(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】制震架構
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240702BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20240702BHJP
E04B 1/348 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
E04H9/02 301
E04B1/58 B
E04B1/348 N
(21)【出願番号】P 2024059238
(22)【出願日】2024-04-01
【審査請求日】2024-04-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】高谷 真次
(72)【発明者】
【氏名】黒川 泰嗣
(72)【発明者】
【氏名】土合 博之
(72)【発明者】
【氏名】中井 武
(72)【発明者】
【氏名】矢口 友貴
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 圭太
(72)【発明者】
【氏名】木下 睦貴
【審査官】吉村 庄太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-31027(JP,A)
【文献】特開2013-147930(JP,A)
【文献】特開2010-185260(JP,A)
【文献】特開2005-146757(JP,A)
【文献】特開2011-132690(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
E04B 1/58
E04B 1/348
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構面を平面の一方向としたラーメン架構を備える、木質材を用いて形成された木質架構部と、
構面を前記一方向としたラーメン架構を備える、前記木質架構部よりも前記一方向における剛性が高い高剛性架構部と、
を有し、
平面視で前記一方向とは異なる方向に離隔した前記木質架構部の前記ラーメン架構と前記高剛性架構部の前記ラーメン架構とが、水平方向に設けられた水平ダンパを介して接続され、前記水平ダンパにより、前記一方向の振動を、前記木質架構部と前記高剛性架構部の前記一方向の変位差を利用して吸収することを特徴とする制震架構。
【請求項2】
前記木質架構部は、建物の外周部に配置されることを特徴とする請求項1記載の制震架構。
【請求項3】
前記水平ダンパは、平面視において前記木質架構部の前記ラーメン架構と前記高剛性架構部の前記ラーメン架構の間で、床版の下に設けられることを特徴とする請求項1記載の制震架構。
【請求項4】
前記床版は、少なくとも前記木質架構部の前記ラーメン架構と前記高剛性架構部の前記ラーメン架構のいずれかに対して縁が切られていることを特徴とする請求項3記載の制震架構。
【請求項5】
前記木質架構部または前記高剛性架構部で設けられる床版が二重床となっており、上部床と下部床の間に免震装置とダンパが設けられたことを特徴とする請求項1記載の制震架構。
【請求項6】
前記水平ダンパは水平ブレースダンパであり、平面視において前記木質架構部の前記ラーメン架構と前記高剛性架構部の前記ラーメン架構の間で斜めに配置されることを特徴とする請求項1記載の制震架構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制震架構等に関する。
【背景技術】
【0002】
木構造は、地球温暖化対策としてCO2排出量を削減するための手段として有効であり、木材を現しにして意匠性を向上させることもできる。ただし、剛性や耐力が小さいことから、従来木構造を大規模建築に適用するのは困難であった。しかしながら、昨今、大規模集成材が普及してきたことから、木構造が大規模建築に適用され始めており、その一例として、木質柱と木質梁を門型に組み合わせた木質ラーメン架構がある(例えば特許文献1など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、木質ラーメン架構は、RC造(鉄筋コンクリート造)やS造(鉄骨造)と比べて剛性や耐力が小さいため、建物の耐震要素として合理的かつ有効に活用するのが困難である。そのため、柱本数を増やしたり部材の断面を大きくしたりといった方策が採られているのが実情であり、これらの対策を講じる結果、建物内で柱や梁の占める部分が大きくなり、有効利用できる建物内の空間を減らしてしまう。
