(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】掘削補助システム、建設機械およびトンネル掘削機制御方法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/093 20060101AFI20240704BHJP
E21D 9/00 20060101ALI20240704BHJP
G01C 15/00 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
E21D9/093 F
E21D9/00 C
G01C15/00 104D
G01C15/00 103A
(21)【出願番号】P 2021016127
(22)【出願日】2021-02-03
【審査請求日】2023-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591284601
【氏名又は名称】株式会社演算工房
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 高弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】上原 弓弦
(72)【発明者】
【氏名】江口 康則
(72)【発明者】
【氏名】松村 匡樹
(72)【発明者】
【氏名】土本 真史
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-236589(JP,A)
【文献】特開2018-146408(JP,A)
【文献】特開2000-352297(JP,A)
【文献】特開2016-200463(JP,A)
【文献】特開2002-161700(JP,A)
【文献】特開平8-145672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/093
E21D 9/00
G01C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械の旋回体の後部に設けられた二台のターゲットと、
前記ターゲットを自動追尾する二台のトータルステーションと、
前記トータルステーションによる視準ミスの有無を判定する視準ミス判定手段と、
を備える掘削補助システムであって、
前記視準ミス判定手段は、予め記憶された前記ターゲット同士の実位置関係と、前記トータルステーションによる測定結果から求まる前記ターゲット同士の測定位置関係と、を比較することで、前記トータルステーションによる視準ミスの有無を判定することを特徴とする、掘削補助システム。
【請求項2】
前記旋回体の三軸加速度および三軸回転角速度を検出する慣性センサユニットと、
前記建設機械のヘッド部に設けられたノミの先端位置を算出する算出手段と、
をさらに備えており、
前記算出手段は、一方の前記トータルステーションの視準ミスが検知された場合、他方の前記トータルステーションによる計測結果と、前記慣性センサユニットによる計測結果とを利用して、前記旋回体のヨー角および前記ノミの先端位置を算出することを特徴とする、請求項1に記載の掘削補助システム。
【請求項3】
前記旋回体の三軸加速度および三軸回転角速度を検出する慣性センサユニットと、
前記建設機械のヘッド部に設けられたノミの先端位置を算出する算出手段と、
をさらに備えており、
前記算出手段は、一方の前記トータルステーションの視準ミスが検知された場合、他方の前記トータルステーションによる計測結果と、前記慣性センサユニットによる計測結果とを利用して、一方の前記トータルステーションが追尾すべき一方の前記ターゲットの座標を算出することを特徴とする、請求項1に記載の掘削補助システム。
【請求項4】
建設機械の旋回体の後部に設けられた二台のターゲットと、
前記ターゲットを自動追尾する二台のトータルステーションと、
前記旋回体の三軸加速度および三軸回転角速度を検出する慣性センサユニットと、
前記トータルステーションによる計測のミスを検知する視準ミス判定手段と、
を備える掘削補助システムであって、
