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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】搬送装置、制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/064 20160101AFI20240703BHJP
   B65G 54/02 20060101ALI20240703BHJP
   G01R 27/02 20060101ALN20240703BHJP
【FI】
H02P25/064
B65G54/02
G01R27/02 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020129551
(22)【出願日】2020-07-30
(65)【公開番号】P2022026199
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】関口 弘武
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-148490(JP,A)
【文献】特開平11-168872(JP,A)
【文献】国際公開第2016/084260(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/187806(WO,A1)
【文献】特開2018-193177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/064
B65G 54/02
G01R 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の方向に並んで配置された複数のコイルと、
前記所定の方向に移動する可動子と、
前記可動子を前記所定の方向に移動させるために、前記複数のコイルの各々に電流を印加する制御装置と、を有し、
前記電流は、
前記可動子に推力を与える第1成分と、
前記可動子に与える推力が前記第1成分より小さい第2成分と、を含み、
前記第2成分は、前記制御装置が前記複数のコイルの少なくとも1つのインピーダンスを測定する成分であり、
前記第2成分の電流波形は、前記第1成分と前記第2成分とが重畳されている期間の少なくとも一部において直流区間を有す
ことを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
前記複数のコイルと、前記可動子は電動機を構成し、
前記電動機は、直動型電動機である
ことを特徴とする請求項1に記載の搬送装置。
【請求項3】
前記第2成分は、前記可動子に推力を与えない
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の搬送装置。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記第2成分を用いて前記複数のコイルの少なくとも1つのインピーダンスを測定し、
前記第2成分に基づいて、前記第1成分を決定する
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の搬送装置。
【請求項5】
前記電流は第3電流指令値に基づいて前記コイルに印加されるものであり、
前記第3電流指令値は、第1電流指令値と第2電流指令値と、が重畳されたものであり、
前記第2電流指令値は、前記第2成分に相当する前記インピーダンスを測定するための電流を示す指令値であり、
前記制御装置は、前記可動子に与えられる推力を示す推力指令値と、前記第2電流指令値と、に基づいて前記第1電流指令値を決定する
ことを特徴とする請求項に記載の搬送装置。
【請求項6】
所定の方向に並んで配置された複数のコイルと、
前記所定の方向に移動する可動子と、
前記可動子を前記所定の方向に移動させるために、前記複数のコイルの各々に電流を印加する制御装置と、を有し、
前記電流は、第1電流指令値と第2電流指令値と、が重畳された第3電流指令値に基づいて前記コイルに印加されるものであり、
前記第1電流指令値は、第1成分に相当する前記可動子に与えられる推力を示す推力指令値に応じた電流を示すものであり、
前記第2電流指令値は、前記第1成分より小さい第2成分に相当する前記複数のコイルの少なくとも1つのインピーダンスを測定するための電流を示すものであり、
前記制御装置は前記第2電流指令値に応じた成分により前記可動子が推力を受けないように、かつ、前記可動子が受ける推力と前記複数のコイルの各々を流れる電流を要素とするベクトルとの関係を示す推力定数行列の零空間に属する非零ベクトルを含むように前記第2電流指令値を決定する
ことを特徴とする搬送装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記複数のコイルのうちの第1グループに前記インピーダンスを測定するための電流が流れるような前記第2電流指令値を第1期間に生成し、前記複数のコイルのうちの前記第1グループとは異なる第2グループに前記インピーダンスを測定するための電流が流れるような前記第2電流指令値を前記第1期間とは異なる第2期間に生成する
ことを特徴とする請求項6に記載の搬送装置。
【請求項8】
前記複数のコイルは三相コイルを含み、
前記制御装置は、前記第3電流指令値を二相から三相に変換することにより、前記三相コイルの各相の電流を決定する
ことを特徴とする請求項乃至のいずれか1項に記載の搬送装置。
【請求項9】
前記制御装置は、前記可動子を前記所定の方向に移動させている時に、前記インピーダンスを測定する
