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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】面状発熱体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/14 20060101AFI20240703BHJP
   H05B 3/20 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
H05B3/14 F ZNM
H05B3/20 312
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020197569
(22)【出願日】2020-11-27
(65)【公開番号】P2022085740
(43)【公開日】2022-06-08
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000251060
【氏名又は名称】林テレンプ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】近藤 雄一
【審査官】河内 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-269914(JP,A)
【文献】特開2020-136153(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108235469(CN,A)
【文献】特表2010-517205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/00~3/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン樹脂からなる電気絶縁性フィルム基材と、
前記電気絶縁性フィルム基材上に設けられ、カーボン材料と樹脂を含む面状発熱層と、
前記面状発熱層に接続して配置された一対の電極層と、
前記面状発熱層を覆う電気絶縁性被覆層と、を有し、
前記面状発熱層の厚みが10~200μmの範囲にあり、
前記面状発熱層の樹脂がポリウレタン樹脂である、面状発熱体。
【請求項2】
前記面状発熱層の体積抵抗率が300~500μΩmの範囲にある、請求項1に記載の面状発熱体。
【請求項3】
前記面状発熱層は、前記カーボン材料としてカーボンナノ材料を含む、請求項1又は2に記載の面状発熱体。
【請求項4】
前記電極層の厚みが10~200μmの範囲にあり、
前記電気絶縁性被覆層の厚みが5~200μmの範囲にあり、
前記電気絶縁性フィルム基材の厚みが5~500μmの範囲にある、請求項1からのいずれか一項に記載の面状発熱体。
【請求項5】
前記面状発熱層の樹脂が、アイオノマー型の水性ポリウレタン樹脂である、請求項1から4のいずれか一項に記載の面状発熱体。
【請求項6】
前記電気絶縁性被覆層がポリウレタン樹脂からなる樹脂層である、請求項1から5のいずれか一項に記載の面状発熱体。
【請求項7】
前記面状発熱層に含まれるカーボン材料の体積比率(面状発熱層の構成材料に対する比率)が10~90%の範囲にあり、
前記面状発熱層に含まれる樹脂の体積比率(面状発熱層の構成材料に対する比率)が10~90%の範囲にある、請求項1から6のいずれか一項に記載の面状発熱体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の面状発熱体を製造する方法であって、
カーボン材料とともにポリウレタン樹脂が分散したカーボン分散液を、ポリウレタン樹脂からなる電気絶縁性フィルム基材上に塗布し乾燥して面状発熱層を形成することを特徴とする面状発熱体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面状発熱体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
面状発熱体は、薄く形成でき、また可撓性をもたせることができることから、様々な分野で使用され、各分野の用途に応じた構成が提案されている。例えば暖房用の熱源として使用され、可撓性が求められる用途では、布や樹脂からなる基材上に、発熱体と電極が形成され、被覆材で被覆された構成を有する面状発熱体が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、布基材と、布基材の少なくとも一面に形成された導電性エラストマ層と、導電性エラストマに対して配設された電極と、これらの表面に対して配設された絶縁層を有する面状発熱体が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、柔軟性基材と、柔軟性基材上に接合された柔軟性樹脂フィルムと、柔軟性樹脂フィルム上に導電性ペーストにより印刷形成された櫛形電極と、高分子抵抗体インクにより印刷形成された高分子抵抗体と、これらを被覆する柔軟性被覆材を有し、さらに柔軟性基材の一面または両面に、応力に対する伸び規制部として配設された織布を有する面状発熱体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭63-236283号公報
