(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】数値制御装置、および工作機械
(51)【国際特許分類】
G05B 19/4155 20060101AFI20240702BHJP
G05B 19/4093 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
G05B19/4155 Z
G05B19/4093 P
(21)【出願番号】P 2022555395
(86)(22)【出願日】2021-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2021035826
(87)【国際公開番号】W WO2022075141
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2020168585
(32)【優先日】2020-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 俊大
【審査官】樋口 幸太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/097886(WO,A1)
【文献】特開2009-301232(JP,A)
【文献】特開2002-127052(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/4155
G05B 19/4093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転座標系における座標値を基準座標系における座標値に変換するための座標変換情報
であって、前記回転座標系と前記基準座標系との差分を示す座標差分情報を含む座標変換情報を工具に割り当てられた識別情報に関連付けて記憶する情報記憶部と、
前記識別情報が割り当てられた前記工具の移動経路を示す座標値を加工プログラムから取得する情報取得部と、
前記情報記憶部に記憶された前記座標変換情報
に含まれる前記座標差分情報に基づいて、前記情報取得部によって取得された前記移動経路を示す座標値の座標変換を実行する座標変換部と、
を備える数値制御装置。
【請求項2】
回転座標系における座標値を基準座標系における座標値に変換するための座標変換情報
であって、前記工具ごとに設定される前記工具の基準となる加工方向を示す基準加工方向情報を含む座標変換情報を工具に割り当てられた識別情報に関連付けて記憶する情報記憶部と、
前記識別情報が割り当てられた前記工具の移動経路を示す座標値を加工プログラムから取得する情報取得部と、
前記情報記憶部に記憶された前記座標変換情報
に含まれる前記基準加工方向情報と前記工具の位置情報に基づいて、前記情報取得部によって取得された前記移動経路を示す座標値の座標変換を実行する座標変換部と、
を備える数値制御装置。
【請求項3】
前記座標変換情報は、前記工具ごとに設定される前記工具の基準となる加工方向を示す基準方向情報と、前記工具の切り込み方向を示す切込方向情報とを含み、
前記座標変換部は、前記基準方向情報が示す方向と、前記切込方向情報が示す方向との差に基づいて前記座標変換を実行する請求項1
または2に記載の数値制御装置。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載された数値制御装置を備える工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、数値制御装置、および工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、座標変換機能を有する数値制御装置が知られている。座標変換機能を有する数値制御装置では、例えば、基準となる座標系を所定の軸回りに所定角度だけ回転させた座標系における座標値を用いて工具の移動経路が指令される。この場合、移動経路を指令する座標値は、基準となる座標系における座標値に座標変換され、座標変換された座標値に基づいて工具の移動が制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の数値制御装置において座標変換を指令する場合、座標系の回転中心、回転方向、および回転量などの情報を加工プログラムに書き込む必要がある。そのため、加工プログラムが複雑化し、加工プログラムの可読性が低下するおそれがある。また、加工プログラムの可読性が低下すると、ワークの加工ミスにつながるおそれがある。
【0005】
