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特許7514458関節リウマチ治療薬の奏効を予測する方法及びそれに用いるバイオマーカー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】関節リウマチ治療薬の奏効を予測する方法及びそれに用いるバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6851 20180101AFI20240704BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z
G01N33/50 P
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020560010
(86)(22)【出願日】2019-12-05
(86)【国際出願番号】 JP2019047645
(87)【国際公開番号】W WO2020116567
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-10-26
(31)【優先権主張番号】62/776,905
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501002172
【氏名又は名称】株式会社DNAチップ研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(73)【特許権者】
【識別番号】504013775
【氏名又は名称】学校法人 埼玉医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 誠二
(72)【発明者】
【氏名】上田 由美
(72)【発明者】
【氏名】石澤 洋平
(72)【発明者】
【氏名】平山 円
(72)【発明者】
【氏名】的場 亮
(72)【発明者】
【氏名】竹内 勤
(72)【発明者】
【氏名】山岡 邦宏
(72)【発明者】
【氏名】天野 宏一
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/125402(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/073041(WO,A1)
【文献】特開2009-092508(JP,A)
【文献】特開2011-004743(JP,A)
【文献】国際公開第2008/150491(WO,A2)
【文献】竹内勤 他,関節リウマチの生物学的製剤の反応性とDNAチップ解析,アレルギー,2005年09月30日,Vol. 54, No. 8-9,p. 927
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節リウマチ患者に対する、抗IL-6レセプター抗体製剤、メトトレキサート、及び腫瘍壊死因子阻害薬からなる群から選択される関節リウマチ治療薬の奏効を予測する方法であって、
関節リウマチ治療薬投与前における前記患者由来の末梢血中のMS4A4A遺伝子の発現量を測定する工程と、
関節リウマチ治療薬を投与してから4週以内の期間である第一の期間における前記患者由来の末梢血中のMS4A4A遺伝子の発現量を測定する工程と
を有し、
前記関節リウマチ治療薬投与前の前記MS4A4A遺伝子の発現量と、前記第一の期間の前記MS4A4A遺伝子の発現量とを比較し、前記第一の期間の前記MS4A4A遺伝子の発現量が前記関節リウマチ治療薬投与前よりも低下している場合に、前記治療薬を投与してから12週~54週の期間である第二の期間における前記患者における関節リウマチに関連する指標の数値下し
前記指標は、DAS28-CRP、DAS28-ESR、DAS44、EULAR改善基準、CDAI、SDAI、ACR、血清CRP濃度及びリウマチ因子定量値からなる群から選択される、方法。
【請求項2】
被験者における関節リウマチに関連する指標の数値を推定する方法であって、
前記被験者由来の末梢血中のMS4A4A遺伝子の発現量を測定する工程と、
前記測定した発現量を、予め用意された前記指標に相関する遺伝子発現プロファイルを用いて解析する工程と、
前記解析した結果に基づき、前記被験者における前記指標の数値を推定する工程と
を有し、
前記解析する工程は、前記測定したMS4A4A遺伝子の発現量を、関節リウマチ患者から得られた末梢血におけるMS4A4A遺伝子発現量と前記関節リウマチ患者の前記指標とに基づいて作成される、MS4A4A遺伝子の発現量と前記指標との相関関係を示す遺伝子発現プロファイルと比較することによって行われ、
前記指標は、DAS28-CRP、DAS28-ESR、DAS44、EULAR改善基準、CDAI、SDAI、ACR、血清CRP濃度及びリウマチ因子定量値からなる群から選択される、方法。
【請求項3】
請求項2記載の方法において、前記指標は、関節リウマチ疾患の病勢を示し、または関節リウマチ治療薬の治療効果を判定する、方法。
【請求項4】
請求項2記載の方法において、前記遺伝子発現プロファイルは正の相関関係を示し、前記被験者由来の末梢血中のMS4A4A遺伝子の発現量が高い場合には、前記指標は高い病勢活動度を示す、方法。
【請求項5】
請求項2記載の方法において、前記被験者は関節リウマチに罹患している、方法。
【請求項6】
請求項5記載の方法において、前記測定する工程は、前記被験者に対する関節リウマチ治療薬の投与前および投与後における末梢血由来のMS4A4A遺伝子の発現量を測定し、前記投与前および投与後における末梢血におけるMS4A4A遺伝子発現量を、前記遺伝子発現プロファイルを用いて解析することにより、前記治療薬の治療効果を判定する、方法。
【請求項7】
請求項1記載の方法において、前記第二の期間は、前記治療薬を投与してから46週~54週の期間である、方法。
【請求項8】
