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特許7513971陰イオン交換樹脂の製造方法および電解質膜の製造方法
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  • 特許-陰イオン交換樹脂の製造方法および電解質膜の製造方法 図1
  • 特許-陰イオン交換樹脂の製造方法および電解質膜の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】陰イオン交換樹脂の製造方法および電解質膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/02 20060101AFI20240703BHJP
   C08J 5/22 20060101ALI20240703BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
C08G61/02
C08J5/22 104
C08J5/22 CEZ
H01B1/06 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020121967
(22)【出願日】2020-07-16
(65)【公開番号】P2022024326
(43)【公開日】2022-02-09
【審査請求日】2023-06-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/高性能アニオン交換膜を用いた水電解水素製造技術の開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(73)【特許権者】
【識別番号】312003595
【氏名又は名称】タカハタプレシジョン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162341
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬崎 幸典
(72)【発明者】
【氏名】宮武 健治
(72)【発明者】
【氏名】今野 陽介
(72)【発明者】
【氏名】横田 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 勝也
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-023258(JP,A)
【文献】特開2019-023259(JP,A)
【文献】特開2017-061583(JP,A)
【文献】特開2017-014423(JP,A)
【文献】特開2016-044224(JP,A)
【文献】特開2016-033199(JP,A)
【文献】ONO, Hideaki et al.,Robust anion conductive polymers containing perfluoroalkylene and pendant ammonium groups for high p,Journal of Materials Chemistry A,2017年12月21日,Volume 5, Number 47,24804-24812
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 2/00- 2/38
61/00- 61/12
C08J 5/00- 5/02
5/12- 5/22
B01J 39/00- 49/90
H01B 1/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)単数の芳香環からなる、または、2価の炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価の窒素含有基、2価のリン含有基、2価の酸素含有基、2価の硫黄含有基、もしくは直接結合を介して互いに結合する複数の芳香環からなり、その芳香環には2つの塩素原子が結合した疎水性基形成用モノマーを準備する工程と、
(B)単数の芳香環からなる、または、2価の炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価の窒素含有基、2価のリン含有基、2価の酸素含有基、もしくは2価の硫黄含有基である連結基、および/または直接結合を介して互いに結合する複数の芳香環からなり、その芳香環には2つの塩素原子が結合し、前記連結基または芳香環のうち少なくとも1つが、2価の飽和炭化水素基または直接結合を介して陰イオン交換基前駆官能基と結合した親水性基形成用モノマーを準備する工程と、
(C)触媒としてのビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)、共配位子としての2,2’-ビピリジン、助触媒としての臭化物又はヨウ化物、及び還元剤の存在下、前記疎水性基形成用モノマーと前記親水性基形成用モノマーとを反応させ、ポリマーを合成する工程と、
(D)前記陰イオン交換基前駆官能基をイオン化させて陰イオン交換基とする工程と
を備える陰イオン交換樹脂の製造方法であって、
前記工程(C)において使用されるビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)のモル数が、前記疎水性基形成用モノマーと前記親水性基形成用モノマーの合計モル数の0.3~1.8倍であり、
前記陰イオン交換樹脂において、
前記疎水性基形成用モノマーの残基が、下記式で表される2価の疎水性基を形成し、
【化1】
(式中、Alkは、互いに同一または相異なって、アルキル基またはアリール基を示し、Xは、互いに同一または相異なって、ハロゲン原子または擬ハロゲン化物を示し、a、b、c、およびdは、互いに同一または相異なって、0~4の整数を示し、lは、1以上の整数を示す。)
前記陰イオン交換基を有する親水性基形成用モノマーの残基が、下記式(3)で表される2価の親水性基を形成し、
【化2】
(式中、IonおよびIon’は、互いに同一または相異なって、陰イオン交換基を示し、yおよびzは、互いに同一または相異なって、2~20の整数を示す。)
前記疎水性基と前記親水性基とが直接結合を介して結合されている、
ことを特徴とする陰イオン交換樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記助触媒が、臭化四級アンモニウム又はヨウ化四級アンモニウムである、
ことを特徴とする請求項1に記載の陰イオン交換樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記工程(C)において使用される前記助触媒のモル数が、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)のモル数の1.0~3.0倍である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の陰イオン交換樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記還元剤が、金属亜鉛又は金属マグネシウムである、
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の陰イオン交換樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記工程(C)において使用される2,2’-ビピリジンのモル数が、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)のモル数の1.5~2.5倍である、
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の陰イオン交換樹脂の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないしのいずれか1項に記載の方法により陰イオン交換樹脂を得る工程と、
前記陰イオン交換樹脂を含む電解質膜を得る工程と、を備える、