本開示は、加工プログラムの可読性を高め、加工ミスを低減することが可能な数値制御装置、および工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
数値制御装置が、回転座標系における座標値を基準座標系における座標値に変換するための座標変換情報であって、前記回転座標系と前記基準座標系との差分を示す座標差分情報を含む座標変換情報を工具に割り当てられた識別情報に関連付けて記憶する情報記憶部と、識別情報が割り当てられた工具の移動経路を示す座標値を加工プログラムから取得する情報取得部と、情報記憶部に記憶された座標変換情報に含まれる前記座標差分情報に基づいて、情報取得部によって取得された移動経路を示す座標値の座標変換を実行する座標変換部と、を備える。
数値制御装置が、回転座標系における座標値を基準座標系における座標値に変換するための座標変換情報であって、前記工具ごとに設定される前記工具の基準となる加工方向を示す基準加工方向情報を含む座標変換情報を工具に割り当てられた識別情報に関連付けて記憶する情報記憶部と、識別情報が割り当てられた工具の移動経路を示す座標値を加工プログラムから取得する情報取得部と、情報記憶部に記憶された座標変換情報に含まれる前記基準加工方向情報と前記工具の位置情報に基づいて、情報取得部によって取得された移動経路を示す座標値の座標変換を実行する座標変換部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示により、加工プログラムの可読性を高め、加工ミスを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】工作機械のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図2】数値制御装置の機能の一例を示すブロック図である。
【
図3】基準座標系と回転座標系との関係を説明する図である。
【
図4】第1の実施形態における情報記憶部が記憶する情報の一例を示す図である。
【
図6】ワークの加工時に実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】基準となる加工方向と切り込み方向を説明する図である。
【
図8】第2の実施形態における情報記憶部が記憶する情報の一例を示す図である。
【
図10】第3の実施形態における情報記憶部が記憶する情報の一例を示す図である。
【
図11】加工プログラムのさらに別の例を示す図である。
【
図12】ワークの加工時に実行される処理の他の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1の実施形態]
以下、第1の実施形態について図面を用いて説明する。
【0010】
図1は、工作機械のハードウェア構成の一例を示す図である。工作機械1は、工具を用いてワークの加工を行う機械である。工作機械1は、エンドミル、バイト、ドリルなどの工具を用いてワークの切削加工を行う。工作機械1は、例えば、マシニングセンタ、旋盤、ボール盤、または複合加工機である。
【0011】
工作機械1は、数値制御装置2と、表示装置3と、入力装置4と、サーボアンプ5およびサーボモータ6と、スピンドルアンプ7およびスピンドルモータ8と、周辺機器9とを備える。
【0012】
数値制御装置2は、工作機械1の全体を制御する装置である。数値制御装置2は、CPU(Central Processing Unit)11と、バス12と、ROM(Read Only Memory)13と、RAM(Random Access Memory)14と、不揮発性メモリ15とを備えている。
【0013】
CPU11は、システムプログラムに従って数値制御装置2の全体を制御するプロセッサである。CPU11は、バス12を介してROM13に格納されたシステムプログラムなどを読み出す。また、CPU11は、加工プログラムに従って、サーボモータ6およびスピンドルモータ8などを制御し、ワークの加工を行う。
【0014】
バス12は、数値制御装置2内の各ハードウェアを互いに接続する通信路である。数値制御装置2内の各ハードウェアはバス12を介してデータをやり取りする。
【0015】
ROM13は、数値制御装置2全体を制御するためのシステムプログラムなどを記憶する記憶装置である。
【0016】
RAM14は、各種データを一時的に格納する記憶装置である。RAM14は、工具の移動経路を示す指令情報、表示用のデータ、外部から入力されるデータなどを一時的に記憶する。RAM14は、CPU11が各種データを処理するための作業領域として機能する。
【0017】
