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特許7513908硬化性コーティング剤組成物および硬化被膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】硬化性コーティング剤組成物および硬化被膜
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20240703BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240703BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240703BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D7/63
B32B27/00
B32B27/00 101
B32B17/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021506163
(86)(22)【出願日】2019-12-12
(86)【国際出願番号】 JP2019048752
(87)【国際公開番号】W WO2020188918
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2019049913
(32)【優先日】2019-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000132404
【氏名又は名称】株式会社スリーボンド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】下川 瑛志
(72)【発明者】
【氏名】今岡 寿仁
(72)【発明者】
【氏名】桐野 学
【審査官】井上 莉子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/022087(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/187874(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/104445(WO,A1)
【文献】特開平07-310052(JP,A)
【文献】特開2009-185169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解性官能基を有するシリコーンオリゴマー(A)と、縮合反応触媒(B)と、シラン化合物(C)と、有機溶剤(D)とを含み、前記(C)成分が3-アミノプロピルトリメトキシシラン(c1)とN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(c2)とを含む硬化性コーティング剤組成物。
【請求項2】
前記(A)成分100質量部に対して、(c1)成分を0.1~20質量部、(c2)成分を0.1~20質量部含むことを特徴とする請求項1に記載の硬化性コーティング剤組成物。
【請求項3】
前記(A)成分が、25℃での粘度が91~300mm/sである加水分解性官能基を有するシリコーンオリゴマー(a1)と、25℃での粘度が7~90mm/sである加水分解性官能基を有するシリコーンオリゴマー(a2)を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の硬化性コーティング剤組成物。
【請求項4】
前記(B)成分が、有機アルミニウム化合物、有機チタン化合物からなる群から1以上選択されることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の硬化性コーティング剤組成物。
【請求項5】
前記硬化性コーティング剤組成物が、金属、ガラス、セラミックス、プラスチック、繊維のいずれかの表面に被膜を形成するものである、請求項1~のいずれか1項に記載の硬化性コーティング剤組成物。
【請求項6】
前記請求項1~のいずれか1項に記載の硬化性コーティング剤組成物を硬化して得られる硬化塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性コーティング剤組成物および硬化被膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の車体、列車、航空機、建築物の外壁、窓ガラス、橋桁、道路交通標識、信号機、看板、自動販売機、ソーラーパネル等の長期間屋外に設置されるものの表面にはフッ素樹脂やオルガノポリシロキサンを主成分とする防汚コーティング剤が多用されている。
【0003】
防汚コーティング剤としては、例えば、引用文献1には、所定の重量平均分子量範囲のケイ素アルコキシドの加水分解物もしくは部分加水分解物を主とするシリコーンプレポリマーと、その硬化触媒とを必須成分として含有することを特徴とするシリコーン系コーティング組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-285280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、引用文献1の防汚コーティング剤は、(1)(メタ)アクリル樹脂などの基材に対する密着性が劣り、(2)硬化塗膜を厚膜化するとクラックが生じる、(3)硬化塗膜の耐摩擦性が劣る、といった観点で十分に満足できるものではなかった。