請求項2記載の方法において、前記MS4A4A遺伝子の発現量に基づいて、前記被験者を、関節リウマチ患者と、健常者及び前記関節リウマチ以外の疾患の患者とに区別する工程を備える、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節リウマチ治療薬の奏効を予測する方法、およびそれに用いるバイオマーカーに関する。具体的には、本発明は、治療前後の被験者から採血した血液から本願発明に係るバイオマーカー遺伝子の発現量を測定・標準化し、その発現量の増減を比較し、当該被験者における将来の関節リウマチ活動性指標を推定することにより、関節リウマチ治療薬の奏効を予測する方法に関する。また本発明は、被験者における関節リウマチに関連する指標の数値を推定する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
リウマチ性疾患の代表である関節リウマチ(rheumatoid arthritis:「RA」)は、慢性多発性関節炎を主症状とする全身性結合組織疾患であり、自己免疫疾患の一種である。関節リウマチは、30~60歳の女性に好発し、有病者数は日本国内においては約70万人と推測されている。関節リウマチの病態には関節滑膜における血管新生、炎症性細胞浸潤、滑膜細胞増殖、軟骨・骨破壊などが挙げられる。また、関節リウマチにおける関節炎は改善と増悪を繰り返しながら進行し、徐々に軟骨・骨破壊を引き起こし、関節リウマチ患者の日常労作の阻害や生活の質(QOL)の低下を招く。
【0003】
このような関節リウマチの臨床においては、患者に対して最良の治療を提供するため、当該患者における関節リウマチの病態・病勢の活動性を、特定の指標を算出することにより評価している。例えば、この指標の評価においては、患者の痛みに関する自己評価、関節(疼痛関節数、圧痛関節数、腫脹関節数など)の検査・測定、および血液検査(赤沈、リウマトイド因子、CRPなど)等の評価項目を組み合わせて、関節リウマチの病態・病勢の活動性をスコア化している。そしてスコア化された指標から、当該患者の疾患の程度を評価している。また、尿中のインターロイキン-1受容体アンタゴニストを指標とすることができることも報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3530239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、関節リウマチ患者に投与する関節リウマチ治療薬としては種々のものが開発されており、その選択に際しては、薬効の強さ、投与法、効果発現までの期間、副作用の危険性、リウマチ重症度、疾患活動性、発症からの期間、合併症、治療歴などの多くの要素を勘案し、その患者に最も有用性の高いと考えられる関節リウマチ治療薬を選択して投与する。しかしながら、関節リウマチ治療薬の効果は個体差が大きく、ある症例ないし患者には有効であっても、他の症例ないし患者には無効であることも多い。このようなレスポンダーとノンレスポンダーを薬剤投与前に区別することは今現在不可能とされている。
【0006】
また、関節リウマチ治療薬は遅効性であり、その多くは効果発現まで2~3カ月を要するため、臨床現場では、ある関節リウマチ治療薬を開始したら最低3ヶ月は投与を続け、3ヶ月続けても効果がみられないときにはじめて他の薬剤に変更するという治療戦略がとられている。そのため、患者によっては、何ら効果のない治療を数ヶ月も続けなければならないという実情が存在する。
【0007】
また活動性指標についても、このような指標を用いて関節リウマチの病態・病勢の活動性を評価する場合、上記のように、患者の痛みに関する自己評価が含まれるため、患者自身の主観的な判断が必要とされる。しかし、患者自身の痛み等に対する評価は、個人や観察者によってばらつきがあるため、客観的にその活動性を評価することは困難である。また、現状の血中マーカーについては、それだけで患者の病態・病勢を総合的に評価することは困難である。
【0008】
そこで、関節リウマチ疾患の診断および治療による予後の推定し、または関節リウマチ治療薬の奏効を予測するために、より簡便で再現性の高い疾患マーカーの解明や、直接的に疾患の程度を判別する方法の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、関節リウマチ治療薬の奏効を予測し、または関節リウマチ疾患の病態・病勢の活動性を評価できる簡便かつ再現性の高いバイオマーカーを見出し、効果的な方法を提供することを目的とする。
【0010】
本発明者らは、このような課題を解決するために、ヒト関節リウマチ疾患の患者についてMS4A4Aの遺伝子発現量に着目した結果、関節リウマチ疾患の病態活動性の程度に比例して、MS4A4Aの遺伝子発現量が変化することを観察した。そこで、MS4A4Aの遺伝子発現量について、鋭意研究を重ねた結果、被験者から採取した血液中のMS4A4A遺伝子が、関節リウマチ治療薬の奏効を予測するための遺伝子マーカー、さらには関節リウマチ疾患の病態・病勢の活動性評価マーカーとなり得ることを見出し、MS4A4A遺伝子発現量を測定することにより、関節リウマチ治療薬の奏効を予測し、また関節リウマチ疾患の病態・病勢の活動性を評価することができることを見出した。
【0011】
具体的には、本発明の第一の主要な観点によれば、関節リウマチ患者に対する関節リウマチ治療薬の奏効を予測する方法であって、関節リウマチ治療薬投与前の前記患者由来の末梢血中のMS4A4A遺伝子の発現量を測定する工程と、関節リウマチ治療薬を投与してから第一の期間経過後の前記患者由来の末梢血中のMS4A4A遺伝子の発現量を測定する工程とを有し、前記第一の期間経過後のMS4A4A遺伝子の発現量の低下が、前記治療薬を投与してから第二の期間経過後の前記患者における関節リウマチに関連する指標の数値の低下を示す、方法が提供される。
【0012】
このような構成によれば、関節リウマチ患者に特別な負荷を与えることなく、採血するだけで、低侵襲的かつ簡便に当該患者に投与した関節リウマチ治療薬の奏効を予測することが可能となる。また、このような構成によれば、関節リウマチ治療薬投与前と第一の期間経過後のMS4A4A遺伝子の発現量を測定するだけで、第二の期間経過後の当該患者における関節リウマチに関連する指標の数値を予測することができるため、第二の期間を経過するまで関節リウマチ治療薬を使い続けることなく、その奏効を評価することができる。
