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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20240703BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20240703BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20240703BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240703BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240703BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240703BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0568
H01M10/0567
H01M4/13
H01M4/505
H01M4/525
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020094787
(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公開番号】P2021190314
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-05-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100191444
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 尚久
(72)【発明者】
【氏名】加味根 丈主
(72)【発明者】
【氏名】松岡 直樹
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-053386(JP,A)
【文献】特開2017-139077(JP,A)
【文献】特開2004-356034(JP,A)
【文献】特開2011-040281(JP,A)
【文献】特開2006-278341(JP,A)
【文献】国際公開第2017/221554(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
H01M10/05-10/0587;10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、セパレータと、非水系電解液とを有する非水系二次電池であって、
下記通電前の前記非水系二次電池における前記非水系電解液は、FSOアニオンの含有量が100ppm以下であり、
前記正極は、リチウム含有金属酸化物を含有し、
前記リチウム含有金属酸化物は、下記一般式:
LiNiCoMn
で表され、式中、0.7<x<0.9、0<y<0.2、0<z<0.2であり、
前記非水系二次電池を組み立てる前の未通電の正極をCu-Kα線による粉末X線回折で解析したときの前記正極活物質のc軸の格子定数をc1とし、前記非水系二次電池に下記条件で通電後の正極をCu-Kα線による粉末X線回折で解析したときの前記正極活物質のc軸の格子定数をc2とすると、下記式1:
{(c2/c1)-1}×100 ・・・式1
で表される変化率が1%以下であり、
前記通電の条件は、前記非水系二次電池を、25℃環境下で、電池電圧が4.2Vとなるまで定電流充電し、その後電流値が0.025Cとなるまで定電圧充電し、定電流で3Vまで放電する工程を2サイクル、次に前記非水系二次電池を、50℃環境下で、電池電圧が4.2Vとなるまで定電流充電し、電流値が0.025Cとなるまで定電圧充電し、定電流で3Vまで放電を行う工程を1000サイクル行う、非水系二次電池。
【請求項2】
前記通電後の正極における前記正極活物質のc軸の格子定数c2が14.35Å以下である、請求項1に記載の非水系二次電池。
【請求項3】
前記通電後の正極における前記正極活物質の結晶子サイズが600Å以上である、請求項1又は2に記載の非水系二次電池。
【請求項4】
前記非水系電解液は、イミド塩とLiPFを含有し、前記イミド塩のモル濃度>前記LiPFのモル濃度である、請求項1~3のいずれか一項に記載の非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池をはじめとする非水系二次電池は、軽量、高エネルギー及び長寿命であることが大きな特徴であり、各種携帯用電子機器電源として広範囲に用いられている。近年、高容量化を目的として、正極活物質にニッケル比率の高いリチウム含有金属酸化物が用いられている。しかしながら、非水系二次電池では、高容量化が可能となるものの、長期耐久性能に劣るという課題が残っている。
【0003】
特許文献1によれば、正極活物質の結晶子サイズを制御し、非水系電解液にフルオロエチレンカーボネートを添加することで充放電時の正極抵抗の増大を制御し、サイクル特性が向上することが報告されている。
【0004】
特許文献2によれば、正極のc/a軸比を所定の範囲に規定することにより、充放電時の膨張収縮を抑えられ、高電圧下のサイクル特性を向上することが報告されている。
【0005】
特許文献3、4によれば、正極の結晶サイズと比表面積を所定の範囲に規定することにより、サイクル特性およびレート特性に優れ、かつエネルギー密度が高いことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2015/129187号
【文献】国際公開第2011/135953号
【文献】特開2018-98174号公報
【文献】特許第6619562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
リチウム含有金属酸化物中のNiの比率が0.7を超える正極活物質を用いた非水系二次電池の劣化要因として、充放電に伴う正極活物質の膨張収縮により、正極活物質の一次粒子界面で割れが生じて各種劣化を引き起こすことがわかっている。さらに劣化が進行するとスピネル転移が起こり、結晶構造が維持できなくなり、サイクル性能が著しく低下するといった課題が挙げられる。しかしながら、特許文献1~4に記載されているような結晶子サイズ、比表面積またはc/a軸比を所定の範囲に収めたとしても、Ni比率の高い正極活物質では割れが発生し、良好なサイクル性能は十分に得られなかった。また、特許文献1~4は、充放電を行う前の正極活物質に関する物性値が規定されているが、充放電を行った後の正極活物質に関する物性値については示されていない。
【0008】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、ニッケル比率の高い正極活物質を用いた非水系二次電池であっても、高温環境下で充放電した際の正極活物質の各種劣化を抑制することができる、非水系二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述の課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、以下の構成を有する非水系二次電池を用いることによって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、セパレータと、非水系電解液とを有する非水系二次電池であって、
上記非水系電解液は、FSOアニオンの含有量が100ppm以下であり、
上記正極は、リチウム含有金属酸化物を含有し、
上記リチウム含有金属酸化物は、下記一般式:
LiNiCoMn
で表され、式中、0.7<x<0.9、0<y<0.2、0<z<0.2であり、
上記非水系二次電池を組み立てる前の未通電の正極をCu-Kα線による粉末X線回折で解析したときの上記正極活物質のc軸の格子定数をc1とし、上記非水系二次電池に下記条件で通電後の正極をCu-Kα線による粉末X線回折で解析したときの上記正極活物質のc軸の格子定数をc2とすると、下記式1:
{(c2/c1)-1}×100 ・・・式1
で表される変化率が1%以下であり、
上記通電の条件は、上記非水系二次電池を、25℃環境下で、電池電圧が4.2Vとなるまで定電流充電し、その後電流値が0.025Cとなるまで定電圧充電し、定電流で3Vまで放電する工程を2サイクル、次に上記非水系二次電池を、50℃環境下で、電池電圧が4.2Vとなるまで定電流充電し、電流値が0.05Cとなるまで定電圧充電し、定電流で3Vまで放電を行う工程を1000サイクル行う、非水系二次電池。
[2]
上記通電後の正極における上記正極活物質のc軸の格子定数c2が14.35Å以下である、項目1に記載の非水系二次電池。
[3]
上記通電後の正極における上記正極活物質の結晶子サイズが600Å以上である、項目1又は2に記載の非水系二次電池。
[4]
上記非水系電解液は、イミド塩とLiPFを含有し、上記イミド塩のモル濃度>上記LiPFのモル濃度である、項目1~3のいずれか一項に記載の非水系二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ニッケル比率の高い正極活物質を用いた非水系二次電池であっても、高温環境下で充放電サイクルした際の正極活物質の割れを抑制することができ、この結果、高温環境下における各種劣化現象を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、非水系二次電池を概略的に表す平面図である。
図2図2は、図1のA-A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。本明細書において「~」を用いて記載される数値範囲は、その前後に記載される数値を含む。
