(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】プラント設備の診断方法及び装置
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
G05B23/02 T
(21)【出願番号】P 2020138502
(22)【出願日】2020-08-19
【審査請求日】2023-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】河原 賢吾
【審査官】影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-048697(JP,A)
【文献】特開2018-160093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータが、
プラント設備の状態を示す指標データを取得し、
前記指標データを時系列に保存し、
前記時系列に保存された前記指標データに基づいて、前記指標データを連続型確率変数とする確率密度関数を生成し、
前記確率密度関数から前記指標データの相対的な出やすさを示す計算値を算出し、
時間的に連続す
る前記計算値の積の経時変
化に基づいて、前記プラント設備で異常の発生が予測されるか否かを判定するプラント設備の診断方法。
【請求項2】
前記コンピュータが、
前記計算値の積が予め設定された第1の閾値よりも大きい場合、前記プラント設備が正常であると判定し、前記計算値の積が前記第1の閾値以下である場合、前記プラント設備で異常の発生が予測されると判定する請求項1に記載のプラント設備の診断方法。
【請求項3】
前記コンピュータが、
前記計算値の積の経時変化が予め設定された第2の閾値よりも小さい場合、前記プラント設備が正常であると判定し、前記計算値の積が前記第2の閾値以上である場合、前記プラント設備で異常の発生が予測されると判定する請求項1または2に記載のプラント設備の診断方法。
【請求項4】
前記コンピュータが、
前記プラント設備で異常の発生が予測されると判定した場合、前記プラント設備の運転方法を変更する請求項1から3のいずれか1項に記載のプラント設備の診断方法。
【請求項5】
前記コンピュータが、
前記プラント設備で異常の発生が予測されると判定した場合、前記プラント設備の運転工程を変更する請求項1から4のいずれか1項に記載のプラント設備の診断方法。
【請求項6】
前記コンピュータが、
前記プラント設備で異常の発生が予測されると判定した場合、前記プラント設備の運転条件を変更する請求項1から5のいずれか1項に記載のプラント設備の診断方法。
【請求項7】
前記コンピュータが、
前記プラント設備で異常の発生が予測されると判定した場合、該判定
の結果を外部へ通知する請求項1から6のいずれか1項に記載のプラント設備の診断方法。
【請求項8】
前記計算値が、前記指標データの確率密度または確率である請求項1から7のいずれか1項に記載のプラント設備の診断方法。
【請求項9】
プラント設備の状態を示す指標データを取得する取得部と、
前記取得部で取得された前記指標データを時系列に保存する記録部と、
前記記録部に保存された前記指標データに基づいて、前記指標データを連続型確率変数とする確率密度関数を生成する生成部と、
前記生成部で生成された前記確率密度関数から前記指標データの相対的な出やすさを示す計算値を算出する算出部と、
前記算出部で算出された、時間的に連続す
る前記計算値の積の経時変
化に基づいて、前記プラント設備で異常の発生が予測されるか否かを判定する診断部と、
を有するプラント設備の診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラント設備の診断方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化学プラント、石油プラント、水処理プラント等の各種のプラント設備には、様々な計測器が設置されており、それらの計測器から得られる測定データを用いて、圧力、水量、熱、化学物質の濃度等が監視される。また、プラント設備では、様々な計測器を用いた観測結果に基づいて、異常の発生をより高度に検知する、または異常の内容を診断する、異常検知・診断システムの導入も進んでいる(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-153045号公報
