(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】運搬車両の車体フレーム、運搬車両、及び、運搬車両の車体フレーム製造方法
(51)【国際特許分類】
B62D 21/18 20060101AFI20240703BHJP
B62D 21/02 20060101ALI20240703BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20240703BHJP
B60P 1/04 20060101ALI20240703BHJP
B62D 53/00 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
B62D21/18 G
B62D21/02 Z
B23K31/00 F
B60P1/04 Z
B62D53/00 C
B62D53/00 Z
(21)【出願番号】P 2021556140
(86)(22)【出願日】2020-11-12
(86)【国際出願番号】 JP2020042199
(87)【国際公開番号】W WO2021095796
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2019204759
(32)【優先日】2019-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻元 健照
(72)【発明者】
【氏名】三輪 博史
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-006855(JP,A)
【文献】実開昭58-194903(JP,U)
【文献】特開2004-322925(JP,A)
【文献】国際公開第2009/104798(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/024784(WO,A1)
【文献】特開2000-127727(JP,A)
【文献】特開2008-290674(JP,A)
【文献】特開2018-047861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 21/18
B23K 31/00
B60P 1/28
B60D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントフレームと、リアフレームと、これらフロントフレーム及びリアフレームを連結する自在継手と、を備える運搬車両の車体フレームであって、
前記車体フレームは、前記フロントフレーム及び前記リアフレームを備え、
前記フロントフレーム及び前記リアフレームのうち少なくとも前記フロントフレームは、
幅方向に互いに間隔をあけて前後方向に延びる一対のサイドメンバ、及び、前記一対のサイドメンバにわたって幅方向に延びるクロスメンバを有するフレーム本体と、
前記サイドメンバと前記クロスメンバとを溶接によって互いに固定する少なくとも一箇所のフレーム溶接部と、
を備え、
前記フレーム溶接部の溶接止端部を含む領域に、該フレーム溶接部に沿って延びる打撃痕を有し、
前記フロントフレームは、前記自在継手に連結される前記クロスメンバとしてのヒンジメンバをさらに備え、
該ヒンジメンバは、
複数の板材と、
これら複数の板材を溶接によって互いに固定する少なくとも一箇所のヒンジメンバ溶接部と、を備え、
前記ヒンジメンバ溶接部の溶接止端部を含む領域に、該ヒンジメンバ溶接部に沿って延びる打撃痕を有
し、
前記サイドメンバは、
前後方向に延びる一対の側板と、
前記側板の上端部及び下端部を幅方向に接続する接続板と、
前記側板と前記接続板とを隅肉溶接によって互いに固定するサイドメンバ溶接部と、
を備え、
前記サイドメンバ溶接部の溶接止端部を含む領域は、打撃痕を有していない運搬車両の車体フレーム。
【請求項2】
前記サイドメンバは、該サイドメンバの端部に平面部又は開先部を有し、
前記フレーム溶接部は、前記サイドメンバの平面部又は開先部と前記クロスメンバとを隅肉溶接によって固定するビードである
請求項1に記載の運搬車両の車体フレーム。
【請求項3】
