(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】カラーセンタ励振用アンテナ、及びセンサ
(51)【国際特許分類】
H01Q 7/00 20060101AFI20240703BHJP
H01Q 21/30 20060101ALI20240703BHJP
G01N 24/00 20060101ALI20240703BHJP
G01R 33/02 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
H01Q7/00
H01Q21/30
G01N24/00 E
G01R33/02 A
(21)【出願番号】P 2020069017
(22)【出願日】2020-04-07
【審査請求日】2023-03-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、文部科学省、「光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】加々美 和義
【審査官】赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0010338(US,A1)
【文献】特開2017-162910(JP,A)
【文献】特開2001-044715(JP,A)
【文献】特開2000-269724(JP,A)
【文献】特表2019-531682(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0235031(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 7/00
H01Q 21/30
G01N 24/00
G01R 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励振対象のカラーセンタを有する素子に対向して設けられる基板と、
前記基板における前記素子と対向する第1の面に形成され、
周波数可変の高周波電流を給電されてマイクロ波を
周波数を掃引しながら放射する放射素子と
を備え、
前記放射素子は、複数のループ導体を備え、
前記複数のループ導体は、相互に周方向の長さが異なり、周方向の長さが大きくなるほど外周側に位置するように多重に相互に間隔を空けて配されており、相互に共振周波数が異な
り、
前記複数のループ導体の共振周波数は、内周側から外周側へかけて低くなり、
最も内周側の前記ループ導体の共振周波数は、掃引される前記マイクロ波の周波数の最高値と等しく、
最も外周側の前記ループ導体の共振周波数は、掃引される前記マイクロ波の周波数の最低値と等しいカラーセンタ励振用アンテナ。
【請求項2】
前記基板の前記第1の面の裏面に設けられた複数又は一のコンデンサを備え、
前記複数のループ導体の少なくとも一つは、前記コンデンサと重なる位置に第1のギャップが形成され、
前記基板は、前記コンデンサと前記第1のギャップとに重なる位置に第1のスルーホールが形成され、
前記第1のギャップが形成された前記ループ導体と前記コンデンサとは、前記第1のスルーホールを通して電気的に接続されている請求項1に記載のカラーセンタ励振用アンテナ。
【請求項3】
前記基板の前記第1の面の裏面に形成された一又は複数の給電線を備え、
前記複数のループ導体の少なくとも一つは、前記給電線と重なる位置に第2のギャップが形成され、
前記基板は、前記給電線と前記第2のギャップとに重なる位置に第2のスルーホールが形成され、
前記第2のギャップが形成された前記ループ導体と前記給電線とは、前記第2のスルーホールを通して電気的に接続されている請求項1又は2に記載のカラーセンタ励振用アンテナ。
【請求項4】
前記複数のループ導体の少なくとも一つは、給電点が設定されている請求項1~3の何れか1項に記載のカラーセンタ励振用アンテナ。
【請求項5】
前記給電点は、前記複数のループ導体のうちの最も外周側から2番目のものに設定されている請求項4に記載のカラーセンタ励振用アンテナ。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載のカラーセンタ励振用アンテナと、
