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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】測位システム及び測位方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 5/02 20100101AFI20240703BHJP
【FI】
G01S5/02 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023171598
(22)【出願日】2023-10-02
【審査請求日】2023-10-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513211744
【氏名又は名称】株式会社WHERE
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤澤 伸亨
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-143270(JP,A)
【文献】特開平11-064505(JP,A)
【文献】特開2021-001805(JP,A)
【文献】特開2019-016917(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0316692(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 1/00- 1/68,
G01S 5/00- 5/14,
G01S 19/00-19/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビーコン送信機が送信する2.4GHz帯のビーコン信号を受信し、電波強度を測定する受信機と、
前記受信機を収容し、電磁波の透過を抑制するシールド筐体と、
の組合せを複数含み、
前記受信機の各々が測定した前記電波強度に基づいて、前記ビーコン送信機に最も近い受信機を特定する測位装置を備え、
前記受信機の各々は、当該受信機を収容するシールド筐体内に受け入れたビーコン送信機と通信を行い、
前記シールド筐体は、上面に開口部を有する直方体状であり、当該シールド筐体を水平方向に切断した横断面の短辺は、60mm以上の大きさであり、
前記ビーコン送信機は、前記シールド筐体に対して挿入方向が定まる形状の測位対象物に、所定の向きで取り付けられる、
測位システム。
【請求項2】
前記受信機は、当該受信機のアンテナの偏波面が、前記測位対象物と共に前記シールド筐体内に挿入されるビーコン送信機のアンテナの偏波面と一致するように、前記シールド筐体内に配置されている
請求項1に記載の測位システム。
【請求項3】
前記測位対象物の前記挿入方向に垂直な横断面の短辺は、前記シールド筐体の前記開口部の短辺よりも小さく、前記横断面の長辺は、前記開口部の長辺よりも小さい
請求項1に記載の測位システム。
【請求項4】
ビーコン送信機が送信した2.4GHz帯のビーコン信号を受信する受信機が測定した電波強度に基づいて、コンピュータが、前記ビーコン送信機に最も近い受信機を特定する測位方法であって、
前記受信機は、電磁波の透過を抑制するシールド筐体に収容され、当該受信機を収容するシールド筐体内に受け入れたビーコン送信機と通信を行い、
前記シールド筐体は、上面に開口部を有する直方体状であり、当該シールド筐体を水平方向に切断した横断面の短辺は、60mm以上の大きさであり、
前記ビーコン送信機は、前記シールド筐体に対して挿入方向が定まる形状の測位対象物に、所定の向きで取り付けられる、
測位方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビーコンを利用した測位システム及び測位方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁波等を発射することにより、受信機に位置等の様々な情報を通知するビーコン(無線標識)が存在する。また、ビーコンには、Bluetooth(登録商標)を利用したものもあ
り、一般的に、複数の送信器から識別情報を受信することで、受信側の装置は自身の位置を知ることができる。(例えば、特許文献1)
【0003】
また、商品に付されたRFタグから情報を読み取る読取装置に開口を形成し、開口を通じて商品を収容するシールド部と、収容された商品に付されているRFタグと交信するための電波を放射するアンテナとを設ける技術も提案されている。(例えば、特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2010-531973号公報
