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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】積層フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20240702BHJP
   B32B 7/06 20190101ALI20240702BHJP
【FI】
B32B27/30 D
B32B7/06
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022540160
(86)(22)【出願日】2021-07-14
(86)【国際出願番号】 JP2021026511
(87)【国際公開番号】W WO2022024769
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2020129772
(32)【優先日】2020-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】永岡 洪太
(72)【発明者】
【氏名】安本 憲朗
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 敬司
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-169935(JP,A)
【文献】国際公開第2019/059369(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/010013(WO,A1)
【文献】特開2018-43361(JP,A)
【文献】特開2010-135349(JP,A)
【文献】国際公開第2011/142453(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0122141(US,A1)
【文献】特表2021-503393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 7/06
B32B 27/30
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデン系樹脂を含むB層の一方の面に、JIS K7133:1999に基づいて測定される120℃下で5分静置した後の寸法変化率がMD方向5%以下、TD方向3%以下である熱可塑性樹脂フィルムで構成されるA層が剥離可能な状態で積層されており、前記A層を剥離した後の、前記B層の前記A層と接触していた側の表面の4.8mm×3.7mmの範囲について、ISO25178-604に基づいて非接触型干渉顕微鏡で測定される算術平均高さSa1が80nm以下であり、前記A層を剥離した後の前記B層に対して、JIS K7127:1999(試験片タイプ2)に基づいて引張試験を行ったときの25℃における引張破壊呼びひずみが、MD方向、TD方向共に100%以上である積層フィルム。
【請求項2】
前記A層を剥離した後の、前記B層の前記A層と接触していた側の表面の4.8mm×3.7mmの範囲について、ISO25178-604に基づいて非接触型干渉顕微鏡で測定される算術平均高さSa1と、前記A層を剥離した後の、前記B層の前記A層と接触していた側の表面の0.3mm×0.3mmの範囲について、ISO25178-607に基づいてレーザー顕微鏡で測定される算術平均高さSa2とが、|Sa1-Sa2|≦30nmを満足する請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記B層は、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロペンとの共重合体及び/又はポリフッ化ビニリデンを含有している請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記B層は、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロペンとの共重合体及び/又はポリフッ化ビニリデンを含有しているフッ化ビニリデン系樹脂と、メタクリル酸エステル系樹脂との合計100質量部に対して、前記フッ化ビニリデン系樹脂を51質量部以上、前記メタクリル酸エステル系樹脂を49質量部以下含有している、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記B層の厚みは、5μm以上200μm以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記A層に含まれる熱可塑性樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、及びポリアミドから選択される一種又は二種以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項7】
前記A層が二軸延伸フィルムである請求項1~6のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項8】
前記A層を剥離した後の、前記A層の前記B層と接触していた側の表面の4.8mm×3.7mmの範囲について、ISO25178-604に基づいて非接触型干渉顕微鏡で測定される算術平均高さSa3が80nm以下である請求項1~7のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項9】
前記A層の前記B層と接触する側の面に、シリコーン系離型剤が塗布されている請求項1~8のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項10】
前記A層の厚みは、5μm以上200μm以下である請求項1~9のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項11】
B層のA層が積層されている面と反対側の面に、少なくともメタクリル酸エステル系樹脂を含有する樹脂成分を含むC層が積層されており、A層を剥離した後のB層とC層で構成される2層積層体に対して、JIS K7127:1999(試験片タイプ2)に基づいて引張試験を行ったときの25℃における引張破壊呼びひずみが、MD方向、TD方向共に100%以上である請求項1~10のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項12】
前記C層の樹脂成分は、フッ化ビニリデン系樹脂を含有している、請求項11に記載の積層フィルム。
【請求項13】
前記C層は、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロペンとの共重合体及び/又はポリフッ化ビニリデンを含有しているフッ化ビニリデン系樹脂と、メタクリル酸エステル系樹脂との合計100質量部に対して、前記フッ化ビニリデン系樹脂を50質量部以下、前記メタクリル酸エステル系樹脂を50質量部以上含有している、請求項11又は12に記載の積層フィルム。
【請求項14】
前記C層の厚みは、5μm以上200μm以下である請求項11~13のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項15】
前記C層は、C層中の全成分の合計100質量部の内、紫外線吸収剤が0.1~10質量部である請求項11~14のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項16】
前記紫外線吸収剤がトリアジン系化合物及び/又はベンゾトリアゾール系化合物である請求項15に記載の積層フィルム。
【請求項17】
前記B層用成形原料をTダイからフィルム状に溶融押出成形する工程と、
溶融押出成形されたフィルムをキャスティングロールとタッチロール上の前記A層との間に挟み、溶融押出成形されたフィルムを冷却固化すると同時に、前記A層を、溶融押出成形されたフィルムに剥離可能に積層する工程と、
を含む請求項1~10のいずれか1項に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項18】
前記B層用成形原料と前記C層用成形原料をTダイからB層及びC層で構成される二層フィルム状に溶融共押出成形する工程と、
溶融共押出成形された二層フィルムを、前記C層がキャスティングロールと接するように、キャスティングロールとタッチロール上の前記A層との間に挟み、溶融共押出成形された二層フィルムを冷却固化すると同時に、前記A層を、前記B層に剥離可能に積層する工程と、
を含む請求項11~16のいずれか1項に記載の積層フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ化ビニリデン系樹脂を含む層を備えた積層フィルム及びその製造方法に関する。とりわけ、本発明はフッ化ビニリデン系樹脂を含む層を備えた積層フィルムの中でも自動車加飾分野に適用可能な積層フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化ビニリデン系樹脂は、その耐候性、耐薬品性及び防汚性を生かし、屋外で使用される看板やモビリティー用のラッピングフィルム、インフラ分野における補修フィルムなどの表層材として広く用いられてきた。近年では、フッ化ビニリデン系樹脂は、自動車の内装若しくは外装、又は、電化製品部材等に用いられる加飾フィルムの表層材にも用いられており、種々の観点から研究開発が進んでいる。
【0003】
特許文献1(特許第5626555号公報)には、フッ素系樹脂が有する耐候性を維持することができ、屋外で長時間曝露してもフッ素系樹脂層が剥離することのない良好な外観を有するフッ素系樹脂積層フィルムを提供することを課題とする発明が記載されている。具体的には、当該文献には、アクリル樹脂層にフッ素系樹脂層が積層されたフッ素系樹脂積層フィルムであって、フッ素系樹脂層を形成するフッ素系樹脂がヘキサフルオロプロピレン単位5~20質量%を含有するものであるフッ素系樹脂積層フィルムが記載されている。当該文献には、フッ素系樹脂層はポリフッ化ビニリデンを含有することが記載されている。
【0004】
