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特許7514060水力発電装置の水車翼取付け構造および水力発電装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】水力発電装置の水車翼取付け構造および水力発電装置
(51)【国際特許分類】
   F03B 3/12 20060101AFI20240703BHJP
   F03B 3/04 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
F03B3/12
F03B3/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019054824
(22)【出願日】2019-03-22
(65)【公開番号】P2020153346
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-09-22
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】後藤 知美
(72)【発明者】
【氏名】近藤 博光
【合議体】
【審判長】北村 英隆
【審判官】伊藤 秀行
【審判官】長馬 望
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2014-0089924(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0241396(US,A1)
【文献】実開昭55-46750(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03B3/12
F03B3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化プラスチック材からなる水車翼と、この水車翼の回転を受けて発電を行う発電機とを備えた水力発電装置における、前記水車翼を水車軸に対して一体回転するように取り付ける水車翼取付け構造であって、
前記水車翼は中心部に中実のハブを有し、このハブに設けられた貫通孔に前記水車軸が挿通され、
前記ハブの両側面に一対のフランジ部材が配置され、前記ハブおよび前記一対のフランジ部材に設けられたボルト孔にわたってボルトが挿通され、このボルトにより前記ハブと前記一対のフランジ部材とが締結され、
前記一対のフランジ部材が前記水車軸に取り付けられ、
前記一対のフランジ部材は、前記ボルトの長さ方向の厚さが互いに同じで、かつ前記ハブとの接触面積が互いに同じである水車翼取付け構造において、
前記ハブの前記ボルト孔の内周面と前記ボルトの外周面との間に、前記ハブの軸方向幅よりも長さが短く、前記ボルトの締付けにより両端が前記一対のフランジ部材に当接する締付力保持部材が介在し、前記ハブと前記一対のフランジ部材とを締結する前記ボルトを締め付けると、前記ハブが弾性変形してその軸方向幅が狭くなることにより、前記締付力保持部材の両端が一対のフランジ部材に当接することを特徴とする水力発電装置の水車翼取付け構造。
【請求項2】
請求項1に記載の水力発電装置の水車翼取付け構造において、前記締付力保持部材は、前記ハブの前記ボルト孔の内周面に接着剤により固定されている水力発電装置の水車翼取付け構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水力発電装置の水車翼取付け構造において、前記水車翼は、複数の羽根を有するプロペラ水車である水力発電装置の水車翼取付け構造。
【請求項4】
請求項3に記載の水力発電装置の水車翼取付け構造において、前記プロペラ水車である水車翼は、回転軸心が水流方向と平行である水力発電装置の水車翼取付け構造。
【請求項5】
繊維強化プラスチック材からなる水車翼と、この水車翼の回転を受けて発電を行う発電機とを備えた水力発電装置であって、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の水車翼取付け構造によって、前記水車翼が水車軸に対して一体回転するように取り付けられた水力発電装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、繊維強化プラスチック材からなる水車翼を備え、水路に設置されて水の力で発電する水力発電装置の水車翼取付け構造、および水力発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水力発電装置は、水のエネルギーを回転エネルギーに変換する水車翼と、回転エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機とを備える。他に、必要に応じて、水車翼の回転を増速して発電機に伝達する増速機、発電機を制御する制御装置等が設けられる。