【0006】
本発明は、上記の状況に鑑みてされたものであり、その目的は(メタ)アクリル樹脂などの基材に対する密着性、厚膜塗膜外観性、硬化塗膜の耐摩擦性が優れる硬化性コーティング剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨を次に説明する。
[1]加水分解性官能基を有するシリコーンオリゴマー(A)と、縮合反応触媒(B)と、シラン化合物(C)と、有機溶剤(D)とを含み、前記(C)成分が1級アミノ基と加水分解性官能基を有するシラン化合物(c1)と2級アミノ基および加水分解性官能基を有するシラン化合物(c2)を少なくとも含む硬化性コーティング剤組成物。
[2]前記(A)成分100質量部に対して、(c1)成分を0.1~20質量部、(c2)成分を0.1~20質量部含むことを特徴とする[1]に記載の硬化性コーティング剤組成物。
[3]前記(A)成分が、25℃での粘度が91~300未満mm/sである加水分解性官能基を有するシリコーンオリゴマー(a1)と、25℃での粘度が7~90未満mm/sである加水分解性官能基を有するシリコーンオリゴマー(a2)を含むことを特徴とする[1]又は[2]に記載の硬化性コーティング剤組成物。
[4]前記(B)成分が、リン酸、有機アルミニウム化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機亜鉛化合物、有機スズ化合物、有機コバルト化合物からなる群から1以上選択されることを特徴とする[1]~[3]のいずれか1項に記載の硬化性コーティング剤組成物。
[5]前記(B)成分が、有機アルミニウム化合物、有機チタン化合物からなる群から1以上選択されることを特徴とする[1]~[4]のいずれか1項に記載の硬化性コーティング剤組成物。
[6]前記(A)成分の加水分解性官能基がアルコキシシリル基であることを特徴とする[1]~[5]のいずれか1項に記載の硬化性コーティング剤組成物。
[7]前記硬化性コーティング剤組成物が、金属、ガラス、セラミックス、プラスチック、繊維のいずれかの表面に被膜を形成するものである、[1]~[6]のいずれか1項に記載の硬化性コーティング剤組成物。
[8]前記[1]~[7]のいずれか1項に記載の硬化性コーティング剤組成物を硬化して得られる硬化塗膜。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、(メタ)アクリル樹脂などの基材に対する密着性、厚膜塗膜外観性、硬化塗膜の耐摩擦性が優れる硬化性コーティング剤組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に発明の詳細を説明する。なお、本明細書において、「X~Y」は、その前後に記載される数値(XおよびY)を下限値および上限値として含む意味で使用され、「X以上Y以下」を意味する。
【0010】
<(A)成分>
本発明の硬化性コーティング剤組成物に含まれる(A)成分は、加水分解性官能基を有するシリコーンオリゴマーであり、被着体との密着性、厚膜塗膜外観性、耐摩擦性の向上を奏する成分である。前記(A)成分は、アルコキシシラン化合物を酸、塩基、有機錫化合物、有機チタン化合物等の公知の触媒により部分的に加水分解、脱アルコール縮合させて得ることができるシリコーンオリゴマーなどが挙げられる。より具体的には、分子鎖末端や側鎖等に加水分解性官能基を有し、直鎖または3次元網目構造となっているシリコーンオリゴマーなどが挙げられる。中でも、厚膜塗膜外観性、耐摩擦性を有する硬化性コーティング剤組成物が得られることから分子鎖の末端と側鎖の両方に加水分解性官能基を有するシリコーンオリゴマーが特に好ましい。
【0011】
前記(A)成分の前記加水分解性官能基としては、特に限定されないが、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基;アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等のアシロキシ基;イソプロペニルオキシ基、イソブテニルオキシ基、1-エチル-2-メチルビニルオキシ基等のアルケニルオキシ基;ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基、シクロペンタノキシム基、シクロヘキサノキシム基等のケトオキシム基;N-メチルアミノ基、N-エチルアミノ基、N-プロピルアミノ基、N-ブチルアミノ基、N,N-ジメチルアミノ基、N,N-ジエチルアミノ基、N-シクロヘキシルアミノ基等のアミノ基;N-メチルアセトアミド基、N-エチルアセトアミド基、N-メチルベンズアミド基等のアミド基;N,N-ジメチルアミノオキシ基、N,N-ジエチルアミノオキシ基等のアミノオキシ基等を挙げることができ、中でも、被着体との密着性、厚膜塗膜外観性、耐摩擦性が優れるコーティング剤が得られるという観点から、アルコキシ基が好ましい。
【0012】