特許文献2(特許第4580066号公報)には、可塑剤を含む他の樹脂からなる成形体との粘着が起こり難く、耐薬品性を有する表面層を有し、外力で容易に割れ等を生じ難く、高温環境下で表面層に微少な皺が発生し難く、耐熱性を有するフッ素系樹脂積層体及びそれからなる成形体、特に自動車等車輌の内外装材料に好適なフッ素系樹脂積層体及びそれからなる成形体を提供することを課題とする発明が記載されている。当該文献には、特定割合のフッ化ビニリデン系樹脂及びアクリル系樹脂からなる表層と特定物性を有するアクリル系樹脂からなる層との積層体が上記課題の解決に有効であることが記載されている。
【0005】
具体的には、特許文献2には、フッ化ビニリデン系樹脂30~70重量部、アクリル系樹脂30~70重量部(両者の合計は100重量部とする)の樹脂組成物からなる表面層である第1層、ASTM D638による破断伸度20%以上、且つASTM D5026による粘弾性測定から求められるtanδのピーク値が100~150℃であるアクリル系樹脂からなる第2層がこの順序に配置された少なくとも2層構成を有するフッ素系樹脂積層体が記載されている。当該文献には、第2層の第1層と反対側の面に加飾層を有するフッ素系樹脂積層体も記載されている。
【0006】
特許文献3(特開昭62-138533号公報)には、透明性にすぐれた、しかも工業的生産性が良好なポリフッ化ビニリデン系フィルムの製造方法を提供することを目的とした発明が記載されている。当該製造方法は、フッ化ビニリデン系重合体とアクリル系重合体とを溶解しうる溶剤中に、これらの両系重合体を加熱溶解させて塗工液となす工程と、次いでこの塗工液を流延法(キャスティング法)によって成膜せしめる工程と、その後、これを加熱乾燥せしめる工程とを含む。
【0007】
特許文献3によれば、流延法は、ポリマー溶液を、平坦で全く均質な基体上に流延したのちに溶剤を除去して薄いフィルムを得る方法である。従って、得られるフィルムは、厚みの均一性が最もすぐれるというメリットに加え、平滑性にも光沢性にもすぐれるというメリットを有するものである。
【0008】
特許文献3によれば、流延成膜された塗膜(フィルム)はこれを加熱乾燥せしめることによって目的とする透明性のすぐれたポリフッ化ビニリデン系フィルムが得られるが、この際の加熱乾燥温度としては120℃以上、好ましくは130~160℃なる範囲の温度が適当である。120℃よりも低い温度による場合には、得られるフィルムが白化してしまうので好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5626555号公報
【文献】特許第4580066号公報
【文献】特開昭62-138533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、自動車産業分野においてはEV化や自動運転技術の普及など、目新しい動向が目立つ。それに伴い、自動車加飾分野においても車のコンセプトを表現する為、意匠の多様化、複雑化が進む傾向が表れ始めている。このような自動車加飾分野のトレンドに伴い、加飾フィルムの意匠によっては表層材の最表面のうねりをより低減することが求められる場合が生じてきた。例えば、蒸着フィルムをはじめとする金属調加飾フィルムは、表層材の最表面がうねっていると表面の像が歪んで見えたりすることがあるため、最表面のうねりの少ない表層材が望ましい。
【0011】
この点、フッ化ビニリデン系樹脂を含むフィルムは上述したように耐候性、耐薬品性及び防汚性といった優れた特性を有するものの、製膜直後から室温でも収縮し、収縮の不均一性からフィルムがうねりやすいという問題があった。特許文献3に記載の発明によれば、平坦で全く均質な基体上に流延することで、平滑性にも光沢性にもすぐれるフィルムが得られるとされているものの、平滑性の具体的な程度については議論されていない。また、流延法を用いて得られたフィルムは引張物性が低い傾向にある。このため、流延法で作製されたフィルムを用いて加飾フィルムを製造すると、被着体形状に延伸加工する際にフィルムが破れ、破断しやすいという問題があった。この理由は必ずしも明確ではないが、流延法を採用する場合、ポリマーを溶剤へ溶解する必要があるため、溶剤へ溶解しやすいようにポリマーの物性を調整する必要があるからと考えられる。更には、溶剤が不純物としてフィルム中に残り、可塑剤として作用することも考えられる。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みて創作されたものであり、一実施形態において、引張物性に優れ、うねりの少ないフッ化ビニリデン系樹脂を含む層を備えた積層フィルム及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を達成するべく種々の研究を行った結果、溶融押出成形したフッ化ビニリデン系樹脂を含む層を、加熱後の寸法変化の少ない熱可塑性樹脂フィルムに剥離可能な状態で積層させることが上記課題の解決に有利であることを見出し、以下に例示される本発明に至った。
【0014】
[1]
フッ化ビニリデン系樹脂を含むB層の一方の面に、JIS K7133:1999に基づいて測定される120℃下で5分静置した後の寸法変化率がMD方向5%以下、TD方向3%以下である熱可塑性樹脂フィルムで構成されるA層が剥離可能な状態で積層されており、前記A層を剥離した後の、前記B層の前記A層と接触していた側の表面の4.8mm×3.7mmの範囲について、ISO25178-604に基づいて非接触型干渉顕微鏡で測定される算術平均高さSa1が80nm以下であり、前記A層を剥離した後の前記B層に対して、JIS K7127:1999(試験片タイプ2)に基づいて引張試験を行ったときの25℃における引張破壊呼びひずみが、MD方向、TD方向共に100%以上である積層フィルム。
[2]
前記A層を剥離した後の、前記B層の前記A層と接触していた側の表面の4.8mm×3.7mmの範囲について、ISO25178-604に基づいて非接触型干渉顕微鏡で測定される算術平均高さSa1と、前記A層を剥離した後の、前記B層の前記A層と接触していた側の表面の0.3mm×0.3mmの範囲について、ISO25178-607に基づいてレーザー顕微鏡で測定される算術平均高さSa2とが、|Sa1-Sa2|≦30nmを満足する[1]に記載の積層フィルム。
[3]
前記B層は、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロペンとの共重合体及び/又はポリフッ化ビニリデンを含有している[1]又は[2]に記載の積層フィルム。
[4]
前記B層は、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロペンとの共重合体及び/又はポリフッ化ビニリデンを含有しているフッ化ビニリデン系樹脂と、メタクリル酸エステル系樹脂との合計100質量部に対して、前記フッ化ビニリデン系樹脂を51質量部以上、前記メタクリル酸エステル系樹脂を49質量部以下含有している、[1]~[3]のいずれか1項に記載の積層フィルム。
[5]
前記B層の厚みは、5μm以上200μm以下である[1]~[4]のいずれか1項に記載の積層フィルム。
[6]
前記A層に含まれる熱可塑性樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、及びポリアミドから選択される一種又は二種以上である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の積層フィルム。
[7]
前記A層が二軸延伸フィルムである[1]~[6]のいずれか1項に記載の積層フィルム。
[8]
前記A層を剥離した後の、前記A層の前記B層と接触していた側の表面の4.8mm×3.7mmの範囲について、ISO25178-604に基づいて非接触型干渉顕微鏡で測定される算術平均高さSa3が80nm以下である[1]~[7]のいずれか1項に記載の積層フィルム。
[9]
前記A層の前記B層と接触する側の面に、シリコーン系離型剤が塗布されている[1]~[8]のいずれか1項に記載の積層フィルム。
[10]
前記A層の厚みは、5μm以上200μm以下である[1]~[9]のいずれか1項に記載の積層フィルム。
[11]
B層のA層が積層されている面と反対側の面に、少なくともメタクリル酸エステル系樹脂を含有する樹脂成分を含むC層が積層されており、A層を剥離した後のB層とC層で構成される2層積層体に対して、JIS K7127:1999(試験片タイプ2)に基づいて引張試験を行ったときの25℃における引張破壊呼びひずみが、MD方向、TD方向共に100%以上である[1]~[10]のいずれか1項に記載の積層フィルム。
[12]
前記C層の樹脂成分は、フッ化ビニリデン系樹脂を含有している、[11]に記載の積層フィルム。
[13]
前記C層は、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロペンとの共重合体及び/又はポリフッ化ビニリデンを含有しているフッ化ビニリデン系樹脂と、メタクリル酸エステル系樹脂との合計100質量部に対して、前記フッ化ビニリデン系樹脂を50質量部以下、前記メタクリル酸エステル系樹脂を50質量部以上含有している、[11]又は[12]に記載の積層フィルム。
[14]
前記C層の厚みは、5μm以上200μm以下である[11]~[13]のいずれか1項に記載の積層フィルム。
[15]
前記C層は、C層中の全成分の合計100質量部の内、紫外線吸収剤が0.1~10質量部である[11]~[14]のいずれか1項に記載の積層フィルム。
[16]
前記紫外線吸収剤がトリアジン系化合物及び/又はベンゾトリアゾール系化合物である[15]に記載の積層フィルム。
[17]
前記B層用成形原料をTダイからフィルム状に溶融押出成形する工程と、
溶融押出成形されたフィルムをキャスティングロールとタッチロール上の前記A層との間に挟み、溶融押出成形されたフィルムを冷却固化すると同時に、前記A層を、溶融押出成形されたフィルムに剥離可能に積層する工程と、
を含む[1]~[10]のいずれか1項に記載の積層フィルムの製造方法。
[18]
前記B層用成形原料と前記C層用成形原料をTダイからB層及びC層で構成される二層フィルム状に溶融共押出成形する工程と、
溶融共押出成形された二層フィルムを、前記C層がキャスティングロールと接するように、キャスティングロールとタッチロール上の前記A層との間に挟み、溶融共押出成形された二層フィルムを冷却固化すると同時に、前記A層を、前記B層に剥離可能に積層する工程と、
