(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】電動ドライバシステムおよびドライバ制御装置
(51)【国際特許分類】
B25B 23/14 20060101AFI20240704BHJP
【FI】
B25B23/14 620G
B25B23/14 610A
B25B23/14 610E
(21)【出願番号】P 2023091225
(22)【出願日】2023-06-01
【審査請求日】2023-11-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】598003900
【氏名又は名称】有限会社井出計器
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】井出 貴美
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特許第6038397(JP,B1)
【文献】特開昭62-244286(JP,A)
【文献】特開2021-007999(JP,A)
【文献】特開2019-025600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 23/14 - 23/159
B23P 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動ドライバと、前記電動ドライバの動作を制御するドライバ制御装置とを有し、
前記ドライバ制御装置は、
前記ドライバ制御装置から前記電動ドライバに印加する電流の電流値を時系列に沿って繰り返し取得する電流値取得手段と、
前記電流値取得手段により取得された電流値に基づいて、前記電動ドライバによるネジ締め状態を判定するネジ締め状態判定手段と、
前記ネジ締め状態判定手段による判定結果を報知または外部出力する出力手段と、
正常なネジ締め作業において電動ドライバに印加する電流の電流値および電動ドライバのトルク値を予めサンプリングし、当該サンプリングした電流値およびトルク値に基づいて設定された、電流値をトルク値に変換するための補正値を記憶するとともに、サンプリングしたトルク値に基づいて設定された、ネジ締めが完了したと判定するためのトルク値を判定値として記憶する記憶手段と、を有し、
前記ネジ締め状態判定手段は、前記電流値取得手段により取得した電流値と前記補正値とに基づいて算出したトルク値と、前記記憶手段に記憶されている前記判定値とを比較することで、前記ネジ締め状態を判定し、
前記補正値は、一律の数値ではなく、前記サンプリングした電動ドライバの電流値およびトルク値に基づいて、電流値ごとに設定された数値であり、
前記記憶手段は、電流値ごとに前記補正値を記憶しており、
前記ネジ締め状態判定手段は、前記電流値取得手段により取得した電流値に応じた前記補正値を用いて、前記電流値取得手段により取得した電流値をトルク値に変換する、電動ドライバシステム。
【請求項2】
前記電動ドライバの筐体に、前記ドライバ制御装置が組み込まれ一体化している、請求項1に記載の電動ドライバシステム。
【請求項3】
前記記憶手段は、複数本のネジのネジ締めを行う一連の作業工程において要求されるトルク値が2以上ある場合に、要求される前記2以上のトルク値に対応して、2以上の判定値を前記一連の作業工程に応じてそれぞれ記憶しており、
前記ネジ締め状態判定手段は、前記電動ドライバの電流値を前記トルク値に変換し、変換した前記トルク値と、前記一連の作業工程の各作業における前記判定値とを比較することで、前記ネジ締め状態を判定する、請求項1または2に記載の電動ドライバシステム。
【請求項4】
前記記憶手段は、少なくてもネジの種類および/またはネジを取り付ける取付部材の種類の組み合わせからなるネジ締め条件ごとにサンプリングした、電動ドライバの電流値および/またはトルク値に基づいて、前記ネジ締め条件ごとに、前記判定値を記憶しており、
前記ネジ締め状態判定手段は、ネジ締めを行う予定の前記ネジ締め条件の情報を取得し、取得したネジ締め条件に応じた前記判定値を用いて、前記ネジ締め状態を判定する、請求項1または2に記載の電動ドライバシステム。
【請求項5】
前記記憶手段は、前記サンプリングにおいて、前記ネジ締めを開始してから、ネジの座面がネジ穴の開口部に衝突することによりトルク値または電流値のピークが形成されるまでの時間を含む時間帯を正常判定時間帯として記憶しており、
前記ネジ締め状態判定手段は、前記電動ドライバの電流値に基づいて、前記ネジ締めを開始してから、ネジの座面がネジ穴の開口部に衝突することによる電流値またはトルク値のピークが形成されるまでの時間を算出し、算出した時間が、前記正常判定時間帯から外れる場合に、ネジ締め作業に異常があると判定する、請求項1または2に記載の電動ドライバシステム。
【請求項6】
電動ドライバと電気的に接続し、前記電動ドライバの動作を制御するドライバ制御装置であって、
前記電動ドライバに印加する電流の電流値を時系列に沿って繰り返し取得する電流値取得手段と、
前記電流値取得手段により取得された電流値に基づいて、前記電動ドライバによるネジ締め状態を判定するネジ締め状態判定手段と、
前記ネジ締め状態判定手段による判定結果を報知または外部出力する出力手段と、
正常なネジ締め作業において電動ドライバに印加する電流の電流値および電動ドライバのトルク値を予めサンプリングし、当該サンプリングした電流値およびトルク値に基づいて設定された、電流値をトルク値に変換するための補正値を記憶するとともに、サンプリングしたトルク値に基づいて設定された、ネジ締めが完了したと判定するためのトルク値を判定値として記憶する記憶手段と、を有し、
前記ネジ締め状態判定手段は、前記電流値取得手段により取得した電流値と前記補正値とに基づいて算出したトルク値と、前記記憶手段に記憶されている前記判定値とを比較することで、前記ネジ締め状態を判定し、
前記補正値は、一律の数値ではなく、前記サンプリングした電動ドライバの電流値およびトルク値に基づいて、電流値ごとに設定された数値であり、
前記記憶手段は、電流値ごとに前記補正値を記憶しており、
前記ネジ締め状態判定手段は、前記電流値取得手段により取得した電流値に応じた前記補正値を用いて、前記電流値取得手段により取得した電流値を前記トルク値に変換する、ドライバ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動ドライバシステムおよびドライバ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ネジ締付けなどを効率的に行うための電動ドライバが種々提案されている。この種の電動ドライバでは、ネジを締付けるドライバビットを装着するドライバチャックとモーターとの間に機械式もしくは電磁式のクラッチ機構を設け、ネジ締めしてネジ座面が着座しネジ締付けトルクが設定値以上になるとモーターの駆動を停止、あるいは、モーターの駆動を断続させることでより精密な締付けを可能としたものが提案されている(たとえば特許文献1、2)。