【0005】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、建物内の空間の有効利用につながる制震架構等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した課題を解決するための第1の発明は、構面を平面の一方向としたラーメン架構を備える、木質材を用いて形成された木質架構部と、構面を前記一方向としたラーメン架構を備える、前記木質架構部よりも前記一方向における剛性が高い高剛性架構部と、を有し、平面視で前記一方向とは異なる方向に離隔した前記木質架構部の前記ラーメン架構と前記高剛性架構部の前記ラーメン架構とが、水平方向に設けられた水平ダンパを介して接続され、前記水平ダンパにより、前記一方向の振動を、前記木質架構部と前記高剛性架構部の前記一方向の変位差を利用して吸収することを特徴とする制震架構である。
【0007】
本発明では、上記構成により、木質材を使用して環境面等に優れた建物を実現しつつ、木質材を用いたラーメン架構の弱点である低剛性・低耐力を逆に利用した水平ダンパによる制震架構とすることで、建物全体の耐震安全性を高めることができる。そのため、木質材を用いたラーメン架構の剛性や耐力の低さを補うために、柱を増やしたり、柱や梁の部材サイズを大きくしたり、耐震壁や鉛直ブレースを追加配置したりする必要が無く、建物内の空間の有効利用につながる。
【0008】
前記木質架構部は、例えば建物の外周部に配置される。
これにより、建物のファサードを形成する構面に木質架構部を配置して建物の意匠性を向上させると共に、そのラーメン架構を構造部材としても有効に活用することができる。
【0009】
前記水平ダンパは、平面視において前記木質架構部の前記ラーメン架構と前記高剛性架構部の前記ラーメン架構の間で、床版の下に設けられることが望ましい。前記床版は、少なくとも前記木質架構部の前記ラーメン架構と前記高剛性架構部の前記ラーメン架構のいずれかに対して縁が切られている。
本発明では水平ダンパを床(または天井)の床版下に設けることで、建物の空間利用を阻害することが無く、建築空間をより自由に活用でき建築意匠の自由度も高めることが可能となる。また上記のように床版とラーメン架構との縁を切ることで、ラーメン架構同士の相対変位が床版によって阻害されるのを防ぐことができる。
【0010】
前記木質架構部または前記高剛性架構部で設けられる床版が二重床となっており、上部床と下部床の間に免震装置とダンパが設けられることも望ましい。
これにより、建物の振動をさらに吸収でき、木質架構部に要求される剛性や耐力をさらに低減できる。
【0011】
前記水平ダンパは水平ブレースダンパであり、平面視において前記木質架構部の前記ラーメン架構と前記高剛性架構部の前記ラーメン架構の間で斜めに配置されることが望ましい。
これにより、簡易且つ省スペースな構成の水平ダンパで振動を吸収することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、建物内の空間の有効利用につながる制震架構等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図5】木質架構部2と高剛性架構部3の配置パターンを示す図。
【
図6】木質架構部2と高剛性架構部3の配置パターンを示す図。
【
図7】木質架構部2と高剛性架構部3の配置パターンを示す図。
【
図8】木質架構部2と高剛性架構部3の配置パターンを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0015】
図1は本発明の実施形態に係る制震架構1の概略を示す図である。
図1(a)は制震架構1の平面の概略図であり、
図1(b)は
図1(a)の制震架構1を矢印Iに示す方向から見た正面の概略図である。
【0016】
図1に示すように、制震架構1は建物の地上階の架構であり、木質架構部2と高剛性架構部3とを有する。
【0017】
木質架構部2は、木質材を用いて形成された架構であり、建物の外周部に配置される。木質架構部2は、構面を平面の一方向としたラーメン架構20を備える。
図1の例では、上記方向がx方向(
図1(a)の左右方向)に対応する。ラーメン架構20は、隣り合う柱21の頂部同士を梁22により接続した門型の架構からなり、柱21と梁22は木質材を用いて形成され、建物の各フロアに対応する高さで配置される。木質架構部2は、高剛性架構部3を挟んで一対配置される。木質架構部2は、建物のファサードに当たる位置に配置されることで、建物に優れた意匠性を与える。
【0018】
ラーメン架構20の柱21と梁22は、上記のように木質材を用いたものであり、その全体を木質材とするものの他、木質材とコンクリートや鉄骨などとの合成構造で表面の仕上げを木質材としたものでもよい。木質材は特に限定されないが、集成材や構造用合板、CLT(Cross Laminated Timber)やLVL(Laminated Veneer Lumber)などを用いることができる。ラーメン架構20における柱21と梁22の接合方法も特に限定されず、剛接合、ピン接合、またはそれらの併用とすることができる。
