(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】エネルギー貯蔵、触媒、光電池およびセンサーの用途のための合成された表面官能化・酸性化金属酸化物材料
(51)【国際特許分類】
H01M 4/48 20100101AFI20240702BHJP
B01J 23/16 20060101ALI20240702BHJP
B01J 35/45 20240101ALI20240702BHJP
H01M 4/02 20060101ALI20240702BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240702BHJP
【FI】
H01M4/48
B01J23/16
B01J35/45
H01M4/02 Z
H01M4/13
(21)【出願番号】P 2023067598
(22)【出願日】2023-04-18
(62)【分割の表示】P 2021106567の分割
【原出願日】2016-11-15
【審査請求日】2023-05-18
(32)【優先日】2015-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2015-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518172439
【氏名又は名称】ヒーリー,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100104374
【氏名又は名称】野矢 宏彰
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン,ペイジ・エル
(72)【発明者】
【氏名】ネフ,ジョナサン・ジー
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-070908(JP,A)
【文献】国際公開第2019/054455(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/48
B01J 23/16
B01J 35/45
H01M 4/02
H01M 4/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池セルにおいて使用するための、電池の電極材料であって、該電池の電極材料は固体の金属酸化物ナノ材料を含み、
該固体の金属酸化物ナノ材料は、乾燥形態の該固体の金属酸化物ナノ材料が水中に5重量%で浮遊したときに5未満のpHを有し、且つ-12より大きいハメット関数H
0を有し、ここで該固体の金属酸化物ナノ材料は、大きさが20nm未満の少なくとも一つの粒子寸法を含む、電池の電極材料。
【請求項2】
該固体の金属酸化物ナノ材料がスズの酸化物である、請求項1に記載の電池の電極材料。
【請求項3】
該固体の金属酸化物ナノ材料が鉄の酸化物である、請求項1に記載の電池の電極材料。
【請求項4】
該固体の金属酸化物ナノ材料がマンガンの酸化物である、請求項1に記載の電池の電極材料。
【請求項5】
該固体の金属酸化物ナノ材料がチタンの酸化物である、請求項1に記載の電池の電極材料。
【請求項6】
該固体の金属酸化物ナノ材料が、アンチモン、ビスマス、チタン、ジルコニウムまたはインジウムの酸化物である、請求項1に記載の電池の電極材料。
【請求項7】
該固体の金属酸化物ナノ材料のリチウム化容量が、900mAh/g~少なくとも1400mAh/gの範囲にある、請求項1~6のいずれかに記載の電池の電極材料。
【請求項8】
前記固体の金属酸化物ナノ材料が、単分散のナノ微粒子の形態を含む、請求項1~6のいずれかに記載の電池の電極材料。
【請求項9】
該固体の金属酸化物が、4以下の炭素鎖長を有する少なくとも1つの電子吸引表面基で表面官能化されている、請求項1~6のいずれかに記載の電池の電極材料。
【請求項10】
該固体の金属酸化物ナノ材料が、Cl、Br、BO
3、PO
4、CH
3COO、C
2O
4、およびC
6H
5O
7よりなる群から選択される少なくとも1つの電子吸引表面基で表面官能化されている、請求項1~6のいずれかに記載の電池の電極材料。
【請求項11】
該固体の金属酸化物ナノ材料が、200未満の分子量を有する少なくとも1つの電子吸引表面基で表面官能化されている、請求項1~6のいずれかに記載の電池の電極材料。
【請求項12】
