(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】回転式加工装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 1/32 20060101AFI20240703BHJP
B24B 41/04 20060101ALI20240703BHJP
B24B 9/00 20060101ALI20240703BHJP
B23C 3/12 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
B23Q1/32
B24B41/04
B24B9/00 Z
B23C3/12 B
(21)【出願番号】P 2024013681
(22)【出願日】2024-01-31
【審査請求日】2024-02-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594123387
【氏名又は名称】ヤマハファインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】石井 徹
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-180541(JP,A)
【文献】特開2023-171168(JP,A)
【文献】特開2023-112576(JP,A)
【文献】特開平06-143020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 1/32
B24B 41/04
B24B 9/00
B23C 3/12
B23D 79/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工工具と、
前記加工工具を第1回転軸の回りに回転可能に保持する保持具と、
前記保持具に取り付けられて前記保持具を角変位運動可能に保持する球面軸受と、
前記球面軸受を保持する基台と、
前記保持具の角変位運動を制御する制御機構と
を備え、
前記球面軸受は、前記保持具に取り付けられる内輪と、前記基台に取り付けられる外輪とを有しており、
前記内輪と前記外輪との回転中心同士は一致するように保持されており、
前記制御機構は、前記保持具に取り付けられる第1制御部材と、前記基台に取り付けられる第2制御部材とを有しており、
前記第1制御部材は、
前記内輪と前記外輪との中心軸同士が一致している基準状態において前記球面軸受の中心軸と直交し、かつ前記内輪の回転中心を通る軸上に第2回転軸を有し、
前記第2制御部材は、
前記第2回転軸の軸線上に前記内輪の回転中心を位置させつつ、前記第1制御部材における前記第2回転軸が通る部分を前記
球面軸受の中心軸の延びる方向
に移動可能に保持する
回転式加工装置。
【請求項2】
前記第1制御部材は、前記中心軸の延びる方向において前記球面軸受と間隔を空けて前記保持具に取り付けられる第1端部と、前記第2回転軸が
通る第2端部とを有するアーム部材である請求項1に記載の回転式加工装置。
【請求項3】
前記第2制御部材は、前記基台に対して回転可能に取り付けられる揺動軸部と、前記第2回転軸に対して回転可能に取り付けられる揺動端部とを有する揺動部材である請求項1に記載の回転式加工装置。
【請求項4】
前記揺動軸部と前記揺動端部とは、前記中心軸の延びる方向において同位置に配置されている請求項3に記載の回転式加工装置。
【請求項5】
前記揺動軸部は、前記揺動端部に対して、前記加工工具の回転方向下流側で前記基台に取り付けられている請求項3または請求項4に記載の回転式加工装置。
【請求項6】
前記中心軸の周囲において前記保持具と前記基台との間に配置される1または複数のばね部材、ならびに1または複数のスペーサ部材を有する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の回転式加工装置。
【請求項7】
前記加工工具は、バリ取り工具である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の回転式加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転式加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットや移動機構等に装着して使用される回転式加工装置が知られている。この回転式加工装置は、回転軸の回りに回転する加工工具を有している。この加工工具は、回転によってワークのバリ等を除去するために用いられる。
【0003】