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の搬送装置。
【請求項10】
前記制御装置は、前記可動子の速度に更に基づいて前記インピーダンスを測定する
ことを特徴とする請求項に記載の搬送装置。
【請求項11】
前記制御装置は、前記可動子を前記所定の方向に移動させていない時に、前記インピーダンスを測定する
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の搬送装置。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の搬送装置と、
前記可動子により搬送されるワークに対して加工を施す加工装置と、
を有することを特徴とする加工システム。
【請求項13】
請求項12に記載の加工システムを用いて物品を製造する物品の製造方法であって、
前記可動子により前記ワークを搬送する工程と、
前記可動子により搬送された前記ワークに対して、前記加工装置により前記加工を施す工程と、
を有することを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送装置、制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、活線状態の三相電気機器のインピーダンスを動作状態に影響を与えることなく測定する方法が記載されている。特許文献1に記載されているインピーダンス測定装置は、三相電気機器の中性点と、三相の誘導性素子の中性点との間が零相電源で接続された回路構成を有しており、零相電源を流れる電流と三相電気機器に印加した電圧とに基づいてインピーダンスを測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-137688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているインピーダンス測定を行うためには、三相電気機器の中性点と、三相の誘導性素子の中性点との間を零相電源で接続するという特殊な回路構成を要する。したがって、回路構成の制約が多い点が課題となり得る。
【0005】
そこで、本発明は、少ない回路構成制約で電動機のインピーダンス測定を行い得る搬送装置、制御装置、制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によれば、所定の方向に並んで配置された複数のコイルと、前記所定の方向に移動する可動子と、前記可動子を前記所定の方向に移動させるために、前記複数のコイルの各々に電流を印加する制御装置と、を有し、前記電流は、前記可動子に推力を与える第1成分と、前記可動子に与える推力が前記第1成分より小さい第2成分と、を含み、前記第2成分は、前記制御装置が前記複数のコイルの少なくとも1つのインピーダンスを測定する成分であり、前記第2成分の電流波形は、前記第1成分と前記第2成分とが重畳されている期間の少なくとも一部において直流区間を有することを特徴とする搬送装置が提供される。
【0007】
本発明の他の観点によれば、所定の方向に並んで配置された複数のコイルと、前記所定の方向に移動する可動子と、前記可動子を前記所定の方向に移動させるために、前記複数のコイルの各々に電流を印加する制御装置と、を有し、前記電流は、第1電流指令値と第2電流指令値と、が重畳された第3電流指令値に基づいて前記コイルに印加されるものであり、前記第1電流指令値は、第1成分に相当する前記可動子に与えられる推力を示す推力指令値に応じた電流を示すものであり、前記第2電流指令値は、前記第1成分より小さい第2成分に相当する前記複数のコイルの少なくとも1つのインピーダンスを測定するための電流を示すものであり、前記制御装置は前記第2電流指令値に応じた成分により前記可動子が推力を受けないように、かつ、前記可動子が受ける推力と前記複数のコイルの各々を流れる電流を要素とするベクトルとの関係を示す推力定数行列の零空間に属する非零ベクトルを含むように前記第2電流指令値を決定することを特徴とする搬送装置が提供される。
【0008】
本発明の他の観点によれば、上述のいずれかの搬送装置と、前記可動子により搬送されるワークに対して加工を施す加工装置と、を有することを特徴とする加工システムが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、少ない回路構成制約で電動機のインピーダンス測定を行い得る搬送装置、制御装置、制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態に係る搬送装置の概略構成を示す上面図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る搬送装置の概略構成を示す断面図である。
図3】本発明の第1実施形態に係るコイル、電流検出器及び電圧検出器の接続を示す回路図である。
図4】本発明の第1実施形態に係る搬送装置の概略構成を示すブロック図である。
図5】本発明の第1実施形態に係る搬送装置の動作の概略を示すフローチャートである。
図6】本発明の第1実施形態に係る搬送装置における電流計算を模式的に示すベクトル図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る搬送装置の概略構成を示すブロック図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る搬送装置の動作の概略を示すフローチャートである。
