(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】プローブ、プローブ装置、プローブシステム及び渦電流探傷方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/904 20210101AFI20240703BHJP
【FI】
G01N27/904
(21)【出願番号】P 2021135015
(22)【出願日】2021-08-20
【審査請求日】2023-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】大内 弘文
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-205382(JP,A)
【文献】特開平03-189543(JP,A)
【文献】特開昭59-052748(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03617698(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72-27/9093
G21C 17/00-17/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Y方向に走査され、Y方向に直交するX方向に幅移動し、複数のコイルを用いた励磁及び検出によって内周面を渦電流探傷するプローブであって、
基板と、
前記基板上に配置されている1つの励磁コイルと、
前記基板上にて、前記1つの励磁コイルに対するY方向又はX方向のいずれか一方の方向に平行に配置されている1つの第1平行検出コイルと、
前記基板上にて、前記1つの励磁コイルに対するY方向又はX方向の他方の方向の仮想中心線から線対称に配置されている一対の線対称検出コイルと、を備え、
前記1つの第1平行検出コイルと前記一対の線対称検出コイルの各々とは、前記1つの励磁コイルからそれぞれ等しく離間して
おり、
前記一対の線対称検出コイルのうち、前記1つの第1平行検出コイルからもう一方よりも離間した1つの線対称検出コイルは、検出の他に励磁可能な検出兼励磁コイルであり、
前記検出兼励磁コイルから前記一方の方向の前記1つの第1平行検出コイル側に、前記検出兼励磁コイルを励磁したときの渦電流を検出する1つの第2平行検出コイルをさらに備える
プローブ。
【請求項2】
請求項1に記載のプローブと、
前記プローブに励磁信号を供給する励磁信号発生部と、
前記プローブからの検出信号を増幅する検出信号増幅部と、
前記検出信号増幅部によって増幅された増幅信号を処理する処理部と、を備える
プローブ装置。
【請求項3】
請求項
2に記載のプローブ装置であって
、
前記励磁信号発生部は、前記1つの励磁コイルを励磁する第1励磁信号発生部と、前記検出兼励磁コイルを励磁する第2励磁信号発生部と、を有する
プローブ装置。
【請求項4】
請求項
2に記載のプローブ装置であって
、
前記検出信号増幅部は、前記プローブに配置された前記1つの第1平行検出コイルと前記一対の線対称検出コイルの各々と前記
1つの第2平行検出コイルとのそれぞれからの検出信号を増幅する、それぞれの検出信号の数に対応した数の単一コイル用検出信号増幅部を有する
プローブ装置。
【請求項5】
請求項
2に記載のプローブ装置であって、
前記処理部は、前記検出信号増幅部によって増幅された増幅信号を記憶する記憶部と、前記検出信号増幅部によって増幅された増幅信号を表示する表示部と、を有する
プローブ装置。
【請求項6】
請求項
2に記載のプローブ装置と、
前記プローブ装置を用いた渦電流探傷検出を制御する検出制御部と、
前記検出制御部を介して前記プローブ装置を駆動制御する駆動制御部と、を含む
プローブシステム。
【請求項7】
請求項
6に記載のプローブシステムであって、
前記内周面を有する円筒管に挿入する前記プローブ装置を先端部に有するポールと、
前記ポールの前記先端部にて、前記プローブ装置を背面から前記内周面に向けてエアーを用いて押圧する押し付け治具と、
前記押し付け治具に供給するエアーを制御するエアー操作部と、を含む
プローブシステム。
【請求項8】
請求項1に記載のプローブを用いた渦電流探傷方法であって、
前記プローブをY方向に走査する走査ステップと、
Y方向に片道走査された前記プローブをX方向に所定幅だけ幅移動させる幅移動ステップと、を有し、
前記走査ステップは、
走査中の各位置にて、前記1つの励磁コイルを励磁して前記1つの第1平行検出コイルから渦電流を検出する第1a検出ステップと、
前記走査中の各位置にて、前記1つの励磁コイルを励磁して前記一対の線対称検出コイルの一方から渦電流を検出する第1b検出ステップと、
前記走査中の各位置にて、前記1つの励磁コイルを励磁して前記一対の線対称検出コイルの他方から渦電流を検出する第1c検出ステップと、
前記走査中の各位置にて、前記検出兼励磁コイルを励磁して前記1つの第2平行検出コイルから渦電流を検出する第2検出ステップと、を含む
渦電流探傷方法。
【請求項9】
請求項1に記載のプローブを用いた渦電流探傷方法であって、
前記プローブをY方向に走査する走査ステップと、
Y方向に片道走査された前記プローブをX方向に所定幅だけ幅移動させる幅移動ステップと、を有し、
前記走査ステップは、
走査中の各位置にて、前記1つの励磁コイルを励磁して前記1つの第1平行検出コイルと前記一対の線対称検出コイルの各々とから渦電流を同時に検出する第1検出ステップと、
前記走査中の各位置にて、前記検出兼励磁コイルを励磁して前記1つの第2平行検出コイルから渦電流を検出する第2検出ステップと、を含む
渦電流探傷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プローブ、プローブ装置、プローブシステム及び渦電流探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平板や管の内径が大きい管内外面の溶接部を検査対象とした渦電流探傷では、一度の走査にて広範囲を探傷できるように、励磁コイルと検出コイルの組合せを複数並べたマルチコイルプローブや、プローブの基板上に励磁コイル及び検出コイルを1セット配置した要素プローブを用いることが多い(特許文献1参照)。
【0003】
ここで、内径が小さい管内面を検査対象とする場合には、管内面においてマルチプローブを走査させることがスペース的に困難である。このため、要素プローブを適用するのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、要素プローブによって一度の走査で探傷できる範囲は、マルチプローブと比較して非常に狭い。このため、管内周面の全周をカバーするには、要素プローブを多大に複数回走査する必要があり、探傷に時間を要するという課題がある。