【0003】
小出力の水力発電装置の水車翼を繊維強化プラスチック材とし、増速機の入力軸となる水車軸に取り付ける場合、従来、図10に示す水車翼取付け構造が採用されていた。この水車翼取付け構造は、まず、一対のフランジ部材51,52で水車翼1のハブ10の両側面を挟み込み、これら一対のフランジ部材51,52とハブ10とをボルト53で締め付けて固定する。そして、この水車翼1と一対のフランジ部材51,52とからなるアッセンブリを、フランジ部材51,52の部分で水車軸20に軸方向に移動不能かつ回転不能に取り付ける。水車翼1が水の力を受けて回転すると、その回転トルクが摩擦力によりフランジ部材51,52に伝達されて、水車軸20が回転する。
【0004】
特許文献1は垂直軸型水力発電装置に関し、垂直回転軸と3枚のブレードとをボルトおよびナットを用いて締結固定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-8927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水路に設置される水力発電装置では、水車翼が流水から様々な変動荷重を受ける。例えば、流水の流速変化による変動荷重を受ける。また、水車翼が、回転軸心が水流方向と平行なプロペラ水車である場合、水路の水位低下により水車翼の上部が水面より上に出た状態となると、水車翼の回転に伴って、水車翼の放射状に延びる羽根が水に没している状態と水から出ている状態とを繰り返すことにより、大きな交番荷重を受ける。
【0007】
なお、水路の水位低下は、降水量が少ない場合や、灌漑のために水路の水が使用される場合に起きる。また、梅雨時期、台風等で集中豪雨が予想される場合に、水路からの溢水を避けるために、水路の流量を制限することもある。
【0008】
図10に示すように、水車翼1が変動荷重F1を受けると、羽根が荷重方向に撓み、その撓みが羽根の根元部からハブ10に伝わる。すると、両側をフランジ部材51,52に挟まれたハブ10が、両フランジ部材51,52から圧縮力F2を継続的に受ける。これにより、ハブ10がクリープ変形して軸方向幅が狭くなり、水車翼1とフランジ部材51,52とを締結しているボルト53が緩み、その締付力が低下する。
【0009】
また、交番荷重により、ハブ10とフランジ部材51,52との間に隙間ができたり、その隙間が閉じたりすることで、ハブ10におけるフランジ部材51,52との接触面にフレッティング摩耗等を起こすことがある。繊維強化プラスチック材の樹脂材、例えばビニルエステル樹脂は、不飽和ポリエステル樹脂と比較して、耐水性に優れ、水との接触でも強度劣化し難い。一方、繊維強化プラスチック材の繊維材は、水との接触により強度劣化に繋がる。水車翼の外皮は樹脂材であるため、水と接触しても強度低下が促進されないが、ハブ10にフレッティング摩耗等が発生すると、その部分から水車翼の繊維材が水と接触し、水車翼1の強度低下に繋がる。
【0010】
水車翼1を金属材にすれば、上記ハブ10のクリープ変形を防止することができる。しかし、繊維強化プラスチック材を用いた場合と同等の強度を金属材で確保しようとすると、水車翼1の重量が大きくなる。そのため、水車軸20を支持するギヤの剛性を高める必要があり、コスト高となる。
【0011】
また、水車翼1を比較的軽量なアルミ材とすることも考えられる。しかし、水車軸20や増速機には主に鋼材が使用されているため、水車翼1がアルミ材であると、異種金属であるアルミ材と鋼材とが水に浸かることとなり、電食が発生する可能性がある。このため、アルミ材の適用は難しい。
【0012】
この発明の目的は、繊維強化プラスチック材で作られた水車翼が流水からの変動荷重を受けることにより、水車翼のハブがクリープ変形やフレッティング摩耗して起きる強度低下を防止することができる水力発電装置の水車翼取付け構造、および水力発電装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明の水力発電装置の水車翼取付け構造は、繊維強化プラスチック材からなる水車翼と、この水車翼の回転を受けて発電を行う発電機とを備えた水力発電装置における、前記水車翼を水車軸に対して一体回転するように取り付ける水車翼取付け構造であって、
前記水車翼は中心部に中実のハブを有し、このハブに設けられた貫通孔に前記水車軸が挿通され、
前記ハブの両側面に一対のフランジ部材が配置され、前記ハブおよび前記一対のフランジ部材に設けられたボルト孔にわたってボルトが挿通され、このボルトにより前記ハブと前記一対のフランジ部材とが締結され、
前記一対のフランジ部材が前記水車軸に取り付けられ、
