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特許7514121サキサグリプチン含有製剤及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】サキサグリプチン含有製剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/403 20060101AFI20240703BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 9/28 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20240703BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240703BHJP
   A61P 5/50 20060101ALI20240703BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
A61K31/403
A61K47/02
A61K47/26
A61K9/28
A61K47/36
A61K47/32
A61P3/10
A61P5/50
A61P43/00 111
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020107612
(22)【出願日】2020-06-23
(65)【公開番号】P2022003016
(43)【公開日】2022-01-11
【審査請求日】2023-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000209049
【氏名又は名称】沢井製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】野沢 健児
(72)【発明者】
【氏名】伊豆井 航
(72)【発明者】
【氏名】夏目 文音
(72)【発明者】
【氏名】尾留川 大貴
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/096982(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0072628(US,A1)
【文献】特表2008-501025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
D-マンニトール、乳糖、無水乳糖、および無水リン酸水素カルシウムから選択される一つ以上の第1の添加剤を含み、デンプングリコール酸ナトリウムを含まず、素錠部100重量%に対して結晶セルロースの含有量が35重量%未満である素錠部と、
前記素錠部と接し、サキサグリプチンまたはその塩もしくはその水和物を含むフィルムコーティング部と、
を含むサキサグリプチン含有製剤。
【請求項2】
前記素錠部は、部分アルファー化デンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム、およびトウモロコシデンプンから選択される一つ以上の第2の添加剤をさらに含む請求項1に記載のサキサグリプチン含有製剤。
【請求項3】
前記第2の添加剤は、クロスカルメロースナトリウム、カルメロース、およびカルメロースカルシウムから選択される、請求項2に記載のサキサグリプチン含有製剤。
【請求項4】
前記素錠部は、素錠部100重量%に対して前記第1の添加剤を59重量%以上含む、請求項1乃至3の何れか1項に記載のサキサグリプチン含有製剤。
【請求項5】
前記素錠部は、素錠部100重量%に対して前記第2の添加剤を2.5重量%以上含む請求項2又は3に記載のサキサグリプチン含有製剤。
【請求項6】
前記素錠部は、素錠部100重量%に対して前記第2の添加剤を40重量%以下含む請求項5に記載のサキサグリプチン含有製剤。
【請求項7】
前記第1の添加剤は、D-マンニトールおよび乳糖から選択され、前記第2の添加剤は、クロスカルメロースナトリウムであり、
前記素錠部は、素錠部100重量%に対して前記第1の添加剤および前記第2の添加剤を69重量%以上含む請求項3に記載のサキサグリプチン含有製剤。
【請求項8】
前記フィルムコーティング部は、サキサグリプチンを除くフィルムコーティング部100重量%に対してポリビニルアルコールを40重量%以上含む請求項1乃至7の何れか1項に記載のサキサグリプチン含有製剤。
【請求項9】
D-マンニトール、乳糖、無水乳糖、および無水リン酸水素カルシウムから選択される一つ以上の第1の添加剤を含み、デンプングリコール酸ナトリウムを含まず、素錠部100重量%に対して結晶セルロースの含有量が35重量%未満である混合物を打錠して素錠部を形成し、
前記素錠部をサキサグリプチンまたはその塩もしくはその水和物を含むフィルムでコーティングすること、
を含むサキサグリプチン含有製剤の製造方法。
【請求項10】
