(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
F02F 1/42 20060101AFI20240703BHJP
F02B 31/08 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
F02F1/42 F
F02B31/08 500A
(21)【出願番号】P 2020144841
(22)【出願日】2020-08-28
【審査請求日】2023-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑典
【審査官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-214166(JP,A)
【文献】特開2017-186962(JP,A)
【文献】特開2003-336524(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0168040(US,A1)
【文献】特開2019-094909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00 - 1/42
F02F 7/00
F02B 31/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室に開口する吸気開口部と、前記吸気開口部に向かって延伸し、前記吸気開口部に繋がる吸気ポートとを有するシリンダヘッドと、
前記吸気開口部を開閉する吸気弁と、
前記吸気弁が着座するバルブ着座面を有し、前記吸気開口部に装着された環状のバルブシートと、を備える内燃機関であって、
前記吸気ポートは、その下流側端部における前記燃焼室に近い側の壁面である下流側吸気ポート面を有し、
前記バルブシートは、
前記下流側吸気ポート面と前記バルブ着座面とを連絡し、前記下流側吸気ポート面と交差するポート連絡面と、
前記下流側吸気ポート面と前記ポート連絡面とが交差する位置に沿って鋭利な角を線状に形成するエッジ部と、を有し、
円筒の外周面の一部からなり、前記吸気ポートの延伸方向に沿って延び、前記下流側吸気ポート面および前記ポート連絡面を拡径させるように窪む複数の凹部が、前記吸気ポートの周方向に並んで形成されていることを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
複数の前記凹部の少なくとも1つは、前記吸気ポートの延伸方向で前記吸気弁の軸部と対向しない位置に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
複数の前記凹部の少なくとも1つは、前記吸気ポートの延伸方向で前記吸気弁に近づくほど、前記吸気ポートの周方向で前記吸気弁の軸部から離れるように、前記吸気ポートの延伸方向に対して傾斜して延びていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジン等の内燃機関においては、燃焼状態の向上のためにシリンダ内にタンブル流を発生させる構造を有するものがある。従来のこの種の内燃機関として、特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1に記載のものは、吸気ポートの下流端部における燃焼室への吸気開口部の近傍に線状にエッジ部を形成することにより、エッジ部において吸気ポートの内壁から吸気を剥離させるようになっている。特許文献1に記載の技術によれば、エッジ部において剥離した吸気がタンブル流を形成する方向に流れることができるので、逆方向のタンブル流の発生を抑制でき、順方向のタンブル流を強めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の従来の技術にあっては、一定の広い範囲にエッジ部が線状に連続して形成されているため、エッジ部で剥離した多くの空気は、吸気ポートの延伸方向に真っ直ぐ流れることとなり、吸気開口部の縁に向かって広がるように流れることができない。