【文献】特開2007-179776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、布基材および導電性エラストマ層がいずれも厚いため、薄型化、柔軟性、重量の点で課題がある。
また、特許文献2では、製造時の印刷工程の強度を確保するため伸び規制部として不織布を設けているため、その分だけ厚くなる。また、櫛形電極が使用され、発熱面の領域にも電極(枝電極)が設けられているため、柔軟性が低下する。
本発明の目的は、薄く、柔軟性に優れた面状発熱体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)ポリウレタン樹脂からなる電気絶縁性フィルム基材と、
前記電気絶縁性フィルム基材上に設けられ、カーボン材料と樹脂を含む面状発熱層と、
前記面状発熱層に接続して配置された一対の電極層と、
前記面状発熱層を覆う電気絶縁性被覆層と、を有する面状発熱体。
(2)前記面状発熱層の厚みが10~100μmの範囲にある、(1)に記載の面状発熱体。
(3)前記面状発熱層の体積抵抗率が300~500μΩmの範囲にある、(1)又は(2)に記載の面状発熱体。
(4)前記面状発熱層の樹脂がポリウレタン樹脂である、(1)から(3)のいずれかに記載の面状発熱体。
(5)前記面状発熱層は、前記カーボン材料としてカーボンナノ材料を含む、(1)から(4)のいずれかに記載の面状発熱体。
(6)前記電極層の厚みが10~200μmの範囲にあり、
前記電気絶縁性被覆層の厚みが5~200μmの範囲にあり、
前記電気絶縁性フィルム基材の厚みが5~500μmの範囲にある、(1)から(5)のいずれかに記載の面状発熱体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、薄く、柔軟性に優れた面状発熱体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態による面状発熱体の断面図である。
図2】本発明の実施形態による面状発熱体の平面図である。
図3】本発明の実施例の面状発熱体の発熱挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
まず、本実施形態による面状発熱体の基本構造を図1の断面図および図2の平面図を用いて説明する。図1は、図2のA-A線に沿った断面図である。
図1において、符号1は電気絶縁性フィルム基材、符号2は電極層、符号3は面状発熱層、符号4は電気絶縁性被覆層を示す。なお、図2においては下層側の部材の位置が分かるように、電気絶縁性被覆層4の下の面状発熱層3が見えるように、また面状発熱層3の下の電極層2が見えるように描いている。
【0011】
図1及び図2に示すように、電気絶縁性フィルム基材1上に、一対のライン状の電極層2が所定の間隔(W)で平行配置されている。これらの電極層2の上面を覆うように電気絶縁性基材1上に面状発熱層3が配置されている。面状発熱層3を覆うように電気絶縁性基材1上に電気絶縁性被覆層4が配置されている。一対の電極層2に給電することで、一対の電極層2の間の面状発熱層に電流が流れ、発熱する。面状発熱層3における2つの電極層2の間の部分が発熱領域となり、2つの電極層2の間の長さWと、電極層2が形成された部分の長さLが、発熱領域の縦と横の長さに相当する。
本例では、電極層2の上面を覆うように面状発熱層3が配置され、面状発熱層3の下面と電極層2の上面とが接続しているが、面状発熱層3上に電極層2を設けて、面状発熱層3の上面と電極層2の下面を接続させてもよい。
【0012】