【0019】
高剛性架構部3は、建物の外周部の内側のコア部分に配置された高剛性の架構であり、構面を前記のx方向としたラーメン架構30を備える。ラーメン架構30は、柱31と梁32による門型の架構からなり、前記した一対の木質架構部2のラーメン架構20の内側にそれぞれ配置される。
図1では高剛性架構部3がグレーで示されている。後述の
図3、
図5~8においても同様である。
【0020】
木質架構部2のラーメン架構20と高剛性架構部3のラーメン架構30は、前記のx方向と異なるy方向(
図1(a)の上下方向)に離隔し、ラーメン架構30の柱31と、その外側のラーメン架構20の柱21とは、y方向の梁32によって連結される。以下、ラーメン架構20において隣り合う柱21と、これらの柱21と連結されるラーメン架構30の柱31で囲まれた矩形状の平面範囲aを「区画」ということがある。またx方向とy方向は平面において直交する。
【0021】
高剛性架構部3のx方向における剛性は、木質架構部2よりも高い。その限りにおいて高剛性架構部3の構造形式は特に限定されず、柱31や梁32は木質材を用いないRC造やS造などとでき、柱31をRC造、梁32をS造とするなどしてこれらの構造形式を組み合わせてもよい。また柱31や梁32に木質材を用いてもよい。なお、S造には、柱31をCFT柱(コンクリート充填鋼管柱)とすることも含まれる。また、剛性の高低は、連続する一纏まりの木質架構部2を独立して見た時の剛性と、連続する一纏まりの高剛性架構部3を独立して見た時の剛性との比較によるものである。
【0022】
高剛性架構部3のラーメン架構30と、その外側の木質架構部2のラーメン架構20とは、水平方向に設けられた水平ダンパ4を介して接続される。水平ダンパ4により、平面のx方向の建物の振動を、木質架構部2と高剛性架構部3のx方向の変位差を利用して吸収することができる。
【0023】
図2は、
図1(a)の位置Aにおける水平ダンパ4の取付例を示す図である。水平ダンパ4は、1フロア分のラーメン架構20、30の上階の床となる床版6の下方で、平面視でラーメン架構20、30の間に設けられる。本実施形態では、平面積は大きいが高さが確保できない床下空間に設ける水平ダンパ4として、水平ブレースダンパが用いられる。水平ブレースダンパとしては、オイルダンパ、鋼製ダンパなどを用いることができる。ただし、水平ダンパ4としては、粘性壁ダンパを水平方向に配置して用いるなど水平ブレースダンパ以外のダンパを適用することもできる。
【0024】
図1(a)に示すように、水平ダンパ4(水平ブレースダンパ)は平面視でx方向およびy方向に対して斜めに配置される。
【0025】
図2に示すように、水平ダンパ4の端部の接合は、例えば鋼板51とボルト(高力ボルト)52を用いて行われる。
図2の梁32は、木質架構部2のラーメン架構20の柱21と高剛性架構部3のラーメン架構30の柱31を連結する梁32(y方向の梁32)であり、H形鋼による鉄骨梁となっている。そして、当該鉄骨梁のラーメン架構20側の端部から延ばした鉛直板321と、水平ダンパ4の端部の鉛直板41とが鋼板51によって表裏から挟み込まれ、これらの鋼板51がボルトやナットによる締結具52により鉛直板321、41を挟んで締め付けられる。同様に、鉄骨梁のラーメン架構20側の端部から延ばした水平板322と、水平ダンパ4の端部の水平板42が鋼板51によって表裏から挟み込まれ、これらの鋼板51が締結具52により水平板322、42を挟んで締め付けられる。
【0026】
このようにして、水平ダンパ4のラーメン架構20側の端部が、y方向の梁32のラーメン架構20側の端部に接合される。水平ダンパ4のラーメン架構30側の端部も、同様に鋼板51と締結具52を用いてy方向の別の梁32のラーメン架構30側の端部に接合される。これらの接合は剛接合となるが、水平ダンパ4の端部の接合方法は特に限定されない。例えば、水平ダンパ4の端部をガセットプレートとボルトを用いてピン接合してもよい。
【0027】
また
図1の例では、一対の水平ダンパ4が、木質架構部2のラーメン架構20と高剛性架構部3のラーメン架構30の間の区画a内でX字状に交差するように配置される。しかしながら水平ダンパ4はこれに限らず、区画a内で
図3(a)に示すように斜め方向に1本のみ設けたり、
図3(b)に示すようにV字状に設けたりしてもよい。
【0028】
また、水平ダンパ4は必ずしも建物の全フロアで設ける必要は無く、任意のフロアのみに設けても良い。例えば数フロアおきに分散配置したり、機械室階、屋外設備階、緑化テラス階などの特殊階や、建物用途切り替え階に集中配置してもよい。
【0029】
また、
図1の例ではラーメン架構20、30の間の全ての区画aに水平ダンパ4を設けているが、必ずしも全ての区画aに水平ダンパ4を設ける必要は無く、任意の区画aのみに設けても良い。例えば、EVシャフトや設備シャフトなどの鉛直シャフトが計画される区画aでは、水平ダンパ4の配置が省略される。
