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  • 特許-ディスク素材の製造方法 図1
  • 特許-ディスク素材の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】ディスク素材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21K 1/28 20060101AFI20240704BHJP
   B21J 5/00 20060101ALI20240704BHJP
   B21J 5/08 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
B21K1/28
B21J5/00 K
B21J5/08 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020203963
(22)【出願日】2020-12-09
(65)【公開番号】P2022091249
(43)【公開日】2022-06-21
【審査請求日】2023-10-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】大竹 拓至
(72)【発明者】
【氏名】森 加奈恵
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-151340(JP,A)
【文献】特開2007-301604(JP,A)
【文献】青木 保雄、大園 成夫,3点法真円度測定法の一展開,精密機械,日本,1966年,32巻383号,27-32,https://doi.org/10.2493/jjspe1933.32.831
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21K 1/28
B21J 5/00
B21J 5/08
G01B 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する下金敷の上でディスク素材の輪郭を計測しながら上金敷を押し当てて熱間自由鍛造しディスク形状に成形加工していくディスク素材の製造方法であって、
前記下金敷の回転軸の周囲について基準動径線及びこれから一定の回転角度毎の動径線に対応する前記ディスク素材の前記輪郭の位置近傍での形状から計測径を算出して前記ディスク形状の円形状を判定する判定工程を含み、前記回転角度が360/n度(nは3以上の整数)であることを特徴とするディスク素材の製造方法。
【請求項2】
前記計測径は前記輪郭に沿って一定の円周角で3点を設定し算出されることを特徴とする請求項1記載のディスク素材の製造方法。
【請求項3】
前記基準動径線を一定の回転角度だけ移動させて前記判定工程を繰り返すことを特徴とする請求項1又は2に記載のディスク素材の製造方法。
【請求項4】
前記計測径の相互比から前記ディスク形状を判定することを特徴とする請求項1乃至3のうちの1つに記載のディスク素材の製造方法。
【請求項5】
前記相互比の平均値が所定範囲内にあるかどうかで前記ディスク形状を判定することを特徴とする請求項4記載のディスク素材の製造方法。
【請求項6】
前記輪郭は、前記下金敷の側部近傍に設けたレーザ形状計測装置により計測することを特徴とする請求項1乃至5のうちの1つに記載のディスク素材の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金塊を熱間自由鍛造して成形加工するディスク素材の製造方法に関し、特に、回転する下金敷の上でディスク素材の輪郭を計測しながら上金敷を押し当てて熱間自由鍛造しディスク形状に成形加工していくディスク素材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所のガスタービンのタービンディスクや航空機エンジンのコンプレッサディスクなどにおいて、高速回転する略円板形状の金属ディスク製品を機械加工等するためのディスク形状のディスク素材は、所定の合金組成を有する合金塊を熱間自由鍛造してディスク形状に成形加工されて提供され得る。
【0003】
例えば、特許文献1では、Niを主成分とするNi基耐熱合金からなる合金塊を2つの平面金敷の下側の金敷の上に載置し回転させながら上側の金敷を繰り返し押し当て圧縮し歪みを与えてディスク形状に成形加工する逐次熱間自由鍛造によるディスク素材の製造方法を開示している。自由鍛造では、型彫りをした金型の中に合金塊を閉じ込めてディスク形状に成形加工する型鍛造と比べて、歪みが均一に付与されやすく、特に、結晶粒の大きさの揃ったディスク素材を得られるとしている。
【0004】
上記したような2つの平面金敷の間でディスク素材を成形加工する熱間自由鍛造では、ディスク素材の外周側面が拘束されていないため、ディスク形状を真円に近づけるには、輪郭を計測しながら鍛造を行うことが必要となる。かかる計測は熱間鍛造に影響を与えないように非接触で行い得ることが好ましい。
【0005】
例えば、特許文献2では、上記したようなディスク素材の自由鍛造ではないが、円筒形ワークを一定角度毎に回転させながら赤外線を用いた2つの撮像装置(カメラ)でステレオ撮像し、熱間鍛造しながら該ワークの外形寸法及び内径寸法を非接触で計測する方法を開示している。ここでは、水平に回転軸を配置させた円筒形ワークを該回転軸の延長方向から円筒断面を撮像するように撮像装置を配置して撮像し、幾何学的に外形寸法及び内径寸法を得るとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-210280号公報