不揮発性メモリ15は、工作機械1の電源が切られ、数値制御装置2に電力が供給されていない状態でもデータを保持する記憶装置である。不揮発性メモリ15は、例えば、SSD(Solid State Drive)で構成される。不揮発性メモリ15は、例えば、入力装置4から入力された工具径などの工具の仕様に関する情報、工具補正に関する情報、工具寿命に関する情報、および、加工プログラムを記憶する。
【0018】
数値制御装置2は、さらに、第1のインタフェース16と、第2のインタフェース17と、軸制御回路18と、スピンドル制御回路19と、PLC(Programmable Logic Controller)20と、I/Oユニット21とを備えている。
【0019】
第1のインタフェース16は、バス12と表示装置3とを接続する。第1のインタフェース16は、例えば、CPU11が処理した各種データを表示装置3に送る。
【0020】
表示装置3は、第1のインタフェース16を介して各種データを受け、各種データを表示する。表示装置3は、例えば、不揮発性メモリ15に記憶された加工プログラム、工具補正に関する情報などを表示する。表示装置3は、LCD(Liquid Crystal Display)などのディスプレイである。
【0021】
第2のインタフェース17は、バス12と入力装置4とを接続する。第2のインタフェース17は、例えば、入力装置4から入力されたデータをバス12を介してCPU11に送る。
【0022】
入力装置4は、各種データを入力するための装置である。入力装置4は、例えば、工具補正に関する情報、および工具の仕様に関する情報の入力を受け、入力されたデータを第2のインタフェース17を介して不揮発性メモリ15に送る。入力装置4は、例えば、キーボード、およびマウスである。なお、入力装置4と表示装置3とは、例えば、タッチパネルのように1つの装置として構成されてもよい。
【0023】
軸制御回路18は、サーボモータ6を制御する回路である。軸制御回路18は、CPU11からの制御指令を受けてサーボモータ6を駆動させるための指令をサーボアンプ5に出力する。軸制御回路18は、例えば、サーボモータ6のトルクを制御するトルクコマンドをサーボアンプ5に送る。また、軸制御回路18は、サーボモータ6の回転速度を制御する回転速度コマンドをサーボアンプ5に送ってもよい。
【0024】
サーボアンプ5は、軸制御回路18からの指令を受けて、サーボモータ6に電力を供給する。
【0025】
サーボモータ6は、サーボアンプ5から電力の供給を受けて駆動する。サーボモータ6は、例えば、刃物台、主軸頭、テーブルを駆動させるボールねじに連結される。サーボモータ6が駆動することにより、刃物台、主軸頭、テーブルなどの工作機械1の構成要素は、例えば、X軸方向、Y軸方向、またはZ軸方向に移動する。
【0026】
スピンドル制御回路19は、スピンドルモータ8を制御するための回路である。スピンドル制御回路19は、CPU11からの制御指令を受けてスピンドルモータ8を駆動させるための指令をスピンドルアンプ7に出力する。スピンドル制御回路19は、例えば、スピンドルモータ8のトルクを制御するトルクコマンドをスピンドルアンプ7に送る。また、スピンドル制御回路19は、スピンドルモータ8の回転速度を制御する回転速度コマンドをスピンドルアンプ7に送ってもよい。
【0027】
スピンドルアンプ7は、スピンドル制御回路19からの指令を受けて、スピンドルモータ8に電力を供給する。
【0028】
スピンドルモータ8は、スピンドルアンプ7から電力の供給を受けて駆動する。スピンドルモータ8は、主軸に連結され、主軸を回転させる。
【0029】
PLC20は、ラダープログラムを実行して周辺機器9を制御する制御装置である。PLC20は、I/Oユニット21を介して周辺機器9を制御する。
【0030】
I/Oユニット21は、PLC20と周辺機器9とを接続するインタフェースである。I/Oユニット21は、PLC20から受けた指令を周辺機器9に送る。
【0031】
周辺機器9は、工作機械1に設置され、工作機械1がワークの加工を行う際の補助的な動作を行う装置である。周辺機器9は、工作機械1の周辺に設置される装置であってもよい。周辺機器9は、例えば、工具交換装置、およびマニピュレータなどのロボットである。
【0032】
次に、数値制御装置2の各部の機能について説明する。
【0033】
図2は、数値制御装置2の機能の一例を示すブロック図である。数値制御装置2は、例えば、情報記憶部31と、情報取得部32と、座標変換部33と、制御部34とを備えている。
【0034】
情報記憶部31は、入力装置4などから入力されたデータ、またはCPU11による演算処理の演算結果がRAM14、または不揮発性メモリ15に記憶されることにより実現される。また、情報取得部32、座標変換部33、および制御部34は、例えば、CPU11がROM13に記憶されているシステムプログラム、および各種データを用いて演算処理することにより実現される。CPU11は、作業領域としてRAM14を用いて演算処理を実行する。