前記混合物は、部分アルファー化デンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム、およびトウモロコシデンプンから選択される一つ以上の第2の添加剤をさらに含む請求項9に記載のサキサグリプチン含有製剤の製造方法。
【請求項11】
前記第2の添加剤は、クロスカルメロースナトリウム、カルメロース、およびカルメロースカルシウムから選択される、請求項10に記載のサキサグリプチン含有製剤の製造方法。
【請求項12】
前記混合物は、素錠部100重量%に対して前記第1の添加剤を59重量%以上含む、請求項9乃至11の何れか1項に記載のサキサグリプチン含有製剤の製造方法。
【請求項13】
前記混合物は、素錠部100重量%に対して前記第2の添加剤を2.5重量%以上含む請求項10又は11に記載のサキサグリプチン含有製剤の製造方法。
【請求項14】
前記混合物は、素錠部100重量%に対して前記第2の添加剤を40重量%以下含む請求項13に記載のサキサグリプチン含有製剤の製造方法。
【請求項15】
前記第1の添加剤は、D-マンニトールおよび乳糖から選択され、前記第2の添加剤は、クロスカルメロースナトリウムであり、
前記混合物は、素錠部100重量%に対して前記第1の添加剤および前記第2の添加剤を69重量%以上含む請求項11に記載のサキサグリプチン含有製剤の製造方法。
【請求項16】
前記フィルムは、サキサグリプチンを除くフィルムコーティング部100重量%に対してポリビニルアルコールを40重量%以上含む請求項9乃至15の何れか1項に記載のサキサグリプチン含有製剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サキサグリプチン含有製剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サキサグリプチン((1S,3S,5S)-2-[(2S)-2-Amino-2-(3-hydroxytricyclo[3.3.1.13,7]dec-1-yl)acetyl]-2-azabicyclo[3.1.0]hexane-3-carbonitrile monohydrate)は、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の分解酵素であるジペプチジルペプチダーゼ4(DPP4)の選択的阻害薬である。GLP-1は、膵臓のβ細胞を刺激してインスリン分泌を増強させる。サキサグリプチンは、GLP-1の分解を阻害することでインスリン分泌を促進し、血糖低下作用を発揮することから2型糖尿病治療剤として有効である。サキサグリプチンを含有する2型糖尿病治療剤として、例えば、オングリザ(登録商標)錠がある(非特許文献1)。
【0003】
サキサグリプチンは、分子内環化傾向がある不安定な化合物であることが知られている。サキサグリプチンの環化反応は、サキサグリプチン含有錠剤の製造工程や一般的に用いられる賦形剤との接触により加速されることが知られている。
【0004】
特許文献1においては、充填剤として微晶質セルロースおよびラクトース一水和物、崩壊剤としてクロスカルメロースナトリウム、潤滑剤としてステアリン酸マグネシウムを含む錠剤コア、ポリビニルアルコール(PVA)ベースのポリマーを含むインナーシールコーティング層、インナーシールコーティング層上に配置され、サキサグリプチン及びPVAベースのポリマーを含む第2コーティング層を含むサキサグリプチン含有錠剤が開示されている。特許文献2においては、インナーシールコーティング層および第2コーティング層に、アスコルビン酸または没食子酸プロピルのような水溶性抗酸化剤を追加したサキサグリプチン含有錠剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4901727号公報
【文献】特許第5837072号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】オングリザ錠2.5mg オングリザ錠5mg 医薬品インタビューフォーム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安定性を向上したサキサグリプチン含有製剤及びその製造方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態によると、D-マンニトール、乳糖、無水乳糖、および無水リン酸水素カルシウムから選択される一つ以上の第1の添加剤を含み、素錠部100重量%に対して結晶セルロースの含有量が35重量%未満である素錠部と、素錠部と接し、サキサグリプチンまたはその塩もしくはその水和物を含むフィルムコーティング部と、を含むサキサグリプチン含有製剤及びその製造方法が提供される。
【0009】
素錠部は、部分アルファー化デンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム、およびトウモロコシデンプンから選択される一つ以上の第2の添加剤をさらに含んでもよい。
【0010】
第2の添加剤は、クロスカルメロースナトリウム、カルメロース、およびカルメロースカルシウムから選択されてもよい。