を含む[11]~[16]のいずれか1項に記載の積層フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態に係る積層フィルムからA層を剥離することで、フッ化ビニリデン系樹脂を含むB層の単層体、又は、B層とC層で構成される2層積層体が得られる。B層の単層体、又は、B層とC層で構成される2層積層体の用途は特に制限はないが、これらは引張物性に優れ、B層のA層と接触していた側の表面のうねりが少ないという特徴を持つ。B層、又は、B層とC層で構成される2層積層体は、例えば、加飾フィルム、とりわけ金属調加飾フィルムの表層材として好適に使用可能である。
【0016】
また、本発明の一実施形態に係る積層フィルムは、A層を保護層として使用することができ、積層フィルムの製造後、A層を剥離する前の種々の過程(梱包、運搬、加飾層の積層、加飾フィルムの被着体への貼り付け、成形等)において、フッ化ビニリデン系樹脂を含むB層の表面が傷つくのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第一の実施形態に係る積層フィルムの積層構造を示す模式的な断面図である。
図2】本発明の第一の実施形態に係る積層フィルムの製造装置の一例を説明するための概略側面図である。
図3】本発明の第二の実施形態に係る積層フィルムの積層構造を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態を例示的に示したものであり、これにより本発明の技術的範囲が狭く解釈されることを意図するものではない。
【0019】
(1.第一の実施形態)
図1を参照すると、第一の実施形態に係る積層フィルム(1)は、フッ化ビニリデン系樹脂を含むB層(20)と、B層(20)の一方の面に、剥離可能な状態で積層されたA層(10)とを備える。A層が、B層の一方の面に、剥離可能な状態で積層されていることで、必要時にA層を剥がすことが可能である。例えば、A層を剥がし、B層を加飾フィルムの表層材の最表面を構成する層として使用することができる。
【0020】
A層として寸法安定性に優れた熱可塑性樹脂フィルムが使用されると、フッ化ビニリデン系樹脂を含むB層が寸法変化を起こしやすい場合でも、B層がA層に積層されていることでA層が寸法変化の抵抗となってB層の寸法変化が抑制される。この結果、フッ化ビニリデン系樹脂を含むフィルムの弱点であった、うねりの発生を軽減することができる。
【0021】
本発明の一実施形態に係る積層フィルムにおいて、A層は、JIS K7133:1999に基づいて測定される120℃下で5分静置した後の寸法変化率がMD方向5%以下、TD方向3%以下である熱可塑性樹脂フィルムで構成することができる。好ましくは、A層は、当該寸法変化率がMD方向3%以下、TD方向2%以下である熱可塑性樹脂フィルムで構成することができる。A層の当該寸法変化率に下限は特に設定されないが、例えば、MD方向1~5%、TD方向0.5~3%である熱可塑性樹脂フィルムで構成することができる。なお、MD方向とは、A層を構成する熱可塑性樹脂フィルムを製造する際の樹脂基材の流れ方向であり、TD方向は、樹脂基材の流れ方向に対する直角方向である。
【0022】
A層に含まれる熱可塑性樹脂としては、限定的ではないが、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、及びポリアミドから選択される一種又は二種以上が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は寸法変化率が小さく、上述した寸法変化率を満たす樹脂フィルムも市販されているので入手容易であり、好都合である。熱可塑性樹脂の中でも、耐熱性(融点)の理由により、ポリエチレンテレフタレート及びポリアミドから選択される一種又は二種が特に好ましい。
【0023】
A層を構成する熱可塑性樹脂フィルムは二軸延伸フィルムであることが好ましい。二軸延伸フィルムを用いることで、破断しにくい、及び、熱に対する寸法変化率が小さいという利点が得られる。
【0024】
A層の厚みは、5~200μmであることが好ましく、5~100μmであることがより好ましく、5~40μmであることが更により好ましく、10~20μmが特に好ましい。A層の厚みが5μm以上であることはハンドリング性及びB層への傷防止の観点で好ましい。また、A層の厚みが200μm以下であることは、低コスト化に寄与する。
【0025】
A層とB層の間の剥離強度は、自重による意図しない剥離を防ぐという観点及びB層の寸法変化の抑制効果を高めるという観点からは、高い方が好ましい。この観点から、A層とB層の間の剥離強度は、180°剥離試験を行ったときの平均剥離力で0.01N/25m以上であることが好ましく、0.05N/25mm以上であることがより好ましく、0.1N/25mm以上であることが更により好ましい。また、A層とB層の間の剥離強度は、高すぎると使い勝手が悪化し、また、剥離時にB層が変形するおそれがあるので、180°剥離試験を行ったときの平均剥離力で40N/25mm以下であることが好ましく、25N/25mm以下であることがより好ましく、12.5N/25mm以下であることが更により好ましく、2.5N/25mm以下であることが最も好ましい。従って、好ましい実施形態において、A層とB層の間の剥離強度は、180°剥離試験を行ったときの平均剥離力で0.01N/25mm以上40N/25mm以下である。
【0026】
上記の180°剥離試験は以下の手順で行う。まず、強力な両面テープでSUS板に積層フィルムのサンプルのB層側(積層フィルムが後述するC層を備える場合はC層側)を固定する。積層フィルムのサンプルからA層を少し剥離する。次いで、SUS板及びA層をそれぞれチャッキングし、温度:23℃、相対湿度:50%、サンプルサイズ:長さ150mm×幅25mm、つかみ移動速度:300mm/minの条件で180°剥離試験を行い、平均剥離力を求める。その他の条件は、JIS K6854-2:1999に準拠する。サンプルは5個以上用意し、平均剥離力の算術平均を測定値とする。
【0027】
A層とB層の間の剥離強度を調節するため、A層のB層と接触する側の面には、シリコーン系離型剤等の離型剤が塗布されていてもよい。シリコーン系離型剤としては、付加反応型、縮合反応型、カチオン重合型、及びラジカル重合型等の公知のシリコーン系離型剤が挙げられる。
【0028】
A層を剥離した後の、B層のA層と接触していた側の表面はうねりが小さいことが好ましい。B層の表面のうねりが小さいことで、例えば、B層を金属調加飾フィルムの表層材の最表面を構成する層として使用したときに、表面の像の歪みを抑制することができる。表面のうねりを評価するためには、比較的広い面積の面粗さを測定することが有効である。
【0029】
本発明の一実施形態に係る積層フィルムにおいては、A層を剥離した後の、B層のA層と接触していた側の表面の4.8mm×3.7mmの範囲について、ISO25178-604に基づいて非接触型干渉顕微鏡で測定される算術平均高さSa1を80nm以下とすることができる。当該算術平均高さSa1は好ましくは60nm以下であり、より好ましくは40nm以下であり、更により好ましくは20nm以下である。当該算術平均高さSa1には特段の下限は設定されないが、製造コストとうねり抑制効果のバランスに鑑みれば、当該算術平均高さSa1は5nm以上であるのが好ましく、10nm以上であるのがより好ましい。従って、当該算術平均高さSa1は例えば5~80nmの範囲とすることができる。本発明の一実施形態に係る積層フィルムにおいては、A層を剥離した後の、B層のA層と接触していた側の表面の任意の測定箇所において、当該算術平均高さSa1の基準を満足することが可能である。
【0030】
表面のうねりの評価は、上記の比較的広い面積の面粗さを比較的狭い面積の面粗さと比較することでも可能である。比較的狭い面積における面粗さは表面のうねりを反映しにくくなるため、表面のうねりが大きい場合、両者の面粗さの差が大きくなる傾向にある。
【0031】
本発明の一実施形態に係る積層フィルムにおいては、A層を剥離した後の、B層のA層と接触していた側の表面の4.8mm×3.7mmの範囲について、ISO25178-604に基づいて非接触型干渉顕微鏡で測定される算術平均高さSa1と、A層を剥離した後の、B層のA層と接触していた側の表面の0.3mm×0.3mmの範囲について、ISO25178-607に基づいてレーザー顕微鏡で測定される算術平均高さSa2とが、|Sa1-Sa2|≦30nmを満足することができる。|Sa1-Sa2|は好ましくは20nm以下であり、より好ましくは10nm以下である。なお、通常はSa1≧Sa2である。本発明の一実施形態に係る積層フィルムにおいては、A層を剥離した後の、B層のA層と接触していた側の表面の任意の測定箇所において、|Sa1-Sa2|の基準を満足することが可能である。
【0032】
B層のA層と接触していた側の表面の面粗さは、A層のB層と接触していた側の表面の面粗さに影響されやすい。このため、A層の表面粗さは小さいことが好ましい。本発明の一実施形態に係る積層フィルムにおいては、A層を剥離した後の、A層のB層と接触していた側の表面の4.8mm×3.7mmの範囲について、ISO25178-604に基づいて非接触型干渉顕微鏡で測定される算術平均高さSa3を80nm以下とすることができる。当該算術平均高さSa3は好ましくは60nm以下であり、より好ましくは50nm以下であり、更により好ましくは40nm以下である。当該算術平均高さSa3には特段の下限は設定されないが、製造コストとうねり抑制効果のバランスに鑑みれば、当該算術平均高さSa3は1nm以上であるのが好ましく、5nm以上であるのがより好ましい。従って、当該算術平均高さSa3は例えば1~80nmの範囲とすることができる。本発明の一実施形態に係る積層フィルムにおいては、A層を剥離した後の、A層のB層と接触していた側の表面の任意の測定箇所において、当該算術平均高さSa3の基準を満足することが可能である。
【0033】
