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特許7514267放射線治療に使用するための静的装置およびそのような装置のための設計方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】放射線治療に使用するための静的装置およびそのような装置のための設計方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
A61N5/10 N
A61N5/10 P
A61N5/10 H
【請求項の数】 6
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022071479
(22)【出願日】2022-04-25
(65)【公開番号】P2022168853
(43)【公開日】2022-11-08
【審査請求日】2023-03-29
(31)【優先権主張番号】21170560.3
(32)【優先日】2021-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522454806
【氏名又は名称】レイサーチ ラボラトリーズ エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】エリック トラネウス
(72)【発明者】
【氏名】ビョルン ホーデマーク
【審査官】白川 敬寛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/099510(WO,A2)
【文献】SIMEONOV, Yuri, et al.,3D range-modulator for scanned particle therapy: development, Monte Carlo simulations and experimental evaluation,Physics in Medicine & Biology,2017年,Vol. 62, No. 17,pp. 7075-7096
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン系放射線治療送達における使用のための補償装置(10)を設計するコンピュータベースの方法であって、前記装置は、ディスクの一方側に、スパイク形状の複数の細長い要素を有する前記ディスクを備え、前記方法は、以下の工程を含む:
・前記補償装置の特性を定めるモデルパラメータのセットを得る工程であって、前記モデルパラメータは、前記ディスクの厚さ、ならびに、前記細長い要素それぞれの幅および長さを含み、
・患者の解剖学的構造に基づいて最適化問題を公式化する工程であって、前記最適化問題は、前記患者の他の組織およびリスク臓器を温存しながら標的へ線量を送達する計画目標を定め、
・前記計画目標を達成するために、前記最適化問題に基づいて前記補償装置のための計画パラメータのセットの値を最適化する工程であって、前記計画パラメータは、前記モデルパラメータのセットを含み、公式化された最適化問題は、可変RBE線量最適化関数、LET目的関数、およびビーム特有の目的関数のうちの1つまたは複数を含む
方法。
【請求項2】
前記複数の細長い要素のための材料を選択することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法を用いて、前記計画パラメータを最適化し、最適化された前記計画パラメータに基づいて、前記細長い要素のそれぞれの形状を示す形状データを取得し、前記形状データ使用してCADファイルを生成し、前記CADファイルを使用して前記補償装置を製造する工程を含む、イオン系放射線治療送達における使用のための補償装置(10)を製造する方法。
【請求項4】
コンピュータで実行される場合に、前記コンピュータに請求項1または2に記載の方法を実行させるコンピュータ可読コード手段を含むコンピュータプログラム。
【請求項5】
請求項4に記載のコンピュータプログラムが記憶された記憶媒体。
【請求項6】