前記板材は、該板材の端部に開先部を有し、
前記ヒンジメンバ溶接部は、前記板材の端部の開先部を隅肉溶接によって固定している請求項1又は2に記載の運搬車両の車体フレーム。
【請求項4】
前記フレーム本体に配置されて、構造物を支持可能なブラケットと、
前記フレーム本体と前記ブラケットとを隅肉溶接によって互いに固定する少なくとも一箇所のブラケット溶接部と、
をさらに備え、
前記ブラケット溶接部の溶接止端部を含む領域に、該ブラケット溶接部に沿って延びる打撃痕を有する
請求項1から3のいずれか一項に記載の運搬車両の車体フレーム。
【請求項5】
フロントフレームと、
リアフレームと、
これらフロントフレーム及びリアフレームを連結する自在継手と、
を備え、
前記フロントフレーム及び前記リアフレームのうち少なくとも前記フロントフレームは、請求項1から
4のいずれか一項に記載の運搬車両の車体フレームである運搬車両。
【請求項6】
幅方向に互いに間隔をあけて前後方向に延びる一対のサイドメンバ、及び、前記一対のサイドメンバにわたって幅方向に延びるクロスメンバを有するフレーム本体を準備する工程と、
前記サイドメンバと前記クロスメンバとを溶接によって互いに固定する少なくとも一箇所のフレーム溶接部を形成する工程と、
前記フレーム溶接部の溶接止端部を含む領域に、該フレーム溶接部に沿って延びる打撃痕が形成されるようにピーニング処理を施す工程と、
を含
み、
前記サイドメンバは、
前後方向に延びる一対の側板と、
前記側板の上端部及び下端部を幅方向に接続する接続板と、
前記側板と前記接続板とを隅肉溶接によって互いに固定するサイドメンバ溶接部と、
を備え、
前記サイドメンバ溶接部の溶接止端部を含む領域には、打撃痕を形成するピーニング処理を施さない運搬車両の車体フレーム製造方法。
【請求項7】
前記サイドメンバは、該サイドメンバの端部に平面部又は開先部を有し、
前記フレーム溶接部は、前記サイドメンバの平面部又は開先部と前記クロスメンバとを隅肉溶接によって固定するビードである
請求項
6に記載の運搬車両の車体フレーム製造方法。
【請求項8】
他の構造物を支持可能なブラケットを、前記フレーム本体に配置する工程と、
前記フレーム本体と前記ブラケットとを溶接によって互いに固定する少なくとも一箇所のブラケット溶接部を形成する工程と、
前記ブラケット溶接部の溶接止端部を含む領域に、該ブラケット溶接部に沿って延びる打撃痕が形成されるようにピーニング処理を施す工程と、
を含む
請求項
6又は7に記載の運搬車両の車体フレーム製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運搬車両の車体フレーム、運搬車両、及び、運搬車両の車体フレーム製造方法に関する。
本願は、2019年11月12日に日本に出願された特願2019-204759号について優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ダンプトラック(運搬車両)の車体フレームの構造が開示されている。車体フレームは、一対のサイドメンバと、これらにわたって配置されたクロスメンバとを溶接部によって固定することで構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような運搬車両では、より高い生産性と低燃費性が求められている。この要求に応じて車体フレームの軽量化を図るには、例えば従来よりも高強度の鋼材を薄肉化して用いる場合がある。しかしながら、高強度の鋼材を溶接して車体フレームを形成した場合、溶接部の引張り残留応力が大きくなるため、薄肉化した鋼材の板厚に適した溶接を行うだけでは疲労強度が低下する可能性がある。そのため、車体フレームを構成する材料に関わらず、一般に車体フレームにおける溶接部の疲労強度を向上することが求められている。