(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】ショベル
(51)【国際特許分類】
E02F 9/20 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
E02F9/20 C
(21)【出願番号】P 2019549229
(86)(22)【出願日】2018-10-11
(86)【国際出願番号】 JP2018037863
(87)【国際公開番号】W WO2019078077
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-09-17
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2017203882
(32)【優先日】2017-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502246528
【氏名又は名称】住友建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 崇司
【合議体】
【審判長】居島 一仁
【審判官】有家 秀郎
【審判官】西田 秀彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-291075(JP,A)
【文献】特開2007-51781(JP,A)
【文献】国際公開第2015/155878(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F9/20-9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧アクチュエータと、
前記油圧アクチュエータの操作のために用いられる操作装置と、
ショベル本体の振動の有無を表す情報、ショベル本体の振動の要因となるショベルの状態を表す情報、又は、ショベル本体の振動の要因となるショベルの周辺環境を表す情報を取得する取得装置と、
前記取得装置の出力に基づき、ショベル本体が振動しているときに、前記操作装置の操作に対する前記油圧アクチュエータの応答性が鈍くなるように制御する制御装置と、
を備え
、
前記制御装置は、前記取得装置により取得される、ショベル本体の振動の有無を表す情報としてのショベルの姿勢の変化を表す情報に基づきショベル本体の振動を検知する、
ショベル。
【請求項2】
前記制御装置は、ショベル本体が振動しているとき、または、ショベル本体に振動が発生する可能性が高いときに、前記操作装置の操作に対する前記油圧アクチュエータの加減速特性が低くなるように制御する、前記油圧アクチュエータへ作動油を供給する油圧ポンプの駆動源であるエンジンの回転数を低減してポンプ流量を抑える、または、前記油圧ポンプの傾斜角を制御して前記油圧ポンプのポンプ流量を抑える、の少なくとも1つを実行する、
請求項1に記載のショベル。
【請求項3】
前記制御装置は、ショベル本体が振動しているとき、または、ショベル本体に振動が発生する可能性が高いときに、前記操作装置の操作に対する前記油圧アクチュエータの応答性を発生している振動または発生する可能性のある振動の程度に応じて多段階に切り替える、
請求項1に記載のショベル。
【請求項4】
前記ショベルの姿勢の変化を表す情報は、傾斜センサ、ジャイロセンサ、加速度センサ、IMUセンサ、GPS、及び撮像手段のうちの少なくとも一つで取得する、
請求項
1に記載のショベル。
【請求項5】
前記制御装置は、前記取得装置の出力から演算される、ショベルの安定度、ショベルの滑り、ショベルの浮き上がり、及びショベルの重心位置の少なくとも一つに関する情報に基づいて、前記振動を検知する、
請求項1に記載のショベル。
【請求項6】
下部走行体と、
前記下部走行体に旋回可能に搭載される上部旋回体と、
前記上部旋回体に搭載される油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに向かう作動油の流れを制御する制御弁と、を備え、
前記制御装置は、前記制御弁に作用するパイロット圧を変更することにより、前記応答性を制御する、
請求項1に記載のショベル。
【請求項7】
前記操作装置が電気レバーであり、
前記制御装置は、前記電気レバーの操作方向及び操作量に応じて、前記パイロット圧を変更する、
請求項
6に記載のショベル。
【請求項8】
油圧アクチュエータと、
前記油圧アクチュエータの操作のために用いられる操作装置と、
シ
ョベル本体の振動の有無を表す情報、ショベル本体の振動の要因となるショベルの状態を表す情報、又は、ショベル本体の振動の要因となるショベルの周辺環境を表す情報を取得する取得装置と、
前記取得装置の出力に基づき、ショベル本体が振動しているときに、前記操作装置の操作に対する前記油圧アクチュエータの応答性が鈍くなるように制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記取得装置により取得される、当該ショベル上の任意の基準位置または基準平面における、位置、速度、もしくは加速度の値、またはそれらの変動量に基づき、ショベル本体の振動発生を検知したときに前記操作装置の操作に対する前記油圧アクチュエータの応答性を鈍くする
、
ショベル。
【請求項9】
前記制御装置は、当該ショベル上の任意の基準位置または基準平面における、位置、速度、もしくは加速度の値、またはそれらの変動量が、短期的な所定期間に閾値まで所定回数到達したときに、ショベル本体の振動発生を検知する、
請求項
8に記載のショベル。
【請求項10】
前記制御装置は、当該ショベル上の任意の基準位置または基準平面における、位置、速度、もしくは加速度の値、またはそれらの変動量が、短期的な所定期間に閾値まで所定回数到達した検知が長期的な所定期間に所定回数生じたときに、ショベル本体の振動発生を検知する、
請求項
8に記載のショベル。
【請求項11】
下部走行体と、
前記下部走行体に旋回可能に搭載される上部旋回体と、
前記上部旋回体に搭載される油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに向かう作動油の流れを制御する制御弁と、を備え、
前記制御装置は、前記制御弁に作用するパイロット圧を変更することにより、前記応答性を制御する、
請求項8に記載のショベル。
【請求項12】
前記操作装置が電気レバーであり、
前記制御装置は、前記電気レバーの操作方向及び操作量に応じて、前記パイロット圧を変更する、
請求項11に記載のショベル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ショベルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ショベルの操作者によりレバーの急激な操作があった場合でも、レバーの入力に対して油圧アクチュエータの動作を制御する制御弁のパイロット入力を規制することにより、ショック発生を低減できるような回路構造を備えたレバー操作系が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、レバー操作に対する油圧アクチュエータの応答性と、レバーの急操作時のショックの低減とは、トレードオフの関係にあり、急操作時に低減させるパイロット圧は、通常求められる応答性も満たすような値に設定せざるを得ない。つまり、パイロット圧を無闇に低減させることが難しい。
【0005】
また、例えば木材や石などの障害物に乗った状態など、ショベルの足場が不安定な場所でショベルの作業者が操作を行う場合、微小なレバー操作でもショベルに振動が発生することがある。この振動によって操作者自身も揺れるため、操作レバーを介して操作者が意図しない操作入力を入れてしまう現象(いわゆる手ハンチング)を引き起こし、この結果、手ハンチングの影響によってさらにショベル本体(つまり、ショベルの下部走行体及び上部旋回体を含む機体)の振動が増幅することがある。特許文献1の手法では、このような手ハンチングの発生時の振動増幅を抑えることができない。
【0006】
本開示は、手ハンチングが発生してもショベル本体の振動増幅を抑制できるショベルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の一観点に係るショベルは、油圧アクチュエータと、前記油圧アクチュエータの操作のために用いられる操作装置と、ショベル本体の振動の有無を表す情報、ショベル本体の振動の要因となるショベルの状態を表す情報、又は、ショベル本体の振動の要因となるショベルの周辺環境を表す情報を取得する取得装置と、前記取得装置の出力に基づき、ショベル本体が振動しているときに、前記操作装置の操作に対する前記油圧アクチュエータの応答性が鈍くなるように制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記取得装置により取得される、ショベル本体の振動の有無を表す情報としてのショベルの姿勢の変化を表す情報に基づきショベル本体の振動を検知する。
