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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】鋼管矢板の継手構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/08 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
E02D5/08
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021017589
(22)【出願日】2021-02-05
(65)【公開番号】P2022120599
(43)【公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100172096
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 理太
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】田中 智宏
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】池野 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】宇野 州彦
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/032485(WO,A1)
【文献】特開昭50-139515(JP,A)
【文献】特開2004-197399(JP,A)
【文献】特開2004-052306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/00- 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ隣り合う鋼管矢板の外周に支持された一対の継手部材を備え、該両継手部材が互いに係合されるようにした鋼管矢板の継手構造において、
前記継手部材の一方は、前記鋼管矢板の外周に固定された支持部と、該支持部に支持された係合部とを備え、
前記支持部は、前記鋼管矢板の外周に固定された固定支持片と、該固定支持片と互いに鋼管矢板の接線方向で移動可能な可動支持片と、前記固定支持片と前記可動支持片との間に介在された弾性及び可撓性を有する連結部材とを備え、前記固定支持片と前記可動支持片とが前記連結部材を介して連結され、前記可動支持片に前記係合部が支持されていることを特徴としてなる鋼管矢板の継手構造。
【請求項2】
前記固定支持片と前記可動支持片とが互いに対向する平板状に形成され、前記固定支持片と前記可動支持片に板状の連結部材が挟持されている請求項1に記載の鋼管矢板の継手構造。
【請求項3】
前記固定支持片と前記可動支持片とが互いに鋼管矢板の接線方向に突き合わされ、前記固定支持片と前記可動支持片とに跨って平板状の連結部材が重ね合わされ、該連結部材の端部がそれぞれ前記固定支持片と前記可動支持片に固定され、前記固定支持片と前記可動支持片とが前記連結部材を介して連結されている請求項1に記載の鋼管矢板の継手構造。
【請求項4】
前記固定支持片と前記可動支持片とが互いに鋼管矢板の接線方向に間隔をおいて配置され、前記固定支持片と前記可動支持片とに跨る連結部材の端部がそれぞれ前記固定支持片と前記可動支持片に固定され、前記固定支持片と前記可動支持片とが前記連結部材を介して連結されている請求項1に記載の鋼管矢板の継手構造。
【請求項5】
前記連結部材が撓んだ状態で配置されている請求項4に記載の鋼管矢板の継手構造。
【請求項6】
前記連結部材の端部をそれぞれ前記固定支持片と前記可動支持片に固定する押さえ部材と、端部が前記両押さえ部材に固定される保護部材とを備え、該保護部材の一端が前記押さえ部材に離脱可能に固定又は前記保護部材が離脱可能な請求項3~5の何れか一に記載の鋼管矢板の継手構造。
【請求項7】
前記支持部の下端部に下方に向けて狭まる楔状の先端沓を備えた請求項1~6の何れか一に記載の鋼管矢板の継手構造。
【請求項8】