また、本発明の一実施形態に係る積層フィルムにおいては、A層の同じ表面の0.3mm×0.3mmの範囲について、ISO25178-607に基づいてレーザー顕微鏡で測定される算術平均高さSa4を80nm以下とすることができる。当該算術平均高さSa4は好ましくは60nm以下であり、より好ましくは40nm以下であり、更により好ましくは20nm以下である。当該算術平均高さSa4には特段の下限は設定されないが、製造コストとうねり抑制効果のバランスに鑑みれば、当該算術平均高さSa4は1nm以上であるのが好ましく、5nm以上であるのがより好ましい。従って、当該算術平均高さSa4は例えば1~80nmの範囲とすることができる。本発明の一実施形態に係る積層フィルムにおいては、A層のB層と接触していた側の表面の任意の測定箇所において、算術平均高さSa4の基準を満足することが可能である。
【0034】
A層を剥がした後のB層(積層フィルムが後述するC層を備える場合はB層及びC層の二層積層体)は、引張特性に優れていることが望ましい。延伸加工を行っても破断しにくくなるからである。加飾フィルムを被着体へ貼り付ける工程においては、被着体形状に延伸加工することが多い。このため、A層を剥がした後のB層が引張特性に優れていることは、加飾フィルムへの適用に当たって好都合である。
【0035】
本発明の一実施形態に係る積層フィルムにおいては、A層を剥離した後のB層に対して、JIS K7127:1999(試験片タイプ2)に基づいて引張試験を行ったときの25℃における引張破壊呼びひずみを、MD方向、TD方向共に100%以上とすることができる。当該引張破壊呼びひずみは、MD方向、TD方向共に200%以上であることが好ましく、300%以上であることがより好ましく、400%以上であることが更により好ましい。当該引張破壊呼びひずみに特段の上限は設定されないが、製造が容易であるという観点からは、700%以下であることが好ましく、600%以下であることがより好ましい。なお、本明細書における引張破壊呼びひずみは、JIS K7161-1:2014において規定される通り、降伏後に破壊する場合において、応力が引張強さの10%以下にまで減少する直前の呼びひずみを指す。サンプルはMD方向、TD方向共に5個以上用意し、5個以上のサンプルに対する引張破壊呼びひずみの算術平均を測定値とする。
【0036】
本発明の一実施形態に係る積層フィルムにおいては、A層を剥離した後のB層について、JIS K7128-2:1998(長方形試験片)に基づくエルメンドルフ引裂強度を引き裂き方向をMD方向として7000N/m以上とすることができ、且つ、引き裂き方向をTD方向として9000N/m以上とすることができる。当該エルメンドルフ引裂強度はMD方向に8000N/m以上であることが好ましく、TD方向に10000N/m以上であることがより好ましい。エルメンドルフ引裂強度に特段の上限は設定されないが、製造が容易であるという観点からは、MD方向及びTD方向共に、14000N/m以下であることが好ましく、13000N/m以下であることがより好ましい。サンプルはMD方向、TD方向共に5個以上用意し、5個以上のサンプルに対するエルメンドルフ引裂強度の算術平均を測定値とする。
【0037】
B層のJIS K7136:2000に基づいて測定されるHAZEは、透明性を高めるという観点から、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることが更により好ましく、2%以下であることが最も好ましく、例えば0.1~20%の範囲とすることができる。ただし、意匠性の観点から架橋アクリル微粒子、シリカ粒子、ポリシロキサン粒子のような艶消し剤を添加し、意図的にHAZEを高める場合はこの限りではない。
【0038】
B層のJIS K7375:2008に基づいて測定される全光線透過率は、透明性を高めるという観点から、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更により好ましく、例えば80~95%とすることができる。
【0039】
B層の厚みは、5~200μmであることが好ましく、5~100μmであることがより好ましく、5~40μmであることが更により好ましく、10~20μmが特に好ましい。B層の厚みが5μm以上であると製膜性が向上すると共に、B層を加飾フィルムの表層材として使用したときの保護機能を向上させることができる。また、B層の厚みを200μm以下とすることにより、透明性の向上及び低コスト化を実現することができる。
【0040】
B層はフッ化ビニリデン系樹脂を含む。本明細書において、フッ化ビニリデン系樹脂とは、フッ化ビニリデンのホモポリマーの他、フッ化ビニリデン及びフッ化ビニリデンと共重合可能な単量体の共重合体をいう。フッ化ビニリデンと共重合可能な単量体としては、例えばフッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン(ヘキサフルオロプロペン)、六フッ化イソブチレン、三フッ化塩化エチレン、各種のフッ化アルキルビニルエーテル、更にはスチレン、エチレン、ブタジエン、及びプロピレン等の公知のビニル単量体などがあり、これらを単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン(ヘキサフルオロプロペン)及び三フッ化塩化エチレンから選択される少なくとも一種が好ましく、六フッ化プロピレン(ヘキサフルオロプロペン)がより好ましい。従って、好ましい実施形態において、B層はフッ化ビニリデンと六フッ化プロピレン(ヘキサフルオロプロペン)との共重合体及び/又はポリフッ化ビニリデンを含有する。
【0041】
B層は、フッ化ビニリデン系樹脂に加えてメタクリル酸エステル系樹脂を含むことが好ましい。B層がメタクリル酸エステル系樹脂を含有することで、白化を助長するα型結晶の比率が大きくなるのを防止できると共に、B層に別の層を積層する際に接着性及び密着性を調整することができる。
【0042】
一実施形態において、B層における、フッ化ビニリデン系樹脂とメタクリル酸エステル系樹脂との混合比は、両者の合計100質量部に対して、フッ化ビニリデン系樹脂を51質量部以上、メタクリル酸エステル系樹脂を49質量部以下とすることができる。両者の合計100質量部に対して、フッ化ビニリデン系樹脂:メタクリル酸エステル系樹脂=51~80質量部:20~49質量部であることが好ましく、60~75質量部:25~40質量部であることがより好ましい。フッ化ビニリデン系樹脂及びメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、フッ化ビニリデン系樹脂が51質量部以上であると、引張伸び、引裂強度、耐薬品性、耐候性及び耐汚染性等の特性を向上させることができる。
【0043】
B層は、フッ化ビニリデン系樹脂及びメタクリル酸エステル系樹脂の他に、本発明の目的を損なわない範囲において、他の樹脂、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、結晶核剤、ブロッキング防止剤、シール性改良剤、離型剤、着色剤、顔料、発泡剤、難燃剤などを適宜含有することができる。しかしながら、一般的には、B層中のフッ化ビニリデン系樹脂及びメタクリル酸エステル系樹脂の合計含有量は80質量%以上であり、典型的には90質量%以上であり、より典型的には95質量%以上であり、100質量%とすることもできる。B層に紫外線吸収剤を含有させてもよいが、コストやブリードアウトの観点からは、含有させないことが好ましい。
【0044】
フッ化ビニリデン系樹脂を得るための重合反応としては、ラジカル重合、アニオン重合等の公知の重合反応が挙げられる。また、重合方法としては、懸濁重合、乳化重合等の公知の重合方法が挙げられる。重合反応及び/又は重合方法により、得られる樹脂の結晶化度、力学的性質等を変化させることができる。
【0045】
フッ化ビニリデン系樹脂の融点の下限は、150℃以上が好ましく、160℃以上がより好ましい。フッ化ビニリデン系樹脂の融点の上限は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)の融点に等しい170℃以下が好ましい。
【0046】
メタクリル酸エステル系樹脂のガラス転移点(Tg)の下限は、70℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。メタクリル酸エステル系樹脂のTgの上限は、120℃以下が好ましい。
【0047】
フッ化ビニリデン系樹脂の融点及びメタクリル酸エステル系樹脂のTgは、熱流束示差走査熱量測定(熱流束DSC)にて測定することができる。例えば、ブルカー・エイエックスエス社製、示差走査熱量測定装置DSC3100SAを用い、サンプル質量1.5mg、昇温速度10℃/分で室温から200℃まで加熱したときに得られるDSC曲線(first run)から求めることができる。
【0048】
本明細書において、メタクリル酸エステル系樹脂とは、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステルのホモポリマー、メタクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルと共重合可能な単量体の共重合体をいう。メタクリル酸エステルと共重合可能な単量体としては、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、ジビニルベンゼン、トリスチレン等の芳香族ビニル単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;グリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基含有単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル系単量体;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン系単量体;1,3-ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体;マレイン酸、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸系単量体;ビニルメチルケトン等のエノン系単量体などがあり、これらを単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、フッ化ビニリデン系樹脂との相溶性、フィルムの強度、及び別の層との接着性及び密着性の理由により、メタクリル酸メチルのホモポリマー、又は、メタクリル酸ブチルを主体としたアクリル系ゴムに対して(メタ)アクリル酸メチルを主体としたモノマーを共重合させたアクリル系ゴム変性アクリル系共重合体が好ましい。