ことを特徴とする電解質膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰イオン交換樹脂の製造方法および電解質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単数の芳香環からなる、または、2価の炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価の窒素含有基、2価のリン含有基、2価の酸素含有基、2価の硫黄含有基、もしくは炭素-炭素結合を介して互いに結合する複数の芳香環からなる2価の疎水性基と、単数の多環式化合物からなる、または、2価の炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価の窒素含有基、2価のリン含有基、2価の酸素含有基、もしくは2価の硫黄含有基である連結基、および/または炭素-炭素結合を介して互いに結合する複数の多環式化合物からなり、前記連結基または前記多環式化合物のうち少なくとも1つが、炭素数2以上の2価の飽和炭化水素基を介して陰イオン交換基と結合した2価の親水性基とからなり、前記疎水性基単体からなる、または、前記疎水性基が、エーテル結合、チオエーテル結合、もしくは炭素-炭素結合を介して繰り返される疎水ユニットと、前記親水性基単体からなる、または、前記親水性基が、エーテル結合、チオエーテル結合、もしくは炭素-炭素結合を介して繰り返される親水ユニットとを有し、前記疎水ユニットと前記親水ユニットとが、エーテル結合、チオエーテル結合、または炭素-炭素結合を介して結合している陰イオン交換樹脂が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-23258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1では、疎水ユニットと親水ユニットとが炭素-炭素結合を介して結合している陰イオン交換樹脂を製造するモノマーの重合反応(クロスカップリング)において、触媒として非常に高価なビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)を多量に使用しており、製造コストを下げることが困難であるという課題が存在した。触媒の使用量を減らすと、得られるポリマーの分子量(特に重量平均分子量)が下がってしまい、陰イオン交換樹脂の機械的特性(強度)が低下してしまうという課題が存在した。
【0005】
そこで、本発明は、機械的特性(強度)に優れる電解質膜を製造できる陰イオン交換樹脂の製造方法、その陰イオン交換樹脂から形成される電解質膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明の陰イオン交換樹脂の製造方法は、
(A)単数の芳香環からなる、または、2価の炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価の窒素含有基、2価のリン含有基、2価の酸素含有基、2価の硫黄含有基、もしくは直接結合を介して互いに結合する複数の芳香環からなり、その芳香環には2つの塩素原子が結合した疎水性基形成用モノマーを準備する工程と、
(B)単数の芳香環からなる、または、2価の炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価の窒素含有基、2価のリン含有基、2価の酸素含有基、もしくは2価の硫黄含有基である連結基、および/または直接結合を介して互いに結合する複数の芳香環からなり、その芳香環には2つの塩素原子が結合し、前記連結基または芳香環のうち少なくとも1つが、2価の飽和炭化水素基または直接結合を介して陰イオン交換基前駆官能基と結合した親水性基形成用モノマーを準備する工程と、
(C)触媒としてのビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)、共配位子としての2,2’-ビピリジン、助触媒としての臭化物又はヨウ化物、及び還元剤の存在下、前記疎水性基形成用モノマーと前記親水性基形成用モノマーとを反応させ、ポリマーを合成する工程と、
(D)前記陰イオン交換基前駆官能基をイオン化させて陰イオン交換基とする工程と
を備える陰イオン交換樹脂の製造方法であって、
前記工程(C)において使用されるビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)のモル数が、前記疎水性基形成用モノマーと前記親水性基形成用モノマーの合計モル数の0.3~1.8倍であり、
前記陰イオン交換樹脂において、
前記疎水性基形成用モノマーの残基が、下記式で表される2価の疎水性基を形成し、
【化1】
(式中、Alkは、互いに同一または相異なって、アルキル基またはアリール基を示し、Xは、互いに同一または相異なって、ハロゲン原子または擬ハロゲン化物を示し、a、b、c、およびdは、互いに同一または相異なって、0~4の整数を示し、lは、1以上の整数を示す。)
前記陰イオン交換基を有する親水性基形成用モノマーの残基が、下記式(3)で表される2価の親水性基を形成し、
【化2】
(式中、IonおよびIon’は、互いに同一または相異なって、陰イオン交換基を示し、yおよびzは、互いに同一または相異なって、2~20の整数を示す。)
前記疎水性基と前記親水性基とが直接結合を介して結合されている、
ことを特徴とする。
【0007】
本発明の陰イオン交換樹脂の製造方法では、前記助触媒が、臭化四級アンモニウム又はヨウ化四級アンモニウムであることが好適である。
【0008】
本発明の陰イオン交換樹脂の製造方法では、前記工程(C)において使用される前記助触媒のモル数が、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)のモル数の1.0~3.0倍であることが好適である。
【0009】
本発明の陰イオン交換樹脂の製造方法では、前記還元剤が、金属亜鉛又は金属マグネシウムであることが好適である。
【0010】
本発明の陰イオン交換樹脂の製造方法では、前記工程(C)において使用される2,2’-ビピリジンのモル数が、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)のモル数の1.5~2.5倍であることが好適である。
【0017】
前記課題を解決するために、本発明の電解質膜の製造方法は、
上記の方法により陰イオン交換樹脂を得る工程と、
前記陰イオン交換樹脂を含む電解質膜を得る工程と
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、機械的特性(強度)に優れる電解質膜を製造できる陰イオン交換樹脂、その陰イオン交換樹脂から形成される燃料電池用電解質膜を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】助触媒を用いなかった場合のクロスカップリング反応のスキームを示す図である。
図2】助触媒を用いた場合のクロスカップリング反応のスキームを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の陰イオン交換樹脂は、2価の疎水性基と、2価の親水性基とからなる。
【0021】
本発明の陰イオン交換樹脂において、2価の疎水性基は、単数の芳香環からなる、または、2価の炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価の窒素含有基、2価のリン含有基、2価の酸素含有基、2価の硫黄含有基、もしくは直接結合(炭素-炭素結合)を介して互いに結合する複数(2つ以上、好ましくは、2つ)の芳香環からなる。このような2価の疎水性基は、単数の芳香環からなる、または、2価の炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価の窒素含有基、2価のリン含有基、2価の酸素含有基、2価の硫黄含有基、もしくは直接結合を介して互いに結合する複数の芳香環からなり、その芳香環には2つのハロゲン原子、擬ハロゲン化物またはボロン酸基が結合した疎水性基形成用モノマーの残基により形成される。
【0022】