【文献】特開2020-27532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1は、計測器から得られる測定データの信頼性を高めることで、プラント設備や計測器で発生している異常を精度良く検知し、プラント設備の運転管理を適切に行うための技術を提案したものである。また、特許文献2もプラント設備や計測器で発生している異常を精度良く検知するための技術を提案したものである。
【0005】
プラント設備には、例えば水処理プラントのように重要な社会インフラも存在する。そのため、プラント設備では、発生している異常を精度良く検知するだけでなく、異常の発生を予測して、実際に異常が発生する前に対処できるようにすることが望ましい。上記特許文献1及び2に記載された技術は、プラント設備における異常の発生を予測するものではない。
【0006】
本発明は上述したような背景技術が有する課題を解決するためになされたものであり、異常の発生を予測できるプラント設備の診断方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明のプラント設備の診断方法は、コンピュータが、
プラント設備の状態を示す指標データを取得し、
前記指標データを時系列に保存し、
前記時系列に保存された前記指標データに基づいて、前記指標データを連続型確率変数とする確率密度関数を生成し、
前記確率密度関数から前記指標データの相対的な出やすさを示す計算値を算出し、
時間的に連続する前記計算値の積の経時変化に基づいて、前記プラント設備で異常の発生が予測されるか否かを判定する方法である。
【0008】
一方、本発明のプラント設備の診断装置は、
プラント設備の状態を示す指標データを取得する取得部と、
前記取得部で取得された前記指標データを時系列に保存する記録部と、
前記記録部に保存された前記指標データに基づいて、前記指標データを連続型確率変数とする確率密度関数を生成する生成部と、
前記生成部で生成された前記確率密度関数から前記指標データの相対的な出やすさを示す計算値を算出する算出部と、
前記算出部で算出された、時間的に連続する前記計算値の積の経時変化に基づいて、前記プラント設備で異常の発生が予測されるか否かを判定する診断部と、
を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、プラント設備における異常の発生を予測できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のプラント設備の診断装置の一構成例を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示した診断装置の実現例を示すブロック図である。
【
図3】本発明の診断方法による処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の診断装置による運転方法の変更処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の診断装置で保存される指標データの一例を示すテーブル図である。
【
図6】本発明の診断装置で算出される確率密度関数の生成に必要なパラメータの一例を示すテーブル図である。
【
図7】本発明の診断装置で算出される計算値の一例を示すテーブル図である。
【
図8】本発明の診断装置で算出される計算値の積の一例を示すテーブル図である。
【
図9】プラント設備の診断に用いる閾値の一例を示すテーブルである。
【
図10】本発明の診断装置による診断結果の一例を示すテーブル図である。
【
図11】本発明の診断装置による診断結果の一例を時系列に示したグラフである。
【
図12】本発明の診断装置による診断結果の一例を時系列に示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に本発明について図面を用いて説明する。
【0012】
プラント設備が正常に運転している状態において、該プラント設備に設置された計測器(センサ)から時系列に得られる測定データは、ある確率分布に従っており、例えば、その移動平均を中心に正規分布に従って分布すると考えられる。本発明では、時系列に得られた測定データのうち、時間的に連続する、ある時刻及びその1つ前(過去)の時刻に得られた測定データが、それ以前の測定データの移動平均から大きく外れているとき(例えば、正規分布における±2σ以上、σは移動標準偏差)、プラント設備にてそれまでとは異なる事象が起きており、「異常」の兆候があると判定する。測定データが移動平均から大きく外れているか否かの判定には、該測定データの相対的な出やすさを示す確率密度または確率を用いる。そして、「異常」の兆候がある場合、すなわち「異常」の発生が予測される場合は、該「異常」の発生を抑制するために、プラント設備の運転方法や運転条件等を切り替える。
