IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マツダ株式会社の特許一覧 ▶ MUアイオニックソリューションズ株式会社の特許一覧 ▶ エリーパワー株式会社の特許一覧

特許7513983リチウムイオン二次電池及びその製造方法
<>
  • 特許-リチウムイオン二次電池及びその製造方法 図1
  • 特許-リチウムイオン二次電池及びその製造方法 図2
  • 特許-リチウムイオン二次電池及びその製造方法 図3
  • 特許-リチウムイオン二次電池及びその製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20240703BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20240703BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240703BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240703BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20240703BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20240703BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240703BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20240703BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20240703BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20240703BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0569
H01M4/13
H01M4/58
H01M4/136
H01M4/133
H01M4/587
H01M10/058
H01M10/0567
H01M10/0568
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020156071
(22)【出願日】2020-09-17
(65)【公開番号】P2022049830
(43)【公開日】2022-03-30
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】320011605
【氏名又は名称】MUアイオニックソリューションズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507317502
【氏名又は名称】エリーパワー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島本 圭
(72)【発明者】
【氏名】福永 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】杉山 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】増田 渉
(72)【発明者】
【氏名】藤田 弘輝
(72)【発明者】
【氏名】樋口 宗隆
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/158547(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/111981(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 10/0569
H01M 4/13
H01M 4/58
H01M 4/136
H01M 4/133
H01M 4/587
H01M 10/058
H01M 10/0567
H01M 10/0568
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体の表面に正極活物質層を有する正極と、集電体の表面に負極活物質層を有する負極と、非水電解液とが電池ケース内に収容されたリチウムイオン二次電池であって、
上記非水電解液は、非水溶媒の主成分としてγ-ブチロラクトンを含有し、
上記負極活物質層の表面にはビニレンカーボネート由来の成分を含有する被膜が形成され、
上記正極活物質層の表面にはモノアルキル硫酸イオン由来の成分を含有する被膜が形成され
上記正極活物質層は、オリビン型結晶構造のリン酸鉄リチウムを正極活物質として含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
請求項1において、
