(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-02
(45)【発行日】2024-07-10
(54)【発明の名称】無機繊維マットの製造方法、及び、無機繊維マット
(51)【国際特許分類】
F01N 3/28 20060101AFI20240703BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20240703BHJP
D06M 11/77 20060101ALI20240703BHJP
D06M 15/263 20060101ALI20240703BHJP
D06M 15/693 20060101ALI20240703BHJP
D04H 1/4209 20120101ALI20240703BHJP
【FI】
F01N3/28
C04B38/00 303A
D06M11/77
D06M15/263
D06M15/693
D04H1/4209
(21)【出願番号】P 2024022651
(22)【出願日】2024-02-19
(62)【分割の表示】P 2023086218の分割
【原出願日】2023-05-25
【審査請求日】2024-02-19
(31)【優先権主張番号】P 2022197140
(32)【優先日】2022-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】山崎 友久
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-82310(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/4209
D06M 15/693
D06M 15/263
D06M 11/77
C04B 38/00
F01N 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維、無機バインダの焼成粒子、及び、未焼成の無機バインダと有機バインダとの混合物を含む無機繊維マット。
【請求項2】
前記無機バインダの焼成粒子の長径が0.01~4μmであり、前記混合物の長径が5~20μmである、請求項
1に記載の無機繊維マット。
【請求項3】
前記無機バインダの焼成粒子は、無機バインダのガラス粒子、及び/又は、無機バインダの結晶とガラスとを含む粒子である、請求項
1に記載の無機繊維マット。
【請求項4】
前記無機バインダの焼成粒子が前記無機繊維の表面に付着しており、前記混合物が前記無機繊維同士の接触部及び無機繊維の表面を覆っているか、又は、塊状で前記無機繊維の表面に付着している、請求項
1に記載の無機繊維マット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機繊維マットの製造方法、及び、無機繊維マットに関する。
【背景技術】
【0002】
排ガス中のパティキュレートマター(PM)を捕集したり、有害なガス成分を浄化したりする排ガス浄化装置として、炭化ケイ素やコージェライトなどの多孔質セラミックからなる排ガス処理体と、排ガス処理体を収容するケーシングと、排ガス処理体とケーシングとの間に配設される無機繊維のマット材(保持シール材)とから構成される排ガス浄化装置が種々提案されている。このマット材は、自動車の走行等により生じる振動や衝撃により、排ガス処理体がその外周を覆うケーシングと接触して破損するのを防止することや、排ガス処理体とケーシングとの間から排気ガスが漏れることを防止すること等を主な目的として配設されている。
【0003】
ところで、このような無機繊維のマット材は、大きなシート状の無機繊維マットから所定形状に打ち抜いたり、切り出したりして作製されており、シートの端部が端材として発生する。近年、産業廃棄物の削減が要求されており、製造上生じる端材を廃棄しないで再利用することが求められている。
【0004】
特許文献1では、無機繊維性断熱材の廃材を解繊し、解繊した断熱材に新たな無機繊維を混合して綿状とし、バインダを混合して成形することを特徴とする断熱成形体の製造方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2ではセラミックファイバーをイオン性有機バインダ粉末と混合し、更に耐熱性無機結合剤を含む水を全体がほぼ湿潤状態となるように添加混合した後、その湿潤混合物を型内に充填し、加圧して成形することを特徴とするファイバー成形体の製造方法において、前記セラミックファイバーの一部に代え、使用済みのファイバー製品を細かく解砕したものを使用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平9-210289号公報
