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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】付加加工部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/34 20140101AFI20240703BHJP
   B22F 10/25 20210101ALI20240703BHJP
   B22F 10/38 20210101ALI20240703BHJP
   B22F 10/66 20210101ALI20240703BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20240703BHJP
   B23K 26/323 20140101ALI20240703BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20240703BHJP
   B23P 13/00 20060101ALI20240703BHJP
   B23P 15/28 20060101ALI20240703BHJP
   B23P 25/00 20060101ALI20240703BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240703BHJP
【FI】
B23K26/34
B22F10/25
B22F10/38
B22F10/66
B23K26/21 Z
B23K26/323
B23K31/00 D
B23P13/00
B23P15/28 Z
B23P25/00
B33Y10/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023219480
(22)【出願日】2023-12-26
【審査請求日】2024-01-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】小田 陽平
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-517915(JP,A)
【文献】国際公開第2020/174523(WO,A1)
【文献】特開2020-190226(JP,A)
【文献】特開2012-240059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/34
B22F 10/25
B22F 10/38
B22F 10/66
B23K 26/21
B23K 26/323
B23K 31/00
B23P 13/00
B23P 15/28
B23P 25/00
B33Y 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め施されている付加加工層が除去された部材上に、前記部材よりも高い硬度又は線膨張係数を有する第1材料を供給するとともにレーザを照射することによって前記第1材料及び前記部材の一部を溶融し、前記部材上に第1層を積層する第1積層工程と、
前記第1層上に、前記第1材料よりも高い硬度又は線膨張係数を有する第2材料を供給するとともにレーザを照射することによって前記第2材料を溶融し、前記第1層上に第2層を積層する第2積層工程と、を備え、
前記付加加工層は、前記部材上に設けられるとともに前記第2材料で構成され、
前記第1積層工程において、前記部材は前記レーザの熱により硬度又は線膨張係数が変化する、付加加工部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の付加加工部材の製造方法であって、
前記付加加工部材の製造方法は更に、
前記部材上に予め積層されている付加加工層を除去する除去工程を備え、
前記第1積層工程では、
前記除去工程において前記付加加工層が除去された前記部材上に前記第1層を積層する、付加加工部材の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の付加加工部材の製造方法であって、
前記第1積層工程では、前記部材上に、前記第1層を少なくとも1層積層する、又は、 前記第2積層工程では、前記第1層上に、前記第2層を少なくとも1層積層する、付加加工部材の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の付加加工部材の製造方法であって、