上記負極活物質層の表面には上記ビニレンカーボネート及び上記モノアルキル硫酸イオン各々に由来する成分を含有する被膜が形成されていることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記正極活物質層の表面には上記モノアルキル硫酸イオン及びビスオキサレートボラートイオン各々に由来する成分を含有する被膜が形成されていることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
請求項1乃至請求項のいずれか一において、
上記負極活物質層は、炭素材料を負極活物質として含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
請求項1乃至請求項のいずれか一において、
上記非水電解液は、上記非水溶媒として、上記γ-ブチロラクトンに加えて、ジブチルカーボネートを含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
集電体の表面に正極活物質層を有する正極と、集電体の表面に負極活物質層を有する負極と、非水電解液とが電池ケース内に収容されたリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
上記電池ケースに、上記正極及び上記負極を収容し、さらに、γ-ブチロラクトンを主成分とし且つビニレンカーボネートとモノアルキル硫酸リチウムを含有する非水溶媒にリチウム塩を溶解してなる非水電解液を封入して電池組立体を得る工程と、
上記電池組立体に対して初期充電処理を行なうことにより、上記負極活物質層の表面に上記ビニレンカーボネート由来の成分を含有する被膜を形成するとともに、上記正極活物質層の表面に上記モノアルキル硫酸リチウムの電離によって生ずるモノアルキル硫酸イオン由来の成分を含有する被膜を形成する工程とを備え
上記正極活物質層は、オリビン型結晶構造のリン酸鉄リチウムを正極活物質として含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項7】
請求項において、
上記非水電解液として、γ-ブチロラクトンを主成分とし且つビニレンカーボネートとモノアルキル硫酸リチウムとリチウムビスオキサレートボラートを含有する非水溶媒にリチウム塩を溶解してなる非水電解液を用い、
上記正極活物質層の表面に上記リチウムビスオキサレートボラートの電離によって生ずるビスオキサレートボラートイオン及び上記モノアルキル硫酸リチウムの電離によって生ずるモノアルキル硫酸イオン各々に由来する成分を含有する被膜を形成することを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン二次電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、主として、リチウムを吸蔵・放出する正極及び負極、非水電解液、並びにセパレータから構成され、携帯電話、パソコン等の電子機器、電気自動車等に使用されている。非水電解液は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート等の非水溶媒にリチウム塩を溶解させた構成とされている。このようなリチウムイオン二次電池では、温度が高くなったときに、可燃性の非水溶媒が揮発することや、正極活物質として利用されているリチウム複合酸化物が分解して酸素を放出することが問題にされている。
【0003】
これに対して、特許文献1には、リチウムイオン二次電池の非水溶媒として各々高沸点溶媒であるエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとγ-ブチロラクトンの混合溶媒を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-243447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
γ-ブチロラクトンは、リチウムイオン二次電池の引火点を高めることに有効である。しかし、本発明者の研究によれば、γ-ブチロラクトンが負極において分解し、その分解生成物によって電池の出力が低下していくことがわかった。その分解生成物が正極に移動して該正極でのLiイオンの出入りが阻害されると考えられる。
【0006】
そこで、本発明は、リチウムイオン二次電池の引火点向上と耐久性向上の両立を図ること、特に冷間出力を長期間にわたって維持できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、γ-ブチロラクトンを非水溶媒として使用する一方、γ-ブチロラクトンの負極上での分解、並びにγ-ブチロラクトンの分解生成物による正極の劣化を抑える被膜を正負の各電極に形成するようにした。
【0008】