【0013】
本願発明に係る方法を利用することにより、将来における関節リウマチの治療薬の奏効を予測することができ、これは患者自身の痛み等に対する主観的な判断を必要としないため、客観的にその奏効を予測することができるため有用である。また、血液中のMS4A4A遺伝子発現量を測定することにより、関節リウマチ疾患に関連する指標の数値を推定することができるため、再現性があり、従来の、患者の自己評価を含む方法に比べて信頼性が高く、かつ簡易に検査することができる。
【0014】
また、本発明の一実施形態によれば、このような方法において、前記第一の期間は、前記治療薬を投与してから4週以内の期間であり、前記第二の期間は、前記治療薬を投与してから12週~54週の期間である。
【0015】
また、本発明の他の一実施形態によれば、このような方法において、前記治療薬は、トシリズマブ、メトトレキサート、及び腫瘍壊死因子阻害薬からなる群から選択されるものである。
【0016】
さらに、本発明の別の一実施形態によれば、このような方法において、前記指標は、DAS28-CRP、DAS28-ESR、DAS44、EULAR改善基準、CDAI、SDAI、ACR、及び血清CRP濃度からなる群から選択されるものであることが好ましい。
【0017】
また、本発明の第二の主要な観点によれば、被験者における関節リウマチに関連する指標の数値を推定する方法であって、前記被験者由来の末梢血中のMS4A4A遺伝子の発現量を測定する工程と、前記測定した発現量を、予め用意された前記指標に相関する遺伝子発現プロファイルを用いて解析する工程と、前記解析した結果に基づき、前記被験者における前記指標の数値を推定する工程とを有し、前記解析する工程は、前記測定したMS4A4A遺伝子の発現量を、関節リウマチ患者から得られた末梢血におけるMS4A4A遺伝子発現量に基づいて作成される、MS4A4A遺伝子の発現量と前記指標との相関関係を示す遺伝子発現プロファイルと比較することによって行われる、方法が提供される。
【0018】
また、本発明の一実施形態によれば、本発明の第二の主要な観点に係る方法において、前記指標は、DAS28-CRP、DAS28-ESR、DAS44、EULAR改善基準、CDAI、SDAI、ACR、及び血清CRP濃度からなる群から選択されるものであり、この場合、前記指標は、関節リウマチ疾患の病勢を示し、または関節リウマチ治療薬の治療効果を判定するものであることが好ましい。
【0019】
また、本発明の他の一実施形態によれば、このような方法において、前記遺伝子発現プロファイルは正の相関関係を示し、前記被験者由来の末梢血中のMS4A4A遺伝子の発現量が高い場合には、前記指標は高い病勢活動度を示すものである。
【0020】
また、本発明の別の一実施形態によれば、このような方法において、前記被験者は関節リウマチに罹患しているものであり、この場合、前記測定する工程は、前記被験者に対する関節リウマチ治療薬の投与前および投与後における末梢血由来のMS4A4A遺伝子の発現量を測定し、前記投与前および投与後における末梢血におけるMS4A4A遺伝子発現量を、前記遺伝子発現プロファイルを用いて解析することにより、前記治療薬の治療効果を判定するものであることが好ましい。
【0021】
また、本発明の第三の主要な観点によれば、上述の方法に使用される、関節リウマチ患者または被験者における関節リウマチに関連する指標の数値を推定するための末梢血由来のMS4A4Aバイオマーカーが提供される。
【0022】
なお、上記した以外の本発明の特徴及び顕著な作用・効果は、次の発明の実施形態の項及び図面を参照することで、当業者にとって明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本願発明に係るMS4A4A遺伝子のマイクロアレイによる発現量とDAS28-ESRとの相関解析結果を示す散布図である。
図2図2は、本願発明に係るMS4A4A遺伝子のPCRによる発現量とDAS28-ESRとの相関解析結果を示す散布図である。
図3図3は、本願発明に係るMS4A4A遺伝子の健常者、関節リウマチ患者、および他の疾患における発現解析を示すグラフである。
図4図4は、トシリズマブの投与前後における、本願発明に係るMS4A4A遺伝子の発現量と相関するCDAIの変動を示す結果である。
図5図5は、トシリズマブの投与前後における、本願発明に係るMS4A4A遺伝子の発現量と相関するDAS-CRP、DAS-ESR、ACR、EULAR-CRP、及びEULAR-ESRの変動を示す結果である。
図6図6は、メトトレキサートの投与前後における、本願発明に係るMS4A4A遺伝子の発現量と相関するCDAIの変動を示す結果である。
図7図7は、腫瘍壊死因子阻害薬の投与前後における、本願発明に係るMS4A4A遺伝子の発現量と相関するCDAIの変動を示す結果である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本願発明に係る一実施形態および実施例を、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る関節リウマチ患者に対する関節リウマチ治療薬の奏効を予測する方法は、上述したように、関節リウマチ治療薬投与前の前記患者由来の末梢血中のMS4A4A遺伝子の発現量を測定する工程と、関節リウマチ治療薬を投与してから第一の期間経過後の前記患者由来の末梢血中のMS4A4A遺伝子の発現量を測定する工程とを有し、前記第一の期間経過後のMS4A4A遺伝子の発現量の低下が、前記治療薬を投与してから第二の期間経過後の前記患者における関節リウマチに関連する指標の数値の低下を示すものである。
【0025】
