(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】コーティング装置、処理チャンバ、基板をコーティングする方法、および少なくとも1つの材料層でコーティングされた基板
(51)【国際特許分類】
C23C 14/28 20060101AFI20240703BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
C23C14/28
C23C14/08 K
(21)【出願番号】P 2021523690
(86)(22)【出願日】2019-10-28
(86)【国際出願番号】 EP2019079430
(87)【国際公開番号】W WO2020089180
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-04-12
(31)【優先権主張番号】102018127262.6
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500449363
【氏名又は名称】マックス-プランク-ゲゼルシャフト ツール フェルデルンク デル ヴィッセンシャフテン エー.ファウ.
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】マンハート,ヨッヘン
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-177178(JP,A)
【文献】特開昭62-222058(JP,A)
【文献】特開平06-172981(JP,A)
【文献】国際公開第2016/031727(WO,A1)
【文献】特開平07-068161(JP,A)
【文献】特開平09-263931(JP,A)
【文献】特開2014-133907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/28
C23C 14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層材料(58)からなる少なくとも1つの材料層(56)で基板材料(54)からなる基板(52)をコーティングするためのコーティング装置(1)であって、前記コーティング装置(1)は、
処理空間(12)を有する処理チャンバ(10)であって、前記処理空間(12)が前記処理空間(12)内の固定位置で前記基板(52)を配置するための基板ホルダ(50)を受容し、前記処理空間(12)を少なくとも実質的に完全に囲むチャンバ壁(14)を有する処理チャンバ(10)と、
前記処理空間(12)内にコーティング雰囲気(40)を生成するために前記処理空間(12)に流体連通可能に接続されたガスシステム(30)と、
前記処理空間(12)内に配置され、少なくとも1つのソース材料(66)を有するソースホルダ(60)と、
を備え、
前記ソース材料(66)は、ソース坩堝(62)内に受容され、
前記ソースホルダ(60)および前記基板ホルダ(50)は、前記材料層(56)の層材料(58)を少なくとも部分的に形成するために、熱的に蒸発および/または昇華したソース材料(66)を前記基板(52)上に堆積することができるように、互いに相対的に配置され、
前記コーティング装置(1)は、ソース加熱用レーザ(80)をさらに備え、
前記ソース加熱用レーザ(80)は、レーザ光(84)を連続的にまたは少なくとも実質的に連続的に提供するように構成され、
前記処理チャンバ(10)は、前記処理空間(12)内に前記ソース加熱用レーザ(80)のレーザ光(84)を導出するために、前記チャンバ壁(14)内に少なくとも1つのインカップル部(20)を含むインカップル装置(18)を有し、
前記レーザ光(84)は、前記処理空間(12)内に光ビーム(86)として少なくとも断片的に存在し、
前記ソース材料(66)は、前記レーザ光(84)によって加熱可能であり、前記ソース材料(66)のプラズマ発生閾値未満で熱的に蒸発可能および/または昇華可能であり、
前記処理チャンバ(10)は、前記チャンバ壁(14)の内側(16)に、少なくとも1つのビームキャッチャ(22)を有し、
前記ビームキャッチャ(22)は、前記ソース坩堝(62)の坩堝面(64)および/または前記ソース材料(66)のソース面(68)で反射した前記レーザ光(84)を少なくとも部分的に吸収し、
前記ビームキャッチャ(22)は、前記光ビーム(86)と、前記ソース坩堝(62)の前記坩堝面(64)および/または前記ソース材料(66)の前記ソース面(68)に対する表面法線(112)とが広がる空間面(114)内で、入射角(110)に応じて前記インカップル部(20)の反対側に配置された前記チャンバ壁(14)の部分に配置されることを特徴とする、
コーティング装置(1)。
【請求項2】
前記ソース材料(66)は、前記レーザ光(84)が前記ソース材料(66)のソース面(68)を直接照射することにより、前記レーザ光(84)によって直接加熱可能であり、熱的に蒸発可能および/または昇華可能であることを特徴とする、
請求項1に記載のコーティング装置(1)。
【請求項3】
前記光ビーム(86)は、前記ソース材料(66)を有する前記ソース坩堝(62)の坩堝面(64)に対する表面法線(112)および/または前記ソース材料(66)のソース面(68)に対する表面法線(112)に対して、0°~90°の前記入射角(110)を持つことを特徴とする、
請求項1または2に記載のコーティング装置(1)。
【請求項4】
前記レーザ光(84)の強度および/または波長は、対応する前記ソース材料(66)に適合され、
前記レーザ光(84)は、0.01W~50kWの強度および/または10
-8m~10
-5mの波長を有することを特徴とする、
請求項1~3のいずれか1項に記載のコーティング装置(1)。
【請求項5】
前記ソースホルダ(60)は、2つ以上のソース材料(66)を有し、
前記ソース材料(66)の各々は、前記ソース坩堝(62)内に受容され、
前記ソース材料(66)の各々は、前記レーザ光(84)の別の光ビーム(86)によって加熱可能であり、熱的に蒸発可能および/または昇華可能であり、
前記ソース材料(66)は、互いに異なることを特徴とする、
請求項1~4のいずれか1項に記載のコーティング装置(1)。
【請求項6】
前記インカップル装置(18)は、前記処理空間(12)内に少なくとも2つの別個の前記光ビーム(86)を導出するための共通のインカップル部(20)を有することを特徴とする、
請求項5に記載のコーティング装置(1)。
【請求項7】
前記インカップル装置(18)は、前記処理空間(12)内に前記別個の光ビーム(86)の少なくとも1つをそれぞれ導出するための少なくとも2つの別個のインカップル部(20)を有し、
前記別個のインカップル部(20)のうちの1つによって前記処理空間(12)内にそれぞれ導出される前記光ビーム(86)と、対応する前記ソース坩堝(62)の坩堝面(64)および/または対応する前記ソース材料(66)のソース面(68)に対する前記表面法線(112)とが広がる空間面(114)は、180°未満の角度を持つことを特徴とする、
請求項5または6に記載のコーティング装置(1)。
【請求項8】
少なくとも1つの前記光ビーム(86)、すべての前記光ビーム(86)は、焦点領域(90)を有し、
前記焦点領域(90)において、前記光ビーム(86)は、前記光ビーム(86)の光の方向(88)に垂直な最小範囲を有し、
前記焦点領域(90)は、前記インカップル部(20)と、対応する前記ソース材料(66)または対応する前記ソース坩堝(62)との間の前記処理空間(12)内に配置されることを特徴とする、
請求項1~7のいずれか1項に記載のコーティング装置(1)。
【請求項9】
少なくとも2つの前記光ビーム(86)の焦点領域(90)は、前記処理空間(12)内に少なくとも2つの前記光ビーム(86)を導出するための共通の前記インカップル部(20)を有する前記インカップル装置(18)と、完全に重なることを特徴とする、
請求項8に記載のコーティング装置(1)。
【請求項10】
前記処理チャンバ(10)は、アパーチャ開口部(102)を有する少なくとも1つの加熱用レーザアパーチャ(100)を有し、
前記加熱用レーザアパーチャ(100)は、少なくとも1つの前記光ビーム(86)の焦点領域(90)と前記アパーチャ開口部(102)とが一致または少なくとも実質的に一致するように、前記処理空間(12)内に配置されることを特徴とする、
請求項8または9に記載のコーティング装置(1)。
【請求項11】
前記アパーチャ開口部(102)は、前記ソース加熱用レーザ(80)のレーザ光(84)によって、前記加熱用レーザアパーチャ(100)に形成されることを特徴とする、
請求項10に記載のコーティング装置(1)。
【請求項12】
前記処理チャンバ(10)は、前記少なくとも1つのソース材料(66)および/または対応する前記ソース坩堝(62)の温度を決定するための少なくとも1つの熱電対(70)を有し、
前記少なくとも1つの熱電対(70)および/または前記ソースホルダ(60)は、移動可能な取り付け部(76)を有し、
前記移動可能な取り付け部(76)は、前記熱電対(70)が前記ソース材料(66)および/または対応する前記ソース坩堝(62)に接触する測定位置(72)と、前記熱電対(70)が前記ソースホルダ(60)から離れて移動可能に配置される解放位置(74)との間で前記熱電対(70)を移動させ、および/または前記少なくとも1つの熱電対(70)が測定位置(76)において前記ソース材料(66)および/または対応する前記ソース坩堝(62)に接触する前記ソースホルダ(60)の端部位置を可逆的に提供するために、前記ソースホルダ(60)を移動させることを特徴とする、
請求項1~11のいずれか1項に記載のコーティング装置(1)。
【請求項13】
前記インカップル装置(18)は、前記処理空間(12)内に基板加熱用レーザ(82)のレーザ光(84)を導出するために、前記チャンバ壁(14)に少なくとも1つのさらなるインカップル部(20)を有し、
前記レーザ光(84)は、前記処理空間(12)内に光ビーム(86)として少なくとも断片的に存在し、
前記基板(52)の基板材料(54)は、前記レーザ光(84)によって加熱可能であり、特に直接照射によって直接加熱可能であり、
前記レーザ光(84)は、前記基板材料(54)に適合され、および/または0.01W~50kWの強度および/または10
-6m~10
-4mの波長を有することを特徴とする、
請求項1~12のいずれか1項に記載のコーティング装置(1)。
【請求項14】
前記ガスシステム(30)は、前記処理空間(12)内に処理ガス(42)を供給するための処理ガス供給部(32)と、前記処理空間(12)内に低圧を発生させるためのポンプシステム(34)と、を有し、
前記ポンプシステム(34)は、磁気浮上式ターボポンプ(36)を備えることを特徴とする、
請求項1~13のいずれか1項に記載のコーティング装置(1)。
【請求項15】
層材料(58)からなる少なくとも1つの材料層(56)で基板材料(54)からなる基板(52)をコーティングするためのコーティング装置(1)の処理チャンバ(10)であって、
請求項1~14のいずれか1項に記載のコーティング装置(1)で使用するように構成されることを特徴とする、
処理チャンバ(10)。
【請求項16】