ここに開示するリチウムイオン二次電池は、集電体の表面に正極活物質層を有する正極と、集電体の表面に負極活物質層を有する負極と、非水電解液とが電池ケース内に収容されたリチウムイオン二次電池であって、
上記非水電解液は、非水溶媒の主成分としてγ-ブチロラクトン(以下、「GBL」という。)を含有し、
上記負極活物質層の表面にはビニレンカーボネート(以下、「VC」という。)由来の成分を含有する被膜(SEI層)が形成されており、
上記正極活物質層の表面にはモノアルキル硫酸イオン由来の成分を含有する被膜が形成され、上記正極活物質層は、オリビン型結晶構造のリン酸鉄リチウムを正極活物質として含有することを特徴とする。
【0009】
これによれば、非水電解液はGBLをベースとし、このGBLは、分子間結合力が高い高誘電率溶媒であるとともに、融点が低く低温でも液体状態を保つから、リチウムイオン二次電池の引火点向上と冷間出力の向上に有利になる。
【0010】
そうして、負極活物質層の表面にVC由来の被膜が形成されていることにより、GBLの負極上での還元分解が防がれる。また、正極活物質層の表面にモノアルキル硫酸イオン由来の被膜が形成されていることにより、負極上で生ずるGBLの分解生成物が正極に移動しても、該分解生成物による正極の劣化が防がれる。また、GBLの正極での酸化分解も防止される。
【0011】
このように、本発明によれば、負極活物質層表面のVC由来の被膜及び正極活物質層表面のモノアルキル硫酸イオン由来の被膜の存在により、GBLを非水電解液のベースとするリチウムイオン二次電池のサイクル劣化の抑制が可能になり、零下環境での使用においても、長期間にわたって高い出力特性を維持できるようになる。
【0012】
一実施形態では、上記負極活物質層の表面には上記VC及び上記モノアルキル硫酸イオン各々に由来する成分を含有する被膜が形成されている。これにより、負極上でのGBLの還元分解の抑制に有利になる。
【0013】
一実施形態では、上記正極活物質層の表面には上記モノアルキル硫酸イオン及びビスオキサレートボラート(以下、「BOB」という。)イオン各々に由来する成分を含有する被膜が形成されている。これにより、正極でのGBLの酸化分解の防止、該分解生成物による正極の劣化防止に有利になる。
【0014】
記正極活物質層は、オリビン型結晶構造のリン酸鉄リチウムを正極活物質として含有する。これにより、リチウムイオン二次電池の充電時の熱安定性の確保に有利になり、また、放電電圧を高くすることができる。この場合、モノアルキル硫酸イオン由来の被膜が正極活物質層をGBLの分解生成物から保護するため、リン酸鉄リチウムの分解(Feの溶出)が防止される。
【0015】
一実施形態では、上記負極活物質層は、炭素材料を負極活物質として含有する。これにより、電池容量の増大に有利になる。
【0016】
ここに、黒鉛系炭素材料を負極活物質とするケースにおいて、非水溶媒としてGBLを採用したときには、負極の表面にSEI(固定電解質界面)層が形成されにくいことが問題になる。SEI層は、充電時に、電解液中の溶媒が還元分解されることにより形成され、溶媒和LiイオンがSEI層を通過する際に脱溶媒和し、単体のLiイオンとして黒鉛層間に挿入されるようになる。このSEI層の形成が不十分であるときは、溶媒和Liイオンがそのまま黒鉛層間に挿入され(共挿入)、黒鉛層間において溶媒の分解反応が進行し、黒鉛の結晶構造が破壊されていくため、電池のサイクル安定性能が低下する。
【0017】
これに対して、当該実施形態では、VC由来又はモノアルキル硫酸イオン由来の被膜(SEI層)によって溶媒和Liイオンの脱溶媒和が効率良く行なわれ、黒鉛層間における溶媒の分解反応が抑制されるのでサイクル安定性能が向上する。
【0018】
GBLの分解を抑制する観点から好ましいのは、ハードカーボンのような黒鉛化度が低い(例えば、CuKα線の回折角2θ=26.6度に対応する回折ピークの半価幅で0.015ラジアン以上である)炭素材料を負極活物質とすることである。
【0019】
一実施形態では、上記非水電解液は、上記非水溶媒として、上記GBLに加えて、ジブチルカーボネート(以下、「DBC」という。)を含有することを特徴とする。GBLは粘度が高いため、セパレータの濡れ性が問題になるところ、DBCの添加によってセパレータに対する非水電解液の濡れ性が向上する。これにより、イオン移動度が高くなり、リチウムイオン二次電池の出力特性の向上に有利になる。しかも、DBCは沸点が高い(約206℃)ことから、非水溶媒の揮発抑制の観点からも好ましい。DBCとしては、引火点が高い(91℃)n-DBCを好ましく採用することができる。
【0020】
上記非水溶媒としては、上記GBL及びDBCに加えて、エチレンカーボネート(以下、「EC」という。)を含有するものであってもよく、さらには、ECとプロピレンカーボネート(以下、「PC」という。)を含有するものであってもよい。高沸点且つ高誘電率溶媒であるECやPCの添加により、リチウムイオン二次電池の引火点向上と冷間出力の向上に有利になる。
【0021】