加工工具は、使用中に大きなバリ等の突起物に接触した際に、適度な逃げ動作を行うことができることが求められる。加工工具を任意の方向に逃がすことができるように、加工工具を回転軸と直交する2方向に角変位運動できるようにする技術が用いられている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、バリ取り工具に切削工具が回転可能に取り付けられたバリ取り装置が記載されている。このバリ取り装置は、切削工具の回転軸に対して直交する第1の軸の回りに回転可能に取り付けられた保持部材を備えており、この保持部材が切削工具の回転軸および第1の軸の両方と直交する第2の軸の回りにバリ取り工具を回転可能に保持することで、切削工具を直交する2方向に角変位運動できるように構成されている。
【0006】
特許文献1に記載されているように、従来の回転式加工装置では、第1の軸の回りに回転する部材(保持部材)と、第2の軸の回りに回転する部材(バリ取り工具)とを組み合わせることで、加工工具の2方向への角変位運動を実現している。
【0007】
しかしながら、このような構成によると、加工工具を角変位運動させるための機構が複雑になる。また、その結果、装置全体の費用が嵩みやすくなる。
【0008】
本開示の一態様は、簡易かつ安価な構成で、加工工具を回転軸と直交する2方向に角変位運動させることができる回転式加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本開示の一態様に係る回転式加工装置は、加工工具と、前記加工工具を第1回転軸の回りに回転可能に保持する保持具と、前記保持具に取り付けられて前記保持具を角変位運動可能に保持する球面軸受と、前記球面軸受を保持する基台と、前記保持具の角変位運動を制御する制御機構とを備え、前記球面軸受は、前記保持具に取り付けられる内輪と、前記基台に取り付けられる外輪とを有しており、前記制御機構は、前記保持具に取り付けられる第1制御部材と、前記基台に取り付けられる第2制御部材とを有しており、前記第1制御部材は、前記球面軸受の中心軸と直交し、かつ前記内輪の回転中心を通る軸上に第2回転軸を有し、前記第2制御部材は、前記中心軸の延びる方向に前記第2回転軸を移動可能に保持する。
【0010】
(2)前記(1)において、前記第1制御部材は、前記中心軸の延びる方向において前記球面軸受と間隔を空けて前記保持具に取り付けられる第1端部と、前記第2回転軸が設けられている第2端部とを有するアーム部材であるとよい。
【0011】
(3)前記(1)または(2)において、前記第2制御部材は、前記基台に対して回転可能に取り付けられる揺動軸部と、前記第2回転軸に対して回転可能に取り付けられる揺動端部とを有する揺動部材であるとよい。
【0012】
(4)前記(3)において、前記揺動軸部と前記揺動端部とは、前記中心軸の延びる方向において同位置に配置されているとよい。
【0013】
(5)前記(3)または(4)において、前記揺動軸部は、前記揺動端部に対して、前記加工工具の回転方向下流側で前記基台に取り付けられているとよい。
【0014】
(6)前記(1)から(5)のいずれかにおいて、前記中心軸の周囲において前記保持具と前記基台との間に配置される1または複数のばね部材、ならびに1または複数のスペーサ部材を有するとよい。
【0015】
(7)前記(1)から(6)のいずれかにおいて、前記加工工具は、バリ取り工具であるとよい。
【0016】
なお、本開示において、特に限定を付している場合を除き、各部の位置関係は、球面軸受の内輪と外輪の中心軸同士が一致している状態(以下、「基準状態」ともいう。)における位置関係を意味している。また、「直交」とは、厳密な意味での直交(両者のなす角度が90°である場合)に限定されず、装置設計上の誤差等を許容する概念である。例えば「球面軸受の中心軸と直交」するとは、中心軸とのなす角度が90°±5°以内を含む意味であり、中心軸とのなす角度は90°±3°以内であってもよく、90°±1°以内であってもよい。すなわち、「球面軸受の中心軸と直交し、かつ内輪の回転中心を通る軸上に第2回転軸を有し」について、第2回転軸を基点として内輪の回転中心は、中心軸への垂線に対して±5°の範囲内で傾斜した位置にあってもよく、90°±3°の範囲内で傾斜した位置にあってもよく、90°±1°の範囲内で傾斜した位置にあってもよい。
【0017】
「中心軸の延びる方向に第2回転軸を移動可能」とは、中心軸に沿うように第2回転軸を移動可能であることを意味しており、例えば中心軸に対して平行に移動する態様の他、中心軸に沿って弧を描くように移動する態様を含む。
【0018】