請求項1~14のいずれか1項に記載のコーティング装置(1)において、層材料(58)からなる少なくとも1つの材料層(56)で基板材料(54)からなる基板(52)をコーティングする方法であって、
前記層材料(58)を少なくとも部分的に提供するためにソース材料(66)が使用され、
前記ソース材料(66)は、ソース加熱用レーザ(80)の連続的なレーザ光(84)によって、前記ソース材料(66)のプラズマ発生閾値未満で加熱され、熱的に蒸発および/または昇華されることを特徴とする、
方法。
【請求項17】
前記ソース材料(66)は、前記レーザ光(84)が前記ソース材料(66)のソース面(68)を直接照射することで、前記レーザ光(84)によって直接加熱され、熱的に蒸発および/または昇華されることを特徴とする、
請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記基板(52)の基板材料(54)は、基板加熱用レーザ(82)のレーザ光(84)によって加熱され、
使用される前記レーザ光(84)は、前記基板材料(54)に適合され、および/または0.01W~50kWの強度および/または10
-6m~10
-4mの波長を有することを特徴とする、
請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
前記コーティング装置(1)のガスシステム(30)によって、前記処理空間(12)内には、10
-10mbar~1mbarの圧力を有するコーティング雰囲気(40)が提供されることを特徴とする、
請求項16~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記コーティング装置(1)のガスシステム(30)によって、前記処理空間(12)内には、処理ガスとして、前記材料層(56)の層材料(58)に適合されたガス状物質を有するコーティング雰囲気(40)、特に、処理ガスとして、分子状酸素および/またはオゾンおよび/または窒素および/またはガス状セレン化合物および/またはガス状硫黄化合物を有するコーティング雰囲気(40)が提供されることを特徴とする、
請求項16~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記層材料(58)として、ペロブスカイト構造を有する酸化物が作製され、
前記酸化物は、第1の金属元素と第2の金属元素とを含み、
前記ソース材料(66)として、前記第1の金属元素および前記第2の金属元素、および
少なくとも1つのドーピング元素が、それぞれの前記ソース坩堝(62)に提供され、
前記コーティング雰囲気(40)中の処理ガス(42)として、分子状酸素および/またはオゾンが使用され、
前記酸化物として、ニオブを添加した、且つ前記第1の金属元素としてストロンチウム、前記第2の金属元素としてチタン、および前記ドーピング元素としてニオブを含むチタン酸ストロンチウムが作製されることを特徴とする、
請求項16~20のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層材料からなる少なくとも1つの材料層で基板材料からなる基板をコーティングするためのコーティング装置に関する。該コーティング装置は、処理空間を有する処理チャンバであって、処理空間が処理空間内の固定位置で基板を配置するための基板ホルダを受容し、処理空間を少なくとも実質的に完全に囲むチャンバ壁を有する処理チャンバと、処理空間内にコーティング雰囲気を生成するために処理空間に流体連通可能に接続されたガスシステムと、処理空間内に配置され、少なくとも1つのソース材料(原材料)を有するソースホルダと、を有する。好ましくは、ソース材料は、ソース坩堝内に受容される。さらに、ソースホルダおよび基板ホルダは、材料層の層材料を少なくとも部分的に形成するために、熱的に蒸発および/または昇華したソース材料を基板上に堆積することができるように、互いに相対的に配置される。また、本発明は、層材料からなる少なくとも1つの材料層で基板材料からなる基板をコーティングするためのコーティング装置の処理チャンバに関する。さらに、本発明は、コーティング装置において、層材料からなる少なくとも1つの材料層で基板材料からなる基板をコーティングする方法に関する。本発明のさらなる態様は、層材料を含む少なくとも1つの材料層でコーティングされた基板材料からなる基板を含む、少なくとも1つの材料層でコーティングされた基板に関する。
【背景技術】
【0002】
層材料からなる材料層で基板材料からなる基板をコーティングすることは、一般に従来技術で知られている。例えば、このようなコーティング処理を、集積回路の製造に使用することができる。また、太陽電池などの他の電気部品や電子部品を、コーティング装置内でこのようなコーティング処理を使用して実現することができる。さらに、レーザ技術で使用されるミラーおよび/またはビームスプリッタなどのさらなる製品を、コーティング装置またはコーティング処理を使用して作製することができる。
【0003】
コーティング装置において実施することができる従来技術による既知の基板コーティング方法として、例えば、MBE(分子線エピタキシー法)やPLD(パルスレーザ堆積法)が挙げられる。これらの方法には、特定の利点と欠点がある。
【0004】
例えば、MBEの主な利点は、作製される材料層、特にその層材料の高い化学量論的制御を提供できることである。したがって、MBEにおいて、例えば、層材料が変調ドーピング、すなわち層の厚さに応じて変化するドーピングを持つ材料層を作製することができる。作製される材料層の純度が高いことも、MBEの特徴である。MBEでは、通常、1つまたは複数のソース材料は、電気加熱によって熱的に蒸発および/または昇華され、基板上に堆積される。さらに、MBEでは、例えば、ソース坩堝を適切に選択するなどして蒸発および/または昇華のために使用されるソース材料の表面を増やしたり減らしたりすることで、小さな基板面積から非常に大きな基板面積まで、高い拡張性を提供することができる。
【0005】
しかしながら、ソース材料の熱的な蒸発および/または昇華のために電気加熱を上述したように使用することは、MBEでは不利になる。例えば、特に酸素やオゾンなどの腐食性ガスが存在するコーティング雰囲気では、最大10-5mbar、通常は10-6mbar未満の圧力制限を守る必要がある。これは、例えば、処理空間内に存在する電気素子、特にソース材料および/または基板の加熱素子が腐食し、腐食性ガスによる高い圧力で故障を引き起こす可能性がある。さらに、蒸発および/または昇華したソース材料は、これらの電気素子にいや応なく堆積するため、これらの素子も同様に、例えば短絡などによって対応する電気部品が完全に破壊されるまで損なわれる可能性がある。
【0006】
一方、PLDでは、ソース材料は、非常に短い高エネルギーのレーザパルスによってアブレーションされる。すなわち、材料は、非常に速く蒸発するので、ソース材料からプラズマが形成される。この点において、例えば、使用するレーザによって、パルス持続時間10ns~50ns、繰り返し周波数1~25/秒、およびエネルギー密度10MW/cm2を提供することができる。アブレーション中の爆発的な蒸発によって生成されたソース材料の雲は、粒子の運動エネルギーが平均して高く、爆発的に蒸発したソース材料の粒子の最大速度は、通常、ソース面に対して垂直に発生する。これらの高い圧力により、処理空間内のコーティング雰囲気における高い圧力、特に1mbarの範囲までの圧力も可能である。これらの高い圧力は、高速のソース材料の粒子を減速させるためにしばしば必要である。これにより、一方では基板に損傷を与え、他方では基板へのソース材料の堆積が可能になる。処理空間の内部に電気部品を配置しないようにすることで、PLDにおいて処理ガスに対するさらなる制限が少なくとも実質的に存在しなくなる。
【0007】
しかしながら、PLDでは、MBEのような、基板上で成長する材料層の化学量論を非常に広範囲に制御することはできない、または非常に限られた範囲でしかできない。したがって、PLDでは、材料層またはコーティング材料の化学量論は、使用される材料源の化学量論に加えて、コーティング雰囲気の処理ガスとの反応のみによって、少なくとも実質的に決定される。例えば、MBEに関して上述した層材料の一部としてのドーピングの調節は、特に不可能である。さらに、レーザパルスによるソース材料の上述したアブレーションには、高いレーザエネルギー密度が必要であるという欠点がある。これは、通常、ソース材料において小さい空間的範囲でしか発生させることができないため、この方法を大面積に応用することは容易ではない。従来技術によれば、PLDを使用した大面積のコーティングは、通常、基板の表面を走査することによって実施されていた。例えば10-4mbar未満の低い圧力のコーティング雰囲気も、PLDには不利であることが多い。そうしないと、アブレーションされたソース材料が基板に到達する前に処理ガスと衝突して十分に減速できないからである。
【0008】
以上のように、MBEとPLDでは、特定のコーティング処理にそれぞれ有利な2つの方法が利用可能である。しかしながら、特定の所望の材料層は、いずれの方法でも十分に得られない層材料または層材料組成を必要とする場合がある。したがって、例えば、層材料としての多くの酸化物は、好ましくは分子状酸素および/またはオゾンを含む腐食性のコーティング雰囲気を必要とする。これらの酸化物を安全に生成できるようにするために、コーティング雰囲気の可能な限り高い圧力、特に、例えば10-3mbarの圧力が有利である。しかしながら、上述したように、この圧力範囲は、従来技術によるMBEでは利用できない、または非常に限られた範囲でしか利用できない。同時に、これらの酸化物は、高い化学量論的制御の下で、特に、例えば変調ドーピングでも作製される必要がある。しかしながら、上述したように、これは、対応して一致する圧力範囲で実施することができるPLDでは不可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、コーティング装置または基板をコーティングする方法の上述した欠点を少なくとも部分的に改善することである。特に、本発明の目的は、使用される処理ガスとコーティング雰囲気の圧力の両方に対して好ましくはコーティング雰囲気を同時にほぼ自由に選択することができる高い化学量論的に制御を特に容易且つ安価に提供することができる、コーティング装置と基板をコーティングする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的は、添付の特許請求の範囲に記載の本発明よって達成される。この目的は、特に、独立請求項1の特徴を有する基板をコーティングするためのコーティング装置によって達成される。また、本発明の目的は、独立請求項16の特徴を有するコーティング装置の処理チャンバによって達成される。さらに、本発明の目的は、独立請求項17の特徴を有する基板をコーティングする方法によって達成される。さらに、本発明の目的は、独立請求項23の特徴を有する、少なくとも1つの材料層でコーティングされた基板によって達成される。本発明のさらなる特徴および詳細は、従属請求項、本明細書および添付の図面から得られる。この点において、本発明によるコーティング装置の特徴、詳細および利点は、本発明による処理チャンバ、本発明による方法および本発明によるコーティングされた基板に関連しても適用され、それぞれの場合においてその逆も適用される。そのため、本発明の個別の態様は、互いを常に参照しているか、参照している場合がある。