【文献】特開2018-190255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、人や物などの移動する物体が存在する位置を判定するには、物体に取り付けられる発信機の電波を複数の受信機が受信し、各受信機で受信した電波の信号強度等に基づいて判定する方式が採用されることがある。
【0006】
送信機と受信機を裸で置いた状態で、RSSI(受信した電波の信号強度)のみを使って、送信機とペアになる最寄りの受信機を特定している前提では、特に受信機が互いに近接して配置されるような場合は、例えばアンテナの位置関係、マルチパスフェージングや障害物による減衰等が、受信機が受信する電波の受信強度に大きな影響を与えることがある。したがって、複数の受信機を用いて物体の位置を判定する際に、送信機を特定の受信機の近傍に設置したとしても、別の受信機での受信信号強度が強くなり、最寄りの受信機を特定できず、送信機の正しい位置判定ができない問題があった。
【0007】
本発明は、ビーコンを用いた位置推定の精度を向上させるための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、以下の手段を採用する。
[1]
ビーコン送信機が送信するビーコン信号を受信し、電波強度を測定する受信機と、
前記受信機を収容し、電磁波の透過を抑制するシールド筐体と、
の組合せを複数含み、
前記受信機の各々が測定した前記電波強度に基づいて、前記ビーコン送信機に最も近い受信機を特定する測位装置を備え、
前記受信機の各々は、当該受信機を収容するシールド筐体内に受け入れたビーコン送信機と通信を行う
測位システム。
[2]
前記シールド筐体は1つの面に開口部を有する直方体状であり
前記ビーコン送信機は、前記シールド筐体に対して挿入方向が定まる形状の測位対象物に、所定の向きで取り付けられ、
前記受信機は、当該受信機のアンテナの偏波面が、前記測位対象物と共に前記シールド筐体内に挿入されるビーコン送信機のアンテナの偏波面と一致するように、前記シールド筐体内に配置されている
[1]に記載の測位システム。
[3]
前記シールド筐体は1つの面に開口部を有する直方体状であり
前記ビーコン送信機は、前記シールド筐体に対して挿入方向が定まる形状の測位対象物に、所定の向きで取り付けられ、
前記測位対象物の前記挿入方向に垂直な横断面の短辺は、前記シールド筐体の前記開口部の短辺よりも小さく、前記横断面の長辺は、前記開口部の短辺よりも大きく且つ前記開口部の長辺よりも小さい
[1]に記載の測位システム。
[4]
前記シールド筐体の前記挿入方向に垂直な横断面の短辺は、前記ビーコン信号が利用する周波数帯の半波長以上の大きさである
[2]又は[3]に記載の測位システム。
[5]
前記シールド筐体は、前記開口部を閉蓋可能な蓋を有する
[2]から[4]の何れか一つに記載の測位システム。
[6]
前記受信機と前記シールド筐体との前記組合せは、一連の作業を構成する工程を実施する作業場所に設置され、前記測位装置は、特定された前記ビーコン送信機に最も近い受信機に基づいて工程管理を行う
[1]から[5]の何れか一つに記載の測位システム。
[7]
前記ビーコン送信機は、BLE(Bluetooth Low Energy)ビーコンである
[1]から[6]の何れか一つに記載の測位システム。
[8]
前記シールド筐体は、金属製である
[1]から[7]の何れか一つに記載の測位システム。
[9]
ビーコン送信機が送信したビーコン信号を受信する受信機が測定した電波強度に基づいて、コンピュータが、前記ビーコン送信機に最も近い受信機を特定する測位方法であって、
前記受信機は、電磁波の透過を抑制するシールド筐体に収容され、当該受信機を収容するシールド筐体内に受け入れたビーコン送信機と通信を行う
測位方法。
【0009】
開示の態様は、プログラムが情報処理装置によって実行されることによって実現されてもよい。即ち、開示の構成は、上記した態様における各手段が実行する処理を、情報処理装置に対して実行させるためのプログラム、或いは当該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体として特定することができる。また、開示の構成は、上記した各手段が実行する処理を情報処理装置が実行する方法をもって特定されてもよい。開示の構成は、上記した各手段が実行する処理を行う1以上の情報処理装置を含むシステムとして特定されてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ビーコンを用いた位置推定の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、システムの構成例を示す図である。