【0035】
情報記憶部31は、回転座標系における座標値を基準座標系における座標値に変換するための座標変換情報を記憶する。
【0036】
座標系とは工作機械1上における位置を表すための基準となる原点、座標軸などの総称である。座標系は、例えば、互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸からなる3軸直交座標系である。
【0037】
工作機械1は、基準座標系における座標値に基づいてワークの加工を行う。工作機械1がマシニングセンタである場合、基準座標系は、例えば、Z軸と主軸とが平行であり、かつ、X軸とY軸とがそれぞれ、テーブルの移動方向に平行になるように設定される。また、工作機械1が旋盤である場合、基準座標系は、例えば、Z軸と主軸とが平行であり、かつ、X軸とY軸とがそれぞれ、刃物台の移動方向に平行になるように設定される。
【0038】
回転座標系とは、工具の向き、または工具の切り込み方向に合わせて設定される座標系であり、基準座標系を所定の軸回りに所定の角度回転させた座標系である。回転座標系は、さらに、必要に応じて所定の軸方向に平行移動させた座標系であってもよい。
【0039】
図3は、基準座標系と回転座標系との関係を説明する図である。基準座標系CcのZ軸は主軸Sの長手方向に平行であり、X軸およびY軸は、テーブルTBの移動方向にそれぞれ平行である。回転座標系CrのZ軸は、工具Tの長手方向に平行である。回転座標系Crは、基準座標系CcをX軸回りに角度θだけ回転させた座標系である。基準座標系Ccの原点と回転座標系Crの原点とは必ずしも一致している必要はない。回転座標系Crの原点は、基準座標系Ccの原点をX軸、Y軸、Z軸方向にそれぞれΔX、ΔY、ΔZだけ平行移動した点であってもよい。
【0040】
座標変換情報は、回転座標系Crにおける座標値を基準座標系Ccにおける座標値に変換するための情報である。座標変換情報は、例えば、基準座標系Ccと回転座標系Crとの差分を示す座標差分情報である。座標差分情報は、回転座標系Crの回転中心を示す情報、および回転角度を示す情報を含む。ただし、座標差分情報には基準座標系Ccの原点から回転座標系Crの原点への平行移動量ΔX、ΔY、ΔZは含まれない。
【0041】
座標変換情報は、主軸Sに対する工具Tの取り付け方向に応じて設定される。
図3に示す例では、工具Tは、主軸Sに対してX軸周りに角度θだけ傾けるためのアングルヘッドAHに取り付けられている。この場合、座標変換情報は、回転座標系Crの回転中心であるX軸、および角度θを示す情報を含む。
【0042】
また、情報記憶部31は、座標変換情報を各工具Tに割り当てられた固有の識別情報に関連付けて記憶する。工具Tに割り当てられた固有の識別情報とは、例えば、各工具Tの工具番号である。情報記憶部31は、各工具Tに固有の識別情報に関連付けて工具種類を示す情報を記憶してもよい。
【0043】
図4は、情報記憶部31が記憶する情報の一例を示す図である。情報記憶部31は、工具番号に関連付けて、工具種類を示す情報および座標変換情報を記憶する。
【0044】
具体的に、工具番号11には、工具種類として「ドリル」、座標変換情報として「X:45」が関連付けて記憶されている。「X:45」は、回転座標系Crが基準座標系CcのX軸回りに45°回転したものであることを示す。換言すれば、工具Tが主軸Sの長手方向に対してX軸回りに45°回転した向きに取り付けられていることを示す。
【0045】
工具番号12には、工具種類として「タップ」、座標変換情報として「X:45」が関連付けて記憶されている。また、工具番号13には、工具種類として「エンドミル」、座標変換情報として「Null」が関連付けて記憶されている。「Null」は、回転座標系Crと基準座標系Ccとの間に差がなく、工具Tの長手方向が主軸Sの長手方向と平行に取り付けられていることを示す。
【0046】
座標変換情報は、例えば、ユーザにより、入力装置4から入力されて情報記憶部31に記憶される。
【0047】
【0048】
情報取得部32は、加工プログラムを読み込み、読み込んだ加工プログラムを解読する。また、情報取得部32は、解読した加工プログラムから加工指令情報を取得する。加工指令情報は、工具交換指令、および座標変換指令を含む。また、加工指令情報は、位置決め指令、および直線補間指令などの工具Tの移動経路を示す指令情報を含む。
【0049】
図5は、ワークの加工に用いられる加工プログラムの一例を示す図である。