プログラムメモリ(55)、および前記プログラムメモリ内で見つけられるプログラムを実行するように構成されたプロセッサ(53)を含むコンピュータシステム(51)であって、前記プログラムメモリは、請求項4に記載のコンピュータプログラムを含む、コンピュータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療に使用するためのパッシブ装置およびそのような装置を設計する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン系放射線治療では、プロトンまたはいくつかの他の種類のイオンのビームを患者に照射する。イオン系治療は、イオンのエネルギーおよび方向を制御することにより、各イオンがそのエネルギーを蓄積する体積を高精度で制御することができるため有利である。均質もしくは不均質な照射野を達成する一般的な方法はペンシルビームスキャニングを使用することであり、ここでは異なる方向およびエネルギーレベルの多くの小さいビームを標的内の異なる点に方向づける。ペンシルビームスキャニングという用語は、スポットスキャニングまたはラインスキャニングまたはラスタースキャニングなどの多くの異なるスキャニング法を含む。
【0003】
しかし場合によっては、照射野を成形するために異なる種類のアクティブもしくはパッシブ装置と組み合わせた単一エネルギーを有する静的ブロードビームを用いて、照射野を成形および調整することが望ましい。
【0004】
イオン系放射線療法では、イオンのエネルギーを減衰させる材料から作られた様々な厚さの要素を提供し、このようにして補償器の厚さに依存してそれらの経路を短くすることによりイオンの最大飛程を制御するために、補償器などのパッシブ装置を使用することが知られている。
【0005】
イオンがそのエネルギーの主要部分を蓄積させる点はブラッグピークとして知られており、イオンの軌道の終わり近くに良好に定められる。補償器を用いてブラッグピークの位置に影響を与えることに加えて、標的体積にわたって均質な線量カバレッジを達成するためにブラッグピークを深さ方向に拡大させるための装置が知られている。これを達成するために、異なる厚さの領域を有する回転ディスクがよく使用されており、1秒当たり約30回の回転が使用されている。他の装置としてはリッジフィルタとも呼ばれるリップルフィルタが挙げられ、これはブラッグピークを深さ方向に広げるためにビームを調整する規則的なパターンの隆起を有するディスクを備える装置である。
【0006】
近年では、より短く、かつより少ないフラクションでの効率的な治療を約束すると共に、病院のリソースを節約し、かつ患者の視点からもより効率的であるというさらなる利点により、FLASH療法に関心が寄せられるようになった。FLASH療法では、治療照射は典型的に40Gy/s以上の線量率でほんの一瞬で、非常に高い線量率の非常に短いパルスで与えられる。時間の側面はFLASH治療に関連する利点を達成するために重大である。そのような短い時間ではエネルギーレベルの全ての変更に1秒の大きさのオーダーを必要とするため、スキャニングビームによる治療は1つの単一エネルギーレベルで与えなければならない。従って、従来のペンシルビームスキャニング法は機能しない。さらに、拡大ブラッグピークを形成するための従来のパッシブ治療法で使用される回転ディスクも実行可能でない。
【0007】
Simeonovら:スキャン粒子療法のための3D飛程調整装置:開発、モンテカルロシミュレーションおよび実験的評価(3D range-modulator for scanned particle therapy:development,Monte Carlo simulations and experimental evaluation);2017 Phys.Med.Biol.62 7075は、ブラッグピークの必要な移動を調整するために補償器として有効に機能する様々な厚さのディスクを備え、かつディスクの表面に配置された良好に定められた形状および異なる長さを有する多くの薄いピンを備える静的要素を提案している。この要素は、送達時間を減らすためにPBS計画をビームごとに単一エネルギー層のみにより送達するのを可能にするような方法で、補償器およびエネルギーフィルタの機能を組み合わせている。当該要素は、患者の幾何学的形状および標的における所望の線量に基づいて、放射線の経路長の概念と組み合わせたレイトレーシングを用いて設計されている。実際にこれは、患者を通る多くの視線を追跡すること、その線が標的の近位面および遠位面と交差する深さを記録することを含む。ディスク部分は、標的の遠位面に適合させた補償器として機能するために様々な厚さで設計されており、近位から遠位への距離は、照射野が標的全体をカバーするような方法でピンの長さおよび形状を計算するために使用される。この方法は、標的の遠位縁および近位縁の両方に一致する均質もしくはほぼ均質な線量分布を得ることができる静的装置を可能にする。この装置は3D印刷によって製造してもよい。