酸性化されていない固体の金属酸化物材料をさらに含む、請求項1~6のいずれかに記載の電池の電極材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的エネルギー貯蔵や電源デバイス、例えば(これには限定されないが)電池において有用な材料の分野に関する。より具体的には、本発明は、電気化学セル材料(電池)、触媒、光電池要素およびセンサーなどの用途で用いるための合成された酸性化金属酸化物(AMO)のナノ材料に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物は、酸素が金属に結合していて、M-mOxの一般式を有する化合物である
。それらは天然において見いだされるが、しかし人工的に合成することができる。合成の金属酸化物において、合成の方法は、その酸または塩基の特質を含めて、表面の性質に広範な影響を及ぼしうる。表面の特質の変化は酸化物の特性を変えることがあり、その触媒活性や電子の移動性といったことに影響する。しかしながら、表面が反応性を制御する機構は必ずしも十分には特徴づけられておらず、あるいは十分に理解されてもいない。例えば、光触媒において、表面のヒドロキシル基は伝導帯から化学吸着された酸素分子への電子の移動を促進すると考えられている。
【0003】
表面の特質の重要性にもかかわらず、金属酸化物の文献は、学術論文と特許の両方とも、改善されたエネルギー貯蔵と電力の用途のための金属酸化物の新規なナノスケールの結晶質形態のものを創製することに多くが向けられている。金属酸化物の表面の特質については無視されていて、そして化学的触媒の文献の外側にあり、性能の目標を達成するために公知の金属酸化物の表面を制御するかあるいは変化させることには、ごくわずかの革新しか向けられていない。
【0004】
化学的触媒の文献は「超酸」の創製に多くが向けられている(「超酸」は純粋な硫酸(18.4MH2SO4)の酸性度よりも大きな酸性度を有し、炭化水素のクラッキング(分解)のような大規模な反応のためにしばしば用いられる)。超酸性度は慣用のpHスケールでは測定することができず、その代わりに、ハメット数によって定量化される。ハメット数(H0)は、pHスケールをゼロ未満の負の数に拡張するものとして考えることができる。純粋な硫酸は-12のH0を有する。
【0005】
しかし、超酸性度では強すぎるような多くの反応系および多くの用途がある。例えば、超酸性度は装置の部品を劣化させるか、あるいは望まれない副反応を触媒するかもしれない。しかし、酸性度は、向上した反応性と速度特性あるいは改善された電子移動性をもたらすために、これらと同じ用途において依然として有益であるかもしれない。
【0006】
電池の文献は、酸性基が電池において有害であって、それらは金属の集電装置とハウジングを攻撃し、その他の電極構成要素を劣化させる場合があることを教示する。さらに、先行技術は、活性な触媒電極の表面が電解質の分解をもたらし、その結果としてセルの内部でガスが発生し、そしてついにはセルの故障に至る場合があることを教示する。
【0007】
少なくともその表面上で酸性ではあるが、しかし超酸性ではない、合成の金属酸化物に対する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0008】
本発明に係る材料は、合成された酸性化金属酸化物(AMO)であり、好ましくは大きさが20nm以下の単分散のナノ微粒子の形態になっていて、5重量%の水溶液中に浮遊
したときにpH<7(7未満のpH)を有し、そして少なくともその表面上でH0>-12のハメット関数を有する。このAMO材料は、電池の電極、触媒、光電池の構成要素、またはセンサーなどの用途で有用である。
【0009】
好ましくは、合成と表面の官能化は「単一容器(single-pot)」水熱法で達成され、これにおいては、金属酸化物が適当な先駆物質から合成されているときに金属酸化物の表面が官能化される。この単一容器法は金属酸化物自体を合成するのに必要なこと以上の酸性化のためのいかなる追加の(単一または複数の)工程も必要とせず、そして望ましい表面酸性度を有する(しかし、超酸性ではない)AMO材料が得られる。
【0010】
好ましい態様において、表面の官能化は、強い電子求引性基(EWG)(例えば、SO4、PO4、またはハロゲン)のいずれかを単独で用いるか、あるいは相互の何らかの組み合わせにおいて、行われる。表面の官能化はまた、SO4、PO4、またはハロゲンよりも弱いEWGを用いて行われてもよい。例えば、合成される金属酸化物はアセテート基(CH3COO)、オキサレート基(C2O4)、およびシトレート基(C6H5O7)で表面官能化されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、Liに対してサイクルを行ったときの、ここで開示される方法によって調製されたAMOスズのサイクリック・ボルタンマグラムの、商業的に入手できる非AMOスズのものと比較したときの相違を示す。