前記連結部材は、ゴム製の本体部内に前記本体部よりも伸び率の小さい伸長抑制部材が配置されている請求項1~7の何れか一に記載の鋼管矢板の継手構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隣り合う鋼管矢板間を連結する鋼管矢板の継手構造に関する。
【背景技術】
【0002】
土留め壁や鋼管矢板井筒基礎等に用いられる連続鋼管矢板壁は、隣り合う鋼管矢板間が継手構造を介して連結されている。
【0003】
この種の鋼管矢板の継手構造は、それぞれ隣り合う鋼管矢板の外周に支持された一対の継手部材が互いに係合されるようになっており、所謂「L-T形」継手、「P-T形」継手及び「P-P形」継手の3種類が標準として広く用いられている。
【0004】
「L-T形」継手は、隣り合う一方の鋼管矢板の外周面に対向して固定された一対の山形鋼と、他方の鋼管矢板の外周面に支持されたT形鋼とを備え、一方の鋼管に支持された山形鋼間の隙間にT形鋼の固定支持片を挿し込み、固定支持片に支持された係合部と両山形鋼とを係合させるようになっている。
【0005】
「P-T形」継手は、隣り合う一方の鋼管矢板の外周面に固定された継手用鋼管と、他方の鋼管矢板の外周面に支持されたT形鋼とを備え、一方の鋼管に支持された継手用鋼管のスリットにT形鋼の固定支持片を挿し込み、固定支持片に支持された係合部と継手用鋼管とを係合させるようになっている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0006】
「P-P形」継手は、隣り合う両鋼管矢板の外周面にそれぞれ継手用鋼管が固定され、互いに継手用鋼管に形成されたスリットを通して両継手用鋼管を係合させるようになっている。
【0007】
一方、鋼管矢板の打設は、慎重な施工管理を行ったとしても、設計通りの理想的な平面の位置および地盤中に鉛直に打設することは容易でなく、各種管理基準によってある程度の偏心が許容されている。
【0008】
継手構造によって連結される鋼管矢板基礎の打設管理においては、一般に、鋼管矢板の傾斜に関する管理基準値は示されておらず、平面的に見た場合の偏心量が300mm以内と規定されている(例えば、非特許文献2を参照)。
【0009】
鋼管矢板の管理基準に比べて厳しい既製杭(鋼管杭やコンクリート杭)の打設に関する一般的な管理基準では、平面的に見た場合の偏心量が杭径の1/4且つ100mm以下、杭の傾斜が1/100以下と規定されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0010】
ここで、杭の傾斜について「1/100の傾斜」とは、長さ10mの杭の場合、杭の底部と頭部で最大100mmの打設誤差を許容することを意味しており、傾斜に伴う杭の偏心量は深さ方向に異なることもある。
【0011】
一方、この種の継手構造では、継手部材の寸法が標準化されており、例えば、「P-T形」継手の一例として図10に示すような寸法のものが知られている。
【0012】
よって、この種の標準化された継手構造を使用する場合では、鋼管矢板を打設する際、標準寸法に基づいて両継手部材が物理的に係合可能な許容偏心量に拘束されるようになっている。
【0013】
この物理的な許容偏心量について、図10に示す「P-T形」継手を例に具体的に説明する。図中の方向については、鋼管矢板壁を基準に接線方向をX方向、法線方向をY方向とする。
【0014】
図10に示す「P-T形」継手では、鋼管矢板が偏心を生じることなく理想的に打設された場合の継手間隔(鋼管矢板壁を構成する鋼管間の距離)については,標準では180mmとなっている。
【0015】
Y方向のみの物理的な許容偏心量は、継手用鋼管に形成されたスリットの幅とT形鋼の固定支持片の板厚によって決まり、図10に示す「P-T形」継手では、スリット幅が標準で30mmであるので、正負方向にそれぞれ約15mmとなっている。
【0016】
一方、X方向のみの物理的な許容偏心量は、固定支持片のX方向幅、固定支持片に支持された係合部の板厚及びY方向幅によって決まり、図10に示す「P-T形」継手では、鋼管矢板間距離が広がる方向(以下、伸び方向)に約30mm、鋼管矢板間距離が縮む方向(以下、縮み方向)に約16mmとなっている。
【0017】