前記基板の前記第1の面に対向して配され前記カラーセンタ励振用アンテナにより励振されるカラーセンタを有する素子と、
前記放射素子に周波数可変の高周波電流を給電する給電器と
を備え、
前記カラーセンタ励振用アンテナから前記素子に周波数可変のマイクロ波を
周波数を掃引しながら放射させるセンサ。
【請求項7】
緑色光を前記素子に照射する光学系と、
前記素子から発生する赤色蛍光の輝度を検出する光センサと
を備え、
前記光センサが検出する前記赤色蛍光の輝度に応じて、磁界、電界、及び温度の少なくとも一つを計測する請求項6に記載のセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラーセンタ励振用アンテナ、及びセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
NVセンタを有するダイヤモンド素子を用いて光検出磁気共鳴(ODMR:Optically Detected Magnetic Resonance)の原理により磁界を計測するセンサが知られている(例えば、特許文献1参照)。このセンサでは、励起光としての緑色光をNVセンタに照射すると共にマイクロ波を周波数掃引しながらNVセンタに照射し、NVセンタから発せられる赤色蛍光を検出する。このセンサでは、共鳴周波数のマイクロ波がNVセンタに照射されると、NVセンタにおいて電子スピン共鳴が生じてNVセンタから発せられる赤色蛍光の輝度が低下する。ここで、磁界が存在する場合、NVセンタにゼーマン分裂が生じることにより、マイクロ波の周波数掃引時に少なくとも2点の赤色蛍光の輝度低下点が生じる。NVセンタにおけるゼーマン分裂は、磁界強度に比例した大きさで生じるので、2点の赤色蛍光の輝度低下点に対応するマイクロ波の周波数の差(以下、周波数のスプリットという)は、磁界強度に比例して大きくなる。これにより、このマイクロ波の周波数のスプリットの大きさに基づいて磁界強度を検出できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電動車(xEV)の電池残量を計測する電池センサには、電動車の出力電流のレンジの拡大に伴う測定レンジの拡大の要求がある。この電池センサに上述のセンサを用いる場合、マイクロ波の周波数のスプリットの変動のレンジが拡大する。そのため、広い周波数帯域でセンサを動作させることができるアンテナが要求される。また、センサには小型化の要求もある。
【0005】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その発明の目的とするところは、NVセンタ等のカラーセンタを有する素子を用いたセンサを、広い周波数帯域で安定して動作させることができ、且つ、センサの小型化にも対応できるカラーセンタ励振用アンテナ、及びセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のカラーセンタ励振用アンテナは、励振対象のカラーセンタを有する素子に対向して設けられる基板と、前記基板における前記素子と対向する第1の面に形成され、周波数可変の高周波電流を給電されてマイクロ波を周波数を掃引しながら放射する放射素子とを備え、前記放射素子は、複数のループ導体を備え、前記複数のループ導体は、相互に周方向の長さが異なり、周方向の長さが大きくなるほど外周側に位置するように多重に相互に間隔を空けて配されており、相互に共振周波数が異なり、前記複数のループ導体の共振周波数は、内周側から外周側へかけて低くなり、最も内周側の前記ループ導体の共振周波数は、掃引される前記マイクロ波の周波数の最高値と等しく、最も外周側の前記ループ導体の共振周波数は、掃引される前記マイクロ波の周波数の最低値と等しい。
【0007】
また、本発明のセンサは、上記のカラーセンタ励振用アンテナと、前記基板の前記第1の面に対向して配され前記カラーセンタ励振用アンテナにより励振されるカラーセンタを有する素子と、前記放射素子に周波数可変の高周波電流を給電する給電器とを備え、前記カラーセンタ励振用アンテナから前記素子に周波数可変のマイクロ波を周波数を掃引しながら放射させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、NVセンタ等のカラーセンタを有する素子を用いたセンサを、広い周波数帯域で安定して動作させることができ、且つ、センサの小型化にも対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係るセンサの概略を示す図である。
