(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】血管病変モデル
(51)【国際特許分類】
G09B 23/30 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
G09B23/30
(21)【出願番号】P 2022579300
(86)(22)【出願日】2021-02-08
(86)【国際出願番号】 JP2021004601
(87)【国際公開番号】W WO2022168315
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100167232
【氏名又は名称】川上 みな
(72)【発明者】
【氏名】山中 信圭
(72)【発明者】
【氏名】米山 梨奈
(72)【発明者】
【氏名】武村 和
(72)【発明者】
【氏名】種本 龍之亮
(72)【発明者】
【氏名】関下 明日香
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-189909(JP,A)
【文献】国際公開第2020/250338(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/007801(WO,A1)
【文献】米国特許第6517354(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0062318(US,A1)
【文献】特開2011-27794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 23/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管病変モデルであって、
血管を模擬する中空の血管部と、
前記血管部の内部に配置され、硬さの異なる複数の病変領域に分割されて、前記複数の病変領域のうちの少なくとも一部の病変領域は、高分子材料を用いて構成される病変部と、
を備え、
前記病変部は、前記少なくとも一部の病変領域として、
前記血管病変モデルの長手方向に垂直な断面において、前記血管部の内周の一部に接して設けられ、前記内周の一部から前記病変部の中央側に向かって広がる形状を有する第1病変領域と、
前記長手方向に垂直な断面と、前記長手方向に平行な断面との双方において、前記病変部の外周から離間する中実形状を有する第2病変領域と、
前記病変部における前記長手方向の両端から離間して配置され、前記血管部を閉塞するように設けられた第3病変領域と、
前記長手方向に垂直な断面において、前記血管部の内周から離間して設けられると共に、互いに独立して離間して配置される複数の第4病変領域と、
のうちの少なくとも一種の病変領域を備える
と共に少なくとも前記第2病変領域を備え、
前記第2病変領域は、前記第2病変領域の表面を含む部位と、前記第2病変領域の他の部位とが、異なる硬さに形成されている
血管病変モデル。
【請求項2】
血管病変モデルであって、
血管を模擬する中空の血管部と、
前記血管部の内部に配置され、硬さの異なる複数の病変領域に分割されて、前記複数の病変領域のうちの少なくとも一部の病変領域は、高分子材料を用いて構成される病変部と、
を備え、
前記病変部は、前記少なくとも一部の病変領域として、
前記血管病変モデルの長手方向に垂直な断面において、前記血管部の内周の一部に接して設けられ、前記内周の一部から前記病変部の中央側に向かって広がる形状を有する第1病変領域と、
前記長手方向に垂直な断面と、前記長手方向に平行な断面との双方において、前記病変部の外周から離間する中実形状を有する第2病変領域と、
前記病変部における前記長手方向の両端から離間して配置され、前記血管部を閉塞するように設けられた第3病変領域と、
前記長手方向に垂直な断面において、前記血管部の内周から離間して設けられると共に、互いに独立して離間して配置される複数の第4病変領域と、
のうちの少なくとも一種の病変領域を備える
と共に少なくとも前記第3病変領域を備え、
前記第3病変領域は、前記病変部において前記第3病変領域に隣接して配置される病変領域よりも、硬く形成されている
血管病変モデル。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の血管病変モデルであって、
前記病変部は、前記第1病変領域を備え、
前記第1病変領域は、前記第1病変領域に接する前記病変領域に比べて硬く形成されている
血管病変モデル。
【請求項4】
請求項1
から3までのいずれか一項に記載の血管病変モデルであって、
前記病変部は、前記長手方向に垂直な断面において、前記血管部の内周上の2点を結ぶと共に、互いに交差しない複数の線によって、前記第1病変領域を含む複数の前記病変領域に分割されている
血管病変モデル。
【請求項5】
請求項1から
4までのいずれか一項に記載の血管病変モデルであって、
前記病変部は、前記複数の第4病変領域を備え、
前記複数の第4病変領域の一部は、他の第4病変領域よりも硬く形成されている
血管病変モデル。
【請求項6】
請求項1から
5までのいずれか一項に記載の血管病変モデルであって、
前記複数の病変領域のうちの少なくとも一部の病変領域は、無機材料を備える
血管病変モデル。
【請求項7】
請求項1から
6までのいずれか一項に記載の血管病変モデルであって、
前記病変部において、前記複数の病変領域のうちの一部は高分子多孔質体を備える
血管病変モデル。
【請求項8】
請求項1から
7までのいずれか一項に記載の血管病変モデルであって、
前記病変部は、前記長手方向に前記病変部を貫通する複数の貫通孔を備える
血管病変モデル。
【請求項9】
請求項1から
8までのいずれか一項に記載の血管病変モデルであって、さらに、
前記病変部内に、血管内に留置して用いる血管内留置デバイスを模した部材を備える
血管病変モデル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、 血管病変モデルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の血管病変モデルが知られている。このような血管病変モデルは、例えば、経皮的血管形成術(PTA)のように、カテーテルやガイドワイヤ等の医療用デバイスを用いて血管の狭窄や閉塞を治療するための手技のトレーニングにおいて用いられる。例えば、特許文献1には、このような血管病変モデルの例として、疑似管状組織の内腔部に、該内腔部を狭窄または閉塞する形状を有して病変部を模している疑似病変部材を配置した、訓練用の生体モデルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来知られる血管病変モデルにおいては、病変部における物性や構造のバリエーションが十分ではなかった。例えば、上記した特許文献1に記載の生体モデルは、疑似病変部材として、高分子材料によって形成される単一層の部材を備えている。これに対して実際の血管内に形成される病変部は、一般に、種々多様な構成を有している。そのため、医療用デバイスを用いた種々の治療のためのトレーニングや、医療用デバイスの開発等を目的とした用途のために、種々の症例に対応する血管病変モデルが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態によれば、血管病変モデルが提供される。この血管病変モデルは、血管を模擬する中空の血管部と、前記血管部の内部に配置され、硬さの異なる複数の病変領域に分割されて、前記複数の病変領域のうちの少なくとも一部の病変領域は、高分子材料を用いて構成される病変部と、を備え、前記病変部は、前記少なくとも一部の病変領域として、前記血管病変モデルの長手方向に垂直な断面において、前記血管部の内周の一部に接して設けられ、前記内周の一部から前記病変部の中央側に向かって広がる形状を有する第1病変領域と、前記長手方向に垂直な断面と、前記長手方向に平行な断面との双方において、前記病変部の外周から離間する中実形状を有する第2病変領域と、前記病変部における前記長手方向の両端から離間して配置され、前記血管部を閉塞するように設けられた第3病変領域と、前記長手方向に垂直な断面において、前記血管部の内周から離間して設けられると共に、互いに独立して離間して配置される複数の第4病変領域と、のうちの少なくとも一種の病変領域を備える。