【0003】
また、モーターの回転トルクに加えて、ネジ締め時間を考慮することで、ネジの締付けの不足や過大、ネジのドン突き、カジリ、頭ナメなどの不具合を判定する電動ドライバシステムが提案されている(たとえば特許文献3)。さらに、電動ドライバの回転トルクおよびネジ締め時間に加え、電動ドライバがネジを押圧することで生ずる押圧力に基づいて、ネジ締付けが正常に行われたかを診断する電動ドライバシステムが提案されている(たとえば特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3663638号公報
【文献】特開2005-238418号公報
【文献】特許第4295063号公報
【文献】特開2011-173233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献3,4に記載の電動ドライバシステムでは、電動ドライバにトルクセンサを搭載し、モーターの回転トルクをトルクセンサで検出し、検出した回転トルクに基づいてネジ締め状態を判定していた。しかしながら、トルクセンサは高価であり、このように高価なトルクセンサを各電動ドライバに搭載する必要があるという問題があった。
【0006】
発明者は、廉価な電動ドライバシステムを提供するため、高価なトルクセンサを用いることなく、ネジ締め状態を判定することができる電動ドライバシステムについて鋭意研究を行った。ここで、モーターの回転トルクと消費電流との間は、一般に、トルク-電流(T-I)特性といわれる比例関係があることが知られている。そのため、発明者は、モーターの消費電流値に基づいて、ネジ締め状態を判定する方法を検討した。
【0007】
しかしながら、モーターの消費電流値に基づいてネジ締め状態を判定する場合に、モーターの回転トルクと消費電流値との間に20%程度の誤差が生じてしまうことが分かった。これは、モーターで生じるノイズにより、モーターの消費電流値を適切に計測することができないためと考えられるが、フィルター回路の設置など、ノイズ低減のために一般的に行われている手法を採用するだけでは、ネジ締め状態の判定精度を実用レベルまで高めることができないという問題があった。
【0008】
本発明は、このような状況を鑑みて創作されたものであり、個々の電動ドライバを、トルクセンサを用いない簡素な構成としつつ、電動ドライバを制御するドライバ制御装置においては既存の構成のままで、電動ドライバの動作制御を行うことができる電動ドライバシステムおよびドライバ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る電動ドライバシステムは、電動ドライバと、前記電動ドライバの動作を制御するドライバ制御装置とを有し、前記ドライバ制御装置は、前記ドライバ制御装置から前記電動ドライバに印加する電流の電流値を時系列に沿って繰り返し取得する電流値取得手段と、前記電流値取得手段により取得された電流値に基づいて、前記電動ドライバによるネジ締め状態を判定するネジ締め状態判定手段と、前記ネジ締め状態判定手段による判定結果を報知または外部出力する出力手段と、正常なネジ締め作業において電動ドライバに印加する電流の電流値および電動ドライバのトルク値を予めサンプリングし、当該サンプリングした電流値およびトルク値に基づいて設定された、電流値をトルク値に変換するための補正値を記憶するとともに、サンプリングしたトルク値に基づいて設定された、ネジ締めが完了したと判定するためのトルク値を判定値として記憶する記憶手段と、を有し、前記ネジ締め状態判定手段は、前記電流値取得手段により取得した電流値と前記補正値とに基づいて算出したトルク値と、前記記憶手段に記憶されている前記判定値とを比較することで、前記ネジ締め状態を判定し、前記補正値は、一律の数値ではなく、前記サンプリングした電動ドライバの電流値およびトルク値に基づいて、電流値ごとに設定された数値であり、前記記憶手段は、電流値ごとに前記補正値を記憶しており、前記ネジ締め状態判定手段は、前記電流値取得手段により取得した電流値に応じた前記補正値を用いて、前記電流値取得手段により取得した電流値を前記トルク値に変換する。
上記電動ドライバシステムにおいて、前記電動ドライバの筐体に、前記ドライバ制御装置が組み込まれ一体化している構成とすることができる。
上記電動ドライバシステムにおいて、前記記憶手段は、複数本のネジのネジ締めを行う一連の作業工程において要求されるトルク値が2以上ある場合に、要求される前記2以上のトルク値に対応して、2以上の前記判定値を前記一連の作業工程に応じてそれぞれ記憶しており、前記ネジ締め状態判定手段は、前記電動ドライバの電流値を前記トルク値に変換し、変換した前記トルク値と、前記一連の作業工程の各作業における前記判定値とを比較することで、前記ネジ締め状態を判定する構成とすることができる。
上記電動ドライバシステムにおいて、前記記憶手段は、少なくてもネジの種類および/またはネジを取り付ける取付部材の種類の組み合わせからなるネジ締め条件ごとに電動ドライバの電流値および/またはトルク値をサンプリングすることで、前記ネジ締め条件ごとに、前記判定値を記憶しており、前記ネジ締め状態判定手段は、ネジ締めを行う予定の前記ネジ締め条件の情報を取得し、取得したネジ締め条件に応じた前記判定値を用いて、前記ネジ締め状態を判定する構成とすることができる。
上記電動ドライバシステムにおいて、前記記憶手段は、前記サンプリングにおいて、前記ネジ締めを開始してから、ネジの座面がネジ穴の開口部に衝突することによりトルク値または電流値のピークが形成されるまでの時間を含む時間帯を正常判定時間帯として記憶しており、前記ネジ締め状態判定手段は、前記電動ドライバの電流値に基づいて、前記ネジ締めを開始してから、ネジの座面がネジ穴の開口部に衝突することによる電流値またはトルク値のピークが形成されるまでの時間を算出し、算出した時間が、前記正常判定時間帯から外れる場合に、ネジ締め作業に異常があると判定する構成とすることができる。