【文献】特開2001-335379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に開示されている方法は、製品の成形性が充分でないという問題があった。
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、無機繊維材料に端材を利用する場合であっても、より成形が容易な無機繊維マットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、無機繊維として有機バインダが添着されたニードルマット由来の無機繊維を用いることで、新たに作製する無機繊維マットの成形性が改善することを見出した。
すなわち、本発明の無機繊維マットの製造方法(以下、本発明の製造方法ともいう)は、有機バインダが添着されたニードルマット由来の第一の無機繊維成形体を用い、上記第一の無機繊維成形体を開繊して無機繊維を得る開繊工程と、開繊された上記無機繊維を含むスラリーを用いて無機繊維マットを抄造成形する抄造成形工程と、を有することを特徴とする。
本発明の無機繊維マットの製造方法は、無機繊維として有機バインダが添着されたニードルマット由来の無機繊維を用いるため、過度に開繊されておらず、無機繊維マットの成形性が優れている。
【0009】
本発明の無機繊維マットの製造方法において、更に、抄造マット由来の第二の無機繊維成形体を用いることが好ましい。
抄造マット由来の第二の無機繊維成形体を用いると、製造される無機繊維マットが反発力と巻き付け性の両方を兼ね備える。
【0010】
本発明の無機繊維マットの製造方法において、前記第一の無機繊維成形体及び前記第二の無機繊維成形体が、無機バインダを含むことが好ましい。
前記第一の無機繊維成形体及び前記第二の無機繊維成形体が無機バインダを含むことにより、製造される無機繊維マットにおける無機バインダの分散性が高い。
【0011】
本発明の無機繊維マットの製造方法において、上記第一の無機繊維成形体及び上記第二の無機繊維成形体が、端材であることが好ましい。
端材を無機繊維材料に用いることにより、端材を廃棄することなく有効利用することができる。
【0012】
上記ニードルマットを構成する無機繊維の平均繊維長が3.0~100mmであることが好ましい。
ニードルマットを構成する無機繊維の平均繊維長が上記の範囲であると、本発明の製造方法で得られる無機繊維マットがより高い反発力とより高い巻き付け性の両方を兼ね備える。
【0013】
上記開繊を、湿式開繊のみで行うことが好ましい。
湿式開繊のみで無機繊維の開繊を行うと、工程が簡便になる。
【0014】
上記ニードルマットが、無機繊維前駆体の薄層シートを所定の幅に複数回折りたたんで積層させた後、焼成されることにより形成されていることが好ましい。
このようなニードルマットの端材は、繊維長が長い無機繊維の割合が高く、この端材を材料に使うことで、本発明の製造方法で得られる無機繊維マットが高い面圧を有する。
【0015】
上記開繊工程の前に、上記第一の無機繊維成形体及び上記第二の無機繊維成形体を粗切断することが好ましい。
開繊工程の前に無機繊維成形体を粗切断しておくと、開繊工程が円滑に進行するからである。
【0016】
本発明の無機繊維マットの製造方法において、上記スラリーが更に新品の無機繊維を含み、上記新品の無機繊維と、上記開繊された無機繊維とが同じ組成であり、かつ、Al2O3を60~80重量%含むアルミナシリカ繊維であることが好ましい。
スラリーに新品の無機繊維を添加することにより、本発明の製造方法で得られる無機繊維マットを所望の物性に調整することができる。また、新品の無機繊維と、上記開繊された無機繊維とが同じ組成であると、無機繊維の熱膨張係数が同じであるため、高温時における繊維間の密着部がずれることなく面圧を維持することが可能である。更に、無機繊維がAl2O3を60~80重量%含むアルミナシリカ繊維であることにより、得られる無機繊維マットの反発性及び耐熱性が向上する。
【0017】
上記開繊工程の前に、上記前記第一の無機繊維成形体及び上記第二の無機繊維成形体を焼成する焼成工程を行うことが好ましい。