この形態の血管病変モデルによれば、病変部が、第1病変領域から第4病変領域のうちの少なくとも一種の病変領域を備えるため、種々の症例に対応する血管病変モデルとして、従来とは異なる血管病変モデルのバリエーションを提供することが可能になる。
【0006】
(2)上記形態の血管病変モデルにおいて、前記病変部は、前記第1病変領域を備え、前記第1病変領域は、前記第1病変領域に接する前記病変領域に比べて硬く形成されていることとしてもよい。このような構成とすれば、血管部の内周の一部から病変部の中央側に向かって広がる形状を有する第1病変領域を硬く形成することにより、第1病変領域によって、石灰化病変のような他の部位よりも高硬度な病変領域を模擬することができる。
【0007】
(3)上記形態の血管病変モデルにおいて、前記病変部は、前記長手方向に垂直な断面において、前記血管部の内周上の2点を結ぶと共に、互いに交差しない複数の線によって、前記第1病変領域を含む複数の前記病変領域に分割されていることとしてもよい。このような構成とすれば、第1病変領域を備える病変部を容易に実現することができる。
【0008】
(4)上記形態の血管病変モデルにおいて、前記病変部は、前記第2病変領域を備え、前記第2病変領域は、前記第2病変領域の表面を含む部位と、前記第2病変領域の他の部位とが、異なる硬さに形成されていることとしてもよい。このような構成とすれば、種々の症例に対応する血管病変モデルとして、従来とは異なる血管病変モデルのバリエーションを提供する効果を高めることができる。
【0009】
(5)上記形態の血管病変モデルにおいて、前記病変部は、前記第3病変領域を備え、前記第3病変領域は、前記病変部において前記第3病変領域に隣接して配置される病変領域よりも、硬く形成されていることとしてもよい。このような構成とすれば、病変部における長手方向の両端から離間して配置され、血管部を閉塞する第3病変領域を硬く形成することにより、第3病変領域によって、石灰化病変のような他の部位よりも高硬度な病変領域を模擬することができる。
【0010】
(6)上記形態の血管病変モデルにおいて、前記病変部は、前記複数の第4病変領域を備え、前記複数の第4病変領域の一部は、他の第4病変領域よりも硬く形成されていることとしてもよい。このような構成とすれば、種々の症例に対応する血管病変モデルとして、従来とは異なる血管病変モデルのバリエーションを提供する効果を高めることができる。
【0011】
(7)上記形態の血管病変モデルにおいて、前記複数の病変領域のうちの少なくとも一部の病変領域は、無機材料を備えることとしてもよい。このような構成とすれば、無機材料を備えることにより、他の病変領域よりも硬い病変領域を形成することが容易になる。
【0012】
(8)上記形態の血管病変モデルは、前記病変部において、前記複数の病変領域のうちの一部は高分子多孔質体を備えることとしてもよい。このような構成とすれば、高分子多孔質体を備える病変領域に隣接する病変領域を構成する材料を、高分子多孔質体の細孔内に侵入させることにより、高分子多孔質体を備える病変領域と、これに隣接する病変領域との間の接着性を高めることができる。
【0013】
(9)上記形態の血管病変モデルにおいて、前記病変部は、前記長手方向に前記病変部を貫通する複数の貫通孔を備えることとしてもよい。このような構成とすれば、複数の貫通孔によって血管中の真腔および偽腔を模擬するなどにより、種々の症例に対応する血管病変モデルとして、従来とは異なる血管病変モデルのバリエーションを提供する効果を高めることができる。
【0014】
(10)上記形態の血管病変モデルにおいて、さらに、前記病変部内に、血管内に留置して用いる血管内留置デバイスを模した部材を備えることとしてもよい。このような構成とすれば、血管内留置デバイスを留置する治療を行った後で再狭窄や再閉塞を生じた病変部を備える血管病変を模擬することができる。
【0015】
本開示は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、血管病変モデルの製造方法、血管病変モデルを備える臓器モデル、血管病変モデルを備える人体シミュレーション装置などの形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態の血管病変モデルの概略構成を模式的に表す断面図。
【
図2】血管病変モデルの長手方向に垂直な断面の様子を模式的に表す断面図。
【
図3】血管病変モデルの長手方向に垂直な断面の様子を模式的に表す断面図。
【
図4】第1実施形態の血管病変モデルの製造方法を表すフローチャート。
【
図5】第2実施形態の血管病変モデルの概略構成を模式的に表す断面図。
【
図6】血管病変モデルの長手方向に垂直な断面の様子を模式的に表す断面図。
【
図7】第2実施形態の血管病変モデルの製造方法を表すフローチャート。
【
図8】第3実施形態の血管病変モデルの概略構成を模式的に表す断面図。
【
図9】血管病変モデルの長手方向に垂直な断面の様子を模式的に表す断面図。
【
図10】第3実施形態の血管病変モデルの製造方法を表すフローチャート。
【
図11】第4実施形態の血管病変モデルの概略構成を模式的に表す断面図。
【
図12】血管病変モデルの長手方向に垂直な断面の様子を模式的に表す断面図。
【
図13】第4実施形態の血管病変モデルの製造方法を表すフローチャート。
【
図14】第5実施形態の血管病変モデルの概略構成を模式的に表す断面図。
【
図15】血管病変モデルの長手方向に垂直な断面の様子を模式的に表す断面図。
【
図16】第5実施形態の血管病変モデルの製造方法を表すフローチャート。
【
図17】第6実施形態の血管病変モデルを模式的に表す断面図。
【
図18】第6実施形態の変形例の血管病変モデルを模式的に表す断面図。
【
図19】第6実施形態の変形例の血管病変モデルを模式的に表す断面図。
【
図20】第6実施形態の変形例の血管病変モデルを模式的に表す断面図。
【
図21】第6実施形態の変形例の血管病変モデルを模式的に表す断面図。
【
図22】第6実施形態の変形例の血管病変モデルを模式的に表す断面図。
【
図23】第7実施形態の血管病変モデルを模式的に表す断面図。
【
図24】第7実施形態の変形例の血管病変モデルを模式的に表す断面図。
【
図25】第7実施形態の変形例の血管病変モデルを模式的に表す断面図。
【
図26】第7実施形態の変形例の血管病変モデルを模式的に表す断面図。
【
図27】第7実施形態の変形例の血管病変モデルを模式的に表す断面図。
【
図28】第7実施形態の変形例の血管病変モデルを模式的に表す断面図。
【
図29】第8実施形態の血管病変モデルの概略構成を模式的に表す断面図。
【
図30】血管病変モデルの長手方向に垂直な断面の様子を模式的に表す断面図。
【
図31】第9実施形態の血管病変モデルの概略構成を模式的に表す断面図。
【
図32】血管病変モデルの長手方向に垂直な断面の様子を模式的に表す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態の血管病変モデル10の概略構成を模式的に表す断面図である。本実施形態の血管病変モデル10は、カテーテルやガイドワイヤ等の医療用デバイスを用いた治療のための種々の手技のトレーニングや、医療用デバイスの開発等を目的とした用途のために用いられる。血管病変モデル10は、全体として、略円柱状に形成されている。血管病変モデル10は、血管内に形成される病変を模擬する病変部20と、病変部20が内部に配置された血管部30と、を備える。
図1には、相互に直交するXYZ軸が図示されている。X軸は、血管病変モデル10の長手方向(以下では、単に長手方向とも呼ぶ)に対応し、Y軸は、血管病変モデル10の高さ方向に対応し、Z軸は、血管病変モデル10の幅方向に対応する。上記した各軸が示す方向は、後述する各図におけるXYZ軸が示す方向と共通である。
図1は、血管病変モデル10の長手方向に平行な断面であって、血管病変モデル10の長手方向に延びる中心軸を通る断面の様子を示す。
【0018】
図2および
図3は、血管病変モデル10の長手方向に垂直な断面の様子を模式的に表す断面図である。
図1では、
図2の断面の位置を2-2断面として示し、
図3の断面の位置を、3-3断面として示す。
図1~
図3に示すように、病変部20は、2つの突出病変領域22と、突出病変領域22以外の領域である介在病変領域23と、に分割されている。なお、突出病変領域22の数は、1つであってもよく、3以上の複数であってもよい。