本発明に係るドライバ制御装置は、電動ドライバと電気的に接続し、前記電動ドライバの動作を制御するドライバ制御装置であって、前記電動ドライバに印加する電流値を時系列に沿って繰り返し取得する電流値取得手段と、前記電流値取得手段により取得された電流値に基づいて、前記電動ドライバによるネジ締め状態を判定するネジ締め状態判定手段と、前記ネジ締め状態判定手段による判定結果を報知または外部出力する出力手段と、正常なネジ締め作業において電動ドライバに印加する電流の電流値および電動ドライバのトルク値を予めサンプリングし、当該サンプリングした電流値およびトルク値に基づいて設定された、電流値をトルク値に変換するための補正値を記憶するとともに、サンプリングしたトルク値に基づいて設定された、ネジ締めが完了したと判定するためのトルク値を判定値として記憶する記憶手段と、を有し、前記ネジ締め状態判定手段は、前記電流値取得手段により取得した電流値と前記補正値とに基づいて算出したトルク値と、前記記憶手段に記憶されている前記判定値とを比較することで、前記ネジ締め状態を判定し、前記補正値は、一律の数値ではなく、前記サンプリングした電動ドライバの電流値およびトルク値に基づいて、電流値ごとに設定された数値であり、前記記憶手段は、電流値ごとに前記補正値を記憶しており、前記ネジ締め状態判定手段は、前記電流値取得手段により取得した電流値に応じた前記補正値を用いて、前記電流値取得手段により取得した電流値を前記トルク値に変換する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、個々の電動ドライバでトルクセンサを用いることなくできる限り簡易な構成としつつ、電動ドライバを制御するドライバ制御装置においては既存の構成のままで、電動ドライバの動作制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係る電動ドライバシステムの構成図である。
【
図2】本実施形態に係る電動ドライバシステムの機能ブロック図である。
【
図3】正常なネジ締め作業における、ネジの締め状態と、電動ドライバのトルクおよび消費電流値との関係を示すグラフである。
【
図4】ネジ締め作業の異常診断方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図を参照して、本発明に係る電動ドライバシステムの実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る電動ドライバシステム1の構成図である。
図1に示すように、本実施形態に係る電動ドライバシステム1は、電動ドライバ2およびドライバ制御装置3を有し、電動ドライバ2とドライバ制御装置3とは電源コード4を介して電気的に接続している。
【0013】
本実施形態に係る電動ドライバシステム1は、ドライバ制御装置3が、電動ドライバ2の消費電流値に基づいて、電動ドライバ2の動作を制御することを特徴とするシステムである。発明者は、電動ドライバ2の消費電流値を用いて電動ドライバ2の動作制御および異常診断を行うために、長年、鋭意研究を行ってきたが、電動ドライバで消費電流値を計測しようとすると、電動ドライバのモーターで発生するノイズの影響によって、計測される消費電流値が不安定となり、実用可能なレベル(たとえば誤差5%以内)で、消費電流値に基づきネジ締め状態を判定することができなかった。そのため、発明者は、電動ドライバにトルクセンサを内蔵し、トルクセンサでモーター21の回転トルクを検出することで、回転トルクに基づいて、ネジ締め状態を判定する方法を提案していた(たとえば特許文献4)。しかしながら、トルクセンサを用いる方法では、各電動ドライバにトルクセンサが必要となるため、電動ドライバの構成が複雑になるとともに、システム全体の価格が高価になってしまうという問題があった。
【0014】
このような問題に対して、発明者は、電動ドライバ2の消費電流値に基づいて、電動ドライバ2の動作を制御することを着想した。具体的には、モーター21の消費電流値とトルク値との間にはI-T特性と呼ばれる比例関係を有するため、消費電流値に一律の補正値を乗じることでトルク値を算出し、このトルクに基づいて、電動ドライバの動作を制御することを着想し、試験機を作製した。しかしながら、試験機の電動ドライバの動作を確認したところ、モーター21で生じるノイズの影響によって、消費電流値とトルクとは正確な比例関係にはなく、消費電流値に基づいて算出したトルクは、実際のトルク値と比べて平均で20%程度の乖離があることが分かった。実用レベルでは、数%~5%程度の誤差が要求されており、このままでは実用することができないことが分かった。
【0015】
そこで、発明者は、電動ドライバの消費電流値をサンプリングし、ネジ締めが正常に完了した場合の消費電流値を電流判定値として設定し、実際のネジ締め作業における電動ドライバ2の消費電流値が電流判定値に達した場合に、ネジ締め作業が完了したと判定する構成を創作した。このように、電動ドライバ2の消費電流値をサンプリングして電流判定値を設定することで、モーター21のノイズの影響を受けず、電動ドライバ2の消費電流値に基づいて、ネジ締め状態を適切に判定することが可能となった。
【0016】
一方、ネジ締め作業の要求仕様では、5Nmのトルクでネジ締めを行うなど、所定のトルク値でのネジ締め指示されることがあり、単に、消費電流値に基づいてネジ締め作業が完了したかを判定する上記構成の場合には、トルク値と消費電流値の関連付けがなされておらず、所定のトルク値でネジ締めが行われたかを判定することができないという問題があった。
【0017】
そこで、本実施形態では、トルクセンサを搭載した電動ドライバ(設定用の電動ドライバ)を用いて、ドライバ制御装置3が電動ドライバに印加する電流値(電動ドライバ2の消費電流値)と、ネジ締め作業における電動ドライバのトルク値とをサンプリングし、電動ドライバ2の消費電流値ごとに、当該消費電流値をトルク値に換算するための補正値を算出し、ドライバ制御装置3に、消費電流値ごとの補正値を記憶する。これにより、ドライバ制御装置3が電動ドライバに印加する電流値(電動ドライバ2の消費電流値)に基づいて、電動ドライバ2のトルク値を適切に算出し、ドライバ制御装置3側において、所定のトルク値でネジ締めを行ったかを判定することを可能とした。このように、電動ドライバ2の消費電流値に、消費電流値ごとに設定した補正値を用いてトルク値を算出することで、トルク値の誤差を5%以下とすることが可能となった。以下に、本実施形態に係る電動ドライバシステムの構成について説明する。
【0018】
図2は、電動ドライバ2およびドライバ制御装置3の機能ブロック図である。
図2に示すように、電動ドライバ2は、主に、制御部10と、駆動部20とを有している。なお、制御部10および駆動部20は、一体的に電動ドライバ2の筐体30内に内蔵されている。特に、本実施形態では、電動ドライバ2を簡潔かつ廉価な構成とするために、電動ドライバ2は、ドライバ制御装置3から印加される電流に基づいてモーター21を駆動する簡易な構成とされ、トルクセンサや電流センサを有さず、電動ドライバ2からドライバ制御装置3へと信号を送信する機構も有しない。以下に、電動ドライバ2の各構成の詳細について説明する。
【0019】
まず、制御部10について説明する。制御部10は、モーター21の動作を制御する機能を有し、
図2に示すように、主に、モーター駆動制御部11と、レバースイッチ12と、押圧スイッチ13とを有している。
【0020】