【0013】
図1は、本発明のプラント設備の診断装置の一構成例を示すブロック図である。
図1は、本発明のプラント設備の診断装置が備える複数の機能の一例をそれぞれ示している。
【0014】
図1で示すように、本発明の診断装置1は、取得部11、記録部12、生成部13、算出部14、診断部15、通告部16及び変更部17を備え、プラント設備2に設置された計測器である複数のセンサ3(
図1に示す例では、センサ3
1~3
3)の測定データに基づいて、該プラント設備2の運転を管理する装置である。
図1は、プラント設備2に3つのセンサ3
1~3
3が設置された例を示しているが、プラント設備2に設置されるセンサ3の数は幾つであってもよい。
【0015】
取得部11は、プラント設備2に設置されたセンサ3毎の測定データである、該プラント設備2の状態を示す指標データを取得する。取得部11は、例えばセンサ3毎の指標データを予め設定された所定の周期毎に取得すればよい。取得部11は、センサ3から診断装置1へ送信される1つまたは複数の指標データを、インターネット等の周知の通信ネットワークを介して取得してもよい。
【0016】
センサ3には、例えば、圧力センサ、流量センサ、温度センサ、湿度センサ、速度センサ、振動センサ、電流センサ、電圧センサ、ガスセンサ、画像センサ、色彩センサ、超音波センサ、レベルセンサ、物質センサ等が用いられる。
【0017】
物質センサの検知対象としては、pH、TOC(Total Organic Carbon)、BOD(Biochemical Oxygen Demand)、COD(Chemical Oxygen Demand)、電気伝導度、濁度、色度、アルミニウム、ホウ素、銅、クロム、バナジウム、鉄、マンガン、ニッケル、銀、スズ、亜鉛、鉛、ヒ素、カドミウム、水銀、コバルト、モリブデン、シリカ、シアン、水酸化物、亜硝酸、硝酸、亜硫酸、硫化物、硫酸、全窒素、有機体窒素、硝酸性窒素、亜硝酸性窒素、全リン、リン酸、アンモニウム、リチウム、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、塩化物、臭化物、ヨウ化物、遊離残留塩素、結合残留塩素、総残留塩素、活性酸素、過酸化水素、アスコルビン酸、キレート剤、界面活性剤、グルコース、ポリマー、ホルムアルデヒド等が考えられる。
【0018】
指標データには、カルシウム塩及び/またはマグネシウム塩の含有量を示す指標となる硬度、あるいは炭酸水素塩、炭酸塩、水酸化物等のアルカリ成分の含有量を示す指標となる酸消費量、あるいは水に溶けている強酸、炭酸、有機酸及び水酸化物として沈殿する金属元素等の含有量を示す指標となるアルカリ消費量、あるいは酸素、過酸化水素、水素、亜硫酸等の酸化剤または還元剤の含有量を示す指標となる酸化還元電位等を用いてもよい。硬度、酸消費量、アルカリ消費量、酸化還元電位等の値は、周知の方法を用いて測定すればよい。また、指標データには、例えば、圧力差のように、同一種類の複数のセンサの測定データから算出した値を用いてもよい。
【0019】
記録部12には、取得部11で取得されたセンサ3毎の指標データが時系列に保存される。また、記録部12には、診断装置1内で算出された計算結果や診断結果等が保存される。
【0020】
生成部13は、記録部12で保存された指標データを用いて、該指標データを連続型確率変数とする確率密度関数を指標データの取得時刻毎にそれぞれ生成する。確率密度関数は、時系列に得られる各指標データが、その移動平均を中心に正規分布に従って分布するものとして、下記式(1)を用いて生成する。確率密度関数は、指標データの移動平均μ及び移動標準偏差σをそれぞれ算出し、該算出したμ及びσの値を下記式(1)に代入することで得ることができる。時刻tにおける移動平均μは、例えば該時刻tから過去の所定の時間(例えば、24時間)までに得られた全ての指標データの平均値を用いればよい。また、時刻tにおける移動標準偏差σは、例えば該時刻tから過去の所定の時間(例えば、24時間)までに得られた全ての指標データから求めた標準偏差を用いればよい。
【0021】
【数1】