【0049】
共重合体としては、ランダム共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体(例えばジブロックコポリマー、トリブロックコポリマー、グラジエントコポリマー等のリニアタイプ、アームファースト法又はコアファースト法で重合した星型共重合体など)、重合可能な官能基を持つ高分子化合物であるマクロモノマーを用いた重合により得られる共重合体(マクロモノマー共重合体)、及びこれらの混合物などが挙げられる。なかでも、樹脂の生産性の観点から、グラフト共重合体及びブロック共重合体が好ましい。
【0050】
メタクリル酸エステル系樹脂を得るための重合反応としては、ラジカル重合、リビングラジカル重合、リビングアニオン重合、リビングカチオン重合等の公知の重合反応が挙げられる。また、重合方法としては、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等の公知の重合方法が挙げられる。重合反応及び重合方法により、得られる樹脂の力学的性質が変化する。
【0051】
第一の実施形態に係る積層フィルムは、例示的には以下の工程を実施することにより製造可能である。
工程1:B層用成形原料をTダイからフィルム状に溶融押出成形する工程。
工程2:溶融押出成形されたフィルムをキャスティングロールとタッチロール上のA層用のフィルムとの間に挟み、溶融押出成形されたフィルムを冷却固化すると同時に、A層を、溶融押出成形されたフィルムに剥離可能に積層する工程。
【0052】
上記製造工程によれば、B層のA層と接触する側の表面性状は、A層の表面性状に左右される。このため、A層は平滑でうねりが小さいことが望ましい。そして、A層の平滑でうねりの小さな表面性状をB層の表面によく転写するためには、溶融押出成形されたB層用のフィルムがA層に接触するときの初期温度は高いことが望ましい。具体的には、200℃以上の温度、例えば200~260℃の温度で押出成形機のTダイからフィルム状に押し出すことが好ましい。当該範囲の温度で押し出すことは、α型結晶の比率を小さくするという観点からも有利である。そして、B層用のフィルムがTダイの出口から押し出された後、6秒以内、好ましくは4秒以内にB層用のフィルムをA層に接触させることが望ましい。
【0053】
A層とB層を適度な密着性で積層することができるので、キャスティングロールは30~70℃、好ましくは40~60℃に温度調節されていることが好ましく、タッチロールは30~70℃、好ましくは40~60℃に温度調節されていることが好ましい。キャスティングロールとタッチロールの表面の温度調節の方法としては、限定的ではないが、例えば、これらのロールの内部に冷却水等の冷却媒体を循環させる方法が挙げられる。キャスティングロールとタッチロールの表面材質は特に制限はないが、例えばキャスティングロールの表面を金属製とし、タッチロールの表面をゴム製とすることができる。
【0054】
図2には、本発明の第一の実施形態に係る積層フィルムの製造装置(200)の一例を説明するための概略側面図が示されている。製造装置(200)は、B層用のフィルム(270)を押出成形するTダイ(210)と、Tダイ(210)の出口(212)の下方に配設されたタッチロール(220)及びキャスティングロール(230)と、タッチロール(220)へとA層用のフィルム(260)を繰り出すためのリール(240)と、キャスティングロール(230)の側方に配設された冷却ロール(250)と、積層フィルム(280)を巻き取るためのリール(290)を備える。また、図示を省略するが、二軸押出機等の押出機がTダイ(210)の上方に配設されている。
【0055】
Tダイ(210)から下方に押し出されたB層用のフィルム(270)は、キャスティングロール(230)とタッチロール(220)上のA層用のフィルム(260)との間に挟まれる。この際、B層用のフィルム(270)は冷却固化されると同時に、A層用のフィルム(260)がB層用のフィルム(270)に剥離可能に積層される。このようにして得られた積層フィルム(280)は、キャスティングロール(230)の回転方向に沿って移動した後、冷却ロール(250)上に搬送されることで冷却され、最後にリール(290)によって巻き取られる。
【0056】
先述したように、フッ化ビニリデン系樹脂を含むフィルムはうねり易い。このため、フッ化ビニリデン系樹脂を含むB層用のフィルムをA層に積層することなく単独で巻き取ると、搬送中及び巻取り後にうねりが生じることになる。これに対して、上記の製造方法によれば、B層用のフィルムは寸法安定性の高いA層用のフィルムに積層された状態で積層フィルムとして巻き取られるので、B層のうねりが低減される。
【0057】
(2.第二の実施形態)
図3を参照すると、第二の実施形態に係る積層フィルム(2)は、フッ化ビニリデン系樹脂を含むB層(20)と、B層(20)の一方の面に、剥離可能な状態で積層された熱可塑性樹脂フィルムで構成されるA層(10)とを備える。積層フィルム(2)は更に、B層(20)のA層(10)が積層されている面と反対側の面に積層された、少なくともメタクリル酸エステル系樹脂を含有する樹脂成分を含むC層(30)を備える。典型的には、B層(20)とC層(30)の間には他の樹脂層が介在することなく、両者は直接接合されている。
【0058】
第二の実施形態に係る積層フィルム(2)は、第一実施形態に係る積層フィルム(1)とC層(30)の有無が異なるだけであり、A層及びB層に関する実施形態は好ましい条件も含めて、第一実施形態に係る積層フィルム(1)において述べた通りである。このため、A層及びB層に関する詳細な説明を省略する。
【0059】
A層とB層の間の剥離強度は、第一の実施形態に係る積層フィルム(1)について述べた通りである。B層とC層の間の剥離強度は、先述した180°剥離試験を行ったときの平均剥離力で比較すると、B層とA層の間の剥離強度よりも大きいのが通常であり、B層及びC層は剥離せず積層体として使用されることが想定される。第二の実施形態に係る積層フィルム(2)においても、A層が、B層の一方の面に、剥離可能な状態で積層されていることで、必要時にA層を剥がすことが可能である。例えば、A層を剥がし、B層とC層で構成される2層積層体を加飾フィルムの表層材として使用することができる。この場合においても、B層を加飾フィルムの表層材の最表面を構成する層として使用することができる。
【0060】
本発明の一実施形態に係る積層フィルムにおいては、A層を剥離した後のB層とC層で構成される2層積層体に対して、JIS K7127:1999(試験片タイプ2)に基づいて引張試験を行ったときの25℃における引張破壊呼びひずみを、MD方向、TD方向共に100%以上とすることができる。当該引張破壊呼びひずみは、MD方向、TD方向共に200%以上であることが好ましく、300%以上であることがより好ましく、400%以上であることが更により好ましい。
【0061】
本発明の一実施形態に係る積層フィルムにおいては、A層を剥離した後のB層とC層で構成される2層積層体について、JIS K7128-2:1998(長方形試験片)に基づくエルメンドルフ引裂強度を引き裂き方向をMD方向として7000N/m以上とすることができ、且つ、引き裂き方向をTD方向として9000N/m以上とすることができる。当該エルメンドルフ引裂強度はMD方向に8000N/m以上であることが好ましく、TD方向に10000N/m以上であることがより好ましい。エルメンドルフ引裂強度に特段の上限は設定されないが、製造が容易であるという観点からは、MD方向及びTD方向共に、14000N/m以下であることが好ましく、13000N/m以下であることがより好ましい。
【0062】
B層とC層とで構成される2層積層体のJIS K7136:2000に基づいて測定されるHAZEは、透明性を高めるという観点から、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることが更により好ましく、2%以下であることが最も好ましく、例えば0.1~20%の範囲とすることができる。ただし、意匠性の観点から架橋アクリル微粒子、シリカ粒子、ポリシロキサン粒子のような艶消し剤を添加し、意図的にHAZEを高める場合はこの限りではない。
【0063】
B層とC層とで構成される2層積層体のJIS K7375:2008に基づいて測定される全光線透過率は、透明性を高めるという観点から、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更により好ましく、例えば80~95%とすることができる。
【0064】
C層の厚みは、5~200μmであることが好ましく、5~100μmであることがより好ましく、5~40μmであることが更により好ましく、10~30μmが特に好ましい。C層の厚みが5μm以上であると製膜性が向上すると共に、B層とC層で構成される2層積層体を加飾フィルムの表層材として使用したときの保護機能を向上させることができる。また、C層の厚みを200μm以下とすることにより、透明性の向上及び低コスト化を実現することができる。
【0065】
C層の構成する樹脂成分は少なくともメタクリル酸エステル系樹脂を含有する。メタクリル酸エステル系樹脂の実施形態は好適な条件も含め、B層の説明で述べた通りであり、詳細な説明を省略する。また、C層の構成する樹脂成分はメタクリル酸エステル系樹脂に加え、フッ化ビニリデン系樹脂を含有することが好ましい。フッ化ビニリデン系樹脂の好適な実施形態は好適な条件も含め、B層の説明で述べた通りであり、詳細な説明を省略する。従って、好ましい実施形態において、C層はフッ化ビニリデン系樹脂としてフッ化ビニリデンと六フッ化プロピレン(ヘキサフルオロプロペン)との共重合体及び/又はポリフッ化ビニリデンを含有する。
【0066】
一実施形態において、C層における、フッ化ビニリデン系樹脂とメタクリル酸エステル系樹脂との混合比は、両者の合計100質量部に対して、フッ化ビニリデン系樹脂を50質量部以下、メタクリル酸エステル系樹脂を50質量部以上とすることができる。両者の合計100質量部に対して、フッ化ビニリデン系樹脂:メタクリル酸エステル系樹脂=0~30質量部:70~100質量部であることが好ましく、20~30質量部:70~80質量部であることがより好ましい。フッ化ビニリデン系樹脂及びメタクリル酸エステル系樹脂の合計100質量部に対して、メタクリル酸エステル系樹脂が70質量部以上であると後述する加飾層等の他の層との密着性を向上させることができる。また、C層がフッ化ビニリデン系樹脂を少量含有することで、耐候性やB層との接着性、密着性を向上させることができ、引張伸び、引裂強度、耐薬品性、耐候性及び耐汚染性等の特性の低下を抑制することもできる。