また、実施形態の他の観点に係るショベルは、油圧アクチュエータと、前記油圧アクチュエータの操作のために用いられる操作装置と、ショベル本体の振動の有無を表す情報、ショベル本体の振動の要因となるショベルの状態を表す情報、又は、ショベル本体の振動の要因となるショベルの周辺環境を表す情報を取得する取得装置と、前記取得装置の出力に基づき、ショベル本体が振動しているときに、前記操作装置の操作に対する前記油圧アクチュエータの応答性が鈍くなるように制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記取得装置により取得される、当該ショベル上の任意の基準位置または基準平面における、位置、速度、もしくは加速度の値、またはそれらの変動量に基づき、ショベル本体の振動発生を検知したときに前記操作装置の操作に対する前記油圧アクチュエータの応答性を鈍くする。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、手ハンチングが発生してもショベル本体の振動増幅を抑制できるショベルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係るショベル(掘削機)の側面図である。
【
図2】
図1のショベルの駆動系の構成例を示すブロック図である。
【
図3】
図1のショベルに搭載される油圧回路の構成例を示す概略図である。
【
図4】作業モードに応じたレバー操作量とブリード弁開口面積との関係を示す図である。
【
図5】本体傾斜角度の通常時と振動発生時の波形の一例を示す図である。
【
図6】加減速特性制御部により実施される加減速特性制御のフローチャートである。
【
図7】第2実施形態に係るショベルに搭載される油圧回路の構成例を示す概略図である。
【
図8】作業モードに応じたレバー操作量と制御弁のPT開口面積との関係を示す図である。
【
図9】第3実施形態に係るショベルに搭載されるコントローラの構成例を示すブロック図である。
【
図10】振動発生に関する短期的な検知手法の例を説明するための図である。
【
図11】振動発生に関する長期的な検知手法の例を説明するための図である。
【
図12】基準傾斜を利用した振動判定の例を説明するための図である。
【
図14】第3実施形態のコントローラにより実施される加減速特性制御のフローチャートである。
【
図15】第1実施形態の加減速特性制御部及び第3実施形態の振動予測部の他の構成例を示すブロック図である。
【
図16】ショベル本体に振動が発生する可能性が高い状況の一例を示す図である。
【
図17】ショベル本体の振動が発生する可能性が高い状況の他の例を示す図である。
【
図18】
図6及び
図14のステップS3のサブルーチン処理の一例を示すフローチャートである。
【
図19】
図6の各処理を一般化したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0011】
[第1実施形態]
図1~
図6を参照して第1実施形態を説明する。
【0012】
[ショベルの全体構成]
最初に、
図1を参照して、第1実施形態に係るショベルの全体構成について説明する。
図1は、第1実施形態に係るショベル(掘削機)の側面図である。
【0013】
図1に示されるように、ショベルの下部走行体1には、旋回機構2を介して上部旋回体3が旋回可能に搭載されている。上部旋回体3には、ブーム4が取り付けられている。ブーム4の先端には、アーム5が取り付けられ、アーム5の先端には、エンドアタッチメントとしてのバケット6が取り付けられている。ブーム4、アーム5、及びバケット6は、アタッチメントの一例としての掘削アタッチメントを構成し、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9によりそれぞれ油圧駆動される。上部旋回体3には、運転室であるキャビン10が設けられ、且つエンジン11等の動力源が搭載される。
【0014】
キャビン10内には、コントローラ30が設置されている。コントローラ30は、ショベルの駆動制御を行う主制御部として機能する制御装置である。本実施形態では、コントローラ30は、CPU、RAM、ROM等を含むコンピュータで構成されている。例えば以下では加減速特性制御部300として示すコントローラ30の各種機能は、例えば、ROMに格納されたプログラムをCPUが実行することで実現される。
【0015】
[駆動系の構成]
次に、
図2を参照して、
図1のショベルの駆動系の構成について説明する。
図2は、
図1のショベルの駆動系の構成例を示すブロック図である。
図2中、機械的動力系、高圧油圧ライン、パイロットライン、及び電気制御系をそれぞれ二重線、太実線、破線、及び点線で示している。
【0016】
図2に示されるように、ショベルの駆動系は、主に、エンジン11、レギュレータ13、メインポンプ14、パイロットポンプ15、コントロールバルブ17、操作装置26、吐出圧センサ28、操作圧センサ29、コントローラ30、比例弁31、本体傾斜センサ32等を含む。
【0017】
エンジン11は、ショベルの駆動源である。本実施形態では、エンジン11は、例えば所定の回転数を維持するように動作するディーゼルエンジンである。また、エンジン11の出力軸は、メインポンプ14及びパイロットポンプ15の入力軸に連結されている。
【0018】
メインポンプ14は、高圧油圧ラインを介して作動油をコントロールバルブ17に供給する。本実施形態では、メインポンプ14は、斜板式可変容量型油圧ポンプである。
【0019】
レギュレータ13は、メインポンプ14の吐出量を制御する。本実施形態では、レギュレータ13は、コントローラ30からの制御指令に応じてメインポンプ14の斜板傾転角を調節することによってメインポンプ14の吐出量を制御する。
【0020】
パイロットポンプ15は、パイロットラインを介して操作装置26及び比例弁31を含む各種油圧制御機器に作動油を供給する。本実施形態では、パイロットポンプ15は、固定容量型油圧ポンプである。
【0021】
コントロールバルブ17は、ショベルにおける油圧システムを制御する油圧制御装置である。コントロールバルブ17は、制御弁171~176、及びブリード弁177を含む。コントロールバルブ17は、制御弁171~176を通じ、メインポンプ14が吐出する作動油を1又は複数の油圧アクチュエータに選択的に供給できる。制御弁171~176は、メインポンプ14から油圧アクチュエータに流れる作動油の流量、及び油圧アクチュエータから作動油タンクに流れる作動油の流量を制御する。油圧アクチュエータは、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、バケットシリンダ9、左側走行用油圧モータ1A、右側走行用油圧モータ1B、及び旋回用油圧モータ2Aを含む。ブリード弁177は、メインポンプ14が吐出する作動油のうち、油圧アクチュエータを経由せずに作動油タンクに流れる作動油の流量(以下、「ブリード流量」とする。)を制御する。ブリード弁177は、コントロールバルブ17の外部に設置されていてもよい。
【0022】
操作装置26は、操作者が油圧アクチュエータの操作のために用いる装置である。本実施形態では、操作装置26は、パイロットラインを介して、パイロットポンプ15が吐出する作動油を油圧アクチュエータのそれぞれに対応する制御弁のパイロットポートに供給する。パイロットポートのそれぞれに供給される作動油の圧力(パイロット圧)は、油圧アクチュエータのそれぞれに対応する操作装置26のレバー又はペダル(図示せず。)の操作方向及び操作量に応じた圧力である。
【0023】
吐出圧センサ28は、メインポンプ14の吐出圧を検出する。本実施形態では、吐出圧センサ28は、検出した値をコントローラ30に対して出力する。
【0024】
操作圧センサ29は、操作装置26を用いた操作者の操作内容を検出する。本実施形態では、操作圧センサ29は、油圧アクチュエータのそれぞれに対応する操作装置26のレバー又はペダルの操作方向及び操作量を圧力(操作圧)の形で検出し、検出した値をコントローラ30に対して出力する。操作装置26の操作内容は、操作圧センサ以外の他のセンサを用いて検出されてもよい。
【0025】
比例弁31は、コントローラ30が出力する制御指令に応じて動作する。本実施形態では、比例弁31は、コントローラ30が出力する電流指令に応じてパイロットポンプ15からコントロールバルブ17内のブリード弁177のパイロットポートに導入される二次圧を調整する電磁弁である。比例弁31は、例えば、電流指令が大きいほど、ブリード弁177のパイロットポートに導入される二次圧が大きくなるように動作する。
