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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】機械化学的アンモニア合成方法
(51)【国際特許分類】
   C01C 1/04 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
C01C1/04 E
C01C1/04 C
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022580329
(86)(22)【出願日】2020-12-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-25
(86)【国際出願番号】 KR2020019127
(87)【国際公開番号】W WO2022004979
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2022-12-26
(31)【優先権主張番号】10-2020-0080499
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515351884
【氏名又は名称】ユニスト(ウルサン ナショナル インスティテュート オブ サイエンス アンド テクノロジー)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジョン-ボム・ベク
(72)【発明者】
【氏名】ソク-ジン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ガオ-フェン・ハン
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特表平06-507369(JP,A)
【文献】特開2018-028124(JP,A)
【文献】特開2019-104005(JP,A)
【文献】国際公開第2010/114936(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0072499(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01C 1/00-1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)Fe粒子を窒素(N)雰囲気において、ボールと共に、一次ボールミリングする段階と、
(b)前記一次ボールミリングがなされた前記Fe粒子を、水素(H)雰囲気において、ボールと共に、二次ボールミリングする段階と、を含む、機械化学的アンモニア製造方法。
【請求項2】
前記(a)段階において、前記ボールとの衝突により、前記Fe粒子上に、窒素(N)が吸着され、窒素原子(N*)として解離されうるサイトを提供する活性欠陥が生成される、請求項1に記載の機械化学的アンモニア製造方法。
【請求項3】
前記(a)段階において、前記活性欠陥に、窒素原子(N*)が吸着されたFe(N*)粒子が形成される、請求項2に記載の機械化学的アンモニア製造方法。
【請求項4】
前記(a)段階において、Fe粒子上に吸着された窒素原子(N*)が、前記(b)段階において水素化され、NH*またはNH*の中間生成物、またはアンモニア(NH)を生成する、請求項1に記載の機械化学的アンモニア製造方法。
【請求項5】
前記中間生成物がいずれもアンモニアに変換されるまで、前記(b)段階を反復する、請求項4に記載の機械化学的アンモニア製造方法。
【請求項6】
一次ボールミリングにより、前記Fe粒子の活性欠陥の密度が高くなる、請求項1に記載の機械化学的アンモニア製造方法。
【請求項7】
前記(a)段階は、20℃ないし100℃の温度範囲においてなされる、請求項1に記載の機械化学的アンモニア製造方法。
【請求項8】
前記(a)段階は、1barないし20barの圧力範囲下においてなされる、請求項1に記載の機械化学的アンモニア製造方法。
【請求項9】
前記一次ボールミリング及び前記二次ボールミリングは、ボールミル容器内で行われ、
前記(a)段階において、200rpmないし1,000rpm範囲のボールミル容器の回転速度でボールミリングされる、請求項1に記載の機械化学的アンモニア製造方法。