【
図2】NVセンタを有するダイヤモンド素子の構造を模式的に示す図である。
【
図3】NVセンタを有するダイヤモンド素子を備え光検出磁気共鳴の原理により磁界強度等を計測するダイヤモンド量子センサの原理を説明するための図である。
【
図4】マイクロ波の周波数掃引時の赤色蛍光の輝度低下点とマイクロ波の周波数と磁界強度との関係を示すグラフである。
【
図7A】放射素子を3個にしたアンテナのモデルを示す図である。
【
図7B】
図7Aに示すアンテナの直上での磁界強度(A/m)のシミュレーション結果を示す図である。
【
図8A】放射素子を4個にしたアンテナのモデルを示す図である。
【
図8B】
図8Aに示すアンテナの直上での磁界強度(A/m)のシミュレーション結果を示す図である。
【
図9A】放射素子を5個にしたアンテナのモデルを示す図である。
【
図9B】
図9Aに示すアンテナの直上での磁界強度(A/m)のシミュレーション結果を示す図である。
【
図10】放射素子を5個にしたアンテナのモデルA~Eにおける周波数-磁束量の特性を確認したシミュレーション結果を示す図である。
【
図11】
図10に示すアンテナのモデルA~Eの周波数特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾点が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用されていることはいうまでもない。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係るセンサ1の概略を示す図である。この図に示すように、センサ1は、NVセンタを有するダイヤモンド素子2と、励起光としての緑色光GLをダイヤモンド素子2に照射する光学系3と、NVセンタの電子スピン共鳴に起因して生じる光信号を検知する光センサ4と、光センサ4が検知した光信号を処理し、センサ1全体の制御を司る制御・演算処理部5と、ダイヤモンド素子2に周波数可変のマイクロ波を照射するアンテナ10と、アンテナ10に高周波電流を給電する電力増幅器6とを備える。センサ1は、緑色光GLをNVセンタに照射すると共にマイクロ波を周波数掃引しながらNVセンタに照射させ、光検出磁気共鳴の原理により、計測対象の磁界強度、電界強度、温度等を計測する。
【0012】
ダイヤモンド素子2は、例えば、縦2~5mm×横2~5mmの方形の板状に形成されている。即ち、ダイヤモンド素子2は、縦と横の寸法が10mmに満たない小サイズの板状の素子である。
【0013】
一方、アンテナ10は、例えば、縦2~5mm×横2~5mmの方形のマイクロ波放射領域を備える平面アンテナである。即ち、アンテナ10は、縦と横の寸法が10mmに満たない小サイズのマイクロ波放射領域を備える平面アンテナである。なお、アンテナ10のマイクロ波放射領域の縦の寸法は、ダイヤモンド素子2の縦の寸法と同等であることが好ましく、アンテナ10のマイクロ波放射領域の横の寸法は、ダイヤモンド素子2の横の寸法と同等であることが好ましい。詳細は、後述するが、アンテナ10のマイクロ波を放射する面とダイヤモンド素子2の一方の面とは相互に隙間を空けずに対向している。
【0014】
図2は、NVセンタを有するダイヤモンド素子2の構造を模式的に示す図である。この図に示すように、NVセンタは、ダイヤモンド格子中の炭素の置換位置に入った窒素(Nitrogen)と、この窒素に隣接する炭素原子が抜けた空孔(Vacancy)との対からなる複合不純物欠陥である。このNVセンタは、中性電荷状態NV0から電子を1個捕獲してNV
-となると、磁気量子数m
S=-1、0、+1の電子スピン3重項状態を形成する。ダイヤモンド量子センサは、この電子スピン3重項状態を用いて磁界や電界や温度や歪み等を計測する。
【0015】