図9】本発明の第2実施形態に係る搬送装置における電流計算を模式的に示すベクトル図である。
図10】本発明の第3実施形態に係る搬送装置の概略構成を示す断面図である。
図11】本発明の第3実施形態に係るコイル、電流検出器及び電圧検出器の接続を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態を添付の図面に基づいて詳細に説明する。複数の図面にわたって同一の要素又は対応する要素には共通の符号が付されており、その説明は省略又は簡略化されることがある。また、複数存在する同一の又は対応する構成要素について、同一の数字の符号の末尾にアルファベットを識別子として付記することにより区別することもある。同一の構成要素について特に区別して説明する必要がない場合には、識別子を省略して数字のみの符号を用いることもある。
【0012】
[第1実施形態]
はじめに、本実施形態に係る搬送装置の概略構成について図1乃至図3を用いて説明する。本実施形態の搬送装置は、可動子に磁石が設置され、固定子にコイルが設置された直動型電動機を用いたムービングマグネット型(MM)型の搬送装置である。
【0013】
図1は、本実施形態に係る搬送装置の概略構成を示す上面図である。図2は、本実施形態に係る搬送装置の概略構成を示す断面図である。図1は、搬送装置をZ方向から見た上面図であり、図2は、搬送装置のXZ断面をY方向から見た断面図である。図3は、コイル、電流検出器及び電圧検出器の接続を示す回路図である。
【0014】
本実施形態に係る搬送装置は、図1乃至図3に示すように、制御装置10、コイル21、位置検出器22、電流検出器23、電圧検出器24、リニアガイド31、可動子32、スケール33及び磁石34を有している。搬送装置は、物品を搬送する装置である。搬送装置は、可動子32により搬送されるワークに対して加工を施す加工システムの一部を構成している。
【0015】
可動子32は、搬送装置のキャリアとして機能する。可動子32は、その上面に対象加工物等の物品を載置又は保持可能なように構成されている。なお、可動子32の個数は、図1及び図2に示されているような2個に限定されるものではなく、1個であってもよく3個以上であってもよい。可動子32により搬送されるワークに対し、不図示の加工装置により加工が行われて物品が製造される。
【0016】
図1及び図2に示されている直交座標系であるXYZ座標系について説明する。可動子32が移動する水平方向をX軸とする。また、X軸と直交する方向のうちの鉛直方向をZ軸とし、X軸及びZ軸と直交する方向をY軸とする。なお、可動子32の移動方向は必ずしも水平方向である必要はないが、その場合も移動方向をX軸として適宜X軸に直交するようにY軸及びZ軸を定めることができる。
【0017】
可動子32の下面(Z軸の負側の面)には複数の磁石34がX軸方向に並ぶように取り付けられて配置されている。複数の磁石34は、下方(Z軸の負方向)に向く外側の磁極の極性が交互に異なるように、すなわち、下方向にN極とS極が交互に並ぶように取り付けられている。なお、複数の磁石の個数は特に限定されるものではなく適宜変更可能である。なお、磁石34は、典型的には永久磁石であり得るが、電磁石であってもよい。以下の説明では磁石34は永久磁石であるものとする。
【0018】
複数のコイル21の各々は、本実施形態においては単相コイルであり、可動子32を駆動する電機子として機能する。複数のコイル21は、可動子32の移動方向、すなわちX方向に沿って配置されている。複数のコイル21と複数の磁石34とはZ軸方向に対向するように取り付けられている。複数のコイル21の各々に電流を流すことにより、複数のコイル21と複数の磁石34との間に力が生じる。これにより、推力が可動子32に作用し、可動子32は、リニアガイド31に沿ってX軸方向に移動する。このように、複数のコイル21及びリニアガイド31は、可動子32の搬送路を構成する。
【0019】
複数のコイル21及びリニアガイド31の上方(Z軸の正方向)には、可動子32の位置を検出する複数の位置検出器22が取り付けられている。位置検出器22は、例えば、リニアエンコーダである。位置検出器22は、可動子32に取り付けられたスケール33のパターンを読み取ることにより、位置検出器22と可動子32の相対距離を測定する。位置検出器22の位置は既知であるため、位置検出器22の位置と、測定された位置検出器22と可動子32の相対距離とに基づいて、可動子32の位置を検出することができる。なお、位置検出器22及びスケール33が取り付けられる位置は図示されたものに限定されるものではなく、可動子32の位置を検出可能であればよい。
【0020】
図3に示すように、電流検出器23は、複数のコイル21の各々が接続される配線に設けられており、複数のコイル21の各々を流れる電流を検出する。電圧検出器24は、複数のコイル21の各々が接続される配線に設けられており、複数のコイル21の各々の両端に印加される電圧を検出する。なお、電圧検出器24は、実際にコイル21の両端電圧を測定するものであってもよく、制御装置10の内部で計算された指令電圧を取得してもよい。
【0021】
制御装置10は、複数のコイル21を流れる電流を制御する機能、位置検出器22、電流検出器23及び電圧検出器24を制御する機能及びこれらの制御に必要な演算の機能を有している。これにより制御装置10は、複数の可動子32を所望の位置に移動させる制御を行う。制御装置10は、単一のコントローラであってもよく、複数のコイル21を制御するコイルコントローラ、各種の検出器を制御するセンサコントローラ、搬送装置の全般の制御を行う搬送コントローラ等の複数のコントローラを含むシステムであってもよい。
