(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】二酸化炭素供給システム
(51)【国際特許分類】
A01G 33/02 20060101AFI20240703BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20240703BHJP
B01D 53/81 20060101ALI20240703BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
A01G33/02 101Z
B01D53/62 ZAB
B01D53/81
B01D53/78
(21)【出願番号】P 2021185336
(22)【出願日】2021-11-15
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊勢 英夫
(72)【発明者】
【氏名】加納 篤
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 賢
(72)【発明者】
【氏名】安原 克樹
【審査官】油原 博
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-198821(JP,A)
【文献】特開2015-047564(JP,A)
【文献】特開2019-050782(JP,A)
【文献】特開平03-169324(JP,A)
【文献】特開2015-198649(JP,A)
【文献】特開2020-174607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 33/02
B01D 53/62
B01D 53/81
B01D 53/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定施設内に配置された燃焼装置から排出される二酸化炭素を含む排ガスから二酸化炭素を分離回収する二酸化炭素分離回収設備と、
前記二酸化炭素分離回収設備で分離回収された二酸化炭素を、前記所定施設内に配置された冷却装置から排出される使用済みの冷却水に混合する二酸化炭素混合器と、
前記二酸化炭素混合器にて二酸化炭素が混合された冷却水を水生植物または藻類の養殖場
へ供給する供給配管設備と、
を備え
、
前記供給配管設備は、前記二酸化炭素混合器にて二酸化炭素が混合された冷却水を、流量調節弁を有する複数の供給配管を通じて海に設置された前記養殖場へ供給し、かつ、各前記供給配管の先端が前記養殖場の複数箇所に配置されており、
前記養殖場の前記複数箇所に海水中の二酸化炭素濃度の計測センサが配置されており、
前記供給配管設備は、全ての前記計測センサの計測値が平均化するように、前記計測センサの計測値に基づいて各前記供給配管の先端から送出される前記冷却水の流量を前記流量調節弁によって調整する、二酸化炭素供給システム。
【請求項2】
前記所定施設は、
ボイラと、前記ボイラにて生成された蒸気によって駆動される蒸気タービンと、前記蒸気タービンによって駆動される発電機と、前記蒸気タービンの蒸気を海水で冷却して水にして前記ボイラへ循環させる復水器と、前記ボイラにて発生した排ガスを導入して脱硝、集塵および脱硫を行って排出する排ガス処理設備と、を備えた火力発電所であり、
前記燃焼装置は、前記ボイラであり、
前記冷却装置は、前記冷却水として海水を用いる前記復水器であり、
前記二酸化炭素分離回収設備は、前記排ガス処理設備から排出される排ガスを導入して二酸化炭素を分離回収するよう構成された、
請求項1に記載の二酸化炭素供給システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水生植物または藻類の養殖等に利用する二酸化炭素供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の抑制のため、大気中の二酸化炭素の削減が課題となっている。特許文献1には、火力発電設備等におけるボイラで発生した排ガスから炭酸ガスを回収し、この炭酸ガスをポンプでくみ上げた海水と混合した後、深海中に投棄する方法が記載されている。
【0003】
一方、特許文献2には、海底地下水および海洋深層水の少なくとも一方の水源から塩水を汲み上げてガス混合部に導入し、このガス混合部で塩水に二酸化炭素を含むガスを混合し、このガスが混合された混合塩水を生育槽に導入することが記載されている。生育槽で養殖目的の海洋生物を生育する。上記二酸化炭素には、火力発電所等から排出される炭酸ガスを利用できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平3-188924号公報
【文献】特開2019-50782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1の場合には、炭酸ガスの有効利用が図られていない。一方、特許文献2の場合には、炭酸ガスを海洋生物の養殖に利用し、炭酸ガスの有効利用が図られているが、炭酸ガスを混合するために使用する塩水を水源から汲み上げるための設備等が必要となる。
【0006】
本開示は上記のような課題を解決するためになされたもので、設備コストの増加を抑えて二酸化炭素の有効利用を図ることができる二酸化炭素供給システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本開示のある態様に係る二酸化炭素供給システムは、所定施設内に配置された燃焼装置から排出される二酸化炭素を含む排ガスから二酸化炭素を分離回収する二酸化炭素分離回収設備と、前記二酸化炭素分離回収設備で分離回収された二酸化炭素を、前記所定施設内に配置された冷却装置から排出される使用済みの冷却水に混合する二酸化炭素混合器と、前記二酸化炭素混合器にて二酸化炭素が混合された冷却水を水生植物または藻類の養殖場へ配管を通じて供給する供給配管設備と、を備えている。
