(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】地震計の冗長化構成方法
(51)【国際特許分類】
G06F 11/07 20060101AFI20240703BHJP
G06F 11/16 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
G06F11/07 196
G06F11/16 608
G06F11/07 140A
(21)【出願番号】P 2021083737
(22)【出願日】2021-05-18
【審査請求日】2023-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100116207
【氏名又は名称】青木 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100096426
【氏名又は名称】川合 誠
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 新二
【審査官】松平 英
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-337655(JP,A)
【文献】特開2010-222139(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0088893(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 1/00-99/00
G01V 1/00-99/00
G06F11/07
11/16-11/20
11/28-11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震動を検出するセンサを有するセンサブロックと、
演算を行う演算ブロックと、
通信を行う通信ブロックと、
制御系を有する制御ブロックとを備える地震計の運転方法であって、
遠隔操作によって、前記センサブロック及び演算ブロックが動作を停止し、前記通信ブロック及び制御ブロックが動作する第1動作モードで運転し、
前記センサブロックに障害が発生したときに、前記演算ブロック、通信ブロック及び制御ブロックが動作する第2動作モードで運転し、
前記演算ブロックに障害が発生したときに、前記センサブロック、通信ブロック及び制御ブロックが動作する第3動作モードで運転し、
前記通信ブロックに障害が発生したときに、前記センサブロック、演算ブロック及び制御ブロックが動作する第4動作モードで運転し、
前記制御ブロックに障害が発生したときに、前記センサブロック、演算ブロック及び通信ブロックが動作する第5動作モードで運転することを特徴とする地震計の運転方法。
【請求項2】
前記センサブロック、演算ブロック、通信ブロック及び制御ブロックが動作する運用モード、並びに、前記センサブロック、演算ブロック及び通信ブロックが動作し、前記制御ブロックが停止する非運用モードで運転することができる請求項1に記載の地震計の運転方法。
【請求項3】
前記第1動作モードでは、地震観測機能が無効化される請求項1又は2に記載の地震計の運転方法。
【請求項4】
前記第2動作モード及び第3動作モードになったときは、前記第1動作モードに移行する請求項1~3のいずれか1項に記載の地震計の運転方法。
【請求項5】
前記第4動作モードでは、遠隔監視が不能になる請求項1~4のいずれか1項に記載の地震計の運転方法。
【請求項6】
前記第5動作モードでは、前記地震計自身による制御が不能になる請求項1~5のいずれか1項に記載の地震計の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、地震計の運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道においては、地震発生時の列車運転規制や施設点検などの実施判断を行うため、沿線には一定間隔で地震計が設置され、各地震計の受け持ち区間が設定されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の技術では、各地震計の演算処理部において、地震動の観測を行うとともに、自身による観測値及び外部情報に基づいて、列車運転規制の判断を行っている。そのため、演算処理部に障害が発生すると、列車の安全に大きな影響を与える可能性がある。
【0005】
ここでは、前記従来の技術の問題点を解決して、演算処理部の信頼性を高め、誤動作を起こさず、稼働時間を長くすることが可能な地震計の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのために、地震計の運転方法においては、地震動を検出するセンサを有するセンサブロックと、演算を行う演算ブロックと、通信を行う通信ブロックと、制御系を有する制御ブロックとを備える地震計の運転方法であって、遠隔操作によって、前記センサブロック及び演算ブロックが動作を停止し、前記通信ブロック及び制御ブロックが動作する第1動作モードで運転し、前記センサブロックに障害が発生したときに、前記演算ブロック、通信ブロック及び制御ブロックが動作する第2動作モードで運転し、前記演算ブロックに障害が発生したときに、前記センサブロック、通信ブロック及び制御ブロックが動作する第3動作モードで運転し、前記通信ブロックに障害が発生したときに、前記センサブロック、演算ブロック及び制御ブロックが動作する第4動作モードで運転し、前記制御ブロックに障害が発生したときに、前記センサブロック、演算ブロック及び通信ブロックが動作する第5動作モードで運転する。