焼成により第一の無機繊維成形体及び第二の無機繊維成形体に添着している有機バインダを除いておくと、開繊が円滑に進行するからである。
【0018】
上記焼成は、700~1000℃で、1~8時間行うことが好ましい。
上記の条件で焼成を行うと、有機バインダの除去をより確実に行うことができる。
【0019】
本発明の無機繊維マットの製造方法において、上記スラリーに無機バインダ及び有機バインダを添加することが好ましい。
無機バインダを添加することにより、本発明の製造方法で得られる無機繊維マットの面圧が更に向上する。また、有機バインダを添加することにより、本発明の製造方法で得られる無機繊維マットが成形性に優れる。
【0020】
上記抄造成形工程で抄造成形された無機繊維マットを、150~210℃の温度で、5分~1時間加熱乾燥させることが好ましい。
【0021】
本発明の無機繊維マットは、ニードルマット由来の無機繊維、抄造マット由来の無機繊維、無機バインダ及び有機バインダを含む。
本発明の無機繊維マットは、ニードルマット由来の無機繊維と抄造マット由来の無機繊維とを含むため、反発力と巻き付け性の両方を兼ね備える。
【0022】
本発明の無機繊維マットは、無機バインダの焼成粒子、及び、未焼成の無機バインダと有機バインダとの混合物を含んでいてもよい。
本発明の無機繊維マットは、無機バインダを含むニードルマットを焼成して無機繊維材料として用いると、無機バインダの焼成粒子を含んでいる。また、本発明の無機繊維マットは、無機バインダと有機バインダを無機繊維に添加すると、未焼成の無機バインダと有機バインダとの混合物を含んでいる。例えば無機バインダとしてシリカゾル及び/又はアルミナゾルを用いると、上記混合物中の無機バインダは、未焼成の非晶質シリカ及び/又は未焼成の非晶質アルミナである。
【0023】
上記無機バインダの焼成粒子の長径が0.01~4μmであり、上記混合物の長径が5~20μmであることが好ましい。
【0024】
上記無機バインダの焼成粒子は、無機バインダのガラス粒子、及び/又は、無機バインダの結晶とガラスとを含む粒子であることが好ましい。
無機バインダがシリカゾルの場合、例えば、本発明の製造方法における焼成条件(700~1000℃、1~8時間)では結晶が形成されず、上記焼成粒子はシリカガラスから成る。無機バインダがアルミナゾルの場合は、500℃以上の焼成により結晶が生成されるので、本発明の製造方法における上記の焼成条件では、上記焼成粒子は一部がγ-アルミナ結晶であるアルミナガラスから成る。
【0025】
上記無機バインダの焼成粒子が上記無機繊維の表面に付着しており、上記混合物が上記無機繊維同士の接触部及び無機繊維の表面を覆っているか、又は、塊状で上記無機繊維の表面に付着していることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、無機繊維のマット材からカットした排ガス浄化装置用の保持シール材と端材とを示す平面図である。
【
図2A】
図2Aは、折り畳み積層ニードルマットの一製造例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の無機繊維マットを拡大した電子顕微鏡画像の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0028】
(無機繊維マットの製造方法)
本発明の無機繊維マットの製造方法では、無機繊維マットの材料として、有機バインダが添着されたニードルマット由来の第一の無機繊維成形体を用いる。
ニードルマットは、無機繊維を含むマットがニードリング処理されて製造されたマットである。ニードリング処理とは、ニードル等の繊維絡合手段を、無機繊維を含むマットに対して抜き差しすることをいう。第一の無機繊維成形体として用いるニードルマットは、表面及び裏面の少なくとも一方にニードリング処理によって形成された複数の交絡点を有する。
【0029】
上記ニードルマットを構成する無機繊維の平均繊維長は、交絡構造を呈するためにある程度の長さが必要となり、3.0~100mmが好ましい。ニードルマットを構成する無機繊維の平均繊維長が上記の範囲であると、本発明の製造方法で得られる無機繊維マットがより高い反発力とより高い巻き付け性の両方を兼ね備える。また、ニードルマットを構成する無機繊維の平均繊維径(直径)は、2~10μmであることが好ましく、3~7μmであることがより好ましい。
【0030】
本明細書において、無機繊維の平均繊維長及び平均繊維径は、保持シール材のSEM(走査型電子顕微鏡)観察において視野内の任意の無機繊維を100本観察することにより求める。
