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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】不妊モデル動物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20240703BHJP
   A01K 67/0276 20240101ALI20240703BHJP
   C12N 5/073 20100101ALI20240703BHJP
   C12N 5/076 20100101ALI20240703BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240703BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240703BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20240703BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240703BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240703BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
C12N15/09 Z
A01K67/0276
C12N5/073
C12N5/076
C12N5/10
C12N15/09 110
C12N15/12 ZNA
C12N15/54
C12Q1/02
G01N33/15 Z
G01N33/48 N
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020072388
(22)【出願日】2020-04-14
(65)【公開番号】P2021168605
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】507307374
【氏名又は名称】学校法人神戸学院
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鷹野 正興
(72)【発明者】
【氏名】前倉 孝治
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】YOSHIZAWA et al.,Journal of Mammalian Ova Research,2005年,Vol. 22, No. 4,p.246-250,DOI: 10.1274/jmor.22.246
【文献】IMPC Gene: Rimklb [online], 2019.05.01 [検索日2024.01.18],https://web.archive.org/web/20190501101636/https://www.mousephenotype.org/data/genes/MGI:1918325#order2
【文献】JOSHI et al.,bioRxiv,2019年,DOI: 10.1101/517680
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
A01K67 /02-67/033
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライディッヒ細胞を含む精巣細胞中の対の染色体の両方においてRimklb遺伝子の変異を有する非ヒト哺乳類雄動物であって、
前記変異が、配列番号8で示されるマウスRimklb遺伝子アミノ酸配列の29番目のアミノ酸又はマウス以外の非ヒト哺乳類動物Rimklb遺伝子アミノ酸配列において前記マウスRimklb遺伝子アミノ酸配列の29番目のアミノ酸に対応するアミノ酸の欠失、及び配列番号8で示されるマウスRimklb遺伝子アミノ酸配列の30番目のアミノ酸又はマウス以外の非ヒト哺乳類動物Rimklb遺伝子アミノ酸配列において前記マウスRimklb遺伝子アミノ酸配列の30番目のアミノ酸に対応するアミノ酸の置換を含む、
不妊モデル動物。
【請求項2】
マウスである、請求項に記載の不妊モデル動物。
【請求項3】
前記置換がLからV又はIへの置換である、請求項に記載の不妊モデル動物。
【請求項4】
Rimklb遺伝子の変異を対の染色体の両方に有する、哺乳類動物の培養ライディッヒ細胞であって、
前記変異が、配列番号8で示されるマウスRimklb遺伝子アミノ酸配列の29番目のアミノ酸又はマウス以外の哺乳類動物Rimklb遺伝子アミノ酸配列において前記マウスRimklb遺伝子アミノ酸配列の29番目のアミノ酸に対応するアミノ酸の欠失、及び配列番号8で示されるマウスRimklb遺伝子アミノ酸配列の30番目のアミノ酸又はマウス以外の哺乳類動物Rimklb遺伝子アミノ酸配列において前記マウスRimklb遺伝子アミノ酸配列の30番目のアミノ酸に対応するアミノ酸の置換を含む、
培養ライディッヒ細胞。
【請求項5】
対の染色体の両方においてRimklb遺伝子の変異を有する、非ヒト哺乳類動物の受精卵であって、