図3は、NVセンタを有するダイヤモンド素子2を備え光検出磁気共鳴の原理により磁界強度等を計測するダイヤモンド量子センサの原理を説明するための図である。
図2及び
図3に示すように、NVセンタは、励起光としての緑色光GLを照射されると赤色蛍光RLを発する。この赤色蛍光RLの輝度は、NVセンタが基底状態(電子スピンの磁気量子数m
S=0の状態)から励起された場合には大きいのに対して、NVセンタが電子スピン共鳴が生じる準位(電子スピンの磁気量子数m
S=±1の状態)から励起された場合には小さくなる。
【0016】
ここで、磁界強度が0の場合に共鳴周波数(約2.8GHz)のマイクロ波MWをNVセンタに照射すると、NVセンタが電子スピン共鳴(ESR:Electron Spin Resonance)が生じる準位(mS=±1)に遷移する。この準位から光励起された電子の一部は、無輻射遷移を経て基底状態に戻ることにより発光に寄与しない。従って、上述のように、NVセンタが電子スピン共鳴が生じる準位から励起された場合、赤色蛍光RLの輝度は低下する。
【0017】
図4は、マイクロ波MWの周波数掃引時の赤色蛍光RLの輝度低下点とマイクロ波MWの周波数と磁界強度Bとの関係を示すグラフである。このグラフに示すように、磁界強度Bが0の場合には、赤色蛍光RLの輝度低下点は1点のみであるのに対し、磁界強度Bが0より大きな値B
1,B
2,B
3(B
3>B
2>B
1>0)である場合には、赤色蛍光RLの輝度低下点は2点存在する。ここで、2点の赤色蛍光RLの輝度低下点に対応するマイクロ波MWの周波数のスプリットΔf(=f
2-f
1)は、磁界強度Bに比例して大きくなる。
【0018】
ところで、本実施形態のセンサ1は、電動車の電池残量を計測する電池センサとして使用される。ここで、電動車の出力電流のレンジは、例えば10mAから1000Aを超える値までというように広い。それに伴って、本実施形態のセンサ1のアンテナ10には、マイクロ波MWを、例えば1~5GHzのような広い周波数帯域で掃引でき、この広い周波数帯域で安定して高出力である性能が要求される。さらに、アンテナ10のサイズをダイヤモンド素子2のサイズに合わせて小型化することが要求される。本実施形態では、ダイヤモンド素子2が縦2~5mm×横2~5mmの方形と小型であることから、アンテナ10もダイヤモンド素子2と同様に小型の方形にする必要がある。即ち、アンテナ10には、小型化という制約の上で上記性能を満たすことが要求される。
【0019】
以下、
図5~
図11を参照してアンテナ10について説明する。
図5は、アンテナ10を表面側から示す斜視図であり、
図6は、アンテナ10を裏面側から示す斜視図である。
図6に示すアンテナ10は、
図5に示すアンテナ10が上下が反転するように裏返された状態である。これらの図に示すように、アンテナ10は、基板11と、放射素子12と、複数のコンデンサ13A,13B,13C,13D,13Eと、給電部14B,14Dとを備える。
【0020】
基板11は、方形の板材であり、例えばプリント基板で用いられる材料等により形成されている。この基板11の表面の中央部に方形のマイクロ波放射領域が設定されており、このマイクロ波放射領域がダイヤモンド素子2の一方の面と対向する。
【0021】
放射素子12は、複数のループ状の導体(以下、ループ導体という)12A,12B,12C,12D,12Eを備える。複数のループ導体12A,12B,12C,12D,12E(以下、12A~12Eと記載する場合がある。)は、基板11のマイクロ波放射領域に形成されている。ループ導体12A~12Eは、銅箔等の導電性の箔であり、方形のループ状(環状)に形成されている。ループ導体12A~12Eの形成方法としては、例えば銅箔エッチング等が挙げられる。
【0022】
ループ導体12A~12Eは、相互に周方向の長さが異なる。なお、後述するようにループ導体12A~12Eには1箇所又は2箇所のギャップG1,G2が設けられているが、このギャップG1,G2の部分を含めたループ導体12A~12Eの周方向の長さを、ループ導体12A~12Eの周長と称する。
【0023】