【0011】
本発明の第1の態様によれば、本発明の目的は、層材料からなる少なくとも1つの材料層を基板材料からなる基板にコーティングするためのコーティング装置によって達成される。該コーティング装置は、処理空間を有する処理チャンバであって、処理空間が処理空間内の固定位置で基板を配置するための基板ホルダを受容するように構成され、処理空間を少なくとも実質的に完全に囲むチャンバ壁を有する処理チャンバと、処理空間内にコーティング雰囲気を生成するために処理空間に流体連通可能に接続されたガスシステムと、処理空間内に配置され、少なくとも1つのソース材料を含むソースホルダと、を備える。好ましくは、ソース材料は、ソース坩堝内に受容される。ここで、ソースホルダおよび基板ホルダは、材料層の層材料を少なくとも部分的に形成するために、熱的に蒸発および/または昇華したソース材料を基板上に堆積することができるように、互いに相対的に配置される。コーティング装置は、ソース加熱用レーザをさらに備える。本発明によるコーティング装置において、ソース加熱用レーザは、レーザ光を連続的にまたは少なくとも実質的に連続的に提供するように構成され、処理チャンバは、処理空間内にソース加熱用レーザのレーザ光を導出するために、チャンバ壁内に少なくとも1つのインカップル部を含むインカップル装置を有し、レーザ光は、処理空間内に光ビームとして少なくとも断片的に存在し、ソース材料は、レーザ光によって、ソース材料のプラズマ発生閾値未満で加熱可能であり、熱的に蒸発可能および/または昇華可能であることを特徴とする。
【0012】
ここで、基板ホルダは、複数の基板を保持するように構成することができ、および/またはコーティング装置は、1つまたは複数の基板を有する複数の基板ホルダを保持するように構成することができることに留意されたい。この点において、コーティング装置は、複数の基板の同時コーティングに使用することができる。
【0013】
基板材料からなる基板は、本発明によるコーティング装置によって、層材料からなる少なくとも1つの材料層で蒸着またはコーティングすることができる。本発明によるコーティング装置は、基板のコーティングを実施することができる処理チャンバを有する。処理チャンバの内部は、処理空間によって実質的に形成される。処理空間は、チャンバ壁によって少なくとも実質的に完全に囲まれている。本発明における「少なくとも実質的に囲まれている」とは、特に、チャンバ壁が、好ましくは完全に閉鎖可能な開口部および/またはリードスルーのみを有することを意味する。
【0014】
MBEで広く使用されているように、チャンバ壁は、多層構造であり得、処理空間内の残留不純物を可能な限り少なくするために、例えばガス冷却または液体冷却されたジャケットを含むことができる。これにより、コーティング雰囲気の圧力を特に低くすることができる。冷却剤として、水、アルコール、液体窒素または液体ヘリウムなどの技術的な冷却剤を使用することができる。
【0015】
このようにして、特に好ましくは、制御可能および/または調整可能なコーティング雰囲気を提供するための閉鎖された処理空間を提供することができる。コーティング雰囲気自体は、本発明によるコーティング装置のガスシステムによって生成される。該ガスシステムは、処理空間に流体連通可能に接続される。
【0016】
本発明におけるコーティング雰囲気は、特に、コーティング雰囲気に使用される処理ガスのパラメータとその圧力によって特徴付けられる。基板のコーティングの過程で蒸発および/または昇華したソース材料の平均自由工程長は、例えば、コーティング雰囲気の圧力によって設定され得る。
【0017】
さらに、作製される材料層またはその層材料に応じて、使用する処理ガスを選択することができる。例えば、酸化物を生成するために、分子状酸素および/またはオゾンを含む処理ガスを使用することで、酸化物の生成に必要な酸化処理を提供することができる。また、処理ガスは、窒化物の生成に必要な元素である窒素を提供することができる。
【0018】
コーティングされる基板は、処理空間自体に配置され、特に、基板ホルダによって受容および保持される。基板ホルダは、全体的に処理空間内の固定位置に配置される。本発明において、このような固定位置の配置は、特に、基板ホルダがさらに全体として回転可能に設けられること、および/または存在する場合には個々の基板が基板ホルダ上で回転可能に設けられることを含む。これにより、それぞれの基板上に作製された材料層の均質性のさらなる改善を提供することができる。ソースホルダが基板ホルダと相対的に配置される。ソースホルダは、少なくとも1つのソース材料を含む。好ましくは、ソース材料は、ソース坩堝に受容される。これにより、使用可能なソース材料の選択可能性を特に大きくすることができる。好ましくは、ソースホルダおよび基板ホルダは、互いに対して平行に、および/または直接対向するように配置される。これにより、ソース材料のソース面および基板の表面は、同様に互いに対して直接対向するように、および/または好ましくは互いに対して平行に配置することができる。
【0019】
本発明において、特にソース坩堝におけるソース材料の受容の代替としてまたはそれに加えて、ソースホルダ内にソース材料を配置および/または固定するためにソース材料自体が使用できるソース要素を使用することができる。したがって、ソース材料は、例えば、棒状および/またはロッド状とすることができる。ここで、この棒の第1の端部が加熱されて熱的に蒸発および/または昇華され、棒は、その側面および/またはその反対側の第2の端部でソースホルダ内に配置および/または固定される。棒の第1の端部が昇華されてさらにこの点で溶融または液化され、同時に棒の残部が冷たく固まったままとなるため、上記方法は、特に熱伝導性の低いソース材料を用いて実現することができる。このようにして、特に長いダウンタイム、すなわちソースの交換が必要ない時間を提供することができる。
【0020】
これにより、熱的に蒸発および/または昇華したソース材料で基板を特に良好且つ均一にコーティングすることができる。ソースホルダと基板ホルダとの間の可能な間隔は、例えば20mm~200mm、好ましくは60mmである。また、ソースホルダまたは個々のソース材料および/またはソース坩堝と基板との間に、シャッターカバーを配置することができる。これにより、基板に対してターゲットを絞って、特に制御および/または調節するように、ソースまたはソース坩堝の蒸発および/または昇華したソース材料に影をつけることができる。これにより、特に材料層の層材料の作製において、所望の高い化学量論的制御が可能になる。
【0021】
さらに、特に好ましくは、ソースホルダと基板ホルダとが少なくとも実質的に同一に形成される。少なくとも実質的に同一とは、特にソースホルダと基板ホルダの大きさの拡大を含む。このようにして、MBEで一般的に知られているような基板ホルダの交換性をソースホルダにも適用することができる。したがって、例えば交換および/または補充用ソースは、処理空間からスライドバルブによってのみ分離された別の保持空間に、独自のソースホルダを提供することができる。
【0022】
保持空間内の雰囲気は、処理空間とは無関係に設定され得る。好ましくは、保持空間は、同様にコーティング雰囲気で満たされる。このようにして、コーティング雰囲気の完全な破壊と再確立を必要とせずに、ソースまたはソースホルダの交換を実施することができる。
【0023】
本発明によるコーティング装置では、本発明の本質的な態様として、ソース加熱用レーザのレーザ光は、ソース材料の熱的な蒸発および/または昇華のために使用される。このため、本発明によるコーティング装置は、ソース加熱用レーザを有する。コーティング装置自体の一部であるソース加熱用レーザは、処理チャンバに直接隣接して配置され、または処理チャンバに直接配置される。さらに、好ましくは、ソース加熱用レーザは、処理チャンバから離れて設置され、ソース加熱用レーザの必要なレーザ光のみを処理チャンバ内に導出することができる。特に、本発明によるコーティング装置の処理チャンバの処理空間内には、ソース加熱用レーザのレーザ光の導出を可能にする少なくとも1つのインカップル部を含むインカップル装置を有する。このために、インカップル部は、処理チャンバのチャンバ壁内に配置される。例えば、インカップル部は、好ましくは石英ガラスから形成されたインカップル窓を有することができる。また、例えば、インカップル部として、例えば光ファイバーのリードスルーも考えられる。
【0024】
本発明によれば、ソース加熱用レーザは、レーザ光を連続的または少なくとも実質的に連続的に提供するように構成される。本発明における「連続的または少なくとも実質的に連続的な提供」とは、例えば、数マイクロ秒以上、好ましくは数ミリ秒以上の時間間隔でのレーザ光の途切れのない放出を含むことができる。これにより、レーザ光がソース材料に連続的または少なくとも実質的に連続的に入射するように、ソース加熱用レーザを動作させることができる。したがって、ソース加熱用レーザは、パルス方式、すなわち、高いレーザエネルギーおよび/または数ナノ秒の範囲のレーザパルスの長さで、動作させないことが特に好ましい。このようにして、特に一定に制御可能または調整可能なレーザ光のエネルギー入力をソース材料に提供することができる。これにより、ソース材料の温度を一定および/または制御可能および調整可能にすることができ、その結果、蒸発速度および/または昇華速度を実現することができる。本発明において、連続的または少なくとも実質的に連続的な提供は、レーザ光の提供が実際に放出フェーズと休止フェーズとの繰り返しシーケンスを含む場合に存在する。ここでは、これらのフェーズの時間的長さは、上述したソース材料の一定の温度が採用されるように設定される。この点において、本発明では、複数の放出フェーズと休止フェーズを含む期間において、ソース材料の温度が30%未満、好ましくは10%未満で変動する場合、その温度は一定であると考えられる。
【0025】
さらに、ソース加熱用レーザのレーザ光のエネルギーは、そのレーザ光によってソース材料のプラズマ発生閾値に到達しないように設定される。つまり、レーザ光によって提供され且つソース材料に作用するエネルギーが十分でないため、レーザ光がソース材料に入射しても、プラズマは発生しない。これにより、ソース材料のプラズマ発生閾値未満で行われるソース材料の純粋な熱的蒸発および/または昇華が保証される。それぞれの材料固有のプラズマ発生閾値を有する異なるソース材料に対して、対応するように生成されたレーザ光または対応するように設計されたソース加熱用レーザを、特に、本発明によるコーティング装置において使用することもできる。
【0026】
レーザ光によるソース材料の加熱、特に熱的な蒸発および/または昇華により、処理チャンバの処理空間内には電気部品がないか、少なくとも実質的に必要ない。そのため、本発明によるコーティング装置では、使用する処理ガスの種類や圧力に関する制限を避けることができる。したがって、ソース材料が基板に到達することを保証するために、コーティング雰囲気の使用圧力は、ソース材料の熱的に蒸発および/または昇華した材料の粒子の自由工程長によってのみ実質的に制限されるか、所望のまたは必要な自由工程長に対して適切に設定することができる。基板とソースホルダとの間の間隔を60mmとすると、コーティング雰囲気の実現可能な圧力は、約10-3mbarとなる。
【0027】
