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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】亜硫酸塩類配合液剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/192 20060101AFI20240703BHJP
   A23L 3/3535 20060101ALI20240703BHJP
   A23L 3/3544 20060101ALI20240703BHJP
   A23L 3/3526 20060101ALI20240703BHJP
   A23L 3/3508 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20240703BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20240703BHJP
   C07C 65/03 20060101ALI20240703BHJP
   C07C 51/50 20060101ALI20240703BHJP
   C07C 69/88 20060101ALI20240703BHJP
   C07C 67/62 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 33/04 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 31/198 20060101ALN20240703BHJP
【FI】
A61K31/192
A23L3/3535
A23L3/3544 501
A23L3/3526 501
A23L3/3508
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/22
A61K47/20
A61P39/06
C07C65/03 C
C07C51/50
C07C69/88
C07C67/62
A61K33/04
A61K31/198
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020146065
(22)【出願日】2020-08-31
(65)【公開番号】P2022041058
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野塚 渉
(72)【発明者】
【氏名】三股 亮大郎
(72)【発明者】
【氏名】三隅 将吾
(72)【発明者】
【氏名】岸本 直樹
【審査官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-080342(JP,A)
【文献】特開2006-188436(JP,A)
【文献】特開平10-323183(JP,A)
【文献】特表2019-511537(JP,A)
【文献】特表2008-528629(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0066805(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0300302(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A23L
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
没食子酸又は没食子酸結合化合物、並びに亜硫酸塩類、エリソルビン酸又はその塩、及びN-アセチル-L-システインを含有する液剤。
【請求項2】
亜硫酸塩類を、没食子酸又は没食子酸結合化合物と等モル濃度以上含む、請求項1記載の液剤。
【請求項3】
N-アセチル-L-システイン及びエリソルビン酸又はその塩を、没食子酸又は没食子酸結合化合物とそれぞれ等モル濃度以上5倍モル濃度以下含む、請求項1又は2記載の液剤。
【請求項4】
没食子酸又は没食子酸結合化合物が、没食子酸又はその塩、二没食子酸又はその塩、没食子酸の低級アルキルエステル、エピガロカテキンガレート、エピカテキンガレート、ペンタガロイルグルコース、グルコガリン、タンニン酸、ガロイルベルゲニン、ガロイルアルブチン及びN2,N6-ビス[N2,N6-ビス(3,4,5-トリヒドロキシベンゾイル)-リシル]-N-(2-アミノエチル)-リジンアミドエピガロカテキンガレートから選ばれる1種以上である、請求項1~3のいずれか1項記載の液剤。