【0007】
他の地震計の運転方法においては、さらに、前記センサブロック、演算ブロック、通信ブロック及び制御ブロックが動作する運用モード、並びに、前記センサブロック、演算ブロック及び通信ブロックが動作し、前記制御ブロックが停止する非運用モードで運転することができる。
【0008】
更に他の地震計の運転方法においては、さらに、前記第1動作モードでは、地震観測機能が無効化される。
【0009】
更に他の地震計の運転方法においては、さらに、前記第2動作モード及び第3動作モードになったときは、前記第1動作モードに移行する。
【0010】
更に他の地震計の運転方法においては、さらに、前記第4動作モードでは、通信回線を介して情報伝達並びに遠隔監視が不能になる。
【0011】
更に他の地震計の運転方法においては、さらに、前記第5動作モードでは、前記地震計自身による制御が不能になるが、通信回線を介して情報伝達並びに遠隔監視のみ可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、演算処理の信頼性を高め、誤動作を起こさず、稼働時間を長くすることが可能な地震計の運転方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施の形態における地震計が含まれる早期地震防災システムの概念図である。
【
図2】本実施の形態における地震計の構成を示すブロック図である。
【
図3】本実施の形態における地震計が有するFS基板の構成を示すブロック図である。
【
図4】従来の地震計の動作モードを説明する概念図である。
【
図5】本実施の形態における地震計の第1動作モードを示す図である。
【
図6】本実施の形態における地震計の第2動作モードを示す図である。
【
図7】本実施の形態における地震計の第3動作モードを示す図である。
【
図8】本実施の形態における地震計の第4動作モードを示す図である。
【
図9】本実施の形態における地震計の第5動作モードを示す図である。
【
図10】本実施の形態における地震計の各動作モードを説明する表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1は本実施の形態における地震計が含まれる早期地震防災システムの概念図、
図2は本実施の形態における地震計の構成を示すブロック図、
図3は本実施の形態における地震計が有するFS基板の構成を示すブロック図である。
【0016】
図1には、新幹線等で使用されている早期地震防災システムの概念が示され、該早期地震防災システムは、地震を観測する地震計10を含む地震計層と、前記地震計10のデータを集約して記録保存するとともに、観測された地震の情報を他の地震計10に配信する中継サーバ20を含むサーバ層と、地震の発生状況、並びに、地震計10及び中継サーバ20の動作状況を一元表示する監視端末30を含む監視層とから成っている。
【0017】
前記早期地震防災システムにおいて、地震計10は、地震の観測と列車停止判断とを行う機能を有する。地震計10は地震発生時の反応速度が速いというメリットがある反面で、地震計10自身が停止すると、列車停止判断を行う機能の喪失につながり、列車運行安全上の問題が生じてしまう。
【0018】
そこで、本実施の形態における地震計10は、全体の機能停止を防止するようになっている。具体的は、前記地震計10は、
図2に示されるように、センサ15を有するセンサブロック11、演算を行う演算ブロック12、通信を行う通信ブロック13及び制御系17を有する制御ブロック14の4つのブロックに分割されている。そして、各ブロックに障害が発生しても、他のブロックの動作には影響がないようになっている。
【0019】
前記センサブロック11は、地震動を検出するセンサ15を有する。また、前記演算ブロック12は、前記センサ15の出力信号を受信するFS基板16を有し、P波検知、S波検知、地震量演算、自局(地震計10)のM-Δ判定等を行う。なお、M-Δ判定は、地震検知の時に演算ブロック12で求めたマグニチュード(M)と震央までの距離(Δ)をもとに列車停止を判断する方法である。
【0020】
また、前記FS基板16は、
図3に示されるような構成を有する一種のコンピュータであり、信頼性向上のために、CPUを含む2つのコンピュータ(コンピュータA及びB)の演算結果をバス照合し、演算結果が一致したことを確認して出力し、演算結果が不一致であれば、直ちに処理を停止するようなフェールセーフ機能を有する基板である(例えば、特許文献2参照。)。なお、前記演算ブロック12が有するFS基板16は、単数であっても複数であってもよいが、本実施の形態においては、