モーター駆動制御部11は、モーター21の駆動を制御する。本実施形態において、モーター駆動制御部11は、レバースイッチ12および押圧スイッチ13から、モーター21を駆動させるためのスイッチオン信号を受信している間、ドライバ制御装置3から印加された電流に基づいてモーター21に電圧を印加することで、モーター21を駆動させる。なお、レバースイッチ12は、ユーザが電動ドライバ2を動作させるために押圧可能なスイッチであり、ユーザがレバースイッチ12を押圧することで、モーター駆動制御部11にスイッチオン信号を送信する。また、押圧スイッチ13は、ユーザがドライバビット26をネジに押し付けることでオンにされ、オンにされることで、モーター駆動制御部11にスイッチオン信号を送信する。
【0021】
なお、本実施形態では、ドライバ制御装置3が電動ドライバ2に印加する電流値は制限されており、モーター駆動制御部11は、制限された電流値に基づいてモーター21を駆動することで、電動ドライバ2のトルクがトルク制限範囲を超えてしまうことを防止することができる。また、ドライバ制御装置3は、電動ドライバ2への電流の印加を停止することで、モーター駆動制御部11による、モーター21の駆動を停止させることができる。
【0022】
次に、駆動部20について説明する。駆動部20は、
図2に示すように、モーター21、減速機22、ビットフォルダ24、チャック25およびドライバビット26を有しており、制御部10の制御に基づいて、モーター21を駆動し、これにより、ドライバビット26を回転させる。
【0023】
モーター21は、モーター駆動制御部11の制御に基づいて回転駆動を行う。本実施形態において、モーター21として、DCモーター類を採用しており、モーター21の回転により電動ドライバ2の先端に設けたドライバビット26を回転する機構となっている。また、モーター21とドライバビット26との間には、モーター21の回転速度を減速する遊星ギアからなる減速機22が設けられており、ビットフォルダ24およびチャック25を介して、ドライバビット26を減速機22に取り付ける構成となっている。
【0024】
次に、本実施形態に係るドライバ制御装置3について説明する。ドライバ制御装置3は、電動ドライバ2の動作を制御するための装置である。本実施形態では、ドライバ制御装置3が、電動ドライバ2に印加する電流値を制御することで、電動ドライバ2の動作を制御する。特に、ドライバ制御装置3は、ドライバ制御装置3が電動ドライバ2に印加する電流値を電動ドライバ2の消費電流値として計測し、ドライバ制御装置3が計測した電動ドライバ2の消費電流値に基づいて、電動ドライバ2の動作を制御する。これにより、電動ドライバ2において消費電流値を計測し送信する構成が必要なくなり、電動ドライバ2の構成を簡素化することが可能となる。以下に、ドライバ制御装置3の詳細について説明する。
【0025】
ドライバ制御装置3は、
図2に示すように、主に、消費電流値計測部31、記憶部32、ドライバ制御部33、設定部34、表示部35、報知部36および電源部37を有している。なお、
図1および
図2に示す例では、1台のドライバ制御装置3に対して、1台の電動ドライバ2が接続している構成を例示したが、この構成に限定されず、1台のドライバ制御装置3に対して、複数台の電動ドライバ2を接続する構成とすることができる。
【0026】
電源部37は、商用電源に接続し、ドライバ制御装置3を動作するための電力を得るとともに、電動ドライバ2を動作させるための電力を、電源コード4を介して、電動ドライバ2に供給する。
【0027】
消費電流値計測部31は,電動ドライバ2に印加する電流を計測するための回路を有しており、電動ドライバ2に印加する電流値を、電動ドライバ2の消費電流値として繰り返し計測し、計測した電動ドライバ2の消費電流値をドライバ制御部33に送信する。
【0028】
ここで、ネジ締め作業における電動ドライバ2のトルクおよび消費電流値(電動ドライバ2に印加する電流値)の推移について説明する。
図3は、正常なネジ締め作業における、ネジの締め付け状態と、電動ドライバ2のトルク値および消費電流値との関係を示すグラフである。なお、
図3においては、電動ドライバ2のトルク値と消費電流値が比例関係にあるものとして、トルク値と消費電流値とを同一の線で示している。また、
図3において、上部は、ネジの締め付け状態を示しており、下部に、上部の各ネジ締め状態での電動ドライバ2のトルクまたは消費電流値の時系列データの一例を示している。
【0029】
図3において、(a)のタイミングは、スイッチオン信号が出力され、ネジ締めが開始された直後の状態を示しており、(b)のタイミングは、(a)に示す状態からネジを回転させて、ネジがネジ穴に差し込まれている状態を示している。(a)に示す状態から、モーター21を駆動させてネジを回転させることで、(b)に示すタイミングでは、ネジ穴の側面に溝を形成しながら、ネジが穴に差し込まれていくこととなる。この場合、ネジを単に回転させるだけではなく、ネジ穴に溝を形成するための負荷もかかるため、下部のグラフに示すように、電動ドライバ2のトルクおよび消費電流値は上昇する。
【0030】
また、(c)および(d)に示すタイミングでは、ネジの先端部がネジ穴を貫通し、ネジ穴にこれ以上新しい溝が形成されない状態となっている。この場合、既に形成された溝に沿ってネジが差し込まれるため(新たな溝を形成されないため)、(b)に示す場合と比べて、ネジを締めるための負荷は小さくなり、その分、ドライバビット26はスムーズに回転し、下部のグラフに示すように、電動ドライバ2のトルクおよび消費電流値は低い状態で推移する。
【0031】
一方、(e)に示すように、ネジ頭の座面がネジ穴の開口部に着座すると、ネジ頭とネジ開口部との衝突によりトルクが瞬間的に上昇しトルクおよび消費電流値のピーク(衝突ピーク)が現れる。さらに、ネジ締めを続けた場合には、ネジが取付部材を押圧しながら挿し込まれるため、トルクおよび消費電流値が上昇していく。そして、(f)に示すタイミングにおいて、回転トルクが後述するトルク制限値Trlに達しモーター21の駆動が停止されると、あるいは、雌ネジが破壊されることでネジが空転することで、電動ドライバ2のトルクおよび消費電流値は急峻に低下する。
【0032】
このように、1回のネジ締め作業においても、ネジのネジ締め状態の変化に伴い、電動ドライバ2のトルクおよび消費電流値は変化する。消費電流値計測部31は、このようなネジ締め状態の変化に伴う電動ドライバ2の消費電流値を繰り返し計測し、ドライバ制御部33へと出力する。
【0033】