【0013】
《非水系二次電池》
本実施形態の非水系二次電池は、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、セパレータと、非水系電解液とを有する。また、限定するものではないが、本実施形態の非水系二次電池としては、正極活物質としてリチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な正極材料を含有する正極と、負極活物質として、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な負極材料、及び/又は金属リチウムを含有する負極と、を備えるリチウムイオン電池が挙げられる。
【0014】
本実施形態の非水系二次電池としては、具体的には、図1及び2に図示される非水系二次電池であってもよい。ここで、図1は非水系二次電池を概略的に表す平面図であり、図2図1のA-A線断面図である。図1図2に示す非水系二次電池100は、パウチ型セルで構成される。非水系二次電池100は、2枚のアルミニウムラミネートフィルムで構成した電池外装110の空間120内に、正極150と負極160とをセパレータ170を介して積層して構成した積層電極体と、非水系電解液(図示せず)とを収容している。電池外装110は、その外周部において、上下のアルミニウムラミネートフィルムを熱融着することにより封止されている。正極150、セパレータ170、及び負極160を順に積層した積層体には、非水系電解液が含浸されている。ただしこの図2では、図面が煩雑になることを避けるために、電池外装110を構成している各層、並びに正極150及び負極160の各層を区別して示していない。電池外装110を構成しているアルミニウムラミネートフィルムは、アルミニウム箔の両面をポリオレフィン系の樹脂でコートしたものであることが好ましい。
【0015】
正極150は、非水系二次電池100内で正極リード体130と接続している。図示していないが、負極160も、非水系二次電池100内で負極リード体140と接続している。そして、正極リード体130及び負極リード体140は、それぞれ、外部の機器等と接続可能なように、片端側が電池外装110の外側に引き出されており、それらのアイオノマー部分が、電池外装110の1辺と共に熱融着されている。
【0016】
図1及び2に図示される非水系二次電池100は、正極150及び負極160が、それぞれ1枚ずつの積層電極体を有しているが、容量設計により正極150及び負極160の積層枚数を適宜増やすことができる。正極150及び負極160をそれぞれ複数枚有する積層電極体の場合には、同一極のタブ同士を溶接等により接合したうえで1つのリード体に溶接等により接合して電池外部に取り出してもよい。上記同一極のタブとしては、集電体の露出部から構成される態様、集電体の露出部に金属片を溶接して構成される態様等が可能である。
【0017】
正極150は、正極合剤から作製した正極活物質層と、正極集電体とから構成される。負極160は、負極合剤から作製した負極活物質層と、負極集電体とから構成される。正極150及び負極160は、セパレータ170を介して正極活物質層と負極活物質層とが対向するように配置される。
【0018】
これらの各部材としては、本実施形態における各要件を満たしていれば、従来のリチウムイオン電池に備えられる材料を用いることができる。以下、非水系二次電池の各部材について更に詳細に説明する。
【0019】
[正極]
本実施形態に係る非水系二次電池において、正極は、正極集電体の片面又は両面に正極活物質層を有する。
【0020】
<正極活物質層>
正極活物質層は、正極活物質を含有し、必要に応じて導電助剤及びバインダーを更に含有することが好ましい。
【0021】
(正極活物質)
正極活物質層は、正極活物質として、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な材料を含有することが好ましい。このような材料を用いる場合、高電圧及び高エネルギー密度を得ることができる傾向にあるので好ましい。
【0022】
正極活物質としては、例えば、Niを含み、かつMn、及びCoから成る群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含有する正極活物質が挙げられ、下記一般式(a):
LiNiCoMn・・・・・(a)
{式中、MはAl、Sn、In、Fe、V、Cu、Mg、Ti、Zn、Mo、Zr、Sr、Baから成る群から選ばれる少なくとも1種の金属であり、且つ、0<p<1.3、0.7<q<0.9、0≦r<0.2、0≦s<0.2、0≦t<0.3、0.7≦q+r+s+t≦1.2、1.8<u<2.2の範囲であり、そしてpは、電池の充放電状態により決まる値である。}
で表されるLi含有金属酸化物から選ばれる少なくとも1種のLi含有金属酸化物が好適である。
【0023】
また、正極活物質としては、例えば、LiCoOに代表されるリチウムコバルト酸化物;LiMnO、LiMn、及びLiMnに代表されるリチウムマンガン酸化物;LiNiOに代表されるリチウムニッケル酸化物;LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi0.8Co0.2に代表されるLiMO(MはNi、Mn、及びCoから成る群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含み、且つ、Ni、Mn、Co、Al、及びMgから成る群より選ばれる2種以上の金属元素を示し、zは0.9超1.2未満の数を示す。)で表されるリチウム含有複合金属酸化物等が挙げられる。
【0024】
特に、一般式(a)で表されるLi含有金属酸化物のNi含有比qが、0.7<q<0.9である場合には、レアメタルであるCoの使用量削減と、高エネルギー密度化の両方が達成されるため好ましい。一方、Ni含有比が高まるほど、高温環境下でサイクルの劣化が進行する傾向にある。0.7<q<0.9であるLi含有金属酸化物として、より具体的には、下記一般式:
LiNiCoMn
{式中、0.7<x<0.9、0<y<0.2、0<z<0.2}
で表されるLi含有金属酸化物が挙げられる。
【0025】
本発明者は、電池を組み立てる前の正極(以下、「未通電の正極」ともいう。)と、所定の高温環境下で充放電を1000サイクル行った後の正極(以下、「通電後の正極」ともいう。)における正極活物質を粉末X線回折で解析し、未通電の正極における正極活物質のc軸の格子定数c1に対する、通電後の正極における正極活物質のc軸の格子定数c2の変化率(以下、「格子定数の変化率」ともいう。)を1%以下にすることによって、正極の劣化が低減されることを見いだした。格子定数の変化率としては、0.8%以下が好ましく、0.6%以下がより好ましい。通電の条件は、非水系二次電池を、25℃環境下で、電池電圧が4.2Vとなるまで定電流充電し、その後電流値が0.025Cとなるまで定電圧充電し、定電流で3Vまで放電する工程と、非水系二次電池を、50℃環境下で、電池電圧が4.2Vとなるまで定電流充電し、電流値が0.025Cとなるまで定電圧充電し、定電流で3Vまで放電を行う工程との上記2工程を1サイクルとして、1000サイクル行う。格子定数の変化率が1%以下であると、正極活物質の割れの進行が抑制できるため、電池の充放電容量の劣化が低減されると考えられる。格子定数の変化率を1%以下に制御するためには、結晶界面の割合を低減するため、正極活物質の格子定数と結晶子サイズを一定の範囲内に制御し、サイクル時に電池内部抵抗を上昇させるような成分を含有しない非水系電解液を適用することが好ましい。
【0026】
格子定数c2は、好ましくは14.35Å以下、より好ましくは14.33Å以下、更に好ましくは14.31Å以下である。格子定数c2が14.35Å以下であると、リチウムイオンが格子内に十分詰まった状態であるため好ましい。
【0027】
通電後の正極を断面SEMで観察したところ、一次粒子間に多数の割れが確認される傾向がある。これらが、電解液の酸化分解反応、内部抵抗の増加、遷移金属の溶出を引き起こし、サイクル性能の低下を招いている。これらの充放電に伴う正極活物質の割れは、結晶の膨張収縮によって生じる結晶界面の応力により引き起こされると考えられる。結晶子サイズが大きい正極活物質は、結晶子サイズが小さい正極活物質と比較して、結晶子間界面の割合が低減されるため、大きな結晶子サイズに制御することで、高温環境下の各種劣化を抑制することができる。従って、正極活物質の結晶子サイズとしては、500Å以上が好ましく、600Å以上がより好ましい。
【0028】
正極活物質としては、式(a)で表されるLi含有金属酸化物以外に、その他のリチウム含有化合物を含んでもよく、リチウムを含有する化合物であれば特に限定されない。このようなリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物、リチウムを有する金属カルコゲン化物、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸金属化合物、及びリチウムと遷移金属元素とを含むケイ酸金属化合物が挙げられる。より高い電圧を得る観点から、リチウム含有化合物としては、特に、リチウムと、Co、Ni、Mn、Fe、Cu、Zn、Cr、V、及びTiから成る群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素と、を含むリン酸金属化合物が好ましい。
【0029】
その他のリチウム含有化合物として、より具体的には、以下の式(Xa):
LiMI (Xa)