芳香環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、インデン環、アズレン環、フルオレン環、アントラセン環、フェナントレン環などの、炭素数6~14の単環または多環式化合物、および、アゾール、オキソール、チオフェン、オキサゾール、チアゾール、ピリジンなどの、複素環式化合物が挙げられる。
【0023】
芳香環として、好ましくは、炭素数6~14の単環芳香族炭化水素が挙げられ、より好ましくは、ベンゼン環が挙げられる。
【0024】
また、芳香環は、必要により、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、擬ハロゲン化物などの置換基に置換されていてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。擬ハロゲン化物としては、トリフルオロメチル基、-CN、-NC、-OCN、-NCO、-ONC、-SCN、-NCS、-SeCN、-NCSe、-TeCN、-NCTe、-Nが挙げられる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、i-プロピル基、ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の炭素数1~20のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等の炭素数1~20のシクロアルキル基が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基が挙げられる。
【0025】
なお、芳香環がハロゲン原子、アルキル基、アリール基、擬ハロゲン化物などの置換基に置換される場合において、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、擬ハロゲン化物などの置換基の置換数および置換位置は、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0026】
ただし、疎水性基形成用モノマーは、その芳香環に少なくとも2つのハロゲン原子、擬ハロゲン化物またはボロン酸基が結合している。その2つのハロゲン原子、擬ハロゲン化物またはボロン酸基の結合位置に関しては、単数の芳香環からなる疎水性基形成用モノマーの場合は当該芳香環であり、2つの芳香環を有する疎水性基形成用モノマーの場合は各々の芳香環であり、3つ以上の芳香環を有する疎水性基形成用モノマーの場合は両末端の芳香環である。
【0027】
なお、疎水性基形成用モノマーから、芳香環に結合した2つのハロゲン原子、擬ハロゲン化物またはボロン酸基を除いた残基が、2価の疎水性基を形成する。
【0028】
ハロゲン原子に置換された芳香環として、より具体的には、例えば、1~4つのハロゲン原子で置換されたベンゼン環(例えば、1~4つのフッ素で置換されたベンゼン環、1~4つの塩素で置換されたベンゼン環、1~4つの臭素で置換されたベンゼン環、1~4つのヨウ素で置換されたベンゼン環など、1~4のハロゲン原子は、全て同一であっても、相異なっていてもよい)などが挙げられる。
【0029】
2価の炭化水素基としては、例えば、メチレン(-CH-)、エチレン、プロピレン、i-プロピレン(-C(CH-)、ブチレン、i-ブチレン、sec-ブチレン、ペンチレン(ペンテン)、i-ペンチレン、sec-ペンチレン、ヘキシレン(ヘキサメチレン)、3-メチルペンテン、ヘプチレン、オクチレン、2-エチルヘキシレン、ノニレン、デシレン、i-デシレン、ドデシレン、テトラデシレン、ヘキサデシレン、オクタデシレンなどの、炭素数1~20の2価の飽和炭化水素基が挙げられる。
【0030】
2価の炭化水素基として、好ましくは、炭素数1~3の2価の飽和炭化水素基、具体的には、メチレン(-CH-)、エチレン、プロピレン、i-プロピレン(-C(CH-)が挙げられ、より好ましくは、メチレン(-CH-)、イソプロピレン(-C(CH-)が挙げられ、とりわけ好ましくは、i-プロピレン(-C(CH-)が挙げられる。
【0031】
2価の炭化水素基は、前記した芳香環における、1価の残基で置換されていても良い。
【0032】
芳香族基としては、例えば、前記した芳香環における、2価の残基が挙げられる。好ましくは、m-フェニレン基およびフルオレニル基が挙げられる。
【0033】
このような疎水性基として、好ましくは、下記式(2)で示される、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子または擬ハロゲン化物で置換されていてもよいビスフェノール残基(Rを介して互いに結合する2つのベンゼン環からなる2価の疎水性基)が挙げられる。
【0034】
【化4】
(式中、Rは、炭化水素基、ケイ素含有基、窒素含有基、リン含有基、酸素含有基、硫黄含有基、芳香族基、または直接結合を示し、Alkは、互いに同一または相異なって、アルキル基またはアリール基を示し、Xは、互いに同一または相異なって、ハロゲン原子または擬ハロゲン化物を示し、a、b、c、およびdは、互いに同一または相異なって、0~4の整数を示す。)
【0035】
上記式(2)において、Rは、炭化水素基、ケイ素含有基、窒素含有基、リン含有基、酸素含有基、硫黄含有基、または直接結合を示し、好ましくは、i-プロピレン(-C(CH-)を示す。
【0036】
上記式(2)において、Alkは、互いに同一または相異なって、アルキル基またはアリール基を示す。アルキル基としては、上記したアルキル基が挙げられ、アリール基としては、上記したアリール基が挙げられる。
【0037】
上記式(2)において、Xは、互いに同一または相異なって、上記したハロゲン原子または擬ハロゲン化物を示す。
【0038】
上記式(2)において、aおよびbは、互いに同一または相異なって、0~4の整数を示し、好ましくは、0~2の整数を示し、さらに好ましくは、aおよびbが、ともに0を示す。
【0039】
上記式(2)において、cおよびdは、互いに同一または相異なって、0~4の整数を示し、好ましくは、0~2の整数を示し、さらに好ましくは、cおよびdが、ともに0を示す。
【0040】
このような疎水性基として、とりわけ好ましくは、下記式(1)で表される、ハロゲン原子または擬ハロゲン化物またはアルキル基またはアリール基で置換されていてもよいビスフェノール残基が挙げられる。
【0041】
【化5】
(式中、Alk、X、a、b、c、およびdは、前記式(2)のAlk、X、a、b、c、およびdと同意義を示し、Zは、互いに同一または相異なって、炭素原子またはケイ素原子を示し、Rは、互いに同一または相異なって、ケイ素含有基、窒素含有基、リン含有基、酸素含有基、硫黄含有基、または直接結合を示し、lは、1以上の整数を示し、h、h’、h’’、i、i’、i’’、jおよびkは、互いに同一または相異なって、0以上の整数を示す。)
【0042】
上記式(1)において、Zは、互いに同一または相異なって、炭素原子またはケイ素原子を示し、好ましくは炭素原子を示す。
【0043】
上記式(1)において、Rは、互いに同一または相異なって、ケイ素含有基、窒素含有基、リン含有基、酸素含有基、硫黄含有基、または直接結合を示し、好ましくは直接結合を示す。
【0044】
上記式(1)において、Xは、互いに同一または相異なって、上記したハロゲン原子もしくは擬ハロゲン化物、または水素原子を示し、好ましくはハロゲン原子または水素原子を示し、より好ましくはフッ素原子を示す。
【0045】
上記式(1)において、lは1以上の整数を示し、好ましくは1~20の整数を示し、より好ましくは2~6の整数を示す。
【0046】
上記式(1)において、h、h’、h’’、i、i’、i’’、j、およびkは、互いに同一または相異なって、0以上の整数を示し、好ましくは0~20の整数を示し、より好ましくは0~3の整数を示し、さらに好ましくは0または1を示す。
【0047】
このような疎水性基として、とりわけ好ましくは、下記式(1’)で表されるフッ素含有ビスフェノール残基が挙げられる。
【0048】
【化6】
(式中、lは、前記式(1)のlと同意義を示す。)
【0049】
このように、2価のフッ素含有基を疎水性基の主鎖中に導入することで、以下の効果が得られる。
・分子間相互作用の低い主鎖により溶解性・柔軟性が向上する