前記第2材料は、ビッカース硬さで600Hv以上の硬度を有する、付加加工部材の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の付加加工部材の製造方法であって、
前記部材の製造方法は更に、
前記第2層が積層された前記部材を冷却する冷却工程を備える、付加加工部材の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の付加加工部材の製造方法であって、
前記第1積層工程では、
前記部材上に、硬度又は線膨張係数が異なる複数の前記第1層をそれぞれ積層し、
前記複数の第1層において、積層方向の上側に積層される前記第1層ほど高い硬度又は線膨張係数を有する、付加加工部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加加工部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工具の割れを抑制する手段として、複数の層で構成される複合材料を用いることが知られている。このような複合材料は、例えば特許文献1に開示される。
【0003】
特許文献1は、セラミック粉末と金属の混合比が異なる複数層で構成された複合部材を開示する。複数の層は、硬度の高い高硬度層と、硬度の低い低硬度層とを交互に積層して成形される。このような複合部材を型に付与し、所定の形状を有する工具を成形する。この工具によれば、高硬度層に割れが発生しても、低硬度層において割れの進展が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-108668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、高硬度層及び低硬度層の成形方法の一例として、指向性エネルギー堆積法を挙げている。指向性エネルギー堆積法では、材料粉末をレーザによって溶融し、材料粉末で構成される層を成形する。特許文献1では、指向性エネルギー堆積法によって成形された高硬度層及び低硬度層を有する複合部材を工具の素材に利用する。一方、指向性エネルギー堆積法は、工具の母体となる部材の表面に所定の厚さ、形状の付加加工層を成形する付加加工にも用いられる。
【0006】
付加加工が施された付加加工部材では、経年により付加加工層が摩耗することがある。この場合、古い付加加工層を除去した後、新たな付加加工層を部材上に積層し、摩耗した付加加工層を修復することがある。ここで、指向性エネルギー堆積法では、付加加工層を部材上に積層する際にレーザによって部材及び材料粉末を溶融させる。このレーザの熱により、部材の材質が変化し、部材が硬化することがある。工具に用いられる付加加工部材では、付加加工層は高い硬度の材料が用いられる。このような場合、指向性エネルギー堆積法によって付加加工層が修復された付加加工部材では、硬化した部材の表面上に硬い付加加工層が設けられる。一般に、高い硬度の材料は靭性が低く、膨張及び収縮しにくい。その結果、修復された付加加工部材を冷却する時に、部材の熱収縮量と、付加加工層の熱収縮量との間に差分が生じることで、付加加工層に割れ又は変形等が生じる可能性がある。
【0007】
本発明は、指向性エネルギー堆積法によって部材に付加加工を施すことで成形される付加加工部材の割れを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の付加加工部材の製造方法は、
部材上に、前記部材よりも高い硬度又は線膨張係数を有する第1材料を供給するとともにレーザを照射することによって前記第1材料を溶融し、前記部材上に第1層を積層する第1積層工程と、
前記第1層上に、前記第1材料よりも高い硬度又は線膨張係数を有する第2材料を供給するとともにレーザを照射することによって前記第2材料を溶融し、前記第1層上に第2層を積層する第2積層工程と、を備える。
【0009】
上記の付加加工部材の製造方法では、部材と、第2材料で構成された第2層との間に、部材及び第2層の中間の硬度又は線膨張係数を有する第1層が設けられる。第1層は、部材に第1層及び第2層が積層された後、部材が冷却された際の、部材と第2層との熱収縮量の差分を吸収する。したがって、上記の付加加工部材の製造方法によれば、指向性エネルギー堆積法によって部材に付加加工を施すことで成形される付加加工部材の割れを抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の付加加工部材の製造方法によれば、指向性エネルギー堆積法によって部材に付加加工を施すことで成形される付加加工部材の割れを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、付加加工部材の製造方法に用いられる工作機械の概略図である。