【請求項10】
前記(a)段階と前記(b)段階との間に、前記窒素(N)雰囲気を、前記水素(H)雰囲気に変更する段階をさらに含む、請求項1に記載の機械化学的アンモニア製造方法。
【請求項11】
前記(b)段階は、40℃ないし100℃の温度範囲においてなされる、請求項1に記載の機械化学的アンモニア製造方法。
【請求項12】
前記(b)段階は、1barないし20barの圧力範囲下においてなされる、請求項1に記載の機械化学的アンモニア製造方法。
【請求項13】
前記一次ボールミリング及び前記二次ボールミリングは、ボールミル容器内において行われ、
前記(b)段階において、200rpmないし1,000rpm範囲のボールミル容器の回転速度でボールミリングされる、請求項1に記載の機械化学的アンモニア製造方法。
【請求項14】
前記ボールは、Feを含むボールである、請求項1に記載の機械化学的アンモニア製造方法。
【請求項15】
前記Fe含有ボールは、FeによってなるFeボールである、請求項1に記載の機械化学的アンモニア製造方法。
【請求項16】
(a)段階において、前記Fe粒子の直径は、10nmないし100μm範囲である、請求項1に記載の機械化学的アンモニア製造方法。
【請求項17】
(b)段階において、前記Fe(N*)粒子の直径は、前記Fe粒子の直径より小さい、請求項1に記載の機械化学的アンモニア製造方法。
【請求項18】
(c)前記(b)段階後、生成されたアンモニアが分離される段階をさらに含む、請求項1に記載の機械化学的アンモニア製造方法。
【請求項19】
前記(c)段階後、前記Fe粒子は、オストヴァルト熟成により、さらに大きい粒子に成長する、請求項18に記載の機械化学的アンモニア製造方法。
【請求項20】
前記(c)段階後、再生された前記Fe粒子を再使用し、前記(a)及び前記(b)段階を反復する、請求項18に記載の機械化学的アンモニア製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニア(NH)は、肥料、爆発物、プラスチック、及びその他化学物質に最も重要な産業供給原料のうち一つである。2019年、全世界において、毎年、約1億4千万トンのアンモニアが生産され、アンモニアは、世界10大化学物質のうち一つである。最新、アンモニア合成法は、400~500℃、及び100bar以上において、窒素(N)と水素(H)とから合成するハーバー・ボッシュ(Haber-Bosch)工程である。該ハーバー・ボッシュ工程の反応である0.5N+1.5H⇔NH(H=-46.22kJmol-1)は、発熱反応であるので、温度を低くすれば、理論的に、ルシャトリエ(Le Chatelier)の原理観点から、NHへの転換を促進することができる。しかしながら、高いN解離(dissociation)エネルギーと、水素の強い吸着エネルギーとがアンモニア生成を阻害し、該ハーバー・ボッシュ工程は、大気条件で起こりえない。従って、低温において、熱力学的平衡がNHに有利であることと、低圧工程の容易性とのために、科学界において、絶えることなく、該ハーバー・ボッシュ工程より穏やかなアンモニア合成方法を求めている。しかしながら、望みかなわず、今日においても、アンモニア合成は、100年前と同一の基本構成を有している。
【0003】
熱力学的に、反応エンタルピー(enthalpy of reaction)を考慮すれば、N解離のための活性化エネルギーは、必然的に、中間体の強い結合エネルギーを必要とする。産業に使用されているハーバー・ボッシュ工程の高温は、安定したN分子の解離、及び強く吸着された中間体(N*、NH*及びNH2*)の脱着を促進するためのものであり、少しでも反応を促進するために、該ルシャトリエ原理から超高圧が採択される。従って、そのような高エネルギーアンモニア合成条件を緩和させるために、BEP(Bell-Evans-Polanyi)関係を崩す方法を求めることが必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、高温高圧のアンモニア合成条件を緩和させることができるアンモニア合成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一具現例による機械化学的アンモニア製造方法は、
(a)Fe粒子を窒素(N)雰囲気において、ボールと共に、一次ボールミリングする段階と、
