(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】水使用研磨用ボックス
(51)【国際特許分類】
A61C 13/00 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
A61C13/00 M
(21)【出願番号】P 2020119253
(22)【出願日】2020-07-10
【審査請求日】2023-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】519454132
【氏名又は名称】岡林 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100165423
【氏名又は名称】大竹 雅久
(72)【発明者】
【氏名】岡林 隆一
【審査官】寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3225358(JP,U)
【文献】特開平06-237947(JP,A)
【文献】特開2007-055664(JP,A)
【文献】特開2003-192074(JP,A)
【文献】特開2001-037783(JP,A)
【文献】国際公開第2020/059980(WO,A1)
【文献】米国特許第4892830(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持台の上部に載置された水受皿と、
前記水受皿の上方に設けられ前記水受皿との間に研磨作業空間を形成する上蓋部材と、
前記水受皿の下方に設けられ前記支持台に支持されて前記水受皿からの流水を貯留する貯水容器と、を具備し、
前記上蓋部材には、作業する手を前記研磨作業空間に挿入可能な作業用開口が形成されており、
前記上蓋部材は、前記作業用開口が形成された前蓋部材と、前記前蓋部材の後方に設けられた後蓋部材と、に分離して取り外し自在であ
り、
前記前蓋部材の前面部及び上面部、並びに前記後蓋部材の上面部は、透明部材から形成され、
前記前蓋部材の側面部、並びに前記後蓋部材の背面部及び側面部は、不透明部材から形成されており、
前記後蓋部材の上面部には、前記研磨作業空間を照らすLED光源が設けられていることを特徴とする水使用研磨用ボックス。
【請求項2】
前記前蓋部材には、側面部から外側に突出する凸部が形成されており、
前記後蓋部材の側面部には、前記凸部に係合する鉤状の係合部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の水使用研磨用ボックス。
【請求項3】
前記作業用開口は、ワークをつかむ手を挿通可能な第1の作業用開口と、研磨機をつかむ手を挿通可能な第2の作業用開口と、から構成され、
前記第2の作業用開口は、前記前蓋部材の前面部から側面部及び上面部まで連続して開口するよう形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水使用研磨用ボックス。
【請求項4】
前記水受皿の内部には、前記上蓋部材の周囲を支持する支持部材が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の水使用研磨用ボックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨や切削作業中の除塵を可能とした水使用研磨用ボックスに関し、特に、洗浄水を利用して歯科用研磨作業等を安全且つ高精度に実行することができる水使用研磨用ボックスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、義歯等の歯科用ワークを研磨または切削する際に用いられ、ワークから発生する研磨屑や切削屑を回収して飛散を防止する歯科用集塵機が知られている。この種の歯科用集塵機としては、空気流を利用して研磨屑等をフィルタに吸着して飛散を防止する方式のものがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、作業者の両手が載るベースと、ベースの前端部に設けられて外部から吸引される吸塵口を有する吸塵口ユニットと、吸塵口を通る空気の除塵を行う着脱自在なフィルタユニットと、作業位置とフィルタ交換位置とに回動自在に設けられたカバーと、を備えた歯科用集塵器が開示されている。
【0004】