【発明の効果】
【0008】
本開示は、以上に説明した構成を有し、設備コストの増加を抑えて二酸化炭素の有効利用を図ることができる二酸化炭素供給システムを提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態における一例の二酸化炭素供給システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、本開示は、以下の実施形態に限定されない。
【0011】
(実施形態)
図1は、本実施形態における一例の二酸化炭素供給システムの概略図である。この二酸化炭素供給システム20の少なくとも一部は、所定施設である火力発電所10に併設されている。
【0012】
火力発電所10は、燃焼装置であるボイラ11、蒸気タービン12、発電機13、冷却装置である復水器14、海水ポンプ15、排ガス処理設備16、煙道17及び煙突18等を備えている。
【0013】
ボイラ11は、燃料を燃やして水を気化させて蒸気を生成する。燃料としては、石炭、石油、液化天然ガスなどが用いられる。蒸気タービン12は、ボイラ11で生成された蒸気によって駆動される。発電機13は、自身の回転軸が蒸気タービン12の出力軸に接続されており、蒸気タービン12の駆動によって回転駆動され、交流電力を発生させる。
【0014】
復水器14は、蒸気タービン12から排出される蒸気を冷却水(海水)との熱交換によって冷却して水に変換する表面復水器である。この変換後の水はボイラ11へ循環供給される。復水器14には、海100から延びた海水供給配管P1が接続されており、海水ポンプ15によってくみ上げられる海水が冷却水として供給される。また、復水器14を通過した使用済みの冷却水は、海水排出配管P2を通って海100へ戻される。
【0015】
また、ボイラ11で燃料を燃やして発生する排ガスは、排ガス処理設備16へ導入される。排ガス処理設備16は、脱硝装置、電気集塵装置、及び脱硫装置などを備えており、導入された排ガスは、脱硝、集塵及び脱硫が行われた後、煙道17へ排出されて煙突18から大気中へ放出される。
【0016】
二酸化炭素供給システム20は、二酸化炭素(CO2)分離回収設備21、コンプレッサ22、二酸化炭素混合器23、海水排出配管P2から分岐された分岐配管P3、分岐配管P3の途中に設置された流量調節弁B1および供給配管設備25を備えている。供給配管設備25は、あくまで一例であるが、輸送配管P4と、昇圧ポンプ24と、基端側に流量調節弁B2を有する複数の供給配管P5とを備えている。
【0017】
二酸化炭素分離回収設備21は、排ガス処理設備16から煙道17へ排出された排ガスを導入配管P6を通じて導入し、分離回収した二酸化炭素を配管P8へ送出し、コンプレッサ22で圧縮して配管P9を介して二酸化炭素混合器23へ供給する。また、二酸化炭素分離回収設備21は、二酸化炭素が除かれた排ガスを配管P7へ送出して煙道17へ排出する。ここでは、排ガス処理設備16から排出される一部の排ガスを二酸化炭素分離回収設備21へ導入するように構成しているが、排ガス処理設備16から排出される全ての排ガスを導入するように構成してもよい。
【0018】
二酸化炭素分離回収設備21は、排ガスから二酸化炭素を分離回収できる設備であればよく、例えば、アミンを表面にコーティングした固体吸収材を用いた設備や、アミンを含む吸収液を用いた設備等の公知の設備を用いることができる。
【0019】
二酸化炭素混合器23には、復水器14を通過した使用済みの冷却水(海水)が海水排出配管P2から分岐された分岐配管P3を通って導入される。二酸化炭素混合器23は、分岐配管P3から導入される使用済みの冷却水(海水)に、配管P9から導入される気体の二酸化炭素を混合(溶解または微小な気泡として拡散)させることができれば、その構成は限定されない。例えば、セラミックディフューザー等を用いることができる。本例では、分岐配管P3の途中に設置された流量調節弁B1により、二酸化炭素混合器23に流入する使用済みの冷却水(海水)の量を調節することができる。
【0020】
二酸化炭素混合器23によって二酸化炭素が混合された海水は、供給配管設備25によって配管(P4,P5)を通じて養殖場31へ供給される。本例では、二酸化炭素混合器23によって二酸化炭素が混合された海水は、輸送配管P4を通って昇圧ポンプ24で所定圧力に昇圧されて複数の供給配管P5へ送出される。供給配管P5の先端は、海100の所定領域に設置された養殖場31へ導かれており、養殖場31に二酸化炭素が混合された海水が供給される。本例では、各供給配管P5に設置された流量調節弁B2により、各供給配管P5の先端から送出される二酸化炭素が混合された海水の流量を調節することができる。なお、昇圧ポンプ24は、必ずしも必要ではなく、輸送配管P4等の輸送経路の長さ、流量等に応じて設置することができる。
【0021】
養殖場31には、例えば、養殖棚32が設置されており、海苔、ワカメ等の海藻の養殖が行われる。養殖場31は海100に設置されているので、岩礁の配置や海流によって海水中の二酸化炭素濃度の濃度差が生じやすい。そこで、各供給配管P5の流量調節弁B2によって、各供給配管P5から送出される流量を調整することにより、養殖場31内における海水中の二酸化炭素濃度の平均化を図ることができる。よって、例えば、養殖場31内の所定の複数箇所(例えば、各供給配管P5の先端の近傍)に水中(海水中)の二酸化炭素濃度の計測センサを配置する。そして、全ての計測センサの計測値が平均化するように、各計測センサの計測値に基づいて各供給配管P5の流量調節弁B2の流量を調整するように構成してもよい。