前記視準ミス判定手段は、予め記憶された前記ターゲット同士の実位置関係と、前記トータルステーションによる測定結果から求まる前記ターゲット同士の測定位置関係と、前記三軸加速度および前記三軸回転角速度から算出される前記旋回体のヨー角と、を利用して前記トータルステーションによる視準ミスを検知することを特徴とする、掘削補助システム。
【請求項5】
走行体と、
前記走行体上に縦軸を中心に回転可能に設けられた旋回体と、
前記旋回体に横軸を中心に回動可能に取り付けられたブームと、
前記ブームの先端部に横軸を中心に回動可能に取り付けられたアームと、
前記アームの先端部に横軸を中心に回動可能に取り付けられたヘッド部と、
前記ヘッド部の先端位置を算出する請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の掘削補助システムと、を備えていることを特徴とする、建設機械。
【請求項6】
二台のトータルステーションを利用して、建設機械のヘッド部に設けられたノミの先端位置を確認するトンネル掘削機制御方法であって、
前記建設機械の旋回体の後部に設けられた二台のターゲットのうち、一方の前記ターゲットの座標を一方の前記トータルステーションにより測定するとともに、他方の前記ターゲットの座標を他方の前記トータルステーションにより測定するステップと、
前記両ターゲットの座標により前記ターゲット同士の測定位置関係を算出するステップと、
前記両ターゲットの取付位置から求まる前記ターゲット同士の実位置関係と前記測定位置関係とを比較して、前記トータルステーションによる視準ミスの有無を判定するステップと、を行い、
前記トータルステーションの視準ミスが有ると判定された場合に、旋回体の三軸加速度および三軸回転角速度を検出する慣性センサユニットによる計測結果と視準ミスが無いと判定された前記トータルステーションの計測結果に基づいて前記ノミの先端位置を制御する、あるいは、前記慣性センサユニットによる計測結果と視準ミスが無いと判定された前記トータルステーションの計測結果に基づいて視準ミスが有ると判定された前記トータルステーションの視準方向を修正することを特徴とする、トンネル掘削機制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山岳トンネルの施工に使用する掘削補助システム、建設機械およびトンネル掘削機制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NATM等の山岳トンネルの施工において、機械式掘削における掘削機あるいは発破式掘削におけるこそく作業時の機械として、削岩機等のアタッチメントを取り付けた旋回式建設機械(例えば、バックホウ)を使用する場合がある。このとき、旋回式建設機械に取り付けられた2台のターゲットをそれぞれ異なるトータルステーションにより測定することで、旋回式建設機械の先端(削岩機のノミ先等)の位置情報をリアルタイムに把握する場合がある(例えば、特許文献1参照)。
前記従来の施工方法では、旋回式建設機械に設置された2台のターゲットをトータルステーションにより追尾測量することで、旋回式建設機械の位置、旋回方向を検出するとともに、旋回式建設機械のブーム、アーム、ヘッド部に取り付けた傾斜計により傾斜角を検出することで、ノミ先の先端位置を算出する。
ところが、トータルステーションによる追尾測量において視準ミスが生じると、建設機械の正しい位置や向き(ピッチング角、ローリング角、ヨー角等)を検出することができず、その結果、ノミ先の先端位置を正確に算出できなくなる。しかしながら、移動体である旋回式建設機械に設けられたターゲットを自動追尾する場合において、トータルステーションの視準ミスを自動的に検知する手法は確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、トータルステーションによる測定結果の妥当性を簡易かつ適切に判断し、正確な施工を簡易に実現するための掘削補助システムと、これを利用した建設機械及びトンネル掘削機制御方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための本発明の掘削補助システムは、建設機械の旋回体の後部に設けられた二台のターゲットと、前記ターゲットを自動追尾する二台のトータルステーションと、前記トータルステーションによる視準ミスを検知する視準ミス判定手段とを備えている。前記視準ミス判定手段は、予め記憶された前記ターゲット同士の実位置関係と、前記トータルステーションによる測定結果から求まる前記ターゲット同士の測定位置関係とを比較することで、前記トータルステーションによる視準ミスの有無を判定する。