本発明の実施形態における電気絶縁性フィルム基材は、フィルム状あるいはシート状に成形された樹脂からなる。電気絶縁性基材に用いられる樹脂としては、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂が挙げられる。柔軟性(例えば伸び率)及び耐溶剤性の点から、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂が好ましい。柔軟性(例えば伸び率)及び耐溶剤性、さらに耐薬品性(耐酸、耐アルカリ)の点から、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン樹脂が好ましい。これらの中でも、面状発熱層との接着性(付着性)、また製造時において面状発熱層形成用の塗料(例えばカーボン分散液)に対する濡れ性の点から、ポリウレタン樹脂が特に好ましい。また、ポリウレタン樹脂は、ソフトセグメントとハードセグメントから構成されるリニヤー型の熱可塑性ポリマーであり、結合単位であるウレタン基同士の強固な水素結合により強く凝集したハードセグメントと、フレキシブルなソフトセグメント(ポリオール鎖)のバランスにより、柔軟性と強靭さ、弾性を兼ね備えるため、柔軟性と強靭さに優れる電気絶縁性フィルム基材を形成できる。
【0013】
本発明の実施形態における電気絶縁性フィルム基材の厚みは、5~500μmの範囲に設定することができ、基材としての強度の点から5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましく、薄型化や柔軟性の点から500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましく、200μm以下がさらに好ましい。
【0014】
本発明の実施形態における電気絶縁性被覆層は、面状発熱層を被覆して(面状発熱層上に電極層がある場合は電極層と面状発熱層を被覆して)、電気絶縁性が確保できれば、特に制限されないが、面状発熱層およびフィルム基材との接着性(付着性)や被覆のしやすさの点から、塗布により形成できる樹脂層が好ましい。電気絶縁性被覆層を形成する材料としては、種々の樹脂コーティング材(絶縁塗料)を用いることができる。あるいは、上述の電気絶縁性フィルム基材を電気絶縁性被覆層として用いることもできる。この場合、下層側のフィルム基材と上層側のフィルム基材(電気絶縁性被覆層)の外周縁を融着封止することで互いに接着することができる。
電気絶縁性被覆層を構成する樹脂としては、電気絶縁性基材を構成する前述の樹脂を挙げることができ、柔軟性(例えば伸び率)、面状発熱層との接着性(付着性)、コーティング材に対する濡れ性、耐溶剤性、耐薬品性(耐酸、耐アルカリ)の点から、ポリウレタン樹脂が特に好ましい。例えば、ポリウレタン樹脂からなる電気絶縁性被覆層は、ウレタン系ポリマーコート剤を用いて形成することができる。
【0015】
本発明の実施形態における電気絶縁性被覆層の厚みは、5~200μmの範囲に設定でき、被覆層の強度や段差被覆性の点から5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、20μm以上がさらに好ましく、薄型化や柔軟性の点から200μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましい。
【0016】
本発明の実施形態における電極層は、導電性テープ(例えば導電性粘着テープ)や、銀ペースト等の導電性ペーストを用いて形成することができる。電極層の厚みは、10~200μmの範囲に設定でき、十分な導電性および強度の店から10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、薄型化や柔軟性、電極層による段差の被覆のしやすさの点から200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。
【0017】
本発明の実施形態における面状発熱層は、カーボン材料と樹脂を含む導電膜である。この面状発熱層は、マトリクスとしての樹脂中に導電性材料としてのカーボン材料が均一に分散して存在している。そのため、面状発熱層中のカーボン材料は、必要最小量の含有量で、面状発熱層の均一な温度分布の発熱を可能にする。また、面状発熱層は、カーボン材料が分散状態であり、マトリクスが樹脂であるため、柔軟性に優れる。また、面状発熱層は樹脂を含むため、樹脂からなる電気絶縁性フィルム基材との親和性が高く、フィルム基材に対する接着性(付着性)に優れるため、剥がれにくく、耐久性に優れた面状発熱体を得ることができる。
【0018】
本発明の実施形態における面状発熱層の厚みは、10~200μmの範囲に設定でき、十分な強度や発熱を得る点から10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、薄型化や柔軟性、消費電力の点から200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、80μm以下がさらに好ましい。
【0019】
本発明の実施形態における面状発熱層の体積抵抗率は、300~500μΩmの範囲に設定できる。面状発熱層が、このような体積抵抗率を有していれば、例えば30V以下の比較的低電圧の印加により、十分な発熱量を得ることができ、例えば12V/24V車両の電源や太陽電池などの低電圧電源を使用可能である。面状発熱層に印加する電圧は、面状発熱体の電極間距離に応じて、例えば1~30Vの範囲に設定でき、又は3~30Vの範囲に設定できる。
