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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】産業用ロボット及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 9/22 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
B25J9/22 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020165725
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022057452
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】矢澤 隆之
(72)【発明者】
【氏名】上島 優子
(72)【発明者】
【氏名】奥村 宏克
【審査官】杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-171559(JP,A)
【文献】特開2013-206426(JP,A)
【文献】特開平07-136954(JP,A)
【文献】特開平02-172685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 ~ 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台と、
ハンドと、
前記ハンドが接続されるアームと、
前記アームを支持するアーム支持部と、
前記基台に対して前記アーム支持部を昇降させる昇降機構と、
前記ハンドの位置を変化させる制御を行なう制御部と、
を備え、
前記制御部は、第1移動動作と前記第1移動動作に引続いて前記第1移動動作とは移動方向が異なる第2移動動作とを実行するときに、前記第1移動動作と前記第2移動動作との間で同一の軸における駆動方向の反転が含まれるかを判定し、前記同一の軸における駆動方向の反転が含まれる場合であって前記第1移動動作と前記第2移動動作の少なくとも一方が前記アームの伸縮を含むときには前記第1移動動作の終了前に前記第2移動動作の実行を開始するオーバーラップ動作を行い、前記同一の軸における駆動方向の反転が含まれる場合であって前記第1移動動作と前記第2移動動作とのいずれもが前記アームの伸縮を含まないときには前記オーバーラップ動作を行わない制御を行なう、産業用ロボット。
【請求項2】
ワークを前記ハンドに保持することにより複数の処理装置の間で前記ワークを搬送するために使用され、前記処理装置に前記ワークを搬入し前記処理装置から前記ワークを搬出するときに前記アームの伸縮を含む移動動作が実行される、請求項1に記載の産業用ロボット。
【請求項3】
前記アーム支持部及び前記アームは、前記アーム支持部に対する前記ハンドの向きを所定方向に固定したまま前記所定方向に沿って前記ハンドを前進及び後退させることができる多関節機構を構成する、請求項1または2に記載の産業用ロボット。
【請求項4】
前記基台をレールに沿って水平方向に移動させる水平移動機構を備える、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の産業用ロボット。
【請求項5】
垂直な回転軸の周りで前記基台に対して前記昇降機構を回転させる旋回機構を備える、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の産業用ロボット。
【請求項6】
基台と、ハンドと、前記ハンドが接続されるアームと、前記アームを支持するアーム支持部と、前記基台に対して前記アーム支持部を昇降させる昇降機構と、を備える産業用ロボットの制御方法であって、