【0026】
本体傾斜センサ32は、ショベル本体(つまり、下部走行体1及び上部旋回体3を含む機体)の傾斜角度(本体傾斜角度)を検出する。本体傾斜センサ32は、例えば上部旋回体3に設けられ、上部旋回体3の傾斜角度を本体傾斜角度としてコントローラ30に出力する。
【0027】
[油圧回路の構成]
次に、
図3を参照して、ショベルに搭載される油圧回路の構成例について説明する。
図3は、
図1のショベルに搭載される油圧回路の構成例を示す概略図である。
図3は、
図2と同様に、機械的動力系、高圧油圧ライン、パイロットライン、及び電気制御系を、それぞれ二重線、太実線、破線、及び点線で示している。
【0028】
図3の油圧回路は、エンジン11によって駆動されるメインポンプ14L、14Rから、管路42L、42Rを経て作動油タンクまで作動油を循環させている。メインポンプ14L、14Rは、
図2のメインポンプ14に対応する。
【0029】
管路42Lは、コントロールバルブ17内に配置された制御弁171、173、175L及び176Lのそれぞれをメインポンプ14Lと作動油タンクとの間で並列に接続する高圧油圧ラインである。管路42Rは、コントロールバルブ17内に配置された制御弁172、174、175R及び176Rのそれぞれをメインポンプ14Rと作動油タンクとの間で並列に接続する高圧油圧ラインである。
【0030】
制御弁171は、メインポンプ14Lが吐出する作動油を左側走行用油圧モータ1Aへ供給し、且つ、左側走行用油圧モータ1Aが吐出する作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。
【0031】
制御弁172は、メインポンプ14Rが吐出する作動油を右側走行用油圧モータ1Bへ供給し、且つ、右側走行用油圧モータ1Bが吐出する作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。
【0032】
制御弁173は、メインポンプ14Lが吐出する作動油を旋回用油圧モータ2Aへ供給し、且つ、旋回用油圧モータ2Aが吐出する作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。
【0033】
制御弁174は、メインポンプ14Rが吐出する作動油をバケットシリンダ9へ供給し、且つ、バケットシリンダ9内の作動油を作動油タンクへ排出するためのスプール弁である。
【0034】
制御弁175L、175Rは、メインポンプ14L、14Rが吐出する作動油をブームシリンダ7へ供給し、且つ、ブームシリンダ7内の作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。
【0035】
制御弁176L、176Rは、メインポンプ14L、14Rが吐出する作動油をアームシリンダ8へ供給し、且つ、アームシリンダ8内の作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。
【0036】
ブリード弁177Lは、メインポンプ14Lが吐出する作動油に関するブリード流量を制御するスプール弁である。ブリード弁177Rは、メインポンプ14Rが吐出する作動油に関するブリード流量を制御するスプール弁である。ブリード弁177L、177Rは
図2のブリード弁177に対応する。
【0037】
ブリード弁177L、177Rは、例えば、最小開口面積(開度0%)の第1弁位置と最大開口面積(開度100%)の第2弁位置とを有する。ブリード弁177L、177Rは、第1弁位置と第2弁位置との間で無段階に移動可能である。
【0038】
レギュレータ13L、13Rは、メインポンプ14L、14Rの斜板傾転角を調節することによって、メインポンプ14L、14Rの吐出量を制御する。レギュレータ13L、13Rは、
図2のレギュレータ13に対応する。コントローラ30は、例えば、メインポンプ14L、14Rの吐出圧の増大に応じてメインポンプ14L、14Rの斜板傾転角をレギュレータ13L、13Rで調節して吐出量を減少させる。吐出圧と吐出量との積で表されるメインポンプ14の吸収馬力がエンジン11の出力馬力を超えないようにするためである。
【0039】
アーム操作レバー26Aは、操作装置26の一例であり、アーム5を操作するために用いられる。アーム操作レバー26Aは、パイロットポンプ15が吐出する作動油を利用し、レバー操作量に応じた制御圧を制御弁176L、176Rのパイロットポートに導入させる。具体的には、アーム操作レバー26Aは、アーム閉じ方向に操作された場合に、制御弁176Lの右側パイロットポートに作動油を導入させ、且つ、制御弁176Rの左側パイロットポートに作動油を導入させる。また、アーム操作レバー26Aは、アーム開き方向に操作された場合には、制御弁176Lの左側パイロットポートに作動油を導入させ、且つ、制御弁176Rの右側パイロットポートに作動油を導入させる。
【0040】
ブーム操作レバー26Bは、操作装置26の一例であり、ブーム4を操作するために用いられる。ブーム操作レバー26Bは、パイロットポンプ15が吐出する作動油を利用し、レバー操作量に応じた制御圧を制御弁175L、175Rのパイロットポートに導入させる。具体的には、ブーム操作レバー26Bは、ブーム上げ方向に操作された場合に、制御弁175Lの右側パイロットポートに作動油を導入させ、且つ、制御弁175Rの左側パイロットポートに作動油を導入させる。また、ブーム操作レバー26Bは、ブーム下げ方向に操作された場合には、制御弁175Lの左側パイロットポートに作動油を導入させ、且つ、制御弁175Rの右側パイロットポートに作動油を導入させる。
【0041】
吐出圧センサ28L、28Rは、吐出圧センサ28の一例であり、メインポンプ14L、14Rの吐出圧を検出し、検出した値をコントローラ30に対して出力する。
【0042】
操作圧センサ29A、29Bは、操作圧センサ29の一例であり、アーム操作レバー26A、ブーム操作レバー26Bに対する操作者の操作内容を圧力の形で検出し、検出した値をコントローラ30に対して出力する。操作内容は、例えば、レバー操作方向、レバー操作量(レバー操作角度)等である。
【0043】
左右走行レバー(又はペダル)、バケット操作レバー、及び旋回操作レバー(何れも図示せず。)はそれぞれ、下部走行体1の走行、バケット6の開閉、及び、上部旋回体3の旋回を操作するための操作装置である。これらの操作装置は、アーム操作レバー26A、ブーム操作レバー26Bと同様に、パイロットポンプ15が吐出する作動油を利用し、レバー操作量(又はペダル操作量)に応じた制御圧を油圧アクチュエータのそれぞれに対応する制御弁の左右何れかのパイロットポートに導入させる。これらの操作装置のそれぞれに対する操作者の操作内容は、操作圧センサ29A、29Bと同様に、対応する操作圧センサによって圧力の形で検出され、検出値がコントローラ30に対して出力される。
【0044】
コントローラ30は、操作圧センサ29A、29B等の出力を受信し、必要に応じてレギュレータ13L、13Rに対して制御指令を出力し、メインポンプ14L、14Rの吐出量を変化させる。また、必要に応じて比例弁31L1、31R1に対して電流指令を出力し、ブリード弁177L、177Rの開口面積を変化させる。
【0045】
比例弁31L1、31R1は、コントローラ30が出力する電流指令に応じてパイロットポンプ15からブリード弁177L、177Rのパイロットポートに導入される二次圧を調整する。比例弁31L1、31R1は、
図2の比例弁31に対応する。
【0046】
比例弁31L1は、ブリード弁177Lを第1弁位置と第2弁位置の間の任意の位置で停止できるように二次圧を調整可能である。比例弁31R1は、ブリード弁177Rを第1弁位置と第2弁位置の間の任意の位置で停止できるように二次圧を調整可能である。
【0047】
[加減速特性の制御]
ところで、ショベルにおいては、作業内容に応じて操作装置26のレバー操作(又はペダル操作)に対する応答性や加減速特性を緩やかに変更することで、作業者によるショベルの操作性、ショベルの作業効率が改善したり、作業者の疲れが軽減されたり、安全性が向上したりする場合がある。
【0048】
例えば、ショベルの本体が振動しているときには、この振動によって操作者自身が揺れるため、意図しない操作入力を入れてしまう、いわゆる手ハンチングを引き起こし、この手ハンチングの影響によって、さらにショベル本体の振動が増幅する場合がある。この場合、操作装置26のレバー操作(又はペダル操作)に対する応答性や加減速特性が低いほうが好ましい。ショベルを慎重(緩やか)に動かすことができるため、レバー操作に対して油圧アクチュエータ(ブーム、アーム、バケット等)が俊敏に動くことを抑制することができる。
【0049】