かかる掘削補助システムによれば、ターゲットの配置により求まるターゲット同士の位置関係である実位置関係と、トータルステーションにより計測されたターゲットの座標から算出されたターゲット同士の位置関係である測定位置関係とを比較することで、いずれか一方または両方のトータルステーションに視準ミスが発生した場合でも、視準ミスを自動的に検出することができる。トータルステーションの視準ミスを検出できれば、建設機械による掘削作業の施工誤差を最小限に抑えることができる。
【0006】
なお、前記掘削補助システムが前記旋回体の三軸加速度および三軸回転角速度を検出する慣性センサユニットをさらに備えており、前記三軸加速度および前記三軸回転角速度から算出される前記旋回体のヨー角を利用すれば、両トータルステーションが測定するべきターゲットとは異なるターゲットを測定している場合であっても、測定座標から算出されるターゲットの位置と、旋回体の向きとの関係から、トータルステーションによる視準ミスを検知できる。この場合には、両トータルステーションの測定結果を互いに置き換えることで、正しい測定結果を得ることができる。
【0007】
前記掘削補助システムは、前記旋回体の三軸加速度および三軸回転角速度を検出する慣性センサユニットと、前記建設機械のヘッド部に設けられたノミの先端位置を算出する算出手段とをさらに備えているのが望ましい。
前記算出手段は、一方の前記トータルステーションの視準ミスが検知された場合に、他方の前記トータルステーションによる計測結果と、前記慣性センサユニットによる計測結果とを利用して、前記旋回体のヨー角および前記ノミの先端位置を算出することが好ましい。このようにすると、一方の前記トータルステーションに視準ミスが発生した場合であっても建設機械による施工を適切に実施できる。
また、前記掘削補助システムにおいて、前記算出手段は、一方の前記トータルステーションの視準ミスが検知された場合に、他方の前記トータルステーションによる計測結果と前記慣性センサユニットによる計測結果とを利用して、一方の前記トータルステーションが追尾すべき一方の前記ターゲットの座標を算出することが好ましい。このようにすると、両トータルステーションによる正確な測定が可能となり、ひいては、建設機械による正確な施工を実施することができる。
【0008】
本発明の建設機械は、走行体と、前記走行体上に縦軸を中心に回転可能に設けられた旋回体と、前記旋回体に横軸を中心に回動可能に取り付けられたブームと、前記ブームの先端部に横軸を中心に回動可能に取り付けられたアームと、前記アームの先端部に横軸を中心に回動可能に取り付けられたヘッド部と、前記ヘッド部の先端位置を算出する前記掘削補助システムとを備えている。
また、本発明のトンネル掘削方法は、二台のトータルステーションを利用して、建設機械のヘッド部に設けられたノミの先端位置を確認しながら地山を掘削するものであって、前記建設機械の旋回体の後部に設けられた二台のターゲットのうち、一方の前記ターゲットの座標を一方の前記トータルステーションにより測定するとともに、他方の前記ターゲットの座標を他方の前記トータルステーションにより測定するステップと、前記両ターゲットの座標により前記ターゲット同士の測定位置関係を算出するステップと、前記両ターゲットの取付位置から求まる前記ターゲット同士の実位置関係と前記測定位置関係とを比較して、前記トータルステーションによる視準ミスの有無を判定するステップとを行い、前記トータルステーションの視準ミスが有ると判定された場合に、旋回体の三軸加速度および三軸回転角速度を検出する慣性センサユニットによる計測結果と視準ミスが無いと判定された前記トータルステーションの計測結果に基づいて前記ノミの先端位置を制御する、あるいは、前記慣性センサユニットによる計測結果と視準ミスが無いと判定された前記トータルステーションの計測結果に基づいて視準ミスが有ると判定された前記トータルステーションの視準方向を修正する。