よって、両継手部材が物理的に係合可能なX方向のみの許容偏心量は、伸び方向、縮み方向合わせて約46mm(30mm+16mm)となり、これは、既製杭の施工管理基準で許容される打設誤差の100mmを下回る許容偏心量となっている。
【0018】
また、両鋼管矢板が物理的に係合可能な許容偏心角度は、正負方向にそれぞれ約15°となっている。
【0019】
尚、所謂ハット形の鋼矢板では、鋼矢板を半割にした形状の矢板部材を折り畳んだ状態のゴム製のジョイント部材を介して連結させ、両矢板部材間の伸縮・撓み変形を許容したものも知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【文献】特開2008-184867号公報
【非特許文献】
【0021】
【文献】鋼管杭・鋼管矢板の附属品の標準化(改訂第10版),一般社団法人 鋼管杭・鋼管矢板技術協会,2018年5月
【文献】土木工事施工管理基準及び規格値(案),国土交通省,平成30年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
しかしながら、上述のように、鋼管矢板の打設は、両継手部材が物理的に係合可能なX方向の許容偏心量(図10に示す実施例では約46mm)に制限されるので、非特許文献1に記載の既製杭の傾斜に関する施工管理基準値1/100に基づいて46mm(=30mm+16mm)の杭偏心量を許容できる杭の長さを求めると4.6mとなる。
【0023】
即ち、上述のような従来技術では、鋼管矢板の長さが4.6m以上の場合、既製杭の施工管理基準で許容される杭の偏心(100mm以下)や鋼管矢板基礎の施工管理基準で許容される杭の偏心(300mm以下)であっても、46mm以上の杭の偏心が生じると、両継手部材を係合させることが困難となり、継手が離脱するおそれがある。
【0024】
よって、従来の技術では、施工管理基準値を下回る杭の偏心量にしか対応できず、要求される杭打設の施工精度はより厳しくなるという問題があり、鋼管矢板が長くなるほどその問題が顕著となる。
【0025】
また、特許文献2の如き従来の技術では、ジョイント部材の厚みがあるため打設時に地盤から受ける抵抗が大きく、打設が容易でないという問題があった。さらに、地中貫入時にジョイント部材が破損し易いという問題があった。
【0026】
そこで、本発明は、このような従来の問題に鑑み、鋼管矢板の打設時に鋼管矢板の施工管理基準内の偏心が生じた場合でも確実に継手の係合状態を維持することができる鋼管矢板の継手構造の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上述の如き従来の問題を解決するための請求項1に記載の発明の特徴は、それぞれ隣り合う鋼管矢板の外周に支持された一対の継手部材を備え、該両継手部材が互いに係合されるようにした鋼管矢板の継手構造において、前記継手部材の一方は、前記鋼管矢板の外周に固定された支持部と、該支持部に支持された係合部とを備え、前記支持部は、前記鋼管矢板の外周に固定された固定支持片と、該固定支持片と互いに鋼管矢板の接線方向で移動可能な可動支持片と、前記固定支持片と前記可動支持片との間に介在された弾性及び可撓性を有する連結部材とを備え、前記固定支持片と前記可動支持片とが前記連結部材を介して連結され、前記可動支持片に前記係合部が支持されていることにある。
【0028】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記固定支持片と前記可動支持片とが互いに対向する平板状に形成され、前記固定支持片と前記可動支持片に板状の連結部材が挟持されていることにある。
【0029】
請求項3に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記固定支持片と前記可動支持片とが互いに鋼管矢板の接線方向に突き合わされ、前記固定支持片と前記可動支持片とに跨って平板状の連結部材が重ね合わされ、該連結部材の端部がそれぞれ前記固定支持片と前記可動支持片に固定され、前記固定支持片と前記可動支持片とが前記連結部材を介して連結されていることにある。
【0030】
請求項4に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記固定支持片と前記可動支持片とが互いに鋼管矢板の接線方向に間隔をおいて配置され、前記固定支持片と前記可動支持片とに跨る連結部材の端部がそれぞれ前記固定支持片と前記可動支持片に固定され、前記固定支持片と前記可動支持片とが前記連結部材を介して連結されていることにある。