ループ導体12A~12Eの周長は、12A、12B、12C、12D、12Eの順に大きくなる。周長が最大(1番目)のループ導体12Eは、マイクロ波放射領域の最外周部に形成されている。周長が2番目のループ導体12Dは、ループ導体12Eより内周側にループ導体12Eとの間に間隔を空けて形成されている。周長が3番目のループ導体12Cは、ループ導体12Dより内周側にループ導体12Dとの間に間隔を空けて形成されている。周長が4番目のループ導体12Bは、ループ導体12Cより内周側にループ導体12Cとの間に間隔を空けて形成されている。周長が5番目(最小)のループ導体12Aは、ループ導体12Bより内周側にループ導体12Bとの間に間隔を空けて形成されている。
【0024】
ループ導体12A~12Eの中心は、一致している。また、ループ導体12A~12Eは、マイクロ波放射領域の中央部から最外周部まで等間隔で配されている。
【0025】
ループ導体12A,12C,12Eには1個のギャップG1が形成され、ループ導体12B,12Dには2個のギャップG1,G2が形成されている。それに対して、基板11には、ギャップG1と重なる位置にスルーホールH1が形成され、ギャップG2と重なる位置にスルーホールH2が形成されている。
【0026】
5個のギャップG1は、同一直線上に並ぶように整列されている。この5個のギャップG1を通る直線は、ループ導体12A~12Eの中心を通りループ導体12A~12Eの
図5中の上下に平行に並んだ対辺と直交する。ここで、それぞれのループ導体12A~12Eは、
図5中の上下に平行に並んだ対辺を有するところ、ギャップG1は、ループ導体12A,12C,12Eの
図6中の上側の一辺と、ループ導体12B,12Dの
図5中の下側の一辺とに形成されている。即ち、5個のギャップG1は、
図5中の上下に平行に並んだ10辺に対して1辺おきに形成されている。
【0027】
2個のギャップG2は、同一直線上に並ぶように配されている。この2個のギャップG2を通る直線は、ループ導体12A~12Eの中心を通り
図5中の左右に平行に並んだ対辺と直交する。ここで、それぞれのループ導体12B,12Eは、
図5中の左右に並んだ対辺を有するところ、ギャップG2は、ループ導体12Bの
図5中の右側の一辺と、ループ導体12Dの
図5中の左側の一辺とに形成されている。即ち、ループ導体12Bに形成されたギャップG2は、
図5中の右側に配されているのに対して、ループ導体12Dに形成されたギャップG2は、
図5中の左側に配されている。
【0028】
複数のコンデンサ13A,13B,13C,13D,13E(以下、13A~13Eと記載する場合がある。)は、基板11の裏面に実装されている。複数のコンデンサ13A~13Eは、基板11の裏面の図中左右方向の中央部に1列に並べて整列されている。
【0029】
コンデンサ13Aは、ループ導体12AのギャップG1と重なる位置に配され、スルーホールH1を通してループ導体12Aと電気的に接続されている。このコンデンサ13Aは、ループ導体12Aの共振周波数を調整する機能を有する。ループ導体12Aの共振周波数は、第1周波数(例えば、約5GHz)に調整されている。この第1周波数は、スプリットΔf(=f2-f1)が最大になるときの周波数f2に対応する。
【0030】
コンデンサ13Bは、ループ導体12BのギャップG1と重なる位置に配され、スルーホールH1を通してループ導体12Bと電気的に接続されている。このコンデンサ13Bは、ループ導体12Bの共振周波数を調整する機能を有する。ループ導体12Bの共振周波数は、第1周波数より低い第2周波数(例えば、約4GHz)に調整されている。
【0031】
コンデンサ13Cは、ループ導体12CのギャップG1と重なる位置に配され、スルーホールH1を通してループ導体12Cと電気的に接続されている。このコンデンサ13Cは、ループ導体12Cの共振周波数を調整する機能を有する。ループ導体12Cの共振周波数は、第2周波数より低い第3周波数(例えば、約3GHz)に調整されている。
【0032】
コンデンサ13Dは、ループ導体12DのギャップG1と重なる位置に配され、スルーホールH1を通してループ導体12Dと電気的に接続されている。このコンデンサ13Dは、ループ導体12Dの共振周波数を調整する機能を有する。ループ導体12Dの共振周波数は、第3周波数より低い第4周波数(例えば、約2GHz)に調整されている。