以上のように非水溶媒を混合溶媒とする場合、非水溶媒におけるGBLの濃度は50容量%以上とする。この場合において、DBCの濃度は5容量%以上15容量%以下とすることが好ましい。EC又はPCを添加する場合、各々の濃度は5容量%以上30容量%以下とし、ECとPCの両者を添加する場合、両者合わせた濃度は10容量%以上40容量%以下とすることが好ましい。
【0022】
ここに開示するリチウムイオン二次電池の製造方法は、集電体の表面に正極活物質層を有する正極と、集電体の表面に負極活物質層を有する負極と、非水電解液とが電池ケース内に収容されたリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
上記電池ケースに、上記正極及び上記負極を収容し、さらに、GBLを主成分とし且つVCとモノアルキル硫酸リチウムを含有する非水溶媒にリチウム塩を溶解してなる非水電解液を封入して電池組立体を得る工程と、
上記電池組立体に対して初期充電処理を行なうことにより、上記負極活物質層の表面に上記VC由来の成分を含有する被膜を形成するとともに、上記正極活物質層の表面に上記モノアルキル硫酸リチウム由来の成分を含有する被膜を形成する工程とを備え、上記正極活物質層は、オリビン型結晶構造のリン酸鉄リチウムを正極活物質として含有することを特徴とする。
【0023】
この製造方法により、上述のリチウムイオン二次電池を得ることができる。また、この製造方法によれば、正極活物質層の表面にモノアルキル硫酸リチウムの電離によって生ずるモノアルキル硫酸イオン由来の被膜が形成されるだけでなく、負極活物質層の表面にVC及びモノアルキル硫酸イオン各々に由来する被膜が形成され、負極活物質に対するLiイオンの挿入・脱離の抵抗が低減する。
【0024】
上記製造方法において、上記非水電解液として、GBLを主成分とし且つVCとモノアルキル硫酸リチウムとLiBOBを含有する非水溶媒にリチウム塩を溶解してなる非水電解液を用い、
上記正極活物質層の表面に上記LiBOBの電離によって生ずるBOBイオン及び上記モノアルキル硫酸イオン各々に由来する成分を含有する被膜を形成することができる。
【0025】
上記リチウムイオン二次電池及びその製造方法において、上記モノアルキル硫酸リチウムとしては、一般式(1):RO-SOLi(但し、Rは、炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基)で表されるモノアルキル硫酸リチウムが好ましい。すなわち、CHOSOLi、COSOLi、CHCHCHOSOLi、CHCH(CH)OSOLi、CHCHCHCHOSOLi、CHCHCH(CH)OSOLi、(CHCHCHOSOLi及びC(CHOSOLiからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、COSOLiであることが更に好ましい。
【0026】
上記非水電解液におけるVCの濃度は、負極活物質層の表面にGBLの還元分解を抑制し得る被膜(SEI層)を形成する観点から0.3質量%以上とすることが好ましい。但し、VC由来の被膜が厚くなると、負極活物質に対するLiイオンの挿入・脱離の際の抵抗が大きくなることから、このVCの当該濃度は3質量%以下とすることが好ましい。VCのより好ましい濃度は0.5質量%以上2.5質量%以下であり、さらには1質量%以上2質量%以下とすることが好ましい。
【0027】
上記非水電解液におけるモノアルキル硫酸リチウムの濃度は、正極活物質層の表面に該正極活物質の保護に好適な被膜を形成する観点から0.3質量%以上とすることが好ましい。但し、モノアルキル硫酸イオン由来の被膜が厚くなると、正極活物質に対するLiイオンの挿入・脱離の際の抵抗が大きくなることから、このモノアルキル硫酸リチウムの当該濃度は1.5質量%以下とすることが好ましい。モノアルキル硫酸リチウムのより好ましい濃度は0.5質量%以上1質量%以下である。
【0028】
上記非水電解液におけるLiBOBの濃度は、正極活物質層の表面に該正極活物質の保護に好適な被膜を形成する観点から0.3質量%以上とすることが好ましい。但し、BOBイオン由来の被膜が厚くなると、正極活物質に対するLiイオンの挿入・脱離の際の抵抗が大きくなることから、このLiBOBの当該濃度は1.5質量%以下とすることが好ましい。LiBOBのより好ましい濃度は0.5質量%以上1質量%以下である。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係るリチウムイオン二次電池によれば、非水電解液は非水溶媒の主成分としてGBLを含有し、負極活物質層の表面にはVC由来の被膜(SEI層)が形成され、正極活物質層の表面にはモノアルキル硫酸イオン由来の被膜が形成されているから、リチウムイオン二次電池の引火点向上と冷間出力の向上に有利になるとともに、その保存劣化やサイクル劣化の抑制に有利になる。
【0030】