そこで、本実施形態では、コントローラ30の加減速特性制御部300は、ショベル本体の振動発生有無に応じて、操作装置26のレバー操作(又はペダル操作)に対する油圧アクチュエータの加減速特性を制御する。具体的には、加減速特性制御部300は、ショベル本体の振動を検知したときに、油圧アクチュエータの加減速特性が低くなるように変更する。これにより、作業者の作業効率の改善、作業者の疲れの軽減、及び安全性の向上を図ることができる。
【0050】
図4は、作業モードに応じたレバー操作量とブリード弁開口面積との関係を示す図である。レバー操作量とブリード弁開口面積との関係(以下「ブリード弁開口特性」という。)は、例えば、参照テーブルとしてROM等に記憶されていてもよく、所定の計算式で表現されていてもよい。
【0051】
加減速特性制御部300は、ショベル本体の振動発生有無に応じてブリード弁開口特性を変更することにより、ブリード弁177の開口面積を制御する。例えば
図4に示されるように、加減速特性制御部300は、レバー操作量が同じである場合、「振動発生時モード」設定でのブリード弁177の開口面積を、「通常時モード」設定でのブリード弁177の開口面積よりも大きくする。ブリード流量を増大させてアクチュエータ流量を低減するためである。これにより、操作装置26のレバー操作に対する応答性を遅くして加減速特性を低くすることができる。
【0052】
より具体的には、加減速特性制御部300は、作業モードに対応する制御指令を比例弁31に対して出力することで、ブリード弁177の開口面積を増減させる。例えば、「振動発生時モード」が選択された場合、「通常時モード」が選択された場合よりも、比例弁31に対する電流指令を低減させて比例弁31の二次圧を低減させることで、ブリード弁177の開口面積を増大させる。ブリード流量を増大させてアクチュエータ流量を低減するためである。
【0053】
加減速特性制御部300は、例えば本体傾斜センサ32により検出される本体傾斜角度に基づいて、ショベル本体の振動発生の有無を検知できる。
図5は、本体傾斜角度の通常時と振動発生時の波形の一例を示す図である。
図5に示すように、通常時には本体傾斜角度はほぼ0度近傍で安定している。一方、振動発生時には本体傾斜角度は0度を中心として大きく正方向、負方向に揺れ動く。加減速特性制御部300は、このような通常時と振動発生時の本体傾斜角度の波形の差異に基づき、ショベル本体の振動発生の有無を検知する。
【0054】
次に、
図6を参照して、加減速特性制御部300がブリード弁177L、177Rの開口面積を変更して油圧アクチュエータの加減速特性を制御する処理について説明する。
図6は、加減速特性制御部300により実施される加減速特性制御のフローチャートである。加減速特性制御部300は、ショベルの稼働中に所定の制御周期で繰り返しこの処理を実行する。
【0055】
ステップS1では、ブリード弁開口特性が通常時モードに設定される。加減速特性制御部300は、
図4に示した通常時モードのブリード弁開口特性に基づいて、レバー操作量に応じたブリード弁開口面積を選択し、選択したブリード弁開口面積となる比例弁31L1、31R1の目標電流値を決定する。その後、加減速特性制御部300は、目標電流値に対応する電流指令を比例弁31L1、31R1に対して出力する。
【0056】
ステップS2では、本体傾斜角度が計測される。加減速特性制御部300は、本体傾斜センサ32の出力情報に基づいて本体傾斜角度を算出できる。
【0057】
ステップS3では、ショベル本体に振動が発生しているか否かが判定される。加減速特性制御部300は、ステップS2で計測された本体傾斜角度の時系列情報に基づき振動発生を検出する。加減速特性制御部300は、例えば本体傾斜角度の時系列情報の振幅や振動数が所定の閾値以上のときに、
図5に例示した振動発生時の波形になっていると判断して、振動発生を検出することができる。振動発生を検出した場合(ステップS3のYes)にはステップS4に進む。振動発生を検出しない場合(ステップS3のNo)にはステップS2に戻り、ブリード弁開口特性が通常時モードに維持される。
【0058】
ステップS4では、ステップS3の判定の結果、ショベル本体に振動が発生しているので、ブリード弁開口特性が通常時モードから振動発生時モードに変更される。このとき、比例弁31L1、31R1は、ブリード弁177L、177Rのパイロットポートに作用する二次圧を低減させる。これにより、ブリード弁177L、177Rの開口面積が増大し、ブリード流量が増大し、アクチュエータ流量が低減する。その結果、操作装置26のレバー操作に対する応答性を遅くして加減速特性を低くすることができる。
【0059】
ステップS5では、ステップS2と同様に本体傾斜角度が計測される。
【0060】
ステップS6では、ショベル本体に発生していた振動が収束したか否かが判定される。加減速特性制御部300は、例えばステップS3と同様に、ステップS5で計測された本体傾斜角度の波形に基づき振動収束を検出することができる。振動収束を検出した場合(ステップS6のYes)にはステップS7に進む。振動収束を検出しない場合(ステップS6のNo)には、依然としてショベル本体が振動している状態なので、ステップS5に戻り、振動が収束するまでブリード弁開口特性が振動発生時モードに維持される。
【0061】
ステップS7では、ステップS6の判定の結果、ショベル本体の振動が収束したので、ブリード弁開口特性が振動発生時モードから通常時モードに戻されて、本制御フローを終了する。
【0062】
第1実施形態に係るショベルの効果を説明する。第1実施形態のショベルは、油圧アクチュエータとしてのブームシリンダ7及びアームシリンダ8と、油圧アクチュエータの操作のために用いられる操作装置としてのアーム操作レバー26A及びブーム操作レバー26Bと、ショベル本体の振動を検知したときに、操作装置の操作に対する油圧アクチュエータの応答性が鈍くなるように制御する制御装置としてのコントローラ30の加減速特性制御部300と、を備える。より詳細には、加減速特性制御部300は、ショベル本体の振動を検知したときに、操作装置の操作に対する油圧アクチュエータの加減速特性が低くなるように制御する。
【0063】
例えば木材や石などの障害物に乗った状態など、ショベルの足場が不安定な場所でショベルの作業者が操作を行う場合、微小なレバー操作でもショベルに振動が発生し、この振動によって手ハンチングが発生し、この結果、ショベル本体の振動が増幅することがある。この問題に対して、本実施形態では上記構成によって、ショベル本体に振動が発生した場合には、油圧アクチュエータの加減速特性を低くすることにより、ショベルの作業者のレバー操作に対する油圧アクチュエータの応答を鈍くできる。これにより、振動発生に伴い操作者自身が振られて手ハンチングが発生しても、この手ハンチングによるショベル本体の振動増幅を防止できる。
【0064】
また、第1実施形態のショベルでは、コントローラ30は、本体傾斜角度の変化に基づきショベル本体の振動を検知する。本体傾斜角度の変化と、ショベル本体の振動との関連性が高いので、振動を精度よく検知することが可能となる。これにより、実際には油圧アクチュエータの加減速特性を低くする必要がないときに、振動発生を誤検知して無駄に加減速特性が変更されることを抑制できる。
【0065】
第1実施形態のショベルは、下部走行体1と、下部走行体1に旋回可能に搭載される上部旋回体3と、上部旋回体3に搭載されるメインポンプ14L,14Rと、メインポンプ14L,14Rが吐出する作動油のうち、油圧アクチュエータを経由せずに作動油タンクに流れる作動油の流量を制御するブリード弁177L,177Rと、を備える。コントローラ30は、ブリード弁177L,177Rの開口面積を変更することにより、油圧アクチュエータの加減速特性を制御する。
【0066】
ブリード弁177L,177Rは、メインポンプ14L、14Rが吐出する作動油のブリード流量を制御する弁であるので、ブリード弁177L,177Rの開口面積を変更するだけで、各油圧アクチュエータ(ブームシリンダ7、アームシリンダ8、バケットシリンダ9、左側走行用油圧モータ1A、右側走行用油圧モータ1B、及び旋回用油圧モータ2A)に供給される作動油の流量(アクチュエータ流量)を纏めて変更できる。これにより、油圧アクチュエータの加減速特性の変更制御を簡易に行うことができる。
【0067】
[第2実施形態]
次に、
図7及び
図8を参照して第2実施形態を説明する。
図7は、第2実施形態に係るショベルに搭載される油圧回路の構成例を示す概略図である。
図7に示される油圧回路では、比例弁31L1、31R1に代えて、減圧弁33L1、33R1、33L2、33R2が設けられている点で、第1実施形態の油圧回路と異なる。
【0068】
以下では、第1実施形態の油圧回路と異なる点について説明する。
【0069】