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、溶接部の疲労強度を向上させることができる運搬車両の車体フレーム、運搬車両、及び、運搬車両の車体フレーム製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一の態様に係る車体フレームは、フロントフレームと、リアフレームと、これらフロントフレーム及びリアフレームを連結する自在継手と、を備える運搬車両の車体フレームであって、前記車体フレームは、前記フロントフレーム及び前記リアフレームを備え、前記フロントフレーム及び前記リアフレームのうち少なくとも前記フロントフレームは、幅方向に互いに間隔をあけて前後方向に延びる一対のサイドメンバ、及び、前記一対のサイドメンバにわたって幅方向に延びるクロスメンバを有するフレーム本体と、前記サイドメンバと前記クロスメンバとを溶接によって互いに固定する少なくとも一箇所のフレーム溶接部と、を備え、前記フレーム溶接部の溶接止端部を含む領域に、該フレーム溶接部に沿って延びる打撃痕を有する。前記フロントフレームは、前記自在継手に連結される前記クロスメンバとしてのヒンジメンバをさらに備え、該ヒンジメンバは、複数の板材と、これら複数の板材を溶接によって互いに固定する少なくとも一箇所のヒンジメンバ溶接部を備え、前記ヒンジメンバ溶接部の溶接止端部を含む領域に、該ヒンジメンバ溶接部に沿って延びる打撃痕を有し、前記サイドメンバは、前後方向に延びる一対の側板と、前記側板の上端部及び下端部を幅方向に接続する接続板と、前記側板と前記接続板とを隅肉溶接によって互いに固定するサイドメンバ溶接部と、を備え、前記サイドメンバ溶接部の溶接止端部を含む領域は、打撃痕を有していない。
【0007】
本発明の一の態様に係る運搬車両は、フロントフレームと、リアフレームと、これらフロントフレーム及びリアフレームを連結する自在継手と、を備え、前記フロントフレーム及び前記リアフレームのうち少なくとも前記フロントフレームは、上記の運搬車両の車体フレームである。
【0008】
本発明の一の態様に係る運搬車両の車体フレーム製造方法は、幅方向に互いに間隔をあけて前後方向に延びる一対のサイドメンバ、及び、前記一対のサイドメンバにわたって幅方向に延びるクロスメンバを有するフレーム本体を準備する工程と、前記サイドメンバと前記クロスメンバとを溶接によって互いに固定する少なくとも一箇所のフレーム溶接部を形成する工程と、前記フレーム溶接部の溶接止端部を含む領域に、該フレーム溶接部に沿って延びる打撃痕が形成されるようにピーニング処理を施す工程と、を含み、前記サイドメンバは、前後方向に延びる一対の側板と、前記側板の上端部及び下端部を幅方向に接続する接続板と、前記側板と前記接続板とを隅肉溶接によって互いに固定するサイドメンバ溶接部と、
を備え、前記サイドメンバ溶接部の溶接止端部を含む領域には、打撃痕を形成するピーニング処理を施さない。
【発明の効果】
【0009】
上記態様の運搬車両の車体フレーム、運搬車両、及び、運搬車両の車体フレーム製造方法によれば、溶接部の疲労強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る運搬車両としてのアーティキュレートダンプトラックの側面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る運搬車両の車体フレームの斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る運搬車両の車体フレームの分解斜視図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る運搬車両の製造方法の一部の手順を示すフローチャートである。
【
図9】本発明の実施形態に係る運搬車両の製造方法の一部の手順を示すフローチャートである。
【
図10】第一変形例の溶接部の構造を示す模式的な図である。
【
図11】第二変形例の溶接部の構造を示す模式的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<ダンプトラック(運搬車両)>
以下、本発明の実施形態について
図1~
図8を参照して詳細に説明する。
図1に示すように、運搬車両の一例としてのダンプトラック100は、車体フレームとしてのフロントフレーム1及びリアフレーム2を備える。フロントフレーム1又はリアフレーム2をフレーム本体10と称する。また、フロントフレーム1とリアフレーム2とは自在継手3で接続され、相互が揺動自在に連結されており、ダンプトラック100は、アーティキュレート型のダンプトラックである。