【
図2】
図2は、AMO酸化スズの全反射率が商業的に入手できる非AMO酸化スズのものと相違することを示す。
【
図3】
図3は、ここで開示される合成方法から内生的に生じた表面官能化を示すX線光電子分光(XPS)のデータである。示されている数は%での原子濃度である。最も右の欄は、水溶液中に5重量%で分散したときに測定された合成したナノ粒子の対応するpHを挙げている。
【
図4】
図4は、官能化のために異なる基を使用したことを除いて、同一の条件の下で合成したAMOナノ粒子の間の形態の相違を示す。
【
図5】
図5は、二つの異なる合計の反応時間を採用したことを除いて、同一の条件の下で合成したAMOナノ粒子の形態と性能の相違を示す。
【
図6】
図6は、リチウムに対してサイクルを行ったときの、球形のAMOと細長い(針状または棒状の)AMOの間の挙動の相違を示す典型的な半電池(ハーフセル)のデータである。
【
図7】
図7は、強い(リン含有の)電子求引性基と弱い(アセテートの)電子求引性基の両者を用いて合成したAMOナノ粒子の表面のX線光電子分光分析であり、アセテート基と関連する結合の原子濃度よりもリンの原子濃度の方が大きいことを示す。
【
図8A】
図8Aは、可視光の中で別のAMOよりも活性であったAMOを示す。
【
図8B】
図8Bは、紫外線の中で他のAMOよりも活性であったAMOを示す。
【
図9】
図9は、二つのAMOを比較するグラフであり、一方は一次(一回使用の)電池の用途において使用するための高い容量を有するものであり、他方は二次(再充電可能な)電池の用途において使用するための高いサイクル性能を有するものである。
【
図10】
図10は、AMOが、電池の構成要素の劣化またはガスの発生を伴わずに向上した電池性能をもたらし得ることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
定義
本開示の目的のために、以下の用語は以下の意味を有する。
【0013】
酸性酸化物-これは学術文献において一般的に用いられる用語であり、非金属元素との
酸素の二元化合物を指す。一つの例は二酸化炭素CO2である。幾つかのメタロイド(半金属)(例えば、Si、Te、Po)の酸化物も、それらの純粋な分子の状態において弱酸性の性質を有する。
【0014】
酸性化金属酸化物(AMO)-これは金属元素との酸素の二元化合物を意味するものとして本明細書において用いられる用語であり、それの天然の鉱物学上の状態の酸性度よりも大きな酸性度を有し、またH0>-12のハメット関数(超酸性ではないこと)を有するように合成または変性されていることを意味する。また平均の粒径は、天然の鉱物学上の状態での粒径よりも小さい。天然に生成する鉱物学的な形態物は、本発明のAMO材料の範囲内のものではない。しかし、最も豊富に天然に生成する(同等の化学量論のものの)鉱物学的な形態物よりも酸性ではあるが超酸性ではない合成された金属酸化物は本開示のものの範囲に入り、本開示において論じている他の特定の条件を満足する限りにおいて、それはAMO材料であると言うことができる。
【0015】
酸(酸性)-これは学術文献において一般的に用いられる用語であり、水溶液中で7未満のpHを有する化合物を指す。
【0016】
電子求引性基(EWG)-電子の密度をそれ自体に向けて引き寄せる原子または分子の基。EWGの強さは、化学反応におけるその既知の挙動に基づいている。例えば、ハロゲンは強いEWGであることが知られている。アセテートのような有機酸の基は弱電子求引性であることが知られている。
【0017】
ハメット関数-高濃度の酸性溶液および超酸における酸性度を定量化する追加の手段であり、酸性度は次の式によって定義される:H0=pKBH++log([B]/[BH+])
。このスケールにおいて、純粋な18.4モルのH2SO4は-12のH0値を有する。純粋な硫酸についてのH0=-12という値はpH=-12と解釈してはならず、そうではなく、それは存在するその酸の化学種が、弱塩基にプロトンを付加する能力によって測定するときに、1012mol/Lの架空の(理想の)濃度においてH3O+と同等のプ
ロトン付加能力を有することを意味する。ハメットの酸性度関数はその式において水を回避する。ここではそれは、AMO材料を超酸から区別するための量的な手段を与えるために用いられる。ハメット関数は比色指示試験および昇温脱離の結果と関係づけることができる。
【0018】