(b)前記一次ボールミリングがなされた前記Fe粒子を、水素(H)雰囲気において、ボールと共に、二次ボールミリングする段階と、を含む。
前記(a)段階において、前記ボールとの衝突により、前記Fe粒子上に、窒素(N)が吸着され、窒素原子(N*)として解離されうるサイトを提供する活性欠陥(active defect)が生成されうる。
前記(a)段階において、前記活性欠陥に、窒素原子(N*)が吸着されたFe(N*)粒子が形成されうる。
【0006】
前記(a)段階において、Fe粒子上に吸着された窒素原子(N*)が、前記(b)段階において水素化され、NH*またはNH*の中間生成物、またはアンモニア(NH)を生成することができる。
【0007】
前記中間生成物がいずれもアンモニアに変換されるまで、前記(b)段階を反復することができる。
【0008】
前記ボールリングにより、前記Fe粒子の活性化欠陥の密度が高くなりうる。
【0009】
前記(a)段階は、20℃ないし100℃の温度範囲においてもなされる。
【0010】
前記(a)段階は、1barないし20barの圧力範囲下においてもなされる。
【0011】
前記(a)段階と前記(b)段階との間に、前記窒素(N)雰囲気を、前記水素(H)雰囲気に変更する段階をさらに含むものでもある。
【0012】
前記(a)段階において、200rpmないし1,000rpm範囲の回転速度でもってもボールミリングされる。
【0013】
前記(b)段階は、40℃ないし100℃の温度範囲においてもなされる。
【0014】
前記(b)段階は、1barないし20barの圧力範囲下においてもなされる。
【0015】
前記(b)段階において、200rpmないし1,000rpm範囲の回転速度でもってもボールミリングされる。
【0016】
前記ボールは、Feを含むボールでもある。
【0017】
前記Fe含有ボールは、FeによってなるFeボールでもある。
【0018】
該(a)段階において、前記Fe粒子の直径は、10nmないし1mm、例えば、10nmないし100μm範囲でもある。
【0019】
該(b)段階において、前記Fe(N*)粒子の直径は、5nm~500μm、例えば、5nm~50μm範囲でもあり、使用されたFe粒子の直径よりも小さくなる。
【0020】
(c)前記(b)段階後、生成されたアンモニアを分離する段階をさらに含むものでもある。
【0021】
前記(c)段階後、前記Fe粒子は、オストヴァルト熟成(Ostwald ripening)により、さらに大きい粒子に成長しうる。
【0022】
前記(c)段階後、再生された前記Fe粒子を再使用し、前記(a)及び前記(b)段階を反復することができる。
【発明の効果】
【0023】
Fe粒子を利用したボールミリングによる機械化学的方法により、低い温度と低い圧力との穏やかな条件でもって、アンモニアを合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】一具現例による機械化学的方法を利用したアンモニア合成メカニズムを概略的に図示した図である。
図2】実験例1ないし6で測定されたボールミル容器の回転速度による容器温度、及び吸着された窒素の体積グラフである。
図3】実験例7ないし11で測定されたN体積対ボールミル時間のグラフである。
図4】実験例7ないし11で測定されたN体積対ボールミル時間の自然ログのグラフである。
図5】実験例12ないし15で測定されたボールミル容器の回転速度によるボールミル容器温度及びアンモニア体積のグラフである。
図6】実験例16ないし20で測定されたアンモニア体積対ボールミル時間のグラフである。
図7】実験例16ないし20で測定されたアンモニア体積の自然ログ対ボールミル時間のグラフである。
図8】実験例21ないし28で測定されたH圧力によるアンモニア濃度及びアンモニア体積のグラフである。
図9A】実験例21ないし28に係わる全体GCスペクトルである。
図9B】Hピークが示された時間帯のGCスペクトルである。
図9C】アンモニアピークが示された時間帯のGCスペクトルである。
図10】実験例29で生成されたアンモニアの体積を、反復サイクル回数に対して示したグラフである。
図11】活性化(activated)Fe粒子とFe(N*)粒子とのXRDパターンを示すグラフである。
図12A】商用のFeN粒子のXPSグラフである。