【0006】
本発明は、要素プローブよりも探傷時間が短縮できるプローブ、プローブ装置、プローブシステム及び渦電流探傷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によるプローブは、Y方向に走査され、Y方向に直交するX方向に幅移動し、複数のコイルを用いた励磁及び検出によって内周面を渦電流探傷するプローブであって、基板と、前記基板上に配置されている1つの励磁コイルと、前記基板上にて、前記1つの励磁コイルに対するY方向又はX方向のいずれか一方の方向に平行に配置されている1つの第1平行検出コイルと、前記基板上にて、前記1つの励磁コイルに対するY方向又はX方向の他方の方向の仮想中心線から線対称に配置されている一対の線対称検出コイルと、を備え、前記1つの第1平行検出コイルと前記一対の線対称検出コイルの各々とは、前記1つの励磁コイルからそれぞれ等しく離間しており、前記一対の線対称検出コイルのうち、前記1つの第1平行検出コイルからもう一方よりも離間した1つの線対称検出コイルは、検出の他に励磁可能な検出兼励磁コイルであり、前記検出兼励磁コイルから前記一方の方向の前記1つの第1平行検出コイル側に、前記検出兼励磁コイルを励磁したときの渦電流を検出する1つの第2平行検出コイルをさらに備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、要素プローブよりも探傷時間が短縮できるプローブ、プローブ装置、プローブシステム及び渦電流探傷方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る中性子計測案内管(ICMH)を示す縦断面図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係るプローブシステムを示す構成図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係るプローブシステムの一部を示す一部構成図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係るプローブ装置の構成及び検出回数を示す説明図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係るプローブを示す動作説明図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態に係るプローブの中性子計測案内管(ICMH)の配置状態を示す横断面図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態に係るプローブを示す正面図である。
【
図8】
図8は、第1実施形態に係るプローブを示す下面図である。
【
図9】
図9は、第1実施形態に係るプローブの配置構成を示す相関説明図である。
【
図10】
図10は、第1実施形態に係るプローブの配置及び動作を示す一覧説明図である。
【
図11】
図11は、第1実施形態に係るプローブの動作を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、比較例1のマルチプローブを示す正面図である。
【
図13】
図13は、(a)が比較例2の要素プローブを示す正面図であり、(b)が比較例2の要素プローブを示す下面図である。
【
図14】
図14は、第1実施形態に係るプローブの第1校正を示す説明図である。
【
図15】
図15は、第1実施形態に係るプローブの第2校正を示す説明図である。
【
図16】
図16は、変形例1に係るプローブの配置及び動作を示す一覧説明図である。
【
図17】
図17は、変形例2に係るプローブの配置及び動作を示す一覧説明図である。
【
図18】
図18は、変形例3に係るプローブの配置及び動作を示す一覧説明図である。
【
図19】
図19は、変形例3に係るプローブ装置の構成及び検出回数を示す説明図である。
【
図20】
図20は、変形例3に係るプローブの動作を示すフローチャートである。
【
図21】
図21は、変形例4に係るプローブ装置の構成及び検出回数を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、図面を参照して、本発明の実施形態に係るプローブ106、プローブ装置115、プローブシステム100及び渦電流探傷方法が説明される。実施形態に係るプローブシステム100は、原子力発電設備などにおける原子炉圧力容器102と内径の小さい中性子計測案内管(ICMH)101の溶接部に適用する渦電流探傷を対象としたシステムである。プローブ106における励磁及び検出のコイルに用いる渦電流探傷方法は、例えば、相互誘導標準比較方式(TR型)などである。
【0011】
<プローブシステム100>
図1は、第1実施形態に係る中性子計測案内管(ICMH)101を示す縦断面図である。
図2は、第1実施形態に係るプローブシステム100を示す構成図である。
図2には、
図1のA部が拡大して示されている。
図3は、第1実施形態に係るプローブシステム100の一部を示す一部構成図である。
【0012】
図1、
図2及び
図3に示されるように、プローブシステム100は、プローブ装置115と、駆動制御部112と、検出制御部113と、エアー操作部116と、を備える。駆動制御部112と検出制御部113とエアー操作部116とは、原子炉圧力容器102の下部のペデスタル102a内に設置されている。
【0013】
プローブ装置115は、励磁信号を供給し、検出信号を増幅し、増幅された増幅信号を処理する。
【0014】
駆動制御部112及び検出制御部113は、CPU、記憶装置及び入出力部を有する制御部111に構成されている。駆動制御部112は、渦電流探傷方法に用いるプローブ装置115を上下方向に駆動制御する。駆動制御部112とプローブ装置115との間には、検出制御部113を介在している。検出制御部113は、渦電流探傷制御及び処理を実行してプローブ装置115を用いた渦電流探傷検出を制御する。エアー操作部116は、サービスエアー114からエアーを取り込み、押し付け治具119に供給するエアーを制御し、プローブ装置115を被検査面に押し付ける。被検査面は、原子力発電設備のICMH101の内周面である。
【0015】
プローブシステム100は、ポール121と、押し付け治具119と、を含む。ポール121は、内周面を有する円筒管に挿入するプローブ装置115を先端部に有する。ポール121は、円柱体であり、複数繋いで構成されている。押し付け治具119は、ポール121の先端部にて、プローブ装置115をプローブ装置115の背面からICMH101の内周面に向けてエアーを用いて押圧する。