【0022】
制御装置10は、位置検出器22により取得された可動子32の位置に基づいて、所望の推力が可動子32に作用するように複数のコイル21の各々を流れる電流を制御する。制御装置10は、図2及び図3に示すように、複数のコイル21を流れる電流を個別に制御できるため、可動子32の個数が複数である場合であっても複数の可動子32を個別に制御できる。
【0023】
複数の可動子32の各々に作用する推力をまとめて推力ベクトルFとし、複数の可動子32と対向する複数のコイル21の各々に流れる電流値をまとめて電流ベクトルIとする。推力ベクトルFは、複数の可動子32の個数の要素数(次元)を有するベクトルであり、電流ベクトルIは、複数のコイル21の個数の要素数を有するベクトルであるものとする。このとき、推力ベクトルFと電流ベクトルIの関係は推力定数行列Ktを用いて次の式(1)で表される。
F=Kt*I …(1)
【0024】
ここで、推力定数行列Ktの行数は推力ベクトルFの要素数と等しく、推力定数行列Ktの列数は電流ベクトルIの要素数と等しい。推力定数行列Ktの各要素は、その要素の列番号に対応するコイル21に単位電流が流れたときに、その要素の行番号に対応する可動子32に作用する推力を示す。また、推力定数行列Ktは、複数の可動子32の各々の位置に応じて変化する。
【0025】
次に、本実施形態に係る搬送装置におけるコイル21の抵抗測定方法について図4乃至図6を用いて説明する。本実施形態の制御装置10は、複数のコイル21の各々の抵抗を測定する機能を有している。具体的な測定方法の説明に先立って、抵抗を測定する目的等について簡単に説明する。
【0026】
一般に、搬送装置等に搭載される電動機に含まれるコイルの巻線にはエナメル等の絶縁被覆が施されている。この絶縁被覆の劣化を低減するため、電動機の動作温度が絶縁被覆の耐熱温度を超えないように電動機の制御を行う必要がある。巻線に用いられる銅等の金属材料は、温度に依存して抵抗がほぼ線形に変化することが知られており、コイルの抵抗を測定することにより、コイルの温度を推定することができる。また、巻線の短絡、断線等の異常も抵抗の変化を引き起こすため、コイルの抵抗を測定することによりこれらの異常の発生を推定することができる。
【0027】
本実施形態の制御装置10によって計測される抵抗は、上述の用途の少なくとも1つに用いることができるがこれらの用途に限定されるものではない。なお、本明細書において測定されるコイル21の「抵抗」には、直流電圧及び直流電流により計測される純抵抗だけでなく、コイル21のインダクタンス等によるリアクタンス成分が含まれる場合がある。また、コイル21の純抵抗だけでなく、リアクタンス成分を併せて測定してもよい。そこで、以下の説明においては、純抵抗を指す場合以外には「抵抗」に代えてより一般的な用語である「インピーダンス」を用いるものとする。
【0028】
図4は、本実施形態に係る搬送装置の概略構成を示すブロック図である。図4に示されているように、制御装置10は、位置指令値生成器11、推力指令値生成器12、第1電流指令値生成器13、第2電流指令値生成器14、電流制御器15及びインピーダンス測定器16を有している。なお、位置指令値生成器11、推力指令値生成器12、第1電流指令値生成器13、第2電流指令値生成器14及び電流制御器15の一部又は全部は、制御部と呼ばれることもある。また、インピーダンス測定器16は測定部と呼ばれることもある。
【0029】
図5は、本実施形態に係る搬送装置の動作の概略を示すフローチャートである。図5のフローチャートに沿って、図4に示されている各ブロックによって実行されるインピーダンス測定動作の概略を説明する。
【0030】
ステップS11において、位置指令値生成器11は、ユーザからの操作又は事前に設定された動作に基づいて、可動子32を所望の位置に移動させるための位置指令値を生成する。
【0031】
ステップS12において、位置検出器22は、可動子32の現在の位置を検出する。これにより得られた可動子32の位置情報は、推力指令値生成器12、第1電流指令値生成器13、第2電流指令値生成器14及びインピーダンス測定器16に供給され得る。なお、ステップS11とステップS12の順序は逆でもよく、ステップS11とステップS12は並行して行われてもよい。
【0032】
ステップS13において、推力指令値生成器12は、位置指令値生成器11により生成された位置指令値と、位置検出器22により測定された可動子32の位置とに基づいて、可動子32に作用させる推力を示す推力指令値を計算して生成する。推力は、可動子32が現在位置から位置指令値により示される位置に向かって移動するように決定される。この推力の計算には、例えば、PID制御器が用いられ得る。
【0033】
ステップS14において、第1電流指令値生成器13は、推力指令値生成器12により生成された推力指令値と、位置検出器22により測定された可動子32の位置とに基づいて、各コイル21に流すべき電流を示す第1電流指令値を決定する。第1電流指令値は、可動子32が、推力指令値に応じた推力を受けるように決定される。第1電流指令値の計算には、例えば次の式(2)で示される推力ベクトルFと電流ベクトルIの関係式が用いられ得る。
I=Kt<+>*F …(2)
ただし、Kt<+>は推力定数行列Ktの擬似逆行列である。
【0034】