前記変異が、配列番号8で示されるマウスRimklb遺伝子アミノ酸配列の29番目のアミノ酸又はマウス以外の非ヒト哺乳類動物Rimklb遺伝子アミノ酸配列において前記マウスRimklb遺伝子アミノ酸配列の29番目のアミノ酸に対応するアミノ酸の欠失、及び配列番号8で示されるマウスRimklb遺伝子アミノ酸配列の30番目のアミノ酸又はマウス以外の非ヒト哺乳類動物Rimklb遺伝子アミノ酸配列において前記マウスRimklb遺伝子アミノ酸配列の30番目のアミノ酸に対応するアミノ酸の置換を含む、請求項1~のいずれかに記載の不妊モデル動物発生する受精卵。
【請求項6】
非ヒト哺乳類雄動物において、ライディッヒ細胞中の対の染色体の両方にRimklb遺伝子の変異を導入することを含み、
前記変異が、配列番号8で示されるマウスRimklb遺伝子アミノ酸配列の29番目のアミノ酸又はマウス以外の非ヒト哺乳類動物Rimklb遺伝子アミノ酸配列において前記マウスRimklb遺伝子アミノ酸配列の29番目のアミノ酸に対応するアミノ酸の欠失、及び配列番号8で示されるマウスRimklb遺伝子アミノ酸配列の30番目のアミノ酸又はマウス以外の非ヒト哺乳類動物Rimklb遺伝子アミノ酸配列において前記マウスRimklb遺伝子アミノ酸配列の30番目のアミノ酸に対応するアミノ酸の置換を含む、
不妊モデル動物の作製方法。
【請求項7】
(a1)請求項1~のいずれかに記載の不妊モデル動物に被検物質を投与する工程、及び/又は
(a2)請求項に記載の培養ライディッヒ細胞に被検物質を接触させる工程
を含む、不妊治療薬又はその候補物質のスクリーニング方法。
【請求項8】
(b)前記工程a1及び/又は前記工程a2の後に表現型を評価する工程
を含む、請求項に記載のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不妊モデル動物等に関する。
【背景技術】
【0002】
雄不妊症の90%を占める精子形成障害は、遺伝子異常により引き起こされると考えられているが、その原因因子を特定する手法は全く確立されていない。正確な原因因子検査手法の確立は、今後の生殖医療の発展といったライフイノベーションに繋がると共に、少子化の阻止という意味でも社会に大いに還元できる可能性を有している。また、雄不妊症の病態解析、予防法開発、治療法開発等においては、モデル動物の開発が重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Collard, F. et al. Molecular identification of N-acetylaspartylglutamate synthase and beta-citrylglutamate synthase. J Biol Chem 285, 29826-29833, doi:10.1074/jbc.M110.152629 (2010).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、不妊モデル動物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
Rimklbは、哺乳類にcDNAがクローニングされたリムタンパク質ファミリーのメンバーであり、基質へのグルタミン酸の付加を触媒するβ-CGシンターゼである(非特許文献1)。しかし、Rimklbの生理学的特性は不明であった。本発明者はRimklbについて鋭意研究を進めた結果、精巣細胞中のRimklb遺伝子の機能及び/又は発現が欠損又は低下した雄動物、であれば、上記課題を解決できることを見出した。本発明者はこの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0006】
項1. 精巣細胞中のRimklb遺伝子の機能及び/又は発現が欠損又は低下した雄動物である、不妊モデル動物。
【0007】
項2. 哺乳類動物である、項1に記載の不妊モデル動物。
【0008】
項3. 前記精巣細胞がライディッヒ細胞を含む、項1又は2に記載の不妊モデル動物。
【0009】
項4. Rimklb遺伝子が欠損している、又はRimklbタンパク質コード領域における変異を有する、項1~3のいずれかに記載の不妊モデル動物。
【0010】
項5. 前記変異が、フレームシフトを引き起こす変異である、或いはN末端から21~40番目のアミノ酸配列内のアミノ酸変異を引き起こす変異である、項4に記載の不妊モデル動物。
【0011】
項6. Rimklb遺伝子の機能及び/又は発現が欠損又は低下した、細胞。
【0012】
項7. 精巣細胞である、項6に記載の細胞。
【0013】
項8. 項1~5のいずれかに記載の不妊モデル動物に発生する、受精卵。
【0014】
項9. 雄動物において、精巣細胞中のRimklb遺伝子の機能及び/又は発現が欠損又は低下する変異を導入することを含む、不妊モデル動物の作製方法。
【0015】
項10. (a1)項1~5のいずれかに記載の不妊モデル動物に被検物質を投与する工程、及び/又は
(a2)項6又は7に記載の細胞に被検物質を接触させる工程
を含む、不妊治療薬又はその候補物質のスクリーニング方法。
【0016】
項11. (b)前記工程a1及び/又は前記工程a2の後に表現型を評価する工程