同文献に開示された歯科用集塵器は、吸塵口ユニットに吸気力を作用させる排気装置に接続される。作業者が小型グライン等を用いてワークを研磨等する際には、排気装置の吸引により、空気は、空気取入口から流入し、作業者の両手の間を経由してフィルタユニットを介して吸塵口ユニットに流入して排出される。これにより、研磨等の作業によって発生する粉塵の外部への飛散が抑えられる。
【0005】
また例えば、特許文献2には、作業者の両手が載るベースと、前部が開放されて側部に両手の差込み口を有し、後部のみでベースに取り付けられたカバーと、ベースの後部に設けられた吸引口と、を備える前方開放型作業ボックスが開示されている。同文献に開示された前方開放型作業ボックスには、カバーの上壁に透明板や拡大鏡が設けられている。
【0006】
また、本願出願人は、洗浄流を利用して研磨等作業中の研磨屑等を除去する水使用研磨用ボックスを考案している。例えば、特許文献3には、研磨等作業の際に洗浄水の噴射を可能としてワークを冷却すると共に、ワークWから発生する研磨屑や切削屑等を洗浄水と共に回収して、研磨屑等の飛散を防止する水使用研磨用ボックスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-95698号公報
【文献】特開2003-126118号公報
【文献】実用新案登録第3225358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記した従来技術の歯科用集塵機のように空気流を利用して研磨等作業の除塵を行う方式では、粉塵を含む空気を吸引するための吸引ポンプ等を有する排気設備が必要であった。そして、研磨ボックスの吸塵口と排気設備との間には、吸塵口と排気設備とを空気流通自在につなぐ配管ホースを設けると共に、空気流路に粉塵を吸着するフィルタを設ける必要がある。そのため、従来技術の歯科用集塵機を利用した研磨装置は、研磨等作業に必要な構成機器が多く、設備が複雑になるという問題点があった。
【0009】
また、上記した従来技術のように空気流を利用して除塵を行う方式では、飛散する洗浄水を受け止めて回収する構成を備えていないので、研磨等の作業時に研磨機から洗浄水を噴射することができなかった。そのため、ワークと加工工具との摩擦による発熱によりワークの温度が高くなり、ワークの品質を劣化させてしまうという問題点があった。
【0010】
また、空気流を利用した研磨ボックスでは、フィルタによって粉塵を吸着して除去する方式であるので、フィルタには粉塵が付着し易く、粉塵が付着したフィルタを頻繁に交換する必要があった。そのため、交換用フィルタを多数準備する必要があると共に、フィルタ交換の作業が負担となった。
【0011】
また、特許文献2に開示された作業ボックスのように、透明板や拡大鏡を介して加工領域の作業状況を見ながらワークの研磨や切削を行う構成では、透明板や拡大鏡の内面に粉塵が付着して、作業状況の観察が難しくなるという問題点もあった。
【0012】
また、特許文献3に開示された水使用研磨用ボックスは、従来技術の空気流を利用する歯科用集塵機のように研磨機等からの洗浄水噴射を停止することなく、研磨等作業中に研磨機等から洗浄水を噴射しながら作業を行うことができる。しかしながら、研磨等作業後の装置の洗浄を容易にして研磨等作業の高効率化、高精度化を図るために改善すべき点があった。
【0013】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡易な設備で粉塵を除去することができると共に、作業状態の観察が容易で高精度な研磨若しくは切削作業を実行することができ、研磨等作業後の洗浄も容易に行うことができる水使用研磨用ボックスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の水使用研磨用ボックスは、支持台の上部に載置された水受皿と、前記水受皿の上方に設けられ前記水受皿との間に研磨作業空間を形成する上蓋部材と、前記水受皿の下方に設けられ前記支持台に支持されて前記水受皿からの流水を貯留する貯水容器と、を具備し、前記上蓋部材には、作業する手を前記研磨作業空間に挿入可能な作業用開口が形成されており、前記上蓋部材は、前記作業用開口が形成された前蓋部材と、前記前蓋部材の後方に設けられた後蓋部材と、に分離して取り外し自在であり、前記前蓋部材の前面部及び上面部、並びに前記後蓋部材の上面部は、透明部材から形成され、前記前蓋部材の側面部、並びに前記後蓋部材の背面部及び側面部は、不透明部材から形成されており、前記後蓋部材の上面部には、前記研磨作業空間を照らすLED光源が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水使用研磨用ボックスによれば、支持台の上部に載置された水受皿と、水受皿の上方に設けられ水受皿との間に研磨作業空間を形成する上蓋部材と、水受皿の下方に設けられ水受皿からの流水を貯留する貯水容器と、を具備する。そして、上蓋部材には、作業する手を研磨作業空間に挿入可能な作業用開口が形成されており、上蓋部材は、作業用開口が形成された前蓋部材と、前蓋部材の後方に設けられた後蓋部材と、に分離して取り外し自在である。