ステップS15において、第2電流指令値生成器14は、可動子32が推力を受けないような組み合わせでコイル21にインピーダンス測定用電流を流す第2電流指令値を決定する。このような電流の組み合わせは、推力定数行列Ktの零空間に属し、かつ非零ベクトルである電流ベクトルikを算出し、これを第2電流指令値とすることにより実現される。電流ベクトルikは推力定数行列Ktの零空間に属するため、第2電流指令値に応じた成分により可動子32は推力を受けない。したがって、電流ベクトルikを第1電流指令値に応じた推力ベクトルFを発生させるための駆動用の電流ベクトルIに重畳しても、複数のコイル21が可動子32に作用させる推力の合計には影響しない。
【0035】
なお、推力定数行列Ktの零空間に非零ベクトルである電流ベクトルikが存在するための条件は、所定の推力ベクトルFを生じる電流ベクトルIの解が複数存在することである。この条件は、図1及び図2の搬送装置のように、可動子32に複数の磁石34が取り付けられていて、かつ、複数のコイル21の電流が個別に制御できる場合には容易に満たされる。
【0036】
電流ベクトルikの計算方法の一例としては、例えばIと等しい要素数の任意の非零ベクトルηと、推力定数行列Ktと、その擬似逆行列Kt<+>と、単位行列Eとを用いて次の式(3)を用いて求める方法がある。
ik=(E-Kt<+>*Kt)*η …(3)
【0037】
必要に応じて電流ベクトルikの計算結果に対して正規化、定数倍等の演算を更に行うことにより、以下のインピーダンス測定に適するように電流ベクトルikの大きさを適宜調整してもよい。式(3)におけるηの任意性より、これらの演算処理を施した後の電流ベクトルも推力定数行列Ktの零空間に属する。
【0038】
ステップS16において、電流制御器15は、第1電流指令値と第2電流指令値とを重畳した第3電流指令値に基づいて、コイル21を流れる電流を制御する。この処理は例えば、式(2)と式(3)の和で与えられる電流値がコイル21を流れるように電流を制御するものであり得る。電流制御器15は、例えば、PI制御器によって各コイル21に印加する電圧を決定し、第3電流指令値が示す各コイル21の電流と、電流検出器23により検出される電流とが一致するような制御を行う。
【0039】
ここで、図6を参照して、式(2)及び式(3)に基づく電流の計算例について単純化されたモデルを用いて説明する。図6は、本実施形態に係る搬送装置における電流計算を模式的に示すベクトル図である。
【0040】
図6は、可動子32の個数が1、コイル21の個数が2個の場合における電流ベクトルの例を2次元平面上に示している。このとき、推力ベクトルFは要素数1のベクトルであり、電流ベクトルIは要素数2のベクトルであり、推力定数行列Ktは1行2列の行列である。この推力定数行列Ktの要素をKt1、Kt2とする。なお、上述の要素数は説明のために単純化された例示であり、実際には上述よりも大きいものであり得る。推力定数行列Ktの零空間に非零ベクトルである電流ベクトルikが存在するための上述の条件、すなわち、所定の推力ベクトルFを生じる電流ベクトルIの解が複数存在すること、を満たしていれば、要素数はこれ以外の組み合わせであってもよい。
【0041】
図6には、O-I-ikで示される第1の座標系50と、O-I1-I2で示される第2の座標系51とが示されている。第1の座標系50は可動子32に作用する推力ベクトルに関連した座標系である。水平方向のI軸は、可動子32に推力を作用させる電流に対応している。垂直方向のik軸は、インピーダンス測定用の電流に対応している。すなわち、式(2)より計算される電流ベクトルIが図6のベクトル52に対応し、式(3)により計算される電流ベクトルikが図6のベクトル53に対応する。
【0042】
第2の座標系51は、各コイル21を流れる電流に対応した座標系である。I1軸は、2つのコイル21のうちの1番目のコイル21を流れる電流に対応している。I2軸は、2つのコイル21のうちの2番目のコイル21を流れる電流に対応している。O-I1の第1の座標系50に対する傾きは、推力定数行列Ktの要素を用いて-Kt2/Kt1と表される。
【0043】
電流制御器15は、第1電流指令値に基づくベクトル52と第2電流指令値に基づくベクトル53の和に基づいて、各コイル21を流れる電流を決定し、制御を行う。各コイル21を流れる電流は、I1軸上のベクトル54aとI2軸上のベクトル54bにそれぞれ対応する。図6より理解されるように、ベクトル52とベクトル53の和をI1軸に射影した成分がベクトル54aであり、I2軸に射影した成分がベクトル54bである。
【0044】
ステップS17において、電流検出器23は、複数のコイル21の各々を流れる電流iを測定し、電圧検出器24は、複数のコイル21の各々の両端の電圧vを測定する。また、インピーダンス測定器16は、可動子32の速度wを取得する。速度wの取得方法は、例えば、可動子32の位置の時間変化に基づくものであり得る。具体的には、インピーダンス測定器16は、複数の時刻に位置検出器22により測定された可動子32の位置を取得し、位置の時間変化に基づいて複数のコイル21の各々と対向する位置にある可動子32の速度wを算出する。
【0045】
また、ステップS17において、インピーダンス測定器16は、上述の電流iと、上述の電圧vと、上述の速度wと、複数のコイル21の各々の逆起電力定数Kvとに基づいて複数のコイル21の各々のインピーダンスを計算する。このインピーダンスの計算は、例えば直流により抵抗Rを測定する場合には、以下の式(4)で算出され得る。なお、式(4)は行列又はベクトルの演算ではなく、複数のコイル21の各々に対して行われる要素ごとの計算式を示している。
R=(v-Kv*w)/i …(4)
【0046】