を含む、項10に記載のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、不妊モデル動物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】各種臓器及び生殖器官におけるRimklbの発現を示す、ウェスタンブロッティングの結果である(試験例1)。
図2】精巣内のRimklbの発現を示す、免疫染色の結果である(試験例1)。
図3】変異雄マウスの生殖能力のテスト結果を示す(試験例3)。左側の図の縦軸はpups/litter(同腹仔/プラグ の割合)を示し、右側の図の縦軸はdelivery/plug(分娩/プラグ の割合)を示す。WTは野生型雄マウスの場合を示し、delはRimklb変異マウスの場合を示す。
図4】変異雄マウスの精巣重量の測定結果を示す(試験例3)。横軸は、生後の週齢数を示す。Wild typeは野生型雄マウスの場合を示し、-/-はRimklb変異マウスの場合を示す。
図5】変異雄マウスの精巣の免疫染色結果を示す(試験例3)。Wild typeは野生型雄マウスの場合を示し、-/-はRimklb変異マウスの場合を示す。
図6】変異雄マウスの精子の顕微鏡観察像を示す(試験例3)。Wild typeは野生型雄マウスの場合を示し、-/-はRimklb変異マウスの場合を示す。
図7】変異雄マウスの精子を使用した体外受精試験の結果を示す(試験例3)。縦軸は、受精した割合を示す。Wild typeは野生型雄マウスの場合を示し、-/-はRimklb変異マウスの場合を示す。
図8】精巣における各タンパク質の発現を示す、ウェスタンブロッティングの結果である(試験例4)。
図9】変異雄マウスの生殖能力のテスト結果を示す(試験例5)。縦軸はpups/litter(同腹仔/プラグ の割合)を示す。Wild typeは野生型雄マウスの場合を示し、-/-はRimklb完全欠損マウスの場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.定義
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0020】
アミノ酸配列の「同一性」とは、2以上の対比可能なアミノ酸配列の、お互いに対するアミノ酸配列の一致の程度をいう。従って、ある2つのアミノ酸配列の一致性が高いほど、それらの配列の同一性又は類似性は高い。アミノ酸配列の同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。若しくは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(KarlinS,Altschul SF.“Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoringschemes” Proc Natl Acad Sci USA.87:2264-2268(1990)、Karlin S,Altschul SF.“Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences.”Proc Natl Acad Sci USA.90:5873-7(1993))を用いて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のウェエブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照すればよい。また、塩基配列の『同一性』も上記に準じて定義される。
【0021】
本明細書中において、「保存的置換」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、イソロイシンといったβ-分枝側鎖を有するアミノ酸残基;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
【0022】
2.モデル動物、細胞
本発明は、その一態様において、精巣細胞中のRimklb遺伝子の機能及び/又は発現が欠損又は低下した雄動物である、不妊モデル動物(本明細書において、「本発明のモデル動物」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0023】
動物としては、特に制限されず、例えばサル、マウス(ハツカネズミ属動物)、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカ等の哺乳類動物(非ヒト動物)が挙げられる。これらの中でも、実験動物として使用し得る動物が好ましく、ハツカネズミ属動物がより好ましく、Mus musculusがさらに好ましい。また、哺乳類動物は、系統種であってもよく、雑種であってもよい。また、系統種としては、マウスの場合であれば、例えばC57BL/6、C3H、ICR、BALB/cが挙げられるが、好ましくはC57BL/6である。
【0024】