【0020】
本発明の実施形態における面状発熱層に含まれるカーボン材料としては、カーボンナノチューブ、グラフェンプレートレット、カーボンナノファイバー等のカーボンナノ材料、黒鉛、カーボンブラックが挙げられ、これらの2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのカーボン材料の中でも、カーボンナノ材料が好ましく、カーボンナノチューブ及びグラフェンプレートレットからなる群から選ばれる少なくとも一種のカーボン材料が好ましい。例えば、グラフェンプレートレットを主材とするカーボン材料、カーボンナノチューブを主材とするカーボン材料、グラフェンプレートレットを主材として含み、さらにカーボンナノチューブを含むカーボン材料を用いることができる。特に、グラフェンプレートレットを主材として含むカーボン材料は、カーボン材料中のグラフェンプレートレットの比率が60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、一方、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、他のカーボン材料(好ましくはカーボンナノチューブ)の比率が40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、一方、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。カーボンナノチューブを主材とするカーボン材料は、カーボン材料中のカーボンナノチューブの比率が60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。
【0021】
カーボンナノチューブ(CNT)としては、単層カーボンナノチューブ(SWNT)、多層カーボンナノチューブ(MWNT)があり、MWNTには、例えば2層、さらに3層、4層のものがある。CNTは、直径0.5~500nmのものがあり、好ましくは直径3~100nm、より好ましくは直径5~25nmのものを用いることができる。CNTは、数mmの長さのものがあるが、例えば500μm以下、あるいは100μm以下のものを用いることができ、アスペクト比(直径に対する長さの比)が5以上のものを用いることができ、好ましくは50以上、より好ましく100以上のものを用いることができる。
【0022】
グラフェンプレートレットとしては、単層のグラフェン、単層のグラフェンがスタックした多層のグラフェンがあり、これらの両方を含んでいてもよい。グラフェンプレートレットは、グラフェンの層数が1~100層のものを用いることができ、10~90層が好ましく、20~60層がより好ましい。
グラフェンプレートレットのサイズとしては、厚み(グラフェン平面に垂直方向の長さ)が100nm以下のものを用いることができ、10nm以下が好ましく、1nm以下がより好ましく、グラフェン平面方向の長さ(幅)は1μm以上が好ましく、20μm以下が好ましい。
【0023】
本発明の実施形態における面状発熱層に含まれる樹脂としては、マトリクス樹脂として機能し、カーボン材料を層内に分散状態で保持できるバインダー樹脂として機能するものを用いることができる。また、使用する電気絶縁性フィルム基材を構成する樹脂と親和性がある樹脂が好ましく、同種の樹脂であることが好ましい。
本発明の実施形態における面状発熱層に含まれる樹脂としては、前述の電気絶縁性フィルム基材を構成する樹脂と同様な樹脂を挙げることができる。すなわち、本発明の実施形態における面状発熱層に含まれる樹脂としては、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂が挙げられる。柔軟性(例えば伸び率)及び耐溶剤性の点から、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂が好ましい。柔軟性(例えば伸び率)及び耐溶剤性、さらに耐薬品性(耐酸、耐アルカリ)の点から、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン樹脂が好ましい。これらの中でも、電気絶縁性フィルム基材との接着性(付着性)、また製造時において面状発熱層形成用の塗料(例えばカーボン分散液)の塗布性の点から、ポリウレタン樹脂が特に好ましい。また、前述の通り、ポリウレタン樹脂は、ソフトセグメントとハードセグメントから構成されるリニヤー型の熱可塑性ポリマーであり、結合単位であるウレタン基同士の強固な水素結合により強く凝集したハードセグメントと、フレキシブルなソフトセグメント(ポリオール鎖)のバランスにより、柔軟性と強靭さ、弾性を兼ね備えるため、柔軟性と強靭性に優れた面状発熱層を得ることができる。