このため、吸気ポートにおけるエッジ部より下流側の吸気通路の実質的な通過断面積が、吸気開口部の開口面積よりも小さくなってしまい、燃焼室への吸気の充填効率が低下してしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、上記のような事情に着目してなされたものであり、燃焼室における吸気のタンブル流を維持でき、かつ、吸気の充填効率を向上させることができる内燃機関を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、燃焼室に開口する吸気開口部と、前記吸気開口部に向かって延伸し、前記吸気開口部に繋がる吸気ポートとを有するシリンダヘッドと、前記吸気開口部を開閉する吸気弁と、前記吸気弁が着座するバルブ着座面を有し、前記吸気開口部に装着された環状のバルブシートと、を備える内燃機関であって、前記吸気ポートは、その下流側端部における前記燃焼室に近い側の壁面である下流側吸気ポート面を有し、前記バルブシートは、前記下流側吸気ポート面と前記バルブ着座面とを連絡し、前記下流側吸気ポート面と交差するポート連絡面と、前記下流側吸気ポート面と前記ポート連絡面とが交差する位置に沿って鋭利な角を線状に形成するエッジ部と、を有し、円筒の外周面の一部からなり、前記吸気ポートの延伸方向に沿って延び、前記下流側吸気ポート面および前記ポート連絡面を拡径させるように窪む複数の凹部が、前記吸気ポートの周方向に並んで形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
このように上記の本発明によれば、燃焼室における吸気のタンブル流を維持でき、かつ、吸気の充填効率を向上させることができる内燃機関を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例に係る内燃機関のシリンダヘッドの断面図であり、
図2に示す内燃機関のI-I方向の矢視断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す内燃機関のII-II方向の矢視断面図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す内燃機関の吸気弁の周辺の詳細を示す拡大図である。
【
図4】
図4は、
図3に示す内燃機関のIV-IV方向の矢視断面図である。
【
図5】
図5は、
図3に示す内燃機関のV-V方向の矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施の形態に係る内燃機関は、燃焼室に開口する吸気開口部と、吸気開口部に向かって延伸し、吸気開口部に繋がる吸気ポートとを有するシリンダヘッドと、吸気開口部を開閉する吸気弁と、吸気弁が着座するバルブ着座面を有し、吸気開口部に装着された環状のバルブシートと、を備える内燃機関であって、吸気ポートは、その下流側端部における燃焼室に近い側の壁面である下流側吸気ポート面を有し、バルブシートは、下流側吸気ポート面とバルブ着座面とを連絡し、下流側吸気ポート面と交差するポート連絡面と、下流側吸気ポート面とポート連絡面とが交差する位置に沿って鋭利な角を線状に形成するエッジ部と、を有し、吸気ポートの延伸方向に沿って延び、下流側吸気ポート面およびポート連絡面を拡径させるように窪む複数の凹部が、吸気ポートの周方向に並んで形成されていることを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係る内燃機関は、燃焼室における吸気のタンブル流を維持でき、かつ、吸気の充填効率を向上させることができる。
【実施例】
【0010】
以下、本発明の一実施例に係る内燃機関について、図面を用いて説明する。
図1から
図5において、上下前後左右方向は、車両に設置された状態の内燃機関の上下前後左右方向とし、車両の前後方向に対して直交する方向が左右方向、内燃機関の高さ方向が上下方向である。
【0011】
図1から
図5は、本発明の一実施例に係る内燃機関を示す図である。
【0012】
まず、構成を説明する。
図1、
図2において、内燃機関1は、シリンダ3が形成されたシリンダブロック2と、燃焼室5が形成されたシリンダヘッド4とを備えている。シリンダヘッド4は、シリンダブロック2の上部に連結されている。内燃機関1は、複数のシリンダ3がシリンダブロック2に形成された多気筒エンジンとして構成されている。内燃機関1は、外部から吸い込んだ空気(以下、吸気ともいう)と燃料とを燃焼室5で燃焼させることにより運動エネルギーを発生する。
【0013】
シリンダヘッド4には、燃焼室5に開口する2つの吸気開口部21および2つの排気開口部11が形成されている。また、シリンダヘッド4には、シリンダ3毎に、吸気開口部21を開閉する2つの吸気弁22と、排気開口部11を開閉する2つの排気弁12とが設けられている。吸気弁22および排気弁12は、図示しないクランクシャフトの回転と連動して駆動される。吸気弁22は、吸気開口部21を開閉する傘状の傘部22Aと、この傘部22Aを支持する軸状の軸部22Bとからなる。
【0014】