第1移動動作と前記第1移動動作に引続いて前記第1移動動作とは移動方向が異なる第2移動動作とを実行するときに、前記第1移動動作と前記第2移動動作との間で前記産業用ロボットの同一の軸における駆動方向の反転が含まれるかを判定し、前記同一の軸における駆動方向の反転が含まれる場合であって前記第1移動動作と前記第2移動動作の少なくとも一方が前記アームの伸縮を含むときには前記第1移動動作の終了前に前記第2移動動作の実行を開始するオーバーラップ動作を行い、前記同一の軸における駆動方向の反転が含まれる場合であって前記第1移動動作と前記第2移動動作とのいずれもが前記アームの伸縮を含まないときには前記オーバーラップ動作を行わない、産業用ロボットの制御方法。
【請求項7】
ワークを前記ハンドに保持することによって複数の処理装置の間で前記ワークを搬送するために前記産業用ロボットを使用し、
前記処理装置に前記ワークを搬入し前記処理装置から前記ワークを搬出するときに前記アームの伸縮を含む移動動作を実行する、請求項6に記載の制御方法。
【請求項8】
前記同一の軸は、前記昇降機構を駆動する軸である、請求項6または7に記載の制御方法。
【請求項9】
前記産業用ロボットにおいて前記アーム支持部及び前記アームは、前記アーム支持部に対する前記ハンドの向きを所定方向に固定したまま前記所定方向に沿って前記ハンドを前進及び後退させることができる多関節機構を構成する、請求項6乃至8のいずれか1項に記載の制御方法。
【請求項10】
前記産業用ロボットは前記基台をレールに沿って水平方向に移動させる水平移動機構を備える、請求項6乃至9のいずれか1項に記載の制御方法
【請求項11】
前記産業用ロボットは垂直な回転軸の周りで前記基台に対して前記昇降機構を回転させる旋回機構を備える、請求項6乃至10のいずれか1項に記載の制御方法。
【請求項12】
前記同一の軸は、前記旋回機構を駆動する軸である、請求項11に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばワークの搬送などに用いられる産業用ロボットと、その制御方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
アームの先端にハンドを有する産業用ロボットでは、ハンドの移動先が与えられて動作が制御される。ここで例えば一連の教示点として3次元空間での位置P1,P2,P3,P4,…が与えられ、この順でハンドを動かすことを考える。その場合、ハンドはまずP1からP2に移動し、減速ののちP2でいったん停止し、次いでP2からP3へと移動する。すなわち、加速、減速及び停止を繰り返しながら位置P2,P3,P4,…と移動する。位置P2は教示点ではあるが厳密にそこを通る必要がないのであれば、P1からP2への移動中にP2の近くまでハンドが到達したときに、ハンドを停止することなくP3への移動動作を開始することとすれば、位置P2の近傍での減速及び加速も少なくて済み、P3へとより早く到達することが可能になる。P1からP2への移動する動作を第1移動動作とし、P2からP3へ移動する動作を第2移動動作とすれば、第1移動動作を実行し、第1移動動作に続いて第1移動動作の終了前に第2移動動作を実行するような制御をすることにより、目標とする位置P3により早くより滑らかに到達することができる。なお一般に位置P1,P2,P3がこの順で同一直線上にあるとは言えないので、第1移動動作と第2移動動作とは移動方向が異なる動作である。この制御では、第1移動動作と第2移動動作とが一部重ね合わされて実行されるので、このような制御のことはオーバーラップと呼ばれ、産業用ロボットの分野において広く用いられている。特許文献1に記載されるようにオーバーラップ動作では、第1移動動作とそれに引き続いて第1移動動作の終了前に第1移動動作とは移動方向が異なる第2移動動作とを実行し、その際、第1移動動作の指令に所定のフィルタ処理を実行し、所定のフィルタ処理を実行した後の指令(フィルタ処理後指令)に基づいて第1移動動作を実行するとともに、フィルタ処理後指令に基づいて第2移動動作の開始タイミングを決定し、決定した開始タイミングに基づいて第2移動動作を実行する。
【0003】