上述したように、ソース材料は、ソースホルダ内に配置される。複数のソース材料、好ましくは異なるソース材料を提供することもできる。これらのソース材料の各々は、基板の対応するコーティングのために、上述したシャッターカバーによって任意に切り替えられる。このようにして、作製された材料層または層材料の高い化学量論的制御を提供することができる。同時に、高いソース純度は、基板上に作製された材料層の層材料の純度に伝達される。高いソース純度は、例えば、既に非常に純粋なソース材料、特にこれらのソース材料を受容するソース坩堝を使用することによって、提供することができる。好ましくは、シャッターカバーは、特に、シャッターカバーのいずれの位置においても、対応するソース坩堝および/または対応するソース材料へのレーザ光の照射が遮断されないように、または少なくとも実質的に遮断されないように配置される。
【0028】
要約すると、本発明によるコーティング装置において、高い化学量論的制御は、コーティング雰囲気のパラメータの選択を同時に自由に、または少なくともほとんど制限せずに、提供することができる。全体として、酸化物は、例えば、コーティング材料として特に容易に作製することができ、同時に化学量論を良好に制御して高い純度を有することができる。これらの酸化物のドーピング、特に変調ドーピングは、本発明によるコーティング装置によって実現することができる。
【0029】
本発明によるコーティング装置において、特に好ましくは、レーザ光がソース材料のソース面を直接照射することにより、レーザ光によってソース材料が直接加熱され、熱的に蒸発および/または昇華される。つまり、ソース加熱用レーザのレーザ光は、ソース材料のソース面に入射するように、コーティング装置の処理空間内に導出される。
【0030】
このようにして、例えばソース坩堝のさらなる要素の中間加熱を介した迂回なしに、レーザ光からソース材料への直接的なエネルギー伝達を提供することができる。したがって、ソース材料のソース面は、少なくとも実質的に処理空間全体の中で最も高温の位置となり、ソース材料の一貫した高い純度を提供することができる。これは、処理空間内の処理ガスおよび/または蒸発または昇華した材料が、好ましくはより低温の位置に堆積するという事実によるものである。これにより、特に高温のソース面は、まったくまたはわずかな汚染をも受けない。
【0031】
さらに、本発明によるコーティング装置において、光ビームは、ソース材料を含むソース坩堝の坩堝面に対する表面法線および/またはソース材料のソース面に対する表面法線に対して、0°~90°、特に30°~70°、好ましくは50°の入射角を持つように構成される。坩堝面および/またはソース面にレーザ光が垂直に入射することを意味する0°の入射角では、照射点または全照射面に特に高いエネルギー密度を提供することができる。
【0032】
その結果、レーザ光とソース材料との間で特に良好なエネルギー伝達を実現することができる。ただし、この場合、上述したように基板をソース材料に対向するような有利な配置を得ることができない。さらに、0°の入射角が可能なレーザ光の後方反射は、レーザソースの不安定性の原因となる。
【0033】
入射角が特に大きいと、レーザ光がソース面に、掃引入射に対して90°で平坦に入射する。これにより、レーザ光のエネルギーは、ソース材料のより大きな範囲に分配されるため、単位面積当たりのエネルギー伝達量が減少する。30°~70°の入射角、好ましくは50°の入射角は、上述した極端な値に対する良好な妥協点である。これにより、レーザ光のエネルギーをソース材料に良好に伝達することができ、同時に、ソースホルダおよび基板ホルダの好ましい相対的配置を提供することができる。さらに、レーザ溶接に関する研究結果によれば、30°~70°の入射角では、金属表面によるレーザ光の吸収が改善されることが報告されている
また、本発明によるコーティング装置において、レーザ光の強度および/または波長は、対応するソース材料に適合され、好ましくは、レーザ光は、0.01W~50kWの強度および/または10-8m~10-5mの波長を有する。ソース材料に対するレーザ光の強度および/または波長の適合設計は、例えば、ソース材料の蒸気圧および/または吸収挙動を考慮して行うことができる。したがって、蒸気圧が高いソース材料は、蒸気圧が低いソース材料よりも低いレーザ光の出力または強度を必要とする。また、吸収能力が高いソース材料は、例えば、高い反射率がソース材料の吸収能力を減少させるソース材料よりも低いレーザ光の強度によって加熱され、熱的に蒸発および/または昇華され得る。
【0034】
ソース材料の吸収挙動は、特に照射波長に依存することがある。これは、ソース加熱用レーザのレーザ光の波長を対応して選択することで考慮することができる。全体として、本発明によるコーティング装置の好ましい本実施形態では、ソース材料に適合するように適切なソース加熱用レーザを選択して、ソース材料を特に良好に加熱して、熱的な蒸発および/または昇華を行うことができる。
【0035】
さらに、本発明によるコーティング装置において、処理チャンバは、チャンバ壁の内側に、少なくとも1つのビームキャッチャを有する。ビームキャッチャは、反射したレーザ光、特にソース坩堝の坩堝面および/またはソース材料の表面で反射したレーザ光を少なくとも部分的に吸収する。ビームキャッチャは、光ビームと、ソース坩堝の坩堝面および/またはソース材料のソース面に対する表面法線とが広がる空間面内で、入射角に応じてインカップル部の反対側に配置されたチャンバ壁の部分に配置される。
【0036】
ソース坩堝やソース材料にレーザ光を照射すると、坩堝面および/またはソース面でレーザ光が反射することがある。この反射は、通常、少なくとも実質的に反射の法則に従って行われる。そこで、本発明によるコーティング装置の本実施形態において、ビームキャッチャは、坩堝面またはソース面に対する表面法線とレーザ光の入射角に対する表面法線とが広がる空間面内で、インカップル部の入射角に応じた空間領域におけるチャンバ壁に配置される。このビームキャッチャにより、チャンバ壁に直接入射したレーザ光の反射によるチャンバ壁の加熱を防止することができる。
【0037】
つまり、ビームキャッチャによって、チャンバ壁の加熱によるさらなるソースの加熱を防止することができる。特に好ましくは、ビームキャッチャは、この目的のために積極的に冷却され得る。このようにして、反射したレーザ光によって加熱されたチャンバ壁の点における脱気および/または蒸発によるコーティング雰囲気中の汚染物質を減少させる、または完全に防止することができる。また、このようにして、基板上に生成された材料層の純度をさらに高めることができる。
【0038】
さらに、本発明によるコーティング装置において、ソースホルダは、2つ以上、特に3つ、好ましくは6つのソース材料を有する。これらのソース材料は、好ましくはソース坩堝内に受容される。ソース材料は、レーザ光の別の光ビームによって加熱可能であり、熱的に蒸発可能および/または昇華可能であり、ソース材料は、好ましくは互いに異なる。このようにして、特に、複数のソース材料、好ましくは異なるソース材料を、単一のソースホルダで提供することができる。ここでは、6つ以上のソース材料、例えば12のソース材料も考えられる。これにより、異なる層材料を有する材料層を連続的に実装および作製することができる。また、好ましくは個々のソース坩堝に提供された異なるソース材料を同時に加熱し、熱的に蒸発および/または昇華させることにより、例えば、上述したシャッターカバーによって制御および/または調節されるような、最も多様な組成を有する層材料を作製することもできる。特に、個々のソース材料または個々のソース坩堝は、別のレーザ光ビームによって加熱され、熱的に蒸発および/または昇華され得る。これらの別の光ビームは、異なるソース加熱用レーザから供給されるか、または光ビームが例えばビームスプリッタによって分割されて個々のソース材料に供給される単一のソース加熱用レーザから供給され得る。これに関して、個々のソース坩堝またはソース材料のそれぞれの光ビームは、少なくとも、対応する設定要素によって好ましくは調節可能および制御可能な異なる強度を有する。例えば、個々のソース材料によるレーザ光の吸収を高めるために、異なる波長を有する光ビームを提供することができる。
【0039】
本発明によるコーティング装置のさらなる実施例において、インカップル装置は、処理空間内に少なくとも2つの別個の光ビームを導出するための共通のインカップル部を有する。このようにして、例えば、共通の真空フランジによって、処理空間内に2つの別個の光ビームを導入することができる。このようにして、処理チャンバの設計、特に処理空間を囲むためのチャンバ壁の設計を簡素化することができる。特にこれに関して、2つの別個の光ビームは、共通のインカップル窓を介して処理空間内に導出される。代替的に、別個の光ビームのためのそれぞれのインカップル窓をインカップル部に設けることもできる。
【0040】
さらに代替的にまたは追加的に、本発明によるコーティング装置において、インカップル装置は、処理空間内に別個の光ビームの少なくとも1つをそれぞれ導出するための少なくとも2つの別個のインカップル部を有する。特に、別個のインカップル部のうちの1つによって処理空間内に導出されるそれぞれの光ビームと、対応するソース坩堝の坩堝面および/または対応するソース材料のソース面に対する表面法線とが広がる空間面は、180°未満、好ましくは90°~150°、特に好ましくは120°の角度を持つ。
【0041】
本発明における「代替的にまたは追加的に」とは、特に、2つ以上の別個の光ビームについて、複数のこれらの光ビームが、共通のインカップル部を共有することができること、および全体として、すべての光ビームが、少なくとも2つのインカップル部によって、処理空間内に導出されることを意味する。これにより、本発明によるコーティング装置の企画および設計における自由度を高めることができる。
【0042】
したがって、本発明によるコーティング装置の好ましい実施形態において、例えば、6つのソース坩堝またはソース材料を有するソースホルダの場合、これらのソース材料のそれぞれ3つが、トリプルとして、ソースホルダ上で互いに120°の間隔で配置される。これらのソース材料トリプルのソース材料の各々は、別個の光ビームによって加熱され、熱的に蒸発および/または昇華される。ここで、好ましくは、ソース材料トリプルのための光ビームは、共通のインカップル部内の処理空間内にそれぞれ導出される。
【0043】
つまり、共通のインカップル部から供給される光ビームのトリプルバンドルは、ソース材料トリプルの各々に提供される。このように存在する2つのインカップル部は、処理チャンバのチャンバ壁に互いに離間して配置される。これらのインカップル部は、個々の光ビームとそれぞれのソース面の表面法線とが広がる空間面が互いに180°未満、好ましくは120°の角度で配置されるように、互いに対して角度をつけて配置される。これにより、特に、一方のインカップル部の光ビームの、他方のインカップル部への反射を防止することができる。このようにして、特に、チャンバ壁の対応する位置に、対応するように反射した光ビームのための対応するビームキャッチャを配置することができる。
【0044】