シリンダヘッド4には、シリンダ3毎に、吸気開口部21を介して燃焼室5に吸気を導入する2つの吸気ポート23と、排気開口部11を介して燃焼室5から排気ガスを排出する2つの排気ポート13と、が形成されている。吸気ポート23は、吸気開口部21に向かって前方に延伸し、シリンダヘッド4内で1本から2本に分岐し、吸気開口部21に繋がっている。排気ポート13は、図示しない排気出口に向かって後方に延伸し、シリンダヘッド内で2本から1本に集合し、排気出口に繋がっている。
【0015】
本実施例では、吸気ポート23は、シリンダ3の吸気開口部21に対向する内周面に向かうように延びている。これにより、吸気弁22の開弁時に吸気ポート23から燃焼室5に流れ込んだ吸気は、シリンダ3の吸気開口部21に対向する内周面と図示しないピストンの上面とに衝突し、縦方向の旋回流であるタンブル流40を形成する(
図2参照)。
【0016】
図3において、内燃機関1は環状に形成されたバルブシート30を備えている。バルブシート30は、吸気開口部21に装着されている。バルブシート30は、吸気弁22が着座するバルブ着座面31を有している。
【0017】
吸気ポート23は下流側吸気ポート面24を有している。下流側吸気ポート面24は、吸気ポート23の下流側端部における燃焼室5に近い側の壁面である。この燃焼室5に近い側の壁面とは、言い換えれば吸気ポート23の下面である。
【0018】
バルブシート30には、ポート連絡面32と、エッジ部33とが設けられている。ポート連絡面32は、下流側吸気ポート面24とバルブ着座面31とを連絡し、下流側吸気ポート面24と交差する面である。エッジ部33は、下流側吸気ポート面24とポート連絡面32とが交差する位置に沿って鋭利な角を線状に形成している。
【0019】
図4、
図5において、シリンダヘッド4の吸気ポート23には複数(本実施例では3つ)の凹部としての、凹部25A、25B、25Cが形成されている。凹部25A、25B、25Cは、吸気ポート23の延伸方向に沿って延びている。凹部25A、25B、25Cは、下流側吸気ポート面24およびポート連絡面32を拡径させるように窪んでいる。詳しくは、凹部25A、25B、25Cは、吸気開口部21に近づくほど吸気ポート23の断面積を拡大させるように、下流側吸気ポート面24およびポート連絡面32において窪んでいる。凹部25A、25B、25Cは、吸気ポート23の周方向に並んで形成されている。凹部25A、25B、25Cは、円筒の外周面の一部と同様の形状であり、切削加工等によって形成することができる。なお、本実施例では、凹部25A、25B、25Cは、吸気ポート23の周方向に隣接して並んでいるが、凹部25A、25B、25Cは、吸気ポート23の周方向に離隔して並ぶように構成してもよい。
【0020】
図4において、複数の凹部25A、25B、25Cのうち、吸気ポート23の周方向で中央の凹部25Bは、吸気ポート23の延伸方向で吸気弁22の軸部22Bと対向する位置に形成されている。このため、凹部25Bに沿って流れる吸気は、吸気弁22の軸部22Bと衝突して流れ方向を下方に変えて、燃焼室5に導入される。
【0021】
一方、外側の凹部25A、25Cは、吸気ポート23の延伸方向で吸気弁22の軸部22Bと対向しない位置に形成されている。つまり、複数の凹部25A、25B、25Cの少なくとも1つは、吸気ポート23の延伸方向で吸気弁22の軸部22Bと対向しない位置に形成されている。言い換えれば、シリンダ3の中心軸から吸気開口部21を介して吸気ポート23を見た場合、凹部25A、25Cは、吸気ポート23の吸気流れ方向で吸気弁22の軸部22Bと重ならない位置に配置されている。このため、凹部25A、25Cに沿って流れる吸気は、吸気弁22の軸部22Bと衝突することなく、吸気弁22の傘部22Aの上面に沿って流れ、順方向のタンブル流40となって燃焼室5に導入される。
【0022】
複数の凹部25A、25B、25Cのうち、吸気ポート23の周方向で中央の凹部25Bは、吸気ポート23の延伸方向に沿って吸気弁22の軸部22Bに向かって延びている。一方、外側の凹部25A、25Cは、吸気ポート23の延伸方向で吸気弁22に近づくほど、吸気ポート23の周方向で吸気弁22の軸部22Bから離れるように、吸気ポート23の延伸方向に対して傾斜して延びている。より詳しくは、凹部25Aは、吸気ポート23の延伸方向で前方に進んで吸気弁22に近づくほど、吸気ポート23の周方向で左方に進んで吸気弁22の軸部22Bから離れるように傾斜している。また、凹部25Cは、吸気ポート23の延伸方向で前方に進んで吸気弁22に近づくほど、吸気ポート23の周方向で右方に進んで吸気弁22の軸部22Bから離れるように傾斜している。このため、中央の凹部25Bの延伸方向27Bに対して、外側の凹部25A、25Cの延伸方向27A、27Cは、それぞれ傾斜角26だけ傾斜している。このように、複数の凹部25A、25B、25Cの少なくとも1つは、吸気ポート23の延伸方向で吸気弁22に近づくほど、吸気ポート23の周方向で吸気弁22の軸部22Bから離れるように、吸気ポート23の延伸方向に対して傾斜して延びている。