【0008】
より複雑な線量分布を得ることができること、例えば重なっている照射野の同時最適化を可能にすることが望まれている。
【0009】
同時係属中の欧州特許出願第20192106.1号は、イオン系放射線治療送達に使用するための補償装置を設計する方法を開示しており、その装置は、ディスクの一方側に複数の細長い要素を含む実質的にディスク形状の構造を備える。この設計方法は、初期の計画の線量計算を行うことにより実際の計画の所望のエネルギー調整の少なくとも1つのパラメータ特性を決定すること、および少なくとも1つのパラメータに基づいて複数の細長い要素のそれぞれの形状を計算してビームごとに初期の計画の線量を模倣するように送達ビームの線量を調整することにより、実際の治療計画の特性に基づいて細長い要素のそれぞれ1つの形状を適合させることを含む。
【発明の概要】
【0010】
上で考察されている補償装置のための設計方法を提供することが、本発明の目的である。
【0011】
本開示は、イオン系放射線治療送達に使用するための補償装置を設計する方法であって、前記装置は、ディスクの一方側に複数の細長い要素を含む実質的にディスク形状の構造を備え、前記方法は、
・モデルパラメータのセットによって定められたその特性を有する補償装置のモデルを得る工程と、
・計画目的を定める最適化問題を得る工程と、
・計画目的を達成するために、計画パラメータのセットの値を最適化する工程であって、計画パラメータは、モデルパラメータのセットにおけるパラメータを含む工程と、
を含む方法に関する。典型的には、計画パラメータはスポット重みなどの標準的な計画パラメータも含む。計画目的は典型的に、他の組織および特にリスク臓器を温存しながら標的への均一な線量を保証するように定める。最適化問題を得る工程は、現在の患者の解剖学的構造に基づいて最適化問題を公式化すること、または予め公式化された最適化問題を使用することを含む。
【0012】
好適な最適化問題を得て、それを使用して補償装置を最適化することにより、定められたとおりの補償装置の高速かつ信頼できる設計を可能にする。それは設計プロセスにおいて検討される他の有利な側面、例えばロバスト性、線形エネルギー伝達(LET)に基づく目的、または相対的生物学的効果(RBE)に基づく目的も可能にする。
【0013】
本方法は、1つ以上の細長い本体の材料を選択する工程も含んでもよい。あるいは、その材料は前もって選択されていてもよい。形状および材料特性の組み合わせは、どのようにビームが細長い要素によって影響されるかを決定する。細長い本体は典型的に、それらの基部の形状および寸法ならびにそれらの高さによって定められる。
【0014】
最適化手順から得られた計画は、補償装置を設計した後にそのままで、あるいはさらなる最適化工程後のいずれかに、患者への送達のための最終的な計画として使用してもよい。後者の場合、本方法は標準的な計画パラメータを再最適化し、かつ補償装置のパラメータを考慮する工程を含む。これは好ましくは、最適化において補償装置の計画パラメータを含めずに行う。
【0015】
得られた補償装置の作製を準備するために、本方法は補償装置の計画パラメータに基づいて各細長い要素の形状を示す要素形状データを得、かつ要素形状データを使用して補償装置の設計のための命令を含むファイルを生成する工程を含んでもよい。このファイルを使用して、例えば3Dプリンタによって行われる製造プロセスを制御してもよい。
【0016】
当該治療計画は、単一エネルギーを使用する、すなわち拡大ブラッグピークを使用しない二重散乱計画または単一散乱計画などのペンシルビームスキャニング計画またはブロードビーム計画であってもよい。上述のように、ペンシルビームスキャニングという用語は、スポットスキャニング、ラインスキャニングまたはラスタースキャニングを含む多くの異なるスキャニング法を包含する。
【0017】
本開示は、先行する請求項のいずれか1項に係る方法を行う工程と、当該計画から得られる形状データを使用して補償装置の設計のための命令を含むファイルを生成する工程と、このファイルを使用して当該製造を制御する工程とを含む、イオン系放射線治療送達に使用するための補償装置を製造する方法にも関する。
【0018】