【0011】
素錠部は、素錠部100重量%に対して第1の添加剤を59重量%以上含んでもよい。
【0012】
素錠部は、素錠部100重量%に対して第2の添加剤を2.5重量%以上含んでもよい。
【0013】
素錠部は、素錠部100重量%に対して第2の添加剤を40重量%以下含んでもよい。
【0014】
第1の添加剤は、D-マンニトールおよび乳糖から選択され、第2の添加剤は、クロスカルメロースナトリウムであり、素錠部は、素錠部100重量%に対して第1の添加剤および第2の添加剤を69重量%以上含んでもよい。
【0015】
フィルムコーティング部は、サキサグリプチンを除くフィルムコーティング部100重量%に対してポリビニルアルコールを40重量%以上含んでもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、保存時に安定性を向上したサキサグリプチン含有製剤及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例および比較例に含まれる添加剤の種類と量、およびイミノピペラジン環体量(%)を示す表である。
図2】実施例および比較例に含まれる添加剤の種類と量、およびイミノピペラジン環体量(%)を示す表である。
図3】実施例および比較例に含まれる添加剤の種類と量、およびイミノピペラジン環体量(%)を示す表である。
図4】実施例および比較例に含まれる添加剤の種類と量、およびイミノピペラジン環体量(%)を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るサキサグリプチン含有製剤及びその製造方法について詳細に説明する。ただし、本発明のサキサグリプチン含有製剤及びその製造方法は、以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0019】
本発明者らが検討した結果、サキサグリプチンを含むフィルムで素錠部を直接コーティングしたところ、特定の添加剤を素錠部に配合することによってサキサグリプチン含有製剤中におけるフィルムコーティング部のサキサグリプチンの安定性が向上することを見いだした。特許文献1および2には、素錠部の表面に直接、サキサグリプチンを含むフィルムをコーティングすることは開示も示唆もされていない。
【0020】
本実施形態のサキサグリプチンは、(1S、3S、5S)-2-[(2S)-2-アミノ-2-(3-ヒドロキシトリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イル)アセチル] -2-アザビシクロ[3.1.0]ヘキサン-3-カルボニトリル一水和物であることが好ましい。しかしながらこれに限定されず、サキサグリプチンまたはその塩もしくはその水和物であればよい。サキサグリプチンの含有量は、期待される治療効果に応じて適宜選択可能であるが、例えば、サキサグリプチン含有製剤の1錠中に2.5mg以上5mg以下含まれている。
【0021】
本発明の一実施形態に係るサキサグリプチン含有製剤は、素錠部と、サキサグリプチンを含むフィルムコーティング部と、を含有するコーティング錠である。フィルムコーティング部は、素錠部の表面を覆うように接して配置される。本発明の一実施形態に係るサキサグリプチン含有製剤は、素錠部とサキサグリプチンを含むフィルムコーティング部とが接していればよく、例えば、さらに保護部を含んでもよい。保護部は、フィルムコーティング部の表面を覆うように接して配置される。
【0022】
一実施形態に係る素錠部は、例えば、D-マンニトール、乳糖、無水乳糖、および無水リン酸水素カルシウムからなる群から選択される一つ以上を含む。本実施形態において素錠部は、素錠部100重量%に対してD-マンニトール、乳糖、無水乳糖、および無水リン酸水素カルシウムからなる群から選択される一つ以上を59重量%以上含むことが好ましく、65重量%以上含むことが好ましく、84重量%以上含むことがより好ましい。本実施形態において、素錠部が素錠部100重量%に対してD-マンニトール、乳糖、無水乳糖、および無水リン酸水素カルシウムからなる群から選択される一つ以上を59重量%以上含むことにより、保存時のサキサグリプチンの類縁物質の生成を抑制することができ、サキサグリプチンの安定性を向上することができる。
【0023】
一実施形態に係る素錠部は、結晶セルロースを含まないことが好ましい。本実施形態において素錠部は、素錠部100重量%に対して結晶セルロースの含有量が35重量%未満であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましい。
【0024】