図2図2は、ビーコンを収容するクリアホルダーの一例を示す図である。
図3図3は、ビーコンの機能ブロックの例を示す図である。
図4図4は、受信機を収容するシールド筐体の一例を示す図である。
図5図5は、受信機の一例を示す装置構成図である。
図6図6は、サーバの機能ブロックの例を示す図である。
図7図7は、システムの動作シーケンスを説明するための図である。
図8図8は、電磁波の伝搬について説明するための図である。
図9図9は、シールド筐体が隣接する場合の試験の構成を説明するための上面図である。
図10図10は、シールド筐体の外部にビーコンが位置する場合の試験の構成を説明するための上面図である。
図11図11は、2つのシールド筐体の間にプラスチック筐体を配置する場合の試験の構成を説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。実施形態の構成は例示であり、発明の構成は、開示の実施形態の具体的構成に限定されない。発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。
【0013】
〔実施形態〕
〈システム構成〉
図1は、システムの構成例を示す図である。なお、本実施形態では、測位等のために送受信される無線標識のほか、当該無線標識の送受信装置をビーコンと呼ぶ。また、送受信される無線標識をビーコン信号とも呼ぶ。また、送信装置を、ビーコン送信機又は単に送信機とも呼び、受信装置を、ビーコン受信機又は単に受信機とも呼ぶ。本実施形態に係るシステムは、ビーコン10(10A、10B、・・・)、受信機20(20A、20B、20C、・・・)、サーバ30を含む。また、ビーコン10と受信機20とは、無線通信によりビーコン信号を送受信する。また、受信機20の各々とサーバ30とは、有線又は無線によりネットワーク4を介して通信可能に接続されている。ネットワーク4は、IP(Internet Protocol)ネットワークを含んでいてもよく、ネットワーク4に接続された
装置は所定のプロトコルに基づいて通信を行うことができる。ネットワーク4の一部は、電話網(固定電話網又は移動体通信網)、アドホック・ネットワーク(ad hoc network)、イントラネット、VPN(Virtual Private Network)、LAN(Local Area Network
)、無線LAN(Wireless LAN)、WAN(Wide Area Network)、インターネット等で
あってもよい。本実施形態にいては、受信機20は、工場等の空間において、組み立てや検査等の一連の手順を構成する複数の工程の各々が実施される場所の近傍に設置される。また、ビーコン10は、複数の工程において処理される対象を識別するために用いられ、例えば図1に一点鎖線の矢印で示すように、測位対象物と共に複数の工程を順に回送される。サーバ30は、受信機20が検知したビーコン10の識別情報に基づいて、各ビーコン10に最も近い受信機20を特定すると共に、工程管理を行う。なお、システム内のビーコン10の数及び設置される受信機20の数は、図1の例に限定されず、工程の数等に応じて適宜決定される。また、図1に示したビーコン10は、クリアホルダー(クリアファイル)100に取り付けられ、受信機20はシールド筐体200に収容されている。
【0014】
図2は、ビーコン10を収容するクリアホルダー100の一例を示す図である。クリアホルダー100は、例えばプラスチック状の長方形のシートを折り畳み、周囲の辺を接合
した紙ばさみである。なお、クリアホルダー100は、複数の紙ばさみを冊子状に綴じたものであってもよい。クリアホルダー100は、上述した工程における処理対象の情報を記載した書類101を収容していてもよい。また、本実施形態では、クリアホルダー100を測位対象物とし、ユーザはクリアホルダー100を工程間において回送する。また、ビーコン10は、クリアホルダー100に取り付けられている。ビーコン10は、例えば、クリアホルダー100の内部又は外部に貼付される。便宜上、図2に示すX軸方向を左右方向(幅方向)、Y軸方向を上下方向、Z軸方向を奥行方向と呼ぶものとする。なお、測位対象物は、クリアホルダーには限定されず、ネームホルダーやバインダー、カード、箱その他の容器等であってもよい。
【0015】
図3は、実施形態に係るビーコン10の機能ブロックの例を示す図である。ビーコン10は、通信部11と、通信インターフェース(IF)12と、記憶部13とを備える。通信部11は、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor
)のようなプロセッサであり、記憶部13に記憶されたプログラムを実行することにより動作する。通信部11は、記憶部13に保持されている情報に基づいて、当該ビーコン10を識別するための識別情報を含む無線標識をアンテナ12から送信させる。無線標識は、送信時刻を示す日時情報等を含んでもよい。具体的には、BLE(Bluetooth Low Energy)等の技術を利用することができ、無線標識のブロードキャスト通信を行うようにしてもよい。通信IF12は、通信部11に接続され、無線標識を送信するためのアンテナである。ビーコン10は、クリアホルダー100に対し、アンテナの偏波面が所定の方向を向くような姿勢で取り付けられることが好ましい。なお、通信IF12は、特定の方向に他の方向に比べて大きな感度を有する指向性アンテナであってもよい。記憶部13は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)のような主記憶装置、及びEPROM(Erasable Programmable ROM)、ハードディスクドライブ(HDD、Hard Disk Drive)、ソリッドステートドライブ(SSD、Solid State Drive)のような二次記
憶装置であってもよい。記憶部13は、実施形態に係る処理を実行させるためのプログラム、各種のデータ及び各種のテーブルを読み書き可能に保持する。例えば、ビーコン10の識別情報等を格納している。
【0016】
図4は、受信機20を収容するシールド筐体200の一例を示す図である。便宜上、図4に示すX軸方向を左右方向(幅方向)、Y軸方向を上下方向、Z軸方向を奥行方向と呼ぶものとする。シールド筐体200は、例えばアルミニウム等の金属製の筐体であり、電磁波の透過を抑制する。また、シールド筐体200は、1つの面に開口部201を有する直方体状の容器であってもよい。図4の例では、シールド筐体200は、上面の全体が開口し、開口部201からクリアホルダー100を挿入可能になっている。また、シールド筐体200の奥行方向の大きさ(マチ)は、クリアホルダー100の奥行方向の大きさ(厚さ)よりも十分に大きく、複数のクリアホルダー100をまとめて挿入可能になっている。なお、Y軸方向を挿入方向と呼ぶ。シールド筐体200の例えば側面には、受信機20と接続された電源用又は通信用のケーブルを挿通する挿通孔202を有していてもよい。シールド筐体200がビーコン信号の透過を抑制するため、当該シールド筐体200に収容された受信機20は、当該シールド筐体200外に存在するビーコン10を検出しづらくなる。また、当該シールド筐体200に収容された受信機20は、当該シールド筐体200内に挿入されたクリアホルダー100に取り付けられたビーコン10を十分な受信電波強度(RSSI)で検出できる。
【0017】
図5は、受信機20の一例を示す装置構成図である。受信機20は、専用又は汎用のコンピュータであり、プロセッサ21(ビーコン通信部211、通信部212)と、通信IF22と、記憶部23とを備える。プロセッサ21は、CPUやDSPのようなプロセッサであり、記憶部23に記憶されたプログラムを実行することによりビーコン通信部211、通信部212として動作する。ビーコン通信部211は、通信IF22を介して、ビ
ーコン10から無線標識を受信し、ビーコン10を検知すると共に受信電波強度を測定する。通信部212は、サーバ30に対し、検知したビーコン10に関する情報を送信する。通信IF22は、ビーコン10と通信を行うためのアンテナや、ネットワーク4を介してサーバ30と通信を行うための通信モジュールを含み得る。記憶部23は、例えば、HDDやSSD、フラッシュメモリのようなEEPROM等によって実現される。記憶部23は、実施形態に係る処理を実行させるためのプログラム、各種のデータ及び各種のテーブルを読み書き可能に保持する。例えば、受信機20を識別するための識別情報や、ビーコン10から受信するビーコン10の識別情報等を格納する。
【0018】
図6は、サーバ30の機能ブロックの例を示す図である。サーバ30は、複数の受信機20が測定したビーコン信号の電波強度に基づいて、ビーコン10に最も近い受信機20(換言すれば、ビーコン10の位置)を特定する測位装置である。サーバ30は、例えば、据え置き型のコンピュータであり、通信IF31と、演算部32と、記憶部33とを備える。通信IF31は、ネットワーク4を介して受信機20との間で通信を行うための通信モジュールである。演算部32は、受信機20から取得する情報に基づいてビーコン10の位置を特定し、ビーコン10の位置に基づいて例えば工場における工程管理を行う。記憶部33は、例えばHDDやSSD、フラッシュメモリ等によって構成される。記憶部43は、実施形態に係る処理を実行させるためのプログラム、各種のデータ及び各種のテーブルを読み書き可能に保持する。例えば、受信機20の識別情報と、当該受信機20が検知したビーコン10の識別情報とを対応付けて記憶する。
【0019】