【0016】
ポール121には、駆動制御部112と検出制御部113とから各種接続ケーブル117が接続されている。ポール121には、エアー操作部116からエアーチューブ118が接続されている。エアーチューブ118は、ポール121の先端部にてプローブ装置115とは反対側の背面に取り付けられた押し付け治具119の膨出部131に接続されている。
【0017】
検査員120は、複数の円柱体を繋ぎ合わせてポール121を構成する。そして、検査員120は、ポール121をICMH101の管内部に挿入し、検査のスタート位置である母材部の高さまでプローブ装置115及び押し付け治具119を有するポール121の先端部を上昇させる。その後、検査員120は、エアー操作部116からエアーを押し付け治具119の膨出部131に供給する。これにより、プローブ装置115は、検査のスタート位置である母材部の高さ位置にて、背面から検査のスタート位置である母材部に押し付け治具119の膨出部131の水平方向への膨らみによって押し付けられた状態になる。
【0018】
<プローブ装置115>
図4は、第1実施形態に係るプローブ装置115の構成及び検出回数を示す説明図である。
図4に示されるプローブ装置115は、プローブ106と、プローブ106に励磁信号を供給する励磁信号発生部124と、プローブ106からの検出信号を増幅する検出信号増幅部127と、検出信号増幅部127によって増幅された増幅信号を処理する処理部130と、を備える。
【0019】
プローブ106は、励磁コイル109と、検出コイル110a、110b、110cと、を備える。プローブ装置115は、プローブ106の検出コイル110a、110b、110cによって3回検出される信号を切り替えて検出信号増幅部127に入力する検出信号切替器126を有する。処理部130は、検出信号増幅部127によって増幅された増幅信号を記憶する記憶部128と、検出信号増幅部127によって増幅された増幅信号を表示する表示部129と、を有する。
【0020】
プローブ装置115では、励磁信号発生部124によって発生した電圧がプローブ106の励磁コイル109を励磁する。励磁コイル109の電圧は、検出コイル110a、110b、110cにて順次検出される。そして、検出コイル110a、検出コイル110b、検出コイル110cにこの順に検知された信号が検出信号切替器126によって切り替えられ、検出信号増幅部127に入力される。検出信号増幅器127に入力された信号は、処理部130である記憶部128に保存されるとともに、処理部130である表示部129の画面上に表示される。この動作を実行するプローブ装置115の励磁検出回数は、3回である。
【0021】
<プローブ106の動作>
図5は、第1実施形態に係るプローブ106を示す動作説明図である。
図5は、
図3のB部を拡大して示されている。
図6は、第1実施形態に係るプローブ106の中性子計測案内管(ICMH)101の配置状態を示す横断面図である。
図6は、
図5のC-C線を上から見た横断面図である。
図5及び
図6に示されるように、原子力発電設備のICMH101は、内径が小さい管の一例である。プローブ106は、ICMH101の内周面を渦電流探傷する。
【0022】
ICMH101は、原子炉圧力容器102に溶接によって接合されている。ICMH101における原子炉圧力容器102に溶接された箇所には、肉盛座103が形成されている。
【0023】
プローブ106は、原子力発電設備の長期運転に伴う健全性を確認するため、ICMH101及び肉盛座103に跨る検査範囲104に生じる内面割れ105を検出する。プローブ106は、内周面側から検査範囲104に対して接触して内面割れ105を検出し、渦電流探傷を実行する。
【0024】
<プローブ106の構成>
図7は、第1実施形態に係るプローブ106を示す正面図である。
図8は、第1実施形態に係るプローブ106を示す下面図である。
図8は、
図7のD矢印の方向から見た下面図である。
【0025】
プローブ106は、基板107と、ルビーチップ108と、基板107の上に設けられた励磁コイル109と、基板107の上に並べられた検出コイル110a、110b、110cと、を備える。プローブ106における複数のコイル、すなわち励磁コイル109及び検出コイル110a、110b、110cの全ては、同形状である。ルビーチップ108は、複数の、励磁コイル109及び検出コイル110a、110b、110cの各々を配置する基板107の真下に取付けられ、プローブ106が被検査面上を滑らかに滑走する役割を果たす。
【0026】
<プローブ106の配置構成>
図9は、第1実施形態に係るプローブ106の配置構成を示す相関説明図である。
図9に示されるように、プローブ106は、Y方向に走査され、Y方向に直交するX方向に幅移動し、複数のコイルを用いた励磁及び検出によってICMH101の内周面を渦電流探傷する。1つの励磁コイル109は、基板107上に配置されている。検出コイル110aは、基板107上にて、1つの励磁コイル109に対するY方向又はX方向のいずれか一方の方向に平行に配置されている1つの第1平行検出コイルである。ここでは、検出コイル110aは、1つの励磁コイル109に対するY方向に平行に配置されている。
【0027】
検出コイル110b、110cは、基板107上にて、1つの励磁コイル109に対するY方向又はX方向の他方の方向の仮想中心線から線対称に配置されている一対の線対称検出コイルである。ここでは、検出コイル110b、110cは、基板107上にて、1つの励磁コイル109に対するX方向の仮想中心線から線対称に配置されている。
【0028】
検出コイル110a、110b、110cの各々は、励磁コイル109からそれぞれ等しく距離Lだけ離間している。
【0029】
基板107は、Y方向及びX方向に平行な辺を有する矩形形状である。
【0030】
<プローブ106の励磁及び検出の原理>
図10は、第1実施形態に係るプローブ106の配置及び動作を示す一覧説明図である。
図10に示されるように、仮に、電圧を印加された励磁コイル109と距離Lだけ離れて配置された検出コイル110aを結ぶ方向と平行方向に内周面に傷が有った場合には、傷によって経路を曲げられた電流の変化が検出コイル110aによって拾われ、傷の検出信号が検出できる。
【0031】
プローブ106には、1つの励磁コイル109に対して、3方向に同一の距離Lだけ離れた検出コイル110a、110b、110cが配置されている。励磁コイル109と、各検出コイル110a、110b、110cと、を結ぶ方向と平行方向に伸びる傷を高い感度でほぼ同時に検出することができる。
【0032】