図1~
図3に示すように、本実施形態では、病変部20は血管部30内を閉塞しているが、病変部20は血管部30を完全に閉塞することなく狭窄することとしてもよい。
【0019】
突出病変領域22は、
図2に示すように、血管病変モデル10の長手方向に垂直な断面において、血管部30の内周の一部に接して設けられ、当該血管部30の内周の一部から、病変部20の中央側に向かって広がる形状を有している。また、突出病変領域22は、
図1に示すように、病変部20において長手方向の両端から離間して設けられている。突出病変領域22は、「第1病変領域」とも呼ぶ。介在病変領域23は、病変部20における突出病変領域22以外の領域である。
【0020】
本実施形態の突出病変領域22と介在病変領域23とは、いずれも、高分子材料を用いて構成されている。突出病変領域22および介在病変領域23を構成する高分子材料としては、例えば、熱可塑性樹脂であるナイロン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリスチレン、アクリル、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール(PVA)等を挙げることができる。また、熱硬化性樹脂であるポリウレタン、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等を挙げることができる。また、吸水性樹脂であるアクリルアミドやアクリル酸ナトリウム等を挙げることができる。また、多糖類ハイドロゲルであるアガロース、カラギーナン、メチルセルロースゲル、ヒアルロン酸ハイドロゲル、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースゲル、キサンタンガムや、その他の多糖類としてグリコーゲン、セルロース、デンプンや、タンパク質ハイドロゲルであるコラーゲン、ゼラチン、アルブミン、ケラチン等を挙げることができる。また、ラテックス由来の天然ゴムや、ポリブタジエン系あるいはニトリル系などの合成ゴム等を挙げることができる。上記した高分子材料の中でも、多糖類ハイドロゲルおよびポリビニルアルコールは、取り扱いが容易であるため望ましい。特に、アガロースは、柔らかさの調整が容易であるため望ましい。また、ポリビニルアルコールを用いることにより、アガロースを用いる場合に比べて、病変領域を構成するゲルを、より柔らかくすることが容易になる。
【0021】
突出病変領域22および介在病変領域23の構成材料は、上記のような種々の高分子材料から任意に選択することができる。また、突出病変領域22および介在病変領域23は、それぞれ、上記のような種々の高分子材料のうちの任意の高分子材料を複数組み合わせて構成してもよい。突出病変領域22および介在病変領域23を構成する高分子材料は、同種であってもよく、異種であってもよい。
【0022】
本実施形態では、突出病変領域22と介在病変領域23とは、互いに硬さが異なっている。突出病変領域22と介在病変領域23とを、同種の高分子材料を用いて形成する場合には、当該高分子材料の濃度を異ならせることにより、各病変領域の硬さを容易に異ならせることができる。
図1~
図3では、病変領域に付するハッチングが濃いほど、病変領域が硬いことを表している。すなわち、本実施形態では、2つの突出病変領域22は、互いに同じ硬さに形成されており、介在病変領域23は、突出病変領域22よりも柔らかく形成されている。ただし、各病変領域の硬さの組み合わせは、上記とは異なっていてもよい。例えば、2つの突出病変領域22の硬さを互いに異ならせてもよく、あるいは、突出病変領域22よりも介在病変領域23を硬く形成してもよい。
【0023】
上記した2つの突出病変領域22および介在病変領域23のうちの少なくとも一部は、高分子材料に加えて、さらに、無機材料を含有していてもよい。病変領域が含有する無機材料としては、例えば、水和性化合物である硫酸カルシウム(半水和物、二水和物、あるいは無水物)や、セルロースナノファイバー(CN)を挙げることができる。高分子材料に加えて、このような無機材料を含有することにより、病変領域を、より硬くすることが可能になる。無機材料は、例えば、粉末や微粒子の状態で高分子材料中に分散させることとすればよい。あるいは、少なくともいずれかの突出病変領域22において、高分子材料の含有割合よりも無機材料の含有割合を多くしてもよい。この場合には、例えば、粉末状の無機材料に対して、アガロースゲル、ゼラチンゲル、ポリビニルアルコール(PVA)ゲル、ウレタンゲル、シリコンゲル等のような、溶媒として使用できるゲル材料を混合して、所望の形状に成形することにより、突出病変領域22を形成すればよい。
【0024】
各病変領域の構成材料において、高分子材料の種類、高分子材料の濃度、高分子材料に添加する無機材料等の他の材料の種類、他の材料の混合割合、および、他の材料の粒径等のうちの少なくとも一つを調節することにより、病変領域の硬さを変更することができる。例えば、異なる病変領域において、高分子材料の種類および濃度が同じであっても、高分子材料中に分散される他の材料の種類や混合割合や粒径のうちの少なくとも一つが異なることにより、血管病変モデル10に医療用デバイスを挿入したときの触感が異なる場合には、これらの病変領域の硬さは異なるものとする。各病変領域の硬さは、弾性率により比較することができる。各病変領域の弾性率は、例えば、0.001MPaよりも大きく、10GPaよりも小さい範囲で、適宜設定すればよい。
【0025】
また、病変部20を構成する複数の病変領域のうちの少なくとも一部の病変領域、例えば、2つの突出病変領域22のうちの少なくとも一つの病変領域は、高分子材料によって形成される多孔質体を用いて構成してもよい。高分子多孔質体は、例えば、突出病変領域22や介在病変領域23を形成するための既述した高分子材料のうちの1種または2種以上を組み合わせた高分子材料に発泡剤を混合した後に、高分子材料を硬化、成形して高分子材料を多孔質化する発泡法により得ることができる。また、上記高分子材料に気孔形成剤を混合して、高分子材料を硬化、成形した後に、得られた成形体から気孔形成剤を抽出して(溶出させて)多孔質化する抽出法により得ることができる。また、上記高分子材料に、界面活性剤などの起泡剤を混合して、機械的に攪拌することによって高分子材料を発泡させた後に高分子材料を硬化、成形することにより得ることができる。
【0026】
血管部30は、ヒトの血管を模擬した部分であり、中空の管形状を有している。血管部30は、内部に配置した突出病変領域22および介在病変領域23の様子を外部から視認可能となるように、透明または半透明の材料により構成することが望ましい。また、カテーテルやガイドワイヤ等の医療用デバイスを介して接触したときに、ヒトの血管に近似した感触を得易い樹脂材料により構成することが望ましい。血管部30を構成する材料としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、アガロース、アルギン酸ナトリウム、セルロース、デンプン、グリコーゲン、シリコーン、ラテックス、ポリウレタン等を用いることができる。これらの材料の中でも、ポリビニルアルコール(PVA)は、滑り性や弾性がヒトの血管に近似しているため望ましい。血管部30の柔らかさや滑り性や弾性等を、ヒトの血管に近似させることにより、血管病変モデル10を用いて治療や診断に係る手技のトレーニングを行う際に、手技者の没入感を高めることができる。なお、血管部30の内径や外径、および血管部30の長手方向の長さは、模擬したい血管の種類や、トレーニングの対象である手技の種類等に応じて、任意に設定することができる。
【0027】
図4は、血管病変モデル10の製造方法を表すフローチャートである。血管病変モデル10を製造する際には、まず、各病変領域を形成するための高分子材料と、血管部30となる管状部材とを用意する(工程T100)。ここでは、病変領域ごとに、予め選択した高分子材料を、水などの適切な溶媒を用いて予め設定した濃度で調整し、必要に応じて加熱等により高分子材料を溶解させ、必要に応じてさらに他の材料を混合して、硬化前の状態で用意する。その後、突出病変領域22を形成する(工程T110)。突出病変領域22は、例えば、工程T100で用意した突出病変領域22用の材料を金型内で硬化させて、所望の形状に成形することにより作製する。工程T110では、必要に応じて冷却を行ってもよい。あるいは、2つの突出病変領域22のうちの少なくとも一方は、既述した高分子多孔質体として形成してもよい。