かかる建設機械およびトンネル掘削方法によれば、掘削補助システムによりヘッド部の先端位置を把握した状態で施工を実行できるため、より正確な施工が可能である。また、掘削補助システムは、測定ミスが生じた場合であっても、測定ミスを自動的に検出し、補完した状態での施工あるいは自動的に補正した状態で施工することができるため、施工誤差を最小限に抑えることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の掘削補助システム、建設機械およびトンネル掘削機制御方法によれば、トータルステーションによる測定結果の妥当性を簡易かつ適切に判断し、正確な施工を簡易に実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態の旋回式建設機械による施工状況を示す概略図である。
【
図2】本実施形態の掘削補助システムを示すブロック図である。
【
図3】慣性センサユニットの概要を示すブロック図である。
【
図5】第一実施形態のトンネル掘削機制御方法の手順を示すフローチャートである。
【
図6】第二実施形態のトンネル掘削機制御方法の手順を示すフローチャートである。
【
図7】第二実施形態のトンネル掘削機制御方法の説明図であって、(a)は平面図、(b)はターゲットを後方から望む背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第一実施形態>
第一実施形態では、旋回式建設機械1を利用して山岳トンネルを施工する場合について説明する。
図1に旋回式建設機械1による施工状況を示す。
図1に示すように、旋回式建設機械1は、発破後の切羽(トンネル先端部)において、掘削直後の切羽面やトンネル壁面に残存する浮石の除去(コソク)に使用する。
本実施形態の旋回式建設機械1は、いわゆるバックホウであって、走行体11と、走行体11上に縦軸を中心に回転可能に設けられた旋回体12と、旋回体12に横軸を中心に回動可能に取り付けられたブーム13と、ブーム13の先端部に横軸を中心に回動可能に取り付けられたアーム14と、アーム14の先端部に横軸を中心に回動可能に取り付けられたヘッド部15とを備えている。ヘッド部15は、いわゆるアタッチメントであって、本実施形態のヘッド部15は、ノミ16を備えたブレーカーである。
旋回式建設機械1によるコソク作業は、掘削補助システム2を利用して、ノミ16の先端位置を把握した状態で行う。ノミ16の先端位置を的確に把握できれば、旋回式建設機械1を適切に操作できるようになるので、効率的かつ精度の高いトンネル施工が可能となる。一方、ノミ16の先端位置を把握するためには、旋回式建設機械1の位置および向きを正確に把握する必要があるが、旋回式建設機械1の測定に視準ミスがあると、ノミ16の先端位置を正確に制御することができない。そのため、本実施形態の掘削補助システム2は、視準ミスを自動的に補完して、ノミ16の先端位置を制御する。
図2に掘削補助システム2の概要を示す。
図2に示すように、本実施形態の掘削補助システム2は、二台のターゲット3と、二台のトータルステーション4と、三軸加速度センサ5と、慣性センサユニット6と、算出手段7と、視準ミス判定手段8と、記憶手段9とを備えている。
【0012】
ターゲット3は、
図1に示すように、旋回式建設機械1の旋回体12の後部に固定されている。本実施形態では、二台のターゲット3,3が、旋回体12の上面に間隔をあけて配設されている。ターゲット3は、反射プリズムを備えており、トータルステーション4から照射された光波を、トータルステーション4に向けて反射する。本実施形態では、全周方向(ターゲット3を中心とした360°の方向)から測定可能なターゲットプリズムを使用する。
【0013】
トータルステーション4は、
図1に示すように、旋回式建設機械1の後方に据え付けられていて、ターゲット3を自動追尾する。本実施形態では、二台のトータルステーション4を据え付けて、それぞれのトータルステーション4が異なるターゲット3の測量を行う。すなわち、一方のトータルステーション4により一方のターゲット3を自動追尾し、他方のトータルステーション4により他方のターゲット3を自動追尾する。
トータルステーション4は、ターゲット3の位置を計測し、図示しない通信手段を介して計測結果をコンピュータPCに送信する。
【0014】
三軸加速度センサ5は、