【0050】
第1行目の指令「M6 T11」は、工具番号11の工具Tへの工具交換指令である。
【0051】
第2行目の指令「G90」、および「G00 X0.0 Y0.0 Z10.0」はそれぞれ、アブソリュート指令、および位置決め指令である。これらの指令は、基準座標系Ccにおける位置(0.0,0.0,10.0)に工具Tを位置決めする指令である。
【0052】
第3行目の指令「G68.1」、および「X0.0 Y-20.0 Z-20.0」はそれぞれ、座標変換指令、および基準座標系Ccの原点から回転座標系Crの原点への平行移動量を示している。この平行移動量は基準座標系Ccでの座標値で指定される。また、「G68.1」のみを指令した場合、平行移動量はないものとみなされる。すなわち、基準座標系Ccの原点と回転座標系Crの原点は一致する。座標変換指令は、座標変換がキャンセルされるまでの座標値を、基準座標系Ccにおける座標値に座標変換する指令である。つまり、座標変換指令と座標変換のキャンセル指令との間に書かれている座標値は、回転座標系Crにおける座標値であり、後述する座標変換部33によって基準座標系Ccにおける座標値に座標変換される。
【0053】
第4行目の指令「G00 X10.0 Y-20.0 Z5.0」は、位置決め指令である。この位置決め指令における座標値は、回転座標系Crにおける座標値である。
【0054】
第5行目の指令「M3 S1000」は主軸正転指令である。主軸正転指令は、主軸Sを回転数1,000[rpm]で正転させる指令である。
【0055】
第6行目の指令「G01 Z-20.0 F0.1」は、直線補間指令である。この直線補間指令は、Z:-20の位置まで0.1[mm/rev]の送り速度で工具Tを移動させる指令である。
【0056】
第9行目の指令「G69」は座標変換キャンセル指令である。この指令により座標変換がキャンセルされる。
【0057】
情報取得部32は、加工プログラムからこれらの加工指令情報を取得する。
【0058】
【0059】
座標変換部33は、情報取得部32によって座標変換指令が取得された場合、情報取得部32によって取得された工具Tの移動経路を示す座標値を座標変換情報に基づいて座標変換する。座標変換部33は、座標変換指令が実行されてから座標変換キャンセル指令が実行されるまでの間の工具Tの移動経路を示す座標値を座標変換する。
【0060】
例えば、情報記憶部31に
図4に示す情報が記憶され、
図5に示す加工プログラムが実行された場合、座標変換部33は、工具Tの位置決め指令における座標値(10.0,-20.0,5.0)、および直線補間指令における座標値(10.0,-20.0,-20.0)を工具番号11の工具Tに関連付けられた座標変換情報「X:45」、および基準座標系Ccの原点からの平行移動量「X0.0 Y-20.0 Z-20.0」に基づいて座標変換する。具体的に、座標変換部33は、これらの座標値をX軸回りに45°回転させ、かつ、X軸、Y軸、Z軸方向にそれぞれ0.0、-20.0、-20.0だけ平行移動させることにより座標変換を行う。
【0061】
座標変換部33は、例えば、座標変換情報に基づいて回転座標系Crにおける座標値を基準座標系Ccにおける座標値に座標変換するための座標変換行列を生成する。回転座標系Crが基準座標系Ccに対してX軸回りに角度θだけ回転した座標系である場合、座標変換部33は、以下の数1式で示す座標変換行列Rx(θ)を加工プログラムから取得された座標値に乗算することにより基準座標系Ccにおける座標値を求める。これにより、加工プログラムから取得された回転座標系Crにおける座標値を基準座標系Ccにおける座標値に変換することができる。
【0062】
【0063】
【0064】
制御部34は、情報取得部32によって解読された加工プログラムに基づいて各軸の制御を行い、ワークの加工を行う。制御部34は、基準座標系Ccにおける座標値に基づいて各軸の制御を行う。加工プログラムにおいて座標変換指令が指令されている場合、制御部34は、座標変換部33によって座標変換された座標値に基づいて、工具Tの移動を制御する。
【0065】
次に、ワークの加工時に数値制御装置2において実行される処理について説明する。
【0066】
図6は、ワークの加工時に数値制御装置2おいて実行される処理を示すフローチャートである。
【0067】
まず、情報取得部32は、加工プログラムを読み込む(ステップSA01)。
【0068】
次に、情報取得部32は、読み込んだ加工プログラムの解読を行う(ステップSA02)。
【0069】
次に、情報取得部32は、解読を行った加工プログラムから加工指令情報を取得する(ステップSA03)。
【0070】