【0067】
C層は、フッ化ビニリデン系樹脂及びメタクリル酸エステル系樹脂の他に、本発明の目的を損なわない範囲において、紫外線吸収剤、他の樹脂、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、結晶核剤、ブロッキング防止剤、シール性改良剤、離型剤、着色剤、顔料、発泡剤、難燃剤などを適宜含有することができる。しかしながら、一般的には、C層におけるフッ化ビニリデン系樹脂及びメタクリル酸エステル系樹脂の合計含有量は80質量%以上であり、典型的には90質量%以上であり、より典型的には95質量%以上であり、100質量%とすることもできる。
【0068】
C層は、好ましくは紫外線吸収剤を含有する。C層が紫外線吸収剤を含有することで、紫外線が遮断され、耐候性を効果的に高めることができる。紫外線吸収剤としては、限定的ではないが、ハイドロキノン系、トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、シアノアクリレート系、オキザリックアシッド系、ヒンダードアミン系、サリチル酸誘導体等が挙げられ、これらを単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。中でも紫外線吸収効果の持続性から、トリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、又は、これらの混合物を含有することが好ましい。
【0069】
C層中の紫外線吸収剤の含有量は、C層中の全成分の合計100質量部の内、0.1~10質量部であることが好ましい。紫外線吸収剤の含有量をC層中の全成分の合計100質量部の内、0.1質量部以上とすることにより、好ましくは1質量部以上とすることにより、より好ましくは2質量部以上とすることにより、耐候性の更なる向上効果と共に、紫外線吸収効果が期待でき、また、紫外線吸収剤の含有量をC層中の全成分の合計100質量部の内、10質量部以下とすることにより、より好ましくは5質量部以下とすることにより、紫外線吸収剤がブリードアウトすることを防止し、B層との密着性低下を防止でき、また、低コスト化に寄与することができる。
【0070】
B層とC層とが積層された積層体は、例えば複数の押出成形機を利用して複数の樹脂を溶融状態で接着積層する溶融共押出成形法により製造可能である。溶融共押出成形法には、複数の樹脂を広幅化してフィルム状にした後に、Tダイ内部の先端で各層を接触接着するマルチマニホールドダイ方式と、複数の樹脂を合流装置(フィードブロック)内で接着後にフィルム状に広幅化するフィードブロックダイ方式と、複数の樹脂を広幅化してフィルム状に成形した後、Tダイ外部の先端で各層を接触させて接着するデュアルスロットダイ方式がある。また丸型ダイを使用するインフレーション成形法でも製造可能である。
【0071】
第二の実施形態に係る積層フィルムは、例示的には以下の工程を実施することにより製造可能である。
工程1:B層用成形原料とC層用成形原料をTダイからB層及びC層で構成される二層フィルム状に溶融共押出成形する工程。
工程2:溶融共押出成形された二層フィルムを、C層がキャスティングロールと接するように、キャスティングロールとタッチロール上のA層との間に挟み、溶融共押出成形された二層フィルムを冷却固化すると同時に、A層を、B層に剥離可能に積層する工程。
【0072】
上記製造工程によれば、B層のA層と接触する側の表面性状は、A層の表面性状に左右される。このため、A層は平滑でうねりが小さいことが望ましい。そして、A層の平滑でうねりの小さな表面性状をB層の表面によく転写するためには、溶融共押出成形された二層フィルムのB層がA層に接触するときの初期温度は高いことが望ましい。具体的には、200℃以上の温度、例えば200~260℃の温度で押出成形機のTダイから二層フィルム状に押し出すことが好ましい。当該範囲の温度で押し出すことは、α型結晶の比率を小さくするという観点からも有利である。そして、二層フィルムがTダイの出口から押し出された後、6秒以内、好ましくは4秒以内に二層フィルムのB層をA層に接触させることが望ましい。
【0073】
キャスティングロールとタッチロールは、A層とB層を適度な密着性で積層することができるので、キャスティングロールは30~70℃、好ましくは40~60℃に温度調節されていることが好ましく、タッチロールは30~70℃、好ましくは40~60℃に温度調節されていることが好ましい。キャスティングロールとタッチロールの表面の温度調節の方法としては、限定的ではないが、例えば、これらのロールの内部に冷却水等の冷却媒体を循環させる方法が挙げられる。キャスティングロールとタッチロールの表面材質は特に制限はないが、例えばキャスティングロールの表面を金属製とし、タッチロールの表面をゴム製とすることができる。
【0074】
(3.基材と積層された積層フィルム)
第一の実施形態及び第二の実施形態に係る積層フィルムにはそれぞれ、基材を積層してもよい。従って、本発明は一実施形態において、第一の実施形態に係る積層フィルムのB層のA層が積層されていない面に基材が積層された積層フィルムが提供される。また、本発明は別の一実施形態において第二の実施形態に係る樹脂フィルムのC層のB層が積層されていない面に基材が積層された積層フィルムが提供される。基材が積層された積層フィルムは例えば加飾フィルムとして使用可能である。基材が積層された積層フィルムの総厚みの平均値が、50~1000μmであると、自動車内装用部品への接着の作業性やコストの点で好ましい。
【0075】
基材としては、例えば加飾層(金属蒸着層を含む)、保護層、粘着層、印刷層等の層が挙げられる。基材は一種を単層で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて積層して使用してもよい。典型的な実施形態においては、第一の実施形態に係る積層フィルムのB層のA層が積層されていない面、又は第二の実施形態に係る積層フィルムのC層のB層が積層されていない面に金属蒸着層を積層した積層フィルムが提供される。また、別の典型的な実施形態においては、第一の実施形態に係る積層フィルムのB層のA層が積層されていない面、又は第二の実施形態に係る積層フィルムのC層のB層が積層されていない面に印刷層を形成し、印刷層に他の基材(加飾層等)を積層した樹脂フィルムが提供される。加飾層には、金属蒸着層の他、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂又はこれらの樹脂を成分とする樹脂組成物等を用いることができる。また、加飾層には、適宜、顔料等の添加剤を加えることもできる。
【0076】
また、第一の実施形態及び第二の実施形態に係る積層フィルムは、加飾層以外の他の層として、アイソタクティックまたはシンジオタクティックのポリプロピレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等のフィルムと多層化することができ、様々な加飾処理、例えばシボ成形等を行うこともできる。
【0077】
第一の実施形態及び第二の実施形態に係る積層フィルムに対してそれぞれ、基材を積層する方法としては、例えば、接着剤ラミネート及び熱ラミネートが挙げられる。その他の公知のラミネート方法を採用することもできる。また、第一の実施形態及び第二の実施形態に係る積層フィルムを用いて加熱成形することができる。加熱成形の方法としては、例えば、積層フィルムに基材を貼り合わせた上で、真空成形、圧空成形、真空圧空成形する方法が挙げられる。
【0078】
自動車内装用部品等の物品に対して、加飾フィルムによる表面被覆を行う手法としては、例えば、フィルムインサート成形、インモールド成形、及び真空ラミネート成形(TOM成形のような真空・圧空成形を含む)が挙げられる。中でもフィルムインサート成形は、加飾フィルムを加熱して予備成形を行なうことから、インモールド成形及び真空ラミネート成形と比較してより複雑な形状の部品に対しても加飾フィルムが追従し、良好な表面被覆状態を実現できるという利点がある。加飾フィルムは、A層を剥がして使用することができる。A層を剥がすタイミングについては特に制限はないが、例えば、物品に対して加飾フィルムによる表面被覆を実施した後にA層を剥がすことがB層を保護する観点で望ましい。
【実施例
【0079】
以下、本発明を実施例に基づいて、比較例と対比しつつ詳細に説明する。下記の実施例及び比較例に係るフィルムは製法I(溶融押出成形+ロール冷却固化)又は製法II(流延法)の何れかの方法で作製した。
【0080】
<1.実施例1~4(製法I)に係る積層フィルムの作製>
(1-1.材料)
<A層用>
ポリエチレンテレフタレート(PET)製の平滑な二軸延伸フィルム(東レ株式会社製商品名T60)を用意した。当該フィルムの厚みはダイヤルシートゲージでTD方向に任意の5箇所を測定し、平均値を測定値とした。結果は表1に記載の通りである。
<B層用>
フッ化ビニリデン系樹脂(PVDF)として、アルケマ社製の商品名Kynar(カイナー)1000HD(融点168℃のPVDFホモポリマー)を用意した。
メタクリル酸エステル系樹脂(PMMA)として、住友化学社製のスミペックスMGSS(Tg101℃のポリメタクリル酸メチル)を用意した。
<C層用>
C層は使用しなかった。
【0081】
(1-2.積層フィルム作製)
試験番号に応じて、表1に記載の「B層の配合処方」に従って、φ30mmの2軸押出機によって混練後、各コンパウンドを得た。コンパウンド時の押出機設定温度、スクリュー回転数及び押出速度は表1に記載の通りである。得られた各コンパウンドをφ40mmのTダイ式単軸押出機を用いてフィルム状に溶融押出成形した。フィルム製造時の押出機設定温度、スクリュー回転数及び押出速度、並びに、Tダイ部の設定温度は表1に記載の通りである。
【0082】