ここで、本発明の一実施形態において、MS4A4A遺伝子は、関節リウマチの活動性の指標に正比例して発現量が変化するものであり、後述する実施例に記載するように、関節リウマチの活動性指標の数値の増減を特に反映している。また、MS4A4A遺伝子は、関節リウマチ治療薬を投与してから第一の期間経過後にその発現量が低下していると、治療薬を投与してから第二の期間経過後において関節リウマチに関連する指標の数値の低下を示すものである。なお、本願明細書において「遺伝子マーカー」とは、「遺伝子」とほぼ同意に用いられるものであり、ある対象物の状態又は作用の評価の指標となるものであって、ここではある遺伝子の発現量と相関するときの遺伝子関連物質をいう。例えば、遺伝子それ自体、転写物であるmRNA、翻訳物であるペプチド、遺伝子発現の最終産物であるタンパク質などが含まれる。また、遺伝子またはタンパク質の発現量とは、特に言及しない限り、当該遺伝子またはタンパク質の発現量を標準化したものを意味するものであり、当該遺伝子の転写レベル(転写物などの場合)または翻訳レベルにおける発現量(ポリペプチド、タンパク質などの場合)をも包含して意味するものである。
【0026】
本実施形態において、「関節リウマチに関連する指標」とは、例えば、DAS28-CRP、DAS28-ESR、DAS44、EULAR改善基準、EULAR-CRP、EULAR-ESR、CDAI、SDAI、ACR、及び血清CRP濃度等が含まれるが、関節リウマチの病勢や病態の程度や活動性を数値化・スコア化して表すことのできるものであれば、これらに限られるものではない。
【0027】
DAS(disease activity score)とは、EULAR(European League Against Rheumatism:ヨーロッパリウマチ連盟)が推奨する評価法であるDAS(disease activity score)が推奨する評価方法である。また、DAS28とは、このDASを、日常の診療で使用し易いようにするため、評価する関節を28関節に絞り込んだものである。DAS28では、28関節について、(1)圧痛のある関節数、(2)腫れのある関節数、(3)血沈の1時間値、又はCRP(mg/dl)、(4)全般的な病状の評価値、の4項目を測定し、所定の公式により数値化し、疾患の活動性の絶対値を算出する。なお、血沈を用いる場合にはDAS28-ESR、CRP値を用いる場合にはDAS28-CRPという。本願実施例において、DAS28としては、DAS28-ESR及びDAS28-CRPのいずれをも用いることができる。また、DAS44とは44関節について測定するものである。本発明の一実施形態においては、MS4A4A遺伝子の発現量の増減に比例してDAS28-CRPやDAS28-ESRが変動するが、特定のDAS28-CRPやDAS28-ESRに対応するMS4A4A遺伝子の発現量の基準値(基準発現量)については、実験条件等に応じて適宜変更可能であり、特定の数値に限定されるものではない。なお、DAS28-ESRにおいては、5.1(4.1)以上である場合に高疾患活動性、3.2(2.7)<DAS28-ESR≦5.1(4.1)である場合には中等度疾患活動性、2.6(2.3)<DAS28-ESR≦3.2(2.7)である場合には低疾患活動性、そして2.6(2.3)以下の場合には寛解と分類評価される(カッコ内はDAS28-CRP)。また、本発明において、寛解とは、病気の症状が一時的あるいは継続的に軽減した状態、又は見かけ上消滅した状態をいう。
【0028】
また、本願発明に係る一実施形態において、関節リウマチに関連する指標としてEULAR改善基準、EULAR-CRP、またはEULAR-ESRを用いることもでき、例えばEULAR改善基準は、DAS28が基本となっている。治療前に対する治療後の(薬剤投与前に対して薬剤投与後の)DAS28値の2つを組み合わせて、治療効果を反応良好(good)、中等度反応(moderate)、反応なし(no response)の3段階で評価している。なお、EULAR-CRPの場合にはCRPを、EULAR-ESRの場合にはESRを用いている。本発明の一実施形態においては、MS4A4A遺伝子の発現量の増減に比例して、当該被験者における治療効果を上記3段階のいずれかに評価することができる。本実施形態においては、MS4A4A遺伝子の発現量の増減に比例してEULAR改善基準が変動するが、特定のEULAR改善基準に対応するMS4A4A遺伝子の発現変動量の基準値(基準発現量)については、実験条件等に応じて適宜変更可能であり、特定の数値に限定されるものではない。例えば、中等度反応に対応するMS4A4A遺伝子の発現変動量を設定すれば、遺伝子発現プロファイル解析により、反応良好や反応なしに対応する発現変動量も適宜設定される。また、本発明において、EULAR改善基準などを用いる場合の「関節リウマチに関連する指標の数値の低下」とは、反応なしだったものが中等度反応に、中等度反応だったものが反応良好になるなど、治療効果の改善を意味する。
【0029】
本願発明に係る一実施形態において、関節リウマチに関連する指標としてSDAI(Simple disease activity index)を用いることもできる。SDAIとは、上述のDASの計算式が複雑であるため臨床現場において簡単に計算できるものではなかったため、臨床現場においても簡便に算出できるような評価方法として開発されたものである。このSDAIでは、その評価される関節はDAS28と同じであり、疼痛関節数、腫脹関節数、患者全般度評価、医師全般度評価によって算出される。SDAIにおいては、26以上である場合に高疾患活動性、11<SDAI≦26である場合には中等度疾患活動性、3.3<SDAI≦11である場合には低疾患活動性、そして3.3以下の場合には寛解と分類評価される。本発明の一実施形態において、MS4A4A遺伝子の発現量の増減に比例してSDAIの値が変動するが、特定のSDAIの値に対応するMS4A4A遺伝子の発現量の基準値(基準発現量)については、実験条件等に応じて適宜変更可能であり、特定の数値に限定されるものではない。例えば、SDAIの中等度疾患活動性を示す特定の値に対応するMS4A4A遺伝子の発現量を設定すれば、遺伝子発現プロファイル解析により、その他の高疾患活動性や低疾患活動性を示す特定の値に対応する発現量も適宜設定される。
【0030】