Rimklb(Ribosomal modification protein rimK-like family member B)遺伝子は、リムタンパク質ファミリーのメンバーであり、基質へのグルタミン酸の付加を触媒するβ-CGシンターゼの遺伝子である。哺乳類動物各種において、Rimklb遺伝子の塩基配列及びアミノ酸配列は公知である、或いは公知のRimklb遺伝子の塩基配列及びアミノ酸配列に基づいて(例えば、これらとの同一性解析等により)容易に決定することができる。一例として、マウスのRimklb遺伝子は、NCBI Gene ID: 108653で特定される遺伝子であり、そのアミノ酸配列としてはNCBI RefSeqアクセッション番号:NP_081940で特定されるアミノ酸配列(配列番号1)が挙げられ、そのmRNA配列としてはNCBI RefSeqアクセッション番号:NM_027664で特定される塩基配列(配列番号2)が挙げられ、そのタンパク質コード配列としては配列番号3で示される塩基配列が挙げられる。
【0025】
本発明が対象とするRimklb遺伝子には、自然界において生じ得る機能正常の変異体も含まれる。本発明が対象とするRimklb遺伝子は、コードするタンパク質のβ-CGシンターゼ活性が著しく損なわれない限りにおいて、置換、欠失、付加、挿入等の塩基変異を有していてもよい。変異としては、該mRNAから翻訳されるタンパク質においてアミノ酸置換が生じない変異やアミノ酸の保存的置換が生じる変異が好ましい。
【0026】
本発明が対象とするRimklb遺伝子は、例えば、それによりコードされるタンパク質のアミノ酸配列が、同種動物の野生型Rimklb遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列と、例えば95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の同一性を有する、遺伝子である。また、本発明が対象とするRimklb遺伝子は、例えば、それによりコードされるタンパク質のアミノ酸配列が、同種動物の野生型Rimklb遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列と同一であるか又は該アミノ酸配列に対して1もしくは複数個(例えば2~10、好ましくは2~5、より好ましくは2~3個、さらに好ましくは2個)が置換、欠失、付加、又は挿入されたアミノ酸配列である、遺伝子である。
【0027】
本発明のモデル動物においては、少なくとも精巣細胞(例えばライディッヒ細胞、精子等)において、上記した本発明が対象とするRimklb遺伝子の機能及び/又は発現が欠損又は低下している。すなわち、本発明のモデル動物においては、上記した本発明が対象とするRimklb遺伝子の機能及び/又は発現が欠損又は低下するように、該Rimklb遺伝子に変異が導入されている。なお、Rimklb遺伝子の機能及び/又は発現の欠損又は低下、及び上記変異は、精巣細胞以外において起こっていてもよく、全身において起こっていてもよい。ここで、Rimklb遺伝子の「機能」は、Rimklbタンパク質の本来の活性、β-CGシンターゼ活性を示す。また、Rimklb遺伝子の「発現」は、RimklbmRNAの発現、及びRimklbタンパク質の発現の両方を包含するが、好ましくはRimklbタンパク質の発現である。「欠損」とは、本発明のモデル動物から得られたサンプルについて、Rimklbタンパク質の活性及び/又はRimklb遺伝子の発現量が検出限界以下であることを示す。また、「低下」とは、本発明のモデル動物から得られたサンプルについて、Rimklbタンパク質の活性及び/又はRimklb遺伝子の発現量が、変異導入前のRimklbタンパク質の活性及び/又はRimklb遺伝子の発現量よりも低い(例えば1/2、1/5、1/10、1/20、1/50、1/100、1/200、1/500、1/1000、1/2000、1/5000、1/10000以下である)ことを示す。なお、Rimklbタンパク質の活性及び/又はRimklb遺伝子の発現量は、公知の方法に従って測定することが可能である。
【0028】
Rimklb遺伝子に導入される変異としては、Rimklb遺伝子の機能及び/又は発現が欠損又は低下する変異である限り特に制限されるものではない。当該変異としては、例えば遺伝子欠損、タンパク質コード領域における変異、スプライシング調節領域における変異、発現制御領域(例えば、プロモーター、アクチベーター、エンハンサー等)における変異等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは遺伝子欠損、タンパク質コード領域における変異等が挙げられる。タンパク質コード領域における変異としては、例えばフレームシフトを引き起こす変異、N末端から21~40番目のアミノ酸配列内のアミノ酸変異を引き起こす変異が挙げられる。後者において、変異は、当該アミノ酸配列内の少なくとも1つのアミノ酸変異であればよく、当該アミノ酸変異は、好ましくは、配列番号8(マウスの場合)の29番目のアミノ酸(他の生物の場合はそれに対応するアミノ酸)の欠失、及び/又は配列番号8(マウスの場合)の30番目のアミノ酸(他の生物の場合はそれに対応するアミノ酸)の置換(例えばLからV又はI(好ましくはV)への置換)を含む。また、本発明のモデル動物においては、変異を、対の染色体の両方において有することが好ましい。