・撥水性を与え、親水部(イオン交換基周辺)との相分離が発達しイオン導電パスを形成できる
・撥水性により、親水性の水酸化物イオンや酸化剤が主鎖に近づきにくくなる(耐アルカリ性・化学的安定性向上)
・主鎖の剛性を制御できる(電解質膜の柔軟性向上)
・ガラス転移温度が低く、触媒層と接着できる(接触抵抗低下)
・ガス拡散性を制御できる(バインダーとして使用した際の酸素の拡散性増大)
【0050】
また、このような疎水性基として、好ましくは、直接結合を介して互いに結合する2つ以上の芳香環からなる2価の疎水性基が挙げられ、その具体例としては、下記式(2a)で表される直鎖状オリゴフェニレン基が挙げられる。
【0051】
【化7】
(式中、xは、2~8の整数を示す。)
【0052】
疎水性基として、直接結合を介して互いに結合する2つ以上の芳香環からなる2価の疎水性基(好ましくは、上記式(2a)で表される直鎖状オリゴフェニレン基)を含むことで、電気的特性(導電率)が優れたものとなる。特に、IEC(イオン交換容量)が上昇してもイオン基1個あたりの含水数が上昇しにくく、高い導電率が達成しやすくなる。
【0053】
上記式(2a)において、xは、2~8の整数を示し、好ましくは、2~6の整数を示し、さらに好ましくは、2(すなわちビフェニレン基)を示す。
【0054】
疎水性基として、その他にも、以下の構造を有するものが挙げられる。
【0055】
【化8】
【0056】
本発明の陰イオン交換樹脂において、2価の親水性基は、単数の芳香環からなる、または、2価の炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価の窒素含有基、2価のリン含有基、2価の酸素含有基、もしくは2価の硫黄含有基である連結基、および/または直接結合を介して互いに結合する複数の芳香環からなり、前記連結基または芳香環のうち少なくとも1つが、2価の飽和炭化水素基または直接結合を介して陰イオン交換基と結合している。このような2価の親水性基は、単数の芳香環からなる、または、2価の炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価の窒素含有基、2価のリン含有基、2価の酸素含有基、もしくは2価の硫黄含有基である連結基、および/または直接結合を介して互いに結合する複数の芳香環からなり、その芳香環には2つのハロゲン原子、擬ハロゲン化物またはボロン酸基が結合し、前記連結基または芳香環のうち少なくとも1つが、2価の飽和炭化水素基または直接結合を介して陰イオン交換基前駆官能基と結合した親水性基形成用モノマーの、陰イオン交換基前駆官能基をイオン化させて陰イオン交換基としたものの残基により形成される。
【0057】
芳香環としては、例えば、上記した芳香環が挙げられ、好ましくは、ベンゼン環が挙げられる。
【0058】
また、好ましくは、芳香環として多環式化合物が挙げられる。多環式化合物としては、例えば、ナフタレン環、インデン環、アズレン環、フルオレン環、アントラセン環、フェナントレン環、カルバゾール環、インドール環が挙げられ、好ましくは、フルオレン環が挙げられる。
【0059】
2価の炭化水素基としては、上記した2価の炭化水素基が挙げられる。
【0060】
陰イオン交換基は、親水性基において側鎖に導入され、具体的には、特に制限されず、四級アンモニウム基、三級アミノ基、二級アミノ基、一級アミノ基、ホスフィン、ホスファゼン、三級スルホニウム基、四級ボロニウム基、四級ホスホニウム基、グアニジウム基など、公知の陰イオン交換基をいずれも採用することができる。陰イオン伝導性の観点から、好ましくは、四級アンモニウム基が挙げられる。
【0061】
陰イオン交換基として、好ましくは、-N(CHが挙げられるが、その他にも、以下の構造を有するものが挙げられる。なお、以下の構造式において、*は置換基を含む芳香環に結合する部分を示す。
【0062】
【化9】
(図中、Alk、Alk’、Alk’’は、上記したアルキル基を示し、iPrはi-プロピル基を示す。)
【0063】
このような陰イオン交換基は、2価の炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価の窒素含有基、2価のリン含有基、2価の酸素含有基、もしくは2価の硫黄含有基である連結基、および/または直接結合を介して互いに結合する複数の芳香環からなる2価の親水性残基の連結基または芳香環に、2価の飽和炭化水素基または直接結合を介して結合される。
【0064】
陰イオン交換基は、連結基または芳香環の少なくとも1つに結合されていればよく、複数の連結基または芳香環に結合されていてもよく、全ての連結基または芳香環に結合されていてもよい。また、陰イオン交換基は、1つの連結基または芳香環に複数個結合されていてもよい。
【0065】
2価の炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価の窒素含有基、2価のリン含有基、2価の酸素含有基、もしくは2価の硫黄含有基である連結基、および/または直接結合を介して互いに結合する複数の芳香環からなる2価の親水性残基の連結基または芳香環と、陰イオン交換基とを結合させる2価の飽和炭化水素基の炭素数は、2以上であることが好ましい。2価の飽和炭化水素基の炭素数は、より好ましくは、2~20の整数であり、さらに好ましくは、3~10の整数であり、とりわけ好ましくは、4~8の整数である。
【0066】
2価の飽和炭化水素基としては、好ましくは、エチレン(-(CH-)、トリメチレン(-(CH-)、テトラメチレン(-(CH-)、ペンタメチレン(-(CH-)、ヘキサメチレン(-(CH-)、ヘプタメチレン(-(CH-)、オクタメチレン(-(CH-)等の直鎖状飽和炭化水素基を挙げることができる。
【0067】
このような親水性基として、好ましくは、下記式(3)で表されるフルオレン残基が挙げられる。
【0068】
【化10】
(式中、IonおよびIon’は、互いに同一または相異なって、陰イオン交換基を示し、yおよびzは、互いに同一または相異なって、2~20の整数を示す。)
【0069】
上記式(3)において、IonおよびIon’は、互いに同一または相異なって、陰イオン交換基を示し、好ましくは、互いに同一または相異なって、上記した四級アンモニウム基を示し、とりわけ好ましくは-N(CHである。
【0070】
上記式(3)において、yおよびzは、互いに同一または相異なって、2~20の整数を示し、好ましくは、3~10の整数を示し、さらに好ましくは、4~8の整数を示す。
【0071】
このような親水性基として、とりわけ好ましくは、下記式(3’)で示されるフルオレン残基が挙げられる。
【0072】
【化11】
【0073】
本発明の陰イオン交換樹脂では、上記した疎水性基と上記した親水性基とが、直接結合を介して結合している。本発明の陰イオン交換樹脂では、上記した疎水性基が、エーテル結合、チオエーテル結合、または直接結合を介して繰り返される疎水ユニットを形成していることが好ましい。本発明の陰イオン交換樹脂では、上記した親水性基が、エーテル結合、チオエーテル結合、または直接結合を介して繰り返される親水ユニットを形成していることが好ましい。以下、疎水ユニットは、疎水性基単体からなる、または疎水性基が直接結合を介して繰り返されているものを言い、親水ユニットは、親水性基単体からなる、または親水性基が直接結合を介して繰り返されて形成されているものを言う。
【0074】
なお、ユニットとは一般に用いられるブロック共重合体のブロックに相当する場合がある。
【0075】
疎水ユニットとして、好ましくは、上記式(2)で示される、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子または擬ハロゲン化物で置換されていてもよいビスフェノール残基が、直接結合を介して互いに結合して形成されるユニットが挙げられる。上記ビスフェノール残基は、複数種がランダム状、交互などの規則状、またはブロック状で互いに結合して形成されるユニットでもよい。
【0076】
このような疎水ユニットは、例えば、下記式(7)で示される。
【0077】
【化12】
(式中、R、Al、X、a、b、c、およびdは、上記式(2)のR、Al、X、a、b、c、およびdと同意義を示し、qは、1~200を示す。)