図2に示されるように、2つが並列に配置されているものとする。
【文献】特開2011-095837号公報
【0021】
さらに、前記通信ブロック13は、前記演算ブロック12のFS基板16の出力信号を受信するFS基板16と、通信インターフェイス18とを有し、電文作成、他局(他の地震計10)のM-Δ判定、隣接制御等を行う。なお、前記通信インターフェイス18は、通信回線21を経由して、前記中継サーバ20と通信可能に接続されている。また、該中継サーバ20は、他の地震計10と通信可能に接続されているとともに、気象庁の緊急地震速報や防災科学技術研究所(防災科研)のK-NET観測データなどの外部情報源22と通信可能に接続されている。なお、前記通信ブロック13が有するFS基板16は、単数であっても複数であってもよいが、本実施の形態においては、
図2に示されるように、2つが並列に配置されているものとする。
【0022】
さらに、前記制御ブロック14は、前記演算ブロック12及び通信ブロック13のFS基板16の出力信号を受信するコンピュータシステムである制御系17を有し、24〔V〕出力、BCD(Binary-coded-decimal)出力、故障信号出力等を行う。
【0023】
なお、
図2に示される例において、矢印は情報伝送ルートを示している。そして、センサ15から、演算ブロック12への情報伝送ルートは2本に分岐し、演算ブロック12の各FS基板16から通信ブロック13のFS基板16及び制御ブロック14の制御系17への情報伝送ルートは、それぞれ、3本に分岐し、通信ブロック13の各FS基板16から通信インターフェイス18及び制御ブロック14の制御系17への情報伝送ルートは、それぞれ、2本に分岐し、通信インターフェイス18から通信ブロック13のFS基板16への情報伝送ルートは、2本に分岐している。このように、本実施の形態においては、情報伝送ルートが2重又は3重にされた冗長化構成が採用されている。
【0024】
鉄道の列車運転システム等の制御対象システムが地震計10に接続されている場合、制御対象システムを停止するか否かを判断する機能を運転制御と言う。該運転制御には、センサブロック11及び演算ブロック12を用いた地震観測機能を用いる場合、並びに、通信回線21及び中継サーバ20を経由して他の地震計10や外部情報源22からの外部情報(例えば、緊急地震速報)を用いる場合の2種類が存在する。
【0025】
本実施の形態においては、地震の観測機能であるセンサブロック11及び演算ブロック12を一時的に無効化する動作モードを新たに設定する。なお、当該新しい動作モードは、現地操作又は遠隔操作によって設定可能であるものとする。当該新しい動作モードにした場合、外部情報のみで運転制御を行うことが可能となる。当該新しい動作モードは、地震計10に隣接した箇所で工事が行われる場合にも利用可能である。従来、地震計10に隣接した箇所で工事を行う場合、列車が運行している時間帯に地震計10を停止することができないので、夜間に工事を行う必要があった。しかし、当該新しい動作モードを設定することによって、地震計10に隣接した箇所での工事について、夜間実施の制約が不要となる。
【0026】
さらに、本実施の形態においては、列車を停止させる運転制御判断機能は、演算ブロック12のみで実施するのではなく、演算ブロック12及び通信ブロック13に分散されている。これにより、演算ブロック12が停止した状態であっても、外部情報によって通信ブロック13で運転制御処理を実施することができる。
【0027】
次に、本実施の形態における地震計10の動作モードについて詳細に説明する。
【0028】
図4は従来の地震計の動作モードを説明する概念図、
図5は本実施の形態における地震計の第1動作モードを示す図、
図6は本実施の形態における地震計の第2動作モードを示す図、
図7は本実施の形態における地震計の第3動作モードを示す図、
図8は本実施の形態における地震計の第4動作モードを示す図、
図9は本実施の形態における地震計の第5動作モードを示す図、
図10は本実施の形態における地震計の各動作モードを説明する表である。なお、
図4において、(a)は運用モードを示す図、(b)は非運用モードを示す図である。
【0029】
従来、地震計10の動作モードとしては、
図4(a)に示されるような運用モードと、
図4(b)に示されるような非運用モードとが設定されている。
【0030】
運用モードにおいては、地震計10AがP波推定を行って被害推定円が地震計10Bを含む場合、地震計10A及び地震計10Bが警報判定を行う。また、地震計10Aが規定値超過の場合、地震計10Aのみが警報判定を行う。
【0031】
一方、非運用モードにおいては、地震計10AがP波推定を行って被害推定円が地震計10Bを含む場合、地震計10Aと地震計10Bは警報判定を行わない。また、地震計10Aが規定値超過の場合、地震計10Aは警報判定を行わない。しかし、地震計10AのP波及びS波情報は、すべて監視端末30に表示される。
