IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社竹中工務店の特許一覧

<>
  • 特許-軟弱地盤の土間構造 図1
  • 特許-軟弱地盤の土間構造 図2
  • 特許-軟弱地盤の土間構造 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】軟弱地盤の土間構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/00 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
E02D27/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020119940
(22)【出願日】2020-07-13
(65)【公開番号】P2022016934
(43)【公開日】2022-01-25
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 淳一
(72)【発明者】
【氏名】堀江 渉
(72)【発明者】
【氏名】花原 裕美子
(72)【発明者】
【氏名】尾形 直志
(72)【発明者】
【氏名】奥野 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】諸岡 ゆき子
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-105309(JP,U)
【文献】特許第2836492(JP,B2)
【文献】実開昭62-124110(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟弱地盤上の建物を支持する杭基礎と、当該杭基礎よりも上方位置に構築されて前記軟弱地盤に支持されるコンクリート製の土間と、が備えられている軟弱地盤の土間構造であって、
前記杭基礎の基礎梁の上面と前記土間の下面との間に、杭で支持されている前記基礎梁から支持力を作用させずに前記土間の沈下を許容する沈下許容空間が備えられ、
前記沈下許容空間を確保するために、前記杭基礎が、前記土間の直下に配置される前記基礎梁の上面を他の場所に配置される別の基礎梁の上面よりも下方に配置して構成されている軟弱地盤の土間構造。
【請求項2】
軟弱地盤上の建物を支持する杭基礎と、当該杭基礎よりも上方位置に構築されて前記軟弱地盤に支持されるコンクリート製の土間と、が備えられている軟弱地盤の土間構造であって、
前記杭基礎の基礎梁の上面と前記土間の下面との間に、杭で支持されている前記基礎梁から支持力を作用させずに前記土間の沈下を許容する沈下許容空間が備えられ、
前記沈下許容空間における前記基礎梁の幅方向側方部位に、前記土間における前記沈下許容空間の上方に位置する部位を支持する支持脚部が備えられ、
前記支持脚部の各々には、前記土間の下面から前記基礎梁の側面に沿って下方に延設される鉄筋コンクリート製の脚壁部と、前記脚壁部の下端から水平方向に沿って前記基礎梁から離間する側に延出される鉄筋コンクリート製の脚底部とが備えられている軟弱地盤の土間構造。
【請求項3】
前記沈下許容空間の側方部位に、前記土間における前記沈下許容空間の上方に位置する部位を支持する支持脚部が備えられ、
前記支持脚部と前記土間とが補強鉄筋が配筋された鉄筋コンクリートにて一体的に構成されている請求項1又は2記載の軟弱地盤の土間構造。
【請求項4】
前記支持脚部は、前記基礎梁の側面に沿って下方に延設され、前記支持脚部の側面と前記基礎梁の側面との対向面間にはクリアランスが備えられている請求項2又は3記載の軟弱地盤の土間構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟弱地盤上の建物を支持する杭基礎と、当該杭基礎よりも上方位置に構築されて前記軟弱地盤に支持されるコンクリート製の土間と、が備えられている軟弱地盤の土間構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上述の軟弱地盤の土間構造では、軟弱地盤上の建物は、杭基礎に支持されているため、建物の沈下量は少ない。しかし、杭基礎よりも上方位置に構築されて軟弱地盤に支持されるコンクリート製の土間(トラックバース等)は沈下量が大きくなる。そのため、土間の下方には、沈下量の小さい杭基礎の基礎梁が存在するので、沈下量の大きな土間が基礎梁に支えられることになる。その結果、上述の沈下量の差によって土間の割れや波打ち等を招来する可能性がある。