【0033】
コンデンサ13Eは、ループ導体12EのギャップG1と重なる位置に配され、スルーホールH1を通してループ導体12Eと電気的に接続されている。このコンデンサ13Eは、ループ導体12Eの共振周波数を調整する機能を有する。ループ導体12Eの共振周波数は、第4周波数より低い第5周波数(例えば、約1GHz)に調整されている。この第5周波数は、スプリットΔf(=f2-f1)が最大になるときの周波数f1に対応する。なお、第1~第5周波数は、等間隔で設定することが好ましい。
【0034】
給電部14B,14Dは、基板11の裏面に形成されたコプレーナ導波路である。給電部14B,14Dは、
図6中の左右に離れて形成されている。給電部14B,14Dは、それぞれ、導体箔に左右に延びる線状の空隙部が設けられて、その空隙部の幅方向中央部に線状の導体箔(以下、給電線Lという)が形成された構成である。給電部14Bは、基板12の裏面における
図6中の右側の領域に形成されている。給電部14Dは、基板12の裏面における
図6中の左側の領域に形成されている。
【0035】
給電部14Bの給電線Lの始端には電力増幅器6(
図1参照)が接続されている。一方、給電部14Bの給電線Lの終端は、ループ導体12BのギャップG2と重なる位置に配され、スルーホールH2を通してループ導体12Bと電気的に接続されている。また給電部14Dの給電線Lの始端には電力増幅器6が接続されている。一方、給電部14Dの給電線Lの終端は、ループ導体12DのギャップG2と重なる位置に配され、スルーホールH2を通してループ導体12Dと電気的に接続されている。即ち、放射素子12の給電点は、ループ導体12B上の1点及びループ導体12D上の1点の計2点である。ここで、給電線Lは、給電するループ導体12B,12Dのそれぞれに対応して設けられており、給電線Lの数と給電点の数と給電するループ導体の数とは同一である。なお、給電部14B,14Dを、マイクロストリップラインとしてもよい。
【0036】
以上のような構成のアンテナ10は、電力増幅器6から2本の給電線Lを通して2点の給電点において周波数可変の高周波電流を給電され、ループ導体12A~12Eから周波数可変のマイクロ波MWを放射する。アンテナ10に給電される高周波電流の周波数は掃引される。この高周波電流の周波数掃引時の周波数に応じて、ループ導体12A~12Eのいずれかにおいて共振が生じ、共振により増幅された電流に比例した磁界がループ導体12A~12Eから発生する。
【0037】
以下、本発明者が本実施形態のアンテナ10の効果を確認するために実施したシミュレーションについて
図7A~
図11を参照して説明する。本発明者は、ループ導体12Sの数による効果の差異を確認するためのシミュレーションを実施した。
図7Aは、ループ導体12Sを3個にしたアンテナのモデルを示す図であり、
図7Bは、
図7Aに示すアンテナの直上での磁界強度(A/m)のシミュレーション結果を示す図である。
図8Aは、ループ導体12Sを4個にしたアンテナのモデルを示す図であり、
図8Bは、
図8Aに示すアンテナの直上での磁界強度(A/m)のシミュレーション結果を示す図である。
図9Aは、ループ導体12Sを5個にしたアンテナのモデルを示す図であり、
図9Bは、
図9Aに示すアンテナの直上での磁界強度(A/m)のシミュレーション結果を示す図である。これらのモデルでは、各ループ導体12Sの上下一対の対辺のうちの上側の一辺にコンデンサ13Sが設定されている。
【0038】
このシミュレーションでの磁界強度(A/m)は、アンテナの直上の縦5mm×横5mmの方形領域における磁界強度であり、ダイヤモンド素子2のアンテナ10との対向面における磁界強度を想定している。アンテナの磁界の発生領域は、縦5mm×横5mmの方形領域である。給電点は、ループ導体12Sが3個、4個、5個の何れの場合も、外周側から2番目のループ導体12S上に設定した。即ち、本シミュレーションでは、上述の実施形態のアンテナ10とは異なり、給電点は1点とした。
【0039】
このシミュレーションでは、1~5GHzのレンジで高周波電流の周波数を掃引した。
図7B、
図8B、及び