図12B】Fe(N*)粒子のXPSグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下において、一具現例による機械化学的方法を利用したアンモニア合成方法について詳細に説明する。
【0026】
(アンモニア合成メカニズム)
図1は、一具現例による機械化学的方法を利用したアンモニア合成メカニズムを概略的に図示した図面である。図1を参照すれば、一具現例によるアンモニア合成メカニズムは、窒素解離(nitrogen dissociation)と水素化(hydrogenation)との2つの段階を含む。
【0027】
窒素解離(nitrogen dissociation)
窒素雰囲気下のリング過程において、リングボールとの反復的な衝突により、Fe粒子表面に欠陥(defect)が形成される。該欠陥は、窒素(N)が吸着され、窒素原子(N*)として解離されうるサイトを提供する活性欠陥(active defect)である。該Fe粒子は、衝突により、さらに小さいFe粒子にクラッキングされつつ、粒子の総表面積が増大する。該Fe粒子は、増大された表面積ほど、さらに多くの活性欠陥を生成することができ、従って、さらに多くの窒素(N)を吸着させるのに有利である。
【0028】
安定した窒素(N)は、Fe粒子の活性欠陥に吸着され、窒素原子(N*)として解離される。ボールミリングの間、Feボールとの反復的な衝突によって生成された活性欠陥は、窒素解離に非常に活発に作用することができる。該活性欠陥に位置したFe原子(活性Fe原子(active Fe atoms))は、窒素分子と結合することができる空スペースを有することになる。そのような空間は、窒素結合に極性を帯びるようにし、安定した窒素結合を一方に偏るようにし、窒素解離のための活性化エネルギーを低くするのに寄与することができる。また、該ボールミリングにより、Fe粒子表面の活性欠陥の密度が高くなるので、Fe粒子がさらに多くの窒素原子(N*)を吸着することができる。一方、Fe粒子内の窒素原子(N*)の濃度が高くなれば、吸着されたFe-Nの数が増えることになり、Fe-N間の距離が近くなることにより、Fe-N同士の反発効果(repulsion effect)が生じ、Fe-N結合が弱くなりうる。Fe-N結合が弱くなれば、アンモニア生成のためのN-H結合がさらに有利に起こりうる。
【0029】
水素化(hydrogenation)段階
Fe粒子上に吸着された窒素原子(N*)は、水素(H)雰囲気において、水素(H)との反応により、NH*、NH*またはNHに水素化される(NH*、NH*は、ラジカルを示す)。Fe粒子の表面に強く吸着されたNH*、NH*またはNHは、ボールミリングによる衝撃力による圧縮変形(compressive strain)により、Fe表面から分離されうる。Fe粒子からNH生成物が放出されれば、Fe粒子は、オストヴァルト熟成(Ostwald ripening)を介し、さらに大サイズに成長しうる。
【0030】
以下において、本具現例による機械化学的アンモニア製造方法につき、詳細に説明する。
【0031】
本具現例による機械化学的アンモニア製造方法は、前述のように、(a)窒素ガス(N)を窒素原子(N*)として解離させる段階と、(b)解離された窒素原子(N*)をアンモニアに水素化させる段階と、を含む。
【0032】
(a)段階においては、Fe粒子を窒素(N)雰囲気において、ボールと共にボールミリングし、Fe粒子上に窒素(N)を吸着させ、窒素原子(N*)を解離させる。ボールミリング過程において、ボールとの衝突により、Fe粒子上に活性欠陥が生成される。該活性欠陥に窒素(N)が吸着された後、窒素原子(N*)として解離されうる。従って、(a)段階において、解離された窒素原子(N*)が吸着されたFe(N*)粒子が生成されうる。該ボールミリングにより、Fe粒子のクラッキングにより、さらに多くのFe粒子が生成されたり、Fe粒子上の活性化欠陥の密度が高くなったりしうるので、窒素(N)の吸着、及び窒素原子(N*)への解離も、増大しうる。
【0033】
(a)のボールミリング段階は、室温においても行われる。ボールミル容器内の温度は、ボールミル容器の回転速度に比例して上昇する。該ボールミル容器の回転により、該ボールミル容器内の平均温度が、室温から約100℃まで上昇しうる。該ボールミル容器の回転速度は、例えば、200rpmないし1,000rpmの範囲を有しうる。(a)のボールミリング段階は、例えば、1barないし20barの圧力範囲においてもなされる。