図1に示すように、ブーム13、アーム14およびヘッド部15にそれぞれ取り付けられている。各三軸加速度センサ5は、取付位置において三軸加速度を検出する。三軸加速度は、互いに直交する3つの軸(X軸、Y軸、Z軸)方向の加速度である。X軸およびY軸は、水平面内において互いに直交する軸であり、Z軸は、水平面に垂直な軸(鉛直軸)である。三軸加速度センサ5により計測された三軸加速度は、通信手段(図示せず)を介してコンピュータPCに送信される。
【0015】
慣性センサユニット6は、旋回体12に設けられている。慣性センサユニット6は、旋回体12の三軸加速度および三軸回転角速度を検出する。三軸回転角速度は、互いに直交する3つの軸(X軸、Y軸、Z軸)周りの角加速度である。
図3に慣性センサユニット6の概要を示す。
図3に示すように、慣性センサユニット6は、三軸ジャイロ61、三軸加速度計62、ローパスフィルタ63、通信制御手段64、電力供給手段65および制御手段66を備えている。三軸ジャイロ61は、旋回体12の三軸回転角速度を検出する。三軸加速度計62は、取付位置において三軸加速度を検出する。ローパスフィルタ63は、三軸ジャイロ61により検知された三軸回転角速度および三軸加速度計62により検知された三軸加速度の信号処理(高周波成分の除去)を行う。ローパスフィルタ63のカットオフ周波数は、旋回式建設機械1の駆動源の振動やブレーカーの振動などに起因する高振動数の加速度(ノイズ)を除去できる大きさ(例えば1~2Hz)に設定する。通信制御手段64は、ローパスフィルタ63を介して信号処理された三軸加速度および三軸回転角速度の記憶手段9への通信を制御する。電力供給手段65は、三軸ジャイロ61、三軸加速度計62、ローパスフィルタ63、通信制御手段64、制御手段66等に電力を供給する。制御手段66は、三軸ジャイロ61、三軸加速度計62およびローパスフィルタ63の起動・停止を制御する。慣性センサユニット6の計測結果は、コンピュータPCに送信される。
【0016】
コンピュータPCは、算出手段7、視準ミス判定手段8および記憶手段9を備えている。算出手段7は、旋回式建設機械1のヘッド部15に設けられたノミ16の先端位置を算出する。また、視準ミス判定手段8は、トータルステーション4による計測のミスを検知する。さらに、記憶手段9は、トータルステーション4、三軸加速度センサ5、慣性センサユニット6から送信された計測結果や、算出手段7および視準ミス判定手段8の計算結果等を記憶する。
【0017】
算出手段7は、トータルステーション4から送信された測定結果に基づいて各ターゲット3の座標を算出し、両ターゲット3,3の座標から旋回式建設機械1の向きや傾きを算出する。トータルステーション4は、主に現場座標系での旋回式建設機械1の三次元座標を求め、慣性センサユニット6で旋回体12のピッチング角とローリング角を求め、結果として旋回式建設機械1の三次元座標と方向角と傾きが検出される。
図4に旋回式建設機械1の三次元座標系を示す。
図4中の「Ax」はx軸方向の加速度であり、「Ay」はy軸方向の加速度であり、「Az」はz軸方向の加速度である。また、「Rx」はx軸回りの角加速度であり、「Ry」はy軸回りの角加速度であり、「Rz」はz軸回りの角加速度である。
また、算出手段7は、三軸加速度センサ5から送信されたデータ(ブーム13、アーム14およびヘッド部15の三軸加速度(Ax,Ay,Az))に基づいて三軸加速度センサ5の取付位置(ブーム13、アーム14またはヘッド部15)におけるピッチング角およびローリング角を算出する。ピッチング角およびローリング角を算出したら、算出結果(三軸加速度センサ5の取付位置におけるピッチング角、ローリング角)およびトータルステーション4の計測結果に基づいてノミ16の先端位置を算出する。
さらに、本実施形態の算出手段7は、一方のトータルステーション4の視準ミスが検知された場合に、他方のトータルステーション4による計測結果と、慣性センサユニット6による計測結果とを利用して、ノミ16の先端位置を算出する。すなわち、算出手段7は、以下の手順によって視準ミスを補完する。まず、ターゲット3の測定座標からヨー角を算出し、慣性センサユニット6の計測結果に基づいて算出されたヨー角との差分を求める。次に、慣性センサユニット6の計測結果から算出されたヨー角と差分値とを利用して、実ヨー角を算出する。そして、正常に測定したトータルステーション4の測定結果と、実ヨー角とを用いて、ノミ16の先端位置を算出する。