また、本発明によるコーティング装置において、少なくとも1つの光ビーム、好ましくはすべての光ビームは、焦点領域を有する。焦点領域において、光ビームは、光ビームの光の方向に垂直な最小範囲を有する。焦点領域は、インカップル部と、対応するソース材料または対応するソース坩堝との間の処理空間内に配置される。一般に、このような焦点領域での光ビームの集束によって、インカップル部、特にインカップル部のインカップル窓における光ビームの範囲を可能な限り大きくすることができる。このようにして、ソース加熱用レーザのレーザ光の導出に伴うインカップル部の負荷を低くすることができ、同時に焦点領域を選択することができる。これにより、特にソース材料のソース面の理想的な照射によるソース材料の良好な加熱、ならびに熱的な蒸発および/または昇華を保証することができる。
【0045】
インカップル部とソース材料またはソース坩堝との間の焦点領域の配置によって、ソース材料またはソース坩堝からの間隔が大きくなるにつれて、光ビームがソース材料またはソース坩堝の後ろにさらに伸びていく。つまり、ソース材料またはソース坩堝の後ろの間隔が大きくなるにつれて、光ビームのエネルギー密度が小さくなる。このようにして、インカップル部から見た場合の焦点領域、または存在しない場合はソース材料またはソース坩堝の後ろで起こり得るチャンバ壁への損傷、特に意図しない損傷を、確実に回避することができる。
【0046】
さらに好ましくは、本発明によるコーティング装置において、少なくとも2つの光ビームの焦点領域は、処理空間内に少なくとも2つの光ビームを導出するための共通のインカップル部を有するインカップル装置と、特に完全にまたは少なくとも実質的に完全に重なる。特に、光ビームの焦点領域は、光ビームのエネルギー密度、すなわち単位面積当たりの光エネルギーが最大になる領域である。このエネルギー密度は、特に材料および/またはコーティング装置の構成要素を損傷する危険性があるほど高くなる。
【0047】
少なくとも2つの光ビームの焦点領域は、一致または重なり合っているため、言い換えれば、焦点を共有する。これにより、特に、光ビームのエネルギー密度が高い位置の数を最小限に抑えることができる。このようにして、コーティング装置の材料に対する危険性を低減することができる。2つの別個の光ビームの焦点領域を一致させるために必要な、2つの光ビームの空間的な近接性は、2つの光ビームを同じインカップル部で処理空間内に導出することによって、特に容易に提供することができる。
【0048】
特に好ましくは、本発明によるコーティング装置において、処理チャンバは、アパーチャ開口部を有する少なくとも1つの加熱用レーザアパーチャを有する。ここで、加熱用レーザアパーチャは、少なくとも1つの光ビームの焦点領域とアパーチャ開口部とが一致または少なくとも実質的に一致するように、処理空間内に配置される。好ましくは、このような加熱用レーザアパーチャは、光および/または材料を通さないアパーチャ材料から形成することができる。
【0049】
少なくとも1つの光ビームの焦点領域におけるアパーチャ開口部を有する加熱用レーザアパーチャの配置によって、加熱用レーザアパーチャ自体も同様に、インカップル部とソースホルダまたはソース材料および対応するソース坩堝との間に配置される。好ましくは、加熱用レーザアパーチャは、光ビームの光の方向に対して少なくとも実質的に垂直に形成または配置される。
【0050】
少なくとも1つの光ビームの焦点領域と加熱用レーザアパーチャのアパーチャ開口部とが一致または少なくとも実質的に一致するように加熱用レーザアパーチャを配置することで、加熱用レーザアパーチャによる光ビームへの影響がないか、少なくとも実質的に影響がないことを保証することができる。同時に、ソース加熱用レーザの光ビームによって蒸発および/または昇華され、インカップル部の方向に伝搬するソース材料は、加熱用レーザアパーチャによって収集される。加熱用レーザアパーチャは、ソースホルダとインカップル部との間に配置されているので、蒸発または昇華したソース材料は、加熱用レーザアパーチャ上に堆積または少なくとも実質的に堆積する。
【0051】
したがって、好ましくは、ソースホルダから見た加熱用レーザアパーチャは、インカップル部を完全にまたは少なくとも実質的に完全に覆う。このようにして、インカップル部、特にインカップル部のインカップル窓へのソース材料の堆積を防止または少なくとも大幅に低減することができる。これにより、インカップル部に対する耐用年数の延長、メンテナンスの多発性の低減、またはメンテナンスサイクルの延長を提供することができる。
【0052】
特に好ましくは、本発明によるコーティング装置において、アパーチャ開口部は、ソース加熱用レーザのレーザ光によって、加熱用レーザアパーチャに形成される。つまり、アパーチャ開口部を加熱用レーザアパーチャに焼き付けて、または加熱用レーザアパーチャの材料をソース加熱用レーザのレーザ光によって局所的に溶融して、アパーチャ開口部が形成される。これには2つの大きな利点がある。例えば、加熱用レーザアパーチャのアパーチャ開口部の局所的な配置によって、光ビームの焦点領域の位置に特に容易に適合させることができる。また、光ビームの焦点領域に適合したアパーチャ開口部の理想的な大きさも、このようにして特に容易に提供することができる。
【0053】
さらに、本発明によるコーティング装置において、処理チャンバは、少なくとも1つのソース材料および/または対応するソース坩堝の温度を決定するための少なくとも1つの熱電対を有する。特に、少なくとも1つの熱電対および/またはソースホルダは、移動可能な取り付け部を有する。移動可能な取り付け部は、熱電対がソース材料および/または対応するソース坩堝に接触する測定位置と、熱電対がソースホルダから離れて移動可能に配置される解放位置との間で熱電対を移動させ、および/または少なくとも1つの熱電対が測定位置においてソース材料および/または対応するソース坩堝に接触するソースホルダの端部位置を可逆的に提供するために、ソースホルダを移動させる。
【0054】
このような熱電対によって、特に、ソース材料またはソース坩堝の温度、すなわちソース材料の少なくとも間接的な温度を測定することができる。また、この測定された温度値は、特に、例えば、ソース加熱用レーザの制御および/または調節、好ましくはソース加熱用レーザに対する制御および/または調節のために使用することができる。このようにして、本発明によるコーティング装置では、特に蒸発および/または昇華したソース材料について、一定のコーティング条件を特に容易に提供することができる。
【0055】
好ましくは、少なくとも1つの熱電対は、例えば取り付け部を介して、処理チャンバ内に移動可能に配置される。したがって、熱電対は、例えば、それぞれのソース材料またはソース坩堝に弾性的に接触する。ソース材料またはソース坩堝に接触する測定位置と、ソース材料またはソース坩堝に対して離れるように配置された解放位置との間の熱電対の移動により、特に熱電対によって妨げられることなく、ソースホルダ自体を同様に移動することができる。このようにして、基板ホルダと同様に、ソースホルダの上述した交換を、特に熱電対によって妨げられることなく、特に容易に行うことができる。
【0056】
代替的にまたは追加的に、ソース坩堝内に好ましくは受容されるソース材料が配置されたソースホルダは、処理空間内に移動可能に配置され得る。このようにして、熱電対の実質的な固定位置、好ましくは測定位置におけるソースホルダの移動について、ソースホルダを、熱電対に向かうように下げることで端部位置に移動させることができる。このソースホルダの端部位置では、熱電対は、特にソース材料および/またはソース坩堝に弾性的に接触する。本実施形態において、上述したソースホルダの交換は、基板と同様に、特に熱電対によって妨げられることなく、特に容易に実施することができる。
【0057】
また、本発明によるコーティング装置において、インカップル装置は、処理空間内に基板加熱用レーザのレーザ光を導出するために、チャンバ壁に少なくとも1つのさらなるインカップル部を有する。ここで、レーザ光は、処理空間内に光ビームとして少なくとも断片的に存在し、基板の基板材料は、レーザ光によって加熱可能であり、特に直接照射によって直接加熱可能である。好ましくは、レーザ光は、基板材料に適合され、および/または0.01W~50kWの強度および/または10-6m~10-4mの波長を有する。
【0058】
基板加熱用レーザの光ビームによって基板を加熱することで、ソース材料に加えて基板自体も処理空間内で最も高温になる場所の1つを生成することができる。このようにして、特定の純度の層材料で基板をコーティングすることができる。蒸発した層材料が基板の表面上に可能な限り均一に分布するために、蒸発した層材料が加熱された基板から運動エネルギーを引き出すことができるため、加熱された基板は、材料層の特に均一な成長を可能にする。通常使用される基板は、ソース材料とは異なる吸収特性を有しているため、好ましくは、ソース加熱用レーザよりも長い波長を有するレーザが使用される。したがって、セラミックおよび/またはそれ自体が酸化物である基板には、例えば、10μmの長波長のレーザを使用することができる。基板加熱用レーザとしてCO2レーザを使用することは、透明な基板の場合に特に有利であることが判明している。
【0059】
さらに、本発明によるコーティング装置おいて、ガスシステムは、処理空間内に処理ガスを供給するための処理ガス供給部と、処理空間内に低圧を発生させるためのポンプシステムと、を有する。ポンプシステムは、磁気浮上式ターボポンプを備える。特に、ガスシステムのこのような処理ガス供給部によって、処理空間内のコーティング雰囲気に特定の処理ガスを供給することができる。
【0060】
一般的に且つ原理的に、すべてのガス状物質を処理ガスとして使用することができる。本発明において、10-3mbar以下の範囲の低圧について、処理空間内に残る残留ガスは、特に、ガスシステムによって提供される処理ガスとして理解される。
【0061】
例えば、酸化物を作製する際の処理ガスとしては、分子状酸素および/またはオゾンを含むガスを使用することができる。
【0062】
対照的に、材料層の層材料として窒化物を所望に生成するには、NH3または分子状窒素、特に例えばイオン化窒素の使用を必要とする場合がある。
【0063】
セレンおよび/または硫黄を含むコーティング雰囲気のために、さらに処理ガスを使用することも考えられる。
【0064】
コーティング雰囲気の圧力は、ポンプシステムによって広範囲に提供することができる。ポンプシステムによって、10-10mbar~1mbarの範囲の圧力を生成することができる。
【0065】
従来技術による既知のポンプシステムは、特に、処理チャンバの処理空間と潤滑支持型ターボポンプとの間に、変化するスライドバルブを有する。ここで、ポンプシステムの吸引力の設定、ひいては処理空間内の圧力の設定は、特に、スライドバルブの開状態によって提供される。これには、処理空間の総容積がスライド値によって増加して、特に高真空または超高真空以下の低い範囲で、特に低圧に到達することがより困難になるという欠点を有する。
【0066】
したがって、本発明では、ポンプシステムは、処理空間に直接隣接するポンプシステム内に好ましくは配置される磁気浮上式ターボポンプが設けられる点で、改善されている。特に、この直接配置は、ターボポンプの磁気支持により潤滑剤が不要であるために可能となる。これにより、停電などの障害が発生した場合でも、ターボポンプのスイッチを切っても、潤滑剤の拡散による処理空間内の汚染なしに、ターボポンプを処理空間の一部に保持することができる。
【0067】