「揺動軸部と揺動端部とは、中心軸の延びる方向において同位置に配置されている」とは、中心軸の延びる方向において、揺動軸部と揺動端部とが厳密に同位置に配置される構成(側面視(
図4に示す方向視)において揺動軸部と揺動端部とを結ぶ直線が中心軸と直交する構成)に限定されない。例えば側面視において揺動端部を基点として揺動軸部の取り付け位置は、中心軸に対して90°±5°の範囲内で傾斜した位置にあってもよく、90°±3°の範囲内で傾斜した位置にあってもよく、90°±1°の範囲内で傾斜した位置にあってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本開示の一態様に係る回転式加工装置は、簡易かつ安価な構成で、加工工具を回転軸と直交する2方向に角変位運動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る回転式加工装置を示す模式的斜視図である。
【
図5】
図5は、
図2の回転式加工装置のV-V線断面図である。
【
図6】
図6は、
図3の回転式加工装置のVI-VI線断面図である。
【
図7】
図7は、加工工具の第2回転軸回りの角変位運動を説明するための模式的側面図である。
【
図8】
図8は、加工工具の第3回転軸回りの角変位運動を説明するための模式的正面図である。
【
図9】
図9は、本開示の回転式加工装置に配置可能な自動求芯機構の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、適宜図面を参照しつつ、本開示の実施の形態を詳説する。なお、各図は模式的なものであって、実際の寸法や比率等とは一致しないことがある。本開示において、「第1」および「第2」の記載は、これらが付された構成要素を区別するためのもので、数、順序、優先順位等を限定するものではない。
【0022】
[第1実施形態]
<回転式加工装置>
図1から
図6に示す回転式加工装置1は、加工工具11と、加工工具11を第1回転軸Aの回りに回転可能に保持する保持具12と、保持具12に取り付けられて保持具12を角変位運動可能に保持する球面軸受13と、球面軸受13を保持する基台14と、保持具12の角変位運動を制御する制御機構15とを備える。
図5に示すように、球面軸受13は、保持具12に取り付けられる内輪13aと、基台14に取り付けられる外輪13bとを有する。制御機構15は、保持具12に取り付けられる第1制御部材16と、基台14に取り付けられる第2制御部材17とを有する。第1制御部材16は、球面軸受13の中心軸Bと直交し、かつ内輪13aの回転中心Cを通る軸上に第2回転軸Dを有する。第2制御部材17は、中心軸Bの延びる方向に第2回転軸Dを移動可能に保持する。
【0023】
当該回転式加工装置1は、球面軸受13の外輪13bに対する内輪13aの角変位運動を制御機構15によって制御することで、加工工具11を第1回転軸Aと直交する2方向に角変位運動させることができる(より詳しくは、加工工具11を保持具12と一体的に角変位運動させることができる。)。制御機構15は、第2回転軸D回り(
図1から
図6におけるX軸回り)と、中心軸Bおよび第2回転軸Dに直交する第3回転軸E回り(
図1から
図6におけるY軸回り)との2方向において外輪13bに対して内輪13aを角変位運動可能にする。また同時に、制御機構15は、外輪13bに対する内輪13aの中心軸B回りの回転運動を規制する。その結果、加工工具11は、外輪13bに対する内輪13aの角変位運動に応じて、第2回転軸D回りと第3回転軸E回りとの合成方向に角変位運動可能となる。当該回転式加工装置1は、保持具12に取り付けられている第1制御部材16が、第2回転軸Dを有しており、かつ基台14に取り付けられている第2制御部材17が、中心軸Bの延びる方向に第2回転軸Dを移動可能に保持することによって、簡易かつ安価な構成で加工工具11を第1回転軸Aと直交する2方向に角変位運動させることができる。
【0024】
当該回転式加工装置1は、球面軸受13を用いることで、装置全体の簡素化を図ることができる。その結果、従来の複雑なジンバル機構を用いた構成と比較して、剛性の向上、コスト削減、メンテナンス作業の効率化等を図ることができる。
【0025】
(加工工具)
加工工具11は、第1回転軸Aの回りに回転することで、ワーク(不図示)の表面を加工する。加工工具11は、保持具12内に回転可能に装着される基部と、前記基部に連続して設けられ、保持具12外に突出する加工部とを有する。前記加工部は、例えば棒状である。前記加工部の中心軸と第1回転軸Aとは一致していてもよい。また、第1回転軸Aは、球面軸受13の中心軸Bと一致していてもよい。
【0026】