なお、本実施形態では、消費電流値計測部31が有する電流計測回路に、電圧ノイズまたは電流ノイズによる消費電流値の計測誤差を低減するためのフィルター回路が組み込まれている。フィルター回路は、特に限定されないが、OPアンプ入力にCRスパナ回路を組み入れた回路などが採用できる。これにより、消費電流値計測部31は、電動ドライバ2の消費電流値をより的確に計測することが可能となる。ただし、このようなフィルター回路を用いた対策だけでは、モーターの回転トルクと消費電流値との誤差を十分に解消できないため、本実施形態では、後述するように、実際のネジ締め作業においてサンプリングした消費電流値とトルク値とに基づいて、消費電流値をトルク値に換算するための補正値を求めておくことで、ノイズの影響がある場合でも、電動ドライバ2の消費電流値からトルク値を適切に算出することができ、算出したトルク値に基づいてネジ締め状態を適切に判定することができる。
【0034】
次に、ドライバ制御部33について説明する。ドライバ制御部33は、電動ドライバ2に印加する電流を制御することで、電動ドライバ2のネジ締め動作を制御する。具体的に、ドライバ制御部33は、主に、以下の7つの機能を有している。
(1)電動ドライバ2に電流を印加することで、電動ドライバ2を駆動させるドライバ駆動機能。
(2)電動ドライバ2の消費電流値(電動ドライバ2に印加する電流値)を、電動ドライバ2のトルクに換算するトルク換算機能。
(3)電動ドライバ2に印加する電流値を制限することで、電動ドライバ2のトルクを制限するトルク制限機能。
(4)電動ドライバ2の消費電流値(電動ドライバ2に印加する電流値)に基づいて、ネジ締めが完了したか判定するネジ締め状態判定機能。
(5)電動ドライバ2の消費電流値(電動ドライバ2に印加する電流値)に基づいて、ネジ締め作業が正常に行われたか診断するネジ締め診断機能。
(6)電動ドライバ2(モーター21)の駆動を停止するために、電動ドライバ2への電流の印加を停止するドライバ停止機能。
(7)外部装置から受信した設定信号に基づいて、ネジ締め条件などの設定を行う設定機能。
以下に、ドライバ制御部33の各機能について説明する。
【0035】
ドライバ制御部33のドライバ駆動機能は、電源部37から供給される電流を、電動ドライバ2に印加することで、電動ドライバ2を駆動させる。また、ドライバ駆動機能は、電動ドライバ2に印加する電流の大きさを適宜変更することができ、これにより、電動ドライバ2のトルクを制限することができる。特に、本実施形態では、ユーザまたは管理者が、設定部34を操作して、ネジ締め作業において許容できるトルクの上限値を、トルク制限値Trlとして記憶部32に記憶しており、ドライバ駆動機能は、後述するトルク制限機能と協働して、電動ドライバ2のトルクがトルク制限値Trl以下となる電流を電動ドライバ2に印加することで、電動ドライバ2のトルクをトルク制限値Trl以下に制限する。
【0036】
ドライバ制御部33のトルク換算機能は、消費電流値計測部31により計測された電動ドライバ2の消費電流値を、電動ドライバ2のトルク値に換算する。本実施形態では、記憶部32に、電動ドライバ2の消費電流値を、電動ドライバ2のトルク値に変換するための補正値が予め記憶されており、トルク換算機能は、この補正値を用いて、電動ドライバ2の消費電流値を、電動ドライバ2のトルク値に換算する。
【0037】
ここで、電動ドライバ2の消費電流値と、電動ドライバ2のトルク値とは、一般的に、I-T特性と呼ばれる比例関係を有することが知られている。そのため、理論上は、当該比例関係に応じた一定の係数を消費電流値に乗じることで、トルク値を算出することができる。しかしながら、実際には、電動ドライバにトルクセンサおよび電流センサを搭載し、トルクセンサで計測した電動ドライバ2のトルクと、電流センサで計測した電動ドライバ2の消費電流値からI-T特性に基づいて算出したトルクでは、20%程度の誤差が生じることが分かった。このような誤差は、モーター21で生じる電圧ノイズや電流ノイズによって生じるものであると考えられる。
【0038】
そこで、本実施形態では、記憶部32に、電動ドライバ2の消費電流値(電動ドライバ2に印加する電流値)ごとに、電動ドライバ2のトルク値を算出するための補正値を記憶しておくことで、トルク換算機能は、この補正値を用いて、電動ドライバ2の消費電流値に応じた補正値を用いて、電動ドライバ2のトルク値を算出する。なお、上記補正値は、ユーザまたは管理者が、予め、トルクセンサを搭載した電動ドライバ(設定用の電動ドライバ)を用いて正常なネジ締め作業を行い、ドライバ制御装置3が電動ドライバ2に印加する電流値(電動ドライバ2の消費電流値)と、電動ドライバ2がトルクセンサで検出したトルク値とをサンプリングし、サンプリングした電動ドライバのトルク値および消費電流値に基づいて、消費電流値ごとに算出することで求めることができる。
【0039】
ドライバ制御部33のトルク制限機能は、ドライバ駆動機能が電動ドライバ2に印加する電流の大きさを制限することで、電動ドライバ2のトルクを制限する。たとえば、ネジ締め作業の要求仕様では、5Nmのトルクでネジ締めを行うなど、所定のトルク値でのネジ締め指示されることがある。この場合、トルク制限機能は、ネジ締め作業において、要求されるトルク値以上のトルク値でネジ締めが行われないように、電動ドライバ2のトルク値を5Nmに制限することができる。具体的には、記憶部32に、トルク制限値Trlが記憶されており、トルク制限機能は、トルク換算機能で算出したトルク値がトルク制限値Trl以上とならないように、電動ドライバ2に印加する電流値を制限する。なお、ドライバ制御装置3は、電流制限回路を有することで、設定されたトルク値以上のトルクとならないように、電流を制限するトルク制限機能を実行する構成とすることができる。
【0040】
また、要求仕様によっては、複数本のネジをネジ締めする一連のネジ締め作業工程において、複数のトルク値でネジ締めを行うことが要求されることがある。たとえば、ネジ締めを5Nmで5本締め付けた後、1Nmで3本締め付け、その後、3Nmで10本の締め付けを行うという一連のネジ締め作業工程が要求される場合がある。このような要求に対応するために、記憶部32は、複数のトルク制限値Trlを記憶することができ、また、トルク制限機能は、複数のトルク制限値Trlの中から、現在のネジ締めに用いるトルク制限値Trlを用いて、ネジ締めのトルク制限を行う構成とすることができる。たとえば、トルク制限機能は、上述した一連のネジ締め作業工程においては、まず、トルク制限値Trlを5Nmとして5回のネジ締め作業を行い、次いで、トルク制限値Trlを1Nmとして3回のネジ締め作業を行い、次いで、トルク制限値Trlを3Nmとして10回のネジ締め作業を行う構成とすることができる。
【0041】
次に、ドライバ制御部33のネジ締め状態判定機能について説明する。ネジ締め状態判定機能は、電動ドライバ2の消費電流値に基づいて、電動ドライバ2がネジ締めを完了したか否かを判定する。具体的には、ネジ締め状態判定機能は、トルク換算機能により算出したトルク値が、記憶部32に記憶したトルク判定値Trtに達したか否かを判定する。トルク判定値Trtとは、ネジ締めが完了したと判定できるトルク値であり、ユーザまたは管理者が、トルクセンサを搭載した電動ドライバ(設定用の電動ドライバ)を用いて、予め、正常なネジ締め作業における電動ドライバのトルクを時系列に沿ってサンプリングし、ネジ締めが完了したタイミングにおけるトルク値を、トルク判定値Trtとして設定し、記憶部32に記憶させることができる。具体的に、本実施形態では、