なお、3方向のコイル配置と、傷の長さ方向と、が平行な場合には、傷の検出感度が最も高く、最も検出し易い。一方、コイル配置と、傷の長さ方向と、が平行方向からずれる場合には、平行な場合のピーク時よりも、傷の検出感度が下がる。しかし、平行方向からずれる場合には、それぞれの検出コイル110a、110b、110cの検出によって補完し合えるので、XY平面上のどの方向に長さを持つ傷でも一定の感度以上でその傷を検出できる。
【0033】
<渦電流探傷方法>
図11は、第1実施形態に係るプローブ106の動作を示すフローチャートである。ここでは、制御部111によって制御されたプローブ106を用いた渦電流探傷方法が説明されている。渦電流探傷方法は、ハードウェアに読み込まれる記録媒体に記録されたプログラムの処理を実行することによって実施されてもよい。
【0034】
図11に示されるように、検査員120は、ポール121に取り付けたプローブ装置115をICMH101の母材部の検査範囲104のスタート位置に持って行き、制御部111によって制御してプローブ装置115を取り付けた押し付け治具119の膨出部131にエアーを供給して駆動する。そして、制御部111は、被検査面である検査範囲104にプローブ106を押し付けて密着させた後、電気的なバランスを取る。
【0035】
制御部111は、S101にて、上方向への走査か上方向ではない下方向への走査かを判断する。S101にて上方向への走査の場合には、処理がS102に移行する。S101にて上方向の走査ではない下方向への走査の場合には、処理がS103に移行する。
【0036】
制御部111は、S102にて、走査ステップとして、検査員120がポール121をICMH101のY方向(軸方向)に上昇させることによって、プローブ106をY方向である上方向に所定間隔走査する。一方、制御部111は、S103にて、走査ステップとして、検査員120がポール121をICMH101のY方向(軸方向)に下降させることによって、プローブ106をY方向である下方向に所定間隔走査する。S102、S103の処理の後、処理がS104に移行する。
【0037】
以降のS104~S106の処理は、走査ステップに包含され、走査中の各位置にて、複数のコイルを用いた励磁及び検出によってICMH101の内周面が渦電流探傷される。この信号処理の動作を実行するプローブ装置115の励磁検出回数は、3回である。
【0038】
制御部111は、S104にて、走査ステップの第1a検出ステップとして、走査中の各位置にて、1つの励磁コイル109を励磁して1つの検出コイル110aから渦電流を検出する。そして、検出コイル110aによって検知された信号が検出信号切替器126によって切り替えられ、検出信号増幅部127に入力され、その後に処理部130にて処理される。S104の処理の後、処理がS105に移行する。
【0039】
制御部111は、S105にて、走査ステップの第1b検出ステップとして、走査中の各位置にて、1つの励磁コイル109を励磁して検出コイル110bから渦電流を検出する。そして、検出コイル110bによって検知された信号が検出信号切替器126によって切り替えられ、検出信号増幅部127に入力され、その後に処理部130にて処理される。S105の処理の後、処理がS106に移行する。
【0040】
制御部111は、S106にて、走査ステップの第1c検出ステップとして、走査中の各位置にて、1つの励磁コイル109を励磁して検出コイル110cから渦電流を検出する。そして、検出コイル110cによって検知された信号が検出信号切替器126によって切り替えられ、検出信号増幅部127に入力され、その後に処理部130にて処理される。S106の処理の後、処理がS107に移行する。
【0041】
制御部111は、S107にて、検査員120がポール121をICMH101のY方向(軸方向)の端部に移動させて検査範囲104のY方向端部に達したか否かを判断する。S107にて検査範囲104のY方向端部に達した場合には、片道のY方向走査が終了したので、処理がS108に移行する。S107にて検査範囲104のY方向端部に達していない場合には、処理がS101に戻る。
【0042】
制御部111は、S108にて、検査員120がポール121をICMH101の所定幅だけX方向(周方向)に移動させ、Y方向に片道走査されたプローブ106をX方向に所定幅だけ幅移動させるか否かを判断する。S108にて所定幅だけ幅移動させる必要がある場合には、処理がS109に移行する。S108にて所定幅だけ幅移動させる必要がなく、検査範囲104のX方向端部に達した場合には、周方向1周に渡る複数の走査及び幅方向移動が終了し、全ての検査範囲104の全走査が終了したので、全ての探傷処理が終了する。
【0043】
制御部111は、S109にて、検査員120がポール121をICMH101の所定幅だけX方向(周方向)に移動させ、処理がS101に戻る。
【0044】
<プローブ106の作用効果>
(A)プローブ106は、Y方向に走査され、Y方向に直交するX方向に幅移動し、複数のコイルを用いた励磁及び検出によって内周面を渦電流探傷する。プローブ106は、基板107を備える。プローブ106は、基板107上に配置されている1つの励磁コイル109を備える。プローブ106は、基板107上にて、1つの励磁コイル109に対するY方向又はX方向のいずれか一方の方向に平行に配置されている1つの第1平行検出コイル(検出コイル110a)を備える。プローブ106は、基板107上にて、1つの励磁コイル109に対するY方向又はX方向の他方の方向の仮想中心線から線対称に配置されている一対の線対称検出コイル(検出コイル110b、110c)を備える。1つの第1平行検出コイル(検出コイル110a)と一対の線対称検出コイルの各々(検出コイル110b、110c)とは、1つの励磁コイル109からそれぞれ等しく離間している。
【0045】
図12は、比較例1のマルチプローブ106aを示す正面図である。
図13は、(a)が比較例2の要素プローブ106bを示す正面図であり、(b)が比較例2の要素プローブ106bを示す下面図である。TR型の渦電流プローブは大きく分けて、励磁コイル109と検出コイル110の組合せを複数個並べたマルチプローブ106aと、励磁コイル109と検出コイル110の組合せを1対並べた要素プローブ106bとが存在する。内径が小さい管内面を検査対象とする場合には、管内面においてマルチプローブ106aを走査させることがスペース的に困難である。このため、要素プローブ106bを適用するのが一般的である。しかし、要素プローブ106bによって一度の走査で探傷できる範囲は、マルチプローブ106aと比較して非常に狭い。このため、管内周面の全周をカバーするには、要素プローブ106bを多大に複数回走査する必要があり、探傷に時間を要するという課題がある。