【請求項5】
液剤中での没食子酸又は没食子酸結合化合物の安定化方法であって、亜硫酸塩類、N-アセチル-L-システイン及びエリソルビン酸又はその塩を添加する工程を含む、方法。
【請求項6】
亜硫酸塩類を、没食子酸又は没食子酸結合化合物と等モル濃度以上含むように添加する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
N-アセチル-L-システイン及びエリソルビン酸又はその塩を、没食子酸又は没食子酸結合化合物とそれぞれ等モル濃度以上5倍モル濃度以下含むように添加する、請求項5又は6記載の方法。
【請求項8】
亜硫酸塩類、N-アセチル-L-システイン及びエリソルビン酸又はその塩を有効成分とする、没食子酸又は没食子酸結合化合物を含有する液剤の安定化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜硫酸塩類を配合した没食子酸又は没食子酸結合化合物の安定液剤に関する。
【背景技術】
【0002】
没食子酸や分子内にガロイル基を有する没食子酸結合化合物は、食品や医薬品に広く配合されるポリフェノールの一種である。ポリフェノールは、抗酸化作用等の生体に対して有益な生理活性を有しているが、一方で、ラジカル、pH及び加熱による温度変化により容易に酸化される不安定な分子であるため、液剤として保存することで、ポリフェノールの分解、沈殿の発生及び溶液の変色等を引き起こすことが知られている。
【0003】
このポリフェノールの酸化に対して、抗酸化剤の添加やL-アスコルビン酸を添加してpHを5以下に調整する方法(特許文献1)等が提案されている。また、複数の抗酸化剤を組み合わせることにより、ポリフェノールの安定化を図ることも検討されており、例えばアスコルビン酸とα-トコフェロールの抗酸化効果は相乗効果を示す代表的な組み合わせであるとされている(非特許文献1及び2)。これは個々の効果だけではなく、α-トコフェロールがラジカルを消去して生成した反応体をアスコルビン酸が還元し、α-トコフェロールへと再生するためであると考えられている。
また、アスコルビン酸の安定性を高めることが知られている二亜硫酸カリウム等の酸化防止剤をアスコルビン酸と共に用いることにより、没食子酸エピガロカテキンの酸化による分解、沈殿の発生及び着色を効果的に抑制できることが報告されている(特許文献2)。
【0004】
しかし、抗酸化剤の組み合わせ次第では、アスコルビン酸とα-トコフェロールのように相乗効果を示すものもあれば、一方で相殺効果による抗酸化効果の減弱も起こり得るため、複数の抗酸化剤を組み合わせることで必ずしもポリフェノールの酸化を抑制できるとは限らず、ポリフェノールの安定性を向上できるとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-191851号公報
【文献】特開2006-188436号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Packer JE, Slater TF, Willson RL. Direct observation of a free radical interaction between vitamin E and vitamin C. Nature. 1979 Apr 19;278(5706):737-8.
【文献】Niki E, Noguchi N, Tsuchihashi H, Gotoh N. Interaction among vitamin C, vitamin E, and beta-carotene. Am J Clin Nutr. 1995 Dec;62(6 Suppl):1322S-1326S.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安定性が向上した、没食子酸又は没食子酸結合化合物を含有する液剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、没食子酸又は没食子酸結合化合物を含有する液剤に、亜硫酸塩類、N-アセチル-L-システイン及びエリソルビン酸又はその塩を配合することにより、没食子酸又は没食子酸結合化合物の液剤中での安定性が向上することを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の1)~8)に係るものである。