【0034】
なお、ボールミリングに使用されるボールは、Fe成分を含むボールでもある。具体的には、該ボールは、Feによってなるボールでもある。該ボールは、例えば、2mmないし30mm範囲の直径を有しうる。前記範囲の直径を有する場合、ボールミリング時、Fe粒子との衝突により、効果的に、Fe粒子に活性欠陥を形成することができる。該Fe粒子は、Feによってなる粒子として、(a)段階において、10nmないし1mm、例えば、10nmないし100μm範囲の直径を有する粒子を投入して使用することができる。
【0035】
(a)段階において解離された窒素原子(N*)を、(b)段階において、アンモニアに水素化させるために、ボールミル容器内の窒素(N)雰囲気を水素(H)雰囲気に変更する。
【0036】
(b)のボールミリング段階は、室温においても行われる。ボールミル容器の回転により、該ボールミル容器内の平均温度が約100℃まで上昇しうる。(b)段階のボールミル容器内の開始温度は、(a)段階において、すでに行われたボールミリングによって発生した熱により、室温よりもさらに高い。該ボールミル容器内の温度は、該ボールミル容器の回転速度に比例して上昇する。該ボールミル容器の回転速度は、200rpmないし1,000rpmの範囲を有しうる。(a)のボールミリング段階は、1barないし20barの圧力範囲においてもなされる。
【0037】
(b)段階において、水素(H)雰囲気下においてFe粒子上に吸着されたN*原子が水素(H)と反応し、NH*またはNH*の中間生成物、またはアンモニア(NH)を生成しうる。NH*またはNH*の中間生成物がいずれもアンモニアに変換されるまで、(b)段階を反復することができる。(b)段階において、窒素原子(N*)が吸着されているFe(N*)粒子の直径は、(a)段階の前記Fe粒子の直径よりも小さい。このとき、Fe(N*)粒子の直径は、5nmないし500μm、例えば、5nmないし50μm範囲でもある。
【0038】
(b)段階後に生成されたアンモニアを分離する(c)段階をさらに含むものでもある。アンモニアの分離は、例えば、断熱膨張、アムモニウム塩生成反応、液化のような方法によっても行われる。アンモニアが分離された後、Fe粒子は、オストヴァルト熟成により、さらに大きい粒子に成長しうる。従って、ボールミリングにより、さらに小さい粒子にクラッキングされていたFe粒子は、アンモニアが分離された後、さらに、大きい粒子に成長し、ボールミリングにも再使用される。従って、(a)段階と(b)段階とを経たFe粒子は、反復して、(a)段階と(b)段階とにも再使用される。
実験例
【0039】
窒素の解離及び固定
Ar(99.999%(KOSEM Corp.、韓国))雰囲気のグローブボックス内において、Fe粒子[24g、直径<10μm、99.9% Fe(Alfa Aesar製カタログ番号:00170]及びFeボール(直径=5mm、99wt% Fe、500gの硬化鋼)をボールミル容器(250ml)に積載した。該グローブボックスにおける作業は、Fe粒子が空気と接触することを避け、Fe酸化(錆生成)を防止するためである。次に、該グローブボックスから、Fe粒子及びFeボールが充填されたボールミル容器を取り出した後、該ボールミル容器内のArガスをNガスで代替した。Nガスを連結する前、ガスラインを、まず、Nガスで徹底して洗浄した後、該ボールミル容器内の残留Arガスを除去するように、該ボールミル容器を、真空ポンプを使用し、Nガス(99.999%(KOSEM Corp.、韓国))で、5回以上充填/排出し、パージした。該ボールミル容器内のNガスの圧力は9barであり、該ガス圧力は、圧力ケージ(モデル801(Harris Calorific Co、米国))で測定した。Oは、窒素解離に悪影響を及ぼすので、O汚染を避けることが重要である。
【0040】
なお、Fe粒子上の窒素固定は、発熱過程であり、低温が有利であるために、機械的放熱速度を高くするように、ファン冷却器を使用した。また、30分のボールミリング作業当たり、10分間、ボールミリングを中断して熱を放出させた。そのようにして、Fe粒子の表面からNガスを解離させ、窒素原子(N*)を固定させ、窒素原子(N*)が固定されたFe粒子をFe(N*)粒子とする。