産業用ロボットは、それぞれモータで駆動される複数の軸を備え、軸ごとに正負の方向が定められている。移動方向が異なる第1移動動作と第2移動動作とをオーバーラップさせるとき、ある軸が第1移動動作では正方向に駆動されるのに対し、第2移動動作では同じ軸が負方向に駆動される、ということが起こり得る。ロボットの同一の軸においてオーバーラップにより駆動方向の反転が起こるときは、その軸のモータに対してモータを停止せずに回転方向を逆転させるような制御が行われることになるので、モータに対するトルク指令値が跳ね上がり、トルクの上限値を超えてエラーが発生することがある。そこで特許文献1は、各移動動作において駆動される軸をその移動動作における移動軸と呼ぶときに、第2移動動作が第1移動動作とは移動軸が異なるときにオーバーラップ動作を行うことを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-171559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
同一の軸で駆動方向が反転するような場合に一律にオーバーラップを禁止することとすると、モータにおけるトルクの急上昇などの問題が生じないような場合にもオーバーラップ動作が行われなくなり、その結果、タクトタイムが想定したものより長くなることがある。
【0006】
本発明の目的は、安全を維持しつつ、第1移動動作とそれに引き続く第2移動動作との間でオーバーラップ動作が行われやすくすることでタクトタイムを短くすることができる産業用ロボットとその制御方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の産業用ロボットは、基台と、ハンドと、ハンドが接続されるアームと、アームを支持するアーム支持部と、基台に対してアーム支持部を昇降させる昇降機構と、ハンドの位置を変化させる制御を行なう制御部と、を備え、制御部は、第1移動動作と第1移動動作に引続いて第1移動動作とは移動方向が異なる第2移動動作とを実行するときに、第1移動動作と第2移動動作との間で同一の軸における駆動方向の反転が含まれるかを判定し、同一の軸における駆動方向の反転が含まれる場合であって第1移動動作と第2移動動作の少なくとも一方がアームの伸縮を含むときには第1移動動作の終了前に第2移動動作の実行を開始するオーバーラップ動作を行い、同一の軸における駆動方向の反転が含まれる場合であって第1移動動作と第2移動動作とのいずれもがアームの伸縮を含まないときにはオーバーラップ動作を行わない制御を行なう。
【0008】
アームに接続されたハンドを有する産業用ロボットでは、アームの伸縮は限られた状況において実行される。例えば、ワークをハンドに保持してそのワークを搬送する産業用ロボットの場合、第1の場所(例えばある処理装置のカセットあるいはロードロック室)から第2の場所(例えば別の処理装置のカセットあるいはロードロック室)へワークを搬送するときは基本的にはアームは縮められた状態とされ、第1の場所からワークを搬出する(取り出す)とき、第2の場所にワークを搬入する(納める)ときにのみアームの伸縮が行われる。そしてアームの伸縮によるワークの搬入・搬出時には、同時にハンド全体の水平位置や垂直位置を微調整する動きが行われることが多い。例えば、アームを縮めた状態でハンドを一定の速度で下降させ、その後、アームを伸ばしながらわずかにハンドを上昇させる動きが多用される。ここでハンドを下降させる動きを第1移動動作、アームを伸ばしながらわずかにハンドを上昇させる動きを第2移動動作とすれば、第1移動動作と第2移動動作とは同一の軸(ハンドを昇降させる軸)の駆動を反転させる関係にあるが、アームを伸ばしつつ上昇するときの上昇量は一般に微小であり、その軸の駆動方向の反転があったとしてもモータのトルクの跳ね上がりなどを発生せず、安全にオーバーラップ動作を行うことができる。つまり、アームの伸縮を伴なうときは、アームを伸縮させる軸以外の軸の駆動量や駆動速度は微小であり、アームを伸縮させる軸以外の軸において駆動方向の反転があっても安全にオーバーラップ動作を行えると考えられる。本発明の産業用ロボットでは、第1移動動作と第2移動動作の少なくとも一方がアームの伸縮を含むときにはオーバーラップ動作を行わせることにより、安全を維持しつつ、タクトタイムを短縮することができる。
【0009】