図3の(e)に示すように、ネジ頭の座面がネジ穴の開口部に着座し、ネジ頭とネジ開口部との衝突によりトルク値の衝突ピークが形成されたタイミングをネジ締め完了タイミングとし、当該ネジ締め完了タイミングにおける電動ドライバ2のトルク値をトルク判定値Trtとして記憶部32に記憶させる。
【0042】
そして、ネジ締め状態判定機能は、トルク換算機能により算出したトルク値が、トルク判定値Trtに達した場合に、ネジ締めが完了したと判定し、報知部36や表示部35に、電動ドライバ2のトルク値がトルク判定値に達した旨(ネジ締めが完了した旨)をブザーなどの音、ライト点灯などの光、あるいは文字情報で出力させることで、ユーザにネジ締めが完了した旨を知らせることができる。
【0043】
ドライバ制御部33のネジ締め診断機能は、電動ドライバ2のネジ締め作業の異常を診断する。具体的に、ネジ締め診断機能は、ネジ締めを開始してから、ネジ締め状態判定機能によりネジ締めが完了したと判定されるまでの時間をネジ締め時間として計測し、計測したネジ締め時間が、所定の正常判定時間帯Tmtの範囲内である場合には、ネジ締め作業は正常に行われたと診断し、所定の正常判定時間帯Tmtの範囲外である場合には、ネジ締め作業に異常があったと診断する。
【0044】
ここで、
図4は、ネジ締め作業の異常診断を説明するためのグラフである。本実施形態では、
図4に示すように、正常なネジ締め作業におけるネジ締め時間を含む時間帯が正常判定時間帯Tmtとして記憶部32に記憶されている。ネジ締め時間は、通常、ネジの長さや取付部材の材質などのネジ締め条件に応じて変わるが、ネジ締め条件が同一であれば、正常なネジ締め作業では、ネジ締め開始からネジ締め完了までを一定の時間範囲内で行うことができる。そこで、本実施形態では、ネジ締め条件ごとに、正常なネジ締め作業におけるネジ締め時間をサンプリングしておき、ネジ締めが完了した時間を含む一定範囲の時間帯を、正常判定時間帯Tmtとして設定し、記憶部32に記憶することができる。なお、本実施形態では、少なくてもネジの種類およびネジが取り付けられる取付部材の種類の組み合わせをネジ締め条件と称す。
【0045】
具体的には、ユーザまたは管理者は、トルクセンサおよび電流センサを搭載した電動ドライバ(設定用の電動ドライバ)を用いて、正常なネジ締め作業における電動ドライバ2のトルク値および電流値をサンプリングしておき、電動ドライバ2(モーター)の起動電流を検出したタイミングから、ネジ頭の座面がネジ穴の開口部と衝突することで、電動ドライバ2のトルク値の衝突ピークが生じるタイミング(
図3に示す(f)のタイミング)までの時間(基準時間Tms)を求め、基準時間Tmsを含む時間帯を正常判定時間帯Tmtとして記憶部32に記憶させることができる。たとえば、正常なネジ締め作業においてネジ締めが完了するまでの時間(基準時間Tms)が1秒である場合、正常判定時間帯Tmtとして、基準時間Tmsの前後に0.5秒ずつ設けた0.5秒~1.5秒の時間帯として設定することができる。なお、電動ドライバ2(モーター21)の起動電流は、一般に、モーター21の起動を開始してから約1~5msでピークが得られる電流値であり、設定用の電動ドライバの電流センサで検出することもできるが、ドライバ制御装置3においても検出することができる。そのため、サンプル時は、設定用の電動ドライバの電流センサでモーター21の起動電流を検出し、実際に、電動ドライバ2を用いてねじ締めを診断する場合には、ドライバ制御装置3において電動ドライバ2(モーター21)の起動電流を検出する構成とすることができる。
【0046】
たとえば、
図4に示す例において、電動ドライバ2の消費電流値(電動ドライバ2に印加した電流値)に基づくトルク値の時系列データ1では、ネジ締め作業が開始されてから衝突ピークが検出されるまでの時間(A)が、正常判定時間帯Tmtの範囲内となっている。この場合、ネジ締め診断機能は、ネジ締め作業は正常に行われたと診断することができる。一方、
図4に示す例において、電動ドライバ2の消費電流値に基づくトルク値の時系列データ2では、ネジ締めが完了するまでの時間(B)が正常判定時間帯Tmtよりも早い時間となっており、この場合、ネジ締め診断機能は、ネジ穴の径に対してネジの径が大きいなどの異常があると診断することができる。また、
図4に示す例において、電動ドライバ2の消費電流値に基づくトルク値の時系列データ3では、ネジ締めが完了するまでの時間(C)が正常判定時間帯Tmtよりも遅い時間となっており、この場合、ネジ締め診断機能は、ネジ穴の径に対してネジの径が小さい、ネジの空転、ガジリ、ネジ頭ナメなどの異常があると診断することができる。
【0047】
また、ネジ締め診断機能は、電動ドライバ2のトルクがトルク判定値Trtに達することなく、一定時間経過した場合も、ネジ穴の径に対してネジの径が小さい、ネジの空転、ガジリ、ネジ頭ナメなどの異常があると診断する構成とすることもできる。ネジが空転などする場合には、回転トルクが上昇せず、トルクがトルク判定値Trtに達しない場合があるためである。なお、上記一定時間は、設定機能により、電動ドライバ2の種類ごと、あるいは、ねじ締め条件ごとに設定することができる。電動ドライバ2の種類やねじ締め条件により、ねじ締め作業において電動ドライバ2のトルクがトルク判定値Trtに達するまでの時間に差があるためである。
【0048】
ドライバ制御部33のドライバ停止機能は、電動ドライバ2への電流の印加を停止することで、電動ドライバ2の駆動を停止する。本実施形態において、ドライバ停止機能は、ネジ締め状態判定機能により、電動ドライバ2のトルクがトルク判定値Trtに達した場合にネジ締めが完了したと判定された場合、および/または、トルク制限機能により、電動ドライバ2のトルク値がトルク制限値Trlに達し、トルクが制限された場合に、電動ドライバ2の駆動を停止する構成とすることができる。
【0049】
ドライバ制御部33の設定機能は、パソコンやスマーフォンなどの外部装置から設定信号を受信し、受信した設定信号に基づいて、ネジ締め条件に応じた補正値、トルク判定値Trt、トルク制限値Trlおよび/または正常判定時間帯Tmtを設定することができる。すなわち、本実施形態では、ユーザまたは管理者が、外部装置を用いて、ネジ締め条件ごとの補正値、トルク判定値Trt、トルク制限値Trlおよび/または正常判定時間帯Tmtを入力することができ、外部装置で入力した補正値、トルク判定値Trt、トルク制限値Trlおよび/または正常判定時間帯Tmtをドライバ制御部33に送信することで、設定機能が記憶部32に補正値、トルク判定値Trt、トルク制限値Trlおよび/または正常判定時間帯Tmtを記憶させることができる。