1)没食子酸又は没食子酸結合化合物、並びに亜硫酸塩類、N-アセチル-L-システイン及びエリソルビン酸又はその塩を含有する液剤。
2)亜硫酸塩類を、没食子酸又は没食子酸結合化合物と等モル濃度以上含む、1)の液剤。
3)N-アセチル-L-システイン及びエリソルビン酸又はその塩を、没食子酸又は没食子酸結合化合物とそれぞれ等モル濃度以上5倍モル濃度以下含む、1)又は2)の液剤。
4)没食子酸又は没食子酸結合化合物が、没食子酸又はその塩、二没食子酸又はその塩、没食子酸の低級アルキルエステル、エピガロカテキンガレート、エピカテキンガレート、ペンタガロイルグルコース、グルコガリン、タンニン酸、ガロイルベルゲニン、ガロイルアルブチン及びN2,N6-ビス[N2,N6-ビス(3,4,5-トリヒドロキシベンゾイル)-リシル]-N-(2-アミノエチル)-リジンアミドエピガロカテキンガレートから選ばれる1種以上である、1)~3)のいずれかの液剤。
5)液剤中での没食子酸又は没食子酸結合化合物の安定化方法であって、亜硫酸塩類、N-アセチル-L-システイン及びエリソルビン酸又はその塩を添加する工程を含む、方法。
6)亜硫酸塩類を、没食子酸又は没食子酸結合化合物と等モル濃度以上含むように添加する、5)の方法。
7)N-アセチル-L-システイン及びエリソルビン酸又はその塩を、没食子酸又は没食子酸結合化合物とそれぞれ等モル濃度以上5倍モル濃度以下含むように添加する、5)又は6)の方法。
8)亜硫酸塩類、N-アセチル-L-システイン及びエリソルビン酸又はその塩を有効成分とする、没食子酸又は没食子酸結合化合物を含有する液剤の安定化剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、没食子酸又は没食子酸結合化合物を含む食品や医薬品の安定性が向上することから、製造工程管理や品質管理が容易となり、食品業界及び医薬品業界に大きく貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】没食子酸の4℃保存における着色の評価。
図2】没食子酸の25℃保存における着色の評価。
図3】没食子酸の4℃保存におけるガロイル基の定量値の推移。
図4】没食子酸の25℃保存におけるガロイル基の定量値の推移。
図5】没食子酸エピガロカテキンの4℃保存における着色の評価。
図6】没食子酸エピガロカテキンの25℃保存における着色の評価。
図7】没食子酸エピガロカテキンの4℃保存における吸光度の推移。
図8】没食子酸エピガロカテキンの25℃保存における吸光度の推移。
図9】没食子酸エチルの4℃保存における着色の評価。
図10】没食子酸エチルの25℃保存における着色の評価。
図11】没食子酸エチルの4℃保存における吸光度の推移。
図12】没食子酸エチルの25℃保存における吸光度の推移。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本発明において、「液剤」とは、水を含有する水性液剤を意味し、水溶液剤、懸濁剤、乳剤等の何れでもよいが、水溶液剤であるのが好ましい。
本発明の液剤は、没食子酸又は没食子酸結合化合物、並びに亜硫酸塩類、N-アセチル-L-システイン及びエリソルビン酸又はその塩を含有する液剤であり、没食子酸又は没食子酸結合化合物の安定性が向上した液剤である。
本発明において、「安定性」とは没食子酸又は没食子酸結合化合物の酸化に対する安定性を意味し、安定性が向上したとは、没食子酸又は没食子酸結合化合物の酸化が抑制され、沈殿の発生や着色が抑制されることを指す。
【0014】
後述する実施例に示すとおり、亜硫酸塩類、N-アセチル-L-システイン及びエリソルビン酸又はその塩は、液剤中の没食子酸又は没食子酸結合化合物の安定化に有用である。したがって、亜硫酸塩類、N-アセチル-L-システイン及びエリソルビン酸又はその塩は、液剤中での没食子酸又は没食子酸結合化合物を安定化するための安定化剤となり得、これを液剤中に配合することにより没食子酸又は没食子酸結合化合物の安定化を図ることができる。
【0015】