【0031】
請求項5に記載の発明の特徴は、請求項4の構成に加え、前記連結部材が撓んだ状態で配置されていることにある。
【0032】
請求項6に記載の発明の特徴は、請求項3~5の何れか一の構成に加え、前記連結部材の端部をそれぞれ前記固定支持片と前記可動支持片に固定する押さえ部材と、端部が前記両押さえ部材に固定される保護部材とを備え、該保護部材の一端が前記押さえ部材に離脱可能に固定又は前記保護部材が離脱可能なことにある。
【0033】
請求項7に記載の発明の特徴は、請求項1~6の何れか一の構成に加え、前記支持部の下端部に下方に向けて狭まる楔状の先端沓を備えたことにある。
【0034】
請求項8に記載の発明の特徴は、請求項1~7の何れか一の構成に加え、前記連結部材は、ゴム製の本体部内に前記本体部よりも伸び率の小さい伸長抑制部材が配置されていることにある。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係る鋼管矢板の継手構造は、請求項1の構成を具備することによって、鋼管矢板の施工管理基準に則って鋼管矢板を打設した場合であっても、上下方向のいずれの場所においても継手部材間の物理的な係合状態を維持することができる。また、既設鋼管矢板が偏心している場合であっても、新設鋼管矢板を打設する際にその偏心を継手部で吸収することができ、鋼管矢板の偏心を修正することができる。
【0036】
また、本発明において、請求項2乃至5の構成を具備することによって、固定支持片と可動支持片とを安定した状態で連結でき、鋼管矢板の接線方向の距離が広くなる場合には連結部材を介して固定支持片と可動支持片とが好適に相対移動することができる。
【0037】
また、本発明において、請求項6の構成を具備することによって、通常時には、可動支持片を固定支持片に安定した状態で支持させることができ、偏心量が大きくなった場合には、一方の押さえ部材から保護部材が離脱し、固定支持片と可動支持片とが互いに相対移動可能な状態となる。
【0038】
さらに、本発明において、請求項7の構成を具備することによって、鋼管矢板を打設する際、地中貫入時の抵抗が小さくなり、可動支持片の損傷を防止するとともに、好適に両継手部材を連結することができる。
【0039】
さらに、本発明において、請求項8の構成を具備することによって、連結部材の過度な変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明に係る鋼管矢板の継手構造を使用した鋼管矢板連続壁を示す正面図である。
図2図1中の鋼管矢板の継手構造の一例を示す横断面図である。
図3】同上の継手部材を示す正面図である。
図4】同上の支持部の下端部を示す一部断面拡大斜視図である。
図5】同上の鋼管矢板が偏心した場合の継手の状態を示す断面図であって、(a)は偏心が小さい場合、(b)は同大きい場合である。
図6】(a)は本発明に係る鋼管矢板の継手構造の他の一例を示す断面図、(b)図6(a)中の継手部材を示す拡大断面図である。
図7】同上の鋼管矢板が偏心した場合の継手の状態を示す断面図であって、(a)は偏心が小さい場合、(b)は同大きい場合である。
図8】本発明に係る鋼管矢板の継手構造のさらに他の一例を示す断面図である。
図9】同上の鋼管矢板が偏心した場合の継手の状態を示す断面図であって、(a)は偏心が小さい場合、(b)は同大きい場合である。
図10】従来の鋼管矢板の継手構造を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
次に、本発明に係る鋼管矢板の継手構造の実施態様を図1図5に示した実施例に基づいて説明する。図中符号1は鋼管矢板連続壁、符号2は鋼管矢板連続壁を構成する鋼管矢板2である。尚、本実施例においては、所謂「P-T形」継手を例に説明する。
【0042】
鋼管矢板連続壁1は、縦向きに打設された複数の鋼管矢板2を備え、隣り合う鋼管矢板2,2間が継手構造3を介して連結されている。
【0043】
この継手構造3は、それぞれ隣り合う鋼管矢板2の外周に支持された雌雄一対の継手部材4,5を備え、両継手部材4,5が互いに係合されるようになっている。