【0029】
また、本発明は、その一態様において、Rimklb遺伝子の機能及び/又は発現が欠損又は低下した、細胞(本明細書において、「本発明の細胞」と示すこともある。)に関する。細胞としては、特に制限されるものではないが、好ましくは精巣細胞である。精巣細胞としては、好ましくはライディッヒ細胞、精子等が挙げられる。細胞は、初代培養細胞、その継代細胞、細胞株のいずれでもよい。
【0030】
本発明のモデル動物及び本発明の細胞は、不妊症(雄不妊症)の表現型の少なくとも1種を有する。該表現型としては、雌動物との交配時の低受胎率(例えば50%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、又は1%以下)、精巣の低重量(野生型動物に対して、例えば90%以下、80%以下、70%以下、又は60%以下)、精細管の脱落、精巣間質細胞の増加、精子頭部の異形、体外受精率の低下、IZUMOタンパク質の発現量の低下(野生型動物に対して、例えば90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、又は50%以下)等が挙げられる。
【0031】
3.モデル動物の作製方法
本発明のモデル動物の作製方法は、特に制限されず、公知の遺伝子変異動物作製技術を各種利用することができる。一例として、以下の方法が挙げられる。
【0032】
本発明は、その一態様において、雄動物において、精巣細胞中のRimklb遺伝子の機能及び/又は発現が欠損又は低下する変異を導入することを含む、不妊モデル動物の作製方法(本明細書において、「本発明の製造方法」と示すこともある。)に関する。
【0033】
変異導入対象の細胞は、特に制限されないが、不妊モデル動物の作製効率の観点から、受精卵又は初期胚であることが好ましい。
【0034】
変異の導入方法は、特に制限されないが、不妊モデル動物作製の効率の観点から、標的特異的ヌクレアーゼ、該ヌクレアーゼの発現カセット、及び該ヌクレアーゼのmRNAからなる群より選択される少なくとも1種を含む導入物を細胞に導入する方法が挙げられる。
【0035】
標的特異的ヌクレアーゼは、ゲノムDNA上の特定部位を特異的に切断して、変異を誘導できるヌクレアーゼである限り特に制限されない。標的特異的ヌクレアーゼとしては、例えばCasタンパク質、TALENタンパク質、ZFNタンパク質などが挙げられる。
【0036】
Casタンパク質を用いるCRISPR/Casシステムは、ヌクレアーゼ(RGN;RNA-guided nuclease)であるCasタンパク質とガイドRNAを使用する。該システムを細胞内に導入することにより、ガイドRNAが標的部位に結合し、該結合部位に呼び込まれたCasタンパク質によってDNAを切断することができる。
【0037】
TALENタンパク質を用いるTALENシステムは、DNA切断ドメイン(例えばFokIドメイン)に加えて転写活性化因子様(TAL)エフェクターのDNA結合ドメインを含む人工ヌクレアーゼ(TALEN)を使用する。該システムを細胞内に導入することにより、TALENがDNA結合ドメインを介して標的部位に結合し、そこでDNAを切断する。標的部位に結合するDNA結合ドメインは、公知のスキーム(例えばZhang F et al. (2011) Nature Biotechnology 29 (2);この論文は、本明細書に参考として援用される)に従って設計することができる。
【0038】
ZFNタンパク質を用いるZFNシステムは、ジンクフィンガーアレイを含むDNA結合ドメインにコンジュゲートした核酸切断ドメインを含む人工ヌクレアーゼ(ZFN)を使用する。該システムを細胞内に導入することにより、ZFNがDNA結合ドメインを介して標的部位に結合し、そこでDNAを切断する。標的部位に結合するDNA結合ドメインは、公知のスキームに従って設計することができる。
【0039】
標的特異的ヌクレアーゼの中でも、切断部位をより自由に決定できるという観点から、Casタンパク質が好ましい。Casタンパク質としては好ましくはCas9タンパク質が挙げられる。
【0040】
標的特異的ヌクレアーゼ発現カセットは、本発明の製造方法の対象物の細胞内で標的特異的ヌクレアーゼを発現可能なDNAである限り特に制限されない。標的特異的ヌクレアーゼ発現カセットの典型例としては、プロモーター、及びそのプロモーターの制御下に配置された標的特異的ヌクレアーゼコード配列を含むDNAが挙げられる。また、標的特異的ヌクレアーゼ発現カセットは、これのみで、或いは他の配列(例えば薬剤耐性遺伝子、複製起点等)と共にベクターを構成していてもよい。ベクターの種類は、特に制限されない。
【0041】
標的特異的ヌクレアーゼがCasタンパク質である場合、本発明の製造方法における導入物は、さらに、ガイドRNA発現カセット及びガイドRNAからなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0042】
ガイドRNAは、CRISPR/Casシステムにおいて用いられるものであれば特に制限されず、例えばゲノムDNAの標的部位に結合し、且つCasタンパク質と結合することにより、Casタンパク質をゲノムDNAの標的部位に誘導可能なものを各種使用することができる。