【0030】
図4は、
図1(a)の位置Bにおける床面の概略図である。
図4の例では、木質架構部2の柱21が、木質材211による外郭部分の内側にコンクリート212を打設した合成構造柱であり、梁22が木梁である。前記したy方向の梁32の端部は、柱21のコンクリート212内に埋設される。
【0031】
図4の床版6は、平面視において木質架構部2のラーメン架構20とその内側の高剛性架構部3のラーメン架構30の間に設けられる。床版6はコンクリート製のプレキャスト部材により乾式工法で施工され、平面視で床版6とラーメン架構20の間にはクリアランス61が設けられる。こうして床版6とラーメン架構20の間で縁が切られることにより、床版6が木質架構部2のラーメン架構20と高剛性架構部3のラーメン架構30のx方向の相対変位を阻害しない収まりとなっている。床版6はコンクリート製のプレキャスト部材に限らず、グレーチングなどの鋼製部材であってもよい。
【0032】
なお本実施形態では、床版6と高剛性架構部3のラーメン架構30との間でも同様にクリアランスが設けられ、床版6とラーメン架構30の間でも縁が切られる。ただし、床版6は、ラーメン架構20、30のいずれか一方に対して縁が切られるものとしてもよい。また本実施形態ではラーメン架構20、30の間の区画aごとに床版6が配置され、x方向に隣り合う床版6の間も、クリアランス62を設けることで縁が切られている。
【0033】
なお、クリアランス61、62を設けるかわりに、床版6とラーメン架構20、30の相対移動や床版6同士の相対移動を許容する接合方法で接合を行ってもよい。高剛性架構部3の柱31で囲まれた範囲に関しては、従来工法で現場打ちのコンクリートにより床版6を形成し、これらの柱31に床版6を固定しても問題ない。
【0034】
以上説明したように、本実施形態の制震架構1では、木質架構部2と高剛性架構部3を建物の地上階平面において併用し、木質架構部2のx方向のラーメン架構20と高剛性架構部3のx方向のラーメン架構30をy方向に分離配置する。そして、両ラーメン架構20、30を水平ダンパ4によって接続し、地震時の木質架構部2と高剛性架構部3のx方向の変位差を利用して振動を減衰させる。
【0035】
これにより、木質材を使用して環境面等に優れた建物を実現しつつ、木質材を用いたラーメン架構20の弱点である低剛性・低耐力を逆に利用した水平ダンパ4による制震架構1とすることで、建物全体の耐震安全性を高めることができる。そのため、ラーメン架構20の剛性や耐力の低さを補うために、柱21を増やしたり、柱21や梁22の部材サイズを大きくしたり、耐震壁や鉛直ブレースを追加配置したりする必要が無く、建物内の空間の有効利用につながる。
【0036】
また本実施形態では木質架構部2が建物の外周部に配置されており、建物のファサードを形成する構面に木質架構部2を配置して建物の意匠性を向上させると共に、構造部材としてもラーメン架構20を有効に活用することができる。
【0037】
また本実施形態では水平ダンパ4を床(または天井)下に設けることで、建物の空間利用を阻害することが無く、建築空間をより自由に活用でき建築意匠の自由度も高めることが可能となる。また床版6とラーメン架構20、30との縁を切ることで、ラーメン架構20、30同士の相対変位が床版6によって阻害されるのを防ぐことができる。
【0038】
また本実施形態の水平ダンパ4はラーメン架構20、30の間で斜めに配置される水平ブレースダンパであり、簡易且つ省スペースな構成の水平ダンパ4で振動を吸収することができる。
【0039】
しかしながら、本発明は上記の実施形態に限定されない。例えば木質架構部2と高剛性架構部3の配置パターンは
図1で説明したものに限らない。例えば本実施形態では木質架構部2を高剛性架構部3を挟んだ両側に設けたが、
図5(a)に示すように、木質架構部2を高剛性架構部3の片側にのみ設けてもよい。
【0040】
また
図5(b)に示すように、木質架構部2を建物の外周部の全周に亘って配置し、木質架構部2と高剛性架構部3の双方が、y方向(平面の一方向)のラーメン架構20、30を備えるようにしてもよい。水平ダンパ4はこれらのラーメン架構20、30の間にも設けられ、制震架構1は、x方向だけでなく、地震時のy方向の木質架構部2と高剛性架構部3の変位差によっても振動を吸収できる。高剛性架構部3の剛性は、x方向だけでなくy方向においても木質架構部2より高くなっている。
【0041】
また
図5(c)に示すように、
図1とは逆に、木質架構部2を挟んだ両側に高剛性架構部3を設けてもよい。その他、
図5(b)とは逆に、高剛性架構部3を建物の外周部の全周に亘って配置し、その内側に木質架構部2を位置させてもよい。
【0042】
また