本発明に係るリチウムイオン二次電池の製造方法によれば、GBLを非水電解液のベースとするリチウムイオン二次電池において、負極活物質層の表面にVC由来の被膜(SEI層)を形成し、正極活物質層の表面にモノアルキル硫酸イオン由来の被膜を形成することができ、引火点が高く且つ冷間出力特性に優れた耐久性が高いリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】リチウムイオン二次電池の内部構造を示す一部切断した斜視図。
図2】同電池の正極及び負極の積層構造を模式的に示す断面図。
図3】放電容量維持率のサイクル劣化特性を示すグラフ図。
図4】-18℃における最大電流値のサイクル劣化特性を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0033】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、電子機器、電気自動車、ハイブリッド車等への利用に適する。
【0034】
<リチウムイオン二次電池の全体構成>
図1に示すように、リチウムイオン二次電池1は、複数の薄いシート状の電池構成材をまとめて扁平な渦巻状(反物状)になるように巻いた捲回体2と、この捲回体2の外周を覆う絶縁シート3と、これらを収容する電池ケース4とを備えている。電池ケース4の上面には正極端子5及び負極端子6が設けられている。
【0035】
捲回体2は、2枚のシート状のセパレータ7と、正極端子5に接続されるシート状の正極8と、負極端子6に接続されるシート状の負極9とで形成されている。この捲回体2は、セパレータ7、負極9、セパレータ7及び正極8をこの順番で重ね合わせた積層体を扁平渦巻状に巻いて形成されている。
【0036】
セパレータ7には非水電解液が含浸している。非水電解液は、GBLを主成分とする非水溶媒にLi塩を溶解させてなる。電池ケース4の上面には非水電解液の注入口21が設けられている。注入口21は栓22で塞がれている。
【0037】
なお、電池構成材は捲回体の形態の代わりに、シート状の電池構成材をつづら折り状に折りたたんで積層してなる積層体としてもよい。この積層体の形態とした場合は、電池ケース内の隅の空間にも電池構成材を配することができ容量を増やすことができる。
【0038】
[正極8について]
図2に示すように、正極8は、集電体11の表面(負極9と相対する面)に正極活物質層12を設けてなる。集電体11は導電性を有する金属薄膜によって形成されている。好ましい集電体11としてはアルミニウム箔が挙げられる。正極活物質層12は、正極活物質及び助剤(バインダ及び導電助剤)を混合し集電体11に塗布することによって形成されている。
【0039】
好ましい正極活物質としては、コバルト、マンガン及びニッケルからなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有するリチウムとの複合金属酸化物、リン酸系リチウム化合物、ケイ酸系リチウム化合物がある。特に、リン酸系リチウムを採用することが好ましい。これらの正極活物質は、1種単独で用いるか又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
好ましいリン酸系リチウム化合物としては、オリビン型結晶構造のLiMPO(M=遷移金属Fe、Co、Ni、Mn等)、LiMPOF(M=遷移金属Fe、Co、Ni、Mn等)がある。なかでも、リン酸鉄リチウムLiFePOが好ましい。ケイ酸系リチウム化合物としては、例えば、LiMSiO(M=遷移金属Fe、Co、Ni、Mn等)がある。
【0041】
バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を好ましく採用することができる。導電助剤としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノファイバ(CNF)等を採用することができる。
【0042】
正極活物質層12の表面には、非水電解液17に接触するモノアルキル硫酸イオン由来の被膜13が形成されている。なお、図2ではセパレータ7の図示を書略している。
【0043】
[負極9について]
負極9は、集電体14の表面(正極8と相対する面)に負極活物質層15を設けてなる。集電体14は導電性を有する金属薄膜によって形成されている。好ましい集電体14としては銅箔が挙げられる。負極活物質層15は、負極活物質及び助剤(バインダ及び導電助剤)を混合し集電体14に塗布することによって形成されている。
【0044】
負極活物質としては、黒鉛系炭素材料、すなわち、人造黒鉛や天然黒鉛を採用することが好ましい。黒鉛系炭素材料は、リチウムイオンの吸蔵及び放出能力の向上の観点から、黒鉛化度が低いものが好ましい。例えば、CuKα線の回折角2θ=26.6度に対応する回折ピークの半価幅で0.015ラジアン以上であることが好ましい。黒鉛化度が低い人造黒鉛やハードカーボンは負極活物質として好ましい。結晶性の高い天然黒鉛は、単独では劣化が早いため、表面処理を行った天然黒鉛や人造黒鉛と併用することが好ましい。