【0043】
なお、ガイドRNAの標的部位への結合には、crRNA配列の内、標的配列に結合する配列の3’ 側の12塩基が重要であるといわれている。このため、crRNA配列の内、標的配列に結合する配列が、標的鎖と完全同一ではない場合、標的鎖と異なる塩基は、crRNA配列の内、標的配列に結合する配列の3’ 側の12塩基以外に存在することが好ましい。
【0044】
また、本発明の製造方法における導入物は、ドナーDNAを含むことができる。ドナーDNAの使用により、目的の変異をより正確に導入することができる。
【0045】
導入物の細胞への導入方法は、特に制限されず、公知の方法、例えばマイクロインジェクション法、レンチウイルス法、レトロウィルス法等を採用することができる。
【0046】
変異が導入された細胞を、必要に応じて胚へと発生させ、仮親に移植して、産仔を得ることを含む方法により、不妊モデル動物を得ることができる。
【0047】
上記本発明の製造方法の過程で得られた受精卵は、本発明のモデル動物に発生し得る受精卵であり、このような受精卵も本発明の一態様である。受精卵としては、凍結保存状態から生体に発生させることができる限り特に限定されず、受精直後の卵、前核期胚、初期胚、又は胚盤胞等が挙げられる。
【0048】
上記説明以外の事項については、「2.モデル動物、細胞」における説明と同様である。
【0049】
4.モデル動物の用途
本発明のモデル動物及び本発明の細胞は、雄不妊症の病態解析、予防法開発、治療法開発等に利用することができる。
【0050】
本発明は、その一態様において、本発明のモデル動物及び/又は本発明の細胞を用いた、不妊治療薬のスクリーニング方法に関する。
【0051】
スクリーニング方法は、本発明のモデル動物及び/又は本発明の細胞を用いている限り特に限定されないが、例えば、(a1)本発明のモデル動物に被検物質を投与する工程、及び/又は(a2)本発明の細胞に被検物質を接触させる工程を含む。
【0052】
被検物質の種類は治療薬の候補になり得る限り特に限定されない。例えば、タンパク質(例えばホルモン等)、ペプチド、非ペプチド性化合物(ヌクレオチド、アミン、糖質、脂質等)、有機低分子化合物、無機低分子化合物、醗酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液等が挙げられる。
【0053】
投与は、公知の方法に従って行うことができる。例えば経口投与、経管栄養、注腸投与等の経腸投与; 経静脈投与、経動脈投与、筋肉内投与、心臓内投与、皮下投与、皮内投与、腹腔内投与等の非経口投与等が挙げられる。
【0054】
接触は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、培養培地への添加等が挙げられる。
【0055】
スクリーニング方法は、さらに、(b)前記工程a1及び/又は前記工程a2の後に表現型を評価する工程、を含むことが好ましい。
【0056】
表現型の評価は、雌動物との交配、精巣重量の測定、精巣組織の観察、精子の観察、体外受精、mRNA及び/又はタンパク質の発現解析等により、不妊症の表現型の少なくとも1種を評価することにより、行うことができる。不妊症の表現型が被検物質の投与及び/又は接触により改善した場合、被検物質を不妊症治療薬又はその候補物質として選択することができる。
【実施例
【0057】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0058】
材料と方法
以下の試験例は、特に断りの無い限り、以下の方法に従って行った。
【0059】
(1)免疫組織化学
組織を灌流し、さらにBouin固定法で24時間から48時間固定した。固定後、組織をパラフィンワックスに包埋した。パラフィン包埋組織を6ミクロンの厚さにスライスし、ポリリジンでコーティングしたスライドに取り付け、40℃で一晩乾燥させた。スライスした組織をキシレンで脱パラフィンし、エタノールとPBSに浸した。実施例では、組織抗原シグナルはベクスタチンエリートABCキットで検出した。具体的には、ブロッキングのために、組織を通常のヤギ血清を含むPBSで20分間インキュベートし、1:100希釈の抗Rimklb(ab15783、Abcam、抗RIMKB抗体N末端)で一晩反応させた。内因性ペルオキシダーゼは、3%過酸化水素によって15分間不活性化される。使用した二次抗体はビオチニル標識抗ウサギ抗体で20分間使用し、シグナル検出はアビジン標識ペルオキシダーゼとDABとベクスタチンエリートABCキットを用いて行った。
【0060】
(2)sg RNAデザインとCas9 RNA転写
Rimklb遺伝子に特異的に認識されるsgRNAは、ジャックリンのCRISPR / Cas9 gRNAファインダー(http://spot.colorado.edu/~slin/cas9.html)によって設計した。T7プロモーターを含むRimklb二本鎖DNAは、Rimklb sgRNAテンプレートとして使用して、gBlocks(IDT-MBL KK)として設計及び購入した。
【0061】
(3)マウスと胚の操作