この磁気浮上式ターボポンプの吸引口は、処理空間に対して適合することができ、特に大きくすることができる。これにより、吸引される空間を全体的に減少させることができ、低い圧力範囲への到達を容易にすることができる。
【0068】
磁気浮上式ターボポンプの圧縮比に対して著しく小さいスライドバルブは、磁気浮上式ターボポンプに隣接して設けることができる。ただし、このスライドバルブは、完全に閉鎖または解放するためにのみ設けられる。
【0069】
磁気浮上式ターボポンプは、提供される上流側の圧力に応じて、到達可能な圧力レベルが制限される。そのため、潤滑支持型ターボポンプは、磁気浮上式ターボポンプの起動圧力を低くするために、スライドバルブに隣接して配置される。
【0070】
さらに、第2のターボポンプの上流に接続された、例えばスクロールポンプ、好ましくはダイアフラムポンプなどの操作のための粗引きポンプを設けることができる。
【0071】
ただし、この潤滑支持型ターボポンプは、粗引きや裏引きポンプにしか使用されないため、従来技術で使用されるターボポンプよりもかなり小型化することができる。このようにして、全体的に10-10mbar以下の範囲までの圧力を提供することができる。
【0072】
障害が発生した場合、上述したスライドバルブによって、第2のターボポンプの潤滑剤が処理空間内に有害に拡散するのを防止することができる。このようにして、2つのターボポンプは、互いに重なるように接続されて、好ましくは連続的に稼働される。
【0073】
コーティング処理が実施されない限り、少なくとも大型の磁気浮上式ターボポンプは、フル回転速度で運転され、ポンプ間のスライドバルブは、開いている。この点において、処理空間内に供給可能な全末端圧力を損なうことなく、小型の潤滑支持型ターボポンプを公称回転速度の20%で連続運転することさえできる。
【0074】
これにより、コーティング処理中に、大型のターボポンプの前に設置された開度を変化させることができるバルブを使用することなく、大型のターボポンプの回転速度を変化させることで、コーティング雰囲気の圧力調節を実現することができる。
【0075】
市販のターボポンプでは、この回転速度を20%~100%の範囲で正確(±0.01%)に設定することができる。これにより、供給可能な圧力の約10の倍数に相当する範囲でポンプ容量を細かく調節することができる。
【0076】
そのため、コーティング雰囲気としての処理ガスの特定の処理圧力を設定するために、圧力は、例えば質量流量レギュレータによって制御される処理ガスの流入によって2の倍数の範囲で事前に定義することができ、その後、磁気浮上式ターボポンプの回転速度の調節によって微調整することができる。
【0077】
この回転速度の調節は、その周波数仕様により、従来技術によるスライドバルブを介した機械的な調節よりも、現在のマイクロプロセッサ機器によって、はるかに正確且つ再現性よく行うことができる。つまり、処理空間の内部におけるコーティング雰囲気の圧力レベルの制御は、好ましくはスライドバルブの位置を介して行われるのではなく、処理ガス供給部による処理ガスの供給速度を考慮して、磁気浮上式ターボポンプの回転周波数を介して行われる。これにより、従来技術と比較して、処理空間内の圧力レベルをより正確に、特に容易に調整することができる。
【0078】
また、本発明は、層材料からなる少なくとも1つの材料層で基板材料からなる基板をコーティングするためのコーティング装置に関する。コーティング装置は、処理空間を有する処理チャンバであって、処理空間が処理空間内の固定位置で基板を配置するための基板ホルダを受容し、処理空間を少なくとも実質的に完全に囲むチャンバ壁を有する処理チャンバと、処理空間内にコーティング雰囲気を生成するために処理空間に流体連通可能に接続されたガスシステムと、処理空間内に低圧を発生させるためのポンプシステムと、を有し、ポンプシステムは、処理空間に直接隣接するようにポンプシステム内に配置された磁気浮上式ターボポンプを備える。
【0079】
さらに、ポンプシステムを上述したように構成することができる。このようなポンプシステムによって、より少ない汚染で、上述したコーティングを基板上に堆積することができる。
【0080】
本発明の第2の態様によれば、本発明の目的は、層材料からなる少なくとも1つの材料層で基板材料からなる基板をコーティングするためのコーティング装置の処理チャンバによって達成される。本発明による処理チャンバは、本発明の第1の態様によるコーティング装置で使用するように構成されることを特徴とする。本発明の第2の態様による処理チャンバは、本発明の第1の態様によるコーティング装置での使用のために提供される。つまり、本発明の第2の態様による処理チャンバは、本発明の第1の態様によるコーティング装置において、またはそれによって、またはそれと共に使用することができる。したがって、本発明の第1の態様によるコーティング装置に関して上述した利点及び特徴のすべてを、本発明の第2の態様によるコーティング装置のための処理チャンバと併せて提供することができる。本発明の第2の態様による処理チャンバは、本発明の第1の態様によるコーティング装置の処理チャンバに関して上述した特徴のうちの少なくとも1つ、特に複数、好ましくはすべてを有することができる。
【0081】
本発明の第3の態様によれば、本発明の目的は、本発明の第1の態様によるコーティング装置において、層材料からなる少なくとも1つの材料層で基板材料からなる基板をコーティングする方法によって達成される。本発明による方法において、層材料を少なくとも部分的に提供するためにソース材料が使用され、ソース材料は、ソース加熱用レーザの連続的または少なくとも実質的に連続的なレーザ光によって、ソース材料のプラズマ発生閾値未満で加熱され、熱的に蒸発および/または昇華される。本発明の第3の態様による方法は、本発明の第1の態様によるコーティング装置で実施される。したがって、本発明の第1の態様によるコーティング装置に関して上述した利点のすべては、本発明の第3の態様による基板のコーティング方法に関連して提供することもできる。
【0082】
本発明によれば、これらの利点は、層材料を少なくとも部分的に提供するためにソース材料が使用される点で提供される。ここで、ソース材料は、コーティング装置のソース加熱用レーザの連続的または少なくとも実質的に連続的なレーザ光によって、ソース材料のプラズマ発生閾値未満で加熱され、熱的に蒸発および/または昇華される。ソース材料へのレーザ光の連続的または少なくとも実質的に連続的照射により、特に、ソース材料の温度を30%未満、好ましくは10%未満にすることができる。これにより、ソース材料の連続的または少なくとも実質的に連続的な蒸発速度および/または昇華速度を提供することができる。ソース材料のプラズマ発生閾値未満のエネルギーを有するレーザ光を使用することにより、ソース材料のプラズマ発生閾値未満で実施されるソース材料の純粋に熱的な蒸発および/または昇華をさらに確実にすることができる。好ましくは、このレーザ光は、インカップル装置またはそのインカップル部を介して、コーティング装置の処理空間内に結合される。これにより、ソース材料を加熱するための電気装置を処理空間の内部で省略することができ、例えば、使用される処理ガスの選択および/またはコーティング雰囲気の圧力レベルに対して、処理空間の内部でそのような電気部品によって引き起こされるすべての制限を防止することができる。
【0083】
特に好ましくは、本発明による方法において、ソース材料は、レーザ光がソース材料のソース面を直接照射することで、レーザ光によって直接加熱され、熱的に蒸発および/または昇華される。これにより、特に、例えば対応するソース材料を受容するソース坩堝の中間的な加熱なしに、ソース加熱用レーザのレーザ光からソース材料への特に良好なエネルギー伝達を提供することができる。このようにして、ソース面が処理空間内で最も高温な点の1つであることをさらに保証することができる。このようにして、コーティング処理全体を通して、ソース材料の純度を実現することができる。
【0084】
また、本発明による方法は、基板加熱用レーザのレーザ光によって基板の基板材料が加熱されるように、特に直接照射によって直接加熱されるように、設計することができる。好ましくは、使用されるレーザ光は、基板材料に適合され、および/または0.01W~50kWの強度および/または10-6m~10-4mの波長を有する。
【0085】
本発明による方法において、基板加熱用レーザのレーザ光の光ビームによって提供されるような基板の加熱によって、ソース材料と同様に、ソース材料の加熱に関して上述したすべての利点を含む状態で、電気部品が処理空間内に存在しなくても、基板材料を加熱することができる。また、ソース材料に加えて、基板自体を処理空間内の最も高温の場所の1つとして形成することもできる。このようにして、特定の純度の層材料を用いた基板をコーティングすることができる。
【0086】
さらに、蒸発した層材料が加熱された基板から運動エネルギーを引き出して基板の表面に可能な限り均一に分布するため、加熱された基板では、材料層の成長が特に均一になる。
【0087】
通常、対応するように使用される基板がソース材料とは異なる吸収特性を持つため、好ましくは、基板加熱用レーザとして、ソース加熱用レーザよりも長い波長を有するレーザを使用する。したがって、セラミックおよび/またはそれ自体が酸化物である基板には、例えば、10μmの波長を有する長波長のレーザを使用することができる。特に、CO2レーザを、例えば基板加熱用レーザとして、透明な基板のために使用することができる。
【0088】
さらに、本発明による方法において、コーティング装置のガスシステムによって、処理空間内には、10-10mbar~1mbar、好ましくは10-3mbar未満の圧力を有するコーティング雰囲気が提供され得る。
【0089】
上述したように、ソース材料を加熱して熱的に蒸発および/または昇華させるためにレーザ光を使用することで、ソース材料を加熱するための電気装置を処理空間の内部で省略することができる。このようにして、作製される所望の層材料に応じて、独立して処理空間内にコーティング雰囲気を生成することができる。ここで、コーティング雰囲気の対応する圧力は、特に10-10mbar~1mbarの広い範囲で、作製される層材料に合わせて適切に設定することができる。このようにして、特にその圧力レベルに対して、特に多用途で適合されたコーティング雰囲気を提供することができる。
【0090】
好ましくは、圧力レベルは、例えば、処理空間内の熱的に蒸発および/または昇華したソース材料の平均自由工程長に設定され得る。これは、例えば、圧力レベル約10-3mbarで、ソース材料のソース面とコーティングされる基板との間の距離が60mmである。
【0091】
これには、ソース材料の粒子がインカップル部または入口窓に到達する前に処理ガスで複数回散乱され、集中的に誘導されなくなり、処理チャンバのチャンバ壁の内側全体に平均して均質に衝突するか、処理ガスとともに処理チャンバから排出されるため、インカップル部における蒸発、特に例えば入口窓の占有面積がさらに低減されるという利点がある。
【0092】
さらに、本発明による方法において、コーティング装置のガスシステムは、処理ガスとして、材料層の層材料に適合されたガス状物質を有するコーティング雰囲気、特に、処理ガスとして、分子状酸素および/またはオゾンおよび/または窒素および/またはガス状セレン化合物および/またはガス状硫黄化合物を有するコーティング雰囲気を、処理空間内に提供することができる。
