(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】水性害虫防除剤を充填してなるトリガー付きスプレー製品
(51)【国際特許分類】
A01N 65/12 20090101AFI20240703BHJP
A01N 53/10 20060101ALI20240703BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20240703BHJP
A01N 25/06 20060101ALI20240703BHJP
A01N 65/28 20090101ALI20240703BHJP
【FI】
A01N65/12
A01N53/10 210
A01P7/04
A01N25/06
A01N65/28
(21)【出願番号】P 2023171309
(22)【出願日】2023-10-02
(62)【分割の表示】P 2019092405の分割
【原出願日】2019-05-15
【審査請求日】2023-10-31
(31)【優先権主張番号】P 2019080960
(32)【優先日】2019-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390000527
【氏名又は名称】住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石川 和美
(72)【発明者】
【氏名】小林 教代
(72)【発明者】
【氏名】黒田 明
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-117917(JP,A)
【文献】特表平11-501296(JP,A)
【文献】特開2003-221303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 65/12
A01N 53/10
A01P 7/04
A01N 25/06
A01N 65/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジョチュウギクエキス、アルコール類、モノオレイン酸ポリグリセリル、水ならびにオレイン酸ソルビタン、ステアリン酸ソルビタンおよびパルミチン酸ソルビタンからなる群より選ばれる一種以上の化合物を含有する水性害虫防除剤を充填してなるトリガー付きスプレー製品であって、
前記水性害虫防除剤に含まれるジョチュウギクエキスの含有量は、前記水性害虫防除剤全体量に対し0.01~3重量%であり、
アルコール類の含有量は、前記水性害虫防除剤全体量に対し0.1~10重量%であり、
モノオレイン酸ポリグリセリルの含有量は、前記水性害虫防除剤全体量に対し0.5~10重量%であることを特徴とするトリガー付きスプレー製品。
【請求項2】
アルコール類がグリセリン、1,3-ブチレングリコールおよびプロピレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載のトリガー付きスプレー製品。
【請求項3】
水性害虫防除剤がさらにユーカリオイル、フェノキシエタノールおよびメチルパラベンからなる群より選択される少なくとも1種の防腐剤を含有する請求項1または2に記載のトリガー付きスプレー製品。
【請求項4】
水性害虫防除剤がさらに植物精油を含有する請求項1~3のいずれか1項に記載のトリガー付きスプレー製品。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のトリガー付きスプレー製品から噴霧される噴霧粒子のノズル先端から30cmの位置を通過する平均粒子径が100~250μmの範囲であることを特徴とするトリガー付きスプレー製品。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のトリガー付きスプレー製品を用いて、台所、リビングルームまたは玄関に害虫が侵入してきた場合に直接害虫に噴霧することを特徴とする害虫防除方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載のトリガー付きスプレー製品を用いて、カーテン、網戸または床下に潜む害虫もしくは害虫の通り道にあらかじめ噴霧して害虫を防除することを特徴とする害虫防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性害虫防除剤に関する。