【0045】
バインダとしては、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、該スチレン-ブタジエンゴムに増粘剤としてカルボキシメチルセルロースを併用したもの(SBR-CMC)、PVdF、イミド系バインダ、或いはポリアクリル酸系バインダ等を好ましく採用することができる。導電助剤としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノファイバCNF等を好ましく採用することができる。
【0046】
負極活物質層15の表面には、非水電解液17に接触するVC由来の被膜(SEI層)16が形成されている。
【0047】
[セパレータ7について]
セパレータ7は、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂よりなる多孔性薄膜であって、非水電解液17が含浸されている。
【0048】
[非水電解液について]
非水電解液は、GBLを主成分とする非水溶媒にリチウム塩(支持電解質)を溶解してなる。非水電解液は、-40℃~70℃において液体であり、必要に応じて添加剤が添加される。
【0049】
非水溶媒は、GBLに加えて、EC、PC等の環状カーボネート、γ-バレロラクトン(GVL)等の環状エステル、DBC等の鎖状カーボネート、エーテル類、スルホン類等の各種有機溶媒から選ばれる1種又は2種以上を含有する混合溶媒とすることができる。
【0050】
DBCはセパレータ7に対する非水電解液の濡れ性を改善する。そのような濡れ性改善溶媒としては、メチルブチルカーボネート(MBC)、エチルブチルカーボネート(EBC)等が挙げられ、なかでも、引火点が高い(91℃)n-DBCを好ましく採用することができる。非水溶媒における濡れ性改善溶媒の濃度は5容量%以上15容量%以下とすればよい。
【0051】
好ましい混合溶媒例は、GBLと、EC及び/又はPCと、DBCとの混合溶媒である。当該混合溶媒においては、GBLの濃度を50容量%以上とし、EC又はPCを単独添加する場合、各々の濃度は5容量%以上30容量%以下とし、ECとPCの両者を添加する場合、両者合わせた濃度は10容量%以上40容量%以下とし、DBCの濃度は5容量%以上15容量%以下とすることが特に好ましい。
【0052】
好ましいリチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiPO、LiN(SOF)、LiN(SOCF、LiN(SO等が挙げられる。リチウム塩は、1種単独で用いることができ、また、2種以上を組み合わせて用いることができる。非水電解液におけるリチウム塩の濃度は、例えば、0.5M以上2.0M以下となるようにすればよい。
【0053】
また、リチウムイオン二次電池の組立時において、非水電解液は、上述の正極活物質層12の表面にモノアルキル硫酸イオン由来の被膜13を形成するためのモノアルキル硫酸リチウム、並びに上述の負極活物質層15の表面にVC由来の被膜(SEI層)16を形成するためのVCを含有する。非水電解液は、正極活物質層12の表面にモノアルキル硫酸イオン及びBOBイオン各々に由来する被膜13を形成するために、LiBOBを添加することができる。モノアルキル硫酸イオン、BOBイオン及びVCの殆どは初期充電処理によって被膜13,16の形成に消費されるが、それら処理後も一部は非水電解液中に残存する。なお、モノアルキル硫酸イオン、BOBイオン又はVCが非水電解液中に残存しない場合もある。
【0054】
<GBLの分解問題>
リチウムイオン二次電池1の充電において、負極9にSEI層の形成不良等があると、負極9において非水電解液中のGBLの還元分解反応を生ずる。或いは、電池1が過放電の状態になったとき、負極9の集電体(銅)14が非水電解液17に溶解し、これに伴って、負極9においてGBLの還元分解反応を生ずる。
【0055】
このGBLの分解生成物が非水電解液17において拡散すると、周辺の正常なSEI層の再形成を妨げられ、また、セパレータ7の目詰まりを引き起こす。その結果、SEI層の形成不良やセパレータ7を通過するLiイオンの移動阻害により、当該電池1のサイクル特性が悪化する。また、GBLの分解生成物が正極8に移動すると、正極活物質層12のバインダが分解して正極活物質が溶出し、正極8におけるLiイオンの捕捉性が悪化する。
【0056】
<GBLの分解対策>
本実施形態では、上記GBLの分解問題に対策すべく、上述の如く、正極活物質層12の表面にモノアルキル硫酸イオン由来の被膜13を形成し、負極活物質層15の表面にVC由来の被膜(SEI層)16を形成している。
【0057】