【0032】
本実施の形態における地震計10では、フェールセーフ機能を有するFS基板16を採用しているので、
図5に示されるように、センサブロック11及び演算ブロック12を遠隔操作等によって一時的に無効化する(動作を停止させる)新しい動作モードである第1動作モードとしてのFT1に設定することができる。前記地震計10の動作モードをFT1に設定すると、地震の観測機能のみが停止されるので、例えば、地震計10に隣接した箇所で工事が行われる場合であっても、工事の振動による影響を受けることがないので、外部情報のみで列車停止を行うことが実現される。従来、地震計10に隣接した箇所で工事が行われる場合、地震計10の使用停止措置が採用されていたが、本実施の形態における地震計10では、動作モードをFT1に設定することによって、使用停止措置が不要となるので、列車安全性に寄与することができる。なお、
図5には、地震の観測機能をオフにした状態が示されているが、障害発生時も同様である。
【0033】
また、本実施の形態における地震計10では、FT1に加えて、新しい動作モードであるFT2~FT5に設定することができる。
【0034】
図6に示されるように、第2動作モードとしてのFT2は、センサ15のみが故障した状態であり、地震観測は無効であるが、警報判定(他局のみ)有効、通信有効、及び、制御系17が有効の状態である。この場合、センサ15からのデータが演算ブロック12に到達しないので、FT1に直ちに移行する。
【0035】
さらに、
図7に示されるように、第3動作モードとしてのFT3は、演算ブロック12が故障した状態であり、地震観測は無効であるが、警報判定(他局のみ)有効、通信有効、及び、制御系17が有効の状態である。この場合、センサ15からのデータが演算ブロック12に到達しないので、FT1に直ちに移行する。なお、外部からの運転制御が可能となる。この場合、運転制御判断は、通信ブロック13が行う。
【0036】
さらに、
図8に示されるように、第4動作モードとしてのFT4は、通信ブロック13が故障した状態、すなわち、通信基板であるFS基板16が2枚とも故障した状態であり、通信は無効であるが、地震観測有効、警報判定(他局のみ)有効、及び、制御系17が有効の状態である。この場合、自局の観測データのみで地震検知及び運転制御の判断を行う。なお、運転制御の判断は、演算ブロック12が行う。
【0037】
さらに、
図9に示されるように、第5動作モードとしてのFT5は、制御信号によって列車停止等を行う制御ブロック14が故障した状態であり、地震観測は有効であるが、警報判定一部無効(他局への情報提供のみ可)、通信有効、及び、制御系17が無効の状態である。この場合、自局の運転制御をすることができないので、他局に対して地震観測情報の提供を行う。
【0038】
つまり、本実施の形態における地震計10では、
図10に示されるように、運用モード及び非運用モードに加えて、FT1~FT5の動作モードを有するので、稼働時間を大幅に増加させることができる。
【0039】
このように、本実施の形態によれば、地震動を検出するセンサ15を有するセンサブロック11と、演算を行う演算ブロック12と、通信を行う通信ブロック13と、制御系17を有する制御ブロック14とを備える地震計10の運転方法は、遠隔操作によって、センサブロック11及び演算ブロック12が動作を停止し、通信ブロック13及び制御ブロック14が動作する動作モードであるFT1で運転し、センサブロック11に障害が発生したときに、演算ブロック12、通信ブロック13及び制御ブロック14が動作する動作モードであるFT2で運転し、演算ブロック12に障害が発生したときに、センサブロック11、通信ブロック13及び制御ブロック14が動作する動作モードであるFT3で運転し、通信ブロック13に障害が発生したときに、センサブロック11、演算ブロック12及び制御ブロック14が動作する動作モードであるFT4で運転し、制御ブロック14に障害が発生したときに、センサブロック11、演算ブロック12及び通信ブロック13が動作する動作モードであるFT5で運転する。
【0040】
これにより、障害耐性機能が備わり、故障部位を切り離して、地震計10を稼働させ続けることができる。したがって、地震計10の演算処理の信頼性を高め、誤動作を起こさず、稼働時間を長くすることが可能となる。
【0041】
なお、本明細書の開示は、好適で例示的な実施の形態に関する特徴を述べたものである。ここに添付された特許請求の範囲内及びその趣旨内における種々の他の実施の形態、修正及び変形は、当業者であれば、本明細書の開示を総覧することにより、当然に考え付くことである。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本開示は、地震計の運転方法に適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
10 地震計
11 センサブロック
12 演算ブロック
13 通信ブロック
14 制御ブロック
15 センサ
17 制御系