【0016】
このような構成により、作業者は、加工するワークと研磨機を持つ手を作業用開口からボックス内の研磨作業空間に挿入し、洗浄水を噴射しながらワークの研磨加工や研削加工を実行することができる。これにより、ワークの被加工部分から飛散する研磨屑等を洗浄水で捕らえて下方に押し流し、貯水容器の内部に貯留することができる。よって、研磨等作業によってワークから発生する粉塵が室内に飛散することを防止することができる。
【0017】
また、上蓋部材は、前蓋部材と、その後方の後蓋部材と、に分離して取り外し可能である。よって、ワークを研磨等する加工が終了した際には、上蓋部材を前蓋部材と後蓋部材に分離して取り外して、研磨作業空間の内部を綺麗に洗浄することができる。即ち、水受皿から前蓋部材及び後蓋部材を取り外し、前蓋部材、後蓋部材及び水受皿に付着した粉塵等を洗い流すことができる。
【0018】
また、本発明の水使用研磨用ボックスによれば、前記前蓋部材には、側面部から外側に突出する凸部が形成されており、前記後蓋部材の側面部には、前記凸部に係合する鉤状の係合部が形成されても良い。これにより、上蓋部材の組み付けを容易且つ正確に行えるようになると共に、研磨等作業の際には、前蓋部材と後蓋部材の外れを防止することができる。
【0019】
また、本発明の水使用研磨用ボックスによれば、前記作業用開口は、ワークをつかむ手を挿通可能な第1の作業用開口と、研磨機をつかむ手を挿通可能な第2の作業用開口と、から構成され、前記第2の作業用開口は、前記前蓋部材の前面部から側面部及び上面部まで連続して開口するよう形成されても良い。これにより作業者は、前面部、側面部及び上面部に連続開口する第2の作業用開口から研磨機を容易に挿入できる。また、作業者は、第2の作業用開口から、研磨機等による加工箇所を正確に視認することができる。よって、加工を行う手を動かし易く研磨機等の操作が容易になると共に、視覚を通じて加工状態を正確に把握することができるので、安全且つ高精度な研磨等加工を行うことができる。
【0020】
また、本発明の水使用研磨用ボックスによれば、前記水受皿の内部には、前記上蓋部材の周囲を支持する支持部材が設けられても良い。これにより、上蓋部材の正しい位置への取り付けが容易になると共に、研磨等作業中には、上蓋部材の移動や外れが防止され、研磨等作業の実行が容易になる。
【0021】
また、本発明の水使用研磨用ボックスによれば、前記上蓋部材の前面部及び上面部は、透明部材から形成され前記上蓋部材の背面部及び側面部は、不透明部材から形成されても良い。これにより、作業者は、上蓋部材の透明な前面部及び上面部を介して、研磨機等によるワークの加工箇所を正確に視認することができる。また、上蓋部材の背面部及び側面部は、不透明部材から形成されているので、室内の照明等から研磨作業空間内への透過光によってワークの研磨状況の視認が難しくなってしまうことを抑制することができる。
【0022】
また、本発明の水使用研磨用ボックスによれば、前記後蓋部材の上面部には、前記研磨作業空間を照らすLED光源が設けられても良い。これにより、ワークの研磨箇所が見易くなり、目視によって研磨状況を正確に把握することができ、高精度且つ高品質な研磨等加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る水使用研磨用ボックスの正面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る水使用研磨用ボックスのボックス付近の斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る水使用研磨用ボックスのボックス付近の分解斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る水使用研磨用ボックスの前蓋部材及