【0012】
リアフレーム2には、後輪4及びベッセル5が設けられている。ベッセル5はリアフレーム2に対して起伏自在に設けられる。ベッセル5は油圧アクチュエータであるホイストシリンダ6が伸縮することによって起伏する。
フロントフレーム1には、前輪7、キャブ8及びエンジンルーム9が設けられている。エンジンルーム9は、キャブ8の前方に配され、外装カバー9aによって覆われている。
【0013】
<フロントフレーム>
フロントフレーム1は、詳しくは
図2及び
図3に示すように、フレーム本体10と、各構造物を支持可能なブラケット20とを有している。
【0014】
<フレーム本体>
フレーム本体10は、一対のサイドメンバ11と、クロスメンバ12とを有している。以下の説明において、「固定する」といった文言は、溶接により接合されることや締結部材により固定されることを意味する。
【0015】
<サイドメンバ>
サイドメンバ11は、一対の側板11a、上板11b(接続板)、下板11c(接続板)、及び、中板11dを有している。側板11aは、ダンプトラックの前後方向に延びるとともに、厚さ方向の両面を車幅方向に向けて配置されている。上板11bは、側板11aの上側の端縁(上端部)を覆っている。下板11cは、側板11aの下側の端縁(下端部)を覆っている。上板11b及び下板11cは、前後方向から見て、側板11aの延びる方向に対して交差するように結合されている。
【0016】
側板11aは、主部11mと、上部分岐部11uと、下部分岐部11lと、を有している。上部分岐部11u及び下部分岐部11lは、主部11mの後方に一体に設けられており、互いに上下方向に分岐している。上部分岐部11uは、下部分岐部11lに対して、上方に間隔をあけて配置されている。中板11dは、これら上部分岐部11uと下部分岐部11lにおける互いに対向する端縁に取り付けられている。
【0017】
<クロスメンバ>
本実施形態ではクロスメンバ12として、バンパ12A、ドディオンクロス12B、及び、ヒンジメンバ12Cを有している。ドディオンクロス12Bは、ドディオン式アクスル(不図示)と固定接続されているトレーリングアーム(不図示)を、揺動自在に支持するクロスメンバ12である。
【0018】
バンパ12Aは、サイドメンバ11の前方の端部に取り付けられている。バンパ12Aは、上方に向かって開口する箱状をなしている。
ドディオンクロス12Bは、一対のサイドメンバ11同士の間に車幅方向にわたって掛け渡されている。ドディオンクロス12Bは、サイドメンバ11における下方を向く面、つまり下板11cに取り付けられている。
【0019】
ヒンジメンバ12Cは、サイドメンバ11の後方の端部に取り付けられている。ヒンジメンバ12Cは、自在継手3と連結される連結部3Cを有する。ヒンジメンバ12Cは、組み合わされた複数の板状のパーツが互いに固定されることで構成されている。
【0020】
<ブラケット>
本実施形態では、ブラケット20として、シートブラケット21、エンジンブラケット22、前部キャブブラケット23、後部キャブブラケット24、サスペンションブラケット25、ステアリングブラケット26、及びトランスミッションマウントブラケット27が設けられている。これらブラケット20はいずれもフレーム本体10に固定されている。
【0021】
シートブラケット21は、サイドメンバ11における車幅方向の外側を向く各面にそれぞれ1つずつ設けられている。
エンジンブラケット22は、サイドメンバ11における車幅方向の内側を向く各面にそれぞれ1つずつ設けられている。エンジンブラケット22はエンジン(不図示)を支持する。
【0022】
前部キャブブラケット23はサイドメンバ11における上方を向く面にそれぞれ1つずつ設けられている。前部キャブブラケット23は、サイドメンバ11から上方に向かって延びている。
後部キャブブラケット24はヒンジメンバ12Cの上面に固定されている。これら前部キャブブラケット23及び後部キャブブラケット24の上端によってキャブ8が支持される。