【0093】
一般的に且つ原理的に、すべてのガス状物質を処理ガスとして考えることができる。本発明において、10-3mbar以下の範囲の低圧について、処理空間内に残る残留ガスは、特に、ガスシステムによって提供される処理ガスとして理解される。
【0094】
基板をコーティングするための材料層のためのいくつかの層材料の作製は、処理ガスの対応する選択によって促進されるか、それによって可能にすることができる。したがって、例えば、分子状酸素および/またはオゾンによって、処理ガスの一部として、材料層の層材料として酸化物を作製することができる。これは、酸化物の形成に必要な酸化処理は、分子状酸素および/またはオゾンによって提供されるこの酸素を必要とするためである。
【0095】
同様に、層材料としての窒化物は、分子状窒素とイオン化窒素の両方を含む窒素によって形成することができる。ガス状セレン化合物および/または硫黄化合物は、非常に反応性の高い処理ガスであり、例えば太陽電池の製造に使用することができる。また、これらの反応性の高い攻撃性処理ガスは、ソース材料の加熱、ならびに熱的な蒸発および/または昇華のためにソース加熱用レーザの光ビームを使用することにより、反応性の高い処理ガスにさらされる電気部品を処理空間の内部で省略することができるという点で有利である。
【0096】
本発明による方法において、特に好ましくは、層材料として、ペロブスカイト構造を有する酸化物、特に、少なくとも1つのドーピング元素を添加した且つペロブスカイト構造を有する酸化物が作製される。酸化物は、第1の金属元素と第2の金属元素とを含む。ソース材料として、第1の金属元素および第2の金属元素、および特に少なくとも1つのドーピング元素が、好ましくはそれぞれのソース坩堝に提供され、コーティング雰囲気中の処理ガスとして、分子状酸素および/またはオゾンが使用される。
【0097】
全体として、すべての固体または液体の要素および物質は、一般的に、熱レーザ蒸発による材料合成のためのソース材料として考えることができる。ここで、蒸発は、固相からの昇華として実施することができ、すべてのガス状物質は、使用される処理ガスに同時に使用することができる。
【0098】
さらにこのようにして、固体および液体の要素、化合物、および物質の混合物は、本発明による方法によって層材料として作製され得る。特に、本発明による方法によって、層材料としてエピタキシャル配向した結晶性固体を含む層材料を作製することができる
特定の実施形態において、第1の金属元素は、例えばストロンチウムを含むことができ、第2の金属元素は、例えばチタンを含むことができ、使用される場合には、ドーピング元素は、ニオブを含むことができる。
【0099】
特に、酸化物として、ニオブを添加した、且つ第1の金属元素としてストロンチウム、第2の金属元素としてチタン、およびドーピング元素としてニオブを含むチタン酸ストロンチウムを作製することができる
チタン酸ストロンチウムなどの複雑な酸化物は、MBEによる作製が特に困難である。これは、酸化物の生成に必要な酸化処理が実施される、例えば酸素および/またはオゾンなどの処理ガスが、コーティング雰囲気として必要な場合が多いことに起因する。PLDでは、ペロブスカイト構造を有する酸化物を層材料として作製することができるが、多くの場合、PLDの中核をなすアブレーションにより、それぞれの酸化物の特定の所望の化学量論を提供することができない。
【0100】
これは、特に、酸化物のより揮発性の高い成分の過剰供給がこの目的のために必要となることに起因する。上述したように、ペロブスカイト構造を有する酸化物のドーピングは、PLDによってのみ提供することができるが、コーティング手段としてのPLDでは、調節および/または変化されたドーピングが不可能であるか、少なくとも実質的に不可能であるという困難を伴う。本発明による方法を使用することで、特に変化されたドーピングで層材料として、ペロブスカイト構造を有する酸化物を作製することができる。
【0101】
これは、特に、一方では、材料層の作製における化学量論に対して必要な制御が、変化させた温度でのソース材料の熱的な蒸発および/または昇華と、対応するシャッターカバーによる個々のソース材料の切り替えとによって提供されるという事実によるものである。その他方では、ソース材料の加熱および熱的な蒸発および/または昇華のためにソース加熱用レーザの光ビームを使用することにより、処理空間内およびコーティング雰囲気中で電気部品を同時に省略することができる。これにより、コーティング雰囲気のパラメータの選択における制限を少なくとも部分的に回避することができ、使用される処理ガスと設定される圧力レベルの両方に対して、作製される酸化物に理想的に適合することができる。さらに、吸収が制御された条件下で成長させることができ、有限脱離において堆積される化合物の揮発性成分の過剰供給により、理想的な材料組成が自己調整されて得られることになる。また、1つではなく、複数の元素および化合物を含む揮発性成分が存在することもできる。特に、堆積される層のすべての成分が揮発性であり得る。これにより、処理を任意に平衡に、すなわち表面への材料の堆積が最初に開始される地点に近づけることができる。これは、純元素(グラフェンなど)または化合物(窒化ホウ素などのいわゆる2次元材料)の層の場合に興味深い。ここでは、そこから発生する個々の2次元結晶が可能な限り大きくなるように、最初の核形成は可能な限り時間をかけて実施する必要がある。
【0102】
要約すると、本発明による方法によって、特に、本発明によるコーティング装置において本発明による方法を使用することによって、ペロブスカイト構造を有する酸化物などの原理的に任意の材料を、基板にコーティングするための層材料として提供することができる。ここで、この材料または酸化物の添加、好ましくは変化するおよび/または変調ドーピングも特に実現することができる。このような酸化物の特定の例として、調節されたニオブの添加を含むチタン酸ストロンチウムが挙げられる。
【0103】
本発明の第4の態様によれば、本発明の目的は、層材料からなる少なくとも1つの材料層でコーティングされた基板材料からなる基板を含む、少なくとも1つの材料層でコーティングされた基板によって達成される。本発明によるコーティングされた基板では、少なくとも1つの材料層でコーティングされた基板は、本発明の第1の態様によるコーティング装置において、および/または本発明の第3の態様による方法を使用して作製されることを特徴とする。したがって、本発明の第4の態様による本発明のコーティングされた基板の作製は、本発明の第1の態様によるコーティング装置および/または本発明の第3の態様による基板のコーティング方法を使用して実施される。したがって、本発明の第1の態様によるコーティング装置または本発明の第3の態様による方法に関して上述したすべての利点および特徴は、本発明の第4の態様によるコーティングされた基板に関連して提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
以下、図面を参照して本発明のさらなる特徴および利点を記載する。同じ機能および動作モードを有する要素は、個々の図において同じ参照符号で示されている。
【
図1】本発明によるコーティング雰囲気を模式的に示す図である。
【
図2】本発明によるコーティング装置の処理チャンバを模式的に示す図である。
【
図3】レーザ放射の第1の実施形態を模式的に示す図である。
【
図4】レーザ放射の第2の実施形態を模式的に示す図である。
【
図5】レーザ放射の第3の実施形態を模式的に示す図である。
【
図6】加熱ビームアパーチャを有する光ビームを模式的に示す図である。
【
図8】特別なソース坩堝の設計を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0105】
図1は、本発明による方法を実施するように構成された本発明によるコーティング装置1の実質的な外部設計を示している。したがって、本発明によるコーティング装置1は、特に、当該システムの中核を形成する処理チャンバ10、好ましくは本発明による処理チャンバ10を備える。図示しないコーティング処理は、処理チャンバ10の内部で実施される。
図2には、処理チャンバ10、特に本発明による処理チャンバ10、または処理空間12(図示せず)の可能な内部設計が示されている。ガスシステム30は、処理チャンバ10の内部に、コーティング雰囲気40(図示せず)を提供する。このために、ガスシステム30は、特に、処理ガス42を処理チャンバ10の内部に導出することができる処理ガス供給部32を有する。特に処理チャンバに直接隣接するように配置された磁気浮上式ターボポンプ36を有するポンプシステム34は、処理チャンバ10の内部に必要な圧力レベルを発生させる。特に、広い範囲の圧力レベルは、好ましくは、本発明によるポンプシステムによって提供することができ、例えば、10
-10mbar~1mbar、好ましくは10
-3mbar未満の圧力を有する。
【0106】
本発明の本質的な態様である本発明によるコーティング装置1において、ソース材料66(図示せず)は、ソース加熱用レーザ80のレーザ光84の光ビーム86によって加熱され、熱的に蒸発および/または昇華され得る。少なくとも1つのソース加熱用レーザ80は、特に、本発明によるコーティング装置1の構成要素である。ここで3つの光ビーム86に分割されて示されているこのレーザ光84は、インカップル装置18のインカップル部20を介して、処理チャンバ10の内部に導出され得る。
【0107】
さらに、同様にインカップル装置18のインカップル部20を介して結合された基板加熱用レーザ82が示されている。これにより、処理チャンバ10の内部で基板52(図示せず)を加熱することができる。外部から供給されるレーザ光84を使用することで、特に、処理チャンバ10の内部で電気部品を少なくとも実質的に省略することができる。
【0108】
このようにして、本発明によるコーティング装置1では、MBEで必要とされるようなこれらの電気部品によるコーティング雰囲気40の圧力に関する制限や処理ガス42の選択に関する制限を回避することができる。したがって、例えば、上述したような10-10mbar~1mbarの広い圧力範囲を有するコーティング雰囲気40を使用することができる。分子状酸素および/またはオゾンおよび/または窒素および/またはガス状セレン化合物および/またはガス状硫黄化合物などの非常に腐食性の高い処理ガス42も、少なくとも実質的に制限なしに使用することができる。これにより、例えば、ペロブスカイト構造を有する酸化物、特に変調ドーピングを有する酸化物、例えば、変調されたニオブを添加したチタン酸ストロンチウムを提供することができる。
【0109】
図2は、一例として、本発明によるコーティング装置1の処理チャンバ10の内部、すなわち処理空間12内の設計を示している。処理チャンバ10、特にそのチャンバ壁14は、特定の圧力レベルにおける処理ガス42を含むコーティング雰囲気40が配置された処理空間12を形成する。
【0110】
図に示すように、チャンバ壁14は、多層設計とすることができる。これにより、処理チャンバ10内または真空内に冷却プレートが形成される。冷却プレートは、例えば、動作中に液体窒素で満たされて、約77Kまで冷却され得る。MBEにおける従来技術と同様に、この冷却プレートは、熱シールドを形成し、不純物を凍結させることにより、残留ガスまたはコーティング雰囲気40中の不要な元素および化合物の分圧を低減することができる。