本発明において、「没食子酸結合化合物」とは、没食子酸が化学的に結合した化合物であり、具体的には没食子酸がエステル結合又はアミド結合した化合物、すなわち分子内にガロイル基を有する化合物を意味する。没食子酸結合化合物としては、例えば二没食子酸、没食子酸の低級アルキル(炭素数1~6)エステル(例えば、没食子酸エチル、没食子酸プロピル、没食子酸ブチル等)、エピガロカテキンガレート、エピカテキンガレート、ペンタガロイルグルコース、グルコガリン、タンニン酸、ガロイルベルゲニン、ガロイルアルブチン、N2,N6-ビス[N2,N6-ビス(3,4,5-トリヒドロキシベンゾイル)-リシル]-N-(2-アミノエチル)-リジンアミド(国際公開第2007/052641号)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明の没食子酸又は没食子酸結合化合物は、液剤中で塩の状態で存在していてもよく、斯かる塩としては特に限定されないが、例えばナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩等が挙げられる。
【0016】
また、本発明の液剤において、「没食子酸又は没食子酸結合化合物」を含有するとは、液剤中に没食子酸又は没食子酸結合化合物が存在すればよく、当該化合物が液体中に配合される場合の他、当該化合物を含有する植物又はその抽出物(例えば、海藻、野菜、柑橘類やリンゴ等の果実や穀物又はそれらの抽出物等)、飲食品(例えば、茶、ワイン、カカオ類等)が液体に配合された結果、当該化合物が液剤中に存在する場合も包含される。
【0017】
本発明の液剤における没食子酸又は没食子酸結合化合物の濃度は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.1mM以上、より好ましくは0.5mM以上、より好ましくは1mM以上で、且つ好ましくは75mM以下、より好ましくは50mM以下、より好ましくは25mM以下である。
【0018】
本発明の液剤においては、亜硫酸塩類、N-アセチル-L-システインとエリソルビン酸又はその塩を併用することにより、没食子酸又は没食子酸結合化合物の液剤中での安定性を向上し、着色や沈殿を抑制することができる。亜硫酸塩類、N-アセチル-L-システイン及びエリソルビン酸又はその塩は、水溶性であり中性領域で抗酸化効果を発揮することから、多くの医薬品及び食品に配合可能である。
【0019】
本発明において、亜硫酸塩類とは、水溶液中で亜硫酸イオン、亜硫酸水素イオン及び二亜硫酸(別名:ピロ亜硫酸、メタ重亜硫酸)イオンとなる塩を指し、具体的には亜硫酸塩、二亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、次亜硫酸塩等が例示される。より具体的には、例えば、亜硫酸ナトリウム、二亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、二亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸アンモニウム、二亜硫酸アンモニウム、亜硫酸水素アンモニウム等が挙げられ、好ましくは二亜硫酸カリウム、二亜硫酸ナトリウムである。
本発明において、亜硫酸塩類は、各種亜硫酸塩から選択される一種を用いることでもよく、二種以上を組み合わせて用いることでもよい。
【0020】
本発明の液剤における亜硫酸塩類の濃度は、没食子酸又は没食子酸結合化合物の含有量に応じて適宜設定できるが、没食子酸又は没食子酸結合化合物と等モル濃度以上、好ましくは1.5倍モル濃度以上、より好ましくは2倍モル濃度以上である。上限は特に限定されないが、例えば4.5倍モル濃度以下、4倍モル濃度以下、3倍モル濃度以下が挙げられる。
【0021】
エリソルビン酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が例示される、これらに限定されるものではない。
【0022】
N-アセチル-L-システイン及びエリソルビン酸又はその塩の含有量は、没食子酸又は没食子酸結合化合物の含有量に応じて適宜設定できるが、没食子酸又は没食子酸結合化合物とそれぞれ等モル濃度以上、好ましくは1.5倍モル濃度以上、より好ましくは2.5倍モル濃度以上であり、且つ5倍モル濃度以下、好ましくは4.5倍モル濃度以下、より好ましくは4倍モル濃度以下、より好ましくは3倍モル濃度以下が挙げられる。
また、エリソルビン酸及びその塩、並びにN-アセチル-L-システインの含有量は、亜硝酸塩類に対して等モル濃度以上であり、且つ5倍モル濃度以下が好ましく、より好ましくは2倍モル濃度以下が挙げられる。
【0023】
なお、亜硫酸塩類、N-アセチル-L-システイン及びエリソルビン酸又はその塩の含有量は、液剤の安定性向上化が得られる限り、同一濃度であっても異なる濃度であっても良い。