【0023】
サスペンションブラケット25はサイドメンバ11における前部キャブブラケット23の後方に間隔をあけて設けられている。サスペンションブラケット25は、サスペンションシリンダ(不図示)を支持する。なお、一対のサスペンションブラケット25の上端同士を車幅方向にわたるように、バーチカルメンバ30が固定されている。バーチカルメンバ30は、左右両端においてサスペンションブラケット25の上面にボルトによって締結され固定される。
【0024】
ステアリングブラケット26はサイドメンバ11における車幅方向の外側を向く各面にそれぞれ1つずつ設けられている。ステアリングブラケット26は、サスペンションブラケットの下方に位置している。トランスミッションマウントブラケット27はサイドメンバ11における車幅方向の内側を向く面にそれぞれ1つずつ設けられている。
【0025】
<第一溶接部(フレーム溶接部)>
ここで、
図4に示すように、サイドメンバ11とクロスメンバ12とは、少なくとも一箇所の第一溶接部(フレーム溶接部)B1によって互いに固定されている。第一溶接部B1は、サイドメンバ11とクロスメンバ12との接合部に沿って形成された隅肉溶接によるビード、サイドメンバ11の端部に開先部を設けた隅肉溶接、及び、突合せ溶接によるビードのいずれかである。開先を設ける場合、例えばサイドメンバ11の端部をレ型開先と呼ばれる開先を設けるようにしてもよい。
図4は、サイドメンバ11の端部が平面である平面部を有し、開先を設けない場合を例示した図である。なお、隅肉溶接は、
図4では、サイドメンバ11の片面だけに隅肉を形成した片面隅肉溶接を示しているが、サイドメンバ11の両面に隅肉を形成できる場合には、両面隅肉溶接として第一溶接部B1を形成してもよい。さらに、
図4では、サイドメンバ11の端部がクロスメンバ11の表面に溶接される場合を例示するが、サイドメンバ11の表面の一部とクロスメンバ11の表面の一部とが重なりあい、それぞれの端部の部分で溶接を行うことで第一溶接部B1を形成するものであってもよい。より詳細には、この第一溶接部B1は、溶接によって生じた溶融池が冷却硬化して生じた部分を指し、溶接作業時にサイドメンバ11の一部、又はクロスメンバ12の一部が溶融硬化した場合には当該一部も含む。
【0026】
第一溶接部B1における幅方向両側(溶接線に垂直な方向両側)の端縁はそれぞれ溶接止端部Stとされている。これら溶接止端部Stを含む領域Z(
図4に破線で示した領域)に、第一溶接部B1に沿って延びる打撃痕Pが形成されている。打撃痕Pは、ピーニング装置90による打撃によって形成される(ピーニング処理)。ピーニング装置90は、超音波肉振動、供給されるエア等によって打撃を加える。これにより、溶接止端部Stに、塑性加工が施されることで圧縮残留応力が付与される。
【0027】
<第二溶接部(ブラケット溶接部)>
図5に示すように、ブラケット20とフレーム本体10とは、少なくとも一箇所の第二溶接部(ブラケット溶接部)B2によって互いに固定されている。第二溶接部B2は、ブラケット20とフレーム本体10との接合部に沿って形成された隅肉溶接によるビード、ブラケット20の端部に開先を設けた隅肉溶接、及び、突合せ溶接によるビードのいずれかである。
図5は、ブラケット20の端部に開先を設けない場合を例示した図である。なお、隅肉溶接は、
図5では、ブラケット20の片面だけに隅肉を形成した片面隅肉溶接を示しているが、ブラケット20の両面に隅肉を形成できる場合、両面隅肉溶接としても第二溶接部B2を形成してもよい。さらに、
図5では、ブラケット20の端部がフレーム本体10の表面に溶接される場合を例示するが、ブラケット20の表面の一部とフレーム本体10の表面の一部とが重なりあい、それぞれの端部の部分で溶接を行うことで第二溶接部B2を形成するものでもよい。より詳細には、この第二溶接部B2は、溶接によって生じた溶融池が冷却硬化して生じた部分を指し、溶接作業時にブラケット20の一部、又はフレーム本体10の一部が溶融硬化した場合には当該一部も含む。
【0028】
第二溶接部B2における幅方向両側(溶接線に垂直な方向両側)の端縁はそれぞれ溶接止端部Stとされている。これら溶接止端部Stを含む領域Z(