【0022】
本実施形態では、二酸化炭素分離回収設備21にて火力発電所10の排ガスに含まれる二酸化炭素を分離回収して、二酸化炭素混合器23にて火力発電所10内の復水器14から排出される使用済みの冷却水と混合する。この二酸化炭素が混合された冷却水を供給配管設備25によって海藻の養殖場31へ供給することにより、養殖場31での海藻の成長を促進でき、生産性の向上を図ることができる。また、二酸化炭素分離回収設備21にて回収された二酸化炭素を火力発電所10内の復水器14から排出される使用済みの冷却水を用いて混合することにより、二酸化炭素の混合に使用する水を別途準備する必要がなく、そのための設備を省略することができる。よって、設備コストの増加を抑えて二酸化炭素の有効利用を図ることができる。
【0023】
また、流量調節弁B1によって、二酸化炭素混合器23に流入する海水の流量を調整することにより、各供給配管P5の先端から養殖場31に供給される海水の二酸化炭素濃度を調整することができる。養殖場31で養殖される海藻の育成状態や昼夜によって、光合成に寄与する二酸化炭素の好ましい必要量が変動するため、好ましい必要量に応じて二酸化炭素濃度を調整することができる。
【0024】
なお、本実施形態では、復水器14の冷却水として、海水を使用したが、淡水(工業用水)を使用するものでもよい。淡水を使用する場合は、養殖場31は、海に設置されてあってもよいし、河川または湖沼に設置されてあってもよい。また、養殖場31は、陸上に人工的に設置されていてもよい。よって、養殖場31は、水生植物または藻類を養殖する養殖場であってもよい。水生植物及び藻類のいずれも、淡水で生育するものと海水で生育するものとが含まれる。
【0025】
また、本実施形態では、所定施設として火力発電所10を例に説明したが、これに限らない。二酸化炭素を含む排ガスを発生する燃焼装置と、使用済みの冷却水を排出する冷却装置とを備えている施設であればよく、例えば、セメント工場でもよいし、製鉄所でもよい。セメント工場の場合には、燃焼装置として、セメント原料を焼成してクリンカを製造するためのロータリーキルンを例示することでき、冷却装置として、高温のセメントを冷却水(工業用水)との熱交換により冷却するセメント冷却装置を例示することができる。製鉄所の場合には、燃焼装置として、鉄鉱石を熱処理するための高炉を例示することでき、冷却装置として、高炉等の生産設備を冷却水との熱交換により冷却するための熱交換器を例示することができる。
【0026】
上記説明から、当業者にとっては、本開示の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本開示を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本開示の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【0027】
(まとめ)
本開示のある態様に係る二酸化炭素供給システムは、所定施設内に配置された燃焼装置から排出される二酸化炭素を含む排ガスから二酸化炭素を分離回収する二酸化炭素分離回収設備と、前記二酸化炭素分離回収設備で分離回収された二酸化炭素を、前記所定施設内に配置された冷却装置から排出される使用済みの冷却水に混合する二酸化炭素混合器と、
前記二酸化炭素混合器にて二酸化炭素が混合された冷却水を水生植物または藻類の養殖場へ配管を通じて供給する供給配管設備と、を備えている。
【0028】
この構成によれば、二酸化炭素分離回収設備にて所定施設内の燃焼装置から排出される排ガスに含まれる二酸化炭素を分離回収して、二酸化炭素混合器にて所定施設内の冷却装置から排出される使用済みの冷却水と混合する。この二酸化炭素が混合された冷却水を供給配管設備によって水生植物または藻類の養殖場へ供給することにより、養殖場での水生植物または藻類の成長を促進でき、生産性の向上を図ることができる。また、二酸化炭素分離回収設備にて回収された二酸化炭素を所定施設内の冷却装置から排出される使用済みの冷却水を用いて混合することにより、二酸化炭素の混合に使用する水(海水または淡水)を別途準備する必要がなく、そのための設備を省略することができる。よって、設備コストの増加を抑えて二酸化炭素の有効利用を図ることができる。
【0029】
前記所定施設は、ボイラと、前記ボイラにて生成された蒸気によって駆動される蒸気タービンと、前記蒸気タービンによって駆動される発電機と、前記蒸気タービンの蒸気を海水で冷却して水にして前記ボイラへ循環させる復水器と、前記ボイラにて発生した排ガスを導入して脱硝、集塵および脱硫を行って排出する排ガス処理設備と、を備えた火力発電所であり、前記燃焼装置は、前記ボイラであり、前記冷却装置は、前記冷却水として海水を用いる前記復水器であり、前記二酸化炭素分離回収設備は、前記排ガス処理設備から排出される排ガスを導入して二酸化炭素を分離回収するよう構成されていてもよい。
【0030】
前記供給配管設備は、前記二酸化炭素混合器にて二酸化炭素が混合された冷却水を海に設置された前記養殖場へ供給するよう構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0031】
10 火力発電所
11 ボイラ
12 蒸気タービン
13 発電機
14 復水器
20 二酸化炭素供給システム
21 二酸化炭素分離回収設備
23 二酸化炭素混合器
25 供給配管設備