【0078】
上記式(7)において、qは、例えば、1~200、好ましくは、1~50を示す。
【0079】
このような疎水ユニットとして、さらに好ましくは、上記式(1)で表される、ハロゲン原子または擬ハロゲン化物またはアルキル基またはアリール基で置換されていてもよいビスフェノール残基が、直接結合を介して互いに結合して形成されるユニットが挙げられる。
【0080】
このような疎水ユニットは、例えば、下記式(7a)で示される。
【0081】
【化13】
(式中、Alk、X、a、b、c、およびdは、前記式(2)のAlk、X、a、b、c、およびdと同意義を示し、Z、R、X、l、h、h’、h’’、i、i’、i’’、j、およびkは、前記式(1)のZ、R、X、l、h、h’、h’’、i、i’、i’’、j、およびkと同意義を示し、qは、1~200を示す。)
【0082】
上記式(7)において、qは、例えば、1~200、好ましくは、1~50を示す。
【0083】
このような疎水ユニットは、とりわけ好ましくは、下記式(7a’)で示される。
【0084】
【化14】
(式中、lは、前記式(1)のlと同意義を示し、qは、1~200(好ましくは、1~50)を示す。)
【0085】
親水ユニットとして、好ましくは、上記式(3)で示されるフルオレン残基(親水性基)が、エーテル結合、チオエーテル結合、または直接結合(好ましくは、直接結合)を介して互いに結合して形成されるユニットが挙げられる。上記フルオレン残基は、複数種がランダム状、交互などの規則状、またはブロック状で互いに結合して形成されるユニットでもよい。
【0086】
このような親水ユニットは、例えば、下記式(9)で示される。
【0087】
【化15】
(式中、Ion、Ion’、y、およびzは、互いに同一または相異なって、上記式(3)のIon、Ion’、y、およびzと同意義を示し、mは、1~200(好ましくは、1~50)を示す。)
【0088】
このような親水ユニットとして、とりわけ好ましくは、上記式(3’)で示されるフルオレン残基が直接結合を介して互いに結合して形成されるユニットが挙げられる。
【0089】
このような親水ユニットは、例えば、下記式(9’)で示される。
【0090】
【化16】
(式中、IonおよびIon’は、互いに同一または相異なって、上記式(3)のIonおよびIon’と同意義を示し、mは、1~200(好ましくは、1~50)を示す。)
【0091】
本発明の陰イオン交換樹脂では、上記した疎水ユニットと上記した親水ユニットとが、直接結合を介して結合していることが好ましい。
【0092】
このような陰イオン交換樹脂として、好ましくは、下記式(13)で示されるように、上記式(7)で示される疎水ユニットと、上記式(9)で示される親水ユニットとが直接結合を介して結合された陰イオン交換樹脂が挙げられる。
【0093】
【化17】
(式中、R、Al、X、a、b、c、およびdは、上記式(7)のR、Al、X、a、b、c、およびdと同意義を示し、Ion、Ion’、y、およびzは、上記式(9)のIon、Ion’、y、およびzと同意義を示し、qおよびmは配合比あるいは繰り返し数を表し、1~100を示し、oは、繰り返し数を表し、1~100を示す。)
【0094】
このような陰イオン交換樹脂として、さらに好ましくは、下記式(13’ )で示されるように、上記式(7a)で示される疎水ユニットと、上記式(9)で示される親水ユニットとが直接結合を介して結合された陰イオン交換樹脂が挙げられる。
【0095】
【化18】
【0096】
このような陰イオン交換樹脂として、とりわけ好ましくは、下記式(13’’)で示されるように、上記式(7a’)で示される疎水ユニットと、上記式(9’)で示される親水ユニットとが直接結合を介して結合された陰イオン交換樹脂が挙げられる。
【0097】
【化19】
(式中、lは、前記式(7a’)のlと同意義を示し、IonおよびIon’は、上記式(9’)のIonおよびIon’と同意義を示し、qおよびmは配合比あるいは繰り返し数を表し、1~100を示し、oは、繰り返し数を表し、1~100を示す。)
【0098】
このような陰イオン交換樹脂の数平均分子量は、例えば、10~1000kDa、好ましくは、30~500kDaであり、重量平均分子量は、例えば、20~3000kDa、好ましくは、40~1000kDaである。
【0099】
陰イオン交換樹脂を製造する方法としては、重縮合反応による方法が採用され、特に直接結合(炭素-炭素結合)を形成するクロスカップリングが採用される。
【0100】
この方法により陰イオン交換樹脂を製造する場合には、疎水性基形成用モノマーを準備し、陰イオン交換基前駆官能基を有する親水性基形成用モノマーを準備し、疎水性基形成用モノマーと親水性基形成用モノマーとを重合反応させることによりポリマーを合成し、ポリマー中の陰イオン交換基前駆官能基をイオン化させることにより、陰イオン交換樹脂を製造することができる。
【0101】
疎水性基形成用モノマーとして、単数の芳香環からなる、または、2価の炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価の窒素含有基、2価のリン含有基、2価の酸素含有基、2価の硫黄含有基、もしくは直接結合を介して互いに結合する複数の芳香環からなり、その芳香環には2つの塩素原子が結合したものが挙げられ、好ましくは、上記式(2)に対応する、下記式(22)で示される化合物が挙げられる。
【0102】
【化20】
(式中、Alk、R、X、a、b、c、およびdは、前記式(2)のAlk、R、X、a、b、c、およびdと同意義を示し、YおよびY’は、互いに同一または相異なって、塩素原子を示す。)
【0103】
疎水性基形成用モノマーとして、とりわけ好ましくは、上記式(1)に対応する、下記式(21)で示される化合物が挙げられる。
【0104】
【化21】
(式中、Alk、R、X、Z、a、b、c、d、l、h、h’、h’’、i、i’、i’’、jおよびkは、前記式(1)のAlk、R、X、Z、a、b、c、d、l、h、h’、h’’、i、i’、i’’、jおよびkと同意義を示し、YおよびY’は、互いに同一または相異なって、塩素原子を示す。)
【0105】
親水性基形成用モノマーとして、単数の芳香環からなる、または、2価の炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価の窒素含有基、2価のリン含有基、2価の酸素含有基、もしくは2価の硫黄含有基である連結基、および/または直接結合を介して互いに結合する複数の芳香環からなり、その芳香環には2つの塩素原子が結合し、前記連結基または芳香環のうち少なくとも1つが、2価の飽和炭化水素基または直接結合を介して陰イオン交換基前駆官能基と結合したものが挙げられ、好ましくは、上記式(3)に対応する、下記式(23)で示される化合物が挙げられる。
【0106】
【化22】
(式中、yおよびzは、前記式(3)のyおよびzと同意義を示し、PreおよびPre’は、互いに同一または相異なって、陰イオン交換基前駆官能基を示し、YおよびY’は、互いに同一または相異なって、塩素原子を示す。)
【0107】
疎水性基形成用モノマーおよび親水性基形成用モノマーをクロスカップリングにより重合させる際において、各モノマーの配合量は、それぞれ、得られる陰イオン交換樹脂前駆体ポリマーにおいて所望の疎水ユニットと親水ユニットの配合比になるように調整される。
【0108】
本発明では、疎水性基形成用モノマーと親水性基形成用モノマーとを、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどの溶媒に溶解させ、ビス(シクロオクタ-1,5-ジエン)ニッケル(0)(以下、「Ni(cod)」と表記することがある。)を触媒として重合する。また、触媒としてビス(シクロオクタ-1,5-ジエン)ニッケル(0)の存在下でクロスカップリング反応を行うに際しては、2,2’-ビピリジン(以下、「bpy」と表記することがある。)を共配位子として存在させる。
【0109】