上述の電圧v及び電流iが交流成分を持つ場合、式(4)の計算結果である抵抗Rにはコイル21の抵抗成分だけでなくインダクタンス成分が含まれ得る。一般的に、コイル21における温度変化の時定数は、電気的な時定数よりも長い。また、インダクタンス成分の影響は低周波領域においては小さく、高周波領域においては大きい。そのため、式(4)の計算結果をローパスフィルタ等のフィルタで処理してもよく、これによりインダクタンス成分の影響を低減できる。
【0047】
なお、式(4)にインダクタンス成分による誘起電圧の項を追加することにより、インダクタンス成分とは別に抵抗Rを計算できるように式(4)を変形してもよい。また、交流成分を持つ電圧v及び電流iに対して抵抗成分とリアクタンス成分を含むインピーダンスを計算できるように式(4)を変形してもよい。
【0048】
逆起電力が交流成分のみを生じることがわかっている場合には、インダクタンス成分の影響と同様にフィルタによって逆起電力の影響を除去することができる。そのため、式(4)から速度起電力の項Kv*wを除去することもできる。この場合、計算が簡略化される。
【0049】
以上のように、本実施形態における電流制御においては、駆動用電流を示す第1電流指令値にインピーダンス測定用電流を示す第2電流指令値を重畳して、コイル21に流れる電流を制御する。すなわち、追加の電流供給用回路を設けることなく制御装置10内の処理によりコイル21を流れる電流にインピーダンス測定用の電流を重畳させることができる。したがって、少ない回路構成制約で電動機のインピーダンス測定を行い得る制御装置10及び搬送装置が提供される。
【0050】
また、第1電流指令値と第2電流指令値を重畳させ、各コイル21の電流量を増加させることにより、インピーダンス測定精度を向上させることができる。また、インピーダンス測定用電流が各コイル21に流れるため、駆動用電流が0である場合であってもインピーダンス測定が実現できる。このとき、インピーダンス測定用の電流は、可動子32が推力を受けないように、推力定数行列Ktの零空間に属するように計算されている。そのため、インピーダンス測定用電流が各コイル21に流れることによる可動子32の推力への影響が低減されている。これにより、例えば、搬送装置が動作中にインピーダンス測定を行った場合であっても、インピーダンス測定用電流が搬送装置の動作に与える影響が低減されている。
【0051】
また、本実施形態の手法では、複数のコイル21の各々に個別にインピーダンス測定用電流を供給することができるため、複数のコイル21の各々のインピーダンスを個別に取得することができる。
【0052】
なお、第2電流指令値に基づく電流ベクトルikの電流波形は、2つの電流指令値が重畳される期間の少なくとも一部において、直流区間を有していてもよい。上述のように式(4)等により計算されるインピーダンスの測定精度は交流成分の影響により悪化する場合がある。電流ベクトルikの波形に直流区間を設けることにより、交流成分の影響が低減され、インピーダンスの測定精度が向上し得る。なお、直流区間を有する波形の例としては、直流波形、ステップ波形等が挙げられる。
【0053】
第2電流指令値を第1電流指令値に重畳させる処理はコイル21の動作時に常に行ってもよいが、少なくともインピーダンスの測定時に行えば上述の効果が得られる。例えば、第2電流指令値を第1電流指令値に重畳させる処理はコイル21の動作時のうちのインピーダンス測定を行う期間だけ行うというものであってもよい。
【0054】
また、第2電流指令値を第1電流指令値に重畳させる処理は、所定の条件を満たす場合にのみ行ってもよい。この所定の条件は、第1電流指令値に基づいて判定されるものであり得る。具体的には、駆動用電流が閾値以下の場合に上述の重畳処理を行う、あるいは、駆動用電流が閾値以下の状態が閾値時間以上継続した場合に上述の重畳処理を行うといったものであり得る。駆動用電流が十分に大きい場合には、駆動用電流でインピーダンス測定を行うことが可能であるため、上述のように第2電流指令値を考慮しないようにすることでインピーダンス測定用電流に起因する消費電力及び発熱を低減する効果が得られる。
【0055】
式(3)等の処理により計算されるインピーダンス測定用電流の候補が複数ある場合には、期間に応じてこれらの複数の候補を切り替えてコイル21に電流を流してもよい。例えば、第1期間には第1グループのコイル21にインピーダンス測定用電流が流れるような第2電流指令値を生成し、第2期間には第1グループとは別の第2グループのコイル21にインピーダンス測定用電流が流れるような第2電流指令値を生成してもよい。このように期間に応じてインピーダンス測定用電流が流れるコイル21のグループを変えることにより、すべてのコイル21に同時にインピーダンス測定用電流を流す場合と比べて可動子32が受ける推力への影響を更に低減させることができる。
【0056】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る搬送装置について、図7乃至図9を参照して説明する。第1実施形態の搬送装置との相違点は、電流制御の処理手順であり、搬送装置の構造については第1実施形態と同様であるため説明を省略する。また、第1実施形態に係る搬送装置と同様の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略又は簡略化する場合がある。
【0057】
第1実施形態では推力定数行列Ktの零空間に属するインピーダンス測定用の電流ベクトルikを明示的に求めて駆動用の電流ベクトルIに重畳している。これに対し、本実施形態では、インピーダンス測定用の電流を重畳するコイル21と重畳する電流を決めたあとに、推力指令値に応じた所望の推力が生成されるように残りの駆動用電流を計算する。