【0028】
次に、工程T110で作製した突出病変領域22を、血管部30の内壁上の特定箇所に配置する(工程T120)。なお、本実施形態では、予め高分子材料を硬化、成形して得た突出病変領域22を血管部30内に配置しているが(工程T110、工程T120)、突出病変領域22を形成するための硬化前の高分子材料を血管部30内に配置した後に、この高分子材料を硬化させて、突出病変領域22を形成することとしてもよい。その後、血管部30内に、介在病変領域23となる高分子材料を充填し(工程T130)、充填した高分子材料を硬化させて介在病変領域23を形成して(工程T140)、血管病変モデル10を完成する。
【0029】
血管病変モデル10は、そのまま医療用デバイスを用いたトレーニング等に供してもよく、また、流体(例えば、生理食塩水などの模擬血液)中に浸漬した状態で使用してもよい。あるいは、血管病変モデル10において病変部が血管部30を閉塞していない場合には、血管病変モデル10に流体(例えば、生理食塩水などの模擬血液)の流路を接続して、血管部30内を含む流路内で上記流体を循環させることとしてもよい。また、血管病変モデル10は、例えば、病変部を有しない他の血管モデルと共に、心臓、肝臓、脳等の臓器を模した臓器モデル内に組み込んで用いてもよい。あるいは、病変部を有しない他の血管モデルや臓器モデルと共に、人体の少なくとも一部を模した人体シミュレーション装置内に組み込んで用いてもよい。
【0030】
以上のように構成された第1実施形態の血管病変モデル10によれば、病変部20が、血管病変モデル10の長手方向に垂直な断面において、血管部30の内周の一部に接して設けられ、当該血管部30の内周の一部から病変部20の中央側に向かって広がる形状を有する第1病変領域である突出病変領域22を備えている。そのため、種々の症例に対応する血管病変モデルとして、従来とは異なる血管病変モデルのバリエーションを提供することが可能になる。特に、突出病変領域22を、介在病変領域23よりも硬く形成する場合には、突出病変領域によって、例えば石灰化病変のように、他の部位よりも高硬度な病変領域を模擬することができる。そのため、実臨床において比較的高い頻度で確認される病変の態様に近似した病変モデルを提供することが可能になる。
【0031】
また、突出病変領域22と介在病変領域23のように隣接する病変領域を、同種の高分子材料を用いて形成する場合には、突出病変領域22と介在病変領域23との間の接着性を高めて、病変部20の構造を安定化させることができる。
【0032】
これに対して、突出病変領域22と介在病変領域23のように隣接する病変領域を、異なる種類の材料により形成する場合には、例えば一方の病変領域を多孔質体により形成することで、隣接する病変領域間の接着性を高めて、病変部20の構造を安定化させることが可能になる。具体的には、例えば、突出病変領域22を、既述した高分子材料の多孔質体により形成するならば、硬化前の介在病変領域23の材料を血管部30内に充填することにより、突出病変領域22を構成する多孔質体の細孔内に、介在病変領域23を構成する高分子材料を侵入させることが可能になる。これにより、突出病変領域22と介在病変領域23との間の接着性を高めることができる。突出病変領域22を構成する高分子多孔質体の多孔度を調節することにより、突出病変領域22の硬さと、突出病変領域22と介在病変領域23との間の接着性を調節することが可能になる。
【0033】
また、突出病変領域22を、アクリルアミドやアクリル酸ナトリウムのような吸水性樹脂により形成し、介在病変領域23を、ポリビニルアルコールのような水溶性樹脂により形成する場合には、介在病変領域23の材料を血管部30内に充填したときに、介在病変領域23の材料中の水が、突出病変領域22を構成する吸水性樹脂に吸水されて、突出病変領域22と介在病変領域23との間の接着性を高めることができる。
【0034】
B.第2実施形態:
図5は、第2実施形態の血管病変モデル110の概略構成を、
図1と同様にして模式的に表す断面図である。また、
図6は、血管病変モデル110の長手方向に垂直な断面の様子を模式的に表す断面図である。
図5では、
図6の断面の位置を6-6断面として示している。
【0035】
第2実施形態の血管病変モデル110は、血管内に形成される病変を模擬する病変部120と、第1実施形態と同様の血管部30と、を備える。本実施形態では、病変部120は血管部30を閉塞しており、病変部120は、層状に形成された病変領域である、下層病変領域122と中層病変領域123と上層病変領域124とに分割されている。なお、第2実施形態では、病変部120は、3層に分割されることとしたが、2層に分割してもよく、4以上の複数に分割してもよい。
【0036】
図6に示すように、下層病変領域122および上層病変領域124は、血管病変モデル110の長手方向に垂直な断面において、血管部30の内周の一部に接して設けられ、当該血管部30の内周の一部から病変部120の中央側に向かって広がる形状を有して、「第1病変領域」に該当する。下層病変領域122および上層病変領域124は、
図5に示すように、病変部120において、長手方向の一端から他端にわたって連続して設けられている。また、第2実施形態の病変部120は、長手方向に垂直な断面において、血管部30の内周上の2点を結ぶと共に、互いに交差しない複数の線によって、上記第1病変領域を含む複数の病変領域に分割されているといえる。血管病変モデル110における長手方向に垂直な断面において、下層病変領域122と中層病変領域123の境界となる線と、中層病変領域123と上層病変領域124との境界となる線とは、平行でなくてもよく、これらの線のなす角度は、これらの線が交差しない範囲で任意に設定することができる。
【0037】
第2実施形態では、下層病変領域122と中層病変領域123と上層病変領域124とは、互いに硬さが異なっている。
図5および
図6では、病変領域に付するハッチングが濃いほど、病変領域が硬いことを表している。すなわち、第2実施形態では、上層病変領域124、中層病変領域123、下層病変領域122の順で硬く形成されている。ただし、各病変領域の硬さの組み合わせは、上記とは異なっていてもよい。
【0038】
下層病変領域122と中層病変領域123と上層病変領域124とは、第1実施形態の突出病変領域22および介在病変領域23と同様の種々の高分子材料から選択される1種または複数の高分子材料を用いて構成することができる。下層病変領域122と中層病変領域123と上層病変領域124との各々を構成する高分子材料は、同種であってもよく、異種であってもよい。また、下層病変領域122と中層病変領域123と上層病変領域124とのうちの少なくとも一部は、第1実施形態と同様に、高分子材料に加えて、さらに、無機材料を含有していてもよい。各病変領域の構成材料において、高分子材料の種類、高分子材料の濃度、高分子材料に添加する無機材料等の他の材料の種類、他の材料の混合割合、および、他の材料の粒径等のうちの少なくとも一つを調節することにより、病変領域の硬さを変更することができる。また、病変部120を構成する複数の病変領域のうちの少なくとも一部の病変領域は、第1実施形態で説明したように、高分子多孔質体を用いて構成してもよい。
【0039】
図7は、第2実施形態の血管病変モデル110の製造方法を表すフローチャートである。血管病変モデル110を製造する際には、まず、工程T100と同様にして、各病変領域を形成するための高分子材料と、血管部30となる管状部材とを用意する(工程T200)。その後、血管部30内で下層病変領域122の材料を層状に配置して硬化させる(工程T210)。そして、血管部30内において、形成した下層病変領域122上に、中層病変領域123の材料を配置して硬化させる(工程T220)。さらに、血管部30内において、形成した中層病変領域123上に、上層病変領域124の材料を配置して硬化させて(工程T230)、血管病変モデル110を完成する。このように、血管部30内で各病変領域の材料を層状に配置して硬化させる
動作を繰り返して、下層病変領域122、中層病変領域123、上層病変領域124を順次形成し、血管病変モデル110を完成する。
【0040】
各病変領域を硬化させる際には、血管部30内において、病変部120を形成する部位の端部を閉塞しておけばよい。また、