【文献】特開2005-326178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したような2つの平面金敷の間でディスク素材を成形加工する熱間自由鍛造では、撮像装置の光路に上側の金敷が干渉してしまい、ディスク素材の全体を一度に撮像してその輪郭の全体を測定できない。特に、大型のディスク素材では全体の一度の撮像はより困難となる。そこで、ディスク素材を下側の金敷で回転させながら一定の回転角度(円周角)毎に分割して撮像が行われるが、該金敷の回転軸とディスク素材の中心とは必ずしも一致しておらず、ディスク素材の中心は鍛造と共に移動もするため、分割撮像データから、該ディスク素材が一定の較差範囲内の円形状となっているかどうかを判定することは容易ではない。
【0008】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、回転する下金敷の上で輪郭を計測しながら上金敷を押し当てて熱間自由鍛造しディスク形状に成形加工していくディスク素材の製造方法において、一定の較差範囲内の円形状となっているかどうかを判定する工程を含むディスク素材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による製造方法は、回転する下金敷の上でディスク素材の輪郭を計測しながら上金敷を押し当てて熱間自由鍛造しディスク形状に成形加工していくディスク素材の製造方法であって、前記下金敷の回転軸の周囲について基準動径線及びこれから一定の回転角度毎の動径線に対応する前記ディスク素材の前記輪郭の位置近傍での形状から計測径を算出して前記ディスク形状の円形状を判定する判定工程を含み、前記回転角度が360/n度(nは3以上の整数)であることを特徴とする。
【0010】
かかる特徴によれば、下金敷の回転軸とディスク素材の外周位置から幾何学的に決定される中心位置とが一致しなくとも、ディスク形状が所定の円形状であるかを正確に判定できるのである。
【0011】
上記した発明において、前記計測径は前記輪郭に沿って一定の円周角で3点を設定し算出されることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、計測径を簡便に算出できて、ディスク形状が所定の円形状であるかを正確に判定できるのである。
【0012】
上記した発明において、前記基準動径線を一定の回転角度だけ移動させて前記判定工程を繰り返すことを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、下金敷の回転軸とディスク素材の外周位置から幾何学的に決定される中心位置とが一致しなくとも、ディスク形状が所定の円形状であるかをより正確に判定できるのである。
【0013】
上記した発明において、前記計測径の相互比から前記ディスク形状を判定することを特徴としてもよい。更に、前記相互比の平均値が所定範囲内にあるかどうかで前記ディスク形状を判定することを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、ディスク形状が所定の円形状であるかを正確且つ簡便に判定できるのである。
【0014】
上記した発明において、前記輪郭は、前記下金敷の側部近傍に設けたレーザ形状計測装置により計測することを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、ディスク形状が所定の円形状であるかを正確且つ簡便に判定できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明による製造方法のうち、計測径の算出方法を説明する図である。
図2】新たな計測径の算出方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による1つの実施例としてのディスク素材の製造方法について、図1及び図2を用いて説明する。
【0017】
ディスク素材は合金塊を熱間自由鍛造して得られる。熱間自由鍛造においては下金敷及び上金敷の2つの平面金敷が用いられる。ディスク素材となる合金塊は下金敷に載置されて、下金敷の中心軸周りで回転されながら上金敷を押し当てて鍛造される。このとき、ディスク素材の輪郭を計測しながらかかる輪郭を真円に近づけるように鍛造を進めてゆく。特に、仕上り寸法を直径600~2000mm程度とされる大型のディスク素材においては、冷却を避けるようにディスク素材を機内に留め、上金敷の下側に配置させたまま下金敷の側部近傍に設けたレーザ計測装置などによってその輪郭を一部ずつ計測する。そのため、輪郭の一部の計測と回転とを繰り返すことになり、ディスク素材が一定の較差範囲内の円形状となっているかどうかを判定することは容易ではない。
【0018】
ここでは、主としてこの輪郭の計測とディスク素材の円形状の判定について説明する。なお、この円形状の判定は、上記したように下金型に載置された状態で行うので、鍛造作業中か鍛造作業後かに関わらず実施することができる。
【0019】
まず、ディスク素材2の輪郭の形状から計測径を算出する方法について説明する。