図2図2は、付加加工部材の製造方法のフローチャートである。
図3図3は、除去工程を説明するための図である。
図4図4は、第1積層工程を説明するための図である。
図5図5は、第2積層工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
<工作機械>
図1は、付加加工部材の製造方法に用いられる工作機械の概略図である。図中(A)を参照して、工作機械1は、部材の付加加工(AM)と、部材の除去加工(SM)とが可能なAM/SMハイブリッド工作機械である。工作機械1は、SM加工の機能として、固定工具を用いた旋削機能と、回転工具を用いたミーリング機能とを有する。工作機械1は、コンピュータによる数値制御によって、部材の加工のための各種動作が自動化されたNC(Numerically Control)工作機械である。本明細書においては、工作機械1の左右方向(幅方向)に平行で、水平方向に延びる軸を「Z軸」といい、前後方向(奥行き方向)に平行で、水平方向に延びる軸を「Y軸」といい、鉛直方向に延びる軸を「X軸」という。
【0014】
工作機械1は、ベッド11と、第1主軸台12と、第2主軸台13と、工具主軸14とを備える。
【0015】
ベッド11は、第1主軸台12、第2主軸台13及び工具主軸14を支持するためのベースである。ベッド11は、工場等の床面に設置される。第1主軸台12、第2主軸台13及び工具主軸14は、スプラッシュガードにより区画形成された加工エリア内に設けられる。加工エリアは、密閉される。
【0016】
第1主軸台12及び第2主軸台13は、Z軸方向において、互いに対向して設けられる。第1主軸台12は、部材21を保持したり、回転させたりする第1ワーク主軸121を含む。第1ワーク主軸121は、Z軸に平行な中心軸A121を中心に回転可能に設けられる。第2主軸台13も同様に、部材21を保持したり、回転させたりする第2ワーク主軸131を含む。第2主軸台13は、各種の送り機構、案内機構及びモータ等により、Z軸方向に移動可能に設けられる。第2ワーク主軸131は、Z軸に平行な中心軸A131を中心に回転可能に設けられる。中心軸A121及び中心軸A131は、同一直線上に位置する。第1ワーク主軸121及び第2ワーク主軸131にはそれぞれ、部材21を着脱可能に把持するためのチャックが設けられる。
【0017】
部材21は、円筒形状を有する。ただし、部材21の形状は特に限定されない。部材21は、中実構造であってもよいし、中空構造であってもよい。部材21は、第1ワーク主軸121及び第2ワーク主軸131に取り付けられた状態で、第1ワーク主軸121の中心軸A121(A131)の延長線と一致する中心軸を有する。部材21の中心軸方向における一方端が第1ワーク主軸121のチャックにより把持され、他方端が第2ワーク主軸131のチャックにより把持される。第1ワーク主軸121及び第2ワーク主軸131は、互いに同期して回転することにより、部材21が中心軸A121(A131)周りに回転する。
【0018】
工具主軸14は、取り付けられた工具をX軸-Z軸平面に含まれる中心軸を中心に回転可能に構成される。工具主軸14は、図示しないコラム等によりベッド11上に支持される。工具主軸14は、コラム等に設けられた各種の送り機構、案内機構及びモータ等により、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に移動可能に設けられる。このような構成により、工具主軸14は、3次元的に移動する。工具主軸14は更に、Y軸に平行な旋回中心軸周りに旋回可能に設けられる(B軸旋回)。
【0019】
工作機械1は更に、付加加工用ヘッド15を備える。付加加工用ヘッド15は、部材21に対して材料を供給するとともにレーザを照射する。すなわち、付加加工用ヘッド15は、部材21に対し指向性エネルギー堆積法による付加加工を行う。
【0020】
付加加工用ヘッド15は、工具主軸14に着脱可能に構成される。工具主軸14が、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に移動することによって、付加加工用ヘッド15もX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に移動する。更に、工具主軸14が、旋回中心軸(B軸)周りに旋回することによって、付加加工用ヘッド15も工具主軸14と一体となってB軸周りに旋回する。