【0031】
第一の無機繊維成形体を構成する無機繊維としては、特に限定されないが、アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナシリカ繊維、ムライト繊維、生体溶解性繊維及びガラス繊維からなる群から選択される少なくとも1種から構成されていることが望ましい。無機繊維が、アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナシリカ繊維、及び、ムライト繊維の少なくとも1種である場合には、耐熱性に優れているので、排ガス処理体が充分な高温に晒された場合であっても、変質等が発生することはなく、マット材としての機能を充分に維持することができる。また、無機繊維が生体溶解性繊維である場合には、マット材を用いて排ガス浄化装置を作製する際に、飛散した無機繊維を吸入等しても、生体内で溶解するため、作業員の健康に害を及ぼすことがない。
【0032】
アルミナ繊維には、アルミナ以外に、例えば、カルシア、マグネシア、ジルコニア等の添加剤が含まれていてもよい。
アルミナシリカ繊維の組成比としては、重量比でAl2O3:SiO2=60:40~80:20であることが好ましく、Al2O3:SiO2=70:30~74:26であることがより好ましい。
アルミナシリカ繊維としては、また、Al2O3を60~80重量%含むものが挙げられる。
【0033】
第一の無機繊維成形体は、有機バインダが添着されている。有機バインダとしては、例えばアクリル系ラテックス、ゴム系ラテックス等が挙げられる。
【0034】
本発明の製造方法において、第一の無機繊維成形体とともに、抄造マット由来の第二の無機繊維成形体を用いてもよい。抄造マットは、無機繊維を含むマットが抄造処理されて製造されたマットである。本明細書における抄造処理とは、無機繊維の開繊、スラリー化及び成形を行うことをいう。
【0035】
上記抄造マットを構成する無機繊維の平均繊維長は、0.01mm~5.0mm程度が好ましい。また、抄造マットを構成する無機繊維の好ましい平均繊維径(直径)は、ニードルマットを構成する無機繊維と同じである。
第一の無機繊維成形体とともに抄造マット由来の第二の無機繊維成形体を用いると、製造される無機繊維マットが反発力と巻き付け性の両方を兼ね備える。
【0036】
第一の無機繊維成形体の無機繊維と第二の無機繊維成形体の無機繊維は、同じ組成であってもよいし、異なる組成であってもよい。
【0037】
上記第二の無機繊維成形体を用いる場合、上記第一の無機繊維成形体及び上記第二の無機繊維成形体の割合は特に限定されないが、本発明の製造方法で得られる無機繊維マットが反発力と巻き付け性の両方を兼ね備えるため、第一の無機繊維成形体と第二の無機繊維成形体との合計重量に対して、第一の無機繊維成形体の割合が、5~95重量%であることが好ましい。より好ましくは70~90重量%である。
【0038】
第二の無機繊維成形体は、有機バインダが添着されていてもよい。有機バインダの組成は、第一の無機繊維成形体の有機バインダと同じものが挙げられる。
【0039】
第一の無機繊維成形体及び第二の無機繊維成形体は、無機バインダを含むことが好ましい。第一の無機繊維成形体及び第二の無機繊維成形体が無機バインダを含むことにより、本発明の方法で新たに製造される無機繊維マットにおける無機バインダの分散性が高くなるからである。
無機バインダは、第一の無機繊維成形体又は第二の無機繊維成形体のいずれか一方に含まれていてもよく、第一の無機繊維成形体及び第二の無機繊維成形体の両方に含まれていてもよいが、第一の無機繊維成形体及び第二の無機繊維成形体の両方に含まれていることが好ましい。
【0040】
無機バインダとしては、アルミナ、シリカ、炭化ケイ素、ジルコニア、窒化ホウ素、ダイヤモンド及び軽石の少なくとも1種又はこれらの組み合わせなどの任意の適当な硬質セラミック材料が挙げられる。好ましくは、アルミナゾル、シリカゾルである。
【0041】
上記第一の無機繊維成形体及び上記第二の無機繊維成形体が、端材であることが好ましい。端材とは、材料から必要な部分を取ったあとの残りを指す。排ガス浄化装置の保持シール材等を製造する場合、大きなシート状の無機繊維のマット材から所定形状に打ち抜いたり切り出して作製するため、シートの端部が端材として発生する。端材を無機繊維材料に用いることにより、端材を廃棄することなく有効利用することができるため、好ましい。