ここで、上記のクロスカップリング反応のスキームを図1に示すように、クロスカップリング反応は、触媒であるNi(cod)が消費されながら進行する。もし、使用済み触媒であるNi(bpy)ClのNiを還元剤(Red)で還元することができれば、全体として反応サイクルが成立することから、非常に高価なNi(cod)の使用量を減らすことができる。しかし、使用済み触媒であるNi(bpy)ClのNiは還元されにくく、一般的な還元剤で還元することは難しい。
【0110】
そこで、本発明では、上記のクロスカップリング反応を行うに際し、助触媒としての臭化物又はヨウ化物、及び還元剤を共存させる。助触媒としての臭化物又はヨウ化物、及び還元剤を共存させた場合のクロスカップリング反応のスキームを図2に示すように、助触媒によって、消費された触媒残渣(Ni(bpy)Cl)の塩素イオンが一旦臭素イオン又はヨウ素イオンに置換され、その置換された触媒残渣であれば、一般的な還元剤で還元することが可能となり、全体として反応サイクルが成立する。したがって、非常に高価なNi(cod)の使用量を減らすことができ、製造コストを下げることが容易となる。
【0111】
本発明では、触媒として使用するビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)のモル数を、疎水性基形成用モノマーと親水性基形成用モノマーの合計モル数の0.3~1.8倍とすることができ、好ましくは、0.4~1.5倍とすることができ、より好ましくは、0.5~1.0倍とすることができる。このとき、共配位子として使用する2,2’-ビピリジンのモル数を、好ましくは、触媒として使用するビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)のモル数の1.5~2.5倍とし、より好ましくは、1.8~2.2倍とする。こうすることで、得られるポリマーの分子量を上げることができ、陰イオン交換樹脂の機械的特性(強度)を向上させることが可能となる。
【0112】
助触媒としては、臭化物又はヨウ化物を用いることができ、より好ましくは、臭化四級アンモニウム又はヨウ化四級アンモニウムを用いることができる。臭化四級アンモニウムとしては、臭化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウムなどが挙げられる。ヨウ化四級アンモニウムとしては、ヨウ化テトラメチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウムなどが挙げられる。上記のクロスカップリング反応において使用される助触媒のモル数は、好ましくは、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)のモル数の1.0~3.0倍であり、より好ましくは、1.5~2.5倍である。
【0113】
還元剤としては、例えば、金属亜鉛又は金属マグネシウムを用いることができる。上記のクロスカップリング反応において使用される還元剤のモル数は、好ましくは、助触媒のモル数の1.0~3.0倍であり、より好ましくは、1.5~2.5倍である。
【0114】
クロスカップリング反応における反応温度は、例えば、-100~300℃、好ましくは、-50~200℃であり、反応時間は、例えば、1~48時間、好ましくは、2~5時間である。
【0115】
これにより、下記式(15)、および、下記式(16)で示される陰イオン交換樹脂前駆体ポリマーが得られる。
【0116】
【化23】
(式中、Alk、R、X、a、b、c、およびdは、前記式(1)のAlk、R、X、a、b、c、およびdと同意義を示し、yおよびzは、前記式(3)のyおよびzと同意義を示し、PreおよびPre’は、互いに同一または相異なって、陰イオン交換基前駆官能基を示し、qおよびmは配合比あるいは繰り返し数を表し、1~100を示し、oは繰り返し数を表し、1~100を示す。)
【0117】
【化24】
(式中、Alk、R、X、Z、a、b、c、d、l、h、h’、h’’、i、i’、i’’、jおよびkは、前記式(1)のAlk、R、X、Z、a、b、c、d、l、h、h’、h’’、i、i’、i’’、jおよびkと同意義を示し、yおよびzは、前記式(3)のyおよびzと同意義を示し、PreおよびPre’は、互いに同一または相異なって、陰イオン交換基前駆官能基を示し、qおよびmは配合比あるいは繰り返し数を表し、1~100を示し、oは繰り返し数を表し、1~100を示す。)
【0118】
次いで、この方法では、陰イオン交換基前駆官能基をイオン化する。イオン化する方法としては、特に制限されず、公知の方法を採用することができる。
【0119】
陰イオン交換樹脂前駆体ポリマーを、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどの溶媒に溶解させ、ヨウ化メチルなどをアルキル化剤として、イオン化する方法など、公知の方法を採用することができる。
【0120】
イオン化反応における反応温度は、例えば、0~100℃、好ましくは、20~80℃であり、反応時間は、例えば、24~72時間、好ましくは、48~72時間である。
【0121】
これにより、上記式(13)および(13’)で示される陰イオン交換樹脂が得られる。
【0122】
陰イオン交換樹脂のイオン交換基容量は、例えば、0.1~4.0meq./g、好ましくは、0.6~3.0meq./gである。
【0123】
なお、イオン交換基容量は、下記式(24)により求めることができる。
[イオン交換基容量(meq./g)]=親水ユニット当たりの陰イオン交換基導入量×親水ユニットの繰り返し単位×1000/(疎水ユニットの分子量×疎水ユニットの繰り返し単位数+親水ユニットの分子量×親水ユニットの繰り返し単位数+イオン交換基の分子量×親水ユニットの繰り返し単位数) (24)
なお、イオン交換基導入量とは、単位親水性基あたりのイオン交換基の数と定義される。また、陰イオン交換基導入量は、親水性基において主鎖または側鎖に導入された上記陰イオン交換基のモル数(mol)である。
【0124】
そして、このような陰イオン交換樹脂は、単数の芳香環からなる、または、2価の炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価の窒素含有基、2価のリン含有基、2価の酸素含有基、2価の硫黄含有基、もしくは直接結合を介して互いに結合する複数の芳香環からなる2価の疎水性基と、単数の芳香環からなる、または、2価の炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価の窒素含有基、2価のリン含有基、2価の酸素含有基、もしくは2価の硫黄含有基である連結基、および/または直接結合を介して互いに結合する複数の芳香環からなり、前記連結基または芳香環のうち少なくとも1つが、2価の飽和炭化水素基または直接結合を介して陰イオン交換基と結合している2価の親水性基とが、直接結合を介して結合されている。このような陰イオン交換樹脂は、機械的特性(強度)に優れる。
【0125】
また、親水性基が直接結合を介して繰り返される親水ユニットを有する場合、エーテル結合が含有されていないため、耐アルカリ性などの耐久性に優れる。より詳しくは、親水ユニットにエーテル結合が含有されていると、下記のように、水酸化物イオン(OH)による分解が起きる可能性があり、耐アルカリ性が十分でない場合があった。
【0126】
【化25】
【0127】
それに対し、親水性基が直接結合を介して繰り返される親水ユニットを有する陰イオン交換樹脂の親水ユニットには、エーテル結合が含有されていないため、上記の機構による分解は起こらず、その結果として耐アルカリ性などの耐久性に優れたものとなる。
【0128】
本発明は、このような陰イオン交換樹脂を用いて得られる電解質層(電解質膜)を、含んでいる。本発明の電解質膜は、燃料電池、水電解装置、電気化学式水素ポンプ等の種々の電気化学用途に適用可能であるが、特に水電解装置に用いることが好適である。燃料電池、電気化学式水素ポンプ、および水電解式水素発生装置において、電解質膜は、両面に触媒層、電極基材及びセパレータが順次積層された構状態で使用される。このうち、電解質膜の両面に触媒層及びガス拡散基材を順次積層させたもの(ガス拡散基材/触媒層/電解質膜/触媒層/ガス拡散基材の層構成のもの)は、膜電極複合体(MEA)と称され、本発明の電解質膜は、こうしたMEAを構成する電解質膜として好適に用いられる。