【0050】
また、設定機能は、ユーザまたは管理者が設定部34を介して入力したネジ締め条件の情報を取得し、当該ネジ締め条件に応じた補正値、トルク判定値Trt、トルク制限値Trlおよび/または正常判定時間帯Tmtを記憶部32から取得する。これにより、ドライバ制御部33は、設定された補正値、トルク判定値Trtおよびトルク制限値Trlを用いて、トルク換算、ネジ締め状態の判定、トルク制限、ネジ締め診断などを実行することができる。なお、ドライバ制御装置3は、外部装置と有線または無線で接続することで、情報の授受が可能となっている。
【0051】
さらに、設定機能は、ユーザがドライバ制御装置3の設定部34を操作することで、ネジ締め状態判定機能、トルク制限機能、および/またはネジ締め診断機能のオン/オフを設定することができる。
【0052】
また、本実施形態では、ネジ締め条件ごとにネジ締めを実際に行い、ネジ締め条件ごとに、正常なねじ締め作業における電動ドライバ2の消費電流値およびトルク値を時系列に沿ってサンプリングすることで、ネジ締め条件ごとに、補正値、トルク判定値Trt、および、正常判定時間帯Tmtを記憶部32に記憶する構成とすることができる。この場合も、ユーザまたは管理者は、外部装置を用いて、ネジ締め条件ごとに、補正値、トルク判定値Trtおよび正常判定時間帯Tmtをドライバ制御装置3に入力し、設定機能が、入力されたネジ締め条件ごとに、補正値、トルク判定値Trtおよび正常判定時間帯Tmtを記憶部32に記憶する構成とすることができる。なお、ネジの種類は、たとえば、ネジの太さや長さなどに応じて分類することができ、取付部材の種類は、たとえば、取付部材の材質や硬度などに応じて分類することができる。
【0053】
さらに、本実施形態において、設定機能は、複数本のネジをネジ締めする一連のネジ締め作業工程に応じて、複数のトルク判定値Trtおよび/または複数のトルク制限値Trlを記憶部32に記憶し、ドライバ制御部33は、一連のネジ締め作業工程のうちの各ネジ締め作業に応じたトルク判定値Trtおよび/またはトルク制限値Trlを用いて、ネジ締め状態の判定やトルク制限を行う構成とすることができる。たとえば、ユーザが、ネジ締めを5Nmで5本締め付けた後、1Nmで3本締め付け、その後、3Nmで10本の締め付けを行うという一連のネジ締め作業工程を繰り返す必要がある場合、ドライバ制御部33は、まず、トルク判定値Trtを5Nm、トルク制限値Trlを5+αNmとして5回のネジ締め作業を行い、次いで、トルク判定値Trtを1Nm、トルク制限値Trlを1+αNmとして3回のネジ締め作業を行い、次いで、トルク判定値Trtを3Nm、トルク制限値Trlを3+αNmとして10回のネジ締め作業を行っているかを判定することができる。
【0054】
これにより、従来の電動ドライバでは実現できなかった、一連時締め作業工程を1本の電動ドライバ2で実施することができる。すなわち、従来は、電動ドライバを一定のトルク値でネジ締めさせるために、電動ドライバにクラッチ機構を設け、電動ドライバのトルクが一定のトルク値に達した場合に、機械的に、クラッチ機構によりトルク伝達を遮断する構成を採用していた。しかしながら、トルク伝達を遮断するための上記トルク値は、クラッチ機構が有するバネの伸縮を調整することで調整可能となっていた。そのため、たとえば、ネジ締めを5Nmで5本締め付けた後、1Nmで3本締め付け、その後、3Nmで10本の締め付けを行うという一連の作業工程を繰り返す場合には、ネジ締めを行うトルク値が変わるたびにバネの伸長を調製してトルク遮断値を変更するか、あるいは、トルク遮断値が異なる3本の電動ドライバを用意して使用する必要があった。これに対して、本実施形態では、ドライバ制御部33により、トルク判定値Trtやトルク制限値Trlを自在に変更することができるため、従来のようなクラッチ機構を用いることなく、トルク制御を簡易に行うことができ、その結果、一本の電動ドライバ2で様々なトルクに応じたネジ締め作業を連続して行うことが可能となる。
【0055】
なお、本実施形態では、ユーザが設定部34を操作することで、サンプリングにより決定したネジ締めが完了したタイミングのトルク値をトルク判定値Trtとして使用するモードと、仕様で要求される複数のトルク値をトルク判定値として使用するモードとを選択することができ、設定機能は、選択されたモードに応じてトルク判定値Trtを設定する構成とすることができる。また、設定機能は、ネジ締め作業を所定のトルク(Nm)で行ったかを判定するために、所定のトルクNmをトルク判定値Trtと設定する構成とすることもできる。
【0056】
さらに、設定機能は、ユーザまたは管理者がサンプリングした消費電流値やトルク値を自動で記憶する機能を有する構成とすることもできる。また、設定機能は、サンプリングした消費電流値およびトルク値のデータから補正値、トルク判定値Trt、および/または正常判定時間帯Tmtを自動で設定する構成とすることもできる。
【0057】
以上のように、本実施形態に係る電動ドライバシステム1では、ドライバ制御装置3が、電動ドライバ2の消費電流値を時系列に沿って繰り返し取得し、取得した消費電流値に基づいて、電動ドライバ2によるネジ締め状態を判定する。具体的には、ドライバ制御装置3は、正常なネジ締め作業においてサンプリングした電動ドライバ2の消費電流値に基づいて設定された、消費電流値をトルク値に変換するための補正値を記憶するとともに、サンプリングしたトルク値に基づいて設定された、ネジ締めが完了したと判定するためのトルク値をトルク判定値Trtとして記憶している。そして、ドライバ制御装置3は、電動ドライバ2に印加する電流値を電動ドライバ2の消費電流値として計測し、当該消費電流値に応じた補正値を乗じて算出したトルク値が、予め記憶しているトルク判定値Trtに達した場合には、ネジ締めが完了したと判定する。このように、本実施形態に係る電動ドライバシステム1では、電動ドライバ2は、トルクセンサを有する必要がないだけではなく、電流センサを有する必要もなく、また、ドライバ制御装置3にデータを送信する機構を有する必要もないため、電動ドライバ2を簡素な構成とすることができる。さらに、ドライバ制御装置3についても、プログラムを変更するだけで既存の構成を変更する必要がないため、電動ドライバシステム1を安価に提供することが可能となる。
【0058】
また、本実施形態では、正常なネジ締め作業を実際に再現し、正常なネジ締め作業における電動ドライバ2の消費電流値およびトルク値の時系列データをサンプリングすることで、ノイズが存在する状況下における、消費電流値とトルク値との関係を特定することができ、これにより、ノイズが存在する状況下においても、電動ドライバ2の消費電流値に基づいて、電動ドライバ2のトルク値を適切に算出することができる。その結果、ノイズが存在する状況下においても、あるいは、ドライバ制御装置3が電動ドライバ2に印加する電流値と電動ドライバ2のモーター21が消費する電流消費量とに乖離がある場合も、電動ドライバ2のトルクがトルク判定値Trtに達したか否かを適切に判定することが可能となる。