また、本願発明に係る一実施形態において、関節リウマチに関連する指標としてCDAI(Clinical disease activity index)を用いることもできる。CDAIとは、SDAIからCRPを除いたものである。CDAIにおいては、22以上である場合に高疾患活動性、10<CDAI≦22である場合には中等度疾患活動性、2.8<CDAI≦10である場合には低疾患活動性、そして2.8以下の場合には寛解と分類評価される。本実施形態において、MS4A4A遺伝子の発現量の増減に比例してCDAIの値が変動するが、特定のCDAIの値に対応するMS4A4A遺伝子の発現量の基準値(基準発現量)については、実験条件等に応じて適宜変更可能であり、特定の数値に限定されるものではない。例えば、CDAIの中等度疾患活動性を示す特定の値に対応するMS4A4A遺伝子の発現量を設定すれば、遺伝子発現プロファイル解析により、その他の高疾患活動性や低疾患活動性を示す特定の値に対応する発現量も適宜設定される。
【0031】
本願発明に係る一実施形態において、関節リウマチに関連する指標としてACRを用いることもできる。ACRとは、アメリカリウマチ学会が定めた関節リウマチの病理程度の分類基準であるACR改善基準である。ACR改善基準はACRコアセットである7項目によって定められる。ACRコアセットは、(1)圧痛関節数、(2)腫脹関節数、(3)患者による疾患の評価、(4)患者による疾患活動性の全般的評価、(5)医師による疾患活動性の全般的評価、(6)患者による身体機能評価、(7)急性期反応物質、の7項目から成る。ACR改善基準は、例えば、治療前に対して治療後に(薬剤投与前に対して薬剤投与後に)、上記(1)(2)がともに20%以上改善し、かつ、上記(3)~(7)の5項目のうち3項目以上が20%以上改善した場合に、「ACR基準20%の改善あり(ACR20)」と判定される。同様に、ACRが50%ならびに70%改善した場合、ACR50、ACR70という基準が用いられる。なお、本願明細書において、単に「ACR」と表記した場合には、特に言及しない限り、「ACR改善基準」を指すものとする。本実施形態においては、MS4A4A遺伝子の発現量の増減に比例してACR基準が変動するが、特定のACR基準に対応するMS4A4A遺伝子の発現変動量の基準値(基準発現量)については、実験条件等に応じて適宜変更可能であり、特定の数値に限定されるものではない。例えば、ACR50に対応するMS4A4A遺伝子の発現変動量を設定すれば、遺伝子発現プロファイル解析により、ACR20やACR70に対応する発現量も適宜設定される。
【0032】
本願発明に係る一実施形態において、関節リウマチに関連する指標として血清CRP濃度を用いることもできる。血清CRP値の正常値は0.3mg/dlである。本実施形態においては、MS4A4A遺伝子の発現量の増減に比例して血清CRP値が変動するが、血清CRP値の正常値に対応するMS4A4A遺伝子の発現量の基準値(基準発現量)については、実験条件等に応じて適宜変更可能であり、特定の数値に限定されるものではない。
【0033】
本願発明に係る一実施形態において、関節リウマチ患者に対する関節リウマチ治療薬の奏効を予測する方法は、関節リウマチ治療薬投与前後の患者から採取した血液中に含まれるMS4A4A遺伝子発現量を測定することによって行われる。被験検体は、被験者から採取した血液が挙げられ、全血、末梢血、または当該血液から分離取得した細胞成分を被験検体としても良い。ここで、血液から分離取得した細胞成分の取得方法は特に限定されるものではなく、従来存在する種々の方法、例えば血液から臨床検査用検体として取得する細胞成分の分離方法に準じることができる。例えば、採取した血液を試験管等に採り、室温で所定条件の下、遠心分離して得られる細胞を検査用検体とすることもできる。
【0034】
本願発明に係る一実施形態において、関節リウマチ患者に対する関節リウマチ治療薬の奏効を予測する方法は、患者由来の血液を検体として簡便に検査することができる点で、関節液を採取して検査する方法に比べて、検体の取得が容易であり、通常の臨床検査に使用する検査用検体を用いることができる点で有利である。関節液は侵襲的な手法により採取されるため、痛みを伴うなどの患者負担が大きく、また出血や感染症などの合併症も危惧されることから、関節液を検査するのは、ルーチン的な検査方法としてはあまり好ましくない。一方で、本願発明のように血液を検体としてMS4A4A遺伝子の発現量を測定する場合には、上述の問題点が解消され、被験者における関節リウマチに関連する指標の数値の推定を簡便に行うことができ、これにより関節リウマチ治療薬の奏効を予測することができる。なお、本明細書において、MS4A4A量とは、特段に言及する場合を除きMS4A4A遺伝子の発現量を意味する。
【0035】
本願発明に係る一実施形態において、関節リウマチ患者に対する関節リウマチ治療薬の奏効を予測する方法では、採取した血液中のMS4A4A遺伝子を関節リウマチの活動性指標のマーカーとする。本願発明に係る方法により得られたMS4A4A遺伝子発現量の測定結果から関節リウマチの活動性指標や病勢・病態を同定することができ、さらには、関節リウマチの診断ならびに関節リウマチ治療薬の奏効を予測することもできる。
【0036】
本願発明における一実施形態において、本願発明に係る方法を用いて関節リウマチ患者に対する関節リウマチ治療薬の奏効を予測する場合には、関節リウマチ患者に対して、関節リウマチ治療薬の投与前および投与後において採血を行い、その採血した投与前後の各血液中のMS4A4A遺伝子発現量を測定することによって行うことができる。その後、予め用意した、関節リウマチに関連する指標と相関する遺伝子発現プロファイルを用いて、当該各血液中のMS4A4A遺伝子発現量を比較することを特徴とする。
【0037】
この際、関節リウマチ治療薬の投与後の採血として、第一の期間経過後の関節リウマチ患者由来の血液を採血することができる。この「第一の期間」は、前記治療薬を投与してから4週以内の期間とすることができ、治療薬の種類、疾患の程度、投与法、効果発現までの期間、疾患活動性、発症からの期間、合併症、治療歴などに応じて、治療薬を投与してから1週目、2週目、3週目、4週目、または3日目、5日目、10日目、12日目、15日目、20日目、25日目などとしても良い。
【0038】