(動作例)
図7は、システムの動作シーケンスを説明するための図である。本実施形態のシステムでは、工場などにおいて、所定の工程を実施する場所の近傍に受信機20が設置される。また、受信機20の各々は、シールド筐体200に収容される。そして、工程において処理される対象物と共に、クリアホルダー100に取り付けられたビーコン10が回送される。クリアホルダー100は、各工程において、シールド筐体200内に収容される。なお、ビーコン10の数、受信機20の数は、複数であってもよい。また、シールド筐体200内に収容されるクリアホルダー100(換言すればビーコン10)は、複数存在してもよい。
【0020】
ビーコン10は、継続的に、無線標識(ビーコン信号)をブロードキャストする(図7:S1)。無線標識は、ビーコン10の識別情報(ビーコンID)を含む。受信機20は、ビーコン信号を受信すると、受信電波強度を測定して記憶部23に格納する(図7:S2)。また、受信機20は、ネットワーク4を介してサーバ30へ、検知したビーコン10に関する情報を送信する(図7:S3)。例えば、受信機20の識別情報(受信機ID)、検知したビーコンIDが送信される。また、さらに受信電波強度も送信してもよい。サーバ30は、受信機20から検知したビーコン10に関する情報を受信し、記憶部33に格納する。また、サーバ30は、受信機20が検知したビーコン10の情報に基づき、工場における処理対象が存在する位置を特定し、工程の進捗状況を管理する。サーバ30は、受信機20が測定した受信電波強度を取得し、直接的に受信電波強度に基づいてビーコン10に最も近い受信機20を特定してもよいし、受信機20が閾値以上の受信電波強度であるビーコン信号を検知した場合に送信元のビーコン10の情報をサーバ30へ送信し、サーバ30は、間接的に受信電波強度に基づいてビーコン10に最も近い受信機20を特定してもよい。例えば、サーバ30は、検知したビーコン10が存在する工程(換言すれば工場内の位置)を、図示していないユーザの端末又はサーバ30が備えるモニタ等に出力してもよい。また、サーバ30は、進捗状況に応じて作業のスケジュールを調整してもよい。また、サーバ30は、取得した情報に基づいて、工場内の機器を制御してもよい。
【0021】
(作用、効果)
本実施形態では、図4に示したように、受信機20を、電磁波の透過を抑制するシールド筐体200に収容している。よって、シールド筐体200外のビーコン10からの信号は、シールド筐体200内の受信機20によって検知できないか、受信電波強度が低下させられる。このようにすれば、例えば工場内の工程間が近接しているような場合も、受信機20は同一のシールド筐体200内に挿入されたビーコン10からの信号を精度よく特定できるようになる。すなわち、ビーコンを用いた位置推定の精度を向上させることができる。また、受信機20は、例えばBLEを利用して継続的に出力されるビーコン信号を検知するため、工程の開始及び終了のタイミングを精度よく検知できる。
【0022】
(変形例)
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において変更したり組み合わせたりすることができる。
【0023】
実用上、シールド筐体200の大きさは比較的小さい方が都合がよいが、小さくし過ぎると期待する受信信号強度が得られない場合がある。具体的には、横方向(図4のX軸方向)、奥行き方向(Z軸方向)に一定以上の長さを設けないと期待する受信信号強度が得られない。また、上部が開口している場合、高さ方向(Y軸方向)に一定以上の長さを設けないと電波が回折して内外の強度差が得られないことがある。具体的には、シールド筐体200の横方向(X軸方向)及び奥行き方向(Z軸方向)の長さは、送受信されるビーコン信号の半波長以上であることが好ましい。例えば、送受信される電波が、2.4GHz帯を利用する場合、横方向(X軸方向)及び奥行き方向(Z軸方向)の長さは、二分の一波長である約60ミリメートル以上であることが好ましい。また、シールド筐体200の開口部201には、開閉可能な蓋を設け、クリアホルダー100等の測位対象物を収容した状態で閉蓋できるようにしてもよい。
【0024】
図8は、電磁波の伝搬について説明するための図である。平行する2つの完全導体の平面により形成される自由空間が存在する場合、平面との角度θで自由空間に入射した電磁波(破線)は2つの平面の間で反射を繰り返して伝搬する。このとき、電磁波の波数をkとすると、伝搬方向gの波数k、伝搬方向に垂直な方向tの波数kはそれぞれ次の式(1)、(2)で表される。
=kcosθ ・・・(1)
=ksinθ ・・・(2)
ただし、導波路が形成される(すなわち電磁波が伝搬する)のは、伝搬方向に垂直な方向tに対して定在波が生じる条件が成立する場合である。2つの平面の間の距離をdとすると、次の式(3)が成立する場合といえる。