【0041】
アンモニア合成
製 造されたFe(N*)粒子を水素化させ、アンモニアを合成するために、ボールミル容器内の残留Nガスを、Hガス(99.999%(大成産業ガス株式会社、韓国))で代替した。NガスをHガスで置換する方法は、前述の、ArガスをNガスで置換する方法と同一である。該ボールミル容器内に充填されたHガスの圧力は、9barである(安全参照:水素化後、Fe粒子は、特に、容器に残っている一部Hガスを考慮し、空気に露出された後で活性化された表面の酸化により、収集する間、特別な注意が必要である。水素化後、グローブボックス内において、Fe粒子を収集することを勧めるが、該グローブボックスに移動する前、容器の残余ガス混合物(NH及びH)を完全に除去しなければならない)。
【0042】
Fe(N*)粒子の水素化過程は、窒素解離と異なり、吸熱過程であり、高温によって促進されうるので、前述のファン冷却器の使用を中断した。また、ボールミリングの連続作業60分当たり、10分冷却した。吸着された窒素原子(N*)を完全に除去するために、Fe(N*)水素化工程は、何回も遂行された。該水素化工程1回当たりボールミリング時間は、4時間であった。該水素化工程の1回当たりに吸着された窒素原子(N*)の約60%がアンモニアに水素化された。
【0043】
窒素解離及びボールミリングパラメータ
実験例1ないし6:窒素(N )吸着に係わるボールミル容器の回転速度の影響
容器温度は、ボールミリングの間の容器の回転によるボールの衝突によって生じた機械的な熱によって支配される。従って、容器の回転速度を調整することにより、容器温度を調整することができる。該容器温度は、赤外線温度計で測定された。同等な実験条件を保証するために、全ての実験において、ボールミル容器の総回転数を240,000サイクルに同一設定した。
【0044】
ボールミル容器の回転速度は、250,300,350,400,450及び500rpmに選択され、当該ボールミリング時間は、それぞれ、16.0,13.3,11.4,10,8.9及び8.0時間であった(実験例1ないし6)。実験例1ないし6において、同一Fe粒子を反復して使用した。Fe(N*)粒子を完全に水素化させた後、生成されたアンモニアの総量を測定することにより、Fe粒子に吸着された窒素(N)の体積を計算した。
【0045】
図2は、実験例1ないし6で測定されたボールミル容器回転速度によるボールミル容器の温度、及びボールミル容器内のFe粒子に吸着された全体窒素(N)の体積を示したグラフである。図2のグラフを参照すれば、ボールミル容器の回転速度が上昇するにつれ、ボールミル容器の温度が高くなることが分かる。また、図2のグラフにおいて、吸着された窒素(N)の体積が、ボールミル容器の回転速度に比例して増大加していて、400rpmで頂点に逹した後、低減するところが示されている。図2のグラフの曲線は、典型的な火山型プロットを示し、それは、N吸着工程が1対の競争要因によって支配されることを意味する。それら競争要因は、機械的衝撃によって生じるFe粒子及びボールの運動エネルギー、並びに熱エネルギーと推定される。該Fe粒子、及び該ボールの運動エネルギーは、Fe粒子に欠陥を生成し、窒素が吸着されるサイトを提供し、窒素解離を誘導することができる。それと反対に、ボールミル容器の温度として示される熱エネルギーは、Fe粒子に吸着された窒素(N)が、高温において高いエントロピーにより、容易に放出されうるので、窒素(N)の吸着に否定的な影響を及ぼしうる。図2のグラフにおいて、運動エネルギーと熱エネルギーとが均衡をなし、N吸着量を最大にする最適の回転速度は、400rpmと示される。
【0046】
実験例7ないし11:窒素(N )吸着に係わるボールミリング時間の影響
実験例7ないし11において、Fe粒子を500rpmの回転速度でもって、窒素(N)ガス(9bar)雰囲気において、ボールミリングした。選択されたボールミリング時間は、4,8,16,30及び50時間である。実験例7ないし11で使用されたFe粒子は、それぞれ新しいものである。実験例7ないし11で生成されたFe(N*)粒子を完全に水素化させた後、生成されたアンモニアの総量を測定することにより、Fe粒子に吸着された窒素(N)の体積を決定した。
【0047】