算出部14は、生成部13で生成された時刻tにおける確率密度関数に、取得部11で取得された時刻tの指標データを代入することで、時刻t毎の確率密度を算出する。あるいは、算出部14は、取得部11で取得された時刻tの指標データを上端または下端とする、所定の範囲の指標データの積分区間で時刻tにおける確率密度関数を積分することで、時刻t毎の確率を算出する。算出した確率密度または確率(以下、確率密度及び確率を「計算値」と総称する場合がある)は、時刻tに関連付けて記録部12でそれぞれ保存する。
【0022】
診断部15は、上述した時間的に連続する2つの指標データが、それ以前の指標データの移動平均から大きく外れているか否かの判定に用いる、時刻tにおける計算値と、1つ前(過去)の時刻t-1における計算値との積を計算する。例えば、指標データを1分間隔で取得している場合、診断部15は、時刻tにおける確率密度f(xt)と、1分前の時刻t-1における確率密度f(xt-1)とを乗算して積f(xt)×f(xt-1)を算出する。
【0023】
さらに、診断部15は、算出した確率密度の積f(xt)×f(xt-1)と予め設定された閾値とを比較することで、監視対象であるプラント設備2で異常の発生が予測されるか否かを判定する。具体的には、診断部15は、確率密度の積f(xt)×f(xt-1)が、予め設定された閾値(第1の閾値)よりも大きければ「正常」と判定し、第1の閾値以下であれば「異常」と判定する。あるいは、診断部15は、時刻tにおける確率密度の積f(xt)×f(xt-1)と、1分前の時刻t-1における確率密度の積f(xt-1)×f(xt-2)との経時変化を計算し、該積の経時変化が予め設定された閾値(第2の閾値)よりも小さければ「正常」と判定し、該積の経時変化が第2の閾値以上であれば「異常」と判定する。確率密度の積の経時変化は、例えば該積の経時変化を示す「傾き」を計算することで求めればよい。
【0024】
なお、ここで言う判定結果における「異常」とは、監視対象であるプラント設備2で「異常」の兆候がある状態、すなわち「異常」の発生が予測される状態であり、該プラント設備2で実際に「異常」が発生している状態を指すものではない。
【0025】
診断部15は、算出部14で算出された確率の積を予め設定された閾値(第1の閾値)と比較することで、プラント設備2で異常の発生が予測されるか否かを判定してもよい。あるいは、診断部15は、確率の積の経時変化(を示す傾き)を予め設定された閾値(第2の閾値)と比較することで、プラント設備2で異常の発生が予測されるか否かを判定してもよい。
【0026】
通告部16は、診断部15で「異常」と判定された場合、「異常」の発生が予測される旨を診断結果として外部へ通知する。通告部16は、診断部15で「正常」と判定された場合も、「正常」である旨を診断結果として外部へ通知してもよい。通告部16は、例えばディスプレイ装置や警告灯等を用いて、プラント設備2の管理者等に診断結果を通知すればよい。
【0027】
変更部17は、診断部15で「異常」と判定された場合、プラント設備2における運転方法、運転工程または運転条件の少なくともいずれか一つを変更する。
【0028】
図1に示した診断装置1は、それぞれの機能をハードウェア(電子回路)等で実現してもよいが、例えば
図2で示す情報処理装置(コンピュータ)100を用いることで容易に実現できる。
図2は、
図1に示した診断装置の実現例を示すブロック図である。
【0029】
図2で示す情報処理装置100は、CPU(Central Processing Unit)101、メモリ102、通信装置103、ユーザインターフェース(UI)104及び補助記憶装置(記憶装置)105を備え、メモリ102、通信装置103、ユーザインターフェース(UI)104及び補助記憶装置105と、CPU101とが、バス106を介してそれぞれ接続された構成である。
【0030】
補助記憶装置105には、
図1に示した診断装置1が備える各種機能を実現するためのプログラム107が保存されると共に、センサ3から取得した指標データ、並びに情報処理装置(コンピュータ)100で求めた計算結果や診断結果等が保存される。
【0031】
図1に示した取得部11の機能は、
図2に示すCPU(処理装置)101が通信装置103を用いてセンサ3で測定された指標データを取得することで実現できる。
図1に示した記録部12の機能は、補助記憶装置105で実現できる。
図1に示した生成部13、算出部14、診断部15及び変更部17の機能は、
図2に示すCPU(処理装置)101が、補助記憶装置105で保存されたプログラム107を読み出し、該プログラム107にしたがって処理を実行することで実現できる。