前記一対のフランジ部材は、前記ボルトの長さ方向の厚さが互いに同じで、かつ前記ハブとの接触面積が互いに同じである。
この場合、ハブが両側のフランジ部材から受ける圧縮力の大きさをほぼ同じにすることができるため、ハブと各フランジ部材との間に均等な摩擦力が作用し、バランスが良い。
【0014】
この発明において、前記フランジ部材における前記ハブとの接触面の縁に面取り部が設けられているのが好ましい。
上記面取り部が設けられていると、エッジロードが軽減され、フレッティング摩耗の発生を防止することができる。
【0015】
また、前記ハブの前記ボルト孔の内周面と前記ボルトの外周面との間に、前記ハブの軸方向幅よりも長さが短く、前記ボルトの締付けにより両端が前記一対のフランジ部材に当接する締付力保持部材が介在していると良い。
【0016】
この構成によると、ハブと一対のフランジ部材とを締結するボルトを締め付けると、ハブが弾性変形してその軸方向幅が狭くなることにより、締付力保持部材の両端が一対のフランジ部材に当接する。この状態では、水車翼が変動荷重を受けて一対のフランジ部材から水車翼の中心部に対して圧縮力が作用した場合、その圧縮力を締付力保持部材が受けてハブには大きな圧縮力がかからないため、ハブがクリープ変形することが防止される。このように、ハブのクリープ変形を防止することで、ボルトの緩みを防いで、ハブとフランジ部材の締付力の低下を回避することができる。
【0017】
また、ハブとフランジ部材の締付力が確保されているため、水車翼に交番荷重が作用しても、ハブとフランジ部材との間に隙間ができたり、その隙間が閉じたりすることがなく、ハブにおけるフランジ部材との接触面にフレッティング摩耗が起きない。そのため、水車翼の繊維強化プラスチック材の内部への水の浸透が抑制され、繊維強化プラスチック材の材料劣化による水車翼の強度低下を防止することができる。
【0018】
この発明の水力発電装置の水車翼取付け構造は、前記水車翼が複数の羽根を有するプロペラ水車である場合に適する。特に、前記プロペラ水車である水車翼が、回転軸心が水流方向と平行である場合に適する。いずれの場合も、水車翼が大きな変動荷重を受けるため、この発明の水車翼取付け構造を採用することによる効果が大きい。
【0019】
この発明の水力発電装置は、繊維強化プラスチック材からなる水車翼と、この水車翼の回転を受けて発電を行う発電機とを備えた水力発電装置であって、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の水車翼取付け構造によって、前記水車翼が水車軸に対して一体回転するように取り付けられている。
この構成の水力発電装置によると、繊維強化プラスチック材で作られた水車翼が流水からの変動荷重を受けることにより、水車翼のハブがクリープ変形やフレッティング摩耗して起きる強度低下を防止することができて、水力発電装置の耐久性に優れ、保守の為に運転休止する時間が短縮でき、稼働率が向上する。
【発明の効果】
【0020】
この発明の水力発電装置の水車翼取付け構造は、繊維強化プラスチック材からなる水車翼と、この水車翼の回転を受けて発電を行う発電機とを備えた水力発電装置における、前記水車翼を水車軸に対して一体回転するように取り付ける水車翼取付け構造であって、前記水車翼は中心部に中実のハブを有し、このハブに設けられた貫通孔に前記水車軸が挿通され、前記ハブの両側面に一対のフランジ部材が配置され、前記ハブおよび前記一対のフランジ部材に設けられたボルト孔にわたってボルトが挿通され、このボルトにより前記ハブと前記一対のフランジ部材とが締結され、前記一対のフランジ部材が前記水車軸に取り付けられ、前記一対のフランジ部材は、前記ボルトの長さ方向の厚さが互いに同じで、かつ前記ハブとの接触面積が互いに同じであるため、水車翼が流水からの変動荷重を受けることにより、水車翼のハブがクリープ変形やフレッティング摩耗して起きる強度低下を防止することができる。
【0021】
この発明の水力発電装置は、繊維強化プラスチック材からなる水車翼と、この水車翼の回転を受けて発電を行う発電機とを備えた水力発電装置であって、この発明の車翼取付け構造によって、前記水車翼が水車軸に対して一体回転するように取り付けられているため、繊維強化プラスチック材で作られた水車翼が流水からの変動荷重を受けることにより、水車翼のハブがクリープ変形やフレッティング摩耗して起きる強度低下を防止することができて、水力発電装置の耐久性に優れ、保守の為に運転休止する時間が短縮でき、稼働率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】この発明の第1の実施形態に係る水車翼取付け構造が適用された水力発電装置の正面図である。