{式中、Dはカルコゲン元素を示し、MIは少なくとも1種の遷移金属元素を含む1種以上の遷移金属元素を示し、vの値は、電池の充放電状態により決まり、0.05~1.10の数を示し、そしてuは0~2の数を示す。}、
以下の式(Xb):
LiMIIPO (Xb)
{式中、Dはカルコゲン元素を示し、MIIは少なくとも1種の遷移金属元素を含む1種以上の遷移金属元素を示し、wの値は、電池の充放電状態により決まり、0.05~1.10の数を示し、そしてuは0~2の数を示す。}、及び以下の式(Xc):
LiMIIISiO (Xc)
{式中、Dはカルコゲン元素を示し、MIIIは少なくとも1種の遷移金属元素を含む1種以上の遷移金属元素を示し、tの値は、電池の充放電状態により決まり、0.05~1.10の数を示し、そしてuは0~2の数を示す。}のそれぞれで表される化合物が挙げられる。
【0030】
上述の式(Xa)で表されるリチウム含有化合物は層状構造を有し、上述の式(Xb)及び(Xc)で表される化合物はオリビン構造を有する。これらのリチウム含有化合物は、構造を安定化させる等の目的から、Al、Mg、又はその他の遷移金属元素により遷移金属元素の一部を置換したもの、これらの金属元素を結晶粒界に含ませたもの、酸素原子の一部をフッ素原子等で置換したもの、正極活物質表面の少なくとも一部に他の正極活物質を被覆したもの等であってもよい。
【0031】
本実施形態における正極活物質としては、上記のようなリチウム含有化合物を用いてもよいし、該リチウム含有化合物と共にその他の正極活物質を併用してもよい。このようなその他の正極活物質としては、例えば、トンネル構造及び層状構造を有する金属酸化物又は金属カルコゲン化物;イオウ;導電性高分子等が挙げられる。トンネル構造及び層状構造を有する金属酸化物、又は金属カルコゲン化物としては、例えば、MnO、FeO、FeS、V、V13、TiO、TiS、MoS、及びNbSeに代表されるリチウム以外の金属の酸化物、硫化物、セレン化物等が挙げられる。導電性高分子としては、例えば、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、及びポリピロールに代表される導電性高分子が挙げられる。
【0032】
上述のその他の正極活物質は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられ、特に制限はない。しかしながら、リチウムイオンを可逆安定的に吸蔵及び放出することが可能であり、且つ、高エネルギー密度を達成できることから、正極活物質層がNi、Mn、及びCoから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含有することが好ましい。正極活物質として、リチウム含有化合物とその他の正極活物質とを併用する場合、両者の使用割合としては、正極活物質の全部に対するリチウム含有化合物の使用割合として、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましい。
【0033】
(導電助剤)
導電助剤としては、例えば、グラファイト、アセチレンブラック、及びケッチェンブラックに代表されるカーボンブラック、並びに炭素繊維が挙げられる。導電助剤の含有割合は、正極活物質100質量部に対して、10質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは1~5質量部である。
【0034】
(バインダー)
バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、及びフッ素ゴムが挙げられる。バインダーの含有割合は、正極活物質100質量部に対して、6質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5~4質量部である。
【0035】
<正極集電体>
正極集電体は、例えば、アルミニウム箔、ニッケル箔、ステンレス箔等の金属箔により構成される。正極集電体は、表面にカーボンコートが施されていてもよく、メッシュ状に加工されていてもよい。正極集電体の厚みは、5~40μmであることが好ましく、7~35μmであることがより好ましく、9~30μmであることが更に好ましい。
【0036】
<正極活物質層の形成>
正極活物質層は、正極活物質と、必要に応じて導電助剤及びバインダーとを混合した正極合剤を溶剤に分散した正極合剤含有スラリーを、正極集電体に塗布及び乾燥(溶媒除去)し、必要に応じてプレスすることにより形成することができる。このような溶剤としては、特に制限はなく、従来公知のものを用いることができる。例えば、N―メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、水等が挙げられる。
【0037】
[負極]
負極は、一般に、負極合剤から作製した負極活物質層と、負極集電体とから構成される。負極は、非水系二次電池の負極として作用することができる。
【0038】
負極活物質層は、負極活物質を含有し、必要に応じて導電助剤及びバインダーを含有することが好ましい。
【0039】
負極活物質としては、例えば、アモルファスカーボン(ハードカーボン)、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛、熱分解炭素、コークス、ガラス状炭素、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭、グラファイト、炭素コロイド、及びカーボンブラックに代表される炭素材料の他、金属リチウム、金属酸化物、金属窒化物、リチウム合金、スズ合金、シリコン合金、金属間化合物、有機化合物、無機化合物、金属錯体、有機高分子化合物等が挙げられる。負極活物質は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0040】
負極活物質層は、電池電圧を高められるという観点から、負極活物質としてリチウムイオンを0.4V vs.Li/Liよりも卑な電位で吸蔵することが可能な材料を含有することが好ましい。
【0041】
導電助剤としては、例えば、グラファイト、アセチレンブラック、及びケッチェンブラックに代表されるカーボンブラック、並びに炭素繊維が挙げられる。導電助剤の含有割合は、負極活物質100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは0.1~10質量部である。
【0042】
バインダーとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース、PVDF、PTFE、ポリアクリル酸、及びフッ素ゴムが挙げられる。また、ジエン系ゴム、例えばスチレンブタジエンゴム等も挙げられる。バインダーの含有割合は、負極活物質100質量部に対して、10質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5~6質量部である。
【0043】
負極活物質層は、負極活物質と必要に応じて導電助剤及びバインダーとを混合した負極合剤を溶剤に分散した負極合剤含有スラリーを、負極集電体に塗布及び乾燥(溶媒除去)し、必要に応じてプレスすることにより形成される。このような溶剤としては、特に制限はなく、従来公知のものを用いることができる。例えば、N―メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、水等が挙げられる。
【0044】
負極集電体は、例えば、銅箔、ニッケル箔、ステンレス箔等の金属箔により構成される。また、負極集電体は、表面にカーボンコートが施されていてもよいし、メッシュ状に加工されていてもよい。負極集電体の厚みは、5~40μmであることが好ましく、6~35μmであることがより好ましく、7~30μmであることが更に好ましい。
【0045】
[非水系電解液]
本明細書では、「非水系電解液」(以下、単に「電解液」ともいう)とは、電解液全量に対し、水が1質量%以下の電解液を指す。
【0046】
本実施形態において、電解液は、水分を極力含まないことが好ましいが、本発明の課題解決を阻害しない範囲であれば、ごく微量の水分を含有してもよい。そのような水分の含有量は、非水系電解液の全量に対して、好ましくは300質量ppm以下であり、更に好ましくは200質量ppm以下である。非水系電解液については、本発明の課題解決を達成するための構成を具備していれば、その他の構成要素については、リチウムイオン電池に用いられる既知の非水系電解液における構成材料を、適宜選択して適用することができる。
【0047】
本実施形態において、電解液は、非水系溶媒と、リチウム塩と、電極保護用添加剤と、FSOアニオンとを含むことができる。格子定数の変化率を抑えるためには、電解液は、高温環境下で充放電を行った際でも、正極および負極で分解反応が起こり難く、正極活物質から遷移金属の溶出を抑制するような極性溶媒の低い溶媒を用いることが好ましく、この結果、内部抵抗の増加が少なく、かつ、正極活物質の劣化が防止できるため、良好なサイクル性能を得ることができる。
【0048】
<非水系溶媒>
ここで、非水系溶媒について説明する。本実施形態でいう「非水系溶媒」とは、電解液中に含まれる成分のうち、リチウム塩及び各種添加剤以外の成分をいう。ただし、電解液に電極保護用添加剤が含まれている場合、リチウム塩を溶解する溶媒としての役割を担う電極保護用添加剤は、「非水系溶媒」にも該当するものとして扱う。非水系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類;非プロトン性溶媒等が挙げられる。中でも、非プロトン性溶媒が好ましい。本発明の効果が損なわれない範囲であれば、非水系溶媒は非プロトン性溶媒以外の溶媒を含有していてもよい。
【0049】