【0059】
また、本実施形態に係る電動ドライバシステム1では、たとえば、ネジ締めを5Nmで5本締め付けた後、1Nmで3本締め付け、その後、3Nmで10本の締め付けを行うという一連の作業工程を繰り返す場合に、プログラムにおいて、それぞれの目標トルク値(5Nm,1Nm、3Nm)を第1~第3トルク判定値として設定し、電動ドライバ2の消費電流値に基づくトルク値が、これらトルク判定値に達するか否かをプログラムに従って判定することで、一連の作業工程におけるトルク値がそれぞれ要求仕様を満たしているかを判定することができる。特に、従来の電動ドライバでは、トルクの出力上限をバネ27の伸長を調整することで行っていたため、上記のようにネジ締めを行う際に要求されるトルク値が変化する場合には、トルクが異なる3本の電動ドライバを用いるか、ネジ締めを行う指定トルクが変わることにバネ27の伸長を調製する必要があった。これに対して、本実施形態では、ドライバ制御装置3に、複数のトルク判定値を設定しておくことで、電動ドライバ2を変更することなく、ドライバ制御部33が、電動ドライバ2の消費電流値に基づいて、要求仕様に合ったトルク値であるかを判定することができる。
【0060】
以上、本発明の好ましい実施形態例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態の記載に限定されるものではない。上記実施形態例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0061】
たとえば、上述した実施形態では、ドライバ制御装置3が、記憶部32に記憶したトルク判定値Trtと、電動ドライバ2の消費電流値に基づいて算出したトルク値とを比較することで、ネジ締め状態を判定する構成を例示したが、この構成に限定されず、記憶部32が、サンプリングデータから正常にネジ締めが完了した際の消費電流値を電流判定値として記憶しておき、電流判定値と、電動ドライバ2から取得した消費電流値とを比較することで、ネジ締め状態を判定する構成とすることができる。
【0062】
さらに、上述した実施形態では、電動ドライバ2とドライバ制御装置3とを有する電動ドライバシステム1を例示したが、この構成に限定されず、電動ドライバ2の筐体30内にドライバ制御装置3を組み込み一体に構成することができる。また、この場合、電動ドライバ2の筐体30内にバッテリーをさらに組み込み、商用電源にプラグを差し込まなくても、電動ドライバ2を携帯し動作させることが可能な構成とすることができる。これにより、たとえば、DIYや大工の道具として、電動ドライバシステム1を提供することができる。
【0063】
また、上述した実施形態では、ドライバ制御装置3は、電動ドライバ2の消費電流値に基づいて算出したトルク値がトルク制限値Trlに達した場合に、電動ドライバ2の駆動を停止する駆動停止信号を送信する構成を例示したが、この構成に限定されず、トルク値がトルク制限値Trlに達した場合に、トルク制限値Trlを超えるトルク値とならないように、ドライバ制御装置3から電動ドライバ2に印加する電流を制限し、電動ドライバ2の駆動は停止しない構成とすることができる。
【0064】
加えて、上述した実施形態では、ネジ締めが完了したかを判定するためのトルク判定値Trt、および、ネジ締めが正常に行われたかを診断するための正常判定時間帯Tmtを記憶部32が記憶する構成を例示したが、この構成に限定されず、記憶部32は、正常なネジ締め作業における電動ドライバ2の消費電流値の時系列データを記憶しておき、ドライバ制御部33が、記憶部32から取得した消費電流値の時系列データに基づいて、トルク判定値Trtおよび正常判定時間帯Tmtを算出する構成とすることもできる。
【0065】
また、上述した実施形態では、ドライバ制御装置3が、電流制限回路を有し、ドライバ駆動機能が電動ドライバ2に印加する電流の大きさを制限することで、電動ドライバ2のトルクを制限する構成を例示したが、この構成に限定されず、電動ドライバ2がモーター21に印加する電流を制限する電流制限回路を有し、電動ドライバ2において電流を制限することで、電動ドライバ2のトルクがトルク制限値を超えてしまうことを抑制する構成とすることもできる。
【0066】
さらに、上述した実施形態では、ドライバ制御装置3が、ネジ締めが完了したと判定した場合に報知部36により報知する構成を例示したが、この構成に限定されず、ネジ締め状態の判定結果を外部装置に出力する構成とすることもできる。また、ドライバ制御装置3が、ユーザまたは管理者が設定した補正値およびトルク判定値Trtおよび/またはトルク制限値Trlのデータを外部装置に出力する構成とすることもできる。さらに、ドライバ制御装置3が、ネジ締め作業における電動ドライバ2の消費電流値またはトルク値の時系列データや、ネジ締め作業の作業履歴(ネジ締め作業を何Nmで何回行ったかなどの履歴)を外部装置に出力する構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0067】
1…電動ドライバシステム
2…電動ドライバ
10…制御部
11…モーター駆動制御部
12…レバースイッチ
13…押圧スイッチ
20…駆動部
21…モーター
22…減速機
24…ビットフォルダ
25…チャック
26…ドライバビット
27…バネ
28…レバーギア
29…トルククラッチリミットスイッチ
30…筐体
3…ドライバ制御装置
31…消費電流値計測部
32…記憶部
33…ドライバ制御部
34…設定部
35…表示部
36…報知部
37…電源部
4…電源コード
【要約】 (修正有)
【課題】電動ドライバを、トルクセンサを用いない簡素な構成としつつ、電動ドライバの動作制御を適切に行うことができる、電動ドライバシステムおよびドライバ制御装置を提供する。
【解決手段】電動ドライバ2の消費電流値を時系列に沿って繰り返し取得する電流値取得手段33と、消費電流値に基づいて、電動ドライバ2によるネジ締め状態を判定するネジ締め状態判定手段33と、正常なネジ締め作業においてサンプリングした電動ドライバの消費電流値およびトルク値に基づいて設定された、消費電流値をトルク値に変換するための補正値を記憶するとともに、サンプリングしたトルク値に基づいて設定された、ネジ締めが完了したと判定するためのトルク値を判定値として記憶する記憶手段32と、を有し、ネジ締め状態判定手段33は、取得した消費電流値と補正値とに基づいて算出したトルク値と、記憶されている判定値とを比較することで、ネジ締め状態を判定する。
【選択図】
図2