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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】片頭痛の予防および治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/19 20060101AFI20240704BHJP
   A61K 31/047 20060101ALI20240704BHJP
   A61K 31/22 20060101ALI20240704BHJP
   A61P 25/06 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
A61K31/19
A61K31/047
A61K31/22
A61P25/06
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019534680
(86)(22)【出願日】2017-12-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-13
(86)【国際出願番号】 EP2017083880
(87)【国際公開番号】W WO2018115158
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-12-18
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】16206018.0
(32)【優先日】2016-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】17154258.2
(32)【優先日】2017-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519222025
【氏名又は名称】ウニヴェルズィテーツ-キンダースピタル バイダアー バーゼル
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】グロス,エレナ
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー,ディルク
【合議体】
【審判長】藤原 浩子
【審判官】井上 千弥子
【審判官】吉田 佳代子
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-515510(JP,A)
【文献】特表昭61-501569(JP,A)
【文献】臨床神経学 54(12)(2014),1003-1005
【文献】Europian Journal of Neurology 22(2015),170-177
【文献】Epilepsia 42(Suppl.3)(2001),8-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-31/80
A61P25/00-25/36
CAPlus/REGISTRY/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.ベータ-ヒドロキシ酪酸(βHB)またはその薬学的に許容される塩、
b.アセトアセタート(AcAc)またはその薬学的に許容される塩、
c.1,3-ブタンジオール(CAS番号107 88 0)ならびに
d.下記式のいずれかで表される、アセトアセチル-もしくは3-ヒドロキシブチラート部分を含む化合物またはその薬学的に許容される塩
から選択される化合物を含む、片頭痛の治療または予防方法における使用のための医薬組成物。
【請求項2】
前記化合物が、βHB、-ヒドロキシブチラート部分を含む化合物およびそれらの薬学的に許容される塩から選択される、請求項1記載の片頭痛の治療または予防方法における使用のための医薬組成物。
【請求項3】
前記化合物がβHBまたはその薬学的に許容される塩である、請求項1または2記載の片頭痛の治療または予防方法における使用のための医薬組成物。
【請求項4】
前記化合物がD-βHBまたはその薬学的に許容される塩である、請求項1~3のいずれか1項記載の片頭痛の治療または予防方法における使用のための医薬組成物。
【請求項5】
前記の薬学的に許容される塩が、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルギニン塩、リジン塩、ヒスチジン塩、オルニチン塩、クレアチン塩、アグマチン塩、シトルリン塩、メチルグルカミン塩およびカルニチン塩、またはこれら塩の組合せから選択される、請求項1~4のいずれか1項記載の片頭痛の治療または予防方法における使用のための医薬組成物。
【請求項6】
塩の前記組合せがリジン塩とカルシウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩および/またはナトリウム塩との組合せを含む、請求項5記載の片頭痛の治療または予防方法における使用のための医薬組成物。
【請求項7】
前記治療または予防が、片頭痛発作の頻度を減少させること、片頭痛発作の重症度を軽減すること、片頭痛症状の重症度を軽減すること、疾患進行を予防すること、および/または疾患慢性化を予防することを含む、請求項1~6のいずれか1項記載の片頭痛の治療または予防方法における使用のための医薬組成物。
【請求項8】
片頭痛が、中等度ないし強度の主に片側性の頭痛;光、騒音および/または臭いに対する敏感性;悪心または吐き気;顔面痛;眼の痛み;バランス障害;換語困難;感覚または運動障害;ならびに異痛症からなる群から選択される少なくとも2つの症状含む、請求項1~7のいずれか1項記載の片頭痛治療または予防方法における使用のための医薬組成物。
【請求項9】
前記化合物が、請求項8記載の片頭痛発作の症状の1つまたは幾つかの発生の前に投与される、請求項1~8のいずれか1項記載の片頭痛の治療または予防方法における使用のための医薬組成物。
【請求項10】
投与すべき1日量が0.05g/kg~1g/kg体重である、請求項1~9のいずれか1項記載の片頭痛の治療または予防方法における使用のための医薬組成物。
【請求項11】
前記1日量が1~6用量に分割される、請求項10記載の片頭痛の治療または予防方法における使用のための医薬組成物。
【請求項12】
前記1日量が、少なくとも1ヶ月間にわたって投与される、請求項10または11記載の片頭痛の治療または予防方法における使用のための医薬組成物。
【請求項13】
対象への該医薬組成物の投与が、0.3mM~6mMへの血中ケトン体(KB)レベルの上昇を引き起こす、請求項1~12のいずれか1項記載の片頭痛の治療または予防方法における使用のための医薬組成物。
【請求項14】
ロイシン、リジン、イソロイシン、トリプトファン、チロシンおよびフェニルアラニンを含む群から選択されるアミノ酸を更に含む組合せ医薬である、請求項1~13のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記化合物の含有量が少なくとも25%(w/w)である、請求項1~14のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項16】
経口投与用に処方されている、請求項1~15のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項17】
経口投与用の粉末として処方されている、請求項16記載の医薬組成物。
【請求項18】
該医薬組成物が飲料である、請求項1~15のいずれか1項記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は片頭痛または片頭痛症状の予防または治療のためのDベータ-ヒドロキシ酪酸(βHB)または代謝前駆体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
片頭痛
片頭痛は、世界の人口の約15%が罹患している、複雑で遺伝的に不均一で一般的で衰弱性の神経障害である。片頭痛は、最も生産性の高い年代で発生率のピークを示すため、多大な苦痛をもたらすだけでなく、社会にも相当な負担を与え、欧州だけでも毎年約185億ユーロの損失をもたらしている。それは、4~72時間持続する、再発性の中等度ないし重度の、典型的には拍動性の片側性頭痛発作により特徴づけられ、これはあらゆる種類の身体活動によって悪化し、光、音もしくは臭気に対する恐怖症、悪心またはそれらの組合せを伴う。それは、前兆の存在(前兆を伴う片頭痛(MA))または非存在(前兆を伴わない片頭痛(MO))に基づいて2つの主要な亜群に分類される非常に不均一な障害であり、そのような前兆は、一過性で可逆的な視覚障害、感覚障害または運動障害の段階であり、典型的には、片頭痛患者の3分の1において、発作自体の最大1時間前に生じる。片頭痛は頭痛(発作)段階を遥かに超えるものである。なぜなら、片頭痛は、典型的には、頭痛に最大12時間先行する予兆期(premonitory phase)、および片頭痛に続発し数時間または数日間持続しうる後発症状期(postdromal phase)において、神経症状を伴うからである。現在のところ、一次性片頭痛発症メカニズムは尚もほとんど知られていない。