本発明の産業用ロボットは、ワークをハンドに保持することにより複数の処理装置の間でワークを搬送するために使用され、処理装置にワークを搬入し処理装置からワークを搬出するときにアームの伸縮を含む移動動作が実行されるものであることが好ましい。処理装置のカセットやロードロック室の開口の大きさには限界があるから、例えばアームの伸縮と同時にアームを上昇させようとした場合には、アームに接続されたハンドと処理装置のカセットの内壁との干渉のためにハンドの上昇量には制約があるとともに、上昇速度も大きくはならない。したがって、複数の処理装置の間でワークを搬送する産業用ロボットに本発明を適用することにより、モータのトルクが過度に大きくなることを防ぎつつオーバーラップ動作を実行することができて、タクトタイムを短縮することができる。
【0010】
本発明の産業用ロボットでは、アーム支持部及びアームは、アーム支持部に対するハンドの向きを所定方向に固定したままその所定方向に沿ってハンドを前進及び後退させることができる多関節機構を構成してもよい。このような多関節機構を備える場合であれば、多関節機構によるアームの伸縮を含む動作が行われているときには他の軸において駆動方向の反転があってもオーバーラップ動作の対象となり、タクトタイムの短縮が可能になる。また本発明の産業用ロボットは、例えば、基台をレールに沿って水平方向に移動させる水平移動機構を備えていてもよいし、垂直な回転軸の周りで基台に対して昇降機構を回転させる旋回機構を備えていてもよい。本発明の産業用ロボットは、水平移動機構や旋回機構を備える場合においても、タクトタイムの短縮を図ることができる。
【0011】
本発明の産業用ロボットの制御方法は、基台と、ハンドと、ハンドが接続されるアームと、アームを支持するアーム支持部と、基台に対してアーム支持部を昇降させる昇降機構と、を備える産業用ロボットの制御方法であって、第1移動動作と第1移動動作に引続いて第1移動動作とは移動方向が異なる第2移動動作とを実行するときに、第1移動動作と第2移動動作との間で産業用ロボットの同一の軸における駆動方向の反転が含まれるかを判定し、同一の軸における駆動方向の反転が含まれる場合であって第1移動動作と第2移動動作の少なくとも一方がアームの伸縮を含むときには第1移動動作の終了前に第2移動動作の実行を開始するオーバーラップ動作を行い、同一の軸における駆動方向の反転が含まれる場合であって第1移動動作と第2移動動作とのいずれもがアームの伸縮を含まないときにはオーバーラップ動作を行わない。
【0012】
産業用ロボットの場合、アームの伸縮は限られた状況において実行され、アームの伸縮を伴う移動動作では、アームを伸縮させる軸以外の軸は、駆動されるとしても、低速であってその移動量はわずかであると考えられる。したがって、第1移動動作とそれに引き続く第2移動動作とを実行するときに、第1移動動作と第2移動動作との少なくとも一方がアームの伸縮であるときは、同一の軸の駆動方向の反転を伴なうとしても、第1移動操作と第2移動動作とをオーバーラップさせても支障ないと考えられる。ここでは、第1移動動作と第2移動動作のどちらがアームの伸縮を伴なう移動動作であっても同様である。そこで本発明の制御方法では、同一の軸における駆動方向の反転が含まれる場合であって第1移動動作と第2移動動作の少なくとも一方がアームの伸縮を含むときには第1移動動作の終了前に第2移動動作の実行を開始するオーバーラップ動作を行い、これにより、タクトタイムの短縮を図っている。もちろん、同一の軸における駆動方向の反転が含まれる場合であって第1移動動作と第2移動動作とのいずれもがアームの伸縮を含まないときは、オーバーラップ動作によりモータにおけるトルクの跳ね上がりが起こる可能性があるので、オーバーラップ動作は行わない。
【0013】