【0018】
視準ミス判定手段8は、予め記憶されたターゲット3同士の位置関係(ターゲット3同士の距離、一方のターゲット3の対する他方のターゲット3の位置等)である実位置関係と、トータルステーション4により測定されたターゲット3の座標から求まるターゲット3同士の位置関係である測定位置関係とを比較する。比較の結果、実位置関係のターゲット同士の距離と、計測位置関係のターゲット3同士の距離が異なっている場合、視準ミス判定手段8は、いずれか一方または両方のトータルステーション4による計測にミスがあるとして、信号を発信する。信号は通信手段を介してオペレータや作業所等に送信される。
なお、視準ミス判定手段8は、慣性センサユニット6により測定された三軸加速度および三軸回転角速度から算出される旋回体のヨー角を利用して、測定位置関係を算出する。これにより、一方のターゲット3に対する他方のターゲット3の位置を把握することができる。そのため、両トータルステーション4,4が測定するべきターゲット3とは異なるターゲット3を測定している場合(一方のトータルステーション4が他方のターゲット3を測定し、他方のトータルステーション4が一方のターゲット3を測定している場合)であって、ターゲット3同士の間隔が正しい数値である場合に、トータルステーション4による視準ミスを検知する。
【0019】
次に第一実施形態の旋回式建設機械1の制御方法(トンネル掘削機制御方法)について説明する。旋回式建設機械1の制御方法は、掘削補助システム2を利用して、建設機械のヘッド部15に設けられたノミ16の先端位置を確認するものであり、
図5に示すように、測定ステップS11と、測定位置算出ステップS12と、視準ミス判定ステップS13と、補完ステップS14とを備えている。
【0020】
測定ステップS11では、各トータルステーション4によりターゲット3の測定を行う。トータルステーション4を所定の位置に据え付けたら、トータルステーション4の据え付け後方交会により設置座標と方位角を検出する。検出した設置座標と方位角により、トータルステーション4の座標を現場座標に変換する。座標の変換を行ったら、トータルステーション4によるターゲット3の測量を行う。このとき、旋回式建設機械1の旋回体の後部に設けられた二台のターゲット3,3のうち、一方のターゲット3を一方のトータルステーション4により測定し、他方のターゲット3を他方のトータルステーション4により測定する。トータルステーション4の測定結果は、記憶手段9に保存する。
【0021】
測定位置算出ステップS12では、両ターゲット3,3の座標によりターゲット3同士の測定位置関係を算出する。トータルステーション4の測定結果が記憶手段9に保存されると、算出手段7が起動して、ターゲット3の座標計算を行い、算出された両ターゲット3,3の測定座標から、ターゲット3同士の距離、高低差、方位等を算出する。
【0022】
視準ミス判定ステップS13では、視準ミス判定手段8が起動して、トータルステーション4による視準ミスの有無を判定する。トータルステーション4による視準ミスの確認は、両ターゲット3,3の取付位置から求まるターゲット3同士の実位置関係と測定位置算出ステップS2において算出された測定位置関係とを比較することにより行う。実位置関係は、取付位置から求まるターゲット3同士の距離、旋回式建設機械1のヨー角を考慮したターゲット3同士の高低差および方位を算出し、これを測定位置関係と比較する。実位置関係と測定位置関係との間に差が生じている場合は、トータルステーション4による視準ミスが生じていると判断する。
【0023】
補完ステップS14では、視準ミスが生じたトータルステーション4の測定結果を、正常な測定を行ったトータルステーション4の測定結果と、慣性センサユニット6の測定結果により補完することでノミ16の先端位置を算出する。
一方のトータルステーション4の視準ミスが検知されると、算出手段7が、他方のトータルステーション4による計測結果と、慣性センサユニット6による計測結果とを利用して、ノミ16の先端位置を算出する。