金属酸化物-これは学術文献において一般的に用いられる用語であり、金属元素との酸素の二元化合物を指す。周期表におけるそれらの位置に応じて、金属酸化物はそれらの純粋な分子の状態において弱塩基性から両性(酸の性質と塩基の性質の両方を示すこと)にまで及ぶ。弱塩基性の金属酸化物はリチウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、ルビジウム、ストロンチウム、インジウム、セシウム、バリウムおよびテルルの酸化物である。両性の酸化物はベリリウム、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、アスタチン、スズ、アンチモン、鉛およびビスマスの酸化物である。
【0019】
単分散-これは互いに実質的に分離していて、大きな粒子からなる粗粒として凝集していない均一な大きさの粒子によって特徴づけられる。
【0020】
pH-これは学術文献において一般的に用いられる関数のスケールであり、水溶液の酸性またはアルカリ性を特定するものである。これはヒドロニウムイオン[H3O+]の濃度の負の対数である。本明細書において用いるとき、それは水溶液中に浮遊するナノ粒子の相対的な酸性度を記述するものである。
【0021】
表面の官能化-材料の表面に小さな原子または分子の基(群)が付加すること。
【0022】
超酸-100%のH2SO4よりも酸性で、H0<-12のハメット関数を有する物質。
【0023】
ここで記述する好ましい態様は、電池の電極、触媒または光電池の構成要素などの用途で有用な酸性化金属酸化物(AMO)の材料を説明する例を与える。これらのAMO材料の表面は酸性であるが、しかし超酸性ではない。
【0024】
金属酸化物の表面は理想的には金属と酸素の中心の配列であり、酸化物の結晶構造に従って整列している。実際には、その配列は不完全であり、空所、ゆがみ、および表面の付加物の影響を受けている傾向がある。それにもかかわらず、露出した金属中心はすべて陽イオン性であり(正に荷電していて)、電子を受容することができ、従ってルイス酸点(ルイス酸位置)として定義されるものとして機能する。酸素中心は陰イオン性であり(負に荷電していて)、電子を供与するルイス塩基点(ルイス塩基位置)として作用する。このことが、金属酸化物の表面の良く知られた両性をもたらす。
【0025】
標準の大気の条件下では、存在する水蒸気は金属酸化物の表面に分子状(水和)または解離状(ヒドロキシル化)のいずれかで吸着するだろう。OH-種とH+種の両者とも酸化物の表面上に吸着することができる。負に荷電したヒドロキシル種は金属の陽イオン性中心(ルイス酸、電子受容性)において吸着し、そしてH+は酸素の陰イオン性中心(ルイス塩基、電子供与性)において吸着するだろう。両者の吸着が金属酸化物の表面上に同じ官能基(ヒドロキシル)の存在をもたらす。
【0026】
これら表面のヒドロキシル基は、プロトン(陽子)を放棄あるいは受容することができるので、ブレンステッド酸として、あるいはブレンステッド塩基として役立ち得る。個々のヒドロキシル基がプロトン供与体あるいはプロトン受容体となる傾向は、それが付加する金属の陽イオンまたは酸素の陰イオンの配位によって影響される。酸素の空所、あるいは他の化学種との表面の基の配位といった金属酸化物の表面の不完全さは、全ての陽イオンと陰イオンが等しく配位結合されていないことを意味する。酸・塩基の点は数と強さが様々であろう。酸化物の表面を通して広く「合計」すると、これが表面に全体的な酸性または塩基性の性質を与えることができる。
【0027】
ルイス酸および塩基の点(それぞれ露出した金属の陽イオンおよび酸素の陰イオンからのもの)およびブレンステッド酸および塩基の点(表面のヒドロキシル基からのもの)の量と強さは、金属酸化物に広い有用性と機能性を付加し、また化学反応とデバイスの用途の両方における金属酸化物の使用を付加する。これらの点は金属酸化物の化学反応性に強く寄与するものである。それらは、他の化学種の基、さらには追加の金属酸化物が付着できる固着点として役立ち得る。また、それらは表面の電荷、親水性および生体適合性に影響し得る。
【0028】
金属酸化物の表面を変化させる一つの方法は、表面官能化として公知のプロセスにおいて小さな化学基または電子求引性基(EWG)を付着させることである。EWGは水酸化物結合の分極を含み、そして水素の解離を促進する。例えば、より強いEWGはより分極した結合を導き、ひいてはより酸性のプロトンを導くはずである。ルイス点の酸性度は、その点への電子の供与を促進する分極を誘起させることによって増大させることができる。そのようにして作った化合物を水中に置くと、酸性のプロトンは解離し、従って水のpH測定値を低下させるだろう。
【0029】
液体の系ではなく固体の酸または塩基の系で作用させるとき、幾分不正確ではあるが、水溶液中に分散した金属酸化物の酸性度を見積もるために、pH試験紙とpHプローブを