図7に示した製造方法のように、血管部30内で高分子材料を硬化させることによってすべての病変領域を形成するのではなく、少なくとも一部の病変領域については、血管部30外で予め硬化させて成形した後に、血管部30内に配置してもよい。また、下層病変領域122と中層病変領域123と上層病変領域124とに対応する3層を有する3層構造体を血管部30の外部で作製して、この3層構造体から血管部30の内径に対応する大きさの径を有する円柱状部材を切り出して、血管部30内に配置することとしてもよい。
【0041】
このような構成とすれば、病変部120が、長手方向に垂直な断面において、血管部30の内周の一部に接して設けられ、当該血管部30の内周の一部から病変部120の中央側に向かって広がる形状を有する第1病変領域である下層病変領域122および上層病変領域124を備えている。そのため、種々の症例に対応する血管病変モデルとして、従来とは異なる血管病変モデルのバリエーションを提供することが可能になる。また、このような複数の病変領域を形成する際に、各病変領域を構成する高分子材料の種類を適宜選択し、また、一部の病変領域を、高分子多孔質体を用いて形成し、あるいは、一部の病変領域を吸水性樹脂により形成することにより、第1実施形態で説明した効果と同様の効果が得られる。
【0042】
C.第3実施形態:
図8は、第3実施形態の血管病変モデル210の概略構成を、
図1と同様にして模式的に表す断面図である。また、
図9は、血管病変モデル210の長手方向に垂直な断面の様子を模式的に表す断面図である。
図8では、
図9の断面の位置を9-9断面として示している。
【0043】
第3実施形態の血管病変モデル210は、血管内に形成される病変を模擬する病変部220と、第1実施形態と同様の血管部30と、を備える。本実施形態では、病変部220は血管部30を閉塞している。病変部220は、突出病変領域222,224,225と、介在病変領域23と、浮遊病変領域228,229と、を備える。なお、突出病変領域の数、および浮遊病変領域の数は、上記とは異なる1以上の数としてもよい。
【0044】
突出病変領域222,224,225は、いずれも、血管病変モデル210の長手方向に垂直な断面において、血管部30の内周の一部に接して設けられ、当該血管部30の内周の一部から病変部220の中央側に向かって広がる形状を有して、「第1病変領域」に該当する。突出病変領域222,224,225は、
図8に示すように、病変部220において長手方向の両端から離間して設けられている。
【0045】
浮遊病変領域228,229は、
図8および
図9に示すように、長手方向に垂直な断面と、長手方向に平行な断面との双方において、病変部220の外周から離間する中実形状を有している。すなわち、浮遊病変領域228,229は、病変部220の外表面全体から離間している。具体的には、浮遊病変領域228,229は、病変部220における長手方向の両端、および、病変部220における血管部30の内壁に接する側面から離間して設けられている。本明細書において「中実形状」とは、病変領域が緻密質であることに限定されず、病変領域が既述した高分子多孔質体を備えることを含む。また、「中実形状」とは、病変領域が管状に形成される場合を含まない。浮遊病変領域228,229は、「第2病変領域」とも呼ぶ。
【0046】
浮遊病変領域228は、芯部226と、芯部226の表面を覆う表層部227とを備える。介在病変領域23は、病変部220における突出病変領域222,224,225および浮遊病変領域228,229以外の領域である。
【0047】
図8および
図9では、病変領域に付するハッチングが濃いほど、病変領域が硬いことを表している。すなわち、第3実施形態では、突出病変領域222,224と、浮遊病変領域228の表層部227と、浮遊病変領域229とは、同じ硬さに形成されており、突出病変領域225と、浮遊病変領域228の芯部226とは、上記よりも柔らかい同じ硬さに形成されており、介在病変領域23は、最も柔らかく形成されている。このように、第3実施形態では、第2病変領域である浮遊病変領域228は、浮遊病変領域228の表面を含む部位と、浮遊病変領域228の他の部位とが、異なる硬さに形成されている。ただし、各病変領域の硬さの組み合わせは、上記とは異なっていてもよい。
【0048】
第3実施形態の病変部220が備える各病変領域は、第1実施形態の突出病変領域22および介在病変領域23と同様の種々の高分子材料から選択される1種または複数の高分子材料を用いて構成することができる。病変部220が備える各病変領域を構成する高分子材料は、同種であってもよく、異種であってもよい。また、病変部220が備える病変領域のうちの少なくとも一部は、第1実施形態と同様に、高分子材料に加えて、さらに、無機材料を含有していてもよい。各病変領域の構成材料において、高分子材料の種類、高分子材料の濃度、高分子材料に添加する無機材料等の他の材料の種類、他の材料の混合割合、および、他の材料の粒径等のうちの少なくとも一つを調節することにより、病変領域の硬さを変更することができる。また、病変部220を構成する複数の病変領域のうちの少なくとも一部の病変領域は、第1実施形態で説明したように、多孔質体である高分子材料を用いて構成してもよい。
【0049】
図10は、第3実施形態の血管病変モデル210の製造方法を表すフローチャートである。血管病変モデル210を製造する際には、まず、工程T100と同様にして、各病変領域を形成するための高分子材料と、血管部30となる管状部材とを用意する(工程T300)。その後、突出病変領域222,224,225および浮遊病変領域228,229を形成する(工程T310)。突出病変領域222,224,225および浮遊病変領域228,229は、例えば、工程T300で用意した各病変領域用の材料を、病変領域の形状に合わせて予め用意した金型内で硬化させて、所望の形状に成形することにより作製する。あるいは、突出病変領域222,224,225および浮遊病変領域228,229のうちの少なくとも一つは、既述した高分子多孔質体として形成してもよい。
【0050】
次に、工程T310で作製した突出病変領域222,224,225を、血管部30の内壁上の特定箇所に配置する(工程T320)。なお、本実施形態では、予め高分子材料を硬化、成形して得た突出病変領域222,224,225を血管部30内に配置しているが(工程T310、工程T320)、突出病変領域222,224,225を形成するための硬化前の高分子材料を血管部30内の特定箇所に配置した後に、この高分子材料を硬化させて、突出病変領域222,224,225を形成することとしてもよい。その後、血管部30内に、浮遊病変領域228,229を配置すると共に、介在病変領域23となる高分子材料を充填し(工程T330)、充填した高分子材料を硬化させて介在病変領域23を形成して(工程T340)、血管病変モデル210を完成する。工程T330においては、介在病変領域23となる高分子材料の粘度を確保することにより、介在病変領域23となる硬化前の高分子材料内において、所望の位置に、浮遊病変領域228,229を配置することが可能になる。
【0051】
このような構成とすれば、病変部220が、血管病変モデル210の長手方向に垂直な断面において、血管部30の内周の一部に接して設けられ、当該血管部30の内周の一部から病変部220の中央側に向かって広がる形状を有する第1病変領域である突出病変領域222,224,225を備えている。また、病変部220が、長手方向に垂直な断面と、長手方向に平行な断面との双方において、病変部220の外周から離間する中実形状を有する第2病変領域である浮遊病変領域228,229を備えている。そのため、種々の症例に対応する血管病変モデルとして、従来とは異なる血管病変モデルのバリエーションを提供することが可能になる。また、このような複数の病変領域を形成する際に、各病変領域を構成する高分子材料の種類を適宜選択し、また、一部の病変領域を、高分子多孔質体を用いて形成し、あるいは、一部の病変領域を吸水性樹脂により形成することにより、第1実施形態で説明した効果と同様の効果が得られる。
【0052】
D.第4実施形態:
図11は、第4実施形態の血管病変モデル310の概略構成を、
図1と同様にして模式的に表す断面図である。また、
図12は、血管病変モデル310の長手方向に垂直な断面の様子を模式的に表す断面図である。
図11では、