まず、算出手段7によりターゲット3の測定座標からヨー角を算出し、慣性センサユニット6の計測結果に基づいて算出されたヨー角との差分を求める。次に、慣性センサユニット6の計測結果から算出されたヨー角と差分値とを利用して、実ヨー角を算出する。そして、正常に測定したトータルステーション4の測定結果と、実ヨー角とを用いて、旋回式建設機械1の位置、傾き、旋回体の向き等を算出し、これに三軸加速度センサ5の計測結果を組み合わせてノミ16の先端位置を算出する。
【0024】
以上、本実施形態の掘削補助システム2を利用した施工方法によれば、ターゲット3の配置により求まるターゲット3同士の位置関係である実位置関係と、トータルステーション4により計測されたターゲット3の座標から算出されたターゲット3同士の位置関係である測定位置関係とを比較することで、トータルステーション4に視準ミスが発生した場合でも、視準ミスを自動的に検出することができる。トータルステーション4の視準ミスを検出できれば、建設機械による掘削作業の施工誤差を最小限に抑えることができる。
また、一方の前記トータルステーション4に視準ミスが発生した場合であっても、トータルステーション4による計測結果と、慣性センサユニット6による計測結果とを利用して、旋回体のヨー角および前記ノミ16の先端位置を算出するため、建設機械による施工を適切に実施できる。視準ミスの補完は、掘削補助システム2により自動的に実行されるため、複雑な計算や操作を測定者が実施する手間を省略できる。
なお、慣性センサユニット6の計測に基づくヨー角の算出は常時連続的に実施する。慣性センサユニット6による計測は、比較的変動が少ない。トータルステーション4の測定結果から算出されたヨー角に急激な変化が生じた場合には、トータルステーション4による視準ミスが生じた可能性がある。この場合には、慣性センサユニット6の計測結果に基づくヨー角と、正常な測定を行っているトータルステーション4の測量座標値を参考に、ノミ16の先端位置のガイダンスを行うことができる。
【0025】
<第二実施形態>
第二実施形態では、第一実施形態と同様に旋回式建設機械1を利用して山岳トンネルを施工する場合について説明する。第二実施形態の旋回式建設機械1の構成は、第一実施形態の旋回式建設機械1と同様なため、詳細な説明は省略する。第二実施形態では、2台のトータルステーション4,4のうちの一方のトータルステーション4に視準ミスが生じた場合に、当該トータルステーション4を自動的に復帰させて正確な計測を再開させるものとする。
【0026】
本実施形態の算出手段7は、トータルステーション4の視準ミスが有ると判定された場合に、旋回体の三軸加速度および三軸回転角速度を検出する慣性センサユニット6による計測結果と、視準ミスが無いと判定されたトータルステーション4の計測結果に基づいて、視準ミスが有ると判定されたトータルステーション4が追尾すべきターゲット3の座標を算出する。ターゲット3の座標を算出したら、トータルステーション4による当該ターゲット3の測定を行う。
【0027】
以下、第二実施形態の旋回式建設機械1の制御方法(トンネル掘削機制御方法)について説明する。
図6に旋回式建設機械1の制御方法を示す。旋回式建設機械1の制御方法は、掘削補助システム2を利用して、建設機械のヘッド部15に設けられたノミ16の先端位置を確認するものであり、
図6に示すように、測定ステップS21と、測定位置算出ステップS22と、視準ミス判定ステップS23と、復帰ステップS24とを備えている。
【0028】
測定ステップS21では、各トータルステーション4によりターゲット3の測定を行う。トータルステーション4を所定の位置に据え付けたら、後方交会により現場座標系への変換を行う。後方交会の手法は限定されるものではないが、本実施形態では、式1により変換を行う。式1に現場座標系とトータルステーション設置座標系との回転角度θとトータルステーション4の設置座標(x0,y0,z0)を代入することで、現場座標系への変換が可能となる。
すなわち、現場座標系にてトータルステーション4で測量する場合、後方交会にてトータルステーション4の設置座標(x0,y0,z0)とトータルステーション取付の方位角(回転角θ)を事前に求めておく必要がある。
現場座標系で移動する旋回式建設機械1の座標値をトータルステーション4で自動視準するには、据え付けられたトータルステーション4を具体的に水平角(°)、鉛直角(°)に制御し向けターゲットを視準する必要がある。