次いで、図2に示す装置構成に従い、A層用のフィルムをリールからタッチロール(ゴムロール)に向かって繰り出し、キャスティングロール(金属ロール)とタッチロール(ゴムロール)の間に搬送した。これと同時に、溶融押出成形されたB層用のフィルムを、表1に記載の温度の循環水を内蔵したキャスティングロール(金属ロール)とタッチロール(ゴムロール)上のA層用のフィルムとの間に挟み、溶融押出成形されたフィルムを冷却固化すると同時に、A層用のフィルムを、溶融押出成形されたB層用のフィルムに剥離可能に積層した。得られた積層フィルムは30~50℃の循環水を内蔵した冷却ロールを経てリールに巻き取った。
【0083】
上記の溶融押出成形においては、Tダイの出口(リップ口)の間隔を調節し、加えて巻き取り速度を調節することで、B層用のフィルムの厚みを制御した。また、Tダイの出口から押し出された後、フィルムをキャスティングロール(金属ロール)とタッチロール(ゴムロール)に接触させるまでの時間は0.1~1秒とした。
表1に記載のB層の厚みは、A層を剥離後、ダイヤルシートゲージでTD方向に沿って任意の5箇所測定したときの平均値である。
【0084】
<2.実施例5~8(製法I)に係る積層フィルムの作製>
(2-1.材料)
<A層用>
実施例1と同じPETフィルムを用意した。
<B層用>
実施例1と同じフッ化ビニリデン系樹脂(PVDF)及びメタクリル酸エステル系樹脂(PMMA)を用意した。
<C層用>
フッ化ビニリデン系樹脂(PVDF)として、アルケマ社製の商品名Kynar K720(フッ化ビニリデンのホモポリマー、融点169℃)を用意した。
メタクリル酸エステル系樹脂(PMMA)として、三菱ケミカル社製の商品名ハイペットHBS000(アクリル酸ブチル(n-BA)とメタクリル酸ブチル(BMA)のゴム成分を含むメタクリル酸エステル系樹脂)を用意した。
トリアジン系紫外線吸収剤として、BASF社製の商品名Tinuvin1600を用意した。
【0085】
(2-2.積層フィルム作製)
試験番号に応じて、表2に記載の「B層の配合処方」及び「C層の配合処方」に従って、φ30mmの2軸押出機によって混練後、B層用とC層用の各コンパウンドを得た。コンパウンド時の押出機設定温度、スクリュー回転数及び押出速度は表2に記載の通りである。B層用コンパウンド及びC層用コンパウンドをφ40mmの単軸押出機2台と先端にフィードブロック及びTダイを取り付けたフィードブロック方式のTダイ式多層押出機を用いて二層フィルム状に溶融共押出成形した。フィルム製造時の押出機設定温度、スクリュー回転数及び押出速度、並びに、Tダイ部の設定温度は表2に記載の通りである。
【0086】
次いで、図2に示す装置構成に従い、A層用のフィルムをリールからタッチロール(ゴムロール)に向かって繰り出し、キャスティングロール(金属ロール)とタッチロール(ゴムロール)の間に搬送した。これと同時に、溶融共押出成形された二層フィルム(B層及びC層の二層フィルム)を、C層がキャスティングロール(金属ロール)と接し、B層がA層に接するように、表2に記載の温度の循環水を内蔵したキャスティングロール(金属ロール)とタッチロール(ゴムロール)上のA層用のフィルムとの間に挟み、溶融共押出成形された二層フィルムを冷却固化すると同時に、A層用のフィルムを、溶融共押出成形された二層フィルムのB層側に剥離可能に積層した。得られた積層フィルムは30~50℃の循環水を内蔵した冷却ロールを経てリールに巻き取った。
【0087】
上記の溶融押出成形においては、Tダイの出口(リップ口)の間隔を調節し、加えて巻き取り速度を調節することで、二層フィルム(B層及びC層の二層フィルム)の厚みを制御した。また、Tダイの出口から押し出された後、二層フィルムをキャスティングロール(金属ロール)とタッチロール(ゴムロール)に接触させるまでの時間は0.1~1秒とした。
表2に記載のB層及びC層の厚みはそれぞれ、A層を剥離後、TD方向に切断した断面を顕微鏡で任意の5箇所観察したときの平均値である。
【0088】
<3.比較例1(製法I)に係る単層フィルムの作製>
(3-1.材料)
<A層用>
A層は使用しなかった。
<B層用>
実施例1と同じフッ化ビニリデン系樹脂(PVDF)及びメタクリル酸エステル系樹脂(PMMA)を用意した。
<C層用>
C層は使用しなかった。
【0089】
(3-2.単層フィルム作製)
試験番号に応じて、表3に記載の「B層の配合処方」に従って、φ30mmの2軸押出機によって混練後、コンパウンドを得た。コンパウンド時の押出機設定温度、スクリュー回転数及び押出速度は表3に記載の通りである。得られたコンパウンドをφ40mmのTダイ式単軸押出機を用いてフィルム状に溶融押出成形した。フィルム製造時の押出機設定温度、スクリュー回転数及び押出速度、並びに、Tダイ部の設定温度は表3に記載の通りである。
【0090】
溶融押出成形されたB層用のフィルムを、表3に記載の温度の循環水を内蔵したキャスティングロール(金属ロール)とタッチロール(ゴムロール)との間に挟み、溶融押出成形されたフィルムを冷却固化し、B層のみの単層フィルムを得た。得られた単層フィルムは30~50℃の循環水を内蔵した冷却ロールを経てリールに巻き取った。
【0091】
上記の溶融押出成形においては、Tダイの出口(リップ口)の間隔を調節し、加えて巻き取り速度を調節することで、単層フィルムの厚みを制御した。また、Tダイの出口から押し出された後、単層フィルムをキャスティングロール(金属ロール)とタッチロール(ゴムロール)に接触させるまでの時間は0.1~1秒とした。
表3に記載のB層の厚みは、ダイヤルシートゲージでTD方向に沿って任意の5箇所測定したときの平均値である。
【0092】
<4.比較例2(製法I)に係る積層フィルムの作製>
(4-1.材料)
<A層用>
A層は使用しなかった。
<B層用>
実施例1と同じフッ化ビニリデン系樹脂(PVDF)及びメタクリル酸エステル系樹脂(PMMA)を用意した。
<C層用>
実施例5と同じフッ化ビニリデン系樹脂(PVDF)、メタクリル酸エステル系樹脂(PMMA)、及びトリアジン系紫外線吸収剤を用意した。
【0093】
(4-2.積層フィルム作製)
表3に記載の「B層の配合処方」及び「C層の配合処方」に従って、φ30mmの2軸押出機によって混練後、B層用とC層用の各コンパウンドを得た。コンパウンド時の押出機設定温度、スクリュー回転数及び押出速度は表3に記載の通りである。B層用コンパウンド及びC層用コンパウンドをφ40mmの単軸押出機2台と先端にフィードブロック及びTダイを取り付けたフィードブロック方式のTダイ式多層押出機を用いて二層フィルム状に溶融共押出成形した。フィルム製造時の押出機設定温度、スクリュー回転数及び押出速度、並びに、Tダイ部の設定温度は表3に記載の通りである。
【0094】
溶融共押出成形された二層フィルム(B層及びC層の二層フィルム)を、C層がキャスティングロール(金属ロール)と接し、B層がタッチロール(ゴムロール)に接するように、表3に記載の温度の循環水を内蔵したキャスティングロール(金属ロール)とタッチロール(ゴムロール)との間に挟み、溶融共押出成形された二層フィルムを冷却固化し、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムは30~50℃の循環水を内蔵した冷却ロールを経てリールに巻き取った。
【0095】
上記の溶融押出成形においては、Tダイの出口(リップ口)の間隔を調節し、加えて巻き取り速度を調節することで、二層フィルム(B層及びC層の二層フィルム)の厚みを制御した。また、Tダイの出口から押し出された後、二層フィルムをキャスティングロール(金属ロール)とタッチロール(ゴムロール)に接触させるまでの時間は0.1~1秒とした。
表3に記載のB層及びC層の厚みはそれぞれ、TD方向に切断した断面を顕微鏡で任意の5箇所観察したときの平均値である。
【0096】
<5.比較例3(製法II)に係る積層フィルムの作製>
(5-1.材料)
<A層用>
実施例1と同じPETフィルムを用意した。
<B層用>
実施例1と同じフッ化ビニリデン系樹脂(PVDF)及びメタクリル酸エステル系樹脂(PMMA)を用意した。
<C層用>
実施例5と同じフッ化ビニリデン系樹脂(PVDF)、メタクリル酸エステル系樹脂(PMMA)、及びトリアジン系紫外線吸収剤を用意した。
【0097】
(5-2.積層フィルム作製)
表3に記載の「B層の配合処方」に従って各成分をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解し、沸騰するまで加熱して均一な塗工液を得た。得られたB層用の塗工液を溶液製膜用ダイにてA層用のPETフィルム上に塗布し、ドクターブレードにて厚みを均し、減圧下130℃で30分間加熱乾燥を行ってA層及びB層の二層フィルムを得た。次いで、表3に記載の「C層の配合処方」に従って各成分をイソプロピルアルコールに溶解し、沸騰するまで加熱して均一な塗工液を得た。得られたC層用の塗工液を溶液製膜用ダイにて先に作成した二層フィルムのB層上に塗布し、ドクターブレードにて厚みを均し、減圧下50℃で30分間加熱乾燥を行ってA層、B層及びC層で構成される積層フィルムを得た。
表3に記載のB層及びC層の厚みはそれぞれ、A層を剥離後、TD方向に切断した断面を顕微鏡で任意の5箇所観察したときの平均値である。
【0098】
<6.比較例4(製法II)に係る積層フィルムの作製>
(6-1.材料)
<A層用>
ポリエチレンテレフタレート(PET)製の平滑な二軸延伸フィルム(Toray Plastics(America),Inc.社製商品名TA30)を用意した。当該フィルムの厚みはダイヤルシートゲージでTD方向に任意の5箇所を測定し、平均値を測定値とした。結果は表3に記載の通りである。
<B層用>
フッ化ビニリデン系樹脂(PVDF)として、アルケマ社製の商品名Kynar(カイナー)500(融点160℃のPVDFホモポリマー)を用意した。
メタクリル酸エステル系樹脂(PMMA)として、Lucite International Specialty Polymers&Resins社製のELVACITE2042(Tg65℃のポリメタクリル酸メチル)を用意した。
<C層用>
メタクリル酸エステル系樹脂(PMMA)として、Lucite International Specialty Polymers&Resins社製のELVACITE2042(Tg65℃のポリメタクリル酸メチル)を用意した。
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤として、BASF社製の商品名Tinuvin928を用意した。
【0099】
(6-2.積層フィルム作製)