【0058】
図7は、本実施形態に係る搬送装置の概略構成を示すブロック図である。図7のブロック図に示されているブロックは図4と同様である。しかしながら、第2電流指令値生成器14から出力される第2電流指令値が、第1電流指令値生成器13にも入力される点が第1実施形態との相違点である。
【0059】
図8は、本実施形態に係る搬送装置の動作の概略を示すフローチャートである。図8のフローチャートに沿って、図7に示されている各ブロックによって実行されるインピーダンス測定動作の概略を説明する。なお、図8におけるステップS11、S12、S13、S16、S17は、第1実施形態と概ね同様であるため、説明を省略又は簡略化する。
【0060】
ステップS21において、第2電流指令値生成器14は、インピーダンス測定用電流を重畳させるコイル21と、そのコイル21に流れるインピーダンス測定用電流I1を含む第2電流指令値を決定する。
【0061】
ステップS22において、第1電流指令値生成器13は、決定したインピーダンス測定用電流I1に基づき、推力定数行列Ktを、推力定数行列Ktaと、推力定数行列Ktbの2つに分解する。推力定数行列Ktaは、インピーダンス測定用電流を重畳させるコイル21に関する列からなる行列である。推力定数行列Ktbは、残りのコイル21すべてに関する列を少なくとも含む行列である。位置指令値に応じた所望の推力ベクトルFを生じる電流ベクトルの解を得るために、推力定数行列Kt2は、推力定数行列Kt2の列階数が所望の推力ベクトルFの行階数と同じか、又は高くなるように選択される。このとき、推力定数行列Kt2にはインピーダンス測定用電流を重畳するコイル21に関する列が含まれていてもよい。
【0062】
ステップS23において、第1電流指令値生成器13は、推力指令値と、可動子32の位置と、推力定数行列Ktaと、Ktbの擬似逆行列Ktb<+>と、第2電流指令値に応じた電流ベクトルI1とを用いて、第1電流指令値を生成する。第1電流指令値に基づく駆動用の電流ベクトルI2は、以下の式(5)で算出され得る。
I2=Ktb<+>*(F-Kta*I1) …(5)
【0063】
ステップS16において、電流制御器15は、第1電流指令値と第2電流指令値とを重畳した第3電流指令値に基づいて、コイル21を流れる電流を制御する。この処理は例えば、抵抗測定用の電流ベクトルI1と駆動用の電流ベクトルI2との和で与えられる電流値がコイル21を流れるように電流を制御するものであり得る。
【0064】
ここで、図9を参照して、式(5)に基づく電流の計算例について単純化されたモデルを用いて説明する。図9は、本実施形態に係る搬送装置における電流計算を模式的に示すベクトル図である。図9において、可動子32及びコイル21の個数、ベクトル及び行列の要素数等の前提条件は図6と同様であるため説明を省略する。
【0065】
図9には、O-I-ikで示される第1の座標系55と、O-I1-I2で示される第2の座標系51とが示されている。第1の座標系55は可動子32に作用する推力ベクトルに関連した座標系である。水平方向のI軸は、可動子32に推力を作用させる電流に対応している。垂直方向のik軸は、インピーダンス測定用の電流に対応している。
【0066】
第2の座標系51は、各コイル21を流れる電流に対応した座標系である。I1軸は、2つのコイル21のうちの1番目のコイル21を流れる電流に対応している。I2軸は、2つのコイル21のうちの2番目のコイル21を流れる電流に対応している。O-I1の第1の座標系50に対する傾きは、推力定数行列Ktの要素を用いて-Kt2/Kt1と表される。
【0067】
第2電流指令値生成器14は、インピーダンス測定対象のコイル21に流すインピーダンス測定用の電流ベクトル56を決定する。次に、第1電流指令値生成器13は、式(5)に示されるように、電流ベクトル57(図9におけるベクトルOA)と、電流ベクトル58(図9におけるベクトルOB)との差を用いて、残りのコイル21を流れる電流ベクトル59を計算する。ここで、電流ベクトル57は、電流ベクトル56のうち可動子32に作用する推力に関する成分のみからなるベクトルである。電流ベクトル58は、可動子32に所望の推力を作用させるのに必要な電流を示すベクトルである。
【0068】
以上のように、本実施形態における電流制御においても第1実施形態と同様に、駆動用電流を示す第1電流指令値にインピーダンス測定用電流を示す第2電流指令値を重畳して、コイル21に流れる電流を制御する。したがって、第1実施形態と同様に、少ない回路構成制約で電動機のインピーダンス測定を行い得る制御装置10及び搬送装置が提供される。
【0069】
また、本実施形態においては、インピーダンス測定用電流が各コイル21に流れるため、駆動用電流が0である場合であってもインピーダンス測定が実現できる。このとき、各コイル21を流れるトータルの電流は、第1電流指令値と第2電流指令値に基づく2つの電流が重畳された後に、推力指令値に応じた所望の推力が生成されるように決定されている。すなわち、インピーダンス測定用電流に起因する余分な推力をコイル21が受けないように第1電流指令値が決定されるため、本実施形態においても、インピーダンス測定用電流が各コイル21に流れることによる可動子32の推力への影響が低減されている。
【0070】
また、本実施形態においても第1実施形態と同様に、複数のコイル21の各々に個別にインピーダンス測定用電流を供給することができるため、複数のコイル21の各々のインピーダンスを個別に取得することができる。
【0071】