【0003】
片頭痛の治療法
現在の片頭痛治療の選択肢は限られており、それらの作用メカニズムも完全には理解されていない。予防的な片頭痛治療の主な目標は、頭痛の頻度を減少させること、および機能を回復させることを含むが、追加的な重要な目標は慢性片頭痛への進行の予防でありうる。現在までに認可されている予防薬(例えば、ベータ遮断薬、抗けいれん薬または抗うつ薬)はいずれも、片頭痛に特異的ではなく、ほとんどは、有意な(しばしば許容できな)副作用を伴う。更に、それらの片頭痛予防特性はせいぜい中程度である(片頭痛頻度における平均25%未満の減少)。したがって、代替的な抗片頭痛治療法を開発することに対する多大な医学的要求が存在する。本発明の目的は、有効性の改善および副作用の低減を示す、片頭痛の治療のための新規治療用物質を提供することである。
【0004】
ケトン食療法/KBの内因性上昇およびグルコースの減少
ケトン原性(ketogenic)食事(ケトン食療法)(KD)は、長期間の絶食が抗けいれん作用を示すという観察の後、約100年前に開発された。その高い脂肪含有量、低い炭水化物およびタンパク質含有量により、それは飢餓の代謝作用を模倣するものである。KDは、難治性てんかんの治療の際の有効な代替法であることが示されており、そのメカニズムは尚も十分には理解されていないが、その広範な神経保護メカニズムおよび多数の神経学的病態(例えば、代謝障害、例えばミトコンドリア障害、神経変性障害、例えばパーキンソン病およびアルツハイマー病(AD)、外傷および虚血、ナルコレプシー、そしておそらく、更には鬱病または自閉症)におけるその使用可能性に関する実験的証拠が増加しつつある。それでも、ケトン症の利益に関する臨床的証拠は尚も大部分が難治性てんかんに限定されている。この場合、KDにより達成されるKBレベルの上昇は長期間(最大数年間)にわたって十分に許容されることが示されている。しかし、厳しいKDは、多数の患者集団のための実施可能な長期的な解決策になりそうもない。なぜなら、外来治療の状況でそれを実施することは困難であり、患者のアドヒアランス(能動的治療参加)が制限されうるからである。
【0005】
外因性KB
食事での炭水化物およびタンパク質の摂取には無関係に、軽度ないし中等度の栄養性ケトン症を誘発するための代替手段は、外因性ケトン原性物質、例えば中鎖トリグリセリド(MCT)、ケトン原性アミノ酸、βHBまたはAcAcサプリメント、そして最近ではケトエステル(互いにエステル化されたβHBおよび/またはAcAc)での食事補給である。KB自体の食事補給は炭水化物およびタンパク質の制限を必要とせず、したがって、コンプライアンス(遵守)の可能性を高める。なぜなら、特に、炭水化物食はほとんどの文化において一般的だからである。
【0006】
KD自体と比較して、KB補給の治療効果は、現在のところ、それほど十分には確立されていない。ヒトにおいてMCTを使用した研究が示唆するところによると、それらは安全であるが、より高い治療量においては、十分には耐えられない。ケトンエステルは非常に不快な味の問題を有し、高い血中ケトン濃度が得られうるが、ほとんどの研究は強制飼養動物において行われている。ケトン原性酸の直接投与は、消化管での急速な吸収の後のアシドーシスの可能性ゆえに、潜在的に危険である。
【0007】
前記の最新技術に基づいて、本発明の目的は、嗜好性の改善および消化管の苦痛の軽減を伴う安全な方法で血中KBレベルを外的に上昇させ、それにより、患者のコンプライアンスを高めることによる、片頭痛に対する新規治療選択肢を提供することである。この目的は本明細書の特許請求の範囲により達成される。
【発明の概要】
【0008】
発明の説明
用語および定義
本明細書の文脈においては、「KB」はケトン体を意味する。ケトン体は、飢餓、空腹時、グルコース欠乏またはカロリー制限の際に脂肪組織から放出される脂肪酸から肝臓により産生される内因性代謝産物である。それらは、グルコースおよびKB以外の他のいかなるエネルギー基質をも代謝できない、身体のほとんどの組織、とりわけ脳により、グルコースに代わる代替エネルギー基質として使用されうる。内因性KBには、ベータ-ヒドロキシブチラート(βHB;3ベータヒドロキシブチラートとしても公知である)およびアセトアセタート(AcAc)が含まれる。同様にケトン原性である幾つかの天然外因性物質が存在し、例えば、中鎖トリグリセリド(MCT)が挙げられる。最近になって、他の外因性ケトン原性物質、例えばβHB無機塩類またはケトエステルが利用可能となった。
【0009】
本明細書の文脈においては、「ケトン原性アミノ酸」なる語は、ケトン体の前駆体であるアセチル-CoAへと分解されうるアミノ酸を意味する。ロイシンおよびリジンは、専らケトン原性であるケトン原性アミノ酸である。イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンは、グルコース原性(グルコース生成性)でもあるケトン原性アミノ酸である。
【0010】
本明細書の文脈においては、「βHB」はベータ-ヒドロキシ酪酸またはベータ-ヒドロキシブチラート(CAS番号300-85-6)を意味する。
【0011】
本明細書の文脈においては、「D-βHB」はβHBのDエナンチオマーを意味する。
【0012】
本明細書の文脈においては、「AcAc」はアセトアセタート(CAS番号541-50-4)を意味する。
【0013】
本明細書の文脈においては、「LL」はL-ロイシンを意味する。
【0014】
本明細書の文脈においては、「LY」はL-リジンを意味する。
【0015】
本明細書の文脈においては、「ケトン原性食事(KD)」なる語は、高い脂肪含有量、低い炭水化物含有量および中程度のタンパク質含有量を有する食事を意味する。
【0016】
本明細書の文脈においては、「軽度ないし中等度の栄養性ケトン症」なる語は、適切な栄養により得られる、0.4~4mmol/lの血中ケトン体の濃度を指す。
【0017】
本明細書の文脈においては、「トリグリセリド」なる語は、グリセロール(CAS番号56-81-5)と3つの脂肪酸とに由来するエステルを意味する。
【0018】
本明細書の文脈においては、「脂肪酸」なる語は、4~28個の炭素原子の鎖を含む脂肪族モノカルボン酸を意味する。鎖は飽和または不飽和でありうる。「遊離脂肪酸」なる語は、他の分子、例えばグリセロールに結合していない脂肪酸を意味する。
【0019】
本明細書の文脈においては、「中鎖脂肪酸(MCFA)」なる語は、6~12個の炭素原子の鎖を含む脂肪族モノカルボン酸を意味する。鎖は飽和している。
【0020】
本明細書の文脈においては、「中鎖トリグリセリド(MCT)」なる語は、グリセロール(CAS番号56-81-5)と3つのMCFAとに由来するエステルを意味する。
【0021】
本明細書の文脈においては、「トリアセチン」は1,2,3-トリアセトキシプロパン(CAS番号102-76-1)を意味する。
【0022】
発明の詳細な説明
第1の態様において、本発明は、片頭痛および/またはその症状の治療または予防方法における使用のための化合物を提供する。該化合物は、
a.ベータ-ヒドロキシ酪酸(βHB)、
b.アセトアセタート(AcAc)、
c.βHBまたはAcAcの代謝前駆体、
d.アセトアセチル-または3-ヒドロキシブチラート部分を含む化合物
から選択される。
【0023】
該代謝前駆体は1,3-ブタンジオール(CAS番号107 88 0)およびトリアセチン(CAS番号102-76-1)から選択される。
【0024】
アセトアセチル-または3-ヒドロキシブチラート部分を含む化合物は以下の式(Ia)~(Ve)のいずれか1つにより示される。
【化1】
【0025】
式(Ia)は3-ヒドロキシブチル 3-ヒドロキシブタノアートを示す。
【0026】
式(Ib)は(3-ヒドロキシ-1-メチル-プロピル)3-ヒドロキシブタノアートを示す。
【0027】
式(Ic)は3-(3-ヒドロキシブタノイルオキシ)ブチル 3-ヒドロキシブタノアートを示す。
【0028】
式(II)は3-(3-ヒドロキシブタノイルオキシ)ブタン酸を示す。
【0029】
式(IIIa)は3-ヒドロキシブチル 3-オキソブタノアートを示す。
【0030】
式(IIIb)は(3-ヒドロキシ-1-メチル-プロピル)3-オキソブタノアートを示す。
【0031】
式(IIIc)は3-(3-オキソブタノイルオキシ)ブチル 3-オキソブタノアートを示す。
【0032】
式(IV)は3-(3-オキソブタノイルオキシ)ブタン酸を示す。
【0033】
式(Va)は2,3-ジヒドロキシプロピル 3-オキソブタノアートを示す。
【0034】
式(Vb)は[2-ヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)エチル]3-オキソブタノアートを示す。
【0035】
式(Vc)は[2-ヒドロキシ-3-(3-オキソブタノイルオキシ)プロピル]3-オキソブタノアートを示す。
【0036】
式(Vd)は[3-ヒドロキシ-2-(3-オキソブタノイルオキシ)プロピル]3-オキソブタノアートを示す。
【0037】
式(Ve)は2,3-ビス(3-オキソブタノイルオキシ)プロピル 3-オキソブタノアートを示す。