【0021】
工作機械1は更に、制御装置16を備える。制御装置16は、工作機械1を制御する。制御装置16は、CPU、RAM、ROM等を含むコンピュータから構成される。制御装置16は、記録媒体に格納されたコンピュータプログラムを実行することで、工作機械1の各部の動作を制御する。
【0022】
図中(B)を参照して、工作機械1は更に、パウダーフィーダ17と、レーザ発振装置18と、ケーブル19とを備える。
【0023】
パウダーフィーダ17は、付加加工に用いられる材料粉末を、加工位置に供給する。図示はしないが、パウダーフィーダ17は、パウダーホッパーと、混合部とを含む。パウダーホッパーは、付加加工に用いられる材料粉末を収容するための密閉空間を形成する。混合部は、パウダーホッパーに収容された材料粉末と、材料のキャリア用のガスとを混合する。なお、本実施形態では材料は粉末状である場合について説明するが、材料はワイヤ状であってもよい。
【0024】
レーザ発振装置18は、付加加工に用いられるレーザ181を発振する。ケーブル19は、レーザ発振装置18から付加加工用ヘッド15に向けてレーザを導くための光ファイバーと、パウダーフィーダ17から付加加工用ヘッド15に向けて材料粉末を導くための配管と、空気の流路となるエア配管と、不活性ガスの流路となるガス配管と、冷媒の流路となる冷却配管と、電気配線と、これらを収容する管部材とから構成される。
【0025】
<付加加工部材の製造方法>
続いて、本実施形態の付加加工部材の製造方法について説明する。本実施形態では、付加加工部材の製造方法によって、ダイカッターの付加加工層を修復する場合について説明する。
【0026】
図2は、付加加工部材の製造方法のフローチャートである。付加加工部材の製造方法は、実行される順に、除去工程S11と、第1積層工程S12と、第2積層工程S13と、冷却工程S14とを備える。各工程(処理)は、制御装置が各種プログラムを実行することで実行される。
【0027】
図3は、除去工程を説明するための図である。図中(A)は、ダイカットロールの構成の概略図である。除去工程S11では、部材21に予め施されている付加加工層20を除去する。具体的には、まずダイカッター2を準備する。ダイカッター2は、対となるアンビルロール3とともにダイカットロールを構成する。ダイカッター2は、円筒形状を有する部材21の表面に付加加工層20が設けられて構成される。付加加工層20は、刃部201と、摺動部202とを含む。刃部201は、ダイカッター2の刃を構成する。図中では、刃部201が四角形状を有する場合を示すが、刃部201の形状は特に限定されない。刃部201は、ダイカッターで加工する製品の形状に応じた形状を有する。摺動部202は、部材21の両端部に設けられる。摺動部202は、アンビルロール3に押し付けられ、ダイカッター2が回転することでアンビルロール3と摺動する。
【0028】
図中(B)は、ダイカッターの一部をダイカッターの中心軸を含む面で切断した断面図である。本実施形態では予め設けられている付加加工層20は高速度鋼で構成される。付加加工層20は、後述の第2層と同じ材料で構成される。ただし、付加加工層20の材料は特に限定されない。付加加工層20は、第2層と異なる材料で構成されてもよい。部材21に予め付加加工層20を付す方法は、特に限定されない。付加加工層20は、例えば指向性エネルギー堆積法で成形されてもよいし、指向性エネルギー堆積法以外の方法で成形されてもよい。付加加工層20は、例えばパウダーベッド法で成形された層を、切削加工して成形されてもよい。
【0029】
ダイカッターの摺動部202は、経年により摩耗する。摺動部202の摩耗量が所定以上となると、摺動部202の修復が必要となる。そこで、除去工程S11では、ダイカッターの摺動部202を、例えば切削加工、研削加工等により除去する。除去工程S11が終了すると、摺動部202が設けられていた部分は、部材21の表面がむき出しの状態となる。なお、部材21の材質は、特に限定されない。部材21は、例えば鋼である。より具体的には、部材21は例えば炭素鋼である。部材21の組織は、熱処理により変化する。部材21の硬度又は線膨張係数は、熱処理により変化する。要するに、部材21は、熱処理により相変態が生じ得る材料で構成される。
【0030】