図5に破線で示した領域)に、第二溶接部B2に沿って延びる打撃痕Pが形成されている。打撃痕Pは、ピーニング装置90による打撃によって形成される(ピーニング処理)。ピーニング装置90は、超音波肉振動、供給されるエア等によって打撃を加える。これにより、溶接止端部Stに、塑性加工が施されることで圧縮残留応力が付与される。
【0029】
<第三溶接部(サイドメンバ溶接部)>
図6に示すように、サイドメンバ11の一対の側板11aと、上板11b及び下板11cとは、少なくとも一箇所の第三溶接部(サイドメンバ溶接部)B3によって互いに固定されている。第三溶接部B3も、上記の第一溶接部B1及び第二溶接部B2と同様に、隅肉溶接によるビード、もしくは側板11aの端部に開先を設けた隅肉溶接によって形成されたビードである。
図6は、側板11aの端部に開先を設けない場合を例示した図である。
【0030】
より詳細には、この第三溶接部B3は、溶接によって生じた溶融池が冷却硬化して生じた部分を指し、溶接作業時に溶接対象の部材の一部が溶融硬化した場合には当該一部も含む。この第三溶接部B3には、上述のような打撃痕Pは形成されていない。つまり、第三溶接部B3に対しては、ピーニング装置90による打撃は行われておらず、当該第三溶接部B3は平滑な表面を有している。
【0031】
<第四溶接部(ヒンジメンバ溶接部)>
図7に示すように、ヒンジメンバ12Cを構成するパーツQとしての各板材は、少なくとも一つの第四溶接部(ヒンジメンバ溶接部)B4によって互いに固定されている。第四溶接部B4は、各パーツQの接合部に沿って形成された隅肉溶接によるビード、いずれかのパーツQの端部に開先を設けた隅肉溶接、及び、突合せ溶接によるビードのいずれかであるなお、隅肉溶接は、
図7では、一方のパーツQの片面だけに隅肉を形成した片面隅肉溶接を示しているが、一方のパーツQの両面に隅肉を形成できる場合、両面隅肉溶接として第四溶接部B4を形成してもよい。
図7は、一方のパーツQの端部に開先を設けない場合を例示した図である。さらに、
図7では、一方のパーツQの端部が他方のパーツQの表面に溶接される場合を例示するが、一方のパーツQの表面の一部と他方のパーツQの表面の一部とが重なりあい、それぞれの端部の部分で溶接を行うことで第四溶接部B4を形成するものでもよい。より詳細には、この第四溶接部B4は、溶接によって生じた溶融池が冷却硬化して生じた部分を指し、溶接作業時に当該各パーツQの一部が溶融硬化した場合には当該一部も含む。
【0032】
第四溶接部B4における幅方向両側(溶接線に垂直な方向両側)の端縁はそれぞれ溶接止端部Stとされている。これら溶接止端部Stを含む領域Z(
図7に破線で示した領域)に、第四溶接部B4に沿って延びる打撃痕Pが形成されている。打撃痕Pは、ピーニング装置90による打撃によって形成される(ピーニング処理)。ピーニング装置90は、超音波肉振動、供給されるエア等によって打撃を加える。これにより、溶接止端部Stに、塑性加工が施されることで圧縮残留応力が付与される。
【0033】
<その他の溶接部>
各ブラケット20が複数のパーツから構成されており、これらパーツ同士が、第一溶接部B1、第二溶接部B2、第四溶接部B4と同様の打撃痕Pを有する溶接部によって固定されていてもよい。
サイドメンバ11の側板11aと中板11dとが、第一溶接部B1、第二溶接部B2、第四溶接部B4と同様の打撃痕Pを有する溶接部によって固定されていてもよい。
【0034】
<車体フレーム製造方法>
図8に示すように、車体フレーム製造方法は、サイドメンバ11、及びクロスメンバ12を準備する工程S11と、第一溶接部B1を形成する工程S12と、第一溶接部B1にピーニング処理を施す工程S13と、を含む。工程S12では、互いに組み合わされたサイドメンバ11、及びクロスメンバ12の接合部に、各部材の突合せによる隅肉溶接、又は各部材のいずれかの端部に開先を設けた隅肉溶接を施すことで、上述の第一溶接部B1を形成する。次いで、この第一溶接部B1の溶接止端部Stにピーニング処理を施すことによって、上述の打撃痕Pを形成する(工程S13)。
【0035】
また、