【0038】
βHB、AcAc、βHBまたはAcAcの代謝前駆体、およびアセトアセチル-または3-ヒドロキシブチラート部分を含む化合物は、薬学的に許容される塩の形態でありうる。
【0039】
ある実施形態においては、該化合物はβHBの薬学的に許容されるエステルである。
【0040】
ある実施形態においては、該化合物はAcAcの薬学的に許容されるエステルである。
【0041】
ある実施形態においては、D-βHBの代謝前駆体は、D-βHBを使用して合成されたエステル化分子である。
【0042】
ある実施形態においては、該化合物は、1価アルコール、2価アルコールまたは3価アルコールとのβHBまたはAcAcのエステルである。
【0043】
ある実施形態においては、該化合物はβHBの薬学的に許容されるアミドである。
【0044】
ある実施形態においては、該化合物はAcAcの薬学的に許容されるアミドである。
【0045】
ある実施形態においては、該化合物はβHB、AcAcまたはそれらの薬学的に許容される塩から選択される。
【0046】
ある実施形態においては、該化合物は、βHB、βHBの代謝前駆体、および3-ヒドロキシブチラート部分を含む化合物、ならびに前記化合物の薬学的に許容される塩から選択される。
【0047】
ある実施形態では、該化合物はβHBまたはその薬学的に許容される塩である。
【0048】
ある実施形態においては、該化合物はD-βHBまたはその薬学的に許容される塩である。
【0049】
ある実施形態においては、D-βHBは、AcAcも供給する形態で投与される。ある実施形態においては、D-βHBは代謝前駆体として投与され、これは、ヒトまたは動物の体に投与された場合に、例えば肝臓により代謝されてD-βHBおよびAcAcを、好ましくは生理学的比率で産生する。
【0050】
本発明の化合物の生理学的に許容される塩は、特に、ケトン原性アミノ酸およびミネラル混合物と組合されて、化合物の嗜好性を改善する方法を提供する。
【0051】
ある実施形態においては、薬学的に許容される塩は、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルギニン塩、リジン塩、ヒスチジン塩、オルニチン塩、クレアチン塩、アグマチン塩、シトルリン塩、メチルグルカミン塩およびカルニチン塩から選択され、それらは、おそらく、他のケトン原性物質と組合されうる。該塩はまた、より複雑な薬学的に許容される塩でありうる。
【0052】
ある実施形態においては、薬学的に許容される塩は前記塩の幾つかの組合せである。幾つかの産物(例えば、純粋なナトリウム塩)の望ましくない結果を回避するために、幾つかの無機塩の組合せ、またはリジン塩および幾つかの無機塩の組合せを使用することが好ましい。異なる無機塩の数を増加させることにより、総耐用量が増加されうる。
【0053】
ある実施形態においては、塩の組合せはリジン塩ならびにカルシウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩およびナトリウム塩の混合物を含む。ある実施形態においては、塩の組合せはリジン塩およびカルシウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩またはナトリウム塩の混合物を含む。ある実施形態においては、塩の組合せはリジン塩、カルシウム塩、カリウム塩および/またはマグネシウム塩および/またはナトリウム塩を含む。
【0054】
ある実施形態においては、塩の組合せはリジン塩と無機塩との組合せである。ある実施形態においては、塩の組合せはリジン塩、カルシウム塩およびナトリウム塩の組合せである。
【0055】
ある実施形態においては、塩の組合せはカルシウム塩とナトリウム塩との組合せである。
【0056】
塩は異性体D-βHBまたはラセミ体DL-βHBを含有しうる。
【0057】
該化合物は、単独で、または他のケトン原性物質と組合せて提供されうる。
【0058】
ある実施形態においては、該化合物は、
(i)片頭痛発作の頻度を減少させるため;
(ii)片頭痛発作の重症度を軽減するため;
(iii)片頭痛に関連した神経学的症状のいずれか、例えば、音、光および/または臭気に対する恐怖症、視覚障害、知覚障害または運動障害、異痛症を軽減するため;
(iv)片頭痛に付随、先行または続発することが知られている他の特徴のいずれか、例えば、疲労、悪心、認知困難、疲労感、激しい空腹感または口渇、筋肉痛、性欲減退、うつ病、躁病、気分変動を軽減するため;
(v)片頭痛に関連した構造的または機能的神経細胞損傷、例えば、白質病変または機能的連結性の障害を逆転、遅延または予防するため;
(vi)急性片頭痛から慢性片頭痛への移行を予防、遅延または逆転させるために提供される。
【0059】
ある実施形態においては、治療または予防は、片頭痛発作の頻度を減少させる、片頭痛発作の重症度を軽減する、片頭痛症状の重症度を軽減する、疾患進行を予防する、および/または疾患慢性化を予防する効果を有する。
【0060】
ある実施形態においては、片頭痛の症状は以下の症状の少なくとも2つを含む:中等度ないし強度の主に片側性の頭痛、光、騒音および/または臭いに対する敏感性、悪心または吐き気、顔面痛、眼の痛み、バランス障害、換語困難、異痛症、あるいは片頭痛発作に付随、先行または続発することが知られている特徴の任意の他のもの、例えば、疲労、悪心、認知困難、疲労感、激しい空腹感または口渇、筋肉痛、性欲減退、うつ病、躁病、気分変動、ならびに脳の構造および機能における変化、例えば、白質病変または機能的連結性の障害。
【0061】
ある実施形態においては、該化合物は、片頭痛発作の症状、特に前段落で列挙したものが生じる前に投与されるべきである。
【0062】
ある実施形態においては、投与すべき1日量は0.05g/kg~1g/kg体重(=3.5~70g/70kg)である。ある実施形態においては、投与すべき1日量は0.1g~0.7g/kg体重(=7~49g/70kg)である。ある実施形態においては、投与すべき1日量は0.2g/kg~0.4g/kg体重(=14~28g/70kg)である。
【0063】
ある実施形態においては、投与すべき1日量は3.5g~70gである。ある実施形態においては、投与すべき1日量は5g~50gである。ある実施形態においては、投与すべき1日量は10g~40gである。ある実施形態においては、投与すべき1日量は10g~40gである。
【0064】
ある実施形態においては、投与すべき1日量は10gである。ある実施形態においては、投与すべき1日量は20gである。
【0065】
本発明者らは、血中KBレベル(薬物動態)、耐容性および片頭痛発作頻度に対する種々のケトン原性物質、例えばLL、LY、ラセミおよびD-βHBの効果を調べた。MCTは、耐容性および嗜好性に関する公知の問題ゆえに、使用されなかった。
【0066】
LLは約4時間にわたって血中βHBの非常に僅かな増加(最大0.35mmol/l)をもたらすが、LYはそうではないことが示された。ケトン原性アミノ酸は十分な耐容性を有さず、患者が1日当たり26gのアミノ酸を摂取することは不可能であった。苦い味がその問題に更に寄与していた。
【0067】
比較すると、βHBは十分な耐容性を有さず、血中KBレベルに強い影響を及ぼした。
【0068】
驚くべきことに、D-βHB異性体は、ラセミ体と比較して、血中βHBレベルにおける3倍以上の上昇(最大1.94mmol/l)をもたらした。レベルは4時間以上にわたって上昇したままであった。また、ラセミ混合物で観察されたとおり、血中グルコースの同時低下は認められなかった。参加者は、味が改善された(不快感が低下した)と報告しており、2ヶ月間の摂取でさえも、より少ない消化管の副作用が観察された。有効性データが示唆しているところによると、驚くべきことに、1日僅か10gのD-βHBが40gのラセミ混合物の有効性に匹敵する可能性があり、10gのD-βHBでは片頭痛の日数における平均68.5%の低下が認められ、一方、40gのラセミ体βHBでは72%の低下が認められた。
【0069】
KDまたは空腹時に肝臓によって産生される量より遥かに少量(約150gの代わりに20g)の外因性KBが片頭痛予防効果を有することが見出された。ラセミ体βHB塩はLLの約2倍(最大0.62mmol/l)のβHB血中レベルの増加をもたらしたが、半減期は非常に短く、そのレベルは2時間後にベースラインに戻った。また、血中グルコースレベルの実質的な低下が観察された。ラセミ体βHBの耐容性および嗜好性、特に消化管の不調および悪心は問題があった。1日20gは片頭痛の日の平均頻度を51%減少させることが判明した。この減少は25~80%の範囲であった。かなり良好な有効性にもかかわらず、5人の患者のうちの2人のみがラセミ体βHB塩を摂取し続けたに過ぎなかった。ラセミ体βHBの用量を40gに増加させると、片頭痛の日数における72%の更なる減少がもたらされる。しかし、この増加用量は副作用を悪化させた。
【0070】
ある実施形態においては、1日量は1~6用量に分割される。ある実施形態においては、1日量は2用量に分割される。ある実施形態においては、1日量は3用量に分割される。
【0071】