コントローラ30は、操作圧センサ29A、29B等の出力を受信し、必要に応じてレギュレータ13L、13Rに対して制御指令を出力し、メインポンプ14L、14Rの吐出量を変化させる。また、コントローラ30は、減圧弁33L1、33R1に対して電流指令を出力し、ブーム操作レバー26Bの操作量に応じて制御弁175L、175Rのパイロットポートに導入される二次圧を減圧する。また、コントローラ30は、減圧弁33L2、33R2に対して電流指令を出力し、アーム操作レバー26Aの操作量に応じて制御弁176L、176Rのパイロットポートに導入される二次圧を減圧する。
【0070】
第2実施形態では、コントローラ30の加減速特性制御部300は、第1実施形態と同様に、ショベル本体の振動発生有無に応じて、操作装置26のレバー操作(又はペダル操作)に対する油圧アクチュエータの加減速特性を制御する。これにより、作業者の作業効率の改善、作業者の疲れの軽減、及び安全性の向上を図ることができる。
【0071】
図8は、作業モードに応じたレバー操作量と制御弁のPT開口面積との関係を示す図である。なお、制御弁のPT開口面積とは、制御弁175L、175Rのメインポンプ14L、14Rと連通するポートと作動油タンクと連通するポートとの間の開口面積を意味する。また、レバー操作量と制御弁のPT開口面積との関係(以下「制御弁開口特性」という。)は、例えば、参照テーブルとしてROM等に記憶されていてもよく、所定の計算式で表現されていてもよい。
【0072】
加減速特性制御部300は、ショベル本体の振動発生有無に応じて制御弁開口特性を変更することにより、制御弁のPT開口面積を制御する。例えば
図8に示されるように、加減速特性制御部300は、レバー操作量が同じである場合、「振動発生時モード」設定での制御弁175L、175RのPT開口面積を、「通常時モード」設定での制御弁175L、175RのPT開口面積よりも大きくする。「振動発生時モード」において、作動油タンクに流れる作動油の流量を増大させてブームシリンダ7に流れる作動油の流量を低減するためである。これにより、操作装置26のレバー操作に対する応答性を遅くして加減速特性を低くすることができる。
【0073】
より具体的には、加減速特性制御部300は、例えば、作業モードに対応する制御指令を減圧弁33L1、33R1に対して出力することで、制御弁175L、175RのPT開口面積を増減させる。例えば、「振動発生時モード」が選択された場合、「通常時モード」が選択された場合よりも、減圧弁33L1、33R1に対する電流指令を低減させて減圧弁33L1、33R1の二次圧を低減させることで、制御弁175L、175RのPT開口面積を増大させる。
【0074】
また、加減速特性制御部300は、例えば、作業モードに対応する制御指令を減圧弁33L2、33R2に対して出力することで、制御弁176L、176RのPT開口面積を増減させる。例えば、「振動発生時モード」が選択された場合、「通常時モード」が選択された場合よりも、減圧弁33L2、33R2に対する電流指令を低減させて減圧弁33L2、33R2の二次圧を低減させることで、制御弁176L、176RのPT開口面積を増大させる。
【0075】
第2実施形態では、加減速特性制御部300が、制御弁175L、175Rに作用するパイロット圧を調整して油圧アクチュエータの加減速特性を制御する処理を実施する。この処理の基本的な流れは
図6を参照して説明した第1実施形態の処理と同様である。振動発生有無に応じて変更する特性が、
図4の「ブリード弁開口特性」ではなく、
図8の「制御弁開口特性」である点が、第1実施形態と異なる。
【0076】
第2実施形態のショベルは、上部旋回体3に搭載されるメインポンプ14L,14Rと、メインポンプ14L,14Rから油圧アクチュエータ(ブームシリンダ7及びアームシリンダ8)に向かう作動油の流れを制御する制御弁175L,175R,176L,176Rと、を備え、コントローラ30は、制御弁175L,175R,176L,176Rに作用するパイロット圧を変更することにより、油圧アクチュエータの加減速特性を制御する。
【0077】
この構成により、各油圧アクチュエータに接続する制御弁175L,175R,176L,175Rのパイロット圧を変更することによって、第1実施形態と同様に、該当の油圧アクチュエータの加減速特性を制御することが可能となり、手ハンチングによるショベル本体の振動増幅を防止できる。また、第1実施形態とは異なり、各油圧アクチュエータと接続される制御弁175L,175R,176L,175Rを制御することによって、各油圧アクチュエータの加減速特性の制御を個別に行うことが可能であり、制御の自由度を高くできる。
【0078】
[第3実施形態]
図9~
図14を参照して第3実施形態を説明する。
図9は、第3実施形態に係るショベルに搭載されるコントローラ30Aの構成例を示すブロック図である。第3実施形態では、油圧アクチュエータの応答性が鈍くなるように制御するためのトリガである「ショベル本体の振動の発生」を判定する手法が上記の第1、第2実施形態と異なる。
【0079】
第1、第2実施形態では、ショベル本体の振動を検出した後に油圧アクチュエータの加減速特性を変更する構成を例示したが、第3実施形態のように、振動が発生する可能性が高い作業状態のときに予め加減速特性を振動発生時モードに変更してもよい。この場合、コントローラ30Aは、例えば、本体傾斜センサ32などの各種センサ情報に基づく短期的または長期的な検知に基づき、振動発生が起きやすい作業状態か否かを判断する。そして、そのような作業状態と判定したときに、振動発生を予測して加減速特性を自動調整する。コントローラ30Aは、例えばデータベースや学習によって、振動が発生する可能性が高い作業状態の判断基準を獲得できる。
【0080】
図9に示すように、コントローラ30Aは、第1、第2実施形態でも説明した加減速特性制御部300の他に、振動予測部310と、基準傾斜判定部320とを有する。
【0081】
振動予測部310は、本体傾斜センサ32などの各種センサ情報に基づく短期的または長期的な検知に基づき、ショベル本体の振動が発生する可能性が高い作業状態か否かを判定し、ショベル本体の振動発生を予測する。加減速特性制御部300は、振動予測部310による振動発生の判定に応じて、油圧アクチュエータの応答性が鈍くなるように制御する。
【0082】
図10を参照して、振動予測部310による振動発生に関する短期的な検知手法の例を説明する。
図10は、振動発生に関する短期的な検知手法の例を説明するための図である。
図10は本体傾斜角度の通常時と振動発生時の波形の一例を示しており、
図5と同一の構成である。この検知手法では、
図10に示すように、通常時の波形では到達せず、かつ、振動発生時の波形では到達する値で、本体傾斜角度の正・負の方向の所定の閾値T1、T2を設定する。振動予測部310は、本体傾斜センサ32の計測値が、1~5秒程度の短期的な所定期間に閾値T1、T2まで所定回数到達したときに、振動発生と判定することができる。
【0083】
この構成により、振動発生から所定期間経過後(例えば6秒後)には、加減速特性制御部300により油圧アクチュエータの応答性が鈍くなるように制御され、当該振動で手ハンチングが生じることを抑制し、以降、ショベルの足場が不安定な場所であっても振動を低減することができる。
【0084】
また、振動予測部310は、本体傾斜角度の波形が所定期間に閾値T1、T2まで所定回数到達したときに、さらに操作装置(アーム操作レバー26Aやブーム操作レバー26Bなど)の入力が振動的であることも検知した場合に、振動発生と判定してもよい。操作装置の入力は、ショベル本体の振動検知手法と同様に、例えば操作装置の入力が正・負の所定の閾値に所定回数到達したときに、振動的となっていると判定することができる。
【0085】
なお、振動予測部310が振動発生を予測しても、ショベルの操作者が熟練者の場合には油圧アクチュエータの応答性をそのまま維持し、ショベルの操作者が初心者の場合には油圧アクチュエータの応答性を鈍くしたり、操作をサポートしたりする、というように、加減速特性制御部300がショベル操作者の技能に応じて振動抑制機能を働かせるか否か判断して、動作を使い分けてもよい。この場合、例えば、コントローラ30Aの内部メモリ等にショベル操作者のリストを登録しておき、操作者による選択操作やカメラによる顔検出などの手法でコントローラ30Aが現在の操作者を認識することができる。さらに、振動を低減させる方向の操作方向の場合には、振動抑制機能を止めてもよい。
【0086】
または、操作者自らが認識する技量に応じて、サポートレベルを自分で選択操作できる構成でもよい。例えば、キャビン10内に設置される表示装置340に、振動抑制機能のサポートレベルを複数段階(例えばレベル1~5の5段階)の表示や選択操作を行えるサポートレベル表示部344を設けることができる(
図13参照)。これにより、自分の操作の熟練度を把握している操作者が、操作抑制サポートのレベルを自分で適宜選択することができ、操作者自らが認識する技量に応じたサポートを機械から享受できる。