図6(a)に示すように、木質架構部2のx方向の長さを高剛性架構部3よりも短くしてもよい。この場合、高剛性架構部3のx方向の一部分のラーメン架構30と木質架構部2のラーメン架構20との間に水平ダンパ4が配置される。
【0043】
一方、
図6(b)は、木質架構部2を高剛性架構部3の両側に設けた場合において、高剛性架構部3のx方向の長さを木質架構部2よりも短くしたものであり、
図6(c)は、高剛性架構部3を木質架構部2の両側に設けた場合において、木質架構部2のx方向の長さを高剛性架構部3より短くしたものである。
図6(b)の例では木質架構部2のx方向の端部にy方向のラーメン架構20が存在し、このラーメン架構20と高剛性架構部3のy方向のラーメン架構30との間に水平ダンパ4が配置されることで、建物のy方向の振動も木質架構部2と高剛性架構部3のy方向の変位差により吸収できる構成となっている。
【0044】
また
図7に示すように、木質架構部2のx方向の設置範囲を高剛性架構部3と異ならせてもよい。この場合も、高剛性架構部3のx方向のラーメン架構30と木質架構部2のx方向のラーメン架構20との間に水平ダンパ4を配置して建物のx方向の振動を吸収できる。
図7の例では、
図6(b)と同様、木質架構部2のx方向の端部にy方向のラーメン架構20が存在し、このラーメン架構20と高剛性架構部3のy方向のラーメン架構30との間に水平ダンパ4が配置されることで、建物のy方向の振動も吸収できる。
【0045】
さらに、
図8に示すように、高剛性架構部3のx方向のラーメン架構30と木質架構部2のx方向のラーメン架構20とを接続するy方向の梁を設けずに、ラーメン架構20、30の間に配置したオイルダンパや鋼製ダンパなどの水平ダンパ4aによってラーメン架構20、30を接続してもよい。この場合も、地震時の木質架構部2と高剛性架構部3のx方向の変位差を利用して振動を減衰させることができる。木質架構部2はファサードとして用いる。ラーメン架構20、30の間はバルコニーや設備シャフトなどに利用でき、この場合、ラーメン架構20、30の相対変位を可能とする床端部のディテールも簡単な構成で実現できる。高剛性架構部3の床版6も、ラーメン架構20、30の相対変位には影響しないので、その納まりは楽である。
【0046】
これらの配置パターンの組み合わせにより、本発明は、様々な用途、機能、平面形状、意匠を有する建物に適用することが可能になる。建物の平面サイズ、高さなども特に限定されない。例えば
図5(c)や
図6(c)のパターンは、耐候性に劣る木質架構部2を建物の内部に配置することで、メンテナンス性に優れる。一方で、建物のファサードの意匠性向上というメリットは得られないものの、光が届きにくい内部の居住空間等を木質空間として快適性を高めることができる。
【0047】
また水平ダンパ4、4aに加え、
図9に示すように、高剛性架構部3に設けられる床版6aを二重床とし、下部床60-1と上部床60-2の間に水平ダンパ7と免震装置8を配置して、TMD(Tuned Mass Damper:同調質量ダンパー)と同様、下部床60-1に対する上部床60-2の相対変位によって建物の振動をさらに吸収できるようにしてもよい。これにより、木質架構部2に要求される剛性や耐力をさらに低減できる。水平ダンパ7は、床版6aのx方向、y方向の各辺に沿って配置し、x方向、y方向の振動をバランス良く吸収できるようにする。以上の構成は、木質架構部2に床版が設けられる場合にその床版に適用することも可能である。
【0048】
なお、本発明では木質架構部2と高剛性架構部3を組み合わせて制震架構1とするが、これとは異なる構成として、木質架構部2に代えて、木質材を使用しない、高剛性架構部3よりも低剛性の架構部を適用することもできる。この場合も、当該架構部は柱と梁によるラーメン架構を備えるが、柱や梁は、木質材を用いないRC造やS造による構造形式とされる。柱をRC造、梁をS造とするなどしてこれらの構造形式を組み合わせてもよい。
【0049】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0050】
1:制震架構
2:木質架構部
3:高剛性架構部
4、4a、7:水平ダンパ
6、6a:床版
8:免震装置
20、30:ラーメン架構
【要約】
【課題】建物内の空間の有効利用につながる制震架構等を提供する。
【解決手段】制震架構1は木質架構部2と高剛性架構部3を有する。木質架構部2は木質材を用いて形成され、構面を平面のx方向としたラーメン架構20を備える。高剛性架構部3は、構面をx方向としたラーメン架構30を備え、木質架構部2よりもx方向における剛性が高い。平面視でy方向に離隔した木質架構部2のラーメン架構20と高剛性架構部3のラーメン架構30とが、水平方向に設けられた水平ダンパ4を介して接続され、水平ダンパ4により、x方向の振動を、木質架構部2と高剛性架構部3のx方向の変位差を利用して吸収する。
【選択図】
図1