び後蓋部材を示す分解側面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る水使用研磨用ボックスのボックス付近を示す分解正面図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る水使用研磨用ボックスの使用状態を示すボックス付近の透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態に係る水使用研磨用ボックスを図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る水使用研磨用ボックス1の概略構造を示す正面図である。
【0025】
図1を参照して、水使用研磨用ボックス1は、研磨や切削作業等に用いられるものである。具体的には、水使用研磨用ボックス1は、研磨等作業の際に洗浄水の噴射を可能としてワークW(
図6参照)を冷却すると共に、ワークWから発生する研磨屑や切削屑等を回収して、研磨屑等の飛散を防止するために用いられるものである。
【0026】
例えば、水使用研磨用ボックス1は、歯科医師や歯科技工士等の作業者がハンドピースと称されるエアーグラインダ等の研磨機P(
図6参照)を用いて義歯等の歯科用のワークWを研磨等する際の除塵に利用される。即ち、水使用研磨用ボックス1は、歯科技工において、ワークWからの粉塵の飛散を防止すると共に、ワークWを高精度且つ高品質に加工するために用いられる。
また例えば、水使用研磨用ボックス1は、宝飾品の加工等、細かい作業を行う際に利用されても良い。
【0027】
図1に示すように、水使用研磨用ボックス1は、内部に研磨作業空間3が形成されるボックス2と、ボックス2の下部を構成する水受皿6と、水受皿6の下方に設けられた貯水容器7と、を有する。
【0028】
ボックス2は、ワークWや研磨機P等を挿入して研磨等の作業を行う研磨作業空間3を形成する。ボックス2は、略直方体状の形態をなす箱状の部材である。ボックス2の前面側、側面側、背面側及び上面側は、上蓋部材4から形成されており、ボックス2の底面側は、水受皿6によって形成されている。
【0029】
ボックス2は、支持台8の上方に設けられており、ボックス2には、作業者がワークWや研磨機P等を持つ手を挿入する開口である作業用開口14、15が形成されている。
【0030】
水使用研磨用ボックス1は、研磨加工等の作業の際に、ボックス2の内部に洗浄水を噴射することが可能であることを特徴とする。ボックス2は、ワークWから飛散する研磨屑等を受け止めると共に、加工の際に研磨作業空間3の内部に噴射される洗浄水を受け止めて、研磨屑等が外部へ飛散することを防止する。また、ボックス2は、研磨等作業時にワークWが作業者の指より離れてしまった際に、そのワークWが外部に飛び出すことを防ぐことができる。
【0031】
水受皿6は、略直方体状の形態をなす上面が開口した略箱状の部材であり、例えば、ステンレス材等から形成されている。水受皿6は、支持台8の上部に載置され、水受皿6の上部に上蓋部材4が載置される。水受皿6は、加工の際にボックス2の内部に噴射されて飛散する洗浄水を受け止める。
【0032】
貯水容器7は、洗浄水を貯留する容器であり、ボックス2の水受皿6の下方に設けられ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂製の容器であっても良い。貯水容器7は、ボックス2を支持する支持台8に取り外し自在に支持されている。ボックス2の内部に噴射された洗浄水は、水受皿6を経由して貯水容器7へと流れ貯水容器7の内部に溜められる。なお、貯水容器7は、流水可能な図示しない排水管を介してボックス2の水受皿6に接続されても良い。
【0033】
支持台8は、ボックス2及び貯水容器7を支持する部材であり、例えば、略直方体状の形態をなす移動自在なワゴン等であっても良い。支持台8の左右略中央部または4隅部には、垂直方向に延在する支柱30が設けられている。支柱30は、水平方向に延在する横棒31その他図示しない横棒等によって固定されても良い。
【0034】
支柱30及びそれを支持する横棒31等は、例えば、金属性のパイプ材、角柱、山形鋼等である。また、支柱30と横棒31等は、1本の棒状部材を曲折することによって、連続する1つの部材として形成されても良い。
【0035】