図12の断面の位置を12-12断面として示している。
【0053】
第4実施形態の血管病変モデル310は、血管内に形成される病変を模擬する病変部320と、第1実施形態と同様の血管部30と、を備える。病変部320は、3つの閉塞病変領域322と、4つの介在病変領域323と、を備える。なお、閉塞病変領域322の数、および介在病変領域323の数は、上記とは異なる1以上の数としてもよく、病変部320の両端部に配置する病変領域の種類を異ならせてもよい。
【0054】
第4実施形態の病変部320では、閉塞病変領域322および介在病変領域323は、いずれも、血管部30を閉塞するように設けられており、閉塞病変領域322と介在病変領域323とが、長手方向に交互に配置されている。3つの閉塞病変領域322、および、4つの介在病変領域323のうちの、長手方向の中程に配置された2つの介在病変領域323は、いずれも、病変部320における長手方向の両端から離間して配置され、血管部30を閉塞するように設けられている。これらの閉塞病変領域322および介在病変領域323は、「第3病変領域」とも呼ぶ。
【0055】
図10および
図11では、病変領域に付するハッチングが濃いほど、病変領域が硬いことを表している。すなわち、第4実施形態では、3つの閉塞病変領域322はいずれも同じ硬さに形成されており、 4つの介在病変領域323はいずれも同じ硬さに形成されており、閉塞病変領域322は、介在病変領域323よりも硬く形成されている。ただし、各病変領域の硬さの組み合わせは、上記とは異なっていてもよい。
【0056】
また、第4実施形態では、3つの閉塞病変領域322はいずれも長手方向(X軸方向)の長さが同じに形成されており、4つの介在病変領域323はいずれも長手方向(X軸方向)の長さが同じに形成されており、閉塞病変領域322は、介在病変領域323よりも長手方向(X軸方向)の長さが短く形成されている。ただし、各病変領域の長手方向の長さの相対的な関係は、上記とは異なっていてもよく、各病変領域の長手方向の長さは、任意に設定することができる。
【0057】
第4実施形態の病変部320が備える各病変領域は、第1実施形態の突出病変領域22および介在病変領域23と同様の種々の高分子材料から選択される1種または複数の高分子材料を用いて構成することができる。病変部320が備える各病変領域を構成する高分子材料は、同種であってもよく、異種であってもよい。また、病変部320が備える病変領域のうちの少なくとも一部は、第1実施形態と同様に、高分子材料に加えて、さらに、無機材料を含有していてもよい。各病変領域の構成材料において、高分子材料の種類、高分子材料の濃度、高分子材料に添加する無機材料等の他の材料の種類、他の材料の混合割合、および、他の材料の粒径等のうちの少なくとも一つを調節することにより、病変領域の硬さを変更することができる。また、病変部320を構成する複数の病変領域のうちの少なくとも一部の病変領域は、第1実施形態で説明したように、多孔質体である高分子材料を用いて構成してもよい。
【0058】
図13は、第4実施形態の血管病変モデル310の製造方法を表すフローチャートである。血管病変モデル310を製造する際には、まず、工程T100と同様にして、各病変領域を形成するための高分子材料と、血管部30となる管状部材とを用意する(工程T400)。その後、血管部30内に、介在病変領域323となる高分子材料を充填し(工程T410)、充填した高分子材料を硬化させて介在病変領域323を形成する(工程T420)。その後さらに、血管部30内に、閉塞病変領域322となる高分子材料を充填し(工程T430)、充填した高分子材料を硬化させて閉塞病変領域322を形成する(工程T440)。そして、工程T410および工程T420の介在病変領域323を形成する動作と、工程T430および工程T440の閉塞病変領域322を形成する動作とを交互に行い(工程T450)、予め設定した数の突出病変領域22および介在病変領域23を形成して、血管病変モデル310を完成する。
【0059】
工程T410,T420において最初に介在病変領域323を形成する際には、血管部30内において、病変部320を形成する部位の端部を閉塞しておけばよい。また、
図13に示した製造方法のように、血管部30内で高分子材料を硬化させることによってすべての病変領域を形成するのではなく、少なくとも一部の病変領域については、例えば金型を用いることによって血管部30外で予め硬化させて成形した後に、血管部30内に配置してもよい。また、複数の閉塞病変領域322および介在病変領域323のうちの少なくとも一つは、既述した高分子多孔質体として形成してもよい。
【0060】
このような構成とすれば、病変部320が、病変部320における長手方向の両端から離間して配置され、血管部30を閉塞するように設けられた第3病変領域である閉塞病変領域322および介在病変領域323を備えている。そのため、種々の症例に対応する血管病変モデルとして、従来とは異なる血管病変モデルのバリエーションを提供することが可能になる。
【0061】
特に、閉塞病変領域322を、この閉塞病変領域322に隣接して配置される病変領域である介在病変領域323よりも硬く形成することにより、閉塞病変領域322によって、例えば石灰化病変のように、他の部位よりも高硬度な病変領域を模擬することができる。具体的には、血管病変モデル内に医療用デバイスを侵入させた際に、病変部の内部において、より硬度が高い病変領域によって病変部が閉塞されるモデルとすることができる。そのため、実臨床において比較的高い頻度で確認される病変の態様に近似した病変モデルを提供することが可能になる。
【0062】
また、このような複数の病変領域を形成する際に、各病変領域を構成する高分子材料の種類を適宜選択し、また、一部の病変領域を、高分子多孔質体を用いて形成し、あるいは、一部の病変領域を吸水性樹脂により形成することにより、第1実施形態で説明した効果と同様の効果が得られる。
【0063】
E.第5実施形態:
図14は、第5実施形態の血管病変モデル410の概略構成を、
図1と同様にして模式的に表す断面図である。また、
図15は、血管病変モデル410の長手方向に垂直な断面の様子を模式的に表す断面図である。
図14では、
図15の断面の位置を15-15断面として示している。
【0064】
第5実施形態の血管病変モデル410は、血管内に形成される病変を模擬する病変部420と、第1実施形態と同様の血管部30と、を備える。病変部420は、1つの貫通病変領域424と、3つの貫通病変領域425と、貫通病変領域424,425以外の領域である介在病変領域423と、を備える。なお、貫通病変領域424,425の数は、上記とは異なる1以上の数としてもよい。
【0065】
第5実施形態の病変部420では、貫通病変領域424,425は、いずれも、長手方向に垂直な断面において、血管部30の内周から離間して設けられると共に、互いに独立して離間して配置されている。本明細書において「互いに独立して離間して配置される」とは、単に両者が離れていることを意味するのではなく、例えば、管状に形成された一方の内部に他方が配置される場合のように、一方に他方が内包される場合を含まないことを意味する。本実施形態では、貫通病変領域424,425は、いずれも、病変部420の長手方向の両端にわたって連続して形成されており、病変部420を長手方向に貫通している。ただし、貫通病変領域424,425の少なくとも一部は、病変部420の長手方向の端部のうちの少なくとも一方から離間して設けられていてもよい。これらの貫通病変領域424,425は、「第4病変領域」とも呼ぶ。
【0066】
図14および
図15では、病変領域に付するハッチングが濃いほど、病変領域が硬いことを表している。すなわち、第5実施形態では、貫通病変領域425はいずれも同じ硬さに形成されており、 貫通病変領域424は、貫通病変領域425よりも硬く形成されている。また、介在病変領域423は、貫通病変領域424,425よりも硬く形成されている。ただし、各病変領域の硬さの組み合わせは、上記とは異なっていてもよい。
【0067】
また、第5実施形態では、1つの貫通病変領域424は、3つの貫通病変領域425に比べて、長手方向に垂直な断面における径が大きく形成されている。ただし、貫通病変領域424,425の数は、上記とは異なる1以上の数としてもよい。また、長手方向に垂直な断面における貫通病変領域424および貫通病変領域425の配置の態様は、