本開示は、コンピュータで実行される場合にコンピュータに上で考察されている実施形態のいずれか1つに係る方法を実行させるコンピュータ可読コード手段を含むコンピュータプログラム製品にも関する。コンピュータ製品はコード手段を保持する非一時的記憶媒体を含んでもよい。
【0019】
本開示は、プログラムメモリ、およびプログラムメモリ内で見つけられるプログラムを実行するように構成された処理手段を備えるコンピュータシステムにも関し、前記プログラムメモリは、上記に係るコンピュータプログラム製品を含む。
【0020】
補償装置は、異なる種類のイオン系放射線治療と共に使用するのに適している。それは治療中にどんな可動部品もなしに機能するパッシブ構成要素であるため、FLASH療法に使用するのによく適しているが、それは従来の治療法のために使用することもできる。それは治療中に使用されるエネルギーレベルの数を減らすことを可能にし、1つのエネルギーレベルのみを用いた完全な標的カバレッジさえも可能にする。
【0021】
本明細書に記載されている設計方法は、あらゆる所望の基準を可変RBE線量最適化関数、LET目的関数およびビーム特有の目的関数を含む初期の最適化問題の一部として表現することができるため、補償器要素を設計する場合に複雑な基準を検討することを可能にする。従って重なっている照射野の同時最適化が可能になる。患者の位置および密度などの因子における不確実性に関するロバストな最適化も適用してもよく、これにより異なる筋書きにおいてより確実に機能する計画が得られる。
【0022】
本方法は、補償装置と共に使用されるチャネルアレイ装置を設計する工程をさらに含んでもよく、前記チャネルアレイ装置はチャネルアレイを含む実質的にディスク形状の構造を備える。
【0023】
いくつかの実施形態では、チャネルアレイ装置は、補償装置の設計を考慮して補償装置の後に設計してもよい。この場合、本方法は、
・モデルパラメータのセットによって定められたその特性を有するチャネルアレイ装置のモデルを得る工程と、
・補償装置のために得られた計画パラメータを考慮して、チャネルアレイ装置のために計画目的を定める最適化問題を得る工程と、
・計画目的を達成するために、計画パラメータのセットの値を最適化する工程であって、計画パラメータは、チャネルアレイ装置のためのモデルパラメータのセットにおけるパラメータを含む工程と、
をさらに含んでもよい。
【0024】
他の実施形態では、補償装置およびチャネルアレイ装置を1つのプロセスにおいて一緒に最適化する。この場合、本方法は、最適化問題を得る工程と、補償装置およびチャネルアレイ装置が一緒に機能するための共同計画目的を定める工程と、共同計画目的を達成するために補償装置およびチャネルアレイ装置のための共同計画パラメータのセットの値を最適化する工程とを含む。
【0025】
全ての実施形態においてチャネルアレイパラメータの開始推測は、レイトレース方法およびチャネル面積がチャネル位置における所望のフルエンスに比例しているという単純な幾何学的考察を使用することにより得ることができる。チャネルアレイ装置は補償装置と共に、あるいは別個の作業において補償装置と同じ方法で製造してもよい。
【0026】
チャネルアレイ装置の目的は、計画目標を満たすために必要な入射プロトンフルエンスにおける調整の量を減らすことにある。チャネルの深さおよびサイズは、各チャネルの近くの領域でアレイ装置ディスクを通過する入射プロトンの数を決定する。これは、チャネルの下流にある領域における線量に影響を与える。理想的な状況ではそれにより、均質な入射フルエンスを有すること、およびチャネルアレイ装置なしで横方向に調整されたフルエンスが必要とされる線量分布を達成することさえ可能にする。これは、ブロードビーム照射のために使用される第1の開示の補償装置を可能にする。チャネルの形状および配置は、レイトレーシング方法または最適化方法のいずれかにより決定することができる。
【0027】
レイトレーシング方法は、始点として既存の計画のフルエンスを適用する。次いで、既存の計画の粒子フルエンス分布を使用して、所与の入射フルエンスのための既存の計画のフルエンスを再現するために必要とされるチャネル孔のサイズおよび分布を計算する。
【0028】