【0024】
本発明の液剤は、含有する没食子酸又は没食子酸結合化合物の用途に応じて、食品、医薬品及び細胞や臓器の保護剤等として使用可能である。
本発明の液剤を医薬品として用いる場合、薬学的に許容される1又は複数の賦形剤、例えば保存料、粘度調節剤、等張化剤、緩衝剤、吸収促進剤、界面活性剤、安定化剤、防湿剤、溶解補助剤等を含有し得る。また、食品として用いる場合は、1又は複数の甘味料、着色剤、保存料、増粘剤、発色剤、漂白剤、防カビ剤、苦味料、光沢剤、香料、酸味料、軟化剤、調味料、乳化剤、pH調整剤、膨張剤及び栄養強化剤等を含有し得る。細胞や臓器の保護剤として用いる場合は、pH調整剤、等張化剤、膨張剤、キレート化剤及び凍結保護剤を含有し得る。
【0025】
本発明の液剤を医薬品として用い場合、没食子酸又は没食子酸結合化合物それ自体が薬効成分となり得るが、任意の薬効成分を含有することも可能である。医薬品としては、例えば、解熱薬、鎮痛薬、抗炎症薬、抗リウマチ薬、催眠薬、鎮静薬、抗不安薬、抗精神病薬、抗うつ薬、抗てんかん薬、パーキンソン病治療薬、脳循環代謝改善薬、筋弛緩薬、自律神経系作用薬、抗めまい薬、片頭痛治療薬、強心薬、抗狭心症薬、β遮断薬、Ca拮抗薬、抗不整脈薬、利尿薬、降圧薬、抗アレルギー薬、気管支拡張薬、ぜんそく治療薬、鎮咳薬、去痰薬、消化性潰瘍治療薬、痛風治療薬、脂質異常症薬、糖尿病薬、ホルモン製剤、骨粗鬆症薬、麻酔、抗悪性腫瘍剤、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗寄生虫薬、抗原虫薬、免疫抑制薬及びワクチンに分類される薬剤が挙げられる。
【0026】
本発明の液剤は、公知の手法を用いて、没食子酸又は没食子酸結合化合物、亜硫酸塩類、N-アセチル-L-システイン及びエリソルビン酸又はその塩の他、必要に応じて、上述した各種物質を水や緩衝液等の液体に溶解させて調製することができる。液体は、用途に応じて適宜選択できるが、例えば、水、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、生理食塩水、Minimum Essential Medium(MEM)等の各種培養液等が挙げられる。
【0027】
本発明の液剤は、含有する没食子酸又は没食子酸結合化合物の用途に応じて、食品、化粧品、医薬品として使用可能である。
本発明の液剤を食品として用いる場合は、1又は複数の甘味料、着色料、保存料、増粘剤、発色剤、漂白剤、防カビ剤、乳化剤、膨張剤、調味料、酸味料、苦味料、光沢剤、栄養強化剤、香料、pH調整剤等を含有し得る。また、化粧品として用いる場合は、1又は複数の油性成分、界面活性剤、保湿剤、高分子物質、増粘剤、溶剤、着色剤、香料、紫外線防止剤、抗菌剤、キレート剤、pH調整剤、生理活性成分等を含有し得る。また、医薬品として用いる場合は、薬学的に許容される1又は複数の賦形剤、例えば、保存料、粘度調節剤、等張化剤、吸収促進剤、界面活性剤、安定化剤、防湿剤、溶解補助剤等を含有し得る。
【0028】
本発明の液剤を医薬品として用いる場合、没食子酸又は没食子酸結合化合物それ自体が薬効成分となり得るが、任意の薬効成分を含有することも可能である。医薬品としては、例えば、解熱薬、鎮痛薬、抗炎症薬、抗体リウマチ薬、催眠薬、鎮痛薬、抗不安薬、抗精神病薬、抗うつ薬、抗てんかん薬、パーキンソン病治療薬、脳循環代謝改善薬、筋弛緩薬、自律神経系作用薬、抗めまい薬、片頭痛治療薬、強心薬、抗狭心症薬、β遮断薬、Ca拮抗薬、抗不整脈薬、利尿薬、降圧薬、抗アレルギー薬、気管支拡張薬、ぜんそく治療薬、鎮咳薬、去痰薬、消化性潰瘍治療薬、痛風治療薬、脂質異常症薬、糖尿病薬、ホルモン製剤、骨粗鬆症薬、麻酔、抗悪性腫瘍剤、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗寄生虫薬、抗原虫薬、免疫抑制薬、ワクチンに分類される薬剤が挙げられる。
【0029】
本発明の液剤は、公知の手法を用いて、没食子酸又は没食子酸結合化合物、亜硫酸塩類、エリソルビン酸又はその塩、及びN-アセチル-L-システインの他、必要に応じて、上述した各種物質を水や緩衝液等の液体に溶解させて調製することができる。液体は、用途に応じて適宜選択できるが、例えば、水、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、生理食塩水、Minimum Essential Medium(MEM)等の各種培養液等が挙げられる。