図15とは異なっていてもよい。
【0068】
第5実施形態の病変部420が備える各病変領域は、第1実施形態の突出病変領域22および介在病変領域23と同様の種々の高分子材料から選択される1種または複数の高分子材料を用いて構成することができる。病変部420が備える各病変領域を構成する高分子材料は、同種であってもよく、異種であってもよい。また、病変部420が備える病変領域のうちの少なくとも一部は、第1実施形態と同様に、高分子材料に加えて、さらに、無機材料を含有していてもよい。各病変領域の構成材料において、高分子材料の種類、高分子材料の濃度、高分子材料に添加する無機材料等の他の材料の種類、他の材料の混合割合、および、他の材料の粒径等のうちの少なくとも一つを調節することにより、病変領域の硬さを変更することができる。また、病変部420を構成する複数の病変領域のうちの少なくとも一部の病変領域は、第1実施形態で説明したように、多孔質体である高分子材料を用いて構成してもよい。
【0069】
図16は、第5実施形態の血管病変モデル410の製造方法を表すフローチャートである。血管病変モデル410を製造する際には、まず、工程T100と同様にして、各病変領域を形成するための高分子材料と、血管部30となる管状部材とを用意する(工程T500)。その後、貫通病変領域424,425となる高分子材料を硬化させて、貫通病変領域424,425を作製する(工程T510)。貫通病変領域424,425は、例えば、工程T500で用意した各病変領域用の材料を、病変領域の形状に合わせて予め用意した円筒状の金型内で硬化させて、円柱状に成形することにより作製すればよい。このとき、貫通病変領域424,425のうちの少なくとも一つは、既述した高分子多孔質体として形成してもよい。
【0070】
次に、血管部30内に、工程T510で作製した貫通病変領域424,425を配置すると共に、介在病変領域23となる高分子材料を充填し(工程T520)、充填した高分子材料を硬化させて介在病変領域23を形成して(工程T530)、血管病変モデル410を完成する。工程T520においては、介在病変領域23となる高分子材料の粘度を確保することにより、介在病変領域23となる硬化前の高分子材料内において、所望の位置に、貫通病変領域424,425を配置することが可能になる。
【0071】
このような構成とすれば、病変部420が、長手方向に垂直な断面において、血管部30の内周から離間して設けられると共に、互いに独立して離間して配置される複数の第4病変領域である貫通病変領域424,425を備えている。そのため、種々の症例に対応する血管病変モデルとして、従来とは異なる血管病変モデルのバリエーションを提供することが可能になる。また、このような複数の病変領域を形成する際に、各病変領域を構成する高分子材料の種類を適宜選択し、また、一部の病変領域を、高分子多孔質体を用いて形成し、あるいは、一部の病変領域を吸水性樹脂により形成することにより、第1実施形態で説明した効果と同様の効果が得られる。
【0072】
特に、複数の第4病変領域のうちの一部である貫通病変領域424を、他の第4病変領域である貫通病変領域425よりも硬く形成することにより、貫通病変領域424によって、例えば石灰化病変のように、他の部位よりも高硬度な病変領域を模擬することができる。そのため、実臨床において比較的高い頻度で確認される病変の態様に近似した病変モデルを提供することが可能になる。
【0073】
F.第6実施形態:
第6実施形態では、血管病変モデルが備える病変部が、血管部を狭窄する例について詳しく説明する。以下では、第2実施形態と同様の病変部において、病変部が血管部30を閉塞することなく狭窄する状態を模した構成について説明する。
【0074】
図17は、第6実施形態の血管病変モデル510の長手方向に垂直な断面の様子を模式的に表す断面図である。血管病変モデル510は、第2実施形態と同様に、下層病変領域122、中層病変領域123,および上層病変領域124を備えるが、さらに、病変部を長手方向に貫通する貫通孔528を備える。
図17では、血管病変モデル510の長手方向に垂直な断面において血管部30の同心円状に形成されている貫通孔528が設けられる様子を示している。
【0075】
図18から
図22は、第6実施形態の変形例としての血管病変モデル510a~510eの長手方向に垂直な断面の様子を模式的に表す断面図である。
図18に示す第6実施形態の第1変形例の血管病変モデル510aは、長手方向に垂直な断面において外周形状が不定型となる貫通孔528aが設けられている。
図19に示す第6実施形態の第2変形例の血管病変モデル510b、
図20に示す第6実施形態の第3変形例の血管病変モデル510c、および、
図21に示す第6実施形態の第4変形例の血管病変モデル510dは、それぞれ、血管病変モデル510b、510c、510dの長手方向に垂直な断面において、血管部30の断面の中心から重心の位置が外れている(血管部30内の断面において偏心している)貫通孔528b、528c、528dが設けられている。
図19および
図20に示すように、貫通孔の大きさは、種々変更することができる。また、
図21に示すように、貫通孔は、血管病変モデルの長手方向に垂直な断面において、偏心させると共に不定型に形成することとしてもよい。
図22に示す第6実施形態の第5変形例の血管病変モデル510eは、血管病変モデル510eの長手方向に垂直な断面において、偏心して設けられた複数の貫通孔528e、527を備えている。
【0076】
上記のような貫通孔を備える血管病変モデルを作製する場合には、血管部30内に病変部を形成するのに先だって、血管部30の内部に、貫通孔に対応する形状を有する棒状の芯材を配置すればよい。上記芯材は、血管部30内で貫通孔となる空間を形成するためのポジションを保持する剛性を有する観点から、例えば、金属製とすることができる。そして、血管部30の内壁と上記芯材との間の空間に、病変領域を形成するための高分子材料を配置・充填して硬化させ、あるいは、予め作製した病変領域を配置して、病変部を形成すればよい。各病変領域を形成した後には、血管部30内の病変部から芯材を抜去すればよい。なお、芯材の抜去を容易にするために、芯材において、離型性を高めるための表面処理を施しておくことも望ましい。あるいは、芯材を配置することなく血管部30内に各病変領域を形成した後に、病変部の所望の位置において、所望の貫通孔に応じた断面形状を有する筒状の打ち抜き部材を長手方向に差し込んで、病変部内に貫通孔となる空間を形成してもよい。
【0077】
図18から
図22では、第2実施形態の血管病変モデルにおいて、貫通孔をさらに設けた様子を示したが、第2実施形態以外の他の実施形態など、異なる態様の病変部において、貫通孔を設ける同様の構成を適用してもよい。
【0078】
このような構成とすれば、病変部が貫通孔を有するため、病変部によって狭窄された血管病変モデルとすることができ、種々の症例に対応する血管病変モデルとして、血管病変モデルのバリエーションをより多く提供することが可能になる。ここで、
図18から
図21に示された貫通孔は、血管の内膜より内側に形成される真腔を模擬しているといえる。これに対して、
図22に示す血管病変モデル510eには複数の貫通孔528e、527が形成されており、一方の貫通孔は、血管の内膜よりも外側に形成される偽腔を模擬しているといえる。このように、複数の貫通孔を設けることにより、真腔と偽腔の双方を模擬して、実臨床において比較的高い頻度で確認される病変の態様に近似した血管病変モデルのバリエーションをより多く提供することができる。
【0079】
G.第7実施形態:
第7実施形態では、血管病変モデルが備える病変部の端部が取り得る態様について詳しく説明する。以下では、第1実施形態と同様の病変部における端部の態様を変更した構成について説明する。
【0080】
図23は、第7実施形態の血管病変モデル610の長手方向に平行な断面の様子を、
図1と同様にして模式的に表す断面図である。第7実施形態の血管病変モデル610が備える病変部620では、-X方向側の端部の面31は、血管病変モデル610の高さ方向(Z軸方向)に対して傾斜したテーパ形状となっており、+X方向側の端部の面32は、長手方向に垂直に形成されている。
【0081】
図24から
図26は、第7実施形態の変形例としての血管病変モデル610a~610cの長手方向に平行な断面の様子を模式的に表す断面図である。また、
図27および
図28は、