図1に示した通告部16の機能は、
図2に示すCPU(処理装置)101が、診断部15の診断結果をユーザインターフェース(UI)104に接続された不図示のディスプレイ装置等に表示することで実現できる。
【0032】
図3は、本発明の診断方法による処理の一例を示すフローチャートである。
【0033】
図3で示すように、診断装置1は、センサ3毎の測定データである、プラント設備2の状態を示す指標データを取得し(ステップS1)、該指標データを時系列に保存する(ステップS2)。
【0034】
続いて、診断装置1は、保存している指標データに基づいて、指標データを取得した時刻tにおける確率密度関数をそれぞれ生成し(ステップS3)、該確率密度関数に時刻tで取得した指標データを代入して確率密度を算出する。あるいは、診断装置1は、時刻tで取得した指標データを上端または下端とする、所定の範囲の指標データの積分区間で確率密度関数を積分することで確率を算出する(ステップS4)。
【0035】
次に、診断装置1は、指標データを取得した時刻tにおける計算値(確率密度または確率)と1つ前の時刻t-1における計算値との積を計算する(ステップS5)。
【0036】
続いて、診断装置1は、計算値の積が予め設定された閾値(第1の閾値)よりも大きいか否かを判定し(ステップS6)、計算値の積が第1の閾値よりも大きい場合はプラント設備2が「正常」と判定して(ステップS7)処理を終了する。また、診断装置1は、計算値の積が第1の閾値以下の場合はプラント設備2が「異常」と判定する(ステップS8)。
図3では、ステップS6にて、計算値の積と第1の閾値とを比較する処理例を示しているが、診断装置1は、計算値の積の経時変化と第2の閾値とを比較してプラント設備2が「正常」または「異常」であるかを判定してもよい。
【0037】
プラント設備2が「正常」または「異常」であるかの判定には、確率密度の積だけを用いてもよく、確率の積だけを用いてもよく、確率密度の積と確率の積の両方を用いてもよい。また、プラント設備2が「正常」または「異常」であるかの判定には、計算値(確率密度または確率)の積だけを用いてもよく、計算値の積の経時変化だけを用いてもよく、計算値の積と計算機の積の経時変化の両方を用いてもよい。
【0038】
診断装置1は、プラント設備2が「異常」と判定した場合、該プラント設備2の管理者等に「異常」の発生が予測される旨を通知し(ステップS9)、プラント設備2の運転方法、運転工程または運転条件の少なくともいずれか一つを変更して(ステップS10)処理を終了する。
【0039】
以下、プラント設備2が水処理プラントである場合を例にして、該プラント設備2の運転方法、運転工程または運転条件を変更する処理の一例を、
図4を用いて説明する。
【0040】
なお、運転方法の変更とは、他の単位操作に切り替えることである。例えば、逆浸透膜ろ過運転を実行している状態から除濁膜ろ過運転または砂ろ過運転に切り替えることを指す。
【0041】
運転工程の変更とは、同一の単位操作において、他の運転工程へ切り替えることである。例えば、除濁膜ろ過運転において、通水工程を実施していた状態から逆洗浄工程または薬品洗浄工程へ切り替えることである。プラント設備2が複数の運転系列を備えている場合、運転工程の変更には、主として利用する主運転系列から冗長用の副運転系列へ切り替える運転系列の切替工程を含めてもよい。
【0042】
運転条件の変更とは、同一の単位操作及び運転工程において、他の運転条件に切り替えることである。例えば、除濁膜ろ過運転の通水工程において、任意の運転条件を採用していた状態から、流量、圧力、回収率等を変更することである。あるいは、例えば洗浄工程において、洗浄時間や洗浄薬剤の濃度等を変更することである。
【0043】
図4は、本発明の診断装置による運転方法の変更処理の一例を示すフローチャートである。
図4は、
図3で示したステップS10における運転方法の変更処理の一例を示している。
【0044】
図4で示すように、診断装置1は、プラント設備2を「異常」と判定し、現行の運転方法から第1の運転方法に切り替えると(ステップS11)、第1の判定条件を満たしているか否かを判定する(ステップS12)。第1の判定条件を満たしている場合、診断装置1は、運転方法の変更処理を終了する。第1の判定条件を満たしていない場合、診断装置1は、第2の運転方法に切り替える(ステップS13)。
【0045】