図9に示すように、ブラケット20とフレーム本体10との結合に際しても上記と同様に、ブラケット20、及びフレーム本体10を準備する工程S21と、第二溶接部B2を形成する工程S22と、第二溶接部B2にピーニング処理を施す工程S23と、を含む。工程S22では、互いに組み合わされたブラケット20、及びフレーム本体10の接合部に、各部材の突合せによる隅肉溶接、もしくは各部材のいずれかの端部に開先を設けた隅肉溶接を施すことで、上述の第二溶接部B2を形成する。次いで、この第二溶接部B2の溶接止端部Stにピーニング処理を施すことによって、上述の打撃痕Pを形成する(工程S23)。
【0036】
なお、第四溶接部B4と当該第四溶接部B4に形成された打撃痕Pも上記と同様の方法によって形成される。また、第三溶接部B3に対しては、上記のピーニング処理を施す工程を実行しない。
【0037】
<作用効果>
以上のような構成のダンプトラックでは、より高い生産性と低燃費性を実現することが求められている。
生産性や低燃費性を実現するためには、車体フレームの軽量化を図ることが一手段として考えられる。
軽量化を図るためには、車体フレームの材料をより高強度な鋼材を用いて強度を向上させつつ、材料の薄肉化を図ればよい。
しかしながら、溶接部については、強度は変わらない。また、高強度の鋼材を用いた場合には、残留引張応力が大きくなり、薄肉化した鋼材の板厚に適した溶接を行うだけでは疲労寿命が低下する。そのため、溶接部の強度を向上させ、溶接部の疲労寿命を向上させる必要がある。
【0038】
これに対して本実施形態では、車体フレームとしてのフロントフレーム1の主要部であるフレーム本体10に第一溶接部B1が形成されている。即ち、サイドメンバ11とクロスメンバ12とが少なくとも一箇所の第一溶接部B1を介して固定されている。
第一溶接部B1では、各部材の突合せによる隅肉溶接、又は各部材のいずれかの端部に開先を設けた隅肉溶接の溶接止端部Stにピーニング処理が施されることで打撃痕Pが形成されている。そのため、特にき裂等が生じやすい溶接止端部Stの金属組織の結晶粒が微細化されていることに加え、打撃を介しての高い圧縮残留応力が付与されている。これにより、強度向上及び疲労寿命の向上を図ることができる。特に、フロントフレームの主要部であるフレーム本体10の強度が向上することで、車両全体として高強度な構成とすることができる。
【0039】
また、ブラケット20は他の構造物を支持するため、大きな荷重がかかりやすい。他の構造物としては、例えばエンジン、トランスミッション、キャブ、アクスルなどがある。ブラケット20は、第二溶接部B2によって固定対象物(サイドメンバ11)に固定されているので、第一溶接部B1と同様に、強度及び疲労寿命を向上させることができる。
【0040】
ここで、サイドメンバ11の側板11aと上板11b、下板11cとの溶接部は車両前後方向にわたっているため、溶接個所や溶接領域が多くなる。このような部分については、あえて打撃痕Pを付与するピーニング処理が行われていない第三溶接部B3で固定することで、製造工程の工数低減を図り、生産性向上を図ることができる。
【0041】
また、アーティキュレート型のダンプトラック100では、フロントフレーム1とリアフレーム2とが自在継手3によって接続された構成を採っている。ダンプトラック100が走行する際には、自在継手3が接続される部分である、フロントフレーム1側の連結部3Cを有するヒンジメンバ12Cには大きな荷重がかかる。本実施形態では、ヒンジメンバ12Cを構成するパーツ同士が、少なくとも一つの箇所において第四溶接部B4で固定されていることで、第一溶接部B1及び第二溶接部B2と同様に、強度及び疲労寿命を向上させることができる。
【0042】
さらに、本実施形態によれば、サイドメンバ11、及びクロスメンバ12の接合部に少なくとも一箇所の第一溶接部B1を形成した後、当該第一溶接部B1の溶接止端部Stに打撃痕Pを形成することのみによって、第一溶接部B1の強度及び疲労寿命の向上を容易に実現することができる。
【0043】