【0087】
図11を参照して、振動予測部310による振動発生に関する長期的な検知手法の例を説明する。
図11は、振動発生に関する長期的な検知手法の例を説明するための図である。
図11は本体傾斜角度の通常時と振動発生時の波形の一例を示しており、
図10と同一の波形を3回繰り返した構成である。振動予測部310は、
図11に示すように、
図10のような短期的な振動検知が長期的な所定期間(例えば1分間)に適当な回数(
図11では3回)生じる場合に、足場が悪く振動が発生する可能性が高いと判定することができる。
【0088】
図9に戻り、基準傾斜判定部320は、ショベルが作業を行っている場所の水平に対する傾斜角度を基準傾斜として判定する。基準傾斜判定部320は、例えば、ショベルが傾斜地で作業を行っている場合に、本体傾斜角度の所定期間の平均値の情報などに基づいて傾斜地の傾斜角度を算出して基準傾斜とできる。
【0089】
振動予測部310は、基準傾斜判定部320により判定された基準傾斜を利用して振動発生の判定を行うことができる。
図12は、基準傾斜を利用した振動判定の例を説明するための図である。
図12は、本体傾斜角度の通常時と振動発生時の波形の一例を示しており、
図10に対して振動の中心が0度からずれている。この振動中心の0度からのずれ量が、基準傾斜判定部320により判定される基準傾斜Sに相当する。
図12に示す例では、振動予測部310は、
図10の閾値T1,T2から、基準傾斜Sの方向にずらして正・負の閾値T1´、T2´を設定する。この構成により、さまざまな傾斜条件においても振動発生を精度良く予測でき、振動発生をより確実に防止できる。
【0090】
なお、基準傾斜判定部320は、振動予測部310が長期的な検知手法を用いる場合には、その都度の基準傾斜Sを判定して振動予測部310に提供してもよい。振動予測部310は、その都度の基準傾斜Sに基づいて本体傾斜角度の振動発生頻度を検出する。
【0091】
図9に示すように、コントローラ30Aは、さらに報知部330を有する。報知部330は、加減速特性制御部300が油圧アクチュエータの応答性を鈍くする制御、または通常時の特性に戻す制御を行ったときに、その旨をショベルの操作者に報知する。報知部330は、例えばキャビン10内に設置される表示装置340に表示される。
【0092】
このような報知部330の機能を設けることにより、ショベルの操作者が、油圧アクチュエータの応答性の変化を認知して、それに相応しい操作を行うことが可能となる。これにより作業性の低下を防止できる。
【0093】
また、
図9に示すように、振動予測部310は、例えばスイッチ350等の操作手段により動作をオン/オフさせる機能を備えてもよい。ショベルの操作において、例えばバケット6にこびりついた泥などをふるい落とす、あえて振動的に操作したい場合がある。このような場合に、操作者がスイッチ350をオフに操作することによって、加減速特性制御部300の動作を停止させて油圧アクチュエータの応答性を鈍くする制御を停止させ、これにより、操作者の意図に反して応答性が変化することを防止できる。
【0094】
図13は、表示装置340の構成の一例を示す図である。
図13に示すように、表示装置340は、各種情報を表示する表示画面341の他に、報知部330により報知される情報(例えば
図4のブリード弁開口特性が通常時モードか振動発生時モードかの情報)を表示するモード表示部342や、振動判定機能のオン/オフ状態を表示するオン/オフ表示部343を設けることができる。モード表示部342及びオン/オフ表示部343は、表示画面341とハードウェア的に区分された別のディスプレイとしてもよいし、表示画面341の一部をソフトウェア的に区分され、表示画面341と一体的なディスプレイとしてもよい。
【0095】
図14は、第3実施形態のコントローラ30Aにより実施される加減速特性制御のフローチャートである。ステップS1~S7は、
図6を参照して説明した第1実施形態のフローチャートのステップS1~S7と同一なので説明を省略する。
【0096】
ステップS11では、振動予測部310によりスイッチ350がオン状態か否かが判定される。スイッチ350がオン状態の場合(ステップS11のYes)にはステップS2に進む。そうでない場合(ステップS11のNo)には、ショベルの操作者が振動判定機能を停止させているので、加減速特性制御を実施せずに本制御フローを終了する。
【0097】
ステップS12では、基準傾斜判定部320により、基準傾斜Sが判定される。基準傾斜判定部320は、ステップS2で計測された本体傾斜角度の時系列情報に基づき基準傾斜Sを判定して、振動予測部310に出力する。ステップS12の処理が完了するとステップS13に進む。
【0098】
ステップS13では、振動予測部310によりショベル本体の振動発生の予測が行われる。振動予測部310は、ステップS2で計測された本体傾斜角度の時系列情報に基づく短期的または長期的な検知に基づき、ショベル本体の振動発生の予測を行う。また、振動予測部310は、アーム操作レバー26Aやブーム操作レバー26Bなどの操作装置の入力が振動的であることを検知した場合に、振動発生の可能性があると判定してもよい。振動予測部310は、振動発生の判定結果を加減速特性制御部300に出力する。加減速特性制御部300は、ステップS3にて、振動予測部310の判定結果に基づき振動発生有無に応じた動作を行う。
【0099】
ステップS14では、報知部330により、ステップS4にてブリード弁開口特性が通常時モードから振動発生時モードに変更されたことが表示装置340のモード表示部342を介して、ショベルの操作者に報知される。ステップS14の処理が完了するとステップS5に進む。
【0100】
ステップS15では、報知部330により、ステップS7にてブリード弁開口特性が振動発生時モードから通常時モードに戻されたことが表示装置340のモード表示部342を介して、ショベルの操作者に報知される。ステップS15の処理が完了すると本制御フローを終了する。
【0101】
なお、第3実施形態のコントローラ30Aは、振動予測部310、基準傾斜判定部320、報知部330に係る各機能の一部のみを備える構成でもよい。
【0102】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素及びその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【0103】
上記の加減速特性を制御する処理では、選択された作業モードに応じて加減速特性のみを増減させる場合について説明したが、加減速特性に加えて、メインポンプ14L、14Rを駆動するエンジン11の回転数を増減させてもよい。例えば、「振動発生時モード」が選択された場合、エンジン11の回転数を低減して、ポンプ流量を抑えてもよい。また、メインポンプ14L、14Rの傾斜角を制御することにより、1回転あたりの吐出量を減らしてポンプ流量を抑えてもよい。または、加減速特性の代わりにポンプ流量を抑える制御のみを行ってもよい。
【0104】
上記実施形態では、振動発生時に加減速特性を変更する制御を行う油圧アクチュエータとしてブームシリンダ7及びアームシリンダ8を例示したが、バケットシリンダ9、左側走行用油圧モータ1A、右側走行用油圧モータ1B、旋回用油圧モータ2Aなどの他の油圧アクチュエータを用いてもよい。同様に、上記実施形態では、油圧アクチュエータの操作のために用いられる操作装置としてアーム操作レバー26A及びブーム操作レバー26Bを例示したが、左右走行レバー(又はペダル)、バケット操作レバー、旋回操作レバーなどの他の操作装置を用いてもよい。
【0105】
上記実施形態では、第1実施形態の加減速特性制御部300及び第3実施形態の振動予測部310は、本体傾斜センサ32を用いて計測した本体傾斜角度に基づき振動発生を検知または予測を行うが、振動発生の検知手法はこれに限られない。例えば
図15に示すように、本体傾斜角度以外の多種の振動検知手段を備える構成でもよい。なお
図15では、説明の便宜上、第3実施形態の振動予測部310の変形例として例示するが、第1実施形態の加減速特性制御部300にも適用可能である。
【0106】
図15は、第3実施形態の振動予測部310の変形例を示すブロック図である。
図15に示すように、振動予測部310は、傾斜角変動検知部311と、加速度・角速度変動検知部312と、重心変化検知部313と、ボタン操作検知部314と、画像分析部315と、地面情報判定部316と、クレーンモード検知部317と、バケット位置検知部318と、向き検知部319と、を有する。
【0107】
傾斜角変動検知部311は、上記実施形態と同様に、本体傾斜センサ32を用いて計測した本体傾斜角度に基づき振動発生を検知したり、予測したりしてよい。