【0003】
また、上述の軟弱地盤の土間構造として、例えば、特許文献1で開示されている粘性土地盤上建物の最階下床の構築工法が存在する。この構築工法では、建物の直下の地山を排土し、その跡に、板状硬質発泡体を下面シート及び上面シートと接着し、かつ、相互間も接着して大きな硬質発泡体に一体化しながら敷設し、基礎梁の上面に硬質発泡体薄板を載置した後、一体化した硬質発泡体及び基礎梁上の硬質発泡体薄板の上面に土間コンクリートを打設して最階下床を構築する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第2836492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1の技術は、地山の排土により、最階下床の構築によって増加する粘性土層の圧密による地盤沈下を抑制する。これにより、杭基礎に支持されて沈下量の少ない建物に対して、最階下床の不同沈下を抑制する技術である。
そのため、特許文献1には、沈下量の大きな土間が沈下量の小さな杭基礎の基礎梁に支持されることに起因する土間の割れや波打ち等を抑制するための技術については開示されていない。
【0006】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、沈下量の大きな土間が基礎梁に支えられることに起因する割れや波打ち等を抑制することのできる軟弱地盤の土間構造を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1特徴構成は、軟弱地盤上の建物を支持する杭基礎と、当該杭基礎よりも上方位置に構築されて前記軟弱地盤に支持されるコンクリート製の土間と、が備えられている軟弱地盤の土間構造であって、
前記杭基礎の基礎梁の上面と前記土間の下面との間に、杭で支持されている前記基礎梁から支持力を作用させずに前記土間の沈下を許容する沈下許容空間が備えられ、
前記沈下許容空間を確保するために、前記杭基礎が、前記土間の直下に配置される前記基礎梁の上面を他の場所に配置される別の基礎梁の上面よりも下方に配置して構成されている点にある。
【0008】
上記構成によれば、軟弱地盤上の建物は、杭基礎に支持されているため、建物の沈下量は少ない。しかし、杭基礎よりも上方位置に構築されて軟弱地盤に支持されるコンクリート製の土間(トラックバース等)は沈下量が大きくなる。このように杭基礎に支持されている建物の沈下量と、軟弱地盤に支持されている土間の沈下量とに差がある場合でも、杭基礎の基礎梁の上面と土間の下面との間に備えられた沈下許容空間において、杭で支持されている基礎梁から支持力を作用させずに土間の沈下を許容することができる。これにより、沈下量の大きな土間が基礎梁に支えられることに起因する割れや波打ち等を抑制することができる。
【0009】
本発明の第2特徴構成は、軟弱地盤上の建物を支持する杭基礎と、当該杭基礎よりも上方位置に構築されて前記軟弱地盤に支持されるコンクリート製の土間と、が備えられている軟弱地盤の土間構造であって、
前記杭基礎の基礎梁の上面と前記土間の下面との間に、杭で支持されている前記基礎梁から支持力を作用させずに前記土間の沈下を許容する沈下許容空間が備えられ、
前記沈下許容空間における前記基礎梁の幅方向側方部位に、前記土間における前記沈下許容空間の上方に位置する部位を支持する支持脚部が備えられ、
前記支持脚部の各々には、前記土間の下面から前記基礎梁の側面に沿って下方に延設される鉄筋コンクリート製の脚壁部と、前記脚壁部の下端から水平方向に沿って前記基礎梁から離間する側に延出される鉄筋コンクリート製の脚底部とが備えられている点にある。
【0010】
上記構成によれば、軟弱地盤上の建物は、杭基礎に支持されているため、建物の沈下量は少ない。しかし、杭基礎よりも上方位置に構築されて軟弱地盤に支持されるコンクリート製の土間(トラックバース等)は沈下量が大きくなる。このように杭基礎に支持されている建物の沈下量と、軟弱地盤に支持されている土間の沈下量とに差がある場合でも、杭基礎の基礎梁の上面と土間の下面との間に備えられた沈下許容空間において、杭で支持されている基礎梁から支持力を作用させずに土間の沈下を許容することができる。これにより、沈下量の大きな土間が基礎梁に支えられることに起因する割れや波打ち等を抑制することができる。