【0042】
図1は、無機繊維のマット材からカットした排ガス浄化装置用の保持シール材と端材とを示す平面図である。保持シール材の製造現場では、一枚の大きな無機繊維のマット材から複数の保持シール材を切り出すため、
図1に示すように、まず無機繊維のマット材31を保持シール材形成部分32と端材33とに分ける。無機繊維のマット材の外周端31aは、切断前の無機繊維のマット材31の外形を示す。次いで保持シール材形成部分32を個々の保持シール材34に分ける。
保持シール材形成部分32の切り出しは、カットを効率よく行うために直線部分を多くすることや、端材33が極力発生しないようにパターンを考慮するが、保持シール材34が凹凸形状を有していると、端材33が凹凸形状を有することとなる場合がある。
本発明の製造方法では、無機繊維の材料として、このような凹凸形状を有する不揃いの端材を用いることがより好ましい。
【0043】
無機繊維のマット材31の中央部分から保持シール材形成部分32をカットすると、端材33は枠状になる。端材33を枠状のまま本発明の製造方法に用いることも可能であるが、例えば縦方向と横方向とに切断すると、様々な形状の端材33が得られる。
【0044】
本発明の製造方法では、上記ニードルマットが、無機繊維前駆体の薄層シートを所定の幅に複数回折りたたんで積層させた後、焼成されることにより形成されていることが好ましい。このようなニードルマットを折り畳み積層ニードルマットともいう。
図2Aは、折り畳み積層ニードルマットの一製造例を示す模式図である。
図2Bは、
図2Aで製造される折り畳み積層ニードルマットのA-A断面図である。
図2A、
図2Bに示すように、焼成前ニードルマット31Aは、無機繊維前駆体の薄層シート35が所定の幅に複数回折りたたまれて積層されて形成されている。
図2Aに示すように、無機繊維前駆体の薄層シート35は、折り畳み方向に対して直角方向に連続的に移動しながら折りたたまれている。折りたたむ幅や回数に特に制限はないが、例えば、幅1000mm以上、折りたたみ回数5回以上とすることができる。焼成前ニードルマット31Aは、折り返し部36において、繊維長が長い無機繊維の割合が高い。
このような折り返し部を含む端材を無機繊維マットの材料に使うことで、本発明の製造方法で得られる無機繊維マットが高い面圧を有する。
上記折り畳み積層ニードルマットは、例えば、特開2008-7933号公報に記載の方法で製造することができる。
【0045】
本発明の無機繊維マットの製造方法は、上記第一の無機繊維成形体を開繊して無機繊維を得る開繊工程と、開繊された上記無機繊維を含むスラリーを用いて無機繊維マットを抄造成形する抄造成形工程と、を有する。第二の無機繊維成形を用いる場合は、第一の無機繊維成形体とともに開繊を行うか、又は、第一の無機繊維成形体と別に開繊を行って無機繊維を得てもよい。
【0046】
上述のように、第一の無機繊維成形体及び第二の無機繊維成形体が有機バインダを含む場合、開繊工程の前に、第一の無機繊維成形体及び第二の無機繊維成形体を焼成する焼成工程を行うことが好ましい。焼成は、例えば700~1000℃で、1~8時間行う。上記の条件で焼成を行うと、有機バインダの除去をより確実に行うことができる。好ましい焼成温度は、800~950℃である。
【0047】
開繊工程で行う開繊は、湿式開繊のみの単独処理、又は乾式開繊及び湿式開繊の2段階処理で実施することができる。本発明の製造方法においては、工程が簡便になるため、開繊工程は湿式開繊のみ行うことが好ましい。
【0048】
湿式開繊は、パルパー又はミキサー等の湿式開繊装置を使用して行うことができる。湿式開繊は、水に第一の無機繊維成形体及び任意で第二の無機繊維成形体を投入して攪拌することにより行うことができる。第二の無機繊維成形体を使用する場合、第一の無機繊維成形体及び第二の無機繊維成形体を投入する順序は特に限定されないが、先に第一の無機繊維成形体を水に投入して攪拌を行ってから、次いで第二の無機繊維成形体を投入して攪拌を行うか、第一の無機繊維成形体及び第二の無機繊維成形体を同時に水に投入して攪拌を行うことが好ましい。本発明の製造方法では、第一の無機繊維成形体を充分開繊させるため、先に第一の無機繊維成形体を投入して攪拌を行い、次いで第二の無機繊維成形体を投入して更に攪拌することが好ましい。
【0049】
乾式開繊を行う場合は、湿式開繊の前に行う。乾式開繊処理は、フェザーミル等の装置を使用して行うことができる。