表3に記載の「B層の配合処方」に従って各成分をNMPに溶解し、沸騰するまで加熱して均一な塗工液を得た。得られたB層用の塗工液を溶液製膜用ダイにてA層用のPETフィルム上に塗布し、ドクターブレードにて厚みを均し、減圧下130℃で30分間加熱乾燥を行ってA層及びB層の二層フィルムを得た。次いで、表3に記載の「C層の配合処方」に従って各成分をイソプロピルアルコールに溶解し、沸騰するまで加熱して均一な塗工液を得た。得られたC層用の塗工液を溶液製膜用ダイにて先に作成した二層フィルムのB層上に塗布し、ドクターブレードにて厚みを均し、減圧下50℃で30分間加熱乾燥を行ってA層、B層及びC層で構成される積層フィルムを得た。
表3に記載のB層及びC層の厚みはそれぞれ、A層を剥離後、TD方向に切断した断面を顕微鏡で任意の5箇所観察したときの平均値である。
【0100】
<7.特性評価>
(7-1.製膜性)
上記の条件で作製した各フィルムについて、以下の基準で製膜性を評価した。
○:穴あきがなく、且つ、厚み精度良好
×:穴あきが発生、又は、厚み精度不良
厚み精度は以下の基準で判断した。フィルム(A層を備えている場合はA層を剥離後のフィルム)の厚みを、ダイヤルシートゲージでTD方向に任意の10箇所測定し、平均値が40μm±4μmであり、且つ、|(各測定値)-(平均値)|がすべて5μm以内である場合に“厚み精度良好”と判断し、それ以外の場合を“厚み精度不良”とした。
結果を表1~3に示す。
【0101】
(7-2.A層用のフィルムの加熱寸法変化)
上記で用意したA層用の各フィルムに対して、120℃下で5分静置した後のMD方向及びTD方向の寸法変化率をJIS K7133:1999に基づいて測定した。結果を表1~3に示す。
【0102】
(7-3.B層からA層を剥がす時の剥離強度)
上記の条件で作製した各フィルムについて、引張圧縮試験機(株式会社東洋精機製作所製 ストログラフVE1D)を用いて、B層からA層を剥がす時の剥離強度(平均剥離力)を、先述した測定手順に従って180°剥離試験を行うことにより測定した。サンプル数は5個とした。結果を表1~3に示す。
【0103】
(7-4.B層のA層と接触していた側の表面の算術平均高さSa1、Sa2
(a)広範囲面粗さ測定
上記の条件で作製した各フィルムについて、走査型白色干渉顕微鏡「WykoTM」(ブルカージャパン製 NT1100)を用いて、A層を剥離した後の、B層のA層と接触していた側の表面のISO25178-604に基づく算術平均高さSa1を測定した。なお、A層を備えていない比較例1及び2については、タッチロールと接触したB層表面について算術平均高さSa1を測定した。
測定条件は以下とした。
測定モード:VSI
測定範囲:4.8mm×3.7mm
補正:Cylinder&Tilt・Data Restore
結果を表1~3に示す。
(b)狭範囲面粗さ測定
上記の条件で作製した各フィルムについて、レーザー顕微鏡(キーエンス製 VK-X100)を用いて、A層を剥離した後の、B層のA層と接触していた側の表面のISO25178-607に基づく算術平均高さSa2を測定した。なお、A層を備えていない比較例1及び2については、タッチロールと接触したB層表面について算術平均高さSa2を測定した。測定条件は以下とした。
ヘッド部:VK-X110
測定モード:透明体
測定範囲:0.3mm×0.3mm
補正:なし
フィルター:OFF
結果を表1~3に示す。
【0104】
(7-5.A層のB層と接触していた側の表面の算術平均高さSa3、Sa4
(a)広範囲面粗さ測定
上記の条件で作製した各フィルムについて、走査型白色干渉顕微鏡「WykoTM」(ブルカージャパン製 NT1100)を用いて、A層を剥離した後の、A層のB層と接触していた側の表面のISO25178-604に基づく算術平均高さSa3を測定した。測定条件は以下とした。
測定モード:VSI
測定範囲:4.8mm×3.7mm
補正:Cylinder&Tilt・Data Restore
結果を表1~3に示す。
(b)狭範囲面粗さ測定
上記の条件で作製した各フィルムについて、レーザー顕微鏡(キーエンス製 VK-X100)を用いて、A層を剥離した後の、A層のB層と接触していた側の表面のISO25178-607に基づく算術平均高さSa4を測定した。測定条件は以下とした。
ヘッド部:VK-X110
測定モード:透明体
測定範囲:0.3mm×0.3mm
補正:なし
フィルター:OFF
結果を表1~3に示す。
【0105】
(7-6.HAZE)
上記の条件で作製した各フィルムについてA層を剥離した。A層を剥離後のB層(C層が存在する場合はB層とC層の2層フィルム)に対して、25℃におけるJIS K7136:2000に基づくHAZE値(加熱前)を測定した。測定にはヘーズメーターNDH7000(日本電色工業社製)を使用した。なお、A層を備えていない比較例1及び2については、そのまま測定した。結果を表1~3に示す。
【0106】
(7-7.A層剥離後のB層(又はB層+C層)の引張破壊呼びひずみ)
上記の条件で作製した各フィルムについてA層を剥離した。A層を剥離後のB層(C層が存在する場合はB層とC層の2層フィルム)に対して、JIS K7127:1999(試験片タイプ2)に基づいて引張試験を行ったときの25℃におけるMD方向及びTD方向の引張破壊呼びひずみを引張圧縮試験機(株式会社東洋精機製作所製 ストログラフVE1D)を用いて測定した。なお、A層を備えていない比較例1及び2については、そのまま測定した。測定条件は以下とした。
測定サンプルサイズ:長さ150mm×幅10mm
標線間距離(=初期チャック間距離):50mm
引張り速度:200mm/min
サンプル数はMD方向用及びTD方向用にそれぞれ5個とした。結果を表1~3に示す。
【0107】
(7-8.エルメンドルフ引裂強度)
上記の条件で作製した各フィルムについてA層を剥離した。A層を剥離後のB層(C層が存在する場合はB層とC層の2層フィルム)に対して、デジタルエルメンドルフ引き裂き試験機(株式会社東洋精機製作所製 SA-W)を用いて、JIS K7128-2:1998に基づいてエルメンドルフ引裂強度を測定した。なお、A層を備えていない比較例1及び2については、そのまま測定した。測定条件は以下とした。
測定サンプルサイズ:75mm×63mm(長方形試験片)
中央に20mmスリット
引き裂き方向:MD方向及びTD方向
サンプル数はMD方向用及びTD方向用にそれぞれ5個とした。結果を表1~3に示す。
【0108】
(7-9.像鮮明度)
上記の条件で作製した各フィルムについて、B層のA層と接触していない側の表面(C層が存在する場合はC層のB層と接触していない側の表面)に光学密度1.5でインジウムをスパッタした。次いで、A層を剥離した後の、B層のA層と接触していた側の表面について、写像性測定器(スガ試験機株式会社製 ICM-1T)を用いて、JIS K 7374:2007に基づき、像鮮明度を測定した。具体的には、光源の光を幅0.03mmのスリットに通し、レンズを用いて平行光線とした後、B層のA層と接触していた側の表面に、入射角、受光角共に60°の条件で反射させ、幅が0.125mmの光学櫛上に結像させ、受光器で受光した。光学櫛幅0.125mmにおける像鮮明度C0.125を次の式で算出した。
0.125=(M0.125-m0.125)/(M0.125+m0.125)×100
0.125:光学櫛幅0.125mmにおける最大受光量
0.125:光学櫛幅0.125mmにおける最小受光量
結果は以下の基準に従って評価した。
◎:C0.125が30以上
○:10以上30未満
×:10未満
結果を表1~3に示す。
なお、A層を備えていない比較例1については、金属ロールと接触したB層表面にインジウムをスパッタした後、タッチロールと接触したB層表面に対して像鮮明度を測定した。A層を備えていない比較例2については、金属ロールと接触したC層表面にインジウムをスパッタした後、タッチロールと接触したB層表面に対して像鮮明度を測定した。
【0109】
(7-10.延伸貼合性)
上記の条件で作製した各フィルムについて、B層のA層と接触していない側の表面(C層が存在する場合はC層のB層と接触していない側の表面)に、厚み25μmの粘着層を形成し、A層を備えるフィルムはA層を剥離した後、MD、TD方向共に1.2倍に延伸しながら平板に貼り付けた。貼り付け後のフィルムを、以下の基準で延伸貼合性を評価した。
○:破れ、及び、穴あきの何れも発生しなかった。
×:破れ、又は、穴あきが発生した。
結果を表1~3に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
【表2】
【0112】
【表3】
【0113】
<考察>
実施例1~8においては、C層の有無に関わらず、A層を剥離した後の、B層のA層と接触していた側の表面のうねり(広範囲面粗さ)が小さく、像鮮明度が高かった。また、B層(C層が存在する場合はB層とC層の2層フィルム)の引張破壊呼びひずみも高く、引張物性に優れていた。このため、延伸貼合性についても優れていた。
中でも、実施例2及び実施例6はフィルム製造時のTダイ部の設定温度が高く、A層の平滑面が上手く転写されたことで、うねりが特に小さかった。
実施例4と実施例8を比較すると、アクリルリッチなC層を有する実施例8の方が、引張破壊呼びひずみが低く、破断しやすかった。
実施例5と実施例8を比較すると、B層中のPMMA配合量が多い実施例8の方が、引張破壊呼びひずみが低く、破断しやすかった。同様のことは、実施例1と実施例4を比較しても分かる。
比較例1及び2は、A層が存在しなかった。このため、B層表面のうねり(広範囲面粗さ)が大きくなり、像鮮明度が低下した。
比較例3は、実施例と同様のPVDF及びPMMAを使用して流延法で積層フィルム作製したが、穴あきが発生し、また、厚み精度も悪かったため、フィルムの物性評価を行わなかった。
比較例4は、流延法でのフィルム作製に好適なPVDF及びPMMAを用いて積層フィルム作製した。しかしながら、今度はB層とC層の2層積層体の引張物性が低下し、延伸貼合性が悪化した。
【符号の説明】
【0114】
1、2 積層フィルム
10 A層
20 B層
30 C層
200 積層フィルムの製造装置
210 Tダイ
212 出口
220 タッチロール
230 キャスティングロール
240 リール
250 冷却ロール
260 A層用のフィルム
270 B層用のフィルム
280 積層フィルム
290 リール
図1
図2
図3