加工工具11としては、例えばバリ取り工具、砥石等の研磨工具が挙げられる。中でも、加工工具11は、バリ取り工具として好適に用いることができる。加工工具11がバリ取り工具である場合、加工工具11は、前記加工部の先端部分の周面によってワークのバリを除去する。そのため、加工工具11には、使用中に大きなバリ等の突起物に接触した際に、適度な逃げ動作を行うことが求められる。当該回転式加工装置1は、前記突起物に対する逃げ動作を簡易かつ安価な構成で行うのに適している。
【0027】
(保持具)
保持具12は、加工工具11を第1回転軸Aの回りに回転可能に保持する。保持具12は、球面軸受13の角変位運動(外輪13bに対する内輪13aの角変位運動)に応じて角変位運動する。加工工具11は、保持具12の角変位運動に基づいて前記突起物に対する逃げ動作を行う。
【0028】
保持具12は、球面軸受13の内輪13a内を貫通している。保持具12は、例えば球面軸受13の中心軸Bを長手方向とする長尺状である。
図5に示すように、保持具12は、球面軸受13よりも上方(加工工具11が突出する方向の反対側。
図1から
図6におけるZ方向正側。)に配置される上部12aと、球面軸受13の内輪13aが取り付けられる接続部12bと、球面軸受13よりも下方(加工工具11が突出する側。
図1から
図6におけるZ方向負側。)に配置される下部12cとを有する。上部12aには、加工工具11を回転駆動するモータ(不図示)が内蔵されている。また、上部12aの周壁には、フランジ22が設けられている。フランジ22は環状である。フランジ22は、前記周壁の外側に突出してもよく、内側に突出してもよい。本実施形態においては、フランジ22は前記周壁の外側に突出している。下部12cには、加工工具11が回転可能に保持されている。
【0029】
(球面軸受)
図5に示すように、球面軸受13は、保持具12の長手方向における中央部分(接続部12b)に取り付けられる内輪13aと、内輪13aの外側に配置される外輪13bとを有する。当該回転式加工装置1において、内輪13aは、外輪13bに対して第2回転軸D回りと、第3回転軸E回りとの2方向に角変位運動する。さらに、当該回転式加工装置1において、内輪13aは、外輪13bに対する中心軸B回りの回転運動が規制されている。すなわち、当該回転式加工装置1は、外輪13bに対する内輪13aの運動方向を制御することで、加工工具11の逃げ動作を確保している。
【0030】
(基台)
基台14は、例えばロボットアームや移動機構(いずれも不図示)に装着して用いられる。基台14は、外輪13bに取り付けられることで、球面軸受13を介して保持具12を保持する。基台14は、保持具12の角変位運動時に、保持具12の角変位運動とは独立して移動することができる。このように構成されていることで、ロボットアームや移動機構によって基台14を移動させる動作と、保持具12の角変位運動とを独立かつ並行して行うことができる。
【0031】
基台14は、例えば板状である。基台14は、厚さ方向に貫通する貫通孔を有している。この貫通孔の内周面には、外輪13bが取り付けられている。
【0032】
図5および
図6に詳しく示しているように、当該回転式加工装置1は、中心軸Bの周囲において保持具12と基台14との間に配置される1または複数のばね部材19、ならびに1または複数のスペーサ部材20を有する。1または複数のばね部材19、ならびに1または複数のスペーサ部材20の一端は、保持具12のフランジ22に配置されている。また、1または複数のばね部材19、ならびに1または複数のスペーサ部材20の他端は、円環状の支持部材を介して基台14の天面(フランジ22と中心軸B方向において対向する面)に配置されている。スペーサ部材20としては、例えばゴム部材が挙げられる。
図6に示すように、ばね部材19とスペーサ部材20とは、中心軸Bの周囲に交互に配置されていてもよい。なお、「保持具と基台との間に配置される」とは、保持具と基台との間に介在することを意味しており、保持具と基台との対向面間で保持されていればよく、保持具と基台との間で固定されていてもよく、固定されていなくてもよい。当該回転式加工装置1においては、制御機構15によって外輪13bに対する内輪13aの中心軸B回りの回転運動が規制されているので、1または複数のばね部材19、ならびに1または複数のスペーサ部材20は、保持具12と基台14との間で固定されていないことが好ましい。また、「保持具のフランジに配置される」とは、保持具のフランジに面直するように保持されていることを意味し、「基台の天面に配置される」とは、基台の天面に面直するように保持されていることを意味する。