例えば、非水系電解液に係る非水系溶媒は、非プロトン性溶媒としてアセトニトリルを含有することができる。非水系溶媒がアセトニトリルを含有することにより、非水系電解液のイオン伝導性が向上することから、電池内におけるリチウムイオンの拡散性を高めることができる。そのため、非水系電解液がアセトニトリルを含有する場合、特に正極活物質層を厚くして正極活物質の充填量を高めた正極においても、高負荷での放電時にはリチウムイオンが到達し難い集電体近傍の領域にまで、リチウムイオンが良好に拡散できるようになる。よって、高負荷放電時にも十分な容量を引き出すことが可能となり、負荷特性に優れた非水系二次電池を得ることができる。
また、非水系溶媒がアセトニトリルを含有することにより、非水系二次電池の急速充電特性を高めることができる。非水系二次電池の定電流(CC)-定電圧(CV)充電では、CV充電期間における単位時間当たりの充電容量よりも、CC充電期間における単位時間当たりの容量の方が大きい。非水系電解液の非水系溶媒にアセトニトリルを使用する場合、CC充電できる領域を大きく(CC充電の時間を長く)できる他、充電電流を高めることもできるため、非水系二次電池の充電開始から満充電状態にするまでの時間を大幅に短縮できる。
なお、アセトニトリルは、電気化学的に還元分解され易い。そのため、アセトニトリルを用いる場合、非水系溶媒としてアセトニトリルとともに他の溶媒(例えば、アセトニトリル以外の非プロトン性溶媒)を併用すること、及び/又は、電極への保護被膜形成のための電極保護用添加剤を添加すること、を行うことが好ましい。
【0050】
アセトニトリルの含有量は、非水系溶媒の全量当たりの量として、5~95体積%であることが好ましい。アセトニトリルの含有量は、非水系溶媒の全量当たりの量として、20体積%以上又は30体積%以上であることがより好ましく、40体積%以上であることが更に好ましい。この値は、85体積%以下であることがより好ましく、66体積%以下であることが更に好ましい。アセトニトリルの含有量が、非水系溶媒の全量当たりの量として5体積%以上である場合、イオン伝導度が増大して高出力特性を発現できる傾向にあり、更に、リチウム塩の溶解を促進することができる。後述の電極保護被膜を形成する添加剤が電池の内部抵抗の増加を抑制するため、非水系溶媒中のアセトニトリルの含有量が上記の範囲内にある場合、アセトニトリルの優れた性能を維持しながら、高温サイクル特性及びその他の電池特性を一層良好なものとすることができる傾向にある。
【0051】
アセトニトリル以外の非プロトン性溶媒としては、例えば、環状カーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ラクトン、硫黄原子を有する一般式(1)以外の有機化合物、鎖状フッ素化カーボネート、環状エーテル、アセトニトリル以外のモノニトリル、アルコキシ基置換ニトリル、ジニトリル、環状ニトリル、短鎖脂肪酸エステル、鎖状エーテル、フッ素化エーテル、ケトン、前記非プロトン性溶媒のH原子の一部または全部をハロゲン原子で置換した化合物等が挙げられる。
【0052】
環状カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、トランス-2,3-ブチレンカーボネート、シス-2,3-ブチレンカーボネート、1,2-ペンチレンカーボネート、トランス-2,3-ペンチレンカーボネート、シス-2,3-ペンチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、4,5-ジメチルビニレンカーボネート、及びビニルエチレンカーボネートが挙げられる。
【0053】
フルオロエチレンカーボネートとしては、例えば、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、シス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、トランス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5-トリフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5,5-テトラフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、及び4,4,5-トリフルオロ-5-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オンが挙げられる。
【0054】
ラクトンとしては、γ-ブチロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、δ-カプロラクトン、及びε-カプロラクトンが挙げられる。
【0055】
硫黄原子を有する一般式(1)以外の有機化合物としては、例えば、エチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、ブチレンサルファイト、ペンテンサルファイト、スルホラン、3-スルホレン、3-メチルスルホラン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1-プロペン1,3-スルトン、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、及びエチレングリコールサルファイトが挙げられる。
【0056】
鎖状カーボネートとしては、例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネートが挙げられる。
【0057】
環状エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、及び1,3-ジオキサンが挙げられる。
【0058】
アセトニトリル以外のモノニトリルとしては、例えば、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、及びアクリロニトリルが挙げられる。
【0059】
アルコキシ基置換ニトリルとしては、例えば、メトキシアセトニトリル及び3-メトキシプロピオニトリルが挙げられる。
【0060】
ジニトリルとしては、例えば、マロノニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、1,4-ジシアノヘプタン、1,5-ジシアノペンタン、1,6-ジシアノヘキサン、1,7-ジシアノヘプタン、2,6-ジシアノヘプタン、1,8-ジシアノオクタン、2,7-ジシアノオクタン、1,9-ジシアノノナン、2,8-ジシアノノナン、1,10-ジシアノデカン、1,6-ジシアノデカン、及び2,4-ジメチルグルタロニトリルが挙げられる。
【0061】
環状ニトリルとしては、例えば、ベンゾニトリルが挙げられる。
【0062】
短鎖脂肪酸エステルとしては、例えば、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、イソ酪酸メチル、酪酸メチル、イソ吉草酸メチル、吉草酸メチル、ピバル酸メチル、ヒドロアンゲリカ酸メチル、カプロン酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、イソ酪酸エチル、酪酸エチル、イソ吉草酸エチル、吉草酸エチル、ピバル酸エチル、ヒドロアンゲリカ酸エチル、カプロン酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸プロピル、イソ酪酸プロピル、酪酸プロピル、イソ吉草酸プロピル、吉草酸プロピル、ピバル酸プロピル、ヒドロアンゲリカ酸プロピル、カプロン酸プロピル、酢酸イソプロピル、プロピオン酸イソプロピル、イソ酪酸イソプロピル、酪酸イソプロピル、イソ吉草酸イソプロピル、吉草酸イソプロピル、ピバル酸イソプロピル、ヒドロアンゲリカ酸イソプロピル、カプロン酸イソプロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル、イソ酪酸ブチル、酪酸ブチル、イソ吉草酸ブチル、吉草酸ブチル、ピバル酸ブチル、ヒドロアンゲリカ酸ブチル、カプロン酸ブチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸イソブチル、イソ酪酸イソブチル、酪酸イソブチル、イソ吉草酸イソブチル、吉草酸イソブチル、ピバル酸イソブチル、ヒドロアンゲリカ酸イソブチル、カプロン酸イソブチル、酢酸tert-ブチル、プロピオン酸tert-ブチル、イソ酪酸tert-ブチル、酪酸tert-ブチル、イソ吉草酸tert-ブチル、吉草酸tert-ブチル、ピバル酸tert-ブチル、ヒドロアンゲリカ酸tert-ブチル、及びカプロン酸tert-ブチルが挙げられる。
【0063】
鎖状エーテルとしては、例えば、ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、1,3-ジオキソラン、ジグライム、トリグライム、及びテトラグライムが挙げられる。
【0064】
フッ素化エーテルとしては、例えば、Rf20-OR21(Rf20はフッ素原子を含有するアルキル基、R21はフッ素原子を含有してよい有機基)が挙げられる。
【0065】
ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、及びメチルイソブチルケトンが挙げられる。
【0066】
非プロトン性溶媒のH原子の一部または全部をハロゲン原子で置換した化合物としては、例えば、ハロゲン原子がフッ素である化合物を挙げることができる。
【0067】
