
(比較例1)
蒸着ドラム130を回転させずに一酸化ケイ素ガスを凝縮・析出させて得られた一酸化ケイ素薄膜をスクレーパ141で削り取って一酸化ケイ素粉末を得、その一酸化ケイ素粉末を乾式アトライターにより平均粒径D50が5μmになるまで粉砕してケイ素系活物質粒子を得た以外は実施例1と同様にケイ素系活物質粉末を調製すると共に、ケイ素系活物質前駆体粉末の粉砕特性測定およびケイ素系活物質粉末の電極特性測定を実施した。その測定結果は表1に示される通りであった。また、本比較例でも、実施例1と同様にして負極を作製し、その負極を走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮像した。その撮像結果を
図6~
図9に示す。特に
図8および
図9に示される像から、このケイ素系活物質粉末中のケイ素系活物質粒子は層構造を有さないことが確認された。
【0052】
(比較例2)
蒸着ドラム130を回転させずに一酸化ケイ素ガスを凝縮・析出させて得られた一酸化ケイ素薄膜をスクレーパ141で削り取って一酸化ケイ素粉末を得、その一酸化ケイ素粉末を乾式アトライターにより平均粒径D50が5μmになるまで粉砕してケイ素系活物質粒子を得た以外は実施例8と同様にケイ素系活物質粉末を調製すると共に、ケイ素系活物質前駆体粉末の粉砕特性測定およびケイ素系活物質粉末の電極特性測定を実施した。その測定結果は表1に示される通りであった。なお、本比較例において得られる一酸化ケイ素薄膜にはリチウムが含有されている。また、本比較例でも、実施例1と同様にして負極を作製し、その負極を走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮像したが、その像からこのケイ素系活物質粉末中のケイ素系活物質粒子は層構造を有さないことが確認された。
【0053】
【0054】
【0055】
(まとめ)
表1から明らかなように、実施例1~7に係るケイ素系活物質前駆体粉末はいずれも、比較例1に係るケイ素系活物質前駆体粉末よりも5分粉砕後の粉砕試料の平均粒径が小さく粉砕性に優れることが明らかとなった。また、実施例1~7に係るケイ素系活物質前駆体粉末において、層の厚みが薄いほど、その粉砕性が高くなることが明らかとなった。さらに、実施例1~7に係るコインセルはいずれも、比較例1に係るコイルセルよりも出力特性に優れることが明らかとなった。また、実施例1~7に係るコインセルにおいて、負極活物質を構成するケイ素系活物質粒体中の層の厚みが薄いほど、その出力特性が向上することが明らかとなった。
【0056】
また、表1から明らかなように、実施例8~14に係るケイ素系活物質前駆体粉末はいずれも、比較例2に係るケイ素系活物質前駆体粉末よりも5分粉砕後の粉砕試料の平均粒径が小さく粉砕性に優れることが明らかとなった。また、実施例8~14に係るケイ素系活物質前駆体粉末において、層の厚みが薄いほど、その粉砕性が高くなることが明らかとなった。さらに、実施例8~14に係るコインセルはいずれも、比較例2に係るコイルセルよりも出力特性に優れることが明らかとなった。また、実施例8~14に係るコインセルにおいて、負極活物質を構成するケイ素系活物質粒体中の層の厚みが薄いほど、その出力特性が向上することが明らかとなった。
【符号の説明】
【0057】
100 蒸着装置
110 ルツボ
120 ヒータ
130 蒸着ドラム
141 スクレーパ
143 粒体ガイド
150 チャンバ
151 チャンバ本体部
152 回収部
153 排気管
160 原料供給ホッパ
170 原料導入管
180 回収容器
190 回収管
Gg ガスガイド
OP 開口
RM 析出室
Sr 溶湯
VL1 第1バルブ
VL2 第2バルブ