【0024】
本発明の実施形態における面状発熱層に含まれるカーボン材料の体積比率(面状発熱層の構成材料に対する比率)は、10~90%の範囲に設定することができ、30~90%の範囲が好ましく、50~80%の範囲がより好ましい。カーボン材料の比率が少なすぎると、体積抵抗率のばらつきが大きくなり、均一な発熱領域を得ること困難になる。逆にカーボン材料の比率が多すぎると、面状発熱層の機械特性(特に柔軟性)および耐久性が低下する。
また、面状発熱層に含まれる樹脂の体積比率(面状発熱層の構成材料に対する比率)は、10~90%の範囲に設定することができ、10~70%の範囲が好ましく、20~50%の範囲がより好ましい。樹脂の体積比率が少なすぎると、面状発熱層の機械特性(特に柔軟性)、耐久性、付着性が低下し、逆に多すぎると、体積抵抗率のばらつきが大きくなり、均一な発熱領域を得ること困難になる。
樹脂に対するカーボン材料の体積比率は、樹脂100部に対してカーボン材料10~900部の範囲に設定でき、樹脂100部に対してカーボン材料40~900部が好ましく、樹脂100部に対してカーボン材料100~400部がより好ましい。カーボン材料の比率が少なすぎると、体積抵抗率のばらつきが大きくなり、均一な発熱領域を得ること困難になる。逆にカーボン材料の比率が多すぎると、樹脂の比率が少なくなり、面状発熱層の機械特性(特に柔軟性)、耐久性、付着性が低下する。
【0025】
本発明の実施形態における面状発熱層は、所望の効果が得られる範囲内で、導電性材料としてカーボン材料以外の他の導電性材料を含んでいてもよい。カーボン材料以外の他の材料として、銀、アルミニウム、ニッケル等の金属からなる金属微粒子を用いることができる。発熱効率、重量、分散性等の点から、導電性材料中のカーボン材料の比率が多いほど好ましく、カーボン材料以外の他の導電性材料の比率は、カーボン材料を含む導電性材料の全体に対して10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、導電性材料の全部がカーボン材料であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明の実施形態における面状発熱層は、カーボン材料の分散液を用いて形成された塗膜であることが好ましい。この塗膜は、カーボン材料および樹脂を含むカーボン分散液を、電気絶縁性フィルム基材上に塗布し、乾燥することにより形成することができる。塗膜の厚みは、前述の面状発熱層の厚みの範囲に設定することができ、塗布目付(乾燥後)は、10~150g/mの範囲に設定でき、十分な厚みと発熱を得る点から10g/m以上が好ましく、20g/m以上がより好ましく、25g/m以上がさらに好ましく、薄型化や柔軟性の点から150g/m以下が好ましく、120以下がより好ましく、100g/m以下がさらに好ましい。
【0027】
カーボン分散液の塗布は、ロールコート法、ディッピング法、スピンコート法、スプレー法などの一般的なコーティング方法で行うことができ、また、スクリーン印刷法やインクジェット印刷法等の印刷法で行うこともできる。カーボン分散液の粘度、カーボン材料の含有率、分散媒の種類などに応じて塗布方法を選択することができる。スクリーン印刷法等の印刷法に比べて、塗布法は、基材の強度が求められないため、薄い電気絶縁性フィルム基材を用いることができ、面状発熱体を薄型化する点で有利である。特に、ドクターブレードを用いたロールコート法は均一な薄膜を形成できる点で好ましい。
【0028】
本発明の実施形態における面状発熱層の形成に用いるカーボン分散液は、カーボン材料、樹脂、分散媒を含み、必要に応じて、カーボン材料以外の導電性材料や、種々の添加剤を含有していてもよい。
【0029】
カーボン分散液に含まれる樹脂としては、面状発熱層を構成する前述の樹脂が挙げられ、樹脂を分散媒に分散させてもよいし、分散媒に溶解させてもよい。カーボン分散液の低粘度化の点から、樹脂を分散させることが好ましい。樹脂を分散状態で含有しているカーボン分散液は、粘度が低いため、塗布法に好適であり、均一な薄膜を形成することができる。
カーボン分散液に含まれる樹脂としては、ポリウレタン樹脂が好ましいが、特に水性ポリウレタン樹脂がより好ましい。水性ポリウレタン樹脂は水に分散できるため、カーボン材料とともに樹脂が水系媒体(水又は水を主成分とした液体)に分散したカーボン分散液を得ることができる。水性ポリウレタンは、ポリマー骨格に親水基が導入された自己乳化型(アイオノマー型)を用いることができる。
【0030】