また、本願発明の一実施形態において、「治療薬を投与してから第二の期間経過後」とは、治療薬を投与してから12週~54週の期間の経過後とすることができる。この第二の期間についても、治療薬の種類、疾患の程度、投与法、効果発現までの期間、疾患活動性、発症からの期間、合併症、治療歴などに応じて適宜設定することができ、例えば、12週目、14週目、16週目、22週目、24週目、30週目、32週目、38週目、40週目、46週目、48週目、52週目、54週目などとしても良い。
【0039】
本発明の一実施形態においては、上記のようにして関節リウマチ治療薬の奏効を予測した結果、治療薬の投与前後におけるMS4A4A遺伝子の発現量の増減と、将来における実際の薬効の評価とは、密接に関連することが判明している。例えば、治療前(0週目)に測定したMS4A4A遺伝子の発現量と、治療薬を投与してから4週目に測定したMS4A4A遺伝子の発現量とを比較して、後者のほうが減少している場合には、例えば46週目、48週目、52週目、54週目における関節リウマチに関連する指標の数値が低下し、または治療効果の判定が改善していることを予測することができる(後述の実施例を参照)。すなわち、MS4A4A遺伝子発現の測定結果と関節リウマチに関連する指標の評価との関係は、治療効果の程度を密接に反映しているだけではなく、MS4A4A遺伝子発現量の治療前後での増減の程度が、将来における関節リウマチ治療薬の奏効とも関係している。これは、その多くが投与開始してから効果発現まで2~3カ月を要する関節リウマチ治療薬での治療方針について、その薬剤投与を続けるかどうかという判断を治療開始4週以内という比較的初期の段階で判断することができるため、非常に有益な臨床情報となり得る。
【0040】
本願発明において、「関節リウマチ治療薬」としては、特に限定されるものではなく、従来から公知の治療薬および今後開発されるあらゆる治療薬が含まれる。例えば、従来から公知の関節リウマチ治療薬としては、メトトレキサート(MTX)などの従来型合成疾患修飾性抗リウマチ薬、生物学的疾患修飾性抗リウマチ薬(生物学的製剤と同義)、JAK阻害剤などの分子標的合成疾患修飾性抗リウマチ薬、非ステロイド性抗炎症薬(消炎鎮痛薬)、ステロイド薬、免疫抑制薬などが挙げられる。生物学的製剤としては、キメラ型抗TNF-α抗体製剤、可溶性TNFレセプターや、完全ヒト型抗TNF-α抗体製剤、抗IL-6レセプター抗体製剤などが挙げられる。非ステロイド性抗炎症薬としては、プロスタグランジン産生抑制剤が挙げられる。具体的には、本願発明における関節リウマチ治療薬としては、MTX、腫瘍壊死因子阻害薬(TNFi)としてインフリキシマブ(IFX)、エタネルセプト(ETN)、アダリムマブ(ADA)、抗IL-6レセプター抗体製剤としてトシリズマブ(TCZ)等が含まれるが、これらに限られるものではない。
【0041】
本願発明の一実施形態においては、被験者における関節リウマチに関連する指標の数値を推定することができ、この方法は、前記被験者由来の末梢血中のMS4A4A遺伝子の発現量を測定する工程と、前記測定した発現量を、予め用意された前記指標に相関する遺伝子発現プロファイルを用いて解析する工程と、前記解析した結果に基づき、前記被験者における前記指標の数値を推定する工程とを有し、前記解析する工程は、前記測定したMS4A4A遺伝子の発現量を、関節リウマチ患者から得られた末梢血におけるMS4A4A遺伝子発現量に基づいて作成される、MS4A4A遺伝子の発現量と前記指標との相関関係を示す遺伝子発現プロファイルと比較することによって行われるものである。
【0042】
本願発明における一実施形態において、関節リウマチに関連する指標の数値の推定は、被験者のMS4A4A遺伝子の発現量と、関節リウマチ罹患者および健常者、並びに種々の関節リウマチ治療薬の投薬の有無を含む、各種疾患・健康状態におけるサンプル群におけるMS4A4A遺伝子の発現量から予め用意された遺伝子発現プロファイルとを比較解析することによって行うことができる。或いは、関節リウマチに関連する指標の数値の推定は、同一被験者(健常者および関節リウマチ罹患者含む)の関節リウマチ治療薬の投薬前における遺伝子発現量プロファイルと関節リウマチ治療薬の投薬後における遺伝子発現プロファイルとを比較解析することにより、当該被験者の関節リウマチに関連する指標の数値を推定するものであってもよい。この場合、上記各種疾患・健康状態におけるサンプル群は、性別、年齢、治療薬の種類、治療薬投与後の時間等の要素によって分類してサンプリングしたものであっても良い。なお、予め用意された遺伝子発現プロファイルは、蓄積サンプル数が多ければ多いほど好ましく、本発明に係る同定方法の精度も高くなる。また、本願発明においては、このような蓄積サンプルに係るデータや予め用意された遺伝子発現プロファイルを、任意のデータベースに格納できる構成を取り得る。すなわち、本願発明は、このようなデータを格納するデータベースと、当該データ及び比較解析に必要なプログラム等を読み出して実行する解析装置をも提供することができる。このような解析装置によれば、当該データベースから蓄積データを取り出し、測定された被験者のデータと比較するだけで、被験者における関節リウマチに関連する指標の値をいつでも簡便に推定することができる。
【0043】
なお、本実施形態において、被験者における関節リウマチに関連する指標の数値の推定・解析は、測定したMS4A4A遺伝子発現量を、各種疾患・健康状態におけるMS4A4A遺伝子発現量に基づいて作成される遺伝子発現プロファイルと比較することによって行うことができるが、治療薬の投与後としての期間は、関節リウマチ疾患の状態を評価する上で臨床的に意義のある任意の期間を設定可能である。
【0044】
また、本実施形態において、上述の遺伝子発現プロファイルは、MS4A4A遺伝子発現量と特定の関節リウマチに関連する指標値との間で正の相関関係を示すものであることが好ましい。したがって、例えば、被験者由来の血液中のMS4A4A遺伝子の発現量が基準発現量よりも高い場合には、当該指標は基準値よりも高い病勢活動度を示す。
【0045】