典型的には、計画パラメータはスポット重みなどの標準的な計画パラメータも含む。計画目的は典型的に、他の組織および特にリスク臓器を温存しながら標的への均一な線量を保証するように定める。さらなる計画目的は、その解決法が可能な限り均一な入射フルエンスを与えなければならないこと、またはあらゆる他の所望の形状を有しなければならないことであってもよい。最適化問題を得る工程は、現在の患者の解剖学的構造に基づいて最適化問題を公式化すること、または予め公式化された最適化問題を使用することを含んでもよい。
【0029】
補償装置と組み合わせたチャネルアレイ装置の使用は、ブロードビーム照射のためにも3次元のコンフォーマルな線量を送達することを可能にする。
【0030】
本開示は、コンピュータで実行される場合にコンピュータに上で考察されている実施形態のいずれか1つに係る方法を実行させるコンピュータ可読コード手段を含むコンピュータプログラム製品にも関する。コンピュータ製品はコード手段を保持する非一時的記憶媒体を含んでもよい。
【0031】
本開示は、プログラムメモリと、上記に係るコンピュータプログラム製品を含むプログラムメモリ内で見つけられるプログラムを実行するように構成された処理手段とを備えるコンピュータシステムにも関する。
【0032】
以下では、本発明について添付の図面を参照しながら例としてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本明細書に開示されている装置の例を例解する。
図2a】どのように図1の装置を放射線治療法に適用することができるかを例解する。
図2b】当該装置の上流における入射ビームの線量深さおよび患者において得られる深さ線量分布を例解する。
図3a図1に示されている装置と共に使用することができるチャネルアレイ装置を例解する。
図3b図3aのチャネルアレイ装置のアセンブリおよび図1に示されている装置などの補償装置を例解する。
図4】調整装置を設計するための1つの方法のフローチャートである。
図5】チャネルアレイ装置を設計するための1つの方法のフローチャートである。
図6】調整装置およびチャネルアレイ装置を一緒に設計するための方法のフローチャートである。
図7】本発明の方法を行うことができるコンピュータシステムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、本発明の実施形態に係るパッシブ調整装置10の例を示す。この装置は、その領域にわたって様々な厚さを有する本質的にディスクである補償器要素11を備える。その厚さは、入射放射線場を標的の遠位端に一致させるように設計されている。ディスクの上には、典型的には補償器要素と同じ材料のスパイク形状の構造13の形態の多くの突起部が配置されている。突起部13は典型的にはディスクの上に格子パターンで配置されており、それぞれが例えば1.5×1.5mmのディスクの面積を占めている。突起部13は、この装置を通過するビームが所望の方法で標的全体をカバーするブラッグピークを有するように調整されるような方法で選択された異なる高さおよび形状を有する。当然ながら補償器要素のサイズ、形状および厚さ、補償器要素上の突起部の配置ならびにそれらのサイズおよび高さは、好適なマージンを含む標的に一致するように選択しなければならない。
【0035】
図2aは、均質な放射線場23を放出する放射線源21と、楕円形として単純化されて示されており、かつ標的27を含む患者25との間に挿入された図1の装置を示す。放射線場は、この装置を通過した後の放射線のエネルギースペクトルが標的の形状に一致する線量場を形成するような方法で装置10によって調整される。図2aでは、標的は単純なほぼ円形の形態を有することが示されているが、本発明によれば、より複雑な形状も治療することができる。
【0036】
図2bは図2aの状況に対応している。左側の図表はこの装置の上流における入射ビームの深さ線量を示す。見ることができるように、線量の大部分はビームのプロトンのエネルギーに対応する1つの特定の深さで蓄積される。右側の図表は、ビームが調整装置10を通過した後の深さ線量を示す。見ることができるように、深さ線量は標的27の隅から隅までの線量蓄積に対応するより幅広の飛程を有する。図2aおよび図2bは突起部13がディスク11の下流にある状態でビームの中に挿入された調整装置10を示しているが、突起部がディスクの上流にある状態である反対方向に配置することもできる。
【0037】