【実施例
【0030】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0031】
以下(1)のようにして、亜硫酸塩類として二亜硫酸カリウムを含む処方を調製した。前述の特許文献2のように、二亜硫酸カリウムはL-アスコルビン酸の酸化を抑制し、ポリフェノールの安定性を高めることが知られている。そこで、以下(2)~(4)のようにして、ポリフェノール類(没食子酸、没食子酸エピガロカテキン、又は没食子酸エチル)を各処方に添加し、それらの安定性を指標として、各処方の効果を評価した。
【0032】
(1)処方の調製
50mMのTris(hydroxymethyl)aminomethane(Tris)-HCl緩衝液(pH7.6)に二亜硫酸カリウム(Potassium metabisulphite:PMB)、L-アスコルビン酸(Vitamin C:VC)、エリソルビン酸ナトリウム(Sodium erythorbate:SE)、N-アセチル-L-システイン(N-acetyl-L-cystein:NAC)を、単独で又は組み合わせて加えて溶解し、これらを比較例(処方2、3、4、及び5)並びに実施例(処方6)とした。また、対照として50mM Tris-HCl緩衝液(pH7.6)を用いた(処方1)。具体的な組成は、表1に示す通りである。
【0033】
【表1】
【0034】
(2)没食子酸を含む各処方の安定性評価
それぞれの処方に終濃度として0.44mMとなるようにポリフェノールである没食子酸(Gallic acid:GA)を加えた溶液を調製し、4℃又は25℃に設定したインキュベータに保存してこれらの安定性を評価した。安定性評価は保存前(Day 0)、保存4日目(Day 4)、保存7日目(Day 7)、保存14日目(Day 14)、及び保存35日目(Day 35)において、着色の目視判定及びガロイル基の定量値を指標として行った。
【0035】
ガロイル基の定量については、以下に記載する酒石酸鉄法により行った。まず、0.1Mの2-(N-morpholino)ethanesulfonic acid(:MES)緩衝液(pH5.5)に、終濃度として12.5mg/mLのドデシル硫酸ナトリウムと、2.5mg/mLの酒石酸ナトリウムカリウム四水和物と、0.5mg/mLの硫酸鉄(II)七水和物とを穏やかに溶解し、これを酒石酸鉄試薬とした。次に、0.1M MES緩衝液(pH5.5)に、終濃度として15.6μM、31.3μM、62.5μM、125μM、及び250μMとなるように没食子酸エチルを加えた溶液をそれぞれ調製し、これらを検量線用標準溶液とした。酒石酸鉄試薬を20μL採り、そこへ0.1M MES緩衝液(pH5.5)(ブランク)、検量線用標準溶液、又は没食子酸を含む各処方を180μL加えた。さらに、2M Trisを12μL加え、穏やかに混合した。この反応液を波長520nm及び660nmにおける吸光度測定をし、これら2波長の吸光度の差分を求めた。検量線用標準溶液の吸光度の差分より、検量線を作成した後、各処方の吸光度の差分より検量線法により得られた濃度をガロイル基の定量値とした。測定は各処方に対して3回ずつ実施し、定量値はガロイル基濃度の平均値±標準偏差で示した。
【0036】
まず、溶液の着色の有無を目視で判定した結果を図1図2、表2、及び表3に示す。
保存温度4℃においては、処方1~5では保存35日目までに着色が確認されたが、二亜硫酸カリウム、エリソルビン酸ナトリウム、及びN-アセチル-L-システインを含む処方6では、35日目まで着色が確認されなかった(図1及び表2)。同様に、保存温度25℃においても、処方1~5では保存14日目までに着色が確認されたが、本発明の処方6では着色が確認されなかった(図2及び表3)。
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
次に、ガロイル基の定量結果を図3及び図4に示す。着色と同様に処方1~5では、ガロイル基濃度は保存前の濃度から大きく減少したが、本発明の処方6では、ガロイル基濃度は保存前の濃度を保存期間中維持していることがわかった(図3及び図4)。特に前記特許文献2に記載の二亜硫酸カリウムとL-アスコルビン酸の併用(処方2)では、4℃での保存35日目において、ガロイル基濃度は、保存前の42.3%まで減少したが、本発明の処方6はそれを上回り、保存前の90.5%を維持した。また、25℃での保存14日目では、処方2のガロイル基濃度は保存前の11.7%まで減少し、本発明の処方6は保存前の96.5%を維持した。