【0033】
1または複数のばね部材19と1または複数のスペーサ部材20とは、保持具12の角変位運動に起因して保持具12と基台14との間隔が不均一になることを抑制する。例えば保持具12が第2回転軸D回りに角変位運動した場合、平面視において第2回転軸DよりもY方向正側に位置する領域では保持具12と基台14との間隔が小さくなり、平面視において第2回転軸DよりもY方向負側に位置する領域では保持具12と基台14との間隔が大きくなり得る。このような場合であっても、1または複数のスペーサ部材20によって保持具12と基台14との間隔が部分的に小さくなり過ぎることを抑制しつつ、1または複数のばね部材19によって保持具12と基台14との間隔を均等に戻すことができる。したがって、ワークに対して加工工具11を適度な強度で押し付けるとともに、加工工具11の基準状態への復帰を適切に行うことができる。その結果、加工機能を高めつつ、装置の耐久性を向上することができる。
【0034】
(制御機構)
制御機構15は、外輪13bに対して内輪13aを第2回転軸D回りに角変位運動させる第1制御部材16と、外輪13bに対して内輪13aを第3回転軸E回りに角変位運動させる第2制御部材17とを有する。第1制御部材16と第2制御部材17とは、第2回転軸Dで連結されている。制御機構15は、第1制御部材16と第2制御部材17とが互いに連結されていることで、外輪13bに対する内輪13aの中心軸B回りの回転運動を容易に規制しつつ、外輪13bに対して内輪13aを第2回転軸D回りおよび第3回転軸E回りに容易に角変位運動させることができる。
【0035】
〔第1制御部材〕
第1制御部材16は、中心軸Bの延びる方向において球面軸受13と間隔を空けて保持具12に取り付けられる第1端部16aと、第2回転軸Dが設けられている第2端部16bとを有するアーム部材である。第1制御部材16は、第1端部16aと第2端部16bとを有するアーム部材であることで、外輪13bに対する内輪13aの第2回転軸D回りの角変位運動を簡易な構成で容易に実現することができる。なお、「アーム部材」とは、長尺な部材を意味している。前記アーム部材は、屈曲部または湾曲部を有していてもよい。
【0036】
第1端部16aは、保持具12における上部12aに固定されている。このように構成されることで、第1制御部材16は保持具12と一体的に運動する。第1端部16aは、上部12aの周面に固定されていてもよく、上部12aの周面以外の部分に固定されていてもよい。ただし、第1端部16aは、外輪13bに対して内輪13aを第3回転軸E回りに角変位運動させた場合における第2端部16bの変位が大きくなり過ぎないようにする観点から、中心軸Bの延びる方向において球面軸受13との距離が大きくなり過ぎないことが望ましいことがある。このような観点から、第1端部16aは、保持具12の周面に固定されていることが好ましい。第1端部16aが保持具12の周面に固定される場合、第1端部16aはフランジ22に連結されていてもよい。
【0037】
第2端部16bは、第2回転軸Dを有する。第2回転軸Dは、中心軸Bと直交し、かつ内輪13aの回転中心Cと通る軸上に配置されている。第2回転軸Dには、球面軸受等の回転部材が配置されていてもよい。
【0038】
第1制御部材16の全体構造としては、特に限定されるものではないが、
図3に示すように、中心軸Bが延びる方向に間隔を空けて配置される第1端部16aおよび第2端部16bと、第1端部16aおよび第2端部16bを接続する接続部16cとを有する構成とすることができる。
図4に示すように、第1端部16aと第2端部16bとは、側面視(第2回転軸D方向視)において、いずれも中心軸B上に位置していることが好ましい。接続部16cは、中心軸Bに対して平行に延びていてもよい。このように構成されていることで、外輪13bに対する内輪13aの第2回転軸D回りの角変位運動をより容易かつ確実に行うことができる。
【0039】
〔第2制御部材〕
第2制御部材17は、基台14に対して回転可能に取り付けられる揺動軸部17aと、第2回転軸Dに対して回転可能に取り付けられる揺動端部17bとを有する揺動部材である。揺動軸部17aは、第2制御部材17が揺動するときの揺動軸を構成する。揺動端部17bは、第2制御部材17が揺動するときの揺動軸とは反対側の端部を構成する。第2制御部材17は、揺動軸部17aと揺動端部17bとを有する揺動部材であることで、外輪13bに対する内輪13aの第3回転軸E回りの角変位運動を簡易な構成で容易に実現することができる。
【0040】