【0129】
電解質膜としては、上記した陰イオン交換樹脂を用いることができる(すなわち、電解質膜は、上記した陰イオン交換樹脂を含んでいる。)。
【0130】
なお、電解質膜としては、例えば、多孔質基材などの公知の補強材により補強することができ、さらには、例えば、分子配向などを制御するための二軸延伸処理や、結晶化度や残存応力を制御するための熱処理などの各種処理することができる。また、電解質膜には、その機械強度を上げるために、公知のフィラーを添加することができ、電解質膜と、ガラス不織布などの補強剤とをプレスにより複合化させることもできる。
【0131】
また、電解質膜において、通常用いられる各種添加剤、例えば、相溶性を向上させるための相溶化剤、例えば、樹脂劣化を防止するための酸化防止剤、例えば、フィルムとしての成型加工における取扱性を向上するための帯電防止剤や滑剤などを、電解質膜としての加工や性能に影響を及ぼさない範囲で、適宜含有させることができる。
【0132】
電解質膜の厚さは、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0133】
電解質膜の厚みは、例えば、0.1~350μm、好ましくは、1~200μmである。
【0134】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の実施形態は、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で、適宜設計を変形することができる。
【実施例
【0135】
次に、本発明を実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
【0136】
<モノマー1の合成>
窒素インレットおよび冷却管を備えた100mLの丸底三口フラスコに、1,6-ジヨードパーフルオロヘキサン(5.54g、10.0mmol)、3-クロロヨードベンゼン(11.9g、50mmol)、N,N-ジメチルスルホキシド(60mL)を加えた。この混合物を撹拌して均一溶液にした後、銅粉末(9.53g、150mmol)を加え、120℃にて48時間反応を行った。反応溶液を0.1M硝酸水溶液中に滴下し反応を停止させた。混合物中からろ過によって回収した析出物をメタノールで洗浄し、ろ液を回収した。同様の操作を繰り返し行った後、合わせたろ液に純水を加えることにより析出した白色固体をろ別回収し、純水とメタノールの混合溶液(純水/メタノール=1/1)で洗浄後、一晩真空乾燥(60℃)させることにより、下記式で示されるモノマー1(白色固体)を収率84%で得た。
【0137】
【化26】
【0138】
<モノマー2の合成>
500mLの丸底三口フラスコに、フルオレン(83.1g、0.50mol)、N-クロロスクシンイミド(167g、1.25mol)、アセトニトリル(166mL)を加えた。この混合物を撹拌して均一溶液にした後、12M塩酸(16.6mL)を加え、室温にて24時間反応を行った。反応溶液中からろ過によって回収した析出物をメタノール、および純水で洗浄後、一晩真空乾燥(60℃)させることにより、下記式で示されるモノマー2(白色固体)を収率65%で得た。
【0139】
【化27】
【0140】
<モノマー3の合成>
300mLの丸底三口フラスコに、モノマー2(8.23g、35.0mmol)、1,6-ジブロモヘキサン(53mL)を加えた。この混合物を撹拌して均一溶液にした後、テトラブチルアンモニウム(2.26g、7.00mmol)、水酸化カリウム(35.0g)、純水(35mL)の混合溶液を加え、80℃にて1時間反応を行った。反応溶液に純水を加え反応を停止させた。水層から目的物をジクロロメタンで抽出し、合わせた有機層を純水および食塩水で洗浄後、水、ジクロロメタンおよび1、6-ジブロモヘキサンを留去した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/ヘキサン=1/4)によって精製した後、一晩真空乾燥(60℃)させることにより、下記式で示されるモノマー3(淡黄色固体)を収率75%で得た。
【0141】
【化28】
【0142】
<モノマー4の合成>
300mLの丸底三口フラスコに、モノマー3(13.2g、23.4mol)、テトラヒドロフラン(117mL)を加えた。この混合物を撹拌して均一溶液にした後、40wt%ジメチルアミン水溶液(58.6mL)を加え、室温にて24時間反応を行った。反応溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え反応を停止させた。テトラヒドロフランを除去した後、ヘキサンを加え、目的成分の抽出を行った。有機層を食塩水で洗浄後、水およびヘキサンを留去した。40℃一晩真空乾燥させることにより、下記式で示されるモノマー4(淡黄色固体)を収率75%で得た。
【0143】
【化29】
【0144】
〔実施例1:陰イオン交換樹脂1の合成〕
(重合反応)
窒素インレットおよび冷却管を備えた100mL三口フラスコに、モノマー1(1.05g,2.01mmol)、モノマー4(0.295g,0.602mmol)、2,2’-ビピリジン(bpy,0.496g,3.14mmol,1.2eq.)、N,N-ジメチルアセトアミド(6.3mL)を加えた。この混合物を攪拌して均一溶液にした後、80℃に昇温した。この溶液にビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)(Ni(cod),0.432g,1.57mmol,0.6eq.)を加え、80℃にて1時間反応させた。得られたスラリーに、助触媒としてのヨウ化テトラエチルアンモニウム(TEAI,0.807g,3.14mmol,1.2eq.)と還元剤としての亜鉛(Zn,0.411g,6.28mmol,2.4eq.)を加え、80℃にて2時間反応させた。反応混合物を室温まで放冷した後、メタノール/純水/12M塩酸の混合溶液(1/1/2)中に滴下し、反応を停止させた。混合物中から濾過によって回収した析出物をメタノール/純水/12M塩酸の混合溶液(1/1/2)、0.2M炭酸カリウム水溶液、および純水で洗浄後、一晩真空乾燥(60℃)させることにより、下記式で示される陰イオン交換樹脂前駆体ポリマー1(黄色固体)を収率96%で得た。
【0145】
【化30】
【0146】
(四級化反応・製膜・イオン交換)
50mLの丸底三口フラスコに、陰イオン交換樹脂前駆体ポリマー1(1.70g)、N,N-ジメチルアセトアミド(9.6mL)を加えた。この混合物を撹拌して均一溶液にした後、ヨウ化メチル(0.45mL、7.22mmol)を加え、室温にて48時間反応を行った。N,N-ジメチルアセトアミド(10mL)を加えた反応溶液を濾過した。濾液をシリコーンゴムで縁取りされたガラス板上に流し込み、水平に調節したホットプレート(50℃)上で乾燥させた。この膜を純水(2L)中で洗浄後、一晩真空乾燥(60℃)させることにより、淡茶色透明の膜を得た。さらに、1M水酸化カリウム水溶液中に48時間浸漬させた後、脱気した純水で洗浄することにより、イオン交換基(四級アンモニウム基)の対イオンをヨウ化物イオンから水酸化物イオンへと変換した。これにより、下記式で示される陰イオン交換樹脂1(m/n=1/0.30、水酸化物イオン型)の膜を得た。
【0147】
【化31】
【0148】
〔実施例2:陰イオン交換樹脂2の合成〕
以下の重合反応を行って得られた陰イオン交換樹脂前駆体ポリマー2を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で四級化反応・製膜・イオン交換を行うことで、陰イオン交換樹脂2(m/n=1/0.30,水酸化物イオン型)の膜を得た。
【0149】
(重合反応)