図4は、第1積層工程を説明するための断面図である。第1積層工程S12では、指向性エネルギー堆積法により部材21上に第1層221を積層する。第1層は、部材21において上述したダイカッターの摺動部202に対応する位置に設けられる。具体的には、図中(A)を参照して、第1積層工程S12では、部材21の表面に対し、パウダーフィーダ17から粉末状の第1材料2211を供給するとともにレーザ181を照射する。レーザ181は、部材21及び第1材料2211の両方を溶融させる。部材21に対しレーザ181を照射すると、部材21が溶融し、部材21の表面にメルトプール211が形成される。溶融した第1材料2211は、メルトプール211と重なるように広がる。これにより、図中(B)を参照して、部材21の表面上に第1材料で構成される第1層221が積層される。
【0031】
第1材料2211は、部材21よりも高い硬度又は線膨張係数を有する。すなわち、第1層221は、部材21よりも高い硬度又は線膨張係数を有する。ここで言う、部材21の硬度及び線膨張係数は、レーザが照射される前の硬度及び線膨張係数である。この条件を満たせば、第1材料2211は特に限定されない。第1材料2211は、例えばステンレス鋼である。
【0032】
図5は、第2積層工程を説明するための図である。第2積層工程S13では、指向性エネルギー堆積法により第1層221上に第2層222を積層する。第2層222は、第1層221が設けられる位置、すなわちダイカッターの摺動部202に対応する位置に設けられる。第2層222は、ダイカッターの最外表に設けられる。すなわち、第2層222は、実質的にダイカッターの摺動部として機能する。
【0033】
具体的には、図中(A)を参照して、積層された第1層221の表面に対し、パウダーフィーダ17から粉末状の第2材料2221を供給するとともにレーザ181を照射する。レーザ181は、第1層221及び第2材料2221の両方を溶融させる。第1層221に対しレーザ181を照射すると、第1層が溶融し、第1層の表面にメルトプール2212が形成される。溶融した第2材料2221は、メルトプール2212と重なるように広がる。これにより、図中(B)を参照して、第1層221の表面上に第2材料で構成される第2層222が積層される。
【0034】
第2材料2221は、第1材料2211よりも高い硬度又は線膨張係数を有する。すなわち、第2層222は、第1層221よりも高い硬度又は線膨張係数を有する。この条件を満たせば、第2材料2221は特に限定されない。第2材料2221は、例えば高速度鋼である。好ましくは、第2材料2221は、ビッカース硬さで600Hv以上の硬度を有する。
【0035】
冷却工程S14では、第1層221及び第2層222が積層された部材21を冷却する。冷却方法は特に限定されない。冷却方法は、自然冷却でもよいし、冷却媒体を使用してもよい。冷却工程S14が終了すると、部材21に第1層221及び第2層222が積層された付加加工部材が製造される。すなわち、予め設けられていた付加加工層20が、新たな付加加工層22に換えられ、ダイカットロールの修復が完了する。
【0036】
上述したように、本実施形態の付加加工部材の製造方法では、部材21と、第2材料で構成された第2層222との間に、第1材料で構成される第1層221が設けられる。第1材料は、第2材料と部材との中間の硬度又は線膨張係数を有する。そのため、第1層221は、冷却工程において、部材21の熱収縮量と第2層222の熱収縮量との差分を吸収する。したがって、上述の付加加工部材の製造方法によれば、指向性エネルギー堆積法によって部材に付加加工を施すことで成形される付加加工部材の割れを抑制することができる。
【0037】
特に、上述の付加加工部材の製造方法は、レーザの熱によって硬度又は線膨張係数が変化するような部材を用いる場合に有効である。すなわち、製品(上述の実施形態ではダイカッター)の付加加工層を、指向性エネルギー堆積法を用いて修復する場合、レーザの熱によって部材に熱処理が施され、部材の硬度又は線膨張係数が変化することがある。例えば、部材が鉄又は鉄を主成分とする合金で構成される場合、レーザの熱によって部材の少なくとも一部が焼入れされることがある。このような場合、高い硬度の部材表面に第2層を直接的に積層すると、靭性の低い材料の上に靭性の低い材料が設けられることになる。その結果、高い硬度の第2層の熱収縮量を、部材が吸収しにくくなり、第2層に割れが生じやすい。これに対し、上述の付加加工部材の製造方法では、部材21と第2層222との間に第1層221が設けられ、部材21の熱収縮量と第2層222との熱収縮量の差分を吸収する。したがって、上述の付加加工部材の製造方法は、レーザの熱によって硬度又は線膨張係数が変化するような部材21を用いる場合に特に有効である。