本発明の制御方法では、ワークをハンドの保持することによって複数の処理装置の間でワークを搬送するために産業用ロボットを使用し、処理装置にワークを搬入し処理装置からワークを搬出するときにアームの伸縮を含む移動動作を実行することが好ましい。処理装置のカセットやロードロック室の開口の大きさには限界があるから、アームが伸びている状態でのアームの伸縮に用いる軸以外の軸の駆動量や駆動速度は制約を受け、そのような軸については駆動方向の反転があってもオーバーラップ動作を適用できる。したがって、複数の処理装置の間でワークを搬送する産業用ロボットに本発明の制御方法を適用することにより、モータのトルクが過度に大きくなることを防ぎつつオーバーラップ動作を適用して、タクトタイムを短縮することができる。さらに本発明の制御方法では、同一の軸、すなわち第1移動動作と第2移動動作との間で駆動方向が反転する軸は、昇降機構を駆動する軸であってよい。アームの伸縮を伴なうときに昇降機構を駆動する軸での駆動方向の反転を伴なうオーバーラップを許容することにより、例えばハンドの昇降の後にハンドを伸ばしつつ昇降量の微調整を行うような場合に、タクトタイムを短縮することが可能になる。
【0014】
本発明の制御方法では、産業用ロボットのアーム支持部及びアームは、アーム支持部に対するハンドの向きを所定方向に固定したままその所定方向に沿ってハンドを前進及び後退させることができる多関節機構を構成してもよい。このような多関節機構を備える場合であれば、多関節機構によるアームの伸縮を含む動作が行われているときには他の軸において駆動方向の反転があってもオーバーラップ動作の対象となり、タクトタイムの短縮が可能になる。産業用ロボットは、例えば、基台をレールに沿って水平方向に移動させる水平移動機構を備えていてもよいし、垂直な回転軸の周りで基台に対して昇降機構を回転させる旋回機構を備えていてもよい。本発明の制御方法によれば、産業用ロボットは、水平移動機構や旋回機構を備える場合においても、タクトタイムの短縮を図ることができる。特に産業用ロボットが旋回機構を備えるときは、同一の軸、すなわち第1移動動作と第2移動動作との間で駆動方向が反転する軸は、旋回機構を駆動する軸であってよい。アームの伸縮を伴なうときに旋回機構を駆動する軸での駆動方向の反転を伴なうオーバーラップを許容することにより、例えばロボットの旋回の後にハンドを伸ばしつつ数度以内範囲で旋回量の微調整を行うような場合にタクトタイムを短縮することが可能になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、産業用ロボットにおいて、安全を維持しつつ第1移動動作とそれに引き続く第2移動動作との間でオーバーラップ動作が行われやすくすることで、タクトタイムを短くすることができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の一形態の産業用ロボットの構成を示す図である。
図2】(a),(b)はそれぞれロボット部の側面図及び平面図である。
図3】産業用ロボットの制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施の一形態の産業用ロボットを示す図である。この産業用ロボットは、ガラス基板などのワークを搬送することを目的とするものであって、水平多関節ロボットとしての実際の動作を行うロボット部10と、ロボット部10に対する動作指令が外部から入力し、この動作指令に基づいてロボット部10を駆動し制御する制御装置(ロボットコントローラ)40とを備えており、ロボット部10と制御装置40とはケーブルによって電気的に接続されている。ロボット部10は、ワーク50(図1には不図示)をそれぞれ保持する2つのハンド13A,13Bを備えるいわゆるダブル・ハンド・ロボットとして構成されている。なお図1は、ロボット部10において水平多関節機構が上昇した状態を示している。制御装置40は、動作指令が入力する制御部41と、ロボット部10に設けられている各モータ(不図示)を駆動するサーボドライバなどを含む駆動回路42とを備えている。本実施形態の産業用ロボットはワーク50の搬送に用いられるものであるので、動作指令は、ハンド13A,13Bを移動させる移動動作に関する指令を含んでいる。移動動作では、少なくともハンド13A,13Bの移動先の位置が指定される。移動先の位置は、通常、教示(ティーチング)を行うことによって指定される。制御部41は、移動動作の指令に基づいてロボット部10の軸ごとにその軸についての速度を含む指令を生成し、駆動回路42は、軸ごとの指令によってロボット部10の各軸のモータを実際に駆動する。