一実施形態に係る素錠部は、さらにクロスカルメロースナトリウム、部分アルファー化デンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、カルメロース、カルメロースカルシウム、またはトウモロコシデンプン等を含んでもよい。クロスカルメロースナトリウム、カルメロース、またはカルメロースカルシウムといったカルボキシメチルセルロース構造をもつ添加剤は、サキサグリプチンの安定化に優れることから特に好ましい。本実施形態において素錠部は、素錠部100重量%に対してクロスカルメロースナトリウム、カルメロース、またはカルメロースカルシウムを2.5重量%以上40重量%以下含むことがより好ましい。本実施形態において素錠部は、素錠部100重量%に対してクロスカルメロースナトリウム、カルメロース、またはカルメロースカルシウムを2.5重量%以上15重量%以下含むことがより好ましい。本実施形態において、素錠部がクロスカルメロースナトリウム、カルメロース、またはカルメロースカルシウムを含むことにより、保存時のサキサグリプチンの類縁物質の生成を抑制することができ、サキサグリプチンの安定性を向上することができる。
【0025】
一実施形態に係る素錠部は、素錠部100重量%に対してD-マンニトールおよびクロスカルメロースナトリウム、または乳糖およびクロスカルメロースナトリウムを69重量%以上含むことが好ましく、90重量%以上含むことがより好ましい。本実施形態において、素錠部が素錠部100重量%に対してD-マンニトールおよびクロスカルメロースナトリウム、または乳糖およびクロスカルメロースナトリウムを69重量%以上含むことにより、保存時のサキサグリプチンの類縁物質の生成を抑制することができ、サキサグリプチンの安定性を向上することができる。
【0026】
一実施形態に係る素錠部は、さらにステアリン酸マグネシウム等を含んでもよい。本実施形態において素錠部は、素錠部100重量%に対してステアリン酸マグネシウムを0.5重量%以上1重量%以下含むことが好ましい。
【0027】
一実施形態に係る素錠部は、サキサグリプチンを含むフィルムコーティング部によってコーティングされている。素錠部とフィルムコーティング部とは直接、接している。
【0028】
一実施形態に係るフィルムコーティング部は、サキサグリプチンを含む。一実施形態に係るフィルムコーティング部は、ポリビニルアルコールベースであることが好ましく、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、タルクおよび酸化チタンからなる群から選択される一つ以上を含むことが好ましい。本実施形態においてフィルムコーティング部は、例えば、サキサグリプチンを除くフィルムコーティング部100重量%に対して40重量%ポリビニルアルコール、20重量%ポリエチレングリコール、15重量%タルクおよび25重量%酸化チタンを含んでもよい。
【0029】
一実施形態に係るサキサグリプチンを含むフィルムコーティング部は、保護部によってさらにコーティングされていてもよい。フィルムコーティング部と保護部とは直接、接していてもよい。
【0030】
一実施形態に係る保護部は、サキサグリプチンを含まないこと以外フィルムコーティング部と同じ組成であってもよい。保護部は、ポリビニルアルコールベースであってもよく、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、タルクおよび酸化チタンからなる群から選択される一つ以上を含んでもよい。本実施形態において保護部は、例えば、保護部100重量%に対して40重量%ポリビニルアルコール、20重量%ポリエチレングリコール、15重量%タルクおよび25重量%酸化チタンを含んでもよい。
【0031】
本実施形態に係るサキサグリプチン含有製剤は、特定の添加剤を素錠部に配合することで、直接、サキサグリプチンを含むフィルムでコーティングしても、保存時のサキサグリプチン類縁物質の生成を抑制することができ、サキサグリプチンの安定性を向上することができる。
【0032】
本実施形態に係るサキサグリプチン含有製剤は、薬学分野において公知の製造方法に従って製造することができる。本実施形態に係るサキサグリプチン含有製剤の製造方法は、まず上記から選択した添加剤を均質に混合し、得られた混合物を打錠することにより素錠部を製造する。このとき、他の添加剤をさらに加えてもよい。素錠部は、通常用いられる打錠機で圧縮成形することにより製造することができる。成形に関しては、どのような形状をも採用することができ、例えばタブレット型、楕円形、球形、棒状型の形状に成形することができる。
【0033】
次いで、得られた素錠部を、サキサグリプチンを含むフィルムでコーティングすることでサキサグリプチン含有製剤を製造する。サキサグリプチンと、上記から選択した添加剤とを溶媒に溶解又は分散させてコーティング液を調製する。このとき、他の添加剤をさらに加えてもよい。得られたコーティング液を、公知のコーティング装置により素錠部に直接噴霧して被覆し、溶剤を除去することによりフィルムコーティング部を製造することができる。
【0034】
次いで、得られたコーティング錠はさらに、サキサグリプチンを含まないフィルムでコーティングしてもよい。上記から選択した添加剤を溶媒に溶解又は分散させてコーティング液を調製する。このとき、他の添加剤をさらに加えてもよい。得られたコーティング液を、公知のコーティング装置によりフィルムコーティング部に直接噴霧して被覆し、溶剤を除去することにより保護部を製造することができる。