鎖状カーボネートのフッ素化物としては、例えば、メチルトリフルオロエチルカーボネート、トリフルオロジメチルカーボネート、トリフルオロジエチルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、メチル2,2-ジフルオロエチルカーボネート、メチル2,2,2-トリフルオロエチルカーボネート、メチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルカーボネートが挙げられる。上記のフッ素化鎖状カーボネートは、下記の一般式:
29-O-C(O)O-R30
(式中、R29及びR30は、CH、CHCH、CHCHCH、CH(CH)2、及びCHRf31から成る群より選択される少なくとも一つであり、Rf31は、少なくとも1つのフッ素原子で水素原子が置換された炭素数1~3のアルキル基であり、そしてR29及び/又はR30は、少なくとも1つのフッ素原子を含有する。)で表すことができる。
【0068】
短鎖脂肪酸エステルのフッ素化物としては、例えば、酢酸2,2-ジフルオロエチル、酢酸2,2,2-トリフルオロエチル、酢酸2,2,3,3-テトラフルオロプロピルに代表されるフッ素化短鎖脂肪酸エステルが挙げられる。フッ素化短鎖脂肪酸エステルは、下記の一般式:
32-C(O)O-R33
(式中、R32は、CH、CHCH、CHCHCH、CH(CH、CFCFH、CFH、CFRf34、CFHRf34、及びCHRf35から成る群より選択される少なくとも一つであり、R33は、CH、CHCH、CHCHCH、CH(CH、及びCHRf35から成る群より選択される少なくとも一つであり、Rf34は、少なくとも1つのフッ素原子で水素原子が置換されてよい炭素数1~3のアルキル基であり、Rf35は、少なくとも1つのフッ素原子で水素原子が置換された炭素数1~3のアルキル基であり、そしてR32及び/又はR33は、少なくとも1つのフッ素原子を含有し、R32がCFHである場合、R33はCHではない。)で表すことができる。
【0069】
本実施形態におけるアセトニトリル以外の非プロトン性溶媒は、1種を単独で使用することができ、又は2種以上を組み合わせて使用してよい。
【0070】
<リチウム塩>
本実施形態において、リチウム塩は特に限定されない。例えば、本実施形態では、リチウム塩として、LiPF又はイミド塩を含んでもよい。なお、高温耐久性の観点からは、イミド塩とLiPFを含有し、かつ、イミド塩のモル濃度>LiPFのモル濃度であることが好ましい。
【0071】
イミド塩とは、LiN(SO2m+1{mは0~8の整数である。}で表されるリチウム塩であることが好ましく、具体的には、LiN(SOF)、及びLiN(SOCFのうち少なくとも1種を含むことがより好ましい。これらイミド塩の一方のみ含んでも両方含んでもよい。イミド塩は、これらのイミド塩以外のイミド塩を含んでいてもよい。
【0072】
非水系溶媒にアセトニトリルが含まれる場合、アセトニトリルに対するイミド塩の飽和濃度がLiPFの飽和濃度よりも高いことから、LiPF≦イミド塩となるモル濃度でイミド塩を含むことが、低温でのリチウム塩とアセトニトリルの会合及び析出を抑制できるため好ましい。また、イミド塩の含有量が、非水系溶媒1Lに対して0.5mol以上3mol以下であることがイオン供給量の観点から好ましい。LiN(SOF)、及びLiN(SOCFのうち少なくとも1種を含むアセトニトリル含有非水系電解液によれば、-10℃又は-30℃のような低温域でのイオン伝導率の低減を効果的に抑制でき、優れた低温特性を得ることができる。このように、イミド塩の含有量を限定することで、より効果的に、高温加熱時の抵抗増加を抑制することも可能となる。
【0073】
リチウム塩は、LiPF以外のフッ素含有無機リチウム塩を含んでもよく、例えば、LiBF、LiAsF、LiSiF、LiSbF、Li1212-b{bは0~3の整数である。}、等のフッ素含有無機リチウム塩を含んでもよい。「無機リチウム塩」とは、炭素原子をアニオンに含まず、アセトニトリルに可溶なリチウム塩をいう。また、「フッ素含有無機リチウム塩」とは、炭素原子をアニオンに含まず、フッ素原子をアニオンに含み、アセトニトリルに可溶なリチウム塩をいう。フッ素含有無機リチウム塩は、正極集電体である金属箔の表面に不働態被膜を形成し、正極集電体の腐食を抑制する点で優れている。これらのフッ素含有無機リチウム塩は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。フッ素含有無機リチウム塩として、LiFとルイス酸との複塩である化合物が望ましく、中でも、リン原子を有するフッ素含有無機リチウム塩を用いると、遊離のフッ素原子を放出し易くなることからより好ましい。代表的なフッ素含有無機リチウム塩は、溶解してPFアニオンを放出するLiPFである。フッ素含有無機リチウム塩として、ホウ素原子を有するフッ素含有無機リチウム塩を用いた場合には、電池劣化を招くおそれのある過剰な遊離酸成分を捕捉し易くなることから好ましく、このような観点からはLiBFが特に好ましい。
【0074】
本実施形態の非水系電解液におけるフッ素含有無機リチウム塩の含有量については、特に制限はないが、非水系溶媒1Lに対して0.01mol以上であることが好ましく、0.1mol以上であることがより好ましく、0.25mol以上であることが更に好ましい。フッ素含有無機リチウム塩の含有量が上述の範囲内にある場合、イオン伝導度が増大し高出力特性を発現できる傾向にある。また、非水系溶媒1Lに対して2.8mol未満であることが好ましく、1.5mol未満であることがより好ましく、1mol未満であることが更に好ましい。フッ素含有無機リチウム塩の含有量が上述の範囲内にある場合、イオン伝導度が増大し高出力特性を発現できると共に、低温での粘度上昇に伴うイオン伝導度の低下を抑制できる傾向にあり、非水系電解液の優れた性能を維持しながら、高温サイクル特性及びその他の電池特性を一層良好なものとすることができる傾向にある。
【0075】
本実施形態の非水系電解液は、更に、有機リチウム塩を含んでいてもよい。「有機リチウム塩」とは、炭素原子をアニオンに含み、アセトニトリルに可溶なリチウム塩をいう。 有機リチウム塩としては、シュウ酸基を有する有機リチウム塩を挙げることができる。シュウ酸基を有する有機リチウム塩の具体例としては、例えば、LiB(C、LiBF(C)、LiPF(C)、及びLiPF(Cのそれぞれで表される有機リチウム塩等が挙げられ、中でもLiB(C及びLiBF(C)で表されるリチウム塩から選ばれる少なくとも1種のリチウム塩が好ましい。また、これらのうちの1種又は2種以上を、フッ素含有無機リチウム塩と共に使用することがより好ましい。このシュウ酸基を有する有機リチウム塩は、非水系電解液に添加する他、負極(負極活物質層)に含有させてもよい。
【0076】
シュウ酸基を有する有機リチウム塩の非水系電解液への添加量は、その使用による効果をより良好に確保する観点から、非水系電解液の非水系溶媒1L当たりの量として、0.005モル以上であることが好ましく、0.02モル以上であることがより好ましく、0.05モル以上であることが更に好ましい。ただし、シュウ酸基を有する有機リチウム塩の非水系電解液中の量が多すぎると析出する恐れがある。よって、シュウ酸基を有する有機リチウム塩の非水系電解液への添加量は、非水系電解液の非水系溶媒1L当たりの量で、1.0モル未満であることが好ましく、0.5モル未満であることがより好ましく、0.2モル未満であることが更に好ましい。
【0077】
シュウ酸基を有する有機リチウム塩は、極性の低い有機溶媒、特に鎖状カーボネートに対して難溶性であることが知られている。シュウ酸基を有する有機リチウム塩は、微量のシュウ酸リチウムを含有している場合があり、更に、非水系電解液中に混合するときにも、他の原料に含まれる微量の水分と反応して、シュウ酸リチウムの白色沈殿を新たに発生させる場合がある。従って、本実施形態の非水系電解液におけるシュウ酸リチウムの含有量は、特に限定するものでないが、0~500ppmであることが好ましい。
【0078】
本実施形態におけるリチウム塩として、上記以外に、一般に非水系二次電池用に用いられているリチウム塩を補助的に添加してもよい。その他のリチウム塩の具体例としては、例えば、LiClO、LiAlO、LiAlCl、LiB10Cl10、クロロボランLi等のフッ素原子をアニオンに含まない無機リチウム塩;LiCFSO、LiCFCO、Li(SO、LiC(CFSO、LiC(2n+1)SO(n≧2)、低級脂肪族カルボン酸Li、四フェニルホウ酸Li、LiB(C等の有機リチウム塩;LiPF(CF)等のLiPF(C2p+16-n〔nは1~5の整数、pは1~8の整数〕で表される有機リチウム塩;LiBF(CF)等のLiBF(C2s+14-q〔qは1~3の整数、sは1~8の整数〕で表される有機リチウム塩;多価アニオンと結合されたリチウム塩;下記式(a):
LiC(SO)(SO)(SO) (a)
{式中、R、R、及びRは、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素数1~8のパーフルオロアルキル基を示す。}、
下記式(b)
LiN(SOOR)(SOOR) (b)
{式中、R、及びRは、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素数1~8のパーフルオロアルキル基を示す。}、及び
下記式(c)
LiN(SO)(SOOR) (c)
{式中、R、及びRは、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素数1~8のパーフルオロアルキル基を示す。}
のそれぞれで表される有機リチウム塩等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を、フッ素含有無機リチウム塩と共に使用することができる。
【0079】