【0044】
この雌雄一対の継手部材4,5は、連結される鋼管矢板2,2の端部にそれぞれ配置され、隣り合う一方の鋼管矢板2の継手部材4と、他方の鋼管矢板2の継手部材5とが係合するようになっている。
【0045】
継手部材4は、図2に示すように、継手用鋼管によって構成され(以下、継手用鋼管4という)、直径方向の一端が溶接等によって鋼管矢板2の外周面に固定され、他端側に縦向きのスリット6が形成されている。
【0046】
スリット6は、接線方向の幅が後述する他方の継手部材5の支持部7の厚みより広く形成され、支持部7が上下方向に挿通できるようになっている。
【0047】
継手部材5は、鋼管矢板2の外周に固定された支持部7と、支持部7に支持された係合部8とを備え、支持部7を継手用鋼管4のスリット6に挿し込み、係合部8を継手用鋼管4と係合させるようになっている。
【0048】
支持部7は、図2図3に示すように、鋼管矢板2の外周に固定された固定支持片9と、固定支持片9と互いに鋼管矢板2の接線方向で移動可能な可動支持片10と、固定支持片9と可動支持片10との間に介在された弾性及び可撓性を有する連結部材11とを備え、互いに対向する固定支持片9と可動支持片10とが連結部材11を介して重ねて連結され、係合部8が可動支持片10に支持されている。
【0049】
また、支持部7の下端部には、図3図4に示すように、下方に向けて狭まる楔状の先端沓12を備え、鋼管矢板2を打設する際の地中貫入時の抵抗が少ないようにしている。
【0050】
先端沓12は、鋼板等からなる一対の傾斜板13,13と、各傾斜板13,13の上端より上向きに延出し、それぞれ固定支持片9及び可動支持片10の表面に被せられる被せ板18,18とを備え、両傾斜板13,13が互いに下端側が近接して接合するよう傾斜して配置され楔状を成している。
【0051】
この先端沓12は、被せ板18が固定支持片9の表面に溶接等によって強固に固定され、支持部7の下端部に支持されている。
【0052】
一方、他方の被せ板18は、可動支持片10に対し固定されておらず、固定支持片9と可動支持片10とが接線方向にスライド移動できるようになっている。尚、被せ板18は、可動支持片10に一定の力が作用した際に外れるように溶接等によって仮固定しておいてもよい。
【0053】
固定支持片9は、鋼板等によって平板状に形成され、長手方向が上下に向けられ、接線方向(X方向)の一方の側縁部が鋼管矢板2の外周面に溶接で固定されている。
【0054】
この固定支持片9の支持部7の鋼管溶接側の所定の位置には、複数のスタッドボルト等の固定用棒材15,15…が上下に間隔をおいて突設されている。
【0055】
可動支持片10は、鋼板等によって平板状に形成され、長手方向が上下に向けられ、接線方向(X方向)の一方の側縁部に平板状の係合部8が一体に支持されている。
【0056】
この可動支持片10の係合部8側の所定の位置には、複数のスタッドボルト等の固定用棒材15,15…が上下に間隔をおいて突設されている。
【0057】
係合部8は、鋼板等によって平板状に形成され、背面側が可動支持片10の一方の側縁部に一体に支持され、可動支持片10と係合部8とによって平面視T字状を成している。
【0058】
この係合部8は、可動支持片10に対し中心より一方に固定支持片9及び連結部材11の厚み分だけ片寄せて配置され、支持部7の中心に対し線対称に配置されている。
【0059】
連結部材11は、図4に示すように、ゴム製の本体部11a,11a内に本体部よりも伸び率の小さい伸長抑制部材11bが配置された平板状に形成され、固定支持片9と可動支持片10との間に挟まれた状態で保持されている。
【0060】
尚、連結部材11は、伸長抑制部材11bを設けず、ゴム材等の弾性及び可撓性を有する材料によって一体形成されたものであってもよい。
【0061】
この連結部材11は、接線方向(X方向)の両端部に板厚方向に貫通した複数の貫通孔14,14…が高さ方向に間隔をおいて設けられ、それぞれ固定支持片9及び可動支持片10に突設された固定用棒材15,15…が貫通されている。
【0062】