次に、情報取得部32は、加工指令情報に座標変換指令が含まれている場合、情報記憶部31に記憶されている座標変換情報を取得する(ステップSA04)。
【0071】
次に、座標変換部33は、座標変換指令と座標変換キャンセル指令との間に書かれた工具Tの移動経路を示す座標値を座標変換情報に基づいて座標変換する(ステップSA05)。
【0072】
最後に、制御部34は、加工指令情報および座標変換された座標値などに基づいて各軸の制御を行う(ステップSA06)。
【0073】
以上説明したように、第1の実施形態の数値制御装置2では、回転座標系Crにおける座標値を基準座標系Ccにおける座標値に変換するための座標変換情報を工具Tに割り当てられた識別情報に関連付けて記憶する情報記憶部31と、識別情報が割り当てられた工具Tの移動経路を示す座標値を加工プログラムから取得する情報取得部32と、情報記憶部31に記憶された座標変換情報に基づいて、情報取得部32によって取得された座標値の座標変換を実行する座標変換部33と、を備える。
【0074】
したがって、加工プログラムに座標変換のための座標系の回転中心、回転方向、および回転量などの情報を書き込む必要がない。その結果、加工プログラムの可読性を高め、加工ミスを低減することができる。
【0075】
また、第1の実施形態の数値制御装置2では、座標変換情報には、回転座標系Crと基準座標系Ccとの差分を示す座標差分情報が含まれ、座標変換部33は、座標差分情報に基づいて座標変換を実行する。
【0076】
そのため、情報記憶部31に記憶させる情報を簡略化することができる。
【0077】
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態について図面を用いて説明する。なお、第1の実施形態と同じ構成については、説明を省略する。
【0078】
数値制御装置2は、
図2に示すとおり、例えば、情報記憶部31と、情報取得部32と、座標変換部33と、制御部34とを備えている。
【0079】
情報記憶部31は、回転座標系Crにおける座標値を基準座標系Ccにおける座標値に変換するための座標変換情報を記憶する。座標変換情報は、基準方向情報と、切込方向情報とを含む。
【0080】
基準方向情報は、工具種類に応じて定められた基準となる加工方向を示す情報である。例えば、工具Tがバイトなどの旋削工具である場合、基準となる加工方向は、基準座標系Ccにおける-X方向である。
【0081】
切込方向情報は、工具Tの切り込み方向を示す情報である。例えば、旋削工具が基準座標系CcにおけるX-Z平面に略平行に取り付けられ、-X方向に向けて切り込みが行われる場合、旋削工具の切り込み方向は-X方向である。この場合、基準となる加工方向と工具Tの切り込み方向とは一致する。
【0082】
一方、旋削工具が基準座標系CcにおけるY-Z平面に略平行に取り付けられ、-Y方向に向けて切り込みが行われる場合、旋削工具の切り込み方向は-Y方向である。この場合、工具の切り込み方向は、基準となる加工方向をZ軸回りに90°回転させた方向となる。
【0083】
図7は、基準となる加工方向と切り込み方向を説明する図である。
図7において、工具ホルダTHには旋削工具Ttが取り付けられている。この場合、基準となる加工方向は、基準座標系Ccにおける-X方向である。また、旋削工具Ttは基準座標系CcにおけるY-Z平面に対して略平行に取り付けられており、ワークの旋削時に旋削工具Ttは-Y方向に向けて切り込まれる。この場合、旋削工具Ttの切り込み方向は-Y方向である。つまり、旋削工具Ttの切り込み方向は、基準となる加工方向をZ軸回りに90°回転させた向きとなる。
【0084】
図8は、情報記憶部31が記憶する情報の一例を示す図である。情報記憶部31には、工具番号に関連付けて、工具種類を示す情報、基準方向情報、および切込方向情報が記憶される。
【0085】
具体的に、工具番号121には、工具種類として「旋削」、基準方向情報として「-X」、切込方向情報として「Null」が関連付けて記憶されている。この場合、工具Tの切込方向は、基準となる加工方向に一致する。
【0086】
工具番号122には、工具種類として「旋削」、基準方向情報として「-X」、切込方向情報として「-Y」が関連付けて記憶されている。この場合、工具Tは、基準座標系CcにおけるY-Z平面に略平行に取り付けられ、かつ、-Y方向に向けて切り込みが行われる。
【0087】
工具番号123には、工具種類として「ねじ切り」、基準方向情報として「-X」、切込方向情報として「Null」が関連付けて記憶されている。この場合、ねじ切り工具の切り込み方向は、基準となる加工方向に一致する。
【0088】
情報取得部32(