図9Bは、高周波電流の周波数が1GHz、2GHz、3GHz、4GHz、5GHzのときのアンテナの直上での磁界強度の分布を示している。これらの図においてハッチングで示す領域は、磁界強度が10A/m以上の領域である。これらの図から、ループ導体12Sの数が多くなるほど、磁界強度が10A/m以上の領域が広くなり、アンテナの特性が良好になることを確認できる。
【0040】
ここで、
図9Bから、5個のループ導体12Sに2GHzの高周波電流を給電した場合が、磁界強度が10A/m以上の領域が最も広くなり、アンテナの特性が最も良好になることを確認できる。本実施形態のアンテナ10の外周側から2番目のループ導体12Dの共振周波数は約2GHzであり、このループ導体12Dには給電点が設定されている。従って、本実施形態のアンテナ10は、本シミュレーションで最も特性が良好になる条件を満たしている。
【0041】
本発明者は、複数のループ導体12Sの給電点の位置による効果の差異を確認するためのシミュレーションを実施した。
図10は、ループ導体12Sを5個にしたアンテナのモデルA~Eにおける周波数-磁束量の特性を確認したシミュレーション結果を示す図である。このシミュレーションにおいて、モデルAは、最も内側のループ導体12S上に給電点を設定したものであり、モデルBは、内側から2番目のループ導体12S上に給電点を設定したものであり、モデルCは、内側から3番目のループ導体12S上に給電点を設定したものであり、モデルDは、内側から4番目のループ導体12S上に給電点を設定したものであり、モデルEは、最も外側のループ導体12S上に給電点を設定したものである。アンテナの磁界の発生領域は、縦5mm×横5mmの方形領域である。
【0042】
このシミュレーションから、内側から4番目のループ導体12S上に給電点を設定したモデルDが、広い周波数帯域に亘って安定して高出力という効果が最大化することを確認できる。本実施形態のアンテナ10の内側から4番目のループ導体12Dには給電点が設定されている。従って、本実施形態のアンテナ10は、本シミュレーションで確認された広い周波数帯域に亘って安定して高出力という効果を最大化するための条件を満たしている。
【0043】
本発明者は、ループ導体12Sを多重化することによる広帯域化を確認するためのシミュレーションを実施した。
図11は、
図10に示すモデルA~Eの周波数特性を示すグラフである。このグラフの横軸は高周波電流の周波数、縦軸は磁界強度である。
【0044】
本シミュレーションで用いるモデルA~Eのそれぞれのループ導体12Sの共振周波数は、内周側ほど高く外周側ほど低くなるように設定されている。このグラフから、アンテナから発生する磁界強度は、高周波電流の周波数がそれぞれのループ導体12Sの共振周波数と一致するときに増幅されることを確認できる。従って、ループ導体12Sを多重化することによりアンテナの広帯域化を実現できる。
【0045】
以上説明したように、本実施形態に係るアンテナ10では、相互に周長が異なる複数のループ導体12A~12Eが、周長が大きくなるほど外周側に位置するように多重に相互に間隔を空けて配されており、相互に共振周波数が異なる。このような構成を採用したことにより、それぞれのループ導体12A~12Eの共振周波数を計測対象の磁界強度やそのレンジに応じて適宜設定できる。また、方形のマイクロ波放射領域内での磁界強度が高い領域を広げることができる。さらに、アンテナ10から発生される磁界強度を共振を利用して増幅できる。これにより、アンテナ10をダイヤモンド素子2のサイズに合わせて小型化した場合でも、その小型化されたアンテナ10が、1~5GHzのような広い周波数帯域で安定して高出力のマイクロ波MWを放射することが可能になる。従って、NVセンタを有するダイヤモンド素子2を用いたセンサ1を、小型化の制約の上で、広い周波数帯域で安定して動作させることが可能になる。
【0046】
また、本実施形態に係るアンテナ10によれば、発生する磁界強度を共振を利用して増幅するので、小型化の制約の上でアンテナ10を高出力化すると共に、アンテナ10に入力するエネルギーを低減することができる。
【0047】