また、連結部材11の端部表面には、固定支持片9、可動支持片10から突設された固定用棒材15、15…の位置に合わせて細板状の押さえ板16,16が被せられ、固定用棒材15,15…が押さえ板16,16を貫通し、その端部が押さえ板16の表面でナット17等によって定着されることにより、連結部材11の一方の端部が固定支持片9と押さえ板16,16との間に挟持され、他方の端部が可動支持片10と押さえ板16,16との間に挟持されている。
【0063】
このように構成された鋼管矢板2の継手構造3は、継手部材5の固定支持片9、連結部材11及び可動支持片10が重ね合わされてなる支持部7を継手用鋼管4に形成されたスリット6に挿し込み、支持部7に支持された係合部8が継手用鋼管の内側に挿し込み、この状態で鋼管矢板2を打設する。
【0064】
その際、連結部材11は、鋼板からなる固定支持片9及び可動支持片10に挟まれて保護されており、地盤からの抵抗を受けても破損し難くなっている。
【0065】
新設鋼管矢板2を打設する際、隣り合う鋼管矢板2の接線方向で鋼管矢板2が互いに離間する方向に偏心が生じると、偏心が小さい場合には、図5(a)に示すように、係合部8が継手用鋼管の内側に当接する位置まで偏心を許容することができる。
【0066】
一方、図5(a)に示す位置よりさらに偏心が大きくなると、図5(b)に示すように、連結部材11の弾性及び可撓性を利用して固定支持片9及び可動支持片10が互いに鋼管矢板の接線方法(X方向)にスライド移動し、偏心を許容することができる。
【0067】
また、鋼管矢板の法線方向(Y方向)及び回転方向の偏心に対しても連結部材11の弾性及び可撓性を利用して従来の継手構造3よりも大きな偏心に対応することができる。
【0068】
このように本継手構造3では、偏心が生じてもその偏心量に応じて継手部材5が連結部材11により伸長することができるので、確実に両継手部材4,5を物理的に係合させた状態を維持することができ、鋼管矢板2としての一体性を確保できる。また、必要に応じ両継手部材4,5を係合させた後、継手用鋼管4内にグラウト等の充填材を充填・固化させることによって安定して係合させ、止水することができる。
【0069】
次に、本発明に係る鋼管矢板の継手構造の他の実施態様について図6図7に基づいて説明する。尚、上述の実施例と同一の構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0070】
この継手構造は、それぞれ隣り合う鋼管矢板2,2の外周に支持された雌雄一対の継手部材4,20を備え、両継手部材4,20が互いに係合されるようになっている。
【0071】
この雌雄一対の継手部材4,20は、連結される鋼管矢板2,2の端部にそれぞれ配置され、隣り合う一方の鋼管矢板2の継手部材4と、他方の鋼管矢板2の継手部材20とが雌雄一対を成すようになっている。
【0072】
一方の継手部材4は、上述の実施例と同様に、継手用鋼管4によって構成され(以下、継手用鋼管4という)、直径方向の一端が溶接等によって鋼管矢板2,2の外周面に固定され、他端側に縦向きのスリット6が形成されている。
【0073】
スリット6は、接線方向の幅が後述する他方の継手部材20の支持部21の厚みより広く形成され、支持部21が上下方向に挿通できるようになっている。
【0074】
他方の継手部材20は、他方の鋼管矢板2の外周に固定された支持部21と、支持部21に支持された係合部22とを備え、支持部21を継手用鋼管4のスリット6に挿し込み、係合部22を継手用鋼管4と係合させるようになっている。
【0075】
支持部21は、図6に示すように、固定支持片23と可動支持片24とが互いに接線方向(X方向)に突き合わされ、固定支持片23と可動支持片24とに跨って平板状の連結部材25,25が固定支持片23と可動支持片24の両側部に重ね合わされている。
【0076】
固定支持片23及び可動支持片24は、鋼板等によって同じ厚さの平板状に形成され、固定支持片23の一方の側縁が鋼管矢板2の外周面に溶接によって固定され、他方の側縁に可動支持片24が突き合わされている。
【0077】
一方、可動支持片24の他方の側縁には、平板状の係合部22が一体に支持され、可動支持片24と係合部22とによって平面視T字状を成している。
【0078】
また、固定支持片23及び可動支持片24には、表裏両面の所定の位置に複数のスタッドボルト等の固定用棒材26,26…が上下に間隔をおいて突出している。
【0079】