【背景技術】
【0002】
害虫防除剤の害虫防除成分として合成ピレスロイド系化合物が使用されることが多いが、消費者の天然志向の高まりから、天然成分であるジョチュウギクエキスを殺虫成分とする害虫防除剤が望まれており、かかる害虫防除剤の開発が行われている(特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-298601号公報
【文献】特開2005-281141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2の発明に開示のとおり、ジョチュウギクエキスをアルコールに溶解させた場合、得られた溶液の保存安定性が低いという問題があった。
【0005】
本発明は、良好な保存安定性を有し、さらには水性であるため安全性が高いジョチュウギクエキスを殺虫成分とする害虫防除剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、かかる課題を解決すべく鋭意検討した結果本発明に至った。すなわち本発明は、
〔1〕ジョチュウギクエキス、アルコール類、グリセリン脂肪酸エステルおよび水を含有する水性害虫防除剤であって、前記グリセリン脂肪酸エステルの該脂肪酸がオレイン酸である水性害虫防除剤。
〔2〕グリセリン脂肪酸エステルがオレイン酸ポリグリセリルである上記の水性害虫防除剤。
〔3〕グリセリン脂肪酸エステルが、水性害虫防除剤全体量に対し0.1~10重量%である上記の水性害虫防除剤。
〔4〕さらにオレイン酸ソルビタン、ステアリン酸ソルビタンおよびパルミチン酸ソルビタンからなる群より選ばれる一種以上の化合物を含有する上記の水性害虫防除剤。
〔5〕上記水性害虫防除剤を、手動式ポンプを備えたスプレー容器に充填してなるスプレー製品。
を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、長期間保管が可能で、さらには水性であるため安全性が高い害虫防除剤を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の水性害虫防除剤に使用されるジョチュウギクエキスは、天然に存在する除虫菊から抽出物である。該ジョチュウギクエキスは、通常、ピレトリンI、ピレトリンII、シネリンI、シネリンII、ジャスモリンIおよびジャスモリンIIの有効成分6種類を含有する。これら6種類の成分を合わせて総ピレトリンといわれており、本発明に使用されるジョチュウギクエキスは総ピレトリン量が10~90%である。
前記ジョチュウギクエキスの含有量は、前記水性害虫防除剤の総重量に対し0.01~3重量%の範囲である。
【0009】
本発明の水性害虫防除剤に使用されるアルコール類は、エタノール、イソプロピルアルコールなどの1価アルコール、ソルビトール、プロピレングリコール、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコールなどの多価アルコールが挙げられる。前記アルコール類は単独、または2種以上使用することができる。これらのうち、人体への皮膚刺激面を考慮するとグリセリンまたは1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコールが好ましい。
前記アルコール類の含有量は、前記害虫防除剤の総重量に対し0.1~10重量%の範囲である。
【0010】
本発明の水性害虫防除剤に使用されるグリセリン脂肪酸エステルは、その成分がオレイン酸のグリセリン脂肪酸エステルが使用される。前記グリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、オレイン酸ポリグリセリルが挙げられる。市販されるオレイン酸ポリグリセリルとしては、例えば、NIKKOL製のDECAGLYN-1-OV、竹本油脂(株)製01075TXが挙げられる。
【0011】