【0046】
本実施形態の構成によれば、Y方向に走査されるときのコイル間隔が狭くでき、内周面の段差によらずに検出感度が向上する。また、基板107の外形の拡大を伴わずにプローブ106上のコイル数が少なくとも4個に増加し、一度の走査での探傷幅が広がって幅移動の回数が低減し、内周面の全体を走査する走査回数が低減して探傷時間が短縮される。したがって、内周面の段差によらずに検出感度が向上できるとともに、探傷時間が短縮できる。また、プローブ106のコイル数が4個であり、プローブ106の大きさが必要最小限の大きさで済み、従来の要素プローブ106bに比しても内周面の段差によらない高い検出感度が維持できる。
【0047】
具体的には、渦電流探傷の検査対象を内径が小さい管(ICMH)101の内周面であるときに、プローブ106の適用を想定する。このとき、ICMH101は、原子炉圧力容器102を貫通する内径40mm程度の管である。原子炉圧力容器102とICMH101との溶接部は、溶接による熱影響によって管内周面側の軸方向に1~2mm程度の段差が生じていることが知られている。プローブ106がこの管周内面の段差上を走査する際に、プローブ106と被検査面のギャップによってノイズ信号(リフトオフ信号)が生じ難く、傷信号とノイズとの比であるS/N比が悪くならない。また、プローブ106が被検査面から浮き難く、傷の検出感度が低下しない。
【0048】
また、プローブ106を用いて一度の走査で探傷できる範囲は、マルチプローブ106aと比較して狭いが従来の基板107上に励磁コイル109及び検出コイル110を1セット配置した要素プローブ106bよりも広くなる。このため,管内周面の全周をカバーするときに、プローブ106を複数回走査する必要があるが、従来の要素プローブ106bよりも走査回数が減少する。これにより、探傷に時間がかからない。
【0049】
図14は、第1実施形態に係るプローブ106の第1校正を示す説明図である。
図15は、第1実施形態に係るプローブ106の第2校正を示す説明図である。
図14及び
図15に示されるように、一般に、励磁コイル109と検出コイル110a、110b、110cとの渦電流探傷実施前の校正では、内周面に予め形成されたスリットの伸びる方向でのスリットに対する大きく検出できる検出信号の強さを把握する。ここでは、プローブ106について、第1校正及び第2校正の2回の走査を実行する。
【0050】
この構成では、一対の線対称検出コイル(検出コイル110b、110c)が基板107上に1つの励磁コイル109に対するY方向又はX方向の他方の方向の仮想中心線から線対称に配置されている。このため、一対の線対称検出コイル(検出コイル110b、110c)の第2校正時には、プローブ106をY方向又はX方向のいずれか一方の方向へ走査することにより、内周面に予め形成されたスリットの伸びる方向である他方の方向での大きく検出できるスリットに対する検出信号の強さが一対の線対称検出コイルの各々(検出コイル110b、110c)について1回の校正時の走査中に得られる。これにより、励磁コイル109から3方向に検出コイル110a、110b、110cを配置していても、校正時の走査回数が2回に削減でき、プローブ106の校正が容易に行える。
【0051】
また、この構成では、1つの第1平行検出コイル(検出コイル110a)が基板107上に1つの励磁コイル109に対するY方向又はX方向のいずれか一方の方向に平行に配置されている。このため、1つの第1平行検出コイル(検出コイル110a)の校正時には、プローブ106をY方向又はX方向のいずれか他方の方向へ走査することにより、内周面に予め形成されたスリットの伸びる方向である他方の方向での大きく検出できるスリットに対する検出信号の強さが1つの第1平行検出コイル(検出コイル110a)について1回の第1校正時の走査中に最大値で得られる。これにより、第1校正が精度良く実施でき、プローブ106の校正が容易に行える。
【0052】
加えて、一般的に、励磁コイルと検出コイルとの配置間隔が近いと検出コイルで検知できる電圧の大きさは大きく、励磁コイルと検出コイルとの配置間隔が遠いと電圧の大きさは小さくなる。このため、励磁コイルと各検出コイルとの距離は、同じ距離でなければ各検出コイルで検出される電圧値がバラバラになる。励磁コイルと各検出コイルとの距離がバラバラの場合には、検出できる電圧の大きさを使って傷か否かの判断や傷の長さを測定するときに、内周面の傷か否かの判断や傷の長さが正しく評価できない。
【0053】
これに対し、この構成では、1つの第1平行検出コイル(検出コイル110a)と一対の線対称検出コイルの各々(検出コイル110b、110c)とは、1つの励磁コイル109からそれぞれ等しく離間している。これにより、1つの第1平行検出コイル(検出コイル110a)と一対の線対称検出コイルの各々(検出コイル110b、110c)によって検出される電圧値がほぼ等しくなる。この場合には、検出できる電圧の大きさを使って傷か否かの判断や傷の長さを測定するときに、内周面の傷か否かの判断や傷の長さが正しく評価できる。
【0054】
(B)プローブ106における複数のコイル(励磁コイル109、第1平行検出コイル(検出コイル110a)、一対の線対称検出コイル(検出コイル110b、110c))の全ては、同形状である。
【0055】
この構成によれば、基板107の外形の拡大を伴わずに要素プローブ106bに類似する構成としてコイル数が少なくとも4個に増加し、一度の走査での探傷幅が広がって幅移動の回数が低減し、内周面を走査する走査回数が低減して探傷時間が短縮できる。
【0056】
(C)プローブ106における基板107は、Y方向及びX方向に平行な辺を有する矩形形状である。
【0057】
この構成によれば、内周面が小径であっても基板107の外形の拡大を伴わないプローブ106が角部を内周面に衝突させずにスムーズに移動でき、内周面が探傷できる。
【0058】
(D)プローブ106において、内周面は、原子力発電設備の中性子計測案内管(ICMH)101の内周面である。
【0059】
この構成によれば、原子力発電設備のICMH101の内周面が小径であっても、内周面の段差によらずに検出感度が向上できるとともに、探傷時間が短縮できる。
【0060】
(E)プローブ装置115は、プローブ106に励磁信号を供給する励磁信号発生部124を備える。プローブ装置115は、プローブ106からの検出信号を増幅する検出信号増幅部127を備える。プローブ装置115は、検出信号増幅部127によって増幅された増幅信号を処理する処理部130を備える。
【0061】
この構成によれば、励磁信号発生部124によって励磁信号を供給されたプローブ106からの検出信号が検出信号増幅部127によって増幅され、処理部130では検出信号増幅部127によって増幅された増幅信号が処理される。したがって、内周面の段差によらずに検出感度が向上できるとともに、探傷時間が短縮できる。