図2】同水力発電装置の側面図である。
図3図2の主要部を示す側面図であり、一部を断面で表している。
図4図3の部分拡大図である。
図5】(A)は図4のVIIA部拡大図、(B)は図4のVIIB部拡大図である。
図6】この発明の第2の実施形態に係る水車翼取付け構造を示す断面図である。
図7】水車翼のハブと締付力保持部材の断面図である。
図8】この発明の第3の実施形態に係る水車翼取付け構造を示す断面図である。
図9】この発明の第4の実施形態に係る水車翼取付け構造を示す断面図である。
図10】従来の水車翼取付け構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1の実施形態]
<水力発電装置>
図1図2は第1の実施形態に係る水車翼取付け構造が適用された水力発電装置の正面図および側面図である。この水力発電装置は、水路に設置されて水の力で発電を行うものであり、水車翼1、増速機2、発電機3、および支持装置4を備える。他に、発電機3を制御する制御装置(図示せず)等が設けられる。
【0024】
水車翼1は、中心部に位置するハブ10の外周から複数(例えば5つ)の羽根11が放射状に延びるプロペラ水車であって、回転軸心Oが水路の水流の方向Aと平行になるように設けられる。各羽根11の先端部は、上流側に向けて傾斜している。ハブ10と羽根11とは一体に形成されている。上流側となるハブ10の前面には、スピナ12が取り付けられている。これらハブ10、羽根11、およびスピナ12は、繊維強化プラスチック材で作られている。
【0025】
増速機2は、水車翼1の回転を増速するものである。増速機2の入力軸となる水車軸20が増速機2から上流側に突出しており、この水車軸20に水車翼1が一体回転するように固定される。
【0026】
図3に示すように、増速機2の増速機構21は、互いに噛み合う一対の傘歯車22,23からなる。入力側の傘歯車22は水車軸20に取り付けられ、出力側の傘歯車23は鉛直方向に延びる回転伝達軸24に取り付けられている。回転伝達軸24は、増速機21で増速された回転力を発電機3に伝達する軸であり、支柱25の内部に設けられている。図2に示すように、支柱25は、上端が支持装置4に固定され、下端に増速機2が支持されている。
【0027】
図2において、発電機3は下方に延びる発電機軸30を有し、この発電機軸30が回転連結具31を介して前記回転伝達軸24と連結されている。これにより、水車翼1の回転が増速機2により増速して発電機3に伝達されて、発電機3が発電する。発電機3は、例えば3相交流発電機である。
【0028】
図1図2に示すように、支持装置4は、水路の両側の側壁5の間に架け渡して設けられた2本の梁40と、これら梁40の上に載置された架台41と、この架台41に設置された2本の発電機スタンド42と、これら2本の発電機スタンド42の上部を繋ぐように設けられたベース板43とを有する。発電機3は、架台41とベース板43との間に配置され、ベース板43に固定される。
【0029】
<水車翼取付け構造>
前記水車軸20への前記水車翼1の取付け構造について説明する。
図3に示すように、水車軸20は、増速機2よりも上流側(図3の左側)に突出した大径部20aと、この大径部20aの先端から上流側に延びる小径部20bとを有し、小径部20bの基端を除く外周面に雄ねじ20cが形成されている。
【0030】
水車翼1は、ハブ10の上流側および下流側の両側面に、一対の環状のフランジ部材51,52がボルト53により締付け固定されている。ハブ10は、中央部に貫通孔50を有する筒状で、中実に成形されている。
上流側のフランジ部材51は、ハブ10の貫通孔50よりも内径が小さく、水車軸20の小径部20bに嵌合可能である。下流側のフランジ部材52は、内周面が水車軸20の大径部20aに嵌合可能で、かつ外周面がハブ10の貫通孔50に嵌合可能な筒状部54を有する。
【0031】
図4に示すように、前記ボルト53は、水車翼1のハブ10および一対のフランジ部材51,52に軸方向にそれぞれ設けられたボルト孔10a,51a,52aにわたって挿通される。この実施形態の場合、下流側のフランジ部材52のボルト孔52aがねじ孔となっており、上流側からボルト孔51a,10aに挿入したボルト53のねじ部53aをねじ孔であるボルト孔52aに螺合させることで、水車翼1と一対のフランジ部材51,52とが締結される。別の例として、下流側のフランジ部材52のボルト孔52aねじ孔ではなく、ボルト孔52aを貫通させたボルト53のねじ部53aにナット(図示せず)を螺着することで、水車翼1と一対のフランジ部材51,52とを締結してもよい。
【0032】