本発明によれば、調整装置をその幾何学的形状パラメータの直接的な最適化によって最適化させる。これらのパラメータは典型的には、補償器の厚さ11ならびに突起部のそれぞれの幅および長さを含む。その幅および断面形状は各突起部の長さにわたって異なってもよい。ピクセル格子パターンを最適化問題における制約として含めてもよく、あるいはそれが最適化問題における最適化パラメータであってもよい。ピクセル格子パターンは、それらが補償器11に接続する場所である突起部のそれぞれの基部を定める。あるいは、各突起部の基部を最適化において自由に選択してもよい。
【0038】
各ピクセルのために設計された突起部は、ピンとして成形されていたり任意の種類の対称性を有していたりする必要はないが、円形対称性がより複雑な形状よりも達成が容易であり得る。それは代わりに、補償器要素からビームに平行な方向に延在する任意の種類の細長い本体または細長い本体のセットであってもよい。それは1つのピクセル内のスパイク、ピンまたは細長いシートなどの多くの異なる突起部からなっていてもよい。1つのピクセルにおいて延在する1つ以上の細長い本体の異なる部分の長さは、そのピクセルを通過するイオンが異なるように影響を受けて吸収エネルギーのスペクトルを生成するような長さである。
【0039】
図3aは、図1図2aおよび図2bに記載されている調整装置またはイオン治療法で使用される任意の他の補償装置と共に使用することができる開放されたパイプまたはチャネルのアレイを含むチャネルアレイ装置を示す。チャネルアレイ装置は好ましくは、高Z材料から作られており、狭いチャネルアレイまたはディスクを通ってチャネルごとに固有である深さまで延在するチャネルを有するディスクとして成形されている。各チャネルは任意の好適な断面、例えば円形または四角形を有していてもよい。そのサイズは特定の量のプロトンフルエンスを遮断するように調整されている。プロトンの除去により浅い深さで非均一な線量が生じる。ビームの散乱効果および初期エミッタンスにより、深さが増加するにつれて隣接するチャネルからの線量はチャネルアレイ装置からさらに下流で合流して標的において十分に滑らかな線量を生じる。浅い深さでの線量の非均一性は上流のリスク臓器組織において求められるFLASH効果を実際に高めるので、実際に有益である。チャネルアレイ装置は任意の好適な方法で設計してもよいが、好ましくは以下でより詳細に考察されているように最適化によって設計してもよい。
【0040】
図3bは、上で考察されている調整装置10であってもよい補償装置と共に使用される図3aのチャネルアレイ装置の配置を示す。図3bではチャネルアレイ装置は補償装置の上流に配置されているが、それは下流に配置されていてもよい。
【0041】
調整装置10と共に使用する場合、チャネルアレイ装置のチャネルは、必ずしもではないが、各チャネルが突起部の1つの最長部分とビーム方向に位置合わせされるように、調整装置の突起部と同じ格子パターンで配置されていてもよい。アレイまたは格子パターンを備えていない補償装置と共に使用する場合、チャネルは任意の好適な方法で配置されていてもよい。
【0042】
調整装置およびチャネルアレイ装置は、上で考察されているように一緒に使用される2つの別個のユニットであってもよいが、互いに結合されていてもよく、あるいは組み込まれたユニットとして製造されていてもよい。
【0043】
図4は、調整装置10を設計するために使用することができる方法のフローチャートである。この方法への入力データS41は、いくつかの実施形態ではディスク11の厚さ、突起部13のそれぞれの基部の形状およびサイズならびに各突起部の長さを含む、調整装置のための計画パラメータのセットを含む。あるいは、突起部の基部の形状および/またはサイズを予め定めて制約として追加してもよい。上述のように、突起部は任意の好適な形状を有していてもよく、さらにはそれらの基部に関して異なる形状および/またはサイズならびにそれらの長さも有していてもよい。
【0044】
最初に、調整装置を最適化するために使用される最適化問題S42も得る。最適化問題は、入射放射線が調整装置によってどのように影響を受けるべきかに関する目的関数および/または制約を含む。工程S43では、最適化問題に基づいて最適化を行う。
【0045】
一例として調整装置のための最適化問題は、以下の工程によって記載されているようにセットアップすることができる。
・細長い本体の横方向位置を定めるデカルト格子(水平および垂直方向において同じピッチ)を定める。
・照射野内部にある格子点(ピクセル)に細長い本体を配置する。