診断装置1は、第2の運転方法に切り替えると、第2の判定条件を満たしているか否かを判定する(ステップS14)。第2の判定条件を満たしている場合、診断装置1は、運転方法の変更処理を終了する。第2の判定条件を満たしていない場合、診断装置1は、第3の運転方法に切り替える(ステップS15)。
【0046】
診断装置1は、第3の運転方法に切り替えると、第3の判定条件を満たしているか否かを判定する(ステップS16)。第3の判定条件を満たしている場合、診断装置1は、運転方法の変更処理を終了する。第3の判定条件を満たしていない場合、診断装置1は、適切な運転方法が無い旨をプラント設備2の管理者等に通知して(ステップS17)処理を終了する。
【0047】
第1の運転方法は、例えば除濁膜ろ過運転である。第2の運転方法は、例えば砂ろ過運転である。第3の運転方法は、例えばフィルターろ過運転である。
【0048】
第1、第2及び第3の判定条件を用いた判定処理では、例えば、運転方法の切り替え後に得られる確率密度の積f(xt)×f(xt-1)が予め設定された閾値(第1の閾値)よりも大きいか否かを判定すればよい。
【0049】
運転工程または運転条件を変更する場合も、
図4で示す処理手順にしたがって変更処理を実行すればよい。その場合、運転工程の変更処理では、
図4で示した処理手順における第1~第3の運転方法に代えて第1~第3の運転工程を用いればよい。同様に、運転条件の変更処理では、
図4で示した処理手順における第1~第3の運転方法に代えて第1~第3の運転条件を用いればよい。
【0050】
第1の運転工程は、例えば薬品添加通水工程である。第2の運転工程は、例えば逆洗浄工程である。第3の運転工程は、例えば薬品洗浄工程である。第1の運転条件は、例えば運転流量である。第2の運転条件は、例えば運転圧力である。第3の運転条件は、例えば回収率である。
【0051】
運転工程または運転条件の変更処理における第1、第2及び第3の判定条件には、上記運転方法の変更処理と同様に、運転工程または運転条件の切り替え後に得られる確率密度の積f(xt)×f(xt-1)が予め設定された閾値(第1の閾値)よりも大きいか否かの判定条件を用いればよい。
【0052】
図4では、運転方法を3段階に切り替える例を示しているが、運転方法は、プラント設備2が備える装置や施設に応じて、1つまたは複数の段階に切り替えればよい。運転工程及び運転条件も3段階に切り替える必要はなく、プラント設備2が備える装置や施設に応じて、1つまたは複数の段階に切り替えればよい。
【0053】
図5は、本発明の診断装置で保存される指標データの一例を示すテーブル図であり、
図6は、本発明の診断装置で算出される確率密度関数の生成に必要なパラメータの一例を示すテーブル図である。
図7は、本発明の診断装置で算出される計算値の一例を示すテーブル図であり、
図8は、本発明の診断装置で算出される計算値の積の一例を示すテーブル図である。
図9は、プラント設備の診断に用いる閾値の一例を示すテーブルであり、
図10は、本発明の診断装置による診断結果の一例を示すテーブル図である。
【0054】
上述したように、診断装置1は、所定の周期毎にセンサ3から指標データを取得し、取得した指標データを時系列に保存する。
図5は、時系列に保存された指標データの一例を示しており、第1のセンサ(圧力センサ)から10分間隔で取得した指標データ(圧力x
1,t)と第2のセンサ(圧力センサ)から10分間隔で取得した指標データ(圧力x
2,t)とをそれぞれ示している。
【0055】
診断装置1は、保存した指標データを用いて、確率密度関数の生成に必要な移動平均μ及び移動標準偏差σをセンサ3毎にそれぞれ算出する。
図6は、第1のセンサの指標データから10分間隔で算出した移動平均μ
1,t及び移動標準偏差σ
1,tの一例、並びに第2のセンサの指標データから10分間隔で算出した移動平均μ
2、t及び移動標準偏差σ
2、tの一例をそれぞれ示している。
図6に示す移動平均μ
1、t及びμ
2、tは、指標データのそれぞれの取得時刻tにおける24時間前からの全ての指標データの平均値である。また、
図6に示す移動標準偏差σ
1、t及びσ
2、tは、指標データのそれぞれの取得時刻tにおける24時間前からの全ての指標データの標準偏差である。
【0056】
診断装置1は、算出した移動平均μ及び移動標準偏差σを用いて確率密度関数を生成し、該確率密度関数を用いてセンサ毎の計算値(確率密度または確率)をそれぞれ算出する。
図7は、第1のセンサの確率密度関数から10分間隔で算出した確率密度f(x