2d=2qπ ・・・(3)
なお、qはモード番号であり自然数(1、2、3、・・・)である。すなわち、伝搬方向に垂直な方向tの波長λ=2d/q、q=1のときが電磁波が伝搬する最低次のモードであり、λ=2dとなる。最低次のモードにおいて、電磁波の波長λが長くなるにつれて、入射角度θは大きくなる。上述した式(2)より、q=1のときの入射角θとλとの関係は、次の式(4)で表すことができる。
θ=sin-1(λ/2d) ・・・(4)
そして、θ=π/2になると、電磁波の伝搬方向gの波数k=0(つまりλ=∞)となり、電磁波は伝搬しなくなる。したがって、電磁波が伝搬する最も長い波長である遮断波長(カットオフ波長)λは、次の式(5)で表される。
λ=λt(q=1)=2d ・・・(5)
よって、上述の通り、シールド筐体200の奥行き方向(Z軸方向)の長さは、送受信されるビーコン信号が利用する周波数帯の半波長以上であることが好ましい。
【0025】
クリアホルダー100等の測位対象物は、シールド筐体200に対して挿入方向が定まる形状であり、且つビーコン10及び受信機20は互いにアンテナの偏波面が一致するように、それぞれクリアホルダー100及びシールド筐体200に設置されていてもよい。例えば、クリアホルダー100の奥行方向の厚さ(挿入方向に垂直な横断面の短辺、図2のZ軸方向の長さ)は、シールド筐体200の開口部201の短辺よりも小さく、クリアホルダー100の幅(挿入方向に垂直な横断面の長辺、図2のX軸方向の長さ)は、シールド筐体200の開口部201の長辺よりも小さい大きさとする。また、クリアホルダー100は、短辺の一方及び長辺の一方が接合されていない構造である場合、ユーザは一般的に、挟まれた書類101が落下しないように接合された辺が下方に位置する向きでクリアホルダー100をシールド筐体200へ挿入する。このようにすれば、ビーコン10をクリアホルダー100に取り付ける位置及び向き、並びに受信機20をシールド筐体200内に配置する位置及び向きを適切に合わせることにより、アンテナの偏波面を一致させ、十分な受信電波強度を得られるようにすることができる。
【0026】
実施形態に示したシステムは、工場内の工程管理に限らず、例えば健康診断のように工程の順序が定められていない手順の管理や、その他の場面における測位に利用してもよい。
【0027】
コンピュータその他の機械、装置(以下、コンピュータ等)に上記いずれかの機能を実現させるプログラムをコンピュータ等が読み取り可能な記録媒体に記録することができる。そして、コンピュータ等に、この記録媒体のプログラムを読み込ませて実行させることにより、その機能を提供させることができる。ここで、コンピュータ等が読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、または化学的作用によって蓄積し、コンピュータ等から読み取ることができる記録媒体をいう。このような記録媒体内には、CPU、メモリ等のコンピュータを構成する要素を設け、そのCPUにプログラムを実行させてもよい。また、このような記録媒体のうちコンピュータ等から取り外し可能なものとしては、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R/W、DVD、DAT、8mmテープ、メモリカード等がある。また、コンピュータ等に固定された記録媒体としてハードディスクやROM等がある。
【0028】
(実施例)
図9は、シールド筐体が隣接する場合の試験の構成を説明するための上面図である。図9の例では、2つのシールド筐体200A、200Bが隣接して配置されている。シールド筐体200Aの内部には、背面に受信機20Aが貼り付けられている。同様に、シールド筐体200Bの内部には、背面に受信機20Bが貼り付けられている。また、シールド筐体200Aには、10個のクリアホルダー100Aが挿入され、シールド筐体200Bには、10個のクリアホルダー100Bが挿入されている。クリアホルダー100A、100Bには、それぞれビーコン10A、10Bが貼付されている。このようにして同一筐体内のビーコン10からの受信強度を測定するとともに、クリアホルダー100A、100Bの表裏を逆に挿入し、計20の同一筐体内のビーコン10からの受信強度を測定し、また、隣接する筐体内における受信強度を測定したところ、結果は次の通りであった。
【表1】

No.1は、シールド筐体200A、200Bについて、同一筐体内の各ビーコンについて一定期間(送信間隔10秒で約8,000データ)の平均受信強度を算出した。20のビーコンからの平均値、最大値及び最小値は、上記の通りであった。同様に、他方のシールド筐体内の受信機でも各ビーコンからの平均受信強度を測定した。そして、20のビーコンのうち最大値は、上記の通りであった。