前記(A)成分の25℃における動粘度は、7~300mm/sの範囲が好ましく、より好ましくは10~250mm/sの範囲であり、特に好ましくは、20~150mm/sの範囲であることが好ましい。特に、前記(A)成分が、粘度が91~300mm/sである加水分解性官能基を有するシリコーンオリゴマー(a1)と、粘度が7~90mm/sである加水分解性官能基を有するシリコーンオリゴマー(a2)を併用することが好ましい。本発明において(A)成分を上記に設定することで、被着体との密着性、厚膜塗膜外観性、耐久性が優れるコーティング剤を得ることができる。前記粘度は、JIS K-2283:2000に準拠して測定できる。
【0013】
前記(A)成分が加水分解性官能基としてアルコキシ基を含む場合において、当該(A)成分の構造中のアルコキシ基量は、好ましくは、12~40質量%の範囲であり、更に好ましくは、15~37質量%の範囲であり、特に好ましくは、18~35質量%の範囲である。上記の範囲内に設定することで、(メタ)アクリル樹脂などの基材に対する密着性、厚膜塗膜外観性、硬化塗膜の耐摩擦性が優れる硬化性コーティング剤組成物を得ることができる。なお、アルコキシ基量は、H-NMRおよび29Si-NMRにより測定できる。
【0014】
前記(A)成分の市販品としては特に制限されないが、例えば、X-40-9225、X-40-9227、X-40-9246、X-40-9250、KR-500、KC-89S、KR-401N、KR-510、KR-9216、KR-213(信越化学工業株式会社製品)、XC96-B0446、XR31-B1410、XR31-B2733、XR31-B2230、TSR165、XR31-B6667、XR31-B1763(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製品)、SILRES(登録商標) MSE100、SILRES H44、WACKER(登録商標) SILICATE TES40(旭化成ワッカーシリコーン社製品)等を挙げることができ、これらは単独で用いても複数種を併用しても構わない。
【0015】
<(B)成分>
本発明の硬化性コーティング剤組成物に含まれる(B)成分は縮合反応触媒であって、前記(A)成分や(C)成分に含まれる加水分解性官能基を空気中の湿気などと反応させて縮合反応させるための化合物である。
【0016】
前記(B)成分としては例えば、アセチルアセトンアルミニウム、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート等の有機アルミニウム化合物、有機スズ化合物、テトラブチルチタネート、テトラノニルチタネート、テトラキスエチレングリコールメチルエーテルチタネート、テトラキスエチレングリコールエチルエーテルチタネート、ビス(アセチルアセトニル)ジプロピルチタネート等の有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機亜鉛化合物、有機コバルト化合物などの有機金属系触媒、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸系触媒、p-トルエンスルホン酸等の有機酸触媒、水酸化ナトリウム等の無機塩基触媒、トリブチルアミン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)等の有機塩基触媒等が挙げることができる。本発明において(B)成分は、リン酸、有機アルミニウム化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機亜鉛化合物、有機スズ化合物、有機コバルト化合物が好ましく、有機スズ化合物、有機チタニウム化合物、有機アルミニウム系化合物、リン酸、p-トルエンスルホン酸がより好ましく、厚膜塗膜外観性、硬化塗膜の耐摩擦性の観点から特に好ましくは、有機チタニウム化合物、有機アルミニウム系化合物である。これらは単独で用いても複数種を併用しても構わない。
【0017】
前記有機チタニウム化合物の市販品としては、例えば、オルガチックス(登録商標)TA-8、TA-21、TA-23、TA-30、TC-100、TC-401、TC-710(マツモトファインケミカル株式会社製)、D-20、Dー25、DX-175(信越化学工業株式会社製)などが挙げられる。有機アルミニウム系化合物の市販品としては、例えば、DX-9740、CAC-AC(信越化学工業株式会社製)などが挙げられる。
【0018】
前記(B)成分の添加量は、特に制限されないが、例えば前記(A)成分100質量部に対して、(B)成分を0.01~50質量部含むことが好ましく、(B)成分を0.03~40質量部含むことがより好ましい。上記の範囲内に設定することで、(メタ)アクリル樹脂などの基材に対する密着性、厚膜塗膜外観性、硬化塗膜の耐摩擦性が優れる硬化性コーティング剤組成物を得ることができる。
【0019】
<(C)成分>