カーボン分散液に含まれるカーボン材料以外の導電性材料としては、面状発熱層に用いてもよい前述の導電性材料が挙げられる。カーボン分散液に含まれるその他の添加剤としては、分散剤、浸透剤、安定化剤、粘度調整剤(増粘剤)、架橋剤などの一般的な分散液に使用される補助剤が挙げられる。
【0031】
カーボン分散液中のカーボン材料および樹脂を含む固形分の濃度は、10~65質量%の範囲に設定することができ、30~60質量%の範囲が好ましく、40~60質量%の範囲がより好ましい。固形分の濃度が低すぎると、均一な厚み及び分散状態の塗膜の形成が困難になったり、塗工時の分散媒の除去に時間やエネルギーが多く必要になったりする。逆に、固形分の濃度が高すぎると、粘度が高くなり塗布が困難になったり、均一な厚み及び分散状態の塗膜の形成が困難になったりする。カーボン分散液の粘度は、0.1~100Pa・sの範囲に設定でき、1~50Pa・sの範囲が好ましく、1~10Pa・sの範囲がより好ましい。
【0032】
本発明の実施形態による面状発熱体の製造は、例えば以下のように実施することができる。
まず、電気絶縁性フィルム基材上に、一対のライン状の電極層を互いに平行に配置して取り付ける。次に、電気絶縁性フィルム基材上に、電極層を覆うようにカーボン分散液を塗布し、続いて分散液を乾燥する。乾燥は自然乾燥でもよいし、加熱による強制乾燥を行ってもよい。乾燥後の塗膜が面状発熱層となる。次に、この面状発熱層を覆うように、樹脂コーティング材を塗布し乾燥して電気絶縁性被覆層を形成する。電気絶縁性被覆層は、樹脂コーティング材の塗布に代えて、電気絶縁性フィルム又はシートをラミネートし、その外周縁を熱融着して封止してもよい。また、電極層は、面状発熱層を形成した後に、該面状発熱層上に形成してもよい。
【0033】
以上に説明した本発明の実施形態による面状発熱体は、面状発熱層の厚み、電極層の長さ、電極間の距離に応じて、電極間の抵抗値を調整することができ、発熱を制御することができる。面状発熱体の発熱の制御は、適用対象や使用目的に応じて適宜設定できるが、例えば自動車内装用ヒーターとしてのシートヒーターに適用する場合、電極間の距離は例えば50~500mmの範囲に設定でき、100~500mmの範囲が好ましく、150~500mmの範囲がより好ましく、電極長さ(面状発熱層上における長さ)は50~1000mmの範囲に設定でき、100~1000mmの範囲が好ましく、150~1000mmの範囲がより好ましい。
【0034】
以上の構成を有する本実施形態による面状発熱体の厚みは、例えば50~1200μmの範囲に設定でき、十分な強度や耐久性を確保する点から、50μm以上が好ましく、80μm以上がより好ましく、100μm以上がさらに好ましい。一方、薄さや柔軟性の観点から、面状発熱体の厚みは、1200μm以下が好ましく、1000μm以下がより好ましく、500μm以下がさらに好ましく、200μm以下であっても良好な面状発熱体を提供できる。
【0035】
本発明の実施形態による面状発熱体は、薄く、柔軟性に優れるため、人の体に接触するヒーターに好適であり、例えば、車載用座席ヒーターやステアリングヒーター等の自動車内装用ヒーターに利用できる。本発明の他の実施形態によれば、面状発熱体を備えた車載用座席ヒーターを提供することができる。
本発明の実施形態による面状発熱体は、柔軟性に優れるため使用感に優れ、繰り返し屈曲しても劣化しにくく耐久性に優れる。また、広範囲を温める場合は、金属線を用いたヒーターに対して、均一な発熱が可能であり、省電力であり、断線による不具合も防ぐことができる。このような面状発熱体を備えた車載用座席ヒーターは、使用感および耐久性に優れ、省電力であり、信頼性にも優れる。
【実施例
【0036】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
図1及び図2に示す構造を有する面状発熱体を作製し、以下の評価を行った。
面状発熱体の作製は次のように行った。
まず、ポリウレタン樹脂からなる絶縁性フィルム基材1上に、導電性ペーストで一対のライン状の電極層2を形成した。導電性ペーストとしては、比較的低温で硬化するタイプの銀ペースト(藤倉化成(株)製、製品名:ドータイトFA-333)を用い、熱処理は120℃で行い、絶縁性基材フィルムを軟化、変形させることなく、電極層を形成した。
【0038】
次いで電極層2を覆うようにカーボン材料の分散液を塗布し、乾燥して面状発熱層3を形成した。カーボン材料の分散液としては、カーボン材料としてカーボンナノ材料、樹脂として水性ポリウレタン樹脂、分散媒として水を含む分散液を使用した。
次に、面状発熱層3上にウレタン系ポリマーコート剤を塗布し、乾燥して電気絶縁性被覆層4を形成した。
【0039】
得られた面状発熱体のサイズは以下の通りとした。
電気絶縁性フィルム基材の厚み:100μm