【0018】
図2は、水平多関節機構が下降した状態でのロボット部10の詳細を示す図であって、(a),(b)は、それぞれ、ロボット部10の側面図及び平面図である。ロボット部10は、床面において直線に設けられた相互に平行な1対のレール21上を移動可能な基台22と、基台22の上に設けられ、基台22に内蔵されたモータ(不図示)によって、回転軸31の周りで水平面内で回転する回転台23と、回転台23に対して直立するように設けられた昇降機構24を備えている。レール21にはそれを覆うカバー25が取り付けられている。昇降機構24は、回転台23に取り付けられている固定部24Aと、不図示のモータによって固定部24Aに対して昇降する移動部24Bとを備えている。図2(a)は昇降機構24の移動部24Bがその昇降範囲での最も下に位置している状態での本実施形態のロボットを示すのに対し、図1は、移動部24Bが上昇した状態でのロボットを示している。移動部24Bには水平多関節機構を保持するアーム支持部26が水平方向に延びるように設けられており、アーム支持部26の先端には2組の水平多関節機構が上下方向に配列して取り付けられている。上側の水平多関節機構は、アーム支持部26に取り付けられて共通軸32の周りで水平面内を回転可能な第1アーム11Aと、第1アーム11Aの先端に取り付けられて軸33Aの周りで水平面内を回転可能な第2アーム12Aを備えており、第2アーム12Aの先端にハンド13Aが取り付けられている。同様に下側の水平多関節機構は、アーム支持部26に取り付けられて共通軸32の周りで水平面内を回転可能な第1アーム11Bと、第1アーム11Bの先端に取り付けられて軸33Bの周りで水平面内を回転可能な第2アーム12Bを備えており、第2アーム12Bの先端にハンド13Bが取り付けられている。
【0019】
ハンド13A,13Bは、下から保持することによって板状のワーク50を水平状態に保ったまま搬送できるように、複数の棒状部材を平行に配置したフォーク状の形状となっている。すなわちハンド13A,13Bは、ワーク50をそのハンド13A,13Bの上に保持する形式のものである。ハンド13A,13Bは、カセットやロードロック室などに収納されているワーク50を取り出してハンド13A,13B上に保持したり、保持しているワーク50をカセット内などに収納するときにワーク50に対して前進または後退するが、このハンド13A,13Bの前進したり後退する方向は、棒状部材の延びる方向と平行な方向とされる。ハンド13A,13Bの左右方向すなわち前後方向に直交する方向での幅は、搬送対象のワーク50の左右方向の幅よりも短くなっている。
【0020】
このロボットにおいて水平多関節機構は、第1アーム11A,11Bと第2アーム12A,12Bとに組み込まれたリンク機構により、アーム支持部26が延びる方向とは直交する方向で直線運動でハンド13A,13Bが前進及び後退運動を行うように構成されている。すなわち両方のハンド13A,13Bは同一方向に前進及び後退を行う。中心軸32に対してハンド13A,13Bの先端が遠ざかる動きが前進運動であり、前進運動とは反対方向の動きが後退運動である。第1アーム11A,11Bと第2アーム12A,12Bとは全体して屈曲運動を行い、それにも関わらず水平面内でのハンド13A,13Bの向きを一定とするために、ハンド13A,13Bは、それぞれ、第2アーム12A,12Bの先端の位置で手首軸34A,34Bの周りで水平面内を回転可能に取り付けられている。上側の水平多関節機構では、アーム支持部26に設けられたモータ(不図示)が駆動されることによって第1アーム11A及び第2アーム12Aが動き、ハンド13Aはその向きを保ったまま、アーム支持部26の延びる方向とは直交する方向に移動する。同様に下側の水平多関節機構では、アーム支持部26に設けられたモータ(不図示)が駆動されることによって第1アーム11B及び第2アーム12Bが動き、ハンド13Bはその向きを保ったまま、アーム支持部26の延びる方向とは直交する方向に移動する。このロボットでは、ハンド13Aとハンド13Bとを独立して前進及び後退させることができる。以下の説明において、第1アーム11A,11Bと第2アーム12A,12Bとに組み込まれたリンク機構によりハンド13A,13Bが前進及び後退運動をすることをアームの伸縮運動と呼ぶ。