支持台8には、支柱30に支持された棚部材32、33、34が設けられている。棚部材32、33、34は、例えば、鋼鈑から形成された板状、箱状または籠状の部材である。なお、棚部材32、33、34は、高さ位置を変更自在に設けられていても良い。
【0036】
最上段の棚部材32の上面には、水受皿6が載置される。棚部材32が上下方向の位置を変更自在に設けられていることにより、水受皿6の上下方向の位置、即ちボックス2の上下方向の位置は変更自在である。
【0037】
棚部材32の下方の棚部材33には、取り外し可能に貯水容器7が載置される。このような構成により、研磨等の作業で洗浄水が溜まった貯水容器7を取り外して洗浄水を廃棄等することができる。また、使用済みの貯水容器7を、新しい貯水容器7に交換することも可能であり、その作業は容易である。なお、貯水容器7は、最下段の棚部材34に載置され、図示しない排水管を介して水受皿6に接続されても良い。
【0038】
支柱30の下端部には、支持台8を移動自在に支持する車輪36が設けられている。車輪36は、例えば、ゴム車輪等を有するキャスタである。車輪36は、方向変更可能な自在車であっても良く、または、所定の一方向に向かって移動可能な固定車と自在車との組み合わせであっても良い。車輪36が設けられることにより、水使用研磨用ボックス1の移動が容易になり、研磨等の作業効率が向上する。
【0039】
また、水使用研磨用ボックス1は、移動用として、ボックス2及び支持台8を更に軽量化した構成を採用することも可能である。例えば、歯科医師等である使用者は、往診等のために水使用研磨用ボックス1を自動車に載せて病院外に移動し、利用することもできる。
【0040】
水使用研磨用ボックス1には、図示しない蓄電池が設けられても良い。蓄電池は、例えば、支持台8の棚部材33、34の上部等に載置され、研磨機Pや、後述するLED光源24の電源として利用されても良い。これにより、商用電源が利用できない場所においても、水使用研磨用ボックス1を利用した研磨等作業を行うことができる。
【0041】
図2は、水使用研磨用ボックス1のボックス2付近の正面、右側面及び平面を表している斜視図である。
図2に示すように、ボックス2は、水受皿6と、その上方に取り付けられた上蓋部材4と、上蓋部材4の周囲を支持する支持部材5と、から形成され、中空略直方体状の形態をなしている。ボックス2の内部には、水受皿6及び上蓋部材4に囲まれた研磨作業空間3が形成される。
【0042】
上蓋部材4は、略直方体状の形態をなす下面が開口した略箱状の部材であり、水受皿6の内部に取り付けられる。上蓋部材4には、作業する手を研磨作業空間3に挿入可能な作業用開口14、15が形成されている。詳しくは、上蓋部材4は、作業用開口14、15が形成された前蓋部材10と、前蓋部材10の後方に設けられた後蓋部材18と、を有する。
【0043】
前蓋部材10に形成された作業用開口14は、作業者がワークW(
図6参照)を保持する左手を挿入可能な第1の作業用開口であり、例えば、略円形状に形成されている。
【0044】
作業用開口15は、作業者が研磨機P(
図6参照)を把持する右手を挿入可能な第2の作業用開口である。作業用開口15は、作業用開口14より大きく、前蓋部材10の前面部11の右側辺部付近及び上辺部付近を超えて側面部12及び上面部13まで連続して開口している略四角形状の開口である。
【0045】
このような形態の作業用開口15が形成されていることにより、作業者は、前面部11、側面部12及び上面部13に連続開口する作業用開口15から研磨機Pを容易に挿入できる。
【0046】
また、作業者は、作業用開口15から、研磨機P等によるワークWの加工箇所を正確に視認することができる。よって、加工を行う手を動かし易く研磨機P等の操作が容易になると共に、視覚を通じて加工状態を正確に把握することができるので、安全且つ高精度な研磨等加工を行うことができる。
【0047】
なお、前述の作業用開口14と作業用開口15は、水使用研磨用ボックス1を使用する作業者に対応して使い易くするため、左右逆に形成されていても良い。
また、作業用開口14及び作業用開口15は、作業中に洗浄水が外部に飛散し難い形状及び位置に形成されている。よって、作業用開口14、15からの洗浄水の飛散は少ない。
【0048】
前蓋部材10及び後蓋部材18は、例えば、合成樹脂材等から形成されている。詳しくは、前蓋部材10の前面部11及び上面部13、並びに後蓋部材18の上面部21は、研磨作業空間3の内部を視認することが可能な透明部材から形成されている。換言すれば、上蓋部材4の前面部11及び上面部13、21は、透明部材から形成されている。