揺動軸部17aは、基台14に直接取り付けられてもよく、他の部材を介して基台14に間接的に取り付けられてもよい。本実施形態において、揺動軸部17aは、基台14に固定されている軸部材18に回転可能に取り付けられることで、基台14に間接的に取り付けられている。揺動軸部17aと軸部材18とは、例えば球面軸受によって回転可能に連結されている。
【0041】
揺動端部17bは、球面軸受13の中心軸Bと直交し、かつ内輪13aの回転中心Cを通る軸上を基準として、中心軸Bの延びる方向(
図1から
図6におけるZ方向正側および負側)に運動することで、第1制御部材16を介して外輪13bに対して内輪13aを第3回転軸E回りに角変位運動可能にする。
【0042】
第2制御部材17の全体構造としては、特に限定されるものではないが、揺動軸部17aと揺動端部17bとを両端とするシャフト部材が挙げられる。
図2に示すように、揺動軸部17aと揺動端部17bとは、平面視(中心軸B方向視)において第3回転軸Eから等距離に位置していることが好ましい。このように構成されていることで、第1制御部材16を介して外輪13bに対して内輪13aを第3回転軸E回りに角変位運動させやすい。
【0043】
図4に示すように、揺動軸部17aと揺動端部17bとは、中心軸Bの延びる方向において同位置に配置されていることが好ましい。この構成によれば、球面軸受13の中心軸Bと直交し、かつ内輪13aの回転中心Cを通る軸上を基準として、揺動端部17bを中心軸Bの延びる両方向に運動させやすい。
【0044】
揺動端部17bと第1制御部材16の第2端部16bとは、例えば球面軸受によって回転可能に連結されている。
【0045】
図2に示すように、加工工具11には、ワークを加工する際の回転方向Rが定められていることが好ましい。この構成において、揺動軸部17aは、揺動端部17bに対して、加工工具11の回転方向下流側で基台14に取り付けられていることが好ましい。すなわち、加工工具11が回転方向Rに回転すると、保持具12は反対方向の回転反力を受ける。この場合において、揺動軸部17aは、揺動端部17bに対して、加工工具11の回転方向の下流側(すなわち、加工工具11の回転反力の回転方向の上流側)で基台14に取り付けられていることが好ましい。この構成によれば、加工工具11の回転時に、第2制御部材17に座屈荷重が加えられることを防止できる。その結果、当該回転式加工装置1の耐久性を向上することができる。また、第2制御部材17に引張荷重が加えられるようになることで、第2制御部材17の断面積を小さくし、ひいては第2制御部材17の軽量化を図り、加工工具11の角変位運動の容易化を促進することができる。
【0046】
(角変位運動)
制御機構15を利用した加工工具11の角変位運動について説明する。
図7に示すように、加工工具11が第3回転軸E方向(
図7におけるY軸方向正側)からバリ等の突起物に接触した場合、第1制御部材16が第2回転軸D回りに回転可能に構成されていることで、保持具12と第1制御部材16とが第2回転軸D回りに一体的に角変位運動する。その結果、加工工具11は、保持具12と一体的に角変位運動する。
【0047】
また、
図8に示すように、加工工具11が第2回転軸D方向(
図8におけるX軸方向負側)からバリ等の突起物に接触した場合、第2制御部材17が揺動軸部17aを中心として中心軸Bの延びる方向に揺動可能であるとともに、揺動端部17bと第1制御部材16の第2端部16bとが回転可能に連結されていることで、保持具12と第1制御部材16とが第3回転軸E回りに一体的に角変位運動する。より詳しくは、加工工具11がバリ等の突起物に接触した場合に、加工工具11に加えられる押圧力に応じて第2制御部材17の揺動端部17bが中心軸Bに沿って弧を描くように運動できることで、保持具12と第1制御部材16とが第3回転軸E回りに一体的に角変位運動可能となる。その結果、加工工具11は、保持具12と一体的に角変位運動する。
【0048】
このように、制御機構15は、加工工具11を第2回転軸D回りと第3回転軸E回りとに角変位運動可能に構成している。その結果、加工工具11は、第2回転軸D回りと第3回転軸E回りとの合成方向に運動することができる。
【0049】
[その他の実施形態]
前記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。したがって、前記実施形態は、本明細書の記載および技術常識に基づいて前記実施形態各部の構成要素の省略、置換または追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0050】
本開示における各部の位置関係は、本開示の作用・効果を奏する範囲内において前記実施形態に記載された数値範囲にかかわらず本発明に含まれる。