【0108】
加速度・角速度変動検知部312は、本体傾斜センサ32の代わりに、ジャイロセンサ、加速度センサ、IMU(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)等を含みうるセンサ361などにより計測される加速度情報や角速度情報に基づいて振動発生を検知したり、予測したりしてよい。
【0109】
重心変化検知部313は、ショベルの重心位置の変化や、ショベルの位置や速度の変化に基づいて振動発生を検知したり、予測したりしてよい。
【0110】
ショベルの重心位置は、ショベルが現在置かれている状況に応じて変化する。このような状況は、傾斜の角度、旋回体の向き、バケットの重量、エンジン回転数、作業モードなどを含みうる。
【0111】
たとえばバケットが積載する土砂の重量、あるいはクレーンモード時の荷物の重量に応じて、車体が不安定となるバケット位置やアタッチメントの動作は変化する。したがってバケット重量は、ショベルの重心位置の変化を規定するパラメータとして好適である。
【0112】
油圧ポンプから吐出される圧油の量のベース値(上限値)が変化するため、実態としてはアタッチメントの速度が変化する。したがってエンジンの回転数は、ショベルの重心位置の変化を規定するパラメータとして好適である。
【0113】
また、ショベルによっては、作業モード(たとえば、パワー、普通、エコなど)が切替え可能なものが存在する。この場合、作業モードに応じて、同じ操作入力に対するショベルの振る舞いが変化するため、作業モードは、ショベルの重心位置の変化を規定するパラメータとして好適である。なお、ショベルの位置や速度の情報は、例えばGPSを利用して取得できる。
【0114】
ボタン操作検知部314は、振動抑制機能を発揮するための機能発動ボタン362を設け、操作者が、例えば、これから荒地やスクラップ上に向かおうとする状況で、能動的に機能発動ボタンを押したときに、振動が発生する可能性が高いと検知(予測)してよい。荒地やスクラップ上等のように、ショベル本体の安定度が相対的に低下する状況では、地面からの動的な外乱やショベルの動作自体による動的な外乱によって、ショベル本体に振動が発生し易くなるからである。
【0115】
画像分析部315は、カメラ363(撮像手段)でショベルの走行位置の前方を撮影し、カメラ画像に基づき荒地を認定したときに、振動発生を検知したり、予測したりしてよい。ショベルが荒地等のように、ショベル本体の安定度が相対的に低下する状況では、ショベル本体に振動が発生し易くなるからである。また、画像分析部315は、カメラ363の画像ブレが大小の程度、または、カメラ363の撮像画像に対する画像認識で地面の凹凸具合を認定した結果に基づき、振動発生を検知したり、予測したりしてよい。画像ブレが相対的に大きくなっている場合、振動が発生している或いは振動が発生する可能性があると判断できるからである。また、地面の凹凸具合が相対的に大きくなると、ショベル本体の安定度が相対的に低下し、地面からの動的な外乱やショベルの動作自体による動的な外乱によって、ショベル本体に振動が発生し易くなるからである。
【0116】
地面情報判定部316は、データベース364などから取得できるICT(Information and Communication Technology)情報に基づき、ショベルの位置が、荒地、凹凸がある、起伏が激しい、などの情報を把握して、振動発生を検知したり、予測したりしてよい。上述の如く、荒地、相対的に大きな凹凸がある場所、或いは、起伏が激しい場所では、ショベル本体の安定度が相対的に低下し、地面からの動的な外乱やショベルの動作自体による動的な外乱によって、ショベル本体に振動が発生し易くなるからである。
【0117】
クレーンモード検知部317は、クレーンモードが起動されたときに振動発生を検知したり、予測したりしてよい。クレーンモードのときは、エンドアタッチメントとしてアーム5の先端に取り付けられたフックから、ワイヤーを介して積荷が吊られる状態となるので、地面からの動的な外乱やショベルの動作自体による動的な外乱に応じて、ショベル本体に振動が発生しやすくなるからである。
【0118】
バケット位置検知部318は、バケット6の位置を検知し、バケット6の位置に応じて振動発生を検知したり、予測したりしてもよい。例えば、バケット6がショベル本体から離れていると、重心がショベル本体の中央から外側へ移動することで、ショベル本体の安定度が相対的に低下し、地面等の外部からの動的な外乱やショベル自体の動作による動的な外乱によって、振動しやすくなるからである。
【0119】
例えば、
図16は、ショベル本体に振動が発生する可能性が高い状況の一例を示す図である。
【0120】
図16に示すように、ショベルには、ブーム4の自重W4、アーム5の自重W5、及び(バケット6内の収容物を含む)バケット6の自重W6によるショベル本体を転倒支点F回りで前方に転倒させようとする静的な転倒モーメント(以下、「静的転倒モーメント」)が作用している。一方、ショベルには、旋回機構2の自重を含む下部走行体1の自重W1及び上部旋回体3の自重W3による転倒支点F回りでショベル本体の転倒を抑制しようとする抑制モーメントが作用している。このとき、転倒支点Fは、アタッチメントの向き
に沿った下部走行体1の接地面の端部に相当する。そのため、バケット6の位置がショベル本体から相対的に離れている場合、静的転倒モーメントが相対的に大きくなり、ショベル本体の安定度が相対的に低下することになる。よって、このような状況で、地面等の外部からの動的な外乱やショベル自体の動作による動的な外乱によって、ショベル本体に後部を浮き上がらせるような動的な転倒モーメント(以下、「動的転倒モーメント」)が更に作用すると、ショベル本体に振動が発生し易くなる。
【0121】
特に、
図16に示すように、バケット6が地面から相対的に高い位置にある場合、バケット6の位置がショベル本体、具体的には、転倒支点Fから更に大きく離れてしまうことになる。そのため、このような状況では、地面等の外部からの動的な外乱やショベルの動作自体による動的な外乱によって、更に、ショベル本体に振動が発生し易くなる。よって、バケット位置検知部318は、バケット6の位置が地面から相対的に離れているとき、具体的には、バケット6の地面からの高さが所定閾値を超えているときに、ショベル本体に振動が発生する可能性が高いと予測してよい。
【0122】
向き検知部319は、下部走行体1の進行方向を基準とするアタッチメントの向き(上面視で、上部旋回体3からアタッチメントが延出する方向)を検知し、アタッチメントの向きと、下部走行体1の進行方向との差に応じて、ショベル本体の振動を検知したり、予測したりしてよい。
【0123】
例えば、
図17は、ショベル本体に振動が発生する可能性が高い状況の他の例を示す図である。
【0124】
図17に示すように、アタッチメントの向きが、下部走行体1の進行方向と略一致している場合(図中の点線の下部走行体1の場合)、転倒支点F(図中の点線)は、ショベル本体の重心位置と相対的に遠くなる。この場合、ショベル本体に作用する抑制モーメントは相対的に大きくなり、静的転倒モーメントは相対的に小さくなる。一方、アタッチメントの向きが、下部走行体1の進行方向に対して、大きく離れ、90°旋回した方向になっている場合(図中の実線の下部走行体1の場合)、転倒支点F(図中の実線)は、ショベル本体の重心位置と相対的に近くなる。この場合、ショベル本体に作用する抑制モーメントは相対的に小さくなり、静的転倒モーメントは相対的に大きくなる。そのため、このような状況では、ショベル本体の安定度が相対的に低下することになる。つまり、アタッチメントの向きが下部走行体1の進行方向に対して相対的に大きく離れている状況では、地面等の外部からの動的な外乱やショベルの動作自体による動的な外乱によって、ショベル本体に振動が発生し易くなる。よって、向き検知部319は、アタッチメントの向きが下部走行体1の進行方向から相対的に大きく離れている(具体的には、アタッチメントの向きと下部走行体1の進行方向との上面視での角度差が所定閾値を超えている)ときに、ショベル本体に振動が発生する可能性が高いと予測してよい。
【0125】