モノアルキル硫酸イオン由来の被膜13は、リチウムイオン二次電池の後述する初期充電において生成される。その生成の具体的なメカニズムは不明であるが、非水電解液中のモノアルキル硫酸イオンが酸化分解し重合して被膜13が形成されると推測される。ここに、「モノアルキル硫酸イオン由来の被膜」13は、当該被膜がモノアルキル硫酸イオン由来の成分を含有することを表現したものであり、被膜13は、モノアルキル硫酸イオンに由来しない、非水電解液の他の溶媒或いは支持塩の上記初期充電によって生ずる分解生成物を含むことができ、例えば、BOBイオンが酸化分解し重合した化合物等を含み得る。
【0058】
VC由来の被膜16は、リチウムイオン二次電池の後述する初期充電において生成される。その生成の具体的なメカニズムは不明であるが、非水電解液中のVCが還元分解し重合して形成されると推測される。ここに、「VC由来の被膜」16は、被膜16がVC由来の成分を含有することを表現したものであり、被膜16は、VCに由来しない、非水電解液の他の溶媒或いは支持塩の上記初期充電によって生ずる分解生成物、例えば、モノアルキル硫酸イオンが酸化分解して重合した化合物等を含み得る。
【0059】
負極活物質層15の表面がVC由来の被膜16で覆われていることにより、非水電解液中のGBLの負極上での還元分解が抑制される。また、負極上でGBLの分解を生ずると、その分解生成物が正極側へ拡散移動するものの、正極活物質層12の表面はモノアルキル硫酸イオン由来の被膜13によって覆われている。従って、GBLの分解生成物が正極活物質層12のバインダを破壊することで引き起こされる電池の出力低下が、モノアルキル硫酸イオン由来の被膜13によって防止される。また、モノアルキル硫酸イオン由来の被膜は、Liイオンが正極活物質の結晶構造内に挿入・離脱することを妨げないから、サイクル特性の維持に有利になる。
【0060】
<リチウムイオン二次電池の製造方法>
上記リチウムイオン二次電池は、以下に述べる各工程を有する方法によって製造することができる。
【0061】
[電池組立工程]
正極活物質と助剤(バインダ及び導電助剤)を混練し、スラリー状の合材を作成する。この合材を集電体11に塗布し乾燥させることによって、集電体11の表面に正極活物質層12が形成されたシート状の正極8を形成する。
【0062】
負極活物質と助剤(バインダ及び導電助剤)を混練し、スラリー状の合材を作成する。この合材を集電体14に塗布し乾燥させることによって、集電体14の表面に負極活物質層15が形成されたシート状の負極9を形成する。
【0063】
シート状の正極8とシート状の負極9を、セパレータ7が正極8と負極9の間に挟まるように積層して電極エレメントを得る。電極エレメントに正・負のリードを取り付けて電池ケース4に収容する。
【0064】
GBLを主成分とする非水溶媒にLi塩を溶解してなる非水電解液を電池ケース4に注入口21から注入し、注入口21を栓22で封止することにより、電池組立体を得る。非水電解液には、モノアルキル硫酸リチウム及びVCを添加しておく。非水溶媒には必要に応じてLiBOBを添加しておく。
【0065】
[初期充電(予備充電)処理]
上記電池組立体に対して初期充電処理を行なうことにより、被膜13,16を形成する。この初期充電は、負極9の電位がVCの還元電位以下となるように行なう。充電処理は、CC充電(定電流充電)処理及び定電流充電後に定電圧充電を行なうCCCV充電処理のいずれを採用してもよい。
【0066】
この初期充電処理により、正極活物質層12の表面にモノアルキル硫酸リチウムの電離によって生ずるモノアルキル硫酸イオン由来の被膜13を形成し、負極活物質層15の表面にVC由来の被膜16を形成する。非水電解液にLiBOBを添加しているときは、正極活物質層12の表面の被膜13には、LiBOBの電離によって生ずるBOBイオン由来の化合物が含まれることになる。負極活物質層15の表面の被膜15には、モノアルキル硫酸イオンに由来する化合物やBOBイオンに由来する化合物が含まれることになる。
【0067】
上記初期充電処理による被膜13,16の形成に伴って発生するガスを電池ケースから除去するガス抜きを行なう。
【0068】
[本充電処理・エージング処理]
上記初期充電処理の後、当該リチウムイオン二次電池の充電上限電圧への本充電を行ない、初回放電容量を確認した後、電池不良の有無をみるためのエージング処理を行なう。
【0069】
<リチウムイオン二次電池の特性試験>
非水電解液を表1に示す組成とした各サンプルに係るリチウムイオン二次電池を上記製造方法に従って作製した。表1において、「RO-SOLi」はモノアルキル硫酸リチウムのことであり、当該特性試験では、硫酸リチウムエチルCOSOLiを用いた。
【0070】
【表1】
【0071】