連結部材25,25は、ゴム材等の弾性及び可撓性を有する材料によって平板状に形成され、固定支持片23と可動支持片24とに跨った状態で重ね合わされ、その接線方向(X方向)の一方の端部が押さえ部材27と固定支持片23とに挟持され、他方の端部が押さえ部材27と可動支持片24とに挟持されている。
【0080】
押さえ部材27,27は、固定支持片23又は可動支持片24に固定される固定部27aと、固定部27aに支持された押さえ部27bとを備え、固定部27aに固定用棒材26を貫通させ、ナット28を締め付けることによって、押さえ部27bが連結部材25,25の表面に押し付けられ、接線方向(X方向)の一方の端部が押さえ部材27,27と固定支持片23とに挟持され、他方の端部が押さえ部材27,27と可動支持片24とに挟持される。
【0081】
また、固定支持片23と可動支持片24とに接線方向(X方向)に間隔をおいて配置された押さえ部材27,27間には、板状の保護部材29,29が連結部材25を保護するようにその外側に架け渡され、保護部材29,29の端部が押さえ部材27,27に固定されている。
【0082】
また、この保護部材29,29は、互いに接線方向(X方向)に突き合わされ、突き合わされた端部が互いに仮溶接されて一枚の板状を成し、一定の力が加わると互いに離間できるようになっている。尚、保護部材29,29は、それぞれが一枚の板状部材で形成されている。
【0083】
また、保護部材29,29は、端部が押さえ部材27,27の何れか一方に仮溶接され、支持部21にはたらく法線方向(Y方向)への変位が所定の変位量を超えた際には押さえ部材27,27から離脱できるようにしてもよい。このように保護部材29が押さえ部材27から離脱することで保護部材29,29の端部による連結部材25,25への損傷を防ぐことができる。
【0084】
このように構成された鋼管矢板の継手構造では、新設鋼管矢板2,2を打設する際、隣り合う鋼管矢板2,2の接線方向(X方向)で鋼管矢板2,2が互いに離間する方向に偏心が生じると、偏心が小さい場合には、図7(a)に示すように、係合部22が継手用鋼管4の内側に当接する位置まで偏心を許容することができる。
【0085】
一方、図7(a)に示す位置よりさらに偏心が大きくなると、図7(b)に示すように、保護部材29,29が互いに離脱し、連結部材25,25を介して固定支持片23と可動支持片24とが互いに離間する方向に移動可能な状態となり、偏心を許容することができる。
【0086】
尚、上述の実施例では、固定支持片23と可動支持片24とを互いに突き合わせた状態とした例について説明したが、図8図9に示すように、固定支持片23と可動支持片24とが互いに鋼管矢板2の接線方向(X方向)に間隔をおいて配置され、固定支持片23と可動支持片24とに跨る連結部材25,25の端部がそれぞれ固定支持片23と可動支持片24に固定されたものであってもよい。尚、上述の実施例と同様の構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0087】
連結部材25,25は、図8図9に示すように、撓んだ状態で配置されていてもよく、この場合、図9(b)に示すように、鋼矢板が偏心した際には撓んでいる分だけ、固定支持片23と可動支持片24との移動量が増すようになっている。
【0088】
尚、上述の実施例では、連結部材25,25を半円状に撓ませた例について説明したが、この実施例に限定されず、連結部材25,25は、Z字状、?字状等に撓ませてもよい。
【0089】
また、上述の実施例では、「P-T形」継手を例に説明したが、本願発明は、「L-T形」継手又は「P-P形」継手にも適用することができる。
【符号の説明】
【0090】
1 鋼管矢板連続壁
2 鋼管矢板
3 継手構造
4 継手部材(継手用鋼管)
5 継手部材
6 スリット
7 支持部
8 係合部
9 固定支持片
10 可動支持片
11 連結部材
12 先端沓
13 傾斜板
14 貫通孔
15 固定用棒材
16 押さえ板
17 ナット
18 被せ板
20 継手部材
21 支持部
22 係合部
23 固定支持片
24 可動支持片
25 連結部材
26 固定用棒材
27 押さえ部材
28 ナット
29 保護部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10