・細長い本体に正方形のような基部を有し、かつ特定の高さで切頭されたピラミッド形状を与える。
・ピラミッドの基部の側面はデカルト格子のピッチと同じであるかそれよりも小さい。
・各ピラミッドの幾何学的形状を、基部のサイズ、正方形のような表面の高さおよびサイズならびに切頭されたピラミッドの先端によって指定する。
・各ピラミッドを補償器を表している実体積の上に配置する。補償器は、格子ピッチと同じ基部サイズおよびその値が最適化のための対象である高さを有する。
・最適化プロセス中に、最適な幾何学的形状が見つけられるまでピラミッドの幾何学的形状パラメータを変える。
・幾何学的形状パラメータを、別々に最適化されたスポット重みなどの他のパラメータと共に最適化する。
上記仕様は一例として与えられている。チャネルアレイ装置は最適化全体の一部であっても、別々に最適化してもよい。最適化のための好適なパラメータは穴の直径である。
【0046】
各細長い本体または本体のセットのために得られる形状データを三角形分割のために使用して(S44)、例えば3D印刷によって補償装置を作製するために使用することができるCADファイルを生成してもよい。あるいは、いくつかのさらなる最適化工程S45を行って、特に、S46において最終的な形状データが出力される前に細長い本体からの可能な散乱を考慮に入れることにより、得られる補償装置をそれが作製される前に向上させてもよい。
【0047】
ビームごとに補償装置の幾何学的形状を決定した後に、再最適化において補償装置の固定された幾何学的形状を考慮に入れて最終的なPBS再最適化を行う1つ以上のさらなる追加の最適化工程を含めてもよい。これは当該計画をさらに微調整するのを助ける。最終的な最適化は計画ごとに単一エネルギー層を用いて行う。最終的な最適化は、複数のビームおよびRBE線量、LETまたはロバスト性に関連する関数などの任意の種類の高度な目的関数を含むことができる。
【0048】
あるいは、複数のエネルギー層を用いてさらなる最適化を行うことができる。補償装置の設計および効果が完璧である場合、最適化された計画は単一エネルギー層に全ての重みを置くべきである。層の重みの広がりがいくらかの限界を超えてる場合、このデータを使用して補償装置の幾何学的形状を調整することができる。補償装置の幾何学的形状が繰り返しの間に安定するまで、この手順を繰り返すことができる。同様の手法は、パッシブ計画のための標準的な補償器の最適化に適用することができるものでなければならない。
【0049】
上述のように、得られる調整装置を使用して、任意の種類のイオン系放射線治療のための照射野を成形および調整してもよい。特にそれは使用されるエネルギー層の数の減少を可能にし、治療の送達をより速くする。好ましくは、細長い本体が1回の照射場からの3次元の標的全体のカバレッジを保証するようにそれらを設計することにより、1つのエネルギー層のみを用いた送達が可能になる。
【0050】
図5は、チャネルアレイ装置31を設計するために使用することができる方法のフローチャートである。本実施形態では、チャネルアレイ装置31は、既存の調整装置または補償装置と共に使用するように設計する。この方法への入力データS51は、チャネルアレイ装置と共に使用される補償装置または調整装置10の幾何学的形状、およびスキャンされるビームまたはブロードビームのプロトンフルエンス分布である。入力データは、チャネルの厚さおよび数および寸法などのチャネルアレイ装置のためのモデルパラメータのセットも含む。補償装置10のために得られた計画パラメータを考慮してチャネルアレイ装置31のための計画目的を定める最適化問題も得る。補償もしくは調整装置は、図1に関連して考察されている調整装置10であってもよい。補償もしくは調整装置は、図4に関連して考察されている方法、上記同時係属中の出願において考察されている方法または任意の他の方法によって設計してもよい。治療計画は、ブロードビームプロトンフルエンス分布を含むFLASH計画またはペンシルスキャンニング送達を用いるFLASH計画であってもよい。
【0051】
工程S53では、チャネルアレイ装置31は、例えばチャネルアレイ装置の厚さおよびチャネル寸法を含むモデルパラメータのセットによって定められている特性を有する入力データS51および最適化問題S52に基づいて最適化する。補償装置の幾何学的形状を使用してチャネルの数およびそれらの位置を決定する。補償装置の幾何学的形状とは独立して、チャネルの数およびそれらの位置も決定することができる。チャネルアレイプレートの厚さは、チャネル孔を通過しない入射粒子を完全に停止するのに十分なものでなければならない。