図26に示す血管病変モデル610cの長手方向に垂直な断面の様子を模式的に表す断面図である。
図26では、
図27の断面の位置を27-27断面として示しており、
図28の断面の位置を28-28断面として示している。
【0082】
図24に示す第7実施形態の第1変形例の血管病変モデル610aは、病変部620aにおける-X方向側の端部の面31が、凹面状となっている点が血管病変モデル610と異なっている。
図25に示す第7実施形態の第2変形例の血管病変モデル610bの病変部620bでは、長手方向の両端部の面31,32が長手方向に垂直に形成されると共に、これらの面31,32を含む部位において、血管部30を閉塞し、介在病変領域23よりも硬く形成された端部病変領域625,626を備える。
図26に示す第7実施形態の第3変形例の血管病変モデル610cの病変部620cでは、端部の面31,32が共に凹面状に形成されると共に、これらの面31,32を含む部位において、血管部30を閉塞し、介在病変領域23よりも硬く形成された端部病変領域625,626を備える。血管病変モデル610cでは、端部病変領域625の方が端部病変領域626よりも硬く形成されている。
【0083】
病変部の端部形状を上記のような形状にするには、例えば、工程T130において、血管部30内に介在病変領域23となる高分子材料を充填したときに、所望の端部形状に対して反転する形状を有する部材を用いて、充填した高分子材料の端部を閉塞すればよい。
【0084】
図23から
図28は、第1実施形態の血管病変モデルにおいて、病変部の端部形状を変更する様子を示したが、第1実施形態以外の他の実施形態など、異なる態様の病変部において、病変部の端部形状を変更する同様の構成を適用してもよい。
【0085】
第7実施形態によれば、病変部の両端部の形状を種々変更し、あるいはさらに端部病変領域を配置し、これらの変更を組み合わせることにより、種々の症例に対応する血管病変モデルとして、血管病変モデルのバリエーションをより多く提供することが可能になる。例えば、
図25の血管病変モデル610bや
図26の血管病変モデル610cのように、介在病変領域23等の他の領域に比べて硬い端部病変領域625,626を設けることにより、実臨床において比較的高い頻度で確認される病変部の端部の組織(例えば、プラーク病変の塊や、石灰化病変等)を模擬することができる。
【0086】
H.第8実施形態:
図29は、第8実施形態の血管病変モデル510fの概略構成を、
図1と同様にして模式的に表す断面図である。また、
図30は、血管病変モデル510fの長手方向に垂直な断面の様子を模式的に表す断面図である。
図29では、
図30の断面の位置を30-30断面として示している。
【0087】
第8実施形態の血管病変モデル510fは、
図18に示す第6実施形態の第1変形例の血管病変モデル510aと同様の病変部であって、さらに、血管内に留置して用いる血管内留置デバイスを模した部材である血管内留置デバイス529を備える病変部520fを備える。血管内留置デバイス529は、例えば、ステントとすることができるが、他種の血管内留置デバイスであってもよい。血管内留置デバイス529を備える病変部520fを形成するには、例えば、血管部30内に血管内留置デバイス529を配置した後に、各病変領域となる高分子材料を血管部30内に配置して硬化させればよい。
【0088】
図29および
図30は、第6実施形態の第1変形例の血管病変モデル510aにおいて血管内留置デバイス529を配置する様子を示したが、第6実施形態の第1変形例以外の他の実施形態や変形例など、異なる態様の病変部において、血管内留置デバイス529を配置する同様の構成を適用してもよい。
【0089】
このような構成とすれば、血管内留置デバイス529を備える病変部とすることで、血管内留置デバイス529を留置する治療を行った後で再狭窄や再閉塞を生じた病変部を模擬することができる。そのため、種々の症例に対応する血管病変モデルとして、血管病変モデルのバリエーションをより多く提供することが可能になる。
【0090】
I.第9実施形態:
第1から第8実施形態では、病変部は、介在病変領域23以外には、第1病変領域から第4病変領域のうちの少なくとも一種のみを備えることとしたが、さらに他種の病変領域を備えていてもよい。
【0091】
図31は、第9実施形態としての血管病変モデル710の概略構成を、
図1と同様にして模式的に表す断面図である。また、
図32は、血管病変モデル710の長手方向に垂直な断面の様子を模式的に表す断面図である。
図31では、
図32の断面の位置を32-32断面として示している。
【0092】
第9実施形態の血管病変モデル710は、血管内に形成される病変を模擬する病変部720と、第1実施形態と同様の血管部30と、を備える。病変部720は、1つの突出病変領域722と、2つの浮遊病変領域724と、管状病変領域725と、これらの病変領域以外の領域である介在病変領域23と、を備える。なお、突出病変領域722および浮遊病変領域724の数は、上記とは異なる1以上の数としてもよい。
【0093】
第9実施形態の病変部720において、管状病変領域725は、病変部720の長手方向に延びる側面全体を含む円筒状に形成されており、第1病変領域から第4病変領域までのいずれにも該当しない。2つの浮遊病変領域724は、長手方向に垂直な断面と、長手方向に平行な断面との双方において、病変部720の外周から離間する中実形状を有しており、第3実施形態の浮遊病変領域228,229と同様に「第2病変領域」に該当する。突出病変領域722は、長手方向に垂直な断面において、管状病変領域725の内周の一部に接して設けられ、当該管状病変領域725の内周の一部から、病変部720の中央側に向かって広がる形状を有している。また、突出病変領域722は、
図31に示すように、病変部720における長手方向の両端から離間して設けられている。このような突出病変領域722も、長手方向に垂直な断面と、長手方向に平行な断面との双方において、病変部720の外周から離間する中実形状を有しているため「第2病変領域」に該当する。
【0094】
図31および
図32では、病変領域に付するハッチングが濃いほど、病変領域が硬いことを表しているが、各病変領域の硬さの組み合わせは、種々変更可能である。また、第9実施形態の病変部720が備える各病変領域は、第1実施形態の突出病変領域22および介在病変領域23と同様の種々の高分子材料から選択される1種または複数の高分子材料を用いて構成することができる。また、第9実施形態の病変部720が備える各病変領域は、高分子材料に加えて、さらに、無機材料を含有していてもよい。さらに、第9実施形態の病変部720が備える病変領域のうちの少なくとも一部の病変領域は、第1実施形態で説明したように、高分子多孔質体を用いて構成してもよい。
【0095】
このように、血管病変モデルの病変部は、第1病変領域から第4病変領域のうちの少なくとも一種の病変領域に加えて、さらに他種の病変領域を備える場合であっても、既述した各実施形態と同様に、種々の症例に対応する血管病変モデルとして、従来とは異なる血管病変モデルのバリエーションを提供することが可能になる。第1病変領域から第4病変領域のうちの少なくとも一種の病変領域に組み合わせる他種の病変領域は、円筒状以外の種々の形状の病変領域を採用することができる。また、上記した他種の病変領域は、高分子材料を用いて構成する他、例えば無機材料や金属材料を用いて、高分子材料を含むことなく構成することとしてもよい。
【0096】
本開示は、上述の実施形態等に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0097】
10,110,210,310,410,510,510a~510f,610,610a~610c,710…血管病変モデル
20,120,220,320,420,520f,620,620a~620c,720…病変部
22…突出病変領域
23,323,423…介在病変領域
30…血管部
31,32…面
122…下層病変領域
123…中層病変領域
124…上層病変領域
222,224,225…突出病変領域
226…芯部
227…表層部
228,229…浮遊病変領域
322…閉塞病変領域
424,425…貫通病変領域
527,528,528a~528e…貫通孔
529…血管内留置デバイス
625,626…端部病変領域
722…突出病変領域
725…管状病変領域