本発明の水性害虫防除剤には、さらにオレイン酸ソルビタン、ステアリン酸ソルビタンおよびパルミチン酸ソルビタンからなる群より選択される一種以上の化合物を含有することにより、さらに水性害虫防除剤の保存安定性が良好となる。これら化合物は市販品を使用することができ、例えばオレイン酸ソルビタンとしては竹本油脂(株)製ニューカルゲンD-935、ステアリン酸ソルビタンとしては花王化学(株)製レオドールSP-S10V、パルミチン酸ソルビタンとしては花王化学(株)製レオドールSP-P10が挙げられる。
【0012】
本発明の水性害虫防除剤に使用される水の含有量は、水性害虫防除剤が引火性液体とならないように配合すればよい。
【0013】
本発明の水性害虫防除剤には、さらに他の成分を含有させてもよく、そのような他の成分としては、防腐剤、殺菌剤、防黴剤、消臭剤、pH調整剤、キレート剤及び香料などが挙げられる。前記防腐剤としては、例えば、ユーカリオイル、フェノキシエタノール、メチルパラベンなどのパラベン類が挙げられる。前記香料としては、合成香料、植物製油が挙げられるが特に植物精油が望ましい。植物精油は具体的には、ヒノキオイル、ヒバオイル、シダーウッドオイル、アニスオイル、ビャクダンオイル、クローブオイル、ピメンタオイル、パインオイル、パインニードルオイル、マヌカオイル、パチョリオイル、スターアニスオイル、ヒソップオイル、パルマローザオイル、レモングラスオイル、タイムオイル、ディルオイル、セロリーオイル、ペパーミントオイル、レモンユーカリオイル、シトロネラオイル、レモンセントティーツリーオイル、ラベンダーオイル、ゼラニウムオイル、ローズマリーオイル、ティーツリーオイル、ベルガモットオイル、オレンジオイル、マージョラムオイル、ジュニパーベリーオイル、イランイランオイル、クラリセージオイル、ローズオイルなどが挙げられる。これらは単独、または2種以上使用することができる。
【0014】
本発明の水性害虫防除剤は、例えば、手動式ポンプを備えたスプレー容器に充填し、非エアゾールのスプレー製品として使用される。手動式ポンプを備えたスプレー容器としては、公知のものを用いることができ、例えば特開2013-234153のようなスプレー容器を用いることができる。
【0015】
前記スプレー製品は、例えば、台所やリビングルーム、玄関などの居室空間に害虫が侵入してきた場合に直接害虫に噴霧して使用することができる。また、カーテンや網戸、床下等の害虫の潜み場所や害虫の通り道にあらかじめ噴霧し害虫を防除することもできる。
【0016】
前記スプレー製品のノズルから噴霧される噴霧粒子の平均粒子径は、80~350μm、好ましくは100~250μmの範囲である。ここでいう平均粒子径とは、スプレー製品を1プッシュした際のノズル先端から30cmの位置を通過する噴霧粒子の体積累積50%粒子径のことで、日機装(株)社製のレーザー回折式粒子径測定装置 AEROTRAC SPR MODEL-7340により測定することができる。
【0017】
前記スプレー製品の1プッシュあたりの噴霧量は、使用場面により適宜設計されるが、0.1~10mLが好ましく、より好ましくは0.3~1.5mLである。噴射口径、ノズルなどの形状については、前記噴霧粒子径および前記噴霧量となるように適宜設計すればよい。
【0018】
本発明の水性害虫防除剤が防除対象とする害虫としては以下の害虫が挙げられる。
半翅目害虫:アオクサカメムシ、ホソヘリカメムシ、オオトゲシラホシカメムシ、トゲシラホシカメムシ、チャバネアオカメムシ、クサギカメムシ等のカメムシ類、トコジラミ等のトコジラミ類、キジラミ類等;
鱗翅目害虫:メイガ類、イガ、コイガ等のヒロズコガ類等;
双翅目害虫:アカイエカ、コガタアカイエカ、ネッタイイエカ等のイエカ類、ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ等のエーデス属、ユスリカ類、イエバエ、オオイエバエ等のイエバエ類、ショウジョウバエ類、オオキモンノミバエ等のノミバエ類、オオチョウバエ等のチョウバエ類、ブユ類、アブ類、サシバエ類、ハモグリバエ類等;
鞘翅目害虫:イネミズゾウムシ、アズキゾウムシ等のゾウムシ類、コクヌストモドキ等のゴミムシダマシ類、カツオブシムシ類、シバンムシ類等;