このように、第1実施形態の加減速特性制御部300及び第3実施形態の振動予測部310は、ショベル本体の安定度が低下する方向の所定条件が成立したときに、ショベル本体に振動が発生する可能性が高いと判断し、振動発生時モードに切り替えることができる。具体的には、第1実施形態の加減速特性制御部300及び第3実施形態の振動予測部310は、上述の如く、ショベル本体の安定度が相対的に低い状況(例えば、バケット6の位置がショベル本体から大きく離れている状況やアタッチメントの向きが下部走行体1の進行方向から相対的に離れている状況)にあるときに、ショベル本体に振動が発生する可能性が高いと判断し、振動発生時モードに切り替えてよい。また、第1実施形態の加減速特性制御部300及び第3実施形態の振動予測部310は、ショベル上の任意の基準位置または基準平面における、位置、速度、もしくは加速度等の値、またはそれらの変動量など、ショベルの姿勢の変化に関する情報が、閾値以上、または閾値以上が所定回数以上になると、振動発生を検知またはショベル本体の振動が発生する可能性が高い作業状態と予測し、振動発生時モードに切り替えることができる。なお、上記の基準位置や基準平面は、アタッチメントではなく、運転席(キャビン10)がありオペレータの操作手段が存在する上部旋回体3に特定される。または、第1実施形態の加減速特性制御部300及び第3実施形態の振動予測部310は、ショベルの安定度、ショベルの滑り、ショベルの浮き上がり、ショベルの重心位置の少なくとも一つの演算された情報に基づいて、振動発生の検知や予測を行ってもよい。
【0126】
なお、
図15に示した各要素311~319は、すべてが必須ではなく、一部のみを有する構成でもよい。
【0127】
また、第3実施形態の振動予測部310が、ショベルの姿勢の変化に関する情報などのパラメータに基づく短期的または長期的な検知に基づきショベル本体の振動発生を予測する構成を例示したが、振動発生に関する短期的または長期的な検知手法は、振動予測だけではなく実際に振動が発生していることの検出にも適用できる。
【0128】
図18は、
図6及び
図14のステップS3のサブルーチン処理の一例を示すフローチャートである。
図18のサブルーチンは、ステップS3の振動発生判定処理に、振動発生に関する短期的及び長期的な検知手法を適用したときのフローの一例を示す。
図18に示す一連のフローは加減速特性制御部30
0により実施される。
【0129】
まずステップS31では、短期的な検知手法により振動発生が検知されたか否かが判定される。振動発生が検知された場合には(S31のYes)ステップS33に進む。振動発生が検知されない場合には(S31のNo)ステップS32に進む。
【0130】
ステップS32では、ステップS31にて短期的な検知手法により振動発生が検知されなかったので、長期的な検知手法により振動発生が検知されたか否かが判定される。振動発生が検知された場合には(S32のYes)ステップS33に進む。振動発生が検知されない場合には(S32のNo)ステップS34に進む。
【0131】
ステップS33では、ステップS31にて短期的な検知手法により振動発生が検知され、または、ステップS32にて長期的な検知手法により振動発生が検知されたので、振動発生を検出したと判断してメインフローに戻り、ステップS4に進む。
【0132】
ステップS34では、ステップS31にて短期的な検知手法により振動発生が検知されず、かつ、ステップS32にて長期的な検知手法により振動発生が検知されなかったので、振動発生を未検出だと判断してメインフローに戻り、ステップS2に戻る。
【0133】
図15に示したように、第1実施形態の加減速特性制御部300及び第3実施形態の振動予測部310が、本体傾斜角度以外の多種の振動検知手段を備える場合、
図6及び
図14に示したフローチャートは、
図19及び
図20のように一般化できる。
図19は、
図6の各処理を一般化したフローチャートである。
【0134】
図19に示すように、ステップS101では、操作応答性(例えばブリード弁開口特性、制御弁開口特性など)が通常時モードに設定される。
【0135】
ステップS102では、ショベル本体の振動発生を検知したか否かが判定される。加減速特性制御部300は、例えば
図15に示した各要素311~319のいずれかを用いて振動発生を検知できる。振動発生を検出した場合(ステップS102のYes)にはステップS103に進む。振動発生を検出しない場合(ステップS102のNo)には、操作応答性はそのまま通常時モードに維持される。
【0136】
ステップS103では、ステップS102にてショベル本体の振動発生が検知されたので、操作応答性が通常時モードから振動発生時モードに変更される。
【0137】
ステップS104では、ショベル本体に発生していた振動が収束したか否かが判定される。加減速特性制御部300は、例えばステップS102と同様に、
図15に示した各要素311~319のいずれかを用いて振動収束を検知できる。振動収束を検出しない場合(ステップS104のNo)には、振動が収束するまで操作応答性が振動発生時モードに維持される。
【0138】
ステップS105では、ステップS104の判定の結果、ショベル本体の振動が収束したので、操作応答性が振動発生時モードから通常時モードに戻されて、本制御フローを終了する。
【0139】
図20は、
図14の各処理を一般化したフローチャートである。ステップS201、S204、S206、S207は、
図19のステップS101~S105と同様であるので説明を省略する。
【0140】
図20に示すように、ステップS202では、振動対応制御(例えば加減速特性制御)が実行中か否かが判定される。振動対応制御が実行中の場合(ステップS202のYes)にはステップS203に進む。そうでない場合(ステップS202のNo)には、振動対応制御を実施せずに本制御フローを終了する。
【0141】
ステップS203では、ショベル本体の振動発生を検知または予測したか否かが判定される。加減速特性制御部300または振動予測部310は、例えば
図15に示した各要素311~319のいずれかを用いて振動発生を検知・予測できる。振動発生を検出または予測した場合(ステップS203のYes)にはステップS204に進む。振動発生を検出または予測しない場合(ステップS203のNo)には、操作応答性はそのまま通常時モードに維持される。
【0142】
ステップS205では、ステップS204にて操作応答性が通常時モードから振動発生時モードに変更されたことが、ショベルの操作者に報知される。ステップS205の処理が完了するとステップS206に進む。
【0143】
ステップS208では、ステップS207にて操作応答性が振動発生時モードから通常時モードに戻されたことが、ショベルの操作者に報知される。ステップS208の処理が完了すると本制御フローを終了する。
【0144】
上記実施形態では、操作装置としてアーム操作レバー26Aやブーム操作レバー26Bなどの油圧式の操作装置を例示したが、電気式の操作装置を用いてもよい。上記実施形態のアーム操作レバー26Aやブーム操作レバー26Bが電気レバーである場合には、例えば、コントローラ30がアーム操作レバー26Aやブーム操作レバー26Bの操作方向及び操作量(レバーであれば倒し量)を電気的な検出値(電圧、電流等)に変換して、その値に基づいてパイロットポンプ15の吐出量を調整することによって、第1実施形態の比例弁31L1、31R1や、第2実施形態の減圧弁33L1、33R1、33L2、33R2への作動油の供給量を制御できる。これにより、第1実施形態のブリード弁177L,177Rや、第2実施形態の制御弁175L,175R,176L,175Rのパイロット特性を直接変えることができる。操作装置が電気レバーであれば、その応答性の調整については、操作量に対する電気的な検出値の値を直接調整してもよい。これにより、前提がパイロット圧である場合と同様の調整を実現できる。
【0145】
上記実施形態では、振動検知時に加減速特性を通常時モードから振動発生時モードに切り替える構成を例示したが、振動の程度に応じて多段階に切り替える構成でもよい。
【0146】
上記実施形態では、ショベル本体の振動を検出したときに油圧アクチュエータの加減速特性が低くなるように制御する構成を例示したが、手ハンチングによるショベル本体の振動増幅を抑制できるよう、操作装置の操作に対する油圧アクチュエータの応答性を鈍くできれば、他の特性を変更する構成でもよい。
【0147】
最後に、本願は、2017年10月20日に出願した日本国特許出願2017-203882号に基づく優先権を主張するものであり、これらの日本国特許出願の全内容を本願に参照により援用する。
【符号の説明】
【0148】
1 下部走行体
1A 左側走行用油圧モータ(油圧アクチュエータ)
1B 右側走行用油圧モータ(油圧アクチュエータ)
2A 旋回用油圧モータ(油圧アクチュエータ)
3 上部旋回体
7 ブームシリンダ(油圧アクチュエータ)
8 アームシリンダ(油圧アクチュエータ)
9 バケットシリンダ(油圧アクチュエータ)
14,14L,14R メインポンプ(油圧ポンプ)
26 操作装置
26A アーム操作レバー(操作装置)
26B ブーム操作レバー(操作装置)
30,30A コントローラ(制御装置)
32 本体傾斜センサ
175L,175R,176L,175R 制御弁
177,177L,177R ブリード弁
300 加減速特性制御部
310 振動予測部
320 基準傾斜判定部
330 報知部
340 表示装置
350 スイッチ