ある実施形態においては、1日量は少なくとも1ヶ月間にわたって投与されるべきである。ある実施形態においては、1日量は少なくとも6ヶ月間にわたって投与されるべきである。ある実施形態においては、1日量は少なくとも1年間にわたって投与されるべきである。ある実施形態においては、1日量は2年間にわたって投与されるべきである。
【0072】
ある実施形態においては、対象への該化合物の投与は0.3mM~6mMへの血中ケトン体(KB)レベルの上昇を引き起こす。ある実施形態においては、対象への該化合物の投与は0.4mM~4mMへの血中ケトン体(KB)レベルの上昇を引き起こす。ある実施形態においては、対象への該化合物の投与は1mM~4mMへの血中ケトン体(KB)レベルの上昇を引き起こす。
【0073】
本発明の第2の態様においては、本発明の第1の態様による化合物を含む、片頭痛および/またはその症状の治療または予防における使用のための医薬組成物を提供する。医薬組成物は医薬または栄養補助剤でありうる。
【0074】
本発明のこの態様の或る実施形態においては、医薬組成物は製剤または剤形である。ある実施形態においては、剤形は粉末、錠剤、気体または溶液である。
【0075】
リジンの潜在的に苦い味を隠すために、医薬組成物はステビアおよび/または他の人工甘味料(サッカリン、アセスルファム、スクラロース)、メントール、柑橘類、ベリーまたは他の香料を含みうる。
【0076】
本発明のこの態様の或る実施形態においては、医薬組成物は、ロイシン、リジン、イソロイシン、トリプトファン、チロシンおよびフェニルアラニンを含む群から選択されるアミノ酸を更に含む組合せ医薬である。該組合せ医薬の成分は同時または連続的に投与されうる。
【0077】
本発明のこの態様の或る実施形態においては、医薬組成物における本発明の第1の態様の化合物の含有量は少なくとも25%(w/w)である。本発明のこの態様の或る実施形態においては、医薬組成物における本発明の第1の態様の化合物の含有量は少なくとも35%(w/w)である。本発明のこの態様の或る実施形態においては、医薬組成物における本発明の第1の態様の化合物の含有量は50%~100%(w/w)である。
【0078】
本発明のこの態様の或る実施形態においては、医薬組成物は、片頭痛の日数が1ヶ月当たり1~31日である片頭痛と診断された対象に投与されるべきである。
【0079】
本発明のこの態様の或る実施形態においては、医薬組成物は、片頭痛発作の症状が生じる前に投与されるべきである。
【0080】
本発明のこの態様の或る実施形態においては、医薬組成物に含まれる前記化合物の投与される1日量は(疾患の重症度に応じて)0.05g/kg~1g/kg体重、好ましくは0.1g/kg~0.7g/kg体重である。より好ましくは0.2g/kg~0.4g/kg体重である。
【0081】
本発明のこの態様の或る実施形態においては、1日量は1~6用量、特に2または3用量に分割される。
【0082】
本発明のこの態様の或る実施形態においては、1日用量は少なくとも1ヶ月間、好ましくは少なくとも6ヶ月間、最も好ましくは2年間にわたって投与されるべきである。
【0083】
本発明のこの態様の或る実施形態においては、医薬組成物は経口投与用に処方(製剤化)される。本発明のこの態様の或る実施形態においては、医薬組成物は非経口投与用に処方される。本発明のこの態様の或る実施形態においては、医薬組成物は他の任意の形態の通常の投与用に処方化される。
【0084】
本発明のこの態様の或る実施形態においては、医薬組成物は経口投与用の粉末として処方される。粉末は摂取前に水に溶解される。
【0085】
本発明のこの態様の或る実施形態においては、医薬組成物は飲料である。
【0086】
本発明のこの態様の或る実施形態においては、対象への該医薬組成物の投与は0.3mM~6mMへの、特に0.4mM~4mMへの、より詳細には1mM~4mMへの、血中ケトン体(KB)レベルの上昇を引き起こす。
【0087】
本発明者らの結果は、これを達成するためには、1日当たり患者1人当たり5g~70gのβKB、特に5g~40gのβHB、より詳細には10g~20gのβHBが必要であることを示唆している。片頭痛の消散のために必要な増加は疾患の重症度(すなわち、1ヶ月当たりの片頭痛の日数)に左右される。
【0088】
本発明のもう1つの態様においては、本発明の第1の態様の化合物または本発明の第2の態様の医薬組成物を、それを要する対象に投与することを含む、片頭痛および/またはその症状の治療または予防方法を提供する。
【0089】
ある実施形態においては、それを要する対象は1ヶ月当たり1~31日の片頭痛の日数の片頭痛に罹患している。
【0090】
ある実施形態においては、それを要する対象は、片頭痛の以下の症状の少なくとも2つの発現を示す:中等度ないし強度の主に片側性の頭痛、光、騒音および/または臭いに対する敏感性、悪心または吐き気、顔面痛、眼の痛み、バランス障害、換語困難、他の神経症状、例えば、感覚または運動障害、異痛症、あるいは片頭痛発作に付随、先行もしくは続発することが知られている特徴の任意の他のもの、例えば、疲労、悪心、認知困難、疲労感、激しい空腹感または口渇、性欲減退、うつ病、躁病、気分変動、ならびに脳の構造および機能における変化、例えば、白質病変または機能的連結性の障害。
【0091】
単一の分離可能な特徴に対する代替物が本明細書において「実施形態」として記載されている場合は常に、そのような代替物は自由に組合されて、本明細書に開示されている本発明の個別の実施形態を構成しうると理解されるべきである。
【0092】
本発明は以下の実施例および図面によって更に例示され、それらから、更なる実施形態および利点が導き出されうる。これらの実施例は本発明を例示するためのものであり、その範囲を限定するためのものではない。
【図面の簡単な説明】
【0093】
図1図1は、10gのβHB(黒)と比較した場合の、2名の片頭痛患者における13gのL-ロイシン(LL)(食前)(灰色)の薬物動態を示す。2名の片頭痛患者における、それぞれ、13gのLL(灰色)および10gのβHB(黒)の摂取の前(ベースライン=0時間)および後(0.5、1、2、3、4h(時間)後)のβHB血中レベル(単位:mmol/l)(y軸)が示されている。物質を、水に溶解された粉末形態で、空腹時に投与した。携帯用ポイントオブケア血中ケトン測定器(Precision Xtra(登録商標))および対応する試験片(試験紙)を使用して、血中βHB濃度を測定した。エラーバーは平均の標準誤差(SEM)を表す。
図2図2は5名の片頭痛患者における10gのラセミ体ベータ-ヒドロキシブチラート(βHB)(食前)の薬物動態およびグルコースレベルに対するその効果を示す。(A)5名の片頭痛患者における10gのβHBの摂取の前(ベースライン=0時間)および後(0.5、1、2、3、4時間後)のβHB血中レベル(単位:mmol/l)(y軸)が示されている。βHBを、水に溶解された粉末化ナトリウム-カルシウム塩形態で、空腹時に投与した。携帯用ポイントオブケア血中ケトン測定器(Precision Xtra(登録商標))および対応試験片を使用して、血中βHB濃度を測定した。エラーバーは平均の標準誤差(SEM)を表す。(B)5名の片頭痛患者における10gのβHB(食前)の摂取の前(ベースライン値=0時間)および後(0.5、1、2、3、4時間後)の血中グルコースレベル(単位:mmol/l)(y軸)が示されている。1時間以降からの血中グルコースの上昇はβHBの摂取の1時間後の混合食物の朝食の摂取(食物摂取は矢印で示されている)に対応し、これは、低血糖の可能性を予防するために与えられた。携帯用ポイントオブケア血中ケトン測定器(Precision Xtra(登録商標))および対応試験片を使用して、血中グルコース濃度を測定した。エラーバーは平均の標準誤差(SEM)を表す。
図3図3は片頭痛の日数に対する毎日20μgのβHBの効果を示す。4名の中-高頻度頭痛患者(1ヶ月当たり6~22日の片頭痛日数)の群におけるベースライン(黒色)での平均片頭痛日数(y軸)および毎日20gのβHBでの4週間の介入後の片頭痛日数の減少(灰色)が示されている。平均と同様に、ベースライン時の中央値は18日の片頭痛日数であり、介入後には7日の片頭痛日数である。携帯用ポイントオブケア血中ケトン測定器(Precision Xtra(登録商標))および対応試験片を使用して、血中βHB濃度を測定した。エラーバーは平均の標準誤差(SEM)を表す。
図4図4Aは、片頭痛を有する日数に対する20gのβHBまたは40gのβHBの用量依存的効果を示す。2名の慢性片頭痛患者(1ヶ月当たり20または22日の片頭痛日数)におけるベースライン(灰色)における平均片頭痛日数(y軸)および20gのβHB(灰色)および40gのβHB(点付き白色)での4週間の介入後の片頭痛日数の減少が示されている。携帯用ポイントオブケア血中ケトン測定器(Precision Xtra(登録商標))および対応試験片を使用して、血中βHB濃度を測定した。エラーバーは平均の標準誤差(SEM)を表す。図4Bは、毎日0、20および40gのβHBに対する用量反応曲線(ベースラインからの片頭痛日数の減少率(%))を示す。2名の慢性片頭痛患者(1ヶ月当たり20または22日の片頭痛日数)における、毎日0gのβHBの4週間の摂取の後(0g)、毎日20gのβHBの4週間の摂取の後(20g)および毎日40gのβHBの4週間の摂取の後(40g)の、ベースライン(y軸)からの片頭痛日数の減少率(%)が示されている。携帯用ポイントオブケア血中ケトン測定器(Precision Xtra(登録商標))および対応試験片を使用して、血中βHB濃度を測定した。エラーバーは平均の標準誤差(SEM)を表す。