また、本実施形態に係るアンテナ10によれば、ループ導体12A~12Eの共振周波数を調整するためのコンデンサ13A~13Eが基板11の裏面に設けられ、ループ導体12A~12Eとそれぞれに対応するコンデンサ13A~13Eとは、スルーホールH1を通して電気的に接続されている。また、ループ導体12B,12Dに給電するための給電部14B,14Dが基板11の裏面に形成され、ループ導体12B,12Dと給電線LとがスルーホールH2を通して電気的に接続されている。このような構成を採用したことにより、基板11のダイヤモンド素子2との対向面に、コンデンサ13A~13Eや給電部14B,14Dによる凹凸ができることを防止できる。従って、放射素子12をダイヤモンド素子2に当接させることができ、放射素子12とダイヤモンド素子2との平行性を確保することができる。
【0048】
また、本実施形態に係るアンテナ10によれば、複数のループ導体12A~12Eのうちの2つのループ導体12B,12Dに給電点が設定されていることにより、給電点がループ導体12Dの1点のみに設定されている場合に比して、方形のマイクロ波放射領域の中心側の磁界強度を高めることができる。
【0049】
また、本実施形態に係るアンテナ10によれば、複数のループ導体12A~12Eのうちの最も外周側から2番目のループ導体12Dに給電点が設定されている。これにより、給電点が最も外周側のループ導体12Eに設定されている場合に比して、広い周波数帯域に亘って安定して高出力という効果が大きくなる(
図10参照)。
【0050】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、適宜公知や周知の技術を組み合わせてもよい。
【0051】
例えば、本実施形態では、励振対象のカラーセンタを有する素子をNVセンタを有するダイヤモンド素子としたが、当該素子を、スズ(Sn)と空孔とからなるSnVカラーセンタを有するダイヤモンド素子、シリコン(Si)と空孔とからなるSiVカラーセンタを有するダイヤモンド素子、又はゲルマニウム(Ge)と空孔とからなるGeVカラーセンタを有するダイヤモンド素子等の他のものにしてもよい。
【0052】
また、本実施形態では、ループ導体12A~12Eの共振周波数を調整するためにコンデンサ13A~13Eを各ループ導体12A~12Eに設けたが、ループ導体12A~12Eの共振周波数がコンデンサ13A~13Eによる調整無しで所望の値になるのであれば、コンデンサ13A~13Eを設けなくてもよい。また、コンデンサ13A~13Eを設ける場合、コンデンサ13A~13Eを全てのループ導体12A~12Eに設けることは必須ではなく、コンデンサ13A~13Eを設けるループ導体12A~12Eとコンデンサ13A~13Eを設けないループ導体12A~12Eとが混在してもよい。この場合、コンデンサ13A~13Eの設置数が1個であってもよい。
【0053】
また、本実施形態では、5個のループ導体12A~12Eを設けたが、ループ導体12A~12Eの数は、カラーセンタを有する素子のサイズに応じて適宜増減してもよい。また、本実施形態では、ループ導体12A~12Eの形状を方形としたが、円形や三角形等の他のループ形状にしてもよい。また、本明細書に記載の「ループ導体」は、一又は複数のギャップのあることにより有端のものと、ギャップがないことにより無端のものとの双方を含む。さらに、本実施形態では、2個のループ導体12B,12Dに給電点を設定したが、給電点の数や位置は、アンテナ10から発生する磁界強度及び磁界強度分布やカラーセンタを有する素子のサイズ等に応じて適宜設定すればよい。給電線Lの本数は1本であってもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 :センサ
2 :ダイヤモンド素子(素子)
3 :光学系
4 :光センサ
6 :電力増幅器(給電器)
10 :アンテナ(カラーセンタ励振用アンテナ)
11 :基板
12 :放射素子
12A~12E:ループ導体
13A~13E:コンデンサ
G1 :ギャップ(第1のギャップ)
G2 :ギャップ(第2のギャップ)
H1 :スルーホール(第1のスルーホール)
H2 :スルーホール(第2のスルーホール)
L :給電線
GL :緑色光
RL :赤色蛍光
MW :マイクロ波