面状発熱層の厚み:50μm
発熱領域の縦の長さ(面状発熱層上の電極間の長さW):100mm
発熱領域の横の長さ(面状発熱層上の電極形成部分の長さL):100mm
電気絶縁性被覆層の厚み:20μm
【0040】
得られた面状発熱体について、次のようにして評価を行った。
(発熱性能と消費電力)
車載用座席のシート表皮の下に、面状発熱体をシートヒーターとして装着し、金属線をシートヒーターとして装着した場合と比較した。
シートヒーターの電源を入れてから3分後にシート表皮表面の温度を測定したところ、いずれの場合も31℃になった。本実施例の面状発熱体は、金属線をシートヒーターとして装着した場合と同等以上の発熱性能を有することが分かる。その後に、シートヒーターの電源を切り、5分後のシート表面の温度を測定したところ、金属線を装着した場合は28℃まで低下したが、本実施例の面状発熱体の場合は30℃であった。本実施例の面状発熱体は保温性に優れることが分かる。また、本実施例の面状発熱体を装着した場合の消費電力は、金属線を装着した場合に対して25%低減できた。
【0041】
(発熱挙動)
作製した面状発熱体の上に表皮をセットし、5時間通電し、表皮表面の温度を測定した。通電時間と表皮上面の温度の関係を図3に示す。この図から、表面温度が安定するため、温度制御部品の削減が可能であることが分かる。
【0042】
(耐久性の評価)
作製した面状発熱体について以下の耐久性試験を行ったが、いずれの場合も著しい外観変化は無かった。
<低温折り曲げ試験>
サンプルとして作製した面状発熱体(100×100mm)を準備し、-30℃雰囲気下で、長さ100mm、φ12の円柱をサンプルの中央部に置き、円柱に沿ってサンプルの一方の辺をもう一方の辺へ180°重ねるように折り曲げたのち、元の状態にもどす。これを100回繰り返し、面状発熱体の亀裂、変形の有無を確認した。
<耐熱性試験>
作製した面状発熱体を恒温槽に入れ、80℃で400時間保持した後、外観を確認した。
<耐溶剤性および耐薬品性の評価>
ASTM D543に基づいて、使用する材料の耐溶剤性および耐薬品性を評価することができる。
【0043】
(面状発熱層の評価)
形成した塗膜(面状発熱層)について、以下の平面摩耗性試験(耐摩耗性試験)及び塗膜の付着性試験(碁盤目試験)を行ったところ、耐摩耗性および付着性に優れていることが分かった。
<平面摩耗性試験>
JIS K5701-1に示す学振形摩擦試験機にて面状発熱体を10000回摺動し、耐摩擦性試験を行い、表面の摩耗度合いを確認した。
<塗膜の付着性試験>
JIS K5600-5-6に従って碁盤目試験を行い、塗膜の付着性を評価した。
【0044】
(実施例2)
ウレタン系ポリマーコート剤に代えて、塩化ビニル樹脂(PVC)系コート剤を用いて電気絶縁性被覆層を形成した以外は、実施例1と同様にして面状発熱体を作製した。実施例1と同様に評価を行ったところ、耐熱性が実施例1に対して劣っていたが他の評価結果は良好であった。
なお、塩化ビニル樹脂(PVC)の耐溶剤性がポリウレタン樹脂より劣るため、得られた面状発熱体の耐溶剤性も実施例1に対して劣るといえる。
【0045】
(実施例3)
ウレタン系ポリマーコート剤に代えて、ポリエチレン(PE)系コート剤を用いて電気絶縁性被覆層を形成した以外は、実施例1と同様にして面状発熱体を作製した。実施例1と同様に評価を行ったところ、耐熱性が実施例1に対して劣っていたが他の評価結果は良好であった。
【0046】
(比較例1)
ポリウレタン樹脂からなる絶縁性フィルム基材に代えて、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂からなる絶縁性フィルム基材を用いた以外は、実施例1と同様にして面状発熱体を作製した。実施例と同様に評価を行ったところ、塗膜の付着性試験が実施例1に対して劣っていた。
また、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂の耐溶剤性と耐薬品性(アルカリ)がポリウレタン樹脂より劣るため、得られた面状発熱体の耐溶剤性と耐薬品性(アルカリ)も実施例1に対して劣るといえる。
【0047】
(比較例2)
ポリウレタン樹脂からなる絶縁性フィルム基材に代えて、塩化ビニル樹脂(PVC)からなる絶縁性フィルム基材を用いた以外は、実施例1と同様にして面状発熱体を作製した。実施例1と同様に評価を行ったところ、塗膜の付着性試験と耐熱性試験が実施例1に対して劣っていた。
また、塩化ビニル樹脂(PVC)の耐溶剤性がポリウレタン樹脂より劣るため、得られた面状発熱体の耐溶剤性も実施例1に対して劣るといえる。
【符号の説明】
【0048】
1 電気絶縁性フィルム基材
2 電極層
3 面状発熱層
4 電気絶縁性被覆層
図1
図2
図3