Rimklb変異マウスは、マウス胚の細胞質マイクロインジェクションによるCRISPR / Cas9システムを使用して作製した。ガイドRNA(gRNA)は、Rimklb遺伝子のエクソン2を削除するように設計されており、二本鎖DNA(gBlocks Gene Fragments、Integrated DNA Technologies)(T7プロモーター、gRNAターゲットシーケンス(AGAGATCTTACGAGCGTTGA(配列番号4))、及びgRNA足場シーケンスを含む)をテンプレートとして、MEGAショートスクリプトT7転写キット(Life Technologies)を使用し、続いてRNA精製用のMEGAクリアキット(Life Technologies)を使用して、合成した。胚の操作とマイクロインジェクションは、既報に従って行った。具体的には、過剰排卵したC57BL / 6Jメス(8-12週齢、日本SLC)からMII卵母細胞を採取し、体外受精させ、使用するまでKSOM培地で培養した。受精した1細胞胚の細胞質に、組換えCas9タンパク質(50 ng /μl、日本遺伝子)と2つのgRNA(25 ng /μl)の混合物をマイクロインジェクションした。マイクロインジェクション後、胚を2細胞期までKSOM培地で培養し、膣栓の日(0.5日目)に偽妊娠ICR雌(CLEA日本)の卵管に移した。子孫(F0 founders)のゲノムDNAを尾のサンプルから抽出し、遺伝子型決定に使用した。潜在的な変異対立遺伝子を内包するF0 foundersは野生型C57BL / 6Jマウスと交配され、F1世代の変異はGuide-it変異検出キットによって分析された。突然変異体の雌F2を野生のBL / 6雄マウスと交配し、突然変異体のF3マウスを互いに交配させることにより、同腹子DNAをTAクローニングによってクローン化し、シーケンスした。実施例では、3つの塩基が削除された1つのマウス系統を選択して使用した。
【0062】
(4)ジェノタイピング
マウスの尾を、Proteinase K(Sigma)を含む溶解バッファーを使用して55℃で一晩溶解し、溶解液をPCRのテンプレートとして直接使用した。Rimklb変異マウスのジェノタイピングは、ExTaqポリメラーゼ(Takara Bio)と特定のプライマー(RimklbCheckF:5'-CCTCATCCTCCTGTGCCTAA-3'(配列番号5)およびRimklbCheckR:5- GCACTCAGCTCTCCAGCTCT-3'(配列番号6))を使用して行った。PCR産物は、配列決定され、制限酵素Mwo I感度によって変異対立遺伝子として定義された。
【0063】
(5)生殖能検査と体外受精(IVF)
妊娠まで2か月間、2匹のBL6雌マウスと各雄を同じケージに入れた。交尾は毎朝膣栓でチェックした。IVFは既報に従って行った。具体的には次の通りである。過剰排卵した雌BL6マウスから卵を採取し、ヒアルロニダーゼ(1mg / mL)で5分間処理した。精子を3ヶ月齢の雄マウスの精巣上体から収集し、YTH培地で2時間インキュベートし、受精能力のある精子を最終濃度2 x 105精子/ mLで卵とインキュベートした。24時間のインキュベーション後、2つの細胞が観察され、これを顕微鏡下でカウントした。
【0064】
試験例1.臓器及び組織におけるRimklbの発現
様々な臓器におけるRimklbの発現をウエスタンブロッティングにより分析した。図1Aに示すように、Rimklbは心臓と精巣で強力に発現され、脳と肝臓でわずかに発現していた。さらに、さまざまな生殖器官でのRimklbの発現パターンをウエスタンブロッティングで分析した。Rimklbは精巣でのみ発現し、卵巣、子宮、精巣上体、頭、体、尾、前立腺、精嚢などの器官では発現していなかった(図1B)。また、図2に示されるように、Rimklbは精巣のLydig細胞で限定的に発現しており、他の細胞では発現していなかった。
【0065】
試験例2.Rimklb変異マウスの作製
生体内でRimklbの生物学的機能を調べるために、Rimklb遺伝子変異マウスを作製した。Rimklb変異マウスを作製するために、マウス胚の細胞質マイクロインジェクションによるCRISPR / Cas9システムを使用した。その結果、2匹のオスと1匹のメスのマウスを含む3系統のホモ接合変異マウス(F4)が得られた。2匹のオスのマウスは野生のメスのマウスと交配したときに不妊を示したが、メスの突然変異マウスは妊娠して子孫を産むことができた。配列解析の結果、変異マウスにおいては、RimklbのN末端から29~30番目のアミノ酸配列(AL(3文字表記))のコード配列(GCGTTG)中の3塩基(CGT)が欠失しており、これにより29番目のアミノ酸(A)が欠失し、且つ30番目のアミノ酸(L)がVに変異していた。なお、Rimklbタンパク質の発現量をウェスタンブロッティングにより解析したところ、変異マウスと野生型マウスの間で発現量に変化は無かった。
【0066】
試験例3.Rimklb変異マウスの表現型解析1
変異雄マウス(試験例2)の表現型を解析した。
【0067】
まず、変異雄マウスの生殖能力をテストした。具体的には、変異雄マウスを、野生のC57BL / 6雌と2~3か月間交配した。図3に示すように、変異雄マウスとの交配後の雌マウスはプラグを示したが、妊娠せず、仔はなかった。野生のC57BL / 6オスマウスと交配した後の同腹仔/プラグの割合は60%であった。これらの結果は、変異雄マウスが交尾することができたが、完全に不妊であることを示す。