窒素インレットおよび冷却管を備えた100mL三口フラスコに、モノマー1(1.05g,2.01mmol)、モノマー4(0.295g,0.602mmol)、2,2’-ビピリジン(bpy,0.496g,3.14mmol,1.2eq.)、N,N-ジメチルアセトアミド(6.3mL)を加えた。この混合物を攪拌して均一溶液にした後、80℃に昇温した。この溶液にビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)(Ni(cod),0.432g,1.57mmol,0.6eq.)を加え、80℃にて1時間反応させた。得られたスラリーに、助触媒としての臭化テトラエチルアンモニウム(TEAB,0.660g,3.14mmol,1.2eq.)と還元剤としての亜鉛(Zn,0.411g,6.28mmol,2.4eq.)を加え、80℃にて2時間反応させた。反応混合物を室温まで放冷した後、メタノール/純水/12M塩酸の混合溶液(1/1/2)中に滴下し、反応を停止させた。混合物中から濾過によって回収した析出物をメタノール/純水/12M塩酸の混合溶液(1/1/2)、0.2M炭酸カリウム水溶液、および純水で洗浄後、一晩真空乾燥(60℃)させることにより、下記式で示される陰イオン交換樹脂前駆体ポリマー2(黄色固体)を収率97%で得た。
【0150】
〔実施例3:陰イオン交換樹脂3の合成〕
以下の重合反応を行って得られた陰イオン交換樹脂前駆体ポリマー3を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で四級化反応・製膜・イオン交換を行うことで、陰イオン交換樹脂3(m/n=1/0.30,水酸化物イオン型)の膜を得た。
【0151】
(重合反応)
窒素インレットおよび冷却管を備えた100mL三口フラスコに、モノマー1(1.05g,2.01mmol)、モノマー4(0.295g,0.602mmol)、2,2’-ビピリジン(bpy,0.331g,2.10mmol,0.8eq.)、N,N-ジメチルアセトアミド(6.3mL)を加えた。この混合物を攪拌して均一溶液にした後、80℃に昇温した。この溶液にビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)(Ni(cod),0.288g,1.05mmol,0.4eq.)を加え、80℃にて1時間反応させた。得られたスラリーに、助触媒としての臭化テトラエチルアンモニウム(TEAB,0.440g,2.10mmol,0.8eq.)と還元剤としての亜鉛(Zn,0.274g,4.19mmol,1.6eq.)を加え、80℃にて2時間反応させた。反応混合物を室温まで放冷した後、メタノール/純水/12M塩酸の混合溶液(1/1/2)中に滴下し、反応を停止させた。混合物中から濾過によって回収した析出物をメタノール/純水/12M塩酸の混合溶液(1/1/2)、0.2M炭酸カリウム水溶液、および純水で洗浄後、一晩真空乾燥(60℃)させることにより、下記式で示される陰イオン交換樹脂前駆体ポリマー3(黄色固体)を収率100%で得た。
【0152】
〔実施例4:陰イオン交換樹脂4の合成〕
以下の重合反応を行って得られた陰イオン交換樹脂前駆体ポリマー4を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で四級化反応・製膜・イオン交換を行うことで、陰イオン交換樹脂4(m/n=1/0.30,水酸化物イオン型)の膜を得た。
【0153】
(重合反応)
窒素インレットおよび冷却管を備えた100mL三口フラスコに、モノマー1(1.05g,2.01mmol)、モノマー4(0.295g,0.602mmol)、2,2’-ビピリジン(bpy,0.248g,1.57mmol,0.6eq.)、N,N-ジメチルアセトアミド(6.3mL)を加えた。この混合物を攪拌して均一溶液にした後、80℃に昇温した。この溶液にビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)(Ni(cod),0.216g,0.785mmol,0.3eq.)を加え、80℃にて1時間反応させた。得られたスラリーに、助触媒としての臭化テトラエチルアンモニウム(TEAB,0.330g,1.57mmol,0.6eq.)と還元剤としての亜鉛(Zn,0.206g,3.14mmol,1.2eq.)を加え、80℃にて2時間反応させた。反応混合物を室温まで放冷した後、メタノール/純水/12M塩酸の混合溶液(1/1/2)中に滴下し、反応を停止させた。混合物中から濾過によって回収した析出物をメタノール/純水/12M塩酸の混合溶液(1/1/2)、0.2M炭酸カリウム水溶液、および純水で洗浄後、一晩真空乾燥(60℃)させることにより、下記式で示される陰イオン交換樹脂前駆体ポリマー4(黄色固体)を収率100%で得た。
【0154】
〔比較例1:陰イオン交換樹脂C1の合成〕
以下の重合反応を行って得られた陰イオン交換樹脂前駆体ポリマーC1を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で四級化反応・製膜・イオン交換を行うことで、陰イオン交換樹脂C1(m/n=1/0.30,水酸化物イオン型)の膜を得た。
【0155】
(重合反応)
窒素インレットおよび冷却管を備えた100mL三口フラスコに、モノマー1(1.05g,2.01mmol)、モノマー4(0.295g,0.602mmol)、2,2’-ビピリジン(bpy,0.165g,1.05mmol,0.4eq.)、N,N-ジメチルアセトアミド(6.3mL)を加えた。この混合物を攪拌して均一溶液にした後、80℃に昇温した。この溶液にビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)(Ni(cod),0.144g,0.52mmol,0.2eq.)を加え、80℃にて1時間反応させた。得られたスラリーに、助触媒としての臭化テトラエチルアンモニウム(TEAB,0.220g,1.05mmol,0.4eq.)と還元剤としての亜鉛(Zn,0.137g,2.09mmol,0.8eq.)を加え、80℃にて2時間反応させた。反応混合物を室温まで放冷した後、メタノール/純水/12M塩酸の混合溶液(1/1/2)中に滴下し、反応を停止させた。混合物中から濾過によって回収した析出物をメタノール/純水/12M塩酸の混合溶液(1/1/2)、0.2M炭酸カリウム水溶液、および純水で洗浄後、一晩真空乾燥(60℃)させることにより、下記式で示される陰イオン交換樹脂前駆体ポリマー3(黄色固体)を収率51%で得た。
【0156】
〔比較例2:陰イオン交換樹脂C2の合成〕
以下の重合反応を行って得られた陰イオン交換樹脂前駆体ポリマーC2を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で四級化反応・製膜・イオン交換を行うことで、陰イオン交換樹脂C2(m/n=1/0.30,水酸化物イオン型)の膜を得た。
【0157】
(重合反応)
窒素インレットおよび冷却管を備えた100mL三口フラスコに、モノマー1(1.05g,2.01mmol)、モノマー4(0.295g,0.602mmol)、2,2’-ビピリジン(bpy,1.984g,12.56mmol,4.8eq.)、N,N-ジメチルアセトアミド(6.3mL)を加えた。この混合物を攪拌して均一溶液にした後、80℃に昇温した。この溶液にビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)(Ni(cod),1.728g,6.28mmol,2.4eq.)を加え、80℃にて3時間反応させた。反応混合物を室温まで放冷した後、メタノール/純水/12M塩酸の混合溶液(1/1/2)中に滴下し、反応を停止させた。混合物中から濾過によって回収した析出物をメタノール/純水/12M塩酸の混合溶液(1/1/2)、0.2M炭酸カリウム水溶液、および純水で洗浄後、一晩真空乾燥(60℃)させることにより、下記式で示される陰イオン交換樹脂前駆体ポリマーC2(黄色固体)を収率100%で得た。
【0158】
<分子量評価>
実施例および比較例で得た陰イオン交換樹脂の膜の数平均分子量Mnおよび重量平均分子量Mwを測定した。測定は、ゲル浸透クロマトグラフィーで行った。カラムにはShodex K-805Lを使用し、標準物質にはポリスチレンを用いた。結果を表1に示す。
【0159】
【表1】
【0160】
実施例サンプルの分子量(特に重量平均分子量)は、比較例サンプルの分子量(特に重量平均分子量)に比べて高く、機械的特性(強度)に優れることが分かる。

図1
図2