【0021】
結局、本実施形態の産業用ロボットのロボット部10での動きは、レール21に沿った水平方向の移動(これをX軸あるいは走行軸の動きとする)と、回転軸31の周りでの基台22に対する昇降機構24の旋回(これをθ軸あるいは旋回軸の動きとする)と、ハンド13A,13Bの前進及び後退運動、すなわちアーム伸縮運動(これをR軸の動きとする)と、昇降機構24によるアーム支持部26の昇降(これをZ軸の動きとする)とに分けることができ、これらは、それぞれロボット部10に設けられている軸ごとのモータ(不図示)によって駆動される。ロボット部10は、移動動作に対応する指令に応じた制御装置40からの駆動制御により、これらの各軸のうちの1つの軸だけを動かす動作や、2以上の軸を同時に動かす動作とを実行する。
【0022】
本実施形態の産業用ロボットを用いたガラス基板などのワーク50の搬送について説明する。本実施形態の産業用ロボットによりワーク50を処理装置間で搬送する場合、各処理装置のカセット(あるいはロードロック室)は、水平方向にはレール21からほぼ等距離の位置に配置される。カセットの垂直方向の位置(高さ)は、昇降機構24による昇降で対応できる範囲内であれば任意である。1対のレール21からなる軌道の両側にカセットが配置されていてもよい。そして、ハンド13A上にワーク50を載置することにより搬出側の第1のカセットから搬入側の第2のカセットにワーク50を搬送するときは、ハンド13A,13Bがいずれも後退して第1アーム11A,11Bと第2アーム12A,12Bとが折り畳まれた状態、すなわちアームが縮んだ状態で、第1のカセットに向き合う位置にまでレール21に沿ってロボット部10を移動させ、同時に、ハンド13Aの高さが第1のカセットに対応する高さとなるように、昇降機構24によってアーム支持部26を昇降させる。そして、アームを伸ばすことによりハンド13Aを前進させて第1のカセット内にハンド13Aを進入させ、わずかにハンド13Aを上昇させることによってハンド13A上にワーク50を載置する。その後、アームを縮めることによりハンド13Aを後退させてワーク50ごとハンド13Aを第1のカセットから引き出す。次に、ワーク50を搭載した状態で第2のカセットに向き合う位置にまでレール21に沿ってロボット部10を移動させ、同時にハンド13Aの高さが第2のカセットに対応する高さとなるように、昇降機構24によってアーム支持部26を昇降させる。そして、ワーク50を載せたままハンド13Aを前進させて第2のカセット内にハンド13Aを進入させ、わずかにハンド13Aを下降させることによって第2のカセット内にーク50を載置し、ハンド13Aを後退させて第2のカセットからハンド13Aを引き出す。以上の動作によって。第1のカセットから第2のカセットへワーク50が搬送されたことになる。1対のレール21からなる軌道を挟む一方の側に第1のカセットが配置し、他方の側に第2のカセットが配置するときは、上記の動作に加え、回転軸31の周りでの旋回の動作が実行される。
【0023】
ワーク50の搬送の概要は以上のとおりであるが、実際には、ハンド13A,13Bの位置を予め教示し、教示点の間を移動する一連の移動動作を実行することによってロボット部10はワーク50を搬送する。これらの一連の移動動作では、ある軸をある方向に駆動する移動動作(第1移動動作とする)に引き続いて、その軸を逆方向に駆動する移動動作(これを第2移動動作とする)を実行することがある。第1移動動作に第2移動動作が引き続いてかつ同一の軸の駆動方向の反転を伴なうときは、その軸を駆動するモータへのトルク指令が制限値を超えることなどを防ぐために、一般に、オーバーラップ動作は行われない。しかしながら、処理装置のカセットの開口の大きさには限界があるから、アームが伸びてきっているか伸びる途中にあるときは、アームの伸縮以外の運動は、ハンド13A,13Bとカセットの内壁などとの干渉を避けるために制約を受ける。