【0062】
(F)プローブ装置115における処理部130は、検出信号増幅部127によって増幅された増幅信号を記憶する記憶部128と、検出信号増幅部127によって増幅された増幅信号を表示する表示部129と、を有する。
【0063】
この構成によれば、処理部130の記憶部128が検出信号増幅部127によって増幅された増幅信号を記憶できる。処理部130の表示部129が検出信号増幅部127によって増幅された増幅信号を表示できる。
【0064】
(G)プローブシステム100は、プローブ装置115を含む。プローブシステム100は、プローブ装置115を用いた渦電流探傷検出を制御する検出制御部113を含む。プローブシステム100は、検出制御部113を介してプローブ装置115を駆動制御する駆動制御部112を含む。
【0065】
この構成によれば、プローブシステム100は、検出制御部113によってプローブ装置115を用いた渦電流探傷を制御できる。また、プローブシステム100は、駆動制御部112によって検出制御部113を介してプローブ装置115を駆動制御できる。これにより、プローブシステム100は、プローブ106を高い検出感度に制御できるとともにプローブを高精度に駆動できる。したがって、内周面の段差によらずに検出感度が向上できるとともに、探傷時間が短縮できる。
【0066】
(H)プローブシステム100は、内周面を有する円筒管に挿入するプローブ装置115を先端部に有するポール121を含む。プローブシステム100は、ポール121の先端部にて、プローブ装置115を背面から内周面に向けてエアーを用いて押圧する押し付け治具119を含む。プローブシステム100は、押し付け治具119に供給するエアーを制御するエアー操作部116を含む。
【0067】
プローブシステム100は、ポール121によって内周面を有する円筒管に挿入するプローブ装置115を先端部に有することができる。そして、プローブシステム100は、押し付け治具119によってポール121の先端部にて、プローブ装置115を背面から内周面に向けてエアーを用いて押圧できる。また、プローブシステム100は、エアー操作部116によって押し付け治具119にエアーを供給できる。これにより、プローブシステム100は、プローブ106を高い検出感度に制御できるとともにプローブ106を高精度に駆動できる。
【0068】
(I)プローブ106は、Y方向に走査され、Y方向に直交するX方向に幅移動し、複数のコイルを用いた励磁及び検出によって内周面を渦電流探傷する。プローブ106は、基板107を備える。プローブ106は、基板107上に配置されている1つの励磁コイル109を備える。プローブ106は、基板107上にて、1つの励磁コイル109に対するY方向又はX方向のいずれか一方の方向に平行に配置されている1つの第1平行検出コイル(検出コイル110a)を備える。プローブ106は、基板107上にて、1つの励磁コイル109に対するY方向又はX方向の他方の方向の仮想中心線から線対称に配置されている一対の線対称検出コイル(検出コイル110b、110c)を備える。そして、プローブ106において、1つの第1平行検出コイル(検出コイル110a)と一対の線対称検出コイルの各々(検出コイル110b、110c)とは、1つの励磁コイル109からそれぞれ等しく離間している。渦電流探傷方法は、上記のような構成のプローブ106を用いた渦電流探傷方法である。渦電流探傷方法は、プローブ106をY方向に走査する走査ステップを含む。渦電流探傷方法は、Y方向に片道走査されたプローブ106をX方向に所定幅だけ幅移動させる幅移動ステップを含む。
【0069】
この構成によれば、走査ステップによってY方向に走査されるときのコイル間隔が狭くでき、内周面の段差によらずに検出感度が向上する。また、基板107の外形の拡大を伴わずにプローブ106におけるコイル数が少なくとも4個に増加し、一度の走査での探傷幅が広がって幅移動ステップでの幅移動の回数が低減し、内周面の全体を走査する走査回数が低減して探傷時間が短縮される。したがって、内周面の段差によらずに検出感度が向上できるとともに、探傷時間が短縮できる。
【0070】
(J)渦電流探傷方法における走査ステップは、走査中の各位置にて、複数のコイル(励磁コイル109、検出コイル110a、110b、110c)を用いた励磁及び検出によって内周面を渦電流探傷する。
【0071】
この構成によれば、走査中の各位置にて、複数のコイル(励磁コイル109、検出コイル110a、110b、110c)を用いた励磁及び検出によって内周面を渦電流探傷できる。なお、走査中の各位置とは、プローブ106の片道走査において所定間隔走査ずつの各位置である。
【0072】
<その他の変形例>
次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。ここでは、上記実施形態と同じ事項に同一の符号を付して説明が省略され、その特徴部分が説明されている。
【0073】
<変形例1>
図16は、変形例1に係るプローブ106の配置及び動作を示す一覧説明図である。
図16に示されるように、プローブ106は、基本型の第1実施形態のプローブ106に対して、構造、コイル配置、コイル数を変えず、プローブ106をそのまま90°回転させて使用するものである。
【0074】
これによれば、励磁コイル109と検出コイル110b、110cとの間隔の長さがY方向に広がる。それにより、ICMHの内面段差のY方向(軸方向)に平行な励磁コイル109と検出コイル110b、110cとの間隔が励磁コイル109と検出コイル110aとの間隔の場合よりも短く、LからLcosθの長さに短くなる。このため、管内周面の軸方向変形に対するプローブ106の追従性が向上でき、プローブ106と被検査面とのギャップにより生じるノイズ信号(リフトオフ信号)が抑えられる。
【0075】
<変形例2>
図17は、変形例2に係るプローブ106の配置及び動作を示す一覧説明図である。
図17に示されるように、励磁コイル109と各検出コイル110a、110b、110cのコイル間隔を距離Lに保持したまま、検出コイル110b、110cにおける、励磁コイル109に対するY方向の仮想中心線から線対称の位置の角度θを極力大きく設定する。
【0076】
これによれば、ICMH101の内面段差のY方向(軸方向)に平行な励磁コイル109と検出コイル110b、110cとの間隔が励磁コイル109と検出コイル110aとの間隔の場合よりも短く、LからLcosθの長さにより短くなる。これにより、Lcosθを小さくでき、プローブ106の基板107のY方向長さが短くなり、ICMH101のY方向変形に対するプローブ106の追従性が向上できる。ただし、プローブ106の基板107上の各コイル同士が走査中に干渉しないように配置する必要があり、角度θの最大値が各コイル同士を干渉させない間隔によって決定されている。