これにより、作業者は、上蓋部材4の透明な前面部11及び上面部13、21を介して、研磨機P等によるワークWの加工箇所を正確に視認することができる。
【0049】
他方、前蓋部材10の左右の側面部12、並びに後蓋部材18の背面部19及び左右の側面部20は、外部から研磨作業空間3が見えないように遮蔽する不透明部材から形成されている。即ち、上蓋部材4の背面部19及び両側の側面部12、20は、不透明部材から形成されている。
【0050】
これにより、室内の照明等から研磨作業空間3内への透過光によってワークWの研磨状況の視認が難しくなってしまうことを抑制することができる。つまり、ワークWの加工状態を正確に把握することができ、安全且つ高品質な研磨等加工が可能となる。
【0051】
後蓋部材18の上面部21には、研磨作業空間3を照らすLED光源24が設けられている。LED光源24は、作業の際に作業者がまぶしくない位置であって、ワークWを見易くする位置に設けられている。即ち、LED光源24から研磨作業空間3に光が照射されることにより、ワークWの研磨箇所が見易くなり、作業者は、目視によってワークWの研磨状況を正確に把握することができる。よって、高精度且つ高品質な研磨等加工を行うことができる。
【0052】
なお、水使用研磨用ボックス1に図示しない蓄電池が設けられている場合には、その蓄電池をLED光源24の電源として利用することができる。また、LED光源24は、例えば、パーソナルコンピュータやその周辺機器等に、USB(Universal Serial Bus)等のインターフェースを介して接続され、それら機器から電源供給されても良い。
【0053】
水受皿6の内部には、上蓋部材4の周囲を支持する支持部材5が設けられている。支持部材5は、上蓋部材4の周囲を囲み、上蓋部材4を支持すると共に、上蓋部材4の周囲において水受皿6の開口を塞いでいる。
【0054】
図3は、水使用研磨用ボックス1のボックス2付近を模式的に示す分解斜視図である。
図2及び
図3を参照して、支持部材5は、例えば、合成樹脂製の板材等から形成され、水受皿6の底面部27の上に立設される4面壁部を有し、全体として略直方体状の形態をなす。支持部材5の上部には、上蓋部材4の周囲を囲んで支持する略水平な平面部25が形成されている。
【0055】
支持部材5が設けられることにより、上蓋部材4を正しい位置に取り付けることができ、その作業も容易になる。また、研磨等作業中には、支持部材5に支えられて上蓋部材4の移動や外れが防止される。よって、研磨等作業が容易になり、作業者は、安全な作業を行うことができる。また、平面部25には、作業用の工具その他を配置することができる。よって、作業効率を向上させることができる。
【0056】
上蓋部材4は、前面側の前蓋部材10と、その後方に設けられた後面側の後蓋部材18と、に分離して取り外し自在である。よって、ワークW(
図6参照)を研磨等する加工が終了した際には、上蓋部材4を前蓋部材10と後蓋部材18に分離して取り外して、研磨作業空間3の内部を綺麗に洗浄することができる。
【0057】
即ち、水受皿6から前蓋部材10、後蓋部材18及び支持部材5を取り外し、前蓋部材10、後蓋部材18及び水受皿6のそれぞれの内面に付着した粉塵等を洗い流し、または、汚れを拭い取ることができる。また、支持部材5についても綺麗に洗浄することができる。
【0058】
水使用研磨用ボックス1は、ボックス2を前蓋部材10、後蓋部材18、支持部材5及び水受皿6の小さな部材に分割可能な構成であるため、洗浄その他作業の負担も少ない。水使用研磨用ボックス1は、例えば、力の弱い女性等であっても、取り扱い作業が容易である。
【0059】
図4は、水使用研磨用ボックス1の前蓋部材10及び後蓋部材18を模式的に示す分解側面図である。
図4に示すように、前蓋部材10には、左右の側面部12から外側に突出する凸部16が形成されている。凸部16は、例えば、合成樹脂からなる板状の部材であり、側面部12に接着等されている。
【0060】
後蓋部材18の左右の側面部20には、前蓋部材10の凸部16に係合する鉤状の係合部22が形成されている。係合部22は、側面部20の前辺部を切り込むことによって形成され、凸部16に対して上方から嵌められるよう、下方が開口した凹部形状に形成されている。
【0061】
前蓋部材10の凸部16が設けられ、後蓋部材18には、凸部16に係合する係合部22が形成されていることにより、上蓋部材4の組み付けを容易且つ正確に行えるようになる。具体的には、