図5図5は5名の参加者における10gのD-ベータ-ヒドロキシブチラート(βHB)(食事前)の薬物動態およびグルコースレベルに対するその効果を示す。(A)10gのβHBの摂取の前(ベースライン=0時間)および後(0.5、1、2、3時間、4時間)のβHB血中レベル(単位:mmol/l)(y軸)が示されている。D-βHBを、水に溶解された粉末化混合ミネラルおよびリジン塩形態で、空腹時に投与した。携帯用ポイントオブケア血中ケトン測定器(Precision Xtra(登録商標))および対応試験片を使用して、血中βHB濃度を測定した。エラーバーは平均の標準誤差(SEM)を表す。(B)10gのβHB(食前)の摂取の前(ベースライン値=0時間)および後の血中グルコースレベル(単位:mmol/l)(y軸)。携帯用ポイントオブケア血中ケトン測定器(Precision Xtra(登録商標))および対応試験片を使用して、血中グルコース濃度を測定した。エラーバーは平均の標準誤差(SEM)を表す。
図6図6は10gのラセミ体βHB(黒色)またはD-βHB(灰色)の摂取の前(ベースライン値=0時間)および後の血中グルコースレベル(単位:mmol/l;y軸)に対する10gのラセミ体ベータ-ヒドロキシブチラート(βHB)または10gのD-βHBのいずれかの1回の投与の効果の比較を示す。ラセミ体βHBの場合の1時間以降からの血中グルコースの上昇はβHBの摂取の1時間後の混合食物の朝食の摂取(食物摂取は矢印で示されている)に対応し、これは、低血糖の可能性を予防するために与えられた。携帯用ポイントオブケア血中ケトン測定器(Precision Xtra(登録商標))および対応試験片を使用して、血中グルコース濃度を測定した。エラーバーは平均の標準誤差(SEM)を表す。
図7図7はベースライン時の5名の参加者における10gのラセミ体DL-ベータ-ヒドロキシブチラート(βHB)(黒色)および10gのD-βHB(灰色)(食前)の薬物動態の比較を示す。10gのβHBの摂取の前(ベースライン=0時間)および後(0.5、1、2、3、4時間)のβHB血中レベル(単位:mmol/l)(y軸)が示されている。ラセミ体βHBは粉末化ナトリウム-カルシウム塩形態で与えられ、D-βHBは粉末化混合ミネラルおよびリジン塩形態で与えられ、両方とも水中に溶解されており、空腹時に与えられた。携帯用ポイントオブケア血中ケトン測定器(Precision Xtra(登録商標))および対応試験片を使用して、血中βHB濃度を測定した。エラーバーは平均の標準誤差(SEM)を表す。
図8図8は、毎日10gのD-βHBと比較した場合の10gのラセミ体βHBの、片頭痛頻度に対する効果を示す。2名の高頻度片頭痛患者(1ヶ月当たり17および10日の片頭痛日数)におけるベースライン時(白色)の平均片頭痛日数(y軸)、および10gのラセミ体βHB(灰色)および10gのD-βHB(黒色)での8週間の介入の後の1ヶ月当たりの平均片頭痛日数の減少が示されている。携帯用ポイントオブケア血中ケトン測定器(Precision Xtra(登録商標))および対応試験片を使用して、血中βHB濃度を測定した。
【0094】
実施例
1.パイロット実験
国際頭痛学会分類第3版(International Headache Society Classification version 3)に従い熟練神経内科医によって中頻度ないし高頻度または慢性の片頭痛を有すると診断された患者が参加した。彼らは、いずれかの有意な他の神経学的、精神医学的または医学的障害を有する場合には、除外された。過去3ヶ月間に1ヶ月当たり少なくとも平均6日の片頭痛日数が要求された。10名の片頭痛患者(年齢範囲:25~61歳、男性1名、発作頻度範囲:6~24片頭痛日数/月)をパイロット研究に加え、以下の4つの条件に無作為に割り当てた:1)L-ロイシン(LL)、2)L-リジン(LY)、3)ラセミ体βHB、4)D-βHB。
【0095】
1.1.片頭痛患者4名における13gのL-ロイシンおよび13gのL-リジンの予備的薬物動態
L-ロイシン(LL)およびL-リジン(LY)は2つの完全ケトン原性アミノ酸である。種々の段階を経て、未使用のケトン原性アミノ酸(すなわち、ロイシンまたはリジン)は代謝されてKBになる。このことは一般に公知であるが、本発明者らの知る限りでは、そのようなケトン原性アミノ酸が血中βHBレベルを上昇させる程度および時間枠に関するデータは存在しない。薬物動態に関しては、4名の片頭痛患者に、空腹時に13gのLLまたは13gのLYを摂取するように指示した。携帯用ポイントオブケア血中ケトン測定器(Precision Xtra(登録商標))および対応試験片を使用して、血中βHBおよびグルコース濃度を以下の5つの時点で測定した:1)ベースライン(摂取直前)、2)摂取の0.5時間後、3)摂取の1時間後、4)摂取の2時間後、5)摂取の3時間後、および6)摂取の4時間後。13gが10gのβHBと同じ粒子数(mmol)にほぼ対応する。βHBの最高平均濃度は2時間後および3時間後に見出され(平均=0.35mmol/l;SEM=0.05)、4時間以上にわたって上昇状態が維持された(図1を参照されたい)。LYに関しては、血中βHBの上昇は全く測定できなかった。
【0096】
L-ロイシン(3名の患者)およびL-リジン(2名の患者)の介入の予備的結果:
最後の3ヶ月にわたる毎月の片頭痛発作頻度をまとめ、平均をベースライン比較のために用いた。26gのLLまたは26gのLYを1日2回(それぞれ、朝食の1時間前および夕食の1時間前)、4週間にわたって摂取するように患者に指示した。その期間中、服薬または食習慣における他のいかなる変化をも控えるように彼らに指示した。主要評価項目は、片頭痛が生じた日数の、ベースラインからの変化であった。片頭痛が生じた日数を、モバイルアプリ(myheadache.ch)またはペンおよび紙の日記を用いて記録し、参加者間で平均した。
【0097】
毎日26gのLLまたはLYが摂取された場合(1日に13gを2回)、試験の開始時から、下痢または悪心のような有害事象が全患者において生じ、粉末の苦味が耐えられなかった。LL群における1名の患者は該試験の薬物動態学的部分において早くも脱落した。用量を劇的に減少させる必要があった。それらのケトン原性アミノ酸の高用量の長期的使用は、嗜好性および実施可能性の問題ゆえに、実施できそうもない。また、用量の減少はデータを比較不可能にし、血中βHBレベルにおける非常に僅か又は測定不可能な増加は、作用メカニズムに関して、結果を解釈困難にしたであろう。
【0098】
1.2.片頭痛患者5名における10gのラセミ体βHBの予備的薬物動態
薬物動態を決定するために、水中に溶解された10gのラセミ体ベータ-ヒドロキシブチラート(βHB)を以下の3つの異なる条件で患者に経口的に与えた:(1)食後(食事の後)、(2)食前(食事の前)、(3)食事の1時間前。携帯用ポイントオブケア血中ケトン測定器(Precision Xtra(登録商標))および対応試験片を使用して、血中βHBおよびグルコース濃度を以下の5つの時点で測定した:1)ベースライン(摂取直前)、2)摂取の0.5時間後、3)摂取の1時間後、4)摂取の2時間後、5)摂取の3時間後、および6)摂取の4時間後。βHB血中レベルの最大上昇は、βHBが絶食状態で摂取された場合に示された(結果は図2Aに示されている)。βHBの最高平均濃度は約1時間後に見出され(平均=0.62mmol/l;SEM=0.08)、これはLLの量の約2倍である。該レベルは2時間後にベースライン近くまで低下した。
【0099】
グルコースレベルに対するβHBの効果を調べるために、グルコースレベルをβHBと同時に測定した。図2Bは、0.5時間後および1時間後のβHB血中レベルの増加が血中グルコースレベルの同時実質的低下を伴うことを示している。低血糖を予防するために、混合食を与え、測定を継続した。
【0100】
1.3.患者5名における20gのラセミ体βHBの予備的有効性(5名の患者に対する非盲検介入)
最後の3ヶ月にわたる毎月の片頭痛発作頻度をまとめ、平均をベースライン比較のために用いた。20gのβHB、26gのLLまたは26gのLYを1日2回(それぞれ、朝食の1時間前および夕食の1時間前)、4週間にわたって摂取するように患者に指示した。その期間中、服薬または食習慣における他のいかなる変化をも控えるように彼らに指示した。主要評価項目は、片頭痛が生じた日数の、ベースラインからの変化であった。片頭痛が生じた日数を、モバイルアプリ(myheadache.ch)またはペンおよび紙の日記を用いて記録し、参加者間で平均した。
【0101】