【0052】
チャネルは、ビーム方向に沿った円筒軸を有する円筒形状または任意の他の好適な形状であってもよい。円筒形状のチャネルのために、その直径は、その伝送がチャネルの断面面積に比例する幾何学的レイトレース方法のいずれかによって決定する。チャネル直径は、直接的な最適化方法によって決定することもでき、その直径はスポット重みおよび補償装置の幾何学的形状パラメータなどの最適化問題の他の自由な変数と共に、最適化のための自由な変数対象である。
【0053】
最終工程S54として、次いでチャネルごとの形状情報を使用して当該装置を製造するために使用することができる制御データを生成する。これは、三角形分割のための形状情報を使用して、当該装置を製造するために使用することができるCADファイルを生成することを含んでもよい。例えばCADファイルを3Dプリンタに送信してもよく、このプリンタは任意の工程S55においてCADファイル中の情報に従って当該装置を印刷する。当然ながら、別の好適な製造方法を使用してもよい。
【0054】
図6は、チャネルアレイ装置31を補償装置または調整装置10と共に設計する他の方法のフローチャートである。チャネルアレイ装置は図5に関連して考察されている同じ特性を有する。本実施形態では、治療中に補償もしくは調整装置およびチャネルアレイ装置の形状およびサイズならびにそれらの間の距離を含む、補償装置およびチャネルアレイ装置の組み合わせのための共同計画パラメータのセットを含む入力データS61を得る。最適化問題S62は、共同計画パラメータを考慮して調整装置10およびチャネルアレイ装置31の組み合わせのための共同計画目的を定める。工程S63では、調整装置10およびチャネルアレイ装置31を一緒に最適化して共同計画目的を満たす。工程S64では、工程S54と同じ方法で最適化において決定されるパラメータに基づいて制御データを生成する。前述のとおり工程S65は、調整装置10または他の補償装置およびチャネルアレイ装置31を製造する任意の工程である。
【0055】
全ての実施形態において、調整装置10およびチャネルアレイ装置31は互いからある距離をおくか互いに隣接して、あるいはビーム方向に対して実質的に同心円状に位置決めされていてもよい。
【0056】
図7は、本発明に係る最適化を行うことができるコンピュータシステムの概略図である。コンピュータ51は、プロセッサ53、データメモリ54およびプログラムメモリ55を備える。好ましくは、キーボード、マウス、ジョイスティック、音声認識手段および/または任意の他の利用可能なユーザ入力手段の形態の1つ以上のユーザ入力手段57、58も存在する。またユーザ入力手段は、外部メモリユニットからデータを受信するように構成されていてもよい。
【0057】
最適化されたPBS治療計画はデータメモリ54内で見つけられる。治療計画はコンピュータ51で生成するか、当該技術分野で知られている任意の方法で別の記憶手段から受信してもよい。データメモリは、患者の実際の治療で使用される線量送達ビーム、すなわち補償装置によって調整されるビームの特性も含む。
【0058】
データメモリ54はその材料組成などの調整装置の特性も保持する。その材料が分かっている場合は、その特性が記憶されていてもよい。当該プロセスが、使用される多くの入手可能な材料のうちの1つを選択することを含む場合、それらの質量密度および製造限界を含む全ての入手可能な材料の特性が記憶されていなければならない。当然のことながら、データメモリ54は概略的にのみ示されている。それぞれが1つ以上の異なる種類のデータを保持するいくつかのデータメモリユニットが存在してもよく、例えば補償装置などの設計のために1つのデータメモリが存在してもよい。
【0059】
プログラムメモリ55は、本発明に係る設計手順を行うようにプロセッサを制御するように構成されたコンピュータプログラムを保持する。プログラムメモリは、補償装置の設計を製造機、例えば補償装置を作製するように構成された3Dプリンタへの命令に変換する方法のための命令も保持していてもよい。データメモリ54のようにプログラムメモリは、適合して見える1つまたはいくつかのユニットとして実装されていてもよい。

図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図4
図5
図6
図7