本発明の硬化性コーティング剤組成物に含まれる(C)成分は1級アミノ基(第一級アミンから水素を除去した基:-NHR)と加水分解性官能基を有するシラン化合物(c1)と2級アミノ基(第二級アミンから水素を除去した基:-NRR’)および加水分解性官能基を有するシラン化合物(c2)とを少なくとも含むシラン化合物であって、本発明のその他の成分と組み合わせることにより、(メタ)アクリル樹脂などの基材に対する密着性、厚膜塗膜外観性、硬化塗膜の耐摩擦性が優れる硬化性コーティング剤組成物が得られるという顕著な効果をもたらす成分である。なお、本発明の(C)成分は、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等1級アミノ基と2級アミノ基の両方を含む加水分解性官能基を有するシラン化合物であった場合は、(c1)成分として取り扱うこととする。また、本発明において構造中に珪素原子を1つ含むものを(C)成分として扱い、加水分解性官能基を有するシラン化合物が部分的に縮合反応したものは、本発明において(A)成分として扱うものとする。
【0020】
前記1級アミノ基と加水分解性官能基を有するシラン化合物(c1)としては、特に制限されないが、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルジメトキシメチルシラン、3-アミノプロピルジエトキシメチルシランなどが挙げられる。(c1)成分の市販品としては特に制限されないが、例えば、KBM-903、KBE-903、KBM-603、KBM-602(信越化学工業株式会社)、A2628、D1980、T1255、A0439(東京化成工業株式会社)などが挙げられる。
【0021】
前記2級アミノ基と加水分解性官能基を有するシラン化合物(c2)としては、特に制限されないが、例えば、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルジメトキシメチルシランなどが挙げられる。また、(C2)成分の中でも、厚膜塗膜外観性、硬化塗膜の耐摩擦性が優れることから芳香環構造を含むシラン化合物が好ましい。(c2)成分の市販品としては特に制限されないが、例えば、KBM-573、KBM-603(信越化学工業株式会社)などが挙げられる。
【0022】
前記(C)成分の添加量は、特に制限されないが、例えば前記(A)成分100質量部に対して、(c1)成分を0.1~20質量部と(c2)成分を0.1~20質量部含むことが好ましく、(c1)成分を0.5~10質量部と(c2)成分を0.5~10質量部含むことがより好ましい。上記の範囲内に設定することで、(メタ)アクリル樹脂などの基材に対する密着性、厚膜塗膜外観性、硬化塗膜の耐摩擦性が優れる硬化性コーティング剤組成物を得ることができる。
【0023】
<(D)成分>
本発明の硬化性コーティング剤組成物に含まれる(D)成分は有機溶剤であって、希釈して塗膜を形成させる上で必要な成分である。前記(D)成分は、本発明の硬化性コーティング剤組成物を塗布してコーティング層を形成する際の作業性の観点から、ある程度揮発性の高い化合物、好ましくは沸点が190℃以下であるもの、混合物にあっては初留点が190℃以下であるものが好ましい。
【0024】
前記(D)成分としては、特に限定されないが、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、などの芳香族系溶剤;n-ヘキサン、n-ヘプタン、イソノナン、イソヘキサン、イソオクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノールなどの炭素数が1以上のアルコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル系溶剤;ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン系溶剤;エチルエーテル、THFなどのエーテル系溶剤;ガソリン;ナフテン系石油蒸留溶媒;パラフィン系石油蒸留溶媒;イソパラフィン系石油蒸留溶媒等を挙げることができ、これらは単独で用いても複数を併用してもよい。本発明においては、(メタ)アクリル樹脂等の被着体との密着性、厚膜塗膜外観性、硬化塗膜の耐摩擦性が優れる硬化性コーティング剤組成物が得られるという観点から、芳香族系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤、ナフテン系石油蒸留溶媒、パラフィン系石油蒸留溶媒、イソパラフィン系石油蒸留溶媒などが好ましい。
【0025】
前記(D)成分に該当する市販品としては、特に制限されないが、例えば、エクソール(登録商標)D30、D40(東燃ゼネラル石油社製)、キョーワゾール(登録商標)C-800、C-600M、C-900(HKネオケム株式会社製)、アイソパー(登録商標)E(エクソンモービル社製)などが挙げられる。
【0026】
本発明における前記(D)成分の添加量は、前記(A)成分100質量部に対して50~5000質量部の範囲、好ましくは100~4000質量部の範囲、更に好ましくは150~3500質量部の範囲にあることである。上記の範囲内に設定することで、(メタ)アクリル樹脂などの基材に対する密着性、厚膜塗膜外観性、硬化塗膜の耐摩擦性が優れる硬化性コーティング剤組成物を得ることができる。
【0027】
<任意成分>