【0050】
なお、開繊工程の前に、第一の無機繊維成形体及び上記第二の無機繊維成形体を、予め所望の寸法に粗切断しておいてもよい。開繊工程の前に無機繊維成形体を粗切断しておくと、開繊工程が円滑に進行するからである。第一の無機繊維成形体及び上記第二の無機繊維成形体として端材を用いる場合は、更に切断することなくそのまま開繊工程を行ってもよい。
【0051】
ここで、湿式開繊及び乾式開繊の処理条件(例えば、攪拌速度、攪拌時間等)を変化させることにより、得られる無機繊維の平均繊維長を調整することができる。湿式開繊の処理条件の一例として、例えば攪拌速度500~1000rpm、攪拌時間200~900秒が挙げられる。好ましくは、攪拌速度650~850rpm、攪拌時間500~700秒であり、より好ましくは、攪拌速度700~800rpm、攪拌時間500~650秒である。
このような開繊工程を経て、所望の繊維長分布を有する無機繊維を得ることができる。なお、無機繊維が所望の繊維長分布を有しているかについては、かさ密度を調べることにより確認することができる。
【0052】
次に、開繊された無機繊維を含むスラリーを用いて、無機繊維マットを抄造成形する抄造成形工程を行う。
【0053】
スラリーの調製は、例えば下記のように行うことができる。
まず、水と、開繊された無機繊維とを含む液体を、無機繊維の濃度が0.5~2.0重量%程度となるように液体を調製する。スラリーの調製で水又は開繊された無機繊維を液体に追加する場合、攪拌機で20~120秒程度撹拌する。次に、この液体に、有機バインダを無機繊維に対して0.5~10重量%程度添加し、1~5分程度撹拌する。更にこの液体に、無機バインダを無機繊維に対して0.5~3重量%程度添加し、1~5分程度撹拌する。更に、この液体に、凝集剤を無機繊維に対して0.01~1.0重量%程度添加し、最大約2分間程度撹拌を行い、スラリーを調製する。
【0054】
上記スラリーは、更に新品の無機繊維を含むことが好ましい。スラリーに新品の無機繊維を添加することにより、本発明の製造方法で得られる無機繊維マットを所望の物性に調整することができる。ここで新品の無機繊維とは、無機繊維の状態に初めて形成されたものであり、かつ製品として一度も使用されていないものを意味する。
新品の無機繊維の平均繊維長は、所望する物性によって調整することができ、0.01mm~100mm程度が好ましい。新品の無機繊維の好ましい平均繊維径(直径)は、ニードルマットを構成する無機繊維、抄造マットを構成する無機繊維と同じである。
【0055】
新品の無機繊維の組成としては、第一の無機繊維成形体を構成する無機繊維及び第二の無機繊維成形体を構成する無機繊維として例示したものと同じものが挙げられる。新品の無機繊維は、上記第一の無機繊維成形体を構成する無機繊維及び上記第二の無機繊維成形体を構成する無機繊維と同じ組成であることが好ましい。無機繊維の組成が同じであると、無機繊維の熱膨張係数が同じであるため、高温時における繊維間の密着部がずれることなく面圧を維持することが可能だからである。
新品の無機繊維、上記第一の無機繊維成形体を構成する無機繊維及び上記第二の無機繊維成形体を構成する無機繊維は、Al2O3を65~80重量%含むアルミナシリカ繊維であることがより好ましい。得られる無機繊維マットの反発性及び耐熱性が向上するからである。
【0056】
スラリーの調製で添加する無機バインダとしては、第一の無機繊維成形体及び前記第二の無機繊維成形体が含む無機バインダと同じもの等が挙げられる。また有機バインダとしては、ラテックス等が使用され、凝集剤としては、従来公知のものを使用することができる。
【0057】
本発明の製造方法では、スラリー調製時に無機バインダを添加することが好ましい。第一の無機繊維成形体及び第二の無機繊維成形体が無機バインダを含んでいる場合、抄造成形工程で新たに無機バインダを添加しなくてもよく、無機バインダを添加する場合でも、上述の添加量と比較して少量でもよい。第一の無機繊維成形体及び第二の無機繊維成形体が無機バインダを含んでいる場合であっても、上述と同じ添加量の無機バインダをスラリーに添加してもよい。スラリー調製時に無機バインダを添加することにより、本発明の製造方法で得られる無機繊維マットの面圧が更に向上する。
【0058】
第一の無機繊維成形体及び第二の無機繊維成形体が無機バインダを含む場合、抄造成形工程で配合する無機バインダは、第一の無機繊維成形体及び第二の無機繊維成形体が含む無機バインダと同じ材料であってもよいし、異なる材料の無機バインダを用いてもよい。