<電極保護用添加剤>
本実施形態における電解液には、電極を保護する添加剤が含まれていてもよい。電極保護用添加剤としては、本発明による課題解決を阻害しないものであれば特に制限はない。リチウム塩を溶解する溶媒としての役割を担う物質(すなわち上述の非水系溶媒)と実質的に重複してもよい。液状でかつ非水系電解液中の添加量が約10体積%以上を含まれる電極保護用添加剤は、リチウム塩を溶解する溶媒としての役割も担う。電極保護用添加剤は、本実施形態における電解液及び非水系二次電池の性能向上に寄与する物質であることが好ましいが、電気化学的な反応には直接関与しない物質をも包含する。
【0080】
電極保護用添加剤の具体例としては、例えば、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、シス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、トランス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5-トリフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5,5-テトラフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、及び4,4,5-トリフルオロ-5-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オンに代表されるフルオロエチレンカーボネート;ビニレンカーボネート、4,5-ジメチルビニレンカーボネート、及びビニルエチレンカーボネートに代表される不飽和結合含有環状カーボネート;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、δ-カプロラクトン、及びε-カプロラクトンに代表されるラクトン;1,4-ジオキサンに代表される環状エーテル;エチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、ブチレンサルファイト、ペンテンサルファイト、スルホラン、3-スルホレン、3-メチルスルホラン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1-プロペン1,3-スルトン、及びテトラメチレンスルホキシドに代表される環状硫黄化合物;無水酢酸、無水プロピオン酸、無水安息香酸に代表される鎖状酸無水物;マロン酸無水物、無水コハク酸、グルタル酸無水物、無水マレイン酸、無水フタル酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸無水物、2,3-ナフタレンジカルボン酸無水物、又は、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物に代表される環状酸無水物;異なる2種類のカルボン酸、又はカルボン酸とスルホン酸等、違う種類の酸が脱水縮合した構造の混合酸無水物が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0081】
本実施形態における電解液中の電極保護用添加剤の含有量については、特に制限はないが、非水系電解液中の全量に対する電極保護用添加剤の含有量として、0.1~30体積%であることが好ましく、0.3~15体積%であることがより好ましく、0.5~10体積%であることが更に好ましい。
【0082】
本実施形態においては、電極保護用添加剤の含有量が多いほど電解液の劣化が抑えられる。しかし、電極保護用添加剤の含有量が少ないほど非水系二次電池の低温環境下における高出力特性が向上することになる。従って、電極保護用添加剤の含有量を上述の範囲内に調整することによって、非水系二次電池としての基本的な機能を損なうことなく、電解液の高イオン伝導度に基づく優れた性能を最大限に発揮することができる傾向にある。このような組成で電解液を調製することにより、非水系二次電池のサイクル性能、低温環境下における高出力性能及びその他の電池特性の全てを一層良好なものとすることができる傾向にある。
【0083】
非水系溶媒の一成分であるアセトニトリルは電気化学的に還元分解され易いため、該アセトニトリルを含む非水系溶媒は、負極への保護被膜形成のための電極保護用添加剤として環状の非プロトン性極性溶媒を1種以上含むことが好ましく、不飽和結合含有環状カーボネートを1種以上含むことがより好ましい。
【0084】
不飽和結合含有環状カーボネートとしてはビニレンカーボネートが好ましく、ビニレンカーボネートの含有量は、非水系電解液中、0.1体積%以上4体積%以下であることが好ましく、0.2体積%以上3体積%未満であることがより好ましく、0.5体積%以上2.5体積%未満であることが更に好ましい。これにより、低温耐久性をより効果的に向上させることができ、低温性能に優れた二次電池を提供することが可能になる。
【0085】
電極保護用添加剤としてのビニレンカーボネートは負極表面でのアセトニトリルの還元分解反応を抑制するため、必須である場合が多く、不足すると電池性能が急激に低下する可能性がある。一方で、過剰な被膜形成は低温性能の低下を招く。そこで、ビニレンカーボネートの添加量を上記の範囲内に調整することで、界面(被膜)抵抗を低く抑えることができ、低温時のサイクル劣化を抑制することができる。
【0086】
<FSOアニオン>
本実施形態において、電解液中に含まれるFSOアニオンの含有量が多すぎると、負極表面で還元分解反応が進行し、堆積した分解物は、界面(被膜)抵抗を増大させて出力性能の低下を招く。一方で、少量のFSOアニオンは負極保護被膜の強化に作用するため、FSOアニオンの含有量は、電解液に対し0.01ppm以上100ppm以下の範囲であることが好ましく、0.1ppm以上70ppm以下の範囲であることがより好ましく、1ppm以上50ppm以下の範囲であることが更に好ましい。
【0087】
<その他の任意的添加剤>
本実施形態においては、非水系二次電池の充放電サイクル特性の改善、高温貯蔵性、安全性の向上(例えば過充電防止等)等の目的で、非水系電解液に、例えば、スルホン酸エステル、ジフェニルジスルフィド、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、フルオロベンゼン、tert-ブチルベンゼン、リン酸エステル、非共有電子対周辺に立体障害のない窒素含有環状化合物、及びこれらの化合物の誘導体等から選択される任意的添加剤を、適宜含有させることもできる。リン酸エステルとしては、エチルジエチルホスホノアセテート(EDPA):(CO)(P=O)-CH(C=O)OC、リン酸トリス(トリフルオロエチル)(TFEP):(CFCHO)P=O、リン酸トリフェニル(TPP):(CO)P=O、及びリン酸トリアリル:(CH=CHCHO)P=O等が挙げられる。非共有電子対周辺に立体障害のない窒素含有環状化合物としては、ピリジン、1-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、及び1-メチルピラゾール等が挙げられる。特にリン酸エステルは、貯蔵時の副反応を抑制する作用があり、効果的である。
【0088】
本実施形態におけるその他の任意的添加剤の含有量は、非水系電解液を構成する全ての成分の合計質量に対する質量百分率にて算出される。その他の任意的添加剤の含有量について、特に制限はないが、非水系電解液の全量に対し、0.01質量%以上10質量%以下の範囲であることが好ましく、0.02質量%以上5質量%以下であることがより好ましく、0.05~3質量%であることが更に好ましい。その他の任意的添加剤の含有量を上述の範囲内に調整することによって、非水系二次電池としての基本的な機能を損なうことなく、より一層良好な電池特性を付加することができる傾向にある。
【0089】
[セパレータ]
本実施形態における非水系二次電池は、正極及び負極の短絡防止、シャットダウン等の安全性付与の観点から、正極と負極との間にセパレータを備えることが好ましい。セパレータとしては、限定されるものではないが、公知の非水系二次電池に備えられるものと同様のものを用いてもよく、イオン透過性が大きく、機械的強度に優れる絶縁性の薄膜が好ましい。セパレータとしては、例えば、織布、不織布、合成樹脂製微多孔膜等が挙げられ、これらの中でも、合成樹脂製微多孔膜が好ましい。
【0090】
合成樹脂製微多孔膜としては、例えば、ポリエチレン又はポリプロピレンを主成分として含有する微多孔膜、又は、これらのポリオレフィンの双方を含有する微多孔膜等のポリオレフィン系微多孔膜が好適に用いられる。不織布としては、例えば、ガラス製、セラミック製、ポリオレフィン製、ポリエステル製、ポリアミド製、液晶ポリエステル製、アラミド製等の耐熱樹脂製の多孔膜が挙げられる。
【0091】
セパレータは、1種の微多孔膜を単層又は複数積層した構成であってもよく、2種以上の微多孔膜を積層したものであってもよい。セパレータは、2種以上の樹脂材料を溶融混錬した混合樹脂材料を用いて単層又は複数層に積層した構成であってもよい。
【0092】
機能付与を目的として、セパレータの表層又は内部に無機粒子を存在させてもよく、その他の有機層を更に塗工又は積層してもよい。また、架橋構造を含むものであってもよい。非水系二次電池の安全性能を高めるため、これらの手法は必要に応じ組み合わせてもよい。このようなセパレータを用いることで、特に上記の高出力用途のリチウムイオン二次電池に求められる良好な入出力特性、低い自己放電特性を実現することができる。
【0093】