【0038】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。当業者にとって変形および変更が適宜可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変更が含まれる。
【0039】
例えば、上述の実施形態では、加工対象の製品がダイカッターである場合について説明した。しかしながら、製品はダイカッターに限定されない。製品は、指向性エネルギー堆積法を用いて部材に付加加工層を積層する製品であればよい。
【0040】
また、上述の実施形態では、予め付加加工層が積層されている製品において、付加加工層を修復する場合について説明した。しかしながら、付加加工層を予め部材に積層する際に、本発明の付加加工部材の製造方法を適用してもよい。すなわち、新品の製品を製造する際に、本発明の付加加工部材の製造方法によって付加加工層を成形してもよい。
【0041】
また、上述の実施形態では、第1層及び第2層がそれぞれ1層である場合について説明した。しかしながら、第1層は複数積層されてもよい。第2層は複数積層されてもよい。第1層又は第2層が複数積層されることで、付加加工層の厚みを調整できる。第1層及び第2層の厚みは、製品の仕様に応じて適宜設定されればよい。
【0042】
第1層が複数積層される場合、複数の第1層はそれぞれ、同じ材料で構成されていてもよいし、異なる材料で構成されていてもよい。複数の第1層の一部が同じ材料で構成されていてもよい。第1層が複数積層される場合、積層方向の上側に積層される第1層ほど高い硬度又は線膨張係数を有していてもよい。第1層が複数積層される場合、第2層に近い第1層ほど高い硬度又は線膨張係数を有していてもよい。第1層が複数積層される場合、積層方向の上側に積層される上第1層は、上第1層の1つ下に設けられる下第1層の硬度又は線膨張係数以上の硬度又は線膨張係数を有していてもよい。第1層が複数積層される場合、積層方向において最も上層に設けられる最上層第1層は、最も下層に設けられる最下層第1層よりも高い硬度又は線膨張係数を有していてもよい。
【0043】
また、上述の実施形態では、付加加工部材の製造方法が除去工程及び冷却工程を備える場合について説明した。しかしながら、付加加工部材の製造方法は、これらの工程を備えていなくてもよい。すなわち、予め付加加工層が積層されていない部材に対し、本発明の付加加工部材の製造方法を適用してもよい。また、別の場所で予め積層された付加加工層を除去した部材に対し、本発明の付加加工部材の製造方法を適用してもよい。また、強制的に冷却する必要がない製品の場合、冷却工程は省略してもよい。更に言えば、付加加工部材の製造方法は、第1積層工程及び第2積層工程に加え、他の工程を備えていてもよい。他の工程は、表面処理工程、研削工程等である。
【0044】
また、上述の実施形態では、第2層が付加加工部材の最外表に設けられる場合について説明した。しかしながら、第2層は付加加工部材の最外表に設けられなくてもよい。付加加工部材は、第2層上に積層された第3層を含んでいてもよい。第3層の材料は、特に限定されない。
【符号の説明】
【0045】
1 :工作機械
11 :ベッド
12 :第1主軸台
13 :第2主軸台
14 :工具主軸
15 :付加加工用ヘッド
16 :制御装置
17 :パウダーフィーダ
18 :レーザ発振装置
181 :レーザ
19 :ケーブル
2 :ダイカッター
20,22:付加加工層
221 :第1層
2211 :第1材料
222 :第2層
2221 :第2材料
201 :刃部
202 :摺動部
21 :部材
211,2221:メルトプール
3 :アンビルロール
【要約】
【課題】指向性エネルギー堆積法によって部材に付加加工を施すことで成形される付加加工部材の割れを抑制する。
【解決手段】付加加工部材の製造方法は、部材21上に、部材よりも高い硬度又は線膨張係数を有する第1材料2211を供給するとともにレーザ181を照射することによって第1材料を溶融し、部材上に第1層221を積層する第1積層工程と、第1層上に、第1材料よりも高い硬度又は線膨張係数を有する第2材料2221を供給するとともにレーザ181を照射することによって第2材料2221を溶融し、第1層上に第2層222を積層する第2積層工程と、を備える。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5