【0040】
以上の着色目視判定及びガロイル基定量の結果より、本発明の処方6で示される二亜硫酸カリウム、エリソルビン酸ナトリウム、及びN-アセチル-L-システインの3つを組み合わせた処方は、二亜硫酸カリウムとL-アスコルビン酸の組み合わせ(前記特許文献2)、二亜硫酸カリウム単独、及びN-アセチル-L-システイン又はエリソルビン酸ナトリウムと二亜硫酸カリウムとを組み合わせた処方のいずれと比較しても、最も長期にわたって着色やガロイル基の減少を抑える効果が確認され、本発明の処方6がポリフェノールの安定化効果が最も優れていると考えられた。なお、保管温度4℃における処方3、4、及び5では、短期間で確認された強い着色が、その後の保管中に減弱している傾向が確認されたが、これは二亜硫酸カリウムの漂白効果に起因する変化であると考えられ、この時のガロイル基の定量値は目視の結果と異なり、低下傾向が確認された。
【0041】
(3)没食子酸エピガロカテキンを含む各処方の安定性評価
前述の没食子酸の場合と同様にして、表1に示す各処方に終濃度として0.44mMとなるようにポリフェノールである没食子酸エピガロカテキン(Epigallocatechin gallate:EGCG)を加えた溶液の安定性を評価した。安定性評価は着色目視判定及び吸光度測定値を指標として行い、吸光度測定は、波長400nm及び660nmにおける吸光度を測定し、これら2波長の吸光度の差分で比較評価した。
【0042】
溶液の着色の有無を目視で判定した結果を図5図6、表4、及び表5に示す。保存温度4℃では、処方1~5は、保存14日目までに着色が確認されたが、処方6では、28日目まで着色が確認されなかった(図5及び表4)。同様に、保存温度25℃においても、処方1~5では、保存7日目までに着色が確認されたが、処方6では、保存7日目では着色が確認されなかった(図6及び表5)。加えて、吸光度測定をしたところ、着色と相関する結果が得られ、処方1~5では吸光度が上昇したが、本発明の処方6では吸光度はほとんど上昇しない若しくは吸光度の上昇が処方1~5より遅延した(図7及び図8)。
【0043】
【表4】
【0044】
【表5】
【0045】
したがって、二亜硫酸カリウム、エリソルビン酸ナトリウム、及びN-アセチル-L-システインの3種類の組み合わせである本発明のの処方6は、前述の没食子酸を用いた評価と同様に処方1~5のいずれと比較しても、最も長期にわたって没食子酸エピガロカテキンを含有する液剤の着色の防止効果を有することが明らかになった。
【0046】
(4)没食子酸エチルを含む各処方の安定性評価
前述の没食子酸及び没食子酸エピガロカテキンの場合と同様にして、表1に示す各処方に終濃度として0.44mMとなるように没食子酸エチル(Ethyl gallate:EG)を加えた溶液の安定性を評価した。安定性評価は着色目視判定及び吸光度測定値を指標とした。
【0047】
溶液の着色の有無を目視で判定した結果を図9図10、表6、及び表7に示す。保存温度4℃においては、処方1、3、及び4では、保存14日目までに着色が確認されたが、処方2、5、及び6では、保存56日目でも着色が確認されなかった(図9及び表6)。また、保存温度25℃においては、処方1~5では、保存14日目までに弱い着色が確認されたが、本発明の処方6では、保存14日目まで着色が確認されなかった(図10及び表7)。加えて、吸光度測定の結果、着色におおよそ相関する吸光度の上昇が確認され、着色が確認されなかった本発明の処方6でのみ吸光度の上昇がみられなかった(図11及び図12)。
【0048】
【表6】
【0049】
【表7】
【0050】
以上より、特に保存温度25℃の結果より、二亜硫酸カリウム、エリソルビン酸ナトリウム、及びN-アセチル-L-システインの3つを組み合わせた本発明の処方は、没食子酸エチルを含有する液剤の着色を最も長期にわたって防止することが示された。更に、前述の没食子酸及び没食子酸エピガロカテキンを含む処方の安定性評価の結果を併せて考えると、保存温度は4℃及び25℃のいずれにおいても、二亜硫酸カリウムが有する抗酸化効果を最も長期に維持するためにはエリソルビン酸又はその塩及びN-アセチル-L-システインを組み合わせることが有効であると考えられた。
図1
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図12