【0051】
当該回転式加工装置は、角変位運動した保持具を基準状態に復帰させるための自動求芯機構を有していてもよい。前記自動求芯機構は、球面軸受の中心軸に向けて配置することができ、例えば球面軸受の内輪の回転中心に向けて配置してもよい。自動求芯機構の一例を
図9に示す。
図9の自動求芯機構30は、すり鉢状の受け部材31と、直動機構32と、変位センサ33とを有する。受け部材31は、保持具12に対して取り付けられる。直動機構32は、受け部材31に当接する鋼球32aと、鋼球32aを保持する保持部材32bと、保持部材32bを受け部材31の方向へ付勢するばね等の付勢部材(不図示)とを有する。変位センサ33は、保持部材32bの変位を検出する。なお、前記付勢部材は、ばねに代えて空気圧を使用したものであってもよい。受け部材31および直動機構32は、それぞれの中心軸が球面軸受の内輪の回転中心を通るように配置されていてもよい。
【0052】
自動求芯機構30は、前記加工工具がバリ等の突起物に押し付けられると、
図10に示すように、受け部材31が鋼球32aを押し、直動機構32を移動させる。直動機構32が移動すると前記付勢部材が直動機構32の移動量に応じた力で直動機構32を受け部材31の方向へ付勢する。この付勢力が工具求芯力(加工工具を基準状態に戻そうとする力)として保持具12に加えられる。また、直動機構32の移動量は変位センサ33によって検出され、その検出信号が制御装置(不図示)に送られるように構成されている。前記制御装置は、変位センサ33から送られる検出信号が閾値を超えている場合、前記加工工具の進行速度、進行経路、回転速度等を変更するように構成されていてもよい。
【0053】
自動求芯機構30は、前記実施形態で説明した1または複数のばね部材、ならびに1または複数のスペーサ部材に代えて用いてもよく、1または複数のばね部材、ならびに1または複数のスペーサ部材とともに用いてもよい。なお、本開示の回転式加工装置は、自動求芯機構30を有しない場合でも、加工対象のワークの材質や用途等によっては、1または複数のばね部材、ならびに1または複数のスペーサ部材を有しない構成とすることも可能である。
【0054】
前記実施形態では、前記第1制御部材がアーム部材で、かつ前記第2制御部材が揺動部材である構成について説明した。ただし、本開示において、前記第1制御部材および前記第2制御部材の具体的な構成は、前記実施形態に記載の構成に限定されない。例えば前記第1制御部材は、前記第1端部と前記第2端部とを有する限り、アーム状以外の形状に構成されていてもよい。また、前記第2制御部材は、前記第1制御部材の第2端部を前記球面軸受の中心軸が延びる方向にスライド可能にガイドするように構成されていてもよい。
【0055】
前記第2制御部材が揺動部材である場合でも、前記第2制御部材の耐久性が十分であるような場合であれば、前記揺動軸部は、前記揺動端部に対して、前記加工工具の回転方向下流側に位置していてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 回転式加工装置
11 加工工具
12 保持具
12a 上部
12b 接続部
12c 下部
13 球面軸受
13a 内輪
13b 外輪
14 基台
15 制御機構
16 第1制御部材
16a 第1端部
16b 第2端部
16c 接続部
17 第2制御部材
17a 揺動軸部
17b 揺動端部
18 軸部材
19 ばね部材
20 スペーサ部材
22 フランジ
30 自動求芯機構
31 受け部材
32 直動機構
32a 鋼球
32b 保持部材
33 変位センサ
A 第1回転軸
B 球面軸受の中心軸
C 内輪の回転中心
D 第2回転軸
E 第3回転軸
R ワークを加工する際の加工工具回転方向
【要約】
【課題】本開示は、簡易かつ安価な構成で、加工工具を回転軸と直交する2方向に角変位運動させることができる回転式加工装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本開示の一態様に係る回転式加工装置1は、加工工具11と、保持具12と、球面軸受13と、基台14と、制御機構15とを備え、球面軸受13は、保持具12に取り付けられる内輪13aと、基台14に取り付けられる外輪13bとを有しており、制御機構15は、保持具12に取り付けられる第1制御部材16と、基台14に取り付けられる第2制御部材17とを有しており、第1制御部材16は、球面軸受13の中心軸Bと直交し、かつ内輪13aの回転中心Cを通る軸上に第2回転軸Dを有し、第2制御部材17は、中心軸Bの延びる方向に第2回転軸Dを移動可能に保持する。
【選択図】
図1