No.2は、受信機20A、20Bを入れ替え、平均受信強度を測定した結果である。
No.3は、シールド筐体200Aを同種の他の筐体に交換し、平均受信強度を測定した結果である。
No.4は、シールド筐体200A、200B内における受信機20A、20Bの位置を、背面に接する位置から奥行方向(Z軸方向)の中央に変更し、平均受信強度を測定した結果である。
さらに、シールド筐体200A、200Bの奥行方向の配置を入れ替えて測定したところ、同一筐体内の各ビーコンからの受信強度の差は1dB未満であった(No.5と呼ぶ)。
以上の結果から、シールド筐体が隣接した配置した場合においても、精度よくビーコンの測位が可能といえる(No.1~5参照)。また、シールド筐体200Bよりもシールド筐体200Aの方が、受信強度は2~3dB程度高い傾向にあった(No.1~5参照)。シールド筐体200Aを交換した場合も、受信強度の傾向はおおむね同様であった(No.3参照)。また、シールド筐体内の受信機の位置は、背面に接するよりも、周壁面から離隔させて配置(受信機の底面をシールド筐体の底面に貼付)した方が、同一筐体内のビーコンからの受信強度が上がり、隣接する筐体内での受信強度が低下したため、好ましいといえる(No.4参照)。
【0029】
図10は、シールド筐体の外部にビーコンが位置する場合の試験の構成を説明するための上面図である。シールド筐体200の内部には、受信機20が配置されている。また、シールド筐体200の周囲に15個のビーコン10が配置されている。ビーコン10A~10Nは、シールド筐体200と同一の平面上に載置した。また、ビーコン10Pは、シールド筐体200の下方に10cm離隔して配置した。なお、太い破線で示すように、受信機20へ給電するためのケーブルがビーコンAとビーコンNとの間を通過して配線されていた。直方体状のビーコン10について、長手方向を鉛直方向に向けた縦置き及び長手方向を水平方向に向けた平置きにし、それぞれその場で所定の面が90度ずつ異なる方位を向くように回転させて一定期間の受信強度を測定したところ、結果は次の通りであった。
【表2】

電源ケーブルから10cm以内に位置していたビーコンA及びNについて、最大値が比較的高かった。しかし、仮に測位の閾値を-55dBmとする場合であっても、ビーコン10がシールド筐体200及び電源ケーブルから10cm以上離隔していれば、測位の結果がシールド筐体200内と判定されることはないと解される。
【0030】
図11は、2つのシールド筐体200A、200Bの間にプラスチック筐体300を配置する場合の試験の構成を説明するための斜視図である。2つのシールド筐体200A、200Bの内部には、それぞれ受信機20A、20Bが配置されている。それぞれ直方体状であるシールド筐体200A、プラスチック筐体300、シールド筐体200Bは、その長手方向(X軸方向)に隣接して壁掛けにされている。また、プラスチック筐体300及びシールド筐体200Bの内部に、ビーコン10が貼付されたクリアホルダー100を挿入し、受信機20A及び20Bにおける受信強度を測定したところ、結果は次の通りであった。
【表3】

各ビーコン10について、クリアホルダー100の表裏等を変更して一定期間の平均値を200ずつ算出し、その平均値等が上記の通りであった。ビーコン10A~Fは、シールド筐体200B内に挿入されたクリアホルダー100に貼付されたビーコンである。ビーコン10G~Lは、プラスチック筐体300内に挿入されたクリアホルダー100に貼付されたビーコンである。シールド筐体200B内に位置するビーコンA~Fについて、同一筐体内に位置する受信機20Bは高い受信強度で検知できると解される。また、隣接するプラスチック筐体300内のビーコン10をシールド筐体200A内の受信機20A、又はシールド筐体200B内の受信機20Bが検知することはないと解される。
【符号の説明】
【0031】
10:ビーコン
100:クリアホルダー(測位対象物)
20:受信機
200:シールド筐体
201:開口部
30:サーバ(測位装置)
【要約】
【課題】ビーコンを用いた位置推定の精度を向上させる。
【解決手段】測位システムは、ビーコン送信機が送信するビーコン信号を受信し、電波強度を測定する受信機と、前記受信機を収容し、電磁波の透過を抑制するシールド筐体と、の組合せを複数含み、前記受信機の各々が測定した前記電波強度に基づいて、前記ビーコン送信機に最も近い受信機を特定する測位装置を備える。また、前記受信機の各々は、当該受信機を収容するシールド筐体内に受け入れたビーコン送信機と通信を行う。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11