更に、上記構成によれば、杭基礎の基礎梁の上面と土間の下面との間に沈下許容空間を設けながらも、この沈下許容空間の上方に位置する土間部分の荷重を、沈下許容空間の側方部位に設けた支持脚部で適切に支持することができる。
【0011】
本発明の第3特徴構成は、前記沈下許容空間の側方部位に、前記土間における前記沈下許容空間の上方に位置する部位を支持する支持脚部が備えられ、
前記支持脚部と前記土間とが補強鉄筋が配筋された鉄筋コンクリートにて一体的に構成されている点にある。
本発明の第特徴構成は、前記支持脚部は、前記基礎梁の側面に沿って下方に延設され、前記支持脚部の側面と前記基礎梁の側面との対向面間にはクリアランスが備えられている点にある。
【0012】
上記構成によれば、支持脚部を、基礎梁の側面に沿って下方に延設して、沈下許容空間の上方に位置する土間部分の荷重をより適切に支持しながらも、支持脚部の側面と基礎梁の側面との対向面間に備えたクリアランスにより、支持脚部の側面と基礎梁の側面とが摩擦接触することによる土間の割れや波打ち等への影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】トラックバース側の建物と杭基礎との配置関係を示す断面図
図2】トラックバース側の杭基礎の配置関係を示す平面図
図3図2のIII-III線での断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
軟弱地盤Gの土間構造が適用される建設地は、軟弱地盤Gの一例である埋立地であり、軟弱地盤G上の建物1の一例として、図1図2に示すように、ラーメン構造の倉庫棟を例示している。
本実施形態の埋立地の地層は、地表より盛土層、圧密未了の海性粘土層、砂質、粘土質の洪積互層、洪積粘性土層となり、海性粘土層の圧密沈下により将来にわたり地盤沈下が予想される。
【0015】
そのため、軟弱地盤Gの土間構造では、軟弱地盤G上の建物1を支持する杭基礎2と、当該杭基礎2よりも上方位置に構築されて軟弱地盤Gに支持されるコンクリート製の土間となるトラックバース3の床31と、が備えられている。
杭基礎2は、支持地盤である洪積互層又は洪積粘性土層に到達する複数の杭20と、建物1の複数の柱11をそれぞれ支持するフーチング21と、建物1のX方向とY方向に沿ってフーチング21に一体的に構築される複数の基礎梁22とを備えている。
杭20としては、場所打ちコンクリート杭、PHC杭(既製コンクリート杭)、鋼管杭等がある。杭20の形状や構造、配置は、適宜変更可能である。
【0016】
フーチング21は、軟弱地盤Gの浅層部分を根切り面まで掘削したのち、杭20の杭頭部を覆う状態で鉄筋コンクリートにて構築される。基礎梁22は、図3に示すように、根切り面に敷設された捨てコンクリート(図示省略)の上に、フーチング21の配筋(図示省略)と接続した状態で梁鉄筋(図示省略)を組付け、型枠を施工して基礎梁22のコンクリートが打設される。
【0017】
杭基礎2の構築後に、図3に示すように、軟弱地盤Gの浅層部分の掘削領域のうち、土間コンクリートの打設によって構築されるトラックバース3の床31の厚みを除く掘削領域に埋め戻し材32を充填する。この埋め戻し材32は、流動化処理土や掘削土、解体ガラ、砂利、砕石等の各種の材料を施工計画等に応じて適宜に用いることができる。次に、埋め戻し層の上面側に補強鉄筋33を組付け、設計地盤面(設計GL)まで土間コンクリートを打設してトラックバース3の床31を構築する。
【0018】
そして、図2に示すように、トラックバース3内のX方向の中央部とトラックバース3周縁のX方向の中央部の各々には、二本の杭20に支持されたフーチング21が配置され、両フーチング21にわたって、Y方向に沿う中央部の基礎梁22が配置されている。
この中央部の基礎梁22の上面(天端面)22aは、図3に示すように、トラックバース3の床31の下面31aよりも下方に配置されているが、軟弱地盤Gの海性粘土層の圧密沈下等によって、軟弱地盤Gに支持されているトラックバース3も沈下する。このトラックバース3の沈下量は、杭基礎2に支持されている建物1の沈下量よりも大きいため、トラックバース3の沈下が進むと、トラックバース3の床31の下面31aが中央部の基礎梁22の上面22aに支えられることになる。その結果、上述の沈下量の差によってトラックバース3の床31の割れや波打ち等を招来する可能性がある。