図3を参照して、前蓋部材10を支持部材5が取り付けられた水受皿6の上部に載置し、次いで、前蓋部材10の凸部16に係合部22を係合させるようにして、上方から後蓋部材18を取り付ける。
【0062】
また、前蓋部材10の凸部16に後蓋部材18の係合部22が係合することにより、研磨等作業の際には、前蓋部材10と後蓋部材18の外れを防止することができる。これにより、安全な研磨等作業を行うことができる。
【0063】
図5は、水使用研磨用ボックス1のボックス2付近を模式的に示す分解正面図である。
図5に示すように、支持台8の棚部材32の上面に水受皿6が載置され、水受皿6の上方には、支持部材5が設けられる。支持部材5は、水受皿6の周囲壁部26の内側の底面部27の上部に取り外し自在に載置される。即ち、研磨等加工時において、支持部材5は、水受皿6の周囲壁部26に囲まれている。
【0064】
支持部材5の内側には、上蓋部材4が挿入される。具体的には、
図3に示すように、前蓋部材10と後蓋部材18が支持部材5に内側に嵌め込まれ、水受皿6の底面部27の上部に取り外し自在に載置される。前述のとおり、支持部材5の上部には、上蓋部材4の周囲を囲む平面部25が形成されている。
【0065】
このような構成により、ボックス2内に噴射されて研磨屑等を流す洗浄水が、上蓋部材4と水受皿6の接続部、または、水受皿6と支持部材5の接続部から外部に流出してしまうことを防止することができる。
【0066】
また、前蓋部材10、後蓋部材18、水受皿6及び支持部材5が取り外し自在に設けられているので、研磨等作業中の除塵の後にこれらを分離して取り外し、研磨作業空間3の内部を綺麗に洗浄することができる。即ち、上蓋部材4及び水受皿6に付着している研磨屑等を容易に洗い流すことができる。
【0067】
図5に示すように、水受皿6の底面部27には、貯水容器7の給水口が接続される排水筒部28が形成されている。排水筒部28は、洗浄水が流れる開口であり、底面部27から下方に突出する略球冠状または略円錐状の漏斗状の形態をなしている。排水筒部28は、大径部が上方、小径部が下方になるよう配置され、小径部の下端が貯水容器7の給水口に挿入される。
【0068】
支持台8の棚部材32には、排水筒部28を挿通可能な排水管孔35が形成されている。水受皿6は、排水筒部28が排水管孔35に挿入され、底面部27の下面が棚部材32の上面に当接するよう、棚部材32の上方に取り外し自在に載置される。
【0069】
このように水受皿6の排水筒部28が下方に突出して貯水容器7の給水口に挿入される構成により、水受皿6から流れ出す洗浄水等が外部に漏れてしまうこと抑えることができる。
【0070】
排水筒部28の流路には、流下する研磨屑等を受け止めるネット29が設けられても良い。ネット29は、例えば、ステンレス線材等から形成された網状の部材であり、排水筒部28の上方から排水筒部28の流路内に取り外し自在に取り付けられる。
【0071】
このように、研磨屑等を捕らえる取り外し自在なネット29が設けられることにより、洗浄水から研磨屑等を分けて取り出すことができる。よって、研磨等作業後の洗浄作業も容易になる。
【0072】
図6は、水使用研磨用ボックス1の使用状態を示すボックス2付近の透視図である。
図6に示すように、作業者は、ワークW及び研磨機P等を持つ手を作業用開口14、15からボックス2内の研磨作業空間3に挿入し、作業用開口15から加工部分を視認しながら研磨等の加工を実行することができる。
【0073】
よって、作業者は、加工を行う手を動かし易く、研磨機P等の操作が容易になると共に、加工状態を正確に把握することができるので、安全且つ高精度な研磨等加工を行うことができる。
【0074】
図1ないし
図6を参照して、水使用研磨用ボックス1を使用した研磨等の作業について詳細に説明する。
作業者は、加工する義歯等のワークWを持つ手を作業用開口14から、ハンドピース等の研磨機Pを持つ手を作業用開口15から、ボックス2の内部の研磨作業空間3に挿入する。そして、作業者は、研磨機P等から洗浄水を噴射しながらワークWを研磨等する加工を実行することができる。
【0075】
即ち、水使用研磨用ボックス1によれば、作業者は、従来技術の空気流を利用する歯科用集塵機のように研磨機P等からの洗浄水噴射を停止することなく、研磨等作業中に研磨機P等から洗浄水を噴射しながら作業を行うことができる。
【0076】