図2参照)は、加工プログラムの読み込みを行い、加工プログラムを解読する。情報取得部32は、解読した加工プログラムから加工指令情報を取得する。加工指令情報は、工具交換指令、および座標変換指令を含む。また、加工指令情報は、位置決め指令、および直線補間指令などの工具Tの移動経路を示す指令情報を含む。
【0089】
座標変換部33(
図2参照)は、情報取得部32によって座標変換指令が取得された場合、情報取得部32によって取得された工具Tの移動経路を示す座標値を座標変換情報に基づいて座標変換する。座標変換部33は、座標変換指令が実行されてから座標変換キャンセル指令が実行されるまでの間の工具Tの移動経路を示す座標値を座標変換する。
【0090】
座標変換部33は、基準方向情報と切込方向情報とに基づいて座標変換を行う。座標変換部33は、基準方向情報が示す基準となる加工方向と切込方向情報が示す切り込み方向と差に基づいて座標変換を実行する。
【0091】
例えば、情報記憶部31に
図8に示す情報が記憶され、
図9に示す加工プログラムが実行された場合、座標変換部33は、座標変換指令「G68.1」と座標変換キャンセル指令「G69」との間で指令された座標値を工具番号122に関連付けられた基準方向情報「-X」および切込方向情報「-Y」に基づいて座標変換する。
【0092】
ここで、工具番号122の旋削工具Ttの切り込み方向と、基準となる加工方向との差は、Z軸回りにおいて90°である。この場合、回転座標系Crは基準座標系CcをZ軸回りに90°回転させた座標系である。したがって、座標変換部33は、座標変換指令と座標変換キャンセル指令との間で指令された座標値をZ軸回りに90°回転させた座標値を求めることにより、座標変換を行う。
【0093】
座標変換部33は、例えば、座標変換情報に基づいて回転座標系Crにおける座標値を基準座標系Ccにおける座標値に座標変換するための座標変換行列を生成する。座標変換部33は、生成した座標変換行列と回転座標系Crにおける座標値を乗算して基準座標系Ccにおける座標値を求める。
【0094】
制御部34は、情報取得部32によって解読された加工プログラムに基づいて各軸の制御を行い、ワークの加工を行う。制御部34は、基準座標系Ccにおける座標値に基づいて各軸の制御を行う。加工プログラムにおいて座標変換指令が指令されている場合、制御部34は、座標変換部33によって座標変換された基準座標系Ccにおける座標値に基づいて、工具Tの移動を制御する。
【0095】
以上説明したように、第2の実施形態の数値制御装置2では、座標変換情報が、工具Tごとに設定される工具Tの基準となる加工方向を示す基準方向情報と、工具Tの切り込み方向を示す切込方向情報とを含み、座標変換部33が、基準方向情報が示す方向と、切込方向情報が示す方向との差に基づいて座標変換を実行する。
【0096】
したがって、加工プログラムに座標変換のための座標系の回転中心、回転方向、および回転量などの情報を書き込む必要がない。その結果、加工プログラムの可読性を高め、加工ミスを低減することができる。
【0097】
[第3の実施形態]
次に、第3の実施形態について図面を用いて説明する。なお、第1の実施形態と同じ構成については、説明を省略する。
【0098】
数値制御装置2は、
図2に示すとおり、例えば、情報記憶部31と、情報取得部32と、座標変換部33と、制御部34とを備えている。
【0099】
情報記憶部31は、回転座標系Crにおける座標値を基準座標系Ccにおける座標値に変換するための座標変換情報を記憶する。座標変換情報は、基準方向情報を含む。
【0100】
基準方向情報は、工具種類に応じて定められる基準となる加工方向を示す情報である。例えば、工具Tがバイトなどの旋削工具Ttである場合、工具Tの基準となる加工方向は、基準座標系Ccにおける-X方向である。
【0101】
図10は、情報記憶部31が記憶する情報の一例を示す図である。情報記憶部31には、工具番号に関連付けて、工具種類を示す情報、および基準方向情報が記憶される。具体的には、工具番号131には、工具種類として「旋削」、基準方向情報として「-X」が関連付けて記憶されている。
【0102】
工具番号132には、工具種類として「旋削」、基準方向情報として「-X」が関連付けて記憶されている。
【0103】
工具番号133には、工具種類として「ねじ切り」、基準方向情報として「-X」が関連付けて記憶されている。
【0104】
情報取得部32(
図2参照)は、加工プログラムの読み込みを行い、加工プログラムを解読する。情報取得部32は、解読した加工プログラムから加工指令情報を取得する。加工指令情報は、工具交換指令、および座標変換指令を含む。また、加工指令情報は、位置決め指令、および直線補間指令などの工具Tの移動経路を示す指令情報を含む。