ここで、本願発明における一実施形態において、遺伝子発現プロファイルの作成・生成や、データの解析手法としてはクラスタ解析や各種アルゴリズム等の分子生物学又はバイオインフォマティクス等の分野で用いられる任意の解析手段を用いることができる。
【0046】
本願発明における一実施形態において、上記したようなMS4A4A遺伝子は、関節リウマチ患者または被験者における関節リウマチに関連する指標の数値を推定するためのバイオマーカーとして用いることもできる。MS4A4Aは、CD20-like1とも呼ばれ、CD20(MS4A1)およびFceRIb(MS4A2)を含む4回膜貫通型タンパク質のMS4Aファミリーに属する。18のファミリータンパク質が同定されており、いずれにおいても20~32%程度の相同性がみられる。
【0047】
(実験手法)
以下に、本願発明の一実施形態に係る遺伝子マーカーの効果を証明するために使用した実験手法および物質並びにその定義を説明する。なお、本実施形態において、以下の実験手法を用いているが、これら以外の実験手法を用いても、同様の結果を得ることができる。
【0048】
(遺伝子の定量)
本実施形態において、遺伝子マーカーが遺伝子または遺伝子の転写物(mRNA)である場合、遺伝子の発現量の測定(定量)は、例えば、マイクロアレイ法、ノーザンブロット法、ドットブロット法、定量的RT-PCR(quantitative reverse transcription-polymerase chain reaction、リアルタイムRT-PCR)法、次世代シーケンス法、デジタルPCR法等の種々の分子生物学的手法によってmRNA量を測定することにより行うことができる。
【0049】
各種PCR法に用いるプライマーとしては、遺伝子または遺伝子マーカーを特異的に検出することができるものであれば特に制限されるものではないが、12~26塩基からなるオリゴヌクレオチドが好ましい。その塩基配列は、ヒトの各遺伝子の配列情報に基づいて決定する。そして、決定した配列を有するプライマーを、例えば、DNA合成機を用いて作製することができる。
【0050】
一方、遺伝子マーカーが遺伝子の翻訳物(ポリペプチド)または最終産物(タンパク質)である場合、例えば、遺伝子マーカーに対して特異的なポリクローナル抗体、モノクローナル抗体等を用いたウエスタンブロット法やELISA法などによって遺伝子マーカーの発現量の測定を行うことができるが、これらの方法に限定されるものではなく、RIA(radioimmunoassay、放射免疫測定法)、EIA(enzyme immunoassay、酵素免疫法)等、様々な手法を用いることができる。
【0051】
「遺伝子」には、RNAやDNAなどの塩基配列によって示される遺伝情報をいうものである。ヒト、マウス、ラットなどの生物種間で保存されるオーソログ遺伝子なども含まれる。遺伝子は、タンパク質をコードするものだけでなく、RNAやDNAとして機能するものであってもよい。遺伝子は、その塩基配列にしたがうタンパク質をコードするのが一般的であるが、当該タンパク質と生物学的機能が同等であるタンパク質(たとえば同族体(ホモログやスプライスバリアントなど)や変異体や誘導体)をコードするものであってもよい。たとえば、遺伝情報による塩基配列によって示されるタンパク質とはわずかに塩基配列が異なるタンパク質であって、その塩基配列が遺伝子情報による塩基配列の相補配列とハイブリダイズするようなタンパク質をコードするような遺伝子であってもよい。
【0052】
「RNA」とは、1本鎖RNAだけでなく、これに相補的な配列を有する1本鎖RNAやこれらから構成される2本差RNAを含む概念である。また、totalRNA、mRNA、rRNAを含む概念である。
【0053】
「発現量」とは、遺伝子の発現量を直接的に測定した値だけでなく、所定の計算や統計学的手法によって変換された値も含む概念である。また、「遺伝子発現量」や「発現シグナル」、「遺伝子発現シグナル」、「発現シグナル値」、「遺伝子発現シグナル値」、「遺伝子発現データ」、「発現データ」等も個々の遺伝子の発現を反映する値を指すものとして同義である。
【0054】
「遺伝子発現」とは遺伝子の発現量により表現される生体の遺伝子発現の態様を指し、1個の遺伝子の発現量により表される場合及び複数の遺伝子の発現量により表される場合のいずれもが含まれる。また、「発現」も生体の遺伝子発現の態様を指すものとして同義である。
【実施例
【0055】
以下に、実施例を用いて、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
(マーカー遺伝子の探索・選定方法)
以下に、本発明のマーカー遺伝子の探索・選定方法について説明する。
【0057】
本発明者らは、埼玉医科大学総合医療センター リウマチ・膠原病内科および慶應義塾大学病院 リウマチ・膠原病内科を受診した関節リウマチ患者のうち、研究参加について文書により説明し同意を得た611名の血液検体のマイクロアレイデータから、新規関節リウマチ活動性マーカーの抽出を試みた。
【0058】
対象被験者血液からのRNA抽出は、PAXgene Blood RNA System(QIAGEN社製)を用いて行った。抽出RNAについて、NanoDrop1000(Thermo Scientific社製)により収量を測定し、バイオアナライザー2100(Agilent Technologies社製)により分解が無いことを確認した。次に、RNA250ngからAgilent Technologies社製Low RNA Input Linear Amp Kit PLUS,One-Colorを用いて、in vitro転写反応によりcRNAを増幅、同時に蛍光標識(Cy3標識)した。続いて、Agilent Technologies社製Whole Human Genome Microarray 4×44kに対して、蛍光標識されたcRNAを65℃にて17時間ハイブリさせた。Agilent Technologies社製Gene Expression Wash Bufferにて洗浄後、Agilent Scanner(Agilent Technologies社製)により蛍光画像を読み取り、さらに、Agilent Technologies社製画像数値化ソフトFeature Extractionを用いて蛍光画像における各スポットのシグナル強度の数値化を行った。