【0077】
<変形例3>
図18は、変形例3に係るプローブ106の配置及び動作を示す一覧説明図である。
図19は、変形例3に係るプローブ装置の構成及び検出回数を示す説明図である。
図20は、変形例3に係るプローブ106の動作を示すフローチャートである。
【0078】
<プローブ106の構成>
図18に示されるように、プローブ106における一対の線対称検出コイルのうち、1つの第1平行検出コイル(検出コイル110a)から検出コイル110cよりも離間した1つの線対称検出コイルは、検出の他に励磁可能な検出兼励磁コイル122(110b)である。プローブ106は、検出兼励磁コイル122(110b)から一方の方向の1つの第1平行検出コイル(検出コイル110a)側に平行に配置されている検出兼励磁コイル122(110b)を励磁したときの渦電流を検出する1つの第2平行検出コイル123aを備える。
【0079】
つまり、第1実施形態の基本型のプローブ106の外形を変えずに、コイル数を計4個から第2平行検出コイル123aを1個増やして計5個にする。そして、第1実施形態の検出コイル110bには、励磁の機能も持たせて、検出兼励磁コイル122に変更している。
【0080】
この構成では、X方向、言い換えると管の周方向の複数のコイルを用いた励磁及び検出が従来の1組から2組に増える。このため、X方向に、励磁コイル109と検出コイル110aとの組及び検出兼励磁コイル122と第2平行検出コイル123aと組みの2種類を用いた2回の励磁及び検出が実行でき,周方向の所定幅移動の大きさを倍に設定し、所定幅移動の回数を半分に設定し、全内周面の走査に用いる探傷時間が低減できる。
【0081】
<プローブ装置115の構成>
図19に示されるように、励磁信号発生部124は、1つの励磁コイル109と検出兼励磁122コイルとを切替器125aによって切り替えて励磁する。検出信号増幅部127は、プローブ106に配置された1つの第1平行検出コイル(検出コイル110a)と一対の線対称検出コイルの各々(検出コイル110b、110c)と検出コイル123aとのそれぞれからの検出信号を検出信号切替器126によって切り替えて増幅する。切替器125bは、検出兼励磁コイル122からの検出信号を、検出信号切替器126を介した検出信号増幅部127に入力するか、励磁信号切替器125aを介して励磁信号発生部124によって検出兼励磁コイル122を励磁するか、を切り替える。
【0082】
<渦電流探傷方法>
図20に示されるように、変形例3における励磁検出回数は4回である。つまり、走査ステップは、第1実施形態の第1a検出ステップ、第1b検出ステップ及び第1c検出ステップの他に、第2検出ステップを含む。制御部111は、第1c検出ステップの処理(S105)の後、処理が第2検出ステップであるS110に移行する。走査ステップにおける第2検出ステップとして、走査中の各位置にて、検出兼励磁コイル122を励磁して1つの第2平行検出コイル123aとから渦電流を検出する(S110)。第2検出ステップ(S110)の後、処理がS107に移行する。
【0083】
つまり、第1に、励磁コイル109を励磁するときに、励磁信号発生部124によって生じた電圧は、励磁信号切替器125aを経由して励磁コイル109を励磁する。検出コイル110a、検出兼励磁コイル122、検出コイル110cの計3回の検出処理によって検知された信号は、検出信号切替器126によって切り替えられ、検出信号増幅部127に入る。
【0084】
第2に、検出兼励磁コイル122を励磁するときに、励磁信号発生部124によって生じた電圧は、励磁信号切替器125a及び切替器125bを経由して検出兼励磁コイル122を励磁する。第2平行検出コイル123aの計1回の検出処理によって検知された信号は、検出信号切替器126によって切り換えられ、検出信号増幅部127に入る。
【0085】
これらの計4回の検出によって得られた信号は、処理部130における、記憶部128に保存されるとともに、表示部129の画面上に表示される。
【0086】
(K)プローブ106における、一対の線対称検出コイルのうち、1つの第1平行検出コイル(検出コイル110a)からもう一方よりも離間した1つの線対称検出コイルは、検出の他に励磁可能な検出兼励磁コイル122(110b)である。プローブ106は、検出兼励磁コイル122(110b)から一方の方向の1つの第1平行検出コイル(検出コイル110a)側に、検出兼励磁コイル122(110b)を励磁したときの渦電流を検出する1つの第2平行検出コイル123aを備える。
【0087】
この構成によれば、基板107の外形の拡大を伴わずにプローブ106のコイル数が少なくとも5個に増加し、一度の走査での探傷幅が広がって幅移動の回数がより低減し、内周面を走査する走査回数が低減して探傷時間がより短縮できる。また、プローブ106のコイル数が5個であり、プローブ106の大きさが必要最小限の大きさで済み、内周面の段差によらない高い検出感度が維持できる。
【0088】
(L)渦電流探傷方法では、一対の線対称検出コイルのうち、1つの第1平行検出コイル(検出コイル110a)からもう一方よりも離間した1つの線対称検出コイルは、検出の他に励磁可能な検出兼励磁コイル122(110b)である。プローブ106は、検出兼励磁コイル122(110b)から一方の方向の1つの第1平行検出コイル(検出コイル110a)側に、検出兼励磁コイル122を励磁したときの渦電流を検出する1つの第2平行検出コイル123aを備える。走査ステップは、走査中の各位置にて、1つの励磁コイル109を励磁して1つの第1平行検出コイル(検出コイル110a)から渦電流を検出する第1a検出ステップを含む。走査ステップは、走査中の各位置にて、1つの励磁コイル109を励磁して一対の線対称検出コイルの一方(検出兼励磁コイル122)から渦電流を検出する第1b検出ステップを含む。走査ステップは、走査中の各位置にて、1つの励磁コイル109を励磁して一対の線対称検出コイルの他方(検出コイル110c)から渦電流を検出する第1c検出ステップを含む。走査ステップは、走査中の各位置にて、検出兼励磁コイル122を励磁して1つの第2平行検出コイル123aから渦電流を検出する第2検出ステップを含む。
【0089】
この構成によれば、走査中に5つのコイルを用いた励磁及び検出による渦電流の探傷が実施でき、プローブ106が高い検出感度を得られる。
【0090】
<変形例4>
図21は、変形例4に係るプローブ装置の構成及び検出回数を示す説明図である。