用いることができる。これらの測定は、(これらに限定はされないが)比色指示器、赤外分光法、および昇温脱離のデータを含めた技術の使用によって補足することができ、それによって金属酸化物の表面の酸性化した性質を確証することができる。表面の基は、(これに限定はされないが)X線光電子分光法を含めた標準的な分析法によって調査することができる。
【0030】
表面の官能化は、合成後に、(これらに限定はされないが)金属酸化物を酸性溶液に曝すか、あるいは所望の官能基を含む蒸気に曝すことによって達成することができる。それはまた固相法によって達成することもできて、それにおいては金属酸化物が所望の官能基を含む固体を用いて混合および/または粉砕される。しかし、これらの方法は全て、金属酸化物自体を合成するのに必要な工程以上の(一つまたは複数の)追加の表面官能化工程を必要とする。
【0031】
AMO材料の合成と表面の官能化は「単一容器」水熱合成法あるいはそれと同等の方法で達成することができ、これにおいては、金属酸化物が適当な先駆物質から合成されているときに金属酸化物の表面が官能化される。EWGを含む先駆物質の塩が可溶化され、そして生じた溶液が第二のEWGを含む酸を用いて酸性化される。次いで、この酸性化した溶液は塩基性にされ、そしてその塩基性化した溶液は加熱され、次いで洗浄される。乾燥工程によって固体のAMO材料が生成する。
【0032】
例として、AMO形態の酸化スズの好ましい態様のものが、以下の単一容器法を用いて合成され、そして同時に表面官能化された。
1.最初に、7グラム(7g)の塩化スズ(II)2水和物(SnCl2・2H2O)を35mLの無水エタノールと77mLの蒸留水の溶液に溶解させる。
2.生じた溶液を30分にわたって攪拌する。
3.溶液を、7mLの1.2M HClを添加することによって酸性化し、これを滴下す
ることによって行い、そして生じた溶液を15分にわたって攪拌する。
4.溶液を、1Mの塩基水溶液を添加することによって塩基性にして、これを溶液のpHが約8.5になるまで滴下することによって行う。
5.次いで、生じた不透明な白い懸濁液を湯浴(約60~90℃)の中に少なくとも2時間にわたって攪拌しながら置く。
6.次いで、懸濁液を蒸留水で洗浄し、そして無水エタノールで洗浄する。
7.洗浄した懸濁液を空気中で100℃において1時間にわたって乾燥し、次いで空気中で200℃において4時間にわたってアニールする。
この方法によって、塩素で表面官能化されたスズのAMOが得られ、そのpHは、5重量%の水溶液中で室温において測定するとおよそ2である。定義上、そのハメット関数はH0>-12である。ここではフラスコのような開放系について記述しているが、オートクレーブのような閉鎖系を用いてもよい。
【0033】
当業者であれば、この方法のパラメータは、水熱合成において典型的であるように変更できることを認識するであろう。これらのパラメータには、(これらに限定はされないが)試剤のタイプと濃度、酸と塩基のタイプと濃度、反応時間、温度および圧力、攪拌速度と時間、洗浄工程の回数とタイプ、乾燥とか焼の時間と温度、および乾燥とか焼を行う間のガスへの曝露が含まれる。変更は、単独で、あるいは任意の組み合わせで、好ましくは実験設計の方法論を用いて行うことができる。加えて、その他の金属酸化物合成方法、例えば、噴霧熱分解法、気相成長法、電着法、固相法、および水熱プロセスまたは溶媒熱プロセスの方法を、ここで開示している方法と同様または類似の結果を達成するために適合させることができる。
【0034】
AMOナノ材料の性能の特徴は、非酸性化金属酸化物のナノ粒子の特徴とは異なってい
る。一例として、
図1は、Liに対してサイクルを行ったときの、単一容器法によって調製されたAMOスズのサイクリック・ボルタンマグラムの、商業的に入手できる非AMOスズのものと比較したときの相違を示す。別の例として、
図2は、AMO酸化スズの全反射率が商業的に入手できる非AMO酸化スズのものと相違することを示す。データは、AMOがより低いバンドギャップを有し、従って、光電池装置の構成要素として一層望ましい特性を有することを示している。
【0035】
AMO材料は次の一般式を有すると考えることができる、
MmOx/G
ここで、
MmOxは金属酸化物であり、mは少なくとも1であって5以下であり、xは少なくとも1であって21以下であり、
Gは水酸化物ではない少なくとも一つのEWGであり、そして
/ は金属酸化物とEWGの間に単に区別をつけていて、二つの間の決まった数的な関係あるいは比率を意味してはいない。
Gは一つのタイプのEWG、あるいは一つよりも多いタイプのEWGを意味することができる。
【0036】