【0059】
数値化後のデータについて,Quantile normalizationによる正規化,およびCombat法(Biostatistics. 2007 Jan;8(1):118-27.)による実験バッチ補正処理を行なった。プローブのノーマライズ値(Log2スケール)と被験者のDAS28-ESRとのスピアマン相関、ピアソン積率相関係数、無相関検定p値を算出し、疾患活動性と相関する遺伝子抽出した。
【0060】
その結果、DAS28-ESRと有意に相関するプローブとして,MS4A4A転写物を検出するプローブが抽出された。当該遺伝子は、関節リウマチの疾患活動性が上昇するに従い、末梢血における発現が亢進する(図1)。
【0061】
(PCRによるMS4A4A遺伝子の解析)
続いて、関節リウマチ患者における末梢血MS4A4A遺伝子発現と関節リウマチ活動性の相関の再現性を確認するため、リアルタイムPCRを用いて解析した。
関節リウマチ患者末梢血48例について、Applied Biosystems社製Power SYBR Green RNA-to-CT 1-Step Kitを用いてリアルタイムPCR反応を行なった。実験には20ng RNAを用いた。補正は、比較定量法による差分-ΔCt値(MS4A4A転写産物-内部標準遺伝子)を用いた。
【0062】
図2は、リアルタイムPCRデータを用いたMS4A4A -ΔCt値(コントロールとの差分)とDAS28-ESRとの相関を示す散布図である。また、MS4A4Aと種々の臨床検査項目の相関解析結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
この結果から、MS4A4A 遺伝子発現量とDASコンポートネントであるESR、また関節リウマチの疾患活動性指標であるSDAI、CDAI、リウマチ因子定量値と有意な正相関が認められた。このことから、末梢血MS4A4A遺伝子発現量を測定することにより、関節リウマチの活動性を客観的に、かつ総合的に捉えることができるものと考えられた。また以上の結果により、関節リウマチ患者における末梢血MS4A4A遺伝子発現と関節リウマチ活動性との相関はマイクロアレイ解析のみならず、リアルタイムPCRにおいても再現することが明らかとなった。
【0065】
(健常者および他疾患との比較)
続いて、健常者と関節リウマチ患者における末梢血MS4A4A遺伝子発現の差についてリアルタイムPCRを用いて解析した。MS4A4Aの関節リウマチ患者、健常者、並びにその他の疾患として血管炎、成人スチル病、及び全身性エリテマトーデス患者における発現量を比較し、MS4A4Aの関節リウマチ診断マーカーとしての可能性を検証した。
【0066】
関節リウマチ患者サンプル(RA)としては、48例を解析に用いた。健常者サンプルとしては、健診目的で受診した健常者のうち、末梢血遺伝子発現解析研究に参加することについて文書により説明し同意を得た63名の末梢血サンプル(HC)を解析に用いた。さらに疾患コントロールサンプルとして、末梢血遺伝子発現解析研究に参加することについて文書により説明し同意を得た血管炎患者(Vasculitis)14名、成人スチル病患者(AoSD)3名、及び全身性エリテマトーデス患者(SLE)10名の末梢血サンプルを解析に用いた。各サンプル群のMS4A4Aの-ΔCt値(コントロールとの差分)の分布を図3に示す。
【0067】
Student T検定の結果、関節リウマチ患者と健常者、血管炎患者、成人スチル病患者の間に有意差(p<0.05または0.01)が認められた。これらの結果は、MS4A4Aが、関節リウマチの活動性の評価マーカーとなるだけでなく、健常者、炎症性疾患を含むその他の疾患とも区別し得る関節リウマチの診断マーカーとなる可能性を示唆するものである。
【0068】
(関節リウマチ治療薬投与によるMS4A4A遺伝子発現の変動)
同一関節リウマチ患者について、関節リウマチ治療薬の投与後早期(~4週)にMS4A4Aがどのように発現変動するか、また、その変動の仕方とその後の治療効果との関連を検証した。
【0069】
図4は、関節リウマチ患者25例について、TCZ投与前(0w)および投与4週(4w)のMS4A4A遺伝子発現量を測定し、その差分と投与12週(12w)から54週(54w)の治療効果(活動性指標:CDAI)との関連を確認したものである。0wから4wへのMS4A4A遺伝子発現量の低下が大きい群では、低下が小さい群に比べ、投与後12wから54wのCDAI値が有意に低く、TCZの治療反応性が良好であった。一方、0wと4wのCDAI値の差分に関しては、そのような傾向は認められなかった。
【0070】
図5は、同じTCZ投与25例について、CDAIでなく、他の活動性指標であるDAS28-CRP、DAS28-ESR、ACR、EULAR-CRP、EULAR-ESRについて評価を行なったものである。いずれの活動性指標についてもCDAIと同様の傾向が認められ、MS4A4A遺伝子発現量の0wから4wの低下が大きい群については、12wから54wの治療反応性が良好であった。以上の結果により、TCZ投与後早期のMS4A4A遺伝子発現量の変化により、TCZ投与12w以降の治療反応性が予測できることが明らかとなった。
【0071】
図6および7は、MTXおよびTNFiによる治療を受けた関節リウマチ患者について、評価を行なったものである。MS4A4A遺伝子発現量について、0wから4w(TNFiは2w)の低下が大きい患者(MTX5例、TNFi15例)と低下しない患者(MTX5例、TNFi15例)の治療効果を追跡したところ、前者でより治療成績がよい傾向が認められた。
【0072】
以上の結果より、末梢血MS4A4A遺伝子発現量が関節リウマチ患者に対する関節リウマチ治療薬の将来における効果を反映するマーカーであることが示された。
【0073】
その他、本発明は、さまざまに変形可能であることは言うまでもなく、上述した一実施形態に限定されず、発明の要旨を変更しない範囲で種々変形可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7