この水車翼取付け構造は、水車翼1のハブ10に締結される一対のフランジ部材51,52が、前記ボルト53の長さ方向の厚さ、つまり水車翼1の軸方向の厚さが互いに同じで、かつハブ10との接触面積が互いに同じとされている。前記両フランジ部材51,52は、下流側のフランジ部材52に設けられた筒状部54よりも外径側の部分の全体が均一な厚さの平板状とされている。図示の例では、上流側のフランジ部材51は、外径側端から内径側端の全体に渡って均一な厚さとされている。ただし、図5(A),(B)に示すように、各フランジ部材51,52におけるハブ10との接触面の縁に、断面円弧状の面取り部61,62が設けられている。面取り部61,62は、他の断面形状であってもよい。例えば、2次曲線等の曲線形状であってもよい。場合によっては、直線状に切り欠いた形状であってもよい。
【0033】
水車軸20への水車翼1の取付方法について説明する。
まず、図4のようにハブ10のボルト孔10aにハブ10の両側面にフランジ部材51,52をボルト53により締結してアッセンブリとする。このアッセンブリを、図3に示すように、ハブ10の貫通孔50に水車軸20を挿通した状態で、水車軸20に取り付ける。
【0034】
具体的には、上流側のフランジ部材51を水車軸20の小径部20bの基端に嵌合させ、かつ下流側のフランジ部材52の筒状部54を水車軸20の大径部20aに嵌合させる。そして、上流側のフランジ部材51を大径部20aと小径部20bとの段面20dに当接させ、小径部20bの雄ねじ20cに螺着したナット56により、上流側のフランジ部材51を水車軸20に対し軸方向に移動不能に取り付ける。また、水車軸20の大径部20aおよび下流側のフランジ部材52の筒状部54に設けられたキー溝にキー57を係合させることで、下流側のフランジ部材52を水車軸20に回転不能に取り付ける。
【0035】
<水車翼取付け構造の作用>
このように、一対のフランジ部材51,52の軸方向厚さが互いに同じで、かつハブ10との接触面積が互いに同じであると、ハブ10が両側のフランジ部材51,52から受ける圧縮力の大きさをほぼ同じにすることができ、そのためハブ10と各フランジ部材51,52との間に均等な摩擦力が作用し、バランスが良い。結果、変動荷重に対しても、フランジ部材51,52の片側が過大な圧縮力を受けることが無く、そのためクリープ変形し難い。また、フランジ部材51,52におけるハブ10との接触面の縁に面取り部61,62が設けられていると、エッジロードが軽減され、フレッティング摩耗の発生を防止することができる。
【0036】
[第2の実施形態]
図6は水車翼取付け構造の第2の実施形態を示す。ハブ10のボルト孔10aはフランジ部材51,52のボルト孔51a,52aよりも内径が大きく、ハブ10のボルト孔10aの内周面とボルト53の外周面との間に締付力保持部材55が介在している。締付力保持部材55は、水車翼1の繊維強化プラスチック材よりも硬度が高く、かつ水中で錆び難い材料、例えばステンレス(SUS304)等の金属材からなる。この実施形態の締付力保持部材55は、ボルト孔10aの内周に嵌合する円筒状である。
【0037】
図7に示すように、締付力保持部材55の長さはハブ10の軸方向幅よりも若干短くしてある。詳しくは、以下のように締付力保持部材55の長さが定められている。すなわち、締付力保持部材55の長さをl、ハブ10の軸方向幅をLとした場合、
l=L-dl・・・(式1)
の関係が成り立つ。ここで、dlは、ハブ10の弾性変形上限の変位量である。なお、図7ではdlの寸法を誇張して表示しているが、実際のdlの寸法は視認が困難な程度に微小である。
【0038】
締付力保持部材55は、ハブ10のボルト孔10aの内周面に単に嵌合させただけでもよいが、接着剤により固定してもよい。締付力保持部材55を接着剤により固定する場合、図7のように、ボルト孔10aの中央部に締付力保持部材55が位置するように固定するとよい。
【0039】
ハブ10と一対のフランジ部材51,52とを締結するボルト53を締め付けると、ハブ10が弾性変形してその軸方向幅が狭くなることにより、締付力保持部材55の両端が一対のフランジ部材51,52に当接する。この状態では、水車翼1が変動荷重を受けて一対のフランジ部材51,52から水車翼1の中心部に対して圧縮力が作用した場合、その圧縮力を締付力保持部材55が受けてハブ10には大きな圧縮力がかからないため、ハブ10のクリープ変形が抑制される。このように、ハブ10のクリープ変形を抑制することで、ボルト53の緩みを防いで、ハブ10とフランジ部材51,52の締付力の低下を回避することができる。
【0040】
締付力保持部材55の長さlを、式1を満たす長さとした場合、ボルト53を締め付けた状態で、ハブ10が弾性変形の上限まで変形する。このため、ボルト53の締付けが強固となり、ボルト53がより一層緩み難くなる。
【0041】