好ましいAMOは酸性化した酸化スズ(SnxOy)、酸性化した二酸化チタン(TiaOb)、酸性化した酸化鉄(FecOd)、および酸性化した酸化ジルコニウム(ZreOf)である。好ましい電子求引性基(EWG)はCl、Br、BO3、SO4、PO4およびCH3COOである。特定の金属またはEWGにかかわらず、AMO材料は酸性であるが、しかし超酸性ではなく、水溶液中に5重量%で浮遊させたときにpH<7(7未満のpH)となり、そして少なくともその表面上でH0>-12のハメット関数を有する。
【0037】
AMO材料の構造は結晶質または非晶質(あるいはこれらの組み合わせ)であってもよく、単独で利用するか、あるいは互いに組み合わせて複合材料として利用してもよく、非酸性化金属酸化物と、あるいは当分野で公知の他の添加剤、結合剤または導電性助剤とともに利用してもよい。AMO材料は、黒鉛または導電性炭素(あるいはこれらの同等物)のような導電性の助剤物質に10重量%ないし80重量%の範囲および90重量%ないし95重量%を超える範囲で添加してもよい。好ましい態様において、AMOは10重量%、33重量%、50重量%、および80重量%で添加された。
【0038】
利用できる全体の表面積の量を最大限にするために、AMOはナノ微粒子の形態(すなわち、大きさが1ミクロン未満)であって、実質的に単分散になっているべきである。より好ましくは、ナノ微粒子の大きさは100nm未満であり、さらにより好ましくは20nm未満または10nm未満である。
【0039】
混合した金属AMO(これにおいては、単一の酸化物または二元酸化物に加えて別の金属または金属酸化物が存在している)も実施化された。これらの混合した金属AMOは次の一般式を有すると考えることができる、
MmNnOx/G および MmNnRrOx/G
ここで、
Mは金属であり、mは少なくとも1であって5以下であり、
Nは金属であり、nはゼロよりも大きくて5以下であり、
Rは金属であり、rはゼロよりも大きくて5以下であり、
Oは全ての金属と結びついた合計の酸素であり、xは少なくとも1であって21以下であり、
/ は金属酸化物と電子求引性表面基の間に単に区別をつけていて、二つの間の決まった数
的な関係あるいは比率を意味してはおらず、そして
Gは水酸化物ではない少なくとも一つのEWGである。
Gは一つのタイプのEWG、あるいは一つよりも多いタイプのEWGを意味することができる。
【0040】
幾つかの先行技術の混合した金属酸化物の系(その中ではゼオライトが最も顕著な例である)は、それぞれ単一の酸化物ではないにもかかわらず、強い酸性度を示す。本開示の混合した金属AMOの好ましい態様のものは、いずれの態様も単純なMmOx/Gの形で
酸性である(しかし超酸性ではない)少なくとも一つのAMOを含んでいなければならない系とは異なっている。好ましい混合した金属と金属酸化物の系はSnxFecOy+dおよびSnxTiaOy+bであり、ここでy+dおよびy+bは整数の値または非整数の値であってもよい。
【0041】
好ましい態様において、混合した金属AMO材料は一つの変更を伴う単一容器法によって製造され、合成は、一つではなく(任意の割合の)二つの金属先駆物質の塩を用いて開始される。例えば、単一容器法の工程1は次のように変更することができる:最初に、3.8gの塩化スズ(II)2水和物(SnCl2・2H2O)および0.2gの塩化リチウム(LiCl)を20mLの無水エタノールと44mLの蒸留水の溶液に溶解させる。
【0042】
三つの金属先駆物質の塩を任意の割合で用いることもできる。それらの金属先駆物質の塩は、所望の生成物に応じて、同一の陰イオン基または異なる陰イオン基であってよく、合成中の異なる時点で導入することができ、あるいは固体として導入するか、または溶媒中に導入することができる。
【0043】
単一容器法を用いる実験は7つの重要な発見につながった。第1に、全てのケースにおいて、表面官能化と酸性度の両者とも、合成後に生成するのではなく内発的に生じる(
図3を参照されたい)。先行技術の表面官能化法とは違って、単一容器法は金属酸化物自体を合成するのに要する工程以上の表面官能化のための追加の(単一または複数の)工程を何ら必要とせず、またそれはヒドロキシル含有有機化合物または過酸化水素を利用しない。
【0044】