【0019】
そのため、本発明の軟弱地盤Gの土間構造では、図3に示すように、中央部の基礎梁22の上面22aとトラックバース3の床31の下面31aとの間に、杭20で支持されている中央部の基礎梁22から支持力を作用させずにトラックバース3の沈下を許容する沈下許容空間4が備えられている。この沈下許容空間4は空洞で、中央部の基礎梁22の幅よりも広幅で、トラックバース3の設定沈下量を許容する深さに構成されている。
本実施形態では、図1に示すように、沈下許容空間4を確保するために、トラックバース3内のX方向の中央部に配置されるフーチング21の天端面と、このフーチング21からY方向に沿って配置される基礎梁22の天端面は、他の場所に配置されるフーチング21及び基礎梁22の各天端面よりも下方に配置されている。
【0020】
そして、上述のように杭基礎2に支持されている建物1の沈下量と、軟弱地盤Gに支持されているトラックバース3の沈下量とに差がある場合でも、中央部の基礎梁22の上面22aとトラックバース3の床31の下面31aとの間に備えられた沈下許容空間4において、杭20で支持されている中央部の基礎梁22から支持力を作用させずにトラックバース3の沈下を許容することができる。これにより、沈下量の大きなトラックバース3の床31が中央部の基礎梁22に支えられることに起因する割れや波打ち等を抑制することができる。
【0021】
さらに、図3に示すように、沈下許容空間4の幅方向の両側方部位には、トラックバース3の床31における沈下許容空間4の上方に位置する部位(土間部分)を支持する支持脚部41が備えられている。この支持脚部41は、床31の下面31aから中央部の基礎梁22の両側面22bに沿って下方に延設される鉄筋コンクリート製の脚壁部41Aと、両脚壁部41Aの下端から水平方向に沿って基礎梁22から離間する側に延出される鉄筋コンクリート製の脚底部41Bと、を備える。
【0022】
上述のように、中央部の基礎梁22の上面22aとトラックバース3の床31の下面31aとの間に沈下許容空間4を設けながらも、トラックバース3の床31における沈下許容空間4の上方に位置する部位(土間部分)の荷重を、沈下許容空間4の幅方向の両側方部位に設けた支持脚部41で適切に支持することができる。
【0023】
支持脚部41の脚底部41Bの構築箇所には、砕石42及び捨てコンクリート43を二層に敷設する。捨てコンクリート43の上側に、脚壁部41Aの補強鉄筋44及び脚底部41Bの補強鉄筋45を、床31側の補強鉄筋33に接続した状態で略「L」字状に組付け、型枠を施工して支持脚部41のコンクリートが打設される。
【0024】
図3に示すように、両支持脚部41の脚壁部41Aの側面41aと中央部の基礎梁22の両側面22bとの各対向面間にはクリアランス5が備えられている。
そして、両支持脚部41を、中央部の基礎梁22の両側面22bに沿って下方に延設して、トラックバース3の床31における沈下許容空間4の上方に位置する部位(土間部分)の荷重をより適切に支持しながらも、両支持脚部41の脚壁部41Aの側面41aと中央部の基礎梁22の両側面22bとの各対向面間に形成されたクリアランス5により、両支持脚部41の脚壁部41Aの側面41aと中央部の基礎梁22の両側面22bとが摩擦接触することによるトラックバース3の床31の割れや波打ち等への影響を抑制することができる。
【0025】
〔その他の実施形態〕
(1)上述の実施形態では、沈下許容空間4を空洞に構成したが、圧縮性のある充填材を充填しても良い。要するに、沈下許容空間4としては、杭20で支持されている中央部の基礎梁22から支持力を作用させずにトラックバース3の沈下を許容するものであればよい。
【0026】
(2)上述の実施形態では、両支持脚部41の脚壁部41Aの側面41aと中央部の基礎梁22の両側面22bとの各対向面間にクリアランス5を設けたが、このようなクリアランス5を設けずに実施してもよい。つまり、両支持脚部41の脚壁部41Aの側面41aと中央部の基礎梁22の両側面22bとを、トラックバース3の沈下による上下方向での相対移動を許容する状態で接触させてもよい。
【符号の説明】
【0027】
1 建物
2 杭基礎
3 土間(トラックバース)
4 沈下許容空間
5 クリアランス
20 杭
21 フーチング
22 基礎梁
22a 上面
22b 側面
31a 下面
G 軟弱地盤
図1
図2
図3