【0111】
チャンバ壁14の内側16は、処理空間12を少なくとも実質的に完全に囲む。ここで、チャンバ壁14を通るリードスルーは、閉じられ且つ密閉されて、処理空間12内にコーティング雰囲気40を拘束して保持する。基板52を有する基板ホルダ50は、処理空間12の内部に配置される。さらに、ソースホルダ60は、処理空間12の内部に配置され、図に示すように、好ましくは異なるソース材料66を有する複数のソース坩堝62を保持することができる。
図2に示されていない本発明によるコーティング装置1の代替的または追加的な実施形態において、適切なソース材料66は、ソースホルダ60内のソース坩堝62なしに、例えば、棒状および/またはロッド状の実施形態で配置することもできる。
【0112】
さらに、本発明によるコーティング装置1のソース加熱用レーザ80が示されている。ここでは、レーザ光84の3つの光ビーム86は、ソース坩堝62内の個々のソース材料66に関連付けられ、好ましくは、それらを直接且つ即座に照射して、それらを加熱して、熱的に蒸発および/または昇華させる。
【0113】
この点において、ソース加熱用レーザ80は、レーザ光84を連続的にまたは少なくとも実質的に連続的に提供するように構成される。これにより、それぞれのレーザ光84を、対応するソース材料66に連続的にまたは少なくとも実質的に連続的に照射することができ、特に、対応するソース材料66にレーザ光84の一定且つ制御可能または調整可能なエネルギー入力を提供することができる。このようにして、ソース材料66のそれぞれの温度を一定および/または制御可能および調整可能にすることができ、結果として、蒸発速度および/または昇華速度を実現することができる。さらに、ソース加熱用レーザ80のレーザ光84のエネルギーは、ソース材料66のプラズマ発生閾値がレーザ光84によって到達しないように設定される。つまり、レーザ光84がソース材料66に入射しても、プラズマは発生しない。これにより、それぞれのソース材料66の純粋な熱的な蒸発および/または昇華を保証することができる。
【0114】
図に示すように、好ましくは、基板ホルダ50およびソースホルダ60は、互いに直接対向するように配置することができる。これにより、ソース材料66の特に良好な蒸発および/または昇華、あるいは基板52上へのソース材料66の蒸発が実施され得る。
【0115】
さらに、好ましくは、レーザ光84のそれぞれの強度および/または波長は、ソース材料66の加熱、および特に熱的な蒸発および/または昇華をさらに改善するように、対応するソース材料66に適合され得る。レーザ光84のパラメータは、例えば、0.01W~50kWの強度および/または10-8m~10-5mの波長であり得る。
【0116】
これにより、対応するソース材料66に対して使用されるそれぞれのレーザ光84を特に良好に適合させることができる。さらに、光ビーム86は、焦点領域90を有することができる。図に示すように、好ましくは、焦点領域90は、個々の光ビーム86について重なることができる。アパーチャ開口部102を有する加熱用レーザアパーチャ100は、この重なる焦点領域90に適合されるように配置される。
【0117】
この点において、好ましくは、アパーチャ開口部102は、ソース加熱用レーザ80自体の光ビーム86によって、加熱用レーザアパーチャ100内に導入される。図に明らかに示すように、加熱用レーザアパーチャ100は、ソースホルダ60とインカップル装置18のインカップル部20との間に配置され得る。これにより、インカップル部20に対する蒸発および/または昇華したソース材料66の影響を低減することができるか、完全に回避することができる。
【0118】
この配置はさらに、レーザ光84の3つの光ビーム86がより良好に認識される
図3にも示されている。さらに、
図3では、インカップル装置18の共通のインカップル部20によって、3つの光ビーム86が処理空間12またはコーティング雰囲気40内に導入され得ることが明確に示されている。また、ソースホルダ60とインカップル部20との間の直接的な経路が、アパーチャ開口部102の小さな領域を除いて、加熱用レーザアパーチャ100によって覆われていることも明確に示されている。このようにして、ソース材料66の蒸発および/または昇華した材料は、インカップル部20まで到達することなく、加熱用レーザアパーチャ100に完全にまたは少なくとも実質的に完全に堆積する。
【0119】
図4は、代替的な実施形態を示している。ここでは、
図3とは対照的に、ソースホルダ60上にソース材料66のための6つの異なる位置が設けられる。図において、そのうちの3つだけが、ソース坩堝62内のソース材料66によって占められている。ここでは、それぞれの場合において、ソース坩堝62がレーザ光84の別個の光ビーム86によって照射され、これらの光ビーム86は、2つの異なる側面からソースホルダ60に照射される。これは、インカップル装置18が2つの相互に分離したインカップル部20(図示せず)を有することで可能になる。
【0120】
ソース加熱用レーザ80のレーザ光84のトリプル光ビーム86の各々は、加熱用レーザアパーチャ100のアパーチャ開口部102が対応してそれぞれの場合において配置される共通の焦点領域90を有する。
【0121】
このようにして、基板ホルダ50内の基板52は、全体的に、ソースホルダ60内のソース材料66に対向するように且つ平行に配置され、さらに、様々な異なるソース材料66でコーティングされ得る。特に、本発明によるコーティング装置1および/または本発明による方法を使用して、少なくとも1つの材料層56(
図8参照)でコーティングされた本発明による基板52を作製することができる。
【0122】
図に示すように、好ましくは、インカップル装置18の2つのインカップル部20は、別個のインカップル部20の1つによって処理空間12内に導出されるそれぞれの光ビーム86と、対応するソース坩堝62の坩堝面64および/または対応するソース材料66のソース面68に対する表面法線112とが広がる空間面114(図示せず)が、180°未満、好ましくは90°~150°、特に好ましくは120°の角度を持つように配置される。
【0123】
より明確に理解されるように、1つの坩堝面64または1つのソース面66、および1つの表面法線112のみが示されている。これにより、一方のインカップル部20から他方のインカップル部20への光ビーム86の反射を回避することができる。
【0124】
図5には、ソース材料66が配置されたソース坩堝62が同様に模式的に示されている。レーザ光84の光ビーム86は、入射角110、特に30°~70°、好ましくは50°の入射角110で、ソース材料66のソース面68に入射するように、または対応して広がっている場合にはソース坩堝62の坩堝面64に入射するように、処理空間12内に導出される。
図4に関連して上述したように、
図5に破線で示すようにレーザ光84が反射する場合がある。
【0125】
反射したレーザ光84によるチャンバ壁14の加熱を防止するために、チャンバ壁14の内側16にビームキャッチャ22が配置される。特に好ましくは、ビームキャッチャ22の配置位置は、表面法線112とレーザ光86の光の方向88とが広がる空間面114に配置される。さらに、配置位置は、少なくとも実質的に反射の角度でもある入射角110に応じて決定される。冷却されるように設計することもできるビームキャッチャ22によって、チャンバ壁14の加熱およびそれによる処理空間12の内部における汚染源が生じる可能性を回避することができる。
【0126】
図6は、
図5に関連して上述した空間面114におけるソース加熱用レーザ80からのレーザ光84の光ビーム86を模式的に示している。光ビーム86は、光の方向88に垂直な焦点領域90でその最小の範囲を有することが特に明確に見える。したがって、加熱用レーザアパーチャ100のアパーチャ開口部102は、この焦点領域90に配置される。このようにして、照射されたレーザ光84によって蒸発および/または昇華したソース材料66は、加熱用レーザアパーチャ100によってほぼ完全に捕捉されるため、インカップル装置18のインカップル部20に到達することができない。このようにして、インカップル部20の耐用年数、特にインカップル部20の一部であるインカップル窓の耐用年数を延ばすことができる。
【0127】
図7には、ソースホルダ60内のソース坩堝62の可能な実施形態が示されている。2つのソース坩堝62の各々は、異なるソース材料66で満たされる。一方のソース材料66は、ソース加熱用レーザ80のレーザ光84の光ビーム86によって、直接且つ即座に照射および加熱され、熱的に蒸発および/または昇華される。ソース材料66のそれぞれの温度は、測定位置72における熱電対70によって決定することができる。例えば、ソースホルダ60の移動のため、例えばソースホルダ60の交換のために、熱電対70は、移動可能な取り付け部76を有することができる。これにより、熱電対70は、測定位置72から解放位置74に移動することができる。このようにして、熱電対70によるソースホルダ60の移動の妨げを回避することができる。代替的にまたは追加的に、熱電対70が測定位置72に固定的または実質的に固定的に取り付けられるような機構を提供することもできる。ここで、伝達部(図示せず)上でソースホルダ60を下降または上昇させることにより、ソース坩堝62の下側との解放可能な接触を達成することができる。
【0128】
次に、
図8は、ソース坩堝62およびその中に配置されたソース材料66の代替実施形態を示している。
図7に示すソース坩堝とは対照的に、
図8では、これらのソース坩堝62はより深く形成されている。これに対応して、より多量のソース材料66をこれらの代替ソース坩堝62に配置することができる。
【0129】
図8において、シャッターカバー24が同様に示されている。これにより、破線で示すように、蒸発および/または昇華したソース材料66を捕捉することができ、基板52の基板材料54の蒸発を有効や無効に切り替えることができる。このようにして、本発明によるコーティング装置1(図示せず)において、または本発明による方法によって、基板52の基板材料54上に作製される材料層56の層材料58を特に良好に且つ化学量論的に正確に制御することができる。さらに、
図8には、基板52を加熱することができる基板加熱用レーザ82が示されている。さらに、レーザ光84の光ビーム86を有するソース加熱用レーザ80およびアパーチャ開口部102を有する加熱用レーザアパーチャ100も示されている。
【符号の説明】
【0130】
1 コーティング装置
10 処理チャンバ
12 処理空間
14 チャンバ壁
16 内側
18 インカップル装置
20 インカップル部
2 ビームキャッチャ
24 シャッターカバー
3 ガスシステム
32 処理ガス供給部
34 ポンプシステム
36 ターボポンプ
40 コーティング雰囲気
42 処理ガス
50 基板ホルダ
52 基板
54 基板材料
56 材料層
58 層材料
60 ソースホルダ
62 ソース坩堝
64 坩堝面
66 ソース材料
68 ソース面
70 熱電対
72 測定位置
74 解放位置
76 取り付け部
80 ソース加熱用レーザ
82 基板加熱用レーザ
84 レーザ光
86 光ビーム
88 光の方向
90 焦点領域
100 加熱用レーザアパーチャ
102 アパーチャ開口部
110 入射角
112 表面法線
114 空間面