水使用研磨用ボックス1によれば、研磨機P等から洗浄水を噴射し、その洗浄水によってワークWの被加工部分から飛散する研磨屑等を捕らえて下方に押し流すことができる。また、粉塵等と共にワークWから周囲に飛散する洗浄水についてもボックス2の内周に当たって下方に流される。
【0077】
そして、水使用研磨用ボックス1は、水受皿6及び貯水容器7を有するので、粉塵等と共に下方に流された洗浄水は水受皿6で受け止められ、貯水容器7に流されその内部に貯留される。これにより、研磨等作業によってワークWから発生する粉塵が室内に飛散することを防止することができる。
【0078】
また、水使用研磨用ボックス1は、研磨等加工中のワークWに洗浄水を吹き付けることができるので、ワークWの加工部分を冷却することができ、摩擦によるワークWの高温化を抑えることができる。よって、発熱による損傷のない高精度且つ高品質な研磨等の加工が可能となる。
【0079】
なお、水を使用することができない環境において、洗浄水の吹き付けなしに水使用研磨用ボックス1を利用しても良い。水を使用できない環境においては、例えば、図示しない吸引装置等がボックス2に接続され利用されても良い。
【0080】
また、前述のとおり、上蓋部材4の前面部11及び上面部13、21は、透明な部材から形成されている。これにより、研磨等の作業を行う作業者は、作業の際に研磨作業空間3の内部を視認することができる。また、作業用開口15からは、洗浄水や粉塵等の付着によって視界が妨げられることなく、より鮮明に研磨作業空間3の内部を視認することができる。
【0081】
また更に、後蓋部材18の上面部21には、研磨作業空間3を照らすLED光源24が設けられているので、ワークWの研磨箇所は更に見易くなる。これにより作業者は、作業状況を正確に把握し、安全に、高精度且つ高品質な研磨等作業を実行することができる。
【0082】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、水使用研磨用ボックス1のボックス2は、略円柱状に形成されても良い。即ち、ボックス2の水受皿6及びその上方の上蓋部材4は、それぞれ略円形カップ状に形成され、上蓋部材4を支持する支持部材5は略円柱状に形成されても良い。このようにボックス2が略円柱状に形成される構成により、ボックス2の内面に、垂直方向に延在する角部がなくなるので、内面に付着する研磨屑等の残留を抑えることができる。
【0083】
また、ボックス2の上蓋部材4は、中央付近が上方に突出する略ドーム状の形態でも良い。このような形態の上蓋部材4を採用することにより、研磨作業空間3の中央付近が広くなり研磨等の作業が容易になる。
【0084】
また、研磨機P等から上方に噴射された洗浄水やワークWの研磨屑等は、略ドーム状に形成された上蓋部材4の上面側に衝突して付着しても下方に流され易くなる。よって、研磨屑等は、上蓋部材4の内面に固着し難く、ボックス2の下部に流され、水受皿6を介して、貯水容器7に送られる。
【0085】
なお、例えば、図示しないヒンジ機構を支持部として、前蓋部材10の上面部13の後辺部近傍が後蓋部材18の上面部21の前辺部近傍に回動自在に支持され、前蓋部材10が開閉自在に支持される構成を採用しても良い。このように、前蓋部材10を回動して開くことによっても、ボックス2内部の洗浄等を容易に行うことができる。
【0086】
また、例えば、図示しないヒンジ機構を支持部として、後蓋部材18の背面部19の下辺部近傍が水受皿6の後方の底面部27の上辺部近傍に回動自在に支持され、後蓋部材18が開閉自在に支持される構成を採用しても良い。このように、後蓋部材18を回動して上蓋部材4を開くことによっても、ボックス2内部の洗浄等を容易に行うことができる。
【0087】
本発明は、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更実施が可能である。
【符号の説明】
【0088】
1 水使用研磨用ボックス
2 ボックス
3 研磨作業空間
4 上蓋部材
5 支持部材
6 水受皿
7 貯水容器
8 支持台
10 前蓋部材
11 前面部
12 側面部
13 上面部
14 作業用開口
15 作業用開口
16 凸部
18 後蓋部材
19 背面部
20 側面部
21 上面部
22 係合部
24 LED光源
25 平面部
26 周囲壁部
27 底面部
28 排水筒部
29 ネット
30 支柱
31 横棒
32 棚部材
33 棚部材
34 棚部材
35 排水管孔
36 車輪
P 研磨機
W ワーク