1,t)の一例と、第2のセンサの確率密度関数から10分間隔で算出した確率密度f(x
2,t)の一例とをそれぞれ示している。
【0057】
診断装置1は、算出した計算値(確率密度または確率)の積をセンサ3毎にそれぞれ算出する。あるいは、診断装置1は、上記指標データの取得時刻毎に、算出した計算値(確率密度または確率)の積の経時変化をセンサ3毎にそれぞれ算出する。
図8は、10分間隔で算出した、第1のセンサの確率密度の積f(x
1,t)×f(x
1,t-1)の一例と、第2のセンサの確率密度の積f(x
2,t)×f(x
2,t-1)の一例とをそれぞれ示している。
【0058】
図9で示すように、診断装置1は、監視対象となるプラント設備2の状態の診断に用いる、予め設定された閾値を保存する。閾値は、上述したように、時間的に連続する2つの指標データが、それ以前の指標データの移動平均から大きく外れているか否かを判定できるような値に決定すればよい。
【0059】
具体的には、計算値(確率密度または確率)の積f(xt)×f(xt-1)を判定に用いる場合、閾値(第1の閾値)には、例えば、所定の期間(例えば1日または1週間)における計算値の積f(xt)×f(xt-1)の平均値の0.001倍~0.9倍の値を用いればよい。また、計算値の積の経時変化を判定に用いる場合、閾値(第2の閾値)には、例えば、所定の期間(例えば1日または1週間)における計算値の積の経時変化の平均値の0.001倍~0.9倍の値を用いればよい。閾値は、プラント設備2の管理者や診断装置1の製造会社等が決定して診断装置1に保存してもよく、所定の期間における計算値の積の平均値または計算値の積の経時変化の平均値に基づいて、診断装置1が決定して保存してもよい。
【0060】
上述したように、本発明の診断装置1は、上記指標データの取得時刻毎に、計算値の積または計算値の積の経時変化と、所定の閾値とを比較することで、監視対象となるプラント設備2の状態を判定する。
図10は、第1のセンサの確率密度の積f(x
1,t)×f(x
1,t-1)と第1の閾値とを比較した診断結果の一例と、第2のセンサの確率密度の積f(x
2,t)×f(x
2,t-1)と第1の閾値とを比較した診断結果の一例とをそれぞれ示している。
【0061】
図11及び
図12は、本発明の診断装置による診断結果の一例を時系列に示したグラフである。
図11は、
図5~
図8及び
図10で示した第1のセンサの指標データに基づく診断結果を示し、
図12は、
図5~
図8及び
図10で示した第2のセンサの指標データに基づく診断結果を示している。
図11及び
図12では、診断結果がグラフの右軸の値で示され、「正常」の場合は「0」で示され、「異常」の場合は「1」で示されている。
【0062】
図11で示す例において、第1のセンサでは「異常」が検知されないことが示されており、
図12で示す例において、第2のセンサでは圧力が上昇する前に「異常」と判定されている、すなわち「異常」の発生が予測されていることが分かる。
【0063】
本発明によれば、時系列に取得した指標データから該指標データを連続型確率変数とする確率密度関数を生成し、該確率密度関数から指標データの相対的な出やすさを示す計算値(確率密度または確率)を算出する。そして、時間的に連続する、該計算値の積または該積の経時変化を所定の閾値と比較することで、監視対象であるプラント設備2で「異常」の兆候があるか否かを判定できる。すなわち、プラント設備2で異常の発生が予測されるか否かを判定できる。したがって、本発明によれば、監視対象であるプラント設備2における異常の発生を予測できる。
【0064】
また、本発明によれば、既存の1つのセンサ3から時系列に得られる指標データを用いてプラント設備2における異常の発生を予測できるため、異常の発生の予測用にプラント設備2に追加のセンサ3を設ける必要がない。そのため、プラント設備2のコストの上昇が抑制される。
【0065】
さらに、本発明によれば、診断結果に基づいてプラント設備2の運転方法、運転工程または運転条件を切り替えることで、該プラント設備2にて実際に異常が発生するのを抑制できる。
【符号の説明】
【0066】
1 診断装置
2 プラント設備
3、31、32、33 センサ
11 取得部
12 記録部
13 生成部
14 算出部
15 診断部
16 通告部
17 変更部
100 情報処理装置
101 CPU
102 メモリ
103 通信装置
104 ユーザインターフェース
105 補助記憶装置
106 バス
107 プログラム