耐えられない有害事象が1名の患者において生じた。該患者は摂取後に重度の悪心および眩暈を報告し、介入開始の8日後に脱落した。残りの4名の患者も消化管の不調を経験したが、それは、該粉末が夕食と共に又は夕食後に摂取された場合には、若干改善した。嗜好性は依然として問題であり、不快な味が報告された。要約すると、ラセミ体βHBの耐容性および嗜好性、特に消化管の不調および悪心は問題であり、これは、摂取後の血中グルコースの付随的低下によって更に悪化しうるであろう。
【0102】
ベースラインと比較して、片頭痛の日数における51%の平均的減少が認められた(平均ベースライン=16.25日、SEM=3.71;βHB後の平均=8日、SEM=2.92;図3を参照されたい)。この減少は25~80%の範囲であった。かなり良好な有効性にもかかわらず、4週間が完了した後、5名の患者のうち2名のみがラセミ体βHB塩を摂取し続けたに過ぎなかった。
【0103】
用量反応データ(βHBの20gと40gとの比較):
それら2名の慢性片頭痛患者(1ヶ月当たり20日または22日の片頭痛日数)は20gのラセミ体βHBを毎日4週間にわたって摂取するよう指示され、1週間の洗い流し期間の後、次の4週間は40gのβHBへと用量を2倍にする。介入期間中、片頭痛日数を記録し、患者は他のいかなる生活様式または服薬の変更をも控えるように指示された。平均ベースライン発作頻度は21日の片頭痛日数(SEM=1)であり、4週間の毎日20gのβHBの摂取の後に11.5日に低下し、4週間の毎日40gのβHBの摂取の後に6日に低下した(図4Aを参照されたい)。この予防効果は用量の増加にほぼ正比例し、20gのβHBは、ベースラインから、片頭痛日数における46%の減少(SEM=18.86)をもたらし、40gのβHBは72%の減少(SEM=12.95;図4Bを参照されたい)をもたらす。この予備的観察は、βHBの片頭痛予防効果が用量依存的である可能性が高いことを示唆している。それでも、用量の増加は両方の患者において副作用をも更に増加させ、1日当たり40gの不快な味の粉末は、長期間摂取することも困難であるようであった。
【0104】
1.4.参加者5名における10gのD-βHBの予備的薬物動態
水中に溶解された10gのD-ベータ-ヒドロキシブチラート(βHB)を参加者に絶食状態で経口的に与えた。携帯用ポイントオブケア血中ケトン測定器(Precision Xtra(登録商標))および対応試験片を使用して、血中βHBおよびグルコース濃度を以下の5つの時点で測定した:1)ベースライン(摂取直前)、2)摂取の0.5時間後、3)摂取の1時間後、4)摂取の2時間後、5)摂取の3時間後、および6)摂取の4時間後(図5Aを参照されたい)。ラセミ体βHBの場合と同様に、βHBの最高平均濃度は約1時間後に見出された(平均=1.94mmol/l;SEM=0.48)。しかし、本発明者らが驚いたことに、ピークレベルは、ラセミ体βHBで得られた量の3倍以上であった(図7を参照されたい)。また、βHBレベルは4時間後でさえも上昇状態のままであった(図5A)。
【0105】
グルコースレベルに対するD-βHBの効果を調べるために、グルコースレベルをβHBと同時に測定した。本発明者らが驚いたことに、約2mmol/lへのβHB血中レベルの高い平均的上昇は血中グルコースレベルにおける付随的変化を伴わず、これは4時間にわたって完全に安定しているようである(図5を参照されたい)。これは、患者がラセミ体βHBで経験した血中グルコースの低下とは対照的である(図6を参照されたい)。それは、同量のD-βHBを摂取した場合には生じないようであった。
【0106】
1.5.患者2名における10gのラセミ体βHBと10gのD-βHBとの予備的有効性の比較(非盲検介入)
最後の3ヶ月にわたる毎月の片頭痛発作頻度をまとめ、平均をベースライン比較のために用いた。10gのラセミ体βHBを8週間摂取し、ついで1週間の洗い流し期間の後、10gのD-βHBを毎日8週間摂取するように患者に指示した。その期間中、服薬または食習慣における他のいかなる変化をも控えるように彼らに指示した。主要評価項目は、片頭痛が生じた日数の、ベースラインからの変化であった。片頭痛が生じた日数を、モバイルアプリ(myheadache.ch)またはペンおよび紙の日記を用いて記録し、参加者間で平均した。
【0107】
8週間の10gのラセミ体βHBの摂取中に、ベースラインと比較して、片頭痛日数における18.5%の平均減少が認められた(平均ベースライン=13.5日、SEM=2.86;βHB後の平均=11日、SEM=1.15;図8を参照されたい)。8週間の10gのD-βHBの摂取中に、ベースラインと比較して、片頭痛日数における68.5%の平均減少が認められた(平均ベースライン=13.5日、SEM=2.86;βHB後の平均=4.25日、SEM=0.43;図8を参照されたい)。片頭痛日数におけるこの減少は、40gのラセミ体βHBで観察された効果に匹敵する(共に、片頭痛が生じた日数における約70%の減少)。
【0108】
嗜好性および副作用プロファイルは、D-βHBおよび減少用量を使用した場合、遥かに改善された。与えられた用量で副作用は報告されなかった。そしてどちらの患者もD-βHBの摂取を毎日継続している。
【0109】
これらの非常に予備的な知見は、驚くべきことに、D-βHBが他のケトン原性物質より遥かに高く血中βHBレベルをヒトにおいて上昇させうるらしいことだけでなく、KD中に人体が産生した用量の一部だけ(約150g対10g)で片頭痛頻度における顕著な減少(最大70%)をも招くことを示唆している。また、それは他のケトン原性物質より遥かに良好な耐容性を有し、より美味であるようであり、血中グルコースレベルにおける潜在的に望ましくない低下をもたらさないようである。この知見は、D-βHBが片頭痛患者における代謝産物として作用するだけでなく、片頭痛に関連した病態生理学的メカニズムに正の影響を及ぼすシグナル伝達分子としても作用することを示唆している。
【0110】
2.臨床試験
臨床試験の説明:片頭痛の予防的治療のための外因性ケトン体の安全性、耐容性および有効性:クロスオーバー無作為化プラセボ対照二重盲検試験。
【0111】
2.1.臨床試験の概要
【表1】
【0112】
2.2.試験医薬
血中ケトン濃度を外因的に上昇させるために、本発明者らは、片頭痛またはその症状の治療または予防のための医薬または栄養補助剤の製造における、D-βHBまたはその代謝前駆体の単独での又は他のケトン原性物質と組合された使用を提示する。
【0113】
実現可能性に関する理由およびミネラル負荷のために、後記の第2相試験における患者には18gの無機塩形態のβHBを投与する。以下においては、試験医薬はベルム(verum)と称される。
【0114】
2.3.試験デザイン
該試験は、1回の積極的介入(βHB)および1つのプラセボ群を伴う、二重盲検無作為化プラセボ対照、安全性、耐容性および有効性試験である。18~65歳の45名の中ないし高頻度片頭痛患者(1ヶ月当たり5~14日の片頭痛日数)が含まれる。参加者は、試験の全期間を通して、詳細な頭痛の記録(www.myheadache.ch)を付けることが要求される。
【0115】
試験期間は4週間の慣らし期間から始まり、その期間には治験的治療は行われない(図1を参照されたい)。慣らし期間の目的はベースライン比較のための観察である。慣らし期間の後、12週間の介入期間が続き、このとき、被験者は試験医薬または対応プラセボの投与を受ける(1日3回)。最初の介入期間の後、4週間の洗い流し期間、および第2の4週間の慣らし期間が続き、その期間中は更なる介入は行われない。この後、第2の介入期間が続き、このとき、参加者は「交差(cross-over)」する、すなわち、最初の介入の代替治療を受ける(彼らが最初の12週間にベルムの投与を受けた場合には、彼らは第2の12週間にはプラセボの投与を受け、あるいはその逆である)。
【表2】
【0116】
2.4.目標とする結果
2.4.1.主要有効性評価項目
主な目的は、中頻度ないし高頻度の偶発的片頭痛患者において、ベースラインから最後の4週間の介入までの4週間当たりの片頭痛日数の減少に関して、ベルム(verum)がプラセボより優れていることを示すことである。
【0117】
ペンおよび紙での詳細な頭痛日記(www.myheadache.chに類似したもの)を用いて、毎月の片頭痛頻度の減少(すなわち、主要結果)を評価する。片頭痛が生じた日数(頭痛日記で評価される)の減少は片頭痛予防に関するRCTにおける標準的な主要有効性評価項目である。頭痛日記はIOSおよびアンドロイドアプリとして利用可能であり、使いやすい。片頭痛に関連した特徴、例えば、発作の開始、発作の長さ(時間単位)、発作の重症度(0~10)、服用薬(量および用量)、関連症状および潜在的誘発要因を記録する。
【0118】
2.4.2.副次的有効性評価項目
副次的目的は、以下の副次的エンドポイントに関して、外的に誘発された軽度ケトン症の、ベルムによる治療効果を評価することである。
【0119】
・片頭痛の日数における50%を超える減少と定義される、治療応答者の割合。
【0120】
・最後の4週間の介入中の、任意の重症度の頭痛日数の、ベースライン(ICHD-3基準を満たす)からの変化。
【0121】
・最後の4週間の追跡調査期間中の、任意の重症度の頭痛日数の、ベースライン(ICHD-3基準を満たす)からの変化。
【0122】