LiFePO(正極活物質)とカーボンブラック(導電助剤)を混合し、これに予めPVdF(結着剤)を溶解させておいた結着剤溶液を加えて混合することにより、ペースト状の正極合材を調製した。この正極合材をアルミニウム箔(集電体)の片面に塗布し、乾燥、加圧処理することにより、正極を作製した。一方、ハードカーボン(負極活物質)とカーボンブラック(導電助剤)を混合し、これに予めSBR-CMC(結着剤)を溶解させておいた結着剤溶液を加えて混合することにより、ペースト状の負極合材を調製した。この負極合材を銅箔(集電体)の片面に塗布し、乾燥、加圧処理することにより、負極を作製した。正極、微多孔性ポリプロピレンフィルム(セパレータ)、負極の順に積層し、表1に記載の組成の非水溶媒に係る電解液(支持電解質;LiPF=1M)を加えることにより、特性評価用の各サンプル(フルセル)を作製した。
【0072】
そうして、各サンプルについて、サイクル劣化試験(サイクル劣化試験前後のCCA電流の維持率の測定)を行なった。サイクル劣化試験の条件は次のとおりである。すなわち、電池温度は60℃、電池容量は3Ah、DOD(放電深度)は100%、充電条件及び放電条件各々は1Cとした。
【0073】
図3はサイクル劣化試験前後のCCA電流を示し、図4はそのCCA電流の維持率を示す。CCA電流は、電池温度-18℃において、SOC100%から定電流放電したときの1.8V時の最大電流である。
【0074】
サンプル1,3,4をみると(この順でVC量が増えている。RO-SOLi及びLiBOBの添加なし。)、サンプル1に比して、サンプル3,4ではサイクル劣化特性の改善がみられるが、サンプル3(VC=2.0質量%)に比して、サンプル4(VC=3.0質量%)ではその改善度合が低くなっている。これから、VC添加量を過度に多くすることは好ましくないということができる。
【0075】
サンプル3と5(VC=2.0質量%のケースにおいて、後者はRO-SOLi添加)を比較するに、図3によれば、後者はCCA電流が高くなっている。図4によれば、サンプル3と5の電流維持率は略同等である。これから、RO-SOLiの添加でサイクル劣化特性が改善することがわかる。
【0076】
サンプル6(RO-SOLiとLiBOBを添加)をみると、図3によれば、サンプル5(RO-SOLiを添加)よりもCCA電流が高くなっており、図4によれば、電流維持率も高くなっている。この結果から、RO-SOLi及びLiBOBの併用がサイクル劣化特性の改善に有効であることがわかる。サンプル7とサンプル6を比べると(前者は後者よりもLiBOBを増量)、図3のCCA電流は大差ないが、図4の電流維持率はLiBOBを増量したサンプル7の方が高くなっている。
【0077】
サンプル2,8,9は、ECの一部をPCで置換したケースであり、図3,4によれば、RO-SOLiとLiBOBを添加したサンプル8,9は、CCA電流が高くなり、電流維持率も高くなっている。ECの一部をPCで置換したケースでも、RO-SOLi及びLiBOBの添加がサイクル劣化特性の改善に有効であることがわかる。
【0078】
正極活物質がRO-SOイオン由来の被膜によって保護されていることは負極の分析によって確認している。すなわち、RO-SOLiを添加していないサンプル1-4では、負極上にFeの析出がみられた。これに対して、RO-SOLiを添加したサンプル5-9では、負極へのFeの析出はみられなかった。サンプル1-4における負極上へのFeの析出は、正極活物質であるLiFePOが非水電解液中へ溶出したことによるものである。サンプル5-9において、負極へのFeの析出がみられないということは、正極活物質層の表面にRO-SOイオン由来の被膜が形成され、該被膜によって正極活物質が保護された結果と認められる。
【0079】
また、上記各サンプルの電解液は、非水溶媒として、EC及びGBLに加えてDBCを含有するが、DBCを添加しないときは、注液性が悪く、得られた電池のサイクル寿命も短命であった。これは、DBC含有しない電解液はセパレータに対する濡れ性が悪いためである。実際、EC及びGBLを含有し、DBCを含有しない電解液をセパレータに滴下したところ、接触角が大きく、濡れ性が悪いことを確認した。
【0080】
これに対して、上記各サンプルでは、注液性は良好であり、サイクル試験にも耐えうるものであった。これは、非水電解液へのDBCの添加によってセパレータに対する濡れ性が良好になったためである。すなわち、電解液の非水溶媒として粘度が高いGBLを採用するときは、セパレータに対する濡れ性を良好にするために、DBCを添加することが好ましい。
【0081】
以上から、実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、12V鉛バッテリの代替用バッテリやエンジン始動モータのバッテリとして、良好な低温始動性を長期間にわたって発揮することを期待することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 リチウムイオン二次電池
4 電池ケース
7 セパレータ
8 正極
9 負極
11 正極集電体
12 正極活物質層
13 RO-SOイオン由来の被膜
14 負極集電体
15 負極活物質層
16 VC由来の被膜
17 非水電解液
図1
図2
図3
図4