【0035】
本実施形態に係るサキサグリプチン含有製剤の製造方法は、特定の添加剤を素錠部に配合することで、直接、サキサグリプチンを含むフィルムでコーティングしても、保存時のサキサグリプチン類縁物質の生成を抑制することができ、サキサグリプチンの安定性を向上することができる。
【実施例
【0036】
本発明に係るサキサグリプチン含有製剤の製造方法の一例を以下に示すが、この記載は一例にすぎず、これに限定されるものではない。
【0037】
(サキサグリプチン含有製剤の製造)
各添加剤を混合し、得られた混合物をロータリー打錠機(VELA5、株式会社菊水製作所)により打錠成形することにより200mg/錠の実施例および比較例に係る素錠を製造した。次いで、各素錠1錠当たりサキサグリプチン水和物2.64mg、ポリビニルアルコール8mg、ポリエチレングリコール4mg、タルク3mg、および酸化チタン5mgを塩酸200gに溶解又は分散させて、水酸化ナトリウムを加えpHを約2に調整することでコーティング液を調製した。コーティング液をHC-LABO(フロイント産業)を用いて素錠部の表面に噴霧して被覆し、溶剤を除去することによりサキサグリプチン含有製剤を得た。
【0038】
(サキサグリプチン含有製剤の安定性)
サキサグリプチン含有製剤は、25℃75%RHの条件下で1か月保存した。安定性の評価として、HPLC法を用いて保存後のサキサグリプチン含有製剤の純度を評価した。面積百分率法により、クロマトグラム上に得られたサキサグリプチン及びサキサグリプチン由来の類縁物質の各成分のピーク面積の総和を100とし、ピーク面積の比からサキサグリプチン由来の主要類縁物質であるイミノピペラジン環体量(%)を算出した。各実施例、比較例に含まれる添加剤の種類と量(mg)、およびイミノピペラジン環体量(%)を図1~4に示す。
【0039】
図1は実施例1~4および比較例1における保存後のサキサグリプチン由来のイミノピペラジン環体量(%)を示す。図1に示すように、素錠部100重量%に対してD-マンニトール、乳糖、無水乳糖、または無水リン酸水素カルシウムを99重量%含む実施例1~4は、何れも低いイミノピペラジン環体量(%)を示した。一方で、素錠部100重量%に対して結晶セルロースを99重量%含む比較例1は、高いイミノピペラジン環体量(%)を示した。
【0040】
図2は実施例5~10および比較例2における保存後のサキサグリプチン由来のイミノピペラジン環体量(%)を示す。図2に示すように、素錠部100重量%に対してD-マンニトールおよび低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、D-マンニトールおよび部分アルファー化デンプン、D-マンニトールおよびクロスポビドン、D-マンニトールおよびカルメロース、D-マンニトールおよびカルメロースカルシウム、またはD-マンニトールおよびトウモロコシデンプンを99重量%含む実施例5~10は、実施例1と比べてより低いイミノピペラジン環体量(%)を示した。一方で、素錠部100重量%に対してD-マンニトールおよびデンプングリコール酸ナトリウムを99重量%含む比較例2は、高いイミノピペラジン環体量(%)を示した。
【0041】
図3は実施例11~24および比較例3における保存後のサキサグリプチン由来のイミノピペラジン環体量(%)を示す。図3に示すように、素錠部100重量%に対して59重量%以上のD-マンニトールを含む実施例11~24は何れも、実施例1と比べてより低いイミノピペラジン環体量(%)を示した。実施例1と比較して、素錠部100重量%に対してD-マンニトールおよびクロスカルメロースナトリウムを99重量%含む実施例11~19は、さらに低いイミノピペラジン環体量(%)を示した。実施例1と比較して、素錠部100重量%に対して2.5重量%~40重量%のクロスカルメロースナトリウムを含む実施例11~19は、さらに低いイミノピペラジン環体量(%)を示した。実施例1と比較して、素錠部100重量%に対して10重量%~30重量%の結晶セルロースと5重量%のクロスカルメロースナトリウムとを素錠部に含む実施例20~24は、低いイミノピペラジン環体量(%)を示した。一方で、素錠部100重量%に対して40重量%の結晶セルロースと40重量%の部分アルファー化デンプンとを素錠部に含む比較例3は、高いイミノピペラジン環体量(%)を示した。
【0042】
図4は実施例25および比較例4~15における保存後のサキサグリプチン由来のイミノピペラジン環体量(%)を示す。図4に示すように、素錠部100重量%に対して乳糖およびクロスカルメロースナトリウムを99重量%含む実施例25は、実施例2と比べてより低いイミノピペラジン環体量(%)を示した。素錠部100重量%に対して35重量%以上の結晶セルロースを素錠部に含む比較例4~15は、何れも実施例2より高いイミノピペラジン環体量(%)を示した。
【0043】
上述した各実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
図1
図2
図3
図4