図3は、実験例7ないし11において、ボールミル時間による吸着された窒素(N)体積のグラフであり、図4は、図3の時間を自然ログで示し、線形関係を示すグラフである。
【0048】
図3及び図4のグラフを参照すれば、吸着されたNの体積は、ボールミル時間によって増大し、吸着されたNの体積は、ボールミル時間の自然ログに比例すると示される。それにより、Fe粒子を初めて使用したとき、N吸着のための初期活性化時間を必要とすると見られる。すなわち、Fe粒子がまず粉砕され、表面が活性化されれば、窒素(N)解離のための触媒として作用しうると見られる。このとき、活性化とは、Fe粒子に活性欠陥が生成され、窒素(N)をFe-N*形態に吸着することができる状態になることを意味する。
【0049】
水素化及びボールミリングパラメータ
生成されたアンモニアを測定するために、水素化段階において生成されたガス混合物を、0.3M HCl溶液に連結して生成されたアンモニア塩の質量及び濃度を測定した。
【0050】
アンモニア測定
カラム(10Ft 1/8 2mm(Haye Sep Q)80/100μm)が装着されたガスクロマトグラフィ(GC)(7890B(Agilent))を使用して生成されたガス混合物中のアンモニア濃度を測定した。また、アンモニア定量のために、以下の2つの方法がさらに使用された。
【0051】
生成されたガス混合物を、多孔性フィルタを有し、0.3M HCl水溶液(100ml)で充填された瓶に注入することにより、ガス混合物内のアンモニアを、塩化アンモニウムに変換させた。塩化アンモニウムの濃度を、イオンクロマトグラフィ(IC)(Dionex ICS-1600(Thermo Scientific))によって測定するために、瓶内の溶液(20ml)を取った。なお、瓶内の残り溶液(80ml)を、回転蒸発器で乾燥させ、真空炉において、75℃の温度で、10時間さらに乾燥させた後、固化された塩化アンモニウムの重さを測定した。イオンクロマトグラフィによって得られたアンモニア濃度と、乾燥された塩化アンモニウムの重さから得られたアンモニアの濃度は、互いにほどよく整合されている。
【0052】
実験例12ないし15:水素化に係わるボールミリング回転速度の影響
Fe粒子を、N(9bar)において、400rpmの回転速度で、10時間ボールミリングすることにより、Fe(N*)粒子を製造した。
生成されたFe(N*)粒子を、H(9bar)において、350,400,450及び500rpmの回転速度でもって、それぞれ、5.7,5.0,4.4及び4.0時間ボールミリングして水素化することにより、アンモニアを製造した(実験例12ないし15)。水素化段階において、総回転数は、120,000サイクルであった。実験例21ないし24において、同一Fe粒子を反復して使用した。
【0053】
図5は、実験例12ないし15で測定されたボールミル容器の回転速度によるボールミル容器温度及びアンモニア体積のグラフである。
【0054】
図5のグラフを参照すれば、ボールミル容器の回転速度が上昇するにつれ、生成されたアンモニアの体積が増大するように示される。水素化段階は、吸熱過程であるので、ボールミル容器の回転速度が上昇して温度が上がることにより、生成されたアンモニアの体積が増大する。
【0055】
実験例16ないし20:水素化に係わるボールミル時間の影響
Fe粒子を、N(9bar)において、500rpmの回転速度でもって、30時間ボールミリングすることにより、Fe(N*)粒子を製造した。
【0056】
生成されたFe(N*)粒子を、H(9bar)において、500rpmの回転速度でもって、それぞれ、4,8,12,16及び20時間ボールミリングし、水素化することにより、アンモニアを製造した(実験例16ないし20)。
【0057】
図6は、実験例16ないし20において、4時間間隔で測定されたアンモニア体積対ボールミル時間のグラフであり、図7は、実験例16ないし20で測定されたアンモニア体積の自然ログ対ボールミル時間のグラフである。図6及び図7において、特定時間のNH体積は、特定時間の4時間前から特定時間までに生成されたNHの体積である。例えば、4時間のNH3の体積は、0時間から4時間までに生成されたNHの体積であり、8時間のNHの体積は、4時間から8時間までに生成されたNHの体積である。図6及び図7のグラフを参照すれば、ボールミル時間が長くなることによって生成されるアンモニアの体積が指数的に低減されるように示される。それは、アンモニア生成にFe(N*)が参与しながら、反応物の濃度が低下するためである。