・最後の4週間の介入中の、ベースラインからの急性片頭痛薬(鎮痛薬またはトリプタン)の摂取(急性頭痛薬の使用日数により測定される)の変化。
【0123】
・最後の4週間の介入中の、ベースラインからの平均片頭痛強度(各片頭痛エピソードに関する0~10のVASで評価される)の変化。
【0124】
・ベースラインから最後の4週間の介入までの、障害の変化[片頭痛関連障害が生じた日数(0~270)を示す片頭痛障害評価(MIDAS)および頭痛影響試験6(HIT-6)により評価される]。
【0125】
副次的結果は、頭痛日記(myheadache.ch)およびアンケートを用いて測定され、これは、それぞれ、ベースライン来院時、12週間の介入の後の来院時および洗い流し期間の後、紙コピーとして提供される。
【0126】
2.4.3.探索的分析
探索目的は、酸化ストレスのマーカーおよび遺伝子解析に関して、D-βHB補給により外的に誘発される軽度ケトン症の潜在的作用メカニズムを評価することである。
【0127】
・最後の4週間の介入中の、酸化的およびニトロソ化ストレスマーカー(マロンジアルデヒド(MDA)、カルボニル化タンパク質、ニトラート、ニトリット、ニトロチロシン)の、ベースラインからの血清中濃度変化(ELISAおよび質量分析により検査される)
・試験に関与した全患者の遺伝子プロファイル(SNP)、ならびに主要評価および副次的評価との遺伝的マーカーの相関性。
【0128】
・ミトコンドリア関連遺伝子クエン酸シンターゼ、チトクロームCオキシダーゼサブユニット1、コハク酸デヒドロゲナーゼサブユニットA)に特に焦点を当てた、発現マイクロアレイを使用する介入の前および後の遺伝子発現変化。
【0129】
・可能な共変量としての主要評価および副次的評価と組合された、患者の遺伝的プロファイルとの遺伝子発現変化の相関性(eQTL分析)。
【0130】
・もう1つの探索目的はベースラインから最後の4週間の介入期間までのピークBKレベルおよびグルコースレベルの変化を調べることである。血中KBおよびグルコースレベルは、午前中、試験薬の摂取の30分後および60分後、週1回、携帯用ポイントオブケア血液ケトン測定器(Precision Xtra(登録商標)および対応試験片)を使用して測定される。
【0131】
2.4.4.耐容性および安全性評価項目
安全性および耐容性は以下により決定される。
【0132】
・プラセボ治療と積極的治療との間の治療起因有害事象(薬物との潜在的因果関係にかかわらず任意の事象)の比較。
【0133】
・プラセボ治療と積極的治療との間の、主任研究者によりインピュテーションされた治療関連有害事象(例えば、消化管の不調)の比較。
【0134】
・ベースラインおよび/またはプラセボ群と比較した場合の、通常の検査およびバイタルサイン(後記を参照されたい)における任意の有意な変化。
【0135】
・治療の安全性を判定するために、来院2、3および4において、通常の検査(腎および肝機能検査、電解質、全血球数、C反応性タンパク質、血清コレステロール、トリグリセリド、血清タンパク質、アルブミン、グルコース、Hba1c)を行う。重要なパラメータ(血圧、心拍数、体重、身長)は毎回の来院時に測定される。
【0136】
2.5.試験被験者の選択
2.5.1.募集
募集戦略
バーゼル大学病院神経科(Department of Neurology,University Hospital Basel)での医師の診察中に、試験に関して、神経科医(例えば、Bernhard Decard博士)が患者に知らせる。地元の薬局、地元の神経内科医院、Bruderholzspital(Kantonsspital Baselland)の神経科およびBad Zurzachの頭痛クリニック(Headache Clinic)(Sandor教授によるもの)に、より多数の宣伝チラシが展示される。また、USB(EKNZ-Number 194/13)における片頭痛-スポーツ介入研究に関して過去に連絡した患者が、本研究に同意し本研究の選択基準を満たしていれば、該患者に再度連絡を取る。本研究のために過去に連絡した約300名の、研究に関心のある患者が、片頭痛予防に関する将来の研究のために連絡されることに同意した。更に、大学図書館だけでなく、神経内科および総合医学部の待合室にも宣伝チラシが公開される。宣伝チラシに似たお知らせが、研究専用のバーゼル大学(University of Basel)“Marktplatz”のウェブページ(https://markt.unibas.ch/nc/inserate/kategorie/job-angebot-studien/)およびUSBウェブサイト(https://www.unispital-basel.ch/lehre-forschung/studieninserate/)にそれぞれ掲載される。
【0137】
募集の実施可能性
中頻度ないし高頻度の片頭痛患者においては、治験に対する心構えは高い。なぜなら、現在の治療選択肢は非常に限られており、しばしば、耐えられない副作用を伴うからである。片頭痛は、よく見られる障害であり、本発明者らは、片頭痛の新規形態の発明に関する研究に進んで参加する300名の患者の集団を既に有する。また、共同出願人は、彼の頭痛クリニックを通して、そしてUSBの神経科と一緒になって、大きな患者集団に対するアクセスを有し、約100名の患者が選択基準を満たしている。本発明者らは、50名の適格患者の募集に関して、問題を予想していない。
【0138】
2.5.2.包含および除外基準
包含基準:被験者
1.18歳~65歳である。
【0139】
2.ICHD-3 Beta分類基準に従い、片頭痛(前兆を伴う又は伴わない)と以前に診断されている。
【0140】
3.1ヶ月当たり5日~14日の片頭痛日数(過去3ヶ月間にわたって)を有し、少なくとも2つの片頭痛は4時間以上持続する。
【0141】
4.片頭痛の発症年齢が50歳未満である。
【0142】
5.片頭痛および片頭痛以外の適応症に対するいずれかの予防薬(片頭痛症状の急性緩和のために服用される医薬以外)および栄養補助食品(例えば、Q10、リボフラビンなど)のうち、臨床医の見解では本試験目的を妨げる可能性があるもの(例えば、抗うつ薬、抗けいれん薬、ベータブロッカー)の服用開始またはその種類、投与量もしくは頻度の変更を行うのを本研究の持続期間にわたって控えることに同意する。
【0143】
6.片頭痛および片頭痛以外の適応症に対するいずれかの予防薬(片頭痛症状の急性緩和のために服用される医薬以外)および栄養補助食品(例えば、Q10、リボフラビンなど)のうち、臨床医の見解では本試験目的を妨げる可能性があるもの(例えば、抗うつ薬、抗けいれん薬、ベータブロッカー)の種類、投与量もしくは頻度を、研究開始前の少なくとも3ヶ月間、変更していない。
【0144】
7.意図されたとおりにケトン原性粉末またはプラセボを使用すること、フォローアップ来院要件を含む本研究の要件の全てに従うこと、被験者の日記および他の自己評価アンケートにおける必要研究データを記録することに同意し、血液サンプルを採取することに同意する。
【0145】
8.書面によるインフォームドコンセントを提供することが可能である。
【0146】
除外基準:被験者
1.研究中に経口または注射用ステロイドを要する付随的医学的状態を有する。
【0147】
2.研究者の見解では本研究評価を混乱させる可能性がある、いずれかの有意な神経学的、精神医学的または他の医学的状態の病歴を有する。
【0148】
3.甲状腺疾患に対して現在治療を受けている、またはその履歴を有する。
【0149】
4.心血管疾患(特に高血圧)またはその既往歴を有する。
【0150】
5.二次性頭痛の疑いのある既知病歴を有する。
【0151】
6.頭痛または他の身体疼痛に対して、単純鎮痛薬または非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)またはトリプタンを、1ヶ月に10日を超えて、現在服用している。
【0152】
7.処方オピオイドを現在服用している。
【0153】
8.過去6か月以内に偶発性片頭痛に戻った薬物乱用頭痛(MoH)の過去の診断を有する。
【0154】
9.慢性片頭痛に関するICHD-3ベータ分類(Beta Classification)基準(毎月15日を超える頭痛日数)を満たす。
【0155】
10.片頭痛の予防のための少なくとも3クラスの薬物療法の適切な治験(2ヶ月以上)に失敗した。
【0156】
11.片頭痛予防のための手術を受けた。
【0157】
12.過去6ヶ月以内にボトックス注射を受けた。
【0158】
13.妊娠している、または研究期間中に妊娠する予定である、出産適齢期である、および一般に受け入れられた形態の受胎調節を用いることを望まない。
【0159】
14.いずれかの他の治療用臨床試験に現在参加している、または過去30日以内に臨床試験に参加したことがある。
【0160】
15.影響を受けやすい集団に属している、またはインフォームド・コンセントを提供する、フォローアップ要件を遵守する若しくは自己評価を提供する彼もしくは彼女の能力が損なわれるいずれかの状態を有する(例えば、ホームレス、発達障害者および囚人)。
【0161】
16.ホルモンに基づく避妊薬を開始、変更または中止することを考えている。
【0162】
2.6.統計