ここではトータルステーション4の回転角θとTS設置座標(x0,y0,z0)は事前に把握しているものとする。
【0029】
【0030】
次に、トータルステーション4によるターゲット3の測量を行う。このとき、旋回式建設機械1の旋回体の後部に設けられた二台のターゲット3,3のうち、一方のターゲット3を一方のトータルステーション4により測定し、他方のターゲット3を他方のトータルステーション4により測定する。トータルステーション4の測定結果は、記憶手段9に保存する。
【0031】
測定位置算出ステップS22では、両ターゲット3,3の座標によりターゲット3同士の測定位置関係を算出する。なお、測定位置算出ステップS22の詳細は、第一実施形態で示した測定位置算出ステップS12と同様なため、詳細な説明は省略する。
視準ミス判定ステップS23では、トータルステーション4による視準ミスの有無を判定する。なお、視準ミス判定ステップS23の詳細は、第一実施形態で示した視準ミス判定ステップS13と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0032】
復帰ステップS24では、ミス視準したターゲット3の座標値を算出し、トータルステーション4による当該ターゲット3の視準を復帰する。
図7に現場座標系と旋回式建設機械1との関係を示す。ここで、本実施形態では、一方のターゲット3の座標P1(X
P1,Y
P1,Z
P1)と他方のターゲット3の座標P2(X
P2,Y
P2,Z
P2)のうち、計算の基準は一方のターゲット3の座標P1とする。
他方のターゲット3の座標P2から一方のターゲット3の座標P1を推定する場合は、式3により行い、一方のターゲット3の座標P1から他方のターゲット3の座標P2を推定する場合は、式4により行う。
【0033】
【0034】
空いて座標値を算出したら、式5により推定座標値の平行移動変化を行い、トータルステーション設置座標系に変換する。
【0035】
【0036】
式5により平行移動した座標値を逆回転変化して、本来のトータルステーション座標系の直交座標値を求める。現場座標系とトータルステーション座標系の回転角θを「-θ」として(式6に「-θ」を代入する)、回転マトリックスmzに代入して回転変化することでトータルステーション座標系での座標値を算出する(式7)。
【0037】
【0038】
次に、式7で得られた座標値を式8に代入して、水平角Ht、鉛直角Vtを求める。式8により得られた水平角Ht、鉛直角Vtによりミス視準したトータルステーション4の視準方向を移動させれば、ターゲット3を捉えることができる。
トータルステーション4によるターゲッ3トの視準を復帰させたら、2台のトータルステーション4による測定結果に基づいて、ノミ16先の先端位置を算出する。
【0039】
【0040】
以上、本実施形態の掘削補助システム2を利用した施工方法によれば、掘削補助システム2によりノミ16の先端位置を把握した状態で施工を実行できるため、より正確な施工が可能である。また、掘削補助システム2は、一方のトータルステーション4による測定ミスが生じた場合であっても、測定ミスを自動的に検出し、トータルステーション4による追尾を自動的に補正した状態で施工することができるため、施工誤差を最小限に抑えることができる。
【0041】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、旋回式建設機械1がバックホウの場合について説明したが、旋回式建設機械1を構成する機械は、旋回体を有するものであれば限定されるものではない。
前記各実施形態では、いずれか一方のトータルステーション4に視準ミスが生じた場合に検知する場合について説明したが、掘削補助システムは、両トータルステーション4が測定すべきターゲット3とは異なるターゲット3を測定した場合など、両トータルステーション4による視準ミスが生じた場合であっても検知することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 旋回式建設機械
11 走行体
12 旋回体
13 ブーム
14 アーム
15 ヘッド部
16 ノミ
2 掘削補助システム
3 ターゲット
4 トータルステーション
5 三軸加速度センサユニット
6 慣性センサユニット
7 算出手段
8 視準ミス判定手段
9 記憶手段