【0058】
実験例21ないし28:水素化に係わるH 圧力の影響
Fe粒子を、N(9bar)において、400rpmの回転速度でもって、37.5時間ボールミリングすることにより、Fe(N*)粒子を製造した。生成されたFe(N*)粒子を、500rpmの回転速度でもって、H 2,3,4,5,6,7,8,9barの圧力でもって、それぞれ4時間ボールミリングして水素化することにより、アンモニアを製造した(実験例21ないし28)。
【0059】
図8は、実験例21ないし28で測定されたH圧力によるアンモニア濃度及びアンモニア体積のグラフである。図8のグラフを参照すれば、H圧力が上昇することにより、生成されたアンモニアの量自体は、増大するが、H濃度の上昇と共に、アンモニア濃度は、低下するように示される。
【0060】
アンモニア測定
図9Aは、実験例21ないし28に係わる全体GCスペクトルであり、図9Bは、Hピークが示された時間帯のGCスペクトルであり、図9Cは、アンモニアピークが示された時間帯のGCスペクトルである。図9Aないし図9Cを参照すれば、水素(H)の圧力が1barから9barまで高くなるほど、アンモニア(NH)ピークが共に高くなることが分かる。また、Nピークが示されると予想される地点(0.845分)において、Nピークが存在しないことから、アンモニア合成過程において、窒素ラジカルがNにならず、いずれもアンモニアに消尽されると解釈される。
【0061】
安定性測定
実験例29
Fe粒子を、N(9bar)において、400rpmの回転速度でもって、10時間ボールミリングすることにより、Fe(N*)粒子を製造した。次に、製造されたFe(N*)粒子を、500rpmの回転速度でもって、4時間、H(9bar)においてボールミリングすることにって水素化させ、アンモニアを生成した。そのような過程を9回反復した。
【0062】
図10は、実験例29で生成されたアンモニアの体積を、反復サイクル回数について示したグラフである。図10を参照すれば、2回目以後サイクルにおいて、最初サイクルよりも生成されるアンモニアの体積が減るが、2回目以後サイクルにおいて、一定量のアンモニアが生成され、本具現例によるアンモニアの生成が安定していることを示す。
【0063】
Fe粒子の特性分析
段階スキャンモードにおいて、Cu-Kα放射線(λ=1.5418Å)を使用し、D/max2500V((株)リガク、日本)において、X線回折(XRD)パターン分析を行った。段階は、0.02°であり、累積時間は、6秒である。スキャンウィンドウの範囲は、30~90°である。拡張されたX線吸収微細構造(EXAFS)を、浦項加速器研究所(韓国)の6D UNIST-PALビームラインから、伝送モードで収集した。収集されたデータを、Athenaソフトウェアを使用して分析した。X線光電子スペクトル(XPS)を、K-alpha XPS分光計(Thermo Fisher Scientific)で測定した。
【0064】
図11は、活性化された(activated)Fe粒子と、Fe(N*)粒子とのXRDパターンを示すグラフである。活性化されたFe粒子は、窒素(N)を吸着して分解されうるFe粒子を意味し、Fe(N*)粒子は、解離された窒素原子(N*)が吸着されたFe粒子を意味する。図11のXRDグラフにおいて、45°近辺のFe(N*)粒子のピークが、活性化Fe粒子のピークより低い角度で移動し、ピーク幅が広くなるように示される。それは、N分子がFe粒子に吸着されながら、N分子とFe原子との相互作用により、Fe原子間の距離が長くなるためであると見られる。
【0065】
図12Aは、商用のFeN粒子のXPSグラフであり、図12Bは、Fe(N*)粒子のXPSグラフである。図12Aを参照すれば、商用のFeN粒子においては、397.15eVの単一ピークを示し、それは、FeNのFe-N結合に起因する。一方、図12Bを参照すれば、Fe(N*)粒子においては、398.10eV及び399.30eVにおいて追加ピークを有する。それは、Fe粒子表面における高いN濃度と、それによる弱いFe-N結合とに起因すると見られる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12A
図12B