なお、第2電流指令値に基づく電流ベクトルI1の電流波形は、2つの電流指令値が重畳される期間の少なくとも一部において、直流区間を有していてもよい。第1実施形態で述べたものと同様の理由により、交流成分の影響が低減され、インピーダンスの測定精度が向上し得る。
【0072】
第1期間には第1グループのコイル21にインピーダンス測定用電流が流れるような第2電流指令値を生成し、第2期間には第1グループとは別の第2グループのコイル21にインピーダンス測定用電流が流れるような第2電流指令値を生成してもよい。このように期間に応じてインピーダンス測定用電流が流れるコイル21のグループを変えることにより、すべてのコイル21に同時にインピーダンス測定用電流を流す場合と比べて可動子32が受ける推力への影響を更に低減させることができる。
【0073】
[第3実施形態]
第3実施形態に係る搬送装置について、図10及び図11を参照して説明する。第1実施形態の搬送装置との相違点は、駆動用の電機子として三相コイルが設けられている点である。第1実施形態又は第2実施形態による搬送装置と同様の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略又は簡略化する場合がある。
【0074】
図10は、搬送装置のXZ断面をY方向から見た断面図である。図11は、コイル、電流検出器及び電圧検出器の接続を示す回路図である。搬送装置をZ方向から見た上面図については図1と同様であるため省略する。
【0075】
図10に示すように、本実施形態の搬送装置は、複数の三相コイルを有している。各三相コイルは、コイル21U、21V、21Wを有する。コイル21U、21V、21Wの各々を流れる電流は制御装置10によって個別に制御される。
【0076】
図10に示すように、コイル21U、21V、21Wと可動子32の大きさは、1つの可動子32に対して常に2つ以上のコイルが対向するように設計されている。したがって、制御装置10は、可動子32が複数個設けられている場合であっても、それぞれの可動子32に作用する推力を別々に制御することができる。
【0077】
図11に示すように、本実施形態の搬送装置は、コイル21U、21V、21Wに対応して、電流検出器23U、23V、23Wと、電圧検出器24U、24V、24Wとを有している。電流検出器23U、23V、23Wは、コイル21U、21V、21Wの相電流をそれぞれ検出する。電圧検出器24U、24V、24Wは、コイル21U、21V、21Wの相電圧をそれぞれ検出する。
【0078】
制御装置10は、電流検出器23U、23V、23Wで検出した相電流に基づいて、コイル21U、21V、21Wに流れる電流が所望の値になるように、三相コイルの各相に電圧を印加する。電圧検出器24U、24V、24Wは、実際に相電圧を測定してもよく、制御装置10の内部で計算された指令電圧を取得してもよい。図11に示すように、本実施形態の三相コイルは、中性点への接続端を有していない。
【0079】
制御装置10が中性点への接続端のない三相コイルの電流制御を行う場合、制御できる電流の自由度は2である。そこで、本実施形態の制御装置10は、例えばαβ軸変換やdq軸変換による三相電流と二相電流との間の変換を用いて、搬送装置の制御を行う。更に、本実施形態の制御装置10は、三相電流と二相電流との間の変換を用いて、第1実施形態又は第2実施形態と同様にしてコイル21U、21V、21Wの電流を制御して、インピーダンスの測定を行う。
【0080】
具体的には、式(1)における電流ベクトルIを各コイルの2相電流を並べたベクトルとして設定する。そして、式(3)又は式(5)を用いることにより、可動子32に所望の推力を作用させるとともに抵抗測定用電流を各コイルに流すための二相電流の電流指令値を計算することができる。
【0081】
制御装置10は、上述の二相電流の電流指令値を三相電流の電流指令値に逆変換することで、各コイルに対応する電流指令値を計算し、第1実施形態及び第2実施形態と同様に式(4)を用いて各コイルの抵抗を測定することができる。
【0082】
以上のように、本実施形態によれば、三相コイルを用いた装置構成であっても、第1実施形態又は第2実施形態と同様の効果が得られる制御装置10及び搬送装置が提供される。
【0083】
[その他の実施形態]
なお、上述の実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。例えば、いずれかの実施形態の一部の構成を、他の実施形態に追加した実施形態、あるいは他の実施形態の一部の構成と置換した実施形態も本発明を適用し得る実施形態であると理解されるべきである。
【0084】
上述の実施形態においては、可動子に磁石が設置され、固定子にコイルが設置された直動型電動機を例示したが、電動機の構成はこれに限定されない。電動機は、可動子にコイルが設置され、固定子に磁石が設置された直動型電動機であってもよい。また、電動機は、直動型電動機ではなく、回転型電動機であってもよい。
【0085】
また、上述の実施形態においては、電動機の用途として搬送装置を例示しているが、電動機の用途はこれに限定されない。上述の実施形態の制御装置10は、適宜構成を変更することにより、搬送装置以外の装置にも適用可能である。
【0086】
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【符号の説明】
【0087】
10 制御装置
11 位置指令値生成器
12 推力指令値生成器
13 第1電流指令値生成器
14 第2電流指令値生成器
15 電流制御器
16 インピーダンス測定器
21 コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11