【0020】
図1に示すように、本実施例においては、下金敷1の上において、その回転軸Aの周囲に基準となる動径線R1(基準動径線)を定め、動径線R1から一定の回転角度α毎にn個の動径線R2、R3…Rnを定める。つまり、回転角度αは360/n度であり、n個の動径線を定める。そして、各動径線R1~Rnに対応するディスク素材2の輪郭の位置近傍での形状から計測径を算出する。つまり、上面視で各動径線とディスク素材2の輪郭との交点a1~anをそれぞれ定め、交点a1~anのそれぞれの近傍の形状からディスク素材2の計測径を算出する。なお、nは3以上の整数とする。
【0021】
ここでは、n=3とし、動径線R1~R3のそれぞれとディスク素材2の輪郭との交点a1~a3を求め、さらそれぞれの両側に回転軸A周りの一定の円周角で経線を定めて、輪郭との交点a1a及びa1bを定める。例えば、この円周角は5度とし得る。そして、交点a1、a1a、a1bの3点すべてを通過する円である「三点通過円」を定める。つまり、交点a1の近傍である領域Fa1におけるディスク素材2の輪郭の形状から三点通過円C1を定める。動径線R2及びR3についても、同様に、輪郭との交点を求め、それぞれに対応する領域Fa2、Fa3におけるディスク素材2の輪郭の形状から三点通過円C2、C3を定める。さらに、三点通過円C1、C2、C3のそれぞれの直径を計測径D1、D2、D3として算出する。
【0022】
このように、下金敷1の回転軸Aとディスク素材2の外周位置から幾何学的に決定される中心位置とが一致しなくとも、ディスク素材2の計測径を定めることができる。
【0023】
次に、計測径D1、D2、D3を用いてディスク素材2の円形状を判定する。
【0024】
まず、計測径D1、D2、D3の各々の組み合わせの比である三点通過円の計測径の相互比D1/D2、D2/D3、D3/D1を得る。例えば、この相互比の平均値でディスク素材2の円形状を判定してもよい。
【0025】
さらに、理想直径比との差を求める。全ての三点通過円が同じ直径となっている場合に理想直径比を得られるので、理想直径比は1である。つまり、理想直径比との差ΔDは以下の通りとなる。
ΔD1=1-D1/D2
ΔD2=1-D2/D3
ΔD3=1-D3/D1
【0026】
そして理想直径比との差ΔDの大小によってディスク素材2の円形状を判定することができる。nを3以上とすることで、少なくとも3つの三点通過円を定めており、それぞれ隣り合う基準動径線同士で理想直径比との差を得ることができる。上記したように回転軸Aとディスク素材2との中心位置とが一致しなくともディスク素材2の計測径を定めることができ、ディスク素材2が所定の円形状であるかを正確に判定できる。
【0027】
ここで、図2に示すように、上記した基準動径線R1から一定の回転角度だけ移動させて、新たな基準動径線R1’を定めて、上記と同様に理想直径比との差を求め、これを判定に用いることもできる。例えば、上記と同様に基準動径線R1’に基づき、動径線R2’、R3’を定めるとともに領域Fa1’、Fa2’、Fa3’を定める。そして、同様に領域Fa1’、Fa2’、Fa3’の輪郭の形状からそれぞれ三点通過円を求めて理想直径比との差を求めるのである。このように、基準動径線R1、R1’、…を、例えば、最初の基準動径線R1の隣の動径線R2までの間において順に定め、同様の判定工程を繰り返してもよい。これによれば、判定する部位を増やすことでより正確に判定し得る。
【0028】
また、これから得られる理想直径比との差ΔDについて総合的に判定してもよい。ここでは、ΔD1の最大値:MAX(ΔD1)及び最小値MIN(ΔD1)、ΔD2の最大値:MAX(ΔD2)及び最小値MIN(ΔD2)、ΔD3の最大値:MAX(ΔD3)及び最小値MIN(ΔD3)を求める。すると、各部位の振れ幅α1~α3は以下の通りとなる。
α1=MAX(ΔD1)-MIN(ΔD1)
α2=MAX(ΔD2)-MIN(ΔD2)
α3=MAX(ΔD3)-MIN(ΔD3)
【0029】
この振れ幅α1、α2及びα3の平均値を求め、目標寸法から定められる許容限界振れ幅αとの比較でディスク素材2の円形状について合否を判定してもよい。例えば、直径の許容寸法公差を±20mmとする場合、許容限界振れ幅αは、ディスク素材の仕上り目標寸法の直径をDとして、219.878×D-1.00927と表すことができる。この許容限界振れ幅αは以下のようにして得た。まず、長径D+20mm、短径D-20mmの理想楕円を想定し、この理想楕円について上記したα1、α2、α3を求めてその平均値をαaveとする。そして、Dを変化させてグラフ上にαaveをプロットして、Dを変数とする累乗近似をする。なお、理想楕円を用いるのでαave=α1=α2=α3となる。
【0030】
このように、下金敷1の上で回転軸Aの周りに回転するディスク素材2の円形状について判定をすることができる。そして、判定した結果に基づき、必要に応じて、ディスク素材2の形状を修正するよう鍛造を進めて行くことができる。
【0031】
以上、本発明の代表的な実施例及びこれに基づく改変例を説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0032】
1 下金敷
2 ディスク素材
A 回転軸
C1、C2、C3 三点通過円
D1、D2、D3 計測径
R1 基準動径線
R2、R3 動径線
Fa1、Fa2、Fa3 領域

図1
図2