【0059】
本発明の製造方法において、スラリー調製時に有機バインダを添加することが好ましい。有機バインダを添加することにより、本発明の製造方法で得られる無機繊維マットが成形性に優れる。
本発明の製造方法において、スラリー調製時に無機バインダ及び有機バインダを添加することがより好ましい。
【0060】
スラリーを用いた無機繊維マットの抄造成形は、例えば下記のように行うことができる。
調製したスラリーを所望の形状の成型器に添加し、原料シートを成形し、更に脱水を行う。通常の場合、成型器の底部には、ろ過用金網(メッシュ寸法:30メッシュ)が設けられており、成型器内に添加されたスラリー中の水分は、このろ過用金網を通り排出される。従って、このような成型器を使用することにより、原料シートの成形と脱水を同時に行うことができる。また必要であれば、サクションポンプ、真空ポンプ等を使用して、成型器の下側から、ろ過用金網を介して、水分の強制吸引を行っても良い。
【0061】
次に、得られた原料シートを成型器から取り出し、プレス器等を用いて、厚さが0.3~0.5倍程度になるように原料シートを圧縮すると同時に、例えば150~210℃の温度で、5分~1時間、加熱、乾燥させることにより、無機繊維マットを得ることができる。
【0062】
本発明の製造方法により得られた無機繊維マットは、所望の形状に切断して排ガス浄化装置の保持シール材等に用いることができる。
【0063】
(無機繊維マット)
本発明の無機繊維マットは、ニードルマット由来の無機繊維、抄造マット由来の無機繊維、無機バインダ及び有機バインダを含む。本発明の無機繊維マットは、ニードルマット由来の無機繊維、抄造マット由来の無機繊維、無機バインダ及び有機バインダを含むスラリーを用いて抄造成形して得られる抄造マットである。
【0064】
ニードルマット、抄造マット、無機繊維、無機バインダ及び有機バインダは、本発明の無機繊維マットの製造方法で例示したものと同じもの等が挙げられる。
ニードルマット由来の無機繊維、及び、抄造マット由来の無機繊維を得る方法は特に限定されないが、例えば、本発明の無機繊維マットの製造方法の開繊工程と同じ方法が挙げられる。
【0065】
本発明の無機繊維マットは、無機バインダとして、無機バインダの焼成粒子、及び、未焼成(乾燥した無機バインダと有機バインダの混合物)の無機バインダを含んでいることが好ましい。無機バインダの焼成粒子とは、無機バインダが焼成されて形成される粒子である。ニードルマット及び抄造マットの少なくとも1つが無機バインダと有機バインダとを含んでおり、無機繊維から有機バインダを除去するために焼成を行うと、無機バインダがガラス粒子となるか、又は、無機バインダの結晶とガラスとを含む粒子となる。
【0066】
例えば、無機バインダがシリカゾルの場合、本発明の製造方法における焼成条件(例えば、700~1000℃、1~8時間)ではほとんど結晶が形成されず、ガラス粒子となる。
一方、無機バインダがアルミナゾルの場合、500℃以上の焼成により結晶が生成され、本発明の製造方法における焼成条件(例えば、700~1000℃、1~8時間)では、一部が結晶質のγ―アルミナで形成されているガラス粒子となる。
無機バインダの焼成粒子は、長径が0.01~4μmであることが好ましい。
【0067】
本発明の無機繊維マットは、ニードルマット由来の無機バインダ、及び/又は、上記抄造マット由来の無機バインダとは別に、無機バインダが添着さてれいることが好ましい。上記焼成の後で無機繊維マットの材料に無機バインダを添加すると、その無機バインダは焼成工程を経ていない非晶質の無機バインダである。
【0068】
本発明の無機繊維マットは、有機バインダを含んでいる。本発明の無機繊維マットでは、未焼成の非晶質無機バインダと有機バインダとが混合物を形成していることが好ましい。上記混合物は、長径が5~20μmであることが好ましい。
【0069】
図3は、本発明の無機繊維マットを拡大した電子顕微鏡画像の一例である。
図3に示すように、無機バインダの焼成粒子42が無機繊維41の表面に付着している。焼成されていない非晶質の無機バインダと有機バインダとの混合物43は、無機繊維41同士の接触部や無機繊維41の表面を覆っているか、又は、塊状で無機繊維41の表面に付着している。
【0070】
本発明の無機繊維マットは、ニードルマット由来の無機繊維と抄造マット由来の無機繊維とを含むため、反発力と巻き付け性の両方を兼ね備える。