その他本発明の硬化性コーティング剤組成物においては、その特性を毀損しない範囲で適宜に任意の添加成分を加えることができる。たとえば、(A)成分とは異なる構造を有するシリコーンオイル、老化防止剤、防錆剤、着色剤、界面活性剤、レオロジー調整剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、研磨剤、香料、充填剤等の成分を選択することができる。
【0028】
<硬化被膜の形成方法>
本発明の硬化性コーティング剤組成物の硬化被膜の形成方法としては、特に制限されないが、例えば、本発明の硬化性コーティング剤組成物を、刷毛、スポンジ、ウェス等の繊維に適量含浸させ、これを手で基材表面に塗り広げる。そして、自然乾燥、乾燥機等を用いた乾燥により揮発成分を揮散させるという方法が挙げられる。これにより、硬化性コーティング剤組成物の硬化塗膜を形成することができる。
【0029】
本発明の硬化性コーティング剤組成物は、乾燥後の硬化塗膜が50μm程度まで厚膜化してもクラックが生じないので、塗工時に厳密に膜厚を管理してなくてもよく作業性に優れる。本発明の硬化性コーティング剤組成物の硬化塗膜の厚みは、特に制限されないが、0.01~50μm、好ましくは0.1~40μmの範囲であることが好ましい。コーティング塗膜の厚みを上記の範囲にすることで、良好な撥水性、耐摩擦性を維持することができる。
【0030】
前記基材としては、例えば、金属、ガラス、セラミックス、プラスチック、繊維等が挙げられ、中でも、金属、ガラス、プラスチック等が好ましい。前記金属として、具体的には、鋼板、塗装鋼板が挙げられる。前記プラスチックとしては、(メタ)アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、スチレン-メタクリル樹脂、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリウレタン等が挙げられる。これらのうち、本発明の硬化性コーティング剤組成物は、鋼板、塗装鋼板、(メタ)アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン-メタクリル樹脂等に対して優れた密着性を有する硬化被膜が形成できるという観点から好ましい。すなわち、本発明の他の一形態によると、硬化性コーティング剤組成物を、金属、ガラス、セラミックス、プラスチック、繊維のいずれかの表面に被膜を形成することを有する、硬化塗膜の製造方法が提供される。
【0031】
<用途>
本発明の硬化性コーティング剤組成物の主な用途としては、例えば、自動車の車体、列車、航空機、建築物の屋根や外壁、窓ガラス、橋桁、道路交通標識、信号機、看板、自動販売機、ソーラーパネル等の長期間屋外に設置されるものの防汚コーティング剤;機器・部品外装などの防汚コーティング剤などが挙げられる。すなわち、本発明のさらに他の一形態によると、上記硬化性コーティング組成物からなる、防汚コーティング剤が提供される。
【実施例
【0032】
以下に実施例をあげて本発明を更に詳細な説明をするが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0033】
<硬化性コーティング剤組成物の調製>
・実施例1
本発明の(A)成分として、25℃の粘度が100mm/s、アルコキシ量24質量%であり、分子鎖の側鎖と末端にメトキシ基を含有するシリコーンオリゴマー(a1)(信越化学工業株式会社製X-40-9225)100質量部と、25℃の粘度が80mm/s、アルコキシ量25質量%であり、分子鎖の側鎖と末端にメトキシ基を含有するシリコーンオリゴマー(a2)(信越化学工業株式会社製X-40-9250)4質量部と、(B)成分として有機アルミニウム系触媒(信越化学工業株式会社製DX-9740(アルミニウム成分の含有量が9質量%))20質量部と、(C)成分として、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(c1)(信越化学工業株式会社製KBM-903)2質量部と、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(c2)(信越化学工業株式会社製KBM-573)2質量部と、(D)成分として、沸点135℃であるイソノナン系溶剤250質量部を添加し、環境下で25℃にてミキサーで60分混合し、硬化性コーティング剤組成物である実施例1を得た。
【0034】
・実施例2
実施例1において、(c1)成分を2質量部から1質量部に変更し、(c2)成分を2質量部から1質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして調製し、硬化性コーティング剤組成物である実施例2を得た。
【0035】
・実施例3
実施例1において、(a2)成分を4質量部から2質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして調製し、硬化性コーティング剤組成物である実施例3を得た。
【0036】
・実施例4
実施例1において、イソノナン系溶剤を沸点163℃であるナフテン系溶剤に変更した以外は、実施例1と同様にして調製し、硬化性コーティング剤組成物である実施例4を得た。
【0037】
・実施例5