第2に、この方法は広範囲の金属酸化物とEWGを通して広く一般化することができる。この方法を用いて、鉄、スズ、アンチモン、ビスマス、チタン、ジルコニウム、マンガン、およびインジウムの金属酸化物が合成され、そして同時にクロリド(塩化物)、スルフェート(硫酸塩)、アセテート(酢酸塩)、ニトレート(硝酸塩)、ホスフェート(リン酸塩)、シトレート(クエン酸塩)、オキサレート(シュウ酸塩)、ボレート(ホウ酸塩)、およびブロミド(臭化物)を用いて表面官能化された。スズと鉄、スズとマンガン、スズとマンガンと鉄、スズとチタン、インジウムとスズ、アンチモンとスズ、アルミニウムとスズ、リチウムと鉄、およびリチウムとスズの混合した金属AMOも合成された。加えて、ハロゲンおよびSO4よりも弱いEWGを用いて表面官能化を達成することができて、それでもなお、酸性であるがしかし超酸性ではない表面が生成する。例えば、この方法はまた、アセテート(CH3COO)、オキサレート(C2O4)、およびシトレート(C6H5O7)で表面官能化されたAMOを合成するために用いられた。
【0045】
第3に、EWGとナノ粒子のその他の特性、例えば、大きさ、形態(例えば、板状、球状、針状または棒状)、酸化状態、および結晶化度(非晶質、結晶質、またはこれらの混合)との間には相乗作用的な関係がある。例えば、表面官能化のために異なるEWGを使用したことを除いては同一の条件の下で合成されたAMOナノ粒子どうしの間には、形態の相違が生じる場合がある(
図4を参照されたい)。表面官能化はナノ粒子の寸法を「固定」するように作用することができ、それによりそれらの成長が停止する。この固定作用
は、精密な合成条件に応じて、ナノ粒子の一つの次元だけで生じるか、あるいは一つよりも多い次元で生じるかもしれない。
【0046】
第4に、AMOの特質は合成の条件と手順に対して極めて敏感に反応する。例えば、二つの異なる総反応時間を採用することを除いては同一の条件の下で合成されたときに、AMOナノ粒子の形態と性能の相違が生じる場合がある(
図5、6を参照されたい)。最良または最適な合成の条件と手順を決定するために実験設計の方法論を用い、それにより望ましい特質または特質の組み合わせを生じさせることができる。
【0047】
第5として、先駆物質の塩の中に存在する陰イオンと酸の中に存在する陰イオンの両者は、AMOの表面官能化に寄与する。一つの好ましい態様において、スズのAMOの合成においては、塩化スズの先駆物質と塩酸が用いられる。これらの粒子の性能は、塩化スズの先駆物質と硫酸が用いられる態様あるいは硫酸スズの先駆物質と塩酸が用いられる態様とは異なっている。従って、先駆物質の陰イオンと酸の陰イオンを調和させることが好ましい。
【0048】
第6として、弱いEWGを伴った先駆物質および強いEWGを伴った酸を用いる場合、あるいはその逆の場合、強く引き寄せる陰イオンが表面官能化を支配するだろう。このことは、より広い範囲の合成の可能性を開き、イオンを用いる官能化を可能にするが、これは先駆物質の塩と酸の両者においては容易には利用できないことである。それはまた、強いEWGと弱いEWGの両者を用いる混合した官能化を可能にするかもしれない。一つの例において、スズのAMOを合成するために、酢酸スズの先駆物質とリン酸が用いられる。表面のX線光電子分光分析は、アセテート基と結びついた結合の原子濃度よりも大きなリンの原子濃度を示す(
図7を参照されたい)。
【0049】
第7として、最後であるが、開示された方法はAMOの合成のための一般的な手順であるが、合成の手順と条件を調整して、様々な用途のために望ましいと考えられる大きさ、形態、酸化状態、および結晶の状態をもたらすことができる。一つの例として、触媒の用途においては、可視光の中でより活性であるAMO材料(
図8Aを参照)あるいは紫外線の中でより活性であるAMO材料(
図8Bを参照)が要望されるかもしれない。
【0050】
別の例において、AMO材料は電池の電極として用いることができる。一次(一回使用の)電池の用途においては、最も高い容量をもたらす特性を有するAMOが要望されるかもしれず、一方、二次(再充電可能な)電池の用途においては、同様のAMOではあるがしかし、最も高いサイクル性能をもたらす特性を有するものが要望されるだろう(
図9を参照されたい)。AMO材料は、電池の構成要素の劣化またはガスの発生を伴わずに、向上した電池性能をもたらすことができる(
図10を参照されたい)。これは先行技術が教示することとはまさに正反対のことである。
[発明の態様]
[1]
少なくとも150サイクルの対リチウムサイクル性能を有する、電極を含む電池のセルであって、
該電極は、20nm未満の粒子寸法を有するナノ微粒子の形態になっている表面官能化固体金属酸化物を含み、
該表面官能化固体金属酸化物は、Cl、Br、BO
3、SO
4、PO
4、CH
3COO、C
2O
4、およびC
6H
5O
7からなる群から選択される少なくとも1種の電子求引性表面基で表面官能化されており、
該表面官能化固体金属酸化物は、少なくともその表面上で5未満のpHと-12よりも大きなハメット関数H
0を有し、そして
そのpHは該表面官能化固体金属酸化物の乾燥した形態のものを水中で5重量%で再浮遊させたときに測定されたものである、