主な目的は、中頻度ないし高頻度の偶発的片頭痛患者において、ベースラインから最後の4週間の介入までの4週間当たりの片頭痛日数の減少に関して、ケトン原性サプリメントがプラセボより優れていることを示すことである。主要エンドポイントである、最後の4週間の治療における片頭痛の日数は、各患者について2回、すなわち、プラセボ治療期間後に1回およびベルム(verum)治療期間後に1回、測定される。治療開始前の4週間における片頭痛日数が両方の治療期間に関して評価され、したがって、共変量として用いられる2つのベースライン値が存在する。これは、ベースライン片頭痛頻度またはキャリーオーバー効果における潜在的な季節変動を補正する目的を有する
一次分析は、線形混合効果回帰モデルを用いて行われる。主要モデルは、応答変数としての主要エンドポイント(最後の4週間の治療における片頭痛日数)、共変量としてのそれぞれのベースライン値、主効果としての治療(ベルム対プラセボ)および期間(第1対第2)、2つの相互作用項、すなわち、「治療×期間」および「治療×ベースライン値」、ならびにランダム効果としての患者を含む。治療と期間との間の有意な相互作用項はキャリーオーバー効果を示す。主要エンドポイントがベースライン値に対してどの程度強く相関しているかが不明であるため、該モデルにおける共変量としてベースラインを含めるのが適切かどうかは不明である。したがって、前記の一次モデルは、赤池の情報基準(AIC)により、相互作用項「治療×ベースライン値」の非存在下および相互作用項「治療×ベースライン値」とベースライン値との両方の非存在下のモデルと比較される。
【0163】
主な分析はITTセットにおいて行われる。欠落値は、第11.5節に記載されているとおりにインピュテーションされる。
【0164】
亜群分析:以下の先験的に定められた亜群を調べる:性別(男性/女性)、前兆を伴う片頭痛(有/無)、片頭痛日数のベースライン頻度(中=5~9日/4週;高=10~14日/4週)。各亜群に関して、該亜群の主効果および相互作用項「亜群×治療」が前記統計モデルに追加される。亜群間で治療効果における差を示す、相互作用効果に関する傾向(p<0.10)の場合には、別々のモデルが各亜群に適合するであろう。
【0165】
感度分析:亜群分析を伴わない主要分析はPPセットにおいて反復される。ITT分析の結果からの潜在的な逸脱が詳細に記載される。
【0166】
副次的エンドポイントは、対応ベースライン尺度を共変量として、主要エンドポイントに関して記載されているとおりに分析される。更なる探索目的は、ベースラインから最後の4週間のフォローアップ期間までの、4週間当たりの片頭痛日数に対するBKレベルの相関性を調べることである。両方の変数の時間経過がグラフ表示され、精査される。更に、相互相関が計算される。その他の探索目的(遺伝子発現変化、治療応答の根底にある潜在的遺伝的根拠および酸化ストレスのマーカーの変化)の統計的考慮事項は後記に概説されている。
【0167】
統計分析は、R(http://www.r-project.org/)を使用して行われる。
本発明は一態様において、以下を提供する。
[項目1]
a.ベータ-ヒドロキシ酪酸(βHB)またはその薬学的に許容される塩、
b.アセトアセタート(AcAc)またはその薬学的に許容される塩、
c.1,3-ブタンジオール(CAS番号107 88 0)および
トリアセチン(CAS番号102-76-1)
から選択される、βHBもしくはAcAcの代謝前駆体、またはその薬学的に許容される塩、ならびに
d.式
【化1】


・Ia、Ib、Ic:「D-ベータ-ヒドロキシブチラート-D-1,3-ブタンジオール」、
・II:「(3R)-ヒドロキシブチル-(3R)-ヒドロキシブチラート」、
・IIIa、IIIb、IIIc:「アセトアセチル-1,3-ブタンジオール」、
・IV:「アセトアセチル-R-3-ヒドロキシブチラート」および
・Va、Vb、Vc、Vd、Ve:「アセトアセチルグリセロール」
のいずれか1つにより示される、アセトアセチル-もしくは3-ヒドロキシブチラート部分を含む化合物、またはその薬学的に許容される塩
から選択される、片頭痛および/またはその症状の治療または予防方法における使用のための化合物。
[項目2]
該化合物が、βHB、βHBの代謝前駆体、3-ヒドロキシブチラート部分を含む化合物およびそれらの薬学的に許容される塩から選択される、項目1記載の片頭痛および/またはその症状の治療または予防方法における使用のための化合物。
[項目3]
該化合物がβHBまたはその薬学的に許容される塩である、項目1または2記載の片頭痛および/またはその症状の治療または予防方法における使用のための化合物。
[項目4]
該化合物がD-βHBまたはその薬学的に許容される塩である、項目1~3のいずれか1項記載の片頭痛および/またはその症状の治療または予防方法における使用のための化合物。
[項目5]
前記の薬学的に許容される塩が、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルギニン塩、リジン塩、ヒスチジン塩、オルニチン塩、クレアチン塩、アグマチン塩、シトルリン塩、メチルグルカミン塩およびカルニチン塩、またはこれら塩の組合せ、特に、カルシウム塩およびナトリウム塩の組合せから選択される、項目1~4のいずれか1項記載の片頭痛および/またはその症状の治療または予防方法における使用のための化合物。
[項目6]
塩の該組合せがリジン塩とカルシウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩および/またはナトリウム塩との組合せ、特に、リジン塩、カルシウム塩およびナトリウム塩の組合せを含む、項目5記載の片頭痛および/またはその症状の治療または予防方法における使用のための化合物。
[項目7]
該治療または予防が、片頭痛発作の頻度を減少させること、片頭痛発作の重症度を軽減すること、片頭痛症状の重症度を軽減すること、疾患進行を予防すること、疾患慢性化を予防することを含む、項目1~6のいずれか1項記載の片頭痛および/またはその症状の治療または予防方法における使用のための化合物。
[項目8]
片頭痛の症状が、以下の症状、すなわち、中等度ないし強度の主に片側性の頭痛、光、騒音および/または臭いに対する敏感性、悪心または吐き気、顔面痛、眼の痛み、バランス障害、換語困難、他の神経症状、例えば感覚または運動障害、異痛症、あるいは片頭痛発作に付随、先行もしくは続発することが知られている特徴の任意の他のもの、例えば疲労、悪心、認知困難、疲労感、激しい空腹感または口渇、性欲減退、うつ病、躁病、気分変動、ならびに脳の構造および機能における変化、例えば白質病変または機能的連結性の障害の少なくとも2つを含む、項目1~7のいずれか1項記載の片頭痛および/またはその症状の治療または予防方法における使用のための化合物。
[項目9]
該化合物が、項目8記載の片頭痛発作の症状の1つまたは幾つかの発生の前に投与される、項目1~8のいずれか1項記載の片頭痛および/またはその症状の治療または予防方法における使用のための化合物。
[項目10]
投与すべき1日量が0.05g/kg~1g/kg体重、特に、0.1g/kg~0.7g/kg体重、より詳細には、0.2g/kg~0.4g/kg体重である、項目1~9のいずれか1項記載の片頭痛および/またはその症状の治療または予防方法における使用のための化合物。
[項目11]
該1日量が1~6用量、特に2または3用量に分割される、項目10記載の片頭痛および/またはその症状の治療または予防方法における使用のための化合物。
[項目12]
該1日量が、少なくとも1ヶ月間、特に、少なくとも6ヶ月間、より詳細には、少なくとも1年間、より一層詳細には、2年間にわたって投与される、項目10または11記載の片頭痛および/またはその症状の治療または予防方法における使用のための化合物。
[項目13]
対象への該医薬組成物の投与が、0.3mM~6mMへの、特に、0.4mM~4mMへの、より一層詳細には、1mM~4mMへの、血中ケトン体(KB)レベルの上昇を引き起こす、項目1~12のいずれか1項記載の片頭痛および/またはその症状の治療または予防方法における使用のための化合物。
[項目14]
項目1~13のいずれか1項記載の化合物を含む、片頭痛および/またはその症状の治療または予防方法における使用のための医薬組成物。
[項目15]
該医薬組成物が、ロイシン、リジン、イソロイシン、トリプトファン、チロシンおよびフェニルアラニンを含む群から選択されるアミノ酸を更に含む組合せ医薬である、項目14記載の医薬組成物。
[項目16]
項目1~13のいずれか1項記載の化合物の含有量が少なくとも25%(w/w)、特に、少なくとも35%(w/w)、より詳細には、50%~100%(w/w)である、項目14~15のいずれか1項記載の医薬組成物。
[項目17]
経口投与用に処方されている、項目14~16のいずれか1項記載の医薬組成物。
[項目18]
経口投与用の粉末として処方されている、項目17記載の医薬組成物。
[項目19]
該医薬組成物が飲料である、項目14~16のいずれか1項記載の医薬組成物。


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8