なお、締付力保持部材55は、式1の寸法関係とすることでボルト53の締付力を強化できる形状、寸法であればよく、必ずしも円筒状でなくてもよい。例えば、断面形状がU字形や溝形の部材であってもよい。
【0042】
また、ハブ10とフランジ部材51,52の締付力が確保されているため、水車翼1に交番荷重が作用しても、ハブ10とフランジ部材51,52との間に隙間ができたり、その隙間が閉じたりすることがなく、ハブ10におけるフランジ部材51,52との接触面にフレッティング摩耗が起きない。そのため、水車翼1の繊維強化プラスチック材の内部への水の浸透が抑制され、水車翼1の材料劣化による強度低下を防止することができる。
【0043】
締付力保持部材55がハブ10のボルト孔10aの内周面に接着剤により固定されていると、締付力保持部材55がボルト孔10aの中で動くことによるボルト孔10aの内周面の損傷を抑制される。それにより、ボルト孔10aの内周面からの繊維強化プラスチック材の内部への水の浸透も抑制される。
締付力保持部材55を接着剤により固定する場合、図7に示すように、ボルト孔10aの中央部に締付力保持部材55を固定すると、ボルト53の締付けによるハブ10の弾性変形が軸方向の両側で均等に行われるので好ましい。
【0044】
上記のように水車翼1の繊維強化プラスチック材への水の浸透が抑制されるため、耐水性の高い高価な繊維強化プラスチック材を使用しなくて済む。また、締付力保持部材55が円筒状であるため、締付力保持部材55自体の加工が容易であるだけでなく、ボルト孔10aの加工も容易である。このため、低コストで水車翼1の強度低下防止を実現できる。
【0045】
また、ハブ10のボルト孔10aの内周面とボルト53の外周面との間に締付力保持部材55を介在させたことにより、ボルト53がボルト孔10aの内周面に接触しなくなる。そのため、水車翼1が水から受けるスラスト方向の変動荷重が発生しても、ボルト孔10aの内周面表層部の摩耗を防止できる。その結果、水車翼1の材料である繊維強化プラスチック材の内部への水の浸透が抑制され、水車翼1の材料劣化による強度低下を防止することができる。
【0046】
[第3の実施形態]
第1の実施形態(図4)および第2の実施形態(図6)では、ボルト53のねじ部53aがハブ10のボルト孔10aと軸方向に重なっていないが、図8に示す第3の実施形態のように、ボルト53のねじ部53aの一部がハブ10のボルト孔10aと軸方向に重なっていてもよい。この場合、ねじ孔であるボルト孔52aの軸方向全域にボルト53のねじ部53aが螺合するため、大きな締結力が得られる。
【0047】
[第4の実施形態]
しかし、図8のようにボルト53のねじ部53aの一部がハブ10のボルト孔10aと軸方向に重なっていると、ねじ部53aが締付力保持部材55と接触して締付力保持部材55が摩耗する懸念がある。このような締付力保持部材55の摩耗を防止するために、図9のように構成するとよい。図9に示す第4の実施形態は、下流側のフランジ部材52の軸方向内側面に、ボルト孔52aの外周に拡がる断面円形の凹部58が設けられ、この凹部58に締付力保持部材55の上流側端が嵌まり込んでいる。ボルト53のねじ部53aは、ねじ孔であるボルト孔52aに螺合している。ねじ部53aの基端位置は、凹部58またはボルト孔52aの軸方向範囲内にある。つまり、ボルト53のねじ部53aは、水車翼1よりも軸方向の外側に位置している。これにより、ボルト53のねじ部53の一部が締付力保持部材55と接触することがなく、締付力保持部材55の摩耗が軽減される。
【0048】
第2ないし第4の各実施形態において、特に説明した事項の他は、第1の実施形態と同様である。
上記各実施形態は、ハブ10の両フランジ51,52の軸方向の厚さをそれぞれ均等としたが、両フランジ51,52は、軸方向に対向する部分の厚さが互いに同じであれば、必ずしも均等な厚さでなくてもよい。
上記各実施形態は、水車翼1がプロペラ水車であり、かつその回転軸心Oが水流方向と平行である水力発電装置に適用された水車翼取付け構造を示すが、この発明は、水車翼1の回転軸心Oが水流方向と平行でない場合にも適用できる。また、水車翼1がプロペラ水車でない水力発電装置にも適用できる。
【0049】
以上、実施例に基づいて本発明を実施するための形態を説明したが、ここで開示した実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0050】
1…水車翼
3…発電機
10…ハブ
10a,51a,52a…ボルト孔
11…羽根
20…水車軸
50…貫通孔
51,52…フランジ部材
53…ボルト
55…締付力保持部材
61,62…面取り部
O…回転軸心
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10