実施例1において、有機アルミニウム系触媒をテトライソプロピルチタネート(マツモトファインケミカル製TA-8(チタン成分の含有量16.9質量%))に変更した以外は、実施例1と同様にして調製し、硬化性コーティング剤組成物である実施例5を得た。
【0038】
・比較例1
実施例1において、(c1)成分と(c2)成分を除いた以外は、実施例1と同様にして調製し、硬化性コーティング剤組成物である比較例1を得た。
【0039】
・比較例2
実施例1において、(c1)成分を除いた以外は、実施例1と同様にして調製し、硬化性コーティング剤組成物である比較例2を得た。
【0040】
・比較例3
比較例2において、(c2)成分を2質量部から4質量部に変更した以外は、比較例2と同様にして調製し、硬化性コーティング剤組成物である比較例3を得た。
【0041】
・比較例4
実施例1において、(c2)成分を除いた以外は、実施例1と同様にして調製し、硬化性コーティング剤組成物である比較例4を得た。
【0042】
・比較例5
比較例4において、(c1)成分を2質量部から4質量部に変更した以外は、比較例4と同様にして調製し、硬化性コーティング剤組成物である比較例5を得た。
【0043】
・比較例6
実施例1において、(c2)成分の代わりに、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート(信越化学工業株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして調製し、硬化性コーティング剤組成物である比較例6を得た。
【0044】
・比較例7
実施例1において、(c2)成分の代わりに、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして調製し、硬化性コーティング剤組成物である比較例7を得た。
【0045】
・比較例8
実施例1において、(c2)成分の代わりに、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして調製し、硬化性コーティング剤組成物である比較例8を得た。
【0046】
表1の実施例、比較例において使用した試験方法は下記の通りである。
【0047】
<密着性試験>
(メタ)アクリル樹脂製板(寸法:25mm×100mm)に対して、各硬化性コーティング剤組成物を刷毛により施工した。その後、25℃、55%RH環境下で1日間放置し、乾燥させ、15μmの厚みの硬化被膜を得た。被覆させた硬化被膜に100マスの切込を入れたものを試験片とする。セロハンテープを引きはがして、塗膜の残存量を確認した。詳細はJIS-K-5600-5-6:1999に準じる。残存量が90以上が「合格」である、90未満が「不合格」とした。
【0048】
<厚膜塗装試験>
25mm×80mm×50μmの内寸法を持つ成型用ポリテトラフルオロエチレン製型に対して、各硬化性コーティング剤組成物を流し込んだ。その後、25℃、55%RH環境下で1日間放置し、乾燥させ、15μmの厚みの硬化被膜を得た。そして、硬化被膜の外観を目視で評価した。硬化被膜にクラックがなかったものを「合格」、クラックがあったものを「不合格」と評価した。
【0049】
<耐摩擦性試験(白化確認)>
ガラス板(寸法:25mm×100mm)に対して、各硬化性コーティング剤組成物を刷毛により施工した。その後、25℃、55%RH環境下で1日間放置し、乾燥させ、15μmの厚みの硬化被膜を得た。次に、硬化被膜に対して荷重200gをかけながらウェスで10往復した。その後、外観を目視で確認し、評価した。硬化被膜の表面が透明だったものを合格、白化していたものを不合格とした。
【0050】
【表1】
【0051】
表1の実施例1~5によれば、本発明は、(メタ)アクリル樹脂等のプラスチックやガラスに対する基材との密着性、厚膜塗膜外観性、硬化塗膜の耐摩擦性が優れる硬化性コーティング剤組成物であることがわかる。
【0052】
また、表1の比較例1~8より、本願発明の(C)成分の組み合わせではない場合、(メタ)アクリル樹脂などの基材に対する密着性が劣ることがわかる。さらに、比較例3によれば、(c2)成分のみの場合、硬化塗膜の耐摩擦性が劣ることがわかる。さらに、比較例5によれば、(c1)成分のみの場合、厚膜塗膜外観性が劣ることがわかる。
【0053】
<防汚確認試験>
ガラス板(寸法:100mm×100mm)に対して、実施例1~5の各硬化性コーティング剤組成物を刷毛により施工した。その後、25℃、55%RH環境下で1日間放置し、乾燥させ、15μmの厚みの硬化被膜を得た。次に、ガラス板の硬化被膜に対して黒色の油性マジックマーカーで線を描きはじき具合を確認した。よくはじくものを「合格」、はじかないものを「不合格」とした。実施例1~5の各硬化性コーティング剤組成物の硬化被膜は、すべて合格であった。
【0054】
本出願は、2019年3月18日に出願された日本国特許出願第2019-049913号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の硬化性コーティング剤組成物は、(メタ)アクリル樹脂等のプラスチックなどの基材に対する密着性、厚膜塗膜外観性、硬化塗膜の耐摩擦性が優れるので、各種防汚コーティング剤として使用することが可能であり、産業上有用である。