そして、本実施形態によれば、ブラケット20、及びフレーム本体10の接合部に少なくとも一箇所の第二溶接部B2を形成した後、当該第二溶接部B2の溶接止端部Stに打撃痕Pを形成することのみによって、第二溶接部B2の強度及び疲労寿命の向上を容易に実現することができる。
【0044】
<その他の実施形態>
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0045】
例えば、第一溶接部B1、第二溶接部B2、第三溶接部B3及び第四溶接部B4は、
図10に示す第一変形例の溶接部Bであってもよい。即ち、
図10に示す構造では、一方の部材M1にV字型の開先を設け、当該開先を他方の部材M2の面に溶接部Bを介した突合せ溶接とされている場合、母材となる部材M1,M2と溶接部Bとの溶け込みと融合を促すことができ、溶接強度をより向上させることができる。
また、第一溶接部B1、第二溶接部B2、第三溶接部B3及び第四溶接部B4は、
図11に示す第二変形例の溶接部Bであってもよい。即ち、
図11に示す構造では、一方の部材M1と他方の部材M2とが平行に延びて重なっている。そして、一方の部材M1の端部と他方の部材M2の上面との間、及び、他方の部材M2の端部と一方の部材M1の下面との間にそれぞれ隅肉溶接としての溶接部Bが形成されている。この場合、開先を形成することなく二つの部材の強固に溶接することができる。
【0046】
また、例えば、リアフレーム2についても、上記と同様の構成を採用してもよい。より具体的には、リアフレーム2のサイドメンバ、及びクロスメンバの少なくとも一箇所を第一溶接部B1によって固定する構成が考えられる。また、リアフレーム2のサイドメンバ、クロスメンバから構成されるフレーム本体に第二溶接部B2を介して、他の構造物(例えばベッセル、ホイストシリンダ等)を支持するブラケットを固定する構成を採用してもよい。
【0047】
さらに、リアフレーム2でも、サイドメンバの側板、上板、下板は、打撃痕を有さない第三溶接部B3によって互いに固定してもよい。
リアフレーム2でも、自在継手3と連結されるクロスメンバについては、クロスメンバを構成する複数のパーツ同士の少なくとも一箇所が第四溶接部B4によって固定する構成を採ることが望ましい。
【0048】
さらに、上述のようなアーキュティレート型のダンプトラックのみならず、単一の車体フレームを有するリジット型のダンプトラックに本発明を適用してもよい。
<付記>
【0049】
一つの観点に係る運搬車両の車体フレームは、幅方向に互いに間隔をあけて前後方向に延びる一対のサイドメンバ、及び、前記一対のサイドメンバにわたって幅方向に延びるクロスメンバを有するフレーム本体と、前記サイドメンバと前記クロスメンバとを溶接によって互いに固定する少なくとも一箇所の第一溶接部と、を備え、前記第一溶接部の溶接止端部を含む領域に、該第一溶接部に沿って延びる打撃痕を有する。
【産業上の利用可能性】
【0050】
上記開示の運搬車両の車体フレーム、運搬車両、及び、運搬車両の車体フレーム製造方法によれば、溶接部の疲労強度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0051】
1…フロントフレーム、2…リアフレーム、3…自在継手、3C…連結部、4…後輪、5…ベッセル、6…ホイストシリンダ、7…前輪、8…キャブ、9…エンジンルーム、9a…外装カバー、10…フレーム本体、11…サイドメンバ、11a…側板、11b…上板、11c…下板、11d…中板、11m…主部、11u…上部分岐部、11l…下部分岐部、12…クロスメンバ、12A…バンパ、12B…ドディオンクロス、12C…ヒンジメンバ、20…ブラケット、21…シートブラケット、22…エンジンブラケット、23…前部キャブブラケット、24…後部キャブブラケット、25…サスペンションブラケット、26…ステアリングブラケット、27…トランスミッションマウントブラケット、30…バーチカルメンバ、90…ピーニング装置、100…ダンプトラック、B1…第一溶接部(フレーム溶接部)、B2…第二溶接部(ブラケット溶接部)、B3…第三溶接部(サイドメンバ溶接部)、B4…第四溶接部(ヒンジメンバ溶接部)、P…打撃痕、Q…パーツ、St…溶接止端部、Z…領域、B…溶接部、M1…一方の部材、M2…他方の部材