上記の電池のセル。
[2]
該pHが2以上5未満の範囲である、パラグラフ1に記載の電池のセル。
[3]
該サイクル性能が、少なくとも300サイクルで800サイクル以下の範囲である、パラグラフ1に記載の電池のセル。
[4]
リチウム金属を含む第二の電極をさらに含む、パラグラフ1に記載の電池のセル。
[5]
該表面官能化固体金属酸化物が球状の形態を有する、パラグラフ1に記載の電池のセル。
[6]
該表面官能化固体金属酸化物が細長い形態を有する、パラグラフ1に記載の電池のセル。
[7]
該表面官能化固体金属酸化物が板状の形態を有する、パラグラフ1に記載の電池のセル。
[8]
該表面官能化固体金属酸化物が実質的に単分散している、パラグラフ1に記載の電池のセル。
[9]
該表面官能化固体金属酸化物が酸化スズを含む、パラグラフ1に記載の電池のセル。
[10]
該表面官能化固体金属酸化物の金属が、鉄、アンチモン、ビスマス、チタン、ジルコニウム、マンガン、またはインジウムのうちの1種以上を含む、パラグラフ1に記載の電池のセル。
[11]
該電極がアノードとして構成されている、パラグラフ1に記載の電池のセル。
[12]
該表面官能化固体金属酸化物が、該電極の10重量%~50重量%を構成している、パラグラフ1に記載の電池のセル。
[13]
該表面官能化固体金属酸化物が、該電極の10重量%~33重量%を構成している、パラグラフ1に記載の電池のセル。
[14]
該表面官能化固体金属酸化物が、該電極の33重量%~50重量%を構成している、パラグラフ1に記載の電池のセル。
[15]
該表面官能化固体金属酸化物が、該電極の50重量%~80重量%を構成している、パラグラフ1に記載の電池のセル。
[16]
少なくとも150サイクルの対リチウムサイクル性能を有する、電極を含む電池のセルであって、
該電極は、20nm未満の粒子寸法を有するナノ微粒子の形態になっている表面官能化固体金属酸化物を含み、
該表面官能化固体金属酸化物はM
mO
x/Gの式によってさらに特徴づけられ、ここで、
M
mは金属であり、mは少なくとも1であって5以下であり、
O
xは合計の酸素であり、xは少なくとも1であって21以下であり、
M
mO
xは金属酸化物であり、
Gは少なくとも1種の電子求引性表面基であり、そして
「 / 」は金属酸化物と電子求引性表面基の間に区別をつけており、
該表面官能化固体金属酸化物は、Cl、Br、BO
3、SO
4、PO
4、CH
3COO、C
2O
4、およびC
6H
5O
7からなる群から選択される少なくとも1種の電子求引性表面基で表面官能化されており、
該表面官能化固体金属酸化物は、少なくともその表面上で5未満のpHと-12よりも大きなハメット関数H
0を有し、そして
そのpHは表面官能化固体金属酸化物の乾燥した形態のものを水中で5重量%で再浮遊させたときに測定されたものである、
上記のセル。
[17]
該pHが2以上5未満の範囲である、パラグラフ16に記載の電池のセル。
[18]
該サイクル性能が、少なくとも300サイクルで800サイクル以下の範囲である、パラグラフ16に記載の電池のセル。
[19]
リチウム金属を含む第二の電極をさらに含む、パラグラフ16に記載の電池のセル。
[20]
該表面官能化固体金属酸化物が球状の形態を有する、パラグラフ16に記載の電池のセル。
[21]
該表面官能化固体金属酸化物が細長い形態を有する、パラグラフ16に記載の電池のセル。
[22]
該表面官能化固体金属酸化物が板状の形態を有する、パラグラフ16に記載の電池のセル。
[23]
該表面官能化固体金属酸化物が実質的に単分散している、パラグラフ16に記載の電池のセル。
[24]
該表面官能化固体金属酸化物が酸化スズを含む、パラグラフ16に記載の電池のセル。
[25]
該表面官能化固体金属酸化物の金属が、鉄、アンチモン、ビスマス、チタン、ジルコニウム、マンガン、またはインジウムから選択される、パラグラフ16に記載の電池のセル。
[26]
該電極がアノードとして構成されている、パラグラフ16に記載の電池のセル。
[27]
該表面官能化固体金属酸化物が、該電極の10重量%~50重量%を構成している、パラグラフ16に記載の電池のセル。
[28]
該表面官能化固体金属酸化物が、該電極の10重量%~33重量%を構成している、パラグラフ16に記載の電池のセル。
[29]
該表面官能化固体金属酸化物が、該電極の33重量%~50重量%を構成している、パラグラフ16に記載の電池のセル。
[30]
該表面官能化固体金属酸化物が、該電極の50重量%~80重量%を構成している、パラグラフ16に記載の電池のセル。
[31]
該サイクル性能が少なくとも200である、パラグラフ1または16に記載の電池のセル。