ゴキブリ目害虫:チャバネゴキブリ、クロゴキブリ、ワモンゴキブリ、トビイロゴキブリ、トウヨウゴキブリ等;
膜翅目害虫:イエヒメアリ、クロヤマアリ、ルリアリ、アミメアリ、オオズアリ、アルゼンチンアリ、ヒアリ等のアリ類、フタモンアシナガバチ、セグロアシナガバチ、キアシナガバチ等のアシナガバチ類、オオスズメバチ、キイロスズメバチ、コガタスズメバチ、モンスズメバチ、ヒメスズメバチ等のスズメバチ類、アリガタバチ類、クマバチ、ベッコウバチ、ジガバチ、ドロバチ等;
直翅目害虫:ケラ類、バッタ類等;
隠翅目害虫:ネコノミ、イヌノミ、ヒトノミ等
シラミ目害虫:コロモジラミ、ケジラミ、ウシジラミ、ヒツジジラミ等;
シロアリ目害虫:ヤマトシロアリ、イエシロアリ等のサブテラニアンターマイト類、アメリカカンザイシロアリ等のドライウッドターマイト類、およびネバダダンプウッドターマイト等のダンプウッドターマイト類等;
ダニ目害虫:フタトゲチマダニ、キチマダニ、ヤマトマダニ、シュルツマダニ等のマダニ類、ケナガコナダニ等のコナダニ類、コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ等のヒョウヒダニ類、ホソツメダニ、クワガタツメダニ等のツメダニ類、イエダニ、トリサシダニ、ワクモ等のワクモ類、アオツツガムシ等のツツガムシ類等;
クモ類:カバキコマチグモ、セアカゴケグモ、ジョロウグモ、ゴミグモ、コガネグモ、ナガコガネグモ、オニグモ、クサグモ、ウヅキコモリグモ、イオウイロハシリグモ、ネコハエトリ、オオヒメグモ、シモフリイオグモ、ハエトリグモ、アシダカグモ等;
唇脚綱類:ゲジ、トビスムカデ、アオズムカデ、セスジアカムカデ等のムカデ類等;
倍脚綱類:ヤケヤスデ、アカヤスデ、オビババヤスデ等のヤスデ類等;
等脚目類:ホソワラジムシ、ワラジムシ等のワラジムシ類、オカダンゴムシ等のダンゴムシ類、フナムシ等のフナムシ類等;
【実施例】
【0019】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0020】
表1に示す各成分をそれぞれの配合率に基づいて混合し水性害虫防除剤100gを得た。なお表1に示す数値は重量%である。
【0021】
【0022】
〔保存安定性試験〕
表1の各水性害虫防除剤20ccを透明のスクリュー管(容量30cc)に入れ、該スクリュー管を-20℃の恒温機で2日間静置した後、スクリュー管を取出して20℃の室内に1時間静置、さらにその後40℃の恒温機で2日間静置した後、取出して20℃の室内に1時間静置した。これら操作を1サイクルとし、水性害虫防除剤の状態に変化がみられるまで繰り返し試験した。結果を表2および表3に示す。
【0023】
【0024】
【0025】
〔スプレー製品の作成〕
〔製剤例1〕
実施例4の水性害虫防除剤を市販のトリガースプレー用容器に充填しトリガー(キャニヨン製、型式T-95)を取り付け、製剤例1のスプレー製品を作成した。
【0026】
〔製剤例2〕
実施例5の水性害虫防除剤をトリガースプレー用容器に充填しトリガー(キャニヨン製、型式T-95)を取り付け、製剤例2のスプレー製品を作成した。
【0027】
〔製剤例3〕
実施例2の水性害虫防除剤をトリガースプレー用容器に充填しトリガー(三谷バルブ製、型式T-650)を取り付け、製剤例3のスプレー製品を作成した。
【0028】
〔製剤例4〕
実施例4の水性害虫防除剤をトリガースプレー用容器に充填しトリガー(キャニヨン製、型式T-014)を取り付け、製剤例4のスプレー製品を作成した。
【0029】
〔製剤例5〕
実施例4の水性害虫防除剤をトリガースプレー用容器に充填しトリガー(三谷バルブ製、型式MIT-05SS)を取り付け、製剤例5のスプレー製品を作成した。
【0030】
〔噴射量と噴霧粒子平均粒子径の測定〕
製剤例1~4のスプレー製品を1プッシュあたりの噴霧量を測定した。また、スプレー製品を1プッシュした際のノズル先端から30cmの位置を通過する噴霧粒子平均粒子径をレーザー回折式粒子径測定装置(日機装:AEROTRAC SPR MODEL-7240)を用いて測定した。表4に結果を示す。
【0031】
【産業上の利用可能性】
【0032】
ジョチュウギクエキスを害虫防除成分とする保存安定性に優れる水性害虫防除剤を提供することができる。