微多孔膜の膜厚は、特に限定はないが、膜強度の観点から1μm以上であることが好ましく、透過性の観点より500μm以下であることが好ましい。安全性試験など、発熱量が比較的高く、従来以上の自己放電特性を求められる高出力用途に使用されるという観点および、大型の電池捲回機での捲回性の観点から、5μm以上30μm以下であることが好ましく、10μm以上25μm以下であることがより好ましい。なお、耐ショート性能と出力性能の両立を重視する場合には、15μm以上25μm以下であることが更に好ましいが、高エネルギー密度化と出力性能の両立を重視する場合には、10μm以上15μm未満であることが更に好ましい。
【0094】
気孔率は、高出力時のリチウムイオンの急速な移動に追従する観点から、30%以上90%以下が好ましく、35%以上80%以下がより好ましく、40%以上70%以下が更に好ましい。なお、安全性を確保しつつ出力性能の向上を優先に考えた場合には、50%以上70%以下が特に好ましく、耐ショート性能と出力性能の両立を重視する場合には、40%以上50%未満が特に好ましい。
【0095】
透気度は、膜厚及び気孔率とのバランスの観点から、1秒/100cm以上400秒/100cm以下が好ましく、100秒/100cm以上350/100cm以下がより好ましい。なお、耐ショート性能と出力性能の両立を重視する場合には、150秒/100cm以上350秒/100cm以下が特に好ましく、安全性を確保しつつ出力性能の向上を優先に考えた場合には、100/100cm秒以上150秒/100cm未満が特に好ましい。
【0096】
一方で、イオン伝導度の低い非水系電解液と上記範囲内のセパレータを組み合わせた場合、リチウムイオンの移動速度がセパレータの構造ではなく、電解液のイオン伝導度の高さが律速となり、期待したような入出力特性が得られない傾向がある。そのため、非水電解液のイオン伝導度は10mS/cm以上が好ましく、15mS/cmがより好ましく、20mS/cmが更に好ましい。ただし、セパレータの膜厚、透気度及び気孔率、並びに非水系電解液のイオン伝導度は上記の例に限定されない。
【0097】
[電池外装]
本実施形態における非水系二次電池の電池外装の構成は特に限定されないが、例えば、電池缶及びラミネートフィルム外装体のいずれかの電池外装を用いることができる。電池缶としては、例えば、スチール、ステンレス、アルミニウム、又はクラッド材等から成る角型、角筒型、円筒型、楕円型、扁平型、コイン型、又はボタン型等の金属缶を用いることができる。ラミネートフィルム外装体としては、例えば、熱溶融樹脂/金属フィルム/樹脂の3層構成から成るラミネートフィルムを用いることができる。
【0098】
ラミネートフィルム外装体は、熱溶融樹脂側を内側に向けた状態で2枚重ねて、又は熱溶融樹脂側を内側に向けた状態となるように折り曲げて、端部をヒートシールにより封止した状態で外装体として用いることができる。ラミネートフィルム外装体を用いる場合、正極集電体に正極リード体(又は正極端子及び正極端子と接続するリードタブ)を接続し、負極集電体に負極リード体(又は負極端子及び負極端子と接続するリードタブ)を接続してもよい。この場合、正極リード体及び負極リード体(又は正極端子及び負極端子のそれぞれに接続されたリードタブ)の端部が外装体の外部に引き出された状態でラミネートフィルム外装体を封止してもよい。
【0099】
《非水系二次電池の製造方法》
本実施形態における非水系二次電池は、上述の非水系電解液、正極活物質を有する正極、負極活物質を有する負極、及びセパレータ、並びに必要に応じて電池外装を用いて、公知の方法により作製することができる。
【0100】
先ず正極及び負極、並びにセパレータから成る積層体を形成することができる。例えば、長尺の正極と負極とを、正極と負極との間に該長尺のセパレータを介在させた積層体を作製し、これを巻回して巻回構造の積層体を形成する方法;正極及び負極を一定の面積と形状とを有する複数枚のシートに切断して得た正極シートと負極シートとを、セパレータシートを介して交互に積層した積層構造の積層体を形成する方法;長尺のセパレータをつづら折りにして、該つづら折りになったセパレータ同士の間に交互に正極体シートと負極体シートとを挿入した積層構造の積層体を形成する方法;等が可能である。
【0101】
次いで、電池外装(電池ケース)内に上述の積層体を収容して、電解液を電池ケース内部に注液し、積層体を電解液に浸漬して封印することによって、本実施形態における非水系二次電池を作製することができる。又は、電解液を高分子材料から成る基材に含浸させることによって、ゲル状態の電解質膜を予め作製しておき、シート状の正極、負極、及び電解質膜、並びにセパレータを用いて積層構造の積層体を形成した後、電池外装内に収容して非水系二次電池を作製することもできる。
【0102】
なお、電極の配置が、負極活物質層の外周端と正極活物質層の外周端とが重なる部分が存在するように、又は負極活物質層の非対向部分に幅が小さすぎる箇所が存在するように設計されている場合、電池組み立て時に電極の位置ずれが生じることにより、非水系二次電池における充放電サイクル特性が低下するおそれがある。よって、該非水系二次電池に使用する電極体は、電極の位置を予めポリイミドテープ、ポリフェニレンスルフィドテープ、PPテープ等のテープ類、接着剤等により、固定しておくことが好ましい。
【0103】
本実施形態において、アセトニトリルを使用した非水系電解液を用いた場合、その高いイオン伝導性に起因して、非水系二次電池の初回充電時に正極から放出されたリチウムイオンが負極の全体に拡散してしまう可能性がある。非水系二次電池では、正極活物質層よりも負極活物質層の面積を大きくすることが一般的である。しかしながら、負極活物質層のうち正極活物質層と対向していない箇所にまでリチウムイオンが拡散して吸蔵されてしまうと、このリチウムイオンが初回放電時に放出されずに負極に留まることとなる。そのため、該放出されないリチウムイオンの寄与分が不可逆容量となってしまう。こうした理由から、アセトニトリルを含有する非水系電解液を用いた非水系二次電池では、初回充放電効率が低くなってしまう場合がある。一方、負極活物質層よりも正極活物質層の面積が大きいか、又は両者が同じである場合には、充電時に負極活物質層のエッジ部分で電流の集中が起こり易く、リチウムデンドライトが生成し易くなる。
【0104】
正極活物質層と負極活物質層とが対向する部分の面積に対する、負極活物質層全体の面積の比について特に制限はないが、上記の理由により、1.0より大きく1.1未満であることが好ましく、1.002より大きく1.09未満であることがより好ましく、1.005より大きく1.08未満であることが更に好ましく、1.01より大きく1.08未満であることが特に好ましい。アセトニトリルを含む非水系電解液を用いた非水系二次電池では、正極活物質層と負極活物質層とが対向する部分の面積に対する、負極活物質層全体の面積の比を小さくすることにより、初回充放電効率を改善できる。
【0105】
正極活物質層と負極活物質層とが対向する部分の面積に対する、負極活物質層全体の面積の比を小さくするということは、負極活物質層のうち、正極活物質層と対向していない部分の面積の割合を制限することを意味している。これにより、初回充電時に正極から放出されたリチウムイオンのうち、正極活物質層とは対向していない負極活物質層の部分に吸蔵されるリチウムイオンの量(すなわち、初回放電時に負極から放出されずに不可逆容量となるリチウムイオンの量)を可及的に低減することが可能となる。よって、正極活物質層と負極活物質層とが対向する部分の面積に対する、負極活物質層全体の面積の比を上記の範囲に設計することによって、アセトニトリルを使用することによる電池の負荷特性向上を図りつつ、電池の初回充放電効率を高め、更にリチウムデンドライトの生成も抑えることができるのである。
【0106】
本実施形態における非水系二次電池は、初回充電により電池として機能し得るが、初回充電のときに電解液の一部が分解することにより安定化する。初回充電の方法について特に制限はないが、初回充電は0.001~0.3Cで行われることが好ましく、0.002~0.25Cで行われることがより好ましく、0.003~0.2Cで行われることが更に好ましい。初回充電は、途中に定電圧充電を経由して行われることも好ましい結果を与える。設計容量を1時間で放電する定電流が1Cである。リチウム塩が電気化学的な反応に関与する電圧範囲を長く設定することによって、安定強固なSEIが電極表面に形成され、内部抵抗の増加を抑制する効果があることの他、反応生成物が負極160のみに強固に固定化されることなく、何らかの形で、正極150、セパレータ170等の、負極160以外の部材にも良好な効果を与える。このため、非水系電解液に溶解したリチウム塩の電気化学的な反応を考慮して初回充電を行うことは、非常に有効である。
【0107】
本実施形態における非水系二次電池は、複数個の非水系二次電池を直列又は並列に接続した電池パックとして使用することもできる。電池パックの充放電状態を管理する観点から、1個当たりの使用電圧範囲は2~5Vであることが好ましく、2.5~5Vであることがより好ましく、2.75V~5Vであることが特に好ましい。
【0108】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である
【実施例
【0109】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0110】
(1)非水系電解液の調製
不活性雰囲気下、各種非水系溶媒、各種酸無水物、及び各種添加剤を、それぞれが所定の濃度になるよう混合し、更に、各種リチウム塩をそれぞれ所定の濃度になるよう添加することにより、非水系電解液(S1)及び(S2)を調製した。これらの非水系電解液組成を表1に示す。
【0111】
表1における非水系溶媒、リチウム塩、及び添加剤の略称は、それぞれ以下の意味である。また、表1における添加剤の質量%は、非水系電解液の全量に対する質量%を示している。