【0068】
さらに、変異雄マウスの精巣の重量は、13週または20週齢の野生のC57BL / 6マウスと比較して大幅に減少していた(図4)。組織学的分析により、8週齢の変異雄マウスの精巣に精細管の大きな液胞が明らかになり、20週間で顕著になった(図5)。この結果は、変異雄マウスの精巣で不完全に精子形成が進んでいることを示唆している。次に、ライディッヒ細胞の過形成が、変異雄マウスの精巣で観察され、これは野生型の精巣に匹敵した(図5)。
【0069】
変異雄マウスの精子を顕微鏡で観察したところ、頭部の形状が変形していることが分かった(図6)。
【0070】
精子の受精能を調べるために、体外受精(IVF)を実施した。さらなる分析により、変異雄マウスの精子は無傷の卵母細胞に対して受精能が全くないことが明らかになった(図7)。
【0071】
試験例4.Rimklb変異マウスの表現型解析2
変異雄マウス(試験例2)の表現型を解析した。
【0072】
Rimklbは、原核生物のリボソームタンパク質S6を改変したrimKファミリーのメンバーである。興味深いことに、哺乳類のS6タンパク質は、精子形成におけるmTOR経路の下流であり、精子形成におけるBTBを調節している。Rimklb、mTORおよびS6の関係を調べるために、野生型雄マウス及び変異雄マウスについて、精巣におけるmTOR、p-mTOR、S6およびP-S6の発現およびリン酸化に対するRimklb変異の効果を分析した。P-S6が変異雄マウスの精巣で劇的に増加していたが、mTOR、p-mTORおよびS6は、有意な変化は無かった(図8)。S6はmTORの標的タンパク質として知られており、精子形成におけるp70s6kを介したリン酸化によって活性化される。精子形成の各段階でのタンパク質発現にはいくつかのタイプがあり、変異体RimklbマウスではIZUMOが減少していることが分かった(図8)。
【0073】
試験例5.Rimklb完全欠損マウスの作製及び表現型解析
Rimklb遺伝子のエクソン1においてストップコドンが挿入されてなる完全欠損マウスを作製した。具体的には以下のようにして作製した。
【0074】
RimklbゲノムDNA配列(配列番号7)を元にgRNAとしてcrRNAを作製した。crRNA配列は次の通りである。:TCTTGACAGATCGTCGCATC(配列番号8)(Alt-R(登録商標) CRISPR-Cas9 crRNA, 10 nmol)また、Rimklbのエクソン1部分にストップコドンを導入するために、2箇所のストップコドン導入とSph I切断サイトに改変した二本鎖DNAを設計し、合成した。これらのgRNA、改変二本鎖DNA、Cas9タンパク質を受精卵に導入し、偽妊娠マウスへ卵移植することで、Rimklb完全欠損マウスを作製した。Rimklb完全欠損マウスにおいて予想される配列を以下に示す。
CCTCATCCTCCTGTGCCTAAgtcatcaggtcagctggagattccctctcctctgcgttcagttaacatagaactttatctgtgaagtcaaatctcatcaagctcatgtgtatttcctttcccatccagataaaagtttacatcaactaatccagaaaaggaagaacaagcagaccgagATGTGTAGCTCAGTGACTGGTAAGCTGTGGTTCTTGACAGATCGTCGCATGCTGACCTGAATCAGGGAAGACTACCCACAGAAAGAGATCTTACGAGCGTTGAAGGCCaaatgttgtgaagaggaattggactttcgggctgtggtgatggatgagatggtgctgacggtcgagcaaggaaatctgggtaagactctacaactgaggaccagtcttaccataaggactgcctcacagagcagctctgttatagaagattagagctctcagagttctaatcgtatcatgtgtgaaAGAGCTGGAGAGCTGAGTGC(配列番号9)。
【0075】
生まれてきたRimklb完全欠損マウスのgenotypingは下記のTyping primerを用いた。下線のSph I切断サイトが導入されているために、Rimklb完全欠損マウスの遺伝子改変が確認出来る。
【0076】
Typing primerは以下の通りである:
RimklbCheckF: CCTCATCCTCCTGTGCCTAA(配列番号10)
RimklbCheckR: GCACTCAGCTCTCCAGCTCT(配列番号11)。
【0077】
また、Rimklb完全欠損マウスのゲノムDNAをPCRしたものをシークエンスし、上記のDNA配列に改変されたことを確認した。
【0078】
Rimklb完全欠損マウスについて、試験例3と同様にして生殖能力をテストしたところ、完全に不妊であることが分かった(図9)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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