【0071】
本発明の無機繊維マットは、例えば、本発明の無機繊維マットの製造方法により作製することができるが、その製造方法は特に限定されない。
【0072】
本明細書には以下の事項が開示されている。
【0073】
本開示(1)は、有機バインダが添着されたニードルマット由来の第一の無機繊維成形体を用い、上記第一の無機繊維成形体を開繊して無機繊維を得る開繊工程と、開繊された上記無機繊維を含むスラリーを用いて無機繊維マットを抄造成形する抄造成形工程と、を有することを特徴とする無機繊維マットの製造方法である。
【0074】
本開示(2)は、更に、抄造マット由来の第二の無機繊維成形体を用いる、本開示(1)に記載の無機繊維マットの製造方法である。
【0075】
本開示(3)は、上記第一の無機繊維成形体及び上記第二の無機繊維成形体が、無機バインダを含む、本開示(2)に記載の無機繊維マットの製造方法である。
【0076】
本開示(4)は、上記第一の無機繊維成形体及び上記第二の無機繊維成形体が、端材である、本開示(2)又は(3)に記載の無機繊維マットの製造方法である。
【0077】
本開示(5)は、上記ニードルマットを構成する無機繊維の平均繊維長が3.0~100mmである、本開示(1)~(4)のいずれかに記載の無機繊維マットの製造方法である。
【0078】
本開示(6)は、上記開繊を、湿式開繊のみで行う、本開示(1)~(5)のいずれかに記載の無機繊維マットの製造方法である。
【0079】
本開示(7)は、上記ニードルマットが、無機繊維前駆体の薄層シートを所定の幅に複数回折りたたんで積層させた後、焼成されることにより形成されている、本開示(1)~(6)のいずれかに記載の無機繊維マットの製造方法である。
【0080】
本開示(8)は、上記開繊工程の前に、上記第一の無機繊維成形体及び上記第二の無機繊維成形体を粗切断する、本開示(2)~(4)のいずれかに記載の無機繊維マットの製造方法である。
【0081】
本開示(9)は、上記スラリーが更に新品の無機繊維を含み、上記新品の無機繊維と、上記開繊された無機繊維とが同じ組成であり、かつ、Al2O3を60~80重量%含むアルミナシリカ繊維である、本開示(1)~(8)のいずれかに記載の無機繊維マットの製造方法である。
【0082】
本開示(10)は、上記開繊工程の前に、上記第一の無機繊維成形体及び第二の無機繊維成形体を焼成する焼成工程を行う、本開示(3)に記載の無機繊維マットの製造方法である。
【0083】
本開示(11)は、上記焼成は、700~1000℃で、1~8時間行う、本開示(10)に記載の無機繊維マットの製造方法である。
【0084】
本開示(12)は、上記スラリーに無機バインダ及び有機バインダを添加する、本開示(1)~(11)のいずれかに記載の無機繊維マットの製造方法である。
【0085】
本開示(13)は、上記抄造成形工程で抄造成形された無機繊維マットを、150~210℃の温度で、5分~1時間加熱乾燥させる、本開示(12)に記載の無機繊維マットの製造方法である。
【0086】
本開示(14)は、ニードルマット由来の無機繊維、抄造マット由来の無機繊維、無機バインダ及び有機バインダを含む無機繊維マットである。
【0087】
本開示(15)は、無機バインダの焼成粒子、及び、未焼成の無機バインダと有機バインダとの混合物を含む、本開示(14)に記載の無機繊維マットである。
【0088】
本開示(16)は、上記無機バインダの焼成粒子の長径が0.01~4μmであり、上記混合物の長径が5~20μmである、本開示(15)に記載の無機繊維マットである。
【0089】
本開示(17)は、上記無機バインダの焼成粒子は、無機バインダのガラス粒子、及び/又は、無機バインダの結晶とガラスとを含む粒子である、本開示(15)又は(16)に記載の無機繊維マットである。
【0090】
本開示(18)は、上記無機バインダの焼成粒子が上記無機繊維の表面に付着しており、上記混合物が上記無機繊維同士の接触部及び無機繊維の表面を覆っているか、又は、塊状で上記無機繊維の表面に付着している、本開示(15)~(17)のいずれかに記載の無機繊維マットである。
【符号の説明】
【0091】
31 無機繊維のマット材
31A 焼成前ニードルマット
31a 外周端
32 保持シール材形成部分
33 端材
34 保持シール材
35 無機繊維前駆体の薄層シート
36 折り返し部
41 無機繊維
42 無機バインダの焼成粒子
43 非結晶の無機バインダと有機バインダとの混合物