(非水系溶媒)
EMC:エチルメチルカーボネート
GBL:γ―ブチロラクトン
EC:エチレンカーボネート
VC:ビニレンカーボネート
(リチウム塩)
LiPF6:ヘキサフルオロリン酸リチウム
LiFSI:リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SO2F)2
【0112】
【表1】
【0113】
(2)コイン型非水系二次電池の作製
(2-1)正極の作製
(A)正極活物質としてリチウム、ニッケル、マンガン、及びコバルトの複合酸化物(LiNi0.8Mn0.1Co0.1)と、(B)導電助剤として、アセチレンブラック粉末と、バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、94:3:3の質量比で混合し、正極合剤を得た。得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを固形分68質量%となるように投入して更に混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ15μm、幅280mmのアルミニウム箔の片面に、この正極合剤含有スラリーの目付量を調節しながら、塗工幅240~250mm、塗工長125mm、無塗工長20mmの塗布パターンになるよう3本ロール式転写コーターを用いて塗布し、熱風乾燥炉で溶剤を乾燥除去した。得られた電極ロールは、両サイドをトリミングカットし、130℃8時間の減圧乾燥を実施した。その後、ロールプレスで正極活物質層の密度が2.9g/cmになるように圧延することにより、正極活物質層と正極集電体とからなる正極を得た。正極集電体を除く目付量は16.6mg/cmであった。
【0114】
(2-2)負極の作製
(a)負極活物質として、黒鉛粉末と、(b)導電助剤として、アセチレンブラック粉末と、バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、90.0:3.0:7.0の質量比で混合し、負極合剤を得た。得られた負極合剤に溶剤として水を固形分45質量%となるように投入して更に混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。負極集電体となる厚さ8μm、幅280mmの銅箔の片面に、この負極合剤含有スラリーの目付量を調節しながら、塗工幅240~250mm、塗工長125mm、無塗工長20mmの塗布パターンになるよう3本ロール式転写コーターを用いて塗布し、熱風乾燥炉で溶剤を乾燥除去した。得られた電極ロールは、両サイドをトリミングカットし、80℃12時間の減圧乾燥を実施した。その後、ロールプレスで負極活物質層の密度が1.4g/cmになるよう圧延して、負極活物質層と負極集電体から成る負極を得た。負極集電体を除く目付量は10.3mg/cmであった。
【0115】
(2-3)コイン型非水系二次電池の組み立て
CR2032タイプの電池ケース(SUS304/Alクラッド)にポリプロピレン製ガスケットをセットし、その中央に上述のようにして得られた正極を直径15.958mmの円盤状に打ち抜いたものを、正極活物質層を上向きにしてセットした。その上からガラス繊維濾紙(アドバンテック社製、GA-100)を直径16.156mmの円盤状に打ち抜いたものをセットして、非水系電解液を150μL注入した後、上述のようにして得られた負極を直径16.156mmの円盤状に打ち抜いたものを、負極活物質層を下向きにしてセットした。更にスペーサーとスプリングをセットした後に電池キャップをはめ込み、カシメ機でかしめた。あふれた電解液はウエスできれいにふきとった。25℃で12時間保持し、積層体に非水系電解液を十分馴染ませてコイン型非水系二次電池を得た。
【0116】
(3)コイン型非水系二次電池の評価
上述のようにして得られたコイン型非水系二次電池について、まず、下記(3-1)の手順に従って初回充電処理及び初回充放電容量測定を行った。次に(3-2)の手順に従ってそれぞれのコイン型非水系二次電池を評価した。なお、充放電はアスカ電子(株)製の充放電装置ACD-M01A(商品名)及びヤマト科学(株)製のプログラム恒温槽IN804(商品名)を用いて行った。ここで、1Cとは満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。満充電状態から定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0117】
(3-1)コイン型非水系二次電池の初回充放電処理
コイン型非水系二次電池の周囲温度を25℃に設定し、0.025Cに相当する0.15mAの定電流で充電して3.1Vに到達した後、0.05Cに相当する0.3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で電流が0.025Cに減衰するまで充電を行った。その後、0.15Cに相当する0.9mAの定電流で3.0Vまで放電した。次に、0.2Cに相当する1.2mAの定電流で4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で電流が0.025Cに減衰するまで充電を行った。その後、0.2Cに相当する1.2mAの電流値で3Vまで放電した。その後、上記と同様の充放電を更に1サイクル行った。
【0118】
(3-2)サイクル試験
上記(3-1)に記載の方法で初回充放電処理を行ったコイン型非水系二次電池について、周囲温度を50℃に設定し、1.5Cに相当する9mAの定電流で4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で電流が0.025Cに減衰するまで充電を行った。その後、1.5Cに相当する9mAの電流値で3Vまで放電した。その後、上記と同様に50℃における充放電1回を1サイクルとして、1000サイクル行った。初回充放電処理時の2サイクル目の放電容量を100%としたときのサイクル試験時の1000サイクル目の充電容量を、容量維持率として算出した。
【0119】
(3-3)正極の粉末X線回折
サイクル試験終了後、アルゴン雰囲気下でコイン型非水系二次電池を解体して正極を取り出し、ジエチルカーボネートで洗浄後、乾燥し、粉末X線回折装置による測定を行った。また、コイン型非水系二次電池を組み立てる前の正極についても、粉末X線回折装置による測定を行った。測定装置はリガク製Ultima-IVを使用した。X線源はCu-Kα、励起電圧は40kV,電流は40mA、光学系は集中光学系、Cu-Kβ線のフィルタはNi箔、検出器はDtex(高感度検出器)、測定方式はθ/2θ法、スリットはDS=1°、SS=解放、RS=解放、縦スリット=10mm、2θ/θスキャンは2θ=5~90°(0.02°/ステップ、0.5°/分)とした。
【0120】
格子定数の算出および、結晶子サイズの算出はリガク製のソフトウェア(PDXL)を用いた。結晶子サイズの評価はSiを外部標準とした。結晶子サイズの算出は下記Scherrerの式を用いた。格子定数は、観測された全てのピークを使って最小二乗法で精密化した。格子は六方晶、空間群はR-3m(a=b,α=β=90°,γ=120°)とした。
Scherrerの式 D=K×λ/(β×cosθ)
D:結晶子サイズ(結晶子サイズは2θ=64.5~66.0°の回折ピーク(110)から算出した)
K:scherrer定数(0.94)
λ:波長(1.5418), β:半値幅(rad)
θ:ブラッグ角
β=B・γ
γ=0.9991-0.01905(b/B)-2.8205(b/B)+2.878(b/B)―1.0366(b/B)
ここで、bはSiの半値幅、Bはサンプルの半値幅とした。
コイン型非水系二次電池を組み立てる前の正極における正極活物質のc軸の格子定数をc1、サイクル試験後の正極における正極活物質のc軸の格子定数をc2とする。
【0121】
[実施例1及び比較例1]
正極、負極、表1の非水系電解液を用い、上述の(2)に記載の方法に従ってコイン型非水系二次電池を作製した。次に、上述の(3-1)~(3-3)の手順に従ってそれぞれのコイン型非水系二次電池を評価した。この試験結果を表2および表3に示す。
【0122】
【表2】
【0123】
【表3】
【0124】
表2および表3に示すように、実施例1は、サイクル試験の容量維持率が80%以上であり、格子定数の変化率が0.9%以下、結晶子サイズは630Å以上であった。一方で比較例1はサイクル試験の容量維持率が76%以下であり、格子定数の変化率が1.2%以上、結晶子サイズは600Å未満であった。本結果が示すように、格子定数の変化率が1%以下である本発明の非水系二次電池は、サイクル試験における容量維持率が高く、高温環境下でのサイクル性能を改善できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の非水系二次電池は、例えば、携帯電話機、携帯オーディオ機器、パーソナルコンピュータ、IC(Integrated Circuit)タグ等の携帯機器用の充電池;ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車等の自動車用充電池;12V級電源、24V級電源、48V級電源等の低電圧電源;住宅用蓄電システム、IoT機器等としての利用等が期待される。また、本発明の非水系二次電池は、寒冷地用の用途、及び夏場の屋外用途等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0126】
100 非水系二次電池
110 電池外装
120 空間
130 正極リード体
140 負極リード体
150 正極
160 負極
170 セパレータ
図1
図2