産業用ロボットを教示するときにおいても、ハンド13A,13Bがカセットの内壁と衝突するような教示は行われない。したがって、アームの伸縮を伴なう移動動作では、アームの伸縮に関係する軸以外の軸について移動量や移動速度は小さく、そのような軸については駆動方向の反転を伴なっている場合においてオーバーラップ動作を行わせても、その軸を駆動するモータへのトルク指令値が制限値を超えるようなことは起こらない。そこで本実施形態では、同一の軸における駆動方向の反転が含まれる場合であって第1移動動作と第2移動動作の少なくとも一方がアームの伸縮を含むときには、第1移動動作の終了前に第2移動動作の実行を開始するオーバーラップ動作を行い、それにより、オーバーラップ動作が行われない場合に比べてタクトタイムを短縮する。
【0024】
図3は、本実施形態の産業用ロボットにおける制御方法を示すフローチャートであって、第1移動指令とそれに引き続く第2移動指令とが制御装置40に入力したときに、制御部41が各軸のモータを駆動制御する処理手順を示している。まず、ステップ101において、制御部41は、第1移動動作と第2移動動作との間に同一の軸における駆動方向の反転が含まれるかどうかを判定する。例えば第1移動動作がZ軸の駆動によるアーム支持部26の下降とレール21に沿ったX軸方向への移動とを同時に行う動作であり、第2移動動作がアームを伸ばしながらアーム支持部26をわずかに上昇させることによりハンド13Aをカセットに進入させながらわずかに持ち上げる動作であるときは、アーム支持部26すなわちZ軸の駆動方向の反転が伴っている。ステップ101において同一の軸における駆動の反転を伴なわないと判定した場合には、制御部41は、ステップ104に移行して、第1移動動作と第2移動動作とをオーバーラップさせて実行する。一方、ステップ101において同一の軸における駆動の反転を伴なうと判定した場合には、制御部41は、ステップ102において、第1移動動作と第2移動動作の少なくとも一方にアームの伸縮が含まれるかどうかを判定する。ここでアームの伸縮が第1移動動作と第2移動動作の少なくとも一方に含まれる場合には、制御部41は、ステップ104に移行して、第1移動動作と第2移動動作とをオーバーラップさせて実行する。これに対し、ステップ102において、アームの伸縮が第1移動動作と第2移動動作とのいずれにも含まれないと判定したときは、制御部41は、ステップ103において、第1移動動作と第2移動動作とをオーバーラップさせずに実行する、すなわち、第1移動動作を実行してそれが終了してから第2移動動作を実行する。
【0025】
以上説明した本実施形態の産業用ロボットによれば、同一の軸における駆動方向の反転が含まれる場合であって第1移動動作と第2移動動作の少なくとも一方がアームの伸縮を含むときには第1移動動作の終了前に第2移動動作の実行を開始するオーバーラップ動作を行い、それにより、タクトタイムを短縮することができる。具体例として、アーム支持部26の下降動作を伴なってハンド13Aを処理装置のカセットの前面に位置付ける第1移動動作と、アームを伸ばしてハンド13Aをカセット内に進入させつつハンド13Aをわずかに持ち上げる第2移動動作とを続けて実行するときに、第1移動動作と第2移動動作とをオーバーラップさせることにより、タクトタイムの短縮を図ることができる。同様に、昇降機構24を例えば時計回りに旋回させる旋回動作を伴なってハンド13Aを処理装置のカセットの前面に位置付ける第1移動動作と、アームを伸ばしてハンド13Aをカセット内に進入させつつ昇降機構を例えば反時計回りに数度以下の角度範囲で旋回させる第2移動動作とを続けて実行するときに、第1移動動作と第2移動動作とをオーバーラップさせることにより、タクトタイムの短縮を図ることができる。
【符号の説明】
【0026】
10…ロボット部;11A,11B…第1アーム;12A,12B…第2アーム;13A,13B…ハンド;21…レール;22…基台;23…回転台;24…昇降機構;24A…固定部;24B…移動部;25…カバー;26…アーム支持部;31…回転軸;32…共通軸;33A,33B…軸;34A,34B…手首軸;40…制御装置;41…制御部;42…駆動回路;50…ワーク。
図1
図2
図3