【0023】
次に、本実施例の作用効果について説明する。内燃機関1の吸気行程において外部から吸気ポート23に導入された吸気は、吸気開口部21を通過して燃焼室5に流入する。燃焼室5に流入した吸気は、シリンダ3の内周面と図示しないピストンの上面とに衝突し、縦方向の旋回流であるタンブル流40を形成する。
【0024】
本実施例の内燃機関1において、バルブシート30は、下流側吸気ポート面24とバルブ着座面31とを連絡し、下流側吸気ポート面24と交差するポート連絡面32を有している。また、バルブシート30はエッジ部33を有しており、このエッジ部33は、下流側吸気ポート面24とポート連絡面32とが交差する位置に沿って鋭利な角を線状に形成している。
【0025】
これにより、下流側吸気ポート面24に沿って流れた吸気は、エッジ部33において剥離し、吸気ポート23の延伸方向への流れ、つまり順方向のタンブル流40を形成する方向の流れを維持したまま、燃焼室5内に吹き出すことができる。このため、燃焼室5における吸気のタンブル流40を維持できる。
【0026】
これに加え、本実施例の内燃機関1において、吸気ポート23の延伸方向に沿って延び、下流側吸気ポート面24およびポート連絡面32を拡径させるように窪む複数の凹部25A、25B、25Cが、吸気ポート23の周方向に並んで形成されている。
【0027】
これにより、エッジ部33の高さが凹部25A、25B、25Cにおいて低くなり、吸気開口部21における下流側吸気ポート面24との連通面積を拡大できる。このため、燃焼室5への吸気の流入量を増加し、吸気の充填効率を向上させることができる。
【0028】
また、複数の凹部25A、25B、25Cが吸気ポート23の周方向に並んで形成されているので、吸気開口部21における下流側吸気ポート面24との連通面積をより拡大できる。これにより、燃焼室5への吸気の流入量をより増加させることができ、吸気の充填効率を向上させることができる。
【0029】
また、エッジ部33における凹部25A、25B、25Cが設けられた部位にも、高さの低くなった鋭利な角が維持される。つまり、凹部25A、25B、25Cを形成した後であっても、エッジ部33は高さの低くなった鋭利な角として存続する。このため、逆方向のタンブル流41の発生をエッジ部33によって抑制でき、順方向のタンブル流40を維持できる。
【0030】
この結果、燃焼室5における吸気のタンブル流40を維持でき、かつ、吸気の充填効率を向上させることができる。
【0031】
また、本実施例の内燃機関1において、複数の凹部25A、25B、25Cの少なくとも1つとしての凹部25A、25Cは、吸気ポート23の延伸方向で吸気弁22の軸部22Bと対向しない位置に形成されている。
【0032】
これにより、吸気ポート23の延伸方向で吸気弁22の軸部22Bと対向しない位置にも凹部25A、25Cが形成されていることにより、その凹部25A、25Cにより案内される吸気は吸気弁22の軸部22Bと衝突することなく吸気弁22の傘部22Aの上面に沿って流れ、順方向のタンブル流40となって燃焼室5に導入される。また、吸気が吸気弁22の軸部22Bに衝突することによる逆方向のタンブル流41の発生を抑制できる。これにより、順方向のタンブル流40を維持し、かつ燃焼室5への吸気の流入量を増加させ、吸気の充填効率を向上させることができる。
【0033】
また、本実施例の内燃機関1において、複数の凹部25A、25B、25Cの少なくとも1つとしての凹部25A、25Cは、吸気ポート23の延伸方向で吸気弁22に近づくほど、吸気ポート23の周方向で吸気弁22の軸部22Bから離れるように、吸気ポート23の延伸方向に対して傾斜して延びている。
【0034】
これにより、凹部25A、25Cによって案内された吸気は吸気弁22の軸部22Bを迂回して流れることができ、吸気が吸気弁22の軸部22Bに衝突して下方に向きを変えて逆方向のタンブル流41を形成することを抑制できる。これにより、順方向のタンブル流40を維持し、燃焼室5への吸気の流入量を増加させ、吸気の充填効率を向上させることができる。
【0035】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0036】
1...内燃機関、4...シリンダヘッド、5...燃焼室、21...吸気開口部、22...吸気弁、22B...軸部、23...吸気ポート、24...下流側吸気ポート面、25A,25B,25C...凹部、30...バルブシート、31...バルブ着座面、32...ポート連絡面、33...エッジ部