図21に示されるように、プローブ106の構成として、一対の線対称検出コイルのうち、1つの第1平行検出コイル(検出コイル110a)から離間した1つの線対称検出コイルは、検出の他に励磁可能な検出兼励磁コイル122(110b)である。プローブ106は、検出兼励磁コイル122(110b)から一方(検出兼励磁コイル122(110b))の方向の1つの第1平行検出コイル(検出コイル110a)側に、検出兼励磁コイル122(110b)を励磁したときの渦電流を検出する1つの第2平行検出コイル123aを備える。
【0091】
渦電流探傷方法として、走査ステップは、走査中の各位置にて、1つの励磁コイル109を励磁して1つの第1平行検出コイル(検出コイル110a)と一対の線対称検出コイルの各々(検出兼励磁コイル122(110b)、検出コイル110c)とから渦電流を同時に検出する第1検出ステップを含む。走査ステップは、走査中の各位置にて、検出兼励磁コイル122(110b)を励磁して1つの第2平行検出コイル123aから渦電流を検出する第2検出ステップを含む。
【0092】
この構成では、励磁信号発生部124a、124bが2個あり、第1~第4検出信号増幅部127a~127dが4個あり、第1検出ステップにて同時に並行して複数のコイルを用いた計3回の励磁及び検出を実施できる。このため、所定間隔走査中の励磁検出回数は、
図18~
図20に示される変形例3と比較して半分の2回になり、信号処理が高速化できる。
【0093】
プローブ装置115の構成として、励磁信号発生部124a、124bは、1つの励磁コイル109を励磁する第1励磁信号発生部124aと、検出兼励磁コイル122を励磁する第2励磁信号発生部124bと、を有する。第1~第4検出信号増幅部127a~127dは、プローブ106に配置された1つの第1平行検出コイル(検出コイル110a)と一対の線対称検出コイルの各々(検出兼励磁コイル122、検出コイル110c)と第2平行検出コイル123aとのそれぞれからの検出信号を増幅する、それぞれの検出信号の数に対応した数の単一コイル用検出信号増幅部(第1~第4検出信号増幅部127a~127d)を有する。切替器125bは、検出兼励磁コイル122からの検出信号を単一コイル用検出信号増幅部(第3検出信号増幅部127c)に入力するか、第2励磁信号発生部124bによって検出兼励磁コイル122(110b)を励磁するか、を切り替える。
【0094】
(M)プローブ装置115における第1、第2励磁信号発生部124a、124bは、1つの励磁コイル109を励磁する第1励磁信号発生部124aと、検出兼励磁コイル122を励磁する第2励磁信号発生部124bと、を有する。
【0095】
この構成によれば、第1、第2励磁信号発生部124a、124bは、第1励磁信号発生部124aによって計3回の検出に用いる1つの励磁コイル109を励磁でき、第2励磁信号発生部124bによって計1回の検出に用いる検出兼励磁コイル122(110b)を励磁できる。これにより、第1、第2励磁信号発生部124a、124bは、2つの励磁コイル109、検出兼励磁コイル122(110b)をそれぞれ励磁できる。
【0096】
(N)プローブ装置115における第1~第4検出信号増幅部127a~127dは、プローブ106に配置された1つの第1平行検出コイル(検出コイル110a)と一対の線対称検出コイルの各々(検出兼励磁コイル122、検出コイル110c)と第2平行検出コイル123aとのそれぞれからの検出信号を増幅する、それぞれの検出信号の数に対応した数の単一コイル用検出信号増幅部(第1~第4検出信号増幅部127a~127d)を有する。
【0097】
第1~第4検出信号増幅部127a~127dは、プローブ106に配置された1つの第1平行検出コイル(検出コイル110a)と一対の線対称検出コイルの各々(検出兼励磁コイル122(110b)、検出コイル110c)と第2平行検出コイル123aとのそれぞれの検出信号の数に対応した数の単一コイル用検出信号増幅部(第1~第4検出信号増幅部127a~127d)がそれぞれからの検出信号を増幅できる。これにより、第1~第4検出信号増幅部127a~127dは、検出用の各コイルからの検出信号を別々に増幅できる。
【0098】
(O)渦電流探傷方法における、一対の線対称検出コイルのうち、1つの第1平行検出コイル(検出コイル110a)からもう一方よりも離間した1つの線対称検出コイルは、検出の他に励磁可能な検出兼励磁コイル122(110b)である。プローブ106は、検出兼励磁コイル122(110b)から一方の方向の1つの第1平行検出コイル(検出コイル110a)側に、検出兼励磁コイル122(110b)を励磁したときの渦電流を検出する1つの第2平行検出コイル123aを備える。走査ステップは、走査中の各位置にて、1つの励磁コイル109を励磁して1つの第1平行検出コイル(検出コイル110a)と一対の線対称検出コイルの各々(検出兼励磁コイル122(110b)、検出コイル110c)とから渦電流を同時に検出する第1検出ステップを含む。走査ステップは、走査中の各位置にて、検出兼励磁コイル122(110b)を励磁して1つの第2平行検出コイル123aから渦電流を検出する第2検出ステップを含む。
【0099】
この構成によれば、所定間隔走査中に5つのコイルを用いた励磁及び検出による渦電流探傷が2回の励磁のみで実施でき、プローブ106が高い検出感度を得られるとともに探傷時間が短縮できる。
【0100】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0101】
100…プローブシステム、102…原子炉圧力容器、102a…ペデスタル、103…肉盛座、104…検査範囲、105…内面割れ、106…プローブ、106a…マルチプローブ、106b…要素プローブ、107…基板、108…ルビーチップ、109…励磁コイル、110…検出コイル、110a…検出コイル(第1平行検出コイル)、110b…検出コイル、110c…検出コイル、111…制御部、112…駆動制御部、113…検出制御部、114…サービスエアー、115…プローブ装置、116…エアー操作部、117…接続ケーブル、118…エアーチューブ、119…押し付け治具、120…検査員、121…ポール、122…検出兼励磁コイル(110b…検出コイル)、123a…第2平行検出コイル、124…励磁信号発生部、124a…第1励磁信号発生部、124b…第2励磁信号発生部、125a…励磁信号切替器、125b…切替器、126…検出信号切替器、127…検出信号増幅部、127a…第1検出信号増幅部、127b…第2検出信号増幅部、127c…第3検出信号増幅部、127d…第4検出信号増幅部、128…記憶部、129…表示部、130…処理部、131…膨出部、101…ICMH(中性子計測案内管)、L…距離、θ…角度。