【0105】
座標変換部33は、情報取得部32によって座標変換指令が取得された場合、工具Tの位置を示す位置情報を取得する。座標変換部33は、情報取得部32によって取得された工具Tの移動経路を示す座標値を座標変換情報および工具Tの位置を示す位置情報に基づいて座標変換する。座標変換部33は、座標変換指令が実行されてから座標変換キャンセル指令が実行されるまでの間の工具Tの移動経路を示す座標値を座標変換する。
【0106】
例えば、情報記憶部31に
図10に示す情報が記憶され、
図11に示す加工プログラムが実行された場合、工具番号132の工具Tの位置決め指令「G90 G00 X0.0 Y50.0 Z50.0」から工具Tの位置情報が取得される。つまり、座標変換時における工具の位置を示す位置情報が取得される。また、取得された工具Tの位置情報に基づいて工具Tの切り込み方向が判断される。例えば、上記位置決め指令によって工具TがY-Z平面上における+Y側に位置決めされた場合、工具Tの切り込み方向は-Y方向であると判断される。
【0107】
一方、工具番号132の工具Tの基準となる加工方向は「-X」方向である。つまり、工具Tの切り込み方向は、基準となる加工方向をZ軸回りに90°回転させた方向である。換言すれば、工具Tの基準となる加工方向と切り込み方向との差はZ軸回りにおいて90°である。この場合、工具の移動経路が指令される回転座標系Crは基準座標系CcをZ軸回りに90°回転させた座標系である。したがって、座標変換部33は、座標変換指令と座標変換キャンセル指令との間で指令された座標値をZ軸回りに90°回転させた座標値を求めることにより、座標変換を行う。
【0108】
制御部34は、情報取得部32によって解読された加工プログラムに基づいて各軸の制御を行い、ワークの加工を行う。加工プログラムにおいて座標変換指令が指令されている場合、制御部34は、座標変換部33によって座標変換された基準座標系Ccにおける座標値に基づいて、工具Tの移動を制御する。
【0109】
図12は、ワークの加工時に数値制御装置2において実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【0110】
まず、情報取得部32は、加工プログラムを読み込む(ステップSB01)。
【0111】
次に、情報取得部32は、読み込んだ加工プログラムの解読を行う(ステップSB02)。
【0112】
次に、情報取得部32は、解読を行った加工プログラムから加工指令情報を取得する(ステップSB03)。
【0113】
次に、情報取得部32は、加工指令情報に座標変換指令が含まれている場合、情報記憶部31に記憶されている座標変換情報を取得する(ステップSB04)。
【0114】
次に、座標変換部33は、工具Tの位置を示す位置情報を取得する(ステップSB05)。
【0115】
次に、座標変換部33は、座標変換指令と座標変換キャンセル指令との間に書かれた工具Tの移動経路を示す座標値を座標変換情報と工具Tの位置を示す位置情報とに基づいて基準座標系Ccにおける座標値に座標変換する(ステップSB06)。
【0116】
最後に、制御部34は、加工指令情報および座標変換された座標値などに基づいて各軸の制御を行う(ステップSB07)。
【0117】
以上説明したように、第3の実施形態の数値制御装置2では、座標変換情報が、工具Tごとに設定される基準加工方向を示す基準加工方向情報を含み、座標変換部33は、基準加工方向情報と工具Tの位置情報に基づいて座標変換を実行する。
【0118】
したがって、加工プログラムに座標変換のための座標系に係る情報を書き込む必要がない。その結果、加工プログラムの可読性を高め、加工ミスを低減することができる。
【0119】
なお、上述した第1の実施の形態、第2の実施形態、および第3の実施形態における各構成は、適宜、組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0120】
1 工作機械
2 数値制御装置
3 表示装置
4 入力装置
5 サーボアンプ
6 サーボモータ
7 スピンドルアンプ
8 スピンドルモータ
9 周辺機器
11 CPU
12 バス
13 ROM
14 RAM
15 不揮発性メモリ
16 第1のインタフェース
17 第2のインタフェース
18 軸制御回路
19 スピンドル制御回路
20 PLC
21 I/Oユニット
31 情報記憶部
32 情報取得部
33 座標変換部
34 制御部
AH アングルヘッド
Cc 基準座標系
Cr 回転座標系
S 主軸
TB テーブル
T 工具
Tt 旋削工具
TH 工具ホルダ